説明

弾性繊維用油剤

【課題】 飛散防止性と膠着防止性に優れ、固体の金属石鹸を懸濁させた場合の油剤の経日安定性が良好で、紡糸工程における油剤飛散による作業環境の汚染などや後加工工程における糸切れ等のトラブル発生を抑制することができ、繊維の品質に優れる油剤を提供する。
【解決手段】 シリコーンオイル(A1)および炭化水素系潤滑油(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のベースオイル(A)、膠着防止剤(B)、有機変性シリコーン(C)、およびアニオン界面活性剤(D)からなる弾性繊維用油剤であって、SB形回転粘度計を用いて、回転数60rpmで測定したときの25℃の粘度η60rpmが10〜30mPa・sであり、かつ回転数30rpmの上記条件で測定した粘度をη30rpmとしたときの数式Rh=(η60rpm−η30rpm)/η60rpm で計算されるレオペキシー特性値Rhが0.05〜0.20であることを特徴とする弾性繊維用油剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性繊維用油剤に関する。更に詳しくは、紡糸工程において飛散防止性に優れ、かつ膠着防止性が良好な弾性繊維を得るための油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性繊維の紡糸工程において繊維に付与させる油剤については、膠着防止効果を高めるべく、固体の金属石鹸を懸濁させた油剤(特許文献1と2)、ポリエーテル変性シリコーンを配合した油剤(特許文献3〜5)、シリコーン樹脂を配合した油剤(特許文献6と7)などが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特公昭41−286号公報
【特許文献2】特公昭40−5557号公報
【特許文献3】特公昭61−459号公報
【特許文献4】特開平2−127569号公報
【特許文献5】特開平6−41873号公報
【特許文献6】特公昭63−12197号公報
【特許文献7】特開平8−74179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の油剤では、紡糸工程における糸同士の膠着防止効果はあるが、飛散防止効果は皆無に等しいという問題がある。
さらに、特に固体の金属石鹸を懸濁させた場合には油剤の経日安定性が悪いという問題もある。
従って、本発明の目的は、飛散防止性および膠着防止性を同時に満足でき、かつ固体の金属石鹸を懸濁させた場合の油剤の経日安定性が良好な弾性繊維用油剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定のレオペキシー特性を示す油剤が上記問題点を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、 シリコーンオイル(A1)および炭化水素系潤滑油(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のベースオイル(A)、膠着防止剤(B)、有機変性シリコーン(C)、およびアニオン界面活性剤(D)からなる弾性繊維用油剤であって、SB形回転粘度計を用いて、25℃で回転数60rpmで測定したときの粘度η60rpmが10〜30mPa・sであり、かつ下記数式で計算されるレオペキシー特性値Rhが0.05〜0.20であることを特徴とする弾性繊維用油剤;該弾性繊維用油剤を用いる弾性繊維の処理方法;並びにこの処理方法で処理された弾性繊維である。
Rh=(η60rpm−η30rpm)/η60rpm (1)
但し、η60rpm:回転数60rpmの上記条件で測定した粘度
η30rpm:回転数30rpmの上記条件で測定した粘度
【発明の効果】
【0006】
本発明の弾性繊維用油剤は、従来の弾性繊維用油剤に比べて、紡糸工程における飛散防止性に優れ、かつ膠着防止性が良好である。このため、紡糸工程では油剤飛散による作業環境の汚染、オイルミスト吸引による健康被害を抑制することができ、かつ後加工工程では糸同士の接着による糸切れを抑制して解舒安定性を向上することができるため、弾性繊維用油剤として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の弾性繊維用油剤は、ベースオイル(A)、膠着防止剤(B)、有機変性シリコーン(C)、およびアニオン界面活性剤(D)からなる。
【0008】
本発明におけるベースオイル(A)は、シリコーンオイル(A1)および炭化水素系潤滑油(A2)からなる群より選ばれる。
【0009】
シリコーンオイル(A1)としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンの一部が炭素数2〜20のアルキル基および/またはフェニル基で置換されたもの等が使用できる。
炭化水素系潤滑油(A2)としては、鉱物油およびその精製油、水添油、分解油等が使用できる。
これらのベースオイル(A)のうち好ましいものは、25℃における粘度が1〜1000mm2/sのベースオイルである。さらに好ましくは2〜500mm2/s、特に好ましくは3〜200mm2/sのベースオイルである。
【0010】
ベースオイル(A)としては、シリコーンオイル(A1)、炭化水素系潤滑油(A2)それぞれ単独でも混合物であってもよい。好ましくは(A1)と(A2)の混合物である。
混合物の場合、(A1)+(A2)の合計重量に基づいて(A1)の含有量が15〜90重量%が好ましく、さらに好ましくは20〜80重量%、特に好ましくは25〜70重量%である。
【0011】
本発明の弾性繊維用油剤において、ベースオイル(A)の含有量は膠着防止性、平滑性の観点から、油剤の全重量に基づいて(A)の含有量は、通常80〜99.8重量%、好ましくは88〜99.5重量%、特に好ましくは90〜99.0重量%である。これらの範囲であると、平滑性が良好であり、11〜22デシテックス(dtx)等の細糸を紡糸する際でも糸切れなどの問題が生じる恐れがない。
【0012】
膠着防止剤(B)としては、分子内に少なくとも1つのカルボキシル基および/またはカルボキシレート基を有する化合物(B1)、タルク、シリカ、シリコーンレジン等が挙げられる。
これらのうち、膠着防止性の観点から、分子内に少なくとも1つのカルボキシル基および/またはカルボキシレート基を有する化合物(B1)が好ましい。
