説明

強誘電性液晶組成物及び液晶表示素子

【課題】 チルト角の大きい強誘電性液晶組成物を提供する
【解決手段】 一般式(I)においてR及びRが炭素原子数7以上の比較的長い直鎖状アルキル基を有する化合物を含有し、更に一般式(II)で表される化合物を含有する液晶組成物を提供する。
【化1】


更に、本願発明は当該液晶組成物に光学活性化合物を含有する強誘電性液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子を提供する。本発明の液晶組成物及び強誘電性液晶組成物はチルト角が大きく、高い透過率を有する強誘電性液晶素子が可能である。またINAC相を示すため、配向性も良好である。
本願発明の強誘電性液晶組成物は、強誘電性液晶ディスプレイの構成部材として極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性液晶組成物及び該組成物を用いた液晶表示素子に関する。さらに詳しくは、室温を含む広い温度範囲で強誘電性液晶相を示し、高透過率、高コントラストである強誘電性液晶組成物、該組成物を用いた強誘電性液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
クラークとラガーウォールらによって提案された表面安定化強誘電性液晶表示素子(Surface Stabilized Ferroelectric Liquid Crystal、略してSSFLC)は、
(1)高速応答であること、(2)メモリー性を有すること、(3)視野角が広いこと、(4)パッシブ駆動が可能であること、などの特性を示すことから、次世代の表示素子として注目されている(非特許文献1参照)。
【0003】
このSSFLCは、スメクチック液晶のキラルスメクチックC相を用いるため、ネマチック相とは根本的に異なった挙動を示す。すなわち、スメクチック相を液晶表示素子として応用する場合、スメクチック液晶が層(レイヤー)構造を有し、液晶分子の長軸(分子の向き)が層構造のできている方向から傾く現象を利用する。液晶分子が層法線方向から傾く角度を、傾き角(チルト角θ)と呼び、スメクチック液晶を液晶素子として用いる場合に特徴的な物性となり、液晶素子として適したチルト角を得ることが望ましい
このSSFLCの一般的な液晶素子と偏光板の配置方位は、電圧印加(例えば+V)後の電圧無印加時の液晶の配向方向と偏光板の吸収軸方向を一致させる。そのため、+V印加後の電圧無印加時は、光を遮断し(黒表示)となる。―V印加後の電圧無印加時は、液晶のチルト角(θ)に応じた方位に液晶が配向し、光が透過(白表示)する。そのため光透過率は、強誘電性液晶組成物のチルト角(θ)が約22.5°の場合が最も大きくなり、明るい画面が得られる。SSFLCは、前記(1)〜(4)の優れた特徴を有するが、メモリー性のある白と黒の2値表示のため、中間階調の表示は難しい。
【0004】
また近年、強誘電性液晶組成物を用いて、高速応答、中間階調表示が可能等の特徴を有する強誘電性液晶表示素子として、分極遮断スメクチック液晶素子(PSS―FLC)(非特許文献2)や、高分子安定強誘電性液晶(高分子安定FLC)(非特許文献3及び4参照)が提案されている。これらのPSS―FLCや高分子安定FLCは、スメクチック液晶のキラルスメクチックC(SmC)相により動作する。PSS―FLCや高分子安定FLCにおいて、一般的な液晶素子と偏光板の配置方位は、電圧無印加時の液晶の平均的な配向方位と、2枚の偏光板のうち、一方の偏光板の吸収軸方向が一致している。一般的な印加電圧による動作は、電圧無印加時において光が遮断され(黒表示)、電界印加時(+V又はーV)に光が透過(白表示)する。そのためこれらの液晶表示素子の光透過率は、強誘電性液晶組成物のチルト角(θ)が約45°の場合が最も大きくなり、明るい画面が得られる。
【0005】
このように、PSS―FLCや高分子安定FLCの場合、明るい画面を得るためには、従来のSSFLCに比較し、約2倍程度の大きなチルト角が必要である。そのためチルト角は、出来るだけ大きい、チルト角が要望されている。
【0006】
またスメクチック相の液晶の配向を均一にするためには、強誘電性液晶組成物の温度による相変化が高温側から等方性液体相−キラルネマチック(N*)相−スメクチックASmA)相−SmC相−結晶の相転移系列(INAC相)を示すことが重要であり、さらに、強誘電性液晶表示素子の動作温度は、SmC相の温度範囲によって制限されるため、幅広い温度範囲でSmC相を発現させることが重要となる。
【0007】
強誘電性液晶素子において、チルト角だけを大きくするのは比較的容易であるが、温度による相変化がINAC相を示し、さらに幅広い温度範囲のSmC相を示しつつチルト角を大きく保つことは困難であった。
【0008】
特許文献1には、13〜40°のリラックスドコーン角を有する強誘電性液晶組成物が開示されているが、チルト角(θ)で表すと、約7〜20°程度であり、十分明るい画面が得られないことは明らかである。
【0009】
