形状記憶合金製部材の製造方法及び形状記憶合金製部材を利用したアクチュエータ
【課題】良好な二方向性を得ることができる形状記憶合金製部材の製造方法を提供する。
【解決手段】この製造方法は、形状記憶合金に形状記憶処理を実施する記憶処理工程S14と、記憶処理工程で形状記憶処理された形状記憶合金を変態点Mfの温度以下の温度に冷却する冷却工程S16と、冷却工程で変態点Mfの温度以下の温度に冷却した形状記憶合金にショットピーニングを行うショットピーニング工程S18を有している。そして、ショットピーニング工程では、形状記憶合金が変態点Asの温度以下の温度に維持されている。
【解決手段】この製造方法は、形状記憶合金に形状記憶処理を実施する記憶処理工程S14と、記憶処理工程で形状記憶処理された形状記憶合金を変態点Mfの温度以下の温度に冷却する冷却工程S16と、冷却工程で変態点Mfの温度以下の温度に冷却した形状記憶合金にショットピーニングを行うショットピーニング工程S18を有している。そして、ショットピーニング工程では、形状記憶合金が変態点Asの温度以下の温度に維持されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二方向性を有する形状記憶合金製部材を製造する方法と、そのような形状記憶合金製部材を利用したアクチュエータに関する。ここで、「形状記憶合金製部材」とは、形状記憶合金によって製作された機械部品を意味している。
【背景技術】
【0002】
形状記憶合金は温度変化により形状が変化する特性を有している。このような特性を有する形状記憶合金には、温度変化により形状が一方向にのみ変化する一方向性形状記憶合金と、温度変化により形状が二方向に変化する二方向性形状記憶合金がある。一方向性形状記憶合金を二方向に動かすためには、一方向性形状記憶合金をその形状変化方向とは反対の方向に付勢する弾性部品(スプリング等)が必要となる。一方、二方向性形状記憶合金は、このような弾性部品が不要となるため、構造を簡易にでき、かつ、製造コストを低減できる等の利点を有している。
【0003】
特許文献1には、二方向性を有する形状記憶合金製部材を製造する方法が開示されている。この製造方法では、まず、形状記憶合金に通常の形状記憶処理を実施する。次いで、形状記憶処理した形状記憶合金を変態点Ms+20℃以下の温度で所定の形状に固定し、ショットピーニングする。これによって、二方向性を有する形状記憶合金製部材を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−109455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法で製造された形状記憶合金は、ある程度の二方向性が得られるものの、良好な二方向性を得られない場合があった。特に、低温(例えば、−35〜0℃)から室温(例えば、20℃)となったときに第2形体に変形し、室温から再び冷却して低温(例えば、−35〜0℃)に戻ったときに第1形体に変形するような形状記憶合金を製造しようとした場合に、良好な二方向性が得られなかった。
【0006】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、良好な二方向性を得ることができる形状記憶合金製部材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、良好な二方向性が得られない原因について種々の検討を行った。その結果、ショットピーニング処理をする際の形状記憶合金の温度が大きく影響することが判明した。すなわち、本発明者らの行った実験によると、形状記憶合金がマルテンサイト化した状態でショットピーニングを行うと、良好な二方向性を形状記憶合金に付与できるという知見を得た。本発明は、その知見に基づいて創作された。
【0008】
本発明の形状記憶合金製部材の製造方法は、形状記憶合金に形状記憶処理を実施する記憶処理工程と、記憶処理工程で形状記憶処理された形状記憶合金を変態点Mfの温度以下の温度に冷却する冷却工程と、冷却工程で変態点Mfの温度以下の温度に冷却した形状記憶合金にショットピーニングを行うショットピーニング工程を有している。そして、ショットピーニング工程では、形状記憶合金が変態点Asの温度以下の温度に維持されていることを特徴とする。
この製造方法では、ショットピーニングを実施する前に形状記憶合金を変態点Mfの温度以下の温度に冷却し、形状記憶合金の結晶粒の略全体をマルテンサイト化する。そして、結晶粒全体がマルテンサイト化した状態で形状記憶合金にショットピーニングを行う。ショットピーニングを行っている間は、形状記憶合金の温度が変態点Asの温度以下の温度に維持される。すなわち、ショットピーニングが行われている間は、形状記憶合金の結晶粒がオーステナイト化することが防止される。この製造方法では、形状記憶合金の結晶粒全体がマルテンサイトとなった状態でショットピーニングが行われるため、良好な二方向性を付与することができる。すなわち、特許文献1の技術では、変態点Ms+20℃以下の温度でショットピーニングを行うこととしているため、オーステナイト状態の形状記憶合金にショットピーニングする場合が含まれている。このため、特許文献1の技術では、良好な二方向性を付与することができない場合がある。一方、本発明に係る製造方法では、略全体がマルテンサイト状態となった形状記憶合金にショットピーニングするため、良好な二方向性を付与することができる。
【0009】
上記の形状記憶合金製部材の製造方法においては、記憶処理工程前に形状記憶合金を所定形状に鋳造する鋳造工程をさらに有することができる。そして、記憶処理工程では、鋳造工程によって所定形状に鋳造された形状記憶合金に形状記憶処理を実施することが好ましい。
この製造方法では、鋳造により形状記憶合金を所定形状に成形するため、板状や複雑な形状の形状記憶合金製部材を好適に製造することができる。また、鋳造によって所定形状に成形しても、ショットピーニングにより耐疲労性が向上するため、充分な機械的強度を備えることができる。
【0010】
ここで、前記冷却工程は、形状記憶合金が完全マルテンサイト化する温度よりも低い温度まで冷却することが好ましい。「完全マルテンサイト化」とは、結晶粒だけでなく、結晶粒と結晶粒の境界に存在する粒界までがマルテンサイト化することを意味している。このような構成によると、粒界までマルテンサイト化した状態でショットピーニングが行われるため、より良好な二方向性を付与することができる。
【0011】
なお、上述した形状記憶合金製部材の製造方法は、変態点Asの温度が0℃以下である形状記憶合金に好適に用いることができる。本発明によると、変態点Asの温度が0℃以下のものであっても、良好な二方向性を付与することができる。
【0012】
また、本発明は、形状記憶合金を用いた新規なアクチュエータを提供する。すなわち、本発明のアクチュエータは、被駆動部を駆動するアクチュエータであり、被駆動部に接続される形状記憶合金製部材を備えている。この形状記憶合金製部材は、その温度が第1温度より低下すると第1形体となり、その温度が第1温度より高い第2温度を超えると第2形体となる。そして、形状記憶合金製部材の表面の少なくとも一部に表面圧縮残留応力が付与されている。
このアクチュエータは、被駆動部が二方向性を有する形状記憶合金製部材に接続されている。このため、形状記憶合金製部材が2方向に動くと、その動きに応じて被駆動部が2方向に駆動される。二方向性を有する形状記憶合金製部材を用いることで、アクチュエータを簡易な構成とすることができる。また、形状記憶合金製部材の表面の少なくとも一部に表面圧縮残留応力が付与されているため、充分な機械的強度を有している。
