説明

強度増進特性に優れた粘結補填材と高強度コークスの製造方法

【課題】高炉用コークスの製造において、原料炭に占める低粘結炭及び/又は非微粘結炭の配合割合が20%を超えても、DI15015で、84.5以上の強度を確保できる粘結補填材と、該粘結補填材を用いて高強度のコークスを製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】高強度コークスを製造するため原料炭に配合する粘結補填材であって、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):20%超90%以下、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1%以下を含有し、残部が、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分)及び不可避的残留成分からなる強度増進特性に優れた粘結補填材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの強度を増進する作用をなす粘結補填材、特に、石油系の重質留分を用いて、高強度のコークスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉操業において、還元材のコークスには、炉内の通気性を確保するため、所要の強度が求められる。高強度のコークスを製造するためには、コークス用原料炭として、良質の強粘結炭を必要とするが、良質の強粘結炭は、長期にわたり資源的に枯渇状態にある。
【0003】
それ故、これまで、低品質の非微粘結炭を原料炭として高強度コークスを製造する方法が、数多く提案されている。
【0004】
低品質の非微粘結炭を原料炭として用いる場合、その粘結性を補填するため、粘結補填材を添加、混合する。例えば、粘結補填材として、タール、ピッチ、石油系粘結材等を使用する(特許文献1〜3、参照)。
【0005】
特許文献1には、アスファルト等の石油系重質留分を原料炭に添加し、粘結炭の配合割合を削減して、非微粘結炭の配合割合を増加させ、良質なコークスを製造する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ブタン、ペンタン又はヘキサンを溶剤として単独で又は混合して使用し石油系重質油から得た軟化点100℃以上の脱れきアスファルトを、原料炭に、2〜10重量部添加、配合するコークスの製造方法が開示されている。
【0007】
しかし、これらの製造方法では、コークス強度の指標DI15015は、高炉用コークスに最低限必要な84.5以上を達成できない。また、非微粘結炭の配合比率は、特許文献1では0%、特許文献2では9〜13%と低い。
【0008】
そこで、本出願人は、高炉用の高強度コークスの製造を目指し、特許文献3で、非微粘結炭を0〜60wt%含む原料炭に、粘結補填材としてタール重質留分を添加する高炉用コークスの製造方法を提案した。
【0009】
この製造方法において、タールを200〜350℃で蒸留してヘキサン可溶分(HS)を20wt%以下、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS)を40〜80wt%、トルエンに不溶な成分(TI)を0〜40wt%に調整したタール重質留分を用いると、非微粘結炭の配合比率が40〜60%という高い範囲において、DI15015が83〜84という高い高炉用コークスの製造が可能である。
【0010】
しかし、上記製造技術においても、非微粘結炭を多量に使用し、かつ、DI15015が84.5以上のコークスを製造することはできていない。
【0011】
それ故、非微粘結炭を多量に用いても、DI15015で、84.5以上のコークス強度を充分にかつ確実に確保できるコークス製造技術が強く求められている。
【0012】
また、非微粘結炭を多量に使用し、高強度のコークスを得る方法の一つとして、石炭をコークス炉に装入する前に乾燥し、コークス炉に装入する石炭の嵩密度を向上させる調湿炭法と呼ばれるプロセスが日本国内で広く普及している(特許文献4、参照)が、調湿炭法において、コークス強度を有効に向上させる粘結補填材、及び、該粘結補填材を用いて高強度のコークスを製造できる製造方法については知られていない。
【0013】
石油系重質留分(例えば、脱れきアスファルト)は、原油から軽質油を分離、精製する際に副生する副産物である。従来、石油系重質留分の大部分は、燃料として使用されていたが、石油系重質留分の原油中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分が高濃度で濃縮されているため、排煙脱硫処理装置やバナジウム等による高温腐食対策を講じた燃焼設備が必要となり、さらに、重金属を含む燃焼灰廃棄物が環境を汚染するという環境問題があった。
【0014】
一方、石油系重質留分を、配合原料の粘結補填材として、コークス製造プロセスで利用する場合は、粘結補填材中の硫黄成分に起因して、コークス製造時に発生する熱分解ガス(コークス炉ガス)中の硫黄濃度が高くなっても、付随するコークス炉ガス精製設備により脱硫されるため、設備コストなどの点で有利である。しかし、粘結補填材中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分に起因して、コークス中に、硫黄成分やバナジウム等の重金属成分が残留することが懸念される。
