強誘電体の分極の可視化方法及びその可視化装置
【課題】強誘電体の分極の可視化方法とその可視化装置において、試料表面に垂直な分極と平行な分極とを同時に可視化すること。
【解決手段】交流電圧VACが印加される第1の探針3と、第1の探針3から間隔をおいて設けられた第2の探針4と、第1の探針3に発生する第1の振動成分を検出する第1の検出部13と、第2の探針4に発生する第2の振動成分を検出する第2の検出部14と、画像化部30とを備え、前記画像化部30は、強誘電体試料Sの分極の向きが第1の方向D1に平行か反平行かを可視化した第1の分極像IM1を生成し、強誘電体試料Sの分極の向きが前記第2の方向D2に平行か反平行かを可視化した第2の分極像IM2を生成し、第1の分極像IM1と第2の分極像IM2とを合成した合成像IM3を生成する強誘電体の分極の可視化装置による。
【解決手段】交流電圧VACが印加される第1の探針3と、第1の探針3から間隔をおいて設けられた第2の探針4と、第1の探針3に発生する第1の振動成分を検出する第1の検出部13と、第2の探針4に発生する第2の振動成分を検出する第2の検出部14と、画像化部30とを備え、前記画像化部30は、強誘電体試料Sの分極の向きが第1の方向D1に平行か反平行かを可視化した第1の分極像IM1を生成し、強誘電体試料Sの分極の向きが前記第2の方向D2に平行か反平行かを可視化した第2の分極像IM2を生成し、第1の分極像IM1と第2の分極像IM2とを合成した合成像IM3を生成する強誘電体の分極の可視化装置による。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体の分極の可視化方法及びその可視化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PZT(lead zirconate titanate)膜等の強誘電体膜はFeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)等の強誘電体デバイスに広く使用されており、強誘電体膜の分極方向は強誘電体デバイスの電気的特性に大きな影響を与える。特に、強誘電体膜の表面近傍には、他の領域とは逆向きの分極が局所的に発生することがあり、そのような領域の有無を可視化することは強誘電体デバイスの不良解析に資することになる。
【0003】
そこで、強誘電体膜の各ドメインがどの方向に分極しているのかを可視化し、それを強誘電体デバイスの不良解析に役立てる技術が提案されている。
【0004】
そのような技術としては、例えば、原子間力顕微鏡を利用した圧電応答顕微鏡(PFM: Piezoresponse Force Microscopy)がある。圧電応答顕微鏡では、強誘電体膜と探針との間に交流電圧を印加することで、強誘電体膜に膜厚方向の振動を生じさせる。そして、その振動が交流電圧と同位相か逆位相かを探針で検出することにより、強誘電体膜の各ドメインの分極方向を把握することができる。
【0005】
但し、この方法では、膜厚方向に平行な分極方向しか分からず、強誘電体膜の表面に対して横向きの分極を見逃してしまう。
【0006】
横向きの分極を検出するには、上記のように強誘電体膜と探針との間に交流電圧を印加した状態で、探針の横方向の振動を測定すればよい。
【0007】
しかし、これでは膜厚方向を向いた分極を検出するために強誘電体膜の表面を探針で走査した後、横方向を向いた分極を検出するために再び探針を走査させる必要があり、各回の走査で同じ箇所を測定できるという確証がない。
【0008】
更に、一回目の走査と二回目の走査との間で時間が空いて計測時間が長くなるという問題もこの方法にはある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−286617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
強誘電体の分極の可視化方法及びその可視化装置において、試料表面に垂直な分極と平行な分極とを同時に可視化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下の開示の一観点によれば、強誘電体試料の複数の測定点の各々において、第1の探針と前記強誘電体試料との間に交流電圧を印加し、前記交流電圧の印加により前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定し、第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、前記強誘電体試料の複数の前記測定点の各々において、前記第1の探針から間隔をおいて設けられた第2の探針と前記強誘電体試料との間に前記交流電圧を印加し、前記交流電圧の印加により前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定し、前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成する強誘電体の分極の可視化方法が提供される。
【0012】
また、その開示の他の観点によれば、強誘電体試料を載せるステージと、前記強誘電体試料の複数の測定点の各々において、該強誘電体試料との間で交流電圧が印加される第1の探針と、前記第1の探針から間隔をおいて設けられると共に、前記測定点の各々において、前記強誘電体試料との間で前記交流電圧が印加される第2の探針と、前記交流電圧が印加されているときに前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分を検出する第1の検出部と、前記交流電圧が印加されているときに前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分を検出する第2の検出部と、前記第1の振動成分と前記第2の振動成分とに基づいて前記強誘電体試料の分極の向きを可視化する画像化部とを備え、前記画像化部は、前記第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成する強誘電体の分極の可視化装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
以下の開示によれば、第1の探針と第2の探針を利用して強誘電体試料の分極の方向を特定するので、試料表面に垂直な分極と平行な分極とを同時に可視化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、第1実施形態に係る強誘電体の分極の可視化装置である。
【図2】図2は、第1実施形態に係る可視化装置が備える4分割検出器の受光面の模式図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る強誘電体の分極の可視化方法の原理を示すも式断面図である。
【図4】図4は、第1実施形態において生成される第1の分極像の模式図である。
【図5】図5(a)、(b)は、第1実施形態において、試料表面に平行な方向への分極の可視化方法の原理を示す模式断面図である。
【図6】図6は、第1実施形態において生成される第2の分極像の模式図である。
【図7】図7は、第1実施形態において生成される合成像の模式図である。
【図8】図8は、第1実施形態に係る第1の探針と第2の探針の走査方法について示す模式図である。
【図9】図9は、第1実施形態に係る第1の探針と第2の探針の側面図である。
【図10】図10は、第1実施形態において分極を可視化する対象となる強誘電体試料の平面図である。
【図11】図11は、第1実施形態に係る分極の可視化方法のフローチャートである。
【図12】図12は、第1実施形態において実際に生成された第1の分極像である。
【図13】図13は、第1実施形態において実際に生成された第2の分極像である。
【図14】図14(a)、(b)は、第2実施形態に係る第1の探針の製造途中の断面図である。
【図15】図15は、第2実施形態で行う電解研磨について説明するための模式図である。
【図16】図16(a)は、第2実施形態で電解研磨をする前の第1の探針の断面図であり、図16(b)は電解研磨をした後の第1の探針の断面図である。
【図17】図17は、第2実施形態に従って製造された第1の探針の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る強誘電体の分極の可視化装置の構成図である。
【0016】
この可視化装置1は、圧電応答顕微鏡(PFM)であって、ステージ2、第1の探針3、第2の探針4、第1のピエゾ素子11、及び第2のピエゾ素子12を備える。
【0017】
このうち、ステージ2は、金属等の導電性材料を加工してなり、交流電源26の一方の極に接続される。
【0018】
また、ステージ2の上には分極方向の測定対象となる強誘電体試料Sが載置される。
【0019】
強誘電体試料Sは、シリコン基板100と、その上に順に形成された下部電極101及び強誘電体膜102を備える。このうち、下部電極101はプラチナ膜であり、強誘電体膜102はPZT膜である。
【0020】
その下部電極102とシリコン基板100の各側面には導電性ペースト27が塗布されており、これにより下部電極101がステージ2と同電位にされる。
【0021】
一方、第1の探針3と第2の探針4の各々は、タングステンワイヤを加工して形成され、それぞれ第1の梁5と第2の梁6の一方の端部に固定される。第1の探針3と第2の探針の電位は特に限定されないが、本実施形態ではこれらの探針3、4の電位を接地電位とする。
【0022】
第1のピエゾ素子11と第2のピエゾ素子12は、それぞれ第1の梁5と第2の梁6の他方の端部に接続される。後述のように、第1のピエゾ素子11は、第1の駆動電圧V1を受けて強誘電体試料Sの試料表面Mに対して垂直な第1の方向D1に駆動し、第1の探針3と試料表面Mとの間の原子間力を一定にするように機能する。
【0023】
同様に、第2のピエゾ素子12は、第2の駆動電圧V2を受けて第1の方向D1に駆動し、第2の探針5と試料表面Mとの間の原子間力を一定にするように機能する。
【0024】
また、ステージ2の上方には、第1の梁5に向けて第1のレーザ光L1を照射する第1の光源15と、第2の梁6に向けて第2のレーザ光L2を照射する第2の光源16とが設けられる。
【0025】
これらのレーザ光のうち、第1のレーザ光L1は第1の梁5の上面に設けられた第1の突起5aにより反射し、第2のレーザ光L2は第2の梁6の上面に設けられた第2の突起6aにより反射する。
【0026】
第1の探針3と第1の探針4の各々の上方には、このように反射した各レーザ光L1、L2を受光する第1の4分割光検出器13と第2の4分割光検出器14が設けられる。
【0027】
図2は、これらの4分割検出器13、14の受光面Rの模式図である。
【0028】
受光面Rは概略円形であって、その中心を通る直線によって区画された第1〜第4の受光領域R1〜R4を備える。
【0029】
第1〜第4の受光領域R1〜R4は、それぞれ独立した4つのフォトダイオードの受光面である。そして、4分割検出器13、14の各々からは、第1〜第4の受光領域R1〜R4の各々の受光量に応じた4つの電圧が出力電圧として出力される。
