微小粉からなる化合物の製造方法、非晶質炭酸カルシウム
【課題】種類の超音波霧化液滴を用いての炭酸カルシウムをはじめとする化合物の合成方法を提供し、BET法比表面積が20〜80m2/g程度の微小粉体を製造すること。
【解決手段】
カルシウム源を含む原料溶液と、炭酸源、硫酸源、水酸化物源またはリン酸源を含む原料溶液とを、それぞれ超音波照射により霧化させ、発生した霧の流れである流束を、反応場としての空間において衝突させ、生成した液滴をろ過、乾燥させることを特徴とする微小粉からなる化合物の製造方法。
【解決手段】
カルシウム源を含む原料溶液と、炭酸源、硫酸源、水酸化物源またはリン酸源を含む原料溶液とを、それぞれ超音波照射により霧化させ、発生した霧の流れである流束を、反応場としての空間において衝突させ、生成した液滴をろ過、乾燥させることを特徴とする微小粉からなる化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が20〜100nm程度の微小粉体、例えば非晶質炭酸カルシウムなど、微小粉体からなる化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は人の高周波側の可聴領域を超える音波であるが、20〜100kHzの超音波を溶液中に照射することで溶液内を高エネルギーの反応場とすることが、換言すれば液体に対して特殊な環境を発現させることができる。図1は、低周波超音波と高周波超音波を液体に印加した際の効果を示すもので、周波数が20〜100kHzの低周波超音波を印加するとキャビテーションの発生により、高温、高圧の反応場が生じ、分散、攪拌作用による反応時間の短縮、粒子のナノサイズ化を実現できること(A)、周波数が1.5〜2.4MHzの高周波超音波を印加するとキャピラリ波の発生及び溶液の霧化が生じ、それにより、周波数の変化で液滴径を変化させ得ること、界面活性剤の効果が増大すること、懸濁液の霧化が可能になること(B)を模式的に示している。
【0003】
図1(A)の方法による結晶粒子の合成の例としては、液−液反応時に、または、水酸化カルシウム懸濁液に炭酸ガスを吹き込む際に、周波数20〜100kHzの超音波照射を行うことにより、超音波を照射せずに合成した場合に比べて極めて微細な、ナノサイズの炭酸カルシウムが合成できることが知られている。
ところがこの方法では、炭酸カルシウムなどの反応溶媒に対する溶解度が比較的小さいカルシウム化合物の場合は、微細な粒子が合成できるが、水酸化カルシウム、ニ水セッコウなどの反応溶媒に対する溶解度が高いカルシウム化合物の場合は、合成時に超音波を照射しても微細な粒子を合成することはできなかった。
【0004】
図1(B)のように、溶液に1.5〜2.4MHz程度の高周波超音波を照射すると水柱が発生して、そこから微細な水滴が放出される。この現象を霧化と呼び、この現象を利用しているのが超音波加湿器である。この霧化により生成した液滴の粒径は数μm程度、通常3μm以下である。例えば、0.01mol・dm−3の塩化カルシウム水溶液を霧化して液滴を生成した場合、液滴の粒径が1μmだと、この液滴中にはカルシウムイオンが6.02×106個含まれていることになる。さらに液滴の粒径が10nmだと、この中にカルシウムイオンは6個存在することになる。これを図2に示す。
【0005】
このような霧化により生成した小さな液滴を反応場として利用できれば、非常に微細な粒子を容易に合成することが可能となる。これまで、超音波霧化を用いた合成のほとんどは霧化された液滴を加熱乾燥あるいは加熱分解する噴霧乾燥反応であったが、霧化液滴同士の接触反応による結晶生成は報告されていない。
【0006】
特許文献1には、SiO2ゾルのアルコール溶液と、ガラス形成元素を含む化合物の水溶液との混合溶液を霧化させ、生成した微細な液滴を熱分解して、微細なガラス粉末を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法は、ガラスの原料を予め混合して単一の溶液とし、これを霧化させるものであって、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含有する原料溶液と、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含有する原料溶液をそれぞれ独立して超音波発生器において霧化させ、霧化により生成する各原料溶液の液滴を、反応場としての空間中において、相互に衝突させること、すなわち、霧化液滴同士の接触反応を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−12428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、超音波霧化により生成した液滴同士の接触反応を用いた化合物の合成方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち請求項1にかかるものは、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液と、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液とを、それぞれ超音波照射により霧化させ、発生した霧の流れである流束を、反応場としての空間において衝突させ、生成した液滴をろ過、乾燥させることを特徴とする。
【0011】
本発明のうち請求項2にかかるものは、請求項1の化合物の製造方法において、アルコールまたはアルコール水溶液を超音波照射により霧化することにより発生した流束を反応場としての空間に供給することを特徴とする。
【0012】
本発明のうち請求項3にかかるものは、請求項1または2の化合物の製造方法において、得ようとする化合物が、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、水酸化カルシウムまたはリン酸カルシウムであることを特徴とする。
【0013】
本発明のうち請求項4にかかるものは、請求項1の化合物の製造方法において、得ようとする化合物が、CaCO3・0.5H2Oで表される非晶質炭酸カルシウムであることを特徴とする。
【0014】
本発明のうち請求項5にかかるものは、請求項3に記載の化合物の製造方法において、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液が、カルシウム源の水溶液であり、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液が炭酸塩源、硫酸塩源、水酸化物源またはリン酸塩源の水溶液であることを特徴とする。
【0015】
