説明

微多孔質フィルムの製造方法

【課題】ロール圧延による薄肉化成形時の生産性と品質安定性を良好ならしめる微多孔質フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂と、オイル状可塑剤と、オイル状可塑剤を担持しうる比表面積100m/g以上の無機質微粉とを主体とした原料組成物を溶融混練しながら押し出したシート状物をロール圧延により薄肉化成形して厚さ100μm以下の非多孔質フィルムとした後、前記オイル状可塑剤の一部乃至全量を抽出する、ポリオレフィン系樹脂と無機質微粉の組成比が20/80〜60/40で平均細孔径が1μm以下で空隙率が65%以上で厚さが100μm以下の微多孔質フィルムの製造方法。ポリオレフィン系樹脂として、融点が150℃以下である低融点のポリオレフィン系樹脂を主体とし、融点が220℃以上またはビカット軟化温度が170℃以上である高融点の4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50%混合使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池やキャパシタ等の蓄電デバイス用セパレータ等として使用されるポリオレフィン系樹脂と無機質微粉を主構成とした微多孔質フィルム、特に、ポリオレフィン系樹脂として機械的強度が高いが比較的低融点のポリオレフィン系樹脂(例えば、高密度ポリエチレン樹脂)と無機質微粉を主構成とした微多孔質フィルムであって耐熱特性を向上しうる微多孔質フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂を主構成とした微多孔質フィルムは、蓄電池用セパレータ(リチウムイオン電池など)、キャパシタ用セパレータ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなど)、濾過膜等の各種用途に用いられている。このような微多孔質フィルムの製造方法には、湿式法、乾式法等があるが、無機質微粉を多量に含有する微多孔質フィルムでは、湿式法が一般に用いられている。この湿式法は、ポリオレフィン系樹脂にオイル状可塑剤と無機質微粉を添加し溶融混練して押し出したシート状物をロール圧延による薄肉化成形後、オイル状可塑剤を抽出除去する製造方法である。ロール圧延による薄肉化成形とは、図1に示すように、押出機より押し出した直後の高温のシート状物をカレンダーロール2a,2b間に通して圧延、薄肉化して成形するものであり、このロール圧延による薄肉化成形においては、薄肉化成形された多量のオイル状可塑剤を含んだ高温の薄肉シート(非多孔質フィルム状の半製品シート4)がロール2b表面に貼り付きやすく、貼り付いた半製品シート4をシート張力によりロール2b表面より剥離させながら次工程へ搬送する形となっている(図1の符号6参照)。尚、薄肉化成形は、微多孔質フィルムの要求される厚さに応じて、様々な手法を取ることが可能であり、例えば、前記したようなロール圧延による薄肉化成形を多段にて行ったり、ロール圧延による薄肉化成形後に延伸による薄肉化成形を行うことで、より薄肉化への対応が可能である。
【0003】
一方、ポリオレフィン系樹脂として機械的強度の優れる比較的低融点のポリオレフィン系樹脂(例えば、高密度ポリエチレン樹脂)を主構成とした微多孔質フィルムにあっては、蓄電デバイス用セパレータとして用いる場合に信頼性の向上のために高温での熱的寸法安定性が求められるようになってきており、耐熱特性を高める方法として、他の比較的高融点のポリオレフィン系樹脂を混合使用する方法が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記ロール圧延による薄肉化成形時の半製品シートのロール表面への貼り付き現象において、半製品シートの機械的強度(引張強さ)が低いと、剥離がし難くなり、半製品シートの破れ・切れ、半製品シートの品質低下等が生じやすくなり、ライン速度を上げられない、半製品シートの歩留まり(良品率)が低下するなど、生産性や品質安定性の低下を招くという問題がある。
【0005】
しかも、前記したようなポリオレフィン系樹脂として比較的低融点のポリオレフィン系樹脂(例えば、融点が140℃、軟化温度が135℃)を主構成とした微多孔質フィルムにあって、耐熱特性を向上させるために他の比較的高融点のポリオレフィン系樹脂(例えば、融点が230℃、軟化温度が175℃)を混合使用する方法においては、前記ロール圧延による薄肉化成形工程(カレンダーロール間を通してからカレンダーロール表面より剥離される直前までの工程)についてもより高温での処理となるため、前記問題点の影響を受けやすくなる。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、低融点のポリオレフィン系樹脂にオイル状可塑剤と無機質微粉を添加し溶融混練して押し出したシート状物をロール圧延による薄肉化成形後、オイル状可塑剤を抽出除去して得られる微多孔質フィルムの製造方法において、前記低融点のポリオレフィン系樹脂に対して高融点のポリオレフィン系樹脂を混合使用し耐熱特性の向上を図るようにした場合にも、前記ロール圧延による薄肉化成形時の生産性と品質安定性を良好ならしめる微多孔質フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するべく、ポリオレフィン系樹脂にオイル状可塑剤と無機質微粉を添加した原料組成物を溶融混練して押し出したシート状物をロール圧延による薄肉化成形後、オイル状可塑剤を抽出除去して得られる微多孔質フィルムの製造方法において、(1)ポリオレフィン系樹脂として融点が150℃以下の低融点のポリオレフィン系樹脂(高密度ポリエチレン樹脂)に適当量の融点が220℃以上またはビカット軟化温度が170℃以上の高融点のポリオレフィン系樹脂を併用する、(2)溶融混練押出時の組成物の温度を約240℃(200〜240℃)とする、(3)ロール圧延による薄肉化成形後のカレンダーロール表面より剥離される直前のシート温度を約150℃(140〜160℃)、シート厚さを100μm以下とする、という条件の下、鋭意検討を行った結果、次のような知見を得た。
【0008】
原料組成物は、溶融混練押出時に、温度が約240℃にあり、ポリオレフィン系樹脂とオイル状可塑剤とが相溶状態にあり、押出直後のロール圧延による薄肉化成形工程(カレンダーロール間を通してからカレンダーロール表面より剥離される直前までの工程。金属製ロール表面温度が約140℃)によって冷却され約150℃にまで温度低下し、ポリオレフィン系樹脂が結晶化し相溶状態にあったポリオレフィン系樹脂とオイル状可塑剤とが相分離を起こす。ここで、従来のように原料組成物中のポリオレフィン系樹脂として低融点のポリエチレン樹脂のみを使用した場合では、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂)とオイル状可塑剤との相分離がうまく生じるが、ポリオレフィン系樹脂として高融点のポリオレフィン系樹脂を併用した場合では、用いる高融点のポリオレフィン系樹脂の種類によっては、ポリオレフィン系樹脂(高融点のポリオレフィン系樹脂)とオイル状可塑剤との相分離がうまく生じない場合があることが分かった。
