説明

微分干渉顕微鏡

【課題】製造が簡単で性能のよい複屈折光学部材を使用した微分干渉顕微鏡を提供する。
【解決手段】第1の複屈折光学部材4は、サファイアの平行平板4b、ガラス等の等方性物質からなる楔形プリズム4c、水晶からなる楔形プリズム4aを貼り合わせて形成され、その入射面と出射面とはほぼ平行とされている。又、第2の複屈折光学部材8は、水晶からなる楔形プリズム8a、ガラス等の等方性物質からなる楔形プリズム8c、サファイアの平行平板8bを貼り合わせて形成され、その入射面と出射面とはほぼ平行とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微分干渉顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微分干渉顕微鏡は、光源からの直線偏光又は楕円偏光、あるいは光源からの光を偏光子を用いて直線偏光又は楕円偏光としたものを、複屈折光学部材を通して、振動方向が互いに直角な2つの直線偏光として、これらの2つの光により被検査物体を照明し、被検査物体を透過したこれら2つの光、又は被検査物体で反射されたこれら2つの光を、複屈折光学部材を通して合成し、さらに、検光子を通してこれら2つの光を干渉させ、これら2つの光が被検査物体を透過し、又は被検査物体で反射されるときに発生する位相差に起因する干渉縞を、コントラストとして可視化し、その像を観察するものである。このような微分干渉顕微鏡の例は、例えば、特開平2−151825号公報(特許文献1)に記載されている。
【特許文献1】特開平2−151825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような微分干渉顕微鏡では、一般に、照明光学系にはコンデンサレンズを使用し、結像レンズには対物レンズが使用される。結像光学系の複屈折光学部材は、対物レンズの後側焦点面近傍に配置され、照明光学系の複屈折光学部材は、コンデンサレンズの前側焦点面近傍、又は対物レンズの後側焦点面と共約な面の近傍に配置される。
【0004】
上記のような複屈折光学材料としては、水晶、フッ化マグネシウム、サファイヤ、方解石等が知られている。複屈折光学材料には、水晶、フッ化マグネシウム等の正結晶の複屈折光学材料と、サファイヤ、方解石等の負結晶の複屈折光学材料とがあり、これらのうち何れを楔形として用いても、直線偏光又は楕円偏光を、振動方向が互いに直角な2つの直線偏光とすること、振動方向が互いに直角な2つの直線偏光を一つに合成することができる。
【0005】
しかしながら、これらの複屈折光学材料の材料の1つのみを用いた場合、分離された2つの光の位相差に、入射角による角度依存性が発生する。これを打ち消すためには、結晶の正負の異なる複屈折光学材料を光路中に入れることが行われており、特許文献1に記載されている。
【0006】
直線偏光又は楕円偏光を、振動方向が互いに直角な2つの直線偏光とするために、サファイヤ、方解石等の負結晶の複屈折光学材料を用いようとする場合、方解石は結晶がもろく研磨に耐えないので実用上使用することができず、実際には材料はサファイヤに限られるのが普通である。しかしながら、サファイヤは硬度が高いため、楔形に研磨することが非常に困難であるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、製造が簡単で性能のよい複屈折光学部材を使用した微分干渉顕微鏡を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための第1の手段は、微分干渉顕微鏡であって、その照明光学系の複屈折光学部材と、その結像光学系の複屈折光学部材とは、それぞれ、正結晶複屈折光学材料の楔形プリズムと、等方性光学材料の楔形プリズムとが接合されたものに、さらに、負結晶複屈折光学材料であるサファイヤの平行平面板が接合されて形成され、当該複屈折光学部材の入射面と射出面とはほぼ平行とされていることを特徴とする微分干渉顕微鏡である。
【0009】
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段であって、前記正結晶複屈折光学材料が、水晶であることを特徴とするものである。
