説明

張力伝達具

【課題】引込線に簡単かつ作業性よく着脱でき、しかも、装着時の張力伝達性の高い張力伝達具を提供する。
【解決手段】対象引込線2に側方から当てがう当てがい体3と、この当てがい体3の一端寄りに一端が止着されて他端の自由端側に架線時の張力を直接または間接に受ける張力伝達ベルト4と、を備え、張力伝達ベルト4は、当てがい3体への止着5部から当てがい体3の架線2への当てがい面側に自由端側が延びて引込線2に巻き付けられるようにされ、当てがい体3は、その他端寄りに張力伝達ベルト4を側方受け入れ口6aから幅方向に受け入れて引込線2への前記巻き付けが行われる当てがい面3側から反当てがい面3b側への引き出し状態とするスリット6を有したものとして、上記の目的を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電柱と引込対象との間に引込線を架線する際に、架線作業時の張力を引込線に伝達する張力伝達具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
引込線は一般にDV線とも称され、多くの場合、図7に示す引込線cのように電柱aと家屋bとの間に架線される。このような引込線cの架空引込工事は、通常引込線cの一端が家屋bの取付点dに図示しない支持具で支持される。その後、引込線cの他端側を電柱aの取付点eの側に引き上げ、引き付けて図示しない支持具に支持し架線することにより行われる。架線した引込線cの架空長さは一般に約10m〜50m程度で、平均的に20m位いとされ、電力各社での配電規定によって架線状態での弛度αが規定されている。具体的には電線太さが3.2mm2以下、14mm2以上などと変化し、また季節の移り変わりによって異なるが、概して架空亘長の2〜4%とされる。このような弛度αを確保しての架線には、引込線cに大きな張力を働かせる必要がある。
【0003】
このような大きな張力を引込線cに伝達してその他端側を電柱aの取り付け点eの側に引き上げ、引き付けるのに、引込線cは100Vといった低圧線用で、2、3本の電線を軽く撚り合わせて既述の太さとした比較的細く耐外力性の低いものであることに対応して、カムラと称される金属部間でクランプするような掴線器を用いず、図5に示すように繊維よりなるいわゆる繊維ロープfの一端側を巻き付けて張力を伝達する方式が採用されている。
【0004】
このようなロープfの巻き付けによって必要な張力を引込線cに伝達するには、図5に示すようにロープfの一端を引込線cに対し金属製のバインド線gによって緊縛することと、ロープfにおける緊縛位置から張力側を間隔を置いた3か所以上に巻き付け、しかも、途中箇所は簡単な巻き付け方としてあるが、張力側始点hでは特に複雑に巻き付けて滑りにくくし、反張力側終点iではやや複雑に巻き付けてやや滑りにくくすることにより、ロープfが直接または間接に受ける張力を引込線cに伝達するようにしている。その際、張力伝達初期にロープfの引込線cへの巻き付け部が張力によって引込線cまわりに巻き締まって引込線cを締め付けるので、張力の伝達は滑りなく確実に達成される。
【0005】
ロープfへの張力の直接の伝達は図1に仮想線で示すように、引込線cへの図7に示すような接続部jを有して接続したロープfを、電柱aの取付点e近くに支持した滑車hに通して垂下したロープfの他端を人手により引き下げるなどして行われる。もっとも、人手に代えて巻取り機や手操作するシメラと称される張線器などを用いることもできる。また、ロープfは他端側に連結環やフックなどの連結具を設けておいて、各種牽引源に連結して引込線cの他端側の引き上げ、引き付けを行うこともできる。
【0006】
いずれにしても、これらの場合、ロープfの引込線cへの巻き付け作業は、他端側がまだ引き上げられていない仮想線で示す引込線cに対する地上での作業となる。
【0007】
一方、図6に示すように他端側をある程度電柱aの側に引き上げ、引き付けた予備架線状態から所定の弛度αを満足するまでに張線する段階で、予備架線状態に保った引込線cにロープfを巻き付け張線作業に供することも行われる。この場合、ロープfの引込線cへの巻き付けは図6に示すように高所作業となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来のロープfの一端を引込線cに巻き付けて張力を伝達する方式では、まず、ロープfの一端を引込線cにバインド線gによって緊縛しておき、その上で、ロープfの前記緊縛部から張力側を引込線cに間隔をおいた3か所などに滑りの難易度を配慮した複雑な巻き付け作業をする必要があるので、作業が煩雑で長い時間が掛かり作業能率が上がらない問題がある。図6に示す高所作業では特に問題となる。これら作業性の問題は、引込線cの架線後のロープfの取り外しの際も同様である上、取り外し時は高所作業に限られてしまう。
