説明

循環腫瘍細胞を分類する方法

本発明は、癌患者における臨床病期分類および治療決定に関する有益な見通しを提供する、様々な細胞マーカーと曝露または非曝露アッセイとを用いて循環腫瘍細胞(CTC)を分類する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的に医学診断に関し、より具体的には循環腫瘍細胞の分類に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
循環腫瘍細胞(CTC)とは一般的に、様々なタイプの癌を有する患者の血流に非常に低濃度で存在する固形腫瘍を供給源とする上皮細胞であるが、必ずしもこれに限定されるわけではない。既存の腫瘍からのCTCの分散または転移によって、しばしば二次性腫瘍の形成が起こる。二次性腫瘍は典型的には検出不可能であり、これが全ての癌死のうち90%をもたらす。循環腫瘍細胞は、原発性腫瘍と転移腫瘍のあいだの橋渡しを提供する。これにより、転移性上皮悪性疾患の早期検出および処置管理のために循環腫瘍細胞の同定および特徴決定を用いることは有望である。癌患者におけるCTCの検出は、そのような患者の血液中に存在するCTCの数および特徴決定が、全体的な予後および治療応答に相関していることから、原発性または二次性癌成長の初期診断において、および癌の処置を受けている癌患者の予後の決定において、有効なツールを提供する。したがって、CTCは、臨床症状が出現する前の腫瘍の拡大または転移の早期指標として役立つ。
【0003】
循環腫瘍細胞(CTC)は血流中で不顕性であるため、それらを検出することは癌の管理および処置における予後の点で、および潜在的治療の点で重要な意味を有するが、これらのまれな細胞は容易に検出されない。CTCは、1800年代に初めて記載されたが、それらを確実に検出できるようになったのはごく最近の技術の進歩による。CTCは、腫瘍を有する患者の末梢血に超低濃度で存在すると考えられている。たとえば、癌腫を有する患者の場合、正常な血球1000万個あたり1個がCTCであると推定される。
【0004】
CTCの計数/特徴決定のための標準的な方法は、表面タンパク質EpCamを標的とする免疫磁気濃縮法、光ファイバーアレイ走査技術、および「CTCチップ」アッセイである。
【0005】
免疫磁気濃縮技術は、上皮由来細胞表面でしか発現されない上皮細胞接着分子(EpCAM)に結合する抗体と結合させた磁性流体を用いる腫瘍細胞集団の免疫磁気濃縮に依る。
【0006】
CTCを検出するために光ファイバーアレイ走査技術(FAST)を行う場合、赤血球を溶解させて、有核細胞を、細胞3000万個まで保持することができるスライドガラス上に単層として分配する。この手法に濃縮段階はない。細胞を固定して、透過性にし、汎抗サイトケラチン抗体-Alexa Fluor 555、CD45-Alexa Fluor 647、およびDAPI(核染色)によって染色する。FASTは各スライドガラスを走査して、スライドガラス上の各々の赤色蛍光物体の位置を特定する。各々の蛍光物体を自動デジタル顕微鏡により撮像して、CTCをCK+、CD45-、DAPI+細胞として計数する。
【0007】
CTCを計数/特徴決定するためのもう1つの方法は、マイクロ流体工学または「CTC-チップ」技術である。この方法では、全血を、EpCamコーティングしたマイクロポスト78,000個の上に流す。EpCam+細胞はポストに粘着して、これを次にサイトケラチン、CD45、およびDAPIによって染色する。
【0008】
サイトケラチンおよびEpCAMなどの上皮特異的マーカーならびに/またはPSA、PSMA、CDX2、およびTTF-1などの組織特異的マーカーを用いてCTCを同定するアッセイが、当技術分野において記載されている。CTCを曝露して検出するためのアッセイもまた、たとえば参照により本明細書に組み入れられる、2009年9月3日に提出された米国特許出願第12/553,733号(特許文献1)として記載されている。試料中のCTCを曝露する段階には、細胞を露出させるために、循環腫瘍細胞の表面に凝集したまたは表面に物理的に会合したタンパク質、糖質、細胞、またはこれらの混合物を除去、分解、または改変して、それによって循環腫瘍細胞を曝露する段階が含まれる。細胞を曝露する段階には、血漿タンパク質、糖質、血小板、他の血球、またはその混合物を除去、分解、または改変する段階が含まれうる。典型的に、血漿タンパク質は、フィブリンなどの凝固因子である。細胞を露出させるために、細胞を、酵素的に(たとえば、酵素によって媒介される生化学反応)、機械的に(たとえば、機械的な力)、電気的に(たとえば、電気力)、電磁気的に(たとえば、電磁スペクトルの電磁放射線)、化学的、またはその任意の組み合わせによって処置してもよい。曝露された細胞を、画像分析および/または細胞表面マーカーの検出によってさらに分析してもよい。
【0009】
循環腫瘍細胞(CTC)を曝露、単離、検出、同定、および濃縮する方法は、癌の分野において絶えず進歩している。しかし、この改善に伴い、CTCに関して集められた大量の情報を用いる分析法の改善が必要である。このように、臨床、研究、および開発の状況において用いるための臨床的に意味のある改善されたCTC分析法のみならず、癌を処置するための革新的な方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願第12/553,733号
【発明の概要】
【0011】
本発明は、癌患者における臨床病期分類および治療の決定に関して有益な見通しを提供する、様々な細胞マーカーおよび曝露または非曝露アッセイを用いてCTCを分類する方法を提供する。
【0012】
したがって、1つの局面において、本発明は、対象の循環腫瘍細胞(CTC)を分類する方法を提供する。方法には、(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;(b)第一の試料中のCTCを曝露する段階;(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第一の試料の曝露CTCを分析する段階;(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階であって、第二の試料のCTCが分析前に曝露も露出もされていない、段階;および(e)該対象由来の該CTCの分類を提供するために(c)と(d)の結果を比較し、それによって該CTCを分類する段階が含まれる。方法にはさらに、(e)の結果を対象の事前のCTC分類または公知の分類と比較する段階が含まれうる。
【0013】
本発明はさらに、対象における癌の予後を判定する方法を提供する。方法には、(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;(b)第一の試料中のCTCを曝露する段階;(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第一の試料の曝露CTCを分析する段階;(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階であって、第二の試料のCTCが分析前に曝露も露出もされていない、段階;ならびに(e)該対象由来の該CTCの分類を提供するために(c)と(d)の結果を比較する段階;ならびに(f)予後を決定し、それによって対象における癌の予後を判定する段階が含まれる。方法にはさらに、(e)の結果を対象の事前のCTC分類または公知の分類と比較する段階が含まれうる。
