説明

弗素系樹脂モノフィラメント、その製造方法および工業織物

【課題】工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)からなるモノフィラメントに比べて、低収縮率で高強度の特性を均衡に備え、織物の収縮およびカール特性を向上させ得るばかりか、筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができるETFEからなるモノフィラメント、その製造方法および工業織物を提供する。
【解決手段】沸騰水収縮率が1%以下、180℃の乾熱収縮率が10%以下であり、かつ引張強度が1.5cN/dtex以上のETFEからなる弗素系樹脂モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、低収縮率で高強度の特性を均衡に備え、織物の収縮およびカール特性を向上させ得るばかりか、筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法およびこの弗素系樹脂モノフィラメントを使用した工業織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントは、耐熱性、強度、剛性などの優れた特性を有することから、各種の産業資材用途に好ましく使用されてきた。
【0003】
また、工業織物用途においても同様に優れた特質を有するモノフィラメントの要求が高まっており、特にフィルター用織物用途に使用されるモノフィラメントには、優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性などが要求されているが、従来からのポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂では、特質上限界があり満足のいく特性が得られないことから、近年では特に優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を有する弗素系樹脂からなるモノフィラメントが求められるようになってきた。
【0004】
そして、弗素系樹脂の中でも既にポリフッ化ビニリデン樹脂などからなるモノフィラメントが、水産資材用途などに好ましく使用されているが、このポリフッ化ビニリデン樹脂は融点がポリアミド樹脂より低く耐熱性に劣るという問題があった。
【0005】
一方、工業織物の分野においても、優れた特質を有する弗素系樹脂からなるモノフィラメントの要求が高まってきたが、特に製紙業界の製紙用具用織物用途に使用されるモノフィラメントは、織物の均質性を得るために、とりわけ長さ方向の収縮率の均一性や織物の生産収率を向上させるために低収縮率と高強度のモノフィラメントが求められ、それを得るための種々の検討が従来よりなされてきた。
【0006】
かかる低収縮率と高強度のモノフィラメントに関する従来技術としては、(A)共重合ポリエステルにすることによって高強度・高弾性率と低収縮の両特性を兼ね備えたポリエステル繊維(例えば、特許文献1参照)、および(B)ポリエステル分解性気体によりポリエステルを分解させネッキング変形をおこして得られる高強度・高弾性率かつ低収縮のポリエステル繊維(例えば、特許文献2参照)などがすでに提案されている。
【0007】
また、(C)ポリエチレンナフタレートからなるポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献3参照)、(D)ポリエチレンナフタレートモノフィラメントからなるケーブル部材(例えば、特許文献4参照)、および(E)リヨセルモノフィラメント、リヨセルマルチフィラメント及びリヨセルフィラメントの製造方法(例えば、特許文献5参照)についてもすでに提案されている。
【0008】
しかしながら、上記(A)、(B)、(C)、(D)および(E)で提案されている従来技術は、いずれも目的とする特性を付与することについては所期の効果が認められるものの、製紙業界の製紙用具用織物用途に使用されるモノフィラメントなどのように、長さ方向の収縮率の均一性が要求される用途においては、いずれもその効果は必ずしも満足できるものとはいいにくいものであった。
【0009】
また、これらの従来技術に、弗素系樹脂、特にエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を適用したとしても、沸騰水収縮率が1%以下、180℃の乾熱収縮率が10%以下、かつ引張強度が1.5cN/dtex以上の弗素系樹脂モノフィラメントを得ることはできなかった。
【特許文献1】特開平6−93515号公報
【特許文献2】特開平7−173713号公報
【特許文献3】特開2002−266164号公報
【特許文献4】特開2004−346449号公報
【特許文献5】特開2005−42286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、低収縮率で高強度の特性を均衡に備え、織物の収縮およびカール特性を向上させ得るばかりか、筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法およびこの弗素系樹脂モノフィラメントを使用した工業織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明によれば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントであって、JIS L1013:1999−8.18の規定に準じて測定した沸騰水収縮率が1%以下、180℃の乾熱収縮率が10%以下であり、かつJIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引張強度が1.5cN/dtex以上であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメントが提供される。
【0013】
