説明

弱酸性域での易解離性を向上したプロテインA変異型タンパク質及び抗体捕捉剤

【課題】中性域での高い抗体結合活性を損なうことなしに、野生型のプロテインAの細胞膜外ドメインに比べて、弱酸性域における免疫グロブリンのFc領域との結合性が低下した、プロテインAの細胞膜外ドメインの改良型タンパク質を提供する。
【解決手段】プロテインA細胞膜外ドメインと免疫グロブリンGのFc領域が結合した複合体の立体構造座標データにおいて、Fc領域から6.5Aの距離内にあって、露出表面積比35%以上であるアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換して上記改良型タンパク質とする。これらの置換は組み合わされていても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体結合性タンパク質であるプロテインAの細胞膜外ドメインの新規改良型タンパク質、該タンパク質をコードする核酸、及び該タンパク質の抗体結合性を利用した抗体の捕捉剤に関する。
【背景技術】
【0002】
黄色ブドウ球菌由来のタンパク質であるプロテインAは、抗体の一種である免疫グロブリンGのFc領域に対する特異的結合活性を有することが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。プロテインAは、複数のドメインからなるマルチドメイン型膜タンパク質で、免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質に対する結合活性(以下抗体結合活性と呼ぶ)を示すのは、このうちの一部の細胞膜外ドメインである(非特許文献2)。たとえば、図1および図3に示すNCTC8325株由来のプロテインAの場合、抗体結合活性を示すのは、E、D、A、B、Cの5つのドメインである。これらは、60アミノ酸弱の小型タンパク質で、そのアミノ酸配列の間には高い相同性が見られる(図2)。また、プロテインAを切断して各々のドメイン単独を単離しても、抗体結合活性は保たれることが知られている(非特許文献3)。一方、Zドメインは、Bドメインの配列をもとに合成された人工タンパク質で(非特許文献3)、Bドメインとは、アミノ酸残基が2箇所異なる(図2)。このAla1ValとGly29Alaの2置換により、抗体結合性が失われことはないが構造が安定化することが知られており、その熱変性温度は90℃以上になる(非特許文献3)。
【0003】
プロテインAの細胞膜外ドメイン(E、D、A、B、C)およびZドメインは、現在、その選択的な抗体結合活性を利用した多くの製品が上市されている(例えば、抗体精製のためのアフィニティークロマトグラフィー用担体(特許文献1、2)や抗体を検出するための検査試薬、研究試薬など)。プロテインAの細胞膜外ドメインと抗体の結合力は、中性域で高く、強酸性域で低いことが知られている(非特許文献4)。ゆえに、抗体の単離、回収、精製を目的とした場合、まず、血清等の抗体を含む試料溶液を中性状態にして、プロテインAの細胞膜外ドメインを固定化したビーズ等の水不溶性の固相支持体に接触させ、抗体を選択的に吸着させる。この後、pH7の中性溶液で洗浄し抗体以外の成分を除去する。最後にpH3.0の強酸性溶液を加え抗体を固定化したプロテインAから脱着させ、強酸性溶液と共に溶出させることが一般的である(特許文献1、2)。これにより、高い純度で抗体を単離、回収、精製することができる。
【0004】
しかし、抗体はpH3.0程度の強酸性溶液におくと変性凝集等で劣化することがあり、抗体の種類によっては、本来の機能を失う場合もある(非特許文献4)。これを防ぐために、pH3.0より高いpHの弱酸性域で溶出処理することが試みられるが、プロテインAの細胞膜外ドメインと抗体の結合力は強いので、弱酸性域では抗体はプロテインAから溶出せず、十分な回収量が得られない。
【0005】
【特許文献1】米国特許第3995018号明細書
【特許文献2】特開昭63-258500
【非特許文献1】Forsgren A and Sjoquist J (1966) "Protein A" from S. Aureus. J Immunol. 97, 822-827.
【非特許文献2】Boyle M. D.P., Ed. (1990) Bacterial Immunoglobulin Binding Proteins. Academic Press, Inc., San Diego, CA, USA.
【非特許文献3】Tashiro M, Montelione GT. (1995) Structures of bacterial immunoglobulin-bindingdomains and their complexes with immunoglobulins. Curr Opin Struct Biol. 5, 471-481.
【非特許文献4】Gagnon P. (1996) Purification Tools for Monoclonal Antibodies, Validated Biosystems Inc., Tucson, AZ, USA.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における問題点を解消することにあり、より具体的には、中性域での高い抗体結合活性を損なうことなしに、野生型のプロテインAの細胞膜外ドメインに比べて、弱酸性域における免疫グロブリンのFc領域との結合性が低下した改良型タンパク質を提供するとともに、この改良型タンパク質を用いて、抗体を変性させることなく容易に捕捉、回収可能にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、プロテインAの細胞膜外ドメインを固定化した固相支持体から抗体を酸溶出する際に、抗体が強酸によって劣化するのを防ぐには、弱酸性溶液で固相支持体から溶出できるようにプロテインAの細胞膜外ドメインのアミノ酸配列を改変すれば良いと考え、鋭意研究の結果、プロテインAの細胞膜外ドメインと抗体の立体構造座標データを用いて、中性域における改変タンパク質の免疫グロブリンFc領域との結合性が、野生型プロテインAと同等以上であり、かつ弱酸性域における改変タンパク質の抗体結合性は、野生型プロテインAに比べて大きく低下する新規なプロテインA変異体の配列を設計した。そして、これら設計に基づき合成された変異型タンパク質が、意図どおりの物性を有することを確認し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
1)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのEドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Eドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、Asp6、Gln10、Asn11、Tyr14、Gln15、Leu17、Asn18、Ala24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【0009】
2)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのDドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Dドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Ser11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【0010】
3)配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのAドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Aドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質。
(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【0011】
4)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのBドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Bドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質
(a)配列番号4で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【0012】
5)配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのCドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Cドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質
(a)配列番号5で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【0013】
6)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのZドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Zドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質。
(a)配列番号6で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【0014】
7)以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、上記1)に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号7〜9のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【0015】
8)以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、上記2)に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号10〜12のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【0016】
9)以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、上記3)に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号13〜15のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【0017】
10)以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、上記4)に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号16〜18のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【0018】
11)以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、上記5)に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号19〜21のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【0019】
12)以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、上記6)に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号22〜24のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【0020】
13)上記1)〜12)いずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列とリンカーペプチドあるいはリンカータンパク質のアミノ酸配列が交互に並んだアミノ酸配列からなるタンパク質。

14)上記1)〜13)のいずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列からなる融合タンパク質。

15)上記1)〜14)のいずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列と該タンパク質を水不溶性の固相支持体に固定化するためのスペーサーのアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列からなるスペーサー付タンパク質。

16)上記1)〜15)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸。

17)配列番号26〜28のいずれかで示される塩基配列からなる核酸。

18)上記16)又は17)に記載の核酸の塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、免疫グロブリンGのFc領域に対する結合活性を有し、かつ野生型プロテインAの抗体結合ドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した変異型タンパク質をコードする核酸。

19)上記16)〜18)のいずれかに記載の核酸を含有する組換えベクター。

20)上記19)に記載の組換えベクターが導入された形質転換体。

21)上記1)〜15)のいずれかに記載のタンパク質が、水不溶性の固相支持体に固定化されていることを特徴とする、固定化タンパク質。

22)上記1)〜15)のいずれかに記載のタンパク質からなることを特徴とする、抗体、免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質の捕捉剤。

23)上記21)に記載の固定化タンパク質からなることを特徴とする、抗体、免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質の捕捉剤。