本発明のうち請求項6にかかるものは、CaCO3・0.5H2Oで表される非晶質炭酸カルシウムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒径20〜100nm程度の微小粉体を簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】低周波超音波と高周波超音波を液体に印加した際の効果を示す図
【図2】霧化による水溶液の液滴化を示す図
【図3】霧化合成のための簡単な装置概略を示す図
【図4】図3に示した霧化合成の作用のフローチャート
【図5】水溶液濃度を変化させることにより得られる生成物のX線回折図
【図6】非晶質炭酸カルシウムの熱分析(TG−DTA)曲線を示す図
【図7】生成物の比表面積に及ぼす水溶液濃度の影響を示す図
【図8】反応時間を変化させて本実施例装置により得た炭酸カルシウムのX線回折図
【図9】本実施例装置により得た炭酸カルシウムの結晶性に及ぼす時間と溶液温度の影響を示す図
【図10】室温および冷却環境で得た炭酸カルシウムの走査型電子顕微鏡写真を示す図
【図11】水炭酸カルシウムについて図3に示す装置により霧化合成するフローチャート
【図12】霧化により合成して得られる水酸化カルシウムの生成物に関し、反応時間を変化して得られる水酸化カルシウムのX線回折図
【図13】本実施例装置に基づき、霧化により合成する水酸化カルシウム生成物に関し、反応時間を変化させた状態が及ぼす生成物の比表面積を示す図
【図14】本実施例装置に基づき、霧化により合成する水酸化カルシウム生成物に関し、反応時間を変化させた状態が及ぼす生成物中の水酸化カルシウムの割合を示す図
【図15】本実施例装置に基づき、霧化により合成する水酸化カルシウム生成物に関し、反応時間を変化させた状態が及ぼす生成物の割合計算後の比表面積を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る微小粉体を製造する方法の実施形態を説明する。
【0019】
本発明は、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液と、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液とを、それぞれ超音波照射により霧化させることで、霧状の細かい液滴とし、発生した霧の流れ、すなわち流束を、反応場となる空間において相互に衝突させる状態で混流させ、陽イオンと陰イオンの細かい霧化液滴同士を衝突、反応させることにより化合物を得ようとするものである。
反応場となる空間における各流束の混流に関しては、吸引による混流、対流による混流、集束・拡散による混流など様々な方法が可能であり、後述する実施例の形態には限定されない。
【0020】
本発明の方法で得られる化合物としては、この方法により製造しうるものであれば特に限定されないが、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物(二水セッコウ)、水酸化カルシウム、リン酸カルシウムなどのカルシウム化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウムなどの炭酸塩などが挙げられる。また、本発明の方法によれば、CaCO3・0.5H2Oの新規な組成をもつ非晶質炭酸カルシウムを製造することができる。
【0021】
得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料、すなわち陽イオン源としては、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む塩化物、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
また、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料、すなわち陰イオン源としては、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含むナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0022】
例えば、炭酸カルシウムを得ようとする場合は、カルシウム源として塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが、炭酸源として炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。
硫酸カルシウム二水和物を得ようとする場合は、カルシウム源として塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが、硫酸源として硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
水酸化カルシウムを得ようとする場合は、カルシウム源として塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが、水酸化物源として水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどが挙げられる。
リン酸カルシウムを得ようとする場合は、カルシウム源として塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが、リン酸源としてリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0023】
これらの原料は、通常0.1〜2.5mol・dm−3、好ましくは0.5〜2.0mol・dm−3、特に好ましくは0.8〜1.5mol・dm−3の水溶液として使用される。水溶液の濃度が低いほど霧化しやすいが、濃度が低すぎると、生成する液滴中に含まれる原料が少なくなるため、大量の化合物を得ることができない。また、水溶液の濃度が高すぎると、霧化しにくい。非晶質炭酸カルシウムを製造する場合には、0.7〜1.5mol・dm−3程度の原料水溶液を使用するのが好ましい。この範囲であれば、反応時間が長くなっても、反応温度が40℃程度と高温になっても、回収したアルコール中で非晶質炭酸カルシウムが結晶化することがなく安定に合成することができる。
【0024】
また、原料水溶液は、高周波超音波を印加すると、超音波のエネルギーにより昇温する傾向にある。水溶液の温度は特に限定されないが、原料水溶液の濃度が0.7mol・dm-3以下の条件で非晶質炭酸カルシウムを合成する場合には、冷却して原料の水溶液を室温以下に維持するのが好ましい。
【0025】
陽イオン源の水溶液と陰イオン源の水溶液の濃度の比率は、得ようとする化合物の理論量の比率と同一であるのが好ましい。例えば炭酸カルシウムであれば、炭酸カルシウム中には、炭酸とカルシウムが1:1のモル比で存在するので、陽イオン源の水溶液と陰イオンの水溶液の濃度(mol・dm−3)の比は1:1であるのが好ましい。
【0026】
原料水溶液などに印加される高周波超音波の周波数は、原料の水溶液が霧化できれば特に限定されないが、通常1.5〜2.4MHzである。
