説明

弗化ビニリデン樹脂組成物の製造方法

【発明の詳細な説明】
(発明の属する技術分野)
本発明は弗化ビニリデン樹脂組成物の製造方法に関し、更に詳しくは顔料及び/又は充填剤を比較的多量に含有した弗化ビニリデン樹脂組成物の製造方法に関する。
(従来の技術)
従来、弗化ビニリデン樹脂は、弗素系樹脂の中でもその成形温度が200乃至260℃と比較的低く、汎用プラスチックの成形温度に近いことから成形性に優れ、各種の用途で使用される様になった。
これらの弗化ビニリデン樹脂の成形に際してはその用途目的に従って着色されたり、ガラス繊維等の各種の充填剤が配合されるが、例えば、着色剤の配合に際しては、成形品の最終濃度で配合するよりも着色剤を高濃度で配合してマスターバッチとし、このマスターバッチを用いて最終着色する場合が多い。又、各種の無機充填剤の配合においても同様のマスターバッチ法が利用される場合がある。
(発明が解決しようとしている課題)
以上の如きマスターバッチ法においては顔料及び/又は充填剤の種類によっては、弗化ビニリデン樹脂と顔料及び/又は充填剤との混練時に、これらの添加剤が弗化ビニリデン樹脂の熱分解を促進する場合がある。
例えば、酸化チタン、酸化コバルトブルー等の顔料やガラス繊維等の硅素含有充填剤の場合には、これらの顔料及び/又は充填剤を弗化ビニリデン樹脂100重量部当り10重量部以上の割合で溶融混練すると、窒化ビニリデン樹脂が急激に分解され、満足できる高濃度物が得られないと云う問題がある。
従って本発明の目的は弗化ビニリデン樹脂の熱分解を促進する恐れのある顔料及び/又は充填剤を高濃度に含有する弗化ビニリデン樹脂組成物を提供することである。
(課題を解決するための手段)
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、弗化ビニリデン樹脂100重量部当りアクリル系樹脂0.5乃至50重量部及び弗化ビニリデン樹脂の熱分解を促進する顔料及び/又は充填剤10乃至50重量部を含有する弗化ビニリデン樹脂組成物の製造方法において、前記顔料及び/又は充填剤と前記アクリル樹脂とを溶融混練して得られたアクリル樹脂被覆顔料及び/又は充填剤を、前記弗化ビニリデン樹脂に混合することを特徴とする弗化ビニリデン樹脂組成物の製造方法である。
弗化ビニリデン樹脂に、弗化ビニリデン樹脂の熱分解を促進する恐れのある顔料及び/又は充填剤を配合するに当り、上記顔料及び/又は充填剤を予めアクリル系樹脂で被覆して配合することにより、弗化ビニリデン樹脂を分割することなく顔料及び/又は充填剤を弗化ビニリデン樹脂に高濃度に配合することができる。
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
(発明の実施の形態)
本発明で使用する弗化ビニリデン樹脂は、それ自体公知の弗素系樹脂であって、カイナー(ペンウオルト社)、KFポリマー(呉羽化学)等の商品名で市場から入手できるものであり、公知の弗化ビニリデン樹脂はいずれも本発明で使用することができる。
上記弗化ビニリデン樹脂に配合する顔料及び/又は充填剤は、弗化ビニリデン樹脂の熱分解を促進する傾向のあるものであり、例えば、顔料としては酸化チタンホワイト、酸化チタンイエロー、酸化コバルトブルー等が挙げられ、又、無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化硅素等が挙げられる。これらの顔料及び/又は充填剤は夫々単独でも混合物としても使用できる。
以上の如き顔料及び/又は充填剤は、その配合比率が少ない場合、例えば、弗化ビニリデン樹脂100重量部当り10重量部未満の場合には弗化ビニリデン樹脂の熱分解を促進する作用は顕著ではないが、これらの顔料及び/又は充填剤の配合量が弗化ビニリデン樹脂100重量部当り10重量部を越えると、配合のための溶融混練時に弗化ビニリデン樹脂を激しく熱分解させ、従来は高濃度のコンパウンドを提供することが困難であった。