【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、中性域において本来の抗体結合活性を維持しつつ、配列番号1〜6で表されるアミノ酸配列からなるプロテインAの各野生型ドメイン(E、D、A、B、またはC)、あるいはオリジナルのZドメインに比べて、弱酸性域における免疫グロブリンGのFc領域との結合性が大きく低下させる変異型タンパク質が提供可能となる。さらにこれら変異型タンパク質からなる抗体補足剤を使用して捕捉した抗体を、弱酸性領域において変性のない状態でより容易に溶出することが可能となる。
一方、現在、野生型のプロテインA細胞膜外ドメインは、抗体の精製用のアフィニティークロマトグラフィー担体や抗体検出のための検査試薬として市販され、ライフサイエンスの各分野で広範に利用されている。また、近年の抗体医薬をはじめとする抗体関連産業の発展をうけて、これらの製品の需要が飛躍的に拡大している。したがって、多くのプロテインA細胞膜外ドメイン含有製品において、本発明のような改良型タンパク質を野生型と代替することにより、酸溶出に伴う抗体の劣化を低減することを可能にし、抗体を扱う広範な技術分野において、その技術発展に大いに資するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
黄色ブドウ球菌由来のタンパク質であるプロテインAは、抗体の一種である免疫グロブリンGのFc領域に対する特異的結合活性を有することが知られており(参照文献1、参照文献2)、この抗体結合性を利用した抗体の精製や除去、および抗体を利用した診断、治療、検査等に有用なタンパク質である。プロテインAは、複数のドメインからなるマルチドメイン型膜タンパク質で、免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質に対する結合活性(以下抗体結合活性と呼ぶ)を示すのは、このうちの一部の細胞膜外ドメインである(参照文献2)。たとえば、図1、図3、および[配列番号29]に示すStaphlococcus aureus subsp. Aureus NCTC8325株由来のプロテインAの場合、抗体結合活性を示すのは、E、D、A、B、Cの5つのドメインである。これらは、いずれも60アミノ酸弱の小型タンパク質で、そのアミノ酸配列の間には高い相同性が見られる(図2)。また、プロテインAを切断して各々のドメイン単独を単離しても、抗体結合活性は保たれることが知られている(参照文献3)。一方、Zドメインは、Bドメインの配列をもとに合成された人工タンパク質で(非特許文献3)、Bドメインとは、アミノ酸残基が2箇所異なる(図2)。このAla1ValとGly29Alaの2置換により、抗体結合性が失われことはないが構造が安定化することが知られており、その熱変性温度は90℃以上になる(非特許文献3)。
【0023】
本発明の改良型タンパク質は、上記プロテインAのアミノ酸配列をもとに人為的に設計したアミノ酸配列からなるものであって、中性域での高い抗体結合活性を損なうことなしに、野生型のプロテインAの細胞膜外ドメインに比べて、弱酸性域での抗体結合活性が弱く、弱酸性溶液での抗体の溶出を可能にする。
【0024】
本発明の改良型タンパク質の態様は以下の(ア)〜(カ)で示される。
(ア)プロテインAのEドメイン変異型タンパク質。
本発明におけるプロテインAのEドメイン変異型タンパク質は、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Eドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質であって、
a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、Asp6、Gln10、Asn11、Tyr14、Gln15、Leu17、Asn18、Ala24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列からなるか、あるいは、b)上記a)の変異導入アミノ酸配列において、さらに1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるか、あるいは、c)これらa)又はb)の変異導入アミノ酸配列において、ヒスチジン置換部位以外の1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる。

(イ)プロテインAのDドメイン変異型タンパク質
本発明におけるプロテインAのDドメイン変異型タンパク質は、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Dドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質であって、
a)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Ser11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列からなるか、あるいは、b)上記a)の変異導入アミノ酸配列において、さらに1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列であるか、あるいは、c)これらa)又はb)の変異導入アミノ酸配列において、ヒスチジン置換部位以外の1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる。

(ウ)プロテインAのAドメイン変異型タンパク質
本発明のプロテインAのAドメイン変異型タンパク質は、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Aドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質であって、
a)配列番号3で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列からなるか、あるいはb)上記a)の変異導入アミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるか、あるいはc)上記a)又はb)の変異導入アミノ酸配列において、上記置換したヒスチジン残基以外の1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる。

(エ)プロテインAのBドメイン変異型タンパク質
本発明のプロテインBのBドメイン変異型タンパク質は、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Bドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質であって、
a)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのBドメインタンパク質における、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列からなるか、あるいはb)上記a)の変異導入アミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるか、あるいはc)上記a)又はb)のアミノ酸配列において、上記置換したヒスチジン残基以外の1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる。

(オ)プロテインAのCドメイン変異型タンパク質
本発明のプロテインBのCドメイン変異型タンパク質は、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Cドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質であって、
a)配列番号5で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列からなるか、あるいはb)上記a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるか、あるいはc)上記a)又はb)のアミノ酸配列において、上記置換したヒスチジン残基以外の1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる。