【0009】
また、架線作業後にロープfを引込線cからロープfの一端を引込線cにバインド線gによって緊縛する部分では、前記張力伝達時のロープfの巻き締まりを保証するには、ロープfがバインド線gによる緊縛部から抜けないように、かなり強く緊縛する必要があるため、撚り合わせ線に対する細いバインド線gの交差部での被覆への組み込みを伴う局部な強い外力を被覆およびその内部線に及ぼすし、ロープfの巻き締まり力もロープfと撚り合わせ線との交点部でも引込線cの被覆や内側線に局部的な比較的強い外力を及ぼすので、引込線cを傷めやすく、架線後の引込線cにはその後も強い張力が働き続きるので撚り合わせ線どうしを傷めやすくなる。
【0010】
本発明の目的は、引込線に簡単かつ作業性よく着脱でき、しかも、装着時の張力伝達性の高い張力伝達具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の張力伝達具は、電柱と引込対象との間に引込線を架線する際に、架線時の張力を引込線に伝達する張力伝達具であって、対象引込線に側方から当てがう当てがい体と、この当てがい体の一端寄りに一端が止着されて他端の自由端側に架線時の張力を直接または間接に受ける張力伝達ベルトと、を備え、張力伝達ベルトは、当てがい体への止着部から当てがい体の引込線への当てがい面側に自由端側が延びて引込線に巻き付けられるようにされ、当てがい体は、その他端寄りに張力伝達ベルトを側方受け入れ口から受け入れて引込線への前記巻き付けが行われる当てがい面側から反当てがい面側への引き出し状態とするスリットを有したことを主たる特徴とするものである。
【0012】
このような構成では、当てがい体からその引込線への当てがい面側に延びる張力伝達ベルトは、当てがい体への止着部側を張力伝達の対象とする引込線のまわりに巻き付け、またこの巻き付けた張力伝達ベルトの必要時点での引込線に対する自由端側への引っ張りによって、当てがい体の張力伝達ベルトを止着している一端寄りでその当てがい面側を引込線に引き付けられる。引込線に巻き付けた張力伝達ベルトはその引き出し線への巻き付け部から引き出した途中部分を、それ以遠の自由端側の引き回しや通し作業なしに、当てがい体の他端寄りにあるスリットに対し、当てがい体側方の受け入れ口を通じ当てがい体幅方向のスリット奥部にまで進入させられる。このスリットへの張力伝達ベルト途中の進入によって張力伝達ベルトは、当てがい体に対し引込線への巻き付けを行っている当てがい面側から反当てがい面側への引き出し状態となる。これで張力伝達具は引込線への装着状態になり、張力伝達ベルトの自由端側を当てがい体に対し前記引き出し側に手で引っ張れば、引込線の当てがい体の他端寄りでその当てがい面側への引き付けを伴い、引込線に対する巻き付き度を高められるので、より安定した装着状態が得られる。
【0013】
このような装着状態となった張力伝達具では、張力伝達ベルトの自由端側に直接または間接に電柱の取付点への引き上げや、引き付け、架線のための張力を働かされると、張力伝達ベルトの前記装着状態での張力伝達ベルトの引込線への巻き付き度と、巻き付き接触面域の大きさとに応じた摩擦抵抗の増大を伴い引込線まわりに巻き締まり、当てがい体の引込線側へのさらなる引き付けと、張力伝達ベルトの引込線への巻き付け部の張力側への延びと、を伴い引込線まわりに面圧着して張力を引込線に確実に伝達することができる。
【0014】
上記において、さらに、スリットは、受け入れている張力伝達ベルトの自由端側に張力が働いたときの張力伝達ベルトの長手方向の滑りを許容することを特徴とすることができる。
【0015】
このような構成では、上記に加え、さらに、張力伝達ベルトに働く張力は、張力伝達ベルトに対しその当てがい体のスリットから当てがい体および引込線に平行となる引出向きに安定させようとして、張力伝達ベルトを当てがい体の当てがい面側からスリットを通じた反当てがい面側への引き出しにZ状の屈曲を与えて扱き抵抗の原因となるが、スリットが張力伝達ベルトの長手方向の滑りを許容することで、そのような扱き抵抗を軽減して張力の働き方向を特に工夫することなく、張力による当てがい体の引込線側への引き付け、および長力伝達ベルトの引込線まわりへの巻き締まりがスムーズに十分に達成されるようにすることができる。