【0027】
反応は、陽イオン源の水溶液を霧化させてなる流束と、陰イオン源の水溶液を霧化させてなる流束とを衝突させて反応を行うが、これらが衝突する領域すなわち反応場には、これらのほかに、アルコールまたはアルコール水溶液を霧化させてなる流束を供給するのが好ましい。
陽イオン源の水溶液を霧化させてなる流束と、陰イオン源の水溶液を霧化させてなる流束とを、これらだけで衝突させると、陽イオン源の水溶液を霧化させてなる液滴同士、陰イオン源の水溶液を霧化させてなる液滴同士が互いにくっついて(多重衝突)、液滴が大きくなり、得られる化合物の粒径が大きくなりやすい。陰イオン源となる化合物はアルコールに対する溶解度が低いため、アルコールまたはアルコール水溶液を霧化させてなる液滴と衝突すると、陰イオン源となる化合物が析出し、陽イオン源となる化合物との反応ができなくなる。このため、アルコールまたはアルコール水溶液を霧化させえなる液滴を存在させることにより、多重衝突による化合物の粒径の巨大化を防ぐことができる。
【0028】
アルコールとしては、メタノール、エタノールなどの低級アルコールが挙げられる。また、アルコール水溶液の濃度は特に限定されないが、薄すぎると多重衝突を防ぐ効果がなくなるので、通常10容積%以上、好ましくは20〜70容積%程度である。濃すぎると霧化により生成する液滴の粒径が小さくなりすぎて、陰イオン源となる化合物を析出するのが難しくなるおそれがある。
アルコールまたはアルコール水溶液の供給割合は特に限定されないが、多すぎると反応が阻害されるので、陰イオン水溶液とアルコールまたはアルコール水溶液を同じ周波数の高周波超音波を印加する場合には、陰イオン水溶液:アルコールまたはアルコール水溶液の容量比が、通常、1:0.5〜2.0、好ましくは1:0.8〜1.2程度となるように供給すればよい。
【0029】
本発明の反応における反応時間は10分〜5時間程度、反応場の温度は5〜50℃程度である。
【0030】
霧化により生成した液滴同士を衝突させると、反応が生じて化合物が生成するが、依然として霧状の液滴であるので、これを反応装置内に設置したアルコールを収容した回収容器に回収する。その後、ろ過、冷水による洗浄、乾燥を行うことにより、粉体として回収することができる。回収に用いるアルコールは特に限定されないが、通常、メタノール、エタノールなどの低級アルコールが用いられる。
このようにして得られた化合物は、粒径が通常20〜100nm程度、BET法比表面積が通常20〜80m2/g程度と微小粒である。なお、粒径はBET法比表面から粒子を真球として算出したものである。
【実施例】
【0031】
以下本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図3に、実施例で用いる霧化合成のための簡単な装置概略を示す。なお図3(A)は、装置の平面構成を概念的に示す図、図3(B)は同斜視図あるが、図3(B)では後述する容器Cについては図示を省略してある。
容器Aには塩化カルシウム水溶液、容器Bには炭酸ナトリウム水溶液、そして容器Cには20%メタノール水溶液を収容してある。これらの容器A〜Cのすべてに投げ込み式の超音波霧化器S(本多電子株式会社製超音波霧化ユニット、霧化量:250cm3・h−1、霧化液滴:3μm、周波数:2.4MHz)を設置し、収容してある溶液を霧化させる。霧化で生じさせた液滴は容器A〜Cそれぞれに設けた小窓Aw〜Cwから排出させる。3つの容器A〜Cから排出された、すなわち3方向から排出された霧Ma、Mb、Mcが場Fとしての空間において衝突するように各容器A〜Cを配置する。この衝突混合で生じた霧Mmはメタノールを溜めた4か所の試料回収容器Dで回収し、これをろ過洗浄および乾燥する。ろ過洗浄および乾燥する装置については公知の装置を用いれば良いので、説明、図示などは省略する。
【0032】
図4は、上述のような作用のフローチャートを示すものである。図4中のA〜Dは、上述した容器A〜Dと対応している。
【0033】
このようにして得たものを試料とし、X線回折、熱重量測定、示差熱分析および走査型電子顕微鏡を用いて物性を測定した。
【0034】
<実施例1>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも1.0mol・dm−3として、図4のフローチャートに従って炭酸カルシウムの霧化合成を行った。反応時間は60分、雰囲気および原料水溶液は冷却しなかったので、反応終了時には反応雰囲気も原料水溶液も40℃程度になっていた。
得られた物質のX回折図形を図5に示す。回折ピークは観察されず、非晶質状態であった。これを熱分析(TG−DTA)測定した結果、図6に示すように335℃付近に非晶状態から結晶化に伴う発熱ピークが観察された。また、TG−DTAの減量から組成を求めた結果、この非晶質炭酸カルシウムの組成はCaCO3・0.5H2Oであった。BET法比表面積の測定を行ったところ、図7に示すように40m2・g−1程度であった。走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、図3に示すように粒径40nm程度の微細粒子であることが確認された。
【0035】
<実施例2>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも0.8mol・dm−3とした他は、実施例1と同様に炭酸カルシウムの霧化合成を行った。
得られた物質のX線回折図形を図5に示す。回折ピークは観察されず、非晶質状態であった。また、BET法比表面積の測定を行ったところ、図7に示すように60m2・g−1程度であった。
【0036】
<実施例3、4>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも0.6mol・dm−3(実施例3)、0.2mol・dm−3(実施例4)とした他は、実施例1と同様に炭酸カルシウムの霧化合成を行った。得られた物質のX線回折図形を図5に示す。生成物はカルサイトとバテライトであった。また、BET法比表面積の測定を行ったところ、図7に示すように10m2・g−1程度(実施例3)、2m2・g−1程度(実施例4)であった。
【0037】
<実施例5、6>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも実施例4と同様に、0.2mol・dm−3とし、反応時間を15分(実施例5)、30分(実施例6)とした他は、実施例1と同様に炭酸カルシウムの霧化合成を行った。得られた物質のX線回折図形を図8に示す。なお、図8の反応時間60分の結果は実施例4のデータの再掲である。
図8より、反応時間を15分とした場合、生成物は非晶質状態であるのに対して、反応時間が長くなるとカルサイトおよびバテライトの回折ピークが観察された。これより、非晶質炭酸カルシウムが初期に生成した後、結晶化しているものと考えられる。いずれの濃度においても非晶質炭酸カルシウムが生成するが、時間の経過に伴い結晶質化されているものと推察される。
