説明

形態制御した材料およびその製造方法

【課題】酸素貯蔵能を有する触媒材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化ジルコニウムと酸化プラセオジムを含有する棒状もしくは針状形態、あるいはその集合体粒子形態を有する触媒材料とその製造方法であって、マイクロ波照射あるいはヒーター加熱の工程を含む水溶液反応において、水溶液中に水溶性のプラセオジムならびにジルコニウムの塩およびアミンあるいは尿素を含む溶液を一定時間以上保持し、さらに熱処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、光触媒、抗菌、電子部品、光学部品等に用いられ、とくに酸素貯蔵能を有し、棒状もしくは針状形態を有する金属酸化物材料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セリウム酸化物(セリア)やセリウム・ジルコニウム複合酸化物は酸素貯蔵能(OSC)を有しているため、排ガス浄化触媒として好ましいが、この用途において通常必要とされる耐熱性を有さないことがある。従って、耐熱性を高めるため、セリア及びジルコニアを固溶体化する方法が開発されている。また、セリアあるいはジルコニアは、アルミナなどの粉末に混合することがあるが、この複合粉末を作製するにあたっては中和反応により溶液からの沈殿を生成させ加熱する方法、分解性の化合物を高温で気相から金属酸化物として生成させるなど多くの方法が知られている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−194742号公報
【特許文献2】特開平6−279027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、セリアは稀少金属の酸化物であり、酸素貯蔵材としてセリアと同等以上の性質を示す代替の組成物が求められ、さらにその形態や組織の制御によって更なる性能向上が期待される。しかし、代替の組成物は微細粒状や球状、その凝集体等が自然的に生成することが多く、組成物の紛体としての形態を制御することは容易ではない。
【0005】
本発明の課題は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、酸化ジルコニウムと酸化プラセオジムの複合材において、棒状もしくは針状の紛体形状を有し、かつ高性能な酸素貯蔵能を有する材料ならびにこれを合成する製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 酸化ジルコニウムと酸化プラセオジムを含有する複合材であって、プラセオジウムとジルコニウムとの総量に対してジルコニウムが原子比で0.05〜0.2の割合で含まれ、前記複合材が棒状もしくは針状の紛体形状を有し、酸素貯蔵能を有する材料。
【0007】
[2] マイクロ波照射あるいはヒーター加熱の工程を含む水溶液反応において、水溶液中に水溶性のプラセオジムならびにジルコニウムの塩およびヘキサメチレンテトラミンあるいは尿素を含む溶液を60℃〜100℃で30分以上保持したのち、さらに600〜1000℃で30分以上熱処理することを特徴とする前記[1]に記載の材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
酸化プラセオジウムに酸化ジルコニウムを添加した複合酸化物とし、かつ複合酸化物の紛体形状を棒状あるいは針状とすることにより、高性能の酸素貯蔵能材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】昇温還元曲線で温度変化に対する水素の消費特性により調べた酸素放出特性をあらわす図である。
【図2】通常加熱法により合成したZr15%含有Pr酸化物粉末の一部を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】マイクロ波加熱法で合成したZr5%含有Pr酸化物粉末の一部を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
排ガス中の酸素分圧は変動するので、これを制御して触媒活性を高めるために酸素貯蔵能材料が使用されるが、その場合、酸化還元反応を金属酸化物内で起こさせ、気相に酸素を供給する物質は限られる。
【0012】
プラセオジム(Pr)は金属酸化物として、Pr11もしくはPrOなる酸化物として存在しやすく、一方還元条件ではPrの状態で存在する。プラセオジム酸化物は、酸化雰囲気でのPr11もしくはPrOから還元雰囲気でのPrへの変化に相当する酸素量を放出し、また逆に還元条件から酸化雰囲気において酸素を吸収することができると考えらえる。しかしながら、原因の詳細は不明だが、これらの酸化還元が完全にはおこらず酸化還元性の酸素の量がその全量をもって活かされないことがある。しかし、本願発明では、ジルコニウムとプラセオジウムが特定比の複合酸化物において高効率に酸素貯蔵能が発現することを見出した。
【0013】
本願第一の発明は、酸化プラセオジウムと酸化ジルコニウムとを含有する複合材において、プラセオジムとジルコニウムの総量に対してジルコニウムが原子比で0.05〜0.2の割合で含まれる複合材からなり、かつ棒状もしくは針状の紛体形態を有し、酸素貯蔵能触媒として高い性能を有する複合金属酸化物からなる材料である。
【0014】