【0016】
上記において、さらに、当てがい体は、当てがい面が引込線に沿う凹面をないしてることを特徴とすることができる。
【0017】
このような構成では、上記に加え、さらに、当てがい体は、その当てがい面が引込線に沿う凹面をなしていることにより、引込線への自己心合わせ機能を発揮して、引込線の張力伝達ベルト巻き付け部の外まわりに心ずれのない、かつ安定した覆い状態に当てがわれやすく、装着の失敗による張力伝達不良を招くようなことがないし、架空引込線工事中の万一にも働く外力から引込線の張力伝達ベルト巻き付け部を保護することができる。
【0018】
上記において、さらに、スリットは、当てがい体の側方受け入れ口から他端の側に順次に変位する屈曲形態の側方スリット域を有して当てがい体の幅方向にほぼ向く中央スリット域に繋がることを特徴とすることができる。
【0019】
このような構成では、上記に加え、さらに、スリットの当てがい体側方の受け入れ口から張力伝達ベルトの途中部分を受け入れる側方スリット域が、受け入れ口から他端の側に順次に変位する屈曲形態をなしていることにより、これに繋がる当てがい体の幅方向にほぼ向く中央スリット域にまで進入して自由端側に引っ張られ、あるいは張力が働かされている張力伝達ベルトの引き出し方向に対し、反引き出し方向の変位をもって当てがい体側方の受け入れ口に向かう関係を満足して、張力伝達ベルトが中央スリット域から側方スリット域側に逃げ、また側方スリット域から受け入れ口を通じてスリットから外れてしまうようなことを防止することができる。特に、張力伝達ベルトが中央スリット域まで十分に進入させられず、側方スリット域にまだ位置していたり、一部が掛かっていたりした状態で引っ張られたり、張力を働かされることがあっても、側方スリット域はその屈曲形態によって張力伝達ベルトに働くスリットからの引き出し時の長手方向に向く圧接力に中央スリット側に向く分力を生じさせ、張力伝達ベルトを中央スリット域の側に移動させられる。
【0020】
上記において、さらに、張力伝達ベルトは、当てがい体への止着部から当てがい体の反当てがい面側に延びた後、当てがい体に設けた長孔を通じ当てがい体の当てがい面側に延びていることを特徴とすることができる。
【0021】
このような構成では、上記に加え、さらに、張力伝達ベルトの自由端側に与えられた長力が張力伝達ベルトの当てがい体への止着部に直接及ぶのを、それより手前にある当てがい体上の長孔への張力伝達ベルトの通し部での扱き抵抗と、この扱き抵抗を伴う張力伝達ベルトの止着部から通し部までの反当てがい面への圧着による引っ張り摩擦抵抗と、によって分散および低減され、止着部に張力が集中するのを緩和することができる。
【0022】
上記において、さらに、長孔は、当てがい体の長手方向に対して傾斜していることを特徴とすることができる。
【0023】
このような構成では、上記に加え、さらに、止着部から延びる張力伝達ベルトを当てがい体の反当てがい面側から長孔を通じ当てがい面側に延びるように引き出して引込線への巻き付けに供するのに、張力伝達ベルトは当てがい体の長孔の向きに従って当てがい体および引込線の長手方向に傾斜して当てがい面側に延びるので、引込線に巻き付けていく斜め方向に沿わせやすく、無理なく皺無くスムーズに巻き付けていける。
【0024】
上記において、さらに、張力伝達ベルトは、その一端が当てがい体の一縁寄りに当てがい体の長手方向に平行な向きで止着され、長孔は、当てがい体の張力伝達ベルト一端の止着部に対向する他縁寄りに設けられていることを特徴とすることができる。
【0025】
このような構成では、上記に加え、さらに、張力伝達ベルトは、その一端の当てがい体の一縁寄りで当てがい体の長手方向に平行に向く止着部から、これに対抗する他縁側の長孔に向け当てがい体の幅方向に延び、長孔経由部で引込線への巻き付け側に向け大きく方向転換されて自由端側に張力を受けるので、この張力は張力伝達ベルトの引込線への巻き付け方向から長孔部を経由して当てがい体の幅方向に向いて止着部に向かう大きな方向転換による長孔部でのより大きな扱き抵抗にてより大きく分散されて、止着部に集中するのをさらに緩和することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の張力伝達具によれば、当てがい体からその当てがい面側に延びる張力伝達ベルトの張力伝達の対象とする引込線への単純な巻き付けと、その巻き付け部から引き出した張力伝達ベルト途中部分の、当てがい体他端寄りのスリットへの、自由端側以遠の引き回しや長手方向への通し作業を必要としない側方からの単純な進入とによって、また、それとは逆の手順にて、対象引込線に対し作業能率よく着脱でき、架空引込線工事に要する時間を短縮することができる。
