説明

弾性フィラメント用組成物、弾性フィラメントおよび伸縮性シート

【課題】高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、良好な成形性で弾性フィラメントに成形できる、弾性フィラメント用組成物を提供する。
【解決手段】下記の一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび下記の一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなるブロック共重合体組成物を含有してなる弾性フィラメント用組成物。
Ar1−D−Ar2 (A)
(Ar−D−X (B)
(一般式(A)および(B)において、Ar1およびArは、それぞれ、重量平均分子量が6000〜15000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Ar2は、重量平均分子量が40000〜400000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、DおよびDは、それぞれ、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック共重合体組成物を含有してなる弾性フィラメント用組成物に関し、さらに詳しくは、紙おむつの部材などとして用いられる、弾性フィラメントを成形するための材料として好適に用いることができる、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持ち、良好な成形性をも備える弾性フィラメント用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紙おむつや生理用品などの衛生用品には装着者の動きに対する追従性やフィット性が求められることから、各部に伸縮性の部材が用いられている。例えば、紙オムツの一種であるパンツ型オムツでは、両脚周り開口部、ウェスト周り開口部、さらに両側腰部などに伸縮性の部材が配置される。その伸縮性の部材の一形態として、不織布の表面に、糸ゴムなどとも称される弾性材料製のフィラメントを多数接合してなる伸縮性シートが知られている。このような伸縮性シートは、風合いや通気性に優れ、また、フィラメント状の弾性材料の配置のさせ方によって、伸縮性に異方性を持たせることが可能であるなど、設計の自由度が大きいことなどから、衛生用品の伸縮性の部材などとして広く採用されている。
【0003】
衛生用品には、装着者が激しく動いたり、長時間の装着を行なったりしても、伸縮性を維持し、かつ、ずれを生じさせないことが求められる一方で、伸縮性シートなどの伸縮性部材が厚くなると衛生用品の装着感が悪くなることから、伸縮性シートに用いられるフィラメントを形成するための弾性材料には、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持つことが要求される。しかも、この弾性材料は、細いフィラメント状に成形する必要があることから、成形時の切断などが起こり難い、成形性(特に紡糸成形性)に優れるものであることも要求される。
【0004】
そのため、このような要求を満たすべく、伸縮性シートに用いられるフィラメントを形成するための弾性材料として、種々の材料が検討されている。例えば、特許文献1には、フィラメント(ストランド)を形成する材料として、エラストマー系ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンなどの弾性を有する溶融熱可塑性材料が用いられることが記載されている。また、特許文献2には、弾性フィラメントを形成する材料として、ビニル芳香族重合体を主体とする重合体ブロックとポリオレフィンを主体とする重合体ブロックとからなるトリブロック共重合体を用いると、紡糸成形性に優れる弾性フィラメントが得られることが記載されている。
【0005】
しかしながら、これらの文献に記載された材料を用いた場合であっても、高い弾性率と小さい永久伸びとの高いレベルでの両立という観点においては、未だ不十分であり、さらなる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−501195号公報
【特許文献2】特開2009−30182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、良好な成形性でフィラメント状に成形できる弾性フィラメント用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、2つの芳香族ビニル重合体ブロックがそれぞれ異なる特定の重量平均分子量を有する非対称な芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体と、この共重合体と異なる特定の構成を有する芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体とを含有してなるブロック共重合体組成物が、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持ち、さらには、良好な成形性でフィラメント状にすることができることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
かくして、本発明によれば、下記の一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび下記の一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなるブロック共重合体組成物を含有してなる弾性フィラメント用組成物が提供される。
【0010】
Ar1−D−Ar2 (A)
(Ar−D−X (B)
【0011】
一般式(A)および(B)において、Ar1およびArは、それぞれ、重量平均分子量が6000〜15000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Ar2は、重量平均分子量が40000〜400000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、DおよびDは、それぞれ、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。
【0012】
上記の弾性フィラメント用組成物は、ブロック共重合体組成物におけるブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとの重量比(A/B)が36/64〜85/15であることが好ましい。
【0013】
上記の弾性フィラメント用組成物は、ブロック共重合体組成物の重合体成分の全繰返し単位において、芳香族ビニル単量体単位が占める割合が20〜70重量%であることが好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、上記の弾性フィラメント用組成物を用いてなる弾性フィラメントが提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、不織布に、上記の弾性フィラメントを接合してなる伸縮性シートが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、良好な成形性でフィラメント状に成形できる弾性フィラメント用組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の弾性フィラメント用組成物は、少なくとも2種のブロック共重合体からなるブロック共重合体組成物を含有してなるものである。本発明で用いられるブロック共重合体組成物を構成する2種のブロック共重合体のうちの一方であるブロック共重合体Aは、下記の一般式(A)で表される、互いに異なる重量平均分子量を持つ2つの芳香族ビニル重合体ブロックを有する、直鎖状の芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体である。
【0018】
Ar1−D−Ar2 (A)
【0019】
上記の一般式(A)において、Ar1は、重量平均分子量が6000〜15000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Ar2は、重量平均分子量が40000〜400000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Dは、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックである。
