説明

微小参照電極デバイス

【課題】 参照極付近のイオン濃度を一定に維持することを可能とした微小参照電極デバイスを提供する。
【解決手段】 作用極が配置され、所定の電解液を収容する作用極区画と、参照極及び対極が配置され、所定の電解液を収容し、第1の液絡路を介して作用極区画内の電解液と電解液の接触が図られるともに、第2の液絡路を介して計測対象となる液体と電解液の接触が図られた参照極区画とを備え、作用極と参照極との電位差を固定し、参照極区画内の電解液における所定のイオン濃度が変化した場合に作用極に生じる電流と逆符号の電流を対極に流し、参照極区画内の所定のイオン濃度を一定とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くの電気化学実験、あるいは電気化学的原理に基づく化学センサ、バイオセンサにおいて用いられる微小参照電極、特に参照電極として安定で汎用性のある微小参照電極デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
参照電極は、電位設定あるいは電位測定の基準となる電極であり、電気化学の基礎研究のみならず、化学センサのような応用研究においてもなくてはならない重要な構成要素である。例えば、サイクリックボルタモグラム等、電極電位が情報として含まれる実験を実施するにあたっては、安定な電位基準となる参照電極が求められることは言うまでもない。
【0003】
また、化学センサ、バイオセンサのうち、特に電位測定を行うポテンショメトリックセンサにおいては、化学物質を測定する指示電極の電位がこの参照電極を基準に測られ、この電位を指標として化学物質濃度が測られるため、安定で信頼性の高い参照電極を用いなければ、その電位のずれがそのまま測定誤差となってしまう。このように、参照電極は、電気化学的センサにおいては基本的なものであり、かつ非常に重要なものである。
【0004】
近年、半導体加工技術による化学センサ、バイオセンサの微小化が進むにつれ、それに応じて、安定な電位を与えることのできる微小な参照電極の開発が求められるようになった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の参照電極によれば、全体が保護膜で覆われていると共に、少なくとも、薄膜骨組金属パターンにおけるその一部が電極端子部として露出されており、並びに、薄膜液絡パターンにおけるその一部が外部の液体との接触部として露出することにより、安定性を有する微小参照電極を得ることを可能としている。
【特許文献1】特開2001−4581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、参照電極を微小化するアプローチとして、液絡を有する銀/塩化銀電極を微小化するのが最も現実的なアプローチであった。しかしながら、参照電極の微小化が進むにつれて、Cl-イオンの流出による内部電解液の希釈及びこれに伴う電位変動の問題は避けられなかった。
【0007】
また、微小化学分析システム(μTAS)の中でも、電気化学測定に基づくものは微小化や大量生産などにおいて有利であり、実用的なデバイス開発に期待が高まっており、このうちポテンショメトリック等、電位を問題にする場合には、電位基準となる参照電極が非常に重要な役割を果たす。ここで、参照極としてμTASでも用いられる銀/塩化銀電極は、電位を一定に維持するために、電極付近のCl濃度を一定に維持する必要がある。しかしながら、μTASのような微小空間内でこれは極めて困難である。
【0008】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、参照極付近のイオン濃度を一定に維持することを可能とした微小参照電極デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の微小参照電極デバイスは、作用極が配置され、所定の電解液を収容する作用極区画と、参照極及び対極が配置され、所定の電解液を収容し、第1の液絡路を介して作用極区画内の電解液と電解液の接触が図られるともに、第2の液絡路を介して計測対象となる液体と電解液の接触が図られた参照極区画とを備え、作用極と参照極との電位差を固定し、参照極区画内の電解液における所定のイオン濃度が変化した場合に作用極に生じる電流と逆符号の電流を対極に流し、参照極区画内の所定のイオン濃度を一定とすることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の微小参照電極デバイスの制御方法は、作用極が配置され、所定の電解液を収容する作用極区画と、参照極及び対極が配置され、所定の電解液を収容し、第1の液絡路を介して作用極区画内の電解液と電解液の接触が図られるともに、第2の液絡路を介して計測対象となる液体と電解液の接触が図られた参照極区