なお、本発明の弗素系樹脂モノフィラメントは、直径が0.05〜1.5mmであることが好ましい。
【0014】
また、上記の特性を有する本発明の弗素系樹脂モノフィラメントの製造方法は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を溶融紡糸・延伸するに際して、延伸温度を80〜200℃、かつ延伸倍率を4.5〜5.5倍で延伸し、引き続き処理温度が200〜240℃、かつセット倍率が0.85〜1.00倍のセット処理を行うと共に、その際の未延伸糸の引取速度を5〜15m/分、セット処理後の最終引き取り速度を25〜75m/分の条件で行うことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の工業織物は、上記弗素系樹脂モノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、特にフィルター用織物用途、製紙用具用織物用途、ベルト用織物用途などの工業織物用途に適用した場合には弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの効果を遺憾なく発揮する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる弗素系樹脂モノフィラメントは、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる弗素系樹脂モノフィラメントに比べて、収縮率と引張強度を飛躍的に改良されたものであることから、織物の収縮およびカール特性を向上させ得るばかりか、筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント(以下ETFEモノフィラメントと記す)は、その沸騰水収縮率が1%以下、180℃の乾熱収縮率が10%以下であり、かつJIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引張強度が1.5cN/dtex以上と、従来のETFEモノフィラメントに比較してきわめて低い収縮率で強度が高いことを特徴とするものである。
【0019】
ここで、本発明のETFEモノフィラメントの沸騰水収縮率は、1%以下、好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.6%以下、180℃の乾熱収縮率は10%以下、好ましくは9%以下、更に好ましくは8%以下、かつ引張強度は1.5cN/dtex以上、好ましくは1.8cN/dtex以上、更に好ましくは2.0cN/dtex以上である。
【0020】
上記のように低収縮率で引張強度がきわめて高い本発明のETFEモノフィラメントは、低収縮率と高強度の特性を均衡に有し、織物の収縮およびカール特性を向上さることから、筋、縞、段などの目ずれが問題とされる各種の工業織物用途に好ましく使用することができる。また、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質が要求されているフィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物として好ましく適用することができ、その場合には従来にない優れた効果を発現することができる。
【0021】
本発明のETFEモノフィラメントを形成するポリマーは、上記のようなモノフィラメントの特性を満足するエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0022】
なお、本発明で用いる上記エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂には、必要に応じて例えば顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤および可塑剤などの各種添加剤を、目的とする性能を阻害しない範囲で、その重合行程、重合後あるいは紡糸直前に添加することができる。
【0023】
上記の特性を有する本発明のETFEモノフィラメントは、以下に説明する方法により効率的に製造することができる。
【0024】
まず、上記ETFEモノフィラメントを溶融紡糸するに際しては、ETFE樹脂を先端に計量用ギヤポンプとスピンブロックを有するエクストルーダー型紡糸機に供給し、紡糸温度を285〜325℃で溶融混練した後、その溶融物を紡糸口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに冷却媒体浴に導いて冷却するに際し、5〜15m/分の速度で引き取って未延伸糸を得る。
【0025】
この未延伸糸を5〜15m/分の速度で引き取ることが重要であり、引取速度が5m/分より遅い場合は、未延伸糸が冷却媒体浴内で蛇行してしまうため、線径バラツキの原因となり、引張強度、収縮率にバラツキが生じる傾向となるため好ましくないばかりか、隣同士の未延伸糸条が融着してしまい、未延伸糸を得ることができなくなる。
【0026】
一方、未延伸糸の引取速度が15m/分より速い場合は、未延伸糸が冷却媒体浴内で引き延ばされてしまうことから真円性が損なわれ、本発明が目的とする高い引張強度を有するモノフィラメントが得られにくく、未延伸糸が途中で断糸する傾向となるため好ましくない。
【0027】
未延伸糸の引取速度は5〜15m/分、さらには8〜13m/分が好ましい。
【0028】
次に、得られた未延伸糸を、少なくとも1段以上の多段で延伸し、かつ熱セット処理を行う、その際の最終速度を25〜75m/分で行いETFEモノフィラメントを得る。
【0029】
所望の引張強度を得るために少なくとも1段以上の多段で延伸する。安定な延伸性を得るためには、一段目延伸温度を80〜200℃、二段目延伸温度を一段目延伸温度よりも高い温度に設定し、かつ総合延伸倍率が4.5〜5.5倍になるように延伸を行う。
【0030】
