微小粒子解析装置、微小粒子解析用マイクロチップ及び微小粒子解析方法
【課題】微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を効率よく分別することが可能な微小粒子解析装置の提供。
【解決手段】磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入される領域1と、送液方向下流において領域1に連通する流路2と、が形成されたマイクロチップaと、(2)領域1の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段bと、(3)流路2内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段c1及びc2と、を備える微小粒子解析装置Aを提供する。
【解決手段】磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入される領域1と、送液方向下流において領域1に連通する流路2と、が形成されたマイクロチップaと、(2)領域1の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段bと、(3)流路2内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段c1及びc2と、を備える微小粒子解析装置Aを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子解析装置、微小粒子解析用マイクロチップ及び微小粒子解析方法に関する。より詳しくは、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液をマイクロチップに導入し、磁界によって微小粒子を分離して、かつ、分離後の微小粒子をマイクロ流路内で、光学的、電気的もしくは磁気的に解析可能な化学的及び生物学的な分析を行う微小粒子解析装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や高効率化、集積化あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能なことから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップ上に配設された流路内で細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析する微小粒子分析技術がある。この微小粒子分析技術では、分析の結果、所定の条件を満たすポピュレーション(群)を微小粒子中から分別回収することも行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、「微粒子含有溶液導入流路と、当該流路の少なくとも一方の側部に配置されたシース流形成流路と、を有する微粒子分別マイクロチップ」が開示されている。この微粒子分別マイクロチップは、さらに「導入された微粒子を計測するための微粒子計測部位と、該微粒子計測部位の下流に設置された微粒子を分別回収するための2以上の微粒子分別流路と、微粒子計測部位から微粒子分別流路への流路口付近に設置された微粒子の移動方向を制御するための2以上の電極」を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−107099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に開示される微粒子分別マイクロチップ及びこのマイクロチップを有する微小粒子分別装置によれば、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を分別回収することができる。しかし、この微小粒子分別装置等は、導入される微小粒子の全てを微粒子計測部位において計測し、この中から所定の条件を満たす微小粒子をひとつひとつ電極によって微粒子分別流路へ分取する方式であるため、解析に長時間を要する。このため、特に、多数の微小粒子の中からごく少数の所定の条件を満たす微小粒子を分取するような場合には、解析効率が著しく悪くなる。
【0009】
そこで、本発明は、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を効率よく分別することが可能な微小粒子解析装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、(1)磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入される領域と、送液方向下流においてこの領域に連通する流路と、が形成されたマイクロチップと、(2)前記領域の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段と、(3)前記流路内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段と、を備える微小粒子解析装置を提供する。
