説明

微動素子及び走査型プローブ顕微鏡

【課題】共振周波数をより高周波化した微動素子、並びに、該微動素子を備えて高周波領域での走査を可能とし、スループットを向上させた走査型プローブ顕微鏡を提供する。
【解決手段】微動素子1は、電圧を印加することで、所定の固定位置に固定される固定端1aから自由端1bへ延びるZ軸と、Z軸と略直交する平面を構成する二軸であるX軸及びY軸との三軸の各方向に、固定端1aに対して自由端1bを変位可能なものであり、X軸方向に変形可能なX圧電素子2と、X圧電素子に対してZ軸方向に配列され、Y軸方向に変形可能なY圧電素子3と、X圧電素子及びY圧電素子に対して自由端側でZ軸方向に配列するとともに、Z軸方向に変形可能なZ圧電素子4とが一体となって構成され、Z軸に略直交する断面積が固定端1aに対して自由端1bが小さくなるように、X圧電素子、Y圧電素子、及びZ圧電素子によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することで変形可能な微動素子及び微動素子を備えた走査型プローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡などの微小な走査行う手段として、電圧を印加することによって変形する微動素子が従来から採用されている。微動素子は、より詳しくは、所定の方向に分極された圧電体と、圧電体を挟み込む対をなす電極とで構成される圧電素子が、複数積層して構成されている。電極に電圧を印加することで、電極に挟み込まれた圧電体には電界が形成される。このため、圧電体は、電界の向きと分極された方向とに応じて対応する方向へ変形することとなる。そして、複数の圧電素子の圧電体の分極される方向を異なるものとすることで、圧電素子を積層した微動素子として、多方向に変形することが可能となり、一端を固定端とすることで自由端側を多方向に変位させることが可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−6393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の微動素子では、最も低周波領域の力学的な共振は、数kHzの範囲で発生しうる。すなわち、例えば、このような微動素子によって走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーを走査する場合、共振の影響を避けるために、数Hz程度の周波数での走査が限度とされていた。このため、上記のような走査では、毎秒数ライン程度の走査が限度であり、スループットの向上が望まれていた。
【0004】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、共振周波数をより高周波化した微動素子、並びに、該微動素子を備えて高周波領域での走査を可能とし、スループットを向上させた走査型プローブ顕微鏡を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、電圧を印加することで、所定の固定位置に固定される固定端から自由端へ延びるZ軸と、該Z軸と略直交する平面を構成する二軸であるX軸及びY軸との三軸の各方向に、前記固定端に対して前記自由端を変位可能な微動素子であって、前記X軸方向に変形可能なX圧電素子と、該X圧電素子に対して前記Z軸方向に配列され、前記Y軸方向に変形可能なY圧電素子と、前記X圧電素子及び前記Y圧電素子に対して前記自由端側で前記Z軸方向に配列するとともに、該Z軸方向に変形可能なZ圧電素子とが一体となって構成され、前記Z軸に略直交する断面積が前記固定端に対して前記自由端が小さくなるように、前記X圧電素子、前記Y圧電素子、及び前記Z圧電素子によって形成されていることを特徴としている。
【0006】
この発明に係る微動素子によれば、固定端に対して自由端が小さくなるように形成されていることで、全体として、共振周波数を高周波領域にシフトすることができる。このため、所定の固定位置に固定された固定端に対して、自由端をX軸、Y軸、及びZ軸のそれぞれの方向に高周波領域で変位させることが可能となる。特に、X軸方向に変形可能なX圧電素子、及び、Y軸方向に変形可能なY圧電素子が、Z軸方向に変形可能なZ圧電素子に対して断面積の大きい固定端側に位置している。このため、Z軸に略直交する平面内で、より高周波領域で変位させることができる。
【0007】
また、上記の微動素子において、前記X圧電素子、前記Y圧電素子、及び前記Z圧電素子は、前記固定端側に位置するものから順に前記Z軸に直交する断面積が小さくなるように設定されていて、前記固定端から前記自由端にかけて段状に形成されていることがより好ましいとされている。