【0015】
コークス中に残留した硫黄成分やバナジウム等の重金属成分は、コークスを高炉で使用する際に、その大部分が、高炉で生成するスラグ中に移行し、溶銑から除去、分離される。このため、高炉用コークスの品質として、コークス中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分の残留量が、高炉でスラグ中に移行し、溶銑中の成分品質を低下させないことが要求される。
【0016】
また、石油系重質留分を、配合原料の粘結補填材として、コークス製造プロセスで利用する場合には、粘結補填材は、高炉用コークスの一部として高炉での溶鉄の製造に利用されるほか、コークスプロセスで発生した油分及び熱分解ガスの一部として、それぞれ、化学原料及び燃料として有効活用される。
【0017】
したがって、石油系重質留分を配合原料の粘結補填材として、コークスを製造する際に、特に、非微粘結炭の配合比率が高い配合炭を用いた場合であっても、従来よりもコークス強度が高く、かつ、コークス中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分の残留による高炉での溶銑品質への影響がない良好な品質を有するコークスを製造する製造方法が望まれている。
【0018】
【特許文献1】石炭化学と工業(三共出版(株)、昭和52年版、p.315)
【特許文献2】特開昭59−179586号公報
【特許文献3】特開平9−241653号公報
【特許文献4】ふぇらむ Vol.9(2004)、p.810
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記要望に鑑み、高炉用コークスの製造において、原料炭に占める非微粘結炭の配合割合が20%を超えても、DI15015で、84.5以上の強度を確保できる粘結補填材と、該粘結補填材を用いて高強度のコークスを製造できる製造方法を提供することを第1の課題とする。
【0020】
また、本発明は、石油系重質留分を配合原料の粘結補填材としてコークスを製造する際に、コークス中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分の残留による高炉での溶銑品質への影響がない良好な品質を有するコークスを製造する製造方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
原料炭に占める非微粘結炭の割合が増加すると、原料炭としての粘結性は当然に低下するから、高強度のコークスを製造するためには、この粘結性の低下を補填できる粘結補填材を、原料炭に対し所定の量配合する必要がある。
【0022】
前述したように、石油系の重質留分(例えば、脱れきアスファルト)や、タール重質留分は、コークスの強度を増進する粘結補填材として有効に作用する。しかし、多量の非微粘結炭を用いる場合や、各種銘柄の非微粘結炭を多種配合して用いる場合において、粘結補填材の強度増進効果を充分に引き出すためには、粘結補填材の性状を知り、原料炭の性状に合致する粘結補填材を選択して配合する必要がある。
【0023】
本発明者は、粘結補填材として、石油から軽質成分を搾り取った後の残渣(SDA[Solvent Deasphalting]ピッチ、溶剤脱れきピッチ。以下「SDAピッチ」という。)の中でも、トルエンに不溶な成分(以下「TI成分」ということがある。)が1%以下と極端に少ないSDAピッチに着目し、その強度増進効果について調査した。
【0024】
その結果、本発明者は、非微粘結炭の配合量を増大しても、粘結補填材としてTI成分1%以下のSDAピッチを所定量配合すれば、DI15015で、84.5以上の高強度コークスを製造できることを見いだした。
【0025】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0026】
(1)高強度コークスを製造するため原料炭に配合する粘結補填材であって、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):20%超90%以下、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1%以下を含有し、残部が、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分)及び不可避的残留成分からなることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材。
【0027】
(2)前記原料炭が、非微粘結炭を20質量%超含むものであることを特徴とする前記(1)に記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【0028】
(3)前記粘結補填材が、石油系の溶剤脱れきピッチであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【0029】
