弾性経編地およびそれを用いてなるスポーツウェア
【課題】 体型補整効果を充分に発揮させつつ、スポーツウェアに要求されるような運動パフォーマンスをも発揮させることのできる弾性経編地およびそれを用いてなるスポーツウェアを提供することにある。
【解決手段】 本発明にかかる弾性経編地は、該経編地には伸びに対する抵抗力の強い領域(A)が帯状に存在するとともに、弾性糸と非弾性糸が交編されてなる弾性経編地であって、前記弾性糸の少なくとも1本が二目編で編成されており、前記領域(A)と該領域(A)以外の領域(B)の間において、それぞれの伸びに対する抵抗力の関係が所定の定義に従うものとなっている、ことを特徴とする。
【解決手段】 本発明にかかる弾性経編地は、該経編地には伸びに対する抵抗力の強い領域(A)が帯状に存在するとともに、弾性糸と非弾性糸が交編されてなる弾性経編地であって、前記弾性糸の少なくとも1本が二目編で編成されており、前記領域(A)と該領域(A)以外の領域(B)の間において、それぞれの伸びに対する抵抗力の関係が所定の定義に従うものとなっている、ことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性経編地およびそれを用いてなるスポーツウェアに関するものである。特にフィットネスウェア、アクティブウェア、レオタード、水着などのスポーツウェアに好適に使用される弾性経編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、美尻や美脚といった体型補整効果のため、所望の領域において伸びに対する抵抗力(以下、単に「抵抗力」ということがある)を高めることが行われてきた。
具体的には、例えば、大腿部の周囲に強く締め付けるストレッチ素材を用いるとともに、臀部の頂点付近には締め付け力の弱いストレッチ素材を用いることにより、臀部を盛り上げ大腿部を締めてメリハリをつけ、ヒップアップ効果や美尻効果をアピールするものが多く商品化されている。
編地の一部の領域の抵抗力を高める方法としては、従来、当て布や弾力性のある合成樹脂液の塗布などが知られていたが、当て布を用いると当て布のある部分とない部分との間で段差が生じたり縫合部に厚みが生じたりする問題、合成樹脂液を用いると通気性の低下による蒸れの発生の問題があった。そのため、この問題を解消するための改良技術として、編組織の変化によって一部の領域の抵抗力を高めることも検討されてきている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3023354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記特許文献1には、体型補正機能または筋肉サポート機能を付与することを目的とした技術であることが記載されており、対象衣類として、ガードル、ショーツ、ボディスーツ、水着、レオタード、ブラジャー、スパッツ、スポーツ用タイツなどが挙げられている。すなわち、上記特許文献1には、体型補正機能のほかに、筋肉の運動能力を妨げず、筋肉疲労を軽減したり予防したり、筋肉障害などの発生を未然に予防する機能として筋肉サポート機能なる機能も挙げられており、対象衣類としてスポーツウェアが挙げられている。
このようなスポーツウェアなどのような用途においては、充分な運動パフォーマンスを発揮させることが必要である。
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、美尻や美脚といった体型補整効果を発揮させる抵抗力の強い領域とそれ以外の領域に充分な抵抗力の差を持たせながら、スポーツウェアに要求されるような運動パフォーマンスをも発揮させることのできる弾性経編地およびそれを用いてなるスポーツウェアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。
そして、抵抗力の強い領域とそれ以外の領域に充分な抵抗力の差を持たせるために、抵抗力の強い領域において、糸の太さの本数などを変更して抵抗力を高めることを考えた。しかし、経編地においては、一般にタテ方向の方がヨコ方向よりも伸縮性に富み、その一方で、糸の太さの本数などにより抵抗力を高めようとすると、タテ方向の抵抗力のみが一方的に高まってしまう。そのため、抵抗力の強い領域とそれ以外の領域のいずれにおいても、タテ、ヨコにバランス良く伸縮性を付与することは難しく、その結果、着用者への力のかかり方が歪(いびつ)になり、スポーツウェアに要求されるような運動パフォーマンスを得ることが困難となることが分かった。すなわち、タテ、ヨコ方向で抵抗力に大きな差があると、着用者にかかる力の方向にずれが生じて、着用者はこの衣類を着用しなかった場合の運動と同等の動きを行い難くなる。
【0006】
上記の問題を避けるため、本発明者は更なる検討を重ねて、弾性糸の編組織として二目編を採用すればよいことを見出した。すなわち、二目編により形成される編地は、タテ方向とヨコ方向の伸縮性に大きな差が生じ難く、編み組織や糸の太さの本数などにより抵抗力を高める場合においても、同一コースで2針に渡ってオーバーラップが行われるため、1本の針に2つのループが重合され、タテ方向の伸縮に追随してヨコ方向の伸縮も生じるので、抵抗力の強い領域においてタテ方向だけの抵抗力が一方的に高くなって、着用者に力が歪にかかってしまうことが避けられ、運動パフォーマンスを阻害しなくなることを見出した。すなわち、この衣類を着用した者には、タテ方向、ヨコ方向のいずれかに偏った力が加わることがなく充分な運動パフォーマンスを発揮させることができることを見出した。
【0007】
本発明は、上記知見およびその確認により完成されたものである。
すなわち、本発明にかかる弾性経編地は、弾性糸と非弾性糸が交編されてなる弾性経編地であって、該経編地には伸びに対する抵抗力の強い領域(A)が帯状に存在するとともに、前記弾性糸の少なくとも1本が二目編で編成されており、前記領域(A)と該領域(A)以外の領域(B)の間において、それぞれの伸びに対する抵抗力の関係が下記の定義に従うものとなっている、ことを特徴とする。
<定義>
編地の両領域(A),(B)に属する部分の試験片について測定した、タテ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のタテ方向応力をP1とし、ヨコ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のヨコ方向応力をP2、としたとき、
前記両領域(A),(B)における互いのタテ方向応力P1の関係が、
〔領域(A)のP1〕÷〔領域(B)のP1〕≧1.5
であり、かつ、前記領域(A),(B)それぞれにおけるタテ方向応力P1とヨコ方向応力P2の関係が、いずれも、
0.5≦P2÷P1≦3.0
であること。
【0008】
上記における好ましい形態では、前記領域(A)における弾性糸の糸通し方法が全通しであり、前記領域(B)における弾性糸の糸通し方法が1イン1アウトであるか、前記領域(A)における弾性糸の繊度を前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも大きくしてなるか、および/または、前記領域(A)における弾性糸の編み込み本数を前記領域(B)における弾性糸の編み込み本数よりも多くしてなる。
また、本発明にかかる下半身用スポーツウェアは、上記弾性経編地を用いてなり、前記領域(A)が身体の臀部下部から大腿部にかけての部位を包み込むようになっている、ことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる上半身用スポーツウェアは、上記弾性経編地を用いてなり、前記領域(A)が身体の背部の脊柱起立筋に対応する部分において脊柱起立筋に沿うようになっている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、美尻や美脚といった体型補整効果に関するニーズに対応し、かつ、本来のスポーツウェアとして要求されるような運動パフォーマンスをも発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明にかかる弾性経編地およびこれを用いてなるスポーツウェアについて詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔弾性糸〕
本発明において使用する弾性糸は、繊維自体が本来的にゴム状弾性を有する弾性繊維から構成される糸であることが好ましい。この弾性繊維としては、ポリウレタン弾性糸、ポリエーテル・エステル弾性糸、ポリアミド弾性糸など、もしくは、天然ゴム、合成ゴム、半合成ゴムからなる糸状のいわゆるゴム糸、または、これらを主体とした他の有機合成樹脂との複合もしくは混合によって得られる弾性糸が挙げられる。なかでも、細繊度でも優れた弾性特性を発揮できることからポリウレタン弾性糸が好ましい。
【0012】
この弾性糸は、モノフィラメント、マルチフィラメントのいずれの糸条形態であってもよい。また、弾性糸は、そのまま生糸として使用してもよく、非弾性糸もしくは弾性糸で被覆した加工糸として使用してもよい。
弾性糸として好適に用いることができるポリウレタン弾性糸は、ポリウレタンおよび/またはポリウレタンウレアから構成される弾性糸である。このポリウレタンやポリウレタンウレアは、長鎖ジオール化合物、ジイソシアネート化合物および鎖伸長剤を主原料として重合されるウレタン結合を含むポリマーであり、ソフトセグメント構成成分となる長鎖ジオール化合物の種類により、ポリエーテル系、ポリエステル系もしくはポリエーテル・エステル系に区別される。また、鎖伸長剤として低分子量ジオール化合物を用いるか、低分子量ジアミン化合物を用いるかにより、ポリウレタン(狭義)もしくはポリウレタンウレアと区別されるが、本明細書では、ポリウレタンとポリウレタンウレアを総称して単にポリウレタンという。
【0013】
ポリウレタンは、長鎖のポリエーテルセグメント、ポリエステルセグメントもしくはポリエーテルエステルセグメントなどのソフトセグメント(a)と、イソシアネートと鎖伸長剤であるジアミンまたはジオールとの反応により得られる比較的短鎖のセグメントであるハードセグメント(b)とから構成される。
ポリエーテル系ポリウレタンは、ソフトセグメント構成成分としてポリテトラメチレンエーテルグリコールやその共重合体などのポリエーテル系ジオール化合物を用い、ハードセグメント構成成分としてジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を用い、さらに、鎖伸長剤として二官能性水素化合物を用いて製造されたポリウレタンである。ポリエステル系ポリウレタンは、ソフトセグメント構成成分としてコポリエステルジオールなどのポリエステル系ジオール化合物を用い、ハードセグメント構成成分としてジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を用い、さらに、鎖伸長剤として二官能性水素化合物を用いて製造されたポリウレタンである。また、ポリテトラメチレンエーテルグリコールとポリブチレンテレフタレートを長鎖ジオール化合物に用いて重合されたポリエーテル・エステル系ポリウレタンを用いることもできる。
【0014】
ポリウレタンを構成するソフトセグメント(a)としては、テトラメチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフランなどから重合された(共)重合体であるポリエーテルセグメント;エチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールなどのジオールとアジピン酸、コハク酸などとの二塩基酸とから重合されたポリエステルセグメント;ポリ−(ペンタン−1,5−カーボネート)ジオール、ポリ−(ヘキサン−1,6−カーボネート)ジオールなどから得られるポリエーテルエステルセグメントを用いることが好ましい。中でも伸長の際の抵抗力を軽減させ、ガイド、針などによる抵抗力を低減させて編成の際の糸切れを防止する観点から、テトラヒドロフランと3−アルキルテトラヒドロフランとのコポリエーテル系長鎖ジオールを使用することがより好ましい。特にコポリエーテル系長鎖ジオールの重合度が高いものを使用することが、優れた伸縮特性を得る観点から好ましい。