また、上記の微動素子において、前記X圧電素子、前記Y圧電素子、及び前記Z圧電素子は、前記固定端側に位置するものから順に前記Z軸に直交する断面積が小さくなるように設定されていて、前記固定端から前記自由端にかけて略テーパ状に形成されているものとしても良い。
【0008】
この発明に係る微動素子によれば、全体として共振周波数の高周波化を図り、より高周波領域で変位させることが可能となるとともに、固定端側に配置された圧電素子が変形可能な方向で、より高周波領域で変位させることが可能となる。
【0009】
また、上記の微動素子において、前記X圧電素子、前記Y圧電素子、及び前記Z圧電素子の各側面によって、前記Z軸に略平行で、前記固定端から前記自由端まで連続する外側面が少なくとも一面形成されていることがより好ましいとされている。
【0010】
この発明に係る微動素子によれば、全体として共振周波数の高周波化を図ることができるとともに、外側面がZ軸に略平行で固定端から自由端まで連続した面で形成されていることで、固定端側のスペースを最小限にすることができる。
【0011】
また、上記の微動素子において、前記外側面は、前記X軸または前記Y軸のいずれかに略直交していることがより好ましいとされている。
この発明に係る微動素子によれば、X圧電素子またはY圧電素子のいずれかによって変位する方向と対応して省スペース化を図ることができる。
【0012】
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡は、上記の微動素子と、該微動素子を、前記固定端で固定して支持するホルダと、先端を延出するように、基端が前記微動素子の前記自由端に固定されているとともに、前記先端に探針を有するカンチレバーと、該カンチレバーの前記探針に試料の観察表面が近接するように該試料を配置する載置台とを備えることを特徴としている。
【0013】
この発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、微動素子によって、カンチレバーの探針を試料の観察表面上においてよりより高周波領域で走査することができ、試料の観察におけるスループットの向上を図ることができる。特に、探針の向きを微動素子のZ軸方向とし、試料の観察表面がX軸とY軸に対して略平行となるように載置台によって試料を配置すれば、Z圧電素子よりも高周波領域で走査可能なX圧電素子及びY圧電素子によって、より効率的に観察表面上を走査して観察することができる。
【0014】
また、上記の走査型プローブ顕微鏡において、前記微動素子は、前記Z軸に略平行で、前記固定端から前記自由端へ連続して形成された外側面を少なくとも一面有していることがより好ましいとされている。
【0015】
この発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、試料の観察におけるスループットを向上させるとともに、外側面がZ軸に略平行で固定端から自由端まで連続した面で形成されていることで、固定端側のスペースを最小限として、他の構成との干渉を防ぐことができ、また、装置全体の省スペース化を図ることができる。
【0016】
また、上記の走査型プローブ顕微鏡において、前記微動素子の前記外側面は、前記X軸または前記Y軸のいずれかに略直交しているとともに、前記カンチレバーは、前記Z軸方向視して、前記外側面に略直交して延設されていることがより好ましいとされている。
【0017】
この発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、カンチレバーが外側面にZ軸方向視して略直交して延設されていることで、微動素子の固定端側がカンチレバーの先端側とZ軸方向に干渉してしまうことが無い。このため、カンチレバーの変位測定やカンチレバーの先端付近に位置する試料の観察表面の目視観察などを好適に行うことができる。また、カンチレバーの延設する方向がX軸またはY軸と略平行となることで、走査性がより良好なものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の微動素子によれば、固定端に対して自由端の断面積を小さくして、また、Z圧電素子に対してX圧電素子及びY圧電素子を固定端側に設けることで、共振周波数を高周波化して、より高周波領域で変位させることが可能となる。