(4)前記原料炭の全膨張率(全膨張率の加重平均)が30〜100%であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【0030】
(5)前記原料炭の揮発分含有率が22.5〜32.5dry%であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【0031】
(6)原料炭を乾留して高強度コークスを製造する方法において、原料炭に、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):20%超90%以下、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1%以下を含有し、残部が、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分)及び不可避的残留成分からなる粘結補填材を配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
【0032】
(7)前記原料炭が、非微粘結炭を20質量%超含むものであることを特徴とする前記(6)に記載の高強度コークスの製造方法。
【0033】
(8)前記原料炭の全膨張率(全膨張率の加重平均)が30〜100%であることを特徴とする前記(6)又は(7)に記載の高強度コークスの製造方法。
【0034】
(9)前記原料炭の揮発分含有率が22.5〜32.5dry%であることを特徴とする前記(6)〜(8)のいずれかに記載の高強度コークスの製造方法。
【0035】
(10)前記粘結補填材を、原料炭に対し5質量%以下配合することを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれかに記載の高強度コークスの製造方法。
【0036】
(11)前記粘結補填材を、原料炭に対し2質量%以下配合することを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれかに記載の高強度コークスの製造方法。
【0037】
(12)前記粘結補填材を、原料炭に対し0.2〜0.8質量%配合することを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれかに記載の高強度コークスの製造方法。
【0038】
(13)前記粘結補填材が、石油系の溶剤脱れきピッチであることを特徴とする前記(6)〜(12)のいずれかに記載の高強度コークスの製造方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、粘結補填材としてTI成分1%以下のSDAピッチを原料炭に配合することにより、DI15015で、84.5以上の高強度コークスを製造することができる。また、本発明は、原油から軽質油を分離、精製する際に大量に発生する石油系重質留分を、コークス製造用粘結材として有効に活用し、高炉用の高強度コークスを製造できるという点で、産業上の価値が大きいばかりでなく、環境保護上も、極めて社会的意義が大きいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明について、詳細に説明する。SDAピッチは、主として、ヘキサンに可溶な成分(以下「HS成分」ということがある)、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(以下「HITS成分」ということがある)、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分)と、その他、不可避的残留成分からなる。
【0041】
図1は、HS成分、HITS成分、及び、TI成分の組成を各辺にとった組成図であるが、本発明者は、粘結補填材として、図1において、実線で囲んだ領域(記号「1−D」の領域)のSDAピッチ、即ち、“TI成分が1%以下と極端に少ないSDAピッチ”に着目した。まず、この理由について説明する。
【0042】
高強度を確保するうえで、コークスの気孔構造においては、(a)気孔サイズが適切であること、(b)気孔形状が丸みを帯びていること、及び、(c)コークス壁が厚いことが重要であるところ、本発明者は、一般的に各成分が次の作用をなすことを実験的に確認した。
【0043】
(A)HS成分(軽質成分)は、乾留過程でガス化し、軟化溶融した石炭中の気泡の成長及び合体を促進して、気孔サイズを適切な大きさまで大きくする(気孔拡大作用)。
【0044】
(B)HITS成分(中間質成分)は、乾留過程で軟化溶融した石炭の粘性を低下させ、気泡の形状を丸みのある形状とする(気孔丸状化作用)。
【0045】
(C)TI成分(重質成分)は、殆ど残渣となるが、コークス壁を厚くする(壁厚増大作用)。
【0046】
このように、TI成分は、壁厚増大作用でコークス強度の増進に寄与するが、本発明者は、さらに、原料炭に占める非微粘結炭の配合割合が20%を超え、かつ、DI15015で、84.5以上の強度を確保するような製造条件の場合、壁厚増大作用の強度への寄与が必ずしも大きくないことを実験的に確認した。
