説明

強化樹脂組成物

【課題】射出成形時の金型汚染を改善し、且つ耐熱性と流動性とのバランス、機械特性および耐湿性に優れ、難燃性に優れた充填材含有強化樹脂組成物の提供。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂および(b)スチレン系樹脂の合計を10〜90質量%、(c)リン化合物を1〜30質量%ならびに(d)充填材を1〜60質量%を含有し、前記成分(a)と前記成分(b)との質量比((a)/(b))が10/90〜100/0であり、前記成分(c)が特定の式(I)で表されるリン化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れた充填材を含有する強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル(以下、「PPE」ともいう)系樹脂とスチレン系樹脂とをベースとする混合樹脂(以下、「m−PPE樹脂」ともいう)は、PPE系樹脂とスチレン系樹脂との混合比率に応じて、スチレン系樹脂単独からPPE系樹脂単独までの全範囲に亘り唯一のガラス転移点を持つポリマーアロイである。このようなm−PPE樹脂は、成形加工性が改善され、所定の耐熱性を発揮する。さらに、m−PPE樹脂は、電気特性、寸法安定性、耐衝撃性、耐酸性、耐アルカリ性、低吸水性および低比重性などに優れる。さらにまた、m−PPE樹脂は、各種充填材を配合することにより強度や寸法特性が改善され、幅広い用途に使用されている。
【0003】
また、m−PPE樹脂は、有害なハロゲン系化合物やアンチモン化合物を用いずに難燃化を図ることができるため、環境面や安全衛生面にも優れる。難燃化されたm−PPE樹脂は、各種の電気・電子部品、事務機器部品、自動車部品、建材、その他各種外装材や工業用品などの用途に広範囲に利用されている。
【0004】
一方、m−PPE樹脂の難燃化には、一般にハロゲン含有化合物を用いずに、有機リン酸エステルが用いられている。このような有機リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのモノリン酸エステル、レゾルシノールやビスフェノールAなどのフェノール類と、三塩化リン化合物とから得られる縮合リン酸エステルなどが挙げられる。
【0005】
しかしながら、これらの有機リン酸エステルにより難燃化された樹脂組成物は、耐熱性の低下、物性の低下、高温高湿下における吸湿特性の低下、射出成形時の発煙、成形時の金型汚染および付着物による成形品の不具合などの問題を指摘されている。その中で、ビスフェノールAなどのフェノール化合物とリン化合物とから得られる縮合リン酸エステルにより難燃化された樹脂組成物は、比較的問題が少ないと言われている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3参照)。
【0006】
また、充填材を配合した強化樹脂組成物は、充填材を配合していない樹脂組成物に比較して難燃性の低下、特に難燃性のバラツキが大きく、結果として難燃性能が劣る材料となるため、その改善技術が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5および特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−118957号公報
【特許文献2】特開平05−186681号公報
【特許文献3】特開平07−053876号公報
【特許文献4】特開昭61−108658号公報
【特許文献5】特開平09−291208号公報
【特許文献6】特開平09−291209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、m−PPE樹脂の用途において、部品の軽量・薄肉化が可能で、高温使用下における耐久性に優れ、且つ成形加工性(流動性、離型性、低揮発性など)に優れる高耐熱材料が求められている。このような高耐熱材料を得るためには、ますますPPE系樹脂の比率を高くする必要がある。
【0009】
このようにPPE系樹脂の比率を高くした樹脂組成物において、難燃性を得るために、特許文献1〜3に記載の縮合リン酸エステルを配合した場合には、(1)耐熱性や機械特性の低下が大きいこと、(2)近年の軽量・薄肉化対応のための厳しい射出成形条件下(例えば成形温度が高い場合や射出速度が速いなど)での、成形時の金型汚染(モールドデポジット、難燃化剤の金型への移行)およびその付着物に基因した成形品の不具合(外観、ストレスクラックなど)が発生することなどの問題点がある。
【0010】
さらに、m−PPE樹脂において、充填材を多く配合したり、PPE系樹脂の比率を高くすると流動性が低下するという問題がある。
【0011】
また、特許文献4〜6に記載の技術では、難燃化剤に基因する吸湿特性が充分でない。当該吸湿特性は、電気特性、機械物性および耐熱性に悪影響を及ぼすため、優れた吸湿特性を有する樹脂組成物の開発が望まれている。
【0012】
本発明は、射出成形時の金型汚染を抑制し、耐熱性と流動性とのバランスに優れ、機械特性、吸湿特性および難燃性に優れた充填材含有ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究した結果、充填材含有m−PPE樹脂組成物において、各成分の含有量を制御し、特定のリン化合物を難燃化剤として用いることにより上記課題を解決することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち本発明は以下のとおりである。
【0015】
[1]
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂および(b)スチレン系樹脂の合計を10〜90質量%、
(c)リン化合物を1〜30質量%ならびに
(d)充填材を1〜60質量%を含有し、
前記成分(a)と前記成分(b)との質量比((a)/(b))が、10/90〜100/0であり、
前記成分(c)が下記一般式(I)で表されるリン化合物である、樹脂組成物。
【0016】
【化1】

【0017】
[式(I)中、
Aは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基または炭素原子数7〜12のアラルキル基を表し、
1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数5〜6のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基または炭素原子数7〜12のアラルキル基を表し、
xおよびyは、それぞれ独立して0、1、2、3または4であり、
nは、それぞれ独立して0または1であり、
Nは、1〜30である。]
[2]
前記成分(a)と前記成分(b)との質量比((a)/(b))が、20/80〜99/1である、[1]に記載の樹脂組成物。
【0018】
[3]
前記成分(c)の酸価が0.5以下である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0019】
[4]
前記成分(c)が式(II)で表されるリン化合物である、[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0020】
【化2】

【0021】
[式(II)中、Nは、1〜10である。]
[5]
前記成分(d)が板状充填材を含有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0022】
[6]
前記成分(d)が板状充填材を前記成分(d)の全量に対して50質量%以上含有する、[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0023】
[7]
前記成分(d)が、ガラスフレーク、マイカ、クロライトおよびタルクからなる群より選択される1種以上を含有する、[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、射出成形時の金型汚染を抑制し、難燃性、耐熱性と流動性とのバランスに優れ、機械特性、吸湿特性および難燃性に優れる、新規な樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本願発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0026】
≪樹脂組成物≫