【0015】
このポリウレタンは、ヒドロキシル末端ソフトセグメント前駆体である長鎖ジオール化合物と、モル過剰のジイソシアネート化合物とを反応させて(キャッピング反応)、初期重合中間体(プレポリマー)を生成させ、このプレポリマーをアミン系鎖伸長剤および/またはジオール系鎖伸長剤により鎖伸長させることにより製造することができる。
このポリウレタン製造工程に供するジイソシアネート化合物としては、ビス−(p−イソシアナートフェニル)−メタン(以下、MDIと略する)、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと略する)、ビス−(4−イソシアナートシクロヘキシル)−メタン(以下、PICMと略する)、ヘキサメチレンジイソシアネート、3,3,5−トリメチル−5−メチレンシクロヘキシルジイソシアネートなどを用いることができるが、中でもMDIが好ましい。
【0016】
また、鎖伸長剤としてはアミン系鎖伸長剤が好ましく、例えば、エチレンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミンなどのジアミンが使用される。この場合は、ウレタン結合の他にウレア結合をもつポリウレタンウレアが製造される。アミン系鎖伸長剤は、1種のジアミン化合物を使用するのでもよいし、また、複数種のジアミン化合物を使用するのでもよい。
ポリウレタン製造のための重合工程における最終的な分子量の調節を助けるため、鎖停止剤を反応混合物に添加することが好ましい。鎖停止剤としては、通常、活性水素を有する一官能性化合物、例えば、ジエチルアミンなどを使用することができる。
【0017】
また、鎖伸長剤としては、上記したアミン系鎖伸長剤の他に、ジオール化合物を使用することもできる。例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびパラキシリレンジオールなどを用いることができる。ジオール系鎖伸長剤は、1種のジオール化合物を使用するのでもよいし、また、複数種のジオール化合物を使用するのでもよい。また、イソシアネート基と反応する1個の水酸基を含む化合物と併用していてもよい。
【0018】
ポリウレタン製造のための重合方法は、溶融重合法、溶液重合法など各種の方法を採用することができる。また、前記したプレポリマー法の他に、長鎖ジオールとジイソシアネート化合物と鎖伸長剤とを同時に反応させることによりポリウレタンを合成する1段重合法を採用することもできる。
溶液重合法によるポリウレタン製造工程においては、溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略する)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどを使用することができる。なかでもDMAcが最も一般的に使用される。
【0019】
ポリウレタンからポリウレタン弾性糸を製造する紡糸方法としては、例えば、ジオール化合物を鎖伸長剤として用いたポリウレタンの弾性糸の場合、溶融紡糸法、乾式紡糸法または湿式紡糸法などを採用することができる。また、ジアミン化合物を鎖伸長剤として用いたポリウレタンの弾性糸の場合、通常、乾式紡糸法を採用することが好ましい。
重合により製造されたポリウレタン溶液から、乾式紡糸や湿式紡糸などの溶液紡糸によりポリウレタン弾性糸を製造する場合、紡糸に供されるポリウレタン溶液の溶液濃度は特に限定されないが、通常30〜40重量%(溶液の全重量を基準にして)が好ましく、乾式紡糸法の場合は特に35〜38重量%が好ましい。
【0020】
なお、ポリウレタン紡糸工程において、糸と紡糸機のガイドなどとの摩擦を低減させたり、静電気の帯電を防止させたりする目的で、ジメチルシリコーン、ジメチルシリコーンのメチル基の一部を他のアルキル基、フェニル基、アミノ基などで置換した変性シリコーンなどのシリコーンオイル、鉱物油などの油剤を、糸に付与することが好ましいが、これら油剤が付与されていなくてもよい。得られる弾性糸の断面形状は円形であってもよく、扁平であってもよい。
本発明で使用される弾性糸としては、ポリウレタン弾性繊維の他に、伸縮特性を有する複合繊維を使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする層とポリトリメチレンテレフタレートを主成分とする層とがサイドバイサイド型もしくは偏芯シース・コア型に複合されたポリエステル系複合繊維を使用することができる。
【0021】
このポリエステル系複合繊維は、極限粘度の異なる異種重合体が貼り合わせもしくは偏心型複合されたものであり、紡糸、延伸時に高粘度側に応力が集中し、2層間での内部歪みが異なる繊維となる。そのため、延伸後の弾性回復率差により、また、布帛の熱処理工程での熱収縮差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態が発現する。この3次元コイル捲縮の径および単位繊維長当たりのコイル数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差を含む)によってほぼ決まり、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。
弾性糸として要求されるコイル捲縮は、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多いこと(伸長特性に優れ、見栄えがよい)、コイルの耐へたり性がよいこと(伸縮回数に応じたコイルのへたり量が小さく、伸縮保持性に優れる)である。コイルの伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮の大きさに依存するので、高収縮成分に用いる重合体には高い伸長性および回復性が要求される。この観点から、低収縮成分にポリエチレンテレフタレートを用い、高収縮成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いることが好ましい。ポリトリメチレンテレフタレートは、そのポリマー構造からして、ポリエチレンテレフタレートよりも伸長性および伸長回復性がきわめて優れているからである。
【0022】
このポリエステル系複合繊維の1層を構成するポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリマーであり、即ち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる共重合ポリエステルでもよい。共重合可能な化合物として、例えば、スルフォン酸、ナトリウムスルフォン酸、硫酸、硫酸エステル、硫酸ジエチル、硫酸エチル、脂肪族スルフォン酸、エタンスルフォン酸、クロロベンゼンスルフォン酸、脂環式スルフォン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、アジピン酸、シュウ酸、デカンジカルボン酸などのジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、εーカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸などのジカルボン酸、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのジオール類が挙げられる。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体、着色顔料を添加してもよい。
【0023】
また、ポリエステル系複合繊維の他の層を構成するポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする重合体であり、即ち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる共重合ポリエステルでもよい。共重合可能な化合物として、例えば、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類が好ましく使用される。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体、着色顔料を添加してもよい。
【0024】
ポリエステル系複合繊維におけるコイル状捲縮の発現性や、編織物にした際の伸縮性を所望水準に高める観点からすると、ポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度は1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。
このポリエステル系複合繊維の複合構造はサイドバイサイド型または偏芯シース・コア型であり、その単糸断面形状は略円状でもよいし、中央が括れた長円状でもよい。これら複合構造をとることによって、糸条への熱付与によりコイル状捲縮が発現し、糸条に伸縮性を付与することができる。
また、ポリエステル系複合繊維におけるポリエチレンテレフタレート層とポリトリメチレンテレフタレート層との重量比率は、製糸性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の観点から、30/70以上70/30以下の範囲であることが好ましい。
【0025】
以上説明したようなポリウレタン弾性糸などが使用される弾性糸は、糸条繊度が22〜78dtexであることが好ましい。
〔非弾性糸〕
次に、本発明で使用する非弾性糸について説明する。
本発明の弾性経編地において使用する非弾性糸は、実質的に伸縮性を有さない糸条であり、フィラメント糸または紡績糸のいずれであってもよい。
具体的には、フィラメント糸としては、レーヨン、アセテート、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、塩化ビニルなどからなる長繊維糸、または絹(生糸)などが好ましく用いられる。その態様は、原糸、仮ヨリ加工糸もしくは先染糸などのいずれであってもよく、また、これらの複合糸であってもよい。これらフィラメント糸は、いずれも撚糸加工のし易い、安定した糸条であることが好ましい。
【0026】
また、紡績糸としては、木綿、羊毛、麻、絹などの天然繊維、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル、アクリロニトリル、ポリプロピレン、塩化ビニル系などからなるステープル繊維のうちの1種からなる紡績糸またはそれらステープル繊維が混紡された紡績糸が挙げられる。
非弾性糸がフィラメント糸である場合には、その糸条繊度は、7〜84dtexの範囲が好ましく、22〜56dtexの範囲がより好ましい。また、非弾性糸が紡績糸である場合には、その糸条繊度は、30〜100番手の範囲が好ましく、40〜60番手の範囲がより好ましい。
【0027】
〔弾性経編地〕
本発明の弾性経編地は、弾性糸と非弾性糸とから編成される経編地である。この経編地において、非弾性糸は1種類でもよいし複数種類の交編でもよい。また、弾性糸も同様に、1種類でもよいし複数種類の交編でもよい。
前記弾性糸の少なくとも1本は二目編で編成される。二目編としては開き目、閉じ目のいずれが採用されてもよく、また、アトラス状に変形したものでもよい。弾性糸を二目編することにより生地が薄くて抵抗力の強いものを作りやすい。
