説明

弾性表面波フィルタおよびそれを用いた無線通信装置

【目的】挿入損失を低減し、帯域外の特性の劣化を改善した弾性表面波フィルタを提供する。
【構成】電気的に励振されることにより表面に弾性表面波が伝搬する圧電基板10と、圧電基板10上において弾性表面波の伝搬方向に交互に形成された入力電極と出力電極とを備え、入力電極を電気的に直列接続し、かつ直列接続された電極(11−1〜11−4、…、17−1〜17−4)を電気的に並列接続して構成し、出力電極を電気的に直列接続し、かつ直列接続された電極(21−1〜21−4、…、26−1〜26−4)を電気的に並列接続して構成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、周波数特性が良好で、挿入損失が小さく、しかも耐電力性に優れた弾性表面波フィルタおよびそれを用いた無線通信装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、挿入損失の少ない弾性表面波フィルタについて種々の提案がなされている。例えば図1414に示されるような多電極型構造のフィルタが知られている。図14に示される弾性表面波フィルタは、圧電基板10上に入力電極として7個の正規型電極11〜17を弾性表面波の伝搬方向に並べ、これと交互になるように、出力電極として6個の正規型電極21〜26を並べた構造である。
【0003】このような構造では弾性表面波のエネルギが電極内に閉じ込められ低損失化が達成できる。例えば、入力正規型電極12によって励振された弾性表面波は正規型電極12の両側に伝搬していき、隣接した出力正規型電極21および22で受波される。このようにして各入力正規型電極11〜17により励振された弾性表面波は、各入力正規型電極11〜17の隣りの出力正規型電極21〜26により受信され、低損失のフィルタを構成できる。しかし、左端の入力正規型電極11で励振された弾性表面波のうち、左側に伝搬する弾性表面波は、出力正規型電極21で受波できず、また右端の入力正規型電極17で励振された弾性表面波のうち、右側に伝搬した弾性表面波は、出力正規型電極26で受波できないため、原理的な損失となる。図14で示されるような13電極構成ではこの損失は0.67dBであるが、電極数をさらに増加させることでより低損失化を図れる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、正規型電極の周波数特性は電極指対数Nで決まり、図23で示されるように中心周波数f0 に対して(N±m)・f0 /Nの位置でレスポンスは0となり(N、mは整数)、電極指対数と通過帯域幅は反比例する。従って、通過帯域が狭く、帯域近傍の減衰量を確保する必要のある狭帯域な弾性表面波バンドパスフィルタを構成するためには、一般的に電極指対数を多くする必要がある。
【0005】このため、多電極型弾性表面波フィルタにおいて、挿入損失を小さくし、通過帯域を狭くするためには、電極を増やすと共に各正規型電極の電極指対数を多くする必要があるので、入力および出力電極の総電極指対数は非常に多くなる。
【0006】一方、弾性表面波フィルタの静的な入力および出力インピーダンスは、電極指対数の総数と電極指の長さ(交差幅)で決まる。弾性表面波フィルタは、弾性表面波の応答のない周波数(例えば直流)では、単なる容量性負荷として扱え、このときの静電容量を静止容量と呼ぶ。この静止容量は、電極指対数が多く、電極指交差幅が大きいほど増えるため、インピーダンスは低くなる。
【0007】弾性表面波フィルタを実際に使用する際には、接続する回路とのインピーダンス整合が必要となる。それ故、実用的な弾性表面波フィルタにおいては、並列の誘導性素子だけで50Ω線路にインピーダンス整合させるように、入力および出力インピーダンスを設定する。
【0008】例えば、多電極型弾性表面波フィルタの設計に際しては、まずフィルタに要求される特性から中心周波数と比帯域幅が決まり、これに応じて各正規型電極の電極指対数が決められる。次に、電極数や電極指交差幅を調整して、入力および出力インピーダンスが実用的な特性になるようにする。但し、電極指交差幅については、弾性表面波の波長をλとしたときに10λより小さくすると、弾性表面波の回折により挿入損失が多くなるので、ある限界値がある。このため、比帯域幅が狭く電極あたりの電極指対数の多いフィルタに関しては、電極数を減らして、インピーダンスを調整しなければならず、挿入損失をある程度犠牲にしている。
