説明

弱酸性ブラックコーヒー飲料

【課題】 加熱殺菌時や加温状態における長時間保存に伴う酸味の増加を抑制した、弱酸性ブラックコーヒー飲料を提供する。
【解決手段】 コーヒー飲料に対して0.0001〜0.004重量%の濃度の塩化ナトリウムを添加して得られる、pHが4.6〜6.0の弱酸性ブラックコーヒー飲料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱酸性ブラックコーヒー飲料に関し、より詳細には加熱殺菌時や加温状態における長時間保存に伴う酸味の増加を抑制した、弱酸性ブラックコーヒー飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料は嗜好性が高く、広く世界中で愛飲されている。そして、工業的に生産された容器詰めコーヒー飲料もまた多数上市されており、広く愛飲されている。
【0003】
しかし、「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」と「飲用乳の表示に関する公正競争規約」により分類される、「コーヒー飲料」に関する殺菌条件は過酷であり、通常、120℃、20分程度の加熱殺菌が行われる。そのため、飲料内で加水分解を主とする化学変化を伴い、飲料が変質して味が変わってしまい、後味に収斂味や酸味を伴う雑味が増すという香味劣化の問題があった。
【0004】
特にブラックコーヒー飲料は、自動販売機の加温状態(55〜60℃)における長期間保存においてもpHの低下が引き起こされ、さらに、夏場や温暖地域などの特殊な温度条件下でも、流通過程や倉庫保管時などにおいて、飲料の温度上昇が起きることがあるため、pHの低下が心配される飲料である。
【0005】
そこで、重曹(炭酸水素ナトリウム)等のアルカリ炭酸塩やリン酸水素二ナトリウム等がpH調整やpH緩衝作用の付加増強の目的で用いられている(特許文献1)。
【0006】
また、コーヒー飲料のpHの低下に伴う品質劣化を抑制する方法として、グルコサミンのモノマー、オリゴマーもしくはポリマー、またはそれらの食用に供しうる塩の少なくとも1種を添加することによって香味劣化を抑制する方法が報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−74543号公報
【特許文献2】特開2001−158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ブラックコーヒー飲料は、弱酸性領域において香り立ちが良い。しかし、加熱殺菌して得られる容器詰めブラックコーヒー飲料を弱酸性領域で製造すると、長期保存(特に加温保存)におけるpHの低下が著しく、その結果、ブラックコーヒー飲料としては好ましくない酸味を呈し、香り立ちも阻害される。pH低下を防止するために、pH調整剤の添加量を単に増大すると、香り立ちが損なわれる他、pH調整剤に由来する塩味、ぬめり、キレ味の悪さを生じてしまうため、ブラックコーヒー飲料本来の香味を損なうという問題があった。
【0009】
本発明は、加熱殺菌時や加温状態における長時間保存に伴う酸味の増加が抑制され、優れた香り立ちを有する、弱酸性ブラックコーヒー飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ブラックコーヒー飲料にごく微量の塩化ナトリウムを添加して加熱殺菌して得られる容器詰ブラックコーヒー飲料が、加熱殺菌時や加温状態における長時間保存に伴う酸味が抑制され、優れた香り立ちを有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
[1] コーヒー飲料に対して0.0001〜0.004重量%の濃度の塩化ナトリウムを添加して得られる、pHが4.6〜6.0のブラックコーヒー飲料。
[2] コーヒー固形分が0.9〜1.8重量%である、[1]に記載のブラックコーヒー飲料。
[3] 添加する塩化ナトリウムとコーヒー固形分の重量比が0.00006〜0.004である、[1]または[2]に記載のブラックコーヒー飲料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ごく微量の塩化ナトリウムを原料として用いることによって、加熱殺菌時や加温状態における長時間保存に伴う酸味が抑制され、優れた香り立ちを有する低酸性ブラックコーヒー飲料を調製し、提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ブラックコーヒー飲料)
本明細書でいうコーヒー飲料とは、コーヒー分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造される飲料製品のことをいい、ブラックコーヒー飲料とは、実質的に乳分を含まないコーヒー飲料をいう。ここで、コーヒー分とは、コーヒー豆由来の成分を含有する溶液のことをいい、例えば、コーヒー抽出液、すなわち、焙煎、粉砕されたコーヒー豆を水や温水などを用いて抽出した溶液が挙げられる。また、コーヒー抽出液を濃縮したコーヒーエキス、コーヒー抽出液を乾燥したインスタントコーヒーなどを、水や温水などで適量に調整した溶液も、コーヒー分として挙げられる。また、乳分とは、コーヒー飲料にミルク風味やミルク感を付与するために添加する成分を指し、主に乳、牛乳及び乳製品のことをいう。例えば、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料などが挙げられ、乳製品としては、クリーム、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、調整粉乳、乳清ミネラルなどが挙げられる。
【0014】
本発明のブラックコーヒー飲料に用いるコーヒー豆の種類は、特に限定されない。栽培樹種としては、例えば、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種等が挙げられ、コーヒー品種としては、モカ、ブラジル、コロンビア、グアテマラ、ブルーマウンテン、コナ、マンデリン、キリマンジャロ等が挙げられる。コーヒー豆は1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。焙煎コーヒー豆の焙煎方法については特に制限はなく、焙煎温度、焙煎環境についても何ら制限はなく、通常の方法を採用できる。さらに、その焙煎コーヒー豆からの抽出方法についても何ら制限はなく、例えば焙煎コーヒー豆を粗挽き、中挽き、細挽き等に粉砕した粉砕物から水や温水(0〜100℃)を用いて10秒〜30分間抽出する方法が挙げられる。抽出方法は、ドリップ式、サイフォン式、ボイリング式、ジェット式、連続式などがある。