本発明では弗化ビニリデン樹脂に対して顔料及び/又は充填剤を高濃度に配合する場合に、その顔料及び/又は充填剤を予めアクリル系樹脂で被覆して配合することにより、顔料及び/又は充填剤による弗化ビニリデン樹脂の熱分解を顕著に抑制し得ることを見出した。
このようなアクリル系樹脂としては、従来公知のアクリル系樹脂はいずれも使用できるが、特に好ましいアクリル系樹脂は、ダイヤナール、メタブレン(三菱レイヨン)、パラロイド(呉羽化学)等の商品名で市場から入手できるメタクリル樹脂が好ましい。これらのアクリル系樹脂は弗化ビニリデン樹脂100重量部当り0.5乃至50重量部の割合で使用するのが好ましく、使用量がこの範囲未満であると使用効果が不十分であり、上記範囲を越える使用量であると弗化ビニリデン樹脂の本来の性能が低下するので好ましくない。
本発明の弗化ビニリデン樹脂は上記成分を必須成分とするが、その他本発明の目的を妨げない範囲において他の顔料、他の充填剤、可塑剤、滑剤、安定剤等の公知の添加剤を配合し得るのは勿論である。
本発明の弗化ビニリデン樹脂組成物は、前記顔料及び/又は充填剤と前記アクリル系樹脂とを予め溶融混練して、顔料及び/又は充填剤粒子をアクリル系樹脂で十分に被覆した状態にしておいて、これを弗化ビニリデン樹脂に混合することが好ましい。
(実施例)
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中、部又は%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
実施例1メタクリル樹脂(ダイヤナールBRレジン、三菱レイヨン製) 40部酸化チタン(R−820、石原産業製) 60部 上記配合物をバンバリミキサー(70■容量)中で5分間溶融混練後、18インチの2本のロールで圧延してシート状に成形し、これをペレタイザーにて4×4×4mmの角ペレットに造粒した。この角ペレットをターボミル粉砕機で粉砕処理し、20乃至30メッシュの顆粒状着色剤とした。
この着色剤を弗化ビニリデン樹脂(カイナー721、ペンウオルト社製)100部に対して50部の割合で加え、ヘンシェルミキサーで均一に混合した後、シリンダー部が200乃至210℃、ダイ部が230℃に設定された45mmφの2軸押出機で混練押出し、顔料分散性に優れ、表面状態が平滑で鮮明に発色したペレット状の本発明の弗化ビニリデン樹脂組成物を得た。
実施例2 実施例1におけるアクリル系樹脂を50部とし、顔料として酸化コバルトブルー(#1024、旭産業製)50部を使用し、他は実施例1と同様にして顔料分散性、表面状態及び発色性に優れたペレット状の本発明の弗化ビニリデン樹脂組成物を得た。
比較例1弗化ビニリデン樹脂(カイナー721) 100部酸化チタン(R−820) 30部 上記配合物をヘンシェルミキサーで均一に混合し、実施例1と全く同一条件で2軸押出成形機でペレット状の比較例の弗化ビニリデン樹脂組成物を得た。
このペレットの外観は発泡気味であり、表面の着色も不鮮明であった。
又、押出機を運転開始してから5分後にはダイスから臭気を伴う発泡現象が見られたので、急遽運転を停止した。尚、初期のものをサンプルとした。
比較例2弗化ビニリデン樹脂(カイナー721) 125部酸化コバルトブルー(#1024) 25部 上記配合物をヘンシェルミキサーで均一に混合し、実施例1と全く同一条件で2軸押出成形機でペレット状の比較例の弗化ビニリデン樹脂組成物を得た。
このペレットの外観は発泡気味であり、表面の着色も不鮮明であった。
又、押出機を運転開始してから5分後にはダイスから臭気を伴う発泡現象が見られたので、急遽運転を停止した。尚、初期のものをサンプルとした。
以上の実施例及び比較例の弗化ビニリデン樹脂組成物の夫々50mgを2枚のスライドガラスに挟み、280℃のホットプレート上で約50μmに圧延してフイルム状に成形し、そのままの状態で20分間加熱後のフイルム状態を調べたところ下記第1表の結果が得られた。
第 1 表(圧延フイルム加熱テスト結果280℃、20分間)
実施例1:鮮明な白色を保持している。