(カ)プロテインAのZドメイン変異型タンパク質
本発明のプロテインBのCドメイン変異型タンパク質は、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Zドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質であって、
a)配列番号6で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列からなるか、あるいはb)上記a)の変異導入あ該ミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるか、あるいはc)上記a)又はb)該アミノ酸配列において、上記置換したヒスチジン残基以外の1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる。
【0025】
1.改良型タンパク質のアミノ酸配列の設計
上記(ア)〜(カ)の変異型タンパク質は、以下のように選定された変異対象部位及び該部位を置換するアミノ酸残基に基づき設計され、遺伝子工学的手法等により得られる。
本発明の改良型タンパク質のアミノ酸配列を設計するための変異を導入する部位は、プロテインA・Bドメインと免疫グログリンGのFc領域が結合した複合体の立体構造原子座標データ(参照文献4)を用いて選定したものである。
弱酸性域におけるプロテインAの細胞膜外ドメインの抗体結合性を低下させるには、Fc領域との結合に直接関与しているプロテインAの細胞膜外ドメインの結合表面のアミノ酸残基およびその周辺のアミノ酸残基を野生型から非野生型に置換すればよい。したがって、まず、プロテインA・Bドメインと免疫グログリンGのFc領域が結合した複合体において、Fc領域から一定の距離の範囲内に存在するプロテインA・Bドメインのアミノ酸残基を特定し、これを変異対象部位の候補とする。ついで、アミノ酸置換に伴うプロテインAの細胞膜外ドメインの構造不安定化を最小限にするために、上記の候補のうち、プロテインA・Bドメインの分子表面に露出しているアミノ酸残基のみを変異対象部位と決定した。
【0026】
したがって、具体的には、後記実施例に示されるように、上記の距離範囲を6.5オングストローム以内と設定し、かつ露出表面積比を35%以上することで、プロテインA・Bドメインの野生型アミノ酸配列(配列番号4)のうちの、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、His18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個が変異対象部位として選定された。
ところで、上記したように、プロテインAの各細胞膜外ドメインは配列相同性が高く(図2)、加えて、立体構造が実験的に明らかにされているD、E、およびZドメインは、Bドメイン単独の構造とほとんど差異がないことから(参照文献5〜8)、Bドメイン−Fc複合体の立体構造についての知見は、E、D、A、C、及びZドメイン−Fc複合体にも適用できる。即ち、Eドメイン−Fc複合体、Dドメイン−Fc複合体、Aドメイン−Fc複合体、Cドメイン−Fc複合体、及びZドメイン−Fc複合体の立体構造は未だ明らかにされていないが、上記、各細胞膜外ドメインの配列相同性とB、D、E、およびZドメイン単独の立体構造の類似性を基に判断すれば、E、D、A、C、及びZドメイン−Fc複合体が、Bドメイン−Fc複合体と相同の構造を形成することは、当然に類推することができる。したがって、上記選択した12個の変異対象部位が、E、D、A、C、及びZドメイン−Fc複合体においても、Bドメイン−Fc複合体と同等の空間的配置に位置することが強く期待され、Bドメイン−Fc複合体の立体構造から導いた6位、10位、11位、14位、15位、17位、18位、24位、27位、28位、32位、および35位の12個の変異対象部位は、Bドメインのみならず、D、A、C、及びZドメインにおいても変異対象部位として選定することができる。即ち、プロテインA・Eドメインの野生型アミノ酸配列(配列番号1)のうちのAsp6、Gln10、Asn11、Tyr14、Gln15、Leu17、Asn18、Ala24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個が、プロテインA・Dドメインの野生型アミノ酸配列(配列番号2)のうちのAsn6、Gln10、Ser11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個が、プロテインA・Aドメインの野生型アミノ酸配列(配列番号3)のうちのAsn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個が、プロテインA・Cドメインの野生型アミノ酸配列(配列番号5)のうちのAsn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、His18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個が、および、プロテインA・Zドメインのアミノ酸配列(配列番号6)のうちのAsn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、His18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個が、変異対象部位として選定された。
【0027】
一方、該変異対象部位の元のアミノ酸残基を置換するアミノ酸残基は、ヒスチジンが最良である。これは、ヒスチジンが、中性域と弱酸性域の間で側鎖のプロトンの解離により化学的状態が大きく変化するので、プロテインAの各ドメインの抗体結合性を中性域と弱酸性域で大きく変化させることができるからである。したがって、後記実施例に示されるように、本発明の改良型タンパク質は以下を包含する。すなわち、上記(ア)の態様に対応する、Asp6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Gln15His、Leu17His、Asn18His、Ala24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上を含むプロテインA・Eドメイン変異体、および上記(イ)の態様に対応する、Asn6His、Gln10His、Ser11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Asn18His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上を含むプロテインA・Dドメイン変異体、および上記(ウ)の態様に対応する、Asn6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Asn18His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上を含むプロテインA・Aドメイン変異体、および上記(エ)の態様に対応する、Asn6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上を含むプロテインA・Bドメイン変異体、および上記(オ)の態様に対応する、Asn6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上を含むプロテインA・Cドメイン変異体、および上記(カ)の態様に対応する、Asn6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上を含むプロテインA・Zドメイン変異体。なお、ここで、B、C、及びZドメインの18位の野生型のアミノ酸残基はヒスチジンであるので、これをヒスチジンに置換しても、置換の前後で変化しないことから、B、C、及びZドメインにおいてHis18Hisは除外してある。
【0028】
上記から明らかなように、本発明の改良型タンパク質の設計において、選定される変異対象部位は一つに限られるものではない。複数の変異対象部位の中から適宜選択して、それらを組み合わせた点変異体あるいは多重変異体を改良型タンパク質とすることができる。具体例を挙げれば、変異対象部位として、10位と11位を選択したGln10His/Asn11HisプロテインA・Eドメインの二重変異体(配列番号7)、11位と17位を選択したAsn11His/Leu17HisプロテインA・Eドメインの二重変異体(配列番号8)、15位と17位を選択したGln15His/Leu17HisプロテインA・Eドメインの二重変異体(配列番号9)は、上記(ア)の態様に含まれる本発明の改良型タンパク質の一例である。変異対象部位として、10位と11位を選択したGln10His/Ser11HisプロテインA・Dドメインの二重変異体(配列番号10)、11位と17位を選択したSer11His/Leu17HisプロテインA・Dドメインの二重変異体(配列番号11)、15位と17位を選択したGlu15His/Leu17HisプロテインA・Dドメインの二重変異体(配列番号12)は、上記(イ)の態様に含まれる本発明の改良型タンパク質の一例である。変異対象部位として、10位と11位を選択したGln10His/Asn11HisプロテインA・Aドメインの二重変異体(配列番号13)、11位と17位を選択したAsn11His/Leu17HisプロテインA・Aドメインの二重変異体(配列番号14)、15位と17位を選択したGlu15His/Leu17HisプロテインA・Aドメインの二重変異体(配列番号15)は、上記(ウ)の態様に含まれる本発明の改良型タンパク質の一例である。変異対象部位として、10位と11位を選択したGln10His/Asn11HisプロテインA・Bドメインの二重変異体(配列番号16)、11位と17位を選択したAsn11His/Leu17HisプロテインA・Bドメインの二重変異体(配列番号17)、15位と17位を選択したGlu15His/Leu17HisプロテインA・Bドメインの二重変異体(配列番号18)は、上記(エ)の態様に含まれる本発明の改良型タンパク質の一例である。変異対象部位として、10位と11位を選択したGln10His/Asn11HisプロテインA・Cドメインの二重変異体(配列番号19)、11位と17位を選択したAsn11His/Leu17HisプロテインA・Cドメインの二重変異体(配列番号20)、15位と17位を選択したGlu15His/Leu17HisプロテインA・Cドメインの二重変異体(配列番号21)は、上記(オ)の態様に含まれる本発明の改良型タンパク質の一例である。変異対象部位として、10位と11位を選択したGln10His/Asn11HisプロテインA・Zドメインの二重変異体(配列番号22)、11位と17位を選択したAsn11His/Leu17HisプロテインA・Zドメインの二重変異体(配列番号23)、15位と17位を選択したGlu15His/Leu17HisプロテインA・Zドメインの二重変異体(配列番号24)は、上記(カ)の態様に含まれる本発明の改良型タンパク質の一例である。以上のように、後記実施例で示されるように、本発明の改良型タンパク質では、複数の種類のアミノ酸配列を設計することができる。
【0029】
上記、配列番号7〜24に示した二重変異体を含む改良型タンパク質は、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質に結合活性を有し、かつ野生型のプロテインAの各細胞膜外ドメインタンパク質に比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対し弱酸性領域での結合活性が低下する限り、一個もしくは数個のアミノ酸残基に挿入や付加の変異が、または、置換したヒスチジン残基を除く一個もしくは数個のアミノ酸残基に欠失や置換の変異がさらに生じても良い。
例えば、本発明の改良型タンパク質をHisタグなどのタグ付きタンパク質、あるいは他のタンパク質との融合タンパク質の形態で合成する場合、合成した後にタグと改良型タンパク質の間を、あるいは他のタンパク質と改良型タンパク質の間を配列特異的タンパク分解酵素で分解しても、上記改良型タンパク質のN末端側もしくはC末端側に1乃至数個のアミノ酸残基が残る場合もあり、また、大腸菌等を用いて本発明の改良型タンパク質を生産する際には、N末端側に開始コドン由来のメチオニン等が付加されることがあるが、後記実施例で示されるように、これらのアミノ酸残基の付加により、抗体結合性が大きく変化することはない。また、後記実施例で示されるように、これらのアミノ酸残基の付加により、設計された変異が及ぼす効果を失うこともない。したがって、本発明の改良型タンパク質は当然これらの変異も含む。なお、このようなアミノ酸残基の付加のない改良型タンパク質を作成するためには、たとえば、大腸菌等を用いて生産した改良型タンパク質を、さらにメチオニルアミノペプチダーゼ等の酵素を用いて、N末のアミノ酸残基を選択的に切断し(参照文献9)、反応混合物よりクロマトグラフィー等で分離精製することで、得ることができる。
【0030】
また、本発明の改良型タンパク質のアミノ酸配列は、該アミノ酸配列と任意のリンカー配列とを交互に複数回繰り返したタンデム型アミノ酸配列としても良い。たとえば、[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列A−[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列B−[アミノ酸配列(a)]としても良く、あるいは、[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列C−[アミノ酸配列(b)]−リンカー配列D−[アミノ酸配列(c)]としても良い。このタンデム型アミノ酸配列の設定は、野生型のプロテインAがリンカー配列を介した複数の抗体結合ドメインの繰り返し構造となっていること(図1および図3)、野生型のプロテインAを切断して各々のドメイン単独を単離しても抗体結合活性は保たれること(参照文献3)から明らかなように、単独でも機能する抗体結合ドメインを野生型のプロテインAは複数繰り返し、局所的な濃度を上げることで抗体結合性の効果を高めている点からみて、その設定は有効である。
