説明

引戸錠

【課題】 悪戯による開扉時の仮施錠を外部から手動で強制的に解除すること。
【解決手段】 引戸を閉めると、戸枠側の受け金具に当たって錠箱内に後退するトリガー、固定軸に軸支されかつトリガーの後退動に連動して前記受け金具に係合する方向へ回転する鎌片をそれぞれ備える引戸錠に於いて、前記トリガーの一辺に形成した仮止め用係合部分に係合するラッチ板53を備えたラッチング機構Zを錠箱内に配設し、一方、該ラッチング機構の前方に位置する錠箱のフロント11の部位に開口部11aを形成し、この開口部とラッチング機構Zの構成部材との間の空間部分7にラッチ強制解除手段71を配設し、該ラッチ強制解除手段の前記開口部側に位置する操作部分71aを外部から操作して前記ラッチ板を強制的に解除し得ることを特徴とする引戸錠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引戸を閉めると、戸枠側の受け金具に当たって錠箱内に後退するトリガー、該トリガーに連動する鎌片を備えた引戸錠に関する。
【背景技術】
【0002】
錠箱のフロントから受け金具に向かって突出するトリガー(水平突出杆)と、このトリガーの後退動に連動して前記受け金具に係合する方向へ回転する鎌片を備えた建具用引戸錠は、例えば実開昭57−110260号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
この種の引戸錠は、引戸の閉戸時、トリガーはその先端面がストライクの表面に突き当たると後退し始め、鎌片は動力変換機構(例えばラック及びピニオン)を介して掛合方向へと突出する。
【0004】
ところで、トリガーに連動する鎌片を備えた引戸錠は、引戸を閉めた時の跳ね返り現象が発生するので、その防止策として錠箱内にラッチング機構(仮施錠機構)を設ける場合が多い。ラッチング機構の一例は特許文献2に記載されている。
【0005】
出願人は、ラッチング機構を備えた公開前(現時点では未公開)の引戸錠を日本国特許庁に申請中である。その中に、仮施錠状態、或いは本施錠状態にした場合であっても、引戸をさらにチリを狭める方向に移動させることができるようにした発明がある。図1乃至図10に記載の発明は、その一つである。本発明は、この未公開発明の問題点を解消するために提案するものなので、まず、ここで先願発明の構成を詳細に説明し、先願発明と同一構・作用効果は援用することにする。
【0006】
(1)発明の実施の環境
まず図1及び図2を参照に本願発明に関連する発明の実施の環境について説明する。Xは、例えば引戸1の中に収められる彫り込み型の引戸錠である。一方、Yは戸枠2に固定的に取付けられた受け金具である。受け金具Yは、ボックス部を有するトロヨケ3と、このトロヨケ3の開口に重ね合わせられたストライク(受座)4とから成る。ストライク4は縦長の板状に形成され、複数個の固着手段5を介してトロヨケ3の耳状の取り付け部に固定される。ストライク(受座)4の表面にトリガー31の先端部が当接可能である。この実施例では、閉戸時、チリがあっても、引戸1を閉めることが可能であり、引戸1を閉めると、チリがなくなる。すなわち、閉戸時、長板状のストライク4の表面に引戸1の先端面が当接可能である。その際、トリガー31及び鎌片43は錠箱10内に後退可能である。
【0007】
(2)錠箱
次に錠箱について説明する。10は錠箱で、この錠箱10は、ケース身10aと、ケース蓋10bとから成る。11はフロントで、このフロント11は、フロント前壁12に固定されている。ここでは、フロント前壁12もフロント11の用語に含まれる。13は複数個の第2固着手段である。14は鎌片用出入り窓で、この出入り窓14には、トリガーを案内する角筒状のトリガー支持部材15が取り付けら、該トリガー支持部材15の先端部寄りの部位に位置決め突起16や取付け部分が設けられている。位置決め突起16は、フロント11に当接することができるように上下対称、鍔状など適宜形状に形成され、先端部側は、図2で示すようにフロント11に嵌め込まれている。
【0008】
(3)ケース身とケース蓋
図3はケース身10aの正面図である。ここで、図1乃至図3を参照にしてケース身10a及びケース蓋10bに形成された主な取付け部(例えば側壁開口部、ガイド孔、軸孔、取付け孔等)ついて説明する。なお、後述の本願発明では、錠箱10のフロント11の開口部11a側にラッチ強制解除手段71が配設されるので、横軸72用の軸孔73が形成される。