【0015】
本発明のブラックコーヒー飲料において、コーヒー分の含有量は、コーヒー固形分換算で0.9〜1.8重量%、好ましくは0.9〜1.6重量%、より好ましくは1.0〜1.5重量%である。ここで、コーヒー固形分とは、原料となるコーヒー抽出液(濃縮コーヒーエキスやインスタントコーヒーを溶解させた溶液を含む)の固形分を20℃における糖用屈折計示度(Brix)より求めた質量をいう。具体的には、原料となるコーヒー抽出液を、糖用屈折計示度(アタゴRX-5000等)を用いて測定した値に、使用したコーヒー抽出液量(g)を乗ずることによって、コーヒー固形分を算出することができる。0.9重量%以上というコーヒー固形分が比較的高いコーヒー飲料では、コーヒー本来の風味を楽しむことができる。このようなコーヒー固形分が多いコーヒー飲料を弱酸性領域で調製すると、特に加熱殺菌時や保存時における風味低下が著しいことが知られているが、本発明では、極微量の塩化ナトリウムを添加するという簡便な操作のみで、加熱等に伴う過度な酸味や異味が抑制され、弱酸性における香り立ちが良いコーヒー本来の風味を維持できる。
【0016】
上記のとおり、本発明のブラックコーヒー飲料では、極微量の塩化ナトリウムを添加することを特徴とする。使用する塩化ナトリウムは、塩化ナトリウムでありさえすればよく、その形状、存在形態を問わない。したがって、食塩をはじめとする高純度の塩化ナトリウムが有利に利用できることはもとより、必要に応じて、不都合が生じない限り、塩から味調味料及び苦汁、海水、岩塩なども塩化ナトリウムとして用いることができる。
【0017】
塩化ナトリウムは、純度100%としてコーヒー飲料中に0.0001〜0.004重量%、好ましくは0.0005〜0.004重量%の濃度でコーヒー分に添加する。コーヒー分にもNaイオンやClイオンが含まれるが、上記濃度の塩化ナトリウムをコーヒー分に添加することで、コーヒー分の有するコーヒー本来の香りや味などの風味を、長期保存しても維持できる。
【0018】
コーヒー固形分に占める添加する塩化ナトリウムの比率、すなわち塩化ナトリウム/コーヒー固形分の重量比は、0.00007以上であり、好ましくは0.00007〜0.004、より好ましくは0.0001〜0.001である。この比率内にあると、加熱殺菌処理による過度な酸味の発生や香り立ちの低下を効果的に抑制することができる。
【0019】
本発明のコーヒー飲料では、コーヒー本来の香り立ちを楽しむため、pHを弱酸性領域、すなわちpH4.6〜6.0、好ましくはpH4.8〜5.8、より好ましくはpH4.8〜5.6程度に調整する。コーヒー固形分が高く、かつ加熱殺菌されるコーヒー飲料では、通常、弱酸性領域のpHとなるが、所望する香味等を鑑みて、上記pHの範囲内でpH調整剤を添加してもよい。ここで、pH調整剤とは、水に溶解した時にアルカリ性を示す物質を指し、具体的には、重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。特に、本発明の塩化ナトリウムの効果を損なわないpH調整剤は、炭酸水素ナトリウムであり、これが好適に用いられる。
【0020】
(その他成分)
上記成分の他、本発明の効果を損なわない限りで、甘味料(ショ糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、キシロース、異性化乳糖、フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、パラチノース、マルチトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット、還元デンプン糖化物、ステビア、グリチルリチン、タウマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテーム、サッカリン、アセスルファムK、スクラロース、ズルチンなど)、酸化防止剤(エリソルビン酸ナトリウムなど)、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなど)、香料(コーヒーフレーバーなど)等を適宜配合することができる。
【0021】
(製造方法)
本発明のブラックコーヒー飲料は、原料として塩化ナトリウムを配合する以外は、通常のコーヒー飲料と同じようにして製造することができる。すなわち、コーヒー分と塩化ナトリウムとを混合して調合液を調製する工程(必要に応じてpHを調整する工程を含む)、調合液を容器に充填する工程、加熱殺菌する工程を含む工程により製造される。
【0022】
容器としては、PETボトル、缶(アルミニウム、スチール)、紙、レトルトパウチ、瓶(ガラス)等の容器を用いることができる。この場合、容器は50〜2500mLとすることができる。また、本発明の香り立ち高いコーヒー飲料の特性を活かす観点からは、酸素透過度の低い容器が好ましく、例えば、アルミニウムや、スチールなどの缶、ガラス製のビン等を用いるのが良い。缶やビンの場合、リキャップ可能な、リシール型のものも含まれる。ここで酸素透過度とは、容器・フィルム酸素透過率測定器で20℃、相対湿度50%の環境下で測定した酸素透過度(cc・mm/m2・day・atm)であり、酸素透過度が5以下、更に3以下、特に1以下であればより好ましい。
【0023】
加熱殺菌は、容器の材質や形状により、適宜選択すればよい。例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で行われる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ食品衛生法に定められた条件と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。
【実施例】
【0024】
実験例1
焙煎したコーヒー豆(タンザニア及びコロンビア産のブレンド豆)を中挽きに粉砕し、豆に対して約10倍量の熱湯でドリップ抽出し、コーヒー抽出液を得た。この抽出液を実験例1〜3に使用した。
【0025】
レトルト殺菌したブラックコーヒーに食塩(塩化ナトリウム純度:99.5%以上)添加により呈味に変化があるかを確認するため、表1に示す配合組成に従って飲料を調合した。比較例1に対し、実施例1〜4は食塩添加量が0.0001〜0.004%となるように調製した。また、コーヒー固形分を1.5倍に増やした飲料も調製した(食塩濃度0〜0.001%、比較例2及び実施例5、6)。各飲料を調合した後、190gを缶に充填し巻き締め、レトルトによる加熱殺菌を行い、室温まで冷却してブラック缶コーヒーを調製した。
【0026】
【表1】

