説明

徐放性経口固形製剤

【課題】吸水によりゲル化する水溶性高分子を使用した徐放性経口固形製剤からの薬物の溶出が始まるまでのタイムラグを実質的になくすことができる製剤を提供する。
【解決手段】 薬物および吸水によりゲル化する水溶性高分子を含む素錠に、薬物を含まない水透過性の第1のフィルムコーティング層を施し、該第1のフィルムコーティング層を透過した水で徐々に膨潤した素錠の局部的崩壊によって薬物の徐放を達成することを企図した徐放性経口固形製剤において、該第1のフィルムコーティング層の上に、薬物を含む第2のフィルムコーティング層を施し、該第2のフィルムコーティング層のフィルム形成物質が水溶性高分子または水溶性高分子と疎水性物質との混合物であることを特徴とする徐放性経口固形製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性経口固形製剤、特に投与後薬物の放出が開始されるまでのタイムラグをなくした徐放性経口固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬効及び安全性の明かな既存の医薬品に、製剤学的工夫と改良を付与することにより、安全性と有効性を高めた徐放性製剤の開発が、多くの研究機関において、精力的に行われている。投与部位での生体膜透過が律速とならない薬物においては、製剤からの薬物放出速度を図1のaに示すような0次に調節することにより、投薬形状中の薬物濃度に無関係に均一な速度で薬物を放出させる薬剤放出方式が達成され、ピーク―谷現象のない治療有効濃度の維持が可能となり、理想的な徐放性製剤を提供することができる。
【0003】
このような理想的な0次型の薬物放出方式は、組織内薬物濃度を一定に保つことを可能にし、その結果、安全領域での血中薬物濃度の維持が可能となる。特に投薬で達しうる程度の濃度で副作用が発現する薬物において、効果は最大限に発揮される。また、効果が持続するため、投薬回数の減少にもつながる。
【0004】
しかるに、実際、上市又は、特許出願されている徐放性製剤の場合、0次に近い溶出をしても、完全な0次溶出をする製剤は多くない。したがって、0次溶出させるために、新技術の開発や、浸透圧を利用したオロス等の特殊な製剤の開発が続けられている。
【0005】
薬物放出速度の制御が容易に可能、製造方法が簡単、再現性がよいなどの理由から水溶性ゲル化剤や親水性ゲル化剤を用いた0次溶出する錠剤の製造方法が提案され実用化されている。
【0006】
例えばUS特許第4839177号には、錠剤の上下面や片面などがコーティングされたGEOMATRIX SYSTEMと呼ばれる膨潤型0次溶出製剤が提案されている。日本特許第3220373号及び第2955524号には、芯部に外殻部を圧縮コーティングしてなる有核錠(圧縮コーティング錠)において、芯部と外殻部の溶出速度を変えることによって0次溶出を達成させる方法が提案されている。
【0007】
また、日本特許第2861388号には水溶性ゲル化剤を配合して製した素錠を芯部とし、疎水性コーティング剤を被覆し、そのフイルムを通して水を素錠中に浸透させ、その結果特異的な形状に錠剤を膨潤させ0次溶出させる方法が開示されている。この特異的な形状に膨潤させる際、素錠の膨潤がある程度進み、素錠中の薬物が溶出を開始するまでには30分〜120分程度のラグタイムがあるため、服用後30分〜120分に溶出すべき速溶部分に相当する医薬活性成分をその外層に被覆して、フイルムコート錠、糖衣錠もしくは圧縮コーティング錠に製しうる旨が記載されている。
【0008】
このような場合、望ましくはフイルムコート錠として、最も小型化して製剤化することが望まれるが、比較的薄いフイルムコート層中の医薬活性成分を長時間かけて徐放出させる方法は知られていない。したがって、芯部に含有させた医薬活性成分を長時間かけて徐放出させることはできても、外層の薄いフイルム中の医薬活性成分を時間をかけて徐放出させることはできなかった。
【発明の開示】
【0009】
本発明の徐放性経口固形製剤は、薬物および吸水によりゲル化する水溶性高分子を含む素錠に、薬物を含まない水透過性の第1のフィルムコーティング層を施し、その上に薬物と少なくともフィルム形成性水溶性高分子を含む第2のフィルムコーティング層を形成してなる。
【0010】
素錠と第1のフィルムコーティング層のみを有し、第2のフィルムコーティングを有しない製剤は、第1のフィルムコーティング層を透過した水で素錠が次第に膨潤し、第1のフィルムコーティング層を破って露出し、素錠に含まれる薬物の溶出が始まるまでに通常30分〜120分程度のタイムラグがある。