これら化合物(B1)としては、高級脂肪酸(塩)(B11)、カルボキシル基および/またはカルボキシレート基含有ポリマー(B12)が挙げられる。
【0013】
高級脂肪酸(塩)(B11)としては、通常、炭素数5〜40、好ましくは炭素数6〜30、さらに好ましくは炭素数8〜24、より好ましくは炭素数10〜22の飽和または不飽和の高級脂肪酸;およびこれらの酸の塩が挙げられる。
高級脂肪酸の具体例としては、例えば、n−吉草酸、iso−吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、およびリシノレイン酸などが挙げられる。これらのうち好ましいものは、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、およびベヘン酸であり、特に好ましいのはステアリン酸である。これらの脂肪酸は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0014】
(B11)において、カルボキシル基は金属塩となっていてもよく、金属塩を形成する金属として好ましいものは、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(バリウム、カルシウム、マグネシウムなど)、IIB族金属(例えば、亜鉛など)、遷移金属(ニッケル、鉄、銅、マンガン、コバルト、銀、金、白金、パラジウム、チタン、ジルコニウム、カドミウムなど)、IIIB族金属(例えば、アルミニウム塩など)、IVB族金属(錫、鉛など)、およびランタノイド金属(ランタン、セリウムなど)などが挙げられ、さらに好ましいのはアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびIIIB族金属、特に好ましいのはアルカリ土類金属であり、中でもカルシウムおよびマグネシウムが好ましい。
【0015】
(B11)のうち、高級脂肪酸塩の具体例としては、例えば、ラウリン酸リチウム塩、ラウリン酸ナトリウム塩、ラウリン酸カリウム塩;ミリスチン酸リチウム塩、ミリスチン酸ナトリウム塩、ミリスチン酸カリウム塩;パルミチン酸リチウム塩、パルミチン酸ナトリウム塩、パルミチン酸カリウム塩、ステアリン酸リチウム塩、ステアリン酸ナトリウム塩、ステアリン酸カリウム塩;イソステアリン酸リチウム塩、イソステアリン酸ナトリウム塩、イソステアリン酸カリウム塩;ベヘン酸リチウム塩、ベヘン酸ナトリウム塩、ベヘン酸カリウム塩;ジラウリン酸マグネシウム塩、ジラウリン酸カルシウム塩、ジラウリン酸バリウム塩;ジミリスチン酸マグネシウム塩、ジミリスチン酸カルシウム塩、ジミリスチン酸酸バリウム塩;ジパルミチン酸マグネシウム塩、ジパルミチン酸カルシウム塩、ジパルミチン酸バリウム塩;ジステアリン酸マグネシウム塩、ジステアリン酸カルシウム塩、ジステアリン酸バリウム塩;ジイソステアリン酸マグネシウム塩、ジイソステアリン酸カルシウム塩、ジイソステアリン酸バリウム塩;ジベヘン酸マグネシウム塩、ジベヘン酸カルシウム塩、ジベヘン酸バリウム塩;パルミチン酸ステアリン酸マグネシウム塩、パルミチン酸ステアリン酸カルシウム塩、パルミチン酸ステアリン酸バリウム塩などが挙げられる。このうち特に好ましいものはステアリン酸のアルカリ土類金属塩であり、中でもジステアリン酸マグネシウム塩およびジステアリン酸カルシウムが好ましい。
なお、市販のジステアリン酸マグネシウム塩などは、一部未反応の水酸化ステアリン酸マグネシウム塩が不純物として混じっているが、差し支えない。
【0016】
前記高級脂肪酸又はその金属塩である高級脂肪酸(塩)(B11)は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
カルボキシル基および/またはカルボキシレート基含有ポリマー(B12)としては、分子内に少なくとも1つのカルボキシル基および/またはカルボキシレート基を有するモノマー(X)と必要によりその他のモノマー(Y)を(共)重合して得られるポリマー(B121)、ポリマーの分子内にカルボキシル基および/またはカルボキシレート基を導入して得られるポリマー(B122)が挙げられる。
【0018】
上記モノマー(X)としては、例えば、不飽和モノカルボン酸[例えば、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、アリル酢酸など]、不飽和ジカルボン酸およびそれらの無水物[例えば、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、(無水)シトラコン酸など]および上記の金属塩が挙げられる。
これらの中で好ましいのは、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸および上記の金属塩であり、より好ましくは(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸およびこれらの金属塩である。
【0019】
モノマー(X)と共重合可能なその他のモノマー(Y)としては、(メタ)アクリレート誘導体[ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなど]、(メタ)アクリルアミド誘導体[(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミドなど]、窒素原子含有ビニルモノマー[アクリロニトリル、N−ビニルホルムアミドなど]などの水溶性不飽和モノマー(Y1);窒素原子含有(メタ)アクリレート誘導体[N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど]、窒素原子含有(メタ)アクリルアミド誘導体[N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなど]、不飽和スルホン酸(ビニルスルホン酸など)などの水不溶性不飽和モノマー(Y2)が挙げられる。
水溶性不飽和モノマー(Y1)としては、ノニオン性モノマー(Y11)、カチオン性モノマー(Y12)、モノマー(X)以外のアニオン性モノマー(Y13)が挙げられる。
【0020】
これらの膠着防止剤(B)としては、膠着防止性の観点から、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基および/またはカルボキシレート基を有する化合物(B1)が好ましく、高級脂肪酸またはその塩(B1)がより好ましく、ステアリン酸のアルカリ土類金属塩がさらに好ましく、ジステアリン酸マグネシウム塩およびジステアリン酸カルシウムが特に好ましい。
