説明

後輪操舵装置およびそれを備える自動二輪車

【課題】 操作性を向上しつつ安定した旋回走行を実現できる後輪操舵装置およびそれを備える自動二輪車を提供する。
【解決手段】 車体の本体フレームにはリヤアーム52が上下に揺動可能に接続されている。駆動軸51はリヤアーム52に回転可能に保持され、駆動軸51は等速型自在継手51jを介して後輪回転軸43に接続されている。支持部52aには、回転連結軸53aを介して車軸支持部材45の連結部45aが取り付けられている。後輪回転軸43は後輪ハブ42に接続されている。後輪ハブ42には、後輪4が装着された後輪ホイール41が接続されている。リヤアーム52にはアクチュエータ16が設けられている。車軸支持部材45の筒状部45cの上部には、Z方向に対して傾斜して延びるようにナックルアーム46が一体形成されている。アクチュエータ16が動作することにより、車軸支持部材45および後輪4が回転連結軸53aを中心として揺動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の後輪を操舵するための後輪操舵装置およびそれを備える自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動二輪車の前輪の操舵に応じて後輪を操舵する前後輪操舵装置の開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この前後輪操舵装置は、例えば、後輪操舵装置、制御部および複数のセンサを備える。後輪操舵装置には、後輪が所定の方向に揺動可能に取り付けられている。
【0004】
複数のセンサにより車体速度、ハンドルの切れ角、車体のヨーイングおよびローリング等の種々の情報が検出され、検出された種々の情報に基づいて、制御部により後輪操舵装置の動作が制御される。これにより、後輪が車体の上下方向の軸を中心として揺動するように後輪の操舵が行われる。
【0005】
このように、前輪とともに後輪を操舵することにより、乗り手が旋回走行時に旋回方向に体の重心を移動させる動作が軽減され、旋回走行時における操作性の向上が実現される。
【特許文献1】特開平5−246370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の前後輪操舵装置を備える自動二輪車においては、旋回走行時に乗り手がさらにアクセルを開くと、後輪に伝達されるトルクが増加し、車速が増加するとともに後輪が操舵される。この場合、後輪による駆動力は後輪の接線方向に働くので、後輪の駆動力は車体の前後方向と異なる方向に働く。
【0007】
このように、後輪の駆動力が車体の前後方向と異なる方向に働くと、ヨーイングおよびローリングのモーメントが発生する。
【0008】
一般に、自動二輪車の旋回走行時においては、乗り手が重心を旋回方向へ移動させるとともに車体を傾けることにより、重力、遠心力、ヨーイングのモーメントおよびローリングのモーメントのバランスが維持される。それにより、安定した旋回走行が実現される。
【0009】
しかしながら、旋回走行時に後輪の駆動力が増加し、その駆動力が車体の前後方向と異なる方向に働くと、乗り手は新たに発生されたヨーイングおよびローリングのモーメントに応じて、新たに重力、遠心力、ヨーイングのモーメントおよびローリングのモーメントのバランスを調整しなければならない。それにより、安定した旋回走行を行うためには熟練を要する場合があった。
【0010】
本発明の目的は、操作性を向上しつつ安定した旋回走行を実現できる後輪操舵装置およびそれを備える自動二輪車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明に係る後輪操舵装置は、自動二輪車の後輪を操舵する後輪操舵装置であって、前輪を回転可能かつ操舵可能に保持する本体フレームと、本体フレームに設けられ、後輪を回転可能かつ本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜可能に支持する後輪支持機構と、後輪を本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜するように揺動させる揺動装置とを備えるものである。
【0012】
この後輪操舵装置においては、前輪が回転可能かつ操舵可能に本体フレームにより保持され、後輪が回転可能かつ本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜可能に後輪支持機構により支持される。さらに、後輪は本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜するように揺動装置により揺動される。