【0020】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体の他方であるブロック共重合体Bは、下記の一般式(B)で表される芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体である。
【0021】
(Ar−D−X (B)
【0022】
上記の一般式(B)において、Arは、重量平均分子量が6000〜15000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Dは、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。
【0023】
ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1,Ar2,Ar)は、芳香族ビニル単量体単位により構成される重合体ブロックである。芳香族ビニル重合体ブロックの芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体としては、芳香族ビニル化合物であれば特に限定されないが、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、4−ブロモスチレン、2−メチル−4,6−ジクロロスチレン、2,4−ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらのなかでも、スチレンを用いることが好ましい。これらの芳香族ビニル単量体は、各芳香族ビニル重合体ブロックにおいて、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各芳香族ビニル重合体ブロックにおいて、同じ芳香族ビニル単量体を用いても良いし、異なる芳香族ビニル単量体を用いても良い。
【0024】
ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1,Ar2,Ar)は、それぞれ、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を含んでいても良い。芳香族ビニル重合体ブロックに含まれ得る芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)などの共役ジエン単量体、α,β−不飽和ニトリル単量体、不飽和カルボン酸または酸無水物単量体、不飽和カルボン酸エステル単量体、非共役ジエン単量体が例示される。各芳香族ビニル重合体ブロックにおける芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位の含有量は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、実質的に0重量%であることが特に好ましい。
【0025】
ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D,D)は、共役ジエン単量体単位により構成される重合体ブロックである。共役ジエン重合体ブロックの共役ジエン単量体単位を構成するために用いられる共役ジエン単量体としては、共役ジエン化合物であれば特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエンおよび/またはイソプレンを用いることが好ましく、イソプレンを用いることが特に好ましい。共役ジエン重合体ブロックをイソプレン単位で構成することにより、柔軟性に優れ、より低い永久伸びを有する弾性フィラメント用組成物を得ることができる。これらの共役ジエン単量体は、各共役ジエン重合体ブロックにおいて、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各共役ジエン重合体ブロックにおいて、同じ共役ジエン単量体を用いても良いし、異なる共役ジエン単量体を用いることもできる。さらに、各共役ジエン重合体ブロックの不飽和結合の一部に対し、水素添加反応を行っても良い。
【0026】
ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D,D)は、それぞれ、共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を含んでいても良い。共役ジエン重合体ブロックに含まれ得る共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、α,β−不飽和ニトリル単量体、不飽和カルボン酸または酸無水物単量体、不飽和カルボン酸エステル単量体、非共役ジエン単量体が例示される。各共役ジエン重合体ブロックにおける共役ジエン単量体単位以外の単量体単位の含有量は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、実質的に0重量%であることが特に好ましい。
【0027】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Aは、上記一般式(A)で表されるように、比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)、特定のビニル結合含有量を有する共役ジエン重合体ブロック(D)および比較的大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)が、この順で直鎖状に連なって構成される直鎖状で非対称な芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体である。比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)の重量平均分子量(Mw(Ar1))は、6000〜15000であり、7000〜14000であることが好ましく、8000〜13000であることがより好ましい。Mw(Ar1)がこの範囲を外れると、得られる弾性フィラメント用組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。また、比較的大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)の重量平均分子量(Mw(Ar2))は、40000〜400000であり、42000〜370000であることが好ましく、45000〜350000であることがより好ましい。Mw(Ar2)が小さすぎると、得られる弾性フィラメント用組成物の永久伸びが大きくなるおそれがあり、Mw(Ar2)が大きすぎるブロック共重合体Aは、製造が困難である場合がある。
【0028】
なお、本発明において、重合体や重合体ブロックの重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めるものとする。
【0029】
ブロック共重合体Aにおいて、比較的大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)の重量平均分子量(Mw(Ar2))と、比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)の重量平均分子量(Mw(Ar1))との比(Mw(Ar2)/Mw(Ar1))は、特に限定されないが、通常2.6〜67であり、4〜40であることが好ましく、4.5〜35であることがより好ましい。ブロック共重合体Aをこのように構成することによって、より低い永久伸びとより高い弾性率とを有し、弾性に富んだ弾性フィラメント用組成物を得ることができる。
【0030】
ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)のビニル結合含有量(全共役ジエン単量体単位において、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合が占める割合)は、1〜20モル%であり、2〜15モル%であることが好ましく、3〜10モル%であることがより好ましい。このビニル結合含有量が高すぎると、得られる弾性フィラメント用組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。