【0021】
(B)の体積平均粒子径(nm)は、特に限定されないが、ノズル給油方式での生産安定性、繊維処理用油剤の経日安定性の観点から、好ましくは1〜2,000、さらに好ましくは5〜300、特に好ましくは10〜100である。
体積平均粒子径は、動的光散乱法{界面活性剤評価・試験法(日本油化学会)、212頁(2002)}、またはX線小角散乱法等で測定するが、本発明おける体積平均粒子径は動的光散乱法で測定した値である。
【0022】
本発明の弾性繊維用油剤において、膠着防止剤(B)の含有量は膠着防止性、平滑性の観点から、油剤の全重量に基づいて(B)の含有量は、通常0.01〜25重量%、好ましくは0.05〜20重量%、特に好ましくは0.1〜15重量%である。これらの範囲であると、膠着防止性が良好であり、11〜22デシテックス(dtx)等の細糸を紡糸する際でも糸切れなどの問題が生じる恐れがない。
【0023】
本発明の弾性繊維用油剤の必須成分である有機変性シリコーン(C)としては、エポキシ変性シリコーン(C1)、カルビノール変性シリコーン(C2)、アミノ変性シリコーン(C3)、カルボキシ変性シリコーン(C4)、ポリエーテル変性シリコーン(C5)等が挙げられる。
これらのうち、飛散防止性の観点から、エポキシ変性シリコーン(C1)、カルビノール変性シリコーン(C2)およびアミノ変性シリコーン(C3)が好ましい。
【0024】
エポキシ変性シリコーン(C1)としては、下記一般式(4)で示されるエポキシ変性シリコーンが挙げられる。
【0025】
【化4】

【0026】
式中、R5、R6、R7、R8は、そのうちの少なくとも一つが−R9−L基を有する有機基であって、残りは炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。a、bは1〜10,000の整数を表す。
ここで、−R9−L基中のR9は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Lは下記一般式(5)で示されるエポキシ基を表す。
【0027】
【化5】

【0028】
式中のR5、R6、R7、R8は、そのうちの少なくとも一つは−R9−L基を含有する有機基でなければならない。
9は炭素数2〜4のアルキレン基であり、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられ、好ましいのは、エチレン基である。
従って、−R9−L基を含有する有機基の具体例としては、−CH2CH2−L、−CH2CH2CH2−L、−CH2CH2CH2CH2−L、−CH2CH(CH3)CH2−L等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、−CH2CH2−Lである。
【0029】
−R9−L基以外の残りのR5、R6、R7、R8としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−およびi−のプロポキシ基およびブトキシ基等が挙げられる。好ましいのは、メチル基、フェニル基であり、さらに好ましいのはメチル基である。
【0030】
カルビノール変性シリコーン(C2)としては、下記一般式(6)で示されるカルビノール変性シリコーンが挙げられる。
【0031】
【化6】

【0032】
式中、R10、R11、R12、R13は、そのうちの少なくとも一つが−R14−OH基を含有する有機基であって、残りは炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。a、bは1〜10,000の整数を表す。
【0033】
式中のR10、R11、R12、R13は、そのうちの少なくとも一つは−R14−OH基を含有する有機基でなければならない。
ここで、−R14−OH基を含有する有機基において、R14は炭素数2〜4のアルキレン基であり、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられ、好ましのは、プロピレン基である。
従って、−R14−OH基を含有する有機基の具体例としては、−CH2CH2−OH、−CH2CH2CH2−OH、−CH2CH2CH2CH2−OH、−CH2CH(CH3)CH2−OH等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、−CH2CH2CH2−OHである。
【0034】
−R14−OH基以外の残りのR10、R11、R12、R13としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−およびi−のプロポキシ基およびブトキシ基等が挙げられる。好ましいのは、メチル基、フェニル基であり、さらに好ましいのはメチル基である。
【0035】
アミノ変性シリコーン(C3)としては、下記一般式(7)で示されるアミノ変性シリコーンが挙げられる。
【0036】
【化7】

【0037】
式中、R15、R16、R17、R18は、そのうちの少なくとも一つが−R19−NH−(R20NH)p−H基を含有する有機基であって、残りは炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。a、bは1〜10,000の整数を表す。
【0038】
式中のR15、R16、R17、R18は、そのうちの少なくとも一つは−R19−NH−(R20NH)p−H基を含有する有機基でなければならない。
ここで、−R19−NH−(R20NH)p−H基を含有する有機基において、R19は炭素数2〜4のアルキレン基、R20は炭素数1〜4のアルキレン基であって、pは0または1の整数を表す。
19としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。好ましのは、エチレン基、プロピレン基であり、さらに好ましいのはプロピレン基である。
20としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。好ましのは、エチレン基、プロピレン基であり、さらに好ましいのはプロピレン基である。