【0009】例えば、図14で示される従来例のような13電極構成のフィルタにおいて、通過特性が図17、図18のような比帯域幅2%のフィルタを実現するために、各入力正規型電極11〜17の電極指対数を36対とし、出力正規型電極21〜26の電極指対数を46対とすると、交差幅10λの場合でも、インピーダンス整合前の入力および出力インピーダンスは図15、図16のようになり、実用上使用し難いフィルタとなってしまう。
【0010】そこで、交差幅を10λとし、入力電極数および出力電極数を減らして、それぞれ4電極、3電極の7電極構成とすることで、図19、図20に示されるようなインピーダンス整合前の入力および出力インピーダンス特性を得ている。この場合、挿入損失は理論上でも1.25dBとなる。なお、図21、図22に前記7電極構成としたときのインピーダンス整合後の通過特性を示す。
【0011】本発明は、このような問題点を解決することを課題としてなされたものであり、比帯域幅が狭く各正規型電極1個あたりの電極指対数の多い弾性表面波フィルタにおいても、電極数を減じて挿入損失を犠牲にすることなく、実用的な入出力インピーダンス特性が得られる弾性表面波フィルタを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の第1請求項の弾性表面波フィルタは、電気的に励振されることにより表面を弾性表面波が伝搬する圧電基板と、圧電基板上において弾性表面波の伝搬方向に交互に形成された入力電極および出力電極とを備え、入力電極を電気的に直列接続しかつ直列接続された電極を並列接続した複数個の電極で構成し、出力電極を電気的に直列接続しかつ直列接続された電極を並列接続した複数個の電極で構成することを特徴とする。
【0013】本発明の第2請求項の弾性表面波フィルタは、請求項1記載の弾性表面波フィルタにおいて、電気的に直列および並列接続された複数個の電極のうち、少なくとも二以上の電極の電極指対数が異なることを特徴とする。
【0014】本発明の第3請求項の弾性表面波フィルタは、請求項1または2記載の弾性表面波フィルタにおいて、隣り合う電極の対向する最外側電極指の中心間距離がそれぞれ異なることを特徴とする。
【0015】本発明の第4請求項の弾性表面波フィルタは、請求項1乃至3のいずれかに記載の弾性表面波フィルタにおいて、電気的に直列および並列接続された複数個の電極は、少なくとも二種類以上の重み付けの異なる電極であることを特徴とする。
【0016】本発明の第5請求項の無線通信装置は、請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性表面波フィルタを、高周波段のバンドパスフィルタとして用いたことを特徴とする。
【0017】
【作用】本発明の第1乃至第4請求項の弾性表面波フィルタにおいては、各入力および出力電極は、電気的に直列接続された複数個の電極により構成されているので、それぞれの電極の有する電極容量は、直列接続された段数だけが低減されている。このため、電極指対数が多くなっても、実用的な入出力インピーダンス特性を得るために電極数を減ずる必要がなく、挿入損失を犠牲にせずに、低損失な弾性表面波フィルタを実現できる。
【0018】本発明の第5請求項の無線通信装置は、低損失で、かつ阻止域特性が良好な高周波段となると共に、小型化される。
【0019】
【実施例】以下、本発明の好適な実施例について図面に基づき説明する。なお、図14に示される従来例と同様の構成には同一の符号を付し説明を省略する。
【0020】本発明の第1実施例について説明する。
【0021】図1には、本発明の第1実施例に係る弾性表面波フィルタの構成を示す。図1に示される弾性表面波フィルタは、圧電基板10上に電気的に直列接続した4個の入力正規型電極11−1〜11−4を弾性表面波の伝搬方向と直角の方向に配列し、以下、各4個ずつ同様の配置で直列接続された合計7組の入力正規型電極11−1〜11−4、12−1〜12−4、…、17−1〜17−4、を弾性表面波の伝搬方向に形成し、これと交互になるように圧電基板10上に各4個ずつ直列接続された6組の出力正規型電極21−1〜21−4、22−1〜22−4、…、26−1〜26−4を形成し、直列接続された入力正規型電極は電気的に並列接続し、直列接続された出力正規型電極は電気的に並列接続した構成である。なお、図上、簡略化しているが、各正規型電極11−1〜11−4、…、17−1〜17−4、21−1〜21−4、…、26−1〜26−4はそれぞれの電極内では等しい交差幅を有する複数の電極指からなる電極である。
【0022】ここで、弾性表面波の伝搬方向に配置された電極列の伝搬路は全て共通になっている。すなわち、第1行目に配置されている各入力正規型電極11−1、12−1、…、17−1および各出力正規型電極21−1、22−1、…、26−1の伝搬路は共通であり、同様に第2、第3、第4行目に配置されている電極同士の伝搬路はそれぞれ共通である。