本実施形態に係る樹脂組成物は、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂および(b)スチレン系樹脂の合計を10〜90質量%、(c)リン化合物を1〜30質量%ならびに(d)充填材を1〜60質量%を含有し、前記成分(a)と前記成分(b)との質量比((a)/(b))が、10/90〜100/0であり、前記成分(c)が特定の式(I)で表されるリン化合物である。
【0027】
以下、樹脂組成物の各構成成分について、詳細に説明する。
【0028】
1.原材料
[(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂]
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下「(a)PPE系樹脂」または「成分(a)」とも記す。)とも記す。)は、下記式(III)および/または(IV)で表される構造単位が繰り返されてなる重合体であることが好ましい。(a)PPE系樹脂は、単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、共重合体(コポリマー)であってもよい。
【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
上記の式(III)および式(IV)中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である。
【0032】
PPE系樹脂の単独重合体として、以下に制限されないが、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテルポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、およびポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテルが挙げられる。入手の容易性および価格の観点から、好ましくは、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルである。
【0033】
ここでいう単独重合体には、繰り返し単位構造中の一部の構造単位が、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル構造単位および/または2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル構造単位で置換された構造を有するものも含まれる。
【0034】
加工時の分子量調整の容易性の観点から、最も好ましくは、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルの一部の構造単位が、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル構造単位および/または2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル構造単位で置換された共重合体である。
【0035】
一方、PPE系樹脂の共重合体とは、フェニレンエーテル構造を主たる構造単位とする共重合体であり、前記共重合体として、以下に制限されないが、例えば、上記した式(III)および/または(IV)で表される構造単位からなるものが挙げられる。
【0036】
前記共重合体の具体例として、以下に制限されないが、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体、および2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとo−クレゾールとの(3元)共重合体が挙げられる。
【0037】
実用上の観点から、(a)PPE系樹脂の還元粘度(ηsp/c)は、好ましくは0.3〜0.7であり、より好ましくは0.4〜0.6である。なお、本実施形態において、「実用上の観点」とは、樹脂組成物(コンパウンド品)を実際に使用する上での判断を意味する。当該判断基準は、成形加工性、機械特性、耐薬品性、難燃性等である。また、還元粘度(ηsp/c)は、ウベローデ粘度管により、30℃において0.5g/dlの濃度のクロロホルム溶液で測定した値である。
【0038】
また、(a)PPE系樹脂の[重量平均分子量/数平均分子量]の比は、好ましくは1.8〜5.0であり、より好ましくは2.2〜3.5である。なお、本明細書における重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算の分子量を基準として算出された値である。
【0039】
(a)PPE系樹脂としては、上記のような物性・特性を具備するポリフェニレンエーテルであることが、成形流動性の観点からも好適である。中でも、上記のような物性・特性を具備するポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが特に好ましい。
【0040】
さらに、本実施形態においては、(a)PPE系樹脂として、ポリフェニレンエーテルの一部または全部を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性した、変性ポリフェニレンエーテルを用いることもできる。
【0041】
このような変性ポリフェニレンエーテルは、特開平2−276823号公報、特開昭63−108059号公報や特開昭59−59724号公報などに記載されており、例えばラジカル開始剤の存在下または非存在下で、ポリフェニレンエーテルに不飽和カルボン酸やその誘導体を溶融混練し、これらを反応させることによって得られる。また、上記変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸またはその誘導体とを、ラジカル開始剤の存在下または非存在下で有機溶剤に溶解し、かかる溶液中で反応させることによっても得られる。不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリフェニレンエーテルは、未変性のポリフェニレンエーテルに対して無機充填材との密着性が良好であり好ましい。
【0042】
上記の(a)PPE系樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
[(b)スチレン系樹脂]
(b)スチレン系樹脂(以下「成分(b)」とも記す。)は、スチレン系化合物の単独重合体またはスチレン系化合物と共重合可能な化合物との共重合体であることが好ましい。また、これらの1種以上のスチレン系化合物をゴム質重合体存在下で重合して得られる重合体であってもよい。
【0044】
上記のスチレン系化合物として、以下に制限されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレンが挙げられる。中でもスチレンが好ましい。
【0045】
また、上記のスチレン系化合物と共重合可能な化合物として、以下に制限されないが、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;アクリロニトリルやメタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;無水マレイン酸、フェニルマレイミドなどのマレイン酸誘導体が挙げられる。これらの化合物は、上述の通り、上記のスチレン系化合物とともに使用される。前記スチレン系化合物と共重合可能な化合物の使用量は、上記スチレン系化合物との合計量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。
【0046】
上記のゴム質重合体として、以下に制限されないが、例えば、共役ジエン系ゴム、共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体、エチレン−プロピレン共重合体系ゴムが挙げられる。ゴム質重合体の具体例としては、以下に制限されないが、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体およびスチレン−ブタジエンブロック共重合体、ならびにこれらを部分的にまたはほぼ完全に水素添加したゴム成分が挙げられる。
【0047】
市場で入手できる(b)スチレン系樹脂の具体例としては、(ホモ)ポリスチレン(アタクチックポリスチレン)、シンジオタクチックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン(ゴム変性ポリスチレン)、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂等のゴム変性スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−(メタ)アクリレート共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体などが挙げられる。