また温度による相変化がINAC相を示し、さらに幅広い温度範囲のSmC相を示しつつ、大きなチルト角を有する強誘電性液晶組成物が開示されている(特許文献2)。この公報による強誘電性液晶組成物は、キラルスメクチック(SmC)相の広い温度範囲とINACの相転移系列を達成しているが、チルト角は約25〜28°であるため、十分明るい画面が得られないことは明らかである。
【0010】
【特許文献1】特表平10−501019号公報
【特許文献2】特開2002−363565号公報
【非特許文献1】アプライドフィジックスレターズ(Appl. Phys. Let.)36、899(1980)
【非特許文献2】望月(A.Mochizuki) SID04、1156
【非特許文献3】古江(H.Furue),ジャパン・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn. J. Appl. Phys.),36,L1517 (1997)
【非特許文献4】古江(H.Furue),ジャパン・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn. J. Appl. Phys.),40,5790 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、大きなチルト角を有し、温度による相転移系列が、必要に応じて、INAC相を示し、さらに幅広い温度範囲のSmC相を示す強誘電性液晶組成物及び強誘電性液晶素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願発明者らは特定の液晶性化合物を用いることにより、効果的にチルト角が増加することを見出した。本願発明者らは、種々の液晶化合物の組成を検討し本願発明の完成に至った。
本願発明は、一般式(I)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R及びRは、各々独立に炭素原子数7〜18の直鎖状アルキル基を表し、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−、−C≡C−、シクロプロピレン基又は−Si(CH−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の水素原子はフッ素原子又はCN基で置き換えられていてもよく、
A、B及びCは各々独立に、1,4−フェニレン基、ピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、トランス−1,4−シクロへキシレン基、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、1,3−ジチアン−2,5−ジイル基、1,3−チアゾール−2,4−ジイル、1,3−チアゾール−2,5−ジイル、チオフェン−2,4−ジイル基、チオフェン−2,5−ジイル基、ピペラジン−1,4−ジイル基、ピペラジン−2,5−ジイル基又はナフタレン−2,6−ジイル基を表すが、該1,4−フェニレン基及びナフタレン−2,5−ジイル基中の水素原子はフッ素原子、CF基、OCF基、CN基、CH基、又はOCH基に置換されていてもよく、該トランス−1,4−シクロへキシレン基中の水素原子はCN基又はCH基で置換されていてもよい、
、及びLは各々独立に単結合、−O−、−S−、−CO−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−又は−OCHCH−で表される化合物、
及び一般式(II)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中R21及びR22は、それぞれ独立して炭素原子数1〜12の直鎖状アルキル基を表す。)で表される化合物を含有することを特徴とする液晶組成物。該液晶組成物及び光学活性化合物を含有する強誘電性液晶組成物を提供し、併せて該強誘電性液晶組成物を用いた強誘電性液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液晶組成物、強誘電性液晶組成物及び強誘電性液晶素子は、大きなチルト角を得ることができる特徴を有するため、高い透過率が可能であり、明るい画面を表示することができる。そのため本願発明の強誘電性液晶組成物は、強誘電性液晶素子の構成部材として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本願発明の液晶組成物は、一般式(I)で表される化合物により構成されるが、一般式(I)において、R及びRはそれぞれ独立して炭素原子数7〜18の直鎖状アルキル基を表すが、炭素原子数7〜16の直鎖状アルキル基が好ましく、炭素原子数7〜15の直鎖状アルキル基がより好ましい。
一般式(I)において、より具体的には環構造として以下に記載される構造を有する化合物が好ましい。
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
【化10】