【0023】すなわち、図14に示される従来例と比べ、この実施例においては、各入力および出力正規型電極の代わりに、それぞれ電気的に直列接続された4個の正規型電極で置き換えた構成となっている。
【0024】今、仮に、電気的に互いに直列接続されている正規型電極同士では、電極指の対数および交差幅は等しいとする。例えば、直列接続された入力正規型電極11−1〜11−4において、それぞれの電極指の対数および交差幅が全て同じであるものとすると、全静止容量は同様に、直列接続前の静止容量の1/4となるため、本第1実施例では図14に示した従来例に比べてフィルタの静止容量は1/4に低減できる。
【0025】第1実施例で、入力正規型電極11−1〜11−4、12−1〜12−4、…、17−1〜17−4の電極指対数をそれぞれ36対とし、出力正規型電極21−1〜21−4、22−1〜22−4、…、26−1〜26−4の電極指対数をそれぞれ46対とし、交差幅を20λとした場合の、インピーダンス整合前の入力および出力インピーダンス特性をそれぞれ図2、図3に示す。この図で判るように、実用上全く問題のない特性となっている。また、図4、図5は本第1実施例によるインピーダンス整合後の通過特性を示したものであるが、図21、図22に示した従来例に比べより低損失な特性が得られている。
【0026】次に、第2実施例について説明する。多電極型構造は通過帯域内の挿入損失を小さくできるが、帯域外においてスプリアスの共振からレベルの大きなサイドローブが発生し、阻止域特性を劣化させるという不都合が生じる。例えば、第1実施例による図4の通過特性図のように、阻止域にレベルの大きなサイドローブが発生する。そこで、各正規型電極の電極指対数を違えることで、阻止域の減衰特性を改善することが知られている。
【0027】正規型電極の周波数特性は、図23で示したように電極指対数Nで決まるため、電極指対数を換えることでスプリアスの位置を換えることができる。従って、入力および出力正規型電極の電極指対数を違えることで、両正規型電極のスプリアスの位置をずらし、サイドローブを抑圧し、阻止域の減衰特性を改善できる。
【0028】図6は本発明の第2実施例の構成を示す図であり、電極指対数を互いに違えて構成した場合を示している。図6において、A〜Gは電極指対数を示している。第2実施例に係る弾性表面波フィルタは、第1の実施例と同様に、4個ずつ直列に接続された7組の入力正規型電極11−1〜11−4、12−1〜12−4、…、17−1〜17−4および同じく4個ずつ直列に接続された6組の出力正規型電極21−1〜21−4、22−1〜22−4、…、26−1〜26−4で構成されている。さらに、各正規型電極の電極指対数は図上簡略化しているが、それぞれ表1に示したように形成してある。すなわち、入力側電極11−1〜11−4、17−1〜17−4の電極指対数が28、36対の2種類の正規型で構成され、出力側電極21−1〜21−4、…、26−1〜26−4は電極指対数が40、42、44、46、48対の5種類の正規型電極により構成されている。このような構成の弾性表面波フィルタのインピーダンス整合前の入力および出力インピーダンス特性およびインピーダンス整合後の通過特性の計算値は、それぞれ図7〜図10のようになる。
【0029】この図7、図8で判るように、本第2実施例においても第1実施例と同様に、各入力および出力電極は、電気的に直列接続された複数個の正規型電極により構成されているので、それぞれの電極の有する静電容量は、直列接続された段数だけが低減されており、入力および出力インピーダンス特性は実用上全く問題のない特性となっている。
【0030】
【表1】


【0031】また、通過特性において阻止域の減衰特性が、図4に示された第1実施例に比べ改善されていることが判る。
【0032】本第2実施例では、入力および出力電極が表1のような電極指対数の異なる正規型電極の組み合わせで構成されるとして説明したが、各正規型電極の電極指対数を異ならせる限り、第2実施例と同等の効果が得られる。
【0033】本第2実施例において説明した各正規型電極の電極指対数を変えることで阻止域特性を改善する手法は、弾性表面波フィルタを構成している電極総数によって、設計の自由度が決まる。従って、本発明による弾性表面波フィルタにおいては、従来例と比べて直列接続の段数倍だけ設計の自由度が増えることになり、より阻止域特性の良好な阻止を実現できることになる。
【0034】次に、第3実施例について説明する。
【0035】上記第1および第2実施例においては、それぞれ隣り合った入力および出力正規型電極の中心間距離については、何ら言及していない。この各正規型電極の中心間距離は通過帯域内の通過特性を平坦にする場合に重要であることが知られている。