また、本発明の走査型プローブ顕微鏡によれば、上記の微動素子を備えることで、探針の走査の高速化を図ることができ、スループットの向上によって、より効率良く観察を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
図1から図3は、この発明に係る第1の実施形態を示している。図1に示すように、本実施形態の微動素子1は、所定の位置に固定される固定端1aと、固定端1aと対向して固定端1aに対して自由に変位可能な自由端1bとを有している。また、微動素子1は、各々所定の方向に変形可能な3つの圧電素子であるX圧電素子2、Y圧電素子3、及びZ圧電素子4が、固定端1aから自由端1bへ延びるZ軸方向に配列して一体となって構成されている。これら圧電素子は、例えば、セラミック系接着剤やエポキシ系接着剤などによって接着固定されている。
【0020】
Z圧電素子4は、Z軸方向に変形することが可能であり、3つの圧電素子の中で、最も自由端1b側に位置している。また、Y圧電素子3は、Z軸と略直交する平面を構成して互いに直交する二軸であるX軸及びY軸の内、Y軸方向に変形することが可能であり、Z圧電素子4の固定端1a側に接合されている。さらに、X圧電素子2は、X軸方向に変形することが可能であり、Y圧電素子3の固定端1a側に接合されていて、3つの圧電素子の中で最も固定端1a側に位置している。本実施形態において、例えば、X圧電素子2は各辺が10mm、Y圧電素子3は各辺が6mm、また、Z圧電素子4は各辺が3mmであるそれぞれ略立方体形状を呈していて、全体として、固定端1a側よりも自由端1b側でZ軸に略直交する断面積が小さくなる段状に形成されている。
【0021】
図2は、X圧電素子2及びY圧電素子3の構造の一例を示している。本実施形態において、X圧電素子2とY圧電素子3は、同一の構造を有しているので、ここではX圧電素子2について説明する。図2に示すように、X圧電素子2は、複数の板状の圧電材板2aと、圧電材板2aを挟み込む複数電極2bとの積層構造である。なお、図2においては、2枚の圧電材板2aと3枚の電極2bとで構成されているが、これに限定するものでは無い。
【0022】
圧電材板2aは、予め図示しない分極用電極で挟み込み電圧を印加することによって、積層する方向と略直交する方向である分極方向S1に分極されている。そして、各圧電材板2aは、このように分極処理が施された上で、分極方向S1を正反交互に異なるものとして電極2bを介して積層されている。そして、電極2bに電圧を印加して積層方向に電界を形成することで、分極方向S1と対応する方向にずりせん断変形(15モード)することが可能である。すなわち、X圧電素子2は、このような積層構造によって各辺10mmの略立方形状を形成していて、各圧電材板2aの分極方向S1がX軸方向と略平行となるように設けられていることで、X軸方向に変形することを可能とさせている。なお、圧電材板2aの材質としては、15モードにおける圧電定数d15が大きいものが好適であり、例えばチタン酸ジルコン酸鉛などで形成された圧電セラミックなどが好適である。
【0023】
図3は、Z圧電素子4の構造の一例を示している。図3に示すように、Z圧電素子4は、複数の板状の圧電材板4aと、圧電材板4aを挟みこむ複数の電極4bとの積層構造である。なお、図3においては、2枚の圧電材板4aと3枚の電極4bとで構成されているが、これに限定するものでは無い。
【0024】
圧電材板4aは、押出成形などによってセラミックス粉末を成形したグリーンシートであり、電極4bと積層して一体焼成することで、所定の形状、すなわち本実施形態においては各辺3mmの略立方体形状に形成されている。そして、この状態で電極4bに電圧を印加することで、各圧電材板4aは分極方向S2を積層方向と一致させて正反交互に異なるものとして分極処理される。このため、Z圧電素子4では、再び電極4bに電圧を印加して積層方向に電界を形成することで、分極方向S2である積層方向に伸縮変形(33モード)することが可能である。すなわち、Z圧電素子4は、各圧電材板4aの分極方向S2がZ軸と略平行となるように設けられていることでZ軸方向に変形することを可能とさせる。なお、圧電材板4aの材質としては、33モードにおける圧電定数d33が大きいものが好適であり、例えばチタン酸ジルコン酸鉛などで形成された圧電セラミックなどが好適である。
【0025】