この微小粒子解析装置によれば、磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、該流路内において、微小粒子の特性を光学的もしくは電気的あるいは磁気的な検出手段によって解析することができる。
また、この微小粒子解析装置によれば、磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、磁性を有さない微小粒子を回収することができる。
さらに、この微小粒子解析装置によれば、磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、その後、前記磁界発生手段による磁界形成を停止して、前記領域内に保持された磁性を有する微小粒子を、前記流路内に送流し、磁性を有する微小粒子を回収することができる。
この微小粒子解析装置において、上記(1)のマイクロチップは、前記領域に接続され、該記領域から送液されるサンプル液を前記流路に導入して、該流路を通流するシース液層流中にサンプル液層流を形成する、微小管を備える。これにより、微小管から導入されるサンプル液層流の周囲をシース液層流で取り囲んだ状態で流路に送液することができる。
上記(1)のマイクロチップの流路は、前記微小管によるサンプル液の導入位置よりも送液方向下流であって、かつ、前記検出手段による微小粒子の特性検出が行われる検出部よりも送液方向上流において、流路内径を送液方向に従って次第に又は段階的に小さく形成した絞込部を有する。これにより、シース液層流及びサンプル液層流を、層流幅が絞り込まれた状態で検出部に送液することができる。この絞り込まれたサンプル液層流により、サンプルに含まれる微小粒子が、流路内で個々に1列に連通するような状態で送液が可能となり、前記検出手段による微小粒子の特性検出が行われる検出部において、微小粒子1つ1つを個々に光学的、電気的、もしくは磁気的に解析することが可能となる。
上記(1)のマイクロチップの流路は、前記検出部よりも送流方向下流の分岐部において、該流路を中心にして三叉状に分岐する2つのシース液排出路を備える。これにより、検出部を通過した後、シース液層流の一部を流路2から分流させることができる。このシース液排出流路により、流路内に大量に導入されたシース液を、サンプル液層流から分離することが可能で、過度なシース液によるサンプル液の希釈を防ぐことができ、回収後のサンプル液の濃度を適度に保つことが可能となる。
上記(1)のマイクロチップの流路は、前記流路の前記分岐部よりも送液方向下流に送液されたサンプル液を、前記領域に還流する、又は、回収タンクへ導入する、送液制御手段を備える。このサンプル液の還流により、前記領域において、再度、サンプル液内の微小粒子が、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過することにより、サンプル液内の磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子の分離純度を高めることが可能となる。
上記(1)のマイクロチップにおいて、前記領域の内部空間は、前記磁界発生手段が形成する磁界の方向に沿う空間内径が、送液方向に従って次第に又は段階的に大きく形成してもよい。これにより、領域に導入されたサンプル液に含まれる磁性を有する微小粒子と磁界との間の磁気的作用力を、送液方向に従って次第に又は段階的に大きくできる。これにより、前記領域の内部空間内のサンプル導入部分に、磁性を有する微小粒子が過度に堆積することを防ぐことができ、前記領域の内部空間内に均一に磁性を有する微小粒子を保持することが可能となる。
上記(1)のマイクロチップにおいて、前記領域は、前記磁界発生手段が生成する磁気空間内で構成される折り返し流路として形成することができる。この折り返し流路により、前記領域において、再度、サンプル液内の微小粒子が、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過することにより、サンプル液内の磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子の分離純度を高めることが可能となる。
上記(1)のマイクロチップにおいて、前記領域の内部空間に臨む領域表面には、微細な凹凸加工が施されていてもよく、あるいは、磁性体の製膜がなされていてもよい。この微細な凹凸加工された領域表面により、実効的な磁界発生手段の面積を大きくすることが可能で、前記領域の内部空間内に均一に磁性を有する微小粒子を保持することが可能となったり、また、前記領域の内部空間に臨む領域表面の磁性体の製膜により、磁界発生手段の効率が高くすることが可能で、効率よく磁性を有する微小粒子の保持を行うことができる。 さらに、上記(1)のマイクロチップにおいて、前記領域の内部空間には、中空形状の磁性体チューブを配設することができる。磁性体チューブを、その長手方向と送液方向とを一致させて配設することにより、前記内部空間内における微小粒子の流れを整流することができ、かつ、磁性体チューブの内空表面及び外表面において磁性を有する微小粒子を効率よく保持することが可能となる。