従って、−R19−NH−(R20NH)p−H基を含有する有機基の具体例としては、−CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH(CH3)CH2−NH2、−CH2CH2−NH−CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH−CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2CH2−NH−CH2CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH(CH3)CH2−NH−CH2CH(CH3)CH2−NH2、−CH2CH2−NH−CH2−NH2、−CH2CH2−NH−CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH2−NH−CH2CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH2−NH−CH2CH(CH3)CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH−CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH−CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH−CH2CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH−CH2CH(CH3)CH2−NH2、−CH2CH2CH2CH2−NH−CH2−NH2、−CH2CH2CH2CH2−NH−CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2CH2−NH−CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2CH2−NH−CH2CH(CH3)CH2−NH2、−CH2CH(CH3)CH2−NH−CH2−NH2、−CH2CH(CH3)CH2−NH−CH2CH2−NH2、−CH2CH(CH3)CH2−NH−CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH(CH3)CH2−NH−CH2CH2CH2CH2−NH2等が挙げられる。
これらのうち好ましいのは、−CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH2−NH−CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH−CH2CH2CH2CH2−NH2であり、さらに好ましいのは−CH2CH2CH2−NH2、−CH2CH2CH2−NH−CH2CH2CH2CH2−NH2である。
【0039】
−R19−NH−(R20NH)p−H基以外の残りのR15、R16、R17、R18としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−およびi−のプロポキシ基およびブトキシ基等が挙げられる。好ましいのは、メチル基、フェニル基であり、さらに好ましいのはメチル基である。
【0040】
有機変性シリコーン(C)の含有量は、弾性繊維用油剤全体に対し、好ましくは0.01〜10重量%であり、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。
【0041】
これらの範囲であると、飛散防止性および膠着防止性が良好であり、紡糸工程での油剤飛散による作業環境の汚染、オイルミスト吸引による健康被害を抑制することができ、かつ11〜22デシテックス(dtx)等の細糸を紡糸する際でも糸切れなどの問題が生じる恐れがない。
【0042】
本発明の弾性繊維用油剤の必須成分であるアニオン界面活性剤(D)としては、エーテルカルボン酸型アニオン界面活性剤(D1)、リン酸エステル型アニオン界面活性剤(D2)、スルホコハク酸エステル型アニオン界面活性剤(D3)等が挙げられる。
これらのうち、飛散防止性、油剤の経日安定性の観点から、エーテルカルボン酸型アニオン界面活性剤(D1)およびリン酸エステル型アニオン界面活性剤(D2)が好ましい。
【0043】
エーテルカルボン酸型アニオン界面活性剤(D1)としては下記一般式(1)で表されるエーテルカルボン酸型アニオン界面活性剤が挙げられる。
【0044】
【化8】

【0045】
式中のR1 は、炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、または一部置換されていてもよい炭素数6〜36のアリル基を表す。
式中のAは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、AOとしてアルキレンオキサイドの付加を意味する。そして、mはこのアルキレンオキサイドの付加モル数を意味し、0又は1〜10の整数である。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウムまたはアルカノールアミンを表す。
【0046】
1 がアルキル基の場合は、炭素数1〜30の直鎖または分岐のアルキル基であり、好ましくは、炭素数2〜28の直鎖又は分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数3〜24の直鎖又は分岐のアルキル基である。また、アルケニル基の場合は、炭素数2〜24のアルケニル基であり、好ましくは炭素数6〜22のアルケニル基である。さらに、アリル基の場合は、炭素数6〜36のアリル基であり、その一部がアルキル基、ハロゲン基、水酸基などで置換されていてもよい。
【0047】
Aは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、AOとしてアルキレンオキサイドの付加を意味する。
AOのアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド(以下EOと略記する)、プロピレンオキサイド(以下POと略記する)およびブチレンオキサイドが挙げられる。これらのうち好ましいものはEOおよびPOである。
【0048】
mはこのアルキレンオキサイドの付加モル数を意味し、0又は1〜10の整数であり、好ましくは0又は1〜8の整数である。mがこの範囲にあると、解舒安定性、油剤の経日安定性の観点において優れる。