【0047】
DI15015が84.5以上の強度を確保するような製造条件の場合において、TI成分の作用が大きくない理由は、このように強度が高いコークスの場合、既にコークスの壁厚は十分厚く、粘結補填材による壁厚増大効果が期待できないためと考えられる。
【0048】
また、原料炭に占める非微粘結炭の配合割合が20%を超える場合に、TI成分の作用が大きくない理由は、非微粘結炭の配合割合が多くなると、配合炭全体の膨張性が低下するため、TI成分以外のHS成分やHITS成分による気孔拡大作用や、気孔丸状化作用の効果が相対的に大きくなるためと考えられる。
【0049】
本発明者らは、図1において、実線で囲んだ領域(記号「1−D」の領域)のSDAピッチを用いれば、コークス強度を確実かつ充分に高めることが可能であることを見いだした。
【0050】
以下に、「1−D」の範囲のSDAピッチの具体的製造方法(石油系重質油を溶媒抽出処理して石油ピッチを製造する具体的方法)について、一例を示す。
【0051】
プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンの単独又は混合物を溶剤として使用して、その溶剤と石油系重質油の体積流量比(溶剤流量/石油系重質油)2以上で、抽出を行う。
【0052】
上記体積流量比が大きいほど、原料重質油中のパラフィンが選択的に抽出されて、軽質油に濃縮されるので好ましいが、過度に大きくすると、抽出塔などの機器の規模を大きくせざるを得ないばかりか、溶剤の加熱、冷却、圧縮、移送のために、多大な動力や燃料(ユーティリティー)が必要となり、経済性が低下する。
【0053】
したがって、好ましくは2〜10、さらに好ましくは、4〜6の体積流量比で、抽出を行う。
【0054】
抽出処理の温度は、抽出操作が好適に行うことができる温度であればよいが、好ましくは、溶剤又はその混合物の臨界温度近傍、さらに好ましくは、臨界温度以下(亜臨界)で行う。抽出処理の圧力は、溶剤又はその混合物の臨界圧力以下で行う。
【0055】
上記の範囲において、抽出条件を好適に選定することにより、1−Dの範囲のSDAピッチを得ることができる。
【0056】
HS成分は、気孔拡大作用による強度の増進を期待して、20%超90%以下を含むと規定した。HS成分が20%以下であれば、上記作用による強度増進効果が得られず、一方、90%を超えると、気孔が大きくなりすぎ、逆に、コークス強度が低下する。好ましくは、30〜60%である。
【0057】
HITS成分の含有量は、図1に示すように、HS成分とTI成分の含有量から定まるので、特に限定する必要がない。HITS成分は、図1に示す含有量の範囲で、顕著な気孔丸状化作用をなし、強度の増進に大きく貢献する。
【0058】
次に、本発明者は、HS成分:31.3%、TI成分:0.3%、及び、HITS成分及び不可避的残留成分:残部のSDAピッチを、配合量を変えて、非微粘結炭を40%含む原料炭に配合し、コークス強度(DI15015)を測定した。その結果を、図2に示す。
【0059】
図2から、最低限必要なコークス強度(DI15015)を84.5とすると、84.5以上を確保するには、SDAピッチを5%以下の範囲で配合しなければならないことが解かる。また、配合量を少なくした方が、コークス強度が向上することが解かる。
【0060】
さらに、図2から、SDAピッチのより好ましい配合量は、2%以下であり、さらに好ましい配合量は、0.2〜0.8%であることが解かる。
【0061】
5%を超えるとコークス強度が低下する理由は、気孔拡大効果及び気孔丸状化作用が効き過ぎ、気孔が大きくなりすぎるためである。過剰に大きすぎる気孔は、コークス内の欠陥として作用し、コークス強度を低下させる。また、0.2%未満でコークス強度が向上しない理由は、十分な気孔拡大効果及び気孔丸状化作用を発揮するには、粘結補填材の量が足りないためである。
【0062】
また、石油系重質留分を、配合原料の粘結補填材として、コークス製造プロセスで利用する場合は、石油系重質留分中には、原油中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分が高濃度で濃縮されているため、これらのコークス中への残留が懸念される。
【0063】
粘結補填材中の硫黄成分は、コークス炉で、その約半分が熱分解ガス(コークス炉ガス)中に移行し、付随するコークス炉ガス精製設備により脱硫される。一方、粘結補填材中のバナジウム等の重金属成分は、その大部分がコークス中に残留する。
【0064】
これらのコークス中に残留した硫黄成分及びバナジウム等の重金属成分は、コークスを高炉で使用する際に、その大部分が、高炉で生成したスラグ中に移行し、溶銑から除去、分離される。
【0065】
本発明者の検討によれば、石油系重質留分を粘結補填材としてコークスを製造する際に、粘結補填材の原料炭に対する配合比率を5%以下とすることによって、コークス中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分の残留による高炉での溶銑品質への影響がない良好な品質を有するコークスを製造することができることを確認した。
【0066】