【0013】
上記のアクチュエータの一例としては、形状記憶合金製部材は、その一端が固定端とされる一方で他端が自由端として用いられる板部材とすることができる。そして、板部材の二つの表面のうち一方の表面に、他方の表面よりも多くの表面圧縮残留応力が付与されている。
板部材の一方の表面により多くの表面残留応力を付与することで、板部材が直線状となる形体と、屈曲する形体とに変化させることができる。
なお、板部材の一方の表面には、その全体に表面圧縮残留応力が付与されていてもよいし、その一部に表面圧縮残留応力が付与されていてもよい。また、表面全体に均一な表面圧縮残留応力が付与され、その表面の一部にさらに多くの表面圧縮残留応力が付与されていてもよい。屈曲部となる部位に多くの表面圧縮残留応力を付与することで、より良好に二方向性を付与することができる。
また、板部材の他方の表面には、表面圧縮残留応力が付与されていなくてもよいし、表面圧縮残留応力が付与されていてもよい。他方の表面にも表面圧縮残留応力を付与することで、板部材の疲労強度を高めることができる。
【0014】
上記のアクチュエータでは、形状記憶合金製部材を、上記した製造方法のいずれかにより製作することができる。これによって、良好な二方向性を有するアクチュエータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係るアクチュエータの製造方法の手順を示すフローチャート。
【図2】各変態点を説明するための図。
【図3】ショットピーニング処理を行う装置を説明するための図。
【図4】本発明の一実施例に係るアクチュエータの斜視図(室温時)。
【図5】本発明の一実施例に係るアクチュエータの斜視図(冷却時)。
【図6】本実施例のアクチュエータの作用を説明するための図。
【図7】本実施例とは異なる他のアクチュエータの作用を説明するための図。
【図8】本実施例とは異なる他のアクチュエータの作用を説明するための図。
【図9】本実施例とは異なる他のアクチュエータの作用を説明するための図。
【図10】実験例の形状記憶合金製部材の写真(冷却時)。
【図11】実験例の形状記憶合金製部材の写真(加熱時)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
下記に詳細に説明する実施例の主要な特徴を最初に列記する。
(特徴1) 金属材料粉末から燃焼合成法によって製造した形状記憶合金を鋳造により板材に成形する。
(特徴2) 鋳造は精密鋳造法(ロストワックス法)によって行われる。
(特徴3) Ni55at%,残りTiのNiTi系の形状記憶合金を用いる。
(特徴4) 板材(形状記憶合金)の両面にショットピーニングが行われる。板材(形状記憶合金)の一方の表面に他方の表面よりも多くのショットピーニングが行われる。
【実施例】
【0017】
(第1実施例) 本発明の一実施例に係る製造方法について説明する。まず、本実施例の製造方法によって製造される形状記憶合金製のアクチュエータについて、図面を参照して説明する。図4,5は本実施例に係るアクチュエータを示している。図4,5に示すように、アクチュエータは板材30である。板材30は、Ni54〜56at%,残りTiのNiTi系の形状記憶合金から形成されている。Niを54〜56at%含んでいるため、この形状記憶合金の変態点Mfの温度は約−60℃となっている。(なお、各変態点については後で詳述する。)このNiTi系形状記憶合金には、仕様に応じて他の元素(例えば、Cr,Fe,Co,V,Mn,Mo,B,Cu,Nb等)を加えることができる。
板材30の一端42(以下、平面取付部42という。)がボルト40,44によってハウジング等に固定される。板材30の他端34(以下、自由端という)には、図示しない被駆動部材が接続される。このため、温度変化に応じて板材30の形状が変化すると、板材30の他端34が図4に示す形体と図5に示す形体との間で変化するため、それによって、被駆動部材が上下に揺動する(上下に駆動される)。
【0018】
板材30は、後述する形状記憶熱処理によって曲面状の形体(図4に示す形体)に記憶されている。また、板材30の表面(図4,5の表面)には、後述するショットピーニング処理によって表面圧縮残留応力が付与されている。表面圧縮残留応力が付与される領域は、固定端42(図の一点鎖線で示される境界から固定端側の領域)を除いた領域(自由端34側の領域)とされている。
【0019】
上述したように、板材30は曲面状の形体(図4に示す形体)に形状記憶処理され、かつ、板材30の表面にはショットピーニングによって表面圧縮残留応力が付与されている。このため、板材30を冷却して温度が所定温度(例えば、−30℃)以下となると、板材30は図5に示す形体となる。また、板材30を加熱して温度が所定温度(例えば、0℃)以上となると、板材30は図4に示す形体となる。
すなわち、図6に示すように、板材30裏面(図4,5では表面)にショットピーニング処理が行われると、板材30の裏面に加工硬化された領域(以下、ショットピーニング部という)が形成される。ショットピーニング部が形成されると、ショットピーニング部では温度変化による形状変化が生じ難くなる。このため、板材30を冷却し、板材30のショットピーニング部以外の領域がマルテンサイト化すると、そのマルテンサイト化した領域は収縮する一方、ショットピーニング部の形状変化は抑えられる。このため、板材30は、図5に示す形体に変化する。一方、板材30を加熱し、板材30のショットピーニング部以外の領域がオーステナイト化すると、そのオーステナイト化した領域は伸長する。このため、板材30は図4に示す形体に変化する。
【0020】
次に、上述したアクチュエータを製造する製造方法について説明する。図1には本実施例の製造方法のフローチャートが示されている。図1に示すように、本実施例のアクチュエータは、燃焼合成工程(S10)、精密鋳造工程(S12)、形状記憶工程(S14)、冷却工程(S16)、ショットピーニング工程(S18)が行われることによって製造される。以下、各工程を説明する。
【0021】
[燃焼合成工程] 燃焼合成工程では、先ず、目的の組成比になるように金属粉末原料を精密に混合する。配合比は、Ni54〜56at%、残りNi程度とし、所定の変態温度になるように設定する。次いで、燃焼合成反応装置を用いて、燃焼合成法によって原料混合粉末から化合物へ合成する。すなわち、燃焼合成反応装置内で原料混合粉末の一端を、放電あるいは電熱線の通電等の点火手段にて強熱する。強熱された点火点は着火温度に到達し、これによって化学反応が始まる。化学反応によって生成熱が生じるため、化学反応が行われる合成層に隣接して生成熱によって加熱されて加熱層が形成される。この生成熱が周りに伝播し連鎖反応を起こすとともに加熱層と合成層が連続的に形成され、最終的に全体が化合物(合金)となるのである。このとき、原料は巨視的には溶解されることなく、不純物の極めて少ない金属間化合物が焼結された状態でできあがる。なお、燃焼合成法の詳細な手順は、例えば、特許1816876号に開示されている。
【0022】
[精密鋳造工程] ロストワックス法によって板材30を鋳造する。具体的には、まず、屈曲状の形体(図4に示す形体)となる内部空間を備えた型を用意する。次に、上記の燃焼合成法によって得られた合金を溶解し、溶解した合金を型内に流し込む。その後、型内の合金を冷却し凝固させた後、型より取出す。この間、特別な熱処理を必要としない。
なお、鋳造方式としては、上記のロストワックス法以外にも、砂型鋳造、シェルモールド、遠心鋳造など他の方法を用いることができる。これらの中から製品の形状寸法や量産性を加味して、適宜選択することができる。