【0038】
<実施例7、8>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも実施例4、6と同様に0.2mol・dm−3とし、反応装置を氷で冷却することにより反応場の温度を20℃程度に維持し、反応時間を30分(実施例7)、60分(実施例8)とした他は、実施例1と同様に炭酸カルシウムの霧化合成を行った。
得られた物質のX線回折図形を図9に示す。なお、図9には、比較のために、反応装置を冷却せず室温のままで行った実施例4(反応時間60分)と実施例6(反応時間30分)の結果も再掲する。なお、反応装置を冷却せず室温のまま反応を行うと、超音波照射のエネルギーにより反応場の温度は40℃程度になっていた。
図9より同じ反応時間でも冷却を行ったほうが、結晶性が低いことが分かる。これより非晶質炭酸カルシウムを合成する場合には温度が低いほうが好ましいことが分かる。
また、反応時間60分(実施例8)で得られた物質の走査型電子顕微鏡写真を図10に示す。比較のため、反応時間60分で冷却を行わなかった実施例4の結果も図10に示す。図10より、冷却を行ったほうが、得られる炭酸カルシウムの粒径が細かいことが分かる。
【0039】
さらに図3に示す霧化合成のための装置を用い、水酸化カルシウムを霧化合成する実施例について以下説明する。先ず図3に示す装置において、容器Aには塩化カルシウム水溶液、容器Bには水酸化ナトリウム水溶液、そして容器Cには20%メタノール水溶液を収容し、これらの容器A〜Cのすべてに投げ込み式の超音波霧化器Sを設置し、収容してある溶液を霧化させる。霧化で生じさせた液滴は容器A〜Cそれぞれに設けた小窓Aw〜Cwから排出させる。3つの容器A〜Cから排出された、すなわち3方向から排出された霧Ma、Mb、Mcが場Fとしての空間において衝突するように各容器A〜Cを配置する。この衝突混合で生じた霧Mmはメタノールを溜めた4か所の試料回収容器Dで回収し、これをろ過洗浄および乾燥する。ろ過洗浄および乾燥する装置については公知の装置を用いれば良いので、説明、図示などは省略する。
【0040】
図11は、上述のような作用のフローチャートを示すものである。図11中のA〜Dは、上述した容器A〜Dと対応している。
【0041】
このようにして得たものを試料とし、X線回折、熱重量測定等を行った。
【0042】
<実施例9>
塩化カルシウムおよび水酸化ナトリウムの水溶液濃度をいずれも0.5mol・dm−3として、図11のフローチャートに従って水酸化カルシウムの霧化合成を行った。反応時間を60分、45分、30分、15分にそれぞれ設定し、霧化合成により生成された水酸化カルシウムを含む生成物を得た。得られた物質のX線回折図形を図12に示す。その結果、いずれの反応時間においても目的とされる水酸化カルシウムおよびその炭酸化により、生成されたカルサイトおよびバテライトの回折ピークが観察された。
【0043】
<実施例10>
次に反応時間を60分、45分、30分、15分にそれぞれ設定し、霧化合成により生成された水酸化カルシウムを含む生成物を得た。得られた物質のBET法比表面積の測定を行い、その結果を図13に示す。この図から明らかなように反応時間の経過において生成物の比表面積が順次増大し、そのピークは反応時間45分において50m2・g−1程度であった。
【0044】
<実施例11>
次に反応時間を60分、45分、30分、15分にそれぞれ設定し、霧化合成により生成された水酸化カルシウムを含む生成物を得た。得られた物質の中の水酸化カルシウムの割合を熱重量分析により測定を行い、その結果を図14に示す。この図から明らかなように反応時間の経過において生成物中の水酸化カルシウム割合は、低下する傾向にあった。
【0045】
<実施例12>
上記図13および図14の結果に基づき、生成物中の水酸化カルシウムの比表面積の算出を行い、その結果を図15に示す。なお、この算出にあたっては、炭酸カルシウムの比表面積5m2・g−1と仮定した。図13の結果から反応時間の経過において水酸化カルシウムの比表面積が順次増大し、そのピークは反応時間45分において120m2・g−1程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、微細なカルシウム化合物や炭酸塩の製造方法を提供するものである。具体的には、本発明によれば、紙、ゴム、プラスチック、化粧品などの充填剤をはじめとする無機工業材料として利用される微細な炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、なかでも新規な非晶質炭酸カルシウムを製造することができる。
【符号の説明】
【0047】
A:塩化カルシウム水溶液用の容器
B:炭酸ナトリウム水溶液用の容器
C:メタノール水溶液用の容器
D:試料回収容器
F:場としての空間
Aw〜Cw:容器に設けた小窓
Ma、Mb、Mc:小窓から排出された霧
Mm:衝突混合で生じた霧はメタノール
S:投げ込み式の超音波霧化器
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が20〜100nm程度の微小粉体、例えば非晶質炭酸カルシウムなど、微小粉体からなる化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は人の高周波側の可聴領域を超える音波であるが、20〜100kHzの超音波を溶液中に照射することで溶液内を高エネルギーの反応場とすることが、換言すれば液体に対して特殊な環境を発現させることができる。図1は、低周波超音波と高周波超音波を液体に印加した際の効果を示すもので、周波数が20〜100kHzの低周波超音波を印加するとキャビテーションの発生により、高温、高圧の反応場が生じ、分散、攪拌作用による反応時間の短縮、粒子のナノサイズ化を実現できること(A)、周波数が1.5〜2.4MHzの高周波超音波を印加するとキャピラリ波の発生及び溶液の霧化が生じ、それにより、周波数の変化で液滴径を変化させ得ること、界面活性剤の効果が増大すること、懸濁液の霧化が可能になること(B)を模式的に示している。
【0003】
図1(A)の方法による結晶粒子の合成の例としては、液−液反応時に、または、水酸化カルシウム懸濁液に炭酸ガスを吹き込む際に、周波数20〜100kHzの超音波照射を行うことにより、超音波を照射せずに合成した場合に比べて極めて微細な、ナノサイズの炭酸カルシウムが合成できることが知られている。
ところがこの方法では、炭酸カルシウムなどの反応溶媒に対する溶解度が比較的小さいカルシウム化合物の場合は、微細な粒子が合成できるが、水酸化カルシウム、ニ水セッコウなどの反応溶媒に対する溶解度が高いカルシウム化合物の場合は、合成時に超音波を照射しても微細な粒子を合成することはできなかった。
【0004】
