説明

弾性表面波センサ

【課題】攪拌振動による攪拌効果を高めることができる弾性表面波センサを提供する。
【解決手段】圧電基板2の表面2aに形成されて弾性表面波を送受信するための送信電極3及び受信電極4と、圧電基板2の表面2a及び裏面2bに形成され、攪拌用信号が入力される攪拌電極5及びグランド電極6と、圧電基板2の裏面2bに設けられた空間部(開口部7a及び開口部8a)とを備える弾性表面波センサである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物質を介して伝搬する弾性表面波の伝搬特性の変化を検知するための弾性表面波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物質を介して伝搬する弾性表面波(SAW;Surface Acoustic Wave)の伝搬特性の変化を検知するための弾性表面波センサの一例が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されている弾性表面波センサでは、圧電基板上に設けられた電極に、弾性表面波の励振周波数とは異なる周波数の攪拌信号を入力することで、被測定物質である液体(あるいは液状物質)が攪拌されるようになっている。
【0003】
特許文献1には、攪拌信号を入力するための電極の構成例が複数記載されているが、そのなかに、弾性表面波の送信電極や受信電極とは別に設けられた、攪拌電極とグランド電極とを用いて攪拌信号を入力する構成がある。この攪拌電極とグランド電極とを用いる構成では、攪拌電極が、被測定物質が滴下される圧電基板表面上の検知領域又はその近傍に設けられるともに、圧電基板裏面上にグランド電極が設けられている。そして、攪拌電極とグランド電極との間に攪拌信号を入力することで厚み振動を発生し、被測定物質が攪拌されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−128778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、圧電基板上の電極などの構成については詳細に記載がなされているものの、圧電基板の保持方法や弾性表面波センサのパーケンジグ方法などについては詳細な記載がなされていなかった。
【0006】
本発明は、上記の技術を背景とするものであって、攪拌振動による攪拌効果を高めることができる弾性表面波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板の表面に形成され、弾性表面波を送受信するための送受信手段と、前記圧電基板の表面及び裏面に形成され、攪拌用信号が入力される入力手段と、前記圧電基板の裏面に設けられた空間部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圧電基板の裏面に設けられた空間部を利用して攪拌用信号によって攪拌振動を励振することができる。したがって、空間部を設けない場合に比べ、攪拌振動による攪拌効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による弾性表面波センサの一実施形態を説明するための側面図(断面図)である。
【図2】図1に示す実施形態を説明するための平面図である。
【図3】図1に示す実施形態を説明するための下面図である。
【図4】本発明による弾性表面波センサの一実施例の効果を説明するための図である。
【図5】本発明による弾性表面波センサの他の実施形態を説明するための側面図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明による弾性表面波センサの一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態としての弾性表面波センサ1の断面形状を示す側面図である。図2は、図1に示す弾性表面波センサ1の平面図である。図3は、図1及び図2に示す弾性表面波センサ1の下面図である。なお、図1〜図3において同一の構成には同一の符号を用いている。また、図1〜図3は、平板状の部材の厚みを厚く示したり、信号入出力などに用いられる一部の電気的構成の図示を省略したりして各部を示した模式図である。
【0011】
図1〜図3に示す弾性表面波センサ1は、圧電基板2、送信電極3、受信電極4、攪拌電極5、グランド電極6、基板7、パッケージ8、ダム9、ガラスキャップ11及び12、配線13並びに樹脂コーティング14から構成されている。
【0012】