【0011】
また、本発明は、上記(1)のマイクロチップ、及び、このマイクロチップが搭載され、(2)搭載されたマイクロチップの前記領域の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段と、(3)前記流路内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段と、を備える微小粒子解析装置をも提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を効率よく分別し、かつ分別した微小粒子のみを光学的、電気的もしくは磁気的に解析することが可能な微小粒子解析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る微小粒子解析装置の構成を説明する模式図である。
【図2】本発明に係る微小粒子解析用マイクロチップの構成を説明する模式図である。
【図3】図2中P‐P断面に対応する断面模式図である。
【図4】本発明に係る微小粒子解析用マイクロチップの他の好適な実施形態を示し、領域1の内部空間に中空形状の磁性体チューブを配設した実施形態を説明する模式図である。
【図5】磁性体チューブ14の好適な構成を説明する模式図である。図(A)〜(C)は斜視図、(D)は断面図である。
【図6】マイクロチップaの流路2内に形成されるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す断面模式図である。(A)は、図2拡大図中、Q−Q断面に対応し、(B)は、図2拡大図中R−R断面に対応する。
【図7】複数束ねられて配設された微小管3を示す断面模式図である。図は、図2拡大図中R−R断面に対応する。
【図8】マイクロチップaの絞込部25上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す断面模式図である。(A)は、図6中M1−M1断面に対応し、(B)は、図2中M2−M2断面に対応する。
【図9】流路内径を送液方向に従って段階的に小さく形成した絞込部25を示す断面模式図である。
【図10】シース液排出路26,27の分岐部の構成例を説明する模式図である。(A)は簡略斜視図、(B)は(A)中N1−N1断面に対応する断面図、(C)は(A)中N2−N2断面に対応する断面図である。
【図11】シース液排出路26,27の分岐部の構成例を説明する模式図である。(A)は簡略斜視図、(B)は(A)中N1−N1断面に対応する断面図、(C)は(A)中N2−N2断面に対応する断面図である。
【図12】シース液排出路26,27の分岐部の構成例を説明する模式図である。(A)は簡略斜視図、(B)は(A)中N1−N1断面に対応する断面図、(C)は(A)中N2−N2断面に対応する断面図である。
【図13】本発明に係る微小粒子解析方法(ネガティブセレクション)の手順を説明するフローチャートである。
【図14】本発明に係る微小粒子解析方法(ポジティブセレクション)の手順を説明するフローチャートである。
【図15】検出部の表面を陥凹させたマイクロチップaの構成を示す簡略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。
1.微小粒子解析装置の構成概略と解析対象微小粒子
(1)装置構成の概略
(2)解析対象微小粒子
2.微小粒子解析装置の構成詳細と動作
(1)磁気発生手段による微小粒子の分離
(2)微小管による層流形成
(3)絞込部による層流幅の絞り込み
(4)検出手段による特性検出
(5)シース液排出路によるサンプル液濃縮
(6)送液制御手段によるサンプル液の回収又は還流
3.微小粒子解析方法
(1)磁気非標識細胞の分取(ネガティブセレクション)
(1−1)細胞の標識
(1−2)細胞の分離・特性検出
(1−3)特性判定と回収又は還流
(1−3−1)特性判定
(1−3−2)回収
(1−3−3)還流
(2)磁気標識細胞の分取(ポジティブセレクション)
(2−1)細胞の標識
(2−2)細胞の分離・特性検出
(2−3)特性判定と回収又は還流
(2−3−1)特性判定
(2−3−2)回収
(2−3−3)還流
4.マイクロチップ
【0015】
1.微小粒子解析装置の構成概略と解析対象微小粒子
(1)装置構成の概略
始めに、図1及び図2を参照し、本発明に係る微小粒子解析装置の装置構成を概説する。図1は、本発明に係る微小粒子解析装置の構成の一部を示す模式図である。また、図2は、この微小粒子解析装置に搭載される微小粒子解析用マイクロチップの構成を示す模式図である。
【0016】