【0009】
このように、約240℃の高温で押し出された組成物が、ロール圧延による薄肉化成形時に低温ロールへの接触によって冷却されて生じる、相溶状態にあったポリオレフィン系樹脂(特に、高融点のポリオレフィン系樹脂)とオイル状可塑剤との相分離の度合いが低いと、この時の半製品シート中のポリオレフィン系樹脂(特に、高融点のポリオレフィン系樹脂)の本来の機械的強度(高温下の機械的強度)が発揮されず、半製品シートの機械的強度(高温下の引張強さ)が高まらないという現象が生じることが分かった。
【0010】
本発明の前提となる考え方は、ポリオレフィン系樹脂として、常温下の機械的強度を高める効果を発揮する高密度ポリエチレン樹脂(低融点のポリオレフィン系樹脂)と、高温下の機械的強度を高める効果を発揮する高融点のポリオレフィン系樹脂とを混合使用することで、常温下の機械的強度(25℃引張強さ)と高温下の機械的強度(150℃引張強さ)を共に良好に確保するというものであるが、実際には、実施例にて後述するように、ポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン樹脂(低融点のポリオレフィン系樹脂)に高融点のポリオレフィン系樹脂を併用した場合では、従来のようなポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン樹脂(低融点のポリオレフィン系樹脂)のみを使用した場合に比較して、完成品(微多孔質フィルム)の高温下の機械的強度(150℃引張強さ)についてはプラス効果が得られるが、完成品(微多孔質フィルム)の常温下の機械的強度(25℃引張強さ)については逆にマイナス効果となり、また、半製品シート(原料組成物の非多孔質フィルム状シート)の高温下の機械的強度(150℃引張強さ)についてはプラス効果となる場合とマイナス効果となる場合があることが分かった。
【0011】
本発明者らは、このような知見を基に更に検討を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の微多孔質フィルムの製造方法は、請求項1に記載の通り、ポリオレフィン系樹脂と、オイル状可塑剤と、前記オイル状可塑剤を担持しうる比表面積100m/g以上の無機質微粉とを主体とした原料組成物を溶融混練しながら押し出したシート状物をロール圧延により薄肉化成形して厚さ100μm以下の非多孔質フィルムとした後、前記オイル状可塑剤の一部乃至全量を抽出除去することによって得られる、前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機質微粉とを主構成とした前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機質微粉の組成比(質量比)が20/80〜60/40で平均細孔径が1μm以下で空隙率が65体積%以上で厚さが100μm以下の微多孔質フィルムの製造方法において、前記ポリオレフィン系樹脂として、融点が150℃以下である低融点のポリオレフィン系樹脂を主体とし、融点が220℃以上またはビカット軟化温度が170℃以上である高融点のポリオレフィン系樹脂として4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50質量%混合使用するようにして、前記非多孔質フィルムの150℃引張強さ(MD方向)が0.4N/25mm以上でかつ、前記微多孔質フィルムの25℃引張強さ(MD方向)が18N/mm以上となるようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2記載の微多孔質フィルムの製造方法は、請求項1記載の微多孔質フィルムの製造方法において、前記低融点のポリオレフィン系樹脂が高密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3記載の微多孔質フィルムの製造方法は、請求項1記載の微多孔質フィルムの製造方法において、前記低融点のポリオレフィン系樹脂が重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4記載の微多孔質フィルムの製造方法は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の微多孔質フィルムの製造方法において、前記原料組成物が、実質的に、前記ポリオレフィン系樹脂と前記オイル状可塑剤と前記無機質微粉の3者の組成物であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の微多孔質フィルムの製造方法は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の微多孔質フィルムの製造方法において、前記微多孔質フィルムが、実質的に、前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機質微粉の2者の組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂にオイル状可塑剤と無機質微粉を添加した原料組成物を溶融混練して押し出したシート状物をロール圧延による薄肉化成形後、オイル状可塑剤を抽出除去して得られる微多孔質フィルムの製造方法において、前記ポリオレフィン系樹脂として、融点が150℃以下である低融点のポリオレフィン系樹脂を主体とし、融点が220℃以上またはビカット軟化温度が170℃以上である高融点のポリオレフィン系樹脂として4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50質量%混合使用するようにしたので、完成品における常温下の機械的強度(25℃引張強さ)および高温下の機械的強度(150℃引張強さ)と共に、半製品シートにおける高温下の機械的強度(150℃引張強さ)を良好ならしめることができ、完成品の品質(機械的強度、耐熱性)と共に、前記ロール圧延による薄肉化成形時の生産性と品質安定性を良好ならしめる微多孔質フィルムの製造方法を提供することができる。