【0036】第3実施例は入力および出力正規型電極の中心間距離を設定して通過特性を平坦にした実施例である。
【0037】図11は、本発明の第3実施例に係る弾性表面波フィルタの構成を示し、図12は図11の左上端3個の正規型電極の拡大図である。
【0038】図11に示した第3実施例では、入力電極および出力電極を構成する正規型電極の直列接続の段数および個数は、それぞれ第1実施例の場合と同数であり、各4個ずつ同様の配置で並列接続された合計7組の入力正規型電極11−1〜11−4、12−1〜12−4、…、17−1〜17−4を弾性表面波の伝搬方向に形成し、これと交互になるように圧電基板10上に各4個ずつ直列接続された6組の出力正規型電極21−1〜21−4、22−1〜22−4、…、26−1〜26−4を形成した構成である。なお、各正規型電極の電極指対数も図上簡略化しているが、それぞれ第1実施例の場合と同等とし、入力正規型電極11−1〜11−4、12−1〜12−4、…、17−1〜17−4の電極指対数をそれぞれ36対とし、出力正規型電極21−1〜21−4、22−1〜22−4、…、26−1〜26−4の電極指対数をそれぞれ46対とする。
【0039】本第3実施例において、各入力正規型電極11−1〜11−4、12−1〜12−4、…、17−1〜17−4と各出力正規型電極21−1〜21−4、22−1〜22−4、…、26−1〜26−4のそれぞれの隣り合う正規型電極の対向する最外側電極指同士の中心間距離をl1 、l2 、…、l12として、それぞれ異ならせる。
【0040】このようにしても、この弾性表面波フィルタの入力インピーダンスおよび出力インピーダンスは、第1実施例とほとんどからわず、それぞれの電極の有する静電容量は、直列接続された段数だけ低減されるので、入力および出力インピーダンス特性は、実用上全く問題のないない特性とすることができる。
【0041】ここで、本第3実施例の第1行目に配列されている各入力正規型電極11−1、12−1、…、17−1および各出力正規型電極21−1、22−1、…、26−1について考えてみる。
【0042】今、図11、図12で示されているように、各入力正規型電極11−1、12−1、…、17−1と各出力正規型電極21−1、22−1、…、26−1の最外側電極指同士の中心間距離をそれぞれ11 〜112とすると、各入力正規型電極11−1〜17−1によって放射された弾性表面波は、最外側電極指間距離11 〜112がそれぞれ違うため、それぞれ異なった位相で各出力正規型電極21−1〜26−1に入射される。このため、各出力正規型電極で受信された弾性表面波は、それぞれ異なった位相の電気信号に変換され、合成されることになる。
【0043】このことは、図11の第2、第3および第4行目においても同様で、その結果、それぞれの電極の最外側電極指間距離を変化させることで、各出力正規型電極で発生する電気信号の位相を制御することができ、全ての電気信号を合成した時に、通過帯域での通過特性を平坦化できる。
【0044】以上説明した、最外側電極指同士の中心間距離を変えることで、弾性表面波フィルタの通過帯域特性を改善する手法においては、第2実施例で述べたのと同様に、従来例と比べて直列接続の段数倍だけフィルタを構成している電極総数が増えるので、設計の自由度も同様に増えることになり、より高性能な弾性表面波フィルタを実現できる。
【0045】本第3実施例では、各入力正規型電極の電極指対数は全て同じとし、また各出力正規型電極の電極指対数も全て同じとして説明したが、それぞれの正規型電極の電極指対数を異ならせても同様の効果が得られる。
【0046】なお、上記第1乃至第3実施例では、入力電極として正規型電極を4段直列接続したものを7組用意し、出力電極として正規型電極を4段直列接続したものを6組用意した構成で説明したが、これ以外の直列接続の段数で構成しても同様の効果があることは言うまでもなく、入力および出力電極としてこれ以外の個数の組み合わせで構成しても同様の効果があることも明らかである。
【0047】さらに、本発明においては、電極指の対数を変えることで阻止域減衰特性の改善を図ったが、正規型電極の代わりに重み付け電極を用いて、阻止域特性の劣化を抑制できる。したがって、本発明の説明に用いた電極指対数の異なる数種類の正規型電極に変わって、数種類の重み付け電極を用いても、本発明と同等の効果が得られる。
【0048】次に、第4実施例について説明する。