圧電基板2は、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ランガサイト等の圧電材料から形成された平板である。
【0013】
送信電極3は、圧電基板2の表面2a上に1対の櫛歯状のパターンで形成された金属電極である。この送信電極3(すなわち1対の櫛歯状のパターン間)には、所定の周波数(例えば250MHz)の検出用信号が入力され、圧電基板2の表面2a上に弾性表面波20を励振(送信)する。この弾性表面波20は、横波型弾性表面波(SH−SAW:Shear Horizontal − Surface Acoustic Wave)である。
【0014】
受信電極4は、圧電基板2の表面2a上に1対の櫛歯状のパターンで形成された金属電極である。この受信電極4は、圧電基板2の表面2a上を伝搬する弾性表面波20に応じた電気的な信号(検出用信号)を出力する。
【0015】
攪拌電極5は、圧電基板2の表面2a上の送信電極3と受信電極4の間の検出領域10に対応するように、表面2a上に形成された金属電極である。
【0016】
グランド電極6は、圧電基板2の裏面2b上に裏面2bの全面を覆うように形成された金属電極である。
【0017】
攪拌電極5とグランド電極6間には、弾性表面波20を励振するための信号の周波数とは異なる周波数の撹拌用信号が入力される。攪拌用信号は圧電基板2に厚み共振を励振する周波数を有する信号である。すなわち、攪拌電極5とグランド電極6との間の圧電効果によって発生する厚み振動波30によって検出領域10が振動させられる。この厚み振動波30を発生させるために攪拌電極5とグランド電極6間に入力される撹拌用信号の周波数fは、厚み共振を生じる周波数である、例えばf=v/2hに設定することができる。ここで、vは厚み振動する縦波の音速、hは圧電基板2の厚みである。撹拌用信号は、検出用信号とは周波数が異なるため、弾性表面波20の伝搬特性の取得には影響を与えずに、圧電基板2(の検出領域10)を振動させることができる。
【0018】
基板7は、圧電基板2を搭載するセラミック等の絶縁部材からなる平板である。基板7には、圧電基板2の表面2a又は裏面2b上に形成された、送信電極3、受信電極4、攪拌電極5及びグランド電極6と、図示していない入出力用のピン、リードフレームなどとを接続するための金属部材からなる回路や端子が設けられている。基板7は開口部7aを有している。図2と図3に示すように、開口部7aは、攪拌電極5の平面形状とほぼ同一の平面形状を有し、攪拌電極5と対応する位置に設けられている空間である。基板7とグランド電極6とは、開口部7aを除いて密着するように接着されている。
【0019】
パッケージ8は、基板7を搭載する金属、セラミック、プラスチック等からなる容器である。ただし、この例では、パッケージ8は平板形状を有して構成されていて、圧電基板2の表面2a側は覆っていない。また、パッケージ8は開口部8aを有している。図2と図3に示すように、開口部8aは、開口部7aと同様、攪拌電極5の平面形状とほぼ同一の平面形状を有し、攪拌電極5と対応する位置に設けられている空間である。パッケージ8と基板7とは、開口部8a及び開口部7aを除いて密着するように接着されている。すなわち、開口部8aと開口部7aとは、パッケージ8と基板7とを貫通するように設けられている。
【0020】
ダム9は、エポキシ樹脂などからなる壁状の構造物であり、送信電極3、受信電極4及び検出領域10を別々に取り囲むような平面形状を有して、圧電基板2の表面2a上に形成されている。ダム9は、送信電極3上及び受信電極4上にそれぞれ空間を設けるために用いられるとともに、滴下された液体の被測定物質を検出領域10内にとどまらせるために用いられる。
【0021】
ガラスキャップ11及び12は、ガラスからなる平板であり、送信電極3及び受信電極4を取り囲むダム9に接着されている。ガラスキャップ11と、送信電極3を取り囲むダム9とによって、送信電極3上に空間が形成されている。同様に、ガラスキャップ12と、受信電極4を取り囲むダム9とによって、受信電極4上に空間が形成されている。
【0022】
配線13は、送信電極3、受信電極4、攪拌電極5などと、基板7上に形成された金属部材との間を接続するワイヤである。
【0023】
樹脂コーティング14は、エポキシ樹脂などからなる被覆であり、検出領域10を除いて圧電基板2の表面2a全体を覆うように形成されている。
【0024】