【0031】
ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))は、特に限定されないが、通常20000〜200000であり、35000〜150000であることが好ましく、45000〜100000であることがより好ましい。
【0032】
ブロック共重合体Aの全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量は、特に限定されないが、通常40〜90重量%であり、45〜87重量%であることが好ましく、50〜85重量%であることがより好ましい。また、ブロック共重合体A全体としての重量平均分子量も、特に限定されないが、通常50000〜500000であり、80000〜470000であることが好ましく、90000〜450000であることがより好ましい。
【0033】
本発明で用いるブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Bは、上記一般式(B)で表されるように、特定の重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar)と特定のビニル結合含有量を有する共役ジエン重合体ブロック(D)とが結合してなるジブロック体(Ar−D)が、2個以上、芳香族ビニル重合体ブロック(Ar)側が末端となるように、直接単結合でもしくはカップリング剤(X)の残基を介して結合することにより構成されるブロック共重合体である。なお、カップリング剤の残基を構成するカップリング剤の例としては、後述するものが挙げられる。ジブロック体(Ar−D)が結合する数(すなわち、一般式(B)におけるn)は、2以上であれば特に限定されず、異なる数でジブロック体が結合したブロック共重合体Bが混在していても良い。一般式(B)におけるnは、2以上の整数であれば特に限定されないが、通常2〜8の整数であり、好ましくは2〜4の整数である。
【0034】
ブロック共重合体Bが1分子中に2個以上有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar)の重量平均分子量(Mw(Ar))は、それぞれ、6000〜15000であり、7000〜14000であることが好ましく、8000〜13000であることがより好ましい。Mw(Ar)がこの範囲を外れると、得られる弾性フィラメント用組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。ブロック共重合体Bの1分子中に2個以上存在する芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量(Mw(Ar))は、上記の範囲内であれば、等しくても、互いに異なるものであっても良いが、実質的に等しいことが好ましい。また、これらの芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量(Mw(Ar))は、ブロック共重合体Aの比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)の重量平均分子量(Mw(Ar1))と、実質的に等しいことがより好ましい。
【0035】
ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)のビニル結合含有量は、1〜20モル%であり、2〜15モル%であることが好ましく、3〜10モル%であることがより好ましい。このビニル結合含有量が高すぎると、得られる弾性フィラメント用組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。また、ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)のビニル結合含有量は、ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)のビニル結合含有量と実質的に等しいことが好ましい。
【0036】
ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))は、特に限定されないが、通常20000〜200000であり、35000〜150000であることが好ましく、45000〜100000であることがより好ましい。ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))の重量平均分子量がこの範囲であることにより、より低い永久伸びとより高い弾性率とを有し、弾性に富んだ弾性フィラメント用組成物を得ることができる。また、ブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))は、ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量(Mw(D))と実質的に等しいことが好ましい。これらの重量平均分子量が実質的に等しいことにより、得られる弾性フィラメント用組成物が、より高い弾性率を有し、弾性に富んだものとなる。なお、ブロック共重合体Bとして、カップリング剤を使用せずに製造した芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体を用いる場合、それに含まれる共役ジエン重合体ブロックは全ての単量体単位が直接結合したものとなり、実体上、2つの共役ジエン重合体ブロック(D)からなるものではない。但し、本発明では、そのような共役ジエン重合体ブロックであっても、概念上、実質的に等しい重量平均分子量を有する2つの共役ジエン重合体ブロック(D)が単結合で結合されたものであるとして、取扱うものとする。したがって、例えば、カップリング剤を使用せずに製造した芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体であるブロック共重合体Bにおいて、共役ジエン重合体ブロックが全体として100000の重量平均分子量を有する場合、そのMw(D)は、50000であるとして取扱うものとする。
【0037】
ブロック共重合体Bの全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量は、特に限定されないが、通常10〜35重量%であり、12〜32重量%であることが好ましく、15〜30重量%であることがより好ましい。また、ブロック共重合体B全体としての重量平均分子量も、特に限定されないが、通常60000〜800000であり、80000〜600000であることが好ましく、100000〜400000であることがより好ましい。
【0038】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B、ならびにこれらを構成する各重合体ブロックの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、それぞれ、通常1.1以下であり、好ましくは1.05以下である。
【0039】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物におけるブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとの重量比(A/B)は、特に限定されないが、36/64〜80/20であることが好ましく、38/62〜80/20であることがより好ましく、40/60〜75/25であることがさらに好ましい。このような比で各ブロック共重合体が含有されることにより、得られる弾性フィラメント用組成物における高い弾性率と小さい永久伸びとのバランスが特に優れたものとなる。一方、この比が小さすぎると、弾性フィラメント用組成物の弾性率が不十分となるおそれがあり、この比が大きすぎると、弾性フィラメント用組成物の永久伸びが大きくなりすぎるおそれがある。