【0013】
このように、後輪が本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜することにより、乗り手は安定した旋回走行を実現するために重心を旋回方向へ移動させるとともに車体を傾ける動作が軽減され、操作性が向上される。
【0014】
また、旋回走行時に後輪の接線方向が本体フレームの前後方向と異ならないので、旋回走行時における車体のヨーイングおよびローリングのモーメントの増加が抑制され、安定した旋回走行が実現される。
【0015】
自動二輪車の挙動に関する情報を検出する情報検出手段と、情報検出手段により検出された情報に基づいて揺動装置の動作を制御する制御手段とをさらに備えてもよい。
【0016】
この場合、自動二輪車の挙動に関する情報が検出され、揺動装置の動作が検出された情報に基づいて制御される。これにより、後輪の本体フレームの上下方向に平行な軸に対する傾斜角度を自動二輪車の挙動に関する情報に基づいて調整することが可能となる。その結果、乗り手の動作がより軽減され、操作性がより向上するとともに、より安定した旋回走行が実現される。
【0017】
情報検出手段は、車速を検出する速度検出手段、前輪の切れ角を検出する切れ角検出手段、ヨーレートを検出するヨーレート検出手段、ロールレートを検出するロールレート検出手段および車体の横方向の加速度を検出する横加速度検出手段のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0018】
この場合、車速、前輪の切れ角、ヨーレート、ロールレートおよび車体の横方向の加速度のうち少なくとも1つの情報に基づいて揺動装置の動作が制御される。
【0019】
これにより、後輪の本体フレームの上下方向に平行な軸に対する傾斜角度を検出された情報に基づいて調整することが可能となる。その結果、乗り手の動作がより軽減され、操作性がより向上するとともに、より安定した旋回走行が実現される。
【0020】
後輪の傾斜角を検出する傾斜角検出手段をさらに備え、制御手段は、傾斜角検出手段により検出される傾斜角に基づいて揺動装置の動作をフィードバック制御してもよい。
【0021】
この場合、後輪の傾斜角が検出され、検出される傾斜角に基づいて揺動装置の動作がフィードバック制御される。これにより、乗り手の動作がさらに軽減され、操作性がさらに向上するとともに、さらに安定した旋回走行が実現される。
【0022】
第2の発明に係る自動二輪車は、前輪および後輪と、前輪を回転可能かつ操舵可能に保持する本体フレームと、本体フレームに設けられ、後輪を回転可能かつ本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜可能に支持する後輪支持機構と、後輪を本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜するように揺動させる揺動装置と、後輪を回転させるための駆動力を発生する駆動手段と、駆動手段により発生された駆動力を後輪へ伝達するための駆動力伝達手段とを備えるものである。
【0023】
この自動二輪車においては、前輪が回転可能かつ操舵可能に本体フレームにより保持され、後輪が回転可能かつ本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜可能に後輪支持機構により支持される。また、後輪は本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜するように揺動装置により揺動される。さらに、後輪を回転させるための駆動力が駆動手段により発生され、発生された駆動力が駆動力伝達手段により後輪へ伝達される。
【0024】
このように、後輪が本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜することにより、乗り手は安定した旋回走行を実現するために重心を旋回方向へ移動させるとともに車体を傾ける動作が軽減され、操作性が向上される。
【0025】
また、旋回走行時に後輪の接線方向が本体フレームの前後方向と異ならないので、旋回走行時における車体のヨーイングおよびローリングのモーメントの増加が抑制され、安定した旋回走行が実現される。
【0026】
駆動力伝達手段は、駆動手段により回転される回転部材と、回転部材の回転力を後輪に伝達する等速自在継手とを含んでもよい。
【0027】