【0009】
さて、符号18は、図1及び図3で示すように、錠箱10の上部側に形成された複数個(例えば2個)の貫通孔で、これらの貫通孔18には、図9に示す引戸壁面側の取付け座67のパイプ状連結杆68が嵌挿する。
【0010】
次に19は、前記貫通孔18の上位に形成された側壁開口部で、該側壁開口部19は、施錠片61の矩形状係合窓63と対向可能である。したがって、図9に示すように前記取付け座67に軸支された押圧腕部材69は、錠箱10の側壁開口部19を介して該錠箱内に挿入され、かつ、施錠片61の係合窓63に係合する。この実施例では、図10で示すように、押圧腕部材69の板状操作部分69bがスイングすると、前記施錠片61が上下方向にスライド可能である。
【0011】
次に20は、錠箱10の中央部に形成された横長案内長孔で、この横長案内長孔20は、フロント11側の弧状案内部20aと、これに連続する直線案内部20bとから成る。この横長案内長孔20には、鎌片43の後端部に固定的に設けられた可動軸21が係合する。
【0012】
次に22は弧状案内部20aの直ぐ下方に設けられた円形軸孔で、この円形軸孔22には、鎌片43を案内する固定軸23が設けられている。鎌片用の固定軸23は、後述する鎌片長孔44を介して錠箱10に横設軸架されている。
【0013】
次に24は弧状案内部20aとフロント11との間に形成された矩形小孔状の第1取付け部で、この第1取付け部24には、前述したトリガー支持部材15が適宜に取り付けられる。したがって、第1取付け部24は、弧状案内部20aよりも若干上位のフロント11寄りの部位に形成されている。
【0014】
次に25は弧状案内部20aとケース身10aの上壁との間に形成された垂直案内部(例えば長孔)で、この垂直案内長孔25には、後述のラッチング機構Zを構成する水平可動軸52が取り付けられる。付言すると、本実施例のラッチング機構Zは一組のユニット部材であることから、案内長孔25は、ユニット部材Zを錠箱10内に組み込むことができるようにケース身10aの上壁付近に形成された矩形小孔状の第2取付け部26と弧状案内部20aとの間に位置するように形成されている。前記矩形小孔状の第2取付け部26には、ユニット部材Zの一部を構成し、かつ、ユニット部材の枠状支持片51を上下方向に案内するガイド部材(垂直軸部材)が適宜に取り付けられる。
【0015】
次に27はフロント11と第2取付け部26との間に形成された矩形小孔状の第3取付け部で、この錠箱10の隅角部に形成された第3取付け部27には、弱いバネ用の支持軸28が取り付けられている。さらに、錠箱10の下部の中央部には、矩形小孔状の第4取付け部29が形成され、この第4取付け部29には、ケース蓋固定用のメネジ支持杆30が取り付けられている。このメネジ支持杆30は、鎌片43が錠箱内に戻った時に所定位置で止めるストッパー機能を有している(図2参照)。その他錠箱10にはバネ支持具用の取付け部等が適宜に形成されている。
【0016】
(4)施錠片
図8及び図9を参照にして施錠片61を説明する。施錠片61は、肉厚板状に形成された上下方向のスライド部材であり、少なくとも錠箱10の側壁開口部19を介して該錠箱10内にその係合腕69aが挿入された押圧腕部材69と係合可能な係合窓63を有する。本実施例の係合窓63は矩形状に形成されている。この係合窓63を基準にすると、ラッチング機構Z側には、前述した錠止腕62が垂直状態に延びている。
【0017】
一方、係合窓63よりも上方部分には、錠箱10の上壁内面に当接可能な突起部分64が形成されている。さらに、係合窓63よりも下方部分には、取付け座67の連結杆68と係合可能な下向きU字状の切欠部分65が複数個並列に形成されている。
【0018】
(5)トリガーとトリガーバネ
図4乃至図6を参照にしてトリガー31を説明する。図4はトリガー31の正面図、図5はその左側面図、図6は図4の6−6線断面図である。トリガー31は錠箱10内に摺動自在に装着されている。このトリガー31は、長杆状先端部32と、この突出先端部32に幅広に連設する幅広状後端部33とから成り、図2で示すように引戸が開いている時は、前記先端部32は錠箱10のフロント11から突出する。
【0019】