【0027】
一般式(II)において、R21、22は、それぞれ独立して炭素原子数1〜12の直鎖状アルキル基を表が、炭素原子数4〜12の直鎖状アルキル基が好ましい。
一般式(I)で表される化合物の含有量は、5〜40%が好ましく、10〜30%がより好ましく、一般式(I)で表される化合物を2種以上含有することが好ましい。
【0028】
一般式(II)で表される化合物の含有量は、5〜40%が好ましく、5〜30%がより好ましく、一般式(II)で表される化合物を2種以上含有することが好ましい。
本願発明の強誘電性液晶組成物は、一般式(I)、一般式(II)で表される化合物及び光学活性化合物を含有する。光学活性化合物としては不斉原子を持つ化合物、又は軸不斉を持つ化合物を用いることができ、不斉炭素を持つ化合物、又は炭素−炭素結合を軸不斉とする化合物を用いることが好ましく、不斉炭素原子を持つ化合物がより好ましい。
【0029】
不斉炭素を有する光学活性化合物において、不斉炭素は鎖状構造の一部に導入されていても、環状構造の一部に導入されていても良く、不斉炭素上にフッ素原子、メチル基、エチル基又はCF基が導入されている化合物が好ましい。
光学活性化合物として具体的には一般式(IV)
【0030】
【化11】

【0031】
(式中、R41及びR42は、各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−、−C≡C−、シクロプロピレン基又は−Si(CH−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の水素原子はフッ素原子又はCN基で置き換えられていてもよく、
、B及びCは各々独立に、1,4−フェニレン基、ピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、トランス−1,4−シクロへキシレン基、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、1,3−ジチアン−2,5−ジイル基、1,3−チアゾール−2,4−ジイル、1,3−チアゾール−2,5−ジイル、チオフェン−2,4−ジイル基、チオフェン−2,5−ジイル基、ピペラジン−1,4−ジイル基、ピペラジン−2,5−ジイル基又はナフタレン−2,6−ジイル基を表すが、該1,4−フェニレン基及びナフタレン−2,5−ジイル基中の水素原子はフッ素原子、CF基、OCF基、CN基、CH基、又はOCH基に置換されていてもよく、該トランス−1,4−シクロへキシレン基中の水素原子はCN基又はCH基で置換されていてもよい、
、b、及びcは各々独立に0又は1を表し、*は不斉炭素を表し、
41、及びL42は各々独立に単結合、−O−、−S−、−CO−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−又は−OCHCH−を表し、L43は、一般式(IV-b)、一般式(IV-c)又は一般式(IV-d)
【0032】
【化12】

【0033】
(式中、d、e、及びfは、各々独立に0以上7以下の整数を表す。)で表される構造の何れかを表し、Yはフッ素原子、メチル基、エチル基またはCF3基を表す。)で表される化合物が好ましい。
更に、一般式(IV)におけるYは,フッ素原子またはメチル基がより好ましい。
更に、一般式(IV-a)
【0034】
【化13】

又は、一般式(IV-e)
【0035】
【化14】

(式中、R41、R42、A、B、C、a、b、c、L41、L42、L43及び*は、一般式(IV)と同じ意味を表す。)で表される化合物がより好ましい。
一般式(IV)において、より具体的には環構造として以下に記載される構造を有する化合物が好ましい。
【0036】
【化15】

【0037】
【化16】

【0038】
【化17】

【0039】
【化18】

【0040】
【化19】

【0041】
【化20】

【0042】
【化21】

【0043】
【化22】

【0044】
【化23】

これらの構造の中で、特に好ましい構造は、下記の構造である。
【0045】
【化24】

不斉炭素原子を有する側鎖として具体的には下記構造を有する化合物がより好ましい。
【0046】
【化25】

【0047】
【化26】

【0048】
(式中、sは1〜4の整数を表し、rは1〜10の整数を表し、Qは炭素原子数3〜10のアルキル基を表し、Qは炭素原子数2〜10のアルキル基を表し、Qは炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、Qは炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、*は不斉炭素を表す。)
一般式(IV-a)で表される化合物として更に具体的には下記構造の化合物が特に好ましく用いられる。
【0049】
【化27】