【0040】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物は、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bのみを重合体成分として含むものであって良いが、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外の重合体成分を含むものであっても良い。本発明で用いるブロック共重合体組成物に含まれ得るブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外の重合体成分としては、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bの芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、芳香族ビニル単独重合体、共役ジエン単独重合体、芳香族ビニル−共役ジエンランダム共重合体、およびこれらの分岐型重合体、あるいは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。本発明で用いられるブロック共重合体組成物において、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体B以外の重合体成分の含有量は、重合体成分全体に対して、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明で用いられるブロック共重合体組成物では、含まれる重合体成分全体の全繰返し単位において、芳香族ビニル単量体単位が占める割合(以下の記載において、全体の芳香族ビニル単量体単位含有量ということがある)は特に制限されるものではないが、その割合は、20〜70重量%であることが好ましく、30〜60重量%であることがより好ましく、40〜50重量%であることがさらに好ましい。全体の芳香族ビニル単量体単位含有量がこの範囲であることにより、弾性フィラメント用組成物における高い弾性率と小さい永久伸びとのバランスが特に優れたものとなる。この全体の芳香族ビニル単量体単位含有量は、ブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体A、ブロック共重合体Bおよびこれら以外の重合体成分、それぞれの芳香族ビニル単量体単位の含有量を勘案し、それらの配合量を調節することにより、容易に調節することが可能である。なお、ブロック共重合体組成物を構成する全ての重合体成分が、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位のみにより構成されている場合であれば、Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従って、ブロック共重合体組成物の重合体成分をオゾン分解し、次いで水素化リチウムアルミニウムにより還元すれば、共役ジエン単量体単位部分が分解され、芳香族ビニル単量体単位部分のみを取り出せるので、容易に全体の芳香族ビニル単量体単位含有量を測定することができる。
【0042】
本発明で用いるブロック共重合体組成物を構成する重合体成分全体の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常50000〜500000であり、60000〜450000であることが好ましく、70000〜400000であることがより好ましい。また、本発明で用いるブロック共重合体組成物を構成する重合体成分全体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、通常1.01〜10であり、1.03〜5であることが好ましく、1.05〜3であることがより好ましい。
【0043】
また、本発明の弾性フィラメント用組成物のメルトインデックスは、特に限定されないが、ASTM D−1238(G条件、200℃、5kg)に準拠して測定される値として、通常1〜1000g/10分であり、3〜700g/10分であることが好ましく、5〜500g/10分であることがより好ましい。この範囲であれば、弾性フィラメント用組成物の成形性が特に良好となる。
【0044】
本発明で用いるブロック共重合体組成物を得る方法は特に限定されない。例えば、従来のブロック共重合体の製法に従って、ブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとをそれぞれ別個に製造し、必要に応じて、他の重合体成分などを配合した上で、それらを混練や溶液混合などの常法に従って混合することにより、製造することができる。ただし、特に望ましい構成を有するブロック共重合体組成物をより生産性よく得る観点からは、次に述べる製造方法が好適である。
【0045】
すなわち、本発明で用いるブロック共重合体組成物は、下記の(1)〜(5)の工程からなる製造方法を用いて製造することが好ましい。
【0046】
(1):溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合する工程
(2):上記(1)の工程で得られる活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液に、共役ジエン単量体を添加する工程
(3):上記(2)の工程で得られる活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液に、その活性末端に対して官能基が1モル当量未満となる量で、カップリング剤を添加し、ブロック共重合体Bを形成する工程
(4):上記(3)の工程で得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加し、ブロック共重合体Aを形成する工程
(5):上記(4)の工程で得られる溶液から、ブロック共重合体組成物を回収する工程
【0047】
上記のブロック共重合体組成物の製造方法では、まず、溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合する。用いられる重合開始剤としては、一般的に芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とに対し、アニオン重合活性があることが知られている有機アルカリ金属化合物、有機アルカリ土類金属化合物、有機ランタノイド系列希土類金属化合物などを用いることができる。有機アルカリ金属化合物としては、分子中に1個以上のリチウム原子を有する有機リチウム化合物が特に好適に用いられ、その具体例としては、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ジアルキルアミノリチウム、ジフェニルアミノリチウム、ジトリメチルシリルアミノリチウムなどの有機モノリチウム化合物や、メチレンジリチウム、テトラメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、イソプレニルジリチウム、1,4−ジリチオ−エチルシクロヘキサンなどの有機ジリチウム化合物、さらには、1,3,5−トリリチオベンゼンなどの有機トリリチウム化合物などが挙げられる。これらのなかでも、有機モノリチウム化合物が特に好適に用いられる。
【0048】
重合開始剤として用いる有機アルカリ土類金属化合物としては、例えば、n−ブチルマグネシウムブロミド、n−ヘキシルマグネシウムブロミド、エトキシカルシウム、ステアリン酸カルシウム、t−ブトキシストロンチウム、エトキシバリウム、イソプロポキシバリウム、エチルメルカプトバリウム、t−ブトキシバリウム、フェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ステアリン酸バリウム、エチルバリウムなどが挙げられる。また、他の重合開始剤の具体例としては、ネオジム、サマリニウム、ガドリニウムなどを含むランタノイド系列希土類金属化合物/アルキルアルミニウム/アルキルアルミニウムハライド/アルキルアルミニウムハイドライドからなる複合触媒や、チタン、バナジウム、サマリニウム、ガドリニウムなどを含むメタロセン型触媒などの有機溶媒中で均一系となり、リビング重合性を有するものなどが挙げられる。なお、これらの重合開始剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0049】
重合開始剤の使用量は、目的とする各ブロック共重合体の分子量に応じて決定すればよく、特に限定されないが、使用する全単量体100gあたり、通常、0.01〜20ミリモル、好ましくは、0.05〜15ミリモル、より好ましくは、0.1〜10ミリモルである。
【0050】
