説明

微小流体DNA試料調製のための方法およびシステム

本発明は、微小流体のDNA試料の調製のための方法およびシステムに関する。より具体的には、本発明の実施形態は、微小流体デバイスを用いる患者試料からDNAを単離するための方法およびシステム、ならびに微小流体デバイスを用いる増幅反応および熱融解分析の実施などの下流側処理のためのDNAの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、2008年7月18日に出願された米国仮特許出願第61/081,967号の利点を主張するものである。本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、「METHODS AND SYSTEMS FOR DNA ISOLATION ON A MICROFLUIDIC DEVICE」という名称で、Michele R.Stoneを発明者とする、2009年7月17日に出願された米国特許出願第 号(代理人整理番号3400−165)に関連する。
【0002】
本発明は、微小流体DNA試料の調製のための方法およびシステムに関する。より具体的には、本発明の実施形態は、微小流体デバイス(マイクロ流体素子)を用いて患者試料からDNAを単離するための方法およびシステム、ならびに微小流体デバイスを用いた増幅反応および熱融解分析の実施などの下流側処理のためのDNAの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
核酸の検出は、医学、法医学、工業的処理、作物および動物飼育ならびに多くの他の分野の中心である。疾患状態(例えば癌)、感染性生体(例えばHIV)、遺伝子系列および遺伝子マーカ等を検出する能力は、疾患診断および予後、マーカ支援選択、犯罪場面の正確な特定、工業的生体を繁殖させる能力および多くの他の技術のための幅広い技術である。対象となる核酸の完全性の判定は、感染または癌の病理に関連し得る。少量の核酸を検出するための最も強力かつ基本的な技術の1つは、核酸配列の一部またはすべてを何度も複製し、次いで増幅産物を分析することである。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、恐らく、多くの異なる増幅技術のなかで最も良く知られている。
【0004】
PCRは、核酸分析のためのより高感度な方法の1つである。しかし、血液を含む臨床試料中の多くの物質は、PCRに影響を与え、PCR結果に重大な誤差をもたらし得る。したがって、DNA単離および精製は、DNA分析のための方法にとって重要である。従来のDNA調製は、大容量の試料を必要とし、長時間の処理を必要とする。微小流体技術は、DNA試料調製のためにはるかに少ない試料およびより短い時間を使用することを可能にする。固相抽出法が、DNA試料調製に適用された。DNAが固相上で選択的に抽出され、試料中の他の物質が抽出カラムから洗い流される。例えば、Breadmoreら(Anal Chem 75(8):1880〜1886頁、2003年)は、ガラスマイクロチップに充填され、ゾル−ゲル内に固定化されたシリカビーズを使用するマイクロチップに基づくDNA精製方法を報告した。あるいは、DNA単離は、核サイズの篩によって達成することができる。
【0005】
DNAは、細胞の核にしか存在しないため、核を試料から選択的に単離することによってDNA試料を調製することができる。伝統的な核単離は、遅く、低効率である。一般に、核単離は、核を無傷に維持しながら、細胞膜を選択的に溶解することによって実施される。次いで、核を遠心、沈降または篩によって単離する。Dignaniら(Nucl Acids Res 11:1475〜1489頁、1983年)は、遠心による試料からの核の単離を報告した。米国特許第5,447,864号には、DNAメッシュを使用して核を単離する方法が開示されている。米国特許第6,852,851号には、複数の半径方向に分散したマイクロチャネルを含む微細加工装置で核を単離する方法が開示されている。米国特許第6,992,181号には、DNAまたは細胞核を精製するためのCDデバイスの使用が記載されている。この方法は、DNAおよび核の流れを阻止するための隔壁をチャネル内に使用して、DNAおよび細胞核を単離するために可動部および遠心力を必要とする。Palaniappanら(Anal Chem 76:6247〜6253頁、2004年)は、迅速な赤血球溶解のための連続流微小流体デバイスを報告した。VanDelinderら(Anal Chem 78:3765〜3711頁、2006年)は、成形微小流体デバイスでの連続的交流の全ヒト血液からの血漿の分離を報告した。微小流体チャネルにおける溶解緩衝液と血液試料との混合を促進するために、Palaniappanら(Anal Chem 78:5453〜5461頁、2006年)は、ダブルヘリングボーン微小隆起でパターン化されたチャネル床を有する微小流体チャネルを報告した。VanDelinderら(Anal Chem 79:2023〜2030頁、2007年)は、粒子および細胞のための微小流体交流での灌流を記載している。粒子は、主要チャネル内を流れ、灌流は、側方チャネルを流れて、懸濁の媒体を交換する。
【0006】
核を細胞から単離することによってDNAを精製する現行の技術にはいくつかの問題がある。第一に、従来の手法は遅い。通常、従来の手法は、細胞溶解から核単離まで完成するのに何時間もかかる。例えば、米国特許第6,852,851号に記載されている精製方法は、メッシュがマイクロチャネルに組み込まれた複数のマイクロチャネルで実施される。しかし、マイクロチャネルのサイズが限定されるため、方法では、100nlから1μlの限られた試料サイズしか扱うことができない。別の問題は、DNAおよび/または核を膜から遊離させる方法に伴うものである。例えば、米国特許第5,447,864号では、核を膜から遊離させるためにDNAアーゼが使用されている。しかし、DNAアーゼを加えると、下流処理が行き詰まる。米国特許第5,447,864号では、DNAを遊離させるために、硫酸ドデシルナトリウム溶液またはプロテイナーゼKを使用して核被覆を破壊する。しかし、これらの溶解試薬も下流処理を酷く阻害する。従来の核溶解方法は、高濃度の塩化ナトリウム(0.5M)を使用して、核膜を破壊することである。しかし、高濃度の塩化ナトリウムも下流処理を阻害する。
【0007】
加えて、現行の技術は、DNA結合および洗浄のための特定の緩衝液を必要とし、そのほとんどがPCRなどの下流用途に適合しない。これらの技術は、また、精製される全体量のDNAにおいて広範な効率性を有する。これは、試料を微小流体に使用するときに重大な問題になり得る。典型的にはDNA精製に必要とされる複数の試薬は、弁などの可動部を固相抽出における複数の試薬の導入のために微小流体デバイスに構築することを必要とする。微小流体システムでは、固相抽出または複数試薬の使用が複雑化し、システムの故障を招き得る。
【0008】
下流用途での使用のために核を取り込み、または試料集団から特定の細胞を分離するための様々な方法が存在するが、これらの方法には、細胞核を抽出し、増幅反応および検出分析などの微小流体処理および下流処理に好適である細胞核に含まれる核酸を単離することが可能な単一デバイスが記載されていない。したがって、DNA単離のための微小流体システムおよび方法を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国仮特許出願第61/081,967号
【特許文献2】米国特許出願第 号(代理人整理番号3400−165)
【特許文献3】米国特許第5,447,864号
【特許文献4】米国特許第6,852,851号
【特許文献5】米国特許第6,992,181号
【特許文献6】米国特許第7,262,283号
【特許文献7】米国特許出願公開第2008/0003588号
【特許文献8】米国特許出願公開第2008/0130971号
【特許文献9】米国特許出願公開第2008/0176230号
【特許文献10】米国特許出願公開第2009/0053726号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Breadmoreら(Anal Chem 75(8):1880〜1886頁、2003年)
【非特許文献2】Dignaniら(Nucl Acids Res 11:1475〜1489頁、1983年)
【非特許文献3】Palaniappanら(Anal Chem 76:6247〜6253頁、2004年)
【非特許文献4】VanDelinderら(Anal Chem 78:3765〜3711頁、2006年)
【非特許文献5】Palaniappanら(Anal Chem 78:5453〜5461頁、2006年)
【非特許文献6】VanDelinderら(Anal Chem 79:2023〜2030頁、2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、微小流体DNA試料の調製のための方法およびシステムに関する。より具体的には、本発明の実施形態は、微小流体デバイス(マイクロ流体素子)を用いる患者試料からDNAを単離するための方法およびシステム、ならびに微小流体デバイスを用いる増幅反応および熱融解分析の実施などの下流側の処理のためのDNAの使用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様において、本発明は、微小流体デバイスを用いる試料(例えば患者試料または他の試料)からのDNAを精製する方法を提供する。この態様によれば、方法は、(a)微小流体デバイスの混合領域において試料と溶解緩衝液を混合すること、(b)微小流体デバイスの細胞溶解領域において細胞の核膜を溶解することなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成すること、(c)試料からの無傷の核を膜によって微小流体デバイスの細胞トラップ領域にトラップし、試料の他の成分を、膜を通して微小流体デバイスの廃棄物回収領域に流すこと、(d)膜にトラップされた無傷の核を溶解すること、(e)DNAを溶解核から遊離させること、および(f)遊離したDNAを微小流体デバイスのDNA回収領域に回収することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、試料は、例えば、血液試料、尿試料、唾液試料、痰試料、髄液試料、体液試料、または白血球を含有する組織試料であり得る患者試料である。他の実施形態において、患者試料は、白血球を含む。さらなる実施形態において、患者試料は、細胞膜の選択的溶解の前に、最初に白血球が濃縮されている。いくつかの実施形態において、白血球の濃縮は、濾過によって実施される。さらなる実施形態において、白血球の濃縮は、抗体を使用して実施される。いくつかの実施形態において、抗体は、ビーズ、磁性ビーズ、粒子、ポリマービーズ、クロマトグラフィー樹脂、濾紙、膜またはヒドロゲルなどの固相に結合される。
【0014】
いくつかの実施形態において、選択的溶解は、そのままのまたは白血球濃縮の後の患者試料を、細胞の核を無傷に維持しながら細胞膜を選択的に透過化処理する緩衝液(本明細書では溶解緩衝液または核単離緩衝液と称する)と接触させることによって実施される。これらの特性を有する核単離緩衝液は、当業者に周知である。細胞膜を選択的に溶解するための核単離緩衝液を含む製品は、市販されている。緩衝液を含む好適な商品としては、Nuclei EZ Prep Nuclei Isolation Kit(NUC−101)(Sigma、米国ミズーリ州St.Louis)、Nuclear/Cytosol Fractionation Kit(K266−100)(BioVision Research Products、米国カリフォルニア州Mountain View)、NE−PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents(Pierce、米国イリノイ州Rockville)、Nuclear Extraction Kit(Imgenex,Corp.、米国カリフォルニア州San Diego)、Nuclear Extraction Kit(Active Motif、米国カリフォルニア州Carlsbad)およびQproteome Nuclear Protein Kit(Qiagen、米国カリフォルニア州Valencia)が挙げられるが、それらに限定されない。米国特許第5,447,864号、米国特許第6,852,851号および米国特許第7,262,283号をも参照されたい。問題の核のタイプは、どの核単離緩衝液が必要であるかを決定づけ得ることが既知である。異なる細胞タイプに対して好適な選択的溶解緩衝液を調製するために最適化できる要因の説明については米国特許第5,447,864号を参照されたい。
【0015】
一実施形態において、溶解緩衝液は低張性緩衝液である。例えば、市販の低張性溶解緩衝液のNuclei EZ溶解緩衝液(N3408)をSigma Aldrichから購入することができる。Nuclei EZ Prep Nuclei Isolation Kit(Nuc−101)というキットもSigma Aldrichから入手可能である。10倍の低張性溶液の一般的な処方物は、15mMのMgClおよび100mMのKClを含む100mMのHEPES(pH7.9)である。別の実施形態において、溶解緩衝液は、洗剤を含む低張性緩衝液である。好適な洗剤としては、硫酸ラウリルリチウム、デオキシコール酸ナトリウムおよびチャプスなどのイオン性洗剤、またはトリトンX−100、ツイーン20、Np−40およびIGEPAL CA−630などの非イオン性洗剤が挙げられるが、それらに限定されない。別の実施形態において、溶解緩衝液は等張性緩衝液である。例えば、Sigma Aldrichは、等張性溶解緩衝液を含有するCelLytic Nuclear Extraction Kitというキットを提供する。5倍の等張性溶解緩衝液の一般的な処方物は、10mMのMgCl、15mMのCaClおよび1.5Mのスクロースを含む50mMのトリスHCl(pH7.5)である。さらなる実施形態において、緩衝液は、イオン性洗剤または非イオン性洗剤であってよい洗剤を含む等張性緩衝液である。他の実施形態において、選択的溶解は、弱洗剤を含む低張性溶解緩衝液を使用して実施される。さらなる実施形態において、患者試料と低張性溶解緩衝液とを1:1の割合で混合する。さらなる実施形態において、細胞膜の選択的溶解は、赤血球を完全に溶解する。
【0016】