【0027】
また、装着状態では、当てがい体のスリットから反当てがい面側に引き出された張力伝達ベルトに働く引っ張りないしは張力によって、張力伝達ベルトが当てがい体への止着部とスリットとの間で緊張して、当てがい体の対象引込線側への引き付けを伴い、対象引込線まわりに巻き締まって面圧着し、ロープなどが交差して対象引込線を巻き締める場合のような局部圧迫なく、従って、対象引込線を傷めることなく、対象引込線との間に大きな摩擦力を無理なく得て、張力伝達ベルトの自由端側に働かされる張力を対象引込線に遊びや滑りなく確実に伝達し、架空引込線工事をスムーズに能率よく遂行させられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の張力伝達具に係る実施の形態について、図1〜図4を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0029】
本実施の形態の張力伝達具は、既述したように、電柱と引込対象である家屋などとの間に主として低圧用の2本または3本の線を軽く撚り合わせた引込線を架線する際に、架線作業時の張力を引込線に伝達する張力伝達具の場合の一例である。しかし、これに限られることはなく、本願発明は、類似の架線作業一般に適用することができる。
【0030】
図1(a)(b)に1つの例を示す張力伝達具1は、図2に示すように対象とする引込線2に側方から当てがう当てがい体3と、この当てがい体3の一端寄りに一端が止着されて他端の自由端側に架線時の張力を直接または間接に受ける張力伝達ベルト4と、を備えている。ここに、当てがい体3および張力伝達ベルト4は、架空引込線工事での引込線2を作業対象とする電気工事部材であるので、電気的な安全面から通常絶縁素材が用いられる。
【0031】
当てがい体3は、例えば、張力伝達ベルト4をそれに働かせる張力のもとに、当てがい体3の一端寄りと他端寄りとの間でもたらす緊張作用を利用して、張力伝達ベルト4を図2に示すように引込線2の外まわりに巻き締め、引込線2に架線するための張力を伝達するもので、それに耐える強度を確保するためポリカーボネート製とし、厚みを5mm前後に設定してある。また、形状は引込線2の外まわりのほぼ半周を囲う断面半円形状として曲げ剛性を高めてある。これによって凹溝状となった当てがい面3aは図2に示すように引込線2に当てがわれるときに相互間で心合わせ機能を発揮し、心ずれなく沿って安定する。なお、当てがい面3aの円弧半径は引込線2の既述したような太さに対し余裕のある25mm程度としてある。反当てがい面3bも当てがい面3aと同心となりその半径は30mm程度としてある。
【0032】
張力伝達ベルト4は、例えば、引込線2の外まわりに巻き締めて張力を伝達するもので、巻き付けやすい可撓性ないしは柔軟性、張力に対する耐久性などの特性を持つ必要があり、ポリエステル繊維を用いた織り組織、あるいは組み組織のものとした平ベルトとする。編み組織でもよいが伸びを抑えたものとしなければ引込線2に対する巻き締まりや当てがい体3の引込線2側への引き付けに難がある。また、平ベルトでも長手方向に滑り止めのためのやや凹凸を持つ表面組織にすると、張力伝達ベルト4に張力を与えるときの滑り止めや、引込線2の外まわりへの巻き締めによる張力伝達時の滑り止めに有効となる。しかし、引込線2の撚り合わせ線に局部的な外力を及ぼしダメージを与えてしまうような硬さや凹凸度合いとならないようにする必要がある。
【0033】
特に、本実施の形態の張力伝達具1の張力伝達ベルト4は、図1(a)(b)に示すように、当てがい体3への止着部5から当てがい体3の引込線2への当てがい面3a側に自由端側が延び、この自由端側が図2に示すように引込線2に巻き付けられるようにされている。これに対応して当てがい体3は図1(a)(b)に示すように、その他端寄りに張力伝達ベルト4を側方受け入れ口6aから受け入れて引込線2への前記巻き付けが行われる当てがい面3a側から反当てがい面3b側への引き出し状態とするスリット6を有したものとしている。