重合に用いる溶媒は、重合開始剤に不活性なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、鎖状炭化水素溶媒、環式炭化水素溶媒またはこれらの混合溶媒が使用される。鎖状炭化水素溶媒としてはn−ブタン、イソブタン、1−ブテン、イソブチレン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン、1−ペンテン、トランス−2−ペンテン、シス−2−ペンテン、n−ペンタン、イソペンタン、neo−ペンタン、n−ヘキサンなどの、炭素数4〜6の鎖状アルカンおよびアルケンを例示することができる。また、環式炭化水素溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物;を挙げることができる。これらの溶媒は、1種類を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
重合に用いる溶媒の量は、特に限定されないが、重合反応後の溶液における全ブロック共重合体の濃度が、通常、5〜60重量%、好ましくは10〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%になるように設定する。
【0052】
ブロック共重合体組成物を得る際に、各ブロック共重合体の各重合体ブロックの構造を制御するために、重合に用いる反応器にルイス塩基化合物を添加してもよい。このルイス塩基化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジンなどの第三級アミン類;カリウム−t−アミルオキシド、カリウム−t−ブチルオキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類;などが挙げられる。これらのルイス塩基化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0053】
また、重合反応時にルイス塩基化合物を添加する時期は特に限定されず、目的とする各ブロック共重合体の構造に応じて適宜決定すれば良い。例えば、重合を開始する前に予め添加しても良いし、一部の重合体ブロックを重合してから添加しても良く、さらには、重合を開始する前に予め添加した上で一部の重合体ブロックを重合した後さらに添加しても良い。
【0054】
重合反応温度は、通常10〜150℃、好ましくは30〜130℃、より好ましくは40〜90℃である。重合に要する時間は条件によって異なるが、通常、48時間以内、好ましくは0.5〜10時間である。重合圧力は、上記重合温度範囲で単量体および溶媒を液相に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されない。
【0055】
以上のような条件で、溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合することにより、活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液を得ることができる。この活性末端を有する芳香族ビニル重合体は、ブロック共重合体組成物を構成する、ブロック共重合体Aの比較的小さい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)とブロック共重合体Bのビニル重合体ブロック(Ar)を構成することとなるものである。したがって、この際用いる芳香族ビニル単量体の量は、これらの重合体ブロックの目的とする重量平均分子量に応じて決定される。
【0056】
次の工程は、以上のようにして得られる活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液に、共役ジエン単量体を添加する工程である。この共役ジエン単量体の添加により、活性末端から共役ジエン重合体鎖が形成され、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)を含有する溶液が得られる。この際用いる共役ジエン単量体の量は、得られる共役ジエン重合体鎖が、目的とするブロック共重合体Bの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量を有するように決定される。
【0057】
次の工程では、以上のようにして得られる活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)を含有する溶液に、その活性末端に対して官能基が1モル当量未満となる量で、カップリング剤を添加する。
【0058】
添加されるカップリング剤は、特に限定されず、2官能以上の任意のカップリング剤を用いることができる。2官能のカップリング剤としては、例えば、ジクロロシラン、モノメチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシランなどの2官能性ハロゲン化シラン;ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどの2官能性アルコキシシラン;ジクロロエタン、ジブロモエタン、メチレンクロライド、ジブロモメタンなどの2官能性ハロゲン化アルカン;ジクロロスズ、モノメチルジクロロスズ、ジメチルジクロロスズ、モノエチルジクロロスズ、ジエチルジクロロスズ、モノブチルジクロロスズ、ジブチルジクロロスズなどの2官能性ハロゲン化スズ;ジブロモベンゼン、安息香酸、CO、2―クロロプロペンなどが挙げられる。3官能のカップリング剤としては、例えば、トリクロロエタン、トリクロロプロパンなどの3官能性ハロゲン化アルカン;メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシランなどの3官能性ハロゲン化シラン;メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン;などが挙げられる。4官能のカップリング剤としては、例えば、四塩化炭素、四臭化炭素、テトラクロロエタンなどの4官能性ハロゲン化アルカン;テトラクロロシラン、テトラブロモシランなどの4官能性ハロゲン化シラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの4官能性アルコキシシラン;テトラクロロスズ、テトラブロモスズなどの4官能性ハロゲン化スズ;などが挙げられる。5官能以上のカップリング剤としては、例えば、1,1,1,2,2−ペンタクロロエタン,パークロロエタン、ペンタクロロベンゼン、パークロロベンゼン、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらのカップリング剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0059】
添加されるカップリング剤の量は、ブロック共重合体組成物を構成するブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとの比に応じて決定され、重合体の活性末端に対してカップリング剤の官能基が1モル当量未満となる量であれば特に限定されないが、通常、重合体の活性末端に対してカップリング剤の官能基が0.10〜0.90モル当量となる範囲であり、0.15〜0.70モル当量となる範囲であることが好ましい。
【0060】
以上のように、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)を含有する溶液に、その活性末端に対して官能基が1モル当量未満となる量で、カップリング剤を添加すると、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)のうちの一部の共重合体において、共役ジエン重合体ブロック同士がカップリング剤の残基を介して結合され、その結果、ブロック共重合体組成物のブロック共重合体Bが形成される。そして、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)の残り一部は、未反応のまま溶液中に残ることとなる。
【0061】