【0010】
正結晶複屈折光学材料の楔形プリズム、等方性光学材料の楔形プリズムのいずれに、負結晶複屈折光学材料であるサファイヤの平行平面板を貼り合わせるかは任意である。
【0011】
なお、照明光学系を構成する光学部材と、結像光学系を構成する光学部材とは、1部が共用されていてもよい。また、第1の複屈折光学部材と第2の複屈折光学部材は1つの複屈折光学部材を共用することによって実現してもよく、このようなものも請求項に係る発明に含まれる。「ほぼ平行」とは、製作誤差の範囲で、平行から外れる場合をも含むことを意味する。「平行平面板」の平行も同じ意味である。
【0012】
本手段においては、基本的な構成は、従来の微分干渉顕微鏡と変わるところはないが、2つの複屈折光学部材は、正結晶の複屈折光学材料の楔形プリズムと等方性光学材料の楔形プリズムとを貼り合わせたものに、さらに負結晶の複屈折光学材料であるサファイヤの平行平板とを貼り合わせ、その入射面と出射面をほぼ平行にしたものを使用している。
【0013】
正結晶の複屈折光学材料としては水晶が代表的なものであり、研磨が容易であるので楔形の形状とすることが容易である。それに、ガラス等の等方性光学材料の楔形プリズムを貼り合わせ、貼り合わせたものの両面をほぼ平行にしている。「ほぼ平行」とは、製作誤差の範囲で、平行から外れる場合をも含むことを意味する。さらに、これに、負結晶の複屈折光学材料であるサファイヤの平行平板を貼り合わせている。従って、この複屈折光学材料においては、入射面と出射面がほぼ平行になり、結像性能が悪化することがない。
【0014】
正結晶の複屈折光学材料の楔形プリズムは、直線偏光又は楕円偏光の光を、振動方向が互いに直交する2つの光に分割する作用を行い、等方性光学材料の楔形プリズムは、正結晶の複屈折光学材料の楔形プリズムと貼り合わせたものの両面をほぼ平行にする役割を果たしている。また、2つの直線偏光を1つに合成する作用は、正結晶の複屈折光学材料の楔形プリズムにより行われている。サファイヤは、分離された2つの光の位相差の、入射角による角度依存性を打ち消す作用を行っている。
【0015】
又、本手段においては、3つの光学要素(正結晶の複屈折光学材料、等方性光学材料、サファイヤ)が貼り合わせて構成されているので、これらを単独で光路に挿入したときに生じる結晶軸の角度方向の位置合わせをする手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造が簡単で性能のよい複屈折光学部材を使用した微分干渉顕微鏡を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態である微分干渉顕微鏡の光学系の概要を示す図である。光源1よりの光は、コレクタレンズ2及び偏光子3を通って直線偏光とされる。そして第1の複屈折光学部材4を透過し、振動方向が互いに直角な2つの直線偏光に変換される。さらに、コンデンサレンズ5により、前記2つの直線偏光は互いに平行な直線偏光に変換され、被検査物体6のわずかに離れた位置を照明する。
【0018】
被検査物体6を透過した2つの直線偏光は、対物レンズ7により偏向され、第2の複屈折光学部材8により1つの光束にまとめられる。1つの光束となった光は、検光子9を通ってベクトル合成されて干渉し、結像面に被検査物体6の像10を結像する。2つの光が被検査物体6を透過するとき、両者の間にわずかの位相の違いが発生する。この位相の違いに起因して像10には、干渉縞がコントラストとして可視化された像が表れ、それを観測することができる。
【0019】
この例においては、第1の複屈折光学部材4は、コンデンサレンズ5の前側焦点面近傍に、光源側から、サファイヤの平行平板4b、ガラス等の等方性物質からなる楔形プリズム4c、水晶からなる楔形プリズム4aを貼り合わせて形成され、その入射面と出射面とはほぼ平行とされている。
【0020】
又、第2の複屈折光学部材8は、対物レンズ7の後側焦点面近傍に、被検査物体6側から、水晶からなる楔形プリズム8a、ガラス等の等方性物質からなる楔形プリズム8c、サファイヤの平行平板8bを貼り合わせて形成され、その入射面と出射面とはほぼ平行とされている。