画とを備える微小参照電極デバイスの制御方法であって、作用極と参照極との電位差を固定し、参照極区画内の電解液における所定のイオン濃度が変化した場合に作用極に生じる電流と逆符号の電流を対極に流し、参照極区画内の所定のイオン濃度を一定とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のような本発明の微小参照電極デバイスによれば、参照極外部のイオン濃度が変動した場合にも、フィードバック機能により、参照極付近のイオン濃度を一定に維持し、安定的な電位を示す微小参照電極デバイスを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本実施形態の微小参照電極デバイスの全体構成を示す図である。図1(a)は、本実施形態の微小参照電極デバイスの正面図であり、図1(b)は、本実施形態の微小参照電極デバイスの側面図である。
【0013】
図に示すように、本実施形態の微小参照電極デバイス1はPDMS(Poly Dimethyl Siloxane)基板100と、絶縁層200と、ガラス基板300が積層して構成される。本実施形態の微小参照電極デバイス1の概略の外形サイズは、20mm×15mmである。
【0014】
図2は、本実施形態の微小参照電極デバイスの分解斜視図である。また、図3は、本実施形態の微小参照電極デバイス1における図1中のA部を拡大した図である。
【0015】
本実施形態のPDMS基板100は、注入口101と、作用極区画102と、参照極区画103と、参照極用溶液注入ポート104と、第1のサンプル注入ポート105と、第2のサンプル注入ポート106と、第1の微小流路107と、第2の微小流路108とを含んで構成される。
【0016】
注入口101は、PDMS基板100を貫通する円形断面の穴である。注入口101は、後述するデバイス内の参照極310の電位を計測するための市販の銀/塩化銀参照極を挿入するための区画である。注入口101の直径は、6mmである。
【0017】
作用極区画102は、PDMS基板100を貫通し、突起部102aを有するほぼ円形断面の穴である。作用極区画102は、図5に示すように、突起部102a及び第1の液絡路110を介して参照極区画103に接続している。作用極区画102の直径は、3mmである。
【0018】
また、作用極区画102には電解質ゲル400がほぼ密に配置され収容される。電解質ゲル400は、後述する参照極区画103内の電解液と接触する。本実施形態では、作用極304が配置される作用極区画102内は塩化物イオンの濃度が一定であることが前提となるが、これは同時に作用極304の電位が常に一定であることを意味するものである。そのため、本実施形態では、作用極区画102内を塩化物イオンを一定に含むゲルで満たすことにより、作用極304の電位を常に一定としている。
【0019】
参照極区画103は、PDMS基板100を貫通する円形断面の穴である。参照極区画103は、塩化物イオン濃度のフィードバックの基準となる所定の濃度のKCl溶液を収容する。参照極区画103は、図5に示すように第2の液絡路109を介して、第1の微小流路107に接続している。参照極区画103の直径は800μmである。また、第2の液絡路109の幅は、200μmである。
【0020】
参照極用溶液注入ポート104は、PDMS基板100を貫通する円形断面の穴である。参照極用溶液注入ポート104は、参照極310のためのKCl溶液を参照極区画103へ供給するためのポートである。参照極用溶液注入ポート104は、第2の微小流路108を介して、参照極区画103に接続している。参照極用溶液注入ポート104の直径は、500μmである。また、第2の微小流路108の幅は約100μmである。
【0021】
参照極区画103へKCl溶液を注入する目的は、参照極区画103内の塩化物イオン濃度をフィードバックの基準となる濃度にするためである。最初に、参照極区画103内を、基準となる塩化物イオン濃度で満たすことで、続いてどのような塩化物イオン濃度のサンプルが流れてきても、フィードバックによって最初の基準の濃度が参照極区間103内では維持されることとなる。
【0022】
第1のサンプル注入ポート105及び第2のサンプル注入ポート106は、PDMS基板100を貫通する円形断面の穴である。第1のサンプル注入ポート105及び第2のサンプル注入ポート106は、第1の微小流路107へ計測対象となるサンプル液を供給するためのポートである。第1のサンプル注入ポート105及び第2のサンプル注入ポート106は、第1の微小流路107を介して、注入口101に接続している。第1のサンプル注入ポート105及び第2のサンプル注入ポート106の直径は、800μmである。また、第1の微小流路107の幅は約500μmである。
【0023】
本実施形態の絶縁層200はポリイミドからなり、作用極導通部201と、対極・参照極導通部202とを有する。
