説明

弾性体、並びに、その弾性体を把持部に配した軸体

【課題】発泡体等の内部に空間がある弾性体において、快適なクッション性と、必要に応じて変形した形状の維持と、容易に元の形に復元できる機能を併せ持つ弾性体を提供する。
【解決手段】内部に空間がある弾性体として、例えばクロロプレンゴムのスポンジを用い、その空間内面に、ホットメルト接着剤、アクリル酸エステル樹脂を含有する接着剤、シリコーンゲル等の擬似接着性を有する物質4を配する。更に、弾性体外周部をエラストマーで成形した外被体6で覆うことも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押圧により弾性変形し、押圧解除後に元の形状に戻る弾性体において、弾性体の内部に空間が存在するものであり、特には軸体の把持部に装着する弾性体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体に対して快適なクッション性や製品を作製する上で、適度な弾性変形を発揮する弾性体は様々な発明がなされており、軸体の把持部に装着する例もある。さらに、変形後の形状を保持する機能も検討されている。
【特許文献1】特開2006−305737号公報
【特許文献2】特開2003−135223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1の実施例では把持部材を構成する独立気泡発泡体が回復遅延性を有することにより、把持部材を把持した(握った)際には、把持部材の表面が手の形状に変形して形状維持されるため、把持感覚が良好になるとされているが、把持を解除すれば把持部材は元の形状に復元する為、把持最中は形状を維持するために力を掛け続ける必要がある。
【0004】
また、特許文献2では、フォーム(発泡体)を気密性の高いシートで覆い、形状変形によって余分な内部空気を排出することで形状を維持する機能を発揮しているが、気密性を損なわない為の精密な部品接合が必要であったり、空気を排出・供給する構造が必要であることから大きくなってしまい軸体の把持部と言った小型化を求められる箇所には使用できない。
【0005】
本発明の目的は、上記問題を鑑み、発泡体等の内部に空間がある弾性体において、快適なクッション性と、必要に応じて変形した形状の維持と、容易に元の形に復元できる機能を併せ持つ弾性体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内部に空間がある弾性体において、空間内面に擬似接着性を有する物質を配したことを第1の要旨とし、前記空間内面の全面に擬似接着性を有する物質を配したことを第2の要旨とし、擬似接着性を有する物質にホットメルト接着剤を使用することを第3の要旨とし、前記擬似接着性を有する物質に粘着性を有する物質を使用することを第4の要旨とし、更に得られる弾性体を軸体の把持部に配したことを第5の要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、内部に空間がある弾性体において、空間内面に擬似接着性を有する物質を配したことにより、快適なクッション性と必要に応じて変形した形状の維持と容易に元の形に復元できる機能を併せ持つ弾性体とすることができる。擬似接着性とは、基材のはく離と接着を反復できる性質を意味し、その接着力は基材を破壊せずにはく離できるものである。はく離と接着は外力や温度によって制御可能であり、例として擬似接着性を有する物質としてホットメルト接着剤を使用することによって、熱で形状の維持と原形への復帰を制御可能な弾性体とすることが出来る。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の空間はつぶれ、その時空間内面に配された接着剤同士が接着され、空間はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている空間は擬似接着状態にあるので、別方向からの外力が加わった際には接着面がはく離し、元の空間サイズに復元することが出来る。擬似接着の接着強度は弾性体自体の形状復元力により発生するはく離強度より大きい必要があるが、一時的な形状維持が必要な弾性体には、接着強度を弱める等で対応することも可能である。更に、内部に空間がある弾性体と擬似接着性を有する物質のみで構成出来るので、クッションやマットレス等のサイズから筆記具などの軸体の把持部等のサイズまで幅広く使用することが可能なクッション性と、必要に応じて変形した形状の維持と、容易に元の形に復元できる機能を併せ持つ弾性体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を発泡体に使用した実施例1〜3の断面図である。