図1(B)のように、溶液に1.5〜2.4MHz程度の高周波超音波を照射すると水柱が発生して、そこから微細な水滴が放出される。この現象を霧化と呼び、この現象を利用しているのが超音波加湿器である。この霧化により生成した液滴の粒径は数μm程度、通常3μm以下である。例えば、0.01mol・dm−3の塩化カルシウム水溶液を霧化して液滴を生成した場合、液滴の粒径が1μmだと、この液滴中にはカルシウムイオンが6.02×106個含まれていることになる。さらに液滴の粒径が10nmだと、この中にカルシウムイオンは6個存在することになる。これを図2に示す。
【0005】
このような霧化により生成した小さな液滴を反応場として利用できれば、非常に微細な粒子を容易に合成することが可能となる。これまで、超音波霧化を用いた合成のほとんどは霧化された液滴を加熱乾燥あるいは加熱分解する噴霧乾燥反応であったが、霧化液滴同士の接触反応による結晶生成は報告されていない。
【0006】
特許文献1には、SiO2ゾルのアルコール溶液と、ガラス形成元素を含む化合物の水溶液との混合溶液を霧化させ、生成した微細な液滴を熱分解して、微細なガラス粉末を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法は、ガラスの原料を予め混合して単一の溶液とし、これを霧化させるものであって、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含有する原料溶液と、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含有する原料溶液をそれぞれ独立して超音波発生器において霧化させ、霧化により生成する各原料溶液の液滴を、反応場としての空間中において、相互に衝突させること、すなわち、霧化液滴同士の接触反応を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−12428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、超音波霧化により生成した液滴同士の接触反応を用いた化合物の合成方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち請求項1にかかるものは、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液と、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液とを、それぞれ超音波照射により霧化させ、発生した霧の流れである流束を、反応場としての空間において衝突させ、生成した液滴をろ過、乾燥させることを特徴とする。
【0011】
本発明のうち請求項2にかかるものは、請求項1の化合物の製造方法において、アルコールまたはアルコール水溶液を超音波照射により霧化することにより発生した流束を反応場としての空間に供給することを特徴とする。
【0012】
本発明のうち請求項3にかかるものは、請求項1または2の化合物の製造方法において、得ようとする化合物が、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、水酸化カルシウムまたはリン酸カルシウムであることを特徴とする。
【0013】
本発明のうち請求項4にかかるものは、請求項1の化合物の製造方法において、得ようとする化合物が、CaCO3・0.5H2Oで表される非晶質炭酸カルシウムであることを特徴とする。
【0014】
本発明のうち請求項5にかかるものは、請求項3に記載の化合物の製造方法において、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液が、カルシウム源の水溶液であり、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液が炭酸塩源、硫酸塩源、水酸化物源またはリン酸塩源の水溶液であることを特徴とする。
【0015】
本発明のうち請求項6にかかるものは、CaCO3・0.5H2Oで表される非晶質炭酸カルシウムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒径20〜100nm程度の微小粉体を簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】低周波超音波と高周波超音波を液体に印加した際の効果を示す図
【図2】霧化による水溶液の液滴化を示す図
【図3】霧化合成のための簡単な装置概略を示す図
【図4】図3に示した霧化合成の作用のフローチャート
【図5】水溶液濃度を変化させることにより得られる生成物のX線回折図
【図6】非晶質炭酸カルシウムの熱分析(TG−DTA)曲線を示す図
【図7】生成物の比表面積に及ぼす水溶液濃度の影響を示す図
【図8】反応時間を変化させて本実施例装置により得た炭酸カルシウムのX線回折図
【図9】本実施例装置により得た炭酸カルシウムの結晶性に及ぼす時間と溶液温度の影響を示す図
【図10】室温および冷却環境で得た炭酸カルシウムの走査型電子顕微鏡写真を示す図
【図11】水炭酸カルシウムについて図3に示す装置により霧化合成するフローチャート
【図12】霧化により合成して得られる水酸化カルシウムの生成物に関し、反応時間を変化して得られる水酸化カルシウムのX線回折図
【図13】本実施例装置に基づき、霧化により合成する水酸化カルシウム生成物に関し、反応時間を変化させた状態が及ぼす生成物の比表面積を示す図
【図14】本実施例装置に基づき、霧化により合成する水酸化カルシウム生成物に関し、反応時間を変化させた状態が及ぼす生成物中の水酸化カルシウムの割合を示す図
【図15】本実施例装置に基づき、霧化により合成する水酸化カルシウム生成物に関し、反応時間を変化させた状態が及ぼす生成物の割合計算後の比表面積を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る微小粉体を製造する方法の実施形態を説明する。
【0019】
本発明は、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液と、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液とを、それぞれ超音波照射により霧化させることで、霧状の細かい液滴とし、発生した霧の流れ、すなわち流束を、反応場となる空間において相互に衝突させる状態で混流させ、陽イオンと陰イオンの細かい霧化液滴同士を衝突、反応させることにより化合物を得ようとするものである。
反応場となる空間における各流束の混流に関しては、吸引による混流、対流による混流、集束・拡散による混流など様々な方法が可能であり、後述する実施例の形態には限定されない。
【0020】