【0031】
また、本発明の改良型タンパク質は、任意の他のタンパク質のアミノ酸配列を連結した融合型アミノ酸配列からなる融合タンパク質としても良い。たとえば、[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列E−タンパク質A、あるいは、タンパク質B−リンカー配列F−[アミノ酸配列(a)] −リンカー配列G−タンパク質C−リンカー配列H−[アミノ酸配列(c)]としても良い。この融合型アミノ酸配列の設定は、野生型のプロテインAが抗体結合ドメインと他のドメインが連結したマルチドメイン構造となっていること(図1および図3)、野生型のプロテインAを切断して各々のドメイン単独を単離しても抗体結合活性は保たれること(参照文献3)、即ち、抗体結合ドメインと他の機能を担うタンパク質を連結することで抗体結合活性を含む複数の機能を担うことを可能にしているとから、その設定は有効である。
このような融合タンパク質に使用する他のアミノ酸配列としては、例えば、[配列番号30]および図4で示すoxaloacetate decarboxylase alpha-subunit c-terminal domain(OXADαc)のアミノ酸配列が挙げられる。この場合のOXADαc−プロテインA変異体融合タンパク質は、OXADαc 領域に由来するアビジン結合活性とプロテインA変異体領域に由来する抗体結合活性の複数の機能を単一分子で担うことが、後記実施例で示すように可能である。
また、本発明の改良型タンパク質は、固定化反応ためのスペーサーのアミノ酸配列をC末端やN末端、あるいは中央部に付加してもよい。たとえば、[アミノ酸配列(a)]−スペーサー配列A、あるいは、スペーサー配列B−[アミノ酸配列(b)]、あるいは、[アミノ酸配列(c)]−スペーサー配列C−[アミノ酸配列(d)]としても良い。スペーサーは、固定化反応の効率化や促進、固定化担体との立体障害の軽減などの目的で使用される。スペーサーのアミノ酸配列や鎖長は、用いる固定化反応の種類等に応じて適切な選択をすればよく、たとえば、GlyArgAlaCysGly(参照文献10)やGlyGlyGlyGlyCysAlaAspAspAspAspAspAsp(参照文献11)などを利用することができる。ただし、本発明の改良型タンパク質において、用いるスペーサーのアミノ酸配列や鎖長は、特に限定されるものではない。
【0032】
2.改良型タンパク質の製造
(1)遺伝子工学的手法による改良型タンパク質の製造
a.改良型タンパク質をコードする遺伝子
本発明においては、上記設計された改良型タンパク質を製造するため、遺伝子工学的方法を使用することできる。
このような方法に使用する遺伝子は、上記(ア)〜(カ)に示されるタンパク質のアミノ酸配列をコードするか、より具体的には、a)上記配列番号7〜24のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいはb)配列番号7〜24のいずれかで示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基が挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、かつ抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質に結合活性を有し、かつ中性域に比べて弱酸性域での結合活性が低下するタンパク質をコードするか、あるいはc)配列番号7〜24のいずれかで示されるアミノ酸配列においてヒスチジン残基以外の1又は数個のアミノ酸残基が欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、かつ抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質に結合活性を有し、かつ中性域に比べて弱酸性域での結合活性が低下するタンパク質をコードする核酸からなるものであって、たとえば、より具体的には、[配列番号26]〜[配列番号28]で示されるいずれかの塩基配列からなる核酸である。
【0033】
また、本発明において使用する遺伝子としては、以上の核酸の塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、かつ抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質に結合活性を有し、かつ対応する各野生型プロテインA・細胞膜外ドメインタンパク質に比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対し弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質するタンパク質をコードする核酸もあげられる。ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。たとえば、高い相同性(相同性が60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましく90%以上、もっとも好ましくは95%以上)を有する核酸がハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。例えばハイブリダイゼーション条件が65℃であり、洗浄の条件が0.1%SDSを含む0.1×SSC中で65℃、10分の場合に、慣例的な手法、例えばサザンブロット、ドットブロットハイブリダイゼーションなどによってハイブリダイズすることが確認された場合には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするといえる。
さらに、本発明において使用する遺伝子としては、以上の核酸と上記任意のリンカー配列をコードする核酸をそれぞれ交互に複数連結したものでもよく、または該核酸と任意のタンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸とを連結し、融合型アミノ酸配列をコードするように設計してもよい。
【0034】
b.遺伝子、組み替えベクターおよび形質転換体
前記した本発明の遺伝子は、化学合成、PCR、カセット変異法、部位特異的変異導入法などにより合成することができる。たとえば、末端に20塩基対程度の相補領域を有する100塩基程度までのオリゴヌクレオチドを複数化学合成し、これらを組み合わせてオーバーラップ伸長法(参照文献12)を行うことにより目的の遺伝子を全合成することができる。
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに上記の塩基配列を含む遺伝子を連結(挿入)することにより得ることができる。本発明で使用するベクターとしては、宿主中で複製可能なもの又は目的の遺伝子を宿主ゲノムに組み込み可能なものであれば特に限定されない。例えば、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどが挙げられる。
【0035】
プラスミドDNAとしては、放線菌由来のプラスミド(例えばpK4,pRK401,pRF31等)、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322,pBR325,pUC118,pUC119,pUC18等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110,pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13,YEp24,YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
ベクターに遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。遺伝子は、本発明の改良型タンパク質が発現されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、遺伝子の塩基配列のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)、開始コドン、終止コドンなどを連結することができる。また、製造するタンパク質の精製を容易にするためのタグ配列を連結することもできる。タグ配列としては、Hisタグ、GSTタグ、MBPタグ、BioEaseタグなどの公知のタグをコードする塩基配列を利用することができる。
遺伝子がベクターに挿入されたか否かの確認は、公知の遺伝子工学技術を利用して行うことができる。たとえば、プラスミドベクターなどの場合、コンピテントセルを用いてベクターをサブクローニングし、DNAを抽出後、DNAシーケンサーを用いてその塩基配列を特定することで確認できる。他のベクターについても細菌あるいは他の宿主を用いてサブクローニング可能なものは、同様の手法が利用できる。また、薬剤耐性遺伝子などの選択マーカーを利用したベクター選別も有効である。
【0036】
形質転換体は、本発明の組換えベクターを、本発明の改良型タンパク質が発現し得るように宿主細胞に導入することにより得ることができる。形質転換に使用する宿主としては、タンパク質又はポリペプチドを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、植物細胞、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
細菌を宿主とする場合は、組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、開始コドン、本発明の改良型タンパク質をコードする核酸、転写終結配列により構成されていることが好ましい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)BL21などが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばヒートショック法、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などが用いられる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
【0037】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられる。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
遺伝子が宿主に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。ついで、PCRの増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SyberGreen液等により染色し、増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。
【0038】
c.形質転換体培養による改良型タンパク質の取得
組替えタンパク質として製造する場合、本発明の改良型タンパク質は、上述の形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。培養物とは、培養上清、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地は、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、20〜37℃で12時間〜3日間行う。
培養後、本発明の改良型タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、超音波処理、凍結融解の繰り返し、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することにより該タンパク質を採取する。また、該タンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明の改良型タンパク質を単離精製することができる。
【0039】
また、タンパク質の生合成反応にかかわる因子(酵素、核酸、ATP、アミノ酸など)のみを混合させた、いわゆる無細胞合成系を利用すると、生細胞を用いることなく、ベクターから本発明の改良型タンパク質を試験管内で合成することができる(参照文献13)。その後、前記と同様の精製法を用いて、反応後の混合溶液から本発明の改良型タンパク質を単離精製することができる。
単離精製した本発明の改良型タンパク質が、目的通りのアミノ酸配列からなるタンパク質であるかを確認するため、該タンパク質を含む試料を分析する。分析方法としては、SDS-PAGE、ウエスタンブロッティング、質量分析、アミノ酸分析、アミノ酸シーケンサーなどを利用することができる(参照文献14)。
【0040】
(2)他の手法による改良型タンパク質の製造
本発明の改良型タンパク質は、有機化学的手法、例えば固相ペプチド合成法などによっても製造することができる。このような手法を利用したタンパク質の生産方法は当技術分野で周知であり、以下に簡潔に説明する。