しかして、34は前記幅広後端部33の上辺の先端部分に傾斜状に形成された摺接面、35はこの傾斜状摺接面34に続く爪状の仮止め用係合部分である。この摺接面34及び仮止め用係合部分35は、ラッチング機構Zを構成するラッチ板用の第1係合部分に相当し、前者34はラッチ板53を誘導し、一方、後者35の垂直面35aは閉戸時にラッチ板53を係止する。
【0020】
なお、前記ラッチ板53用の第1係合部分35には、短杆或いは長杆状先端部32と幅広状後端部33との境目に相当する段差部分の垂直面35bも含まれる。したがって、第1係合部分35は、一辺に段差状に複数個形成されている。
【0021】
また、36は幅広後端部33の下辺の先端部分に下向きU字形状に形成された第2係合部分で、この第2係合部分には、鎌片の可動軸21が摺接自在に係合する。また、37は幅広後端部33の後端面からその内部にかけて横溝状に形成されたバネ嵌合部分で、このバネ嵌合部分37にはトリガーバネ38の先端側が組み込まれている。
【0022】
ここで、図2,図8を参照にしてトリガーバネ38について説明する。トリガーバネ38は幅広後端部33とケース身10aの後壁との間に横方向に組込まれ、その先端部が幅広後端部33のバネ嵌合部分37の内面に適宜に圧接し、一方、後端部は後壁に固定的に設けられたバネ支持具39に支持されている。したがって、トリガー31は、トリガーバネ38のバネ力により、その先端部32の一部が常時フロント11から突出するように付勢されている。
【0023】
また、幅広後端部33の側壁中央部には突起40が設けられ、該突起40は錠箱10に設けられたトリガーガイド(図示しない)に案内される。本実施例のトリガー31は、その先端部32が角筒状のトリガー支持部材15に常に嵌入している。したがって、トリガー31はトリガー支持部材15及び前記突起40に案内されて安定的に進退動する。
【0024】
さらに、幅広後端部33の後側の上部には、前述した押圧腕部材69により上下動する施錠片61の錠止腕62と係合する第3係合部分41が形成されている。この第3係合部分41は、仮止め用係合部分35よりも低い位置にある。
【0025】
加えて、幅広後端部33の前記第3係合部分41の垂直錠止面41aの前方には、該幅広後端部33の先端面33aに至る水平方向のガイド横溝42が形成されている。このガイド横溝42は、本施錠時、すなわち、閉戸時、図9で示すように、係合腕部分69a及び操作板69bを含む押圧腕部材69がスイングし、その結果、施錠片61の錠止腕62がガイド横溝42に係合状態になった場合に於いて、引戸1をチリがなくなる方向へ閉めた時に、ストライク4の面によって押圧されるトリガー31及びこれに連動する鎌片43が錠箱内に後退することができるように前記錠止腕62を案内する。
【0026】
(6)鎌片
鎌片43は全体として人差し指を折り曲げた形態をしており、その幅広基部43aの縁部には可動軸21が突設されている。前述したように、可動軸21は錠箱10の横長案内長孔20に係合している。また鎌片43の基部43aには鎌片長孔44が形成されている。鎌片43は、該鎌片長孔44を貫通する固定軸23に軸支されている。したがって、鎌片43がトリガー31に連動するための動力変換機構は、トリガー31の第2係合部分36と鎌片43の可動軸21で構成されているから、極めてシンプルな構成となっている。
【0027】
ところで、前記鎌片長孔44はチリ調整機能を有する。この鎌片長孔44は、横長案内長孔20の直線案内部20bと相俟って、引戸1の閉戸時であっても、換言すれば、鎌片43の鉤状先端部40bがストライク4に係合(掛合)のままであっても、引戸1をさらに閉めると、鎌片43の基部43a側を錠箱10内に後退させることができる。
【0028】
(7)ラッチング機構の配設箇所と具体的構成
図8で示すように、フロント11の内壁面と施錠片61の錠止腕62側とで区画された空間部分7にトリガー31と係脱可能なラッチ板53を有するラッチング機構Zが配設されている。
【0029】
鎌片43を仮施錠状態にする、又は仮施錠状態を解消するラッチング機構Zは、錠箱10内の空間部分に設けられた一組のユニット部材である。該ユニット部材Zは、図7で示すように、垂直方向に移動可能な枠状の支持片51と、この支持片51に水平可動軸52を介して軸支され、かつ、トリガー31の一辺に形成された仮止め用係合部分35と係合可能な係止爪部53aを有するラッチ板53と、前記支持片51に前記水平可動軸52を介して組み込まれ、かつ、前記ラッチ板53を係合可能に位置へ付勢する仮止め用バネ54とから成る。