本発明の方法で得られる化合物としては、この方法により製造しうるものであれば特に限定されないが、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物(二水セッコウ)、水酸化カルシウム、リン酸カルシウムなどのカルシウム化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウムなどの炭酸塩などが挙げられる。また、本発明の方法によれば、CaCO3・0.5H2Oの新規な組成をもつ非晶質炭酸カルシウムを製造することができる。
【0021】
得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料、すなわち陽イオン源としては、得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む塩化物、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
また、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料、すなわち陰イオン源としては、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含むナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0022】
例えば、炭酸カルシウムを得ようとする場合は、カルシウム源として塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが、炭酸源として炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。
硫酸カルシウム二水和物を得ようとする場合は、カルシウム源として塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが、硫酸源として硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
水酸化カルシウムを得ようとする場合は、カルシウム源として塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが、水酸化物源として水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどが挙げられる。
リン酸カルシウムを得ようとする場合は、カルシウム源として塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが、リン酸源としてリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0023】
これらの原料は、通常0.1〜2.5mol・dm−3、好ましくは0.5〜2.0mol・dm−3、特に好ましくは0.8〜1.5mol・dm−3の水溶液として使用される。水溶液の濃度が低いほど霧化しやすいが、濃度が低すぎると、生成する液滴中に含まれる原料が少なくなるため、大量の化合物を得ることができない。また、水溶液の濃度が高すぎると、霧化しにくい。非晶質炭酸カルシウムを製造する場合には、0.7〜1.5mol・dm−3程度の原料水溶液を使用するのが好ましい。この範囲であれば、反応時間が長くなっても、反応温度が40℃程度と高温になっても、回収したアルコール中で非晶質炭酸カルシウムが結晶化することがなく安定に合成することができる。
【0024】
また、原料水溶液は、高周波超音波を印加すると、超音波のエネルギーにより昇温する傾向にある。水溶液の温度は特に限定されないが、原料水溶液の濃度が0.7mol・dm-3以下の条件で非晶質炭酸カルシウムを合成する場合には、冷却して原料の水溶液を室温以下に維持するのが好ましい。
【0025】
陽イオン源の水溶液と陰イオン源の水溶液の濃度の比率は、得ようとする化合物の理論量の比率と同一であるのが好ましい。例えば炭酸カルシウムであれば、炭酸カルシウム中には、炭酸とカルシウムが1:1のモル比で存在するので、陽イオン源の水溶液と陰イオンの水溶液の濃度(mol・dm−3)の比は1:1であるのが好ましい。
【0026】
原料水溶液などに印加される高周波超音波の周波数は、原料の水溶液が霧化できれば特に限定されないが、通常1.5〜2.4MHzである。
【0027】
反応は、陽イオン源の水溶液を霧化させてなる流束と、陰イオン源の水溶液を霧化させてなる流束とを衝突させて反応を行うが、これらが衝突する領域すなわち反応場には、これらのほかに、アルコールまたはアルコール水溶液を霧化させてなる流束を供給するのが好ましい。
陽イオン源の水溶液を霧化させてなる流束と、陰イオン源の水溶液を霧化させてなる流束とを、これらだけで衝突させると、陽イオン源の水溶液を霧化させてなる液滴同士、陰イオン源の水溶液を霧化させてなる液滴同士が互いにくっついて(多重衝突)、液滴が大きくなり、得られる化合物の粒径が大きくなりやすい。陰イオン源となる化合物はアルコールに対する溶解度が低いため、アルコールまたはアルコール水溶液を霧化させてなる液滴と衝突すると、陰イオン源となる化合物が析出し、陽イオン源となる化合物との反応ができなくなる。このため、アルコールまたはアルコール水溶液を霧化させえなる液滴を存在させることにより、多重衝突による化合物の粒径の巨大化を防ぐことができる。
【0028】
アルコールとしては、メタノール、エタノールなどの低級アルコールが挙げられる。また、アルコール水溶液の濃度は特に限定されないが、薄すぎると多重衝突を防ぐ効果がなくなるので、通常10容積%以上、好ましくは20〜70容積%程度である。濃すぎると霧化により生成する液滴の粒径が小さくなりすぎて、陰イオン源となる化合物を析出するのが難しくなるおそれがある。
アルコールまたはアルコール水溶液の供給割合は特に限定されないが、多すぎると反応が阻害されるので、陰イオン水溶液とアルコールまたはアルコール水溶液を同じ周波数の高周波超音波を印加する場合には、陰イオン水溶液:アルコールまたはアルコール水溶液の容量比が、通常、1:0.5〜2.0、好ましくは1:0.8〜1.2程度となるように供給すればよい。
【0029】
本発明の反応における反応時間は10分〜5時間程度、反応場の温度は5〜50℃程度である。
【0030】
霧化により生成した液滴同士を衝突させると、反応が生じて化合物が生成するが、依然として霧状の液滴であるので、これを反応装置内に設置したアルコールを収容した回収容器に回収する。その後、ろ過、冷水による洗浄、乾燥を行うことにより、粉体として回収することができる。回収に用いるアルコールは特に限定されないが、通常、メタノール、エタノールなどの低級アルコールが用いられる。
このようにして得られた化合物は、粒径が通常20〜100nm程度、BET法比表面積が通常20〜80m2/g程度と微小粒である。なお、粒径はBET法比表面から粒子を真球として算出したものである。
【実施例】
【0031】