よって、本発明によれば、機械的強度の優れた低融点のポリオレフィン系樹脂(高密度ポリエチレン樹脂)を主構成とし耐熱性を向上させた微多孔質フィルムを得ることができ、信頼性の向上のために熱的寸法安定性を重視する蓄電デバイス用セパレータとしての使用にも十分適するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来技術、実施例1〜3および比較例1〜4の微多孔質フィルムの製造方法における半製品シートを得る工程の説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の微多孔質フィルムの製造方法は、ポリオレフィン系樹脂と、オイル状可塑剤と、前記オイル状可塑剤を担持しうる比表面積100m/g以上の無機質微粉とを主体とした原料組成物を溶融混練しながら押し出したシート状物をロール圧延により薄肉化成形して厚さ100μm以下の非多孔質フィルムとした後、前記オイル状可塑剤の一部乃至全量を抽出除去することによって得られる、前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機質微粉とを主構成とした前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機質微粉の組成比(質量比)が20/80〜60/40で平均細孔径が1μm以下で空隙率が65体積%以上の微多孔質フィルムの製造方法において、前記ポリオレフィン系樹脂として、融点が150℃以下である低融点のポリオレフィン系樹脂を主体とし、融点が220℃以上またはビカット軟化温度が170℃以上である高融点のポリオレフィン系樹脂として4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50質量%混合使用するようにして、前記非多孔質フィルムの150℃引張強さ(MD方向)が0.4N/25mm以上でかつ、前記微多孔質フィルムの25℃引張強さ(MD方向)が18N/mm以上となるようにしたものである。
【0019】
本発明は、機械的強度の優れた低融点のポリオレフィン系樹脂を主構成とした微多孔質フィルムにあって、耐熱性を向上させるために、前記低融点のポリオレフィン系樹脂に対して高融点のポリオレフィン系樹脂を混合使用する考え方において、前記知見に基づいて、完成品の常温下の機械的強度(25℃引張強さ)、完成品の高温下の機械的強度(150℃引張強さ)、半製品シートの高温下の機械的強度(150℃引張強さ)の各項目に着目し、これらを共に良好ならしめる条件範囲として、「前記ポリオレフィン系樹脂として、融点が150℃以下である低融点のポリオレフィン系樹脂を主体とし、融点が220℃以上またはビカット軟化温度が170℃以上である高融点のポリオレフィン系樹脂として4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50質量%混合使用する」という条件範囲を見出したものである。
【0020】
低融点のポリオレフィン系樹脂としては、常温下の機械的強度を高める効果を確保するための材料で、融点が150℃以下のものが使用でき、ポリエチレン樹脂、特に高密度ポリエチレン樹脂が好ましく、高強度の微多孔質フィルムが得られる点で重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂が好ましく、微多孔質フィルムの厚さが100μm以下の薄肉でもフィルム強度の強いものが得られる点で重量平均分子量が100万〜500万のものが特に好ましい。
【0021】
高融点のポリオレフィン系樹脂としては、高温下の機械的強度を高める効果を確保するための材料であり、融点が220℃以上またはビカット軟化温度が170℃以上であり、4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂が使用できる。このような4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂としては、MFRが30以下の4−メチル−1−ペンテンを主成分とするα−オレフィンとのランダム共重合体が好ましく、1−デセン、1−ドデカン、1−テトラデカン、1−ヘキサデカン、1−オクタデカン、1−エイコセン等の各種α−オレフィンが適用可能である。尚、融点が220℃未満でかつビカット軟化温度が170℃未満の場合(融点が測定不能である場合も含む)は、半製品シートの高温下の機械的強度(150℃引張強さ)が不足するため不適である。尚、高融点のポリオレフィン系樹脂として、微多孔質フィルムの熱的安定性を高めるため、半製品シートの高温下の機械的強度を低下させない範囲で、上記の4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂と共に、エチレン・ノルボルネン共重合体等の耐熱性の環状ポリオレフィン樹脂を併用するようにしてもよい。
【0022】
高融点のポリオレフィン系樹脂の混合比率(組成比)は、原料組成物中のポリレオレフィン系樹脂の全量の中で20〜50質量%である。20質量%未満では、半製品シート(非多孔質フィルム)の高温下の機械的強度が不足し(MD方向の150℃引張強さが0.4N/25mm未満となり)、ロール圧延による薄肉化成形時の半製品シートのロール表面への貼り付き現象に伴う生産性と品質安定性の確保が難しくなるため不適であり、50質量%を超えると、低融点のポリオレフィン系樹脂である高密度ポリエチレン樹脂の組成比が低下し、微多孔質フィルムの常温下の機械的強度が低下し(MD方向の25℃引張強さが18N/mm未満となり)、蓄電デバイス用セパレータとしての強度が不足するため不適である。
【0023】
無機質微粉は、(1)主にポリオレフィン系樹脂とオイル状可塑剤と無機質微粉とからなる原料組成物にあって、多量に添加されるオイル状可塑剤を吸着・担持し各原材料が均一に分散した状態のシート状物を得やすくするためのオイル状可塑剤の担持材としての役割を有する材料であり、(2)主にポリオレフィン系樹脂と無機質微粉とからなる空隙率65体積%以上の網状構造体である微多孔質フィルムにあって、熱的に弱いポリオレフィン系樹脂の骨格(ネットワーク)を熱的に安定な無機物の骨格(ネットワーク)で支え、微多孔質フィルムの熱的寸法安定性を高める役割を有する材料であり、(3)蓄電デバイス用セパレータに適用した場合にドライアウトを抑制するための電解液を保持する液保持材としての役割を有する材料である。尚、上記(2)の役割についてもう少し具体的に述べると、無機質微粉は、半製品シートである非多孔質フィルムシートからオイル状可塑剤を抽出除去され高空隙率の網状構造体となった微多孔質フィルムシートにおいて熱的に安定な無機質微粉が骨格(ネットワーク)を形成していることで、オイル状可塑剤の抽出除去後のシートの寸法収縮に耐える寸法安定性や、蓄電デバイス用セパレータ適用時等の微多孔質フィルムシートの熱処理時のシートの寸法収縮や微孔閉塞に耐える寸法安定性といった役割を有する。
【0024】
無機質微粉としては、オイル状可塑剤を担持しうる比表面積100m/g以上の材料であり、シリカ、チタニア、アルミナ等の中から1種または2種以上を使用できるが、比較的安価で不純物が少ないことからシリカが好ましい。比表面積が100m/g未満の場合は、液保持力が小さく、蓄電デバイス用セパレータとして適用した場合に電解液を保持する能力が不足するため不適である。平均二次粒子径は、得られた微多孔質フィルムにおいてピンホールが発生するのを抑えるため、5μm以下であることが好ましい。