【0030】
前記支持片51は、仮止め用バネ54よりもバネ力が弱く設定された錠箱内装の支持片用バネ57により、該支持片51と一体的なラッチ板53がトリガー31に係合する方向へ付勢されている。
【0031】
また、前記ラッチ板53は、水平可動軸52用の軸孔の回りに前記バネ54装着用の溝55を有すると共に、前記係止爪部53aとは反対側に延びるバネ端54a用の突起状支持部分69bを有している。
【0032】
また、前記仮止め用バネ54の他端部54bは支持片51の上壁部分に形成したバネ端支持孔に支持されている。さらに、前記支持片51には、支持軸28に中央部が巻装された弱いバネ(仮止め用バネ54に比してバネ力が弱い)57の一端部が圧接している。
【0033】
ところで、本実施例のユニット部材Zは、水平移動するトリガー31を基準にすると、鎌片43が軸支された空間部分とは反対側の空間部分に設けられている。また、前述したように、ユニット部材は、錠箱10の内壁面に固定され得る支持片用ガイド部材56を含み、一組のユニット部材を構成している。それ故に、ユニット部材Zを極めて簡単に錠箱10内に取り付けることができる。
【0034】
(8)ラッチング機構Zの作用
図7はラッチング機構Zの仮施錠状態に至る概略説明図である。したがって、ラッチング機構Zの仮施錠状態が解消する場合は、図7とは逆の作動態様となる。また、図8は、鎌片43、引戸1等も含めた全体の動きを示す概略説明図である。
【0035】
まず、図2と図8とを対比すると明らかなように、図2は引戸1を矢印A方向に閉める途中に於いて、トリガー31の先端部32がストライク4に当たる寸前を示しているのに対し、図8はトリガー31がトリガー支持部材15及び前記突起40に案内されて錠箱10内に後退し、該トリガー31の後退動に連動して鎌片43が固定軸23を支点に時計(掛合)方向に回転し、その結果、鎌片43の先端部43aがストライク4に係合した状態を示している。
【0036】
図2から図8の閉戸時状態になる過程に於いて、ユニット部材Zを構成する支持枠51、水平可動軸52、ラッチ53等は、ラッチ53が後退動するトリガー31の傾斜状摺接面34に押圧されると、支持枠用の弱いバネ57のバネ力に抗して上方に移動し、その係止爪部53aが摺接面34を乗り越えると、引戸1の所定のチリを有する閉鎖位置にて、今度は弱いバネ57のバネ力により下方に移動する。
【0037】
したがって、前記係止爪部53aはトリガー31の仮止め用係合部分35自動的に係合する。これが仮施錠状態である。この時、ラッチ53は錠箱10に案内される水平可動軸52を介して上下動する反面、反時計方向へは回転しない。それはラッチ53の突起状支持部分69bが支持枠51の左側垂直壁の内面に支持されているからである。
【0038】
それ故に、引戸1を開いた場合には、トリガーバネ38のバネ力により錠箱10から進出するトリガー31の第1係合部分35により、ラッチ53は、強いバネ54のバネ力に抗して図8で示す矢印B(時計方向)に回転し、その結果、仮施錠状態が解消する。
【0039】
(9)閉戸時及び本施錠状態
図10(a)は、通常の閉戸時に於いて、例えば内側の取付け座67の操作板69bをプッシュして押圧腕部材69の係合腕部分69aが下方方向へ揺動し、その結果、施錠片61が矢印Cで示す下方方向へスライドしてその錠止腕62がガイド横溝42に係合状態になった場合である。
【0040】
一方、図10(b)は、前記(a)の本施錠状態に於いて、引戸1を、さらにチリがなくなる方向へ閉め時である。引戸錠Xはチリ調整機能を有する(例えば鎌片長孔44)。したがって、所定のチリを有する閉鎖位置にて、引戸1を閉めた場合には、トリガー31はストライク4の面によって押され、これに連動する鎌片43は、錠箱10の横長案内長孔20の直線案内部20b及び鎌片43の鎌片長孔44の両者に案内される固定軸23を介してトリガー31と一緒に錠箱10内に後退する。こ時、ガイド横溝42は、前述したように幅広後端部33が錠止腕62と干渉しないように該錠止腕62を案内する機能を発揮する。
【特許文献1】実開昭57−110260号公報