【0011】
第2のフィルムコーティング層に薬物の一部を含有させることにより、このタイムラグを実質的になくし、投与直後からの薬物の0次溶出を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
素錠は、薬物と、吸水によりゲル化する水溶性高分子(以下「ゲル化剤」という)と、必要により慣用の補助成分とを常法により錠剤に打錠することによってつくられる。本発明は特定の薬物の徐放化に関する技術ではないから、薬物は徐放化を望む任意の薬物に適用することができる。
【0013】
ゲル化剤は、医薬品製剤において結合剤として使用されるような水溶性高分子であり、その例はヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびそれらの混合物を含む。他の補助成分の例は、乳糖、マンニトール、デンプン、タルクのような賦形剤、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウムのような流動化剤または滑沢剤を含む。素錠は、必要に応じてポリエチレングリコール、ステアリン酸、硬化植物油のような溶出速度調節剤を含むことができる。素錠の錠剤化の方法は、特に限定されず、湿式造粒法または乾式造粒法によって造粒した顆粒に滑沢剤を添加して打錠するか、または直接打錠によって打錠することによって実施される。
【0014】
第1のフィルムコーティング層は、エチルセルロース、アセチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチルメタクリル酸メチルコポリマーのような水不溶性高分子からなる薬物を含まないコーティング層である。第1のフィルムコーティング層は、必要に応じその水透過性を調節するためポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を含んでもよい。
【0015】
素錠は特許第2861388号公報に記載されている方法と同じ方法によってつくることができ、第1のフィルムコーティング層も、その厚みを実質上均等に施すことを除いて、同特許公報に記載されている方法と同じ方法によって施すことができる。
【0016】
薬物を含む本発明の第2のフィルムコーティング層のフィルム形成物質は、素錠のゲル化剤として先に述べた水溶性高分子と同じでよく、必要によりその溶解性を調節(遅延)する目的で疎水性物質を含んでもよい。この目的に使用し得る疎水性物質の例は、第1のフィルムコーティング層のフィルム形成物質として先に述べた水不溶性高分子に加え、高級脂肪酸グリセリンエステル、ワックス類、高級アルコール、高級脂肪酸などのロウ状物質を含む。第2のフィルムコーティング層に含まれる薬物の量は、これを有しない徐放性製剤の薬物の溶出が始まるまでのタイムラグを補償する量でよく、通常第2のフィルムコーティング層全体の10〜50重量%,好ましくは15〜40重量%である。コーティングはこの分野で既知のコーティング技術によって実施することができるが、第2のフィルムコーティング層にも徐放性を与えるためには、薬物が水溶性高分子のマトリック中で固体分散体または固溶体を形成するように、両者の共通溶媒中に薬物と水溶性高分子を溶解した溶液をコーティング液として用いる必要がある。
【0017】
図1の曲線bは1次型溶出パターンのモデルであるが、本発明により、図1のaで示すような服用直後から0次型放出パターンを示す徐放性製剤を提供することが可能になった。
【0018】
本発明の技術は、錠剤に限らず、顆粒にも適用可能であると信じられる。
【0019】
以下、限定を意図しない実施例によって本発明を例証する。実施例中部および%は、特記しない限り重量基準による。
【0020】
以下の実施例1ないし6は、第2のフィルムコーティング層単独からの薬物の放出パターンを測定する目的で、素錠には薬物を含めなかった。素錠が薬物を含有する本発明の徐放性製剤は実施例7に記載されている。またこれら実施例においては薬物としてニフェジピンおよび塩酸アンブロキソールを用いたが、他の薬物を使用しても同様の結果が得られることは自明であろう。
【実施例】
【0021】
[実験に用いるフィルムコーティング用錠剤の製造]
素錠部
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 98.3 %
軽質無水ケイ酸 1.1 %
ステアリン酸マグネシウム 0.6 %
上記の処方で、直径 8.0 mm、10.0 R の杵で1 錠 質量が 180.0 mg になるように打錠した。