実施例2:鮮明な青色を保持している。
比較例1:黒灰色に変化し発泡した。
比較例2:黒青色に変化し発泡した。
実施例3アクリル系樹脂(パラロイドK、呉羽化学製) 40部酸化チタン(CR−60、石原産業製) 60部 上記配合物を実施例1と同時にしてバンバリーミキサーで混練後粉砕し、顆粒状着色剤とした。
弗化ビニリデン樹脂(KFポリマー#1000、呉羽化学製)
100 部上記の顆粒状着色剤 100 部滑剤(ステアリン酸カルシウム) 0.2部 上記の配合物をヘンシェルミキサーで均一に混合し、170℃に設定した10インチ2本ミキシングロールでクリアランス1mmにて5分間混練し、更に230℃に設定したプレス機で3分間加温後150kg/cmの圧力をかけ、0.5mmの厚みの鮮明な発色のシート状の本発明の弗化ビニリデン樹脂組成物を得た。
比較例3弗化ビニリデン樹脂(KFポリマー#1000) 140 部酸化チタン(CR−60) 60 部滑剤(ステアリン酸カルシウム) 0.2部 上記配合物を実施例3と同一条件でヘンシェルミキサーで均一に混合し、ミキシングロール混練及びプレス加工成形を試みたところ、上記のミキシング加工中に黄グスミ変色が発生し、ロール面からの剥離性悪化の現象も発生した。又、プレス後のシートの色相は実施例5のものに比較して著しく劣っていた。
実施例4アクリル樹脂(メタブレンP、三菱レイヨン製) 60部ガラスファイバー(CS−06−MA−411、旭ファイバーグラス製) 40部 上記配合物をシリンダーが200℃、ダイが220℃に設定された45mmφの2軸押出機にて混練し、ペレット状ガラスファイバーマスターバッチを得た。
弗化ビニリデン樹脂(カイナー740) 100部上記のガラスファイバーマスターバッチ 100部 上記配合物をシリンダーが230℃、ダイが250℃に設定された30mmφの単軸押出機にて押出成形し、外観の均一なペレット状の本発明の弗化ビニリデン樹脂組成物を得た。
比較例4弗化ビニリデン樹脂(カイナー740) 160部ガラスファイバー(CS−06−MA−411) 40部 上記配合物をシリンダーが230℃、ダイが250℃に設定された30mmφの単軸押出機にて混練し造粒を試みたところ、押出運転開始直後から樹脂温度が急上昇し、ダイ孔から臭気を伴なった発泡混合物が押出されてきたので、急遽押出を中止し、ペレットは得られなかった。
(効果)
以上の如き本発明によれば、弗化ビニリデン樹脂を熱分解させることなく、弗化ビニリデン樹脂中に、弗化ビニリデン樹脂の熱分解を促進する恐れのある顔料及び/又は充填剤を比較的多量に、弗化ビニリデン樹脂を熱分解することなく配合することができる。従って本発明の弗化ビニリデン樹脂組成物は弗化ビニリデン樹脂着色用のマスターバッチ或いは成形用材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】弗化ビニリデン樹脂100重量部当りアクリル系樹脂0.5乃至50重量部及び弗化ビニリデン樹脂の熱分解を促進する顔料及び/又は充填剤10乃至50重量部を含有する弗化ビニリデン樹脂組成物の製造方法において、前記顔料及び/又は充填剤と前記アクリル樹脂とを溶融混練して得られたアクリル樹脂被覆顔料及び/又は充填剤を、前記弗化ビニリデン樹脂に混合することを特徴とする弗化ビニリデン樹脂組成物の製造方法。

【特許番号】第2628347号
【登録日】平成9年(1997)4月18日
【発行日】平成9年(1997)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−170807
【出願日】昭和63年(1988)7月11日
【公開番号】特開平2−22352
【公開日】平成2年(1990)1月25日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(999999999)大日精化工業株式会社
【参考文献】
【文献】特公 昭45−5903(JP,B2)
【文献】特公 昭43−12012(JP,B2)