【0014】
本発明はさらに、特定の治療レジメンに対する対象の応答性を決定する方法を提供する。方法には、(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;(b)第一の試料中のCTCを曝露する段階;(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第一の試料の曝露CTCを分析する段階;(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階であって、第二の試料のCTCが分析前に曝露も露出もされていない、段階;ならびに(e)該対象由来の該CTCの分類を提供するために(c)と(d)の結果を比較する段階;ならびに(f)治療レジメンに対する該対象の応答性を決定する段階が含まれる。方法にはさらに、(e)の結果を対象の事前のCTC分類または公知の分類と比較する段階が含まれうる。
【0015】
本発明はさらに、癌の処置における候補剤の有効性を決定する方法を提供する。方法には:(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;(b)第一の試料中のCTCを曝露する段階;(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第一の試料の曝露CTCを分析する段階;(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階であって、第二の試料のCTCが分析前に曝露も露出もされていない、段階;ならびに(e)該対象由来の該CTCの分類を提供するために(c)と(d)の結果を比較する段階;ならびに(f)癌の処置における候補剤の有効性を決定する段階。方法にはさらに、(e)の結果を、対象の事前のCTC分類または公知の分類と比較する段階が含まれうる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、様々な細胞マーカーおよび曝露または非曝露アッセイを用いてCTCを分類する方法のみならず、癌を処置および診断する方法を提供する。
【0017】
曝露手法は、フィブリンもしくは糖質などの分子によってまたは血小板および白血球などの細胞によってその細胞膜が妨害されているCTCを、露出させる。循環中の有意な数のCTCは、該CTCの表面で凝集した細胞、タンパク質、生体分子および他の要因によって「マスキングされ」または「覆われ」、このことが、有効な免疫回避機構として表面相互作用および/または細胞内抗体結合からCTCを保護するので、該CTCは検出不可能なままであることが、発見された。たとえば、血小板、フィブリン、および他の凝固タンパク質は、細胞表面上の重要な細胞表面マーカーをマスキングするまたは覆い隠すための「覆いデバイス」として作用し、これによって、現行の方法を用いた検出または観察が回避され、このことは現行の方法を用いて検出されるCTCがなぜそのように少ないのかの説明となる。同様に、表面タンパク質マーカーのグリコシル化、または糖分子の誘引(CTCそのもの以外の実体からの)、または細胞表面成分と他の生体分子との会合などの他の要素によっても、「CTC」のマスキングまたは覆い隠しを実行することができる。
【0018】
曝露手法は、これらの妨害分子および細胞を除去することによって、二次標識によって予め標識されているかまたは特異的に検出することができる、あるいは他の手段によって検出を容易にすることができる、マーカー特異的結合試薬に対して、CTC特異的マーカーをより近づきやすくする。次に、これらの検出可能な試薬を用いて、CTCを同定する。該曝露段階を適用することまたはマーカー特異的結合試薬の異なる組み合わせによって曝露段階を省略することのいずれかによってアッセイを行うことにより、腫瘍およびその病期を特徴決定するために、ならびに予後および治療応答を予測するために、新しい有用な情報を作製することが可能である。
【0019】
本発明の組成物および方法を記載する前に、記載される特定の組成物、方法、および実験条件は変更されうるので、本発明は、そのような組成物、方法、および条件に限定されないことが理解されるべきである。また本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって制限されることから、本明細書において用いられる用語は、特定の態様を記載することのみを目的とし、制限を意図していないと理解されるべきである。
【0020】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる単数形「ある」、「1つの」、および「その」には、本文が明らかにそれ以外であることを明記している場合を除き、複数形が含まれる。このように、たとえば「方法」なる言及には、本開示を読んだ当業者に明らかであろう本明細書において記載されるタイプの1つまたは複数の方法、および/または段階などが含まれる。
【0021】
特記されない限り、本明細書において用いられる全ての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料を以下に記載する。
【0022】
一般的に、「1つの循環腫瘍細胞」なる言及は、単細胞を指すと意図されるが、「循環腫瘍細胞」なる言及は、1つより多くの細胞を指すと意図される。しかし当業者は、「循環腫瘍細胞」なる言及には、1つまたは複数の循環腫瘍細胞を含む循環腫瘍細胞の集団が含まれると意図されることを理解するであろう。
【0023】
本明細書においてさらに述べるように、検出可能な試薬のシグナル強度は、CTCを分類するために有用な様々なタイプの情報を得るために利用されうる。たとえば、シグナル強度から、関心対象のタンパク質(たとえば、細胞内マーカーおよび細胞表面マーカー両方の細胞特異的マーカー)の発現レベルを推定してもよい。加えて、シグナル強度から、特定の試料中に存在するマスキング対露出のレベルを推定してもよい。細胞表面マーカーおよび細胞内マーカーのシグナル強度は、そのような情報を提供する。細胞内マーカーに関しては、これは、被覆(たとえば、マスキング)が細胞膜より強固な可能性があり(たとえば、タンパク質メッシュは脂質より強固である)、かつCTCの被覆を除去してCTCを曝露するためには、細胞内環境が分解されるまたは破壊されるような過酷な条件が必要となる可能性があるためである。
【0024】
曝露アッセイおよび非曝露アッセイにおいて検出されるCTCからの様々な細胞マーカーのシグナル強度を特異的比較において利用することは、予後および治療の決定を可能にする癌患者についての見通しを得るためのCTCの分類を可能にする、新しい有用な情報を提供する。
【0025】