【0034】
当てがい体3の当てがい面3aの側に延びる張力伝達ベルト4は、基本的には当てがい体3と共に他からの制約を受けないフリー状態にあるので、張力伝達ベルト4は引込線2の外まわりに自由に巻き付けられる。例えば、図3、図4に示すように、当てがい体3への止着部5側を張力伝達の対象とする引込線2の外まわりに巻き付け、またこの巻き付けた張力伝達ベルト4の必要時点での引込線2に対する自由端側への引っ張りないしは張力の付与によって、当てがい体3の張力伝達ベルト4を止着している一端寄りでその当てがい面3a側を引込線2に引き付けられる。
【0035】
引込線2に巻き付けた張力伝達ベルト4は、引込線2への巻き付け部7の巻き付け終端から引き出した途中部分を、それ以遠の自由端側の引き回しや長手方向での通し作業なしに、当てがい体3の他端寄りにあるスリット6に対し、その当てがい体3側方の受け入れ口6aを通じて、当てがい体3の幅方向のスリット奥部にまで進入させられる。このスリット6への張力伝達ベルト4途中の幅方向の進入によって張力伝達ベルト4は、当てがい体3に対し引込線2への巻き付けを行っている当てがい面3a側から反当てがい面3b側への図2に示すような引き出し状態となる。
【0036】
これで張力伝達具1は引込線2への装着状態になり、張力伝達ベルト4の自由端側を当てがい体3に対し前記引き出し側に手で引っ張れば、引込線2の当てがい体3の他端寄りでその当てがい面3a側への引き付けを伴い、引込線2に対する巻き付き度を高められるので、より安定した装着状態が得られる。
【0037】
このような装着状態となった張力伝達具1では、張力伝達ベルト4の自由端側に直接または間接に電柱の取付点への引き上げや、引き付け、架線作業のための張力を働かされると、張力伝達ベルト4の前記装着状態での張力伝達ベルト4の引込線2への巻き付き度と、巻き付き接触面域の大きさとに応じた摩擦抵抗の増大を伴い引込線2まわりに図4に示す状態から図3に示す状態に巻き締まり、当てがい体3の引込線2側へのさらなる引き付けと、張力伝達ベルト4の引込線2への巻き付け部7の張力側への伸びと、を伴い引込線2まわりに面圧着して張力を引込線2に確実に伝達することができる。
【0038】
以上の結果、当てがい体3からその当てがい面3a側に延びる張力伝達ベルト4の張力伝達の対象とする引込線2への単純な巻き付けと、その巻き付け部7から引き出した張力伝達ベルト4途中部分の、当てがい体3端寄りのスリット6への、自由端側以遠の引き回しや長手方向への通し作業を必要としない側方からの単純な進入とによって、また、それとは逆の手順にて、対象引込線2に対し作業能率よく着脱でき、架空引込線工事に要する時間を短縮することができる。
【0039】
また、装着状態では、当てがい体3のスリット6から反当てがい面3a側に引き出された張力伝達ベルト4に働く引っ張りないしは張力によって、張力伝達ベルト4が当てがい体3への止着部5とスリット6との間で緊張して、当てがい体3の対象引込線2側への引き付けを伴い、対象引込線2まわりに巻き締まって面圧着し、ロープなどが交差して対象引込線2を巻き締める場合のような局部圧迫なく、従って、対象引込線2を傷めることなく、対象引込線2との間に大きな摩擦力を無理なく得て、張力伝達ベル4の自由端側に働かされる張力を対象引込線2に遊びや滑りなく確実に伝達し、架空引込線工事をスムーズに能率よく遂行させられる。
【0040】
ところで、図4は当てがい体3と引込線2に巻き付けた張力伝達ベルト4との関係を明瞭にするために、当てがい体3と張力伝達ベルト4を巻き付けた引込線2とを大きく引き離して示しており、張力伝達ベルト4の自由端側をスリット6から引き出して当てがい体3を引込線2側に引き付け、張力伝達ベルト4を引込線2に対し張力伝達可能な状態まで巻き締めるのに不便な状態となっている。
【0041】
つまり、張力伝達ベルト4の引込線2への巻き付けは、既述した張力伝達状態を得る上で、張力伝達ベルト4の当てがい体3への止着部5側で行うと張力伝達状態への巻き締め作業に好適となるが、当てがい体3の側を引込線2のまわりに引き回せば小さな引き回し域にて簡単に達成することができるし、張力伝達ベルト4の自由端側を引き回す場合でも巻き取り状態としておけば、巻き付けに必要な引き回し域を小さくして簡単に達成できる。
【0042】