弾性経編地の伸縮特性としては、領域(A)と該領域(A)以外の領域(B)の間において、それぞれの伸びに対する抵抗力の関係が所定のものとなっている。
【0028】
編地の両領域(A),(B)に属する部分の試験片について測定した、タテ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のタテ方向応力をP1とし、ヨコ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のヨコ方向応力をP2、としたとき、
前記両領域(A),(B)における互いのタテ方向応力P1の関係が、
〔領域(A)のP1〕÷〔領域(B)のP1〕≧1.5
であることが必要である。
上式は、弾性経編地の抵抗力の強い帯状の領域(A)とそれ以外の比較的抵抗力の弱い帯状の領域(B)の抵抗力の差が1.5倍以上大きいことを示し、弾性経編地をスポーツウェアとして使用する際に、身体の部位によって締め付け力を強くしたいところと弱くしたいところのメリハリをつけやすく、例えば、後述する下半身用スポーツウェアに用いた場合、臀部周辺は丸みを壊さず、大腿部は細く体型補整効果を高めることができる。
【0029】
また、前記領域(A),(B)それぞれにおけるタテ方向応力P1とヨコ方向応力P2の関係が、いずれも、
0.5≦P2÷P1≦3.0
の関係を満たすことが必要である。
前記P2÷P1が0.5未満であると、弾性経編地のヨコ方向の抵抗力がタテ方向の抵抗力に比べ小さくなり過ぎて、生地の抵抗力に異方性が生じ、弾性経編地をスポーツウェアとして使用する際に、特に伸縮範囲やその伸縮方向が多方向におよぶ身体の関節周辺部において、抵抗力に不均一な方向が生じやすくなる。一方、前記P2÷P1が3.0を超えると、弾性経編地のタテ方向の抵抗力がヨコ方向の回復力に比べ小さくなり過ぎて、生地の抵抗力に異方性が生じ、前記P2÷P1が0.5未満である場合と同様に、抵抗力に不均一な方向が生じやすくなる。
【0030】
なお、本発明における上記P1、P2の具体的な測定方法は、実施例で後述する方法を採用する。
弾性経編地のウェール方向において抵抗力の強い領域を帯状に形成する方法としては、前記領域(A)における弾性糸の糸通し方法を全通しとし、前記領域(B)における弾性糸の糸通し方法を1イン1アウトとする方法が挙げられる。
また、前記領域(A)における弾性糸の繊度を前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも大きくする方法が挙げられる。このときの弾性糸の繊度は、特に限定されないが、例えば、領域(B)における弾性糸の繊度を上述した弾性糸の通常の繊度22〜78dtexに設定しておいて、領域(A)における弾性糸の繊度を前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも2倍以上大きくすることができる。
【0031】
さらに、前記領域(A)における弾性糸の編み込み本数を前記領域(B)における弾性糸の編み込み本数よりも多くする方法が挙げられる。このときの弾性糸の編み込み本数は特に限定されないが、例えば、領域(B)における弾性糸の編み込み本数よりも領域(A)における弾性糸の編み込み本数を2倍以上多くすることができる。
本発明にかかる弾性経編地は、例えば、図1に示すように、経編地10中に抵抗力の強い領域(A)が帯状に形成されている。領域(B)は領域(A)以外の領域である。矢印で示す方向が編み方向である。
例えば、1イン1アウトと全通しの変更、本数や太さの変更などの上述した抵抗力の切り替え手段を用いて、一定ウェールごとに抵抗力を切り替えるようにすればよい。
【0032】
図1(b)に示すように、1つの経編地10に領域(A)の帯を2つ以上設けてもよく、帯の太さも特に問わない。
〔用途〕
上記したような本発明にかかる弾性経編地は、体型補正機能と優れた運動パフォーマンスが望まれる衣類、特にフィットネスウェア、アクティブウェア、ヨガウェア、レオタード、水着などのスポーツウェアに好適に使用できる。
本発明にかかる弾性経編地を衣類に適用する場合には、図1に示すような弾性経編地を所望の形状に裁断して用いることができる。
【0033】
<下半身用スポーツウェア>
本発明にかかる上記弾性経編地は、例えば、下半身用スポーツウェアに用いることができる。
図2は下半身用スポーツウェアの一実施形態であり、図2(a)が正面図、図2(b)が背面図である。
図2に示す下半身用スポーツウェア20は、抵抗力の強い領域(A)として、身体の臀部下部から大腿部にかけての部位を包み込むように領域(A1)が設けられている。この領域(A1)により、大腿部の引き締め効果が得られるとともに、大腿部より上方の臀部に対しては臀部の垂れ下がりを防止する、いわゆるヒップアップ効果が得られる。
【0034】
図2では、領域(A)として、さらに、腹部に設けられた逆三角形状の領域(A2)が設けられている。この領域(A2)が設けられていることにより、腹部の膨出を抑える効果も発揮される。
図2に示す前記領域(A1)は、1つの太い帯で形成されているが、細い帯が間隔を空けて複数設けられ、全体として領域(A1)が形成されていてもよい。領域(A2)についても同様である。さらに、以下の領域(A3)〜(A7)も同様であるので、以下では、説明を省略している。
また、図3は下半身用スポーツウェア20の別の実施形態であり、図3(a)が正面図、図3(b)が背面図である。
【0035】
図3に示す下半身用スポーツウェア20では、抵抗力の強い領域(A)として、領域(A3)が、腹部から背面側の大腿部にかけて帯状に設けられている。背面では図2と同様にしてヒップアップ効果が得られ、正面では腹部の膨出を抑える効果が発揮される。
上記した下半身用スポーツウェア20は、いずれも、本発明にかかる弾性経編地を用いて製造するので、領域(A)、領域(B)の別を問わず、タテ方向とヨコ方向で大きく抵抗力が異なってしまうことがなく、上述の体型補整機能つきでありながら、股関節周辺の伸縮範囲やその伸縮方向が多方向におよぶ身体部位においても抵抗力に不均一な方向が生じにくく、運動パフォーマンスを損なわないものである。
【0036】
<上半身用スポーツウェア>
本発明にかかる上記弾性経編地は、例えば、上半身用スポーツウェアに用いることができる。
図4は上半身用スポーツウェア30の一実施形態であり、図4(a)が正面図、図4(b)が背面図である。
図4に示す上半身用スポーツウェア30は、領域(A)として、身体の背部の脊柱起立筋に対応する部位において脊柱起立筋に沿うように領域(A4)が設けられている。この領域(A4)により、背中を引き締める力を与えて脊柱起立筋を伸ばさせることにより美しい姿勢を維持する効果が得られる。
【0037】
また、図5は上半身用スポーツウェア30の別の実施形態であり、図5(a)が正面図、図5(b)が背面図である。
図5に示す上半身用スポーツウェア30は、領域(A)として、背部において左右の前腕部を含む帯状の領域(A5)が設けられている。これにより、例えば、着用者の肩が前方へと屈んでしまわないように引張力が働き、脊柱起立筋の伸びた正しい姿勢を維持させることができる。
さらにまた、図6も上半身用スポーツウェア30の別の実施形態であり、図6(a)が正面図、図6(b)が背面図である。
【0038】
図6に示す上半身用スポーツウェア30は、図5と同様に、領域(A)として、背部において帯状の領域(A6)が設けられているが、ノースリーブの衣類であるので、着用者の肩に対して引張力は働かない。ただし、脊柱起立筋の曲がった状態となると、抵抗力の強い前記領域(A6)が緊迫した状態となるため、着用者は脊柱起立筋の曲がった姿勢を意識することができ、自発的な姿勢矯正を促す作用がある。また、図6では、腹部に帯状の領域(A7)が設けられている。この領域(A7)により、腹部の膨出が抑制されるとともに、胸が垂れ下がってしまうことを抑制することができる。
上記した上半身用スポーツウェア30は、いずれも、本発明にかかる弾性経編地を用いて製造するので、領域(A)、領域(B)の別を問わず、タテ方向とヨコ方向で大きく抵抗力が異なってしまうことがなく、上述の体型補整機能つきでありながら、伸縮範囲やその伸縮方向が多方向におよぶ身体部位においても抵抗力に不均一な方向が生じにくく、運動パフォーマンスを損なわないものである。特に、脊柱起立筋が伸び、胸の張った正しい姿勢を保持させることで、胸郭を広げさせて呼吸を促し、新陳代謝を高め、運動パフォーマンスを高める効果をさらに向上させる効果もある。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
実施例1にかかる弾性経編地は、領域(A)における弾性糸の糸通し方法が全通しであり、前記領域(B)における弾性糸の糸通し方法が1イン1アウトとなっている。
実施例1にかかる弾性経編地は、カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4EL28ゲージ機を用い、以下の糸使いおよび編組織によって製造した。
<糸使い>
フロント筬:非弾性糸(ポリアミド繊維)ナイロン加工糸78dtex(東レ株式会社製)、
ミドル筬:ポリウレタン弾性糸50dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)、
バック筬:ミドル筬と同様の糸を用いた。
【0040】
糸通し方法としては、フロント筬:全通し、ミドル筬:1イン1アウト、バック筬:1イン1アウトとした。
このとき、ミドル筬、バック筬に糸通しされる弾性糸に関し、領域(B)ではバック筬の弾性糸のみを編成するようにし、領域(A)ではバック筬の弾性糸に加えてミドル筬の弾性糸も併せて編成するようにした。これにより、領域(B)ではバック筬に1イン1アウトで糸通しされた弾性糸のみが編み込まれ、領域(A)ではミドル筬とバック筬の各1イン1アウトで糸通しされた糸が合わさって全通し分の弾性糸が編み込まれるようにした。
【0041】
<編組織>
フロント筬:2−3/1−0、
ミドル筬:2−0/1−3、
バック筬:2−0/1−3
フロント筬に糸通しされた非弾性糸11の編組織図を図7(a)、ミドル筬に糸通しされた弾性糸12およびバック筬に糸通しされた弾性糸13の編組織図を図7(b)に示す。また、領域(A)および領域(B)と弾性糸12および弾性糸13の関係を示す編組織図を図8に示す。図8では弾性糸13を実線で表し、弾性糸12を破線で表している。
【0042】
以上の糸使い、編組織で得られた生機を所定の染色加工により仕上げ、実施例1にかかる弾性経編地を得た。
〔実施例2〕
実施例2にかかる弾性経編地は、領域(A)における弾性糸の繊度が前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも大きくなっている。
実施例2にかかる弾性経編地は、カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4EL28ゲージ機を用い、以下の糸使いおよび編組織によって製造した。
<糸使い>
フロント筬:非弾性糸(ポリアミド繊維)ナイロン加工糸78dtex(東レ株式会社製)、
ミドル筬:ポリウレタン弾性糸33dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)、
バック筬:ポリウレタン弾性糸100dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)を用いた。
【0043】
糸通し方法としては、フロント筬:全通し、ミドル筬:全通し、バック筬:全通しとした。
このとき、ミドル筬、バック筬に糸通しされる弾性糸に関し、領域(A)ではバック筬の弾性糸のみを編成するようにし、領域(B)ではミドル筬の弾性糸のみを編成するようにした。これにより、領域(B)よりも太い弾性糸を用いた領域(A)の方が、抵抗力が強くなるようにした。