この場合、回転部材が駆動手段により回転され、回転部材の回転力が等速自在継手により後輪に伝達される。これにより、本体フレームの上下方向に平行な軸に対する後輪の傾斜角に影響されることなく、駆動手段の駆動力が回転部材および等速自在継手を介して後輪に伝達される。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る後輪操舵装置およびそれを備える自動二輪車においては、後輪が本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜することにより、乗り手は安定した旋回走行を実現するために重心を旋回方向へ移動させるとともに車体を傾ける動作が軽減され、操作性が向上される。
【0029】
また、旋回走行時に後輪の接線方向が本体フレームの前後方向と異ならないので、旋回走行時における車体のヨーイングおよびローリングのモーメントの増加が抑制され、安定した旋回走行が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態に係る後輪操舵装置およびそれを備える自動二輪車について説明する。
【0031】
図1は、本発明の一実施の形態に係る自動二輪車の外観側面図である。
【0032】
この自動二輪車100においては、前輪1がフロントフォーク2により回転可能に保持されている。フロントフォーク2は、本体フレーム6の前部に左右方向へ揺動可能に設けられている。フロントフォーク2の上端部にはハンドル3が取り付けられている。
【0033】
乗り手がハンドル3を操作することにより、フロントフォーク2が車体の左右方向に揺動する。それにより、前輪1の操舵が行われる。
【0034】
本体フレーム6の中央部にはエンジン7が保持されている。エンジン7の上部には燃料タンク8が設けられ、燃料タンク8の後方には前部シート9aおよび後部シート9bが設けられている。
【0035】
エンジン7の後方に延びるように本体フレーム6にリアアーム52(図2および図3参照)が接続されている。リアアーム52は、後輪4およびチェーンスプロケット54を回転可能に保持する。
【0036】
フロントフォーク2の下端部近傍には車速センサ11が設けられ、フロントフォーク2の上端部近傍には切れ角センサ12が設けられている。また、前部シート9aの下方にはバンク角センサ13が設けられ、後部シート9bの下方にはヨーレートセンサ14a、ロールレートセンサ14bおよび横加速度センサ14cが設けられている。
【0037】
リアアーム5の後輪4側には後輪傾斜角センサ17が設けられている。さらに、前部シート9aの下方には制御装置15が設けられ、リアアーム5の後輪4側にはアクチュエータ16が設けられている。上記の複数のセンサ11,12,13,14a,14b,14c,17、制御装置15およびアクチュエータ16の詳細は後述する。
【0038】
図2は図1の自動二輪車100におけるA−A矢視断面図であり、図3は図1の自動二輪車100におけるB−B矢視断面図である。図2および図3においては、矢印で示すように、車体の左右方向をX方向と定義し、車体の前後方向をY方向と定義し、車体の上下方向をZ方向と定義する。
【0039】
図2に示すように、本体フレーム6には回転連結軸53cを介してY方向に延びるリヤアーム52の一端が接続されている。これにより、リヤアーム52が上下に揺動可能となっている。
【0040】
リヤアーム52は、本体フレーム6との接続部周辺において、X方向に幅広に形成された幅広部52dを有する。幅広部52dからX方向に偏った位置からY方向へ延びるように、幅広部52dよりも幅の狭い幅狭部52cが形成されている。
【0041】
幅狭部52cの中央および端部からX方向へ2つの支持部52a,52bが互いに平行に延びている。
【0042】
支持部52a,52b間の幅狭部52cには、X方向に延びる駆動軸保持孔52hが形成されている。駆動軸保持孔52hには駆動軸51が挿入されている。これにより、駆動軸51はリヤアーム52に回転可能に保持されている。駆動軸51の一端は等速型自在継手51jに連結されている。
【0043】
図2および図3では、等速型自在継手51jが簡易的に示されているが、等速型自在継手51jは、駆動軸51の一端を保持するインナーレース、インナーレースを覆うように形成されたアウターレース、インナーレースおよびアウターレース間に取り付けられる複数のボールおよびブーツ等により構成されている。
【0044】
等速型自在継手51jは、支持部52a,52b間に位置し、後述の後輪回転軸43に接続されている。駆動軸51の他端には、チェーンスプロケット54が接続されている。チェーンスプロケット54にチェーン55が架けられている。