【0027】
専門パネラーにより表1に示した飲料の官能検査を実施した。官能評価については5点満点の評価とし、比較例1を基準点の3点とし、これと比較して各項目の強さを評価した評価結果を表2に示す。
【0028】
表2に示すように、加熱殺菌ブラック缶コーヒーに食塩を加えることによって、濃度依存的に酸味、渋味及び苦味が抑えられる一方で、コーヒー感、後味のまろやかさ及びコク、甘味といったポジティブな要素(好ましい味わい)は増強されるという好結果が得られた。コーヒー固形分を増やした場合も同様の結果が得られた。
【0029】
また、0.001%の濃度までは食塩を添加しても食塩由来の塩味は感じられないという結果が得られたが、0.004%まで食塩を添加すると塩味が現れ始めたことから、上限値は0.004%であることが判明した。
【0030】
【表2】

【0031】
さらに、加温劣化により生じる酸味や渋味に対する食塩添加の効果を知るため、表1に示した比較例1、2、実施例1、3、5、6の缶コーヒーを55℃の恒温器内で2週間及び3週間放置して加温保存品を製造し、専門パネラーにより官能検査を実施した。評価は、酸味、渋味の強さを5点満点で評価した。比較例1の常温保管品(コントロール)を3点とし、点数をつけた。結果を表3に示す。
【0032】
表3に示すように、加温保管することによって酸味及び渋味は強まることが確認できた。比較例に比べ実施例の加温による酸味及び渋味の上昇が少ないことから、加熱殺菌ブラック缶コーヒーにおいて、食塩添加は加温保管による香味劣化防止に有効であるという結果を得ることが出来た。
【0033】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー飲料に対して0.0001〜0.004重量%の濃度の塩化ナトリウムを添加して得られる、pHが4.6〜6.0のブラックコーヒー飲料。
【請求項2】
コーヒー固形分が0.9〜1.8重量%である、請求項1に記載のブラックコーヒー飲料。
【請求項3】
添加する塩化ナトリウムとコーヒー固形分の重量比が0.00006〜0.004である、請求項1または2に記載のブラックコーヒー飲料。

【公開番号】特開2012−100619(P2012−100619A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253799(P2010−253799)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】