<編組織>
フロント筬:1−0/2−3、
ミドル筬:1−3/2−0、
バック筬:1−3/2−0
フロント筬に糸通しされた非弾性糸11の編組織図は図7(a)、ミドル筬に糸通しされた弾性糸12およびバック筬に糸通しされた弾性糸13の編組織図は図7(b)に示す編組織図と共通するので省略する。また、領域(A)および領域(B)と弾性糸12および弾性糸13の関係を示す編組織図を図9に示す。図9では弾性糸13を弾性糸12よりも太い線で表している。
【0044】
以上の糸使い、編組織で得られた生機を所定の染色加工により仕上げ、実施例2にかかる弾性経編地を得た。
〔実施例3〕
実施例3にかかる弾性経編地は、領域(A)における弾性糸の本数が前記領域(B)における弾性糸の本数よりも多くなっている。
実施例3にかかる弾性経編地は、カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4EL28ゲージ機を用い、以下の糸使いおよび編組織によって製造した。
<糸使い>
フロント筬:非弾性糸(ポリアミド繊維)ナイロン加工糸78dtex(東レ株式会社製)、
ミドル筬:ポリウレタン弾性糸33dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)、
バック筬:ミドル筬と同様の糸を用いた。
【0045】
糸通し方法としては、フロント筬:全通し、ミドル筬:全通し、バック筬:全通しとした。
このとき、ミドル筬、バック筬に糸通しされる弾性糸に関し、領域(B)ではバック筬の弾性糸のみを編成するようにし、領域(A)ではミドル筬の弾性糸をも編成するようにした。これにより、領域(B)では1本の弾性糸が用いられ、領域(A)では2本の弾性糸が用いられることとなり、弾性糸の本数の多い領域(A)の方が、抵抗力が強くなっている。
<編組織>
フロント筬:1−0/2−3、
ミドル筬:1−3/2−0、
バック筬:1−3/2−0
フロント筬に糸通しされた非弾性糸11の編組織図は図7(a)、ミドル筬に糸通しされた弾性糸12およびバック筬に糸通しされた弾性糸13の編組織図は図7(b)に示す編組織図と共通するので省略する。また、領域(A)および領域(B)と弾性糸12および弾性糸13の関係を示す編組織図を図10に示す。図10では弾性糸13を実線で表し、弾性糸12を破線で表している。
【0046】
以上の糸使い、編組織で得られた生機を所定の染色加工により仕上げ、実施例3にかかる弾性経編地を得た。
〔比較例1〕
比較例1にかかる弾性経編地は、弾性糸が二目編でない従来公知の弾性経編地である。
カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4EL28ゲージ機を用い、次の糸使いにて弾性経編地を製造した。
<糸使い>
フロント筬:非弾性糸(ポリアミド繊維)ナイロン加工糸78dtex(東レ株式会社製)、
ミドル筬:ポリウレタン弾性糸50dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)、
バック筬:ミドル筬と同様の糸を用いた。
【0047】
糸通し方法としては、フロント筬:全通し、ミドル筬:全通し、バック筬:全通しとした。
このとき、ミドル筬、バック筬に糸通しされる弾性糸に関し、本発明における領域(B)に相当する領域(B’)ではバック筬の弾性糸のみを編成するようにし、本発明における領域(A)に相当する領域(A’)ではバック筬の弾性糸に加えてミドル筬の弾性糸も併せて編成するようにした。これにより、領域(A’)にミドル筬に糸通しされた弾性糸が挿入されるようにして、領域(A’)を領域(B’)よりも抵抗力が強くなるようにした。
【0048】
<編組織>
フロント筬:1−0/2−3、
ミドル筬:3−3/0−0、
バック筬:1−2/1−0
フロント筬に糸通しされた非弾性糸11の編組織図を図11(a)、ミドル筬に糸通しされた弾性糸12の編組織図を図11(b)、バック筬に糸通しされた弾性糸13の編組織図を図11(c)に示す。また、領域(A’)および領域(B’)と弾性糸12および弾性糸13の関係を示す編組織図を図12に示す。
【0049】
以上の糸使い、編組織で得られた生機を所定の染色加工により仕上げ、比較例1にかかる弾性経編地を得た。
〔評価試験〕
上記実施例1、2、比較例1にかかる各弾性経編地に対し、以下に示す方法により、P1、P2を測定した。
<P1>
P1は編地のタテ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のタテ方向応力である。
【0050】
測定装置としては、インストロン社製引張試験機5500型を用いた。
経編地のタテ方向(ウェール方向)が試験片の長さ方向になるようにして、幅3インチ(76.2mm)×長さ12インチ(304.8mm)の試験片を、縫い代1インチ(25.4mm)として、周長10インチ(254mm)のリング状試験片を得た。試験片の長さ方向を上下方向に向けて、上部固定クランプ、下部移動クランプに取り付けた。掴み間隔は5インチ(127mm)に設定した。
試験片に引張力を加えて、10インチ(254mm)/分の速度でタテ伸長70%まで伸ばし、その後、同じ速度で引張力を取り去るという動作を3サイクル行った。試験の間、試験片に生じる応力を自動的に測定し記録した。
【0051】
なお、上述のタテ伸長70%とは、伸ばす前の試験片の長さ(掴み間隔)eと、伸ばした状態における試験片の伸び方向の長さdとから、(d−e)/e×100で求められる値が70%であることを意味する。
上記操作を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時の応力を読み取り、その値をP1(70%伸長時のタテ方向応力、単位:cN)とした。
<P2>
P2は編地のヨコ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のヨコ方向応力である。
【0052】
上記P1の算出方法において、経編地のタテ方向(ウェール方向)が試験片の長さ方向になるようにするのではなく、経編地のヨコ方向(コース方向)が試験片の長さ方向になるようにしたこと以外は、同様の方法により、P2(70%伸長時のヨコ方向応力、単位:cN)を算出した。
上記方法によって測定された実施例1〜3、比較例1にかかる各弾性経編地における領域(A)、領域(A’)、領域(B)、領域(B’)のそれぞれのP1,P2の値と、この値から算出される、領域ごとのP2÷P1、実施例1〜3における領域(A)のP1÷領域(B)のP1、および、比較例1における領域(A’)のP1÷領域(B’)のP1の値を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
上記表1からわかるように、実施例1〜3は、全て、本発明で規定される条件を満足するものとなっている。比較例1は前記条件を満たしていない。
〔スポーツウェアの製造および評価〕
上記実施例1〜3、比較例1にかかる各弾性経編地を裁断し、図2に示す下半身用スポーツウェア20を製造した。
実施例1〜3にかかる各弾性経編地から得られた各スポーツウェアを実際に着用したところ、体型補正機能に極めて優れるものである上に、抵抗力の強い領域を有しない通常のスポーツウェアと同様の運動パフォーマンスを発揮させることができた。
【0055】
一方、比較例1にかかる弾性経編地から得られたスポーツウェアを実際に着用したところ、領域(A’)、領域(B’)ともにタテ方向とヨコ方向の抵抗力に差があり、通常のスポーツウェアと同様の運動パフォーマンスを発揮させることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかる弾性経編地は、例えば、フィットネスウェア、アクティブウェア、ヨガウェア、レオタード、水着などのスポーツウェアとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明にかかる弾性経編地の一実施形態を示す概略全体図である。
【図2】本発明にかかる下半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図3】本発明にかかる下半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図4】本発明にかかる上半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図5】本発明にかかる上半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図6】本発明にかかる上半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図7】実施例1にかかる弾性経編地の各編成糸の編組織図である。
【図8】実施例1にかかる弾性経編地の弾性糸のみを表した編組織図である。
【図9】実施例2にかかる弾性経編地の弾性糸のみを表した編組織図である。
【図10】実施例3にかかる弾性経編地の弾性糸のみを表した編組織図である。
【図11】比較例1にかかる弾性経編地の各編成糸の編組織図である。
【図12】比較例1にかかる弾性経編地の弾性糸のみを表した編組織図である。
【符号の説明】
【0058】
A(A1〜A7) 抵抗力の強い領域
B 領域(A)以外の領域
10 弾性経編地
20 下半身用スポーツウェア
30 上半身用スポーツウェア
11 非弾性糸(フロント筬)
12 弾性糸(ミドル筬)
13 弾性糸(バック筬)
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性経編地およびそれを用いてなるスポーツウェアに関するものである。特にフィットネスウェア、アクティブウェア、レオタード、水着などのスポーツウェアに好適に使用される弾性経編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、美尻や美脚といった体型補整効果のため、所望の領域において伸びに対する抵抗力(以下、単に「抵抗力」ということがある)を高めることが行われてきた。
具体的には、例えば、大腿部の周囲に強く締め付けるストレッチ素材を用いるとともに、臀部の頂点付近には締め付け力の弱いストレッチ素材を用いることにより、臀部を盛り上げ大腿部を締めてメリハリをつけ、ヒップアップ効果や美尻効果をアピールするものが多く商品化されている。
編地の一部の領域の抵抗力を高める方法としては、従来、当て布や弾力性のある合成樹脂液の塗布などが知られていたが、当て布を用いると当て布のある部分とない部分との間で段差が生じたり縫合部に厚みが生じたりする問題、合成樹脂液を用いると通気性の低下による蒸れの発生の問題があった。そのため、この問題を解消するための改良技術として、編組織の変化によって一部の領域の抵抗力を高めることも検討されてきている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3023354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記特許文献1には、体型補正機能または筋肉サポート機能を付与することを目的とした技術であることが記載されており、対象衣類として、ガードル、ショーツ、ボディスーツ、水着、レオタード、ブラジャー、スパッツ、スポーツ用タイツなどが挙げられている。すなわち、上記特許文献1には、体型補正機能のほかに、筋肉の運動能力を妨げず、筋肉疲労を軽減したり予防したり、筋肉障害などの発生を未然に予防する機能として筋肉サポート機能なる機能も挙げられており、対象衣類としてスポーツウェアが挙げられている。
このようなスポーツウェアなどのような用途においては、充分な運動パフォーマンスを発揮させることが必要である。