このような微動素子1では、固定端1aに対して自由端1bで断面積が小さくなるように形成することで、共振周波数が10kHz以上となることが確認できた。すなわち、従来の微動素子と比べて、共振周波数を4倍から5倍近く高周波領域にシフトすることができた。このため、所定の固定位置に固定された固定端1aに対して、自由端1bをX軸、Y軸、及びZ軸のそれぞれの方向に、より高周波領域で変位させることが可能となり、具体的には、5kHz程度までの周波数領域において変位させることが可能となった。特に、X圧電素子2及びY圧電素子3が、Z圧電素子4に対して固定端1a側において断面積が大きくなるように設定されている。このため、Z軸に略直交するX軸及びY軸で構成される平面内で、より高周波領域で変位させることが可能である。
【0026】
図4は、本実施形態の変形例を示している。この変形例の微動素子10は、X圧電素子2、Y圧電素子3、及び、Z圧電素子4が、それぞれZ軸方向に断面積が連続して小さくなる略テーパ状に形成されていて、これらの圧電素子を一体とした状態で、全体として、固定端10aから自由端10bにかけて略テーパ状に形成されている。このような略テーパ形状をなした微動素子10においても同様に、共振周波数を高周波化して、より高周波領域で変位させることが可能となる。
【0027】
なお、上記の実施形態では、微動素子1、10として、段状に形成されたものとテーパ状に形成されたものを例に挙げたがこれに限るものでは無く、例えば、X圧電素子及びY圧電素子とが略テーパ状に形成されるとともに、これらの自由端側に位置するZ圧電素子を段状に縮小させるものなどとしても良い。また、側面がZ軸方向に曲面を呈していても良い。さらに、これらの断面形状は、正方形として説明したがこれに限るものではなく、長方形や円形など様々な断面形状が選択可能である。また、X圧電素子2とY圧電素子3との配置が逆の構成としても良く、少なくともX圧電素子2とY圧電素子3に対してZ圧電素子4が自由端側に配置されていれば良い。
【0028】
(第2の実施形態)
図5は、この発明に係る第2の実施形態を示している。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0029】
図5に示すように、この実施形態の微動素子20は、第1の実施形態同様に、Z軸方向に配列するX圧電素子21、Y圧電素子22、及びZ圧電素子23において、Z軸方向の略直交する断面積が、固定端20aから自由端20bへ配列する順に小さくなるように設定されている。また、X圧電素子21、Y圧電素子22、及びZ圧電素子23の各一側面21a、22a、23aは、固定端20aから自由端20bまで連続する外側面20cを形成している。この外側面20cは、Z軸に略平行となるように設定されているとともに、X軸と略直交するように設定されている。
【0030】
このような微動素子20では、第1の実施形態同様に、固定端20a側に対して自由端20b側で断面積が小さくなるように設定されていることで、全体として共振周波数の高周波化を図ることができる。また、Z圧電素子23に対してX圧電素子21及びY圧電素子22が固定端20a側に位置していることで、Z軸に略直交するX軸及びY軸で構成される平面内で、より高周波領域で変位させることができる。さらに、外側面20cがZ軸に略平行で固定端20aから自由端20bまで連続した面で形成されていることで、外側面20cに面する側、すなわちX圧電素子によって変位する方向であるX軸方向において、固定端20aが広がらない形状とすることができる。このため、固定端20a側のスペースを最小限として、省スペース化を図ることができる。
【0031】
図6は、第2の実施形態の変形例を示したものである。図6に示すように、この変形例の微動素子25において、Z軸方向に配列するX圧電素子26、Y圧電素子27、及びZ圧電素子28は、Z軸に略平行で、X軸に略直交する第一の側面26a、27a、28aと、第一の側面26a、27a、28aの両側に隣接する第二の側面26b、27b、28b及び第三の側面26c、27c、28cとによって、凹部26d、27d、28dが形成されている。そして、各第一の側面26a、27a、28aによって、Z軸に略平行で、X軸に略直交し、固定端25aから自由端25bまで連続する第一の外側面25cが形成されている。また、第二の側面26b、27b、28bによって、Z軸に略平行で、固定端25aから自由端25bまで連続する第二の外側面25dが形成されている。さらに、第三の側面26c、27c、28cによって、Z軸に略平行で、固定端25aから自由端25bまで連続する第三の外側面25eが形成されている。そして、これら第一の外側面25c、第二の外側面25d、及び第三の外側面25eによってZ軸方向に連通する溝部25fが形成されている。
【0032】