したがって、1つの局面において、本発明は、対象の循環腫瘍細胞(CTC)を分類する方法を提供する。方法には、(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;(b)第一の試料においてCTCを曝露する段階;(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第一の試料の曝露CTCを分析する段階;(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階であって、第二の試料のCTCが分析前に曝露も露出もされていない、段階;ならびに(e)(c)と(d)の結果を比較して対象のCTCの分類を提供して、それによってCTCの分類を提供する段階が含まれる。方法にはさらに、(e)の結果を対象の事前のCTC分類または公知の分類と比較する段階が含まれうる。
【0026】
本発明の方法は、曝露CTCを生成するために曝露アッセイを利用する。本明細書において用いられる「曝露する」および「を曝露する」という用語は一般的に、検出、分析、特徴決定、および/またはさらなる処理、例えば濃縮に対してCTCがより変更可能となるように、その天然の状態のCTCを改変することに関する。CTCの曝露には、CTCの表面および/または表面成分に凝集および/または会合した全てのまたはいくつかの生体分子を除去および/または分解させる段階が含まれうる。たとえば、CTCの曝露には、CTCの表面に凝集したおよび/または物理的に会合した凝集細胞(たとえば、血小板)、糖質、および/またはタンパク質(たとえば、フィブリン)を除去、分解、または改変することによってCTCを露出させるまたは覆いを取り除く段階が含まれ得、それによって、表面成分たとえば癌表面マーカーおよび他の表面結合細胞成分、ならびに細胞内成分、例えば核酸および他の細胞内成分(たとえば、核および細胞質タンパク質等)などの、1つまたは複数のCTC細胞成分に対する接近が可能となりうる。そのため、「露出する」および/または「覆いを取り除く」段階は、宿主による免疫認識または応答からCTCを覆い隠すのを補助しうるその天然の状態のCTCの性質を改変する段階、ならびに/または検出、分析、特徴決定、および/もしくはさらなる処理に対してCTCがより変更可能となるようにさせる段階を含むことが意図される。CTCを曝露させる段階には、CTCに物理的に会合したおよび/または凝集した細胞表面マーカーのエピトープまたはタンパク質などのCTC細胞成分を改変する段階が含まれうる。
【0027】
加えて、本発明の方法は、非曝露アッセイ由来のCTCの検出を利用する。本明細書において用いられる、非曝露アッセイ由来のCTCとは、CTCが、曝露アッセイ由来のCTCの場合のように露出されていないまたは曝露されていないことを意味すると意図される。たとえば、非曝露アッセイ由来のCTCは、細胞マーカーの検出前に露出されず、ゆえに該細胞マーカーは、該CTCを露出するための酵素的処理または他の処置を伴わずに検出されるが、むしろその一般的な天然状態で検出される。
【0028】
「生体分子」という用語は、一般的に、生体系において生じる任意の有機または生化学分子を指すと意図される。
【0029】
CTCは、任意の適した試料タイプにおいて曝露されうる。本明細書において用いられる「試料」という用語は、本発明によって提供される方法に適した任意の試料を指す。試料は、検出にとって適したCTCが含まれる任意の試料でありうる。試料の供給源には、全血、骨髄、胸膜液、腹水、脳脊髄液、尿、唾液、および気管支洗浄液が含まれる。1つの局面において、試料は、たとえば全血、またはその任意の画分もしくは成分を含む血液試料である。本発明と共に用いるために適した血液試料は、静脈血、動脈血、末梢血、組織血、臍帯血などの、血液細胞またはその成分を含む公知の任意の供給源から抽出されうる。たとえば、試料は、周知でルーチンの臨床方法(たとえば、全血を採取および処理する技法)を用いて得られて処理されうる。1つの局面において、例示的な試料は、癌を有する対象から採取された末梢血でありうる。
【0030】
「血液成分」という用語には、赤血球、白血球、血小板、内皮細胞、中皮細胞、または上皮細胞を含む全血の任意の成分が含まれると意図される。血液成分にはまた、タンパク質、脂質、核酸、および糖質などの血漿の成分、ならびに妊娠、臓器移植、感染症、損傷、または疾患により血液中に存在しうる他の任意の細胞が含まれる。
【0031】
本明細書において用いられる「癌」という用語には、異形成、過形成、固形腫瘍、および造血癌が含まれるがこれらに限定されるわけではない当技術分野において周知である様々なタイプの癌が含まれる。多くのタイプの癌は、転移して循環腫瘍細胞を分散させることが知られており、または転移性の、たとえば、転移した原発性癌に起因する二次性癌であることが知られている。追加の癌には、以下の臓器または系が含まれうるがこれらに限定されるわけではない:脳、心臓、肺、消化管、尿生殖器官、肝臓、骨、神経系、婦人科、血液、皮膚、乳腺、および副腎。癌細胞の追加のタイプには、神経膠腫(神経鞘腫、神経膠芽種、星状細胞腫)、神経芽腫、褐色細胞腫、傍神経節腫、髄膜腫、副腎皮質癌、髄芽細胞腫、横紋筋肉腫、腎臓癌、様々なタイプの血管癌、骨芽細胞骨癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮平滑筋腫、唾液腺癌、脈絡叢癌、乳癌、膵臓癌、結腸癌、および巨核芽球性白血病;ならびに悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫、異形成性母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、ケロイド、線維肉腫または血管肉腫などの肉腫、および黒色腫を含む皮膚癌が含まれる。
【0032】
「循環腫瘍細胞」(CTC)という用語は、対象の試料において見いだされる任意の癌細胞を意味すると意図される。典型的にCTCは、固形腫瘍から剥離している。そのため、CTCは、進行癌を有する患者の循環中に非常に低濃度で見いだされる固形腫瘍から分散した上皮細胞であることが多い。CTCはまた、肉腫由来の中皮細胞または黒色腫由来のメラノサイトでありうる。
【0033】
本明細書において用いられる細胞成分は、細胞の溶解によって少なくとも部分的に単離されうる細胞の任意の成分が含まれると意図される。細胞成分は、核、核周囲区画、核膜、ミトコンドリア、葉緑体、もしくは細胞膜などのオルガネラ;脂質、多糖類、タンパク質(膜タンパク質、膜貫通型タンパク質、もしくは細胞質タンパク質)などのポリマーもしくは分子複合体;核酸、ウイルス粒子、もしくはリボソーム;またはホルモン、イオン、補因子、もしくは薬物などの他の分子であってもよい。
【0034】
曝露CTCとは、露出されかつ/またはその天然の状態から改変されている。本明細書において述べるように、CTCは、凝集した細胞(たとえば、血小板)、糖質、および/またはタンパク質(たとえば、フィブリン)を除去する、分解する、および/または改変することによって露出および曝露され、これによって、検出および/または分析に重要な、CTCの重要成分、たとえば、これらに限定されるわけではないが癌マーカーおよび他の表面結合細胞成分などの表面成分に対する接近を可能にする。
【0035】
したがって、曝露CTCまたは曝露CTC集団が含まれる試料とは、本明細書において記載されるように処理され、試料が処理されていなかった場合と比較して、たとえば非曝露試料と比較して、曝露された(たとえば、露出したおよび/または改変された)CTCの相対的集団を増加させた試料を意味すると意図される。たとえば、試料中の曝露CTCの相対的集団は、少なくとも約10%、25%、50%、75%、100%、または少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、もしくはさらに200倍増加しうる。