【0024】
作用極導通部201は、絶縁層200を貫通する孔が配置されることにより構成される。作用極導通部201は、作用極区画102の断面及び後述する作用極304とほぼ同一の面積の孔である。作用極導通部201を作用極304とほぼ同一の面積の孔とすることにより、作用極304に流れる電流を出来るだけ大きくしている。本実施形態では、作用極導通部201の直径を3mmとする。
【0025】
図4は、本実施形態の対極・参照極導通部202の拡大図である。対極・参照極導通部202は、絶縁層200を貫通するほぼ円形の対極導通部203と、対極導通部203の内部の中心に突出し円形先端を有する参照極被覆部204と、参照極被覆部204を貫通し対極導通部203のほぼ中心に位置する微小な穴である参照極導通部205とを有する。参照極被覆部204の円形先端は直径300μmであり、対極導通部203の直径は、750μmである。
【0026】
また、本実施形態では、参照極導通部205の直径を50μmとしている。これは、一般に、塩化銀は高濃度の塩化物イオンを含む溶液中では錯体を形成し溶解してしまうことが知られており、微小な銀/塩化銀参照極ではこのことが原因で電位が安定せず耐久性もあまり良くはない。本実施形態のように参照極導通部205をピンホールとし、露出する面積を極端に制限することで、塩化銀の溶解が劇的に抑えられ、参照極310の安定性と耐久性を向上することを可能としている。
【0027】
本実施形態のガラス基板300は、対極用パッド301、作用極用パッド302、参照極用パッド303、作用極304、対極・参照極部305、及び配線パターン306、307、308が、その表面に形成されて構成される。
【0028】
図2に示すように、矩形のガラス基板300の一辺に、対極用パッド301、作用極用パッド302、及び参照極用パッド303が順に並んで配置されている。
【0029】
ガラス基板300のほぼ中心部には、円形の作用極304が形成されている。作用極304は、銀/塩化銀の非分極性の電極である。作用極304と作用極用パッド302とは、配線パターン307により電気的に接続している。作用極304の直径は3mmである。
【0030】
ガラス基板300上の作用極304付近には対極・参照極部305が形成されている。図5は、本実施形態の対極・参照極部305の拡大図である。図に示すように、対極・参照極部305は、円形の参照極310と、参照極310を所定の間隔をもって包囲したほぼ中空円状の対極309を有する。対極309及び参照極310は、銀/塩化銀の非分極性の電極である。参照極310は、参照極区画103内の塩化物イオン濃度変化を計測するため、参照極区画103の端などよりも中心に配置している。そして、残りの面積を対極309で占めようとする結果、対極309を参照極310を包囲するような形状としている。参照極310の直径は、200μmであり、対極309の外形は750μmである。
【0031】
参照極310は、配線パターン308を介して参照極用パッド303と電気的に接続している。対極309は、配線パターン306を介して対極用パッド301と電気的に接続している。
【0032】
上述した、PDMS基板100と、絶縁層200と、ガラス基板300が積層して構成されることにより、本実施形態の微小参照電極デバイスは以下の構成を有することとなる。
【0033】
PDMS基板100の注入口101と、参照極用溶液注入ポート104と、第1のサンプル注入ポート105と、第2のサンプル注入ポート106と、第1の微小流路107と、第2の微小流路108とについては、下部に絶縁層200が存在し、内部の電解液は各ポート及び流路に保持される。
【0034】
一方、PDMS基板100の作用極区画102の下部には、絶縁層200の作用極導通部201が配置され、さらに下部には、ガラス基板300の参照極304が配置される。これにより、作用極区画102内の電解質ゲル400と参照極304とは電解液の接触が図られることとなる。
【0035】
また、PDMS基板100の参照極区画103の下部には、絶縁層200の対極・参照極導通部202が配置され、さらに下部には、ガラス基板300の対極・参照極部305が配置される。
【0036】
ここで、絶縁層200の対極・参照極導通部202の絶縁膜の形状は上述したように、対極導通部203を介して対極309が露出し、微小な穴である参照極導通部205を介して参照極310の一部が露出する形状であるため、参照極区画103内の電解液と対極309及び参照極310との接触が図られることとなる。
【0037】
参照極用溶液注入ポート104から参照極区画103へKCl溶液が供給される。第1のサンプル注入ポート105及び第2のサンプル注入ポート106からは、第1の微小流路107を介して、注入口101へのサンプル液の流れが生じるが、第1の微小流路107内のサンプル液の一部は、第2の液絡路109を介して参照極区画103内の電解液と接触する。