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、美尻や美脚といった体型補整効果を発揮させる抵抗力の強い領域とそれ以外の領域に充分な抵抗力の差を持たせながら、スポーツウェアに要求されるような運動パフォーマンスをも発揮させることのできる弾性経編地およびそれを用いてなるスポーツウェアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。
そして、抵抗力の強い領域とそれ以外の領域に充分な抵抗力の差を持たせるために、抵抗力の強い領域において、糸の太さの本数などを変更して抵抗力を高めることを考えた。しかし、経編地においては、一般にタテ方向の方がヨコ方向よりも伸縮性に富み、その一方で、糸の太さの本数などにより抵抗力を高めようとすると、タテ方向の抵抗力のみが一方的に高まってしまう。そのため、抵抗力の強い領域とそれ以外の領域のいずれにおいても、タテ、ヨコにバランス良く伸縮性を付与することは難しく、その結果、着用者への力のかかり方が歪(いびつ)になり、スポーツウェアに要求されるような運動パフォーマンスを得ることが困難となることが分かった。すなわち、タテ、ヨコ方向で抵抗力に大きな差があると、着用者にかかる力の方向にずれが生じて、着用者はこの衣類を着用しなかった場合の運動と同等の動きを行い難くなる。
【0006】
上記の問題を避けるため、本発明者は更なる検討を重ねて、弾性糸の編組織として二目編を採用すればよいことを見出した。すなわち、二目編により形成される編地は、タテ方向とヨコ方向の伸縮性に大きな差が生じ難く、編み組織や糸の太さの本数などにより抵抗力を高める場合においても、同一コースで2針に渡ってオーバーラップが行われるため、1本の針に2つのループが重合され、タテ方向の伸縮に追随してヨコ方向の伸縮も生じるので、抵抗力の強い領域においてタテ方向だけの抵抗力が一方的に高くなって、着用者に力が歪にかかってしまうことが避けられ、運動パフォーマンスを阻害しなくなることを見出した。すなわち、この衣類を着用した者には、タテ方向、ヨコ方向のいずれかに偏った力が加わることがなく充分な運動パフォーマンスを発揮させることができることを見出した。
【0007】
本発明は、上記知見およびその確認により完成されたものである。
すなわち、本発明にかかる弾性経編地は、弾性糸と非弾性糸が交編されてなる弾性経編地であって、該経編地には伸びに対する抵抗力の強い領域(A)が帯状に存在するとともに、前記弾性糸の少なくとも1本が二目編で編成されており、前記領域(A)と該領域(A)以外の領域(B)の間において、それぞれの伸びに対する抵抗力の関係が下記の定義に従うものとなっている、ことを特徴とする。
<定義>
編地の両領域(A),(B)に属する部分の試験片について測定した、タテ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のタテ方向応力をP1とし、ヨコ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のヨコ方向応力をP2、としたとき、
前記両領域(A),(B)における互いのタテ方向応力P1の関係が、
〔領域(A)のP1〕÷〔領域(B)のP1〕≧1.5
であり、かつ、前記領域(A),(B)それぞれにおけるタテ方向応力P1とヨコ方向応力P2の関係が、いずれも、
0.5≦P2÷P1≦3.0
であること。
【0008】
上記における好ましい形態では、前記領域(A)における弾性糸の糸通し方法が全通しであり、前記領域(B)における弾性糸の糸通し方法が1イン1アウトであるか、前記領域(A)における弾性糸の繊度を前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも大きくしてなるか、および/または、前記領域(A)における弾性糸の編み込み本数を前記領域(B)における弾性糸の編み込み本数よりも多くしてなる。
また、本発明にかかる下半身用スポーツウェアは、上記弾性経編地を用いてなり、前記領域(A)が身体の臀部下部から大腿部にかけての部位を包み込むようになっている、ことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる上半身用スポーツウェアは、上記弾性経編地を用いてなり、前記領域(A)が身体の背部の脊柱起立筋に対応する部分において脊柱起立筋に沿うようになっている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、美尻や美脚といった体型補整効果に関するニーズに対応し、かつ、本来のスポーツウェアとして要求されるような運動パフォーマンスをも発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明にかかる弾性経編地およびこれを用いてなるスポーツウェアについて詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔弾性糸〕
本発明において使用する弾性糸は、繊維自体が本来的にゴム状弾性を有する弾性繊維から構成される糸であることが好ましい。この弾性繊維としては、ポリウレタン弾性糸、ポリエーテル・エステル弾性糸、ポリアミド弾性糸など、もしくは、天然ゴム、合成ゴム、半合成ゴムからなる糸状のいわゆるゴム糸、または、これらを主体とした他の有機合成樹脂との複合もしくは混合によって得られる弾性糸が挙げられる。なかでも、細繊度でも優れた弾性特性を発揮できることからポリウレタン弾性糸が好ましい。
【0012】
この弾性糸は、モノフィラメント、マルチフィラメントのいずれの糸条形態であってもよい。また、弾性糸は、そのまま生糸として使用してもよく、非弾性糸もしくは弾性糸で被覆した加工糸として使用してもよい。
弾性糸として好適に用いることができるポリウレタン弾性糸は、ポリウレタンおよび/またはポリウレタンウレアから構成される弾性糸である。このポリウレタンやポリウレタンウレアは、長鎖ジオール化合物、ジイソシアネート化合物および鎖伸長剤を主原料として重合されるウレタン結合を含むポリマーであり、ソフトセグメント構成成分となる長鎖ジオール化合物の種類により、ポリエーテル系、ポリエステル系もしくはポリエーテル・エステル系に区別される。また、鎖伸長剤として低分子量ジオール化合物を用いるか、低分子量ジアミン化合物を用いるかにより、ポリウレタン(狭義)もしくはポリウレタンウレアと区別されるが、本明細書では、ポリウレタンとポリウレタンウレアを総称して単にポリウレタンという。
【0013】
ポリウレタンは、長鎖のポリエーテルセグメント、ポリエステルセグメントもしくはポリエーテルエステルセグメントなどのソフトセグメント(a)と、イソシアネートと鎖伸長剤であるジアミンまたはジオールとの反応により得られる比較的短鎖のセグメントであるハードセグメント(b)とから構成される。
ポリエーテル系ポリウレタンは、ソフトセグメント構成成分としてポリテトラメチレンエーテルグリコールやその共重合体などのポリエーテル系ジオール化合物を用い、ハードセグメント構成成分としてジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を用い、さらに、鎖伸長剤として二官能性水素化合物を用いて製造されたポリウレタンである。ポリエステル系ポリウレタンは、ソフトセグメント構成成分としてコポリエステルジオールなどのポリエステル系ジオール化合物を用い、ハードセグメント構成成分としてジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を用い、さらに、鎖伸長剤として二官能性水素化合物を用いて製造されたポリウレタンである。また、ポリテトラメチレンエーテルグリコールとポリブチレンテレフタレートを長鎖ジオール化合物に用いて重合されたポリエーテル・エステル系ポリウレタンを用いることもできる。
【0014】
ポリウレタンを構成するソフトセグメント(a)としては、テトラメチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフランなどから重合された(共)重合体であるポリエーテルセグメント;エチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールなどのジオールとアジピン酸、コハク酸などとの二塩基酸とから重合されたポリエステルセグメント;ポリ−(ペンタン−1,5−カーボネート)ジオール、ポリ−(ヘキサン−1,6−カーボネート)ジオールなどから得られるポリエーテルエステルセグメントを用いることが好ましい。中でも伸長の際の抵抗力を軽減させ、ガイド、針などによる抵抗力を低減させて編成の際の糸切れを防止する観点から、テトラヒドロフランと3−アルキルテトラヒドロフランとのコポリエーテル系長鎖ジオールを使用することがより好ましい。特にコポリエーテル系長鎖ジオールの重合度が高いものを使用することが、優れた伸縮特性を得る観点から好ましい。
【0015】
このポリウレタンは、ヒドロキシル末端ソフトセグメント前駆体である長鎖ジオール化合物と、モル過剰のジイソシアネート化合物とを反応させて(キャッピング反応)、初期重合中間体(プレポリマー)を生成させ、このプレポリマーをアミン系鎖伸長剤および/またはジオール系鎖伸長剤により鎖伸長させることにより製造することができる。
このポリウレタン製造工程に供するジイソシアネート化合物としては、ビス−(p−イソシアナートフェニル)−メタン(以下、MDIと略する)、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと略する)、ビス−(4−イソシアナートシクロヘキシル)−メタン(以下、PICMと略する)、ヘキサメチレンジイソシアネート、3,3,5−トリメチル−5−メチレンシクロヘキシルジイソシアネートなどを用いることができるが、中でもMDIが好ましい。
【0016】
また、鎖伸長剤としてはアミン系鎖伸長剤が好ましく、例えば、エチレンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミンなどのジアミンが使用される。この場合は、ウレタン結合の他にウレア結合をもつポリウレタンウレアが製造される。アミン系鎖伸長剤は、1種のジアミン化合物を使用するのでもよいし、また、複数種のジアミン化合物を使用するのでもよい。
ポリウレタン製造のための重合工程における最終的な分子量の調節を助けるため、鎖停止剤を反応混合物に添加することが好ましい。鎖停止剤としては、通常、活性水素を有する一官能性化合物、例えば、ジエチルアミンなどを使用することができる。
【0017】
また、鎖伸長剤としては、上記したアミン系鎖伸長剤の他に、ジオール化合物を使用することもできる。例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびパラキシリレンジオールなどを用いることができる。ジオール系鎖伸長剤は、1種のジオール化合物を使用するのでもよいし、また、複数種のジオール化合物を使用するのでもよい。また、イソシアネート基と反応する1個の水酸基を含む化合物と併用していてもよい。
【0018】
ポリウレタン製造のための重合方法は、溶融重合法、溶液重合法など各種の方法を採用することができる。また、前記したプレポリマー法の他に、長鎖ジオールとジイソシアネート化合物と鎖伸長剤とを同時に反応させることによりポリウレタンを合成する1段重合法を採用することもできる。
溶液重合法によるポリウレタン製造工程においては、溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略する)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどを使用することができる。なかでもDMAcが最も一般的に使用される。