この変形例の微動素子25によれば、Z軸に略平行な第一の外側面25c、第二の外側面25d、及び第三の外側面25eによって、同様に、固定端25a側の省スペース化を図ることができる。また、第一の外側面25c、第二の外側面25d、及び第三の外側面25eによって形成される溝部25fによって、その両側には張出部25gが形成される。このため、上記の微動素子20に比べて、全体の剛性を高め、共振周波数の高周波化をさらに図ることができる。
【0033】
(第3の実施形態)
図7及び図8は、この発明に係る第3の実施形態を示している。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0034】
図7に示すように、この実施形態の走査型プローブ顕微鏡30は、ホルダ31と、ホルダ31に固定して支持されている微動素子20と、基端32bで微動素子20の自由端20bに固定されているとともに、先端32aに探針32cを有するカンチレバー32と、試料Mを固定する載置台33とを備えている。微動素子20は、ホルダ31の下面31aにおいて、自由端20b側を下向きとしてZ軸を上下方向に略一致させるとともに、X軸と略直交する外側面20cがホルダ31に上下に連通して形成された貫通孔31bに面するようにして、固定端20aで固定されている。なお、微動素子20の構造の詳細については、第2の実施形態で説明したものであるので、その説明を省略する。
【0035】
また、図8に示すように、カンチレバー32は、基端32bで、先端32aを延出するようにして、微動素子20の自由端20bに固定されている。また、カンチレバー32は、Z軸方向視して、X軸と略平行となるように、すなわち外側面20cと略直交するように、また、Y軸方向視して先端32aに向かって下方に傾斜するようにして延出されていて、片持ち状に支持されている。また、カンチレバー32の先端32aは、ホルダ31の貫通孔31bの直下に位置していて、探針32cを下向きとして設けられている。載置台33は、試料Mの観察表面M1を、カンチレバー32の探針32cの直下で近接するように配置させることが可能なものである。
【0036】
また、図7に示すように、ホルダ31の上方には、カンチレバー32の変位を測定する測定手段34と、試料Mの観察表面M1を目視観察可能な観察手段35と、微動素子20を制御するとともに、測定手段34による観察データを採取する制御手段36を備える。なお、本実施形態においては、制御手段36による制御の一例として、測定手段34の観察データに基づいて、カンチレバー32の傾きが一定となるように微動素子20を制御する場合について説明する。
【0037】
制御手段36は、制御部37と、微動素子20の自由端20bをX軸方向に変位させるX駆動部38、Y軸方向に変位させるY駆動部39、及びZ軸方向に変位させるZ駆動部40を備える。X駆動部38、Y駆動部39、及びZ駆動部40は、それぞれ対応する微動素子20のX圧電素子21、Y圧電素子22、及びZ圧電素子23と接続されていて、各圧電素子の電極に所定の電圧を印加することで、電圧と対応する分だけ自由端20b、すなわちカンチレバー32を変位させることが可能である。
【0038】
観察手段35は、より詳しくは光学式顕微鏡であり、貫通孔31bを介して試料Mの観察表面M1を目視で観察可能である。また、測定手段34は、カンチレバー32の上面に形成された図示しない反射面に向けてレーザ光Lを照射する光照射部41と、ミラー42を利用して、反射面で反射されたレーザ光Lを受光する光検出部43とを備えている。なお、光照射部41から照射されたレーザ光Lは、ホルダ31の貫通孔31b内を通過しながらカンチレバー32の反射面に達し、反射面で反射された後、再度貫通孔31b内を通過して光検出部43に入射するようになっている。また、光検出部43は、例えば、フォトディテクタであり、レーザ光Lの入射位置からカンチレバー32の傾きを検出することができる。そして、光検出部43は、検出したカンチレバー32の傾きをDIF信号としてプリアンプ44に出力している。
【0039】
光検出部43から出力されたDIF信号は、プリアンプ44によって増幅された後、制御手段36に設けられたZ電圧フィードバック回路45に送られる。Z電圧フィードバック回路45は、DIF信号が常に一定となるように、Z駆動部40をフィードバック制御する。これにより、微動素子20により走査を行ったときに、カンチレバー32の傾きが一定になるように制御することができる。また、このZ電圧フィードバック回路45には、制御手段36の制御部37が接続されていて、制御部37がこのDIF信号に基づいて試料Mの表面形状を測定することができるようになっている。
【0040】