【0023】
[記憶処理工程] 型から取り出した部材を300〜600℃の範囲内で数分間〜数時間程度記憶処理をすることによって、その部材に形状記憶特性を付与する。上述したように、板材30は屈曲状の形体(図4に示す形体)で鋳造されている。このため、記憶処理工程では、拘束型を必要とせず、フリーな状態で形状記憶熱処理を実施することができる。なお、型から取り出した形状を変形・変更して形状記憶処理を施す場合には、当然のことながら拘束型を用いて熱処理を施すことができる。
【0024】
[冷却工程] 記憶処理した板材30を変態点Mfの温度以下の温度に冷却する。ここで、形状記憶合金の各変態点Ms,Mf,As,Afについて説明しておく。
図2に、形状記憶合金の各変態点の関係が示されている。図2に示すように、オーステナイト化している形状記憶合金を冷却し、その温度が変態点Msとなると、形状記憶合金のマルテンサイト化が始まる。(図2に示すように、変態点Msより高い温度でマルテンサイト化が始まる。すなわち、変態点Msはマルテンサイト化が始まる目安となる温度である。)さらに形状記憶合金を冷却し、その温度が変態点Mfとなると、形状記憶合金の結晶粒が略完全にマルテンサイト化する。(図2に示すように、マルテンサイト化が完全に終了する温度は変態点Mfより低い温度となる。変態点Mfはマルテンサイト化が終了する目安となる温度である。)したがって、変態点Msはマルテンサイト化を開始する温度であり、変態点Mfはマルテンサイト化が終了する温度である。なお、形状記憶合金の温度が変態点Mfまで低下しても、結晶粒と結晶粒の間に存在する粒界まではマルテンサイト化していない。このため、完全マルテンサイト化する温度は、変態点Mfよりも低い温度となる。
一方、マルテンサイト化している形状記憶合金を加熱し、その温度が変態点Asとなると、形状記憶合金のオーステナイト化が始まる。(図2に示すように、変態点Asより低い温度でオーステナイト化が始まる。すなわち、変態点Asはオーステナイト化が始まる目安となる温度である。)さらに形状記憶合金を加熱し、その温度が変態点Afとなると、形状記憶合金の結晶粒が略完全にオーステナイト化する。(図2に示すように、オーステナイト化が完全に終了する温度は変態点Afより高い温度となる。変態点Afはオーステナイト化が終了する目安となる温度である。)したがって、変態点Asはオーステナイト化を開始する温度であり、変態点Afはオーステナイト化が終了する温度である。
上述した説明から明らかなように、冷却工程では板材30を変態点Mf以下の温度まで冷却する。このため、板材30の結晶粒は略完全にマルテンサイト化していることとなる。なお、板材30を冷却する温度としては、板材30が完全マルテンサイト化する温度(例えば、Mf−(50〜100)℃)とすることが好ましい。板材30を完全マルテンサイト化することで、板材30の粒界までマルテンサイト化することができる。
【0025】
[ショットピーニング工程] 冷却した板材30の一方の面(すなわち、図4,5の裏面)にショットピーニングを行う。ショットピーニングを行う領域は、板材30の固定端42を除く領域とされる。ショットピーニング中は、板材30の温度を変態点As以下の温度に維持する。このため、ショットピーニング中に板材30の結晶粒がオーステナイト化することが防止される。なお、ショットピーニングの方法、条件は、板材30に要求される仕様に応じて、適宜変えることができる。
【0026】
ここで、上述したショットピーニング処理を実施するためのワーク冷却装置の一例について説明する。図3に示すように、ワーク冷却装置10は、両端が開放されたケーシング12を備えている。ケーシング12の一端(図の上端)にはキャップ20が取付けられている。キャップ20によってケーシング12の一端が閉じられている。また、ケーシング12の他端(図の下端)には、ホルダー14を介してワーク取付台16が取付けられている。ワーク取付台16の下面には、ワークW(すなわち、板材30)が取付られる。ワーク取付台16の上面にはヒートシンク18が取付けられている。ヒートシンク18はケーシング12内に位置している。ケーシング12内には冷却材22(例えば、液体窒素)が封入されている。
上記のワーク冷却装置10の下方には公知のショット装置が配置される。ショット装置から投射されるショット材がワークWに衝突し、ワークWにショットピーニング処理が施される。ショットピーニング処理が行われると、ワークWの温度が上昇する。この際、ワークWで発生した熱は、ワーク取付台16及びヒートシンク18を介して冷却材22に流れる。これによって、ワークWが冷却され、ワークWの温度を所望の温度に管理することができる。なお、ヒートシンク18に代えてペルチェ素子を配置し、ペルチェ素子によってワークWを冷却するようにしてもよい。
【0027】
上記のようにして製造されたアクチュエータ(板材30)は、板材30の結晶粒全体がマルテンサイト化した状態でショットピーニング処理が行われる。このため、板材30に良好な二方向性を安定して付与することができる。また、ショットピーニングされることで耐疲労性が向上するため、板材30は十分な機械的強度を有している。
また、本実施例では、金属材料粉末から燃焼合成方法によって製造した形状記憶合金を溶解し、板材30を鋳造している。このため、重力偏析の影響が少なく、均質な特性を有する板材30を製造することができる。
【0028】
なお、低温(マルテンサイト状態)でショットピーニングすることによって形状記憶合金に2方向性を良好に付与できる理由は、下記の理由によるものと思われる。すなわち、形状記憶合金は、低温時(マルテンサイト状態)には柔軟性があって変形しやすい状態となるのに対し、低温(マルテンサイト状態)から高温(オーステナイト状態)に変化すると、記憶した形状に戻るという性質をもっている。形状記憶合金に2方向性を付与するためには、高温側の形体と低温側の形体を形状記憶合金に記憶させる必要がある。高温側の形体(形状)は形状記憶熱処理により記憶されるため、高温側の形体のために、特に形状記憶合金に加工を加えることは不要となる。これに対して、低温側の形体(形状)とするためには、何らかの加工(上記の実施例ではショットピー二ング)が必要となり、この加工によって低温側の形体(形状)を作り出す必要性がある。このようなことから、高温状態で加工(例えば、ショットピーニング)を行い、形状記憶熱処理した形状から変形させることは好ましいことではないこととなる。一方、低温側では出来るだけ低温にして高温時の組織(オーステナイト)を無くして加工(例えば、ショットピー二ング)を行い、低温側の形体(形状)を強制的に記憶させることが好ましいこととなる。このため、形状記憶合金を低温にして加工(例えば、ショットピーニング)を行うことで、形状記憶合金に良好に二方向性を付与することができるものと考えられる。なお、結晶と結晶の間の粒界はなかなか組織の変化が生じず変態点Mfの温度以下になっても粒界内はオーステナイト組織が残っていることがある。このため、できる限りこの部分をマルテンサイト化した状態で加工(例えば、ショットピー二ング)することで、形状記憶合金に二方向性を良好に付与することができる。
【0029】
なお、本実施例では、板材30の一方の表面にのみショットピーニングを行ったが、板材30の他方の表面にもショットピーニングを行ってもよい。板材の両面にショットピーニングを行うことによって、板材の疲労強度を向上することができる。板材の両面にショットピーニングを行う場合は、板材の一方の表面に他方の表面よりも多くのショットピーニング(表面圧縮残留応力)を付与することで、板材に二方向性を付与することができる。さらに、板材の屈曲側の表面(曲率半径が小さくなる側の表面)の屈曲部近傍に多くのショットピーニング(表面圧縮残留応力)を付与するようにしてもよい。表面圧縮残留応力を部分的に多くすることで、板材に良好な二方向性を付与することができる。