次の工程では、以上のようにして得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加する。溶液に芳香族ビニル単量体を添加すると、カップリング剤と反応せずに残った活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)の末端から、芳香族ビニル重合体鎖が形成される。この芳香族ビニル重合体鎖は、ブロック共重合体組成物を構成する、ブロック共重合体Aの比較的大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)を構成することとなるものである。したがって、この際用いる芳香族ビニル単量体の量は、芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)の目的とする重量平均分子量に応じて決定される。この芳香族ビニル単量体を添加する工程により、ブロック共重合体Aを構成することとなる、非対称な芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体が形成され、その結果、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bを含有する溶液が得られる。なお、この芳香族ビニル単量体を添加する工程の前に、カップリング剤と反応しなかった活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)を含む溶液に、共役ジエン単量体を添加しても良い。このように共役ジエン単量体を添加すると、添加しない場合に比べて、ブロック共重合体Aの共役ジエン重合体ブロック(D)の重量平均分子量を大きくすることができる。また、カップリング剤と反応しなかった活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含む溶液に、活性末端の当量より少ない量で重合停止剤(水、メタノールなど)を添加してもよい。このように重合停止剤を添加すると、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)の活性末端が失活し、それにより得られる芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体(ジブロック体)が、ブロック共重合体組成物に含有されることとなる。
【0062】
次の工程では、以上のようにして得られるブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bを含有する溶液から、目的とするブロック共重合体組成物を回収する。回収の方法は、常法に従えばよく、特に限定されない。例えば、反応終了後に、必要に応じて、水、メタノール、エタノール、プロパノール、塩酸、クエン酸などの重合停止剤を添加し、さらに必要に応じて、酸化防止剤などの添加剤を添加してから、溶液に直接乾燥法やスチームストリッピングなどの公知の方法を適用することにより、回収することができる。スチームストリッピングなどを適用して、ブロック共重合体組成物がスラリーとして回収される場合は、押出機型スクイザーなどの任意の脱水機を用いて脱水して、所定値以下の含水率を有するクラムとし、さらにそのクラムをバンドドライヤーあるいはエクスパンション押出乾燥機などの任意の乾燥機を用いて乾燥すればよい。以上のようにして得られるブロック共重合体組成物は、常法に従い、ペレット形状などに加工してから使用に供しても良い。
【0063】
以上のようにブロック共重合体組成物を製造することにより、ブロック共重合体Aおよびブロック共重合体Bを同じ反応容器内で連続して得ることができるので、それぞれのブロック共重合体を個別に製造し混合する場合に比して、極めて優れた生産性で目的のブロック共重合体組成物を得ることができる。しかも、得られるブロック共重合体組成物は、各ブロック共重合体の各重合体ブロックの重量平均分子量が、本発明の弾性フィラメント用組成物を構成するためのブロック共重合体組成物として、特に望ましいバランスを有するので、高い弾性率と小さい永久伸びとが高度にバランスされた弾性フィラメント用組成物を得ることができる。
【0064】
本発明の弾性フィラメント用組成物は、ブロック共重合体組成物のみからなるものであって良いが、例えば、軟化剤、酸化防止剤、抗菌剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、滑剤、架橋剤、架橋促進剤、粘着付与剤などの添加剤を必要に応じて配合しても良い。
【0065】
本発明の弾性フィラメント用組成物を得るにあたり、ブロック共重合体組成物と各種添加剤を混合する方法は特に限定されず、例えば、各成分を溶剤に溶解し均一に混合した後、溶剤を加熱などにより除去する方法、各成分をニーダーなどで加熱溶融混合する方法を挙げることができる。
【0066】
以上のような弾性フィラメント用組成物を材料として用いて、フィラメントを成形することにより、本発明の弾性フィラメントが得られる。本発明の弾性フィラメント用組成物を弾性フィラメントとするための成形方法は、特に限定されず、従来公知のフィラメント成形法を適用できる。フィラメント成形法の具体例としては、メルトブローン法、スパンボンド法、スピニングブローン法を挙げることができる。本発明の弾性フィラメント用組成物は、メルトブローン法、スパンボンド法、スピニングブローン法などの押出成形を含む手法を適用した場合に、その優れた成形性を発揮するものであり、そのなかでも紡糸ノズルを備える紡糸ヘッドを用いたスパンボンド法が特に好適である。紡糸ヘッドを用いたスパンボンド法による弾性フィラメントの成形の具体例としては、単軸押出機や二軸押出機に装着した紡糸ヘッドから、温度150〜250℃で溶融した弾性フィラメント用組成物を押出し、引き取りロールで冷却しながら、巻き取る方法が挙げられる。引き取りロールで冷却する際に、弾性フィラメントを延伸しても良い。
【0067】
本発明の弾性フィラメントの太さ(直径)は、その用途に応じて調整すれば良いが、衛生用品用の伸縮性シートを構成するために用いる場合には、通常30〜150μm、好ましくは40〜120μmである。本発明の弾性フィラメントは、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立された弾性フィラメント用組成物を含んでなるものであるので、このような比較的に細いフィラメントとしても、得られる伸縮性シートも高い弾性率と小さい永久伸びとが両立されたものとなり、その結果、十分な伸縮性が確保される。したがって、伸縮性を犠牲にすることなく、弾性フィラメントを細くすることにより、伸縮性シートを用いた衛生用品の装着感を改良することができる。なお、弾性フィラメントの断面形状も、特に限定されず、円形、楕円形、正方形、長方形などとすることができる。
【0068】
本発明の弾性フィラメントは、単独で各種の用途に用いることもできるが、本発明の弾性フィラメントは、不織布、織布、プラスチックフィルム、またはこれらの積層体などに接合して用いることが好ましい。本発明の弾性フィラメントは、特に、不織布と接合して伸縮性シートを構成するために好適に用いられる。
【0069】
本発明の伸縮性シートを構成するために用いられる不織布としては、フリース形成法:乾式法、湿式法、スパンボンド式、メルトブローン式、フリース接合法:サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法などによる不織布が挙げられ、これらのなかでも、乾式法、スパンボンド不織布やスパンレース不織布が、弾性フィラメントと不織布との接着性の観点から、特に好ましい。不織布の厚さは特に限定されず、例えば0.05〜5mmの範囲とすれば良い。
【0070】
本発明の伸縮性シートの構成は、不織布に弾性フィラメントが接合されてなるものであれば、特に限定されない。例えば、不織布の片面のみに弾性フィラメントを接合しても良いし、不織布の両面に弾性フィラメントを接合しても良いし、また、2枚の不織布で弾性フィラメントを挟むようにしてこれらを接合しても良い。これらのなかでも、弾性フィラメントの凹凸が伸縮性シートの表面に現れないことから、2枚の不織布で弾性フィラメントを挟むようにして、これらの接合を行うことが好ましい。また、不織布上の弾性フィラメントの配置にも特に限定はなく、使用目的などに応じて決定すれば良い。例えば、弾性フィラメントを同方向にして一定間隔で配置すれば、弾性フィラメントの軸に沿った方向には収縮性が働き、弾性フィラメントの軸と垂直な方向には収縮性が働かない伸縮性シートを得ることができる。
【0071】
本発明の伸縮性シートを得る手法は特に限定されないが、前述のように弾性フィラメントを押出成形する工程において、不織布上に弾性フィラメント用組成物を押し出す手法や、押し出された弾性フィラメント用組成物を不織布により挟み込んで積層体とする手法が好ましい。すなわち、本発明の伸縮性シートを得るにあたっては、上述の弾性フィラメント用組成物をフィラメント状に押出成形する工程と、押し出された弾性フィラメント用組成物に不織布を接合させる工程とを連続的に行なう方法が好適である。このように伸縮性シートを製造することにより、生産性よく伸縮性シートを得ることが可能となり、しかも、得られる伸縮性シートにおいて、弾性フィラメントが不織布から剥離し難いものとなる。また、ニップロールなどを用いて、弾性フィラメントおよび不織布を押圧して、さらにこれらの接合を強固なものとすることができる。