次に、図1に示す弾性表面波センサ1の使用例について説明する。弾性表面波センサ1は、図示しない信号発生器から送信電極3に所定の周波数(例えば250MHz)の検出用信号が入力されると、圧電基板2の表面2a上に弾性表面波20を励振する。このように励振された弾性表面波20は、圧電基板2の表面2a上を伝搬して検出領域10を介して受信電極4にて受信され出力される。送信電極3に入力した検出用信号と、受信電極4から出力された検出用信号とを比較することにより、送信電極3から受信電極4までの検出用信号の伝搬特性(例えば位相差など)が取得される。
【0025】
次に、被測定物質である液体が検出領域10に滴下さると、図示していない撹拌用信号発生器から攪拌電極5とグランド電極6間に検出用信号の周波数とは異なる周波数の撹拌用信号が入力される。撹拌用信号が入力された攪拌電極5及びグランド電極6は、圧電基板2に厚み振動波30を励振する。このように励振された厚み振動波30は、圧電基板2の表面2a上の検出領域10を振動させる。このような振動によって、検出領域10に滴下された液体が撹拌される。
【0026】
そして、所定の時間、撹拌したのちに、前述したのと同様に、図示しない信号発生器によって送信電極3に所定の周波数(例えば250MHz)の検出用信号が入力され、送信電極3から受信電極4までの検出用信号の伝搬特性(例えば位相差など)が取得される。そして、液体の導入前後の伝搬特性の変化を検出することによって、液体の特性が検知される。なお、検出用信号と撹拌用信号を同時に入力し(すなわち検出用信号を入力したままにして)、撹拌しながら伝搬特性変化を検知することもできる。
【0027】
以上のように、図1〜図3に示す弾性表面波センサ1では、被測定物質である液体を攪拌するための厚み振動を発生する部位(すなわち検出領域10に対応する圧電基板2)の裏面に空間(すなわち開口部7aと開口部8a)が設けられている。図1〜図3に示す例では、圧電基板2の裏面2bに面する位置に配置されている空間部が、攪拌電極5に対応する形状を有し、かつ攪拌電極5に対応する位置に設けられている。そして、攪拌電極5とグランド電極6との間に、圧電基板2に厚み共振を励振する攪拌用信号が入力されるようになっている。そのため、裏面全体を固定する場合に比べ厚み振動(すなわち厚み共振)における振動効率を高めることができる。
【0028】
図4は、図1〜図3に示すような弾性表面波センサ1を用いて、開口部7a及び開口部8aを設けた場合と、設けていない場合の振動効率を比較するために行った実験の結果を示す図である。サンプルA(破線の曲線)が開口部7a及び開口部8aを設けていない場合、サンプルB(実線の曲線)が開口部7a及び開口部8aを設けた場合の特性である。検出領域10にバッファー溶液(緩衝液)を滴下し、攪拌電極5とグランド電極6間に入力する攪拌信号の周波数を5〜8MHzの間で変化させた際の、検出用信号に生じた位相差(すなわち送信電極3の入力信号の位相と受信電極4の出力信号の位相との位相差)を測定した。
【0029】
開口部7a及び開口部8aを設けたサンプルB(実線の曲線)の位相差の方が、開口部7a及び開口部8aを設けていないサンプルA(破線の曲線)の位相差より大きくなっている。この位相差は、温度差によるものと考えられ、その温度差は振動の大きさの違いによって生じていると考えられる。すなわち、開口部7a及び開口部8aを設けた本実施形態の弾性表面波センサ1では、より温度上昇が大きく、つまり、より攪拌振動が大きくなっており、攪拌振動による攪拌効果を高めることができたと考えられる。
【0030】
次に、図5を参照して、本発明の他の実施形態について説明する。図5において、図1に示すものと同一の構成には同一の符号を用いている。図5に示す弾性表面波センサ100では、図1に示す弾性表面波センサ1と比べて、パッケージ8がパッケージ80に変更されている。このパッケージ80は、パッケージ8と比べて、開口部8aを有していない点が異なっている。すなわち、図5に示す弾性表面波センサ100では、圧電基板2の裏面2bに形成されているグランド電極6と、パッケージ80とに挟まれた空間が、圧電基板2の裏面2b側の厚み振動波30用の振動空間となる。
【0031】
上記の各実施形態では、攪拌用に厚み振動が励起される部材の裏面に空間を設けることで、振動効率を向上させ、攪拌効率を向上させることができる。
【0032】
なお、本発明の実施の形態は上記のものに限定されず、例えばグランド電極6を圧電基板2の裏面2bの全面ではなく一部に形成するようにしたもの、基板7とパッケージ8(あるいはパッケージ80)とを同一の材料で一体として形成するようにしたもの、攪拌電極5を検出領域10よりも狭くしたり、複数の領域に分割したり、異なる形状としたりするものなども本発明の実施形態とすることができる。
【0033】