【0049】
Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウムまたはアルカノールアミンを表す。これらのうち好ましいものは水素原子またはアルカリ金属原子であり、さらに好ましくは水素原子である。Mが水素原子であると、飛散防止性、油剤の経日安定性の観点において優れる。
【0050】
エーテルカルボン酸アニオン界面活性剤(D1)の具体例としては、オクチルエーテル酢酸、デシルエーテル酢酸、ラウリルエーテル酢酸、イソトリデシルエーテル酢酸などのアルキルエーテル酢酸;ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸(EO3モル付加物)、ポリオキシエチレンデシルエーテル酢酸(EO2.5モル付加物)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(EO2.5モル付加物)、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル酢酸(EO3.5モル付加物)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸;オクチルエーテル酢酸ナトリウム、デシルエーテル酢酸ナトリウム、ラウリルエーテル酢酸ナトリウム、イソトリデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのアルキルエーテル酢酸塩;ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸ナトリウム(EO3モル付加物)、ポリオキシエチレンデシルエーテル酢酸ナトリウム(EO2.5モル付加物)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム(EO2.5モル付加物)、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル酢酸ナトリウム(EO3.5モル付加物)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩が挙げられる。
【0051】
これらのうち好ましいのは、ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸(EO3モル付加物)、ポリオキシエチレンデシルエーテル酢酸(EO2.5モル付加物)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(EO2.5モル付加物)、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル酢酸(EO3.5モル付加物)であり、さらに好ましいのは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(EO2.5モル付加物)、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル酢酸(EO3.5モル付加物)である。
【0052】
リン酸エステル型アニオン界面活性剤(D2)としては下記一般式(2)で表されるリン酸エステル型アニオン界面活性剤が挙げられる。
【0053】
【化9】

【0054】
式中のR2 は、炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、または一部置換されていてもよい炭素数6〜36のアリル基を表す。
Aは式(1)と同じく、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、AOとしてアルキレンオキサイドの付加を意味する。
nはこのアルキレンオキサイドの付加モル数を意味し、0又は1〜10の整数である。qとrはリン原子に結合する基の数を意味し、それぞれ独立に1または2であるが、但し、q+r=3を満足する整数の組み合わせである。
Mは式(1)と同じく、水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウムまたはアルカノールアミンを表す。
【0055】
一般式(2)で表されるリン酸エステル型アニオン界面活性剤(D2)は、式中のqとrの組み合わせにより、下記一般式(8)で示されるリン酸モノエステル型アニオン界面活性剤(D21)(以下、モノエステル体と略記する。)と一般式(9)で示されるリン酸ジエステル型アニオン界面活性剤(D22)(以下、ジエステル体と略記する。)に場合分けできる。
【化10】

【0056】
【化11】

【0057】
ここで式中のR 21とR22 は、それぞれ独立に炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、または一部置換されていてもよい炭素数6〜36のアリル基を表す。Aとnは式(2) の場合と同様である。
【0058】
2 、R 21、R22 がアルキル基の場合は、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルキル基であり、好ましくは、炭素数2〜28の直鎖又は分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数3〜24の直鎖又は分岐のアルキル基である。また、アルケニル基の場合は、炭素数2〜24のアルケニル基であり、好ましくは炭素数6〜22のアルケニル基である。さらに、アリル基の場合は、炭素数6〜36のアリル基であり、その一部がアルキル基、ハロゲン基、水酸基などで置換されていてもよい。
【0059】
Aは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、AOとしてアルキレンオキサイドの付加を意味する。AOのアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド(以下EOと略記する)、プロピレンオキサイド(以下POと略記する)およびブチレンオキサイドが挙げられる。これらのうち好ましいものはEOおよびPOである。
また、nはこのアルキレンオキサイドの付加モル数を意味し、0又は1〜10の整数であり、好ましくは0又は1〜8の整数である。nがこの範囲にあると、解舒安定性および油剤の経日安定性の観点において優れる。