【0025】
原料組成物(非多孔質フィルム状の半製品シートを含む)中および微多孔質フィルム中のポリオレフィン系樹脂と無機質微粉の組成比(質量比)は、20/80〜60/40である。ポリオレフィン系樹脂と無機質微粉の組成比が20/80未満であると、原料組成物中の無機質微粉の組成比が多くなりすぎ、溶融混練による押し出しがし難くなるため不適であり、60/40を超えると、微多孔質フィルム中の無機質微粉の組成比が少なくなり、前記したような微多孔質フィルムの熱的寸法安定性を高める効果が得られ難くなるため不適である。
【0026】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂として機械的強度が高いが低融点であるポリオレフィン系樹脂(高密度ポリエチレン樹脂)を主構成とする微多孔質フィルムにあって、ポリオレフィン系樹脂として高融点のポリオレフィン系樹脂を適当量併用するようにし、また無機質微粉を多量に含有させるようにしたことで、蓄電デバイス用セパレータとして適用した場合に、種々の環境下で優れた寸法安定性をもたらす。また、本発明による微多孔質フィルムは、前述の通り無機質微粉を多量に含有し熱的寸法安定性が良好であるため、蓄電デバイス用セパレータとして適用した場合に、蓄電デバイス組立時の熱処理等によって微孔が閉塞するような不具合も生じない。
【0027】
オイル状可塑剤としては、主に、原料組成物におけるポリオレフィン系樹脂の可塑剤としての役割と、原料組成物からなる非多孔質フィルム状の半製品シートから抽出除去されることで微多孔質フィルム化するための開孔剤としての役割を有する材料であり、引火点が240℃以上のノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィン等のパラフィン系の飽和炭化水素が好ましく、引火点が240℃以上であればこれらに対応する留分等も使用できる。尚、引火点が240℃未満のオイル状可塑剤では、オイル状可塑剤の引火点が溶融混練押出の温度条件(200〜240℃)と重なり、原料組成物の押出時に引火する可能性があるため好ましくない。尚、ポリオレフィン系樹脂の可塑剤としては、前記のオイル状可塑剤以外に、特開平6−68864号公報に開示されるようなステアリルアルコール等の高級アルコールや、特開平5−36394号公報に開示されるようなフタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル系可塑剤があるが、前者は再利用時に熱劣化しやすく、後者はホルモン撹乱物質の疑いがあるため好ましくない。
【0028】
原料組成物中のオイル状可塑剤の組成比率については、前述したように、原料組成物中で無機質微粉にオイル状可塑剤を吸着・担持させ原料組成物中の各原材料を均一に分散させるようにしているため、実際に使用する無機質微粉のオイル吸収能(吸油量)、比表面積、見掛け密度等の物性に応じてその好適条件は大きく影響を受けることになるが、通常、無機質微粉に対して150〜250%(質量比)の量であることが好ましい。150%未満では、ポリオレフィン系樹脂の可塑化効果が不足し原料組成物の押出性や成形性が低下するため好ましくなく、250%を超えると、半製品シートからオイル状可塑剤を抽出除去した後の微多孔質フィルムシートの寸法収縮が大きくなるため好ましくない。
【0029】
半製品シートである非多孔質フィルム状シートからのオイル状可塑剤の抽出除去は、その一部乃至全量を抽出除去する。オイル状可塑剤の役割は、前述したように、主に、原料組成物におけるポリオレフィン系樹脂の可塑剤としての役割と、半製品シートから抽出除去されることで微多孔質フィルム化するための開孔剤としての役割であるので、完成品である微多孔質フィルムシートにおいては役割を有していないと言え、半製品シートからのオイル状可塑剤の抽出除去は、その全量を抽出除去すればよいと言える。よって、通常は、半製品シートからのオイル状可塑剤の抽出除去は実質的にその全量を抽出除去するようにし、微多孔質フィルムシート中のオイル状可塑剤の残留量(含有量)は実質的にゼロである1質量%未満とすればよい。しかし、微多孔質フィルムシートの空隙率を調整するために、半製品シートからのオイル状可塑剤の抽出除去をその一部に留め意図的にオイル状可塑剤の一部をシート中に残留させるようしてもよい。半製品シートからオイル状可塑剤の一部を抽出除去したときの微多孔質フィルムシート中のオイル状可塑剤の残留量は、抽出条件を操作することで任意に設定が可能であり、容易に目的のオイル状可塑剤含有量の微多孔質フィルムシートを製造することができる。微多孔質フィルムシートのオイル状可塑剤含有量を調整することで、微多孔質フィルムシートの空隙率を調整できる。微多孔質フィルムシートの空隙率を調整するための微多孔質フィルムシート中のオイル状可塑剤の残留量(含有量)は、通常1〜20質量%とするのが好ましい。尚、本発明による微多孔質フィルムを蓄電デバイス用セパレータとして適用する場合は、微多孔質フィルムシート中にオイル状可塑剤の一部を残留させる場合、電解液中にオイル状可塑剤が溶出し蓄電デバイスに悪影響を及ぼすことがない残留量に留める配慮が必要である。
【0030】
オイル状可塑剤は、原料組成物からなる非多孔質フィルム状の半製品シートより抽出除去されることで、半製品シートである非多孔質フィルムを微多孔質フィルム化することができるが、オイル状可塑剤の抽出除去は、抽出溶剤を使用する方法が好ましい。抽出溶剤を使用する方法としては、抽出溶剤の槽に半製品シートを浸漬する方法が好ましい。スプレー方式やシャワー方式は溶剤のミストを生じやすく、引火の危険性があるため好ましくない。抽出溶剤としては、引火点が35℃以上で環境負荷が小さい飽和炭化水素系溶剤が好ましく、すなわち、炭素数が10以上のノルマルパラフィン、イソパラフィン、炭素数が9以上のシクロパラフィンが引火点が35℃以上となり、これらの群の中から1種または2種以上を使用できる。引火点が35℃以上の飽和炭化水素系溶剤は、(1)室温において揮発性に乏しく環境への負荷を低く抑えることができる、(2)抽出除去後の乾燥工程において引火爆発を引き起こす危険性が低く安全に使用することができる、(3)比較的高沸点であり凝縮しやすく回収が容易かつ熱分解し難いことによりリサイクル使用に適するなどの利点がある。以上のことに鑑み、本発明の実施例ではノルマルデカンを選択した。
【0031】
原料組成物の溶融混練の方法は特に限定されないが、通常、二軸押出機中で均一に混練することにより行う。溶融混練押出温度は、低融点のポリオレフィン系樹脂として超高分子量ポリエチレン樹脂、高融点のポリオレフィン系樹脂として4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂、オイル状可塑剤として引火点が240℃以上のパラフィン系オイル、無機質微粉として比表面積100m/g以上のシリカ微粉を用いた場合、200〜240℃とすることが好ましい。250℃を超える温度では、樹脂の熱劣化が起こり易くなるとともに、オイル状可塑剤の引火点に接近するため好ましくない。尚、オイル状可塑剤は、混練開始前にその全量を他の原材料と共に混合しておくことが望ましいが、一部の量を補助的に溶融混練中に添加するようにしてもよい。