【0049】図13は本発明に係る弾性表面波フィルタを無線通信装置に用いた第4実施例を示す。アンテナ101には、本発明に係る2種類の弾性表面波フィルタ102、103に接続する。弾性表面波フィルタ102、103のうち、中心周波数が送信周波数fT である送信用弾性表面波フィルタ102には、高周波電力増幅器104にて電力増幅された送信信号が供給され、弾性表面波フィルタ102により帯域制限されてアンテナ101から送信する。一方、中心周波数が受信周波数fR である受信用弾性表面波フィルタ103は、アンテナ101からの出力を受けて帯域制限をし、高周波増幅器106にて増幅のうえ、受信端子107へ送出する。
【0050】送信端子105に入力された送信信号は、高周波電力増幅器104によって増幅され、送信用弾性表面波フィルタ102によって受信された受信信号は、受信用弾性表面波フィルタ103により受信帯域以外の信号がある程度抑圧された上、高周波増幅器106に入力される。この際、アンテナ側からみた送信用弾性表面波フィルタ102の入力インピーダンスは、受信帯域においては無限大であるので、受信信号は送信側へは伝達されない。高周波増幅器106によって増幅された受信信号は受信端子107に出力される。
【0051】以上のように、アンテナ101に接続された2種類の弾性表面波フィルタ102、103は、受信信号と送信信号を分離し、かつ必要な帯域だけをそれぞれの方向へ伝達するために用いられるアンテナ共用器として動作する。
【0052】従来、アンテナ共用器は、誘電体共振器を用いたフィルタ等で構成されることが多かった。しかしながら、誘電体共振器はその長手方向の寸法が、共振周波数に対応した波長で決められる長さ(900MHz帯で8mm程度)より短くならない上、断面寸法についてもあまり小さくすると挿入損失が増えるため、せいぜい4mm角程度であって、弾性表面波フィルタに比べると非常に大きい(弾性表面波フィルタのチップサイズは900MHz帯で2mm角程度)。従って、アンテナ共用器を弾性表面波フィルタで構成すれば、無線機の小型化が達成できる。
【0053】一方、アンテナ共用器に弾性表面波フィルタを用いるときには、特に送信用フィルタの耐電力性を考慮する必要がある。弾性表面波フィルタは、圧電耐基板上に櫛形の金属電極膜を付着形成した構成で作成されているか、この電極で弾性表面波を放射および受信する際、機械的ストレスが電極膜にかかる。この機械的ストレスがある一定値以上連続して加えられると、電極膜材料に用いられている金属が電極指間を移動するストレスマイグレーションが発生し、電極指間がしばしば短絡する。電極指間が短絡された場合、過剰電流が短絡部分に流れるため、ひいては電極膜が溶け、電極が剥がれるという破壊モードの故障となる。
【0054】この機械的ストレスは、弾性表面波フィルタの電極に入力される電力に比例するため、電極あたりの入力電力が小さいほうが、耐電力性は向上する。本発明の弾性表面波フィルタは、従来例と比べて直列接続の段数倍だけフィルタを構成している電極総数が増えるので、入力電力を各電極に分散することができ、電極あたりの電力が小さくなるので、フィルタの耐電力性を向上させることができる。
【0055】また、この実施例では、アンテナ共用器にも本発明に係る弾性表面波フィルタを用いるとして説明したが、本発明の弾性表面波フィルタのように、低損失で阻止域特性が良好なフィルタは、通信機無線部の他のブロックに用いることも可能で、無線通信装置のより一層の小型化が図れる。
【0056】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、各入力および出力電極は、電気的に直列接続された複数個の弾性表面波変換器により構成されているので、それぞれの電極の有する静止容量は、直列接続された段数だけが低減されている。このため、電極指対数が多くなっても、実用的な入出力インピーダンス特性を得るために電極数を減ずる必要がなく、挿入損失を犠牲にせずに、低損失な弾性表面波フィルタを実現できる。
【0057】また、従来例と比べて直列接続の段数倍だけフィルタを構成している電極総数が増えるので、設計の自由度も増えることになり、より高性能な弾性表面波フィルタを実現できる上、各電極あたりの電力が小さくなるので、フィルタの耐電力性を向上することができる。
【0058】また、2つ以上の電極指対数を異ならせたときは、阻止域の減衰特性が改善される効果がある。また、最外側の電極指の中心間距離を異ならせたときは、通過特性を平坦にすることができる効果がある。
【0059】さらに、本発明の弾性表面波フィルタは、小型で挿入損失が小さく、阻止域減衰特性も良好であることから、無線通信機の各種フィルタとして利用することで、機器を小型にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る弾性表面波フィルタの構成を示す平面図である。
【図2】第1実施例のインピーダンス整合前の入力インピーダンス特性の計算値を示す図である。