【0048】
好ましい(b)スチレン系樹脂は、ポリスチレンおよび/またはゴム変性ポリスチレンである。また、スチレン−アクリロニトリル共重合体は、アクリロニトリルを7〜15質量%含有することが好ましい。このようなスチレン−アクリロニトリル共重合体の含有量を、全スチレン系樹脂(b)100質量%に対して、最大80質量%まで、好ましくは20〜70質量%までにすることによって、さらに成形流動性と耐熱性とのバランスに優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
上述した成分(b)は、一種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
[(c)リン化合物]
(c)リン化合物(以下「成分(c)」とも記す。)は、下記一般式(I)で表されるリン化合物である。
【0050】
【化5】

【0051】
上記式(I)中、Aは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基、または炭素原子数7〜12のアラルキル基を表し、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数5〜6のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基または炭素原子数7〜12のアラルキル基を表し、xおよびyは、それぞれ独立して0、1、2、3または4であり、nは、それぞれ独立して0または1であり、Nは、1〜30である。
【0052】
上記式(I)中、Aは、それぞれ独立してメチル基またはフェニル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して炭素原子数6〜20のアリール基であることが好ましく、フェニル基、キシレニル基、クレジル基であることがより好ましい。xおよびyは、それぞれ独立して0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。nは、1であることが好ましい。Nは、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜5であることが特に好ましい。
【0053】
上記一般式(I)で表されるリン化合物は、一般にはNの異なるリン化合物の混合物である。この場合、Nは平均値として表し、当該平均値が上記範囲内であればよい。したがって、Nが上記範囲外であるリン化合物が不純物として含まれることを排除するものではない。N=0の場合は、モノリン化合物を表し、一般に不純物として含まれる。
【0054】
前記成分(c)は、下記式(II)または下記式(II)’で表されるリン化合物であること
が好ましい。
【0055】
【化6】

【0056】
【化7】

【0057】
上記式(II)または上記式(II)’中、Nは、1〜30であり、1〜10であることが好ましく、1〜5であることが特に好ましい。
【0058】
上記一般式(II)または上記式(II)’で表されるリン化合物は、一般にはNの異なるリン化合物の混合物である。この場合、Nは平均値として表し、当該平均値が上記範囲内であればよい。したがって、Nが上記範囲外であるリン化合物が不純物として含まれることを排除するものではない。N=0の場合はモノリン化合物を表し、一般に不純物として含まれる。
【0059】
これらのリン化合物は、特許公報WO2003−089442A1号および特開2008−202009号に記載の方法で製造できる。また、一般に市販されており、たとえば株式会社ADEKAのFP800が知られている。
【0060】
上述した成分(c)は、一種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0061】
前記成分(c)の酸価は、0.5以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.05以下であることが特に好ましい。前記成分(c)の酸価が前記範囲内であると、樹脂組成物における金型汚染が少なく耐湿性などの特性が良好となる傾向にある。なお、酸価は、JIS K2501に準拠して得られる値である。
【0062】
前記成分(c)の粗生成物は、通常、不純物の影響により酸価が高い。前記成分(c)の酸価は、成分(c)をトルエンに溶解させ、酸あるいは塩基を含む水溶液で洗浄することによって下げることができる。当該酸価は洗浄の程度によって制御することができる。
【0063】
本実施形態に係る樹脂組成物においては、上述した成分(c)は、難燃化剤として作用する。このような難燃化剤としての成分(c)とともに、公知の難燃化剤を用いてもよい。公知の難燃化剤としては、例えば上記成分(c)以外のリン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、ホスフィン酸金属塩化合物、ポリリン酸塩、赤リン等が挙げられる。これらの中から選択される1種以上の公知の難燃化剤を、難燃化剤全量の50質量%以下の範囲で上述した成分(c)とともに併用することができる。
【0064】
併用可能な上記成分(c)以外のリン酸エステル化合物の具体例としては、トリフェニルフォスフェート、トリスノニルフェニルフォスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルフォスフェート)、レゾルシノールビス[ジ(2,6−ジメチルフェニル)フォスフェート]、2,2−ビス{4−[ビス(フェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−[ビス(メチルフェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン等が挙げられるがこれらに制限されることはない。さらに上記以外にリン系難燃化剤としては、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェートなどのリン酸エステル系難燃化剤、ジフェニル−4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモベンジルホスフォネート、ジメチル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、ジフェニル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2、3−ジブロモプロピル)−2、3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、およびビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェートハイドロキノニルジフェニルホスフェート、フェニルノニルフェニルハイドロキノニルホスフェート、フェニルジノニルフェニルホスフェートなどのモノリン酸エステル化合物、およびビスフェノールA・ビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールA・ビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジキシレニルホスフェート)などの芳香族縮合リン酸エステル化合物などが挙げられる。
【0065】
これらの中では、成形時のガス発生が少なく、熱安定性などに優れることから芳香族縮合リン酸エステル化合物が好適に用いられる。これらの芳香族縮合リン酸エステル化合物は、一般に市販されており、例えば、大八化学工業(株)のCR741、CR733S、PX200などが知られている。特に好ましいのは、酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られる値)の芳香族縮合リン酸エステル化合物である。
【0066】
ホスファゼン化合物としては、フェノキシホスファゼンおよびその架橋体が好ましく、特に好ましいのは、酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られた値)のフェノキシホスファゼン化合物である。
【0067】
ホスフィン酸金属塩化合物としては、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩およびこれらの縮合物などが挙げられ、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。