【0032】
以上のように、本発明の微多孔質フィルムの製造方法は、飽和炭化水素からなるポリオレフィン系樹脂と飽和炭化水素からなるオイル状可塑剤と無機質微粉とを主構成とした原料組成物を溶融混練し押し出したシート状物を薄肉化成形し非多孔質フィルムを得る工程、非多孔質フィルムからオイル状可塑剤を飽和炭化水素系溶剤を用いて抽出除去して微多孔質フィルムを得る工程、微多孔質フィルム中の溶剤を乾燥除去する工程を含む。尚、薄肉化成形は、押出機より押し出した直後の高温のシート状物をカレンダーロール間に通して圧延、薄肉化して成形する「ロール圧延による薄肉化成形」を必須とするものであり、このロール圧延による薄肉化成形においては、薄肉化成形された多量のオイル状可塑剤を含んだ高温の薄肉シート(非多孔質フィルム状の半製品シート)がロール表面に貼り付きやすく、貼り付いた半製品シートをシート張力によりロール表面より剥離させながら次工程へ搬送する形とされる。尚、薄肉化成形は、微多孔質フィルムの要求される厚さに応じて、様々な手法を取ることが可能であり、例えば、前記したようなロール圧延による薄肉化成形を多段にて行ったり、ロール圧延による薄肉化成形後に延伸による薄肉化成形を行うことで、より薄肉化への対応が可能である。これにより、完成品である微多孔質フィルムの厚さは、10〜100μmの範囲で製造可能である。
【0033】
原料組成物(非多孔質フィルム状の半製品シートを含む)は、実質的に、ポリオレフィン系樹脂とオイル状可塑剤と無機質微粉の3者の組成物であればよく、必要に応じて、親水性向上のための界面活性剤や耐酸化性向上のための抗酸化剤等の各種添加剤を添加することもできる。
【0034】
完成品である微多孔質フィルムは、実質的に、ポリオレフィン系樹脂と無機質微粉の2者の組成物であればよいが、前記したように、用途によっては空隙率を調整するためにオイル状可塑剤を1〜20質量%含有させるようにしてもよい。
【0035】
本発明の微多孔質フィルムの製造方法は、工業材料の使用時、廃棄時の環境負荷の低減が重要視されるようになってきている現状に鑑み、使用する材料については、有機質材には、炭素と水素のみからなる樹脂、オイル状可塑剤、抽出溶剤を選択し、無機質材には、地球上に多量に存在する酸化ケイ素を選択し、抽出溶剤には更に、製造システム内でリサイクル使用できる材料を選択し、すべての材料について環境面に配慮した材料を選択するようにした。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例を比較例と共に詳細に説明する。
(実施例1)
融点が140℃でビカット軟化温度が135℃で重量平均分子量が200万でMFRが0である超高分子量ポリエチレン樹脂65部(質量部、以下同じ)と、融点が230℃でビカット軟化温度が174℃でMFRが9の4−メチル−1−ペンテンを主成分とする1−デセンとのランダム共重合樹脂35部と、平均二次粒子径が2.5μmで比表面積が150m/gで吸油量が250mL/100gであるシリカ微粉185部と、引火点が250℃の鉱物オイル415部とを混合し、二軸押出機にてバレル温度約230℃、Tダイ1の温度約240℃の条件で加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、カレンダーロール2a,2b(金属製ロール表面温度約140℃)間に通してロール圧延による薄肉化成形して厚さが100μmの非多孔質フィルム4を得た。ロール圧延による薄肉化成形後のカレンダーロール2b表面より剥離される直前の非多孔質フィルム4の温度は約150℃であった。非多孔質フィルム中の鉱物オイルを引火点46℃のノルマルパラフィン系の飽和炭化水素系溶剤であるノルマルデカンを用いて液温35℃に調整した槽中で抽出除去した後、抽出溶剤を100℃で乾燥除去して、ポリオレフィン系樹脂35質量%と、シリカ微粉65質量%と、鉱物オイル1質量%未満とからなる厚さが100μm、空隙率が69体積%の微多孔質フィルムを得た。
【0037】
(実施例2)
融点が140℃でビカット軟化温度が135℃で重量平均分子量が200万でMFRが0である超高分子量ポリエチレン樹脂50部と、融点が230℃でビカット軟化温度が174℃でMFRが9の4−メチル−1−ペンテンを主成分とする1−デセンとのランダム共重合樹脂50部と、平均二次粒子径が2.5μmで比表面積が150m/gで吸油量が250mL/100gであるシリカ微粉185部と、引火点が250℃の鉱物オイル415部とを混合し、二軸押出機にてバレル温度約230℃、Tダイ1の温度約240℃の条件で加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、カレンダーロール2a,2b(金属製ロール表面温度約140℃)間に通してロール圧延による薄肉化成形して厚さが100μmの非多孔質フィルム4を得た。ロール圧延による薄肉化成形後のカレンダーロール2b表面より剥離される直前の非多孔質フィルム4の温度は約150℃であった。非多孔質フィルム中の鉱物オイルを引火点46℃のノルマルパラフィン系の飽和炭化水素系溶剤であるノルマルデカンを用いて液温35℃に調整した槽中で抽出除去した後、抽出溶剤を100℃で乾燥除去して、ポリオレフィン系樹脂35質量%と、シリカ微粉65質量%と、鉱物オイル1質量%未満とからなる厚さが100μm、空隙率が69体積%の微多孔質フィルムを得た。
【0038】
(実施例3)
融点が140℃でビカット軟化温度が135℃で重量平均分子量が200万でMFRが0である超高分子量ポリエチレン樹脂80部と、融点が230℃でビカット軟化温度が174℃でMFRが9の4−メチル−1−ペンテンを主成分とする1−デセンとのランダム共重合樹脂20部と、平均二次粒子径が2.5μmで比表面積が150m/gで吸油量が250mL/100gであるシリカ微粉185部と、引火点が250℃の鉱物オイル415部とを混合し、二軸押出機にてバレル温度約230℃、Tダイ1の温度約240℃の条件で加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、カレンダーロール2a,2b(金属製ロール表面温度約140℃)間に通してロール圧延による薄肉化成形して厚さが100μmの非多孔質フィルム4を得た。ロール圧延による薄肉化成形後のカレンダーロール2b表面より剥離される直前の非多孔質フィルム4の温度は約150℃であった。非多孔質フィルム中の鉱物オイルを引火点46℃のノルマルパラフィン系の飽和炭化水素系溶剤であるノルマルデカンを用いて液温35℃に調整した槽中で抽出除去した後、抽出溶剤を100℃で乾燥除去して、ポリオレフィン系樹脂35質量%と、シリカ微粉65質量%と、鉱物オイル1質量%未満とからなる厚さが100μm、空隙率が70体積%の微多孔質フィルムを得た。