【特許文献2】特開2002−322850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
図1ないし図10に示した先願発明は、図11で示すような問題点があった。
【0042】
すなわち、開扉状態に於いて、仮に悪戯により、トリガー31が指で押されると、これに連動する鎌片43はフロント11から突出する、この時、戸枠2から引戸1が離れている場合であっても、閉戸時にトリガー31がストライク4の表面に押圧される場合と道理が同じであることから、ラッチング機構Zの仮施錠機能が働き、ラッチ板53はトリガー31の段階的な仮止め用係合部分35に係合する。しかも、ラッチング機構Zのラッチ板53を付勢するバネ54等は、ラッチ板53が係合部分35(例えば35a)に係合する方向に働いていると同時に、トリガーバネ38も矢印で示すようにトリガー31を常時押圧していることから、鎌片43が自動的に戻らないという事態が発生し得る。
【0043】
したがって、このような場合には、外部から強制的に仮施錠状態を解除する必要がある。
【0044】
本発明の主たる目的は、上記のように、開扉時、悪戯等の原因により、鎌片43が錠箱10のフロントから突出し、しかも、ラッチング機構Zの仮施錠状態が働いている場合に於いて、外部から仮施錠状態を強制的に解除することである。第2の目的は、錠箱内の空間を有効的に活用することである。そのために、ラッチング機構Zを構成する部材を合理的にユニット化することである。その他の目的は、従属項によって特定される。
【課題を解決するための手段】
【0045】
本発明の引戸錠は、引戸を閉めると、戸枠側の受け金具に当たって錠箱内に後退するトリガー、固定軸に軸支されかつトリガーの後退動に連動して前記受け金具に係合する方向へ回転する鎌片をそれぞれ備える引戸錠に於いて、前記トリガーの一辺に形成した仮止め用係合部分に係合するラッチ板53を備えたラッチング機構Zを錠箱内に配設し、一方、該ラッチング機構の前方に位置する錠箱のフロント11の部位に開口部11aを形成し、この開口部とラッチング機構Zの構成部材との間の空間部分7にラッチ強制解除手段71を配設し、該ラッチ強制解除手段の前記開口部側に位置する操作部分71aを外部から操作して前記ラッチ板を強制的に解除し得ることを特徴とする。その他の限定可能な特徴事項は、従属項に記載されている。
【発明の効果】
【0046】
(1)悪戯等による開扉時の仮施錠状態を、外部から手動により操作して解除することができる。
(2)前記(1)の解除は、フロントの開口部を介して簡単に行うことができる。
(3)ラッチ強制解除手段を構成する部品点数が少ない。
(4)請求項4に記載の発明は、工具Tの先端部が操作部分71aに係合するので、確実かつ容易にラッチ強制解除手段71を動かすことができる。
(5)請求項5に記載の発明は、錠箱内の空間部分を有効利用が可能となり、少ないスペースにラッチ強制解除手段を配設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
図12乃至図19に示す本願発明の一実施例を説明する。なお、背景技術の欄で説明したように、本願発明の説明にあたっては、図1乃至図10の先願発明の構成・作用効果をそのまま援用し、本願発明の特徴部分に絞って説明する。したがって、構成上の同一部分には、同一又は同様の符号を付して重複する説明を省略する。
【0048】
(a)特徴その1…ラッチ強制解除手段
本願発明の特徴部分は、先願発明の基本的な構成部材(トリガー、鎌片、ラッチング機構Zなど)及び作用を前提にした上で、ラッチング機構Zの前方に位置する錠箱10のフロント11の部位に開口部11aを形成し、この開口部11aとラッチング機構Zの構成部材との間の空間部分7に可動可能なラッチ強制解除手段71を配設し、該ラッチ強制解除手段71の前記開口部11a側に位置する操作部分71aを外部から操作してラッチング機構Zのラッチ板53を強制的に解除し得るように構成したことである。
【0049】
本実施例のラッチ強制解除手段71は、図15で示すように、錠箱10の上方の隅部に軸孔73を介して軸架された横軸72に回転自在に軸支され、その形状は、正面視を基準にした場合、指、例えば親指と人差し指の二本の指を下向きにして開いたような外観形状をし、一方の指(親指に相当)71aはフロント11の開口部11a側に位置する操作部分であり、一方、他方の指(人差し指に相当)71bはラッチ板53を軸支する可動支持板51の内部に該支持板51を持ち上げることができるように係合している。つまり、ラッチ強制解除手段71は、操作部分71aと係合部分71bを有している。