【0068】
本実施形態に係る樹脂組成物には、難燃助剤としてポリテトラフルオロエチレン、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、メロンやメレムなどの環状窒素化合物などを含んでいてもよい。上記難燃助剤の含有量は、成分(a)および成分(b)の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.02〜5質量部の範囲である。
【0069】
前記ポリテトラフルオロエチレンは、分子量が10万以上、好ましくは20万〜300万程度のものが望ましい。このため、ポリテトラフルオロエチレンが配合された樹脂組成物は、燃焼時の滴下が抑制される。さらに、ポリテトラフルオロエチレンとシリコーン樹脂とを併用すると、ポリテトラフルオロエチレン単独のときに比べて、さらにドリップを抑制し、しかも燃焼時間を短くすることができる。
【0070】
また、従来から知られた各種難燃剤や難燃助剤、例えば、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の水酸化物、ホウ酸亜鉛化合物、スズ酸亜鉛化合物、さらにはシリカ、シリカアルミナなどの無機ケイ素化合物などを添加して更なる難燃性の向上も可能である。
【0071】
[(d)充填材]
本実施形態に用いる(d)充填材(以下「成分(d)」とも記す。)の具体例としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、タルク、マイカ、クロライト、ワラストナイト、カオリナイト、焼成クレー、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、シラスバルーンなどの天然鉱物や人工充填材が挙げられる。これらの成分(d)は、一種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0072】
また、(d)充填材の形状としては、繊維状、板状(鱗片状、層状含む)、針状、球状のいずれであってもよい。
【0073】
前記成分(d)は、板状充填材を含有することが好ましい。また、前記成分(d)は、前記成分(d)の全量に対して、板状充填材を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上含有する。
【0074】
本実施形態において、(d)充填材として少なくとも1種の板状充填材を含有させることで、従来の樹脂組成物に対して、寸法特性の点で顕著な優位性が得られる。(d)充填材としては、強度と寸法性とのバランスからはマイカを用いることが好ましく、難燃特性面ではクロライトを用いることが好ましい。
【0075】
ガラス繊維は、平均直径が20μm以下のものが好ましく、さらに5〜15μmのものが機械特性ならびに寸法特性のバランスの観点から好ましい。ガラス繊維の繊維長は特定されるものではなく、カットされていないガラスロービングも所謂長繊維ガラス繊維として使用可能であるが、3〜15mm程度のチョップドストランドが一般的に市販されており取り扱い上からも好ましい。この場合の集束本数は、100〜5000本が好ましい。原料ガラスの組成は、無アルカリのものが好ましく、例の一つにEガラスがある。ガラス繊維の平均直径が20μmを超えると、機械的強度の向上度が小さくなり、成形反り量が大きくなる傾向にある。寸法特性の観点からは、カットファイバーとして市販されている0.1〜0.5mm程度の繊維長のガラス繊維、ミルドファイバーとして市販されている0.1mm以下の繊維長の粉状ガラス繊維が用いられる。樹脂組成物の強度を重視する場合にはガラスロービングの長繊維やチョップドストランドを、外観や寸法異方性を重視する場合にはカットファイバーやミルドファイバーが好適に使用される。これらの各種ガラス繊維は、多くのガラスメーカーから入手できる。ガラスの種類としては、一般にEガラスが用いられるが、CガラスやECRガラスも用いることができる。
【0076】
ガラス繊維はそのまま使用することもできるが、一般には、樹脂との密着性を高めるための表面処理剤および取り扱い性を向上させるための集束剤で処理してから使用することが好ましい。集束剤は、通常、フィルム形成剤、界面活性剤、柔軟剤、帯電防止剤、潤滑剤等より構成される。樹脂成分とガラス繊維との親和性あるいは界面結合力(密着性)を高める目的で、表面処理剤としての種々のカップリング剤を使用することもできる。カップリング剤としては通常はシラン系、クローム系、チタン系等のカップリング剤を含む。中でもγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;ビニルトリクロロシラン;γ―アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン等のシラン系カップリング剤を含むものが好ましい。この際、非イオン・陽イオン・陰イオン型等各種の界面活性剤や脂肪酸・金属石鹸・各種樹脂等の分散剤による処理を合わせて行うことが、機械的強度および混練性の向上の点で好ましい。
【0077】
炭素繊維は、市販品として東レ(株)社製のトレカ(登録商標)カットファイバーあるいはミルドファイバー、三菱レイヨン(株)社製のパイロフィル(登録商標)チョプドファイバーなどが使用できる。
【0078】
チタン酸カリウム繊維は、市販品として大塚化学(株)社製のティスモ(登録商標)などが使用できる。
【0079】
本実施形態に係る樹脂組成物は、成形品の寸法異方性を特に重視する場合、成分(d)として、板状または鱗片状の無機充填材を含有することが好ましい。板状または鱗片状の無機充填材としては、ガラスフレーク、マイカ、クロライトおよびタルクからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0080】
本実施形態に用いるガラスフレークは、板状のものであれば特に制限されない。板状のガラスフレークの製法としては、溶融ガラスのバルーンを破砕するバルーン法や超遠心力によるスパン法などが知られている。一般に篩分けによる重量平均径が0.05mm〜2mm、厚み1〜10μmのものが利用され、樹脂組成物中の長径が1000μm以下、好ましくは1〜500μmの範囲であり、且つ重量平均アスペクト比(重量平均長径と重量平均厚みとの比)が5以上、好ましくは10以上、更に好ましくは30以上のものがよい。ガラスフレークを他の成分と混合して樹脂組成物を調製する際に、ガラスフレークは破壊されてそのサイズが小さくなる。樹脂組成物中のガラスフレークの長径および厚みの測定は、樹脂を溶解し、濾過してガラスフレークを取出し、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で観察することによって行なうことができる。
【0081】
上記ガラスフレークが長径2mmを超えるものは、樹脂への配合時に、樹脂との均一混合が困難となり、また成形品の物性にムラを生じる場合がある。一方、アスペクト比が5未満のものは、成形品の熱変形温度の向上が不充分で、またアイゾット衝撃強さおよび剛性が低下する傾向にある。また、上記ガラスフレークは、前記のガラス繊維同様に表面処理剤および集束剤で処理したものが好ましく、樹脂との親和性を改良する目的で、例えばシラン系(例えばアミノシラン系)やチタネート系等の種々のカップリング剤で表面処理したガラスフレークも使用できる。
【0082】
ガラスフレークの市販品の例としては、日本板硝子社のマイクログラス・フレカ(ガラスフレークの商標)、GLASS FLAKE Limited社(英国)のガラスフレークが挙げられる。ガラスフレークとしては市販されているものをそのまま用いることができるが、樹脂に配合する前に適当に粉砕してから用いてもよい。
【0083】
本実施形態に用いるマイカは、鱗片状の珪酸アルミニウム系の鉱物であり、例えばKAl2(AlSi310)(OH)2(白マイカ)、K(Mg,Fe)3(AlSi310)(OH)2(黒マイカ)、KMg3(AlSi310)(OH)2(金マイカ)、KLi2Al(Si410)(OH)2(鱗マイカ)、NaAl2(AlSi310)(OH)2(ソーダマイカ)、KMg3(AlSi310)F2(フッ素金マイカ)の化学式で示される種々のマイカが挙げられる。これらのマイカは、へき開性を有している。本実施形態では、上記の種類を問わずいずれのマイカも使用可能である。樹脂組成物の剛性と寸法特性とのバランスの観点から、マイカの平均粒径は、3〜200μm(篩分け法)が好ましく、より好ましくは5〜150μm、とりわけ好ましくは10〜100μmである。平均粒径が3μm以上で補強効果および寸法性に対して効果が顕著であり、200μm以下において成形品のウエルド強度の低下や表面外観の悪化が小さい。