【0036】
CTCを露出させる曝露アッセイには、細胞を露出させるために循環腫瘍細胞の表面に凝集したまたは物理的に会合したタンパク質、糖質、細胞、またはこれらの混合物を除去、分解、または改変して、それによって循環腫瘍細胞を曝露する段階が含まれる。細胞を曝露する段階には、血漿タンパク質、糖質、血小板、他の血球、またはその混合物を除去、分解、または改変する段階が含まれる。たとえば、フィブリンなどの凝固因子である血漿因子を除去して、CTCを曝露および露出してもよい。
【0037】
CTCは、多様な方法を用いて曝露および露出されうる。たとえば、CTCは、これらに限定されるわけではないが、酵素、機械、電気、電磁放射線、もしくは化学処置、またはその任意の組み合わせなどの処置が含まれる方法を用いて曝露されうる。
【0038】
1つの態様において、CTCの表面からのタンパク質および/または細胞の除去および/または分解は、CTCを酵素的に処置することによって行われる。酵素処置は、線維素溶解によって起こりうる。関連する方法において、線維素溶解は、プラスミノーゲンの酵素的活性化によって生じる。
【0039】
本明細書において用いられる線維素溶解は、フィブリンおよび/またはフィブリン血餅等の凝固産物等が分解される酵素的処理を意味すると意図される。1つの局面において、線維素溶解による分解は、酵素プラスミンによるCTCの処置によって行われる。プラスミンは、フィブリンのみならず線維素溶解において重要な役割を果たす他の血漿タンパク質を分解する、血液中に存在するセリンプロテアーゼである。プラスミンは、フィブリン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ラミニンおよびフォンヴィレブランド因子のようなタンパク質を酵素的に切断することが知られている。多様な天然および合成プラスミンが当技術分野において周知であり、酵素が線維素溶解において何らかの役割を保持する限り、本発明の方法と共に用いられうる。
【0040】
プラスミンは、肝臓から循環中に排泄されるプラスミノーゲンに由来する。循環中に入ると、プラスミノーゲンは、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(uPA)、トロンビン、フィブリン、および第XII因子(ハーゲマン因子)などの多様な因子によって活性化されてプラスミンを生成しうる。したがって、本発明のもう1つの局面において、線維素溶解は、プラスミノーゲンの酵素的活性化によって生じる。
【0041】
線維素溶解はまた、その他の天然に存在するまたは合成によって得られる物質によっても実行されうる。たとえば、本発明のなおもう1つの局面において、線維素溶解は、天然または合成の動物の毒液または毒素によってCTCを処置することによって起こりうる。たとえば、これらに限定されるわけではないが、コウモリ、ヘビ、および昆虫などの有毒動物は、線維素溶解の直接的または間接的な酵素的活性化を行うことができる毒液または毒素を保有することが知られている。
【0042】
マスキングされたCTCの表面に凝集した細胞およびタンパク質の酵素的分解に加えて、CTCを機械的、電気的、または化学的に処置してもよい。たとえば、表面に凝集した細胞およびタンパク質を剪断するためのCTCの処置において機械力を用いてもよい。したがって、本発明は、CTCを露出させることができる任意のタイプの機械力または機構によるCTCの処置を想定している。加えて、これらに限定されるわけではないが、電磁力、静電気力、電気化学力、電磁放射線、超音波力等などの多様な電気の力による処置を利用してCTCを露出させてもよい。電磁放射線には、任意の領域の電磁スペクトルからの放射線の適用が含まれうる。
【0043】
さらに、多様な化学物質による処置を利用して、CTCを曝露してもよい。たとえば、これらに限定されるわけではないが、天然または合成分子、有機化合物、非有機化合物、薬物、治療物質等などの化学物質を用いて、凝固因子の分解に至る線維素溶解経路における様々な段階を活性化または阻害してもよい。CTCを露出するために用いられうる追加の化学物質には、CTCの表面上の血小板およびフィブリンの活性化を分解および/または抑制する、抗血小板剤、抗凝固剤、および/または血液希釈剤が含まれる。用いられうる一般的な抗血小板剤、抗凝固剤、および血液希釈剤には、アスピリンなどのシクロオキシゲナーゼ阻害剤;クロピドグレルおよびチクロピジンなどのアデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤;シロスタゾールなどのホスホジエステラーゼ阻害剤;アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、およびデフィブロチドなどの糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤;ジピリダモールなどのアデノシン再取り込み阻害剤;ビタミンK拮抗剤;ヘパリンおよびヘパリン誘導体物質;クロピドグレル(Plavix(商標));ベンゾピロン(クマリン);および直接トロンビン阻害剤が含まれるがこれらに限定されるわけではない。例示的な局面において、CTCは、細胞を曝露するためにヘパリンによって処置される。
【0044】
1つの態様において、CTCの表面に物理的に会合した凝塊形成細胞を崩壊させることによってCTCを曝露するのに十分な機械力は、生物医学および診断研究のために用いられるマイクロ流体工学装置において生成されうる。マイクロ流体工学システムを構成するマイクロスケールの装置は、典型的に複数のポスト、溝、またはマイクロチャネル、および、一般的にシリコン、プラスチック、石英、ガラス、またはプラスチックで構成される基板内にエッチングまたは成形されたチャンバからなる。これらのマイクロスケール部材の大きさ、形状、構成、ならびにその相互接続は、流体中に浮遊する細胞または細胞塊などの、装置の中を流れる流体試料の構成成分に対して生成される物理的力を左右する。マイクロ流体工学装置のマイクロスケール部材は、流体の流速などの要素と共に、流体試料中のCTCを曝露するために十分な機械力を生成するように構成されて利用されうると想定される。加えて、当業者は、マイクロ流体工学システムにおける機械力とは別にまたはそれに加えて、CTCを、1つまたはそれより多くの他の処置技術(たとえば、酵素的、化学的、電気的等)によって処置してもよいことを認識するであろう。したがって、CTCは、マイクロ流体工学装置に導入される前または後、およびマイクロ流体工学装置自体において、例えば酵素的におよび化学的に処置されうる。
【0045】
様々な局面において、CTCの完全性を損なって溶解をもたらし得る過剰な分解を防止するために、処置の期間を制限することが必要でありうる。したがって、様々な態様において、細胞をさらに検出および/または同定することができるような、分子をCTCから除去するのに十分な期間内で、細胞を処置すべきである。この期間は細胞に適用される処置のタイプに応じて変更されうるが、そのような時間を日常のアッセイによって決定することは当業者の知識の範囲内である。加えて、CTCを酵素的または化学的に処置する場合、反応を遅らせるまたは停止させるための特異的阻害剤を加えることによって、反応を制御してもよい。