以下の手法で酸素貯蔵能を測定し、単位試料重量(グラム)当りの酸素吸収量を求めた。すなわち、粉末の一定量をガラス管に入れ、水素5%含有アルゴンガス流内で600℃にて20分保持後、アルゴンガス流内で冷却し、600℃で酸素をパルス状に導入し酸素の吸収量を観測し、単位試料重量(g)当りの酸素吸収量をml単位で測定した。純粋なプラセオジム酸化物(Pr11)について、比表面積10m/gの粉体を使って測定したところ、600℃において11.0ml-O/gの性能を示した。一方、ジルコニウムを5〜20%添加した粉体では11.4〜12.0ml-O/gのOSCを示し、ジルコニウム添加による改善が見出された。図1に、酸素の放出試験例を示す。
【0015】
水素の消費を示す曲線では、350〜550℃付近において気相水素が粉体中の酸素によって酸化され消費される昇温還元挙動を示している。金属成分でPrへのZr添加が0、0.05および0.25の材料において、その酸素放出温度は同様であるが、下記に説明するようにこの水素消費量相当の可逆的な酸素吸収がおこり、OSCはジルコニウム添加試料において優れていた。すなわち、プラセオジム酸化物の性質を活かしながら、ジルコニウム添加によってその性能を高めることができる。ジルコニウムの含有がOSCを向上させる原因は明らかではないが、X線粉末回折法による粉末の結晶相としては、Pr11を主相としてPrOの少量が混在する状態で存在することが影響している可能性がある。
【0016】
また、ジルコニウムを全原子比で0.05〜0.2の割合で含有する材料においてもその定性的な相の状態は同じであり、ジルコニウム酸化物相が検出されないので、ジルコニウムとプラセオジム酸化物が固溶体として存在していることが推定される。また、第二の発明で述べるように、性能向上が発現した材料での形態上の特徴としては、棒状もしくは針状あるいはその集合体であることが明らかとなった。
【0017】
本願第二の発明は上記複合組成物の製造方法に関する。まずジルコニウムとプラセオジム原料成分からなる塩を水に溶解する。この塩類はとくに限定されず、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物など可溶性塩ならなんでもよい。これとは別に沈殿剤を溶解した水溶液を用意する。沈殿剤としてはアミン類など加熱により分解しうるものでアルカリ性を示す化合物であれば限定しないが、ヘキサメチレンテトラミン(HMTと略す)あるいは尿素が好ましい。
【0018】
この2つの液を混合すると反応して前躯体を生ずるが、この前躯体をとくに限定することはなく一連の加熱工程によって複合酸化物を合成する。たとえば、硝酸プラセオジムと硝酸ジルコニルとHMTの混合溶液を丸底フラスコに入れ、マントルヒーターを用いて外部から加熱することができるが、その保持温度を60℃〜100℃で、保持時間を30分以上とすると前駆体を生成させることができる。あるいは、マイクロ波照射可能な試験炉内においてスターラーで撹梓しながらマイクロ波加熱して温度として60℃〜100℃として、30分以上保持すると前駆体を生成させることができる。このときの反応は完全には明らかではないが、HMTが分解し、金属水酸化物が生成するとともに加水分解を受けながら複合化した粉体になると推定される。金属成分に対するHMTの量をその分子量換算で2倍モル以上、より好ましくは6倍モル以上とすると効率よく粉末が生成する。なお、HMTの代わりに尿素も用いても同様の現象によって粉末が生成する。つぎに、前躯体を大気中、例えば600℃で30〜180分間加熱して金属酸化物を得る。なお、前駆体の加熱温度は600℃以上が好ましいが、粒子が粗大化しないためには1000℃以下が好ましい。
【0019】
以上の工程により、プラセオジムとジルコニウムを含む棒状もしくは針状の形態の複合酸化物材を得ることができる。水溶液で生じた前躯体を大気中600℃以上で加熱して得た粉末は、条件にもよるが、断面が50〜300ナノメータの四角もしくは多角形で、0.1〜10ミクロンの長さの棒状粒子の粉体が得られる。
【0020】
さらに詳細には、マントルヒーターで加熱したときは粒子が棒状で分散した形態となり、マイクロ波加熱による場合はこれらの棒状粒子に加えて、そのサイズがさらに小さくなった径が20〜100ナノメータ、長さが0.1〜5ミクロン程度の針状の粒子が凝集し、その直径が1〜10ミクロンという大きな粒子が混在して特異な形態を有する粉末が得られる。この効果は明らかではないが、マイクロ波照射の場合は、溶液がエネルギーを吸収する場合には外部環境から熱伝導によって比較的均一に加熱される場合と比べ、結晶の核生成と成長に違いを生ずるため微細な粒子集合体が得られやすくなるものと考えられる。本発明でいうマイクロ波とは、その簡便性から主に波長2.45GHzのものをいうがそれに限定されるわけではなく、その近辺の周波数やミリ波域での電磁波の照射による加熱効果を指している。
【0021】
以上の説明のように、同じ工程に異なる加熱手段を用いることにより、形態を変化させることができるが、いずれにおいてもプラセオジウムとジルコニウムを含む棒状もしくは針状の形態あるいはその集合体の金属酸化物材料を得ることができる。
【0022】
加熱条件は100℃において還流器をつけて水蒸気の揮散を防止することが望ましい。また、マイクロ波強度は0.5〜2W/cmJ程度が好ましいが、一方では、溶液量によって制御してもよい。金属塩を溶解あるいは分散させる、特に分散をよくするには、エチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アルコールなどを添加することができる。
【0023】