【0084】
本実施形態に用いるタルクは、主成分がケイ酸マグネシウムであり、不純物としてカルシウム、鉄、ナトリウム、カリウム等の塩が含まれているものが一般的である。
【0085】
本実施形態に用いるタルクは、天然滑石を粉砕、分級したものであることが好ましく、鱗片状または平板状の鉱物であることが好ましい。また、前記タルクは、化学組成が含水ケイ酸マグネシウムとして4SiO2・3MgO・H2Oで表されるものが好ましい。当該含水ケイ酸マグネシウムは、産地により異なるが通常SiO2を55〜63質量%、MgOを25〜33質量%、灼熱減量(H2O)5質量%程度から構成されている。その他の少量成分としてFe23を0.1〜5質量%、Al23を0.1〜3質量%、CaOを0.1〜5質量%などを含有している。
【0086】
前記タルクの平均粒径は特に制限はないが通常、0.5μm〜20μm(篩分け法)が好ましく、より好ましくは1μm〜15μm、とりわけ好ましくは1.5μm〜10μmである。前記タルクの平均粒径が0.5μm以上であると、補強効果および寸法性に対して効果が顕著であり、前記タルクの平均粒径が20μm以下であると、成形品のウエルド強度の低下や表面外観の悪化が小さくなる傾向にある。
【0087】
本実施形態に用いるクロライトは、緑泥石群天然鉱石であることが好ましい。
【0088】
緑泥石群鉱石(B)とは、Mg、Fe、Mn,Ni等からなる酸化物、Al、Fe、Cr、Ti等からなる酸化物、Si、Al等からなる酸化物の各群から選択される所定のものを含有する鉱石であり、結晶構造としては、単斜晶系と斜方晶系とがある。
【0089】
緑泥石群鉱石の平均粒径は特に制限はないが通常、0.5μm〜30μm(篩分け法)が好ましく、より好ましくは1μm〜20μm、とりわけ好ましくは3μm〜15μmである。前記緑泥石群鉱石の平均粒径が0.5μm以上であると、補強効果および寸法性に対して効果が顕著であり、前記緑泥石群鉱石の平均粒径が30μm以下であると、成形品のウエルド強度の低下や表面外観の悪化が小さくなる傾向にある。
【0090】
本実施形態に係る樹脂組成物において、緑泥石群鉱石を含有させることにより、機械物性と寸法特性とを改善するだけでなく、難燃効果を発揮すると考えられる。
【0091】
緑泥石群鉱物としては、クロライトの他、クックアイト、ナンタイトなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特にクロライトが入手の容易さの観点から好ましい。クロライト製品は、富士タルク工業(株)や巴工業(株)から販売されている。
【0092】
本実施形態に用いるワラストナイトは、CaO・SiO2で示され、天然に産出する白色針状結晶性鉱物であることが好ましく、合成したものであってもよい。ワラストナイトの形状としては繊維状のものから塊状のものまであるが、繊維状のものが好ましく使用される。また繊維径の大きいワラストナイトは、溶融混練中に折れやすいので、繊維径5μm以下の成分を80質量%以上、好ましくは95質量%以上含有しているワラストナイトを使用することが好ましい。ワラストナイトの初期の平均繊維径は、2〜30μmが好ましく、より好ましくは3〜20μm、とりわけ好ましくは4〜15μmである。平均繊維径が2μm未満では加工中に破断しやすく、30μmを超えると補強効果が小さい。また、ワラストナイトの初期の平均繊維長は、20〜400μmが好ましく、より好ましくは25〜300μm、とりわけ好ましくは30〜250μmである。平均繊維長が20μm未満では補強効果が小さく、400μmを超えると加工中に破断しやすい。更に、初期の平均繊維長を初期の平均繊維径で除した値(=初期の平均アスペクト比)が、4〜50であることが好ましく、より好ましくは5〜40、とりわけ好ましくは6〜30である。平均アスペクト比が4未満では補強効果が小さく、50を超えると加工中に破断しやすくなる。
【0093】
本実施形態の難燃性に優れる強化樹脂組成物においては、特に板状充填材(鱗片状あるいは層状充填材を含む。)を用いる場合、従来から好適に用いられている難燃剤の芳香族縮合リン酸エステル化合物との組み合わせると、射出成形時の発煙抑制と金型汚染が改善され、且つ耐熱性と流動性とのバランス、耐衝撃性、難燃性、および吸湿特性に優れる傾向にある。上記特性を有する樹脂組成物は、厳しい寸法特性が要求される各種薄肉部品、精密部品等に極めて有用である。
【0094】
[各成分の割合]
本実施形態に係る樹脂組成物は、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂および(b)スチレン系樹脂の合計を10〜90質量%、(c)リン化合物を1〜30質量%ならびに(d)充填材を1〜60質量%を含有し、前記成分(a)と前記成分(b)との質量比((a)/(b))が、10/90〜100/0である。
【0095】
本実施形態に係る樹脂組成物において、各成分の割合は使われる用途によって異なり、耐熱性、機械特性、寸法性、難燃性などの要求レベルによって、上記範囲内で所望の組成が選択される。
【0096】
本実施形態に係る樹脂組成物において、(a)PPE系樹脂と(b)スチレン系樹脂との合計含有量は、(a)PPE系樹脂と(b)スチレン系樹脂との比率により必要特性に応じて任意選択されるが、通常10〜90質量%、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。ここで、(a)PPE系樹脂と(b)スチレン系樹脂との質量比((a)/(b))は、10/90〜100/0、好ましくは15/85〜95/5、より好ましくは20/80〜90/10の範囲であり、耐熱性と難燃性との観点から所望の比率を選択できる。近年の高耐熱材料の要求に対しては、(a)PPE系樹脂と(b)スチレン系樹脂との質量比((a)/(b))は、好ましくは40/60〜99/1、より好ましくは50/50〜95/5の範囲である。本実施形態に係る樹脂組成物は、このような(a)PPE系樹脂の割合の高い組成範囲、すなわち高温成形を必要とする組成範囲において、従来の材料に対して特に金型汚染(MD等)の抑制効果、吸水特性が優れている。
【0097】
本実施形態に係る樹脂組成物において、(c)リン化合物の含有量は、1〜30質量%、より好ましくは3〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%である。(c)リン化合物の含有量は、必要とされる難燃性レベルに応じて、耐熱性も加味してPPE系樹脂の配合比率を考慮しながら適宜決定されるが、1質量%以上で難燃効果が発現し、30質量%以下で難燃効果が充分に発現するとともに、耐熱性や機械特性を維持できる。
【0098】
本実施形態に係る樹脂組成物において、(d)充填材の含有量は、1〜60質量%、好ましくは3〜55質量%、より好ましくは5〜50質量%である。(d)充填材の含有量は、寸法性および機械特性を考慮しながら充填材の種類とともに適宜決定されるが、1質量%以上で強度効果が発現し、60質量%以下で寸法性が充分に発現するとともに、機械特性や耐熱性が向上する。
【0099】
[他の添加剤]
本実施形態に係る樹脂組成物は、更に、耐衝撃性、離型性および耐薬品性を向上させる目的で、(e)特定の水添ブロック共重合体(以下「(e)成分」とも記す。)および/または(f)ポリオレフィン系樹脂(以下「(f)成分」とも記す。)を添加することが好ましい。
【0100】
本実施形態に用いる(e)水添ブロック共重合体は、スチレンとジエン化合物とのブロック共重合体を水素添加して得られる共重合体である。好ましい(e)水添ブロック共重合体は、スチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量が15000以上であり、スチレンとジエン化合物とのブロック共重合体を水素添加によりジエン化合物重合体ブロック鎖の不飽和度を20%以下まで減じせしめた構造のものである。
【0101】
スチレンとジエン化合物との水添ブロック共重合体は、一般に知られた方法で製造でき、スチレン重合体ブロック鎖(以下「A」とも記す。)とジエン化合物重合体ブロック鎖(以下「B」とも記す。)とからなるブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体であり、A−B−A、A−B−A−B、(A−B−)4−Si、A−B−A−B−A等の結合構造を有するスチレン−ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物である。また、ジエン化合物重合体ブロックのミクロ構造は任意に選ぶことができるが、一般には1,2−ビニル結合は2〜60%、好ましくは8〜40%の範囲が望ましい。これらの水添共重合体は市販されており、例えば、旭化成ケミカルズ(株)のタフテック、クラレ(株)のセプトン、クレイトンポリマー(株)のクレイトンなどが挙げられる。