【0046】
曝露CTC集団に含まれる曝露CTCの総数は、初期試料容積に一部依存する。様々な局面において、広範な初期試料容積のCTCの曝露が、臨床的に有意な結果を提供することができる数の曝露CTCを生じるのに十分である。そのため、初期試料容積は、約25μl未満、50μl、75μl、100μl、125μl、150μl、175μl、200μl、225μl、250μl、300μl、400μl、500μl、750μl、1 ml、2 ml、3 ml、4 ml、5 ml、6 ml、7 ml、8 ml、9 mlまたは約10 ml超でありうる。例示的な局面において、初期試料容積は約100から200μlの間である。もう1つの例示的な局面において、本明細書において記載されるように処理される試料には、曝露CTCが約1、2、5、7、10、15、20、30、40、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900個、または1000個超含まれる。
【0047】
本発明の様々な態様において、曝露CTCおよび非曝露CTCを分析して、臨床的に有意なデータを導く。CTCの分析は、所望のデータのタイプに応じて多様な方法によって行われうる。たとえば、様々な局面において、細胞表面マーカーなどの細胞成分の認識および/または結合を利用するアッセイによってCTCを検出および特徴決定することによって、CTCを分析してもよい。本発明と共に用いるために、そこから有用なデータが導かれる多様な検出/固定アッセイが企図される。追加の分析法には、画像分析が含まれうる。
【0048】
本明細書において用いられる画像分析には、CTCの直接的または間接的可視化を可能にする任意の方法が含まれる。たとえば、画像分析には、固相基質に結合した細胞のエクスビボでの顕微鏡によるまたはサイトメトリーによる検出および可視化、フローサイトメトリー、蛍光イメージング等が含まれうるがこれらに限定されるわけではない。例示的な局面において、CTCを、細胞表面マーカーを標的とする抗体を用いて検出し、その後固相基質に結合させて、顕微鏡または細胞測定検出を用いて可視化する。
【0049】
様々な態様において、多様な細胞マーカーを用いて、CTCを分析、検出、および分類してもよい。本明細書において用いられる細胞マーカーには、細胞内でもしくは細胞表面上で検出されうる任意の細胞成分、または細胞の表面に結合もしくは凝集した高分子が含まれる。そのため、細胞マーカーは、物理的に細胞の表面上にあるマーカーに限定されない。たとえば、細胞マーカーには、表面抗原、膜貫通受容体または共受容体、結合または凝集したタンパク質または糖質などの表面に結合した高分子、内部細胞成分等が含まれうるがこれらに限定されるわけではない。1つの局面において、細胞マーカーは、EpCAMまたはサイトケラチンなどの細胞接着分子でありうる。例示的な局面において、細胞マーカーを検出するために用いられる抗体は、抗サイトケラチン、汎ケラチン、および抗EpCAMである。
【0050】
加えて、癌に対して特異的であることが知られる多数の細胞マーカーを、標的化してまたはそれ以外の方法で利用して、CTCを検出および分析してもよい。たとえば、様々な受容体が、特定のタイプの癌のみにおいて発現または過剰発現されることが見いだされている。本発明の様々な局面において、細胞マーカーには、EGFR、HER2、ERCC1、CXCR4、EpCAM、E-カドヘリン、ムチン-1、サイトケラチン、PSA、PSMA、RRM1、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、IGF1、cMET、EML4、または白血球関連受容体(LAR)が含まれる。さらに、特定の細胞タイプに対して特異的である細胞マーカーを利用してもよい。たとえば、有用な内皮細胞表面マーカーには、CD105、CD106、CD144、およびCD146が含まれ、有用な腫瘍内皮細胞表面マーカーには、TEM1、TEM5、およびTEM8が含まれる。
【0051】
様々な態様において、本発明の方法には、分析前に患者の試料のCTCをさらに処理する段階が含まれうる。たとえば、1つの態様において、CTCは、CTC用の試料を濃縮するために一般的に用いられる技術、たとえば免疫磁気捕捉などの免疫特異的相互作用を伴う技術によって捕捉される。ビーズまたはポストによる免疫捕捉を含む多様な免疫捕捉法が公知である。磁場または固相支持体は免疫捕捉を補助しうる。EGFR、HER2、ERCC1、CXCR4、EpCAM、E-カドヘリン、ムチン-1、サイトケラチン、PSA、PSMA、RRM1、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、IGF1、cMET、EML4、または白血球関連受容体(LAR)を含む様々な細胞マーカーが、免疫捕捉のために用いられうる。
【0052】
免疫磁気細胞分離としても知られる免疫磁気捕捉は典型的に、特定の細胞タイプ上で見いだされるタンパク質を標的とする抗体を、小さな常磁性ビーズに付着させる段階を伴う。抗体コーティングビーズを血液などの試料と混合すると、それらは特定の細胞に付着してまわりを取り囲む。次に、試料を強い磁場の中に入れて、ビーズを片側に沈降させる。血液を除去した後、捕捉された細胞はビーズと共に保持される。この一般的方法の多くの変法が当技術分野において周知であり、本発明の方法を用いてCTCを曝露した後にCTCを濃縮するための使用に適している。
【0053】
もう1つの態様において、CTCは、濃縮段階の前に濾過を用いてさらに処理される。CTCの曝露プロセスは細胞の凝集物を崩壊させ、それによって、濾過がより効率的になる。
【0054】
もう1つの態様において、CTCは、密度勾配沈降による細胞分離によってさらに処理される。典型的には該処理は、CTCなどの有核細胞を赤血球および他の非CTC細胞から分離するための細胞密度などの肉眼による物理的識別に依る。この一般的方法の多くの変法が当技術分野において周知であり、本発明の方法を用いてCTCを曝露した後にCTCを濃縮するための使用に適している。
【0055】
もう1つの態様において、CTCは、「パニング」と呼ばれる技術によって濃縮される。典型的に、そのような処理は、抗体が固相表面に接着している、対象となる細胞タイプに対して特異的な抗体を利用する。細胞混合物を抗体コーティング表面上で層状にすると、標的細胞は、抗体抗原結合を伴う免疫特異的相互作用により固相表面に緊密に接着する。非接着細胞を表面からすすぎ落とし、それによって細胞の分離および濃縮を行う。抗体によって認識される細胞表面タンパク質を発現する細胞は、固相表面に保持されるが、他の細胞タイプは保持されない。
【0056】
細胞マーカーの検出および分析は多様な様式で行われうる。例示的な態様において、検出および分析は、スライドガラスを用いる蛍光顕微鏡および画像分析を用いて行われる。
【0057】
典型的に、個別の反応においてマーカー特異的結合試薬の様々な組み合わせを実施してもよい。それらの反応を、個々のスライドガラス上で行ってもよい。しかし、異なる試薬のあいだで異なる、たとえば異なる波長で励起して放射する異なる蛍光色素などの標識を用いることによって、同じスライドガラス上でマーカー特異的結合試薬の異なる組み合わせを行うこともできる。