フィルムコート部(第一層)
エチルセルロース 70.0 %
マクロゴール6000 30.0 %
上記を水:エタノール(1:9)混液に溶解した溶液を用いて1錠当たり9.0 mgフィルムコーティングを施し、フィルムコート(第一層)錠を得た。
このフィルムコート(第一層)錠を下記の実施例の核(189 mg/T)として用いた。
【0022】
実施例1
フィルムコート部(第二層)
ニフェジピン 40.0 %
ヒドロキシプロピルセルロース 53.3 %
マクロゴール6000 6.7 %
水:エタノール(1:9)混液に上記3成分を溶解した溶液を用いて1錠当たり15.0 mgのフィルムコーティングを施した。
【0023】
実施例2
フィルムコート部(第二層)
ニフェジピン 40.0 %
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 25.3 %
ヒドロキシプロピルセルロース 28.0 %
マクロゴール6000 6.7 %
水:エタノール(1:9)混液に上記4成分を溶解した溶液を用いて1錠当たり15.0 mgのフィルムコーティングを施した。
【0024】
実施例3
フィルムコート部(第二層)
ニフェジピン 40.0 %
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 25.3 %
ヒドロキシプロピルセルロース 28.0 %
マクロゴール6000 6.7 %
水:エタノール(3:7)混液に上記4成分を溶解した溶液を用いて1錠当たり15.0 mgのフィルムコーティングを施した。
【0025】
実施例4
フィルムコート部(第二層)
ニフェジピン 40.0 %
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 25.3 %
ヒドロキシプロピルセルロース 28.0 %
マクロゴール6000 6.7 %
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 2910 、ヒドロキシプロピルセルロース及び、マクロゴール 6000 を水に溶かし、これにニフェジピンを懸濁させた液を用いて1錠当たり15.0 mgのフィルムコーティングを施した。
実施例1〜4で製した製剤について溶出性を以下の条件において試験した。
試験液:1%ラウリル硫酸ナトリウム添加 pH6.8
試験液量:900 mL
試験方法:パドル法
回転数:100 rpm
温度:37 ℃
図2は、水溶性ゲル化剤の配合割合を変化させた時の溶出挙動である。
図3は、コーティング液の溶媒組成を変化させた時の溶出挙動である。
水溶性ゲル化剤の配合割合または、コーティング液の溶媒組成を変化させることによりフィルム中の医薬活性成分の溶出を制御できることがわかった。
また、ニフェジピンを親水性ゲル化剤と共に溶解せず、懸濁状態でコーティングした場合、ニフェジピンの徐放化は達成されないことがわかった。
【0026】
実施例5
フィルムコート部(第二層)
塩酸アンブロキソール 31.2 %
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 9.4 %
エチルセルロース 53.1 %
マクロゴール6000 6.3 %
水:エタノール(15:85)混液に上記4成分を溶解した溶液を用いて1錠当たり16.2 mgのフィルムコーティングを施した。
【0027】
実施例6
フィルムコート部(第二層)
塩酸アンブロキソール 31.2 %
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 7.5 %
エチルセルロース 55.0 %
マクロゴール6000 6.3 %
水:エタノール(15:85)混液に上記4成分を溶解した溶液を用いて1錠当たり16.2 mgのフィルムコーティングを施した。
実施例5〜6で製した製剤について溶出性を以下の条件において試験した。
試験液:水
試験液量:900 mL
試験方法:パドル法
回転数:100 rpm
温度:37 ℃
図4は、水溶性ゲル化剤と疎水性物質の配合割合を変化させた時の溶出挙動である。
水溶性ゲル化剤と疎水性物質の配合割合を変化させることによりフィルム中の医薬活性成分の溶出を制御できることがわかった。
【0028】
実施例7
素錠部
ニフェジピン 18.9 %
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 58.6 %
アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS 13.9 %