【0038】
また、作用極区画102の電解質ゲル400と参照極区画103内の電解液とは、第1の液絡路110を介して接触する。
【0039】
次に、本実施形態の微小参照電極デバイスの1チップ分の作製方法を説明するが、実際には1枚の基板上に多数の微小参照電極デバイスが一括して作製されるものである。
【0040】
[製造例1]
(1)ガラス基板洗浄
7740ガラス基板(3インチ、500μm厚)を加熱した31%過酸化水素:29%アンモニア:純水=1:1:4溶液中、および加熱した純水中で洗浄した。
【0041】
(2)ガラス基板300上の骨格パターンの形成
(1)のガラス基板上に銀/塩化銀構造の骨組みとなる金パターンを形成した。金パターンは、電極パッド301〜303及び配線パターン306〜308を構成するものである。また、金パターンは、骨格パターン状に作用極304、対極309、及び参照極310の第1層を構成するものである。
【0042】
まず、スパッタにより40 nm厚のクロム層、300 nm厚の金層を、順に基板全面に形成した。次に、ポジ型フォトレジスト(Shipley製、S1818)によりパターニングを施し、以下に示すエッチング液中で金のエッチングを行った。
【0043】
金のエッチング液: ヨウ化カリウム10 gとヨウ素2.5 gを純水100 mlに溶かしたもの。
【0044】
エッチング後アセトン中でレジストを剥離し、同じくアセトン中で十分に洗浄・乾燥した。引き続き、基板を以下のエッチング液中の浸漬し、クロム層を除去した。
【0045】
クロムエッチング液: フェリシアン化カリウム 25 gと水酸化ナトリウム 12.5 g を100 mlの純水に溶かしたもの
【0046】
エッチング後、基板を純水で十分に洗浄し、乾燥窒素ガスにより乾燥した。これにより、骨格となるパターンが完成した。ここで用いられる金属材料は必ずしも金に限らない。それ自身電極反応でおかされにくい、白金等、他の貴金属を用いることも可能である。
【0047】
(3)銀用リフトオフパターンの形成
(2)の金の骨組みが完成した基板上に、ポジ型フォトレジスト(Shipley製、S1818)によるリフトオフ用パターンを形成した。まず、ポジ型フォトレジストを基板上にスピンコーティングした後、80℃で30分ベーキングを施した。次に必要なパターンを形成したフォトマスクを使用し、露光した後、30 ℃のトルエン中に1分間浸漬し、乾燥後、80℃で15分ベーキングを施した。その後、ポジ型フォトレジスト用現像液(Shipley製、MF319)中で現像、純水でリンスを行い、乾燥窒素ガスを吹き付け乾燥した。
【0048】
(4)銀薄膜の形成
銀を300 nmの厚さにスパッタした。
【0049】
(5)リフトオフ
(4)の銀薄膜をスパッタした基板をアセトン中に浸漬してレジストを溶解し、レジストパターン上の銀薄膜をリフトオフした。その後、清浄なアセトンにて十分に洗浄後、乾乾燥窒素ガスを吹き付け乾燥した。このようにして、作用極304、対極309、及び参照極310を構成する骨格金パターン上に、第2層として銀薄膜が形成される。
【0050】
(6)絶縁膜200内のパターンの形成
(5)の電極群を形成したガラス基板300上に絶縁膜200ポリイミドのパターンを形成した。まず、ポリイミドプレポリマー(東レ製、SP-341)を基板上にスピンコーティングした後、80℃で30分ベーキングを施した。次に、ポジ型フォトレジスト(Shipley製、S1818)をスピンコーティングした後、80℃で30分ベーキングを施した。その後、必要なパターンを形成したフォトマスクを使用し、露光した後、ポジ型フォトレジスト用現像液(Shipley製、MF319)中で現像、純水でリンスを行い、乾燥窒素ガスを吹き付け乾燥した。最後に、エタノールでレジストを十分剥離し、乾燥窒素ガスを吹き付け乾燥した後、150℃で15分、200℃で15分、300℃で30分キュアした。電極感応部が上記によって絶縁されたが、電極の露出部分のサイズは、作用極導通部201が直径3 mm、参照極導通部205が直径50 μm、及び対極導通部203が外形750 μmと内径300 μmの同心円内とした。
【0051】
(7)基板のダイシング
ダイシングソーにてウエハから微小参照電極のチップを切り出した。
【0052】
(8)塩化銀層の形成
チップ上の全ての銀電極上に塩化銀層を形成した。まず、銀電極を白金板、市販の銀/塩化銀電極とともに0.1 M KClを含むKCl - HCl緩衝液 (pH 2.2, 25℃)中に浸漬した。次に、銀電極を作用極、白金板を対極、市販の銀/塩化銀電極を参照極としてガルバノスタットに接続し、一定電流を数分間流し、定常電解にて塩化銀層を形成した。印加電流値と印加時間は電極役割に応じて異なり、作用極は0.1 μAで15分、参照極は10 nAで15分、対極は1 μAで20 分とした。形成後、純水にて洗浄し、乾燥した。このようにして、作用極304、対極309、及び参照極310を構成する銀薄膜上に、第3層として塩化銀層が形成される。