以下本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図3に、実施例で用いる霧化合成のための簡単な装置概略を示す。なお図3(A)は、装置の平面構成を概念的に示す図、図3(B)は同斜視図あるが、図3(B)では後述する容器Cについては図示を省略してある。
容器Aには塩化カルシウム水溶液、容器Bには炭酸ナトリウム水溶液、そして容器Cには20%メタノール水溶液を収容してある。これらの容器A〜Cのすべてに投げ込み式の超音波霧化器S(本多電子株式会社製超音波霧化ユニット、霧化量:250cm3・h−1、霧化液滴:3μm、周波数:2.4MHz)を設置し、収容してある溶液を霧化させる。霧化で生じさせた液滴は容器A〜Cそれぞれに設けた小窓Aw〜Cwから排出させる。3つの容器A〜Cから排出された、すなわち3方向から排出された霧Ma、Mb、Mcが場Fとしての空間において衝突するように各容器A〜Cを配置する。この衝突混合で生じた霧Mmはメタノールを溜めた4か所の試料回収容器Dで回収し、これをろ過洗浄および乾燥する。ろ過洗浄および乾燥する装置については公知の装置を用いれば良いので、説明、図示などは省略する。
【0032】
図4は、上述のような作用のフローチャートを示すものである。図4中のA〜Dは、上述した容器A〜Dと対応している。
【0033】
このようにして得たものを試料とし、X線回折、熱重量測定、示差熱分析および走査型電子顕微鏡を用いて物性を測定した。
【0034】
<実施例1>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも1.0mol・dm−3として、図4のフローチャートに従って炭酸カルシウムの霧化合成を行った。反応時間は60分、雰囲気および原料水溶液は冷却しなかったので、反応終了時には反応雰囲気も原料水溶液も40℃程度になっていた。
得られた物質のX回折図形を図5に示す。回折ピークは観察されず、非晶質状態であった。これを熱分析(TG−DTA)測定した結果、図6に示すように335℃付近に非晶状態から結晶化に伴う発熱ピークが観察された。また、TG−DTAの減量から組成を求めた結果、この非晶質炭酸カルシウムの組成はCaCO3・0.5H2Oであった。BET法比表面積の測定を行ったところ、図7に示すように40m2・g−1程度であった。走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、図3に示すように粒径40nm程度の微細粒子であることが確認された。
【0035】
<実施例2>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも0.8mol・dm−3とした他は、実施例1と同様に炭酸カルシウムの霧化合成を行った。
得られた物質のX線回折図形を図5に示す。回折ピークは観察されず、非晶質状態であった。また、BET法比表面積の測定を行ったところ、図7に示すように60m2・g−1程度であった。
【0036】
<実施例3、4>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも0.6mol・dm−3(実施例3)、0.2mol・dm−3(実施例4)とした他は、実施例1と同様に炭酸カルシウムの霧化合成を行った。得られた物質のX線回折図形を図5に示す。生成物はカルサイトとバテライトであった。また、BET法比表面積の測定を行ったところ、図7に示すように10m2・g−1程度(実施例3)、2m2・g−1程度(実施例4)であった。
【0037】
<実施例5、6>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも実施例4と同様に、0.2mol・dm−3とし、反応時間を15分(実施例5)、30分(実施例6)とした他は、実施例1と同様に炭酸カルシウムの霧化合成を行った。得られた物質のX線回折図形を図8に示す。なお、図8の反応時間60分の結果は実施例4のデータの再掲である。
図8より、反応時間を15分とした場合、生成物は非晶質状態であるのに対して、反応時間が長くなるとカルサイトおよびバテライトの回折ピークが観察された。これより、非晶質炭酸カルシウムが初期に生成した後、結晶化しているものと考えられる。いずれの濃度においても非晶質炭酸カルシウムが生成するが、時間の経過に伴い結晶質化されているものと推察される。
【0038】
<実施例7、8>
塩化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの水溶液濃度をいずれも実施例4、6と同様に0.2mol・dm−3とし、反応装置を氷で冷却することにより反応場の温度を20℃程度に維持し、反応時間を30分(実施例7)、60分(実施例8)とした他は、実施例1と同様に炭酸カルシウムの霧化合成を行った。
得られた物質のX線回折図形を図9に示す。なお、図9には、比較のために、反応装置を冷却せず室温のままで行った実施例4(反応時間60分)と実施例6(反応時間30分)の結果も再掲する。なお、反応装置を冷却せず室温のまま反応を行うと、超音波照射のエネルギーにより反応場の温度は40℃程度になっていた。
図9より同じ反応時間でも冷却を行ったほうが、結晶性が低いことが分かる。これより非晶質炭酸カルシウムを合成する場合には温度が低いほうが好ましいことが分かる。
また、反応時間60分(実施例8)で得られた物質の走査型電子顕微鏡写真を図10に示す。比較のため、反応時間60分で冷却を行わなかった実施例4の結果も図10に示す。図10より、冷却を行ったほうが、得られる炭酸カルシウムの粒径が細かいことが分かる。
【0039】
さらに図3に示す霧化合成のための装置を用い、水酸化カルシウムを霧化合成する実施例について以下説明する。先ず図3に示す装置において、容器Aには塩化カルシウム水溶液、容器Bには水酸化ナトリウム水溶液、そして容器Cには20%メタノール水溶液を収容し、これらの容器A〜Cのすべてに投げ込み式の超音波霧化器Sを設置し、収容してある溶液を霧化させる。霧化で生じさせた液滴は容器A〜Cそれぞれに設けた小窓Aw〜Cwから排出させる。3つの容器A〜Cから排出された、すなわち3方向から排出された霧Ma、Mb、Mcが場Fとしての空間において衝突するように各容器A〜Cを配置する。この衝突混合で生じた霧Mmはメタノールを溜めた4か所の試料回収容器Dで回収し、これをろ過洗浄および乾燥する。ろ過洗浄および乾燥する装置については公知の装置を用いれば良いので、説明、図示などは省略する。
【0040】
図11は、上述のような作用のフローチャートを示すものである。図11中のA〜Dは、上述した容器A〜Dと対応している。
【0041】
このようにして得たものを試料とし、X線回折、熱重量測定等を行った。
【0042】
<実施例9>