ポビドン 3.9 %
タルク 2.5 %
軽質無水ケイ酸 1.7 %
ステアリン酸マグネシウム 0.5 %
上記の処方で、直径 8.0 mm、10.0 R の杵で1 錠 質量が 180.0 mg になるように打錠した。
フィルムコート部(第一層)
エチルセルロース 70.0 %
マクロゴール6000 30.0 %
上記を水:エタノール(1:9)混液に溶解した溶液を用いて1錠当たり9.0 mgフィルムコーティングを施し、フィルムコート(第一層)錠を得た。
このフィルムコート(第一層)錠を下記の実施例の核(189 mg/T)として用いた。

フィルムコート部(第二層)
ニフェジピン 46.2 %
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 29.2 %
ヒドロキシプロピルセルロース 16.9 %
マクロゴール6000 7.7 %
水:エタノール(1:9)混液に上記3成分を溶解した溶液を用いて1錠当たり15.0 mgのフィルムコーティングを施した。
実施例7で製した製剤について溶出性を以下の条件において試験した。
試験液:1%ラウリル硫酸ナトリウム添加 pH6.8
試験液量:900 mL
試験方法:パドル法
回転数:100 rpm
温度:37 ℃
図5に溶出を示す。図5から、本発明により図1のaに示す0次型溶出パターンに近似した溶出パターンが得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】0次型および1次型溶出パターンのモデル図。
【図2】実施例1および実施例2の第2のフィルムコーティング層からの薬物放出パターンを示すグラフ。
【図3】溶媒組成が異なるそれぞれ実施例2〜4の第2のフィルムコーティング層からの薬物溶出パターンを示すグラフ。
【図4】ゲル化剤と疎水性物質の配合割合が異なるそれぞれ実施例5および6の第2のフィルムコーティング層からの薬物溶出パターンを示すグラフ。
【図5】素錠および第2のフィルムコーティング層に薬物を配合した実施例7の製剤全体からの薬物溶出パターンを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物および吸水によりゲル化する水溶性高分子を含む素錠に、薬物を含まない水透過性の第1のフィルムコーティング層を施し、該第1のフィルムコーティング層を透過した水で徐々に膨潤した素錠の局部的崩壊によって薬物の徐放を達成することを企図した徐放性経口固形製剤において、該第1のフィルムコーティング層の上に、薬物を含む第2のフィルムコーティング層を施し、該第2のフィルムコーティング層のフィルム形成物質が水溶性高分子または水溶性高分子と疎水性物質との混合物であることを特徴とする徐放性経口固形製剤。
【請求項2】
前記素錠に含まれる水溶性高分子および第2のフィルムコーティング層に含まれる水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンまたはそれらの混合物から選ばれる請求項1の徐放性経口固形製剤。
【請求項3】
前記第1のフィルムコーティング層のフィルム形成物質は、エチルセルロース、アセチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRSまたはアクリル酸エチルメタクリル酸メチルコポリマーから選ばれる請求項1または2の徐放性経口固形製剤。
【請求項4】
前記疎水性物質は、エチルセルロース、アセチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチルメタクリル酸メチルコポリマー、高級脂肪酸グリセリンエステル、ワックス類、高級アルコール、高級脂肪酸またはそれらの混合物から選ばれる請求項1ないし3のいずれかの徐放 性経口固形製剤。
【請求項5】
芯部が薬物を含む素錠の代りに、薬物を含む顆粒である請求項1ないし4のいずれかの徐放性経口固形製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−137849(P2007−137849A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336570(P2005−336570)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(596166690)全星薬品工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】