【0058】
標識後、スライドガラスを撮像してもよく、コンピューターおよび情報処理アルゴリムによって、CTCを同定および計数する。次に、これらの画像を熟練技術者または病理学者が再検討して、曝露アッセイを用いて処理された試料および曝露アッセイを用いて処理されていない試料において検出された特異的細胞マーカーの分析を行ってもよい。
【0059】
分析は、予後および応答を分類、特徴決定、および予測するために様々なCTC数に関して数学的演算を利用する。1つの態様において、比率は有用な情報を提供する。
【0060】
当業者は、本明細書において述べるように、任意の数の細胞マーカーを利用してもよいことを認識するであろうが、以下の表は、細胞マーカーであるサイトケラチンとEpCAMの利用を例証する。例として、表1のデータを用いると、曝露(-)アッセイと比較して曝露(+)アッセイにおいて検出されたサイトケラチン(+)細胞の百分率は、B/Aである。同様に、曝露(+)アッセイ由来のサイトケラチン(+)細胞の増加百分率は(B−A)/Aである。これらの同じ操作を、EpCAMデータに応用してもよく、この場合、D/Cは、曝露(+)/曝露(-)におけるEpCAM(+)細胞の百分率であり、(D−C)/Cは、増加百分率である。各曝露条件下でのEpCAM(+)細胞対サイトケラチン(+)細胞の比率もまた、腫瘍の応答を特徴決定および予測するために有用である。この場合、比率はC/AおよびD/Bであろう。データを分析する際には異なる多くの数学的演算が可能であることから、これらの特定の数学的演算は単に例示的であるに過ぎない。
【0061】
(表1)新規情報を作成するためにアッセイの組み合わせの例証となる使用。A、B、C、およびDは各条件下で計数されたCTC数である。

【0062】
本発明の方法を用いるCTCの分類は、癌の予後の評価において、および、疾患の再発につながりうる処置失敗を早期に検出するための治療効果のモニタリングにおいて有用である。加えて、本発明によるCTC分析により、治療過程を終了した前症候性の患者における早期再発の検出が可能となる。これは、CTCの存在が、腫瘍の進行および広がり、治療に対する応答不良、疾患の再発、および/または一定期間にわたる生存率低下に関連および/または相関しているために可能である。このように、曝露CTCの計数および特徴決定は、初期リスクおよび治療応答に基づくその後のリスクを予測するベースライン特徴に関して患者を階層化する方法を提供する。
【0063】
本明細書において用いられる「対象」という用語は、本発明の方法が行われる任意の個体または患者を指す。一般的に対象はヒトであるが、当業者によって認識されるように、対象は動物でありうる。したがって、齧歯類(マウス、ラット、ハムスター、およびモルモットが含まれる)、ネコ、イヌ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタを含む農場動物等、および霊長類(サル、チンパンジー、オランウータン、およびゴリラが含まれる)などの哺乳動物を含む他の動物が、対象の定義の中に含まれる。
【0064】
したがって、もう1つの態様において、本発明は、対象における癌の予後を判定する方法を提供する。方法には、対象における癌の予後を判定するために、本明細書において記載されるCTCを分類する段階が含まれる。そのため、本発明の方法は、たとえば癌を評価するために用いられうる。
【0065】
原発性腫瘍におけるEpCAMの発現は、従来より予後に関連づけられている。具体的には、高レベルのEpCAM発現はより悪い予後を示す。しかし、患者が処置を受けている間の初回生検および腫瘍は経時的におよび/または処置に応じて変化した可能性があることから、初回生検はEpCAM発現を評価するために利用できないことが多くかつ/または時間が経過している可能性がある。CTC分析は、疾患の過程においてEpCAM発現を評価するための、侵襲性が最小である様式を提供する。上記のアッセイマトリクスを行うことによって、EpCAM:サイトケラチンの比率(C/AおよびD/B)を見ることにより相対的EpCAM発現を評価する。より高い比率は負の予後指標であり、かつより不良な治療応答の予測と考えられる。
【0066】
タンパク質、糖質、および細胞によるマスキングは、循環系におけるCTCの生存機構である。これらのマスキング技術は、CTCが免疫系を回避するのを助けて、CTCが留まり、溢出し、かつ転移病変を形成するのに適した環境を探す時間を与える。診断補助として、マスキングレベルを決定する段階は、予後に関する情報を提供して、治療応答を予測する。決定された任意の比率が、有用な見通しを提供しかつ予後の決定を補助すると予想される。たとえば、上記の表を用いて、サイトケラチン(B/A)およびEpCAM(D/C)に関する相対的マスキング数によりこの情報が提供され、この場合、より高い比率は負の予後指標であり、かつより不良な治療応答の予測である。
【0067】
例示的なマーカー特異的結合試薬には、EGFR、HER2、ERCC1、CXCR4、EpCAM、E-カドヘリン、ムチン-1、サイトケラチン、PSA、PSMA、RRM1、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、IGF1、cMET、EML4、または白血球関連受容体(LAR)などの細胞マーカーが含まれる。
【0068】
上記のアプローチを一般化してもよい。同じ患者について多数の異なるCTCアッセイを行うことによって、独自のデータを提供する結果を作製する。該データを互いに比較した場合、腫瘍の特徴決定を詳述しかつ患者の予後および処置効果を予測する、新規情報が作成される。重要なことに、生成された情報は、比較比を確立するために用いられたマーカーに特異的である必要ではなく、たとえばこれは、有意である比率それ自体でありうる。
【0069】
このように、様々な局面において、対象のCTC数および分類の分析は、対象の予後および病理学を評価するために特定の時間経過にわたり様々な間隔で行われうる。たとえば、分析は、時間の関数としての循環上皮細胞のレベルおよび特徴決定を追跡するために、1日、2日、3日、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、または1年などの定期的な間隔で行われうる。
【0070】
測定された比率は、たとえば処置に応答してまたは病因の結果として、時間と共に変化する可能性があると予想される。経時的変化は、1つの時点で同じ患者について得られたアッセイとは明らかに異なるおよび/または追加の解釈的価値を有するであろう。したがって、1つの態様において、本発明には、多数の時点で(たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10回またはそれより多く)行われるアッセイを比較する段階が含まれる。
【0071】