次に、このように構成された走査型プローブ顕微鏡30によって、試料Mを測定する場合について、以下に説明する。まず、載置台33上に試料Mを載置した後、カンチレバー32の反射面に確実にレーザ光Lが入射するように、また、反射したレーザ光Lが光検出部43に確実に入射するように、光照射部41及び光検出部43の位置や、カンチレバー32の取付状態等を調整する。
【0041】
次に、試料Mの測定を行う。すなわち、試料Mの観察表面M1に探針32cが接触するように制御した状態で、X駆動部38及びY駆動部39より微動素子20の自由端20bを固定端20aに対してX軸方向及びY軸方向に変位させることで、探針32cを試料Mの観察表面M1上で走査する。この際、観察表面M1の凹凸に応じてカンチレバー32が上下に変位すれば、光検出部43に入射するレーザ光L(反射面で反射したレーザ光)の照射位置が変化することとなる。光検出部43は、この変位に応じたDIF信号をプリアンプ44に出力する。出力されたDIF信号は、プリアンプ44によって増幅された後、Z電圧フィードバック回路45に送られる。
【0042】
Z電圧フィードバック回路45は、DIF信号が常に一定になるように、Z駆動部40により微動素子20のZ圧電素子23のフィードバック制御を行う。これにより、カンチレバー32の傾きが一定になるように制御した状態で走査を行うことができる。また、制御部37は、Z電圧フィードバック回路45により上下させる信号に基づいて、試料Mの表面形状を測定することができる。この際、上記のように微動素子20が固定端20aから自由端20bへ断面積が小さくなるように設定されていることで、X圧電素子21及びY圧電素子22によるX軸方向及びY軸方向への走査、及び、試料Mの表面形状に基づくZ圧電素子23のフィードバック制御を、従来よりも高速で行うことが可能となる。すなわち、カンチレバー32の探針32cの走査の高速化を図ることができ、スループットの向上によって、より効率良く観察することが可能となる。特に、走査を行うため、変位量を大きく必要とするX圧電素子21及びY圧電素子22が、Z圧電素子23よりも固定端20a側に配置されていることで、より効率的に観察することが可能となる。また、カンチレバー32の延設する方向が走査する一方向であるX軸方向と略一致することで、走査性をより良好なものとすることができる。また、微動素子20には外側面20cが形成されていることで、固定端20a側において省スペース化を図れ、装置全体としても省スペース化を図ることができる。さらに、カンチレバー32が外側面20cにZ軸方向視して略直交して延設されているため、微動素子20の固定端20a側がカンチレバー32の先端32a側とZ軸方向に干渉してしまうことが無い。このため、測定手段34によってカンチレバー32にレーザ光Lを照射することによるカンチレバー32の変位測定、また、観察手段35による試料Mの観察表面M1の目視観察などを好適に行うことができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、微動素子として、第2の実施形態における微動素子20を使用したが、これに限ることは無い。第1の実施形態における微動素子1、10においても探針32cの走査の高速化を図ることができ、スループットの向上を図ることができる。また、第2の実施形態における変形例として挙げた微動素子25とすれば、微動素子20と同様の効果を期待できるとともに、張出部25gによって剛性を高めて、さらにスループットの向上を図ることができる。
【0044】
また、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡は、静止したカンチレバーを観察表面上で走査するものであるが、カンチレバーを共振させた状態で観察表面上を走査させる、いわゆるDFM(ダイナミックフォースモード)などとしても良い。この場合には、微動素子のZ圧電素子によってカンチレバーを共振させながら、X圧電素子及びY圧電素子によって走査することとなる。また、本実施形態においては、微動素子20によってカンチレバー32を走査する場合について説明したが、載置台側に本発明の微動素子が設けられていて、試料Mを三軸に移動させる構成としても同様の効果を期待することができる。さらには、各実施形態における微動素子は、走査型プローブ顕微鏡における使用に限らず、様々な微小変位制御に使用することが可能である。
【0045】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の第1の実施形態の微動素子の斜視図である。