【図2】図1を押圧変形、形状維持させた断面図である。
【図3】本発明を軸体の把持部に使用した実施例4〜6、比較例1の断面図である。
【図4】図3を押圧変形、形状維持させた状態の断面図である。
【図5】本発明を軸体の把持部に使用した実施例7〜10、比較例2の断面図である。
【図6】図5を押圧変形、形状維持させた状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
内部に空間がある弾性体は、樹脂及び/または弾性樹脂を材料に内部に空間を形成できるものであればよく、特に限定されない。樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリスチレン樹脂(PS)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、アクリロニトリルスチレンブタジエン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレンテレンテレフタレート樹脂(PET)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、弾性樹脂としてはシリコーン樹脂、ジメチル系シリコーン、メチルビニル系シリコーン、メチルフェニルビニル系シリコーン、メチルフルオロアルキル系シリコーン(フロロシリコーン)、フロロ−ジメチル共重合シリコーン、塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、エラストマーゲル、ポリエチレンゲル、ウレタンゴム、エチレンアクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマーなどが挙げられるが、形状が維持できるものであれば特に限定されない。これら樹脂及び/または弾性樹脂は1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0010】
弾性体の内部に空間を作製する方法としては発泡剤や微小気体を樹脂及び/または弾性樹脂に混合し、射出や押出による成形時や成形後に発泡させ気泡を作製する方法や、可溶性粒子を樹脂及び/または弾性樹脂に混合し、成形後に溶解させて空間を作製する方法、射出成形の金型や押出成形の口金によって、弾性体に連通孔を作製する方法、同材質や異材質同士を接合して空間を作製する方法などが挙げられるが、弾性体の内部に空間が形成できればよく、特に限定されない。
【0011】
発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤、熱膨張性マイクロカプセルなどが用いられる。化学発泡剤の具体例は、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体、セミカルバジド化合物、アジド化合物、トリアゾール化合物などの有機系熱分解型発泡剤、イソシアネート化合物などの有機系反応型発泡剤、重炭酸塩、炭酸塩、亜硫酸塩、水素化物などの無機系熱分解型発泡剤、重炭酸ナトリウム+酸、過酸化水素+イースト菌、亜鉛粉末+酸などの無機系反応型発泡剤などが挙げられる。
物理発泡剤の具体例は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロルエタン、ジクロルメタン、フロン、空気、炭酸ガス、窒素ガスなどが挙げられる。
熱膨張性マイクロカプセルの具体例は、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサンなどの低沸点炭化水素を芯物質とし、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどの共重合体からなる熱可塑性樹脂を壁物質としたマイクロカプセルなどが挙げられ、特に限定されない。これら発泡剤は、1種または2種以上添加してもよい。
【0012】
可溶性粒子としては、無機塩の粒子、金属粒子、合金粒子などが挙げられる。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び塩化リチウム等の無機塩粒子や鉄粒子、アルミニウム粒子、銅粒子、真鍮粒子、炭酸カルシウム粒子、タルク粒子、マイカ粒子などが挙げられる。
【0013】