粘結補填材の原料炭に対する配合比率を低減するほど、コークス中の硫黄成分やバナジウム等の重金属成分の残留は低減されるため、この点から、粘結補填材の原料炭に対する配合比率は、好ましくは2%以下とするのが望ましい。
【0067】
また、コークス製造時に粘結補填材中の硫黄成分が熱分解ガス中に移行することによりコークス炉ガス中の硫黄成分濃度が上昇するが、上記粘結補填材の配合比率であれば、コークス製造プロセスに付随する既存のコークス炉ガス精製設備を改造することなく、通常操業時に、十分に脱硫できることも確認した。
【0068】
非微粘結炭の配合量が20質量%を超える配合炭に、SDAピッチを、5%を超える範囲で配合すると、コークス強度(DI15015)は84.5よりも低下することとなるが、コークス強度を極端に悪化させるわけではないので、高炉の要求するコークス強度レベルが84.5より低い場合は、5%を超える範囲でも使用可能な場合がある。
【0069】
本発明は、非微粘結炭の配合量が20質量%を超える場合において、特に効果的であるが、さらに、非微粘結炭配合後の原料炭の膨張率(膨張率の加重平均)が30〜100%、及び/又は、原料炭の揮発分含有率が22.5〜32.5dry%であれば、粘結補填材の作用効果と相俟って、顕著に、コークス強度を増進することができる。
【0070】
このように原料炭の膨張率(膨張率の加重平均)の範囲として30〜100%が好ましい理由は以下の通りである。
【0071】
原料炭の膨張率が30%未満の場合は、石炭粒子同士の接着が不十分であり、粘結補填材添加による気孔拡大作用や気孔丸状化作用の効果が、一部の接着領域にしか効果的に作用せず、粘結補填材添加効果のばらつきが極めて大きくなり、その結果として、粘結補填材添加効果が、相対的に小さくなるためである。
【0072】
また、原料炭の膨張率が100%を超える場合は、既に、DIレベルは高く、気孔サイズは適正サイズに近くなり、また、気孔形状も丸みを帯びてきているので、粘結補填材添加による気孔拡大作用や気孔丸状化作用の効果が、相対的に小さくなるためである。
【0073】
また、原料炭の揮発分含有率の範囲として22.5〜32.5dry%が好ましい理由は、以下の通りである。原料炭の揮発分含有率が22.5%未満の場合は、コークスの歩留が大きいために壁厚が厚くなり、粘結補填材による気孔の拡大作用や気孔丸状化作用がぶ厚いコークス壁に邪魔され、粘結補填材の効果が、相対的に小さくなるためである。
【0074】
原料炭の揮発分含有率が32.5%を超える場合は、コークスの歩留が小さいために、壁厚が薄くなり、壁厚増大効果の小さい本発明範囲の粘結補填材の効果が、相対的に小さくなるためである。
【0075】
また、非微粘結炭の配合比率が20%未満の配合炭の場合、粘結補填材を添加せずとも強度の高いコークスを製造し得るが、この場合でも、本発明の粘結補填材によるコークス強度増進効果を得ることが可能である。
【実施例】
【0076】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0077】
(実施例)
表1に示す組成の粘結補填材(SDAピッチ)を用意した。記号V、A、B、及び、Cの粘結補填材は、本発明で規定する組成範囲内のものであり、記号N1、K1、及び、K2の粘結補填材は、上記組成範囲外のものである(図1、参照)。
【0078】
SDAピッチVは、ペンタンを抽出溶剤として用い、ペンタンと常圧残油の流量比を6とし、抽出率を85%として常圧残油から軽質油を抽出して得たものである。SDAピッチAは、ブタンを抽出溶剤として用い、ブタンと常圧残油の流量比を6とし、抽出率を75%として常圧残油から軽質油を抽出して得たものである。
【0079】
SDAピッチBは、ブタンを抽出溶剤として用い、ブタンと常圧残油の流量比を6とし、抽出率を80%として常圧残油から軽質油を抽出して得た。SDAピッチCは、プロパンを抽出溶剤として用い、プロパンと常圧残油の流量比を10とし、抽出率を65%として常圧残油から軽質油を抽出して得たものである。
【0080】
N1は、常圧残油を原料として、プロパンを抽出溶剤として用い、プロパンと常圧残油の流量比を5とし、抽出率を40%として常圧残油から軽質油を抽出して得た。K1及びK2はコールタールを蒸留処理して得られた留分を混合して得たものである。
【0081】
なお、上記抽出率は、石油系重質油に対する軽質油の回収率と定義し、この抽出率となるように抽出温度を適宜選定した。
【0082】
非微粘結炭を40%配合した原料炭に、表1に示す組成の粘結補填材を、表2に示す添加量で添加して乾留し、コークスを製造した。そして、製造したコークスのDI15015を測定した。結果を、表2に併せて示す。表2には、粘結補填材及びコークス中のS含有量(質量%)及びV含有量(ppm)の測定結果を示した。なお、上記原料炭中のS含有量は0.5(質量%)、V含有量は20(ppm)であった。
【0083】
表2から、比較例では、DI15015は84以下であるが、発明例1〜6では、DI15015:85レベルの強度が得られていることが解かる。また、石油系重質油から製造したSDAピッチA〜C、Vを粘結補填材として用いた発明例1〜6のコークス中のS及びVの含有量は、高炉用コークスとして許容範囲であった。