【0050】
(式中、R1は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、nは1〜10のメチレン基の数を表し、*は不斉炭素を表す。)
本発明の液晶組成物は、配向性の面から等方性液体状態からの冷却時においてN*相、次いでSA相を経てSC*相へと相転移することが好ましい。SA相は必ずなければならないということはないが、配向性の面から考慮するとあった方が望ましい。しかしハーフV用途の場合、SmA相は不要であるため、等方相、N*相、SmC*の相転移を示す液晶組成物が好ましい。
【0051】
単一の光学活性化合物を添加してなる強誘電性液晶組成物において、配向性の面からN*相は、SmA相への転移の直上でねじれがほどけることが好ましい。
N*相からSmA相への相転移温度(以下N*−SA点)から、該N*−SA点の1度高温側までにおけるN*相に出現する螺旋のピッチが3μm以上であるSC*液晶組成物がより好ましく、該螺旋のピッチが10μm以上であり、N*−SA点に近づくにつれて該螺旋のピッチが大きくなる液晶組成物が好ましい。
螺旋のピッチを調製するために、自発分極の符号が等しく、N*相に出現する螺旋の向きが互いに相反する複数の光学活性化合物を使用することが望ましい。
さらに好ましくは、螺旋の向きが互いに相反する光学活性物質を添加しなくても、単一の光学活性化合物で、螺旋のピッチがN*相において発散する化合物を添加することが好ましい。
【0052】
本発明の液晶組成物のN*相を示す温度範囲は、1度以上30度未満の範囲が好ましい。N*相を示す温度範囲が、1度未満である場合、降温時にすみやかにSmA相に相転移するため、N*相で液晶分子が十分に配向しにくくなる傾向にあるので好ましくない。また、N*相を示す温度範囲が30度以上である場合、液晶組成物の透明点が高温になり、セルに液晶材料を充填する工程等における作業性に悪影響を及ぼす傾向にあるので好ましくない。
【0053】
本発明で使用する光学活性化合物としては、一定量の母体液晶に添加することによって、ある程度以上の自発分極(Ps)を誘起することが必要である。強誘電性液晶組成物としては、Ps の値が、室温付近で1〜100nC/cm2程度の範囲になるように光学活性化合物の添加量を調整すればよい。
しかしながら、光学活性化合物の添加量が多くなると強誘電性液晶組成物の粘性が大きくなる傾向にあり、高速応答性が得られにくくなる。
そのため、光学活性化合物は、少ない添加量で、大きなPsが得られるものが好ましい。
本発明で使用する光学活性化合物としては、強誘電性液晶SC母体液晶に10重量%添加した場合に20nC/cm2以上のPs を誘起するものが好ましい。高速応答性を必要とする場合は、Psの値が室温付近で100nC/cm2となることが好ましい。
【0054】
本発明の組成物を液晶セルの中に入れることにより、液晶表示素子を作製することが可能である。液晶セルの2枚の基板はガラス、プラスチックの如き柔軟性をもつ透明な材料を用いることができ、一方はシリコン等の不透明な材料でもよい。透明電極層を有する透明基板は、例えば、ガラス板等の透明基板上にインジウムチンオキサイド(ITO)をスパッタリングすることにより得ることができる。
【0055】
強誘電性液晶を用いた液晶表示素子は、フィールドシーケンシャル駆動方法を利用することにより、カラーフィルターを使用しなくてもカラー表示が可能となるが、カラーフィルターを使用した表示方法を利用してもよい。カラーフィルターは、例えば、顔料分散法、印刷法、電着法、または染色法によって作製することができる。顔料分散法によるカラーフィルターの作製方法を一例に説明すると、カラーフィルター用の硬化性着色組成物を、該透明基板上に塗布し、パターニング処理を施し、そして加熱または光照射により硬化させる。この工程を、赤、緑、青の3色についてそれぞれ行うことで、カラーフィルター用の画素部を作製することができる。その他、該基板上に、TFT、薄膜ダイオード、金属絶縁体金属比抵抗素子等の能動素子を設けた画素電極を設置してもよい。
【0056】
前記基板を、透明電極層が内側となるように対向させる。その際、スペーサーを介して、基板の間隔を調整してもよい。このときは、得られる調光層の厚さが1〜100μmとなるように調整するのが好ましい。2〜10μmが更に好ましく、偏向板を使用する場合は、コントラストが最大になるように液晶の屈折率異方性Δnとセル厚dとの積を調整することが好ましい。また、2枚の偏向板がある場合は、各偏向板の偏向軸を調整して視野角やコントラストが良好になるように調整することもできる。更に、視野角を広げるための位相差フィルムも使用することができる。スペーサーとしては、例えば、ガラス粒子、プラスチック粒子、アルミナ粒子、フォトレジスト材料等が挙げられる。その後、UV硬化型、UV-熱併用硬化型のシール材を、液晶注入口を設けた形で該基板に印刷し、該基板同士を貼り合わせ、シール材を硬化させる。
【0057】
2枚の基板間に本発明の液晶組成物を狭持させる方法には、通常の真空注入法、ODF法などを用いることができる。液晶の注入速度が遅い場合は、加熱しながら真空注入あるいは、ODF法を行うこともできる。加熱したときの液晶相は、流動性の高いN*となることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明の液晶組成物について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