【0030】
再び図1を参照する。
【0031】
上記した第1の4分割光検出器13の後段には、第1のフィードバック回路17と第1のロックインアンプ19が設けられる。
【0032】
このうち、第1のロックインアンプ19には、第1の4分割光検出器13の出力電圧が第1の振動検出信号Sa1として入力されると共に、上記した交流電源26の交流電圧VACが参照電圧として入力される。その第1の振動検出信号Sa1は、第1の探針3に現れる振動のうち、第1の方向D1に平行な第1の振動成分A1を示す信号である。
【0033】
そして、第1のロックインアンプ19から出力される第1の出力信号Sout1は直流電圧であって、第1の振動検出信号Sa1と交流電圧VACとの位相差がαのとき、第1の出力信号Sout1の電圧値はAcosα(Aは所定値)となる。このように第1の出力信号Sout1は位相差αを反映しているので、第1の出力信号Sout1に基づいて、第1の振動検出信号Sa1と交流電圧VACとが同位相であるか否かを判断することができる。
【0034】
また、第1のフィードバック回路17には、第1の4分割光検出器13の出力電圧が、第1の変位信号Sb1として入力される。第1の変位信号Sb1は、第1の探針3の変位量のうち、第1の方向D1に平行な方向への第1の変位量B1を示す信号である。
【0035】
第1のフィードバック回路17は、上記した第1の変位信号Sb1に基づいて第1の探針3の第1の変位量B1を検出する。そして、第1のフィードバック回路15から出力される第1の駆動電圧V1は、第1のピエゾ素子11の変位量が第1の変位量B1を打ち消すような値とされる。これにより、第1の探針3と試料表面Mとの間隔が一定に保たれると共に、それらの間の原子間力も一定に保たれる。
【0036】
一方、第2の4分割光検出器14の後段には、第2のフィードバック回路18と第2のロックインアンプ20が設けられる。
【0037】
このうち、第2のロックインアンプ20には、第2の4分割光検出器14の出力電圧が第2の振動検出信号Sa2として入力されると共に、上記の交流電源26の交流電圧VACが参照電圧として入力される。その第2の振動検出信号Sa2は、第2の探針4に現れる振動のうち、試料表面Mに平行な第2の方向D2への第2の振動成分A2を示す信号である。
【0038】
そして、第2のロックインアンプ20から出力される第2の出力信号Sout2は直流電圧であって、第2の振動検出信号Sa2と交流電圧VACとの位相差がαのとき、その第2の出力信号Sout2の電圧値はAcosα(Aは所定値)となる。このように第2の出力信号Sout2は位相差αを反映しているので、第2の出力信号Sout2に基づいて、第2の振動検出信号Sa2と交流電圧VACとが同位相であるか否かを判断することができる。
【0039】
一方、第2のフィードバック回路18には、第2の4分割光検出器14の出力電圧が、第2の変位信号Sb2として入力される。第2の変位信号Sb2は、第2の探針4の変位量のうち、第1の方向D1に平行な方向への第2の変位量B2を示す信号である。
【0040】
第2のフィードバック回路18は、上記した第2の変位信号Sb2に基づいて第2の探針4の第2の変位量B2を検出する。そして、第2のフィードバック回路18から出力される第2の駆動電圧V2は、第2のピエゾ素子12の変位量が第2の変位量B2を打ち消すような値とされる。これにより、第2の探針4と試料表面Mとの間隔が一定に保たれると共に、それらの間の原子間力も一定に保たれる。
【0041】
上記した第1のロックインアンプ19と第2のロックインアンプ20の後段には、第1の出力信号Sout1と第2の出力信号Sout2とが入力される画像化部30が設けられる。
【0042】
画像化部30は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機であって、各出力信号Sout1、Sout2に基づいて後述のように強誘電体膜102の分極像を生成する。そして、その分極像は、画像化部30に接続されたモニタ31に表示される。
【0043】
次に、このような可視化装置1を用いて強誘電体膜102の分極方向を可視化する方法について説明する。
【0044】
図3は、その可視化方法の原理を示す模式断面図であって、試料表面Mに対して垂直な第1の方向D1の分極方向を可視化する場合を例示するものである。
【0045】
図3に示すように、強誘電体膜102には、分極Pの方向が異なる複数のドメインq1、q2、…が存在する。そして、第1の探針3と下部電極101との間に上記の交流電圧VACを印加すると、強誘電体膜102の各ドメインの膜厚が減少したり増加したりする。
【0046】
膜厚が減少するか増加するかはそのドメインにおける分極Pの方向に依存し、分極Pの方向と電界の方向とが平行であれば膜厚が増加し、反平行であれば減少する。
【0047】
そのような膜厚の増減は、強誘電体の電界誘起歪Sとして捉えることができる。電界誘起歪Sは、強誘電体に印加する電圧をEとして、次の式(1)で表される。
【0048】
S=dE+Qε02εr2E2・・・(1)
なお、式(1)において、Qは強誘電体の電歪定数、dは強誘電体の圧電定数、ε0は真空の誘電率、εrは強誘電体の誘電率である。
【0049】
ここで、本実施形態のように電圧Eが交流電圧であり、E=VACsinωt(ωは角振動数)と表すと、式(1)は次の式(2)のように表される。
【0050】
S=dVACsinωt+Qε02εr2VAC2sin2ωt
=1/2(Qε02εr2VAC2)+dVACsinωt+1/2(Qε02εr2VAC2 cos2ωt)・・・(2)
式(2)の右辺第1項は、電界誘起歪Sの直流成分であって、電歪効果に起因して現れるものである。
【0051】
また、式(2)の右辺第2項は、印加した交流電圧と同じ周波数を有しており、逆圧電効果に起因して現れるものである。
【0052】
そして、式(2)の右辺第3項は、印加した交流電圧の2倍の周波数成分を有しており、電歪効果に起因して現れるものである。
【0053】
本実施形態では、第1のロックインアンプ19の第1の出力信号Sout1により第1の振動検出信号Sa1と交流電圧VACとが同位相であるか否かを判断できるので、上記した式(2)の右辺第2項が原因で強誘電体膜102に生じた膜厚変動を捉えることになる。
【0054】
その膜厚変動の方向は、図3に示したように、強誘電体膜102の分極の方向が第1の方向D1と平行か反平行かにより逆になる。
【0055】
よって、第1出力信号Sout1を利用して、第1の振動検出信号Sa1が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかが分かれば、強誘電体膜102の分極の方向が第1の方向D1と平行か反平行かを特定できる。
【0056】
そこで、画像化部30は、第1の出力信号Sout1に基づいて、強誘電体膜102の分極方向が第1の方向D1と平行か反平行かを判断する。そのような判断は強誘電体膜102の各測定点で行われ、それに基づき画像化部30は分極方向を示す第1の分極像IM1を生成する。
【0057】
図4は、そのように生成された第1の分極像IM1の模式図である。
【0058】
図4に示すように、この第1の分極像IM1では、分極Pの方向が第1の方向D1と平行か反平行かに応じ、ドメインq1、q3の表面が異なる色彩で現される。
【0059】
なお、図4では、強誘電体膜102が立体的に描かれているが、これは分極Pの方向を説明するための便宜的なものであって、実際にモニタ31(図1参照)に表示されるのは色分け表示された各ドメインの表面のみである。これについては、後述の図6及び図7でも同様である。
【0060】
また、ドメインq2、q4には色彩が付されていないが、これはドメインq2、q4の分極の方向が第2の方向D2を向いているため、第1の探針3ではその分極の方向を特定できないからである。
【0061】
分極の方向が第2の方向D2に平行か反平行かは、以下のように第2の探針4を利用して可視化し得る。
【0062】
図5(a)、(b)は、その可視化方法の原理を示す模式断面図であって、試料表面Mに対して平行な第2の方向D2の分極方向を可視化する場合を例示するものである。
【0063】
図5(a)と図5(b)とでは、強誘電体膜102のドメインq2における分極Pの向きが互いに反対である。
【0064】
この場合、第2の探針4を介して強誘電体膜102に交流電圧VACを印加すると、ドメインq2が第2の方向D2に変形する。その変形の方向は、分極Pの向きが第2の方向D2に平行か反平行かで逆向きとなる
そして、このようなドメインq2の変形につられ、第2の探針4もドメインq2と同じ方向に移動するので、第2の探針4の第2の方向D2への振動が交流電圧VACと同位相が逆位相かを特定することで、分極Pが第2の方向D2に平行か反平行かを特定できる。
【0065】
そこで、画像化部30は、第2の出力信号Sout2に基づいて、強誘電体膜102の分極方向が第2の方向D2と平行か反平行かを判断する。そのような判断は強誘電体膜102の各点で行われ、それに基づき画像化部30は分極方向を示す第2の分極像IM2を生成する。
【0066】
図6は、そのように生成された第2の分極像IM2の模式図である。
【0067】
図6に示すように、第2の分極像IM2では、分極Pの方向が第2の方向D2と平行か反平行かに応じ、ドメインq2、q4の表面が異なる色彩で現される。
【0068】
これに対し、ドメインq1、q3には色彩が付されていないが、これはドメインq1、q3の分極の方向が第1の方向D1を向いているため、第2の探針4ではその分極の方向を特定できないからである。
【0069】
このように、第1の探針3と第2の探針4は第1の分極像IM1と第2の分極像IM2を取得するのに使用されるが、各々の分極像IM1、IM2だけでは強誘電体膜102の全体の分極方向を把握できない。
【0070】
そこで、図7に示すように、画像化部30がこれら第1の分極像IM1と第2の分極像IM2とを合成してなる合成像IM3を生成する。
【0071】
モニタ31(図1参照)に表示された合成像IM3を見ることで、ユーザは、強誘電体膜102のどこに欠陥があるのかを把握することができ、FeRAM等の強誘電体デバイスの不良解析に役立てることができる。
【0072】
更に、合成像IM3には、第1の方向D1と第2の方向D2のそれぞれの分極方向が現されるため、単一の方向の分極だけを現す場合と比較して、不良解析に役立つ多くの情報を得ることができる。
【0073】
特に、強誘電体膜102の表面近傍には、他の領域とは逆向きの分極が局所的に発生することがあり、そのような領域の有無を本実施形態に従って可視化することは強誘電体デバイスの不良解析に資することになる。
【0074】
次に、第1の探針3と第2の探針4の走査方法について説明する。
【0075】
図8は、第1の探針3と第2の探針4の走査方法について示す模式図である。
【0076】