固相ペプチド合成法により化学的にタンパク質を製造する場合、好ましくは自動合成機を利用して、活性化されたアミノ酸誘導体の重縮合反応を繰り返すことにより、本発明の改良型タンパク質のアミノ酸配列を有する保護ポリペプチドを樹脂上で合成する。ついで、この保護ポリペプチドを樹脂上から切断すると共に側鎖の保護基も同時に切断する。この切断反応には、樹脂や保護基の種類、アミノ酸の組成に応じて適切なカクテルがあることが知られている(参照文献15)。この後、有機溶媒層から粗精製タンパク質を水層に移し、目的の変異型タンパク質を精製する。精製法としては、逆相クロマトグラフィーなどを利用することができる(参照文献16)。
【0041】
3.改良型タンパク質の固定化
本発明の改良型タンパク質は、その抗体結合性を利用して、抗体捕捉剤として利用することができる。該抗体捕捉剤は、抗体の精製や除去、抗体を利用した研究、診断、治療、検査等に用いることができる。
本発明の抗体捕捉剤は、本発明の改良型タンパク質を含む限りにおいて、どのような形態であってもよいが、好ましくは、本発明の改良型タンパク質を水不溶性の固相支持体に固定化した形態が適切である。用いる水不溶性担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機-有機、有機-無機などの複合担体などが挙げられるが、中でも親水性担体は非特異吸着が比較的少なく、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質の選択性が良好であるため好ましい。ここでいう親水性担体とは、担体を構成する化合物を平板状にしたときの水との接触角が60度以下の担体を示す。この様な担体としてはセルロース、キトサン、デキストラン等の多糖類、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸グラフト化ポリエチレン、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレン、ガラスなどからなる担体が代表例として挙げられる。
市販品としては多孔質セルロースゲルであるGCL2000、GC700、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S-1000、アクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharoseCL4B、エポキシ基で活性化されたポリメタクリルアミドであるオイパーギットC250L等を例示することができる。ただし、本発明においてはこれらの担体、活性化担体のみに限定されるものではない。上述の担体はそれぞれ単独で用いてもよいし、任意の2種類以上を混合してもよい。又、本発明に用いる水不溶性担体としては、本抗体捕捉剤の使用目的および方法からみて、表面積が大きことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する、すなわち、多孔質であることが好ましい。
【0042】
担体の形態としては、ビーズ状、線維状、膜状(中空糸も含む)など何れも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。特定の排除限界分子量を持つ担体作製の容易さからビーズ状が特に好ましく用いられる。ビーズ状の平均粒径は10〜2500μmのものが使いやすく、とりわけ、リガンド固定化反応のしやすさの点から25μmから800μmの範囲が好ましい。
さらに担体表面には、リガンドの固定化反応に用いうる官能基が存在しているとリガンドの固定化に好都合である。これらの官能基の代表例としては、水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、アミド基、エポキシ基、サクシニルイミド基、酸無水物基などが挙げられる。
上記担体への改良型タンパク質の固定化においては、改良型タンパク質の立体障害を小さくすることにより捕捉効率を向上させ、さらに非特異的な結合を抑えるために、親水性スペーサーを介して固定化することが、より好ましい。親水性スペーサーとしては、例えば、両末端をカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などで置換したポリアルキレンオキサイドの誘導体を用いるのが好ましい。
上記の担体へ導入される改良型タンパク質およびスペーサーとして用いられる有機化合物の固定化方法は特に限定されるものではないが、一般にタンパク質やペプチドを担体に固定化する場合に採用される方法を例示する。担体を臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジンなどと反応させて担体を活性化し(担体が元々持っている官能基よりリガンドとして固定化する化合物が反応しやすい官能基に変え)、リガンドとして固定化する化合物と反応、固定化する方法、また、担体とリガンドとして固定化する化合物が存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、または、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法が挙げられるが、捕捉剤の滅菌時または利用時に蛋白類が担体より容易に脱離しない固定化方法を適用することがより好ましい。
【0043】
4.改良型タンパク質および抗体捕捉剤の性能確認試験
上記のようにして製造された改良型タンパク質および抗体捕捉剤は、以下の性能確認試験を行い良好なものを選択することができるが、後記実施例で示すように、本発明の改良型タンパク質および抗体捕捉材はいずれも良好な性能を有していた。
(1)抗体結合性試験
本発明の改良型タンパク質の抗体結合性は、ウエスタンブロッティング、免疫沈降、プルダウンアッセイ、ELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)、表面プラズモン共鳴(SPR)法などを利用して確認・評価することができる。中でもSPR法は、生体間の相互作用をラベルなしでリアルタイムに経時的に観察することが可能であることから、改良型タンパク質の結合反応を速度論的観点から定量的に評価することができる。
また、水不溶性の固相支持体に固定化した改良型タンパク質の抗体結合性は、上記のSPR法や液体クロマトグラフィー法で確認・評価することができる。中でも液体クロマトグラフィー法は、抗体結合性に及ぼすpH依存性を的確に評価することができる。
【0044】
(2)改良型タンパク質の熱安定性試験
本発明の改良型タンパク質の熱安定性は、円偏光二色性(CD)スペクトル、蛍光スペクトル、赤外分光法、示差走査熱量測定法、加熱後の残留活性などを利用して評価することができる。中でもCDスペクトルは、タンパク質の二次構造の変化を鋭敏に反映する分光学的分析方法であることから、改良型タンパク質の温度に対する立体構造の変化を観測し、構造安定性を熱力学的に定量的に評価することができる。
〔参照文献〕
参照文献1;Forsgren A and Sjoquist J (1966) "Protein A" from S. Aureus. J Immunol. 97, 822-827.
参照文献2;Boyle M. D.P., Ed. (1990) Bacterial Immunoglobulin Binding Proteins. Academic Press, Inc., San Diego, CA, USA.
参照文献3;Tashiro M, Montelione GT. (1995) Structures of bacterial immunoglobulin-binding domains and their complexes with immunoglobulins. Curr Opin Struct Biol. 5, 471-481.
参照文献4;Deisenhofer J. (1981) Crystallographic refinement and atomic models of a human Fc fragment and its complex with fragment B of protein A from Staphylococcus aureus at 2.9- and 2.8-A resolution. Biochemistry. 20(9), 2361-2370.
参照文献5;Gouda H, Torigoe H, Saito A, Sato M, Arata Y, Shimada I. (1992) Three-dimensional solution structure of the B domain of staphylococcal protein A: comparisons of the solution and crystal structures. Biochemistry. 31(40), 9665-9672.
参照文献6;Tashiro M.; Tejero R.; Zimmerman D.E.; Celda B.; Nilsson B.; Montelione G.T. (1997) High-resolution solution NMR structure of the Z domain of staphylococcal protein A. Journal of Molecular Biology, 272(4), 573-590.
参照文献7;Starovasnik, M.A., Skelton, N.J., O'Connell, M.P., Kelley, R.F., Reilly, D., Fairbrother, W.J. (1996) Solution structure of the E-domain of staphylococcal protein A. Biochemistry 35, 15558-15569.
参照文献8;Graille, M., Stura, E.A., Corper, A.L., Sutton, B.J., Taussig, M.J., Charbonnier, J.B., Silverman, G.J. (2000) Crystal structure of a Staphylococcus aureus protein A domain complexed with the Fab fragment of a human IgM antibody: structural basis for recognition of B-cell receptors and superantigen activity. Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 97, 5399-5404.
参照文献9;D'souza VM, Holz RC. (1999) The methionyl aminopeptidase from Escherichia coli can function as an iron(II) enzyme. Biochemistry 38, 11079-11085.
参照文献10;特開昭63-267281号
参照文献11;特開2005-112827号
参照文献12;Horton R. M., Hunt H. D., Ho S. N., Pullen J. M. and Pease L. R. (1989). Engineering hybrid genes without the use of restriction enzymes: gene splicing by overlap extension. Gene 77, 61-68.
参照文献13;岡田雅人、宮崎香 (2004) タンパク質実験ノート(上)、羊土社
参照文献14;大野茂男、西村善文監修 (1997) タンパク質実験プロトコール1−機能解析編、秀潤社
参照文献15;大野茂男、西村善文監修 (1997) タンパク質実験プロトコール2−構造解析編、秀潤社
【0045】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本明細書においては、各種アミノ酸残基を次の略号で記載する。Ala;L-アラニン残基、Arg;L-アルギニン残基、Asp;L-アスパラギン酸残基、Asn;L-アスパラギン残基、Cys;L-システイン残基、Gln;L-グルタミン残基、Glu;L-グルタミン酸残基、Gly;L-グリシン残基、His;L-ヒスチジン残基、Ile;L-イソロイシン残基、Leu;L-ロイシン残基、Lys;L-リジン残基、Met;L-メチオニン残基、Phe;L-フェニルアラニン残基、Pro;L-プロリン残基、Ser;L-セリン残基、Thr;L-スレオニン残基、Trp;L-トリプトファン残基、Tyr;L-チロシン残基、Val;L-バリン残基。また本明細書においては、ペプチドのアミノ酸配列を、そのアミノ末端(以下N末端という)が左側に位置し、カルボキシル末端(以下C末端という)が右側に位置するように、常法に従って記述する。
【実施例】
【0046】
実施例1
1)プロテインA細胞膜外ドメインの変異部位及び置換するアミノ酸残基の選定
まず、プロテインAのBドメインとヒト免疫グロブリンGのFc領域の複合体の立体構造座標データを、国際的なタンパク質立体構造データベースであるProtein Data Bank(PDB; http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do)よりダウンロードした(PDBコード:1FC2)。ついで、Fc領域から6.5オングストロームの距離の範囲内に存在するプロテインA・Bドメインのアミノ酸残基であって、かつ、プロテインA・Bドメイン単独の場合で35%以上の露出表面積比をもつアミノ酸残基を該立体構造座標データを用いて計算し、変異対象部位として選定した。選定した部位のアミノ酸残基は、[配列番号4]で示されるプロテインA・Bドメインの野生型アミノ酸配列のうちの、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、His18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個である。図5は、これらの変異対象部位の位置を複合体の構造上に表示したものである。