本実施例において相転移温度の測定は、温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡及び示差走査熱量計(DSC)を併用して行った。 チルト角(θ)は、液晶セル(配向膜:ポリイミド, ラビング方向:アンチパラレル, セルギャップ:2μm)に10Vの直流電場を印加し、さらに極性を反転させ直交ニコル下における、消光位の移動角(2θ)より求めた。
また、組成物中における「%」はすべて「重量%」を表すものとする。
(実施例1〜3)
表1に記載する液晶化合物を表中の含有量で混合し、各種の強誘電性液晶組成物を得た。
No.10、11、12の化合物をそれぞれ12%用い、実施例1〜3の強誘電性液晶組成物を得た。
各強誘電性液晶組成物をセルに注入して、強誘電性液晶素子を製作した後、相転移温度と
チルト角(θ)の測定を行った。
【0059】
(実施例1)の強誘電性液晶素子のチルト角は、32.8°。
相転移温度は、Cr −30.2 SmC*78.5 SmA 84.2 N* 94.6 Iであった。
(実施例2)の強誘電性液晶素子のチルト角は、32.0°。
相転移温度は、Cr −31.5 SmC*78.8SmA85.2 N* 95.0 Iであった。
(実施例3)の強誘電性液晶素子のチルト角は、31.6°であった。
相転移温度は、Cr −29.8 SmC*78.0 SmA 84.0 N* 94.2 Iであった。
(実施例4)
表1に記載のNo.10及び11の化合物を各8%用いて、実施例4の強誘電性液晶組成物を作製した。実施例4の強誘電性液晶素子のチルト角は、31.2°であった。
相転移温度は、Cr −32.8 SmC* 78.4 SmA 84.7 N* 96.0 Iであった。
【0060】
(比較例1〜2)
表1中の実施例1〜3のNo.10、11、12の化合物の代わりに、アルキル鎖長の短いNo.5,7の化合物をそれぞれ12%用いた以外は、実施例1〜3と同様の液晶性化合物を用いて、比較例1〜2の強誘電性液晶組成物を得た。実施例と同様に、強誘電性液晶素子を製作し、チルト角(θ)の測定を行った。
(比較例1)の強誘電性液晶素子のチルト角は、29.7°。
相転移温度は、Cr −33.4SmC* 78.8 SmA 85.8 N* 97.1 Iであった。
(比較例2)の強誘電性液晶素子のチルト角は、29.2°であった。
相転移温度は、Cr −31.3 SmC* 78.2 SmA 84.5 N* 95.3 Iであった。
アルキル鎖の短い液晶性化合物を用いた比較例1,2の素子は、実施例1〜3に比較しチルト角が小さいことが明らかである。
(比較例3)
表1中の実施例4のNo.10、11の化合物の代わりに、アルキル鎖長の短いNo.5,6の化合物を各8%用いた以外は、実施例4と同様の液晶性化合物を用いて、比較例3の強誘電性液晶組成物を得た。比較例3の強誘電性液晶素子のチルト角は、29.5°であった。
相転移温度は、Cr −34.1 SmC* 78.5 SmA 85.0 N* 98.3 Iであった。
実施例4に比較し、チルト角が小さいことが明らかである。
【0061】
(実施例5)
表1に記載のNo.8、9、10及び11の化合物を各4.75%用いて、実施例5の強誘電性液晶組成物を作製した。実施例5の強誘電性液晶素子のチルト角は、33.7°であり、最も大きなチルト角が得られた。
相転移温度は、Cr −30.1 SmC* 80.1 SmA 87.2 N* 101.7 Iであった。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立に炭素原子数7〜18の直鎖状アルキル基を表し、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−、−C≡C−、シクロプロピレン基又は−Si(CH−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の水素原子はフッ素原子又はCN基で置き換えられていてもよく、
A、B及びCは各々独立に、1,4−フェニレン基、ピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、トランス−1,4−シクロへキシレン基、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、1,3−ジチアン−2,5−ジイル基、1,3−チアゾール−2,4−ジイル、1,3−チアゾール−2,5−ジイル、チオフェン−2,4−ジイル基、チオフェン−2,5−ジイル基、ピペラジン−1,4−ジイル基、ピペラジン−2,5−ジイル基又はナフタレン−2,6−ジイル基を表すが、該1,4−フェニレン基及びナフタレン−2,5−ジイル基中の水素原子はフッ素原子、CF基、OCF基、CN基、CH基、又はOCH基に置換されていてもよく、該トランス−1,4−シクロへキシレン基中の水素原子はCN基又はCH基で置換されていてもよい、
、及びLは各々独立に単結合、−O−、−S−、−CO−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−又は−OCHCH−で表される化合物、
及び一般式(II)
【化2】