【0072】
本発明の伸縮性シートは、特に、紙おむつのメカニカルファスナーの取り付け部(イヤ部)や生理用品などの衛生用品用の伸縮性部材として好適に用いられる。また、弾性包帯の基材、手術着などの固定ベルトなどとしても好適に用いられる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0074】
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0075】
〔ブロック共重合体およびブロック共重合体組成物の重量平均分子量〕
流速0.35ml/分のテトラヒドロフランをキャリアとする高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求めた。装置は、東ソー社製HLC8220、カラムは昭和電工社製Shodex KF−404HQを3本連結したもの(カラム温度40℃)、検出器は示差屈折計および紫外検出器を用い、分子量の較正はポリマーラボラトリー社製の標準ポリスチレン(500から300万)の12点で実施した。
【0076】
〔各ブロック共重合体の重量比〕
上記の高速液体クロマトグラフィにより得られたチャートの各ブロック共重合体に対応するピークの面積比から求めた。
【0077】
〔スチレン重合体ブロックの重量平均分子量〕
Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従い、ブロック共重合体をオゾンと反応させ、水素化リチウムアルミニウムで還元することにより、ブロック共重合体のイソプレン重合体ブロックを分解した。具体的には、以下の手順で行なった。すなわち、モレキュラーシーブで処理したジクロロメタン100mlを入れた反応容器に、試料を300mg溶解した。この反応容器を冷却槽に入れ−25℃としてから、反応容器に170ml/minの流量で酸素を流しながら、オゾン発生器により発生させたオゾンを導入した。反応開始から30分経過後、反応容器から流出する気体をヨウ化カリウム水溶液に導入することにより、反応が完了したことを確認した。次いで、窒素置換した別の反応容器に、ジエチルエーテル50mlと水素化リチウムアルミニウム470mgを仕込み、氷水で反応容器を冷却しながら、この反応容器にオゾンと反応させた溶液をゆっくり滴下した。そして、反応容器を水浴に入れ、徐々に昇温して、40℃で30分間還流させた。その後、溶液を撹拌しながら、反応容器に希塩酸を少量ずつ滴下し、水素の発生がほとんど認められなくなるまで滴下を続けた。この反応の後、溶液に生じた固形の生成物をろ別し、固形の生成物は、100mlのジエチルエーテルで10分間抽出した。この抽出液と、ろ別した際のろ液とをあわせ、溶媒を留去することにより、固形の試料を得た。このようにして得られた試料につき、上記の重量平均分子量の測定法に従い、重量平均分子量を測定し、その値をスチレン重合体ブロックの重量平均分子量とした。
【0078】
〔イソプレン重合体ブロックの重量平均分子量〕
それぞれ上記のようにして求められた、ブロック共重合体の重量平均分子量から、対応するスチレン重合体ブロックの重量平均分子量を引き、その計算値に基づいてイソプレン重合体ブロックの重量平均分子量を求めた。
【0079】
〔ブロック共重合体のスチレン単位含有量〕
上記の高速液体クロマトグラフィの測定における、示差屈折計と紫外検出器との検出強度比に基づいて求めた。なお、予め、異なるスチレン単位含有量を有する共重合体を用意し、それらを用いて、検量線を作成した。
【0080】
〔ブロック共重合体組成物のスチレン単位含有量〕
プロトンNMRの測定に基づき求めた。
【0081】
〔イソプレン重合体ブロックのビニル結合含有量〕
プロトンNMRの測定に基づき求めた。
【0082】
〔弾性フィラメント用組成物のメルトインデックス〕
ASTM D−1238(G条件、200℃、5kg)に準拠して測定した。
【0083】
〔伸縮性シートの引張弾性率〕
各例で得られた伸縮性シートを長さ40mm、幅25mmに切断して得た試料について、その試料中の弾性フィラメントの軸方向に沿って測定した。測定手順は以下の通りである。ORIENTEC社製のテンシロン万能試験機RTC−1210を用いて、引張速度300mm/minで200%まで伸張させた後、一旦もとの長さに戻し、再度、引張速度300mm/minで200%まで伸張させた際に、その過程における50%伸張時の引張応力を測定し、50%伸張時における伸縮性シートの引張弾性率を求めた。なお、引張弾性率が高いものほど高い弾性率を有すると言える。
【0084】
〔伸縮性シートの永久伸び〕
各例で得られた伸縮性シートを長さ40mm、幅25mmに切断して得た試料について、ASTM 412に準拠して上記のテンシロン万能試験機を用いて測定した。伸縮性シートを、その伸縮性シート中の弾性フィラメントの軸方向に沿って伸び率200%で伸張させ、そのままの状態で10分間保持した後、はね返させることなく急に収縮させて、10分間放置後、標線間距離を測定し、下式に基づいて永久伸びを求めた。
永久伸び(%)=(L1−L0)/L0×100
L0:伸張前の標線間距離(mm)
L1:収縮させて10分間放置後の標線間距離(mm)
【0085】
〔弾性フィラメント用組成物の成形性〕
弾性フィラメント用組成物の成形性の指標として、弾性フィラメントの伸張粘度を測定した。なお、各例における伸縮性シートの製造について、不織布を離型用PETフィルムに代えて、後は各例における伸縮性シートの製造と同様の操作を行った。そして、得られた離型用PETフィルムに挟まれた弾性フィラメントから離型用PETフィルムを剥がし、それにより得られる弾性フィラメントを測定試料とした。伸張粘度の測定手順は以下の通りである。測定装置としてTAインスツルメント社製のARESレオメーター、測定治具にARES−EVF伸張粘度測定冶具を用い、測定条件として伸張速度10秒−1、測定時間1.5秒、測定温度200℃で行った。この条件により、弾性フィラメントの100%伸張時および350%伸張時の伸張粘度を測定した。100%伸張時の伸張粘度が高すぎると、成形性に劣るといえ、また、350%伸張時の伸張粘度が、100%伸張粘度に比べ低下した場合(350%時伸張粘度/100%時伸張粘度の値が1未満の場合)は、成形安定性に劣るといえる。
【0086】
〔製造例1〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称する)2.6ミリモルおよびスチレン1.60kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n−ブチルリチウム164.7ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50〜60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン5.20kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、ジメチルジクロロシラン65.9ミリモルを添加して、2時間カップリング反応を行い、ブロック共重合体Bとなるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を形成させた。この後、50〜60℃を保つように温度制御しながら、スチレン3.20kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、ブロック共重合体Aとなる非対称なスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を形成させた。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール329.4ミリモルを添加してよく混合し反応を停止した。なお、反応に用いた各試剤の量は、表1にまとめた。得られた反応液の一部を取り出し、各ブロック共重合体およびブロック共重合体組成物の重量平均分子量、各ブロック共重合体の重量比、各スチレン重合体ブロックの重量平均分子量、各イソプレン重合体ブロックの重量平均分子量、各ブロック共重合体のスチレン単位含有量、ブロック共重合体組成物のスチレン単位含有量ならびにイソプレン重合体ブロックのビニル結合含有量を求めた。これらの値は、表2に示した。以上のようにして得られたブロック共重合体組成物を含む反応液100部(重合体成分を30部含有)に、酸化防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール0.3部を加えて混合し、混合溶液を少量ずつ85〜95℃に加熱された温水中に滴下して溶媒を揮発させて析出物を得て、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、製造例1の弾性フィラメント用組成物を回収した。得られた弾性フィラメント用組成物については、メルトインデックスを測定した。この値も、表2に示した。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