いくつかの実施形態において、膜にトラップされた無傷の核を溶解する工程、およびDNAを溶解核から遊離させる工程は、膜にトラップされた無傷の核に溶出緩衝液を流すことを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、溶出緩衝液は、DNAが相溶する緩衝液である。他の実施形態において、溶出緩衝液は、トリス緩衝液、KClおよび両性イオンを含む。一実施形態において、両性イオンは、ベタイン、トリメチルアミン−N−オキシド、水酸化トリメチルアミンまたは臭化トリメチルアミンである。他の実施形態において、溶出緩衝液は、非アッセイ特異的増幅試薬を含むことができる増幅反応緩衝液である。さらなる実施形態において、増幅反応緩衝液は、非アッセイ特異的PCR試薬を含むことができるPCR緩衝液である。さらなる実施形態において、溶出緩衝液は、DNAに結合する染料を含む。さらなる実施形態において、染料は、チャネルにおけるDNAの量を定量するのに有用である。さらなる実施形態において、核を熱によって溶解して、DNAを核から遊離させる。いくつかの実施形態において、核は、増幅反応の前に加熱される。他の実施形態において、核は、増幅反応時に加熱され、核溶解領域は、増幅反応が実施される微小流体デバイスの最初の領域である。
【0018】
いくつかの実施形態において、膜にトラップされた無傷の核は、トラップされた核を加熱することによって溶解される。一実施形態において、トラップされた核は、約35℃から95℃の範囲の温度で約1から10分間にわたって加熱される。別の実施形態において、トラップされた核は、約50℃の温度で約7分間にわたって加熱される。さらなる実施形態において、溶解核から遊離したDNAは、溶出緩衝液をDNAに流すことによって、微小流体デバイスのDNA回収領域に流れる。いくつかの実施形態において、溶出緩衝液は、本明細書に記載されている通りである。
【0019】
別の態様において、本発明は、患者試料からのDNAを精製するための微小流体デバイスを提供する。この態様によれば、微小流体デバイスは、微小流体デバイスの混合領域と流体連通する試料ポートおよび溶解緩衝液ポートを含む。混合領域は、試料ポートからの患者試料と溶解緩衝液ポートからの溶解緩衝液との混合を可能にするように構成されている。微小流体デバイスは、混合領域と流体連通する細胞溶解領域をさらに含む。細胞溶解領域は、溶解緩衝液が、細胞の核膜を溶解することなく、患者試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、患者試料中の細胞から無傷の核を生成することを可能にするように構成されている。微小流体デバイスは、患者試料からの無傷の核が膜にトラップされ、患者試料の他の成分が膜を通して微小流体デバイスの廃棄物回収領域に流れる核トラップ領域をさらに含む。核トラップ領域は、細胞溶解領域と流体連通する。微小流体デバイスは、無傷の核の核膜を溶解してDNAを遊離させる核溶解領域をさらに含む。微小流体デバイスは、トラップされた無傷の核から遊離したDNAが回収される微小流体デバイス内のDNA回収領域をさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、微小流体デバイスは、核トラップ領域および核溶解領域と流体連通する溶出緩衝液ポートをさらに含む。溶出緩衝液ポートからの溶出緩衝液は、核トラップ領域および核溶解領域を流れて、トラップされた無傷の核の核膜を溶解してDNAを遊離させるように制御することができる。一実施形態において、溶出緩衝液は、DNAが相溶する緩衝液である。他の実施形態において、溶出緩衝液は、トリス緩衝液、KClおよび両性イオンを含む。一実施形態において、両性イオンは、ベタイン、トリメチルアミン−N−オキシド、塩酸トリメチルアミンまたは臭化トリメチルアミンである。他の実施形態において、溶出緩衝液は、非アッセイ特異的増幅試薬を含むことができる増幅反応緩衝液である。さらなる実施形態において、増幅反応緩衝液は、非アッセイ特異的PCR試薬を含むことができるPCR緩衝液である。
【0021】
いくつかの実施形態において、微小流体デバイスは、核膜を溶解することによってDNAを遊離させるのに十分な熱を核溶解領域における無傷の核に供給するように構成されている熱源をさらに含む。一実施形態において、熱源は、核を約35℃から95℃の範囲の温度で約1から10分間にわたって加熱するように制御されている。別の実施形態において、熱源は、核を約50℃の温度で約7分間にわたって加熱するように制御されている。
【0022】
いくつかの実施形態において、溶解核から遊離したDNAは、溶出緩衝液をDNAに流すことによって微小流体デバイスのDNA回収領域に流れる。他の実施形態において、膜は、シリコン、ガラス、ポリマー、ポリエステル、ポリカーボネートまたはニトロセルロースで構成されている。さらなる実施形態において、膜は、丸形または長方形である。一実施形態において、膜は、約500nmから10μmの孔径を有する。別の実施形態において、膜は、約0.5μmから10μmの孔径を有する。
【0023】
いくつかの実施形態において、微小流動デバイスは、複数の層を有する。一実施形態において、微小流体デバイスは、(1)溶解緩衝液ポート、患者試料ポート、溶出緩衝液ポート、精製DNA回収ポートおよび廃棄物ポートを含む第1の層と、(2)溶解緩衝溶液および患者試料を微小流体デバイスの混合領域に輸送するマイクロチャネルネットワークを含む第2の層と、(3)マイクロチャネルネットワークを含む第3の層と、(4)第2の層と第3の層の間に配置された膜とをさらに含む。いくつかの実施形態において、患者試料および溶解緩衝溶液は、混合領域で混合し、マイクロチャネル内を細胞溶解領域まで流れ、患者試料および溶解緩衝溶液は、細胞溶解領域から膜を通して核トラップ領域に流れ、患者試料の他の成分は、膜を通して第3の層におけるマイクロチャネルに流れ、微小流体デバイスの廃棄物回収領域に達し、核から遊離したDNAは、膜を通して第3の層に配置されたマイクロチャネルに流れ、DNA回収領域に達する。
【0024】
他の実施形態において、微小流体デバイスは、(1)溶解緩衝液ポート、患者試料ポート、溶出緩衝液ポート、精製DNA回収ポートおよび廃棄物ポートを含む第1の層、(2)溶解緩衝溶液および患者試料を微小流体デバイスの混合領域に輸送するマイクロチャネルネットワークを含む第2の層、(3)流体が第2の層にあるマイクロチャネルから膜上に流れる孔を含む第3の層、(4)流体が膜から、廃棄物回収領域およびDNA回収領域をさらに含む第5の層に配置されたマイクロチャネルに流れる孔を含む第4の層をさらに含む。
【0025】
別の態様において、本発明は、患者試料からのDNAを精製するための別の微小流体デバイスを提供する。この態様によれば、微小流体デバイスは、溶解緩衝液を患者試料と混合することにより、細胞の核膜を溶解することなく患者試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、患者試料中の細胞から無傷の核を生成することを可能にするように構成されている細胞溶解領域を含む。微小流体デバイスは、無傷の核をフィルタによって患者試料の他の成分から分離する交流濾過領域をさらに含む。フィルタは、無傷の核がフィルタを通過せず、患者試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有する。微小流体デバイスは、精製核が下流分析のために流れる前記交流濾過領域と流体連通するインターフェースチャネルをさらに含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、交流濾過領域は、細胞溶解領域と流体連通し、細胞溶解領域から無傷の核および患者試料の他の成分を受け取るように構成されている微小流体分離チャネルを含む。フィルタは、微小流体チャネル内に構築されている。交流濾過領域は、交流緩衝液が微小流体分離チャネルにわたってフィルタを通して流れることを可能にするように構成されている交流緩衝液ポートをさらに含む。交流緩衝液は、分離チャネルにわたって流れるときに、フィルタを通した分離チャネルからの患者試料の他の内容物の除去を容易にする。無傷の核は、分離チャネルを流れる。
【0027】
いくつかの実施形態において、溶解した患者試料および交流緩衝液の一方の流れが圧力差によって誘導され、溶解した患者試料および交流緩衝液の他方の流れが電気泳動電圧ポテンシャルによって誘導される。一実施形態において、フィルタの孔径は、約2μmから10μmである。別の実施形態において、フィルタの孔径は、約5μmである。一実施形態において、フィルタは膜である。別の実施形態において、フィルタは、サイズ排除隔壁として形成するアレイ状の柱である。
【0028】
いくつかの実施形態において、交流濾過領域は、無傷の核、細菌およびウィルスを、溶解した患者試料から分離するように構成されている。一実施形態において、交流濾過領域は、無傷の核を分離するための第1のフィルタ、細菌を分離するための第2のフィルタおよびウィルスを分離するための第3のフィルタを含む。別の実施形態において、第1のフィルタは交流緩衝液ポートの最も近くに配置され、第2のフィルタは交流緩衝液ポートのその次に近くに配置され、第3のフィルタは交流緩衝液ポートから最も離れて配置されている。一実施形態において、第1のフィルタの孔径は約2μmから10μmであり、第2のフィルタの孔径は約0.2μmから2μmであり、第3のフィルタの孔径は約10nmから400nmである。別の実施形態において、第1のフィルタの孔径は約8μmであり、第2のフィルタの孔径は約0.4μmであり、第3のフィルタの孔径は約100nmである。
【0029】
いくつかの実施形態において、微小流体デバイスは、1つを超える交流濾過領域をさらに含み、交流濾過領域はそれぞれ、細胞溶解領域から溶解した患者試料の一部を受け取り、それぞれ1つまたは複数のインターフェースチャネルと流体連通する。一実施形態において、1つの交流濾過システムのフィルタは、1つの他の交流濾過システムの孔径と異なる孔径を有する。
【0030】
いくつかの実施形態において、微小流体デバイスは、交流濾過領域からの無傷の核を濃縮する核濃縮領域をさらに含む。一実施形態において、核濃縮領域は、試料投入部と、試料排出部と、無傷の核が壁部を流れるのを妨げ、患者試料の他の内容物が前記壁部を流れることを可能にするように構成されている壁部とを有する濃縮チャネルを含む。一実施形態において、壁部はフィルタである。別の実施形態において、フィルタは、濃縮チャネルに沿って配置された一組の柱を含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、患者試料は、本明細書に記載されている通りである。他の実施形態において、患者試料は白血球を含む。さらなる実施形態において、下流分析は、核酸を増幅する増幅反応、および/または増幅産物の有無を判定するための検出手順を含む。
【0032】
別の態様において、本発明は、患者試料からのDNAを精製するための微小流体システムを提供する。この態様によれば、微小流体システムは、微小流体デバイスを含む。システムは、溶解緩衝液を患者試料と混合することにより、細胞の核膜を溶解することなく患者試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、患者試料中の細胞から無傷の核を生成することを可能にするように構成されている微小流体デバイス内の細胞溶解領域をさらに含む。システムは、無傷の核がフィルタによって患者試料の他の成分から分離される、微小流体デバイス内の交流濾過領域をさらに含む。フィルタは、無傷の核がフィルタを通過せず、患者試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有する。システムは、無傷の核の核膜が溶解されてDNAが遊離する、微小流体デバイス内の核溶解領域をも含む。核溶解領域は、交流濾過領域と流体連通する。システムは、核酸を増幅する、微小流体デバイス内の増幅反応領域、および増幅産物の有無を判定するための、微小流体デバイス内の検出領域をさらに含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、核溶解領域は、増幅反応領域の一部である。他の実施形態において、それらの領域は個別の微小流体デバイスに存在する。一実施形態において、細胞溶解領域、交流濾過領域および核溶解領域が1つの微小流体デバイスに存在し、増幅領域および検出領域が第2の微小流体デバイスに存在する。
【0034】
別の態様において、本発明は、微小流体デバイスにおいて患者試料からのDNAを精製するための方法を提供する。この態様によれば、方法は、前記微小流体デバイスの混合領域において細胞を含む患者試料を溶解緩衝液と混合することを含む。溶解緩衝液は、核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解する。方法は、微小流体デバイスの細胞溶解領域において細胞の核膜を溶解させることなく患者試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成することも含む。方法は、前記微小流体デバイスの交流濾過領域において無傷の核を患者試料から分離することをさらに含む。交流濾過領域は、無傷の核がフィルタを通過せず、患者試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有するフィルタを含む。方法は、精製核を下流分析のために、前記交流濾過領域と流体連通するインターフェースチャネルに流すことをさらに含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、方法は、溶解した患者試料および交流緩衝液の一方の流れを圧力差によって誘導し、溶解した患者試料および交流緩衝液の他方の流れを電気泳動電圧ポテンシャルによって誘導することをさらに含む。他の実施形態において、方法は、前記交流濾過領域において無傷の核、細菌およびウィルスを溶解した患者試料から遊離させることをさらに含み、無傷の核、細菌およびウィルスはそれぞれ、交流緩衝液とともに個別のチャネルに遊離する。別の実施形態において、方法は、前記交流濾過領域において無傷の核、細菌およびウィルスを、それぞれ異なる孔径を有する一連のフィルタによって溶解した患者試料から分離することをさらに含む。別の実施形態において、方法は、下流分析のために無傷の核を送る前に、無傷の核を濃縮することをさらに含む。いくつかの実施形態において、方法は、溶解した患者試料の一部をそれぞれ受け取る2つ以上の交流濾過領域を利用して、溶解した患者試料から無傷の核を分離することをさらに含む。いくつかの実施形態において、患者試料は本明細書に記載されている通りである。他の実施形態において、患者試料中の細胞からのDNAを精製することは、患者試料中の白血球からのDNAを精製することを含む。
【0036】