【0050】
なお、操作部分71aとしての一方の指の外面には、工具Tの先端部が係合する係合部(例えば溝、孔等)74が形成されている。また、図12、図13で示すように、フロント11の開口部11aの直ぐ上方には、接着層を介してラッチ解除ボタンを意味する目印75が付されている。
【0051】
上記構成に於いては、ドライバー等の押し込み可能な工具Tで、開口部11aに位置している指71aを押し込む。本実施例では、この時、ドライバーの先端部が係合溝74に係合し、そう簡単には指71aから外れない。指71aを押し込むと、図19で示すように、ラッチ強制解除手段71は横軸72を支点に反時計方向に回転する。
【0052】
したがって、可動支持板51は、垂直軸部材56に案内されながら、かつ、弱いバネ57のバネ力に抗しながら、係合解除の方向へ上昇する。それ故に、ラッチ板53は、トリガー31から強制的に解除される。トリガー31はラッチ板53から解放されると、トリガーバネ38のバネ力により突出し、これに連動する鎌片43は錠箱10内へと戻る。
【0053】
(b)特徴その2…ラッチング機構Z
ラッチング機構Zは、ユニット部材であり、該ユニット部材は、水平可動軸52を有すると共に、垂直方向に移動可能な枠状支持片51と、前記水平可動軸に軸支され、かつ、トリガー31の一辺に形成された段差状の複数個の仮止め用係合部分35(図17,図18を参照)と係合可能な係止爪部53aを有するラッチ板53と、前記可動支持片51に組み込まれ、かつ、前記ラッチ板を係合可能な位置へ付勢する仮止め用バネ54とを含み、さらに、可動支持片51を常時付勢する弱いバネ57は、可動支持片51を上下方向に案内するガイド部材(垂直軸部材)56に巻装されている。
【0054】
したがって、錠箱10の少ない内部空間の有効利用が可能となり、錠箱10のフロント11とラッチング機構Zの構成部材との間の狭いスペース7にラッチ強制解除手段71を可動可能に配設することができる。
【実施例】
【0055】
本願発明は、先願発明の構成の主要部をそのまま含み、「悪戯による開扉時の仮施錠を外部から手動で強制的に解除すること」ということが本発明の主たる目的となっている。したがって、ラッチ強制解除手段71を、横軸72を介して回転自在に設けたことは一例であり、例えばラッチ板53の係合を解除させるために、ラッチ強制解除手段71を錠箱10内に図示しない案内部材を介して上下方向にスライド自在に設けても、このような実施例は均等事項である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、主に錠前や建具の業界で利用される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1乃至図10は本願発明が援用する先願発明の構成を示す各説明図である。図11は、先願発明の問題点を示す概略説明図。図12乃至図19は本願発明の一例を示す各説明図である。
【図1】先願発明の実施形態の一例を示す斜視図(取付け座は省略)。
【図2】引戸を開いた一例の内部構造を示す概略説明図。
【図3】ケース身の正面図。
【図4】トリガーの正面図。
【図5】トリガーの左側面図。
【図6】図4の6−6線断面図。
【図7】主要部の作用を示す概略説明図。
【図8】引戸を閉める途中の概略説明図。
【図9】取付け座、押圧腕部材、施錠片等の組合せを示す概略説明図。
【図10】(a)は引戸の閉戸時に於いて、施錠片の錠止腕がトリガーのガイド横溝に係合した状態の概略説明図。(b)は前記(a)の本施錠状態に於いて、引戸を、さらにチリがなくなる方向へ閉め時の概略説明図。
【図11】先願発明の問題点を示す概略説明図
【図12】本願発明の実施形態の一例を示す斜視図(取付け座は省略)。
【図13】本願発明をフロント側から見た説明図。
【図14】図2と同様の概略説明図。
【図15】主要部(ラッチ強制解除手段を含む)の概略説明図。
【図16】図15に於いて、縦断面概略説明図。
【図17】ラッチ板が段階的(第一段階)に係合する概略説明図。