特に、引込線2が空中に支持されている場合は、高所作業でありながら引込線2は安定し作業者の両手が空いているので、張力伝達ベルトの引込線2への巻き付けと当てがい体3の引込線2側への引き付けとを伴う張力伝達具1の引込線2への装着は容易に行える。一方、引込線2が地上に横たわる場合でも引込線2の所要部分を浮かせて支持すれば地上作業でも前記高所作業の場合同様に両手が空く状態で装着作業を進められる。
【0043】
また、引込線2が地上に横たわったままでも、当てがい体3を片手で引込線2に当てがいながら引込線2を持ち上げた状態で、他方の手で当てがい体3の当てがい面3a側に延びる張力伝達ベルト4を引込線2のまわりに巻き付けた後、その巻き付け部7から引き出した張力伝達ベルト4の途中をスリット6のスリット奥部へその受け入れ口6aを通じ幅方向に進入させれば、張力伝達具1の一応の装着状態が得られて安定し、以降両手にて当てがい体3の引込線2側への引き付けを伴う張力伝達ベルト4の引込線2への巻き締めを行って張力伝達具1を張力伝達状態に装着することが難なく達成できる。1つの実施例を示すと、前記張力伝達ベルト4の幅が33mm程度の場合で、3回程度の巻き付け回数とすれば、低圧用の引込線2を架線する場合に必要な張力を十分に伝達することができた。しかし、これに限られることはない。
【0044】
なお、張力伝達ベルト4の引込線2への巻き付け時、または、巻き外し時、当てがい体3は図3に示すように他端側を引込線2から引き離しておくことで巻き付け、巻き外しの作業が容易になるし、巻き付け時ではその初期に当てがい体3の一端側を引込線2に引き付けておくと、その後の巻き付け作業を初期張力伝達ができる程度に容易に達成されるようにしながら、巻き終わり時の張力伝達ベルト4をスリット6へ進入させての引き出しの際に当てがい体3の他端側を引込線2側に簡単に引き付けて、所定の装着状態とすることができる。
【0045】
ここで、スリット6は、受け入れている張力伝達ベルト4の自由端側に張力が働いたときの張力伝達ベルト4の長手方向の滑りを許容するようにする。これにより、張力伝達ベルト4に働く張力は、張力伝達ベルト4に対しその当てがい体3のスリット6から当てがい体3および引込線2に平行となる引き出し向きに安定させようとして、張力伝達ベルト4を当てがい体3の当てがい面3a側からスリット6を通じた反当てがい面3b側への引き出しに図2に示すようなZ状の屈曲を与えて扱き抵抗の原因となるが、スリット6が張力伝達ベルトの長手方向の滑りを許容することで、そのような扱き抵抗を軽減して張力の働き方向を特に工夫することなく、張力による当てがい体3の引込線2側への引き付け、および長力伝達ベルト4の引込線2まわりへの巻き締まりがスムーズに十分に達成されるようにすることができる。図1(a)、図2に示す場合、スリット6の反当てがい面3b側への開口における張力側となる開口縁、つまり、スリット6からの引き出し状態で張力が与えられる張力伝達ベルト4が強い扱き抵抗を受けるコーナとなる開口縁に、断面ほぼ半円状の突条6bを形成し、この突条6bによって前記コーナが角ばらずに丸みを持つようにして張力伝達ベルト4の滑りをよくし扱き抵抗が大きく低減されるようにしている。
【0046】
この結果、張力を与えられたときの張力伝達ベルト4はスリット6に対して大きな扱き抵抗や損傷を受けることなくスムーズに滑って当てがい体3への止着部5との間で与えられる張力の大きさに見合って巻き締まり、与えられている張力を引込線2に対し滑りなく確実に伝達することができる。従って、引込線2の架線作業自体の作業効率も高められる。
【0047】
また、スリット6は、当てがい体3の側方受け入れ口6aから他端の側に順次に変位する屈曲形態の側方スリット域6cを有して当てがい体3の幅方向にほぼ向く中央スリット域6dに繋がるようにしている。このように、スリット6の当てがい体3側方の受け入れ口6aから張力伝達ベルト4の途中部分を受け入れる側方スリット域6cが、受け入れ口6aら他端の側に順次に変位する屈曲形態をなしていることにより、これに繋がる当てがい体3の幅方向にほぼ向く中央スリット域6dにまで進入して自由端側に引っ張られ、あるいは張力が働かされている張力伝達ベルト4の引き出し方向に対し、反引き出し方向の変位をもって当てがい体3側方の受け入れ口6aに向かう関係を満足して、張力伝達ベルト4が中央スリット域6dから側方スリット域6c側に逃げ、また側方スリット域6cから受け入れ口6aを通じてスリット6から外れてしまうようなことを防止することができる。特に、張力伝達ベルト4が中央スリット域6dまで十分に進入させられず、側方スリット域6cにまだ位置していたり、一部が掛かっていたりした状態で引っ張られたり、張力を働かされることがあっても、側方スリット域6cはその屈曲形態によって張力伝達ベルト4に働くスリット6からの引き出し時の長手方向に向く圧接力に中央スリット6d側に向く分力を生じさせ、張力伝達ベルト4を中央スリット域6dの側に移動させられる。従って、スリット6が当てがい体3の側方に受け入れ口6aによって開放されていても、張力伝達作業に際し張力伝達ベルト4がスリット6から外れるのを確実に防止することができる。