別の態様において、本発明は、患者試料中の核酸の有無を判定する方法を提供する。この態様によれば、方法は、前記微小流体デバイスの混合領域において細胞を含む患者試料を溶解緩衝液と混合することを含む。溶解緩衝液は、核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解する。方法は、微小流体デバイスの細胞溶解領域において細胞の核膜を溶解することなく、患者試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成することをも含む。方法は、微小流体デバイスの交流濾過領域において無傷の核を患者試料から分離することをさらに含む。交流濾過領域は、無傷の核がフィルタを通過せず、患者試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有するフィルタを含む。方法は、微小流体デバイスにおいて核を溶解して核酸を遊離させることをさらに含む。方法は、微小流体デバイスにおいて核酸を増幅すること、および増幅産物の有無を判定することをさらに含む。増幅産物の存在は、患者試料中の核酸の存在を示す。
【0037】
いくつかの実施形態において、患者試料は本明細書に記載されている通りである。他の実施形態において、患者試料は白血球を含む。さらなる実施形態において、方法は、細胞膜の選択的溶解の前に患者試料の白血球を濃縮することをさらに含む。白血球の濃縮は、本明細書に記載の通り実施することができる。さらなる実施形態において、患者試料と溶解緩衝液の混合、選択的溶解、無傷の核の分離、および核の溶解が1つの微小流体デバイスで実施され、増幅および検出が第2の微小流体デバイスで実施される。他の実施形態において、患者試料と溶解緩衝液の混合、選択的溶解および無傷の核の分離が1つの微小流体デバイスで実施され、核の溶解、増幅および検出が第2の微小流体デバイスで実施される。
【0038】
別の態様において、本発明は、DNAを患者試料中の細胞から分離するための別の微小流体システムを提供する。この態様によれば、微小流体システムは、核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解する溶解緩衝液を貯蔵するための溶解緩衝液貯蔵デバイスを含む。システムは、溶出緩衝液を貯蔵するための溶出緩衝液貯蔵デバイスをも含む。システムは、患者試料を受け取るための複数のチャンバを有する試料カードをさらに含む。試料カードにおける各チャンバは、導入口、フィルタおよび排出口を含む。システムは、試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液および溶出緩衝液の流れを制御するための流れ制御システムをさらに含む。流れ制御システムは、溶解緩衝液が細胞膜を選択的に溶解して、核と細胞片を遊離して、細胞片を、フィルタを通して、フィルタにトラップされる患者試料中の核の核膜を溶解せずに試料カードの下に配置可能である廃棄物容器に流すように、試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液の流れを制御する。システムは、前記フィルタにトラップされた核を溶解し、DNAを遊離させるのに十分に試料カードにおけるフィルタを加熱するための温度制御システムをさらに含む。システムは、複数のDNA試料ウェルおよびDNA試料排出口を含むインターフェース・チップをも含む。インターフェース・チップは、試料カードの下に配置可能であり、前記フィルタにトラップされた溶解核から遊離したDNAを受け取るように構成されている。システムは、温度制御システムおよび流れ制御システムと連通する主コントローラをさらに含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、温度制御システムは、加熱源および熱センサを含む。他の実施形態において、流れ制御システムは、ポンプおよび溶液送出チップを含み、溶液送出チップは、溶解緩衝液および溶出緩衝液を試料カードの各チャンバに送出するための複数のチャネルを含む。さらなる実施形態において、流れ制御システムは、圧力制御システムをさらに含む。圧力制御システムは、空気源、試料カードの各チャンバへの溶出緩衝液および溶解緩衝液の送出を制御するための圧力センサを含む。いくつかの実施形態において、試料カードの複数のチャンバは、互いに流体連通する。他の実施形態において、試料カードはディスポーザブルである。いくつかの実施形態において、試料カードは、複数の異なる患者試料を収容するように構成されている。他の実施形態において、試料カードは、1つの患者試料を複数のチャンバに収容するように構成されている。
【0040】
別の態様において、本発明は、患者試料中の核酸の有無を判定するための微小流体システムを提供する。この態様によれば、微小流体システムは、試料調製領域、増幅反応領域および検出領域を含む微小流体デバイスを含む。試料調製領域は、核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解する溶解緩衝液を貯蔵するための溶解緩衝液貯蔵デバイスを含む。試料調製領域は、溶出緩衝液を貯蔵するための溶出緩衝液貯蔵デバイスをも含む。試料調製領域は、患者試料を受け取るための複数のチャンバを有する試料カードをさらに含む。各チャンバは、導入口、フィルタおよび排出口を含む。試料カードは、前記微小流体デバイスの前記試料調製領域に除去可能に挿入可能である。試料調製領域は、前記試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液および溶出緩衝液の流れを制御するための流れ制御システムをも含む。流れ制御システムは、溶解緩衝液が細胞膜を選択的に溶解して、核と細胞片を遊離して、細胞片を、フィルタを通して、フィルタにトラップされる患者試料中の核の核膜を溶解せずに試料カードの下に配置可能である廃棄物容器に流すように、試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液の流れを制御する。試料調製領域は、前記フィルタにトラップされた核を溶解し、DNAを遊離させるのに十分に試料カードにおけるフィルタを加熱するための温度制御システムをさらに含む。試料調製領域は、複数のDNA試料ウェルおよびDNA試料排出口を含むインターフェース・チップをさらに含み、前記インターフェース・チップは、試料カードの下に配置可能であり、前記フィルタにトラップされた溶解核から遊離したDNAを受け取るように構成されている。微小流体システムは、温度制御システム、流れ制御システムおよび微小流体チップと連通する主コントローラをさらに含む。一実施形態において、主コントローラは、インターフェース・チップから微小流体チップの増幅領域および/または検出領域までのDNAの流れを制御する。
【0041】
いくつかの実施形態において、温度制御システムは、加熱源および熱センサを含む。他の実施形態において、流れ制御システムは、ポンプおよび溶液送出チップを含み、溶液送出チップは、溶解緩衝液および溶出緩衝液を試料カードの各チャンバに送出するための複数のチャネルを含む。いくつかの実施形態において、試料カードの複数のチャンバは、流体連通する。他の実施形態において、流れ制御システムは、圧力制御システムをさらに含み、圧力制御システムは、空気源、試料カードの各チャンバへの溶出緩衝液および溶解緩衝液の送出を制御するための圧力センサを含む。いくつかの実施形態において、試料カードの複数のチャンバは流体連通し、1つのチャンバにおける患者試料を他のチャンバに誘導することができる。他の実施形態において、試料カードはディスポーザブルである。
【0042】
別の態様において、本発明は、患者試料中の細胞からDNAを単離するための方法を提供する。この態様によれば、方法は、(i)各チャンバが導入口、フィルタおよび排出口を含む、患者試料を受け取るための複数のチャンバを有し、前記微小流体システムに除去可能に挿入可能である試料カードと、(ii)試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液および溶出緩衝液の流れを制御するための流れ制御システムと、(iii)試料カードにおけるフィルタを加熱するための温度制御システムと、(iv)試料カードの下に配置可能である廃棄物容器と、(v)複数のDNA試料ウェルおよびDNA試料排出口を含み、試料カードの下に配置可能であるインターフェース・チップとを含む微小流体システムを作製することを含む。
【0043】
方法は、患者試料を試料カードのチャンバに充填することをも含む。方法は、試料カードを微小流体システムに挿入することをさらに含む。方法は、溶解緩衝液を試料カードのチャンバに送出し、核の核膜を溶解することなく患者試料の細胞膜を選択的に溶解して、溶解緩衝液、無傷の核および細胞片を含む溶液を製造することをも含む。方法は、溶解緩衝液および細胞片を、フィルタを通して廃棄物容器に誘導することによって、無傷の核をフィルタにトラップするように流れ制御システムを制御することをさらに含む。方法は、フィルタを加熱して、フィルタにトラップされた無傷の核を溶解させることによって、DNAを遊離させるように温度制御システムを制御することをも含む。方法は、溶出緩衝液を試料カードのチャンバに送出することをさらに含む。方法は、溶出緩衝液およびDNAをインターフェース・チップにおけるDNA試料ウェルに誘導するように流れ制御システムを制御することをさらに含む。いくつかの実施形態において、溶解緩衝液を試料カードのチャンバに繰り返し送出してフィルタを洗浄する。
【0044】
本発明の上記および他の実施形態を、添付の図面を参照しながら以下に説明する。
【0045】
本明細書に組み込まれ、明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の様々な実施形態を例示する。図面において、同様の参照番号は、同一または機能的に類似の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】DNA調製および分析システムの機能構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による微小流体DNA試料調製デバイスの概略図である。
【図3A】本発明の一実施形態による多層微小流体試料調製デバイスを示す図である。
【図3B】本発明の一実施形態による多層微小流体試料調製デバイスの縦断面図である。
【図3C】本発明の一実施形態による多層微小流体試料調製デバイスの横断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による多層微小流体試料調製デバイスの分解図である。
【図5】図4の微小流体試料調製デバイスの層1の上面図である。
【図6】図4の微小流体試料調製デバイスの層1の縦断面図である。
【図7】図4の微小流体試料調製デバイスの層2の上面図である。
【図8】図4の微小流体試料調製デバイスの層3の上面図である。
【図9】図4の微小流体試料調製デバイスの層3の縦断面図である。
【図10】図4の微小流体試料調製デバイスの層4の上面図である。
【図11】図4の微小流体試料調製デバイスの層4の縦断面図である。
【図12】図4の微小流体試料調製デバイスの層5の上面図である。
【図13】図4の微小流体試料調製デバイスの層5の縦断面図である。
【図14】本発明の一実施形態によるプロセスを示すフローチャートである。
【図15A】膜による核のトラップを示す図である。図15Aは、核をトラップする前の膜を示す図である。
【図15B】膜による核のトラップを示す図である。図15Bは、蛍光染料で染色された核をトラップした後の膜を示す図である。
【図16】実験の結果を示すグラフである。
【図17】本発明の他の実施形態による試料調製のための交流微小流体デバイスの概略図である。
【図18】本発明の一実施形態による交流フィルタの概略図である。
【図19】本発明の他の実施形態による交流フィルタの概略図である。
【図20】本発明のさらなる実施形態による試料調製のための交流微小流体デバイスの概略図である。
【図21】図20に示される交流微小流体デバイスの横断面図である。
【図22】本発明の実施形態による試料濃縮器を示す図である。
【図23】本発明の他の実施形態による試料調製のためのシステムを示す図である。
【図24】本発明の一実施形態による試料調製のためのプロセスを示すフローチャートである。
【図25】本発明の一実施形態による、試料中の核酸の有無を判定するためのプロセスを示すフローチャートである。
【図26】本発明の他の実施形態による試料調製のための微小流体デバイスの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小流体デバイスを用いて試料中のDNAを精製する方法であって、
(a)微小流体デバイスの混合領域において試料と溶解緩衝液とを混合する工程と、
(b)微小流体デバイスの細胞溶解領域において細胞の核膜を溶解することなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成する工程と、
(c)試料からの無傷の核を、フィルタを使用して微小流体デバイスの細胞トラップ領域にトラップし、試料の他の成分を、フィルタを通して微小流体デバイスの廃棄物回収領域に流す工程と、
(d)フィルタによってトラップされた無傷の核を溶解する工程と、
(e)DNAを溶解核から遊離させる工程と、
(f)遊離したDNAを微小流体デバイスのDNA回収領域に回収する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
試料は白血球、細菌および/またはウィルスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料は、細胞膜の選択的溶解の前に、最初に白血球が濃縮されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
フィルタによってトラップされた無傷の核を溶解する工程およびDNAを溶解核から遊離させる工程は、フィルタによってトラップされた無傷の核に溶出緩衝液を流すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶出緩衝液は、トリス緩衝液、KClおよび両性イオンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶出緩衝液は増幅反応緩衝液である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
フィルタによってトラップされた無傷の核は、トラップされた核に熱を加えることによって溶解される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
トラップされた核は、約35℃から95℃の範囲の温度で約1から10分間にわたって加熱される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
トラップされた核は、約50℃の温度で約7分間にわたって加熱される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶解核から遊離したDNAは、DNAに溶出緩衝液を流すことによって、微小流体デバイスのDNA回収領域に流れる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