さらに、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウムまたはアルカノールアミンを表す。これらのうち好ましいものは水素原子またはアルカリ金属原子であり、さらに好ましくは水素原子である。Mが水素原子であると、飛散防止性、油剤の経日安定性の観点において優れる。
【0060】
リン酸エステル型アニオン界面活性剤(D2)は、無機リン酸(例えば、五酸化リンなど)に対して、炭素数1〜30の直鎖または分岐のアルキルアルコール(d1)、炭素数2〜24のアルケニルアルコール(d2)、炭素数6〜36のフェノール誘導体(d3)、これらのアルコール類のアルキレンオキサイド付加物(d4)を反応させ、場合によりアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン等)で中和して得られる。
この反応により得られる有機リン酸化合物は、合成条件(反応温度、モル比等)を調整することにより、モノエステル体とジエステル体のモル比をある程度は任意に調整することができ、一般的に、モノエステル体とジエステル体の混合物が得られる。
なお、これらを構成するアルコールは天然物由来のものでも合成されたものでもどちらでもよい。これらのうち、好ましいのは(d1)、(d2)およびこれらのアルキレンオキサイド付加物であり、さらに好ましいのは、(d1)およびこのアルキレンオキサイド付加物であり、特に好ましいのは、(d1)である。
【0061】
上記のアルキルアルコール(d1)とは、炭素数1〜30のアルキルアルコールであり、直鎖状又は分岐状のいずれでもよい。好ましくは炭素数2〜28、さらに好ましくは炭素数3〜24、特に好ましくは炭素数6〜22のものであり、例えば、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ヘプタデシルアルコール、オクタデシルアルコール、イソステアアリルアルコール、ノナデシルアルコールおよびエイコシルアルコールなどが挙げられる。
【0062】
上記のアルケニルアルコール(d2)とは、炭素数2〜24のアルケニルアルコールであり、好ましくは炭素数6〜22のものである。例えば、ヘキセニルアルコール、ヘプテニルアルコール、オクテニルアルコール、デセニルアルコール、ウンデセニルアルコール、ドデセニルアルコール、テトラデセニルアルコール、ペンタデセニルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、ヘプタデセニルアルコール、オクタデセニルアルコールおよびノナデセニルアルコールならびに2−エチルデセニルアルコールなどが挙げられる。
【0063】
上記のフェノール誘導体(d3)とは、炭素数6〜36のフェノール誘導体であり、アリル基の一部がアルキル基、ハロゲン基、水酸基などで置換されていてもよい。例えば、フェノール、1−ナフトール、2−ナフトールなどが挙げられる。
【0064】
さらに、上記のアルコール類のアルキレンオキサイド付加物(d4)とは、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを、1〜10モルアルコールに付加したものである。ここでアルキレンオキサイドとしては、EO、PO、ブチレンオキサイド、およびこれらのランダム状またはブロック状の併用が挙げられる。これらのうち好ましいものはEOおよび/またはPOである。
アルキレンオキサイドの付加モル数は、好ましくは1〜8の整数である。これらのものの例として、デシルアルコールのEO3モル付加物、ラウリルアルコールのEO2.5モル付加物、イソトリデシルアルコールのEO3.5モル付加物、ヘキサデシルアルコールのEO3モル付加物、イソトリデシルアルコールのEO3.5モル・PO5モル付加物などが挙げられる。
【0065】
リン酸エステル型アニオン界面活性剤(D2)としては、モノエステル体(D21)、ジエステル体(D22)がそれぞれ単独でも混合物であってもよい。好ましくは(D21)と(D22)の混合物である。この場合、(D21)/(D22)のモル比は10/90〜90/10であり、30/70〜70/30が好ましく、35/75〜75/35が飛散防止性、解舒安定性の観点からさらに好ましい。
【0066】
<モノエステル体/ジエステル体のモル比の測定方法>
リン酸エステル型アニオン界面活性剤の試料0.5gを100mlビーカーに精秤し、変性アルコール・キシレン(容量比で2/1)混合溶液50mlを加え、溶解する。この溶解液を攪拌しながら、電位差滴定測定装置を使用して、0.1N水酸化カリウム・メチルアルコール滴定液で滴定し、次式でモノエステル体とジエステル体のモル比を計算する。
【0067】
モノエステル体/ジエステル体の比= Y/(X−Y)
但し、Xは第一変曲点までに要した0.1N水酸化カリウム・メチルアルコール滴定液の滴定ml数を表し、Yは第一変曲点から第二変曲点までに要した0.1N水酸化カリウム・メチルアルコール滴定液の滴定ml数を表す。
【0068】
リン酸エステル型アニオン界面活性剤(D2)の含有量は、弾性繊維用油剤全体に対し、好ましくは0.01〜10重量%であり、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。
これら範囲であると、飛散防止性および解舒安定性が良好であり、紡糸工程での油剤飛散による作業環境の汚染、オイルミスト吸引による健康被害を抑制することができ、かつ11〜22dtx等の細糸を後加工する際でも糸切れなどの問題が生じる恐れがない。
【0069】
また、飛散防止性、膠着防止性、解舒安定性および油剤の経日安定性をさらに高める観点から、有機変性シリコーン(C)/アニオン界面活性剤(D)の重量比は5/95〜95/5が好ましく、15/85〜85/15がさらに好ましい。
【0070】
しかし、ベースオイル(A)、膠着防止剤(B)、有機変性シリコーン(C)、アニオン界面活性剤(D)それぞれの含有比率だけでなく、弾性繊維用油剤そのものの粘度も、飛散防止性、膠着防止性、解舒安定性および固体の金属石鹸を懸濁させた場合の油剤の経日安定性のすべてを完全に満足させる観点から、より重要となる。
すなわち、SB形回転粘度計を用いて、25℃で回転数60rpmで測定したときの粘度η60rpmが10〜30mPa・sであり、かつ下記数式(1)で計算されるレオペキシー特性値Rhが、通常0.05〜0.20であり、好ましいのは0.06〜0.19、さらに好ましいのは0.07〜0.18である。
【0071】