【0048】
また、張力伝達ベルト4は図1(a)(b)に示すように、当てがい体3への止着部5から当てがい体3の反当てがい面3b側に延びた後、当てがい体3に設けた長孔11を通じ当てがい体3の当てがい面3a側に延びている。これにより、張力伝達ベルト4の自由端側に与えられた長力が張力伝達ベルト4の当てがい体3への止着部5に直接及ぶのを、それより手前にある当てがい体3上の長孔11への張力伝達ベルト4の通し部での扱き抵抗と、この扱き抵抗を伴う張力伝達ベルト4の止着部5から通し部までの反当てがい面3bへの圧着による引っ張り摩擦抵抗と、によって分散および低減され、止着部5に張力が集中するのを緩和することができる。この結果、張力伝達ベルト4はそれに与えられる張力によって当てがい体3への止着部5との間で緊張することにより巻き締まり、引込線2に張力を伝達するものであるが、止着部5に張力が集中することによる疲労や劣化を低減され、寿命が長大化する。
【0049】
特に、長孔11は図1(a)に示すように、当てがい体3の長手方向に対して傾斜していることにより、止着部5から延びる張力伝達ベルト4を当てがい体3の反当てがい面3b側から長孔11を通じ当てがい面3a側に延びるように引き出して引込線2への巻き付けに供するのに、張力伝達ベルト4は当てがい体3の長孔11の向きに従って当てがい体3および引込線2の長手方向に傾斜して当てがい面3a側に延びるので、引込線2に巻き付けていく斜め方向に沿わせやすく、無理なく皺や不自然な重なりなど無く張力側に螺旋をなしてスムーズに巻き付けていける。従って、止着部5に対する長孔11の当てがい体3幅方向の対向関係によって張力の止着部5への集中を緩和しながら、長孔11以遠の張力伝達ベルト4の引込線2への巻き付け途中の部分に生じた皺や不自然な重なり部が張力伝達時に引込線2の撚り線に局部的な圧迫を加えて傷めたり疲労を与えるようなことを防止することができる。
【0050】
さらに、張力伝達ベルト4は図1(a)(b)に示すように、その一端が当てがい体3の一縁寄りに当てがい体3の長手方向に平行な向きで止着され、長孔11は、当てがい体3の張力伝達ベルト4一端の止着部5に対向する他縁寄りに設けている。これにより、張力伝達ベルト4は、その一端の当てがい体3の一縁寄りで当てがい体3の長手方向に平行に向く止着部5から、これに対抗する他縁側の長孔11に向け当てがい体3の幅方向に延び、長孔11経由部で引込線2の巻き付け面3a側に向け大きく方向転換されて自由端側に張力を受けるので、この張力は、伝達ベルト4の引込線2への巻き付け方向から長孔11部を経由して当てがい体3の幅方向に向いて止着部5に向かう大きな方向転換による長孔11部でのより大きな扱き抵抗にてより大きく低減されて、止着部5に集中するのをさらに緩和することができる。
【0051】
張力伝達ベルト4の止着部5は図1(a)(b)に示すように、当てがい体3の一縁とそれに沿って形成した通し孔12との間に止着壁3cを形成し、これに張力伝達ベルト4の一端部を通し孔12を通じ巻き付けて樹脂繊維の糸13により袋状に縫い合わせて止着してあり、糸13によるジグザグ振幅が張力方向となる小さなピッチでの縫製と、この縫製部15の張力方向での縫製幅Bを十分に設定することで張力によっても縫製が解けないようにしている。しかし、止着の具体的な方法は自由であり、図1(c)に示す例では、張力伝達ベルト4の一端側を2つ折りにして当てがい体3の通し孔12に反当てがい面5bの側から当てがい面5aの側に通し、当てがい面5a側に出た折り返し部4aに長孔12に比して長いピン15を通して、ピン15の長孔2よりも長い両端部が当てがい面5aに当たって抜け止めとなることで止着するようにしてあり、長孔12から反当てがい面5bの側に出た前記2つ折りによる重畳部を糸13により前述の場合同様の条件にて袋縫い合わせてある。この場合、糸13による縫製作業が折り返し部4aを長孔12に通す前の、張力伝達ベルト4単独の状態で済ませておけるので、図1(a)(b)に示す場合よりも縫製作業が楽である。もっとも、縫製に代えて超音波溶着を採用してもよいし、併用もできる。