試料からのDNAを精製するための微小流体デバイスであって、
(a)試料ポートからの試料と溶解緩衝液ポートからの溶解緩衝液との混合を可能にするように構成されている微小流体デバイスの混合領域と流体連通する試料ポートおよび溶解緩衝液ポートと、
(b)混合領域と流体連通する細胞溶解領域であって、溶解緩衝液が、細胞の核膜を溶解することなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、試料中の細胞から無傷の核を生成することを可能にするように構成されている細胞溶解領域と、
(c)試料からの無傷の核がフィルタによってトラップされ、試料の他の成分がフィルタを通して微小流体デバイスの廃棄物回収領域に流れる核トラップ領域であって、前記細胞溶解領域と流体連通する核トラップ領域と、
(d)無傷の核の核膜を溶解してDNAを遊離させる核溶解領域と、
(e)トラップされた無傷の核から遊離したDNAが回収される前記微小流体デバイス内のDNA回収領域と
を含むことを特徴とする微小流体デバイス。
【請求項12】
核トラップ領域および核溶解領域と流体連結する溶出緩衝液ポートをさらに含み、溶出緩衝液ポートからの溶出緩衝液は、核トラップ領域および核溶解領域を流れることによって、トラップされた無傷の核の核膜を溶解してDNAを遊離させるように制御することができる、請求項11に記載の微小流体デバイス。
【請求項13】
溶出緩衝液はトリス緩衝液、KClおよび両性イオンを含む、請求項12に記載の微小流体デバイス。
【請求項14】
核膜を溶解することによってDNAを遊離させるのに十分な熱を核溶解領域における無傷の核に供給するように構成されている熱源をさらに含む、請求項11に記載の微小流体デバイス。
【請求項15】
熱源は、核を約35℃から95℃の範囲の温度で約1から10分間にわたって加熱するように制御されている、請求項14に記載の微小流体デバイス。
【請求項16】
熱源は、核を約50℃の温度で約7分間にわたって加熱するように制御されている、請求項15に記載の微小流体デバイス。
【請求項17】
溶解核から遊離したDNAは、溶出緩衝液をDNAに流すことによって微小流体デバイスのDNA回収領域に流れる、請求項14に記載の微小流体デバイス。
【請求項18】
フィルタは、シリコン、ガラス、ポリマー、ポリエステル、ポリカーボネートまたはニトロセルロースで構成されている、請求項11に記載の微小流体デバイス。
【請求項19】
フィルタは丸形または長方形である、請求項11に記載の微小流体デバイス。
【請求項20】
フィルタは、約500nmから10μmの孔径を有する、請求項11に記載の微小流体デバイス。
【請求項21】
フィルタは、約0.5μmから10μmの孔径を有する、請求項20に記載の微小流体デバイス。
【請求項22】
複数の層を含む、請求項11に記載の微小流体デバイス。
【請求項23】
微小流体デバイスは、
(1)溶解緩衝液ポート、試料ポート、溶出緩衝液ポート、精製DNA回収ポートおよび廃棄物ポートを含む第1の層と、
(2)溶解緩衝溶液および試料を微小流体デバイスの混合領域に輸送するマイクロチャネルネットワークを含む第2の層と、
(3)マイクロチャネルネットワークを含む第3の層と、
(4)第2の層と第3の層の間に配置されたフィルタと
をさらに含み、
試料および溶解緩衝溶液は、混合領域で混合し、マイクロチャネル内を細胞溶解領域まで流れ、試料および溶解緩衝溶液は、細胞溶解領域からフィルタを通して核トラップ領域に流れ、試料の他の成分は、フィルタを通して第3の層にあるマイクロチャネルに流れ、微小流体デバイスの廃棄物回収領域に達し、核から遊離したDNAは、フィルタを通して第3の層に配置されたマイクロチャネルに流れ、DNA回収領域に達する、請求項22に記載の微小流体デバイス。
【請求項24】
(1)溶解緩衝液ポート、試料ポート、溶出緩衝液ポート、精製DNA回収ポートおよび廃棄物ポートを含む第1の層、
(2)溶解緩衝溶液および試料を微小流体デバイスの混合領域に輸送するマイクロチャネルネットワークを含む第2の層、
(3)流体が第2の層におけるマイクロチャネルからフィルタ上に流れる孔を含む第3の層、
(4)流体がフィルタから、廃棄物回収領域およびDNA回収領域をさらに含む第5の層に配置されたマイクロチャネルに流れる孔を含む第4の層
をさらに含む、請求項22に記載の微小流体デバイス。
【請求項25】
試料からのDNAを精製するための微小流体デバイスであって、
(a)溶解緩衝液を試料と混合することにより、細胞の核膜を溶解することなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、試料中の細胞から無傷の核を生成することを可能にするように構成されている細胞溶解領域、
(b)無傷の核がフィルタによって試料の他の成分から遊離する交流濾過領域であって、前記フィルタは、無傷の核がフィルタを通過し、試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有する、交流濾過領域、
(c)精製核が下流分析のために流れる前記交流濾過領域と流体連通するインターフェースチャネル
を含むことを特徴とする微小流体デバイス。
【請求項26】
交流濾過領域は、
(i)細胞溶解領域と流体連通し、細胞溶解領域から無傷の核および試料の他の成分を受け取るように構成されている微小流体分離チャネルであって、フィルタは、微小流体チャネル内に構築されている微小流体分離チャネルと、
(ii)交流緩衝液が微小流体分離チャネルにわたってフィルタを通して流れることを可能にするように構成されている交流緩衝液ポートと
を含み、
交流緩衝液は、分離チャネルにわたって流れるときに、フィルタを通した分離チャネルからの試料の前記他の内容物の除去を容易にし、無傷の核は分離チャネルを流れる、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項27】
溶解した試料および交流緩衝液の一方の流れが圧力差によって誘導され、溶解した試料および交流緩衝液の他方の流れが圧力差または電気泳動電圧ポテンシャルによって誘導される、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項28】
フィルタの孔径は約2μmから10μmである、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項29】
フィルタの孔径は約5μmである、請求項28に記載の微小流体デバイス。
【請求項30】
フィルタは膜である、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項31】
フィルタはアレイ状の柱である、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項32】
交流濾過領域は、無傷の核、細菌およびウィルスを、溶解した試料から分離するように構成されている、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項33】
交流濾過領域は、無傷の核を分離するための第1のフィルタ、細菌を分離するための第2のフィルタおよびウィルスを分離するための第3のフィルタを含む、請求項32に記載の微小流体デバイス。
【請求項34】
第1のフィルタは交流緩衝液ポートの最も近くに配置され、第2のフィルタは交流緩衝液ポートのその次に近くに配置され、第3のフィルタは交流緩衝液ポートから最も離れて配置されている、請求項33に記載の微小流体デバイス。
【請求項35】
第1のフィルタの孔径は約2μmから10μmであり、第2のフィルタの孔径は約0.2μmから2μmであり、第3のフィルタの孔径は約10nmから400nmである、請求項33に記載の微小流体デバイス。
【請求項36】
第1のフィルタの孔径は約8μmであり、第2のフィルタの孔径は約0.4μmであり、第3のフィルタの孔径は約100nmである、請求項35に記載の微小流体デバイス。
【請求項37】
微小流体デバイスは、2つ以上の交流濾過領域をさらに含み、交流濾過領域はそれぞれ、細胞溶解領域から溶解した試料の一部を受け取り、それぞれ1つまたは複数のインターフェースチャネルと流体連通する、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項38】
1つの交流濾過領域のフィルタは、1つの他の交流濾過領域の孔径と異なる孔径を有する、請求項37に記載の微小流体デバイス。
【請求項39】
交流濾過領域からの無傷の核を濃縮する核濃縮領域をさらに含む、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項40】
核濃縮領域は、試料投入部と、試料排出部と、無傷の核が壁部を流れるのを妨げ、試料の他の内容物が前記壁部を流れることを可能にするように構成されている壁部とを有する濃縮チャネルを含む、請求項39に記載の微小流体デバイス。
【請求項41】
前記壁部はフィルタである、請求項40に記載の微小流体デバイス。
【請求項42】
フィルタは、濃縮チャネルに沿って配置された一組の柱を含む、請求項41に記載の微小流体デバイス。
【請求項43】
試料は白血球を含む、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項44】
下流分析は、核酸を増幅する増幅反応、および/または増幅産物の有無を判定するための検出手順を含む、請求項25に記載の微小流体デバイス。
【請求項45】
試料中の細胞からのDNAを精製するための微小流体システムであって、
(a)微小流体デバイスと、
(b)溶解緩衝液を試料と混合することにより、細胞の核膜を溶解することなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、試料中の細胞から無傷の核を生成することを可能にするように構成されている微小流体デバイス内の細胞溶解領域と、
(c)無傷の核がフィルタによって試料の他の成分から分離される、微小流体デバイス内の交流濾過領域であって、前記フィルタは、無傷の核がフィルタを通過せず、試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有する、交流濾過領域と、
(d)無傷の核の核膜が溶解されてDNAが遊離し、交流濾過領域と流体連通する、微小流体デバイス内の核溶解領域と、
(e)核酸を増幅する、微小流体デバイス内の増幅反応領域と、
(f)増幅産物の有無を判定するための、微小流体デバイス内の検出領域と
を含むことを特徴とする微小流体システム。
【請求項46】
核溶解領域は増幅反応領域の一部である、請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
領域(b)〜(d)が1つの微小流体デバイスに存在し、領域(e)および(f)が第2の微小流体デバイスに存在する、請求項45に記載のシステム。
【請求項48】
微小流体デバイスを用いて試料中の細胞からDNAを精製する方法であって、
(a)前記微小流体デバイスの混合領域において細胞を含む試料を溶解緩衝液と混合する工程であって、溶解緩衝液は、核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解する工程と、
(b)前記微小流体デバイスの細胞溶解領域において細胞の核膜を溶解させることなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成する工程と、
(c)前記微小流体デバイスの交流濾過領域において無傷の核を試料から分離する工程であって、前記交流濾過領域は、無傷の核がフィルタを通過することができず、試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有するフィルタを含む工程と、
(d)精製核を下流分析のために、前記交流濾過領域と流体連通するインターフェースチャネルに流す工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項49】
溶解した試料および交流緩衝液の一方の流れを圧力差によって誘導し、溶解した試料および交流緩衝液の他方の流れを電気泳動電圧ポテンシャルによって誘導することをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記交流濾過領域において無傷の核、細菌およびウィルスを溶解した試料から分離することをさらに含み、無傷の核、細菌およびウィルスはそれぞれ、交流緩衝液とともに個別のチャネルに遊離する、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記交流濾過領域において無傷の核、細菌およびウィルスを、それぞれ異なる孔径を有する一連のフィルタによって溶解した試料から分離することをさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
無傷の核を下流分析のために送る前に、無傷の核を濃縮することをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
溶解した試料の一部をそれぞれ受け取る2つ以上の交流濾過領域を利用して、溶解した試料から無傷の核を分離することをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項54】
試料中の細胞からのDNAを精製することは、試料中の白血球からのDNAを精製することを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項55】
試料中の核酸の有無を判定する方法であって、
(a)前記微小流体デバイスの混合領域において細胞を含む試料を溶解緩衝液と混合する工程であって、溶解緩衝液は、核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解する工程と、
(b)前記微小流体デバイスの細胞溶解領域において細胞の核膜を溶解させることなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成する工程と、
(c)前記微小流体デバイスの交流濾過領域において無傷の核を試料から分離する工程であって、前記交流濾過領域は、無傷の核がフィルタを通過することができず、試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有するフィルタを含む工程と、
(d)微小流体デバイスにおいて核を溶解して核酸を遊離させる工程と、
(e)微小流体デバイスにおいて核酸を増幅する工程と、