【図3】第1実施例のインピーダンス整合前の出力インピーダンス特性の計算値を示す図である。
【図4】第1実施例のインピーダンス整合後の通過特性の計算値を示す図である。
【図5】図4の通過特性の拡大図である。
【図6】本発明の第2実施例に係る弾性表面波フィルタの構成を示す平面図である。
【図7】第2実施例のインピーダンス整合前の入力インピーダンス特性の計算値を示す図である。
【図8】第2実施例のインピーダンス整合前の出力インピーダンス特性の計算値を示す図である。
【図9】第2実施例のインピーダンス整合後の通過特性の計算値を示す図である。
【図10】図9の通過特性の拡大図である。
【図11】本発明の第3実施例に係る弾性表面波フィルタの構成を示す平面図である。
【図12】本発明の第3実施例に係る弾性表面波フィルタの構成の一部拡大図である。
【図13】本発明の弾性表面波フィルタを利用した第4実施例に係る無線通信装置の無線部ブロックを示す図である。
【図14】従来例に係る弾性表面波フィルタの構成を示す平面図である。
【図15】従来例のインピーダンス整合前の入力インピーダンス特性の計算値を示す図である。
【図16】従来例のインピーダンス整合前の出力インピーダンス特性の計算値を示す図である。
【図17】従来例のインピーダンス整合後の通過特性の計算値を示す図である。
【図18】図17の通過特性の拡大図である。
【図19】従来例において入力および出力電極数を減少させた場合のインピーダンス整合前の入力インピーダンス特性の計算値を示す図である。
【図20】従来例において入力および出力電極数を減少させた場合のインピーダンス整合前の出力インピーダンス特性の計算値を示す図である。
【図21】従来例において入力および出力電極数を減少させた場合のインピーダンス整合後の通過特性の計算値を示す図である。
【図22】図21の通過特性の拡大図である。
【図23】従来例に係る正規型電極の周波数特性を示す概略図である。
【符号の説明】
10…圧電基板
11−1、11−2、11−3、11−4、…、17−1、17−2、17−3、17−4…入力正規型電極
21−1、21−2、21−3、21−4、…、26−1、26−2、26−3、26−4…出力正規型電極
101…アンテナ
102、103…弾性表面波フィルタ
104…高周波電力増幅器
105…送信端子
106…高周波増幅器
107…受信端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】電気的に励振されることにより表面を弾性表面波が伝搬する圧電基板と、圧電基板上において弾性表面波の伝搬方向に交互に形成された入力電極および出力電極とを備え、入力電極を電気的に直列接続しかつ直列接続された電極を並列接続した複数個の電極で構成し、出力電極を電気的に直列接続しかつ直列接続された電極を並列接続した複数個の電極で構成することを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】請求項1記載の弾性表面波フィルタにおいて、電気的に直列および並列接続された複数個の電極のうち、少なくとも二以上の電極の電極指対数が異なることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項3】請求項1または2記載の弾性表面波フィルタにおいて、隣り合う電極の対向する最外側電極指の中心間距離がそれぞれ異なることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項4】請求項1乃至3のいずれかに記載の弾性表面波フィルタにおいて、電気的に直列および並列接続された複数個の電極は、少なくとも二種類以上の重み付けの異なる電極であることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項5】請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性表面波フィルタを、高周波段のバンドパスフィルタとして用いたことを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【図16】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開平7−22893
【公開日】平成7年(1995)1月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−162872
【出願日】平成5年(1993)6月30日
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)