【0052】
最後に、張力伝達ベルト4は人手などによって直接張力を及ぼす場合、張力側となる自由端側はストレートなままでもよいし、手を通すループ部を形成するなどすればよい。図1(a)に示す例では、張力伝達ベルト4の自由端に既述の場合同様に糸13で縫製した袋状部16に構造用鋼からなる連結環17を接続してあり、人手や巻き上げ機、張線器などによる張力源側のフックなど連結具と簡単かつ確実に連結して、電柱の取付点への引き上げや、引き付け、その後の所定緩み度とするまでの架線作業が行われるようにしてある。これにより、張力源の種類の違いにかかわらず張力伝達ベルト4の長さを張力伝達具1を引込線2に装着して張力の伝達に供せる必要最小限の長さにすることができ、張力伝達具1として提供しやすく、かつ、取り扱いやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の張力伝達具は、低圧用の引込線の架線作業に際し、引込線に対し簡単に着脱できる上に、装着時には引込線に疲労や損傷を与えることなく張力を確実に伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態に係る張力伝達具を示し、(a)は平面図、(b)は張力伝達ベルトの当てがい体への止着例を示す止着部の断面図、(c)は別の止着例を示す止着部の断面図である。
【図2】同張力伝達具の張力伝達状態を示す断面図である。
【図3】同張力伝達具の張力伝達ベルト巻き付け作業例を示す側面図である。
【図4】同張力伝達具の当てがい体と、この当てがい体から延びて対象引込線に巻き付けて当てがい体から引き出した張力伝達ベルトと、引込線との関係を、当てがい体と引込線とを引き離した状態で示す説明図である。
【図5】従来のロープを利用した張力伝達状態でのロープと対象引込線との接続状態を示す側面図である。
【図6】図5に示す接続ないしはその取り外しを高所にて行う場合の一例を示す斜視図である。
【図7】引込線の架線状態と、従来のロープによる張力伝達状態での架線作業状態と、を示す概略図である。
【符号の説明】
【0055】
1 張力伝達具
2 引込線
3 当てがい体
3a 当てがい面
3b 反当てがい面
3c 止着壁
4 張力伝達ベルト
5 止着部
6 スリット
6a 受け入れ口
6b 突状
6c 側方スリット域
6d 中央スリット域
7 巻き付け部
11 長孔
12 通し孔
13 糸
15 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電柱と引込対象との間に引込線を架線する際に、架線作業時の張力を引込線に伝達する張力伝達具であって、
対象引込線に側方から当てがう当てがい体と、この当てがい体の一端寄りに一端が止着されて他端の自由端側に架線時の張力を直接または間接に受ける張力伝達ベルトと、を備え、張力伝達ベルトは、当てがい体への止着部から当てがい体の引込線への当てがい面側に自由端側が延びて引込線に巻き付けられるようにされ、当てがい体は、その他端寄りに張力伝達ベルトを側方受け入れ口から幅方向に受け入れて引込線への前記巻き付けが行われる当てがい面側から反当てがい面側への引き出し状態とするスリットを有したことを特徴とする張力伝達具。
【請求項2】
当てがい体は、当てがい面が引込線に沿う凹面をないしてる請求項1に記載の張力伝達具。
【請求項3】
張力伝達ベルトは、当てがい体への止着部から当てがい体の反当てがい面側に延びた後、当てがい体に設けた長孔を通じ当てがい体の当てがい面側に延び、長孔は、当てがい体の長手方向に対して傾斜している請求項1、2のいずれか1項に記載の張力伝達具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−95098(P2009−95098A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261324(P2007−261324)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000219820)株式会社トーエネック (51)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)