【0030】
上述したアクチュエータの好適な適用例としては、航空機の翼に取付けられるボルテックスジェネレータ(詳しくは、国際公開WO2007/77620A1を参照)や、航空機のジェットエンジンのノイズを抑制するシェブロン(詳しくは、特開2008−519937号公報、特開2008−519939号公報を参照)を駆動するアクチュエータとして用いることができる。
航空機に使用されるこれらの部品に二方向性形状記憶合金をアクチュエータとして使用する場合、上空(例えば、−40℃以下の温度)で第1形体に変化し、地上付近(例えば、温度−20℃以上の温度)で第2形体に変化することが望まれる。また、製品形状を板状にする必要があることから鋳造により成形することが望まれる一方で、その機械的な強度が高いことが求められる。
本実施例の形状記憶合金の製造方法では、上記の用途に用いられる形状記憶合金であっても、ショットピーニング時の板材の温度を管理することで、安定して良好な二方向性を板材に与えることができる。また、鋳造方法により所定形状に成形するため、板状や複雑な形状に成形することができる一方で、ショットピーニングによって十分な機械的強度を得ることができる。これらのため、本実施例のアクチュエータは、上記の航空機用部品を駆動するアクチュエータに好適に用いることができる。また、二方向性を有する形状記憶合金を用いることで、アクチュエータの構造を簡略化でき、低コスト化を図ることもできる。
【0031】
なお、上述した実施例では、冷却すると板材30が直線状の状態(図5に示すように平面状態)となり、加熱すると板材30が屈曲した状態(図4に示すように支持部材に対して起立状態)となるように構成したが、本発明のアクチュエータはこのような例に限られない。例えば、図7に示すように、直線状の状態に形状記憶処理を行い、一方の面にショットピーニング処理を行う。これによって、冷却すると屈曲状態となり、加熱すると平面状態となるアクチュエータを製作することができる。また、ショットピーニング処理の強度を調整することで、冷却(又は加熱)時に曲率半径が小さい状態となり、加熱(又は冷却)時に曲率半径が大きい状態とすることができる。このように構成すると、支持部材に対して起立した状態と、起立した状態と平面状態(支持部材と平行となる状態)の間の中間の状態に切り換えることができる。
また、図8に示すように、形状記憶合金の棒材またはチューブ材に対して引張応力が作用しない状態で形状記憶処理を行い、次いで、引張り応力を作用させた状態でその全周にショットピーニング処理を行うようにしてもよい。このようにすることで、冷却すると伸長し、加熱すると収縮するよう変形させることができる。さらに、図9に示すように、形状記憶合金の棒材に対してねじり応力が作用しない状態で形状記憶処理を行い、次いで、ねじり応力を作用させた状態でその全周にショットピーニング処理を行うようにしてもよい。このようにすることで、冷却すると回転し、加熱すると元に戻るように変形させることができる。
【0032】
(実験例) 最後に、本実施例の製造方法によって実際に板材を製作した例について説明する。まず、Ni粉末とTi粉末の組成比(Ni55at%,Ti45at%)を調整し、燃焼合成法によりNiTi系合金を合成した。このNiTi系合金の変態点Ms,Mf,As,Afは、それぞれ約13℃,−60℃,−52℃,39℃であった。なお、各変態点はDSC試験(JISH7101)によって測定することができる。そして、このNiTi系合金を用いて精密鋳造法により板材(縦42mm,横34mm,厚み0.75〜0.90mm)を製作した。
【0033】
次に、製作した板材に形状記憶熱処理を施した。具体的な熱処理条件は、450℃で30分保持後・水冷の条件で行った。形状記憶処理は、板材を屈曲状態に保持した状態で行った。次に、板材を−170℃以下に冷却し、板材の一方の面にショットピーニング処理を行った。ショットピーニングには、0.8mm鋼球(Hv800)を用いた。投射方法には超音波ショットピーニングを用い、投射条件は超音波振幅が70μmの条件とした。また、カバレージは4000%であり、処理時間は30秒×8回であった。
【0034】
このようにして製作された板材をコールドスプレー(LPGガスまたはLPG)により−30℃以下に冷却すると、図10に示すように板材の屈曲角度が小さくなり、起立状態に近づいた。また、ヒートガンにより板材を40℃以上に加熱すると、図11に示すように板材の屈曲角度が大きくなった。図10,11の写真に示すように、板材に良好な二方向性を付与できたことが確認できた。
【0035】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0036】
10:ワーク冷却装置
12:ケーシング
14:ホルダー
16:ワーク取付台
18:ヒートシンク
20:キャップ
22:冷却材
30:板材(アクチュエータ)
34:自由端
42:固定端
【技術分野】
【0001】
本発明は、二方向性を有する形状記憶合金製部材を製造する方法と、そのような形状記憶合金製部材を利用したアクチュエータに関する。ここで、「形状記憶合金製部材」とは、形状記憶合金によって製作された機械部品を意味している。
【背景技術】
【0002】
形状記憶合金は温度変化により形状が変化する特性を有している。このような特性を有する形状記憶合金には、温度変化により形状が一方向にのみ変化する一方向性形状記憶合金と、温度変化により形状が二方向に変化する二方向性形状記憶合金がある。一方向性形状記憶合金を二方向に動かすためには、一方向性形状記憶合金をその形状変化方向とは反対の方向に付勢する弾性部品(スプリング等)が必要となる。一方、二方向性形状記憶合金は、このような弾性部品が不要となるため、構造を簡易にでき、かつ、製造コストを低減できる等の利点を有している。
【0003】
特許文献1には、二方向性を有する形状記憶合金製部材を製造する方法が開示されている。この製造方法では、まず、形状記憶合金に通常の形状記憶処理を実施する。次いで、形状記憶処理した形状記憶合金を変態点Ms+20℃以下の温度で所定の形状に固定し、ショットピーニングする。これによって、二方向性を有する形状記憶合金製部材を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−109455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法で製造された形状記憶合金は、ある程度の二方向性が得られるものの、良好な二方向性を得られない場合があった。特に、低温(例えば、−35〜0℃)から室温(例えば、20℃)となったときに第2形体に変形し、室温から再び冷却して低温(例えば、−35〜0℃)に戻ったときに第1形体に変形するような形状記憶合金を製造しようとした場合に、良好な二方向性が得られなかった。
【0006】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、良好な二方向性を得ることができる形状記憶合金製部材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、良好な二方向性が得られない原因について種々の検討を行った。その結果、ショットピーニング処理をする際の形状記憶合金の温度が大きく影響することが判明した。すなわち、本発明者らの行った実験によると、形状記憶合金がマルテンサイト化した状態でショットピーニングを行うと、良好な二方向性を形状記憶合金に付与できるという知見を得た。本発明は、その知見に基づいて創作された。