(f)増幅産物の有無を判定する工程であって、増幅産物の存在が、試料中の核酸の存在を示す工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項56】
試料はヒトの血液試料であり、細胞膜の選択的溶解の前に、最初に白血球が濃縮されている、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
工程(a)〜(d)が1つの微小流体デバイスで実施され、工程(e)および(f)が第2の微小流体デバイスで実施される、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
工程(a)〜(c)が1つの微小流体デバイスで実施され、工程(d)〜(f)が第2の微小流体デバイスで実施される、請求項55に記載の方法。
【請求項59】
試料中の細胞からDNAを単離するための微小流体システムであって、
(a)核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解する溶解緩衝液を貯蔵するための溶解緩衝液貯蔵デバイスと、
(b)溶出緩衝液を貯蔵するための溶出緩衝液貯蔵デバイスと、
(c)各チャンバが導入口、フィルタおよび排出口を含む、試料を受け取るための複数のチャンバを有する試料カードと、
(d)試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液および溶出緩衝液の流れを制御するための流れ制御システムであって、溶解緩衝液が細胞膜を選択的に溶解して、核と細胞片を遊離させることにより、細胞片を、フィルタを通して、フィルタにトラップされる試料中の核の核膜を溶解せずに試料カードの下に配置可能である廃棄物容器に流すように、試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液の流れを制御する流れ制御システムと、
(e)前記フィルタにトラップされた核を溶解し、DNAを遊離させるのに十分に試料カードにおけるフィルタを加熱するための温度制御システムと、
(f)複数のDNA試料ウェルおよびDNA試料排出口を含み、試料カードの下に配置可能であり、前記フィルタにトラップされた溶解核から遊離したDNAを受け取るように構成されているインターフェース・チップと、
(g)(a)温度制御システムおよび(b)流れ制御システムと連通する主コントローラと
を含むことを特徴とする微小流体システム。
【請求項60】
温度制御システムは、加熱源および熱センサを含む、請求項59に記載の微小流体システム。
【請求項61】
流れ制御システムは、ポンプおよび溶液送出チップを含み、溶液送出チップは、溶解緩衝液および溶出緩衝液を試料カードの各チャンバに送出するための複数のチャネルを含む、請求項59に記載の微小流体システム。
【請求項62】
流れ制御システムは、圧力制御システムをさらに含み、前記圧力制御システムは、空気源、試料カードの各チャンバへの溶出緩衝液および溶解緩衝液の送出を制御するための圧力センサを含む、請求項59に記載の微小流体システム。
【請求項63】
試料カードの複数のチャンバは、互いに流体連通する、請求項59に記載の微小流体システム。
【請求項64】
試料カードはディスポーザブルである、請求項59に記載の微小流体システム。
【請求項65】
試料カードは、複数の異なる試料を収容するように構成されている、請求項59に記載の微小流体システム。
【請求項66】
試料カードは、複数のチャンバに1つの試料を収容するように構成されている、請求項63に記載の微小流体システム。
【請求項67】
試料中の核酸の有無を判定するための微小流体システムであって、
(a)試料調製領域、増幅反応領域および検出領域を含む微小流体デバイスであって、前記試料調製領域は、
(i)核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解するよう溶解緩衝液を貯蔵するための溶解緩衝液貯蔵デバイスと、
(ii)溶出緩衝液を貯蔵するための溶出緩衝液貯蔵デバイスと、
(iii)各チャンバが導入口、フィルタおよび排出口を含む、試料を受け取るための複数のチャンバを有し、前記微小流体デバイスの前記試料調製領域に除去可能に挿入可能である試料カードと、
(iv)前記試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液および溶出緩衝液の流れを制御するための流れ制御システムであって、溶解緩衝液が細胞膜を選択的に溶解して、核と細胞片を遊離して、細胞片を、フィルタを通して、フィルタにトラップされる試料中の核の核膜を溶解せずに試料カードの下に配置可能である廃棄物容器に流すように、試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液の流れを制御する流れ制御システムと、
(v)前記フィルタにトラップされた核を溶解し、DNAを遊離させるのに十分に試料カードにおけるフィルタを加熱するための温度制御システムと、
(vi)複数のDNA試料ウェルおよびDNA試料排出口を含み、試料カードの下に配置可能であり、前記フィルタにトラップされた溶解核から遊離されたDNAを受け取るように構成されているインターフェース・チップと
を含む微小流体デバイスと、
(b)(a)温度制御システム、(b)流れ制御システムおよび(c)微小流体チップと連通し、インターフェース・チップから微小流体チップの増幅領域および/または検出領域までのDNAの流れを制御する主コントローラと
を含むことを特徴とする微小流体システム。
【請求項68】
温度制御システムは、加熱源および熱センサを含む、請求項67に記載の微小流体システム。
【請求項69】
流れ制御システムは、ポンプおよび溶液送出チップを含み、溶液送出チップは、溶解緩衝液および溶出緩衝液を試料カードの各チャンバに送出するための複数のチャネルを含む、請求項67に記載の微小流体システム。
【請求項70】
試料カードの複数のチャンバは流体連通する、請求項67に記載の微小流体システム。
【請求項71】
流れ制御システムは、圧力制御システムをさらに含み、前記圧力制御システムは、空気源、試料カードの各チャンバへの溶出緩衝液および溶解緩衝液の送出を制御するための圧力センサを含む、請求項67に記載の微小流体システム。
【請求項72】
試料カードの複数のチャンバは流体連通し、1つのチャンバにおける試料を他のチャンバに誘導することができる、請求項67に記載の微小流体システム。
【請求項73】
試料カードはディスポーザブルである、請求項67に記載の微小流体システム。
【請求項74】
圧力制御システムは、試料カードの各チャンバにおける空気圧を制御するための空気源、圧力センサおよび複数のチャネルを含む、請求項73に記載の微小流体システム。
【請求項75】
試料中の細胞からDNAを単離するための方法であって、
(a)(i)各チャンバが導入口、フィルタおよび排出口を含む、試料を受け取るための複数のチャンバを有し、前記微小流体システムに除去可能に挿入可能である試料カードと、(ii)試料カードの各チャンバへの溶解緩衝液および溶出緩衝液の流れを制御するための流れ制御システムと、(iii)試料カードにおけるフィルタを加熱するための温度制御システムと、(iv)試料カードの下に配置可能である廃棄物容器と、(v)複数のDNA試料ウェルおよびDNA試料排出口を含み、試料カードの下に配置可能であるインターフェース・チップとを含む微小流体システムを作製すること、
(b)試料を試料カードのチャンバに充填すること、
(c)試料カードを微小流体システムに挿入すること、
(d)溶解緩衝液を試料カードのチャンバに送出し、核の核膜を溶解することなく試料の細胞膜を選択的に溶解して、溶解緩衝液、無傷の核および細胞片を含む溶液を製造すること、
(e)溶解緩衝液および細胞片を、フィルタを通して廃棄物容器に誘導することによって、無傷の核をフィルタにトラップするように流れ制御システムを制御すること、
(f)フィルタを加熱して、フィルタにトラップされた無傷の核を溶解させることによって、DNAを遊離させるように温度制御システムを制御すること、
(g)溶出緩衝液を試料カードのチャンバに送出すること、
(h)溶出緩衝液およびDNAをインターフェース・チップにおけるDNA試料ウェルに誘導するように流れ制御システムを制御すること
を含むことを特徴とする方法。
【請求項76】
溶解緩衝液を試料カードのチャンバに繰り返し送出して、フィルタを洗浄する、請求項75に記載の方法。

【図26】本発明の一実施形態による流れ制御システムの構成図である。
【図27】本発明の一実施形態による試料カードを示す図である。
【図28】本発明の別の実施形態による試料カードを示す図である。
【図29】本発明の一実施形態による流れ制御システムを示す図である。
【図30】本発明の一実施形態による溶液送出チップを示す図である。
【図31】本発明の一実施形態による圧力制御チップを示す図である。
【図32】本発明の一実施形態による試料調製のためのプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1は、本発明のいくつかの実施形態による微小流体DNA分析システム100を示す。図1に示されるように、システム100は、DNA試料調製サブシステム102(「試料調製ユニット」としても知られる)、DNA増幅、分析および検出サブシステム104および主制御システム101を含む。本出願は、主として、試料調製ユニット102に向けられ、先に出願された出願にはサブシステム104の様々な実施形態が記載されている(例えば、いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許出願公開第2008/0003588号、米国特許出願公開第2008/0130971号、米国特許出願公開第2008/0176230号および米国特許出願公開第2009/0053726号参照)。
【0048】
図2は、本発明の一実施形態による試料調製ユニット102の構成要素200の概略図を示す。より具体的には、図2は、微小流体DNA試料調製デバイス200の概略図を示す。図2に示されるように、デバイス200は、チップ201、溶解緩衝液を貯蔵するためのチップ201に形成されたウェル202、およびチップ201に形成された混合領域208にウェル202を流体接続することによって、ウェル202内の溶解緩衝液が混合領域208に移動するための流路を提供する、チップ201に形成された1つまたは複数の微小流体チャネル206を含む。デバイス200は、分析すべき試料(例えば血液試料)を貯蔵するための、チップ201に形成された試料ウェル204をも含む。ウェル202のように、ウェル204は、チップ201に形成された1つまたは複数のチャネル205を介して混合領域208と流体連通接続されている。
【0049】
混合領域208は、ウェル204からの試料とウェル202からの溶解緩衝液とを混合することを可能にするように構成されている。単に小さなチャネルであってよい混合領域208は、チップ201に形成された微小流体チャネル209を介してチップ201に配置されたフィルタ210(例えば浸透膜または他のフィルタ)と流体連通接続されている。いくつかの実施形態において、フィルタ210は、シリコン、ガラス、ポリマー、ポリエステル、ポリカーボネートおよびニトロセルロースの1種または複数種の任意の組合せで構成される。フィルタ210は、丸形、長方形または他の形状であってよい。いくつかの実施形態において、フィルタ210は、いくつかの孔を含み、孔径は、500ナノメートル(nm)から10マイクロメートル(μm)の範囲であってよい。例えば、いくつかの実施形態において、孔径は、約0.5μmから10μmの範囲である。図15aおよび15bは、フィルタ210の例示的な実施形態を示す。
【0050】
チャネル209は、細胞溶解領域として機能するように構成されている。すなわち、チャネル209は、ウェル202からの溶解緩衝液が、細胞の核膜を溶解することなく、ウェル204からの患者試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、患者試料中の細胞から無傷の核を生成することを可能にするように構成されている。例えば、細胞溶解領域において、赤血球は、フィルタ210に達する前に破壊されてよく、白血球は、混合物がフィルタ210に達したときに核が無傷であるように部分的に溶解される。
【0051】
図2にさらに示されるように、廃棄物ウェル212、DNA回収ウェル214および溶出緩衝液ウェル216もチップ201に形成される。また、ウェル212、214および216の各々は、それぞれ微小流体チャネル213、215および217を介してフィルタ210と流体連通接続されている。いくつかの実施形態において、使用時に、ウェル216は、例えば、トリス緩衝液、KClおよび/または両性イオンであり得る溶出緩衝液を貯蔵する。主制御システム101は、図1に示されるように、溶出緩衝液をフィルタ210に流すことができる。
【0052】
チップ200の使用時に、フィルタ210は、試料からの無傷の核がフィルタ210によってトラップされ、患者試料の他の成分が、フィルタ210を通して、廃棄物回収領域212に流れる核トラップ領域を形成する。フィルタ210は、また、無傷の核の核膜を溶解してDNAを遊離させる核溶解領域として機能する。遊離したDNAは、DNA回収領域214に流される。
【0053】
図2にさらに示されるように、デバイス200は、熱源250を含むことができる。熱源250をチップ201の中または上に形成することができ、あるいはチップ201から構造的に分離させることができる。熱源250は、電気ヒータ(すなわち電気エネルギーを熱に変換するデバイス)または他のタイプの熱生成装置であってよい。熱源250を、主コントローラ101のモジュール、または主コントローラ101と連通する個別の構成要素であってよい温度コントローラ252によって制御することができる。熱源250は、所望の時間に熱をフィルタ210に伝達するように制御、構成および配置される。例えば、無傷の核がフィルタ210によってトラップされると、熱をフィルタ210に伝達させるように熱源250を制御することができ、その熱は、好ましくは、核の核膜を溶解し、またはその溶解を容易にすることによって、核膜に含まれるDNAを遊離させるのに十分なものである。
【0054】
いくつかの実施形態において、チップ201は多層チップである。すなわち、チップ201は、2つ以上の基板を含むことができる。次に、図3A〜3Cを参照すると、デバイス200の多層実施形態が示されている。図3Aの非限定的な実施形態において、デバイス200は、6つの層を含む。しかし、より少ない、またはより多くの層を使用することも可能である。図3Bは、図3Aに示される実施形態によるデバイス200の縦断面図を示し、図3Cは、図3Aに示される実施形態によるデバイス200の横断面図を示す。
【0055】