また、上記実施形態において、受信電極4を省略し、送信電極3で弾性表面波の送信と受信とを行うようにしてもよい。この場合、まず、送信電極3から弾性表面波を送信する。そして、所定時間送信を行った後、送信を停止する。次に、圧電基板2の端面で反射してきた弾性表面波を送信電極3で受信する、というようにする。
【0034】
また、上記実施形態における攪拌電極5やグランド電極6は次のように変更してもよい。例えば、攪拌電極5をグランド電極とし、グランド電極6を攪拌電極としてもよい。ここで、グランド電極とは、弾性表面波センサ1及び100において基準となる電位が印加される電極を意味している。また、攪拌電極5及びグランド電極6をグランド電極が印加されない電極とすること、つまり、攪拌電極5をグランド電極ではない第1の攪拌電極とし、グランド電極6をグランド電極ではない第2の攪拌電極とすることもできる。この場合、第1及び第2の電極にグランド電位とは異なる平衡した正極及び負極の電位をもつ攪拌用信号を印加することができる。
【0035】
また、攪拌用信号を入力するための電極は、図2などに示したように検出領域10に対応するようにして表面2aや裏面2b上に形成されたものでなくてもよい。すなわち、攪拌用信号を入力するための電極は、検出領域10の少なくとも一部の領域を振動させるような設置位置や形状を有するものであれば、例えば検出領域10と対応する設置位置や形状を有しないようにして圧電基板2の表面2a及び裏面2bに形成されたものとすることができる。
【0036】
なお、特許請求の範囲に記載した構成と、上記実施形態における構成との対応関係は次のとおりである。「圧電基板」は、圧電基板2に対応している。「送受信手段」は、送信電極3と送信電極4とを組み合わせたものに対応している。「入力手段」は、攪拌電極5とグランド電極6とを組み合わせたものに対応している。「空間部」は、開口部7a又は開口部7aと開口部8aとを組み合わせたものに対応している。「所定の容器」は、パッケージ8及び80に対応している。「所定の基板」は、基板7に対応している。「第1の電極」は、攪拌電極5に対応している。「第2の電極」は、グランド電極6に対応している。「第1の接続手段」は、基板7に設けられている攪拌電極5と、図示していない入出力用のピン、リードフレームなどとを接続するための金属部材からなる回路や端子に対応している。そして、「第2の接続手段」は、基板7に設けられているグランド電極6と、図示していない入出力用のピン、リードフレームなどとを接続するための金属部材からなる回路や端子に対応している。
【符号の説明】
【0037】
1、100 弾性表面波センサ
2 圧電基板
3 送信電極
4 受信電極
5 攪拌電極
6 グランド電極
7 基板
7a 開口部
8、80 パッケージ
8a 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板の表面に形成され、弾性表面波を送受信するための送受信手段と、
前記圧電基板の表面及び裏面に形成され、攪拌用信号が入力される入力手段と、
前記圧電基板の裏面に設けられた空間部と
を備えることを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
前記空間部が、前記入力手段に対応する形状を有し、かつ対応する位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項3】
前記攪拌用信号が、前記圧電基板に厚み共振を励振する信号である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波センサ。
【請求項4】
前記圧電基板が所定の容器に搭載された所定の基板上に搭載されるものであって、
前記空間部が、前記所定の基板にのみ設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性表面波センサ。
【請求項5】
前記入力手段が、
前記圧電基板の表面に形成された第1の電極と、
前記圧電基板の裏面に形成された第2の電極と、
前記第1の電極に前記圧電基板外から前記攪拌用信号を入力するための第1の接続手段と、
前記第2の電極に前記圧電基板外から前記攪拌用信号を入力するための第2の接続手段とから構成されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性表面波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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