【0019】
ポリウレタンからポリウレタン弾性糸を製造する紡糸方法としては、例えば、ジオール化合物を鎖伸長剤として用いたポリウレタンの弾性糸の場合、溶融紡糸法、乾式紡糸法または湿式紡糸法などを採用することができる。また、ジアミン化合物を鎖伸長剤として用いたポリウレタンの弾性糸の場合、通常、乾式紡糸法を採用することが好ましい。
重合により製造されたポリウレタン溶液から、乾式紡糸や湿式紡糸などの溶液紡糸によりポリウレタン弾性糸を製造する場合、紡糸に供されるポリウレタン溶液の溶液濃度は特に限定されないが、通常30〜40重量%(溶液の全重量を基準にして)が好ましく、乾式紡糸法の場合は特に35〜38重量%が好ましい。
【0020】
なお、ポリウレタン紡糸工程において、糸と紡糸機のガイドなどとの摩擦を低減させたり、静電気の帯電を防止させたりする目的で、ジメチルシリコーン、ジメチルシリコーンのメチル基の一部を他のアルキル基、フェニル基、アミノ基などで置換した変性シリコーンなどのシリコーンオイル、鉱物油などの油剤を、糸に付与することが好ましいが、これら油剤が付与されていなくてもよい。得られる弾性糸の断面形状は円形であってもよく、扁平であってもよい。
本発明で使用される弾性糸としては、ポリウレタン弾性繊維の他に、伸縮特性を有する複合繊維を使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする層とポリトリメチレンテレフタレートを主成分とする層とがサイドバイサイド型もしくは偏芯シース・コア型に複合されたポリエステル系複合繊維を使用することができる。
【0021】
このポリエステル系複合繊維は、極限粘度の異なる異種重合体が貼り合わせもしくは偏心型複合されたものであり、紡糸、延伸時に高粘度側に応力が集中し、2層間での内部歪みが異なる繊維となる。そのため、延伸後の弾性回復率差により、また、布帛の熱処理工程での熱収縮差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態が発現する。この3次元コイル捲縮の径および単位繊維長当たりのコイル数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差を含む)によってほぼ決まり、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。
弾性糸として要求されるコイル捲縮は、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多いこと(伸長特性に優れ、見栄えがよい)、コイルの耐へたり性がよいこと(伸縮回数に応じたコイルのへたり量が小さく、伸縮保持性に優れる)である。コイルの伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮の大きさに依存するので、高収縮成分に用いる重合体には高い伸長性および回復性が要求される。この観点から、低収縮成分にポリエチレンテレフタレートを用い、高収縮成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いることが好ましい。ポリトリメチレンテレフタレートは、そのポリマー構造からして、ポリエチレンテレフタレートよりも伸長性および伸長回復性がきわめて優れているからである。
【0022】
このポリエステル系複合繊維の1層を構成するポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリマーであり、即ち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる共重合ポリエステルでもよい。共重合可能な化合物として、例えば、スルフォン酸、ナトリウムスルフォン酸、硫酸、硫酸エステル、硫酸ジエチル、硫酸エチル、脂肪族スルフォン酸、エタンスルフォン酸、クロロベンゼンスルフォン酸、脂環式スルフォン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、アジピン酸、シュウ酸、デカンジカルボン酸などのジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、εーカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸などのジカルボン酸、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのジオール類が挙げられる。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体、着色顔料を添加してもよい。
【0023】
また、ポリエステル系複合繊維の他の層を構成するポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする重合体であり、即ち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる共重合ポリエステルでもよい。共重合可能な化合物として、例えば、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類が好ましく使用される。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体、着色顔料を添加してもよい。
【0024】
ポリエステル系複合繊維におけるコイル状捲縮の発現性や、編織物にした際の伸縮性を所望水準に高める観点からすると、ポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度は1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。
このポリエステル系複合繊維の複合構造はサイドバイサイド型または偏芯シース・コア型であり、その単糸断面形状は略円状でもよいし、中央が括れた長円状でもよい。これら複合構造をとることによって、糸条への熱付与によりコイル状捲縮が発現し、糸条に伸縮性を付与することができる。
また、ポリエステル系複合繊維におけるポリエチレンテレフタレート層とポリトリメチレンテレフタレート層との重量比率は、製糸性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の観点から、30/70以上70/30以下の範囲であることが好ましい。
【0025】
以上説明したようなポリウレタン弾性糸などが使用される弾性糸は、糸条繊度が22〜78dtexであることが好ましい。
〔非弾性糸〕
次に、本発明で使用する非弾性糸について説明する。
本発明の弾性経編地において使用する非弾性糸は、実質的に伸縮性を有さない糸条であり、フィラメント糸または紡績糸のいずれであってもよい。
具体的には、フィラメント糸としては、レーヨン、アセテート、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、塩化ビニルなどからなる長繊維糸、または絹(生糸)などが好ましく用いられる。その態様は、原糸、仮ヨリ加工糸もしくは先染糸などのいずれであってもよく、また、これらの複合糸であってもよい。これらフィラメント糸は、いずれも撚糸加工のし易い、安定した糸条であることが好ましい。
【0026】
また、紡績糸としては、木綿、羊毛、麻、絹などの天然繊維、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル、アクリロニトリル、ポリプロピレン、塩化ビニル系などからなるステープル繊維のうちの1種からなる紡績糸またはそれらステープル繊維が混紡された紡績糸が挙げられる。
非弾性糸がフィラメント糸である場合には、その糸条繊度は、7〜84dtexの範囲が好ましく、22〜56dtexの範囲がより好ましい。また、非弾性糸が紡績糸である場合には、その糸条繊度は、30〜100番手の範囲が好ましく、40〜60番手の範囲がより好ましい。
【0027】
〔弾性経編地〕
本発明の弾性経編地は、弾性糸と非弾性糸とから編成される経編地である。この経編地において、非弾性糸は1種類でもよいし複数種類の交編でもよい。また、弾性糸も同様に、1種類でもよいし複数種類の交編でもよい。
前記弾性糸の少なくとも1本は二目編で編成される。二目編としては開き目、閉じ目のいずれが採用されてもよく、また、アトラス状に変形したものでもよい。弾性糸を二目編することにより生地が薄くて抵抗力の強いものを作りやすい。
弾性経編地の伸縮特性としては、領域(A)と該領域(A)以外の領域(B)の間において、それぞれの伸びに対する抵抗力の関係が所定のものとなっている。
【0028】
編地の両領域(A),(B)に属する部分の試験片について測定した、タテ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のタテ方向応力をP1とし、ヨコ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のヨコ方向応力をP2、としたとき、
前記両領域(A),(B)における互いのタテ方向応力P1の関係が、
〔領域(A)のP1〕÷〔領域(B)のP1〕≧1.5
であることが必要である。
上式は、弾性経編地の抵抗力の強い帯状の領域(A)とそれ以外の比較的抵抗力の弱い帯状の領域(B)の抵抗力の差が1.5倍以上大きいことを示し、弾性経編地をスポーツウェアとして使用する際に、身体の部位によって締め付け力を強くしたいところと弱くしたいところのメリハリをつけやすく、例えば、後述する下半身用スポーツウェアに用いた場合、臀部周辺は丸みを壊さず、大腿部は細く体型補整効果を高めることができる。
【0029】
また、前記領域(A),(B)それぞれにおけるタテ方向応力P1とヨコ方向応力P2の関係が、いずれも、
0.5≦P2÷P1≦3.0
の関係を満たすことが必要である。
前記P2÷P1が0.5未満であると、弾性経編地のヨコ方向の抵抗力がタテ方向の抵抗力に比べ小さくなり過ぎて、生地の抵抗力に異方性が生じ、弾性経編地をスポーツウェアとして使用する際に、特に伸縮範囲やその伸縮方向が多方向におよぶ身体の関節周辺部において、抵抗力に不均一な方向が生じやすくなる。一方、前記P2÷P1が3.0を超えると、弾性経編地のタテ方向の抵抗力がヨコ方向の回復力に比べ小さくなり過ぎて、生地の抵抗力に異方性が生じ、前記P2÷P1が0.5未満である場合と同様に、抵抗力に不均一な方向が生じやすくなる。
【0030】
なお、本発明における上記P1、P2の具体的な測定方法は、実施例で後述する方法を採用する。
弾性経編地のウェール方向において抵抗力の強い領域を帯状に形成する方法としては、前記領域(A)における弾性糸の糸通し方法を全通しとし、前記領域(B)における弾性糸の糸通し方法を1イン1アウトとする方法が挙げられる。
また、前記領域(A)における弾性糸の繊度を前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも大きくする方法が挙げられる。このときの弾性糸の繊度は、特に限定されないが、例えば、領域(B)における弾性糸の繊度を上述した弾性糸の通常の繊度22〜78dtexに設定しておいて、領域(A)における弾性糸の繊度を前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも2倍以上大きくすることができる。
【0031】
さらに、前記領域(A)における弾性糸の編み込み本数を前記領域(B)における弾性糸の編み込み本数よりも多くする方法が挙げられる。このときの弾性糸の編み込み本数は特に限定されないが、例えば、領域(B)における弾性糸の編み込み本数よりも領域(A)における弾性糸の編み込み本数を2倍以上多くすることができる。