擬似接着性を有する物質としては、一般的に擬似接着に使用されているもの、たとえば天然ゴム、合成ゴム等のゴム系接着剤、アクリル酸および/またはアクリル酸エステルを主なモノマー成分として含有するアクリル系接着剤、酢酸ビニル重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の、酢酸ビニルを主なモノマー成分として含有する酢酸ビニル系接着剤、澱粉、アルギン酸ナトリウム等の多糖系接着剤やデキストリン系接着剤等の水溶性接着剤などが使用でき、特に限定されない。また、プロピレン・エチレン共重合体と粘着付与剤からなるホットメルト接着剤等も擬似接着剤として挙げられる。また、これらの擬似接着性を有する物質は1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0014】
擬似接着性を有する物質として粘着性を有する物質を使用してもよい。粘着性を有する物質とは、他の物質と接触した際、接触面で接触状態を維持する力を発揮する物質であり、KF96(信越化学工業(株)製)といったシリコーンオイルやtsk5370(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製)といったシリコーンオイルコンパウンド、レチナックス グリース CL(昭和シェル石油(株)製)といった石油系グリス。ゲル状物質としてKE−1052、sifel827(信越化学工業(株)製)、SE1885、Sylgard527、CY52−286(東レ・ダウコーニング(株)製)、アルファゲル((株)ジェルテック製)、WACKER Silgel612(旭化成ワッカーシリコーン(株)製)といったシリコーンゲル、人肌のゲル((株)エクシールコーポレーション製)といったウレタンゲル、エクスジェル((株)加地製)といった合成ゴムなどが挙げられる。また、これらの粘着性を有する物質は1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0015】
擬似接着の接着強度は弾性体自体の形状復元力により発生するはく離強度より大きい必要があるが、一時的な形状維持が必要な弾性体には接着強度を弱める等で対応することも可能であり、適宜選定すればよい。また、温度で接着力が変化するホットメルト接着剤を使用する際には、擬似接着に必要な温度に加熱した後、弾性体を変形させ冷却することで変形形状を維持させることが出来る。更に再度ホットメルト接着剤が溶融する温度に上昇させることで接着力が下がり弾性体自体の形状復元力によりはく離が生じると、元の形状に戻すことが可能となり、熱による形状操作ができる。
【0016】
空間内面に擬似接着性を有する物質を配する方法としては、弾性体が発泡体であれば擬似接着性を持つ物質に弾性体を浸漬させ、内部に含浸させた後、余剰分を取り出すことで空間内面に配することが出来る。また、パイプ状の連通孔であれば、連通孔に液状の擬似接着性を有する物質を流すことで空間内面に配することが出来る。つまり、弾性体の内部空間の形状や状態に応じて、擬似接着性を有する物質やその配置方法を適宜選択すればよく、特に限定されない。
【0017】
擬似接着性を有する物質の空間内面への配置状態は、内面の全面を覆う層状に配したり、断続的な帯状に配したり、粒子状に噴霧して細かい点を無数に配す等、擬似接着性を有する物質の特性や内部空間の大きさや形状、表面状態に応じて適宜選択すればよく、擬似接着能力を発揮できる状態であれば、特に限定されないが、内面の全面を覆う層状に配すると全方向からの変形に対して確実に擬似接着能力を発揮でき、かつ、接着剤同士が面で接触することから高い接着力が期待できる。
【0018】
内部に空間がある弾性体の周りには弾性体の保護や触感向上を目的とした外被体を配してもよい。外面に孔がある発泡体は直接外力がかかると発泡体の裂けや破損が生じることもある為、発泡体の外周には弾性樹脂や樹脂フィルム、布などで構成される外被体が存在することが望ましい。また、外被体が存在することで擬似接着性を有する物質の外部への流出防止や、外部との接触面の表面状態を変更することで、容易に触感を変化させることが出来る等の利点もある。
【0019】
図1は、本発明を発泡体に使用した実施例1、2、3の断面図である。図2は図1の発泡体に外力を加え変形・形状維持させた状態である。参照符号1は弾性体、参照符号2は内部空間、参照符号3は擬似接着性を有する物質、参照符号4は擬似接着された空間である。
【0020】