【0045】
支持部52a,52bのそれぞれの先端部近傍には、回転連結軸53a,53bを介して車軸支持部材45の連結部45a,45bが取り付けられている。これにより、車軸支持部材45はリヤアーム52の支持部52a,52bに対して、回転連結軸53a,53bを中心として図3の矢印Pに示すように揺動可能である。
【0046】
車軸支持部材45の連結部45a,45bは、それぞれXY平面においてL字状に形成され、互いに対向するように設けられている。また、車軸支持部材45には、連結部45a,45bからX方向に延びる筒状部45cが形成されている。
【0047】
筒状部45cの内側にはベアリング44を介して後輪回転軸43が回転可能に保持されている。後輪回転軸43の一端は等速型自在継手51jに接続されている。また、後輪回転軸43の他端は後輪ハブ42に接続されている。なお、後輪回転軸43の一端が等速型自在継手51jのアウターレースと一体形成されてもよい。
【0048】
後輪ハブ42はZY平面において略円形状を有する(図示せず)。後輪ハブ42には後輪ホイール41が接続されている。後輪ホイール41の外周部には後輪4、すなわち後輪タイヤが装着されている。
【0049】
図1のエンジン7の駆動力がチェーン55を介してチェーンスプロケット54に伝達され、チェーンスプロケット54が回転する。チェーンスプロケット54の回転とともに駆動軸51が図2の矢印Kに示すように回転する。それにより、後輪回転軸43が回転し、後輪ハブ42、後輪ホイール41および後輪4が回転する。
【0050】
本実施の形態においては、駆動軸51および後輪回転軸43が等速型自在継手51jを介して接続されることにより、駆動軸51の軸心と後輪回転軸43の軸心とがずれた場合でも、等速ジョイント51の回転力が後輪回転軸43に伝達される。
【0051】
リヤアーム52の幅狭部52c上にはアクチュエータ16が設けられている。また、車軸支持部材45の筒状部45cの上部には、Z方向に対して傾斜して延びるようにナックルアーム46が一体形成されている。
【0052】
アクチュエータ16は、例えばサーボモータを備える。本例では、図2および図3に示すように、アクチュエータ16の略中央部からY方向に延びるようにサーボモータの回転軸161が突出している。
【0053】
回転軸161には回動アーム162の一端が連結されている。回動アーム162の他端にはタイロッド164の一端が揺動可能に連結されている。タイロッド164の他端はナックルアーム46の上端に揺動可能に連結されている。
【0054】
アクチュエータ16が動作することにより回転軸161が回転する。これにより、回動アーム162の他端が回転軸161を中心に矢印Qの方向に揺動する。それにより、タイロッド164を介してナックルアーム46の上端部がX方向に移動する。その結果、上述のように、車軸支持部材45が回転連結軸53a,53bを中心として矢印Pで示すように揺動する。
【0055】
このように、アクチュエータ16が動作することにより後輪4がXZ面内でZ方向に対して傾斜する。以下の説明において、Z方向を基準とした後輪4の傾斜角度を後輪傾斜角θと呼ぶ。
【0056】
アクチュエータ16は制御装置15により制御される。以下に、本実施の形態に係る自動二輪車100の後輪操舵装置の制御系について説明する。
【0057】
図4は、本発明の一実施の形態に係る自動二輪車100の後輪操舵装置の制御系の一例を示すブロック図である。
【0058】
図4に示すように、自動二輪車100の後輪操舵装置10は、車速センサ11、切れ角センサ12、バンク角センサ13、ヨーレートセンサ14a、ロールレートセンサ14b、横加速度センサ14c、制御装置15、アクチュエータ16および後輪傾斜角センサ17を備える。
【0059】
ここで、後輪操舵装置10にはバッテリー20から電力が供給される。車速センサ11は前輪1の回転数に基づいて自動二輪車100の速度を検出する。切れ角センサ12はハンドル3の切れ角を検出する。バンク角センサ13は車体の横(左右)方向の傾斜角度(バンク角)を検出する。
【0060】
ヨーレートセンサ14aは、車体のヨーレート、すなわちヨーイングの方向における車体の角速度を検出する。ロールレートセンサ14bは、車体のロールレート、すなわちローリングの方向における車体の角速度を検出する。横加速度センサ14cは、旋回走行時の車体に働く横方向の加速度を検出する。後輪傾斜角センサ17は後輪傾斜角θを検出する。
【0061】