第1の探針3は、不図示の駆動機構によって、水平方向に延在する走査線Kに沿って左から右へ強誘電体膜102を走査する。走査線Kは、互いに平行になるように複数設定され、走査線Kの本数は例えば256本である。更に、一つ一つの走査線Kには例えば256点の測定点K0があり、各測定点K0において第1の探針3により分極方向が特定される。
【0077】
なお、第1の探針3による走査領域は、一辺の長さが約1μm程度の正方形の領域であり、隣接する測定点K0同士の間隔は約4nm程度である。
【0078】
一方、第2の探針4は、第1の探針3との間隔Dが固定された状態で、走査線Kに沿って第1の探針3の後を追うように駆動され、第1の探針3と同一の測定点K0において分極の方向を特定する。
【0079】
特に、本実施形態では、第1の梁5の延在方向E1と第1の探針3の延在方向E2との間の角度θ1と、第2の梁6の延在方向E3と第2の探針4の延在方向E4との間の角度θ2の各々を鈍角にする。
【0080】
これにより、各梁5、6の先端5x、6x同士が衝突するのを防止しながら、各探針3、4の先端を互いに近接させることができ、上記した間隔Dを可能な限り狭くすることができる。
【0081】
その結果、第1の探針3によって強誘電体膜102の分極の方向を測定した後に、長い時間間隔をおかずに同一箇所を第2の探針4で測定することができ、探針3、4による測定の間に分極方向が変化する危険性がなくなり、分極方向を正確に測定することができる。
【0082】
なお、各探針3、4同士の間隔Dは特に限定されないが、本実施形態では間隔Dを約50nmとする。
【0083】
図9は、第1の探針3と第2の探針4の側面図である。
【0084】
本実施形態では、第1の梁5に第1の突起5aを設けると共に、第2の梁6に第2の突起6aを設ける。
【0085】
既述のように、第1の突起5aは第1のレーザ光L1を反射するように機能し、第2の突起6aは第2のレーザ光L2を反射するように機能する。
【0086】
このように各突起5a、6aで各レーザ光L1、L2を反射させることで、反射後の各レーザ光L1、L2の光路が交わるのを防止できる。そのため、反射後の第1のレーザ光L1が誤って第2の4分割光検出器14に入ったり、反射後の第2のレーザ光L2が誤って第1の4分割光検出器13に入ったりするのを防止でき、各4分割光検出器13、14で各探針3、4の変位を誤認する危険性を低減できる。
【0087】
次に、上記の可視化装置1を用いた分極可視化方法について説明する。
【0088】
図10は、分極を可視化する対象となる強誘電体試料Sの平面図である。図10に示すように、この例では、厚さが約100nmプラチナ膜をパターニングしてなる下部電極101の上に、厚さが約50nmの島状のPZT膜が強誘電体膜102として複数形成される。
【0089】
図11は、本実施形態に係る分極の可視化方法のフローチャートである。
【0090】
最初のステップP1では、図1に示したように、交流電源26を利用して、強誘電体試料Sと第1の探針3との間、及び、強誘電体試料Sと第2の探針4の間に交流電圧VACを印加する。
【0091】
交流電圧VACの電圧値は、測定対象の強誘電体試料Sの抗電圧以下にするのが好ましい。本実施形態では、交流電圧VACの周波数を0.2kHzにすると共に、交流電圧VACのpeak to peakの電圧値を1Vとする。
【0092】
次のステップP2では、不図示の駆動機構を用いて、第1の探針3と第2の探針4の各々を強誘電体試料Sの測定点K0に移動させる。なお、図8に示したように、各探針3、4の先端は間隔Dだけ隔てられているので、各探針3、4が同一の測定点K0に同時に移動するということはなく、本ステップでは同一の走査線K上の異なる測定点K0に各探針3、4が移動する。
【0093】
次のステップP3では、交流電圧VACの印加により第1の探針3に発生する振動のうち、試料表面Mに垂直な第1の方向D1への第1の振動成分A1が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかを特定する。
【0094】
本ステップは、第1のロックインアンプ19から出力される第1の出力信号Sout1に基づいて画像化部30が行う。
【0095】
次に、ステップP4に移り、上記した交流電圧VACの印加によって第2の探針4に発生する振動のうち、試料表面Mに平行な第2の方向D2への第2の振動成分A2が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかを特定する。
【0096】
本ステップは、第2のロックインアンプ20から出力される第2の出力信号Sout2に基づいて画像化部30が行う。
【0097】
次に、ステップP5に移り、画像化部30が、上記したステップP3とステップP4とを強誘電体試料Sの全ての測定点K0において行ったか否かを判断する。
【0098】
ここで、行っていない(NO)と判断された場合には、再びステップP2に移り、未測定の測定点K0に第1の探針3と第2の探針4とを移動させる。
【0099】
一方、ステップP5において行った(YES)と判断された場合には、ステップP6に移る。
【0100】
本ステップでは、画像化部30が、各測定点K0における第1の振動成分A1が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかに応じ、強誘電体膜102の分極の向きが第1の方向D1に平行か反平行かを可視化した第1の分極像IM1を生成する。
【0101】
図12は、このようにして実際に生成された第1の分極像IM1である。図12に示すように、分極の向きが第1の方向D1に平行か反平行かに応じて各ドメインに異なる色彩が付される。
【0102】
次に、ステップP7に移り、画像化部30が、各測定点K0における第2の振動成分A2が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかに応じ、強誘電体膜102の分極の向きが第2の方向D2に平行か反平行かを可視化した第2の分極像IM2を生成する。
【0103】
図13は、このようにして実際に生成された第2の分極像IM2であり、分極の向きが第2の方向D2に平行か反平行かに応じて各ドメインに異なる色彩が付される。
【0104】
次いで、ステップP8に移り、画像化部30が、第1の分極像IM1と第2の分極像IM2とを合成してなる合成像IM3を生成する。
【0105】
以上により、本実施形態に係る分極可視化方法の基本ステップを終了する。
【0106】
上記した本実施形態では、第1の探針3と第2の探針4を利用するので、試料表面Mに対して垂直な第1の方向D1の分極だけでなく、試料表面Mに対して平行な第2の方向D2の分極をも可視化でき、ユーザの便宜に資することができる。
【0107】
更に、第2の探針4に第1の探針3の後を追わせるので、第1の探針3で分極方向を測定した後にすぐさま第2の探針4で分極方向を測定でき、各探針3、4による測定に過度な時間差が発生するのを防止できる。
【0108】
本実施形態に従うと、合成像IM3を得るのに要する時間は約5分であり、強誘電体膜102の分極を短時間で把握することができる。
【0109】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態で説明した第1の探針3の製造方法について説明する。
【0110】
図14(a)、(b)は、本実施形態に係る第1の探針3の製造途中の断面図である。
【0111】
なお、第2の探針4も第1の探針3と同じ方法により製造されるので、以下では第2の探針4の製造方法については省略する。
【0112】
まず、図14(a)に示すように、シリコンの母材をエッチングにより加工することで、ベース40、第1の梁5、及び第1の突起5aが一体的に形成されてなる構造体50を作製する。
【0113】
そして、その構造体50の表面に耐腐食性に優れた金メッキを施す。
【0114】
なお、このようにシリコンの母材から構造体50を作製するのではなく、市販されている探針付きの梁を構造体50として利用してもよい。そのような探針付きの梁としては、例えば、SIINT社製のSI-DF3がある。但し、市販品では、梁と探針との間の角が鋭角になっているので、Gaイオンを使用するFIB(Focused Ion Beam)で既存の探針を除去し、以下のように新たに探針を付け直すのが好ましい。
【0115】
次いで、図14(b)に示すように、第1の梁5の先端部分に、導電性ペーストを利用して第1の探針3を新たに付着する。付着に際しては、第1の梁5の延在方向E1と第1の探針3の延在方向E2との間の角度θ1が鈍角になるようにする。
【0116】
このように角度θ1を鈍角にすることで、図8を参照して説明したように、第1の探針3と第2の探針4との間隔Dを狭めることができる。
【0117】
なお、第1の探針3としては、例えば、先端部が円錐状に先鋭化された市販のタングステンワイヤを使用し得る。本実施形態では、多結晶タングステンを材料とする直径が0.25mmのタングステンワイヤを使用する。そのタングステンワイヤの先端部は、機械研磨によって約100nm程度の直径に先鋭化されている。
【0118】
但し、この程度の直径ではPFM用の探針としてはまだ不十分である。そこで、次の工程では、電界研磨により第1の探針3を更に先鋭化する。
【0119】
図15は、その電界研磨について説明するための模式図である。
【0120】
電界研磨に際しては、図15に示すように、容器48内に溜められたKOH水溶液等の電解液47中に、第1の探針3と金の対向電極46とを浸漬する。そして、電源45により第1の探針3と電極46との間に通電を行うことで第1の探針3に対して電解研磨を行う。
【0121】
電解研磨の条件は特に限定されない。本実施形態では、電源45により電圧値が10Vで周波数が30kHzのパルス電圧を生成し、電解液47中への第1の探針3の浸漬時間を5秒とする。
【0122】
図16(a)は電解研磨前の第1の探針3の断面図であり、図16(b)は電解研磨後の第1の探針3の断面図である。
【0123】
図16(a)に示すように、電解研磨前では第1の探針3の円錐状の先端部の長さTは約1mm程度であるが、電解研磨をした後では図16(b)のように先端部の長さTが約0.5mm程度になる。
【0124】
また、電解研磨によって第1の探針3の先端の直径は約10nm程度となる。
【0125】
その後に、不図示のモータを利用して電解液47から第1の探針3を引き上げる。そして、純水により第1の探針3を洗浄した後、窒素ブロワーで第1の探針3を乾燥させる。
【0126】
以上により、本実施形態に係る第1の探針3の基本構造が完成する。
【0127】
図17は、そのように製造された第1の探針3の斜視図である。
【0128】
この第1の探針3によれば、その延在方向E2と第1の梁5の延在方向E1との間の角度θ1が鈍角になるので、第1実施形態の図8のように第2の探針4との間隔Dを狭めることができる。
【0129】
そして、第1の梁5の上に第1の突起5aを形成することで、図9のように第1の突起5aで第1のレーザ光L1を反射させることができ、第1のレーザ光L1が誤って第2の4分割光検出器14に入るのを防止できる。