図4は、図3Aに示されるデバイス200の実施形態の分解図を示す。その上面図が図5に示される第1の層(または上層)401において、ウェル202、204および216が、それぞれ溶解緩衝液、試料および溶出緩衝液を収容するために形成される。層401には、DNA回収ウェル214と流体連通する貫通孔402および廃棄物ウェル212と流体連通する貫通孔404も形成される。1つの非限定的な実施形態において、層401は、好ましくは、約5ミリメートルの厚さであり、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)から構成される。さらなる実施形態において他の厚さおよび材料をこの層に使用することもできる。
【0056】
層401の縦断面図である図5および図6にさらに示されるように、ウェル202は、流体がウェルからチャネル206に流れることができるように底面にポート405を有する。同様に、ウェル204は、流体がウェル204からチャネル205に流れることができるように底面にポート406を有する。したがって、ポート405および406は、混合領域208と流体連通する。同様に、ウェル216は、流体がウェル216からチャネル217に流れることができるようにその底面にポート407を有する。図4に示されるように、チャネル205、206および217は、デバイス200の第2の層411に形成させる。
【0057】
図7は、第2の層411の上面図である。図7に示されるように、第2の層411には、混合領域208、チャネル209、貫通孔413、414および415ならびに閉鎖底ウェル416、417および418が形成される。チャネル209は、混合領域208で形成することができる溶解緩衝液と試料の混合物が、孔413に流れてデバイス200の第3の層421まで降下することができるように、混合領域208を孔413と流体接続する。同様に、チャネル217は、溶出緩衝液がウェル216から孔413に流れ、デバイス200の第3の層に降下することができるように、溶出緩衝液ウェル216の孔407の真下に位置するウェル418を孔413と接続する。貫通孔414は、流体が孔414を通して孔404に流れることができるように貫通孔404の下に位置し、貫通孔415は、流体が孔415を通して孔402に流れることができるように貫通孔402の下に位置する。1つの非限定的な実施形態において、デバイス200の第2の層411は、150マイクロメートルの厚さの環式オレフィンコポリマー(COC)フィルムを含むことができる。さらなる実施形態において、他の厚さおよび材料をこの層に使用することもできる。
【0058】
図8は、貫通孔422、423および424を含む第3の層421の上面図を示す。貫通孔422は、流体が孔422を通して孔414に流れることができるように貫通孔414の下に位置し、貫通孔423は、流体が孔413を通して孔423に流れることができるように貫通孔413の下に位置し、貫通孔424は、流体が孔423を通して孔415に流れることができるように貫通孔415の下に位置する。図9は、層421の縦断面図を示す。1つの非限定的な例において、デバイス200の第3の層421は、1ミリメートルの厚さのPMMA基板を含むことができる。さらなる実施形態において、他の厚さおよび材料をこの層に使用することもできる。
【0059】
図10は、貫通孔432、433および434を含む第4の層431の上面図を示す。貫通孔432は、流体が孔432を通して孔422に流れることができるように貫通孔422の下に位置し、貫通孔433は、流体が孔423を通して孔433に流れることができるように貫通孔423の下に位置し、貫通孔434は、流体が孔434を通して孔424に流れることができるように貫通孔424の下に位置する。図11は、層421の縦断面図を示す。1つの非限定的な実施形態において、デバイス200の第4の層431は、1ミリメートルの厚さのPMMA基板を含むことができる。さらなる実施形態において、他の厚さおよび材料をこの層に使用することもできる。
【0060】
図4に示されるように、フィルタ210は、デバイス200の第3の層と第4の層との間に狭持される。いくつかの実施形態において、フィルタ210を、以上に記載されているシリコン、ガラス、ポリマー、ポリエステル、ポリカーボネートおよびニトロセルロースの1種または複数種の任意の組合せで構成することができる。1つの非限定的な実施形態において、フィルタ210は、約9mm×9mmであり、約10μmの厚さを有する。さらなる実施形態において、フィルタは、他の厚さおよび寸法を有することができる。
【0061】
図12は、第5の層441の上面図を示す。その図に示されるように、閉鎖底ウェル212、443および214が層441の上面に形成される。層441の上面には、微小流体チャネル215、ならびにウェル443と廃棄物回収ウェル212とを接続するチャネル213も形成される。閉鎖底ウェル212、443および214は、それぞれ貫通孔432、433、434の下に位置する。図13は、層441の縦断面図を示す。1つの非限定的な実施形態において、デバイス200の第5の層441は、150マイクロメートルの厚さのCOCフィルムを含むことができる。さらなる実施形態において、他の厚さおよび材料をこの層に使用することもできる。
【0062】
図4に示されるように、デバイス200の第6の層は基部層451である。1つの非限定的な実施形態において、層451は、PMMAで構成された1ミリメートルの厚さの基板を含むことができる。さらなる実施形態において、他の厚さおよび材料をこの層に使用することもできる。いくつかの実施形態において、第3、第4および第6の層を除去することによって、3層デバイスを作製する。
【0063】
次に図14を参照すると、デバイス200を使用して分析のためのDNAを調製するためのプロセス1400を示すフローチャートが示されている。プロセス1400は、試料(例えば、白血球を含む血液の試料)を試料ウェル204に導入する工程1402から開始することができる。工程1404において、溶解緩衝液を溶解緩衝液ウェル202に導入する。工程1405において、溶解緩衝液を、ポート405およびチャネル206を通してウェル202から混合領域208に流す。同時に、またはほぼ同時に、試料を、ポート406およびチャネル205を通して試料ウェル204から混合領域208に流す。工程1406において、溶解緩衝液と試料が混合領域208で混合し、混合物は、チャネル209を介してフィルタ210に流される。試料が白血球を含む実施形態において、試料を混合領域208に導入する前に試料の白血球を濃縮することができる。
【0064】
溶解緩衝液/患者試料混合物がチャネル209に存在し、フィルタ210に向かって移動している間に、溶解緩衝液は、工程1407に反映されているように、細胞の核膜を溶解することなく患者試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成する。混合物がフィルタ210に達すると、混合物は、好ましくは、患者試料からの遊離した無傷の核を含む。工程1408において、無傷の核はフィルタ210によってトラップされ、廃棄物(すなわち試料の他の成分および溶解緩衝液)は、フィルタ210を通過し、チャネル213を介して廃棄物回収ウェル212に移動させられる。
【0065】
工程1410において、フィルタ210にトラップされた無傷の核を溶解することによって、DNAを溶解核から遊離させる。いくつかの実施形態において、無傷の核を溶解する工程は、ウェル216における溶出緩衝液を、チャネル217を介してフィルタ210に流すこと、および/またはヒータ250を使用して、トラップされた核を加熱することを含む。いくつかの実施形態において、溶出緩衝液は、トリス緩衝液、KClおよび/または両性イオンを含む。いくつかの実施形態において、溶出緩衝液は、増幅反応緩衝液である。熱を使用して、トラップされた核を溶解する実施形態において、トラップされた核を摂氏約35度から摂氏95度の範囲の温度で約1から10分間にわたって加熱することができる。例えば、一実施形態において、トラップされた核を約摂氏50度の範囲の温度で約7分間にわたって加熱することができる。
【0066】
工程1412において、無傷のトラップされた核を溶解した後、核から遊離したDNAをDNA回収ウェル214で回収する。例えば、遊離したDNAは、フィルタ210からチャネル215を介してウェル214に流れる。いくつかの実施形態において、遊離したDNAは、溶出緩衝液が、ポート407からチャネル217に流れ、次いでチャネル217をフィルタ210に流れ、遊離したDNAが溶出緩衝液と混合するフィルタ210を通して、次いでチャネル215を通してウェル214に流れるようにウェル216から溶出緩衝液を流すことによってウェル214に流れる。ウェル214に存在すると、遊離したDNAおよび溶出緩衝液を含む混合物を、いずれもウェル214と流体連通する貫通孔402、415、424および434を介してチップ201から除去することができる。
【0067】
図示されていないが、デバイス200を、以上に記載されているように様々な緩衝液、試料および混合物を流すための流れ制御システム(例えば、1つまたは複数のポンプを含むシステム)に連結することができることが当技術分野で良く知られている。また、デバイス200を微小流体プラットフォームと連結することができる。デバイス200によって精製されたDNAは、ポンプによって微小流体プラットフォームにおけるウェルに直接送出され、他のPCR成分とさらに混合し得る。
【0068】
図15Aおよび図15Bは、本発明の一実施形態による、膜による核酸のトラップを示す。具体的には、図15Aは、膜が染料染色核をトラップする前に膜から放射された蛍光を示し、図15Bは、膜が染料染色核をトラップした後に膜から放射された蛍光を示す。
【0069】
図16を参照すると、上記方法を使用することにより達成された結果を示すグラフが示されている。特に、9つの患者血液試料を使用してDNA精製を試験した。この方法を使用して、精製DNAを得た後に、精製DNA試料の一部分をピコグリーン法(全DNA濃度を測定するための蛍光に基づく方法)によって定量した。精製DNA試料の別の部分をリアルタイムPCRによって定量した。それらの結果は、リアルタイムPCRの結果が、有意な量の阻害が精製DNA試料に存在しないことを示すピコグリーンアッセイに相当することを示している。
【0070】
以下の表は、デバイス200の上記構成要素の多くのものについての代表的な寸法を示す。これらの寸法は、例示であり、限定する意図はまったくない。
【表1】
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【0071】
次に図17を参照すると、本発明の他の実施形態による試料調製サブシステム102の様々な構成要素の概略図が示されている。図17に示されるように、システム102は、試料(例えば、白血球および赤血球を含む血液の試料)を収容するための試料ウェル1702、溶解緩衝液を収容するための溶解緩衝液ウェル1704、ならびにそれぞれチャネル1703および1705を介してウェル1702および1704と流体連通するチャネル1706を含むことができる。チャネル1706は、細胞溶解領域として機能することができる。すなわち、ウェル1702からの溶解緩衝液を試料ウェル1704からの試料と混合させることで、細胞の核膜を溶解することなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、試料中の細胞から無傷の核を生成することを可能にするように、チャネル1706を構成することができる。
【0072】
図17にさらに示されるように、システム102は、チャネル1706と流体連通する交流濾過領域1708を含むことができる。いくつかの実施形態において、領域1708において、無傷の核(または白血球もしくは他の目標成分)は、目標成分(例えば無傷の核)が、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるのを防止するが、患者試料の他の成分がフィルタを通して流れ、交流緩衝液によって運び出されるような孔径をそれぞれ有する1つまたは複数の交流フィルタ1710によって試料の他の成分(例えば、タンパク質および他のPCR阻害剤)から分離される。図17に示される非限定的な実施形態において、交流濾過領域1708は、平行に接続された4つの交流フィルタ1710を含む。他の実施形態において、領域1708は、1つ、2つ、3つまたは5つ以上のフィルタ1710を有することができる。また、いくつかの実施形態において、いくつかのフィルタ1710を縦列に配置することができる。さらに、各フィルタ1710は、異なる平均孔径を有することができる。
【0073】
システム102は、交流濾過領域1708と流体連通され、交流濾過領域からの無傷の核を濃縮する濃縮器領域1712を含むこともできる。インターフェース領域1714は、濃縮器1712と流体連通されていてよい。本明細書に説明するように、精製された無傷の核は、好ましくは、濃縮器1712から出て、精製核を下流処理および分析のために流す1つまたは複数のインターフェースチャネルを含むインターフェース領域1714に入る。
【0074】
図18は、さらに、交流フィルタ1710の一実施形態を示す。図18に示されるように、交流フィルタ1710は、図17に示されるように細胞溶解領域1706および濃縮器1712と流体連通される微小流体分離チャネル1802を含む。チャネル1802は、チャネル1706からチャネル1802に入る流体が、濃縮領域1712に流体が達してそこに入るようにチャネル1802を流れることができるように構成されている。フィルタ1810およびフィルタ1812は、チャネル1802の中央部に配置される。フィルタ1810および1812は、分離チャンバ1814を形成するように配置される。
【0075】
実施に際して、溶解緩衝液/試料混合物がチャネル1802を(すなわち入力端1832から出力端1834まで)流れている間に、交流流体は、交流緩衝液入力ポート1804を介して、フィルタ1810および1812を有するチャネル1802の部分に導入される。交流流体は、交流緩衝液出力ポート1806を介してチャネル1802のこの部分から出る。有利には、ポート1804を介してチャネル1802に入る交流流体を、最初にフィルタ1810に流し、次いで分離チャンバ1814に流し、次いでフィルタ1812に流し、最後に出口ポート1806を介してチャネル1802から流出させる差(例えば、圧力差または電圧差、例えば電気泳動電圧ポテンシャル、または重力場)がポート1804と1806の間に存在する。チャネル1802に入る流体を端1832から端1834まで流す力(例えば、圧力、電気、重力)も存在する。(点線によって示されるように)交流緩衝液が分離チャンバ1814を流れると、交流緩衝液は、フィルタ1810および1812とともに、細胞溶解領域1706からチャネル1802に流れる混合物の他の成分からの無傷の核の分離を容易にする。より具体的には、フィルタ1812および1810の孔径は、無傷の核がフィルタ1812を通過せず、端1832から端1834までの流体の流れによって濃縮器領域1712に向かって誘導されるのに対して、試料の他のより小さい成分がフィルタ1812を通して誘導され、交流緩衝液の交流を介して出口ポート1806に向かって誘導される孔径である。このようにして、無傷の核(または目標物質)を試料の他の成分から効率的に分離することができる。好ましくは、1つのタイプの力(例えば空気圧)を使用して、チャネル1802に入る流体を端1832から端1834まで流し、異なるタイプの力(例えば電場、重力)を使用して、交流流体を1804から1806まで流す。