【0039】
(比較例1)
融点が140℃でビカット軟化温度が135℃で重量平均分子量が200万でMFRが0である超高分子量ポリエチレン樹脂65部と、ビカット軟化温度が178℃(融点は測定不能)でMFRが1.5のノルボルネンを主成分とするエチレン・ノルボルネン共重合樹脂35部と、平均二次粒子径が2.5μmで比表面積が150m/gで吸油量が250mL/100gであるシリカ微粉185部と、引火点が250℃の鉱物オイル415部とを混合し、二軸押出機にてバレル温度約230℃、Tダイ1の温度約240℃の条件で加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、カレンダーロール2a,2b(金属製ロール表面温度約140℃)間に通してロール圧延による薄肉化成形して厚さが100μmの非多孔質フィルム4を得た。ロール圧延による薄肉化成形後のカレンダーロール2b表面より剥離される直前の非多孔質フィルム4の温度は約150℃であった。非多孔質フィルム中の鉱物オイルを引火点46℃のノルマルパラフィン系の飽和炭化水素系溶剤であるノルマルデカンを用いて液温35℃に調整した槽中で抽出除去した後、抽出溶剤を100℃で乾燥除去して、ポリオレフィン系樹脂35質量%と、シリカ微粉65質量%と、鉱物オイル1質量%未満とからなる厚さが100μm、空隙率が70体積%の微多孔質フィルムを得た。
【0040】
(比較例2)
融点が140℃でビカット軟化温度が135℃で重量平均分子量が200万でMFRが0である超高分子量ポリエチレン樹脂100部と、平均二次粒子径が2.5μmで比表面積が150m/gで吸油量が250mL/100gであるシリカ微粉185部と、引火点が250℃の鉱物オイル415部とを混合し、二軸押出機にてバレル温度約180℃、Tダイ1の温度約220℃の条件で加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、カレンダーロール2a,2b(金属製ロール表面温度約145℃)間に通してロール圧延による薄肉化成形して厚さが100μmの非多孔質フィルム4を得た。ロール圧延による薄肉化成形後のカレンダーロール2b表面より剥離される直前の非多孔質フィルム4の温度は約150℃であった。非多孔質フィルム中の鉱物オイルを引火点46℃のノルマルパラフィン系の飽和炭化水素系溶剤であるノルマルデカンを用いて液温35℃に調整した槽中で抽出除去した後、抽出溶剤を100℃で乾燥除去して、ポリオレフィン系樹脂35質量%と、シリカ微粉65質量%と、鉱物オイル1質量%未満とからなる厚さが100μm、空隙率が70体積%の微多孔質フィルムを得た。
【0041】
(比較例3)
融点が140℃でビカット軟化温度が135℃で重量平均分子量が200万でMFRが0である超高分子量ポリエチレン樹脂40部と、融点が230℃でビカット軟化温度が174℃でMFRが9の4−メチル−1−ペンテンを主成分とする1−デセンとのランダム共重合樹脂60部と、平均二次粒子径が2.5μmで比表面積が150m/gで吸油量が250mL/100gであるシリカ微粉185部と、引火点が250℃の鉱物オイル415部とを混合し、二軸押出機にてバレル温度約230℃、Tダイ1の温度約240℃の条件で加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、カレンダーロール2a,2b(金属製ロール表面温度約140℃)間に通してロール圧延による薄肉化成形して厚さが100μmの非多孔質フィルム4を得た。ロール圧延による薄肉化成形後のカレンダーロール2b表面より剥離される直前の非多孔質フィルム4の温度は約150℃であった。非多孔質フィルム中の鉱物オイルを引火点46℃のノルマルパラフィン系の飽和炭化水素系溶剤であるノルマルデカンを用いて液温35℃に調整した槽中で抽出除去した後、抽出溶剤を100℃で乾燥除去して、ポリオレフィン系樹脂35質量%と、シリカ微粉65質量%と、鉱物オイル1質量%未満とからなる厚さが100μm、空隙率が69体積%の微多孔質フィルムを得た。
【0042】
(比較例4)
融点が140℃でビカット軟化温度が135℃で重量平均分子量が200万でMFRが0である超高分子量ポリエチレン樹脂90部と、融点が230℃でビカット軟化温度が174℃でMFRが9の4−メチル−1−ペンテンを主成分とする1−デセンとのランダム共重合樹脂10部と、平均二次粒子径が2.5μmで比表面積が150m/gで吸油量が250mL/100gであるシリカ微粉185部と、引火点が250℃の鉱物オイル415部とを混合し、二軸押出機にてバレル温度約230℃、Tダイ1の温度約240℃の条件で加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、カレンダーロール2a,2b(金属製ロール表面温度約140℃)間に通して圧延による薄肉化成形して厚さが100μmの非多孔質フィルム4を得た。圧延による薄肉化成形後のカレンダーロール2b表面より剥離される直前の非多孔質フィルム4の温度は約150℃であった。非多孔質フィルム中の鉱物オイルを引火点46℃のノルマルパラフィン系の飽和炭化水素系溶剤であるノルマルデカンを用いて液温35℃に調整した槽中で抽出除去した後、抽出溶剤を100℃で乾燥除去して、ポリオレフィン系樹脂35質量%と、シリカ微粉65質量%と、鉱物オイル1質量%未満とからなる厚さが100μm、空隙率が70体積%の微多孔質フィルムを得た。
【0043】
実施例1〜3および比較例1〜4の各非多孔質フィルムについて、以下の方法により、150℃引張強さを測定した。また、実施例1〜3および比較例1〜4の各微多孔質フィルムについて、以下の方法により、25℃引張強さ、150℃引張強さ、厚さ、空隙率、平均細孔径を測定した。結果を表1に示す。尚、ポリオレフィン系樹脂のビカット軟化温度、MFR(メルトフローレート)は、以下の方法により測定した。
〈ビカット軟化温度〉
ASTM D 1525−70に準拠して樹脂表面に1kgの荷重をかけたゲージを配置して過熱したとき、ゲージの針先がプラスチック中に1mm入り込んだ時の温度を求めた。
〈MFR(メルトフローレート)〉
4−メチル−1−ペンテンを主成分とする共重合樹脂については、ASTM D 1238に規定される方法により、荷重が5kg、温度が260℃の条件にて測定し求めた。
ノルボルネンを主成分とするエチレン・ノルボルネン共重合樹脂については、ISO 1133に規定される方法により、荷重が2.16kg、温度が260℃の条件にて測定し求めた。
〈厚さ〉
JIS Z 1702に規定されたダイヤルシックネスゲージを用いて測定した。
〈引張強さ〉
JIS K 7113に準拠した方法で、チャック間距離50mm、引張速度200mm/分の条件で引張試験を行って求めた。
〈空隙率〉
平均細孔径を測定する方法の一つである水銀圧入法で、微多孔質フィルムへの水銀の圧入量より空隙率を求めた。