(式中R21及びR22は、それぞれ独立して炭素原子数1〜12の直鎖状アルキル基を表す。)で表される化合物を含有する液晶組成物。
【請求項2】
一般式(III)
【化3】

(式中、R31は、炭素原子数7〜15の直鎖状アルキル基を表しR32は炭素原子数9〜15の直鎖状アルキル基を表し、
【化4】

を表す。)
で表される化合物を含有する請求項1記載の液晶組成物。
【請求項3】
一般式(I)で表される化合物を2種以上含有する請求項2記載の液晶組成物。
【請求項4】
一般式(I)で表される化合物の含有量が5〜40%である請求項2又は3に記載の液晶組成物。
【請求項5】
一般式(I)で表される化合物の含有量が10〜30%である請求項2又は3に記載の液晶組成物。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載の液晶組成物及び光学活性化合物を含有する強誘電性液晶組成物。
【請求項7】
光学活性化合物が一般式(IV)
【化5】

(式中、R41及びR42は、各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−、−C≡C−、シクロプロピレン基又は−Si(CH−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の水素原子はフッ素原子又はCN基で置き換えられていてもよく、
、B及びCは各々独立に、1,4−フェニレン基、ピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、トランス−1,4−シクロへキシレン基、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、1,3−ジチアン−2,5−ジイル基、1,3−チアゾール−2,4−ジイル、1,3−チアゾール−2,5−ジイル、チオフェン−2,4−ジイル基、チオフェン−2,5−ジイル基、ピペラジン−1,4−ジイル基、ピペラジン−2,5−ジイル基又はナフタレン−2,6−ジイル基を表すが、該1,4−フェニレン基及びナフタレン−2,5−ジイル基中の水素原子はフッ素原子、CF基、OCF基、CN基、CH基、又はOCH基に置換されていてもよく、該トランス−1,4−シクロへキシレン基中の水素原子はCN基又はCH基で置換されていてもよい、
、b、及びcは各々独立に0又は1を表し、*は不斉炭素を表し、
41、及びL42は各々独立に単結合、−O−、−S−、−CO−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−又は−OCHCH−を表し、L43は、一般式(IV-b)、一般式(IV-c)又は一般式(IV-d)
【化6】

(式中、d、e、及びfは、各々独立に0以上7以下の整数を表す。)で表される構造の何れかを表し、Yはフッ素原子、メチル基、エチル基またはCF基を表す。)で表される化合物を表す請求項6記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項8】
室温におけるチルト角が、30〜45°であることを特徴とする請求項6又は7記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項9】
請求項6、7又は8記載の強誘電性液晶組成物を用いた強誘電性液晶表示素子。

【公開番号】特開2010−77351(P2010−77351A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250270(P2008−250270)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】