【図18】ラッチ板が段階的(第二段階)に係合する概略説明図。
【図19】ラッチ板を強制解除する場合の概略説明図。
【符号の説明】
【0058】
X…引戸錠、Y…受け金具、Z…ラッチング機構、1…引戸、2…戸枠、3…トロヨケ、4…ストライク、5,13…固着具、7…空間部分、10…錠箱、10a…ケース身、11…フロント、12…フロント前壁、14…出入り窓、15,15A…トリガー支持部材、16…位置決め用突起、18…貫通孔、19…側壁開口部、20…横長案内長孔、21…可動軸、22…円形軸孔、23…固定軸、24,26,27,29…取付け部、28…支持軸、25…垂直案内長孔、31…トリガー、32…長杆状先端部、33…幅広状後端部、34…摺接面、35…仮止め用係合部分(第1係合部分)、35a,35b…垂直面、36…第2係合部分、37…バネ嵌合部分、38…トリガーバネ、39…バネ支持具、40…突起、41…第3係合部分、41a…垂直錠止面、42…ガイド横溝、43…鎌片、43a…基端部、43b…先端部、44…鎌片長孔、51…支持片、52…水平可動軸、53…ラッチ板、53a…係合爪部、54…ラッチ板用バネ(強いバネ)、56…支持片用ガイド部材、57…支持片用バネ(弱いバネ)、61…施錠片、62…施錠腕、63…係合窓、64…突起部分、65…切欠部分、67…取付け座、68…連結杆、69…押圧腕部材、69a…係合腕部分、69b…操作部分、70…切欠部、A,B,C…矢印、11a…フロントの開口部、71…ラッチ強制解除手段、71a…操作部分、71b…係合部分、72…横軸、73…軸孔、T…工具、74…係合部(例えば溝、孔等)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸を閉めると、戸枠側の受け金具に当たって錠箱内に後退するトリガー、固定軸に軸支されかつトリガーの後退動に連動して前記受け金具に係合する方向へ回転する鎌片をそれぞれ備える引戸錠に於いて、前記トリガーの一辺に形成した仮止め用係合部分に係合するラッチ板53を備えたラッチング機構Zを錠箱内に配設し、一方、該ラッチング機構の前方に位置する錠箱のフロント11の部位に開口部11aを形成し、この開口部とラッチング機構Zの構成部材との間の空間部分7にラッチ強制解除手段71を配設し、該ラッチ強制解除手段の前記開口部側に位置する操作部分71aを外部から操作して前記ラッチ板を強制的に解除し得ることを特徴とする引戸錠。
【請求項2】
請求項1に於いて、ラッチ強制解除手段は、錠箱のフロント11付近に設けられた横軸72を介して回転自在に設けられていることを特徴とする引戸錠。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に於いて、ラッチ強制解除手段は、指を開いたような外観形状をし、一方の指71aはフロント11の開口部11a側に位置する操作部分であり、他方の指71bはラッチ板53を軸支する可動支持板51に係合していることを特徴とする引戸錠。
【請求項4】
請求項3に於いて、操作部分71aとしての一方の指の外面には、工具Tの先端部が係合可能な係合部74が形成されていることを特徴とする引戸錠。
【請求項5】
請求項1に於いて、ラッチング機構Zは、ユニット部材であり、該ユニット部材は、水平可動軸52を有すると共に、垂直方向に移動可能な支持片51と、前記水平可動軸に軸支され、かつ、トリガーの一辺に形成された仮止め用係合部分35と係合可能な係止爪部53aを有するラッチ板53と、前記可動支持片51に組み込まれ、かつ、前記ラッチ板を係合可能な位置へ付勢する仮止め用バネ54とを含み、さらに、可動支持片51を常時付勢するバネ57は、可動支持片51を上下方向に案内するガイド部材56に巻装されていることを特徴とする引戸錠。
【請求項6】
請求項1に於いて、トリガー31の仮止め用係合部分は、段階的に複数個形成されていることを特徴とする引戸錠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−225979(P2006−225979A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40695(P2005−40695)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)