【0130】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0131】
(付記1) 強誘電体試料の複数の測定点の各々において、第1の探針と前記強誘電体試料との間に交流電圧を印加するステップと、
前記交流電圧の印加により前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定するステップと、
第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成するステップと、
前記強誘電体試料の複数の前記測定点の各々において、前記第1の探針から間隔をおいて設けられた第2の探針と前記強誘電体試料との間に前記交流電圧を印加するステップと、
前記交流電圧の印加により前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定するステップと、
前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成するステップと、
前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成するステップと、
を有することを特徴とする強誘電体の分極の可視化方法。
【0132】
(付記2) 前記第1の探針と前記強誘電体試料との間に交流電圧を印加するときに、所定の走査線に沿って前記強誘電体試料上を前記第1の探針が走査し、
前記第2の探針と前記強誘電体試料との間に前記交流電圧を印加するときに、前記第2の探針が前記走査線に沿って前記第1の探針の後を追うことを特徴とする付記1に記載の強誘電体の分極の可視化方法。
【0133】
(付記3) 強誘電体試料を載せるステージと、
前記強誘電体試料の複数の測定点の各々において、該強誘電体試料との間で交流電圧が印加される第1の探針と、
前記第1の探針から間隔をおいて設けられると共に、前記測定点の各々において、前記強誘電体試料との間で前記交流電圧が印加される第2の探針と、
前記交流電圧が印加されているときに前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分を検出する第1の検出部と、
前記交流電圧が印加されているときに前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分を検出する第2の検出部と、
前記第1の振動成分と前記第2の振動成分とに基づいて前記強誘電体試料の分極の向きを可視化する画像化部とを備え、
前記画像化部は、
前記第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、
前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、
前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成することを特徴とする強誘電体の分極の可視化装置。
【0134】
(付記4) 先端に前記第1の探針が固定される第1の梁と、
先端に前記第2の探針が固定される第2の梁とを更に備え、
前記第1の梁の延在方向と前記第1の探針の延在方向との間の角度、及び、前記第2の梁の延在方向と前記第2の探針の延在方向との間の角度の少なくとも一方が鈍角であることを特徴とする付記3に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0135】
(付記5) 前記第1の梁に向けて第1のレーザ光を照射する第1の光源と、
前記第2の梁に向けて第2のレーザ光を照射する第2の光源とを更に有し、
前記第1の検出部は、前記第1の梁で反射した前記第1のレーザ光を受光して前記第1の振動成分を示す第1の振動検出信号を出力する第1の多分割光検出器であり、
前記第2の検出部は、前記第2の梁で反射した前記第2のレーザ光を受光して前記第2の振動成分を示す第2の振動検出信号を出力する第2の多分割光検出器であることを特徴とする付記4に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0136】
(付記6) 前記第1の梁に、前記第1のレーザ光を反射する第1の突起が設けられ、
前記第2の梁に、前記第2のレーザ光を反射する第2の突起が設けられたことを特徴とする付記5に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0137】
(付記7) 前記第1の振動検出信号と前記交流電圧とが同位相であるか否かを示す第1の出力信号を出力する第1のロックインアンプと、
前記第2の振動検出信号と前記交流電圧とが同位相であるか否かを示す第2の出力信号を出力する第2のロックインアンプとを更に備え、
前記画像化部は、前記第1の出力信号に基づいて前記第1の振動成分と前記交流電圧とが同位相であるか否かを判断し、前記第2の出力信号に基づいて前記第2の振動成分と前記交流電圧とが同位相であるか否かを判断することを特徴とする付記5又は付記6に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0138】
(付記8) 前記第1の検出器は、前記第1の探針の変位量のうち、前記第1の方向に平行な方向への第1の変位量を示す第1の変位信号を出力し、
前記第2の検出器は、第2の探針の変位量のうち、前記第1の方向に平行な方向への第2の変位量を示す第2の変位信号を出力して、
前記第1の探針と機械的に接続された第1のピエゾ素子と、
前記第2の探針と機械的に接続された第2のピエゾ素子と、
前記第1の変位信号に基づいて、前記第1の探針と前記試料表面との間の原子間力が一定となるような第1の駆動電圧を前記第1のピエゾ素子に対して出力する第1のフィードバック回路と、
前記第2の変位信号に基づいて、前記第2の探針と前記試料表面との間の原子間力が一定となるような第2の駆動電圧を前記第2のピエゾ素子に対して出力する第2のフィードバック回路とを更に備えたことを特徴とする付記5乃至付記7のいずれかに記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0139】
(付記9) 前記合成像における前記測定点の色彩は、前記分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行か、若しくは前記分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かにより異なることを特徴とする付記3乃至付記8のいずれかに記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0140】
(付記10) 前記第1の探針は、所定の走査線に沿って前記強誘電体試料上を走査し、
前記第2の探針は、前記走査線に沿って前記第1の探針の後を追うことを特徴とする付記1乃至付記7のいずれかに記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【符号の説明】
【0141】
1…可視化装置、2…ステージ、3…第1の探針、4…第2の探針、5…第1の梁、5a…第1の突起、5x、6x…先端、6…第2の梁、6a…第2の突起、11…第1のピエゾ素子、12…第2のピエゾ素子、13…第1の4分割光検出器、14…第2の4分割光検出器、15…第1の光源、16…第2の光源、17…第1のフィードバック回路、18…第2のフィードバック回路、19…第1のロックインアンプ、20…第2のロックインアンプ、26…交流電源、27…導電性ペースト、30…画像化部、31…モニタ、100…シリコン基板、101…下部電極、102…下部電極、S…強誘電体試料。
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体の分極の可視化方法及びその可視化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PZT(lead zirconate titanate)膜等の強誘電体膜はFeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)等の強誘電体デバイスに広く使用されており、強誘電体膜の分極方向は強誘電体デバイスの電気的特性に大きな影響を与える。特に、強誘電体膜の表面近傍には、他の領域とは逆向きの分極が局所的に発生することがあり、そのような領域の有無を可視化することは強誘電体デバイスの不良解析に資することになる。
【0003】
そこで、強誘電体膜の各ドメインがどの方向に分極しているのかを可視化し、それを強誘電体デバイスの不良解析に役立てる技術が提案されている。
【0004】
そのような技術としては、例えば、原子間力顕微鏡を利用した圧電応答顕微鏡(PFM: Piezoresponse Force Microscopy)がある。圧電応答顕微鏡では、強誘電体膜と探針との間に交流電圧を印加することで、強誘電体膜に膜厚方向の振動を生じさせる。そして、その振動が交流電圧と同位相か逆位相かを探針で検出することにより、強誘電体膜の各ドメインの分極方向を把握することができる。
【0005】
但し、この方法では、膜厚方向に平行な分極方向しか分からず、強誘電体膜の表面に対して横向きの分極を見逃してしまう。
【0006】
横向きの分極を検出するには、上記のように強誘電体膜と探針との間に交流電圧を印加した状態で、探針の横方向の振動を測定すればよい。
【0007】
しかし、これでは膜厚方向を向いた分極を検出するために強誘電体膜の表面を探針で走査した後、横方向を向いた分極を検出するために再び探針を走査させる必要があり、各回の走査で同じ箇所を測定できるという確証がない。
【0008】
更に、一回目の走査と二回目の走査との間で時間が空いて計測時間が長くなるという問題もこの方法にはある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−286617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
強誘電体の分極の可視化方法及びその可視化装置において、試料表面に垂直な分極と平行な分極とを同時に可視化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下の開示の一観点によれば、強誘電体試料の複数の測定点の各々において、第1の探針と前記強誘電体試料との間に交流電圧を印加し、前記交流電圧の印加により前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定し、第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、前記強誘電体試料の複数の前記測定点の各々において、前記第1の探針から間隔をおいて設けられた第2の探針と前記強誘電体試料との間に前記交流電圧を印加し、前記交流電圧の印加により前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定し、前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成する強誘電体の分極の可視化方法が提供される。