【0008】
本発明の形状記憶合金製部材の製造方法は、形状記憶合金に形状記憶処理を実施する記憶処理工程と、記憶処理工程で形状記憶処理された形状記憶合金を変態点Mfの温度以下の温度に冷却する冷却工程と、冷却工程で変態点Mfの温度以下の温度に冷却した形状記憶合金にショットピーニングを行うショットピーニング工程を有している。そして、ショットピーニング工程では、形状記憶合金が変態点Asの温度以下の温度に維持されていることを特徴とする。
この製造方法では、ショットピーニングを実施する前に形状記憶合金を変態点Mfの温度以下の温度に冷却し、形状記憶合金の結晶粒の略全体をマルテンサイト化する。そして、結晶粒全体がマルテンサイト化した状態で形状記憶合金にショットピーニングを行う。ショットピーニングを行っている間は、形状記憶合金の温度が変態点Asの温度以下の温度に維持される。すなわち、ショットピーニングが行われている間は、形状記憶合金の結晶粒がオーステナイト化することが防止される。この製造方法では、形状記憶合金の結晶粒全体がマルテンサイトとなった状態でショットピーニングが行われるため、良好な二方向性を付与することができる。すなわち、特許文献1の技術では、変態点Ms+20℃以下の温度でショットピーニングを行うこととしているため、オーステナイト状態の形状記憶合金にショットピーニングする場合が含まれている。このため、特許文献1の技術では、良好な二方向性を付与することができない場合がある。一方、本発明に係る製造方法では、略全体がマルテンサイト状態となった形状記憶合金にショットピーニングするため、良好な二方向性を付与することができる。
【0009】
上記の形状記憶合金製部材の製造方法においては、記憶処理工程前に形状記憶合金を所定形状に鋳造する鋳造工程をさらに有することができる。そして、記憶処理工程では、鋳造工程によって所定形状に鋳造された形状記憶合金に形状記憶処理を実施することが好ましい。
この製造方法では、鋳造により形状記憶合金を所定形状に成形するため、板状や複雑な形状の形状記憶合金製部材を好適に製造することができる。また、鋳造によって所定形状に成形しても、ショットピーニングにより耐疲労性が向上するため、充分な機械的強度を備えることができる。
【0010】
ここで、前記冷却工程は、形状記憶合金が完全マルテンサイト化する温度よりも低い温度まで冷却することが好ましい。「完全マルテンサイト化」とは、結晶粒だけでなく、結晶粒と結晶粒の境界に存在する粒界までがマルテンサイト化することを意味している。このような構成によると、粒界までマルテンサイト化した状態でショットピーニングが行われるため、より良好な二方向性を付与することができる。
【0011】
なお、上述した形状記憶合金製部材の製造方法は、変態点Asの温度が0℃以下である形状記憶合金に好適に用いることができる。本発明によると、変態点Asの温度が0℃以下のものであっても、良好な二方向性を付与することができる。
【0012】
また、本発明は、形状記憶合金を用いた新規なアクチュエータを提供する。すなわち、本発明のアクチュエータは、被駆動部を駆動するアクチュエータであり、被駆動部に接続される形状記憶合金製部材を備えている。この形状記憶合金製部材は、その温度が第1温度より低下すると第1形体となり、その温度が第1温度より高い第2温度を超えると第2形体となる。そして、形状記憶合金製部材の表面の少なくとも一部に表面圧縮残留応力が付与されている。
このアクチュエータは、被駆動部が二方向性を有する形状記憶合金製部材に接続されている。このため、形状記憶合金製部材が2方向に動くと、その動きに応じて被駆動部が2方向に駆動される。二方向性を有する形状記憶合金製部材を用いることで、アクチュエータを簡易な構成とすることができる。また、形状記憶合金製部材の表面の少なくとも一部に表面圧縮残留応力が付与されているため、充分な機械的強度を有している。
【0013】
上記のアクチュエータの一例としては、形状記憶合金製部材は、その一端が固定端とされる一方で他端が自由端として用いられる板部材とすることができる。そして、板部材の二つの表面のうち一方の表面に、他方の表面よりも多くの表面圧縮残留応力が付与されている。
板部材の一方の表面により多くの表面残留応力を付与することで、板部材が直線状となる形体と、屈曲する形体とに変化させることができる。
なお、板部材の一方の表面には、その全体に表面圧縮残留応力が付与されていてもよいし、その一部に表面圧縮残留応力が付与されていてもよい。また、表面全体に均一な表面圧縮残留応力が付与され、その表面の一部にさらに多くの表面圧縮残留応力が付与されていてもよい。屈曲部となる部位に多くの表面圧縮残留応力を付与することで、より良好に二方向性を付与することができる。
また、板部材の他方の表面には、表面圧縮残留応力が付与されていなくてもよいし、表面圧縮残留応力が付与されていてもよい。他方の表面にも表面圧縮残留応力を付与することで、板部材の疲労強度を高めることができる。
【0014】
上記のアクチュエータでは、形状記憶合金製部材を、上記した製造方法のいずれかにより製作することができる。これによって、良好な二方向性を有するアクチュエータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係るアクチュエータの製造方法の手順を示すフローチャート。
【図2】各変態点を説明するための図。
【図3】ショットピーニング処理を行う装置を説明するための図。
【図4】本発明の一実施例に係るアクチュエータの斜視図(室温時)。
【図5】本発明の一実施例に係るアクチュエータの斜視図(冷却時)。
【図6】本実施例のアクチュエータの作用を説明するための図。
【図7】本実施例とは異なる他のアクチュエータの作用を説明するための図。
【図8】本実施例とは異なる他のアクチュエータの作用を説明するための図。
【図9】本実施例とは異なる他のアクチュエータの作用を説明するための図。
【図10】実験例の形状記憶合金製部材の写真(冷却時)。
【図11】実験例の形状記憶合金製部材の写真(加熱時)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
下記に詳細に説明する実施例の主要な特徴を最初に列記する。
(特徴1) 金属材料粉末から燃焼合成法によって製造した形状記憶合金を鋳造により板材に成形する。
(特徴2) 鋳造は精密鋳造法(ロストワックス法)によって行われる。
(特徴3) Ni55at%,残りTiのNiTi系の形状記憶合金を用いる。
(特徴4) 板材(形状記憶合金)の両面にショットピーニングが行われる。板材(形状記憶合金)の一方の表面に他方の表面よりも多くのショットピーニングが行われる。
【実施例】
【0017】
(第1実施例) 本発明の一実施例に係る製造方法について説明する。まず、本実施例の製造方法によって製造される形状記憶合金製のアクチュエータについて、図面を参照して説明する。図4,5は本実施例に係るアクチュエータを示している。図4,5に示すように、アクチュエータは板材30である。板材30は、Ni54〜56at%,残りTiのNiTi系の形状記憶合金から形成されている。Niを54〜56at%含んでいるため、この形状記憶合金の変態点Mfの温度は約−60℃となっている。(なお、各変態点については後で詳述する。)このNiTi系形状記憶合金には、仕様に応じて他の元素(例えば、Cr,Fe,Co,V,Mn,Mo,B,Cu,Nb等)を加えることができる。