既存の癌患者の場合、これは、疾患の進行に関する有用な指標を提供し、かつ患者の血流中のCTCの存在などの循環上皮細胞の増加、減少、または変化の欠如に基づいて医師が適切な治療選択を行う際の補助となる。曝露CTCにおける2倍、5倍、10倍、またはそれ以上などの任意の経時的な増加は、患者の予後を悪化させ、かつこれは患者が治療を変更すべきであることの早期指標である。同様に、2倍、5倍、10倍またはそれ以上などの任意の増加は、予後および治療応答をさらに評価するために患者がイメージングなどのさらなる試験を受けるべきであることを示している。曝露CTCにおける2倍、5倍、10倍またはそれ以上の任意の経時的な減少は、疾患の安定化および患者が治療に応答したことを示しており、治療を変更しないことの指標である。癌のリスクを有する患者に関して、検出される循環上皮細胞数が突然増加することは、該患者が腫瘍を発症したという早期警告を提供している可能性があり、したがって早期診断は提供される。1つの態様において、曝露CTCの検出により、癌の病期が引き上げられる。
【0072】
本明細書において記載されたCTCの分類は、特定の治療レジメンに対する対象の応答性の決定を行うための、または癌の処置における候補剤の有効性を決定するための、十分なデータを提供する。したがって、本発明は、本明細書において記載されるCTCを分類することによって、特定の治療レジメンに対する対象の応答性を決定する方法、または癌の処置における候補剤の有効性を決定する方法を提供する。たとえば、薬物処置を患者に投与すれば、本発明の方法を用いて該薬物処置の効果を決定することが可能である。たとえば、薬物処置の前に患者から採取した試料のみならず、薬物処置と同時または薬物処置後に患者から採取した1つまたは複数の細胞試料を、本発明の方法を用いて処理してもよい。各々の処理された試料の分析結果を比較することによって、該薬物処置の効果または該剤に対する患者の応答性を決定してもよい。この様式において、初期同定を無効な化合物で行ってもよく、または初期バリデーションは有望な化合物で行ってもよい。
【0073】
候補化合物の臨床活性に関する見通しを提供する4つの重要な指標には、HER2、EGFR、CXCR4、およびEphB4 RTKが含まれる。HER2は、mRNAの安定性およびHER2転写物の細胞内局在を決定することによって、細胞の悪性疾患の指標を提供する。変異の獲得に対するEGFRの抵抗性および/または獲得された変異は、候補化合物、および候補化合物と併用して用いられうる可能性がある代替化合物の活性の重要な指標を提供する。白金によって誘導されるDNA修復妨害レベルの評価は、CXCR4マーカーの状態および転移条件に関する見通しを提供する。加えて、Ephβ4受容体チロシンキナーゼの状態の評価は、細胞の転移能に関する見通しを提供する。したがって、本発明の方法を用いて、血液試料を頻繁に採取して各試料中の循環上皮細胞、たとえばCTCの数を時間の関数として決定することによって、そのような候補薬を投与されている患者をモニタリングする。Her2、EGFR、CXCR4、およびEphβ4 RTK指標のさらなる分析は、癌の病理学および候補薬の効果に関する情報を提供する。同様に、ERRC1、サイトケラチン、PSA、PSMA、RRM1、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、IGF1、cMET、EML4およびその他は、候補化合物の臨床活性に関する見通しを提供する。臨床活性のこれらの指標の分析は、免疫組織化学、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)、シークエンシング、遺伝子タイピング、遺伝子発現、または他の分子分析技術を通して行われうる。
【0074】
本明細書において提供される全ての方法において、CTCを特徴決定するための追加の分析を行って、追加の臨床評価を提供してもよい。たとえば、画像分析およびバルク数測定に加えて、CTCの供給源である腫瘍のタイプ、転移状態、および悪性度などの情報を得るために、特定の癌マーカーに対して特異的なプライマーによる多重PCRなどのPCR技術を使用してもよい。加えて、患者の癌の特徴決定に関する追加の情報を評価する手段として、細胞の大きさ、DNAもしくはRNA分析、プロテオーム分析、またはメタボローム分析を行ってもよい。様々な局面において、分析には、以下のマーカーの1つまたは複数に対する抗体、またはそれらに対して特異的なプライマーを用いる多重PCRが含まれる:EGFR、HER2、ERCC1、CXCR4、EpCAM、E-カドヘリン、ムチン-1、サイトケラチン、PSA、PSMA、RRM1、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、IGF1、cMET、EML4、または白血球関連受容体(LAR)。
【0075】
本発明は、上記の例を参照して記載してきたが、改変および修正が本発明の精神および範囲内に包含されると理解されるであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、対象の循環腫瘍細胞(CTC)を分類する方法:
(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;
(b)第一の試料のCTCの表面に物理的に会合したタンパク質、糖質、細胞、またはこれらの混合物を除去または改変することにより該CTCを露出および曝露することによって、該CTCを曝露する段階;
(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて(b)の曝露CTCを分析する段階;
(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階;ならびに
(e)該対象由来の該CTCの分類を提供するために(c)と(d)の結果を比較し、それによって該CTCを分類する段階。
【請求項2】
(e)の結果を前記対象の事前の分類または公知の分類と比較する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第二の試料のCTCが分析前に曝露されない、請求項1記載の方法。
【請求項4】
(e)の比較が、第一の細胞マーカーを有する第二の試料のCTC数と比較した、第一の細胞マーカーを有する第一の試料のCTC数の比率の計算を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
(e)の比較が、第二の細胞マーカーを有する第二の試料のCTC数と比較した、第一の細胞マーカーを有する第一の試料のCTC数の比率の計算を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
第一および第二の細胞マーカーが、EGFR、HER2、ERCC1、CXCR4、EpCAM、E-カドヘリン、ムチン-1、サイトケラチン、PSA、PSMA、RRM1、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、IGF1、cMET、EML4、または白血球関連受容体(LAR)からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
(c)および(d)の試薬が前記細胞マーカーを検出するために用いられる抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が蛍光標識される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記抗体が、EpCAM、サイトケラチン、またはその混合物を標的とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