Rh=(η60rpm−η30rpm)/η60rpm (1)
ここで、η60rpmはSB1号スピンドルを使用し、25℃で回転数60rpmで測定した粘度を表し、η30rpmはSB1号スピンドルを使用し、25℃で回転数30rpmで測定した粘度を表す。
【0072】
ここで、SB形回転粘度計とは、JIS K7117−1:1999の「附属書1(参考):SB形粘度計による粘度の測定方法」に記載されている粘度計である。
SB形回転粘度計を用いて、25℃で回転数60rpmで測定したときの粘度η60rpmが10mPa・sより低いと、紡糸工程において飛散が激しくなり、作業環境の汚染、オイルミスト吸引による健康被害が起こる。
一方、30mPa・sより高いと、特に11〜22dtx等の細糸を紡糸する際に、その粘性抵抗により糸切れが多発する。
また、レオペキシー特性値Rhが0.05より低いと、紡糸工程において飛散量が増え、作業環境の汚染、オイルミスト吸引による健康被害が起こる可能性がある。
一方、0.20より高いと、特に11〜22dtx等の細糸を紡糸する際に、その粘性抵抗により糸切れ回数が増える可能性がある。
【0073】
本発明の弾性繊維用油剤の製造方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
常温で一般に固体である膠着防止剤(B)を、炭化水素系潤滑油(A2)およびアニオン界面活性剤(D)と一緒に撹拌装置のある槽に入れ、80〜120℃に加熱し、25℃における濁度が20mg/L以下になるまで撹拌する。その後、撹拌しながらシリコーンオイル(A1)および有機変性シリコーン(C)を入れ同温度で攪拌、均一化した後、20〜40℃に冷却することで本発明の弾性繊維用油剤を得ることができる。
【0074】
本発明の弾性繊維用油剤は、弾性繊維の紡糸工程(例えば200〜1,200m/分)において、紡出後、糸が巻き取られるまでの任意の位置で、ローラ給油またはノズル給油で糸に付与させることができる。給油する弾性繊維用油剤の温度は通常10〜80℃、好ましくは15〜60℃である。
本発明の弾性繊維用油剤は、通常弾性繊維に対して、非揮発分として、好ましくは0.1〜12(さらに好ましくは0.5〜10、特に好ましくは1〜8)重量%付与させる。
【0075】
本発明の弾性繊維用油剤を適用できる弾性繊維としては、ポリウレタン弾性糸、ポリエステル弾性糸、ポリアミド弾性糸およびポリカーボネート弾性糸等が挙げられるが、とくにポリウレタン弾性糸に好適に使用できる。
本発明の弾性繊維用油剤を適用できる弾性繊維の維度は、特に限定されないが、通常10〜2500dtx、好ましくは11〜1870dtxである。
【0076】
本発明の弾性繊維用油剤で処理されてなる弾性繊維は、後加工工程(例えばエアースパンヤーン工程、カバーリング工程、エアーカバーリング工程、編み工程、整経工程、精錬工程、染色工程および仕上げ工程等)を経て最終製品に仕上げられる。
なお、弾性繊維は他の合成繊維、例えばナイロン繊維やポリエステル繊維と混紡して使用される。従って、本発明の油状組成物は、付与された後、他の合成繊維の紡糸油剤と一緒に洗浄され、除去されることが多い。精練工程では、水系精練または溶剤精練が行われる。
【0077】
最終製品としては、衣料用[例えばパンティーストッキング、靴下、インナーファンデーション(ブラジャー、ガードル、ボディースーツ等)、アウターウェア(ジャケット、スラックス等)、スポーツウェア(水着、レオタード、スキーズボン等)]および産業資材用(例えば紙おむつ、ベルト等)等に広く適用できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、表中の数値は重量部(有効成分)を表す。
【0079】
実施例1
ジステアリン酸マグネシウム0.3重量部、アニオン界面活性剤(D−l)2.0重量部および流動パラフィン46.7重量部を80〜120℃で1時間攪拌混合した。その後、ポリジメチルシロキサン50.0重量部および有機変性シリコーン(C−1)1.0重量部を加え、同温度で1時間攪拌、均一化後、30℃に冷却、実施例1の弾性繊維用油剤を調製した。
【0080】
実施例2〜4および比較例1〜3
表1記載の配合処方で、実施例1と同様にして各成分を配合し、残りの実施例と比較例の弾性繊維用油剤を調製した。
【0081】
ポリウレタン繊維の乾式紡糸法において、表1の弾性繊維用油剤をローラー給油で弾性繊維用油剤付着量がフィラメント重量に対し4重量%になるよう付与させ、600m/分でチーズに巻き取り、44dtxのポリウレタン繊維を得た。
さらに、弾性繊維用油剤の飛散性試験および経日安定性試験、膠着性試験を行なった。性能評価結果を併せて表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
実施例および比較例で得られた弾性繊維用油剤の飛散性試験法および経日安定性試験法、弾性繊維用油剤を付着した糸の膠着性試験法は以下の通りである。
【0084】
<弾性繊維用油剤の飛散性試験>
44dtxのポリウレタン繊維(無給油糸)を糸速度600m/分で5分間走行させながら、調製した弾性繊維用油剤をローラー給油し、巻き取った。この際、飛散した油剤を紙に付着させてその重量(Wg)を測定するとともに、巻取糸の油剤付着量(Z%)を、迅速残脂抽出装置(東海計器製)を用い、ヘキサンで抽出する方法で測定し、下記式から油剤の飛散率(%)を算出した。
飛散率(%)=100×W/[W+(Z/100)×巻取糸重量(g)]
但し、巻取糸重量は、以下の通りである。
巻取糸重量(g)=44×600×5/9000=14.7
【0085】
<弾性繊維用油剤の経日安定性試験>
調製した弾性繊維用油剤100gを、蓋付き145mlガラス製ボトルに入れ、それぞれ5℃、25℃、50℃の恒温槽中に30日間静置した後、その外観を肉眼で観察し、調製直後の弾性繊維用油剤の外観と比較し、次の基準で判定した。
調製直後、30日後共に透明液状で、経日変化が無いことが好ましいが、通常の用途では、調製直後は透明液状で30日後はカスミが多少発生しても特に問題にはならない。しかし、分離や沈降物が発生すると使用に支障をきたす。
−判定基準−
◎:調製直後も30日後も透明液状で、経日変化無し
○:調製直後は透明液状だが、30日後にカスミ発生
×:調製直後から分離や沈降物が発生
【0086】
<膠着性試験>