【0053】
(9)微小流路鋳型の形成
(1)のガラス基板300上に微小流路構造を形成するための鋳型を形成した。まず、基板上に厚膜フォトレジスト(Microchem製、SU-8 25)をスピンコーティングした後、65℃で5分、95℃で25分ベーキングを施した。次に、必要なパターンを形成したフォトマスクを使用し、露光した後、65℃で10分ベーキングを施した。その語、厚膜フォトレジスト用現像液(Microchem製、SU-8 Developer)中で現像、純水でリンスを行い、乾燥窒素ガスを吹き付け乾燥した。
【0054】
(10)PDMS基板100の作製
(9)の鋳型を使用してPDMS(ポリジメチルキロキサン)基板100を作製した。まず、基板上にPDMS前駆体と硬化剤を10:1の質量比で混合したものを均一に塗布した。続いて、簡易真空ポンプで気泡を除去し、室温下で一夜放置し硬化させた。その後、硬化したPDMSを鋳型から剥がして、メスで切り出した後、穴あけポンチで溶液導入孔及び排出孔となる貫通孔を形成した。微小流路構造のサイズは、第1の微小流路107を幅500 μm、参照極区画103を直径800 μm、作用極区画102を直径3 mmとし、高さを全て50 μmとした。
【0055】
(11)デバイスの組み立て
(8)と(10)の基板同士を慎重に張り合わせて本製造例の微小参照電極デバイス1を組み立てた。その後、マイクロシリンジポンプから溶液を導入するために、シリコーンチューブを溶液導入孔へ挿入し、一端を接着した。
【0056】
[製造例2]
(1)電極チップの作製
製造例1(1)〜(8)と同様にして、銀/塩化銀電極を形成した電極チップを形成した。
【0057】
(2)PDMS基板の作製
製造例1(9)〜(10)と同様にして、PDMS基板を作製した。ただし、製造例1とは異なり、作用極区画102に直径3 mmの貫通孔を形成した。
【0058】
(3)デバイスの組み立て
製造例1(11)と同様にして、本製造例の微小参照電極デバイス1を組み立てた。
【0059】
(4)電解質ゲル400の作製
PVA-SbQと0.2 MのKClを含む20 mM KH2PO4- NaOH緩衝液(pH 7.2, 25℃)を1:1の質量比で混合した前駆体を、作用極区画に注入した。その後、紫外線を15分間照射し、前駆体をゲル化させ、電解質ゲル400を作製した。
【0060】
本実施形態の微小参照電極デバイス1はポテンショスタット500に接続されて使用される。図6は、本実施形態の微小参照電極デバイス1とポテンショスタット500との接続方法を示す図である。
【0061】
図に示すように、本実施形態の微小参照電極デバイス1の参照極用パッド303はポテンショスタット500の参照極用端子500aに接続し、作用極用パッド302は作用極用端子500bに接続し、対極用パッド301は対極用端子500cに接続している。
【0062】
ここで、作用極304、対極309及び参照極310を構成する銀/塩化銀電極の性質について説明する。図7は、銀/塩化銀電極の性質を説明する図である。図7(a)に示すように、銀/塩化銀電極は、ネルンストの式により、電極付近の塩化物イオン濃度で電位値が決定する。ここで、図7(b)に示すように、ポテンショスタットなどを用いて、この電位値より正、もしくは、負に電位値を動かそうとすると(つまり、過電圧をかけようとすると)、わずかに電位がずれるだけで大電流が発生する。この性質を非分極性という。
【0063】
本実施形態の微小参照電極デバイスは、このような銀/塩化銀電極の性質を利用するものである。
【0064】
上述したように、対極309及び参照極310の2つの電極は第1の微小流路107に接続した参照極区画103に配置されている。
【0065】
本実施形態の微小参照電極デバイスにおいて、参照極区画103内の塩素イオン濃度はポテンショスタット500を使用して一定の値に維持されるようフィードバック制御が行われる。
【0066】
ポテンショスタット500の参照電極用端子500aに接続した参照極310は、電位を提供する最も重大な電極である。対極309は、Ag/AgClの酸化還元反応によってCl-イオンを提供し、もしくは、吸収するために使用される。
【0067】
作用極304は、一定の濃度の塩化物イオンを含んでおり、対極309及び参照極310が備わる参照極区画103へ接続する個別の作用極区画102に配置されている。
【0068】
ポテンショスタット500は、作用極304と参照極310との間に生じている静止電位を測定し、これを作用極304に印加する。
【0069】