【0084】
一方、石油系重質油から製造したSDAピッチVを粘結補填材として用い、原料炭に対する配合比率が10%と本発明で規定する範囲を超える量を添加した比較例4のコークス中のS及びVの含有量は、発明例に比べて高くなった。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0087】
前述したように、本発明によれば、粘結補填材としてTI成分1%以下のSDAピッチを原料炭に配合することにより、DI15015で、84.5以上の高強度コークスを製造することができる。
【0088】
したがって、本発明は、大量に発生する石油系残渣のSDAピッチを有効に活用し、高炉用の高強度コークスを製造するものであるから、鉄鋼産業上だけでなく、環境保護上も利用可能性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明で用いるSDAピッチの組成領域(実線で囲んだ領域)を示す図である。
【図2】SDAピッチ(HS成分:31.3%、TI成分:0.3%、及び、HITS成分及び不可避的残留成分:残部)の配合量とコークス強度(DI15015)の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度コークスを製造するため原料炭に配合する粘結補填材であって、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):20%超90%以下、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1%以下を含有し、残部が、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分)及び不可避的残留成分からなることを特徴とする強度増進特性に優れた粘結補填材。
【請求項2】
前記原料炭が、非微粘結炭を20質量%超含むものであることを特徴とする請求項1に記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【請求項3】
前記粘結補填材が、石油系の溶剤脱れきピッチであることを特徴とする請求項1又は2に記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【請求項4】
前記原料炭の全膨張率(全膨張率の加重平均)が30〜100%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【請求項5】
前記原料炭の揮発分含有率が22.5〜32.5dry%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の強度増進特性に優れた粘結補填材。
【請求項6】
原料炭を乾留して高強度コークスを製造する方法において、原料炭に、ヘキサンに可溶な成分(HS成分):20%超90%以下、及び、トルエンに不溶な成分(TI成分):1%以下を含有し、残部が、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分)及び不可避的残留成分からなる粘結補填材を配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
【請求項7】
前記原料炭が、非微粘結炭を20質量%超含むものであることを特徴とする請求項6に記載の高強度コークスの製造方法。
【請求項8】
前記原料炭の全膨張率(全膨張率の加重平均)が30〜100%であることを特徴とする請求項6又は7に記載の高強度コークスの製造方法。
【請求項9】
前記原料炭の揮発分含有率が22.5〜32.5dry%であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の高強度コークスの製造方法。
【請求項10】
前記粘結補填材を、原料炭に対し5質量%以下配合することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の高強度コークスの製造方法。
【請求項11】
前記粘結補填材を、原料炭に対し2質量%以下配合することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の高強度コークスの製造方法。
【請求項12】
前記粘結補填材を、原料炭に対し0.2〜0.8質量%配合することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の高強度コークスの製造方法。
【請求項13】
前記粘結補填材が、石油系の溶剤脱れきピッチであることを特徴とする請求項6〜12のいずれか1項に記載の高強度コークスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−291190(P2006−291190A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71706(P2006−71706)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】