板材30の一端42(以下、平面取付部42という。)がボルト40,44によってハウジング等に固定される。板材30の他端34(以下、自由端という)には、図示しない被駆動部材が接続される。このため、温度変化に応じて板材30の形状が変化すると、板材30の他端34が図4に示す形体と図5に示す形体との間で変化するため、それによって、被駆動部材が上下に揺動する(上下に駆動される)。
【0018】
板材30は、後述する形状記憶熱処理によって曲面状の形体(図4に示す形体)に記憶されている。また、板材30の表面(図4,5の表面)には、後述するショットピーニング処理によって表面圧縮残留応力が付与されている。表面圧縮残留応力が付与される領域は、固定端42(図の一点鎖線で示される境界から固定端側の領域)を除いた領域(自由端34側の領域)とされている。
【0019】
上述したように、板材30は曲面状の形体(図4に示す形体)に形状記憶処理され、かつ、板材30の表面にはショットピーニングによって表面圧縮残留応力が付与されている。このため、板材30を冷却して温度が所定温度(例えば、−30℃)以下となると、板材30は図5に示す形体となる。また、板材30を加熱して温度が所定温度(例えば、0℃)以上となると、板材30は図4に示す形体となる。
すなわち、図6に示すように、板材30裏面(図4,5では表面)にショットピーニング処理が行われると、板材30の裏面に加工硬化された領域(以下、ショットピーニング部という)が形成される。ショットピーニング部が形成されると、ショットピーニング部では温度変化による形状変化が生じ難くなる。このため、板材30を冷却し、板材30のショットピーニング部以外の領域がマルテンサイト化すると、そのマルテンサイト化した領域は収縮する一方、ショットピーニング部の形状変化は抑えられる。このため、板材30は、図5に示す形体に変化する。一方、板材30を加熱し、板材30のショットピーニング部以外の領域がオーステナイト化すると、そのオーステナイト化した領域は伸長する。このため、板材30は図4に示す形体に変化する。
【0020】
次に、上述したアクチュエータを製造する製造方法について説明する。図1には本実施例の製造方法のフローチャートが示されている。図1に示すように、本実施例のアクチュエータは、燃焼合成工程(S10)、精密鋳造工程(S12)、形状記憶工程(S14)、冷却工程(S16)、ショットピーニング工程(S18)が行われることによって製造される。以下、各工程を説明する。
【0021】
[燃焼合成工程] 燃焼合成工程では、先ず、目的の組成比になるように金属粉末原料を精密に混合する。配合比は、Ni54〜56at%、残りNi程度とし、所定の変態温度になるように設定する。次いで、燃焼合成反応装置を用いて、燃焼合成法によって原料混合粉末から化合物へ合成する。すなわち、燃焼合成反応装置内で原料混合粉末の一端を、放電あるいは電熱線の通電等の点火手段にて強熱する。強熱された点火点は着火温度に到達し、これによって化学反応が始まる。化学反応によって生成熱が生じるため、化学反応が行われる合成層に隣接して生成熱によって加熱されて加熱層が形成される。この生成熱が周りに伝播し連鎖反応を起こすとともに加熱層と合成層が連続的に形成され、最終的に全体が化合物(合金)となるのである。このとき、原料は巨視的には溶解されることなく、不純物の極めて少ない金属間化合物が焼結された状態でできあがる。なお、燃焼合成法の詳細な手順は、例えば、特許1816876号に開示されている。
【0022】
[精密鋳造工程] ロストワックス法によって板材30を鋳造する。具体的には、まず、屈曲状の形体(図4に示す形体)となる内部空間を備えた型を用意する。次に、上記の燃焼合成法によって得られた合金を溶解し、溶解した合金を型内に流し込む。その後、型内の合金を冷却し凝固させた後、型より取出す。この間、特別な熱処理を必要としない。
なお、鋳造方式としては、上記のロストワックス法以外にも、砂型鋳造、シェルモールド、遠心鋳造など他の方法を用いることができる。これらの中から製品の形状寸法や量産性を加味して、適宜選択することができる。
【0023】
[記憶処理工程] 型から取り出した部材を300〜600℃の範囲内で数分間〜数時間程度記憶処理をすることによって、その部材に形状記憶特性を付与する。上述したように、板材30は屈曲状の形体(図4に示す形体)で鋳造されている。このため、記憶処理工程では、拘束型を必要とせず、フリーな状態で形状記憶熱処理を実施することができる。なお、型から取り出した形状を変形・変更して形状記憶処理を施す場合には、当然のことながら拘束型を用いて熱処理を施すことができる。
【0024】
[冷却工程] 記憶処理した板材30を変態点Mfの温度以下の温度に冷却する。ここで、形状記憶合金の各変態点Ms,Mf,As,Afについて説明しておく。
図2に、形状記憶合金の各変態点の関係が示されている。図2に示すように、オーステナイト化している形状記憶合金を冷却し、その温度が変態点Msとなると、形状記憶合金のマルテンサイト化が始まる。(図2に示すように、変態点Msより高い温度でマルテンサイト化が始まる。すなわち、変態点Msはマルテンサイト化が始まる目安となる温度である。)さらに形状記憶合金を冷却し、その温度が変態点Mfとなると、形状記憶合金の結晶粒が略完全にマルテンサイト化する。(図2に示すように、マルテンサイト化が完全に終了する温度は変態点Mfより低い温度となる。変態点Mfはマルテンサイト化が終了する目安となる温度である。)したがって、変態点Msはマルテンサイト化を開始する温度であり、変態点Mfはマルテンサイト化が終了する温度である。なお、形状記憶合金の温度が変態点Mfまで低下しても、結晶粒と結晶粒の間に存在する粒界まではマルテンサイト化していない。このため、完全マルテンサイト化する温度は、変態点Mfよりも低い温度となる。
一方、マルテンサイト化している形状記憶合金を加熱し、その温度が変態点Asとなると、形状記憶合金のオーステナイト化が始まる。(図2に示すように、変態点Asより低い温度でオーステナイト化が始まる。すなわち、変態点Asはオーステナイト化が始まる目安となる温度である。)さらに形状記憶合金を加熱し、その温度が変態点Afとなると、形状記憶合金の結晶粒が略完全にオーステナイト化する。(図2に示すように、オーステナイト化が完全に終了する温度は変態点Afより高い温度となる。変態点Afはオーステナイト化が終了する目安となる温度である。)したがって、変態点Asはオーステナイト化を開始する温度であり、変態点Afはオーステナイト化が終了する温度である。
上述した説明から明らかなように、冷却工程では板材30を変態点Mf以下の温度まで冷却する。このため、板材30の結晶粒は略完全にマルテンサイト化していることとなる。なお、板材30を冷却する温度としては、板材30が完全マルテンサイト化する温度(例えば、Mf−(50〜100)℃)とすることが好ましい。板材30を完全マルテンサイト化することで、板材30の粒界までマルテンサイト化することができる。
【0025】
[ショットピーニング工程] 冷却した板材30の一方の面(すなわち、図4,5の裏面)にショットピーニングを行う。ショットピーニングを行う領域は、板材30の固定端42を除く領域とされる。ショットピーニング中は、板材30の温度を変態点As以下の温度に維持する。このため、ショットピーニング中に板材30の結晶粒がオーステナイト化することが防止される。なお、ショットピーニングの方法、条件は、板材30に要求される仕様に応じて、適宜変えることができる。
【0026】