本発明にかかる弾性経編地は、例えば、図1に示すように、経編地10中に抵抗力の強い領域(A)が帯状に形成されている。領域(B)は領域(A)以外の領域である。矢印で示す方向が編み方向である。
例えば、1イン1アウトと全通しの変更、本数や太さの変更などの上述した抵抗力の切り替え手段を用いて、一定ウェールごとに抵抗力を切り替えるようにすればよい。
【0032】
図1(b)に示すように、1つの経編地10に領域(A)の帯を2つ以上設けてもよく、帯の太さも特に問わない。
〔用途〕
上記したような本発明にかかる弾性経編地は、体型補正機能と優れた運動パフォーマンスが望まれる衣類、特にフィットネスウェア、アクティブウェア、ヨガウェア、レオタード、水着などのスポーツウェアに好適に使用できる。
本発明にかかる弾性経編地を衣類に適用する場合には、図1に示すような弾性経編地を所望の形状に裁断して用いることができる。
【0033】
<下半身用スポーツウェア>
本発明にかかる上記弾性経編地は、例えば、下半身用スポーツウェアに用いることができる。
図2は下半身用スポーツウェアの一実施形態であり、図2(a)が正面図、図2(b)が背面図である。
図2に示す下半身用スポーツウェア20は、抵抗力の強い領域(A)として、身体の臀部下部から大腿部にかけての部位を包み込むように領域(A1)が設けられている。この領域(A1)により、大腿部の引き締め効果が得られるとともに、大腿部より上方の臀部に対しては臀部の垂れ下がりを防止する、いわゆるヒップアップ効果が得られる。
【0034】
図2では、領域(A)として、さらに、腹部に設けられた逆三角形状の領域(A2)が設けられている。この領域(A2)が設けられていることにより、腹部の膨出を抑える効果も発揮される。
図2に示す前記領域(A1)は、1つの太い帯で形成されているが、細い帯が間隔を空けて複数設けられ、全体として領域(A1)が形成されていてもよい。領域(A2)についても同様である。さらに、以下の領域(A3)〜(A7)も同様であるので、以下では、説明を省略している。
また、図3は下半身用スポーツウェア20の別の実施形態であり、図3(a)が正面図、図3(b)が背面図である。
【0035】
図3に示す下半身用スポーツウェア20では、抵抗力の強い領域(A)として、領域(A3)が、腹部から背面側の大腿部にかけて帯状に設けられている。背面では図2と同様にしてヒップアップ効果が得られ、正面では腹部の膨出を抑える効果が発揮される。
上記した下半身用スポーツウェア20は、いずれも、本発明にかかる弾性経編地を用いて製造するので、領域(A)、領域(B)の別を問わず、タテ方向とヨコ方向で大きく抵抗力が異なってしまうことがなく、上述の体型補整機能つきでありながら、股関節周辺の伸縮範囲やその伸縮方向が多方向におよぶ身体部位においても抵抗力に不均一な方向が生じにくく、運動パフォーマンスを損なわないものである。
【0036】
<上半身用スポーツウェア>
本発明にかかる上記弾性経編地は、例えば、上半身用スポーツウェアに用いることができる。
図4は上半身用スポーツウェア30の一実施形態であり、図4(a)が正面図、図4(b)が背面図である。
図4に示す上半身用スポーツウェア30は、領域(A)として、身体の背部の脊柱起立筋に対応する部位において脊柱起立筋に沿うように領域(A4)が設けられている。この領域(A4)により、背中を引き締める力を与えて脊柱起立筋を伸ばさせることにより美しい姿勢を維持する効果が得られる。
【0037】
また、図5は上半身用スポーツウェア30の別の実施形態であり、図5(a)が正面図、図5(b)が背面図である。
図5に示す上半身用スポーツウェア30は、領域(A)として、背部において左右の前腕部を含む帯状の領域(A5)が設けられている。これにより、例えば、着用者の肩が前方へと屈んでしまわないように引張力が働き、脊柱起立筋の伸びた正しい姿勢を維持させることができる。
さらにまた、図6も上半身用スポーツウェア30の別の実施形態であり、図6(a)が正面図、図6(b)が背面図である。
【0038】
図6に示す上半身用スポーツウェア30は、図5と同様に、領域(A)として、背部において帯状の領域(A6)が設けられているが、ノースリーブの衣類であるので、着用者の肩に対して引張力は働かない。ただし、脊柱起立筋の曲がった状態となると、抵抗力の強い前記領域(A6)が緊迫した状態となるため、着用者は脊柱起立筋の曲がった姿勢を意識することができ、自発的な姿勢矯正を促す作用がある。また、図6では、腹部に帯状の領域(A7)が設けられている。この領域(A7)により、腹部の膨出が抑制されるとともに、胸が垂れ下がってしまうことを抑制することができる。
上記した上半身用スポーツウェア30は、いずれも、本発明にかかる弾性経編地を用いて製造するので、領域(A)、領域(B)の別を問わず、タテ方向とヨコ方向で大きく抵抗力が異なってしまうことがなく、上述の体型補整機能つきでありながら、伸縮範囲やその伸縮方向が多方向におよぶ身体部位においても抵抗力に不均一な方向が生じにくく、運動パフォーマンスを損なわないものである。特に、脊柱起立筋が伸び、胸の張った正しい姿勢を保持させることで、胸郭を広げさせて呼吸を促し、新陳代謝を高め、運動パフォーマンスを高める効果をさらに向上させる効果もある。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
実施例1にかかる弾性経編地は、領域(A)における弾性糸の糸通し方法が全通しであり、前記領域(B)における弾性糸の糸通し方法が1イン1アウトとなっている。
実施例1にかかる弾性経編地は、カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4EL28ゲージ機を用い、以下の糸使いおよび編組織によって製造した。
<糸使い>
フロント筬:非弾性糸(ポリアミド繊維)ナイロン加工糸78dtex(東レ株式会社製)、
ミドル筬:ポリウレタン弾性糸50dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)、
バック筬:ミドル筬と同様の糸を用いた。
【0040】
糸通し方法としては、フロント筬:全通し、ミドル筬:1イン1アウト、バック筬:1イン1アウトとした。
このとき、ミドル筬、バック筬に糸通しされる弾性糸に関し、領域(B)ではバック筬の弾性糸のみを編成するようにし、領域(A)ではバック筬の弾性糸に加えてミドル筬の弾性糸も併せて編成するようにした。これにより、領域(B)ではバック筬に1イン1アウトで糸通しされた弾性糸のみが編み込まれ、領域(A)ではミドル筬とバック筬の各1イン1アウトで糸通しされた糸が合わさって全通し分の弾性糸が編み込まれるようにした。
【0041】
<編組織>
フロント筬:2−3/1−0、
ミドル筬:2−0/1−3、
バック筬:2−0/1−3
フロント筬に糸通しされた非弾性糸11の編組織図を図7(a)、ミドル筬に糸通しされた弾性糸12およびバック筬に糸通しされた弾性糸13の編組織図を図7(b)に示す。また、領域(A)および領域(B)と弾性糸12および弾性糸13の関係を示す編組織図を図8に示す。図8では弾性糸13を実線で表し、弾性糸12を破線で表している。
【0042】
以上の糸使い、編組織で得られた生機を所定の染色加工により仕上げ、実施例1にかかる弾性経編地を得た。
〔実施例2〕
実施例2にかかる弾性経編地は、領域(A)における弾性糸の繊度が前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも大きくなっている。
実施例2にかかる弾性経編地は、カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4EL28ゲージ機を用い、以下の糸使いおよび編組織によって製造した。
<糸使い>
フロント筬:非弾性糸(ポリアミド繊維)ナイロン加工糸78dtex(東レ株式会社製)、
ミドル筬:ポリウレタン弾性糸33dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)、
バック筬:ポリウレタン弾性糸100dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)を用いた。
【0043】
糸通し方法としては、フロント筬:全通し、ミドル筬:全通し、バック筬:全通しとした。
このとき、ミドル筬、バック筬に糸通しされる弾性糸に関し、領域(A)ではバック筬の弾性糸のみを編成するようにし、領域(B)ではミドル筬の弾性糸のみを編成するようにした。これにより、領域(B)よりも太い弾性糸を用いた領域(A)の方が、抵抗力が強くなるようにした。
<編組織>
フロント筬:1−0/2−3、
ミドル筬:1−3/2−0、
バック筬:1−3/2−0
フロント筬に糸通しされた非弾性糸11の編組織図は図7(a)、ミドル筬に糸通しされた弾性糸12およびバック筬に糸通しされた弾性糸13の編組織図は図7(b)に示す編組織図と共通するので省略する。また、領域(A)および領域(B)と弾性糸12および弾性糸13の関係を示す編組織図を図9に示す。図9では弾性糸13を弾性糸12よりも太い線で表している。
【0044】
以上の糸使い、編組織で得られた生機を所定の染色加工により仕上げ、実施例2にかかる弾性経編地を得た。
〔実施例3〕
実施例3にかかる弾性経編地は、領域(A)における弾性糸の本数が前記領域(B)における弾性糸の本数よりも多くなっている。
実施例3にかかる弾性経編地は、カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4EL28ゲージ機を用い、以下の糸使いおよび編組織によって製造した。
<糸使い>
フロント筬:非弾性糸(ポリアミド繊維)ナイロン加工糸78dtex(東レ株式会社製)、
ミドル筬:ポリウレタン弾性糸33dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)、
バック筬:ミドル筬と同様の糸を用いた。
【0045】
糸通し方法としては、フロント筬:全通し、ミドル筬:全通し、バック筬:全通しとした。
このとき、ミドル筬、バック筬に糸通しされる弾性糸に関し、領域(B)ではバック筬の弾性糸のみを編成するようにし、領域(A)ではミドル筬の弾性糸をも編成するようにした。これにより、領域(B)では1本の弾性糸が用いられ、領域(A)では2本の弾性糸が用いられることとなり、弾性糸の本数の多い領域(A)の方が、抵抗力が強くなっている。
<編組織>
フロント筬:1−0/2−3、
ミドル筬:1−3/2−0、
バック筬:1−3/2−0
フロント筬に糸通しされた非弾性糸11の編組織図は図7(a)、ミドル筬に糸通しされた弾性糸12およびバック筬に糸通しされた弾性糸13の編組織図は図7(b)に示す編組織図と共通するので省略する。また、領域(A)および領域(B)と弾性糸12および弾性糸13の関係を示す編組織図を図10に示す。図10では弾性糸13を実線で表し、弾性糸12を破線で表している。
【0046】
以上の糸使い、編組織で得られた生機を所定の染色加工により仕上げ、実施例3にかかる弾性経編地を得た。
〔比較例1〕
比較例1にかかる弾性経編地は、弾性糸が二目編でない従来公知の弾性経編地である。
カールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS4EL28ゲージ機を用い、次の糸使いにて弾性経編地を製造した。
<糸使い>
フロント筬:非弾性糸(ポリアミド繊維)ナイロン加工糸78dtex(東レ株式会社製)、
ミドル筬:ポリウレタン弾性糸50dtex(オペロンテックス株式会社製の「ライクラ(登録商標)」タイプ906C)、
バック筬:ミドル筬と同様の糸を用いた。
【0047】
糸通し方法としては、フロント筬:全通し、ミドル筬:全通し、バック筬:全通しとした。