【0012】
また、その開示の他の観点によれば、強誘電体試料を載せるステージと、前記強誘電体試料の複数の測定点の各々において、該強誘電体試料との間で交流電圧が印加される第1の探針と、前記第1の探針から間隔をおいて設けられると共に、前記測定点の各々において、前記強誘電体試料との間で前記交流電圧が印加される第2の探針と、前記交流電圧が印加されているときに前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分を検出する第1の検出部と、前記交流電圧が印加されているときに前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分を検出する第2の検出部と、前記第1の振動成分と前記第2の振動成分とに基づいて前記強誘電体試料の分極の向きを可視化する画像化部とを備え、前記画像化部は、前記第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成する強誘電体の分極の可視化装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
以下の開示によれば、第1の探針と第2の探針を利用して強誘電体試料の分極の方向を特定するので、試料表面に垂直な分極と平行な分極とを同時に可視化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、第1実施形態に係る強誘電体の分極の可視化装置である。
【図2】図2は、第1実施形態に係る可視化装置が備える4分割検出器の受光面の模式図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る強誘電体の分極の可視化方法の原理を示すも式断面図である。
【図4】図4は、第1実施形態において生成される第1の分極像の模式図である。
【図5】図5(a)、(b)は、第1実施形態において、試料表面に平行な方向への分極の可視化方法の原理を示す模式断面図である。
【図6】図6は、第1実施形態において生成される第2の分極像の模式図である。
【図7】図7は、第1実施形態において生成される合成像の模式図である。
【図8】図8は、第1実施形態に係る第1の探針と第2の探針の走査方法について示す模式図である。
【図9】図9は、第1実施形態に係る第1の探針と第2の探針の側面図である。
【図10】図10は、第1実施形態において分極を可視化する対象となる強誘電体試料の平面図である。
【図11】図11は、第1実施形態に係る分極の可視化方法のフローチャートである。
【図12】図12は、第1実施形態において実際に生成された第1の分極像である。
【図13】図13は、第1実施形態において実際に生成された第2の分極像である。
【図14】図14(a)、(b)は、第2実施形態に係る第1の探針の製造途中の断面図である。
【図15】図15は、第2実施形態で行う電解研磨について説明するための模式図である。
【図16】図16(a)は、第2実施形態で電解研磨をする前の第1の探針の断面図であり、図16(b)は電解研磨をした後の第1の探針の断面図である。
【図17】図17は、第2実施形態に従って製造された第1の探針の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る強誘電体の分極の可視化装置の構成図である。
【0016】
この可視化装置1は、圧電応答顕微鏡(PFM)であって、ステージ2、第1の探針3、第2の探針4、第1のピエゾ素子11、及び第2のピエゾ素子12を備える。
【0017】
このうち、ステージ2は、金属等の導電性材料を加工してなり、交流電源26の一方の極に接続される。
【0018】
また、ステージ2の上には分極方向の測定対象となる強誘電体試料Sが載置される。
【0019】
強誘電体試料Sは、シリコン基板100と、その上に順に形成された下部電極101及び強誘電体膜102を備える。このうち、下部電極101はプラチナ膜であり、強誘電体膜102はPZT膜である。
【0020】
その下部電極102とシリコン基板100の各側面には導電性ペースト27が塗布されており、これにより下部電極101がステージ2と同電位にされる。
【0021】
一方、第1の探針3と第2の探針4の各々は、タングステンワイヤを加工して形成され、それぞれ第1の梁5と第2の梁6の一方の端部に固定される。第1の探針3と第2の探針の電位は特に限定されないが、本実施形態ではこれらの探針3、4の電位を接地電位とする。
【0022】
第1のピエゾ素子11と第2のピエゾ素子12は、それぞれ第1の梁5と第2の梁6の他方の端部に接続される。後述のように、第1のピエゾ素子11は、第1の駆動電圧V1を受けて強誘電体試料Sの試料表面Mに対して垂直な第1の方向D1に駆動し、第1の探針3と試料表面Mとの間の原子間力を一定にするように機能する。
【0023】
同様に、第2のピエゾ素子12は、第2の駆動電圧V2を受けて第1の方向D1に駆動し、第2の探針5と試料表面Mとの間の原子間力を一定にするように機能する。
【0024】
また、ステージ2の上方には、第1の梁5に向けて第1のレーザ光L1を照射する第1の光源15と、第2の梁6に向けて第2のレーザ光L2を照射する第2の光源16とが設けられる。
【0025】
これらのレーザ光のうち、第1のレーザ光L1は第1の梁5の上面に設けられた第1の突起5aにより反射し、第2のレーザ光L2は第2の梁6の上面に設けられた第2の突起6aにより反射する。
【0026】
第1の探針3と第1の探針4の各々の上方には、このように反射した各レーザ光L1、L2を受光する第1の4分割光検出器13と第2の4分割光検出器14が設けられる。
【0027】
図2は、これらの4分割検出器13、14の受光面Rの模式図である。
【0028】
受光面Rは概略円形であって、その中心を通る直線によって区画された第1〜第4の受光領域R1〜R4を備える。
【0029】
第1〜第4の受光領域R1〜R4は、それぞれ独立した4つのフォトダイオードの受光面である。そして、4分割検出器13、14の各々からは、第1〜第4の受光領域R1〜R4の各々の受光量に応じた4つの電圧が出力電圧として出力される。
【0030】
再び図1を参照する。
【0031】
上記した第1の4分割光検出器13の後段には、第1のフィードバック回路17と第1のロックインアンプ19が設けられる。
【0032】
このうち、第1のロックインアンプ19には、第1の4分割光検出器13の出力電圧が第1の振動検出信号Sa1として入力されると共に、上記した交流電源26の交流電圧VACが参照電圧として入力される。その第1の振動検出信号Sa1は、第1の探針3に現れる振動のうち、第1の方向D1に平行な第1の振動成分A1を示す信号である。
【0033】
そして、第1のロックインアンプ19から出力される第1の出力信号Sout1は直流電圧であって、第1の振動検出信号Sa1と交流電圧VACとの位相差がαのとき、第1の出力信号Sout1の電圧値はAcosα(Aは所定値)となる。このように第1の出力信号Sout1は位相差αを反映しているので、第1の出力信号Sout1に基づいて、第1の振動検出信号Sa1と交流電圧VACとが同位相であるか否かを判断することができる。
【0034】
また、第1のフィードバック回路17には、第1の4分割光検出器13の出力電圧が、第1の変位信号Sb1として入力される。第1の変位信号Sb1は、第1の探針3の変位量のうち、第1の方向D1に平行な方向への第1の変位量B1を示す信号である。
【0035】
第1のフィードバック回路17は、上記した第1の変位信号Sb1に基づいて第1の探針3の第1の変位量B1を検出する。そして、第1のフィードバック回路15から出力される第1の駆動電圧V1は、第1のピエゾ素子11の変位量が第1の変位量B1を打ち消すような値とされる。これにより、第1の探針3と試料表面Mとの間隔が一定に保たれると共に、それらの間の原子間力も一定に保たれる。
【0036】
一方、第2の4分割光検出器14の後段には、第2のフィードバック回路18と第2のロックインアンプ20が設けられる。
【0037】
このうち、第2のロックインアンプ20には、第2の4分割光検出器14の出力電圧が第2の振動検出信号Sa2として入力されると共に、上記の交流電源26の交流電圧VACが参照電圧として入力される。その第2の振動検出信号Sa2は、第2の探針4に現れる振動のうち、試料表面Mに平行な第2の方向D2への第2の振動成分A2を示す信号である。
【0038】
そして、第2のロックインアンプ20から出力される第2の出力信号Sout2は直流電圧であって、第2の振動検出信号Sa2と交流電圧VACとの位相差がαのとき、その第2の出力信号Sout2の電圧値はAcosα(Aは所定値)となる。このように第2の出力信号Sout2は位相差αを反映しているので、第2の出力信号Sout2に基づいて、第2の振動検出信号Sa2と交流電圧VACとが同位相であるか否かを判断することができる。
【0039】
一方、第2のフィードバック回路18には、第2の4分割光検出器14の出力電圧が、第2の変位信号Sb2として入力される。第2の変位信号Sb2は、第2の探針4の変位量のうち、第1の方向D1に平行な方向への第2の変位量B2を示す信号である。
【0040】
第2のフィードバック回路18は、上記した第2の変位信号Sb2に基づいて第2の探針4の第2の変位量B2を検出する。そして、第2のフィードバック回路18から出力される第2の駆動電圧V2は、第2のピエゾ素子12の変位量が第2の変位量B2を打ち消すような値とされる。これにより、第2の探針4と試料表面Mとの間隔が一定に保たれると共に、それらの間の原子間力も一定に保たれる。
【0041】
上記した第1のロックインアンプ19と第2のロックインアンプ20の後段には、第1の出力信号Sout1と第2の出力信号Sout2とが入力される画像化部30が設けられる。
【0042】
画像化部30は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機であって、各出力信号Sout1、Sout2に基づいて後述のように強誘電体膜102の分極像を生成する。そして、その分極像は、画像化部30に接続されたモニタ31に表示される。
【0043】
次に、このような可視化装置1を用いて強誘電体膜102の分極方向を可視化する方法について説明する。
【0044】
図3は、その可視化方法の原理を示す模式断面図であって、試料表面Mに対して垂直な第1の方向D1の分極方向を可視化する場合を例示するものである。
【0045】
図3に示すように、強誘電体膜102には、分極Pの方向が異なる複数のドメインq1、q2、…が存在する。そして、第1の探針3と下部電極101との間に上記の交流電圧VACを印加すると、強誘電体膜102の各ドメインの膜厚が減少したり増加したりする。
【0046】
膜厚が減少するか増加するかはそのドメインにおける分極Pの方向に依存し、分極Pの方向と電界の方向とが平行であれば膜厚が増加し、反平行であれば減少する。
【0047】