実施例1として、弾性体1はクロロプレンゴムのスポンジ、擬似接着性を有する物質としてホットメルト接着剤(エクセルピールEP−90、(株)MORESCO製)を用いた。このホットメルト接着剤は60℃までは接着性はないが、60℃以上に加熱すると擬似接着性を発揮するものである。加熱して液状にした接着剤に弾性体を浸漬し、周囲を真空状態にすることで弾性体内の空気を脱泡し、空間内部に接着剤を含浸させた。接着剤から弾性体を取り出した後、再度真空状態にすることで、空間内部に余計に含浸した接着剤を取り除き乾燥させ、空間内面にのみ接着剤を配した弾性体を作製した。この弾性体を60℃以上の状態で外部から押し込むと、押し込まれた部分の空間はつぶれる。その時、空間内面に配された接着剤同士が擬似接着され、空間はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている空間は擬似接着状態にあるので、はく離方向に作用する外力が加わった際や、再度60℃以上に加熱すると接着面がはく離し、元の空間サイズに復元することが出来る。この際、クロロプレンゴムのスポンジは空間内面の擬似接着がはく離するとすぐに空間を広げる力が働くことから容易に元の形に復元することができる。
【0021】
実施例2として、弾性体1はクロロプレンゴムのスポンジ、擬似接着性を有する物質としてアクリル酸エステル樹脂を含有する接着剤(ピットマルチ2、(株)トンボ鉛筆製)を用いた。この接着剤は液体時に塗布面を貼り付けると接着効果を発揮するが、乾燥後に塗布面を貼り付けると擬似接着効果を発揮するものである。液状の接着剤に弾性体を浸漬し、周囲を真空状態にすることで弾性体内の空気を脱泡し、空間内部に接着剤を含浸させた。接着剤から弾性体を取り出した後、再度真空状態にすることで、空間内部に余計に含浸した接着剤を取り除き乾燥させ、空間内面にのみ接着剤を配した弾性体を作製した。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の空間はつぶれる。その時、空間内面に配された接着剤同士が接着され、空間はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている空間は擬似接着状態にあるので、別方向からの外力が加わった際には接着面がはく離し、元の空間サイズに復元することが出来る。この際、クロロプレンゴムのスポンジは空間内面の擬似接着がはく離するとすぐに空間を広げる力が働くことから容易に元の形に復元することができる。
【0022】
実施例3として、弾性体1はクロロプレンゴムのスポンジ、擬似接着性を有する物質としてシリコーンゲル(WACKER Silgel612、旭化成ワッカーシリコーン(株)製)を用いた。液状のシリコーンゲルに弾性体を浸漬し、周囲を真空状態にすることで弾性体内の空気を脱泡し、空間内部にシリコーンゲルを含浸させた。シリコーンゲルから弾性体を取り出した後、再度真空状態にすることで、空間内部に余計に含浸したシリコーンゲルを取り除き、空間内面にのみシリコーンゲルを配した弾性体を作製した。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の空間はつぶれる。その時、空間内面に配されたシリコーンゲル同士が接着され、空間はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている空間は擬似接着状態にあるが、別方向からの外力が加わった際や、経時によってスポンジの復元力がシリコーンゲルの粘着性を上回った際には接着面がはく離し、元の空間サイズに復元することが出来る。この際、クロロプレンゴムのスポンジは空間内面の擬似接着がはく離すると空間を広げる力が働くが、強い粘着性で糸引き状態になるシリコーンゲルの場合、はく離が徐々に進行する為、ゆっくり元の形に復元する。
【0023】
図3は、本発明を軸体の把持部に使用した実施例4、5、6の断面図である。図4は図3の把持部に外力を加え変形・形状維持させた状態である。参照符号1は弾性体、参照符号2は内部空間、参照符号3は擬似接着性を有する物質、参照符号4は擬似接着された空間、参照符号5は軸体、参照符号6は外被体である。
【0024】