ここで、上述したショットピーニング処理を実施するためのワーク冷却装置の一例について説明する。図3に示すように、ワーク冷却装置10は、両端が開放されたケーシング12を備えている。ケーシング12の一端(図の上端)にはキャップ20が取付けられている。キャップ20によってケーシング12の一端が閉じられている。また、ケーシング12の他端(図の下端)には、ホルダー14を介してワーク取付台16が取付けられている。ワーク取付台16の下面には、ワークW(すなわち、板材30)が取付られる。ワーク取付台16の上面にはヒートシンク18が取付けられている。ヒートシンク18はケーシング12内に位置している。ケーシング12内には冷却材22(例えば、液体窒素)が封入されている。
上記のワーク冷却装置10の下方には公知のショット装置が配置される。ショット装置から投射されるショット材がワークWに衝突し、ワークWにショットピーニング処理が施される。ショットピーニング処理が行われると、ワークWの温度が上昇する。この際、ワークWで発生した熱は、ワーク取付台16及びヒートシンク18を介して冷却材22に流れる。これによって、ワークWが冷却され、ワークWの温度を所望の温度に管理することができる。なお、ヒートシンク18に代えてペルチェ素子を配置し、ペルチェ素子によってワークWを冷却するようにしてもよい。
【0027】
上記のようにして製造されたアクチュエータ(板材30)は、板材30の結晶粒全体がマルテンサイト化した状態でショットピーニング処理が行われる。このため、板材30に良好な二方向性を安定して付与することができる。また、ショットピーニングされることで耐疲労性が向上するため、板材30は十分な機械的強度を有している。
また、本実施例では、金属材料粉末から燃焼合成方法によって製造した形状記憶合金を溶解し、板材30を鋳造している。このため、重力偏析の影響が少なく、均質な特性を有する板材30を製造することができる。
【0028】
なお、低温(マルテンサイト状態)でショットピーニングすることによって形状記憶合金に2方向性を良好に付与できる理由は、下記の理由によるものと思われる。すなわち、形状記憶合金は、低温時(マルテンサイト状態)には柔軟性があって変形しやすい状態となるのに対し、低温(マルテンサイト状態)から高温(オーステナイト状態)に変化すると、記憶した形状に戻るという性質をもっている。形状記憶合金に2方向性を付与するためには、高温側の形体と低温側の形体を形状記憶合金に記憶させる必要がある。高温側の形体(形状)は形状記憶熱処理により記憶されるため、高温側の形体のために、特に形状記憶合金に加工を加えることは不要となる。これに対して、低温側の形体(形状)とするためには、何らかの加工(上記の実施例ではショットピー二ング)が必要となり、この加工によって低温側の形体(形状)を作り出す必要性がある。このようなことから、高温状態で加工(例えば、ショットピーニング)を行い、形状記憶熱処理した形状から変形させることは好ましいことではないこととなる。一方、低温側では出来るだけ低温にして高温時の組織(オーステナイト)を無くして加工(例えば、ショットピー二ング)を行い、低温側の形体(形状)を強制的に記憶させることが好ましいこととなる。このため、形状記憶合金を低温にして加工(例えば、ショットピーニング)を行うことで、形状記憶合金に良好に二方向性を付与することができるものと考えられる。なお、結晶と結晶の間の粒界はなかなか組織の変化が生じず変態点Mfの温度以下になっても粒界内はオーステナイト組織が残っていることがある。このため、できる限りこの部分をマルテンサイト化した状態で加工(例えば、ショットピー二ング)することで、形状記憶合金に二方向性を良好に付与することができる。
【0029】
なお、本実施例では、板材30の一方の表面にのみショットピーニングを行ったが、板材30の他方の表面にもショットピーニングを行ってもよい。板材の両面にショットピーニングを行うことによって、板材の疲労強度を向上することができる。板材の両面にショットピーニングを行う場合は、板材の一方の表面に他方の表面よりも多くのショットピーニング(表面圧縮残留応力)を付与することで、板材に二方向性を付与することができる。さらに、板材の屈曲側の表面(曲率半径が小さくなる側の表面)の屈曲部近傍に多くのショットピーニング(表面圧縮残留応力)を付与するようにしてもよい。表面圧縮残留応力を部分的に多くすることで、板材に良好な二方向性を付与することができる。
【0030】
上述したアクチュエータの好適な適用例としては、航空機の翼に取付けられるボルテックスジェネレータ(詳しくは、国際公開WO2007/77620A1を参照)や、航空機のジェットエンジンのノイズを抑制するシェブロン(詳しくは、特開2008−519937号公報、特開2008−519939号公報を参照)を駆動するアクチュエータとして用いることができる。
航空機に使用されるこれらの部品に二方向性形状記憶合金をアクチュエータとして使用する場合、上空(例えば、−40℃以下の温度)で第1形体に変化し、地上付近(例えば、温度−20℃以上の温度)で第2形体に変化することが望まれる。また、製品形状を板状にする必要があることから鋳造により成形することが望まれる一方で、その機械的な強度が高いことが求められる。
本実施例の形状記憶合金の製造方法では、上記の用途に用いられる形状記憶合金であっても、ショットピーニング時の板材の温度を管理することで、安定して良好な二方向性を板材に与えることができる。また、鋳造方法により所定形状に成形するため、板状や複雑な形状に成形することができる一方で、ショットピーニングによって十分な機械的強度を得ることができる。これらのため、本実施例のアクチュエータは、上記の航空機用部品を駆動するアクチュエータに好適に用いることができる。また、二方向性を有する形状記憶合金を用いることで、アクチュエータの構造を簡略化でき、低コスト化を図ることもできる。
【0031】
なお、上述した実施例では、冷却すると板材30が直線状の状態(図5に示すように平面状態)となり、加熱すると板材30が屈曲した状態(図4に示すように支持部材に対して起立状態)となるように構成したが、本発明のアクチュエータはこのような例に限られない。例えば、図7に示すように、直線状の状態に形状記憶処理を行い、一方の面にショットピーニング処理を行う。これによって、冷却すると屈曲状態となり、加熱すると平面状態となるアクチュエータを製作することができる。また、ショットピーニング処理の強度を調整することで、冷却(又は加熱)時に曲率半径が小さい状態となり、加熱(又は冷却)時に曲率半径が大きい状態とすることができる。このように構成すると、支持部材に対して起立した状態と、起立した状態と平面状態(支持部材と平行となる状態)の間の中間の状態に切り換えることができる。
また、図8に示すように、形状記憶合金の棒材またはチューブ材に対して引張応力が作用しない状態で形状記憶処理を行い、次いで、引張り応力を作用させた状態でその全周にショットピーニング処理を行うようにしてもよい。このようにすることで、冷却すると伸長し、加熱すると収縮するよう変形させることができる。さらに、図9に示すように、形状記憶合金の棒材に対してねじり応力が作用しない状態で形状記憶処理を行い、次いで、ねじり応力を作用させた状態でその全周にショットピーニング処理を行うようにしてもよい。このようにすることで、冷却すると回転し、加熱すると元に戻るように変形させることができる。
【0032】