そのような膜厚の増減は、強誘電体の電界誘起歪Sとして捉えることができる。電界誘起歪Sは、強誘電体に印加する電圧をEとして、次の式(1)で表される。
【0048】
S=dE+Qε02εr2E2・・・(1)
なお、式(1)において、Qは強誘電体の電歪定数、dは強誘電体の圧電定数、ε0は真空の誘電率、εrは強誘電体の誘電率である。
【0049】
ここで、本実施形態のように電圧Eが交流電圧であり、E=VACsinωt(ωは角振動数)と表すと、式(1)は次の式(2)のように表される。
【0050】
S=dVACsinωt+Qε02εr2VAC2sin2ωt
=1/2(Qε02εr2VAC2)+dVACsinωt+1/2(Qε02εr2VAC2 cos2ωt)・・・(2)
式(2)の右辺第1項は、電界誘起歪Sの直流成分であって、電歪効果に起因して現れるものである。
【0051】
また、式(2)の右辺第2項は、印加した交流電圧と同じ周波数を有しており、逆圧電効果に起因して現れるものである。
【0052】
そして、式(2)の右辺第3項は、印加した交流電圧の2倍の周波数成分を有しており、電歪効果に起因して現れるものである。
【0053】
本実施形態では、第1のロックインアンプ19の第1の出力信号Sout1により第1の振動検出信号Sa1と交流電圧VACとが同位相であるか否かを判断できるので、上記した式(2)の右辺第2項が原因で強誘電体膜102に生じた膜厚変動を捉えることになる。
【0054】
その膜厚変動の方向は、図3に示したように、強誘電体膜102の分極の方向が第1の方向D1と平行か反平行かにより逆になる。
【0055】
よって、第1出力信号Sout1を利用して、第1の振動検出信号Sa1が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかが分かれば、強誘電体膜102の分極の方向が第1の方向D1と平行か反平行かを特定できる。
【0056】
そこで、画像化部30は、第1の出力信号Sout1に基づいて、強誘電体膜102の分極方向が第1の方向D1と平行か反平行かを判断する。そのような判断は強誘電体膜102の各測定点で行われ、それに基づき画像化部30は分極方向を示す第1の分極像IM1を生成する。
【0057】
図4は、そのように生成された第1の分極像IM1の模式図である。
【0058】
図4に示すように、この第1の分極像IM1では、分極Pの方向が第1の方向D1と平行か反平行かに応じ、ドメインq1、q3の表面が異なる色彩で現される。
【0059】
なお、図4では、強誘電体膜102が立体的に描かれているが、これは分極Pの方向を説明するための便宜的なものであって、実際にモニタ31(図1参照)に表示されるのは色分け表示された各ドメインの表面のみである。これについては、後述の図6及び図7でも同様である。
【0060】
また、ドメインq2、q4には色彩が付されていないが、これはドメインq2、q4の分極の方向が第2の方向D2を向いているため、第1の探針3ではその分極の方向を特定できないからである。
【0061】
分極の方向が第2の方向D2に平行か反平行かは、以下のように第2の探針4を利用して可視化し得る。
【0062】
図5(a)、(b)は、その可視化方法の原理を示す模式断面図であって、試料表面Mに対して平行な第2の方向D2の分極方向を可視化する場合を例示するものである。
【0063】
図5(a)と図5(b)とでは、強誘電体膜102のドメインq2における分極Pの向きが互いに反対である。
【0064】
この場合、第2の探針4を介して強誘電体膜102に交流電圧VACを印加すると、ドメインq2が第2の方向D2に変形する。その変形の方向は、分極Pの向きが第2の方向D2に平行か反平行かで逆向きとなる
そして、このようなドメインq2の変形につられ、第2の探針4もドメインq2と同じ方向に移動するので、第2の探針4の第2の方向D2への振動が交流電圧VACと同位相が逆位相かを特定することで、分極Pが第2の方向D2に平行か反平行かを特定できる。
【0065】
そこで、画像化部30は、第2の出力信号Sout2に基づいて、強誘電体膜102の分極方向が第2の方向D2と平行か反平行かを判断する。そのような判断は強誘電体膜102の各点で行われ、それに基づき画像化部30は分極方向を示す第2の分極像IM2を生成する。
【0066】
図6は、そのように生成された第2の分極像IM2の模式図である。
【0067】
図6に示すように、第2の分極像IM2では、分極Pの方向が第2の方向D2と平行か反平行かに応じ、ドメインq2、q4の表面が異なる色彩で現される。
【0068】
これに対し、ドメインq1、q3には色彩が付されていないが、これはドメインq1、q3の分極の方向が第1の方向D1を向いているため、第2の探針4ではその分極の方向を特定できないからである。
【0069】
このように、第1の探針3と第2の探針4は第1の分極像IM1と第2の分極像IM2を取得するのに使用されるが、各々の分極像IM1、IM2だけでは強誘電体膜102の全体の分極方向を把握できない。
【0070】
そこで、図7に示すように、画像化部30がこれら第1の分極像IM1と第2の分極像IM2とを合成してなる合成像IM3を生成する。
【0071】
モニタ31(図1参照)に表示された合成像IM3を見ることで、ユーザは、強誘電体膜102のどこに欠陥があるのかを把握することができ、FeRAM等の強誘電体デバイスの不良解析に役立てることができる。
【0072】
更に、合成像IM3には、第1の方向D1と第2の方向D2のそれぞれの分極方向が現されるため、単一の方向の分極だけを現す場合と比較して、不良解析に役立つ多くの情報を得ることができる。
【0073】
特に、強誘電体膜102の表面近傍には、他の領域とは逆向きの分極が局所的に発生することがあり、そのような領域の有無を本実施形態に従って可視化することは強誘電体デバイスの不良解析に資することになる。
【0074】
次に、第1の探針3と第2の探針4の走査方法について説明する。
【0075】
図8は、第1の探針3と第2の探針4の走査方法について示す模式図である。
【0076】
第1の探針3は、不図示の駆動機構によって、水平方向に延在する走査線Kに沿って左から右へ強誘電体膜102を走査する。走査線Kは、互いに平行になるように複数設定され、走査線Kの本数は例えば256本である。更に、一つ一つの走査線Kには例えば256点の測定点K0があり、各測定点K0において第1の探針3により分極方向が特定される。
【0077】
なお、第1の探針3による走査領域は、一辺の長さが約1μm程度の正方形の領域であり、隣接する測定点K0同士の間隔は約4nm程度である。
【0078】
一方、第2の探針4は、第1の探針3との間隔Dが固定された状態で、走査線Kに沿って第1の探針3の後を追うように駆動され、第1の探針3と同一の測定点K0において分極の方向を特定する。
【0079】
特に、本実施形態では、第1の梁5の延在方向E1と第1の探針3の延在方向E2との間の角度θ1と、第2の梁6の延在方向E3と第2の探針4の延在方向E4との間の角度θ2の各々を鈍角にする。
【0080】
これにより、各梁5、6の先端5x、6x同士が衝突するのを防止しながら、各探針3、4の先端を互いに近接させることができ、上記した間隔Dを可能な限り狭くすることができる。
【0081】
その結果、第1の探針3によって強誘電体膜102の分極の方向を測定した後に、長い時間間隔をおかずに同一箇所を第2の探針4で測定することができ、探針3、4による測定の間に分極方向が変化する危険性がなくなり、分極方向を正確に測定することができる。
【0082】
なお、各探針3、4同士の間隔Dは特に限定されないが、本実施形態では間隔Dを約50nmとする。
【0083】
図9は、第1の探針3と第2の探針4の側面図である。
【0084】
本実施形態では、第1の梁5に第1の突起5aを設けると共に、第2の梁6に第2の突起6aを設ける。
【0085】
既述のように、第1の突起5aは第1のレーザ光L1を反射するように機能し、第2の突起6aは第2のレーザ光L2を反射するように機能する。
【0086】
このように各突起5a、6aで各レーザ光L1、L2を反射させることで、反射後の各レーザ光L1、L2の光路が交わるのを防止できる。そのため、反射後の第1のレーザ光L1が誤って第2の4分割光検出器14に入ったり、反射後の第2のレーザ光L2が誤って第1の4分割光検出器13に入ったりするのを防止でき、各4分割光検出器13、14で各探針3、4の変位を誤認する危険性を低減できる。
【0087】
次に、上記の可視化装置1を用いた分極可視化方法について説明する。
【0088】
図10は、分極を可視化する対象となる強誘電体試料Sの平面図である。図10に示すように、この例では、厚さが約100nmプラチナ膜をパターニングしてなる下部電極101の上に、厚さが約50nmの島状のPZT膜が強誘電体膜102として複数形成される。
【0089】
図11は、本実施形態に係る分極の可視化方法のフローチャートである。
【0090】
最初のステップP1では、図1に示したように、交流電源26を利用して、強誘電体試料Sと第1の探針3との間、及び、強誘電体試料Sと第2の探針4の間に交流電圧VACを印加する。
【0091】
交流電圧VACの電圧値は、測定対象の強誘電体試料Sの抗電圧以下にするのが好ましい。本実施形態では、交流電圧VACの周波数を0.2kHzにすると共に、交流電圧VACのpeak to peakの電圧値を1Vとする。
【0092】
次のステップP2では、不図示の駆動機構を用いて、第1の探針3と第2の探針4の各々を強誘電体試料Sの測定点K0に移動させる。なお、図8に示したように、各探針3、4の先端は間隔Dだけ隔てられているので、各探針3、4が同一の測定点K0に同時に移動するということはなく、本ステップでは同一の走査線K上の異なる測定点K0に各探針3、4が移動する。
【0093】
次のステップP3では、交流電圧VACの印加により第1の探針3に発生する振動のうち、試料表面Mに垂直な第1の方向D1への第1の振動成分A1が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかを特定する。
【0094】
本ステップは、第1のロックインアンプ19から出力される第1の出力信号Sout1に基づいて画像化部30が行う。
【0095】
次に、ステップP4に移り、上記した交流電圧VACの印加によって第2の探針4に発生する振動のうち、試料表面Mに平行な第2の方向D2への第2の振動成分A2が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかを特定する。
【0096】
本ステップは、第2のロックインアンプ20から出力される第2の出力信号Sout2に基づいて画像化部30が行う。
【0097】
次に、ステップP5に移り、画像化部30が、上記したステップP3とステップP4とを強誘電体試料Sの全ての測定点K0において行ったか否かを判断する。
【0098】
ここで、行っていない(NO)と判断された場合には、再びステップP2に移り、未測定の測定点K0に第1の探針3と第2の探針4とを移動させる。
【0099】
一方、ステップP5において行った(YES)と判断された場合には、ステップP6に移る。