制御装置15は、例えば、CPU(中央演算処理装置)および記憶装置またはマイクロコンピュータにより構成される。制御装置15には、車速センサ11、切れ角センサ12、バンク角センサ13、ヨーレートセンサ14a、ロールレートセンサ14bおよび横加速度センサ14cの検出値が入力される。制御装置15は入力された各検出値に基づいてアクチュエータ16の動作を制御する。
【0062】
制御装置15がアクチュエータ16の動作を制御することにより、後輪4の後輪傾斜角θが調整される。調整された後輪傾斜角θは後輪傾斜角センサ17により検出され、検出された後輪傾斜角θは制御装置15に入力される。このように、後輪傾斜角度θに基づいてアクチュエータ16がフィードバック制御される。
【0063】
例えば、制御装置15は乗り手のハンドル3の操作に基づいてアクチュエータ16の動作を制御し、後輪4の後輪傾斜角度θを調整する。この場合、制御装置15は切れ角センサ12により得られるハンドル3の切れ角に基づいてアクチュエータ16を制御する。
【0064】
図5〜図7は、制御装置15が乗り手のハンドル3操作に基づいて後輪傾斜角度θを調整する例を示す図である。図5〜図7においては、ハンドル3および後輪4の動作を簡単に説明するため、自動二輪車100が簡易的に示されている。ここでは、乗り手の位置を中心として、自動二輪車100の前方を符号Fで表し、後方を符号Bで表し、自動二輪車100の左方向を符号Lで表し、右方向を符号Rで表す。なお、以下の説明において、自動二輪車100は一定の速度で走行しているものとする。
【0065】
図5に示すように、乗り手は、前方Fに走行したい場合、ハンドル3が左方向Lおよび右方向Rに切れないように保持する。それにより、前輪1の接線方向は自動二輪車100の前後方向の軸と一致する。
【0066】
この場合、制御装置15は切れ角センサ12から入力される検出値に基づいて、後輪4の後輪傾斜角度θが0°となるようにアクチュエータ16の動作を制御する。その結果、後輪4の接線方向は前輪1と同様に自動二輪車100の前後方向の軸と一致する。
【0067】
図6に示すように、乗り手は、左斜め前方に旋回走行したい場合、ハンドル3を左方向Lに切る。それにより、前輪1の接線方向が自動二輪車100の進行方向の軸と一致する。
【0068】
この場合、制御装置15は、切れ角センサ12から入力される検出値に基づいてアクチュエータ16の動作を制御し、太矢印Sに示すように、後輪4の上部が左斜め上方向を向くように後輪4の後輪傾斜角度θを調整する。このとき、後輪4の接線方向は自動二輪車100の車体の前後方向の軸と一致している。
【0069】
図7に示すように、乗り手は右斜め前方に旋回走行したい場合、ハンドル3を右方向Rに切る。それにより、前輪1の接線方向が自動二輪車100の進行方向の軸と一致する。
【0070】
この場合、制御装置15は、切れ角センサ12から入力される検出値に基づいてアクチュエータ16の動作を制御し、太矢印Sに示すように、後輪4の上部が右斜め上方向を向くように後輪4の後輪傾斜角度θを調整する。このとき、後輪4の接線方向は自動二輪車100の車体の前後方向の軸と一致している。
【0071】
図6および図7に示すように、後輪4の後輪傾斜角度θが調整されることにより、左斜め前方への旋回走行時に働くヨーイングおよびローリングのモーメントに対する反力が発生する。これにより、乗り手は旋回方向へ体の重心を移動させる動作が軽減され、操作性が向上される。
【0072】
また、後輪4の接線方向は自動二輪車100の車体の前後方向の軸と一致しているので、乗り手がさらにアクセルを開けた場合でも、後輪4により発生する駆動力が車体の前後方向の軸と異なる方向に働かない。これにより、ヨーイングおよびローリングのモーメントの発生が低減され、安定した旋回走行が維持される。
【0073】
本実施の形態に係る自動二輪車100において、制御装置15は以下のように後輪4の後輪傾斜角度θを調整してもよい。
【0074】
図8は、図4の制御装置15による後輪傾斜角度θの調整方法について他の例を説明するための図である。
【0075】
図8(a)は、図4の制御装置15が旋回走行時における車体の重力、バンク角、および遠心力に基づいて後輪4の後輪傾斜角度θを調整する方法を説明するための図である。図8(a)においては、自動二輪車100を後方から見た場合の後輪4が示されている。また、車体が白丸で示され、車体の重心が点GCで示されている。
【0076】
この場合、制御装置15は後輪傾斜角度θを次のように調整する。
【0077】