【0076】
いくつかの実施形態において、フィルタ1810および1812の孔径は、約1μmから15μmである。例えば、フィルタ1812の孔径は約5μmであってよい。いくつかの実施形態において、フィルタ1810および1812は、膜および/またはアレイ状の柱からなるか、またはそれらを含むことができる。
【0077】
次に図19を参照すると、別の実施形態による交流フィルタ1710が示されている。図19に示されるように、交流フィルタ1710は、微小流体分離チャネル1902を含むことができる。例示的な実施形態において、フィルタ1910、1912、1916および1918は、チャネル1902の中央部に配置される。フィルタ1910、1912、1916および1918は、分離チャンバ1914a、1914bおよび1914cを形成するように配置される。
【0078】
実施に際して、溶解緩衝液/試料混合物が、チャネル1902を(例えば、入力端1932から出力端1934aに向かって)流れている間に、交流流体は、交流緩衝液入力ポート1904を介して、フィルタを有するチャネル1902の部分に導入される。交流流体は、交流緩衝液出力ポート1906を介して、フィルタを有するチャネル1902の部分から出る。有利には、ポート1904を介してチャネル1902に入る交流流体を、最初にフィルタ1910に流し、次いで分離チャンバ1914aに流し、次いでフィルタ1912に流し、次いで分離チャンバ1914bに流し、次いでフィルタ1916に流し、次いで分離チャンバ1914cに流し、次いでフィルタ1918に流し、最後に出口ポート1906を介してチャネル1902から流出させる差(例えば、圧力差または電圧差、例えば電気泳動電圧ポテンシャル)がポート1904と1906の間に存在する。分離チャンバ1914a、1914bおよび1914cに入る流体を、それぞれ端1934a、1934bおよび1934cに向けて流す差(例えば圧力または電気)も存在する。交流緩衝液が分離チャンバ1914aを流れると、交流緩衝液は、分離チャンバ1914aを形成するフィルタとともに、分離チャンバに流れる混合物の他の成分からの所望の成分(例えば、無傷の核、細菌、ウィルス)の分離を容易にする。
【0079】
より具体的には、例えば、フィルタ1912および1910の孔径は、無傷の核がフィルタ1912を通過せずに、差によって端1934に向かって誘導されるのに対して、試料の他のより小さい成分(例えば、細菌、ウィルスまたは廃棄物)が、交流緩衝液の流れによってフィルタ1912を介して分離チャンバ1914bに誘導される孔径である。例えば、フィルタ1912の平均孔径は、約1μmから15μmであってよい。一実施形態において、平均孔径は約8μmである。
【0080】
フィルタ1916の孔径は、細菌がフィルタ1916を通過せずに、差によって端1934bに向かって誘導されるのに対して、試料の他のより小さい成分(例えばウィルス)が、交流緩衝液の流れによってフィルタ1916を介して分離チャンバ1914cに誘導される孔径であってよい。例えば、フィルタ1916の平均孔径は、約0.2μmから2μmであってよい。一実施形態において、平均孔径は約0.4μmである。フィルタ1918の孔径は、ウィルスがフィルタ1918を通過せずに、差によって端1934cに向かって誘導されるのに対して、試料の他のより小さい成分が、フィルタ1918を介して誘導され、交流緩衝液の交流を介して出口ポート1906に向かって誘導される孔径であってよい。例えば、フィルタ1918の平均孔径は、約10nmから400μmであってよい。一実施形態において、平均孔径は約100nmである。チャンバ1914b内の流体が端1934bに向かって流れるように、ポート1961を使用して、ポート1961と端1934bの間に圧力差を生成することができる。同様に、チャンバ1914c内の流体が端1934cに向かって流れるように、ポート1962を使用して、ポート1962と端1934cの間に圧力差を生成することができる。
【0081】
以上のように、一実施形態によれば、図19に示される交流フィルタ1710を使用して、個別の目標回収ポートに回収された試料から無傷の核、細菌およびウィルスを分離することができる。
【0082】
次に図20を参照すると、フィルタ1710の層状実施形態が示されている。図20に示されるように、フィルタ1710は3つの層、すなわち上層2002、中層2004および下層2006を含むことができる。フィルタ2008を上層2002に形成することができ、1つまたは複数の分離チャネル2010を中層2004に形成することができ、フィルタ2012を下層2006に形成することができる。フィルタ1710のこの実施形態の断面図を示す図21に示されるように、分離チャネル2010の少なくとも一部分が層2004の上面から層2004の底面に伸びる。図21に示されるように、層2002は、フィルタ2008がチャネル2010の上部に存在することによってチャネル2010の上部多孔質壁を形成するように層2004の上部に配置される。同様に、図21に示されるように、層2006は、フィルタ2012がチャネル2010の下に存在することによって、チャネル2010の下部多孔質壁を形成するように層2004の下に配置される。
【0083】
実施に際して、溶解緩衝液/試料混合物が、チャネル2010を(すなわち、入力端2006から出力端2014まで)流れている間に、交流流体は、交流緩衝液入力ポート(不図示)を介して、フィルタ2008および2012を有するチャネル2010の部分に導入される。交流流体は、交流緩衝液出力ポート(不図示)を介してチャネル2010のこの部分から出る。先の実施形態のように、チャネル2010に入る交流流体を、最初にフィルタ2008に流し、次いで分離チャンバに流し、次いでフィルタ2012に流し、最後に出口ポートを介してチャネルから流出させる差(例えば、圧力差または電圧差、例えば電気泳動電圧ポテンシャル、または重力場)が交流緩衝液入力ポートと出力ポートの間に存在する。チャネル2010に入る流体を端2006から端2014まで流す力(例えば、圧力、電気、重力)も存在する。先の実施形態のように、交流緩衝液が分離チャンバを流れると、交流緩衝液は、フィルタ2008および2012とともに、例えば細胞溶解領域1706からチャネル2010に流れる混合物の他の成分からの無傷の核の分離を容易にする。
【0084】
再び上記の図17を参照すると、システム102は、さらに図22に示されるように濃縮器1712を含むことができる。図22に示されるように、1つの例示的な実施形態による濃縮器1712は、全体的に三角形の形状のチャネル2208(すなわち、入力端から出力端にかけてチャネルの幅が大きくなるチャネル)を含む。チャネル2208の入力端において、流体(例えば、血液試料および溶解緩衝液からの何らかの廃棄物成分を含む、交流濾過領域1708で回収された精製試料)がチャネル2208に入るための手段を提供する導入口2202が存在する。チャネル2208の反対側の端(すなわち出力端)において、さらなる廃棄物がチャネル2208から出るための手段をそれぞれ提供する2つの廃棄物排出口(2204aおよび2204b)、ならびに所望の濃縮流体がチャネル2208から出るための手段を提供する試料排出口2206が存在する。図22にさらに示されるように、2つのフィルタ(2210aおよび2210b)がチャネル2208に配置され、ともにチャネル2208に分離チャンバ2212を形成する。分離チャンバ2212は、導入口2202の下流に位置する流体入口点2214、およびチャネル2208の出力端に隣接し、排出口2206と流体連通するが、廃棄物排出口2204のいずれとも流体連通しない流体出口点2216を含む。
【0085】
再び図17を参照すると、無傷の核が濾過領域1708から出た後に、無傷の核、ならびに濾過領域1708によって除去されなかった任意の廃棄物が濃縮器1712のチャネル2208に流れることがわかる。再び図22を参照すると、無傷の核および任意の廃棄物がチャネル2208に入ると、混合物は、例えば、チャネル2208の入力端と出力端の間の圧力差(または他の力)によって分離チャンバ2212に流れることになる。混合物がチャンバ2212に存在するときは、混合物の一部がフィルタ2210aを介して廃棄物排出口2204aに向かって流れ、一部がフィルタ2210bを通して廃棄物排出口2204bに向かって流れ、残りがチャンバ2212の全長に沿ってチャネル2223に流れ、究極的には排出口2206に達する。例えば、チャンバ2212内の圧力は、排出口2204a、2204bおよび2206における圧力より高くなることによって、混合物の一部を排出口に流すことができる。有利には、フィルタ2210は、混合物における無傷の核が、フィルタを通過し、またはフィルタに入ることができないが、廃棄物がフィルタを流れることができるように構成されている。よって、チャンバ2212を出る混合物は、チャンバ2212に入った混合物より高濃度の無傷の核を有することになる。
【0086】
図17に示されるように、濃縮器1712の排出口2206は、インターフェース領域1714のインターフェースチャネルの導入口と流体連通する。よって、上記のいくつかの実施形態において、濃縮量の無傷の核を含む混合物は、さらなる試験および分析のためにインターフェース領域1714のインターフェースチャネルに流れることができる。
【0087】
さらに、一実施形態によるインターフェース領域1714が図23に示されている。図23に示されるように、インターフェース領域1714は、例えば8つの微小流体チャネルなどのいくつかの微小流体チャネル2304を含むことができる。いくつかの実施形態において、濃縮器1712から出る無傷の核は、当技術分野で知られるようにチャネル2304に流される。やはり当技術分野で知られるように、無傷の核の流れとして、無傷の核からのDNAを、核を溶解することによって遊離させることができる。例えばPCR技術を使用して、無傷の核から遊離したDNAを、それらがチャネル2304を移動しているときに増幅することができる。実施形態において、温度制御システム2306は、チャネル2304を流れるDNAの温度を制御してPCR反応を生じさせる。したがって、チャネル2304の一部分を増幅領域と見なすことができる。チャネル2304からの蛍光発光を記録することによって、DNAの増幅を検出するようにチャネル2304に対して相対的にカメラ2304を配置することができる。DNAを増幅し、DNAの増幅を検出するためのシステムおよび方法は、上記特許に記載されている。
【0088】
いくつかの実施形態において、濃縮器を使用せず、交流濾過領域1708からの精製された無傷の傷をインターフェース領域1714に直接流す。
【0089】
次に図24を参照すると、図17に示されるシステムを使用するための本発明の一実施形態によるプロセス2400を示すフローチャートが示されている。プロセス2400は、ウェル1702からの流体(例えば血液試料)とウェル1704からの溶解緩衝液とを混合する工程2402から開始してよい。すなわち、血液試料および溶解緩衝液を、それぞれウェル1702および1704から流出させ、試料と溶解緩衝液が混合するチャネル1706に流す。いくつかの実施形態において、圧力差または電気泳動電圧を生成することによって、流体をウェル1702および1704から流出させることができる。
【0090】
工程2404において、混合物がチャネル1706に沿って流れている間に、溶解緩衝液は、細胞溶解領域1706において、細胞の核膜を溶解することなく試料中の細胞の細胞膜を選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成する。
【0091】
工程2406において、無傷の核は、無傷の核がフィルタを通過することができず、患者試料の他の成分がフィルタを通過し、交流濾過領域を流れるように制御されている交流緩衝液によって運び出されるような孔径を有する1つまたは複数の交流フィルタ1710を含む交流濾過領域1708において試料から分離される。いくつかの実施形態において、交流緩衝液は、圧力差または電気泳動電圧によって交流濾過領域を誘導される。任意選択である工程2408において、無傷の核が濃縮器1712によって濃縮される。工程2410において、濃縮した核は、下流分析のためにインターフェースチャネル1714を流される。
【0092】
いくつかの実施形態において、交流領域は、試料からの無傷の核だけでなく、細菌およびウィルスをも濾別するための複数のフィルタを有することができる。例えば、交流濾過領域は、図19に関連して以上に記載されているように、3つのフィルタ、すなわち試料から核を分離するためのフィルタ、試料から細菌を分離するためのフィルタ、および試料からウィルスを分離するためのフィルタを有することができる。他の実施形態において、交流フィルタ1710は、出力端1834からの精製試料が、さらなる精製のために、入力端1832に再循環されて分離チャンバをさらに通過するように構成されている。一実施形態において、この再循環は、チャネル接続出力端1834に入力端1832を設けて、その間の流体の流れを可能にし、例えば圧力差によって流体を出力端から入力端に制御可能に誘導することによって遂行される。
【0093】
次に図25を参照すると、本発明の一実施形態による、患者試料中の核酸の有無を判定するプロセス2500を示すフローチャートが示されている。プロセス2500は、細胞を含む患者試料と溶解緩衝液を微小流体デバイスの混合領域(例えば領域1706)において混合し、溶解緩衝液が核膜を溶解することなく細胞膜を選択的に溶解する工程2502から開始することができる。次に、工程2504において、溶解緩衝液は、細胞の核膜を溶解することなく、患者試料中の細胞の細胞膜を混合領域1706(「細胞溶解領域」としても知られる)において選択的に溶解して、細胞から無傷の核を生成する。工程2506において、無傷の核は、上記のように交流濾過領域1708において患者試料から分離される。工程2508において、核を溶解して核酸を遊離させる。工程2510において、核酸が増幅される(例えば、PCRを使用して増幅される)。工程2512において、増幅産物の有無が判定され、増幅産物の存在は、患者試料中の核酸の存在を示す。いくつかの実施形態において、患者試料は、細胞膜の選択的溶解の前に最初に白血球が富化される。いくつかの実施形態において、工程2502〜2508は、1つの微小流体デバイスで実施され、工程2510〜2512は、異なる微小流体デバイスで実施される。他の実施形態において、工程2502〜2506は、1つの微小流体デバイスで実施され、工程2508〜2512は、異なる微小流体デバイスで実施される。