〈平均細孔径〉
水銀圧入法(JIS R 1655)により測定し求めた。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から以下のことが分かった。
(1)本発明の微多孔質フィルムの製造方法に基づく実施例1〜3では、ポリオレフィン系樹脂と無機質微粉を主構成とする微多孔質フィルムの製造方法にあって、ポリオレフィン系樹脂として高強度だが低融点である高密度ポリエチレン樹脂を主体とし低強度だが高融点である4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50質量%混合使用するようにしたため、従来の一般的な微多孔質フィルムであるポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン樹脂のみを使用するようにした比較例2(本発明における耐熱特性の改善前の位置づけ)の場合に比較して、得られた微多孔質フィルムは、高密度ポリエチレン樹脂の一部を4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂に置換した影響で、25℃引張強さは18.4〜24.1N/mmと8〜30%低下したものの、蓄電デバイス用セパレータとしての十分な強度を確保し、150℃引張強さは0.77〜1.56N/mmと3.0倍〜6.0倍の強度を確保し大幅な耐熱特性の向上が図られた。また、半製品シートである非多孔質フィルムも、150℃引張強さが0.42〜1.08N/25mmと1.4倍〜3.5倍の強度を確保した。このため、ロール圧延による薄肉化成形時の半製品シートのロール表面への貼り付き現象において、高融点のポリオレフィン系樹脂を添加したことによりロール圧延による薄肉化成形温度(カレンダーロール間を通してからカレンダーロール表面より剥離される直前までの半製品シート温度)を高めたにも拘わらず、半製品シートの強度が高いため、製造ラインの速度を上げても、半製品シートの破れ・切れ等の品質低下や製造トラブルを生じることなく、安定的にロール表面からの剥離が可能で、生産性や品質安定性が良好であった。
(2)ポリオレフィン系樹脂として高強度だが低融点である高密度ポリエチレン樹脂を主体とし低強度だが高融点である4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50質量%混合使用するようにした実施例1〜3に対して、4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を10質量%混合使用するようにした比較例4では、ポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン樹脂のみを使用するようにした比較例2の場合に比較して、得られた微多孔質フィルムは、高密度ポリエチレン樹脂からの4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂への置換割合が少ない影響で、25℃引張強さは25.9N/mmと2%の低下に留まったが、150℃引張強さも0.31N/mmと19%の向上に留まり耐熱特性の向上が不十分であった。また、半製品シートである非多孔質フィルムも、150℃引張強さが0.32N/25mmと3%の向上に留まった。このため、ロール圧延による薄肉化成形時の半製品シートのロール表面への貼り付き現象において、半製品シートの強度が弱いため、製造ラインの速度を上げると、半製品シートの破れ・切れ等の品質低下や製造トラブルを生じやすくなる状況で、生産性や品質安定性を高めることができなかった。
(3)ポリオレフィン系樹脂として高強度だが低融点である高密度ポリエチレン樹脂を主体とし低強度だが高融点である4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50質量%混合使用するようにした実施例1〜3に対して、4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を60質量%混合使用するようにした比較例3では、ポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン樹脂のみを使用するようにした比較例2の場合に比較して、得られた微多孔質フィルムは、高密度ポリエチレン樹脂からの4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂への置換割合が多い影響で、150℃引張強さは1.59N/mmと6.1倍の強度を確保し大幅な耐熱特性の向上が図られたが、25℃引張強さは10.5N/mmと60%も低下し蓄電デバイス用セパレータとしての強度が不足する状況であった。半製品シートである非多孔質フィルムは、150℃引張強さが1.14N/25mmと3.7倍の強度を確保し、ロール圧延による薄肉化成形工程での生産性や品質安定性が良好であった。
(4)ポリオレフィン系樹脂として高強度だが低融点である高密度ポリエチレン樹脂を主体とし低強度だが高融点である4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を35質量%混合使用するようにした実施例1に対して、高融点のポリオレフィン系樹脂として4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂に代えてエチレン・ノルボルネン共重合樹脂を使用するようにした比較例1では、得られた微多孔質フィルムは、25℃引張強さは21.0N/mmと、ポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン樹脂のみを使用するようにした比較例2の場合に比較して20%低下したものの、高融点のポリオレフィン系樹脂として同量の4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を使用した実施例1の場合と同等で、蓄電デバイス用セパレータとしての十分な強度を確保したが、150℃引張強さは0.90N/mmと、ポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン樹脂のみを使用するようにした比較例2の場合に比較して3.5倍の強度を確保し大幅な耐熱特性の向上が図られたものの、高融点のポリオレフィン系樹脂として同量の4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を使用した実施例1の場合と比較すると36%も劣っており耐熱特性の改善効果が劣っていた。また、半製品シートである非多孔質フィルムは、150℃引張強さが0.25N/25mmと、ポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン樹脂のみを使用するようにした比較例2の場合に比較して19%低下し、低融点のポリオレフィン系樹脂の一部を高融点のポリオレフィン系樹脂へ置換したにも拘わらず、耐熱特性の改善効果がまったく見られない状況で、高融点のポリオレフィン系樹脂として同量の4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を使用した実施例1の場合と比較すると62%も劣っていた。このため、ロール圧延による薄肉化成形時の半製品シートのロール表面への貼り付き現象において、半製品シートの強度が弱いため、製造ラインの速度を上げると、半製品シートの破れ・切れ等の品質低下や製造トラブルを生じやすくなる状況で、生産性や品質安定性を高めることができなかった。