【0102】
他のスチレンとジエン化合物との水添ブロック共重合体としては、スチレンとジエン化合物とのランダム共重合体のブロック(以下「C」とも記す。)の水素添加物を含有するランダム水添ブロック共重合体も用いることができる。その構造例としては、A−C、A−C−A、A−C−A−C、(A−C−)4−Si、A−B−C、A−B−C−A、C−A−C等の各種結合構造を有するスチレン−ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。このランダム水添共重合体は市販されており、例えば、旭化成ケミカルズ(株)のSOE(登録商標)などが挙げられる。
【0103】
本実施形態において、スチレン重合体ブロック鎖は少なくとも1個のブロック鎖が数平均分子量15,000以上必要であり、より好ましくは20,000以上、さらに好ましくは全てのスチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量が15,000以上であることが望ましい。本実施形態で用いられる水添ブロック共重合体は、スチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量15,000以上であれば、スチレン重合体ブロックとジエン化合物重合体ブロックとの比率はそれほど問題にはならないが、スチレン重合体ブロック成分の好ましい含有量の範囲は30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%の範囲である。スチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量が15,000以上であると、ポリオレフィン系樹脂との併用効果が達成され、離型性を向上させながら耐衝撃性に優れる傾向にある。
【0104】
本実施形態に用いる(f)ポリオレフィン系樹脂は、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体およびエチレン−オクテン共重合体などが挙げられる。特に好ましい(f)ポリオレフィン系樹脂は、低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体である。
【0105】
(f)ポリオレフィン系樹脂は、離型性の改良を目的とするのであれば、(e)水添ブロック共重合体を添加せずに単独でも添加してもよく、その場合は、(a)、(b)、(c)および(d)成分の合計100質量部に対して、添加量が1質量部以下で用いられる。
【0106】
本実施形態に係る樹脂組成物の好ましい形態は、(e)特定の水添ブロック共重合体と(f)ポリオレフィン系樹脂とを特定量、且つ特定比率で用いることによって達成される。
【0107】
本実施形態に係る樹脂組成物においては、(e)スチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量が15000以上であるスチレンとジエン化合物との水添ブロック共重合体、および(f)ポリオレフィン系樹脂の添加量は、(a)、(b)、(c)および(d)成分の合計100質量部に対し、好ましくはそれぞれ0.1〜7質量部、より好ましくはそれぞれ0.3〜5質量部、特に好ましくはそれぞれ0.5〜3質量部の範囲であり、且つ(e)成分と(f)成分との合計量が10質量部以下、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。(e)成分と(f)成分との合計量は、樹脂組成物の剛性、例えば引っ張り強度、曲げ強度、曲げ弾性率等の観点から、5質量部以下、特に3質量部以下が好ましい。
【0108】
(e)水添ブロック共重合体と(f)ポリオレフィン系樹脂との質量比((e)/(f))は、90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、より好ましくは60/40〜15/85、さらに好ましくは55/45〜25/75、特に好ましくは50/50〜30/70の範囲である。(e)成分と(f)成分との質量比((e)/(f))が前記範囲内であると、耐衝撃性の向上効果が顕著に期待できる。
【0109】
本実施形態に係る樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤(熱安定剤とも言う。)、紫外線吸収剤、光安定剤などの安定剤を添加して、樹脂組成物の熱安定性や耐光性を向上させることができる。
【0110】
酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,4−ビス〔(オクチルチオ)メチル〕−0−クレゾール、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルべンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−〔1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ぺンチルフェニル)]アクリレートなどのヒンダードフェノール系酸化防止剤;ジラウリルチオジプロビオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネートペンタエリスリトール-テトラキス(β−ラウリルチオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン系酸化防止剤などを挙げることができ、しばしば2種以上を併用することもある。
【0111】
変性PPEにおいては、更に酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどの金属化合物も熱安定剤として使われることもある。
【0112】
紫外線吸収剤、光安定剤の具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’ −メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系光安定剤などを挙げることができ、紫外線吸収剤と光安定剤とはしばしば併用される。
【0113】
上記の各種安定剤の配合割合は特に制限はないが、一般的に(a)PPE系樹脂と(b)スチレン系樹脂との合計100質量部に対し、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.02〜3質量部の範囲である。
【0114】
本実施形態に係る樹脂組成物には、(d)充填材以外に、その他の各種フィラー類を配合することができる。その他の各種フィラー類の具体例としては、塩基性硫酸マグネシウム、セプライト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウム、膠質炭酸カルシウム、軟質炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、アルミナ、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、シリカビーズ、アルミナビーズ、カーボンビーズ、ガラスバルーン、金属系導電性フィラー、非金属製導電性フィラー、磁性フィラー、圧電・焦電フィラー、摺動性フィラー、封止材用フィラー、紫外線吸収フィラー、制振用フィラー、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。これらの各種フィラー類を添加し、用途に応じた複合体を得ることができる。
【0115】
本実施形態に係る樹脂組成物には、さらに上記以外のゴム状物質、脂環族飽和炭化水素樹脂、テルペン樹脂類、脂肪族系石油樹脂類、芳香族石油樹脂類およびこれらの各種エラストマー、各種樹脂類の変性品、高級脂肪酸エステル類、高級脂肪酸金属塩類、各種ワックス類、石油炭化水素類、ポリオキシアルキレン、フッ素系樹脂、帯電防止剤、着色剤としての染料および顔料などの各種添加剤を添加して用途に見合った材料とすることができる。
【0116】