ところで、プロテインAの各細胞膜外ドメインは配列相同性が高く(図2)、加えて、立体構造が実験的に明らかにされているD、E、およびZドメインは、Bドメイン単独の構造とほとんど差異がないことから(非特許文献:Gouda et al., (1992) Biochemistry. 31(40), 9665-9672; Tashiro et al., (1997) Journal of Molecular Biology, 272(4), 573-590; Starovasnik et al., (1996) Biochemistry 35, 15558-15569; Graille et al., (2000) Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 97, 5399-5404.)、Bドメイン−Fc複合体の立体構造についての知見は、E、D、A、C、及びZドメイン−Fc複合体にも適用できる。即ち、Eドメイン−Fc複合体、Dドメイン−Fc複合体、Aドメイン−Fc複合体、Cドメイン−Fc複合体、及びZドメイン−Fc複合体の立体構造は未だ明らかにされていないが、各細胞膜外ドメインの配列相同性とB、D、E、およびZドメイン単独の立体構造の類似性を基に判断すれば、E、D、A、C、及びZドメイン−Fc複合体が、Bドメイン−Fc複合体と相同の構造を形成することは、当然に類推できる。したがって、上記選択した12個の変異対象部位が、E、D、A、C、及びZドメイン−Fc複合体においても、Bドメイン−Fc複合体と同等の空間的配置に位置することが強く期待され、Bドメイン−Fc複合体の立体構造から導いた6位、10位、11位、14位、15位、17位、18位、24位、27位、28位、32位、および35位の12個の変異対象部位は、Bドメインのみならず、E、D、A、C、及びZドメインにおいても変異対象部位として選定することができる。
【0047】
即ち、選定した部位のアミノ酸残基は、[配列番号1]で示されるプロテインA・Eドメインの野生型アミノ酸配列のうちの、Asp6、Gln10、Asn11、Tyr14、Gln15、Leu17、Asn18、Ala24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個である。また、[配列番号2]で示されるプロテインA・Dドメインの野生型アミノ酸配列のうちの、Asn6、Gln10、Ser11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個である。また、[配列番号3]で示されるプロテインA・Aドメインの野生型アミノ酸配列のうちの、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個である。また、[配列番号5]で示されるプロテインA・Cドメインの野生型アミノ酸配列のうちの、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、His18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個である。また、[配列番号6]で示されるプロテインA・Zドメインの野生型アミノ酸配列のうちの、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、His18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35の12個である。
【0048】
一方、該変異対象部位の元のアミノ酸残基を置換するアミノ酸残基は、ヒスチジンが最良である。これは、ヒスチジンが、中性域と弱酸性域の間で側鎖のプロトンの解離により化学的状態が大きく変化するので、プロテインAの各ドメインの抗体結合性を中性域と弱酸性域で大きく変化させることができるからである。
したがって、各改良型プロテインA細胞膜外ドメインの変異部位及び置換するアミノ酸残基を以下のように選定した。
プロテインA・Eドメイン変異体;Asp6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Gln15His、Leu17His、Asn18His、Ala24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上。
プロテインA・Dドメイン変異体;Asn6His、Gln10His、Ser11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Asn18His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上。
プロテインA・Aドメイン変異体;Asn6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Asn18His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上。
プロテインA・Bドメイン変異体;Asn6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上。
プロテインA・Cドメイン変異体;Asn6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上。
プロテインA・Zドメイン変異体;Asn6His、Gln10His、Asn11His、Tyr14His、Glu15His、Leu17His、Glu24His、Arg27His、Asn28His、Gln32His、Lys35Hisのいずれか一つ以上。
【0049】
なお、本実施例の計算は、ccp4i 4.0 (Daresbury Laboratory, UK Science and Technology Facilities Council)、Surface Racer 3.0 for Linux(Dr. Oleg Tsodikov, The University of Michigan)、Red Hat Enterprise Linux WS release 3(レッドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)(以上ハードウエア)を用いて行った。
【0050】
2)改良型プロテインA細胞膜外ドメインの設計。
上記から明らかなように、本発明の改良型タンパク質の設計において、選定される変異対象部位は一つに限られるものではない。複数の変異対象部位の中から適宜選択して、それらを組み合わせた点変異体あるいは多重変異体を改良型タンパク質とすることができる。その選択は、無作為に行ってもよいし、構造活性相関等の他の公知の情報を加味してもよい。また、プロテインAの細胞膜外ドメインの性質を好ましいものに変化させることが既に知られている変異と組みあわせてもよい。
すなわち、上記1)において選定した変異部位から、10位、11位、15位、および17位を選択し、この4変異箇所のうちの2つを組み合わせた二重変異を野生型のプロテインAのアミノ酸配列に対して行うことで、各改良型プロテインA細胞膜外ドメインのアミノ酸配列を以下のように設計した。
【0051】
プロテインA・Eドメイン変異体;
[配列番号1]で示されるプロテインA・Eドメインのアミノ酸配列に対して行い、[配列番号7]で示されるGln10His/Asn11HisプロテインA・Eドメインの二重置換変異体、[配列番号8]で示されるAsn11His/Leu17HisプロテインA・Eドメインの二重置換変異体、[配列番号9]で示されるされるGln15His/Leu17HisプロテインA・Eドメインの二重置換変異体を設計した。
プロテインA・Dドメイン変異体;
[配列番号2]で示されるプロテインA・Dドメインのアミノ酸配列に対して行い、[配列番号10]で示されるGln10His/Ser11HisプロテインA・Dドメインの二重置換変異体、[配列番号11]で示されるSer11His/Leu17HisプロテインA・Dドメインの二重置換変異体、[配列番号12]で示されるGlu15His/Leu17HisプロテインA・Dドメインの二重置換変異体を設計した。
プロテインA・Aドメイン変異体;
[配列番号3]で示されるプロテインA・Aドメインのアミノ酸配列に対して行い、[配列番号13]で示されるGln10His/Asn11HisプロテインA・Aドメインの二重置換変異体、[配列番号14]で示されるAsn11His/Leu17HisプロテインA・Aドメインの二重置換変異体、[配列番号15]で示されるGlu15His/Leu17HisプロテインA・Aドメインの二重置換変異体を設計した。
プロテインA・Bドメイン変異体;
[配列番号4]で示されるプロテインA・Bドメインのアミノ酸配列に対して行い、[配列番号16]で示されるGln10His/Asn11HisプロテインA・Bドメインの二重置換変異体、[配列番号17]で示されるAsn11His/Leu17HisプロテインA・Bドメインの二重置換変異体、[配列番号18]で示されるGlu15His/Leu17HisプロテインA・Bドメインの二重置換変異体を設計した。
プロテインA・Cドメイン変異体;
[配列番号5]で示されるプロテインA・Cドメインのアミノ酸配列に対して行い、[配列番号19]で示されるGln10His/Asn11HisプロテインA・Cドメインの二重置換変異体、[配列番号20]で示されるAsn11His/Leu17HisプロテインA・Cドメインの二重置換変異体、[配列番号21]で示されるGlu15His/Leu17HisプロテインA・Cドメインの二重置換変異体を設計した。
プロテインA・Zドメイン変異体;
[配列番号6]で示されるプロテインA・Zドメインのアミノ酸配列に対して行い、[配列番号22]で示されるGln10His/Asn11HisプロテインA・Zドメインの二重置換変異体、[配列番号23]で示されるAsn11His/Leu17HisプロテインA・Zドメインの二重置換変異体、[配列番号24]で示されるGlu15His/Leu17HisプロテインA・Zドメインの二重置換変異体を設計した。
【0052】
なお、以下の3)〜12)では、上記設計した改良型プロテインAの具体例のうちの、[配列番号22]〜[配列番号24]で示されるアミノ酸配列を最終的に選別し、これらの配列を示す改良型プロテインA細胞膜外ドメインを実際に合成した。加えて、[配列番号6]で示されるオリジナルのプロテインA・Zドメインも実際に合成し、これと比較することで、改良型プロテインAの分子特性を評価した。
【0053】
3)改良型プロテインA細胞膜外ドメインアミノ酸配列をコードする核酸の塩基配列の設計。
改良型プロテインA細胞膜外ドメインをコードする遺伝子の塩基配列については、上記設計した各改良型プロテインA細胞膜外ドメインのアミノ酸配列に基づき、Gene Designer (DNA2.0 Inc.) を利用して、大腸菌での発現効率が最適になるよう、[配列番号25]〜[配列番号28]の塩基配列からなるPAZ遺伝子(paz01、paz02、paz03、paz04)を設計した。なお、改良型タンパク質は、タンパク質合成の実際的観点から以下の2系統に分けて製造されるため、遺伝子の塩基配列はベクターの塩基配列を勘案して系統ごとに微調整された。OXADac-PAZタンパク質は、N末端側にOxaloacetate decarboxylase alpha-subunit c-terminal domain (OXADac)の、C末端側に改良型プロテインA細胞膜外ドメインの配列を有する融合タンパク質として製造される。即ち、[配列番号6]、[配列番号21]、[配列番号22]、または[配列番号24]のN末端側に[配列番号30]が連結したアミノ酸配列となり合成される。M-PAZタンパク質は、タグなし、融合なしの単純タンパク質として大腸菌を用いて製造される。このため設計したアミノ酸配列に開始コドン配列が付加される。即ち、M-PAZタンパク質は[配列番号6]、[配列番号21]、[配列番号22]、または[配列番号24]のN末端にMetが付加したアミノ酸配列となり合成される。
【0054】
4)改良型プロテインA細胞膜外ドメイン含有融合タンパク質の製造・固定化
以下の(1)、(2)に示すように、大腸菌を用いて、Oxaloacetate decarboxylase alpha-subunit c-terminal domain (OXADac)と野生型プロテインA・Zドメインとの融合タンパク質(OXADac-PAZ01)及び同改良型プロテインA・Zドメインとの融合タンパク質(OXADac-PAZ02、OXADac-PAZ03、OXADac-PAZ04)を製造した。
【0055】
(1)OXADac-PAZ発現用プラスミドの合成
[配列番号25]〜[配列番号28]の塩基配列からなるPAZ遺伝子(paz01、paz02、paz03、paz04) を組み込んだエントリープラスミドpDONR221-PAZ (DNA2.0)と、[配列番号30]のOXADacのアミノ酸配列をコードする塩基配列が組み込まれた発現用プラスミドChampion pET104.1-DEST (Invitrogen) についてGateway LR Clonase Enzyme Mix (Invitrogen) を用いて相同組み換えを行った。反応液を用いて保存用大腸菌DH5a株 (東洋紡, Competent high)を形質転換した。得られた形質転換体をcolony PCR法、DNA sequencing法 (GE Healthcare Bioscience, BigDye Terminator v1.1) により選別し、QIAprep Spin Miniprep Kit (Qiagen) を用いてOXADac-PAZ発現用プラスミドを抽出した。