またプラセオジムとジルコニウム以外の金属塩の共存を除外するものではなく、さらにその種類も必ずしも一種類に限られるものではなく、希土類及び3A族金属、アルカリ土類金属元素を共存させることは問題がない。希土類及び3A族金属とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が挙げられ、中でも、La、Nd、Y、Ybが好ましい。アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)が挙げられ、中でも、Baが好ましい。さらに、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属を共存させることは好ましく、製造工程での溶液に、塩化白金酸、塩化金酸、塩化ロジウム及び塩化パラジウムなど、もしくは硝酸塩などの触媒成分の塩を含有させることが好ましい。ただしその量は粉末生成時にプラセオジムとジルコニウムの金属塩に対して重量で10%以下であって、触媒性能の向上を妨げるものではない。
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
(実施例1〜5)
硝酸プラセオジム(Pr(NO3)3・6H2O)と硝酸ジルコニルと(ZrO(NO3)2・2H2O)をモル比が(1−x):xとし、全体で0.01molとなるよう秤量しビーカーに入れ、これを蒸留水で溶解して30分攪拌した。へキサメチレンテトラミン(HMT)を0.06mol秤量し、別のビーカーに入れ、同様に溶解し攪拌した。その後2つの溶液を混合し、全体が1リットルになるよう蒸留水を入れ30分攪拌した。ここで、x=0、0.05、0.1, 0.15、0.2、0.25、計5種類の試料を作製した。これらの溶液を丸底フラスコに入れマントルヒーターで95℃まで加熱し、温度を3時間保持して沈殿を得た。同様に、これらの溶液20mlをガラス容器に入れ、マイクロ波合成装置を用いて2.45GHzのマイクロ波を照射し、95℃まで加熱しその温度で1時間保持して沈殿を得た。得られた沈殿を吸引ろ過し120℃で24時間乾燥させ、その粉末を電気炉に入れ、600℃で3時間加熱し粉末試料を得た。粉末X線回折測定によれば、これらの試料は主としてPr11相であった。 マントルヒーターにより加熱したときは、断面の対角線が50〜300ナノメータの四角もしくは多角形で0.1〜10ミクロン長さの棒状の粉体粒子が分散していた(図2)。一方、マイクロ波加熱による場合は、前記ヒーターによる加熱同様に棒状粒子になるが、そのサイズがさらに小さくなり、断面の対角線が20〜100ナノメータ、長さ0.1〜5ミクロン程度の針状粒子が凝集していた(図3)。粉末の0.1gをガラス管に入れ、水素5%含有アルゴンガス流内で600℃まで10℃/分で昇温加熱して20分保持後、Arガス流内で冷却し600℃で保持し、酸素ガスをパルス状に導入し、粉末への酸素の吸収量を測定した。水素の消費を示す曲線では、350〜550℃付近において、水素は粉体中の酸素によって消費される昇温還元挙動を示した。
【0026】
表1に、600℃において測定された酸素貯蔵能(OSC)の値を示す。プラセオジムにジルコニウムを5〜20mol%添加した材料では、Pr単独のOSCである11.0ml−O/g以上の11.4〜12.1ml−O/gのOSCを示し、ジルコニウム添加による改善が見出された。水素消費量相当の可逆的な酸素吸収がおこり、そのOSCは、ジルコニウム5〜20mol%添加試料において優れていた。
【0027】
(比較例1〜3)
実施例1〜5における硝酸プラセオジム(Pr(NO3)3・6H2O)のみを用いて、同様の手順でプラセオジム酸化物粉末を作製し、Pr11組成(比較例1)としてこれにジルコニア粉末としてトーソー製TZ−0を、PrとZrが9:1(比較例2)および8:2(比較例3)の割合になるように混合してこれについて、実施例と同様の試験を行った。
【0028】
比較例の試料ではジルコニアの添加によりOSCは、プラセオジウム酸化物単独粉末よりも低下したが、実施例では、Pr含量が低下してもOSCは向上するので、本発明の紛末形態をもつプラセオジムとジルコウムとの複合酸化物は優れていることがわかる。ZrOはOSC作用を持たないことが知られており、OSCはPr含量に依存するが、PrにZrを複合化した酸化物にすると効果があることがわかる。
【0029】
表1に600℃での酸素貯蔵能を示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、高性能の酸素貯蔵材として、触媒等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウムと酸化プラセオジムを含有する複合材であって、プラセオジウムとジルコニウムとの総量に対してジルコニウムが原子比で0.05〜0.2の割合で含まれ、前記複合材が棒状もしくは針状の紛体形状を有し、酸素貯蔵能を有する材料。
【請求項2】
マイクロ波照射あるいはヒーター加熱の工程を含む水溶液反応において、水溶液中に水溶性のプラセオジムならびにジルコニウムの塩およびヘキサメチレンテトラミンあるいは尿素を含む溶液を60℃〜100℃で30分以上保持したのち、さらに600〜1000℃で30分以上熱処理することを特徴とする請求項1に記載の材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−17953(P2013−17953A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153634(P2011−153634)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】