ゴム状物質としては、ガラス転移温度が−100℃以上、50℃以下の重合体または該重合体のモノマーを共重合してなる共重合体で、例えば、イソプレン系、ブタジエン系、オレフィン系、ポリエステルエラストマー系、アクリル系が挙げられる。これらのゴム状物質は、ホモポリマーを用いてもよいが、必要に応じて共重合体として用いることもできる。これらのゴム状物質のうち、汎用的に用いられるものとしては、ブタジエン系、オレフィン系が挙げられる。さらには、酸成分との3元系共重合体も有用であり、具体的にはアクリル酸−ブタジエン−スチレン共重合体、カルボン酸/カルボン酸無水物含有酸化合物−ブタジエン−スチレン共重合体などが挙げられる。またブタジエン系ゴム状物質と同様にさらに酸成分で変性されたオレフィン系ゴム成分も有用であり、さらにまたエポキシ基含有オレフィン系のゴム成分も使用してもよい。
【0117】
脂環族飽和炭化水素樹脂は芳香族炭化水素樹脂の水添物であり、芳香族炭化水素樹脂としては一般的に、C9炭化水素樹脂、C5/C9炭化水素樹脂、インデン−クマロン樹脂、ビニル芳香族樹脂、テルペン−ビニル芳香族樹脂等が挙げられる。水添化率は高いほどよいが30%以上が望ましい。芳香族成分が多いと他の物性が損なわれるので好ましくない。
【0118】
テルペン類としてはα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン類を原料とするテルペン類が使用される。芳香族炭化水素(フェノール、ビスフェノールA等)で変性されたものや水添されたテルペン等も有用に使用できる。
【0119】
高級脂肪酸エステル類、高級脂肪酸金属塩類およびワックス類は、流動性および離型性を改善するための加工助剤として有効である。ワックス類としてはオレフィン系ワックス、モンタンワックスなどが一般的に使用されるが、中でも低分子量ポリエチレンなどは汎用的に用いられる。
【0120】
石油炭化水素類としては液状石油留分が好適に使用される。
【0121】
芳香族炭化水素系石油樹脂としては、C9炭素類に代表される芳香族炭化水素留分重合物が使用される。
【0122】
帯電防止剤は、一般的に成形体表面に吸湿性を持たせることでその効果を発揮するという作用を有するものである。帯電防止剤は、樹脂中に添加剤的に用いる場合と、塗布など二次加工として付与する場合がある。添加剤的に使用される帯電防止剤としては、例えばポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキルスルホン酸塩などが挙げられる。
【0123】
紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、エポキシ系などが挙げられる。紫外線吸収剤は、一種単独で使用してもよいが、組合せで用いるとさらに効果が期待できる。
【0124】
これらのその他添加剤の添加量としては特に制限されるものではないが、一般的に(a)PPE系樹脂と(b)スチレン系樹脂との合計100質量部に対し、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.02〜3質量部の範囲である。
【0125】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述した各成分を、加熱下で溶融混合することにより製造することができる。前記溶融混合する際の好ましい溶融混合機としては、好ましくは押出機、さらに好ましくは二軸押出機、特に好ましくはニーディングブロックを含むスクリュー構成を適宜選択できる二軸押出機である。全ての成分を第1供給口から供給して溶融混合して得ることもできるが、(a)PPE系樹脂と(b)スチレン系樹脂との質量比率((a)/(b))が100/0〜50/50の範囲で第1供給口から供給して混練し、その後の第2供給口以降で(b)スチレン系樹脂の残りと(c)リン化合物、(d)充填材を供給して溶融混合することが好ましい。また、第1の押出機で(a)PPE系樹脂および(b)スチレン系樹脂、あるいは更に(c)リン化合物を混練して得られる樹脂組成物ペレットを用いて、更に第2の押出機で(b)スチレン系樹脂、(c)リン化合物および(d)充填材、更にはその他の添加剤を溶融混練する2段階溶融混合押出法も好適である。
【0126】
(d)充填材の配合方法は特に制限されないが、押出加工時の剪断や熱による劣化を抑制するためにも、第1工程にて(a)PPE系樹脂、(b)スチレン系樹脂および(c)リン化合物を溶融混練した後に、第2工程において(d)充填材を添加することが好ましく、特に繊維状や板状の充填材は第2工程の押出機シリンダーの途中から供給することが充填材の破砕を抑制し、樹脂組成物の特性を高めるためには好ましい。
【実施例】
【0127】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳しく説明するが、本実施形態はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0128】
[構成成分]
樹脂組成物の構成成分として、以下の各成分を使用した。
【0129】
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE):ポリ(2,6- ジメチル- 1,4- フェニレン)エーテルとして、以下の(a−1)および(a−2)を用いた。
【0130】
(a−1):旭化成ケミカルズ(株)、製品名:ザイロン S201A。
【0131】
(a−2):旭化成ケミカルズ(株)、製品名:ザイロン S202A。
【0132】
なお、(a−1)および(a−2)を併用した場合は、表中に質量比((a−1)/(a−2))を記載した。
【0133】
(b)スチレン系樹脂:ポリスチレンとして、以下の(b−1)HIPSと(b−2)GPPSとを質量比((b−1)/(b−2))50/50で混合して用いた。
【0134】
(b−1)HIPS(ゴム変性ポリスチレン):PSジャパン(株)製、製品名PSJ−ポリスチレンH9302。
【0135】
(b−2)GPPS(ホモポリスチレン):PSジャパン(株)製、製品名PSJ−ポリスチレン680。
【0136】
(c)リン化合物として、以下の(c−1)〜(c−4)を用い、比較のリン化合物として、以下の(c−5)、(c−6)および(c−7)を用いた。それぞれのリン化合物について以下に示す。
【0137】
(c−1):以下の化学式(i)にて、N=1のものが主成分(液体クロマトグラフィー分析による面積比で約85%)で、酸価が0.05以下のリン化合物。
【0138】
【化8】

【0139】
(c−2):酸価が0.7である以外は(c−1)と同様のリン化合物。
【0140】
(c−3):酸価が0.3である以外は(c−1)と同様のリン化合物。
【0141】
(c−4):以下の化学式(ii)にて、N=1のものが主成分(液体クロマトグラフィー分析による面積比で約85%)で、酸価が0.05以下のリン化合物。
【0142】
【化9】

【0143】
(c−5):リン系難燃剤として、大八化学工業(株)社製、製品名CR741(ビスフェノールA芳香族縮合リン酸エステル化合物)。
【0144】
(c−6):リン系難燃剤として、大八化学工業(株)社製、製品名CR733S(レゾルシン芳香族縮合リン酸エステル化合物)。
【0145】
(c−7):リン系難燃剤として、大八化学工業(株)社製、製品名TPP(トリフェニルホスフェート)。
【0146】
(d)充填材として、以下の(d−1)〜(d−5)を用いた。
【0147】
(d−1)ガラス繊維:日本板硝子(株)製チョップドストランド、製品名 RES03−TP1051。
【0148】
(d−2)ガラスフレーク:日本板硝子(株)製、製品名 CEF150A。
【0149】
(d−3)マイカ:(株)クラレ製、製品名 スゾライト・マイカ200KI。
【0150】
(d−4)タルク:竹原化学(株)製、製品名 ハイトロンA。
【0151】
(d−5)クロライト:富士タルク工業(株)製、製品名 WL−13M。
【0152】
(e)水添ブロック共重合体(SEBS):スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物として、旭化成ケミカルズ(株)、製品名タフテックH1081を用いた。
【0153】
(f)ポリオレフィン系樹脂として、以下の(LDPE)および(EP)を用いた。
【0154】
(LDPE):低密度ポリエチレン。旭化成ケミカルズ(株)製、製品名サンテックLD−M2004。
【0155】
(EP):エチレン−プロピレン共重合体。三井化学(株)製、タフマーP0680。
【0156】
[特性評価方法等]
得られた樹脂組成物の特性評価は、以下の方法および条件で行った。
【0157】
(1)モールドデポジット(MD)試験