実施例4として、弾性体1は筒状にしたクロロプレンゴムのスポンジ、擬似接着性を有する物質としてホットメルト接着剤(エクセルピールEP−90、(株)MORESCO製)を用いた。このホットメルト接着剤は60℃までは接着性はないが、60℃以上に加熱すると擬似接着性を発揮するものである。加熱して液状にした接着剤に弾性体を浸漬し、周囲を真空状態にすることで弾性体内の空気を脱泡し、空間内部に接着剤を含浸させた。接着剤から弾性体を取り出した後、再度真空状態にすることで、空間内部に余計に含浸した接着剤を取り除き乾燥させ、空間内面にのみ接着剤を配した弾性体を作製した。この弾性体を軸体5の把持部に装着し、外周部をエラストマー(ラバロンME5302C、三菱化学(株)製、ショアーA硬度:60度)で成形した外被体6で覆った。この弾性体を60℃の状態で外部から押し込むと、押し込まれた部分の空間はつぶれる。その時、空間内面に配された接着剤同士が接着され、空間はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている空間は擬似接着状態にあるので、はく離方向に作用する外力が加わった際や、再度60℃以上に加熱すると接着面がはく離し、元の空間サイズに復元することが出来る。この際、クロロプレンゴムのスポンジは空間内面の擬似接着がはく離すると空間を広げる力が働くことから容易に元の形に復元することができる。
【0025】
実施例5として、弾性体1は筒状にしたクロロプレンゴムのスポンジ、擬似接着性を有する物質としてアクリル酸エステル樹脂を含有する液状接着剤(ピットマルチ2、(株)トンボ鉛筆製)を用いた。液状接着剤に弾性体を浸漬し、周囲を真空状態にすることで弾性体内の空気を脱泡し、空間内部に接着剤を含浸させた。接着剤から弾性体を取り出した後、再度真空状態にすることで、空間内部に余計に含浸した接着剤を取り除き乾燥させ、空間内面にのみ接着剤を配した弾性体を作製した。この弾性体を軸体5の把持部に装着し、外周部をエラストマー(ラバロンME5302C、三菱化学(株)製、ショアーA硬度:60度)で成形した外被体6で覆った。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の空間はつぶれる。その時、空間内面に配された接着剤同士が接着され、空間はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている空間は擬似接着状態にあるので、はく離方向に作用する外力が加わった際には接着面がはく離し、元の空間サイズに復元することが出来る。この際、クロロプレンゴムのスポンジは空間内面の擬似接着がはく離するとすぐに空間を広げる力が働くことから容易に元の形に復元することができる。
【0026】
実施例6として、弾性体1は筒状にしたクロロプレンゴムのスポンジ、擬似接着性を有する物質としてシリコーンゲル(WACKER Silgel612、旭化成ワッカーシリコーン(株)製)を用いた。液状のシリコーンゲルに弾性体を浸漬し、周囲を真空状態にすることで弾性体内の空気を脱泡し、空間内部に接着剤を含浸させた。シリコーンゲルから弾性体を取り出した後、再度真空状態にすることで、空間内部に余計に含浸したシリコーンゲルを取り除き、空間内面にのみシリコーンゲルを配した弾性体を作製した。この弾性体を軸体5の把持部に装着し、外周部をエラストマー(ラバロンME5302C、三菱化学(株)製、ショアーA硬度:60度)で成形した外被体6で覆った。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の空間はつぶれる。その時、空間内面に配されたシリコーンゲル同士が接着され、空間はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている空間は擬似接着状態にあるが、別方向からの外力が加わった際や、経時によってスポンジの復元力がシリコーンゲルの粘着性を上回った際には接着面がはく離し、元の空間サイズに復元することが出来る。この際、クロロプレンゴムのスポンジは空間内面の擬似接着がはく離すると空間を広げる力が働くが、強い粘着性で糸引き状態になるシリコーンゲルの場合、はく離が徐々に進行する為、ゆっくり元の形に復元する。
【0027】
図5は、本発明を軸体の把持部に使用した実施例7、8、9、10の断面図である。図6は図5の把持部に外力を加え変形・形状維持させた状態である。参照符号1は弾性体、参照符号2は長手方向に延びる内部空間、参照符号3は擬似接着性を有する物質、参照符号4は擬似接着された空間、参照符号5は軸体である。
【0028】