【0056】
(2)OXADac-PAZ融合タンパク質の発現と固定化
OXADac-PAZ発現用プラスミドを用いて、発現用大腸菌BL21(DE3)株 (Novagen) を形質転換した。前培養した形質転換体を、2.5ml / 500mlでLB培地に継代し、O.D.600 = 0.8〜1.0になるまで振とう培養した。OXADac-PAZ融合タンパク質を発現させるためIPTG(最終濃度0.5mM)を加え、さらに37℃で2時間振とう培養した。回収した菌体を10mlのPBSに懸濁し、超音波破砕を行った後濾過滅菌し、これを全タンパク質溶液とした。全タンパク質溶液の一部はIgG Sepharose 6 Fast Flow (GE Healthcare Bioscience) microspinを用いて精製を試み、SDS-PAGEによって発現および精製を確認した。残りはHiTrap streptavidin HPカラム(GE Healthcare Bioscience) をセットした液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GE Healthcare Bioscience) に注入し、0.3ml/minの条件(running buffer: 20mM Na phosphate(pH6.7), 150mM NaCl)で運転することで、OXADac-PAZ融合タンパク質をカラムに固定化した。OXADacは分子内にビオチン化リジンを1つ有するため、カラム内のストレプトアビジンに選択的かつ非可逆的に結合する。なお、固定化量を最大化するため、HiTrap streptavidin HPカラムの結合許容量に対し、大過剰(10倍以上)のOXADac-PAZ融合タンパク質を注入した。
【0057】
5)改良型プロテインA細胞膜外ドメインの製造
以下の(1)、(2)に示すように、野生型及び改良型プロテインA・Zドメインをコードする遺伝子を含むプラスミドベクターを合成し、ついで大腸菌を用いて、Metが付加された野生型(M-PAZ01)及び改良型プロテインA・Zドメイン(M-PAZ02、M-PAZ03、M-PAZ04)を製造した。
【0058】
(1)M-PAZ発現用プラスミドの合成
上記4)で作成したOXADac-PAZ発現用プラスミドを鋳型に、制限酵素認識配列を含むプライマーを加えPCRを行い(アニール49℃, 15秒)、PAZ遺伝子領域を増幅した。使用したプライマーは、センスプライマーとして CACCATGGTGGATAACAAAC (配列番号31)を、アンチセンスプライマーとしてTA GGATCCTTATTTTGGTGCTTGTGCATC (配列番号32)を用いた。得られた増幅物は、アガロース電気泳動法(3%, 100V)で確認後、QIAquick PCR Purification kit (Qiagen) を用いて精製した。その後、制限酵素Nco IとBamH I (日本ジーン, 37℃, 一昼夜)で消化したPAZ遺伝子(paz01、paz02、paz03、またはpaz04)と、同じ制限酵素で消化し脱リン酸化(宝酒造, CIAP, 50℃, 30分)させたプラスミドpET16b (Novagen)をライゲーション(東洋紡, Ligation High, 16℃, 1時間)し、得られたプラスミドベクターを用いて保存用大腸菌DH5α株(東洋紡, Competent high)を形質転換し、100μg/mLアンピシリンを含むLBプレート培地で選択した。正しい挿入配列をもつ形質転換体をcolony PCR法、DNA sequencing法 (GE Healthcare Bioscience, BigDye Terminator v1.1) により選別し、Qiaprep Spin Miniprep kit (Qiagen) を用いてM-PAZ発現用プラスミドを抽出した。これを用い、さらに発現用大腸菌BL21(DE3) 株(Novagen)を形質転換した。
【0059】
(2)組換えタンパク質の発現と精製
LB培地で前培養した大腸菌BL21(DE3) 形質転換体を、50μl/10mlで100μg/mLアンピシリンを含むLB培地に継代し、O.D.600 = 0.8〜1.0になるまで振とう培養した。最終濃度0.5mM でIPTGを加え、さらに37℃で2時間振とう培養した。回収した菌体を10mlのPBSに懸濁し、超音波破砕を行った。破砕液は濾過滅菌後、濾液をTST (50mM Tris-HCl(pH7.6), 150mM NaCl, 0.05% Tween20) で平衡化したIgG Sepharose 6 Fast Flow (GE Healthcare Bioscience) microspinに加え、M-PAZタンパク質を結合させた。未吸着成分をTSTで洗浄後、TSTを50mM Na3 citrate (pH7.0)に置換し、さらに0.5M acetate (pH2.5)に置換してM-PAZタンパク質を溶出した。溶出液は50mM Na phosphate (pH6.8)で透析を行った後4℃で保存した。
【0060】
上記4)、5)で得られた各OXADac-PAZ融合タンパク質および各M-PAZタンパク質のアミノ酸配列の構成及び変異を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
6)得られた改良型プロテインA細胞膜外ドメインの純度
上記4)、5)で得られた、各OXADac-PAZ融合タンパク質および各M-PAZタンパク質の純度を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で以下のように確認した。
精製後の上記融合タンパク質及びメチオニン付加タンパク質をそれぞれ75μM程度の濃度の水溶液に調製したのち、Tricine-SDS-PAGE(16%T, 2.6%C, 100V, 100min)を行いCBB (G-250) 染色によりバンドを検出し純度を確認した。その結果、精製後の融合タンパク質及びメチオニン付加タンパク質は、測定したすべての試料(OXADac-PAZ01、OXADac-PAZ02、OXADac-PAZ03、OXADac-PAZ04、M-PAZ01、M-PAZ02、M-PAZ03、M-PAZ04)においてメジャーバンドとして検出され、改良型プロテインA細胞膜外ドメインあるいはその融合タンパク質の合成収率は高く(>10mg/L-培地)、精製度も充分であることが確認された。
【0063】
7)得られた改良型プロテインA細胞外ドメインの同定
改良型プロテインA細胞膜外ドメインの分子量を以下のようにしてMALDI-TOF型質量分析計で計測することにより、製造したタンパク質を同定した。
単離精製した各M-PAZタンパク質を15〜25μMの濃度の水溶液に調製した。次いで、質量分析用サンプルプレートにマトリックス溶液(50%(v/v)アセトニトリル‐0.1%TFA水溶液にα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸を飽和させた溶液)1μlを滴下し、これに各試料溶液を1μl滴下してサンプルプレート上で混合、乾燥させた。その後、質量分析装置Voyager(Applied Biosystems)にて、強度2500-3000のLaserを照射し質量スペクトルを得た。質量スペクトルにより検出されたピークの分子量と製造した各M−PAZタンパク質のアミノ酸配列より算出された理論分子量を比較した結果、両者は測定誤差内で一致し、目的のタンパク質(M-PAZ01、M-PAZ02、M-PAZ03、M-PAZ04)が製造されていることが確認された。
【0064】
実施例2
以下のようにして、各OXADac-PAZ融合タンパク質を固定化したカラムを用いてpH勾配アフィニティークロマトグラフィーを行い、モノクローナル抗体の溶出するpHを調べることで、改良型プロテインAの弱酸性域での抗体解離性を評価した。
まず、OXADac-PAZ融合タンパク質固定化カラムを液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GE Healthcare Bioscience) にセットし、TST buffer(50mM Tris-HCl(pH7.6), 150mM NaCl, 0.05% Tween20)を1ml/minの条件で流し平衡化させた後、100μg/200μlに調製したIgG1タイプのヒト化モノクローナル抗体を注入した。次いで、TST bufferを50mM Na3 citrate(pH7.0) に置換し、さらに0.5ml/minの流速で10minかけて連続的に0.5M acetate(pH2.5) へ置換することで、pH勾配(pH7.0→2.5/10min)を実現した。液体クロマトグラフィー装置に付属しているUVメータ(280nm)とpHメータの出力から、モノクローナル抗体が溶出するピークのpHを記録した。
その結果、測定したすべての改良型プロテインA・Zドメインを有する融合タンパク質(OXADac-PAZ02、OXADac-PAZ03、OXADac-PAZ04)を固定化したカラムにおいて、野生型のアミノ酸配列を有するコントロールタンパク質(OXADac-PAZ01)を固定化したカラムに比べて、高いpHでヒト化モノクローナル抗体が溶出することが明らかになった(図6)。たとえば、このうち最も優れた改良型プロテインA・Zドメインを有する融合タンパク質
(OXADac-PAZ02、OXADac-PAZ04)は野生型に比べて1.4ポイントも高いpHで溶出する。
この結果は、以下の実施例9及び10の結果と併せて、以下の表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例3
以下のようにして、各OXADac-PAZ融合タンパク質を固定化したカラムを用いてステップワイズpHアフィニティークロマトグラフィーを行い、モノクローナル抗体の溶出状態を、各pHで調べることで、改良型プロテインAの弱酸性域での抗体解離性を評価した。
まず、OXADac-PAZ融合タンパク質固定化カラムを液体クロマトグラフィー装置AKTA prime plus (GE Healthcare Bioscience)にセットし、リン酸バッファ(50μm Na2HPO4/NaH2PO4 (pH7.0))を0.4ml/minの条件で流し平衡化させた後、100μLの1mg/mlのサンプル(IgG1タイプのヒト化モノクローナル抗体)を添加した。12mlのリン酸バッファで洗浄、10mlの溶出バッファ(100mM CH3COOH/CH3COONa, pH 4〜4.7)で溶出を行った。その後、pH2.5、500mMのCH3COOHでカラムを洗浄し、最後に12mlのリン酸バッファでカラムを再平衡した。液体クロマトグラフィー装置に付属しているUVメータ(280nm)の出力から、ヒトポリクローナルFc領域のステップワイズpHの溶出するパターンを得られた。
その結果、改良型プロテインA・Zドメインを有する融合タンパク質(OXADac-PAZ02、OXADac-PAZ04)を固定化したカラムにおいて、野生型のアミノ酸配列を有するコントロールタンパク質(OXADac-PAZ01)を固定化したカラムにくらべ、高いpHでヒト化モノクローナル抗体が溶出することが明らかになった(図7)。たとえば、pH 4.5領域でのPAZ01の溶出率は0%であるのに対しPAZ02の溶出率は71%と、大きく向上したことが確認された(表2)。
【0067】
実施例4
以下のようにして、各OXADac-PAZ融合タンパク質の結合解離性を表面プラズモン共鳴(SPR)法により評価した。
なお、SPR法は、生体高分子間の特異的相互作用を経時的に測定し、反応を速度論的観点から定量的に解釈できる優れた方法であることが認識されているものである。
まず、センサーチップSA (Biacore)の測定セルに、ビオチンを介してOXADac-PAZ融合タンパク質を固定化した。次いで、ヒト免疫グロブリンIgGを、ランニング緩衝液であるHBS-P (10mM HEPES pH7.4, 150mM NaCl, 0.05% v/v Surfactant P20)に溶解し、1μMの試料溶液を調製した。SPRの測定は、Biacore T100 (Biacore)を用い、反応温度25℃で行った。試料溶液の添加後、解離溶液(10mM 酢酸ナトリウム、50〜500mM NaCl、pH4.5)によるIgGの解離挙動を測定した。観測結果の解析にはBIAevaluation version 4.1を用いた。解離前後のRU変化をIgGの結合RU値で除することでIgGの残存量比を算出し、また、その解離曲線を1:1のラングミュアモデルにフィッティングさせることで解離速度定数koffを決定した。
実験に用いた解離条件下の下、改良型タンパク質(OXADac-PAZ04)は、野生型のアミノ酸配列を有するOXADac-PAZ01に比べて、顕著な解離挙動を示した(表2)。たとえば、OXADac-PAZ04は、10mM 酢酸ナトリウム、150mM NaCl (pH4.5)の条件下において吸着IgGの100%を解離しており、その解離速度定数は野生型のそれに比較して、50倍以上の上昇を示した。
【0068】
実施例5
以下のようにして、中性領域における各M−PAZタンパク質の抗体結合性を表面プラズモン共鳴(SPR)法により評価した。