これは、延伸倍率が低すぎると延伸斑を生じて、得られるETFEモノフィラメントの引張強度が不均一となるばかりか、製織時の断糸などが発生しやすくなるからである。逆に、延伸温度が高すぎると低収縮率が得られないばかりか、糸切れの原因となりやすいためである。より良好な引張強度および低収縮率を得るためには、さらに4.8〜5.3倍であることが好ましい。
【0031】
また、延伸温度が低すぎると延伸時に高い張力が掛かり、糸切れの原因となりやすく、逆に高すぎるとETFE樹脂の融点に近くなり、延伸浴内で糸切れが発生しやすくなるため、延伸温度を80〜200℃とすることが必要であり、さらには90〜190℃とすることが好ましい。
【0032】
ここで、延伸工程で使用する熱媒体としては、ETFEモノフィラメントの表面から容易に除去することができ、かつETFEモノフィラメントに対して物理的、化学的な変化を本質的に与えることがない物質であれば如何なるものをも使用することができるが、本発明は比較的低い温度で一段目の延伸を行うことから、経済的には温水浴または加熱空気浴が好適である。また、二段目の延伸工程で使用する熱媒体としては、一般的に、高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などの加熱装置が好適である。
【0033】
少なくとも1段以上の多段で延伸されたETFEモノフィラメントは、延伸工程で得られた所望の引張強度を維持したまま熱収縮特性をさらに向上させ、かつそれを保持するために、引き続き熱セット処理に供されるが、このセット処理の温度は延伸温度より高い200〜240℃とすることが重要であり、さらには210〜230℃とすることが好ましい。
【0034】
また、セット倍率は0.85〜1.00倍で、所望の熱収縮特性を得るために必要な条件である。
【0035】
このセット倍率が極端に低すぎると、得られるETFEモノフィラメントの引張強度が低くなるため、工業織物の強力と耐久性不足等も発生しやすくなり、逆にセット倍率が高すぎると、低収縮率が得られないばかりか糸切れの原因となりやすいため、セット倍率は1.00倍以下にすることが重要であり、好ましくは0.88〜0.98倍であり、更に好ましくは0.90〜0.96倍である。
【0036】
ここで、セット処理工程で使用する加熱装置としては、上述した二段目の延伸と同様な高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などを挙げることができる。
【0037】
そして、セット処理されたETFEモノフィラメントは、その表面に必要に応じて油剤が付与され、その後巻具に巻き取られる。
【0038】
この場合の最終引き取り速度は25〜75m/分で行うことが好ましい。
【0039】
この最終引き取り速度は、未延伸糸引き取り速度に延伸倍率または延伸倍率/熱セット処理倍率を掛け合わせて求められるが、最終引き取り速度が25m/分より遅い場合は、延伸斑の原因となり、均一な線径を有するモノフィラメントが得られにくい傾向となるため好ましくないばかりか、所望の強伸度や熱収縮特性が不均一となりやすくなる。
【0040】
また、最終引き取り速度が75m/分より速い場合は、糸切れの原因を招き易くなり、より良好な均一な線径や所望の強伸度および熱収縮特性を得るには、最終引き取り速度が30〜60m/分であることが好ましい。
【0041】
こうして得られた本発明のETFEモノフィラメントは、従来のETFEモノフィラメントにはない低収縮率と高強度の特性を均衡に有するため、このETFEモノフィラメントを工業織物の少なくとも一部に使用することが可能となるのである。
【0042】
また、本発明のETFEモノフィラメントからなる工業織物は、フィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物に使用することもでき、得られたこれらの各種工業織物は、織物の収縮およびカール特性を向上させることが可能であり、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の持つ易成型性、耐薬品性、電気特性、高耐候性、難燃性、安全性、非粘着性、二次加工性などの優れる特性を遺憾なく発揮する。
【0043】
なお、本発明のETFEモノフィラメントは、一本の連続糸であるが、必要に応じて複数本合わせて撚糸・熱セットしたもの、および単糸を捻って熱セットしたものであってもよい。
【0044】
また、本発明のETFEモノフィラメントの断面形状については、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉,6葉,7葉,8葉などの多葉形状、正方形、長方形、菱形、繭型および馬蹄型などを挙げることができ、また、これらの形状を一部変更したものであってもよい。
【0045】
さらにまた、本発明のETFEモノフィラメントの直径についても、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、工業織物用途としては、直径0.05〜1.50mmのものが主に使用される。
【0046】
このように、本発明の製造方法によれば、従来のETFEモノフィラメントより低収縮率で高強度の弗素系樹脂モノフィラメントが得られ、このモノフィラメントはそれらの特性が要求される各種用途、とくに工業織物にきわめて有用である。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例におけるモノフィラメントの評価は以下の方法に準じて行った。
【0048】
[操業性]
連続押出し紡糸を行う際の状況を観察し、糸切れや原料の紡糸機への押し込み安定性から次の3段階で評価した。
○:全く問題なく、至って良好であった、
△:糸切れがややあったが操業可能であった、
×:糸切れや原料の押し込み不良が多発するため操業性が困難であった。
【0049】
[沸騰水収縮率および乾熱収縮率]
JIS L1013:1999−8.18に準じて測定した。
【0050】
[繊度]
JISL1013−1999の8.3に準じて測定した。