(b)の曝露段階が、血漿タンパク質、血小板、またはその混合物の全てまたは一部を除去する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記血漿タンパク質が凝固因子である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記凝固因子がフィブリンである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
(b)の曝露段階が、酵素処置、機械的処置、電気的処置、電磁的処置、化学的処置、またはその任意の組み合わせを含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
(b)の曝露段階が、酵素処置を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記酵素処置が線維素溶解によって行われる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記線維素溶解にプラスミンを用いる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記酵素処置が動物の毒液または毒素とのインキュベーションによって行われる、請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記酵素処置がプラスミノーゲンの活性化によって行われる、請求項14記載の方法。
【請求項19】
(b)の曝露段階が、抗凝固剤または血液希釈剤による前記細胞の処置を含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
第一および第二の試料が約200マイクロリットルである、請求項1記載の方法。
【請求項21】
分析前に第一または第二の試料を濃縮する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記試料が免疫磁気的にまたは濾過によって濃縮される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
(c)または(d)の分析段階が画像分析を含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記画像分析が顕微鏡またはフローサイトメトリーによって行われる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記対象の予後を提供する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項26】
前記対象が癌を有することがわかっている、請求項1記載の方法。
【請求項27】
前記対象が癌の治療を受けている、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記治療が化学療法である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
以下の段階を含む、対象における癌の予後を判定する方法:
(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;
(b)第一の試料のCTCの表面に物理的に会合したタンパク質、糖質、細胞、またはこれらの混合物を除去または改変することにより該CTCを露出および曝露することによって、該CTCを曝露する段階;
(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて(b)の曝露CTCを分析する段階;
(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階;
(e)該対象由来の該CTCの分類を提供するために(c)と(d)の結果を比較する段階;ならびに
(f)予後を決定し、それによって対象における癌の予後を判定する段階。
【請求項30】
(e)の結果を前記対象の事前の分類または公知の分類と比較する段階をさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
第二の試料の細胞が分析前に曝露されない、請求項29記載の方法。
【請求項32】
以下の段階を含む、治療レジメンに対する対象の応答性を決定する方法:
(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;
(b)第一の試料のCTCの表面に物理的に会合したタンパク質、糖質、細胞、またはこれらの混合物を除去または改変することにより該CTCを露出および曝露することによって、該CTCを曝露する段階;
(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて(b)の曝露CTCを分析する段階;
(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階;
(e)該対象由来の該CTCの分類を提供するために(c)と(d)の結果を比較する段階;ならびに
(f)治療レジメンに対する該対象の応答性を決定する段階。
【請求項33】
(e)の結果を前記対象の事前の分類または公知の分類と比較する段階をさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
第二の試料の細胞が分析前に曝露されない、請求項32記載の方法。
【請求項35】
以下の段階を含む、癌の処置における候補剤の有効性を決定する方法:
(a)対象由来の第一および第二の試料を提供する段階;
(b)第一の試料のCTCの表面に物理的に会合したタンパク質、糖質、細胞、またはこれらの混合物を除去または改変することにより該CTCを露出および曝露することによって、該CTCを曝露する段階;
(c)第一の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて(b)の曝露CTCを分析する段階;
(d)第一または第二の細胞マーカーに対して特異的な試薬を用いて第二の試料のCTCを分析する段階;
(e)該対象由来の該CTCの分類を提供するために(c)と(d)の結果を比較する段階;ならびに
(f)癌の処置における候補剤の有効性を決定する段階。
【請求項36】
(e)の結果を前記対象の事前の分類または公知の分類と比較する段階をさらに含む、請求項36記載の方法。
【請求項37】
第二の試料の細胞が、分析前に曝露されない、請求項36記載の方法。

【公表番号】特表2013−504064(P2013−504064A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528045(P2012−528045)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/047676
【国際公開番号】WO2011/028905
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】