図8は、本実施形態の微小参照電極デバイスにおいて、参照極付近のCl濃度が増加する場合の負のフィードバックを説明する図である。なお、図中の黒三角は参照極310の電位を示し、白三角は作用極304の電位を示す。
【0070】
まず、第1の微小流路107中のサンプル液との接触により参照極区画103内の参照極310付近のCl濃度が減少する場合を考える。
【0071】
図8(a)に示すように、作用極304と参照極310との間には、塩化物イオン濃度の差に応じた静電位差(電流が流れていない状態の電極の電位を静止電位といい、その差を静止電位差とする)が生じているとする。この2つの電極付近の作用極区画102内及び参照極区画103内の塩化物イオン濃度が等しい場合には、電位差は0である。
【0072】
続いて、ポテンショスタット500によって、作用極304と参照極310との間にこの静止電位差の値を印加する(図中のResting potential)。この場合には、静止電位差を印加するため、作用極304には電流は流れない。
【0073】
図8(b)に示すように、参照極区画103内の塩化物イオン濃度がサンプル液の流入によって希釈されたと仮定すると、ネルンストの式にしたがって、銀/塩化銀である参照極310の電位は正(+)の方向へ上昇する(図中の黒三角)。
【0074】
このとき、作用極304と参照極310との間はポテンショスタット500により電位差が固定されているため(図中のResting potential)、作用極304の電位もまた、参照極につられて正(+)の方向へ上昇する(図中の白三角)。
【0075】
ここで、作用極304は電解質ゲル400などで密封されているため作用極区画102内の塩化物イオン濃度は常に一定である。そのため、過電圧が作用極304にかかり、さらに、過電圧によって対極309と作用極304との間には正の大電流が流れることとなる(図中のGenerated current)。
【0076】
このとき、ポテンショスタット500では作用極304で流れる逆符号の電流が対極309に流れることとなるため、対極309上では負の大電流が流れることとなるが、対極309もまた、銀/塩化銀電極であるため、対極309ではAgCl + e → Ag + Clのような反応が生じ、塩化物イオンが発生する。
【0077】
この結果、図8(c)に示すように、参照極区画103の塩化物イオン濃度が上昇し、その結果、参照極310の電位が元の位置に戻る(図中のRecovered to the initial [Cl-])。元の位置に戻ると電流も収まり、電極反応も停止する。
【0078】
このように、参照極310付近の塩化物イオン濃度の変化に応じた、自動的なフィードバックにより参照極区画103内の塩化物イオン濃度が一定となる。つまり、作用極の正(負)方向への変化を対極の負(正)方向の反応が打ち消すため、これを負のフィードバックという。
【0079】
図9は、本実施形態の微小参照電極デバイスにおいて、参照極区画内の参照極付近のCl濃度が減少する場合の負のフィードバックを説明する図である。
【0080】
参照極区画103内の参照極310付近のCl濃度が増加する場合には、図9(a)に示すように逆方向に電位が変化し、図9(b)に示すように、作用極304の銀/塩化銀には過電圧がかかり、負の大電流が流れる。そして、対極309上ではAg + Cl → AgCl + eの変化が生じる。すなわち、塩素イオンは対極309上で消費され、図9(c)に示すように、参照極区画103内の参照極310付近のCl濃度が低下し、同様に参照極310の電位が一定に維持される。
【0081】
図10は、本実施形態の微小参照電極デバイス1を評価した結果を示す図である。このデバイスの機能を評価するため、参照極区画103に0.1 Mあるいは50 mMのKClを満たし、第1の微小流路107に50 mMあるいは10 mMのKClを流した。
【0082】
参照極310付近のKClは速やかに希釈され、参照極310の電位は正の方向に変化し、図中の「OFF」の線に示すように、最終的に希釈された濃度に対応する電位に落ち着いた。これより、単純に銀/塩化銀電極を微小な区画に置いただけでは、使用に耐えうる参照電極を実現することが極めて難しいことがわかる。
【0083】
一方、ポテンショスタットによりフィードバックをかけると、図中の「ON」の線に示すように、参照極区画中のCl濃度が一定に維持され、参照極電位が安定し、変動は最大でも3 mV以内であった。よって、本実施形態の微小参照電極デバイスの妥当性が証明された。
【0084】
以上は参照極の説明であったが、実際にはこれとさらに他の電極を組み合わせて使用する。例えば、イオン濃度を測定する場合には、微小流路内にイオンを検出するための指示電極を形成し、前期参照極310の電位を基準にして、この指示電極の電位を測定すれば良い。電位はイオン濃度の対数に比例して変化するので、電位よりイオン濃度が求まる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本実施形態の微小参照電極デバイスの全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態の微小参照電極デバイスの分解斜視図である。