実施例7として、弾性体1は押出成形で作製した連通孔のあるシリコーンチューブ、擬似接着性を有する物質としてホットメルト接着剤(エクセルピールEP−90、(株)MORESCO製)を用いた。このホットメルト接着剤は60℃までは接着性はないが、60℃以上に加熱すると擬似接着性を発揮するものである。加熱して液状にした接着剤をシリコーンチューブの連通孔に流し込み、連通孔内面に接着剤を塗布した後乾燥させ、連通孔内面にのみ接着剤を配した弾性体を作製した。この弾性体を軸体5の把持部に装着した。この弾性体を60℃の状態で外部から押し込むと、押し込まれた部分の連通孔はつぶれる。その時、連通孔内面に配された接着剤同士が接着され、連通孔はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている連通孔は擬似接着状態にあるので、はく離方向に作用する外力が加わった際や、再度60℃以上に加熱すると接着面がはく離し、元の連通孔形状に復元することが出来る。この際、シリコーンチューブは連通孔内面の擬似接着がはく離すると連通孔を広げる力が働くことから容易に元の形に復元することができる。
【0029】
実施例8として、弾性体1は押出成形で作製した連通孔のあるシリコーンチューブ、擬似接着性を有する物質としてアクリル酸エステル樹脂を含有する液状接着剤(ピットマルチ2、(株)トンボ鉛筆製)を用いた。液状接着剤をシリコーンチューブの連通孔に流し込み、連通孔内面に接着剤を塗布した後乾燥させ、連通孔内面にのみ接着剤を配した弾性体を作製した。この弾性体を軸体5の把持部に装着した。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の連通孔はつぶれる。その時連通孔内面に配された接着剤同士が接着され、連通孔はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている連通孔は擬似接着状態にあるので、はく離方向に作用する外力が加わった際には接着面がはく離し、元の連通孔形状に復元することが出来る。この際、シリコーンチューブは連通孔内面の擬似接着がはく離するとすぐに連通孔を広げる力が働くことから容易に元の形に復元することができる。
【0030】
実施例9として、弾性体1は押出成形で作製した連通孔のあるシリコーンチューブ、擬似接着性を有する物質としてシリコーンゲル(WACKER Silgel612、旭化成ワッカーシリコーン(株)製)を用いた。液状のシリコーンゲルをシリコーンチューブの連通孔に流し込み、連通孔内面に接着剤を塗布した後乾燥させ、連通孔内面にのみシリコーンゲルを配した弾性体を作製した。この弾性体を軸体5の把持部に装着した。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の連通孔はつぶれる。その時、連通孔内面に配されたシリコーンゲル同士が接着され、連通孔はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている連通孔は擬似接着状態にあるが、別方向からの外力が加わった際や、経時によってシリコーンチューブの復元力がシリコーンゲルの粘着性を上回った際には接着面がはく離し、元の連通孔形状に復元することが出来る。この際、シリコーンチューブは連通孔内面の擬似接着がはく離すると連通孔を広げる力が働くが、強い粘着性で糸引き状態になるシリコーンゲルの場合、はく離が徐々に進行する為、ゆっくり元の形に復元する。
【0031】
実施例10として、弾性体1は押出成形で作製した連通孔のあるシリコーンチューブ、擬似接着性を有する物質としてアクリルゴムを含有する接着剤(スプレーのり55、住友スリーエム(株)製)を用いた。スプレーのりのノズルを連通孔内部に向けて噴霧し、連通孔内面に接着剤を塗布した後乾燥させ、連通孔内面にのみ接着剤を配した弾性体を作製した。この弾性体を軸体5の把持部に装着した。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の連通孔はつぶれる。その時連通孔内面に配された接着剤同士が接着され、連通孔はつぶれたままの状態で保持されることから、押し込みを解除しても変形した形状を維持できる。つぶれている連通孔は擬似接着状態にあるので、はく離方向に作用する外力が加わった際には接着面がはく離し、元の連通孔形状に復元することが出来る。この際、シリコーンチューブは連通孔内面の擬似接着がはく離するとすぐに連通孔を広げる力が働くことから容易に元の形に復元することができる。
【0032】