【0021】
図2に、複屈折光学部材4、8の詳細図を示す。(a)は、複屈折光学部材4、(b)は複屈折光学部材8を示し、ともにz軸を光軸にとっている。複屈折光学部材4は、前述のように、入射側より順に、サファイヤの平行平板4b、光学的に等方性を示すガラス等の光学材料によって楔形に成形された等方性プリズム4c、水晶の楔形に成形されたプリズム4aとの接合によって構成されている。他方、複屈折光学部材8は入射側より順に水晶の楔形プリズム8a、等方性材料の楔形プリズム8c、サファイヤの平行平板8bとの接合によって構成されている。
【0022】
第1の複屈折光学部材4と第2の複屈折光学部材8の楔形に成形された側の接合面4s、8sは、光軸zに直交する平面を光軸zに直交する回転軸の周りに楔角だけ回転した位置にあり、両回転軸は互いにほぼ平行であり、楔角の回転方向は両接合面4s、8sで同方向となっている。第1の複屈折光学部材4の水晶の楔形プリズム4a、サファイヤの平行平板4bの光学軸角4ax、4bxは接合面4sにほぼ平行で、光軸zに直交する方向、すなわち紙面に垂直な方向(図中+印)に配置されている。
【0023】
第2の複屈折光学部材8の水晶の楔形プリズム8a、サファイヤの平行平板8bの光学軸角8ax、8bxは第1の複屈折光学部材4の光学軸角4ax、4bxと光軸zの双方に直交する方向、すなわち紙面に平行な方向(図中矢印)に配置されている。
【0024】
図3は、本発明の第2の実施の形態である微分干渉顕微鏡の光学系の概要を示す図である。以下の図において、前出の図において示された構成要素と同じ構成要素には、同じ符号を付してその説明を省略することがある。
【0025】
光源1よりの光は、コレクタレンズ2及び偏光子3を通って直線偏光とされ、ビームスプリッタ11により反射される。そして複屈折光学部材12を透過し、振動方向が互いに直角な2つの直線偏光に変換され、対物レンズ13により、被検査物体6を照明する。
【0026】
被検査物体6で反射された2つの光は、対物レンズ13により偏向され、複屈折光学部材12により1つの光束にまとめられ、ビームスプリッタ11を透過する。1つの光束となった光は、検光子9を通ってベクトル合成されて干渉し、結像面に被検査物体6の像10を結像する。2つの光が被検査物体6で反射されるとき、両者の間にわずかの位相の違いが発生する。この位相の違いに起因して像10には、干渉縞がコントラストとして可視化された像が表れ、それを観測することができる。
【0027】
図4に複屈折光学部材12の詳細図を示す。複屈折光学部材12は、前述のように、入射側より順にサファイヤの平行平板12b、等方性材料の楔形プリズム12c、水晶の楔形プリズム12aとの接合によって構成されている。複屈折光学部材12の水晶の楔形プリズム12a、サファイヤの平行平板12bの光学軸角12ax、12bxは紙面に平行な方向(図中矢印)に配置されている。
【0028】
図5は、本発明の第3の実施の形態である微分干渉顕微鏡の光学系の概要を示す図である。光源1よりの光は、コレクタレンズ2及び偏光子3を通って直線偏光とされる。そして第1の複屈折光学部材4を透過し、振動方向が互いに直角な2つの直線偏光に変換され、コンデンサレンズ5により、被検査物体6を照明する。
【0029】
被検査物体6を透過した2つの光は、対物レンズ7により偏向され、第2の複屈折光学部材8により1つの光束にまとめられる。1つの光束となった光は、検光子9を通ってベクトル合成されて干渉し、ズームレンズ14に入り、更に結像レンズ15を通って被検査物体6の像10を結像面に結像する。本実施の形態においては、ズームレンズ14が設けられているので、倍率を連続的に可変とすることができる。
【0030】
2つの光が被検査物体6を透過するとき、両者の間にわずかの位相の違いが発生する。この位相の違いに起因して像10には、干渉縞がコントラストとして可視化された像が表れ、それを観測することができる。
【0031】
この例においては、第1の複屈折光学部材4は、光源側から、サファイヤの平行平板4b、ガラス等の等方性物質からなる楔形プリズム4c、水晶からなる楔形プリズム4aを貼り合わせて形成され、その入射面と出射面とはほぼ平行とされている。