(5)尚、比較例1において「低融点のポリオレフィン系樹脂の35質量%を高融点のポリオレフィン系樹脂へ置換したにも拘わらず、非多孔質フィルム状の半製品シートにおける高温下の機械的強度(150℃引張強さ)において、耐熱特性の改善効果がまったく見られず、むしろ19%低下した」ことの理由については次のように推定した。まず、比較例1に対して、高密度ポリエチレン樹脂からの高融点ポリオレフィン系樹脂への置換割合が同じであり、使用する高融点ポリオレフィン系樹脂の種類のみが異なる、実施例1と比較してみた。完成品の25℃引張強さ(比較例1:21.0N/mm)について比較してみると、実施例1も21.0N/mmで同じであることから、「そもそも4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂とエチレン・ノルボルネン共重合樹脂とは、樹脂の持つ強度が異なるから」という理由ではないことが分かる。完成品の150℃引張強さ(比較例1:0.90N/mm)について比較してみると、実施例1は1.41N/mmであり36%低いが、比較例2(0.26N/mm)と比較すると3.5倍であることから、「実施例1には劣るが、比較例2には完全に優る」状況であり、半製品シートの150℃引張強さにおける「比較例2にも劣る」状況とはまったく状況が異なっており、半製品シートの150℃引張強さの現象の主原因が、この完成品の150℃引張強さの現象の中に見出されるとは考えにくい。よって、半製品シートの150℃引張強さにおける「比較例2にも劣る」原因は、「高温下の半製品シート」特有の現象の中に潜んでいる可能性が高いと思われる。本発明の実施例および比較例における通常の場合、原料組成物は、溶融混練押出時に、温度が約240℃にあり、ポリオレフィン系樹脂とオイル状可塑剤とが相溶状態にあり、押出直後のロール圧延による薄肉化成形工程(金属製ロール表面温度が約140℃)によって冷却され約150℃にまで温度低下し、ポリオレフィン系樹脂が結晶化し相溶状態にあったポリオレフィン系樹脂とオイル状可塑剤とが相分離を起こす。オイル状可塑剤と相溶状態にある時は強度を高められない原料組成物中のポリオレフィン系樹脂は、結晶化し相分離を起こすことで強度を高めるようになるが、ポリオレフィン系樹脂の中でも、ポリエチレン樹脂や4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂では、相分離が起こりやすいが、エチレン・ノルボルネン共重合樹脂では、相分離が起こりにくいと思われる。よって、温度が約150℃の半製品シート中のエチレン・ノルボルネン共重合樹脂は強度を高められず、半製品シートの機械的強度が上がらないという現象になったものと思われる。
【符号の説明】
【0046】
1 Tダイ
2a,2b カレンダーロール
3 冷却ロール
4 半製品シート(非多孔質フィルム状シート)
5 ロール圧延による薄肉化成形工程
6 ロール表面に貼り付いた半製品シートを剥離させながら次工程へ搬送される部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と、オイル状可塑剤と、前記オイル状可塑剤を担持しうる比表面積100m/g以上の無機質微粉とを主体とした原料組成物を溶融混練しながら押し出したシート状物をロール圧延により薄肉化成形して厚さ100μm以下の非多孔質フィルムとした後、前記オイル状可塑剤の一部乃至全量を抽出除去することによって得られる、前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機質微粉とを主構成とした前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機質微粉の組成比(質量比)が20/80〜60/40で平均細孔径が1μm以下で空隙率が65体積%以上で厚さが100μm以下の微多孔質フィルムの製造方法において、前記ポリオレフィン系樹脂として、融点が150℃以下である低融点のポリオレフィン系樹脂を主体とし、融点が220℃以上またはビカット軟化温度が170℃以上である高融点のポリオレフィン系樹脂として4−メチル−1−ペンテン系共重合樹脂を20〜50質量%混合使用するようにして、前記非多孔質フィルムの150℃引張強さ(MD方向)が0.4N/25mm以上でかつ、前記微多孔質フィルムの25℃引張強さ(MD方向)が18N/mm以上となるようにしたことを特徴とする微多孔質フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記低融点のポリオレフィン系樹脂が高密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の微多孔質フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記低融点のポリオレフィン系樹脂が重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の微多孔質フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記原料組成物が、実質的に、前記ポリオレフィン系樹脂と前記オイル状可塑剤と前記無機質微粉の3者の組成物であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の微多孔質フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記微多孔質フィルムが、実質的に、前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機質微粉の2者の組成物であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の微多孔質フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−171049(P2011−171049A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32358(P2010−32358)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】