【0051】
[引張強度]
JISL1013−1999の8.5に準じて引張強さを測定し、繊度で割返した値を引張強度(単位:cN/dtex)とした。
【0052】
[目ずれ]
フィルターの目ずれ評価については、得られたフィルター1mを目視で外観(筋、縞、段)検査し、目ずれの程度を次の3段階で評価した。なお、○を外観品位が良好な水準とする。
○:筋、縞、段が判らない、
△:筋、縞、段が認められる、
×:筋、縞、段の発生が著しい。
【0053】
[実施例1]
弗素系樹脂としてETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径2.0mmの紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量12.2g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、11.8m/分で引き取って得た未延伸糸を1段目延伸温度90℃で延伸倍率を3.88倍、引き続き2段目延伸温度160℃で合計延伸倍率を5.00倍とし、引き続き処理温度が210℃、かつセット倍率が0.93倍のセット処理を行う、その際の最終速度を55m/分で行い、直径0.40mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0054】
[実施例2]
実施例1において、未延伸糸の引取速度を12.3m/分にして合計延伸倍率を4.80倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0055】
[実施例3]
実施例1において、未延伸糸の引取速度を11.2m/分にして合計延伸倍率を5.30倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0056】
[実施例4]
弗素系樹脂としてETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径0.8mmの紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量0.55g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、7.5m/分で引き取って得た未延伸糸を1段目延伸温度85℃で延伸倍率を3.88倍、引き続き2段目延伸温度140℃で合計延伸倍率を5.00倍とし、引き続き処理温度が180℃、かつセット倍率が0.93倍のセット処理を行う、その際の最終速度を35m/分で行い、直径0.10mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0057】
[実施例5]
弗素系樹脂としてETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径4.5mmの紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量27.1g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、8.6m/分で引き取って得た未延伸糸を1段目延伸温度90℃で延伸倍率を3.88倍、引き続き2段目延伸温度190℃で合計延伸倍率を5.00倍とし、引き続き処理温度が225℃、かつセット倍率が0.93倍のセット処理を行う、その際の最終速度を40m/分で行い、直径0.70mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0058】
[実施例6]
弗素系樹脂としてETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径8.0mmの紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量66.9g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、8.6m/分で引き取って得た未延伸糸を1段目延伸温度90℃で延伸倍率を3.88倍、引き続き2段目延伸温度190℃で合計延伸倍率を5.00倍とし、引き続き処理温度が225℃、かつセット倍率が0.93倍のセット処理を行う、その際の最終速度を40m/分で行い、直径1.10mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0059】
[比較例1]
実施例1において、1段目延伸温度を90℃から70℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0060】
[比較例2]
実施例1において、2段目延伸温度を160℃から220℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0061】
[比較例3]
実施例1において、合計延伸倍率を5.00倍から未延伸糸の引取速度を13.8m/分にして合計延伸倍率を4.30倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0062】
[比較例4]
実施例1において、合計延伸倍率を5.00倍から未延伸糸の引取速度を10.4m/分にして合計延伸倍率を5.70倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0063】
[比較例5]
実施例1において、熱セット温度を210℃から180℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0064】
[比較例6]
実施例1において、熱セット温度を210℃から250℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0065】
[比較例7]