図1中、符号Aで示す微小粒子解析装置は、微小粒子解析用マイクロチップa(以下、単に「マイクロチップa」という)と、このマイクロチップaの所定の領域(領域1)に磁界を形成する磁界発生手段bと、マイクロチップaの所定の部位(流路2)において微小粒子の光学的特性を検出する検出手段c1及びc2と、を含んで構成されている。磁気発生手段bは、図1では便宜上マイクロチップaと離間させて図示したが、マイクロチップaの磁界形成領域に当接又は近接して設けられるものである。すなわち、磁気発生手段bは、マイクロチップaの外部構成とされる場合には、装置本体上の磁界形成領域に当接又は近接する部位に配置される。また、マイクロチップaの内部構成とされる場合には、磁気発生手段bは、マイクロチップa上の磁界形成領域の近傍に造り込まれて配設される。
【0017】
マイクロチップaには、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入される領域1(図1及び図2中、点線で囲った領域)が形成されている。この領域1の内部空間には、磁界発生手段bによって磁界が形成され得る。本実施形態において、領域1は、磁界発生手段bが生成する磁気空間内において構成された折り返し流路として形成されている。図1及び図2中、符号12、13は、それぞれ折り返し流路の折り返し部を示す。領域1は、折り返し部12、13において180度反転される折り返し流路となっている。なお、領域1は、例えば、点線で囲った領域を一つの幅広な流路として形成したものであってよく、磁界発生手段bが生成する磁気空間内において様々な形状に形成され得るものとする。
【0018】
図1及び図2中、符号11で示すサンプル液インレットから、不図示の送液ポンプによって領域1内に導入されたサンプル液は、磁気発生手段bが生成する磁気空間内を折り返し部11及び折返し部12を経て送液され、領域1に連通して形成された流路(図中、符号2参照)に送液される。なお、領域1と流路2は、後述する微小管3を介して連通されるものである。
【0019】
流路2に送液されたサンプル液は、検出手段c1及びc2による微小粒子の特性検出に供される。検出手段c1及びc2は、従来のマイクロチップを用いた微小粒子分析システムと同様の光学検出系又は電気検出系、磁気検出系として構成することができる。具体的には、例えば光学検出系は、レーザー光源と、流路2内を通流する微小粒子に対してレーザー光を集光・照射するための集光レンズなどからなる検出手段c1と、レーザー光の照射によって微小粒子から発生する光をダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等を用いて検出する検出手段c2と、により構成される。検出手段c2は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等であってよい。検出手段c2によって検出された光は、電気信号に変換され、全体制御部fに出力される。以下、特に言及しない限り、検出手段c1及びc2は、光学検出系として構成され、微小粒子の光学特性を検出する手段であるものとして説明する。
【0020】
図1及び図2中、符号21は、サンプル液を流路2からマイクロチップa外へ排出するためのサンプル液アウトレットを示す。検出手段c1及びc2による微小粒子の光学特性の検出後、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液は、回収タンクd又はサンプル液インレット11に送液される。図1中、符号e1及びe2は、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を、回収タンクd又はサンプル液インレット11のいずれかに選択して送液するための送液制御手段を示す。送液制御手段e1及びe2は、通常使用されるバルブと送液ポンプ等によって構成することができる。送液制御手段(バルブ)e1が閉じ、送液制御手段(バルブ)e2が開いた状態では、サンプル液は回収タンクdに導入される。この回収タンクdは複数設けられていてもよく、この場合、送液制御手段(バルブ)e2には、いずれか1以上の回収タンクdを選択してサンプル液を送液する機能を付与する。また、送液制御手段(バルブ)e1が開き、送液制御手段(バルブ)e2が閉じた状態では、サンプル液はサンプル液インレット11に導入され、領域1内に還流される。
【0021】
磁気発生手段b及び送液制御手段e1及びe2には、全体制御部fからの信号が出力される(図1参照)。磁気発生手段bは、この出力を受け、磁界を形成し又は磁界の形成を停止する。また、送液制御手段e1及びe2は、出力を受け、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を回収タンクd又はサンプル液インレット11のいずれかに送液する。
【0022】
(2)解析対象微小粒子
本発明において、解析対象としてサンプル液に含まれる「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものである。
【0023】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【0024】