【図3】本実施形態の微小参照電極デバイスにおける図1中のA部を拡大した図である。
【図4】本実施形態の対極・参照極導通部の拡大図である。
【図5】本実施形態の対極・参照極部の拡大図である。
【図6】本実施形態の微小参照電極デバイスとポテンショスタット500との接続方法を示す図である。
【図7】銀/塩化銀電極の性質を説明する図である。
【図8】本実施形態の微小参照電極デバイスにおいて、参照極付近のCl濃度が増加する場合の負のフィードバックを説明する図である。
【図9】本実施形態の微小参照電極デバイスにおいて、参照極区画内の参照極付近のCl濃度が減少する場合の負のフィードバックを説明する図である。
【図10】本実施形態の微小参照電極デバイスを評価した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1:微小参照電極デバイス
100:PDMS基板
101:注入口
102:作用極区画
103:参照極区画
104:参照極用溶液注入ポート
105:第1のサンプル注入ポート105
106:第2のサンプル注入ポート106
107:第1の微小流路
108:第2の微小流路
109:第2の液絡路
110:第1の液絡路
200:絶縁層
201:作用極導通部201
202:対極・参照極導通部202
203:対極導通部
204:参照極被覆部
205:参照極導通部
300:ガラス基板
301:対極用パッド
302:作用極用パッド
303:参照極用パッド
304:作用極
305:対極・参照極部
306:配線パターン
307:配線パターン
308:配線パターン
309:対極
310:参照極
400:ポテンショスタット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極が配置され、所定の電解液を収容する作用極区画と、
参照極及び対極が配置され、所定の電解液を収容し、第1の液絡路を介して前記作用極区画内の電解液と電解液の接触が図られるともに、第2の液絡路を介して計測対象となる液体と電解液の接触が図られた参照極区画と、
を備え、
前記作用極と前記参照極との電位差を固定し、前記参照極区画内の電解液における所定のイオン濃度が変化した場合に前記作用極に生じる電流と逆符号の電流を前記対極に流し、前記参照極区画内の所定のイオン濃度を一定とする
ことを特徴とする微小参照電極デバイス。
【請求項2】
前記参照極上には微小なピンホールを備えた絶縁膜が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の微小参照電極デバイス。
【請求項3】
前記参照極区画内の電解液は、KCl溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の微小参照電極デバイス。
【請求項4】
前記作用極区画内の電解液は、ゲル状物質であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の微小参照電極デバイス。
【請求項5】
前記作用極、前記参照極、及び、前記対極は、非分極性の電極であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の微小参照電極デバイス。
【請求項6】
前記作用極、前記参照極、及び、前記対極は、銀/塩化銀電極であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の微小参照電極デバイス。
【請求項7】
作用極が配置され、所定の電解液を収容する作用極区画と、
参照極及び対極が配置され、所定の電解液を収容し、第1の液絡路を介して前記作用極区画内の電解液と電解液の接触が図られるともに、第2の液絡路を介して計測対象となる液体と電解液の接触が図られた参照極区画と、
を備える微小参照電極デバイスの制御方法であって、
前記作用極と前記参照極との電位差を固定し、前記参照極区画内の電解液における所定のイオン濃度が変化した場合に前記作用極に生じる電流と逆符号の電流を前記対極に流し、前記参照極区画内の所定のイオン濃度を一定とする
ことを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−96724(P2010−96724A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270073(P2008−270073)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)