得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、東芝機械(株)製IS−100GN成形機(シリンダー温度を310℃、金型温度を80℃に設定)にて、後述のUL94の試験片(厚み1.6mm)を成形する際、金型表面をエタノールでふき取った。次に、完全充填に約1cmショートする圧力で100ショット連続成形を実施した。その後、金型の成形片キャビティー末端部に生じた付着物(くもり)の程度を目視で確認して、以下の基準でモールドデポジット(MD)を評価した。
【0158】
(基準)
○:ほとんど付着物が見られなかった。
【0159】
△:付着物が少し見られた。
【0160】
×:付着物が明らかに見られた。
【0161】
(2)吸水試験、吸水特性
ISO−527の引張り試験片を用い、120℃の(蒸気圧下)熱水中で150時間浸漬し、浸漬前の試験片からの質量増加%を測定した。更に、浸漬後の試験片について、引張り試験を行い、浸漬後の試験片の引張り強度(TY)を測定した。浸漬前の引張り強度に対する、浸漬後の試験片の引張り強度(TY)の割合(保持率)を算出した。
【0162】
(3)材料特性
材料特性についてISO基準物性試験に基づき測定した。
【0163】
(試験片の作成)
得られた樹脂組成物ペレットを100℃で2時間乾燥した後、東芝機械(株)製IS−100GN成形機(シリンダー温度を280℃、金型温度を80℃に設定)を用いて、ISO−15103に準じて試験片を成形した。
【0164】
・MVR:樹脂組成物ペレットを用い、流動性評価として、ISO−1133に準拠し、300℃、5kg荷重にて測定した。
【0165】
・HDT:上記試験片を用い、耐熱性評価として、ISO−75に準拠し、1.8MPa下、フラットワイズにて測定した。
【0166】
・Charpy Imp:上記試験片を用い、耐衝撃性評価として、ISO−179に準拠し、ノッチ付きにて測定した。
【0167】
・TS:上記試験片を用い、引張り強度評価として、ISO−527に準拠し、試験速度5mm/分にて測定した。
【0168】
・FM:上記試験片を用い、曲げ弾性率評価として、ISO−178に準拠し、試験速度2mm/分にて測定した。
【0169】
(4)成形収縮率
寸法特性として以下の方法により成形収縮率を測定した。
【0170】
得られた樹脂組成物ペレットを100℃で2時間乾燥した後、東芝機械(株)製IS−100FB成形機(シリンダー温度を280℃、金型温度を80℃、射出時間15秒、冷却時間20秒に設定)を用いて、150mm×150mm×2mm厚み(2mmφピンゲート)の平板を成形した。該平板を23℃、湿度50%にて24時間状態調節した。該平板について、流動方向(MD)および流動直角方向(TD)の寸法を測定し、金型寸法からのそれぞれの方向の収縮率(%)と異方性(TD/MD比)とを算出した。
【0171】
(5)難燃性
UL−94垂直燃焼試験に基づき、1.6mm厚みの射出成形試験片を用いて燃焼試験を行った。試験片5本について、接炎を各2回、合計10回行い、消炎時間の平均秒数(Av:sec)および最大秒数(Max:sec)で表示した。
【0172】
(6)離型性
上記(3)に示したとおり射出成形により試験片を成形した際に、試験片およびランナーの金型からの型離れのし易さの程度を目視で以下の基準で判定した。
【0173】
(基準)
○:離型が良かった。
【0174】
△:離型がやや良くなかった。
【0175】
×:離型がひどく悪かった。
【0176】
[実施例1〜14、比較例1〜6]
Werner Pfleiderer社製の二軸同方向回転押出機ZSK−25を用いて、表1〜3に示す組成の原料成分を溶融混練し、後段の脱揮口から真空脱気して樹脂組成物ペレットを得た。なお、充填材以外の原料成分を混合して押出機の第1供給口から供給し、充填材を第2および第3供給口から供給した。また、溶融混練条件は、シリンダー最高温度を300℃に設定して、スクリュー回転数300rpm、15kg/hrとした。但し、液状難燃剤(c−5)、(c−6)および低融点の(c−7)は脱揮後の後段からポンプにて供給添加した。さらに、安定剤として、(a)、(b)、(c)および(d)成分の合計100質量部に対し、チバジャパン(株)製、IRGAFOS 168を0.1質量部およびIRGANOX 1076を0.1質量部、それぞれ原料成分に混合して添加した。
【0177】
得られた樹脂組成物ペレットの特性を、前記評価方法により測定した。結果を、表1、表2および表3に示す。
【0178】
【表1】

【0179】
【表2】

【0180】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の樹脂組成物は、有害なハロゲン系化合物やアンチモン化合物を用いずに優れた難燃性を有し、生産および使用上において環境面や安全衛生面に優れる。また、生産性もよく、耐熱性や機械特性の低下が小さい。そして、厳しい射出成形条件下での金型汚染およびその付着物に基因した成形品の不具合がなく、吸湿特性、機械的特性および寸法特性に優れる。
【0182】
したがって、本発明の樹脂組成物は、各種の電気・電子部品、事務機器部品、自動車部品、建材、その他各種外装材や工業用品などの用途に広範囲に利用される。特に寸法特性の要求が厳しい情報処理機器用樹脂製機構部品に好適である。情報処理機器用樹脂製機構部品としては、例えばインクジェットプリンター、レーザービームプリンター、複写機、FAX等の事務機器におけるキャリッジ類、シャーシ類、ギア類、シャフト類、プーリー類等やコンピュータ、ゲーム機、音楽プレーヤー、ビデオプレーヤー、AV機器等における光ディスクドライブ(CD−ROM、CD−R、CD−RW、CD−RW、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、MD、MO)等のシャーシ類(ピックアップシャーシ、トラバースベース、サブシャーシ、ベースシャーシ等)、トレー類(ディスクトレー、チェンジャートレー等)、ギア類、シャフト類、プーリー類等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂および(b)スチレン系樹脂の合計を10〜90質量%、
(c)リン化合物を1〜30質量%ならびに
(d)充填材を1〜60質量%を含有し、
前記成分(a)と前記成分(b)との質量比((a)/(b))が、10/90〜100/0であり、
前記成分(c)が下記一般式(I)で表されるリン化合物である、樹脂組成物。
【化1】

[式(I)中、
Aは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基または炭素原子数7〜12のアラルキル基を表し、
1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数5〜6のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基または炭素原子数7〜12のアラルキル基を表し、
xおよびyは、それぞれ独立して0、1、2、3または4であり、
nは、それぞれ独立して0または1であり、
Nは、1〜30である。]
【請求項2】
前記成分(a)と前記成分(b)との質量比((a)/(b))が、20/80〜99/1である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(c)の酸価が0.5以下である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(c)が式(II)で表されるリン化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化2】

[式(II)中、Nは、1〜10である。]
【請求項5】
前記成分(d)が板状充填材を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分(d)が板状充填材を前記成分(d)の全量に対して50質量%以上含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(d)が、ガラスフレーク、マイカ、クロライトおよびタルクからなる群より選択される1種以上を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−252114(P2011−252114A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128031(P2010−128031)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】