【0100】
本ステップでは、画像化部30が、各測定点K0における第1の振動成分A1が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかに応じ、強誘電体膜102の分極の向きが第1の方向D1に平行か反平行かを可視化した第1の分極像IM1を生成する。
【0101】
図12は、このようにして実際に生成された第1の分極像IM1である。図12に示すように、分極の向きが第1の方向D1に平行か反平行かに応じて各ドメインに異なる色彩が付される。
【0102】
次に、ステップP7に移り、画像化部30が、各測定点K0における第2の振動成分A2が交流電圧VACと同位相か逆位相であるかに応じ、強誘電体膜102の分極の向きが第2の方向D2に平行か反平行かを可視化した第2の分極像IM2を生成する。
【0103】
図13は、このようにして実際に生成された第2の分極像IM2であり、分極の向きが第2の方向D2に平行か反平行かに応じて各ドメインに異なる色彩が付される。
【0104】
次いで、ステップP8に移り、画像化部30が、第1の分極像IM1と第2の分極像IM2とを合成してなる合成像IM3を生成する。
【0105】
以上により、本実施形態に係る分極可視化方法の基本ステップを終了する。
【0106】
上記した本実施形態では、第1の探針3と第2の探針4を利用するので、試料表面Mに対して垂直な第1の方向D1の分極だけでなく、試料表面Mに対して平行な第2の方向D2の分極をも可視化でき、ユーザの便宜に資することができる。
【0107】
更に、第2の探針4に第1の探針3の後を追わせるので、第1の探針3で分極方向を測定した後にすぐさま第2の探針4で分極方向を測定でき、各探針3、4による測定に過度な時間差が発生するのを防止できる。
【0108】
本実施形態に従うと、合成像IM3を得るのに要する時間は約5分であり、強誘電体膜102の分極を短時間で把握することができる。
【0109】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態で説明した第1の探針3の製造方法について説明する。
【0110】
図14(a)、(b)は、本実施形態に係る第1の探針3の製造途中の断面図である。
【0111】
なお、第2の探針4も第1の探針3と同じ方法により製造されるので、以下では第2の探針4の製造方法については省略する。
【0112】
まず、図14(a)に示すように、シリコンの母材をエッチングにより加工することで、ベース40、第1の梁5、及び第1の突起5aが一体的に形成されてなる構造体50を作製する。
【0113】
そして、その構造体50の表面に耐腐食性に優れた金メッキを施す。
【0114】
なお、このようにシリコンの母材から構造体50を作製するのではなく、市販されている探針付きの梁を構造体50として利用してもよい。そのような探針付きの梁としては、例えば、SIINT社製のSI-DF3がある。但し、市販品では、梁と探針との間の角が鋭角になっているので、Gaイオンを使用するFIB(Focused Ion Beam)で既存の探針を除去し、以下のように新たに探針を付け直すのが好ましい。
【0115】
次いで、図14(b)に示すように、第1の梁5の先端部分に、導電性ペーストを利用して第1の探針3を新たに付着する。付着に際しては、第1の梁5の延在方向E1と第1の探針3の延在方向E2との間の角度θ1が鈍角になるようにする。
【0116】
このように角度θ1を鈍角にすることで、図8を参照して説明したように、第1の探針3と第2の探針4との間隔Dを狭めることができる。
【0117】
なお、第1の探針3としては、例えば、先端部が円錐状に先鋭化された市販のタングステンワイヤを使用し得る。本実施形態では、多結晶タングステンを材料とする直径が0.25mmのタングステンワイヤを使用する。そのタングステンワイヤの先端部は、機械研磨によって約100nm程度の直径に先鋭化されている。
【0118】
但し、この程度の直径ではPFM用の探針としてはまだ不十分である。そこで、次の工程では、電界研磨により第1の探針3を更に先鋭化する。
【0119】
図15は、その電界研磨について説明するための模式図である。
【0120】
電界研磨に際しては、図15に示すように、容器48内に溜められたKOH水溶液等の電解液47中に、第1の探針3と金の対向電極46とを浸漬する。そして、電源45により第1の探針3と電極46との間に通電を行うことで第1の探針3に対して電解研磨を行う。
【0121】
電解研磨の条件は特に限定されない。本実施形態では、電源45により電圧値が10Vで周波数が30kHzのパルス電圧を生成し、電解液47中への第1の探針3の浸漬時間を5秒とする。
【0122】
図16(a)は電解研磨前の第1の探針3の断面図であり、図16(b)は電解研磨後の第1の探針3の断面図である。
【0123】
図16(a)に示すように、電解研磨前では第1の探針3の円錐状の先端部の長さTは約1mm程度であるが、電解研磨をした後では図16(b)のように先端部の長さTが約0.5mm程度になる。
【0124】
また、電解研磨によって第1の探針3の先端の直径は約10nm程度となる。
【0125】
その後に、不図示のモータを利用して電解液47から第1の探針3を引き上げる。そして、純水により第1の探針3を洗浄した後、窒素ブロワーで第1の探針3を乾燥させる。
【0126】
以上により、本実施形態に係る第1の探針3の基本構造が完成する。
【0127】
図17は、そのように製造された第1の探針3の斜視図である。
【0128】
この第1の探針3によれば、その延在方向E2と第1の梁5の延在方向E1との間の角度θ1が鈍角になるので、第1実施形態の図8のように第2の探針4との間隔Dを狭めることができる。
【0129】
そして、第1の梁5の上に第1の突起5aを形成することで、図9のように第1の突起5aで第1のレーザ光L1を反射させることができ、第1のレーザ光L1が誤って第2の4分割光検出器14に入るのを防止できる。
【0130】
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0131】
(付記1) 強誘電体試料の複数の測定点の各々において、第1の探針と前記強誘電体試料との間に交流電圧を印加するステップと、
前記交流電圧の印加により前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定するステップと、
第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成するステップと、
前記強誘電体試料の複数の前記測定点の各々において、前記第1の探針から間隔をおいて設けられた第2の探針と前記強誘電体試料との間に前記交流電圧を印加するステップと、
前記交流電圧の印加により前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定するステップと、
前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成するステップと、
前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成するステップと、
を有することを特徴とする強誘電体の分極の可視化方法。
【0132】
(付記2) 前記第1の探針と前記強誘電体試料との間に交流電圧を印加するときに、所定の走査線に沿って前記強誘電体試料上を前記第1の探針が走査し、
前記第2の探針と前記強誘電体試料との間に前記交流電圧を印加するときに、前記第2の探針が前記走査線に沿って前記第1の探針の後を追うことを特徴とする付記1に記載の強誘電体の分極の可視化方法。
【0133】
(付記3) 強誘電体試料を載せるステージと、
前記強誘電体試料の複数の測定点の各々において、該強誘電体試料との間で交流電圧が印加される第1の探針と、
前記第1の探針から間隔をおいて設けられると共に、前記測定点の各々において、前記強誘電体試料との間で前記交流電圧が印加される第2の探針と、
前記交流電圧が印加されているときに前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分を検出する第1の検出部と、
前記交流電圧が印加されているときに前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分を検出する第2の検出部と、
前記第1の振動成分と前記第2の振動成分とに基づいて前記強誘電体試料の分極の向きを可視化する画像化部とを備え、
前記画像化部は、
前記第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、
前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、
前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成することを特徴とする強誘電体の分極の可視化装置。
【0134】
(付記4) 先端に前記第1の探針が固定される第1の梁と、
先端に前記第2の探針が固定される第2の梁とを更に備え、
前記第1の梁の延在方向と前記第1の探針の延在方向との間の角度、及び、前記第2の梁の延在方向と前記第2の探針の延在方向との間の角度の少なくとも一方が鈍角であることを特徴とする付記3に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0135】
(付記5) 前記第1の梁に向けて第1のレーザ光を照射する第1の光源と、
前記第2の梁に向けて第2のレーザ光を照射する第2の光源とを更に有し、
前記第1の検出部は、前記第1の梁で反射した前記第1のレーザ光を受光して前記第1の振動成分を示す第1の振動検出信号を出力する第1の多分割光検出器であり、
前記第2の検出部は、前記第2の梁で反射した前記第2のレーザ光を受光して前記第2の振動成分を示す第2の振動検出信号を出力する第2の多分割光検出器であることを特徴とする付記4に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0136】
(付記6) 前記第1の梁に、前記第1のレーザ光を反射する第1の突起が設けられ、
前記第2の梁に、前記第2のレーザ光を反射する第2の突起が設けられたことを特徴とする付記5に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0137】
(付記7) 前記第1の振動検出信号と前記交流電圧とが同位相であるか否かを示す第1の出力信号を出力する第1のロックインアンプと、
前記第2の振動検出信号と前記交流電圧とが同位相であるか否かを示す第2の出力信号を出力する第2のロックインアンプとを更に備え、
前記画像化部は、前記第1の出力信号に基づいて前記第1の振動成分と前記交流電圧とが同位相であるか否かを判断し、前記第2の出力信号に基づいて前記第2の振動成分と前記交流電圧とが同位相であるか否かを判断することを特徴とする付記5又は付記6に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0138】