【0032】
又、第2の複屈折光学部材8は、被検査物体6側から、水晶からなる楔形プリズム8a、ガラス等の等方性物質からなる楔形プリズム8c、サファイヤの平行平板8bを貼り合わせて形成され、その入射面と出射面とはほぼ平行とされている。
【0033】
この第3の実施の形態は、対物レンズ7の後側焦点面が対物レンズ7の内部にある例であり、図6(a)、(b)はこのとき用いる複屈折光学部材4、8の詳細図を示す。第1の複屈折光学部材4の詳細は、図2に示したものと同じであるが、この場合、第2の複屈折光学部材8の光線分離位置は第2の複屈折光学部材8の外部に存在しなければならない、そのため、図6(b)に示すように水晶の楔形プリズム8a、等方性プリズム8c、サファイヤの平行平板8bで構成し、8aの光学軸8axの方向(図中矢印)を紙面に対して平行でかつプリズム入射面に対して角度θを取るように配置している。この構成により、複屈折光学部材8の光線分離位置を複屈折光学部材8の外に配置することができる。このθは、対物レンズの後側焦点面近傍に複屈折光学部材8の光線分離面がくるような角度とすればよい。なお、実施の形態1、2ともに対物レンズの後側焦点面が対物レンズ外部にあるものとしたが、対物レンズ内部にある場合には実施の形態3の第2の複屈折光学部材8と同様に光学軸角をプリズム入射面に対して傾ければよい。
【0034】
また、光学材料を貼り合わせる順序は、本実施例に限られるものではなく、例えば、ガラス、水晶、サファイヤの順序としてもよい。サファイヤは入射側、射出側のいずれに設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態である微分干渉顕微鏡の光学系の概要を示す図である。
【図2】複屈折光学部材の詳細を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態である微分干渉顕微鏡の光学系の概要を示す図である。
【図4】複屈折光学部材の詳細を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態である微分干渉顕微鏡の光学系の概要を示す図である。
【図6】複屈折光学部材の詳細を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1…光源、2…コレクタレンズ、3…偏光子、4…第1の複屈折光学部材、4a…水晶の楔形プリズム、4b…サファイヤの平行平板、4c…等方性物質の楔形プリズム、4ax…光学軸角、4bx…光学軸角、5…コンデンサレンズ、6…被検査物体、7…対物レンズ、8…第2の複屈折光学部材、8a…水晶の楔形プリズム、8b…サファイヤの平行平板、8c…等方性物質の楔形プリズム、8ax…光学軸角、8bx…光学軸角、9…検光子、10…像、11…ビームスプリッタ、12…複屈折光学部材、12a…水晶の楔形プリズム、12b…サファイヤの平行平板、12c…等方性物質の楔形プリズム、12ax…光学軸角、12bx…光学軸角、13…対物レンズ、14…ズームレンズ、15…結像レンズ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微分干渉顕微鏡であって、その照明光学系の複屈折光学部材と、その結像光学系の複屈折光学部材とは、それぞれ、正結晶複屈折光学材料の楔形プリズムと、等方性光学材料の楔形プリズムとが接合されたものに、さらに、負結晶複屈折光学材料であるサファイヤの平行平面板が接合されて形成され、当該複屈折光学部材の入射面と射出面とはほぼ平行とされていることを特徴とする微分干渉顕微鏡。
【請求項2】
前記正結晶複屈折光学材料は、水晶であることを特徴とする請求項1に記載の微分干渉顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−58852(P2008−58852A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238551(P2006−238551)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】