【0094】
次に図26を参照すると、別の実施形態によるサブシステム102が示されている。図26に示されるように、試料調製サブシステム102は、1つまたは複数の患者試料を保持するように構成されている1つまたは複数のチャンバ2601を有する試料カード2600を含む。1つまたは複数のチャンバ2601の各々は、導入口2602、フィルタ2603および排出口2604を含む。試料カード2600は、試料カード2600に1つまたは複数の患者試料を充填し、次いでそれを試料調製サブシステム102に挿入することを可能にする試料調製サブシステム102に除去可能に挿入可能である。各導入口2602は、互いに流体連通されていても、いなくてもよい1つまたは複数のチャネルをさらに含む。図27は、さらに、1つまたは複数のチャンバ2601を含む試料カード2600の一実施形態を示す。図27に示されるように、各チャンバ2601は、導入口2602、フィルタ2603および排出口2604を含む。フィルタ孔径は、1から15μmであってよく、好ましくは約5μmである。
【0095】
図26に示されるように、試料調製サブシステム102は、導入口2602を介する溶解緩衝液貯蔵デバイス2606から試料カード2600の各チャンバ2601への溶解緩衝液の流れを制御する流れ制御システム2605を含む。溶解緩衝液貯蔵デバイス2606に含まれる溶解緩衝液は、細胞膜を選択的に溶解して核と細胞片を遊離させる。次いで、流れ制御システム2605は、細胞片および溶解緩衝液をフィルタ2603に流し、排出口2604に流し、除去可能に挿入可能な廃棄物容器2607に流し、核をフィルタ2603にとラップさせておく。廃棄物容器2607は、細胞片および溶解緩衝液をチャンバ2601から受け取るために排出口2604の下に配置可能である。溶解緩衝液は、患者試料からの核を溶解しない。流れ制御システム2605は、導入口2602を介する溶出緩衝液貯蔵デバイス2608から試料カード2600の各チャンバ2601への溶出緩衝液の流れをも制御する。
【0096】
図26に示されるように、試料調製サブシステム102は、試料カード2600の温度を制御する温度制御システム2609を含む。温度制御システム2609は、試料カード2600を加熱して、フィルタ2603にトラップされた核を溶解させることによって、核のDNAを遊離させる。この実施形態において、温度制御システムは、センサ2610および熱源2611を使用して、試料カードを制御可能かつ効果的に加熱し無傷の核を溶解する。
【0097】
図26は、さらに、試料調製サブシステム102に除去可能に挿入可能なインターフェース・チップ2612を示す。インターフェース・チップ2612は、試料カード2600の下に配置可能であり、フィルタ2603にトラップされた溶解核から遊離したDNAを受け取るように構成されている。図26に示されるように、インターフェース・チップ2612は、1つまたは複数のDNA試料排出口2614と流体連通する1つまたは複数のDNA試料ウェル2613を含む。DNA試料ウェル2613は、サブシステム102に挿入されると、試料カード2600からの排出口2604とそれぞれ整列して、DNAが排出口2604を介して試料カード2600から出るときに、各DNA試料ウェル2613が溶解核によって遊離したDNAを回収することを可能にする。
【0098】
この実施形態において、主コントローラ101は、温度制御システム2609および流れ制御システム2605と連通する。当業者が認識するように、主コントローラ101には、例えば汎用コンピュータまたは特殊用途コンピュータなどの多くの選択肢が存在する。当技術分野で既知の他の特殊化制御装置も主コントローラ101の目的に対応することが可能である。
【0099】
図28を参照すると、複数のチャンバ2601が流体チャネル2800によって接続された試料カード2600が示されている。この実施形態において、流体チャネル2800を使用してチャンバ2601を接続すると、異なる数の試料を異なる容量で試験することが可能になる。例えば、すべてのチャンバ2601が流体チャネル2800を介して流体連通されている、図示された実施形態において、流体連通されているすべてのチャンバ2601が同じ試料を含むため、試料カード2600は、1つの患者試料をより大きな容量で試験することを可能にする。あるいは、図27に示されるように、チャンバ2601のいずれもが流体連通されていなければ、試料カード2600は、各試料が同じまたは異なる患者からの試料であり得る複数の患者試料を同時に試験することを可能にする。チャンバ2601のいずれもが流体連通されていないときは、試験される患者試料の数が、試料カード2600上のチャンバ2601の数によって制限される。
【0100】
図28は、すべてのチャンバ2601が接続されていることを示しているが、他の配置も考えられる。試料カード2600上で互いに接続されたチャンバ2601の数は、所望の数の患者試料および所望の容量の各患者試料の試験に対応する多くの異なる組合せであり得る。例えば、試料カードA200は、流体チャネル2800を介してチャンバ2601を2つずつ接続するように構成され、異なる患者試料の数を半分に減少させながら、試験される各患者試料の容量を2倍にする。試料カード2600を、各用途の試験要件に応じた様々な材料から構成することができ、試料カード2600は、各試験用途の要件を反映するために再利用可能であるか、またはディスポーザブルであり得る。
【0101】
図29は、さらに、一実施形態による流れ制御システム2605を示す。図29に示されるように、流れ制御システム2605は、主コントローラ101によって制御され、ポンプ2900、圧力制御システム2901、溶液送出チップ2902および圧力制御チップ2903を含む。圧力制御システム2901は、空気源、ならびに流れ制御システム2605が、溶液を移動させるための圧力を使用した溶出緩衝液および溶解緩衝液の試料カード2600への送出を制御することを可能にする圧力センサを含む。溶液送出チップ2902は、溶解緩衝液および溶出緩衝液を試料カード2600の各チャンバ2601に送出するための複数のチャネルを含む。圧力制御チップ2903は、試料カード2600の各チャンバ2601に圧力を与えるための複数のチャネルを含む。この実施形態は、流れ制御システム2605における溶液送出チップ2902、ポンプ2900および圧力制御システム2901の使用を示すが、異なる構成要素を異なる組合せで使用することができる。例えば、圧力制御システム2901を使用せずに、ポンプ2900および溶液送出チップ2902を使用することができる。別の実施形態において、圧力制御システム2901は、試料カード2600の各チャンバ2601における空気圧を制御するための複数のチャネルを含むことができる。
【0102】
図30を参照すると、一実施形態による溶液送出チップ2902が示されている。図30に示されるように、溶液送出チップは、試料カードのチャンバ2601と流体連通する複数のチャネル3000を含む。チャネル3000は、ポンプ2900から緩衝液を受け取る1つまたは複数の溶液導入口3001を含む。チャネル3000は、溶解緩衝液および溶出緩衝液を、溶液送出チップ2902の溶液排出口3002を介して試料カード2600のチャンバ2601に送出することを可能にする試料カード2600の導入口2602と流体連通する1つまたは複数の溶液導入口3002をさらに含む。
【0103】
図31を参照すると、一実施形態による圧力制御チップ2903が示されている。図31に示されるように、圧力制御チップ2903は、複数の圧力チャネル3100を含み、各圧力チャネル3100は、圧力導入口3101および圧力排出口3102と流体連通する。この実施形態において、各圧力チャネルは、同じ圧力導入口3101と流体連通するが、2つ以上の圧力導入口3101が存在し得る他の実施形態も考えられる。圧力導入口3101は、圧力を圧力制御チップ2903に加えるために、圧力制御システム2901と流体連通する。圧力排出口3102は、試料カード2600の導入口2602と流体連通して、圧力制御チップ293が試料カード2600のチャンバ2601に圧力を加えることを可能にする。
【0104】
図32は、患者試料中のDNAを単離するための方法3200を示すフローチャートである。方法3200は、図26に示されるシステムに限定されないが、この方法の1つの好適な実施形態は、図26に示されるシステムと類似のシステムを利用することができ、図26は、この方法を説明するのに役立つ参照目的で使用される。図32に示されるように、工程3202において、(i)各チャンバ2601が導入口2602、フィルタ2603および排出口2604を含む複数のチャンバ2601を有し、試料調製サブシステム102に除去可能に挿入可能である試料カード2600と、(ii)試料カード2600の各チャンバ2601への溶解緩衝液および溶出緩衝液の流れを制御するための流れ制御システム2605と、(iii)試料カード2600におけるフィルタ2603を加熱するための温度制御システム2609と、(iv)試料カード2600の下に配置可能である除去可能に挿入可能な廃棄物容器2607と、(V)複数のDNA試料ウェル2613およびDNA試料排出口2614を含み、試料カード2600の下に配置可能であるインターフェース・チップ2612とを含む試料調製システム102が示されている。
【0105】
工程3204において、患者試料を試料カード2600のチャンバ2601に充填する。工程3206において、患者試料を含む試料カード2600を試料調製システム102に挿入する。工程3208において、流れ制御システム2605は溶解緩衝液を、溶解緩衝液貯蔵デバイス2606から導入口2602を介して試料カード2600のチャンバ2601に送出する。溶解緩衝液は、核の核膜を溶解することなく患者試料の細胞膜を選択的に溶解する。反応により、試料カード2600のチャンバ2601に、溶解緩衝液、無傷の核および細胞片を含む溶液を生成する。工程3210において、除去可能に挿入可能な廃棄物容器2607は、試料カード2600の下に配置され、流れ制御システム2605は、チャンバ2601のフィルタ2603を通して溶液を誘導するように動作する。フィルタ2603は、溶液からの無傷の核をトラップし、溶液緩衝液および細胞片は、流れ制御システム2605によって排出口2604を介してチャンバ2601から導出される。溶解緩衝液および細胞片は、廃棄物容器2607における排出口2604を介してチャンバ2601から出るときに回収される。
【0106】
工程3212において、温度制御システム2609は、フィルタ2603を加熱することで、フィルタ2603にトラップされた無傷の核を加熱するように動作する。無傷の核を加熱すると、核が溶解してDNAを核から遊離させる。工程3214において、流れ制御システム2605は溶出緩衝液を、溶出緩衝液貯蔵デバイス2608から導入口2602を介して試料カード2600のチャンバ2601に送出するように動作する。工程3216において、インターフェース・カード2612は、試料カード2600の下に配置され、流れ制御システム2605は溶出緩衝液およびDNAを、チャンバ2601の排出口2604を通して誘導し、溶解核をフィルタ2603上に残すように動作する。溶出緩衝液およびDNAは、排出口2604を介してチャンバ2601から出た後に、インターフェース・チップ2612のDNA試料ウェル2613に堆積される。したがって、この方法は、DNAを患者試料から単離することを可能にする。
【0107】
上記DNA単離に続く任意選択の工程は、流れ制御デバイス2605を使用して、溶解緩衝液を溶解緩衝液収容デバイス2606から試料カード2600のチャンバ2601に送出し、次いでフィルタ2603を洗浄するために流れ制御システム2605の動作によって排出口2604を介して溶液をチャンバ2601から導出することであり得る。この任意選択の工程を複数回繰り返して、フィルタ2603の所望のレベルの洗浄を確保することができる。
【0108】
以上に本発明の様々な実施形態を説明したが、それらは、例示のみを目的として示されており、限定するものでないことが理解されるべきである。したがって、本発明の幅および範囲は、上記例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきでない。上記実施形態の改変形態は、先述の説明を読めば、当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者が改変形態を適宜採用することを想定しており、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されているのと異なる形態で実施されることを意図する。よって、本発明は、適用可能な法律によって承認される本明細書に添付された特許請求の範囲に記載の主題のすべての変更形態および均等物を含む。さらに、本明細書に他に指定されておらず、文脈と明らかに矛盾しなければ、そのすべての可能な改変形態における上記要素の任意の組合せが本発明に包含される。
【0109】
また、以上に記載され、図面に例示される方法は、一連の工程として示されているが、これは例示のみのために示されたものである。よって、いくつかの工程を追加することができ、いくつかの工程を省略することができ、工程の順序を入れ替えることができ、いくつかの工程を並行して実施できることが考えられる。
【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図15B】
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【公表番号】特表2011−528552(P2011−528552A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518938(P2011−518938)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/051021
【国際公開番号】WO2010/009415
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(507028217)キヤノン ユー.エス. ライフ サイエンシズ, インコーポレイテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】CANON U.S. LIFE SCIENCES, INC.
【住所又は居所原語表記】9800 Medical Center Drive Suite A−100 Rockville,Maryland 20850 U.S.A.
【Fターム(参考)】