塩化カルシウムおよび水酸化ナトリウムの水溶液濃度をいずれも0.5mol・dm−3として、図11のフローチャートに従って水酸化カルシウムの霧化合成を行った。反応時間を60分、45分、30分、15分にそれぞれ設定し、霧化合成により生成された水酸化カルシウムを含む生成物を得た。得られた物質のX線回折図形を図12に示す。その結果、いずれの反応時間においても目的とされる水酸化カルシウムおよびその炭酸化により、生成されたカルサイトおよびバテライトの回折ピークが観察された。
【0043】
<実施例10>
次に反応時間を60分、45分、30分、15分にそれぞれ設定し、霧化合成により生成された水酸化カルシウムを含む生成物を得た。得られた物質のBET法比表面積の測定を行い、その結果を図13に示す。この図から明らかなように反応時間の経過において生成物の比表面積が順次増大し、そのピークは反応時間45分において50m2・g−1程度であった。
【0044】
<実施例11>
次に反応時間を60分、45分、30分、15分にそれぞれ設定し、霧化合成により生成された水酸化カルシウムを含む生成物を得た。得られた物質の中の水酸化カルシウムの割合を熱重量分析により測定を行い、その結果を図14に示す。この図から明らかなように反応時間の経過において生成物中の水酸化カルシウム割合は、低下する傾向にあった。
【0045】
<実施例12>
上記図13および図14の結果に基づき、生成物中の水酸化カルシウムの比表面積の算出を行い、その結果を図15に示す。なお、この算出にあたっては、炭酸カルシウムの比表面積5m2・g−1と仮定した。図13の結果から反応時間の経過において水酸化カルシウムの比表面積が順次増大し、そのピークは反応時間45分において120m2・g−1程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、微細なカルシウム化合物や炭酸塩の製造方法を提供するものである。具体的には、本発明によれば、紙、ゴム、プラスチック、化粧品などの充填剤をはじめとする無機工業材料として利用される微細な炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、なかでも新規な非晶質炭酸カルシウムを製造することができる。
【符号の説明】
【0047】
A:塩化カルシウム水溶液用の容器
B:炭酸ナトリウム水溶液用の容器
C:メタノール水溶液用の容器
D:試料回収容器
F:場としての空間
Aw〜Cw:容器に設けた小窓
Ma、Mb、Mc:小窓から排出された霧
Mm:衝突混合で生じた霧はメタノール
S:投げ込み式の超音波霧化器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液と、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液とを、それぞれ超音波照射により霧化させ、発生した霧の流れである流束を、反応場としての空間において衝突させ、生成した液滴をろ過、乾燥させることを特徴とする微小粉からなる化合物の製造方法。
【請求項2】
アルコールまたはアルコール水溶液を超音波照射により霧化することにより発生した流束を反応場としての空間に供給することを特徴とする請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
得ようとする化合物が、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、水酸化カルシウムまたはリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の化合物の製造方法。
【請求項4】
得ようとする化合物が、CaCO3・0.5H2Oで表される非晶質炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項3に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液が、カルシウム源の水溶液であり、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液が炭酸源、硫酸源、水酸化物源またはリン酸源の水溶液であることを特徴とする請求項3に記載の化合物の製造方法。
【請求項6】
CaCO3・0.5H2Oで表される非晶質炭酸カルシウム。
【請求項1】
得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液と、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液とを、それぞれ超音波照射により霧化させ、発生した霧の流れである流束を、反応場としての空間において衝突させ、生成した液滴をろ過、乾燥させることを特徴とする微小粉からなる化合物の製造方法。
【請求項2】
アルコールまたはアルコール水溶液を超音波照射により霧化することにより発生した流束を反応場としての空間に供給することを特徴とする請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
得ようとする化合物が、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、水酸化カルシウムまたはリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の化合物の製造方法。
【請求項4】
得ようとする化合物が、CaCO3・0.5H2Oで表される非晶質炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項3に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
得ようとする化合物を構成する陽イオンを含む原料溶液が、カルシウム源の水溶液であり、得ようとする化合物を構成する陰イオンを含む原料溶液が炭酸源、硫酸源、水酸化物源またはリン酸源の水溶液であることを特徴とする請求項3に記載の化合物の製造方法。
【請求項6】
CaCO3・0.5H2Oで表される非晶質炭酸カルシウム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−116601(P2011−116601A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276688(P2009−276688)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年6月4日 無機マテリアル学会発行の「無機マテリアル学会第118回学術講演会 講演要旨集」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年6月4日 無機マテリアル学会発行の「無機マテリアル学会第118回学術講演会 講演要旨集」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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