〔製造例2〜4〕
TMEDA、n−ブチルリチウム、スチレン、イソプレン、ジメチルジクロロシラン、およびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は製造例1と同様にして、製造例2〜4の弾性フィラメント用組成物をそれぞれ回収した。この過程で得られたブロック共重合体組成物については、製造例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0090】
〔製造例5〕
ジメチルジクロロシランに代えて、テトラクロロシラン40.9ミリモルを用い、TMEDA、n−ブチルリチウム、スチレン、およびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は製造例1と同様にして、製造例5の弾性フィラメント用組成物を回収した。この過程で得られたブロック共重合体組成物については、製造例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0091】
〔比較製造例1〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、TMEDA1.4ミリモルおよびスチレン0.90kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n−ブチルリチウム91.0ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100重量%であった。引き続き、50〜60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン8.20kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、50〜60℃を保つように温度制御しながら、スチレン0.90kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を形成させた。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール182.0ミリモルを添加してよく混合し反応を停止した。得られたブロック共重合体組成物を含む反応液の一部を取り出し、製造例1と同様の測定を行なった。これらの値は、表2に示した。以下の操作は、製造例1と同様にして、比較製造例1の弾性フィラメント用組成物を回収した。
【0092】
〔比較製造例2、3〕
TMEDA、n−ブチルリチウム、スチレン、イソプレン、およびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は比較製造例1と同様にして、比較製造例2、3の弾性フィラメント用組成物をそれぞれ回収した。この過程で得られたブロック共重合体組成物については、製造例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0093】
〔比較製造例4〕
TMEDA、n−ブチルリチウム、スチレン、ジメチルジクロロシラン、およびメタノールの量を、表1に示すように変更したこと以外は製造例1と同様にして、比較製造例4の弾性フィラメント用組成物を回収した。この過程で得られたブロック共重合体組成物については、製造例1と同様の測定を行った。結果を表2に示す。
【0094】
〔実施例1〕
製造例1で得られた弾性フィラメント用組成物を、押出機の先端部に水中ホットカット装置を備えた単軸押出機に供給し、平均直径5mmで平均長さが5mm程度の円筒状のペレットとした。次いで、そのブロック共重合体組成物のペレット100部を紡糸ノズルを備えた紡糸ヘッドを所定の間隔で複数装着した二軸押出機を用いて、200℃で加熱溶融、混練し、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布(商品名「PC−8020」、旭化成社製)上に押し出した。押し出されたフィラメントおよび不織布は引き取りロールで引き取って、冷却ロールを通過させた後、さらにもう一枚のスパンボンド不織布(商品名「PC−8020」、旭化成社製)をフィラメント側に積層させ、それらをニップロールにより圧接し、フィラメントと2枚の不織布を接合させた。このようにして得られた弾性フィラメントを備える実施例1の伸縮性シートについて、引張弾性率および永久伸びを測定した。また、製造例1で得られた弾性フィラメント用組成物について、成形性の評価を行なった。この結果は、表2に示す。なお、フィラメントの成形条件などの詳細は、以下の通りである。
【0095】
組成物処理速度 :3kg/hr
フィラメント引き取り速度 :10m/min
押出機温度 :投入口140℃、紡糸ヘッド160℃に調整
スクリュー :フルフライト
押出機L/D :42
紡糸ノズル :内径1.0mm、間隔5mm
【0096】
〔実施例2〜5、比較例1〜4〕
用いる弾性フィラメント用組成物を、それぞれ、製造例2〜5で得られたものおよび比較製造例1〜4で得られたものに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5および比較例1〜4の伸縮性シートを得た。これらについては、実施例1と同様の測定を行なった。その結果を表2に示す。
【0097】
表2から分かるように、本発明の弾性フィラメント用組成物を用いてなる伸縮性シートは、高い弾性率と小さい永久伸びとを兼ね備えるものである。また、本発明の弾性フィラメント用組成物は、成形性に優れるものであり、弾性フィラメントへの成形が容易であるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(A)で表されるブロック共重合体Aおよび下記の一般式(B)で表されるブロック共重合体Bからなるブロック共重合体組成物を含有してなる弾性フィラメント用組成物。
Ar1−D−Ar2 (A)
(Ar−D−X (B)
(一般式(A)および(B)において、Ar1およびArは、それぞれ、重量平均分子量が6000〜15000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、Ar2は、重量平均分子量が40000〜400000の芳香族ビニル重合体ブロックであり、DおよびDは、それぞれ、ビニル結合含有量が1〜20モル%の共役ジエン重合体ブロックであり、Xは単結合またはカップリング剤の残基であり、nは2以上の整数である。)
【請求項2】
ブロック共重合体組成物におけるブロック共重合体Aとブロック共重合体Bとの重量比(A/B)が36/64〜85/15である請求項1に記載の弾性フィラメント用組成物。
【請求項3】
ブロック共重合体組成物の重合体成分の全繰返し単位において、芳香族ビニル単量体単位が占める割合が20〜70重量%である、請求項1または2に記載の弾性フィラメント用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の弾性フィラメント用組成物を用いてなる弾性フィラメント。
【請求項5】
不織布に、請求項4に記載の弾性フィラメントを接合してなる伸縮性シート。

【公開番号】特開2011−74272(P2011−74272A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228572(P2009−228572)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】