実施例1において、熱セット倍率を0.93倍から0.80倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0066】
[比較例8]
実施例1において、熱セット倍率を0.93倍から1.05倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0067】
[比較例9]
実施例1において、未延伸糸の引取速度を11.8m/分から4.3m/分にモノフィラメントの最終速度を55.0m/分から20.0m/分に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0068】
[比較例10]
実施例1において、未延伸糸の引取速度を11.8m/分から17.2m/分にモノフィラメントの最終速度を55.0m/分から80.0m/分に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
以上、上記実施例1〜6および比較例1〜10で得られた各ETFEモノフィラメントの特性結果を表1に併せて示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1の結果から明らかなように、本発明のETFEモノフィラメント(実施例1〜6)は、いずれも沸騰水収縮率が1%以下、180℃の乾熱収縮率が10%以下であり、かつ引張強度が1.50cN/dtex以上で高強度を有したものである。
【0071】
一方、溶融紡糸・延伸するに際しての延伸温度、延伸倍率や熱セット処理温度、セット倍率、および未延伸糸の引取速度とセット処理後の最終速度が本発明の条件を満たさない製法により製造されたETFEモノフィラメント(比較例1〜10)は、いずれも沸騰水収縮率、180℃の乾熱収縮率、かつ引張強度の少なくともいずれかが劣り、操業性の悪いもの(比較例1〜3、8〜9)や、延伸切れ(比較例6〜7、10)して製糸できなく、本発明が目的とする効果を十分に満たすものではなかった。
【0072】
また、沸騰水収縮率、180℃の乾熱収縮率が低く、かつ引張強度が高かった実施例1および比較例1〜5、8〜9で得られた直径0.40mmのETFEモノフィラメントを、それぞれ経糸、緯糸に使用して平織物を製織し、さらにこの織物を190℃で熱セットして目付500g/mのフィルターを作製したところ、収縮率の低かった実施例1のETFEモノフィラメントをフィルター構成線材として使用したフィルターは、目ずれが発生しなかったのに対し、比較例1〜5、8〜9のETFEモノフィラメントは、筋、縞、段が認められるなどの目ずれが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明のETFEモノフィラメントは、収縮率と引張強度が従来のETFEモノフィラメントに比べて飛躍的に改良されたものであることから、例えばフィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物などの工業織物用としての使用が極めて有用である。
【0074】
また、本発明の製造方法によれば、低い収縮率と引張強度が高いETFEモノフィラメントを効率的に製造することができる。
【0075】
さらに、本発明のETFEモノフィラメントを用いた工業織物は、フィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物などに使用することもでき、得られたこれらの各種工業織物は、その織面の筋、縞、段などの目ずれが発生しにくく安定した織面を保持することが可能であり、さらに弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの効果を遺憾なく発揮することから、工業用織物として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントであって、JIS L1013:1999−8.18の規定に準じて測定した沸騰水収縮率が1%以下、180℃の乾熱収縮率が10%以下であり、かつJIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引張強度が1.5cN/dtex以上であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメント。
【請求項2】
直径が0.05〜1.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の弗素系樹脂モノフィラメント。
【請求項3】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を溶融紡糸・延伸するに際して、延伸温度を80〜200℃、かつ延伸倍率を4.5〜5.5倍で延伸し、引き続き処理温度が200〜240℃、かつセット倍率が0.85〜1.00倍のセット処理を行うと共に、その際の未延伸糸の引取速度を5〜15m/分、セット処理後の最終引き取り速度を25〜75m/分の条件で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の弗素系樹脂モノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の弗素系樹脂モノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業織物。
【請求項5】
フィルター用織物であることを特徴とする請求項4に記載の工業織物。
【請求項6】
製紙用具用織物であることを特徴とする請求項4に記載の工業織物。
【請求項7】
ベルト用織物であることを特徴とする請求項4に記載の工業織物。

【公開番号】特開2008−248406(P2008−248406A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87993(P2007−87993)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】