制御装置15は、車速センサ11により検出された自動二輪車100の速度およびヨーレートセンサ14aにより検出されたヨーレートに基づいて、旋回方向と反対の水平方向に働く遠心力aを算出する。
【0078】
ここで、制御装置15には予め自動二輪車100の車重が記憶されている。制御装置15はバンク角センサ13により検出された自動二輪車100のバンク角に基づいて、鉛直方向に働く重力Gを算出する。
【0079】
図8(a)に示すように、遠心力aおよび重力Gの大きさおよび方向をベクトルで表すと、自動二輪車100が安定して旋回走行するためには、遠心力aと重力Gとの合力のベクトルGaが示す方向に車体の上下方向の軸zが傾斜する必要がある。
【0080】
そこで、制御装置15は軸zとベクトルGaの方向とが一致するように、すなわち軸zとベクトルGaとのなす角度αが0°となるように、アクチュエータ16の動作を制御して後輪4の後輪傾斜角度θを調整する。これにより、自動二輪車100のバンク角が調整され、角度αが0°となることにより安定した旋回走行が維持される。その結果、乗り手は旋回方向へ体の重心を移動させる動作が軽減され、操作性が向上する。
【0081】
図8(b)は、図4の制御装置15が旋回走行時における車体の重力、バンク角、遠心力および横加速度に基づいて後輪4の後輪傾斜角度θを調整する方法を説明するための図である。図8(b)においては、自動二輪車100の模式的平面図および自動二輪車100を後方から見た場合の後輪4が示されている。また、車体が白丸で示され、車体の重心が点GCで示されている。
【0082】
この場合、制御装置15は後輪傾斜角度θを次のように調整する。
【0083】
初めに、制御装置15は、図8(a)を用いて説明したように車体の重力、バンク角および遠心力に基づいて後輪4の後輪傾斜角度θの調整を行う。
【0084】
続いて、制御装置15は、車速センサ11により検出された自動二輪車100の速度vおよびヨーレートセンサ14aにより検出されたヨーレートωに基づいて、旋回方向と反対の水平方向に働く横加速度(以下、算出横加速度と呼ぶ。)a1を算出する。なお、この算出横加速度a1は上記の遠心力aと同じ大きさを有する。図8(b)に、自動二輪車100の速度v、ヨーレートωおよび算出横加速度a1が示されている。また、図8(b)には横加速度センサ14cにより検出された横加速度(以下、検出横加速度と呼ぶ。)a2が示されている。
【0085】
制御装置15は、上述のようにバンク角センサ13により検出された自動二輪車100のバンク角に基づいて、鉛直方向に働く重力Gを算出する。
【0086】
制御装置15は、算出横加速度a1および重力Gの合力を表すベクトルGa1の方向と、検出横加速度a2および重力Gの合力を表すベクトルGa2の方向とを比較する。そこで、制御装置15は、ベクトルGa1とベクトルGa2とがなす角度βに基づいて、後輪4の後輪傾斜角θをさらに調整する。
【0087】
これにより、ヨーイングのモーメントを考慮しつつ自動二輪車100のバンク角がより正確に調整され、安定した旋回走行が維持される。その結果、乗り手は旋回方向へ体の重心を移動させる動作が軽減され、操作性が向上する。
【0088】
上記の他、本実施の形態に係る自動二輪車100の制御装置15は、複数のセンサ11,12,13,14a,14b,14c,17から得られる検出値に基づいて他の方法により後輪4の後輪傾斜角θを制御してもよい。
【0089】
以上、本実施の形態に係る自動二輪車100において、前輪1が前輪に相当し、後輪4が後輪に相当し、本体フレーム6が本体フレームに相当し、後輪操舵装置10が後輪操舵装置に相当し、リヤアーム52、ベアリング44、車軸支持部材45、ナックルアーム46、タイロッド164が後輪支持機構に相当し、アクチュエータ16が揺動装置に相当する。
【0090】
また、自動二輪車100の速度、ハンドル3の切れ角、車体の横方向の傾斜角度、車体のヨーレート、車体のロールレートおよび車体に働く横方向の加速度が自動二輪車の挙動に関する情報に相当し、車速センサ11、切れ角センサ12、バンク角センサ13、ヨーレートセンサ14a、ロールレートセンサ14bおよび横加速度センサ14cが情報検出手段に相当し、制御装置15が制御手段に相当する。
【0091】
さらに、後輪傾斜角センサ17が傾斜角検出手段に相当し、後輪傾斜角θが傾斜角に相当し、エンジン7が駆動手段に相当し、チェーンスプロケット54が回転部材に相当し、駆動軸51、等速型自在継手51jおよび後輪回転軸43が等速自在継手に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、自動二輪車の操舵装置として有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動二輪車の外観側面図である。