紡糸工程で巻き取ったチーズを50℃で2週間エージングを行った繊維を用い、可変倍率(引き出し速度と巻き取り速度との比率の変更が可能)の引き出し巻き取り装置にかけ、50m/分の速度で糸を送り出した時、糸が膠着により巻き込まれずに巻き取ることのできる最低の速度倍率を求め、次の基準で判定した。
通常の使用用途では、50倍以上、80倍未満が特に好ましく、80倍以上、100倍未満が好ましいとされている。
−判定基準−
◎:速度倍数が50倍以上、80倍未満
○:速度倍数が80倍以上、100倍未満
×:速度倍数が100倍以上
【0087】
なお、表1の配合における各成分は以下の通りである。
・ポリジメチルシロキサン:KF96−10CS(信越化学工業株式会社製:粘度10mm2/s(25℃))
・流動パラフィン:流パン60S[三光化学株式会社製:粘度15mm2/s(25℃)]
・エポキシ変性シリコーン(C−1):一般式(4)中、R5、R6およびR8がメチル基、R7が−(CH22−L基であり、粘度(25℃):13,400mm2/sであるシリコーンオイル
・カルビノール変性シリコーン(C−2):一般式(5)中、R11およびR12:Me、R10およびR13:−(CH23−OHであり、粘度(25℃):3,830mPa・s[20%/ポリジメチルシロキサン{粘度20mm2/s(25℃)溶液}]であるシリコーンオイル
・アミノ変性シリコーン(C−3):前記一般式(6)中、R15、R16およびR18:Me、R17:−(CH23−NH−(CH23−NH2であり、粘度(25℃):14,700mm2/sであるシリコーンオイル
・エーテルカルボン酸型アニオン界面活性剤(D−1):ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(EO2.5モル付加物)
・エーテルカルボン酸型アニオン界面活性剤(D−2):ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル酢酸(EO3.5モル付加物)
・リン酸エステル型アニオン界面活性剤(D−3):イソトリデシルアルコールリン酸エステル(モノエステル体/ジエステル体=50/50)
・リン酸エステル型アニオン界面活性剤(D−4):イソステアリルアルコールリン酸エステル(モノエステル体/ジエステル体=50/50)
【0088】
表1から明らかなように、本発明の弾性繊維用油剤(実施例1〜6)は、油剤の飛散防止性、油剤の経日安定性および膠着防止性のすべてにおいて優れていることが判る。
それに対し、本発明の必須成分である(A)〜(D)のうち1つでも欠けている比較例1〜4は性能項目をすべて満たすものはない。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の弾性繊維用油剤は、油剤の飛散防止性、油剤の経日安定性および膠着防止性が優れており、弾性繊維の紡糸工程においては油剤飛散による作業環境の汚染、オイルミスト吸引による健康被害の抑制、後加工工程においては断糸等のトラブル発生を抑制することができ、特に細デシテックス繊維の高速紡糸工程に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンオイル(A1)および炭化水素系潤滑油(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種のベースオイル(A)、膠着防止剤(B)、有機変性シリコーン(C)、およびアニオン界面活性剤(D)からなる弾性繊維用油剤であって、SB形回転粘度計を用いて、25℃で回転数60rpmで測定したときの粘度(JIS K7117−1:1999で規定する「附属書1(参考):SB形粘度計による粘度の測定方法」による)η60rpmが10〜30mPa・sであり、かつ下記数式で計算されるレオペキシー特性値Rhが0.05〜0.20であることを特徴とする弾性繊維用油剤。
Rh=(η60rpm−η30rpm)/η60rpm (1)
但し、η60rpm:回転数60rpmの上記条件で測定した粘度
η30rpm:回転数30rpmの上記条件で測定した粘度
【請求項2】
該膠着防止剤(B)が、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基および/またはカルボキシレート基を有する化合物(B1)からなる請求項1記載の弾性繊維用油剤。
【請求項3】
該有機変性シリコーン(C)が、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーンおよびポリエーテル変性シリコーンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1または2記載の弾性繊維用油剤。
【請求項4】
該アニオン界面活性剤(D)が、下記一般式(1)で表されるエーテルカルボン酸型アニオン界面活性剤(D1)、下記一般式(2)で表されるリン酸エステル型アニオン界面活性剤(D2)、および下記一般式(3)で表されるスルホコハク酸エステル型アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜3いずれか記載の弾性繊維用油剤。
【化1】

【化2】

【化3】

[式中、R1、R2、R3およびR4は、炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、または一部置換されていてもよい炭素数6〜36のアリル基;Aは炭素数2〜4のアルキレン基;Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウムまたはアルカノールアミン;mは0または1〜10の整数;nは0または1〜10の整数;qとrはそれぞれ独立に1または2であって、かつq+r=3を満足する整数;s、tはそれぞれ独立に0または1〜10の整数であって、s+tは0〜10となる整数を表す。]
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の弾性繊維用油剤を、弾性繊維に対して0.1〜12.0重量%付与する弾性繊維の処理方法。
【請求項6】
請求項5記載の処理方法により処理されてなる弾性繊維。

【公開番号】特開2009−179902(P2009−179902A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19088(P2008−19088)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】