比較例1として、実施例4において弾性体1を筒状にしたクロロプレンゴムのスポンジのみにして軸体5の把持部に装着し、外周部をエラストマー(ラバロンME5302C、三菱化学(株)製、ショアーA硬度:60度)で成形した外被体6で覆った。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分の空間はつぶれるが、押し込みを解除すると変形した形状を維持することなく元の形状に復元してしまう。
【0033】
比較例2として、実施例9の連通孔をシリコーンゲル(アルファゲル((株)ジェルテック製)で満たした弾性体を作製した。この弾性体を軸体5の把持部に装着した。この弾性体を外部から押し込むと、押し込まれた部分は弾性体の弾力で変形するが、押し込みを解除すると変形した形状を維持することなく元の形状に復元してしまう。
【0034】
実施例1〜10と比較例1、2を擬似接着の簡易性、変形維持性、形状回復速度、擬似接着繰り返し性の項目で評価した。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1、4、7は、擬似接着に60℃の加熱が必要な為「擬似接着の簡易性」の評価は低い。擬似接着の強度は強いことから変形維持性は長く、60℃以下では接着力がないことから、はく離後の形状回復は速く「変形維持性」「形状回復速度」は高い評価となる。また、再度60℃にすることで擬似接着が可能な為「擬似接着繰り返し性」の評価も高い。実施例2、5、8、10は、常温で擬似接着性を発揮する為「擬似接着の簡易性」の評価は高い。常温で貼ってはがせる接着剤の為、「変形維持性」は高いがホットメルト接着剤よりは劣り、はく離後の形状回復は速いので「形状回復速度」は高い評価となる。また、接着とはく離を繰り返した際、接着剤表面に異物が付着すると接着性は低下することから「擬似接着繰り返し性」の評価はホットメルト接着剤よりは劣り、中でも点状に擬似接着剤を配している実施例10は実施例2、5、8と比較しても劣る。実施例3、6、9は、常温で擬似接着性を発揮する為「擬似接着の簡易性」の評価は高い。高い粘着性で接着力を発揮するが、接着状態の維持は難しいことから「変形維持性」の評価は低い。はく離後の形状回復は強い粘着性で糸引き状態になることから遅く「形状回復速度」は低い評価となる。また、接着とはく離を繰り返しても粘着性は変化しないことから「擬似接着繰り返し性」の評価は高い。比較例1は実施例4の擬似接着剤を除いた構成であり、比較例2は実施例8の擬似接着剤を除いた構成である為、「擬似接着の簡易性」「擬似接着繰り返し性」については評価できない。擬似接着による効果が発揮されない為「変形維持性」はないに等しく評価は低いが、「形状回復速度」はクロロプレンゴムのスポンジやシリコーンチューブの弾性がそのまま生かされる為、評価は高い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、内部に空間がある弾性体において、空間内面に擬似接着性を有する物質を配したこと弾性体に関するものである。その弾性体の利用例としては、クッション、座席シート、マットレス等から、シャープペンシルやボールペン、修正ペンなどの筆記具、カッターや彫刻刀、ドライバーなどの工具類、PDA(パーソナル デジタル アシスタンス)や電子手帳に使用される入力ペン等の軸体の把持部、自転車のハンドルなど多岐にわたる。
【符号の説明】
【0038】
1 弾性体
2 空間
3 擬似接着性を有する物質
4 擬似接着された空間
5 軸体
6 外被体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間がある弾性体において、空間内面に擬似接着性を有する物質を配したこと特徴とする弾性体。
【請求項2】
空間内面の全面に擬似接着性を有する物質を配したこと特徴とする請求項1に記載の弾性体。
【請求項3】
擬似接着性を有する物質にホットメルト接着剤を使用することを特徴とする請求項1乃至2に記載の弾性体。
【請求項4】
擬似接着性を有する物質に粘着性を有する物質を使用することを特徴とする請求項1乃至3に記載の弾性体。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の弾性体を把持部に配したことを特徴とする軸体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−111163(P2012−111163A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263108(P2010−263108)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】