このとき、ミドル筬、バック筬に糸通しされる弾性糸に関し、本発明における領域(B)に相当する領域(B’)ではバック筬の弾性糸のみを編成するようにし、本発明における領域(A)に相当する領域(A’)ではバック筬の弾性糸に加えてミドル筬の弾性糸も併せて編成するようにした。これにより、領域(A’)にミドル筬に糸通しされた弾性糸が挿入されるようにして、領域(A’)を領域(B’)よりも抵抗力が強くなるようにした。
【0048】
<編組織>
フロント筬:1−0/2−3、
ミドル筬:3−3/0−0、
バック筬:1−2/1−0
フロント筬に糸通しされた非弾性糸11の編組織図を図11(a)、ミドル筬に糸通しされた弾性糸12の編組織図を図11(b)、バック筬に糸通しされた弾性糸13の編組織図を図11(c)に示す。また、領域(A’)および領域(B’)と弾性糸12および弾性糸13の関係を示す編組織図を図12に示す。
【0049】
以上の糸使い、編組織で得られた生機を所定の染色加工により仕上げ、比較例1にかかる弾性経編地を得た。
〔評価試験〕
上記実施例1、2、比較例1にかかる各弾性経編地に対し、以下に示す方法により、P1、P2を測定した。
<P1>
P1は編地のタテ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のタテ方向応力である。
【0050】
測定装置としては、インストロン社製引張試験機5500型を用いた。
経編地のタテ方向(ウェール方向)が試験片の長さ方向になるようにして、幅3インチ(76.2mm)×長さ12インチ(304.8mm)の試験片を、縫い代1インチ(25.4mm)として、周長10インチ(254mm)のリング状試験片を得た。試験片の長さ方向を上下方向に向けて、上部固定クランプ、下部移動クランプに取り付けた。掴み間隔は5インチ(127mm)に設定した。
試験片に引張力を加えて、10インチ(254mm)/分の速度でタテ伸長70%まで伸ばし、その後、同じ速度で引張力を取り去るという動作を3サイクル行った。試験の間、試験片に生じる応力を自動的に測定し記録した。
【0051】
なお、上述のタテ伸長70%とは、伸ばす前の試験片の長さ(掴み間隔)eと、伸ばした状態における試験片の伸び方向の長さdとから、(d−e)/e×100で求められる値が70%であることを意味する。
上記操作を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時の応力を読み取り、その値をP1(70%伸長時のタテ方向応力、単位:cN)とした。
<P2>
P2は編地のヨコ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のヨコ方向応力である。
【0052】
上記P1の算出方法において、経編地のタテ方向(ウェール方向)が試験片の長さ方向になるようにするのではなく、経編地のヨコ方向(コース方向)が試験片の長さ方向になるようにしたこと以外は、同様の方法により、P2(70%伸長時のヨコ方向応力、単位:cN)を算出した。
上記方法によって測定された実施例1〜3、比較例1にかかる各弾性経編地における領域(A)、領域(A’)、領域(B)、領域(B’)のそれぞれのP1,P2の値と、この値から算出される、領域ごとのP2÷P1、実施例1〜3における領域(A)のP1÷領域(B)のP1、および、比較例1における領域(A’)のP1÷領域(B’)のP1の値を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
上記表1からわかるように、実施例1〜3は、全て、本発明で規定される条件を満足するものとなっている。比較例1は前記条件を満たしていない。
〔スポーツウェアの製造および評価〕
上記実施例1〜3、比較例1にかかる各弾性経編地を裁断し、図2に示す下半身用スポーツウェア20を製造した。
実施例1〜3にかかる各弾性経編地から得られた各スポーツウェアを実際に着用したところ、体型補正機能に極めて優れるものである上に、抵抗力の強い領域を有しない通常のスポーツウェアと同様の運動パフォーマンスを発揮させることができた。
【0055】
一方、比較例1にかかる弾性経編地から得られたスポーツウェアを実際に着用したところ、領域(A’)、領域(B’)ともにタテ方向とヨコ方向の抵抗力に差があり、通常のスポーツウェアと同様の運動パフォーマンスを発揮させることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかる弾性経編地は、例えば、フィットネスウェア、アクティブウェア、ヨガウェア、レオタード、水着などのスポーツウェアとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明にかかる弾性経編地の一実施形態を示す概略全体図である。
【図2】本発明にかかる下半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図3】本発明にかかる下半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図4】本発明にかかる上半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図5】本発明にかかる上半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図6】本発明にかかる上半身用スポーツウェアの一実施形態を示す正面図および背面図である。
【図7】実施例1にかかる弾性経編地の各編成糸の編組織図である。
【図8】実施例1にかかる弾性経編地の弾性糸のみを表した編組織図である。
【図9】実施例2にかかる弾性経編地の弾性糸のみを表した編組織図である。
【図10】実施例3にかかる弾性経編地の弾性糸のみを表した編組織図である。
【図11】比較例1にかかる弾性経編地の各編成糸の編組織図である。
【図12】比較例1にかかる弾性経編地の弾性糸のみを表した編組織図である。
【符号の説明】
【0058】
A(A1〜A7) 抵抗力の強い領域
B 領域(A)以外の領域
10 弾性経編地
20 下半身用スポーツウェア
30 上半身用スポーツウェア
11 非弾性糸(フロント筬)
12 弾性糸(ミドル筬)
13 弾性糸(バック筬)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性糸と非弾性糸が交編されてなる弾性経編地であって、該経編地には伸びに対する抵抗力の強い領域(A)が帯状に存在するとともに、前記弾性糸の少なくとも1本が二目編で編成されており、前記領域(A)と該領域(A)以外の領域(B)の間において、それぞれの伸びに対する抵抗力の関係が下記の定義に従うものとなっている、ことを特徴とする、弾性経編地。
<定義>
編地の両領域(A),(B)に属する部分の試験片について測定した、タテ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のタテ方向応力をP1とし、ヨコ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のヨコ方向応力をP2、としたとき、
前記両領域(A),(B)における互いのタテ方向応力P1の関係が、
〔領域(A)のP1〕÷〔領域(B)のP1〕≧1.5
であり、かつ、前記領域(A),(B)それぞれにおけるタテ方向応力P1とヨコ方向応力P2の関係が、いずれも、
0.5≦P2÷P1≦3.0
であること。
【請求項2】
前記領域(A)における弾性糸の糸通し方法が全通しであり、前記領域(B)における弾性糸の糸通し方法が1イン1アウトである、請求項1に記載の弾性経編地。
【請求項3】
前記領域(A)における弾性糸の繊度が前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも大きい、請求項1または2に記載の弾性経編地。
【請求項4】
前記領域(A)における弾性糸の編み込み本数が前記領域(B)における弾性糸の編み込み本数よりも多い、請求項1から3までのいずれかに記載の弾性経編地。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれかに記載の弾性経編地を用いてなり、前記領域(A)が身体の臀部下部から大腿部にかけての部位を包み込むようになっている、下半身用スポーツウェア。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれかに記載の弾性経編地を用いてなり、前記領域(A)が身体の背部の脊柱起立筋に対応する部分において脊柱起立筋に沿うようになっている、上半身用スポーツウェア。
【請求項1】
弾性糸と非弾性糸が交編されてなる弾性経編地であって、該経編地には伸びに対する抵抗力の強い領域(A)が帯状に存在するとともに、前記弾性糸の少なくとも1本が二目編で編成されており、前記領域(A)と該領域(A)以外の領域(B)の間において、それぞれの伸びに対する抵抗力の関係が下記の定義に従うものとなっている、ことを特徴とする、弾性経編地。
<定義>
編地の両領域(A),(B)に属する部分の試験片について測定した、タテ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のタテ方向応力をP1とし、ヨコ方向70%の伸長とその回復を3サイクル繰り返す際の3サイクル目の70%伸長時のヨコ方向応力をP2、としたとき、
前記両領域(A),(B)における互いのタテ方向応力P1の関係が、
〔領域(A)のP1〕÷〔領域(B)のP1〕≧1.5
であり、かつ、前記領域(A),(B)それぞれにおけるタテ方向応力P1とヨコ方向応力P2の関係が、いずれも、
0.5≦P2÷P1≦3.0
であること。
【請求項2】
前記領域(A)における弾性糸の糸通し方法が全通しであり、前記領域(B)における弾性糸の糸通し方法が1イン1アウトである、請求項1に記載の弾性経編地。
【請求項3】
前記領域(A)における弾性糸の繊度が前記領域(B)における弾性糸の繊度よりも大きい、請求項1または2に記載の弾性経編地。
【請求項4】
前記領域(A)における弾性糸の編み込み本数が前記領域(B)における弾性糸の編み込み本数よりも多い、請求項1から3までのいずれかに記載の弾性経編地。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれかに記載の弾性経編地を用いてなり、前記領域(A)が身体の臀部下部から大腿部にかけての部位を包み込むようになっている、下半身用スポーツウェア。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれかに記載の弾性経編地を用いてなり、前記領域(A)が身体の背部の脊柱起立筋に対応する部分において脊柱起立筋に沿うようになっている、上半身用スポーツウェア。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−70876(P2010−70876A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239309(P2008−239309)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(592019523)株式会社ゴールドウインテクニカルセンター (35)
【出願人】(502179282)東レ・オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(592019523)株式会社ゴールドウインテクニカルセンター (35)
【出願人】(502179282)東レ・オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】
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