まず、センサーチップの測定セルにヒト免疫グロブリンのFc領域をアミンカップリング法により固定化した。測定のコントロールとして、カルボキシメチル基をエタノールアミンでブロッキングした対照セルを用いた。センサーチップとして、CM5 (Biacore)を用いた。次いで、単離精製した各M−PAZタンパク質を、中性領域のランニング緩衝液であるHBS-P (10mM HEPES pH7.4, 150mM NaCl, 0.05% v/v Surfactant P20)に溶解し、それぞれ500, 400, 300, 200, 100 nMの5種の濃度の試料溶液を調製した。SPRの測定は、Biacore T100 (Biacore)を用い、反応温度25℃で行った。収集したデータは、Biacore T100 Evaluation Softwareを用いて解析し、1:1のラングミュアモデルにフィッティングさせ、解離平衡定数KDを算出した。
その結果、改良型タンパク質M-PAZ02は野生型のアミノ酸配列を有するコントロールタンパク質M-PAZ01に比較し、中性領域では10倍以上の親和性を示すことが明らかとなった。
この結果は、以下の実施例12の結果と併せて表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
実施例6
以下のようにして、各M−PAZタンパク質の熱安定性を円偏光二色性(CD)スペクトルにより評価した。
なお、円偏光二色性(CD)スペクトルは、タンパク質の二次構造の変化を鋭敏に反映する分光学的分析方法であることが知られている。CDスペクトルの強度に相当するモル楕円率を試料の温度を変化させながら観測することで、どの程度の温度で各々の改良型プロテインAが変性するのかを明らかにすることができる。
まず、単離精製した各M−PAZタンパク質をそれぞれ5〜20μMの濃度で含む水溶液(50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.8〜7.0)に調製した。この試料溶液を円筒型セル(セル長0.1cm)に注入し、J805型円偏光二色性分光光度計(日本分光)を用いて、20℃の温度で測定波長を260nmから195nmに移動させCDスペクトルを得た。同じ試料を98℃に加熱、さらに98℃から20℃に冷却し260nmから195nmの円二色性スペクトルを得た。加熱後再冷却したスペクトルのモル楕円率は60%以上回復し、改良型プロテインAの立体構造が熱変性に対し、ある程度可逆であることが確認された。
次いで、測定波長を222nmに固定し20℃から100℃に1℃/minの速度で昇温させてモル楕円率の経時変化を測定した。得られた熱融解曲線について二状態相転移モデルの理論式(非特許文献:有坂、バイオサイエンスのための蛋白質科学入門)を用いて解析し、変性温度Tm、およびTmにおける変性のエンタルピー変化ΔHmを決定した。その結果、測定した改良型プロテインAのうちM-PAZ02の熱安定性については、野生型のアミノ酸配列を有するコントロールタンパク質(M-PAZ01)に比べて、向上していることが明らかになった(表3)。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】Staphylococcus aureus subsp. aureus NCTC 8325由来のプロテインAの遺伝子の構造を示す図である。
【図2】プロテインAの抗体結合ドメインのアミノ酸配列を示す図である(下線部はBドメインとの相違部分)。
【図3】Staphylococcus aureus subsp. aureus NCTC 8325由来のプロテインAの遺伝子の塩基配列を示す図である(下線部が抗体結合ドメインに対応)。
【図4】oxaloacetate decarboxylase alpha-subunit c-terminaldomain(OXADac)−プロテインG変異体融合タンパク質のN末配列(配列番号30)を示す図である(下線部がOXADacに対応するアミノ酸配列)。
【図5】プロテインA・Bドメインとヒト免疫グロブリンGのFc領域の複合体の立体構造を示す図である。
【図6】固定化カラムを用いた改良型タンパク質の弱酸性域での抗体解離性評価(1)の結果を示すグラフである。
【図7】固定化カラムを用いた改良型タンパク質の弱酸性域での抗体解離性評価(2)の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのEドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Eドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、Asp6、Gln10、Asn11、Tyr14、Gln15、Leu17、Asn18、Ala24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【請求項2】
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのDドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Dドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Ser11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【請求項3】
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのAドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Aドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質。
(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Asn18、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【請求項4】
配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのBドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Bドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質
(a)配列番号4で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【請求項5】
配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのCドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Cドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質
(a)配列番号5で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【請求項6】
配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるプロテインAのZドメインタンパク質の変異型タンパク質であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつ、免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有し、かつプロテインAの野生型Zドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した上記変異型タンパク質
(a)配列番号6で示されるアミノ酸配列において、Asn6、Gln10、Asn11、Tyr14、Glu15、Leu17、Glu24、Arg27、Asn28、Gln32、Lys35のうちのいずれか1個以上のアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列。
(b)(a)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
(c)(a)又(b)のヒスチジン置換アミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が、1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質。
【請求項7】
以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号7〜9のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【請求項8】
以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項2に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号10〜12のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【請求項9】
以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項3に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号13〜15のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【請求項10】
以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項4に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号16〜18のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【請求項11】
以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項5に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号19〜21のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【請求項12】
以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項6に記載の変異型タンパク質
(a)配列番号22〜24のいずれかで示されるアミノ酸配列。
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が挿入又は付加されたアミノ酸配列。
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、ヒスチジン残基置換部位以外のアミノ酸残基が1個若しくは数個欠失又は置換されたアミノ酸配列。
【請求項13】
請求項1〜12いずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列とリンカーペプチドあるいはリンカータンパク質のアミノ酸配列が交互に並んだアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列からなる融合タンパク質。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列と該タンパク質を水不溶性の固相支持体に固定化するためのスペーサーのアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列からなるスペーサー付タンパク質。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項17】
配列番号26〜28のいずれかで示される塩基配列からなる核酸。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の核酸の塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、免疫グロブリンGのFc領域に対する結合活性を有し、かつ野生型プロテインAの抗体結合ドメインに比べ、免疫グロブリンGのFc領域に対する弱酸性領域での結合活性が低下した変異型タンパク質をコードする核酸。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれかに記載の核酸を含有する組換えベクター。
【請求項20】
請求項19に記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
【請求項21】
請求項1〜15のいずれかに記載のタンパク質が、水不溶性の固相支持体に固定化されていることを特徴とする、固定化タンパク質。
【請求項22】
請求項1〜15のいずれかに記載のタンパク質からなることを特徴とする、抗体、免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質の捕捉剤。
【請求項23】
請求項21に記載の固定化タンパク質からなることを特徴とする、抗体、免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域を有するタンパク質の捕捉剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−81866(P2010−81866A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254189(P2008−254189)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発/高効率な抗体分離精製技術の開発」産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】