【図2】図1の自動二輪車におけるA−A矢視断面図である。
【図3】図1の自動二輪車におけるB−B矢視断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る自動二輪車の後輪操舵装置の制御系の一例を示すブロック図である。
【図5】制御装置が乗り手のハンドル操作に基づいて後輪傾斜角度を調整する例を示す図である。
【図6】制御装置が乗り手のハンドル操作に基づいて後輪傾斜角度を調整する例を示す図である。
【図7】制御装置が乗り手のハンドル操作に基づいて後輪傾斜角度を調整する例を示す図である。
【図8】図4の制御装置による後輪傾斜角度の調整方法について他の例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0094】
1 前輪
3 ハンドル
4 後輪
6 本体フレーム
7 エンジン
10 後輪操舵装置
11 車速センサ
12 切れ角センサ
13 バンク角センサ
14a ヨーレートセンサ
14b ロールレートセンサ
14c 横加速度センサ
15 制御装置
16 アクチュエータ
17 後輪傾斜角センサ
43 後輪回転軸
44 ベアリング
45 車軸支持部材
46 ナックルアーム
51 駆動軸
52 リヤアーム
54 チェーンスプロケット
100 自動二輪車
164 タイロッド
51j 等速型自在継手
θ 後輪傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車の後輪を操舵する後輪操舵装置であって、
前輪を回転可能かつ操舵可能に保持する本体フレームと、
前記本体フレームに設けられ、前記後輪を回転可能かつ前記本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜可能に支持する後輪支持機構と、
前記後輪を前記本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜するように揺動させる揺動装置とを備えることを特徴とする後輪操舵装置。
【請求項2】
前記自動二輪車の挙動に関する情報を検出する情報検出手段と、
前記情報検出手段により検出された情報に基づいて前記揺動装置の動作を制御する制御手段とをさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の後輪操舵装置。
【請求項3】
前記情報検出手段は、車速を検出する速度検出手段、前輪の切れ角を検出する切れ角検出手段、ヨーレートを検出するヨーレート検出手段、ロールレートを検出するロールレート検出手段および車体の横方向の加速度を検出する横加速度検出手段のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2記載の後輪操舵装置。
【請求項4】
前記後輪の傾斜角を検出する傾斜角検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記傾斜角検出手段により検出される傾斜角に基づいて前記揺動装置の動作をフィードバック制御することを特徴とする請求項2または3記載の後輪操舵装置。
【請求項5】
前輪および後輪と、
前記前輪を回転可能かつ操舵可能に保持する本体フレームと、
前記本体フレームに設けられ、前記後輪を回転可能かつ前記本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜可能に支持する後輪支持機構と、
前記後輪を前記本体フレームの上下方向に平行な軸に対して傾斜するように揺動させる揺動装置と、
前記後輪を回転させるための駆動力を発生する駆動手段と、
前記駆動手段により発生された駆動力を前記後輪へ伝達するための駆動力伝達手段とを備えることを特徴とする自動二輪車。
【請求項6】
前記駆動力伝達手段は、
前記駆動手段により回転される回転部材と、
前記回転部材の回転力を前記後輪に伝達する等速自在継手とを含むことを特徴とする請求項5記載の自動二輪車。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−44528(P2006−44528A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230298(P2004−230298)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】