(付記8) 前記第1の検出器は、前記第1の探針の変位量のうち、前記第1の方向に平行な方向への第1の変位量を示す第1の変位信号を出力し、
前記第2の検出器は、第2の探針の変位量のうち、前記第1の方向に平行な方向への第2の変位量を示す第2の変位信号を出力して、
前記第1の探針と機械的に接続された第1のピエゾ素子と、
前記第2の探針と機械的に接続された第2のピエゾ素子と、
前記第1の変位信号に基づいて、前記第1の探針と前記試料表面との間の原子間力が一定となるような第1の駆動電圧を前記第1のピエゾ素子に対して出力する第1のフィードバック回路と、
前記第2の変位信号に基づいて、前記第2の探針と前記試料表面との間の原子間力が一定となるような第2の駆動電圧を前記第2のピエゾ素子に対して出力する第2のフィードバック回路とを更に備えたことを特徴とする付記5乃至付記7のいずれかに記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0139】
(付記9) 前記合成像における前記測定点の色彩は、前記分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行か、若しくは前記分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かにより異なることを特徴とする付記3乃至付記8のいずれかに記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【0140】
(付記10) 前記第1の探針は、所定の走査線に沿って前記強誘電体試料上を走査し、
前記第2の探針は、前記走査線に沿って前記第1の探針の後を追うことを特徴とする付記1乃至付記7のいずれかに記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【符号の説明】
【0141】
1…可視化装置、2…ステージ、3…第1の探針、4…第2の探針、5…第1の梁、5a…第1の突起、5x、6x…先端、6…第2の梁、6a…第2の突起、11…第1のピエゾ素子、12…第2のピエゾ素子、13…第1の4分割光検出器、14…第2の4分割光検出器、15…第1の光源、16…第2の光源、17…第1のフィードバック回路、18…第2のフィードバック回路、19…第1のロックインアンプ、20…第2のロックインアンプ、26…交流電源、27…導電性ペースト、30…画像化部、31…モニタ、100…シリコン基板、101…下部電極、102…下部電極、S…強誘電体試料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体試料の複数の測定点の各々において、第1の探針と前記強誘電体試料との間に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加により前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定し、
第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、
前記強誘電体試料の複数の前記測定点の各々において、前記第1の探針から間隔をおいて設けられた第2の探針と前記強誘電体試料との間に前記交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加により前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定し、
前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、
前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成することを特徴とする強誘電体の分極の可視化方法。
【請求項2】
強誘電体試料を載せるステージと、
前記強誘電体試料の複数の測定点の各々において、該強誘電体試料との間で交流電圧が印加される第1の探針と、
前記第1の探針から間隔をおいて設けられると共に、前記測定点の各々において、前記強誘電体試料との間で前記交流電圧が印加される第2の探針と、
前記交流電圧が印加されているときに前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分を検出する第1の検出部と、
前記交流電圧が印加されているときに前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分を検出する第2の検出部と、
前記第1の振動成分と前記第2の振動成分とに基づいて前記強誘電体試料の分極の向きを可視化する画像化部とを備え、
前記画像化部は、
前記第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、
前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、
前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成することを特徴とする強誘電体の分極の可視化装置。
【請求項3】
先端に前記第1の探針が固定される第1の梁と、
先端に前記第2の探針が固定される第2の梁とを更に備え、
前記第1の梁の延在方向と前記第1の探針の延在方向との間の角度、及び、前記第2の梁の延在方向と前記第2の探針の延在方向との間の角度の少なくとも一方が鈍角であることを特徴とする請求項2に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【請求項4】
前記第1の梁に向けて第1のレーザ光を照射する第1の光源と、
前記第2の梁に向けて第2のレーザ光を照射する第2の光源とを更に有し、
前記第1の検出部は、前記第1の梁で反射した前記第1のレーザ光を受光して前記第1の振動成分を示す第1の振動検出信号を出力する第1の多分割光検出器であり、
前記第2の検出部は、前記第2の梁で反射した前記第2のレーザ光を受光して前記第2の振動成分を示す第2の振動検出信号を出力する第2の多分割光検出器であることを特徴とする請求項3に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【請求項5】
前記第1の梁に、前記第1のレーザ光を反射する第1の突起が設けられ、
前記第2の梁に、前記第2のレーザ光を反射する第2の突起が設けられたことを特徴とする請求項4に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【請求項1】
強誘電体試料の複数の測定点の各々において、第1の探針と前記強誘電体試料との間に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加により前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定し、
第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、
前記強誘電体試料の複数の前記測定点の各々において、前記第1の探針から間隔をおいて設けられた第2の探針と前記強誘電体試料との間に前記交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加により前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかを特定し、
前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、
前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成することを特徴とする強誘電体の分極の可視化方法。
【請求項2】
強誘電体試料を載せるステージと、
前記強誘電体試料の複数の測定点の各々において、該強誘電体試料との間で交流電圧が印加される第1の探針と、
前記第1の探針から間隔をおいて設けられると共に、前記測定点の各々において、前記強誘電体試料との間で前記交流電圧が印加される第2の探針と、
前記交流電圧が印加されているときに前記第1の探針に発生する振動のうち、前記強誘電体試料の試料表面に垂直な第1の方向への第1の振動成分を検出する第1の検出部と、
前記交流電圧が印加されているときに前記第2の探針に発生する振動のうち、前記試料表面に平行な第2の方向への第2の振動成分を検出する第2の検出部と、
前記第1の振動成分と前記第2の振動成分とに基づいて前記強誘電体試料の分極の向きを可視化する画像化部とを備え、
前記画像化部は、
前記第1の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第1の方向に平行か反平行かを可視化した第1の分極像を生成し、
前記第2の振動成分が前記交流電圧と同位相か逆位相であるかに応じ、複数の前記測定点の各々における前記強誘電体試料の分極の向きが前記第2の方向に平行か反平行かを可視化した第2の分極像を生成し、
前記第1の分極像と前記第2の分極像とを合成した合成像を生成することを特徴とする強誘電体の分極の可視化装置。
【請求項3】
先端に前記第1の探針が固定される第1の梁と、
先端に前記第2の探針が固定される第2の梁とを更に備え、
前記第1の梁の延在方向と前記第1の探針の延在方向との間の角度、及び、前記第2の梁の延在方向と前記第2の探針の延在方向との間の角度の少なくとも一方が鈍角であることを特徴とする請求項2に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【請求項4】
前記第1の梁に向けて第1のレーザ光を照射する第1の光源と、
前記第2の梁に向けて第2のレーザ光を照射する第2の光源とを更に有し、
前記第1の検出部は、前記第1の梁で反射した前記第1のレーザ光を受光して前記第1の振動成分を示す第1の振動検出信号を出力する第1の多分割光検出器であり、
前記第2の検出部は、前記第2の梁で反射した前記第2のレーザ光を受光して前記第2の振動成分を示す第2の振動検出信号を出力する第2の多分割光検出器であることを特徴とする請求項3に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【請求項5】
前記第1の梁に、前記第1のレーザ光を反射する第1の突起が設けられ、
前記第2の梁に、前記第2のレーザ光を反射する第2の突起が設けられたことを特徴とする請求項4に記載の強誘電体の分極の可視化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−173082(P2012−173082A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34329(P2011−34329)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
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