(実験例) 最後に、本実施例の製造方法によって実際に板材を製作した例について説明する。まず、Ni粉末とTi粉末の組成比(Ni55at%,Ti45at%)を調整し、燃焼合成法によりNiTi系合金を合成した。このNiTi系合金の変態点Ms,Mf,As,Afは、それぞれ約13℃,−60℃,−52℃,39℃であった。なお、各変態点はDSC試験(JISH7101)によって測定することができる。そして、このNiTi系合金を用いて精密鋳造法により板材(縦42mm,横34mm,厚み0.75〜0.90mm)を製作した。
【0033】
次に、製作した板材に形状記憶熱処理を施した。具体的な熱処理条件は、450℃で30分保持後・水冷の条件で行った。形状記憶処理は、板材を屈曲状態に保持した状態で行った。次に、板材を−170℃以下に冷却し、板材の一方の面にショットピーニング処理を行った。ショットピーニングには、0.8mm鋼球(Hv800)を用いた。投射方法には超音波ショットピーニングを用い、投射条件は超音波振幅が70μmの条件とした。また、カバレージは4000%であり、処理時間は30秒×8回であった。
【0034】
このようにして製作された板材をコールドスプレー(LPGガスまたはLPG)により−30℃以下に冷却すると、図10に示すように板材の屈曲角度が小さくなり、起立状態に近づいた。また、ヒートガンにより板材を40℃以上に加熱すると、図11に示すように板材の屈曲角度が大きくなった。図10,11の写真に示すように、板材に良好な二方向性を付与できたことが確認できた。
【0035】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0036】
10:ワーク冷却装置
12:ケーシング
14:ホルダー
16:ワーク取付台
18:ヒートシンク
20:キャップ
22:冷却材
30:板材(アクチュエータ)
34:自由端
42:固定端
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金に形状記憶処理を実施する記憶処理工程と、
記憶処理工程で形状記憶処理された形状記憶合金を変態点Mfの温度以下の温度に冷却する冷却工程と、
冷却工程で変態点Mfの温度以下の温度に冷却した形状記憶合金にショットピーニングを行うショットピーニング工程と、を有しており、
ショットピーニング工程では、形状記憶合金が変態点Asの温度以下の温度に維持されていることを特徴とする形状記憶合金製部材の製造方法。
【請求項2】
前記記憶処理工程前に形状記憶合金を所定形状に鋳造する鋳造工程をさらに有しており、前記記憶処理工程では、鋳造工程によって所定形状に鋳造された形状記憶合金に形状記憶処理を実施することを特徴とする請求項1に記載の形状記憶合金製部材の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程は、形状記憶合金が完全にマルテンサイト化する温度よりも低い温度まで冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載の形状記憶合金製部材の製造方法。
【請求項4】
形状記憶合金の変態点Asの温度が0℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の形状記憶合金製部材の製造方法。
【請求項5】
被駆動部を駆動するアクチュエータであり、
被駆動部に接続されており、その温度が第1温度より低下すると第1形体となり、その温度が第1温度より高い第2温度を超えると第2形体となる形状記憶合金製部材を備えており、
その形状記憶合金製部材の表面の少なくとも一部に表面圧縮残留応力が付与されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項6】
前記形状記憶合金製部材は、その一端が固定端とされる一方で他端が自由端として用いられる板部材であり、その板部材の二つの表面のうち一方の表面に、他方の表面よりも多くの表面圧縮残留応力が付与されていることを特徴とする請求項5に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記形状記憶合金製部材が、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で製作されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のアクチュエータ。
【請求項1】
形状記憶合金に形状記憶処理を実施する記憶処理工程と、
記憶処理工程で形状記憶処理された形状記憶合金を変態点Mfの温度以下の温度に冷却する冷却工程と、
冷却工程で変態点Mfの温度以下の温度に冷却した形状記憶合金にショットピーニングを行うショットピーニング工程と、を有しており、
ショットピーニング工程では、形状記憶合金が変態点Asの温度以下の温度に維持されていることを特徴とする形状記憶合金製部材の製造方法。
【請求項2】
前記記憶処理工程前に形状記憶合金を所定形状に鋳造する鋳造工程をさらに有しており、前記記憶処理工程では、鋳造工程によって所定形状に鋳造された形状記憶合金に形状記憶処理を実施することを特徴とする請求項1に記載の形状記憶合金製部材の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程は、形状記憶合金が完全にマルテンサイト化する温度よりも低い温度まで冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載の形状記憶合金製部材の製造方法。
【請求項4】
形状記憶合金の変態点Asの温度が0℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の形状記憶合金製部材の製造方法。
【請求項5】
被駆動部を駆動するアクチュエータであり、
被駆動部に接続されており、その温度が第1温度より低下すると第1形体となり、その温度が第1温度より高い第2温度を超えると第2形体となる形状記憶合金製部材を備えており、
その形状記憶合金製部材の表面の少なくとも一部に表面圧縮残留応力が付与されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項6】
前記形状記憶合金製部材は、その一端が固定端とされる一方で他端が自由端として用いられる板部材であり、その板部材の二つの表面のうち一方の表面に、他方の表面よりも多くの表面圧縮残留応力が付与されていることを特徴とする請求項5に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記形状記憶合金製部材が、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で製作されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−107262(P2012−107262A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60169(P2009−60169)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(390017433)株式会社吉見製作所 (4)
【出願人】(591017869)東洋精鋼株式会社 (7)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(390017433)株式会社吉見製作所 (4)
【出願人】(591017869)東洋精鋼株式会社 (7)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
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