【図2】この発明の第1の実施形態の微動素子のX圧電素子の断面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態の微動素子のZ圧電素子の断面図である。
【図4】この発明の第1の実施形態の変形例の微動素子の斜視図である。
【図5】この発明の第2の実施形態の微動素子の斜視図である。
【図6】この発明の第2の実施形態の変形例の微動素子の斜視図である。
【図7】この発明の第3の実施形態の走査型プローブ顕微鏡の概要図である。
【図8】この発明の第3の実施形態の走査型プローブ顕微鏡の拡大図である。
【符号の説明】
【0047】
1、 10、20、25 微動素子
1a、10a、20a、25a 固定端
1b、10b、20b、25b 自由端
20c 外側面
25c 第一の外側面(外側面)
25d 第二の外側面(外側面)
25e 第三の外側面(外側面)
30 走査型プローブ顕微鏡
31 ホルダ
32 カンチレバー
32a 先端
32b 基端
32c 探針
33 載置台
X、Y、Z 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を印加することで、所定の固定位置に固定される固定端から自由端へ延びるZ軸と、該Z軸と略直交する平面を構成する二軸であるX軸及びY軸との三軸の各方向に、前記固定端に対して前記自由端を変位可能な微動素子であって、
前記X軸方向に変形可能なX圧電素子と、
該X圧電素子に対して前記Z軸方向に配列され、前記Y軸方向に変形可能なY圧電素子と、
前記X圧電素子及び前記Y圧電素子に対して前記自由端側で前記Z軸方向に配列するとともに、該Z軸方向に変形可能なZ圧電素子とが一体となって構成され、
前記Z軸に略直交する断面積が前記固定端に対して前記自由端が小さくなるように、前記X圧電素子、前記Y圧電素子、及び前記Z圧電素子によって形成されていることを特徴とする微動素子。
【請求項2】
請求項1に記載の微動素子において、
前記X圧電素子、前記Y圧電素子、及び前記Z圧電素子は、前記固定端側に位置するものから順に前記Z軸に直交する断面積が小さくなるように設定されていて、
前記固定端から前記自由端にかけて各素子によって段状に形成されていることを特徴とする微動素子。
【請求項3】
請求項1に記載の微動素子において、
前記X圧電素子、前記Y圧電素子、及び前記Z圧電素子は、前記固定端側に位置するものから順に前記Z軸に直交する断面積が小さくなるように設定されていて、
前記固定端から前記自由端にかけて略テーパ状に形成されていることを特徴とする微動素子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の微動素子において、
前記X圧電素子、前記Y圧電素子、及び前記Z圧電素子の各側面によって、前記Z軸に略平行で、前記固定端から前記自由端まで連続する外側面が少なくとも一面形成されていることを特徴とする微動素子。
【請求項5】
請求項4に記載の微動素子において、
前記外側面は、前記X軸または前記Y軸のいずれかに略直交していることを特徴とする微動素子。
【請求項6】
請求項1から請求項3に記載の微動素子と、
該微動素子を、前記固定端で固定して支持するホルダと、
先端を延出するように、基端が前記微動素子の前記自由端に固定されているとともに、前記先端に探針を有するカンチレバーと、
該カンチレバーの前記探針に試料の観察表面が近接するように該試料を配置する載置台とを備えることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
請求項6に記載の走査型プローブ顕微鏡において、
前記微動素子は、前記Z軸に略平行で、前記固定端から前記自由端へ連続して形成された外側面を少なくとも一面有していることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
請求項7に記載の走査型プローブ顕微鏡において、
前記微動素子の前記外側面は、前記X軸または前記Y軸のいずれかに略直交しているとともに、
前記カンチレバーは、前記Z軸方向視して、前記外側面に略直交して延設されていることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−2991(P2008−2991A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173864(P2006−173864)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)