「磁性を有する微小粒子」は、生体関連微小粒子を磁気標識したものや、鉄やコバルト、ニッケル等の強磁性体、マグネタイトやクロマイト等のフェライトなどを含む合成粒子とされる。「磁性を有さない微小粒子」は、磁気標識されていない生体関連微小粒子や、強磁性体やフェライトなどを含有しない合成粒子とされる。
【0025】
生体関連微小粒子の磁気標識は、例えば、磁気ビーズ抗体を用いて行うことができる。ここで、磁気ビーズ抗体とは、特定の物質(抗原)に対する特異的結合能を備えた抗体に、例えば、球状のマイクロビーズとして形成された強磁性体やフェライトなどを、架橋剤を用いて化学的に結合したものをいう。現在、種々の物質に対する磁気ビーズ抗体が市販されている。これらの磁気ビーズ抗体を微小粒子に含まれる物質(特に、微小粒子の表面に存在する物質)に結合させることで、微小粒子を磁気的に標識することができる。また、生体関連微小粒子の磁気標識は、例えば、強磁性体やフェライトなどの粉体と生体関連微小粒子とを、ポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤の存在下で攪拌し、磁性フロック(磁性凝集体)とすることにより行うことも考えられる。
【0026】
2.微小粒子解析装置の構成詳細と動作
以下、「磁性を有する微小粒子」として、磁気ビーズ抗体によって磁気標識された細胞と、「磁性を有しない微小粒子」として、磁気ビーズ抗体によって磁気標識されていない細胞と、を含むサンプル液を用いて、細胞の解析・分取を行う場合を例に、微小粒子解析装置Aの各装置構成の詳細と動作を説明する。磁気ビーズ抗体によって磁気標識された細胞を「磁気標識細胞」、磁気ビーズ抗体によって磁気標識されていない細胞を「磁気非標識細胞」というものとする。
【0027】
(1)磁気発生手段による微小粒子の分離
図1で説明したように、サンプル液インレット11から、不図示の送液ポンプによって領域1内に導入されたサンプル液は、磁気発生手段bが生成する磁気空間内を折り返し部11及び折返し部12を経て送液される。
【0028】
図3は、図2中P‐P断面に対応する断面模式図である。サンプル液は、図右から左(X軸負方向)に送液される。領域1には磁気発生手段bが当接又は近接されて配設されており、領域1の内部空間には磁気発生手段bによって磁界が形成されている。図中、ブロック矢印は、磁界発生手段bにより形成される磁界の方向を示している。
【0029】
磁界発生手段bは、例えば、電気的に印加される電磁石等のように、磁界の形成と停止を制御可能な手段として構成される。既に説明したように、磁気発生手段(電磁石)bは、マイクロチップaの外部構成とされる場合には、装置本体上の領域1に当接又は近接する部位に配設される。また、マイクロチップaの内部構成とされる場合には、磁気発生手段bは、マイクロチップa上の領域1の近傍、例えば図3に示すような領域1の下方に配設される。内部構成とする場合、例えば、マイクロチップaを構成する基板内に電磁石を作り込むことにより、又は基板と電磁石を積層することにより、磁気発生手段bを構成する。
【0030】
領域1の内部空間に磁界が形成された状態において、磁気標識細胞と磁気非標識細胞を含むサンプル液を領域1に導入すると、磁気標識細胞の磁化と磁界との間に磁気的作用力が作用する。この磁気的作用力によって、磁気標識細胞は、サンプル液の送液圧に抗って領域1の内部空間内に滞留するようにして、もしくは領域1の内部空間に臨む表面に吸着されるようにして、領域1内に保持される。他方、磁気非標識細胞は、磁界との間で磁気的作用力が作用しないため、サンプル液の送液圧に従って領域1に連通する流路2に送流されていく(図1参照)。
【0031】
このように、領域1及び磁気発生手段bは、導入されるサンプル液に含まれる細胞を、磁界発生手段bが生成する磁気空間を通過しない磁気標識細胞と、磁気空間を通過する磁気非標識細胞に分離する機能を発揮する。これにより、磁気発生手段bによる磁界形成時においては、サンプル液に含まれる細胞から磁気非標識細胞のみを分離して流路2に送流することが可能となる。
【0032】
さらに、磁気非標識細胞を流路2へ送流した後、磁界発生手段bによる磁界形成を停止して、磁気標識細胞への磁気的作用力を解除すれば、今度は領域1内に保持された磁気標識細胞のみを流路2に送流することができる。
【0033】
磁気非標識細胞と磁気標識細胞との分離を確実に行うためには、磁気標識細胞を領域1の内部空間に臨む表面(例えば、領域1の底面表面)へ吸着させることによって領域1に保持することが好ましい。このために、磁気発生手段bは、磁気標識細胞の磁化との間に十分な磁気的吸引力を生じさせ得る強度の磁界を形成する。
【0034】
磁気標識細胞を領域1の内部空間に臨む表面に吸着して保持する場合、該表面に微細な凹凸加工を施して表面面積を拡大させることによって、より多くの磁気標識細胞を表面に吸着することが可能となる。また、領域1の内部空間に臨む表面に、鉄やコバルト、ニッケル、フェライト等の磁性体を溶着又は蒸着等によってコートすることで、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力を高めることが可能となる。あるいは、上記内部空間に、上記の鉄やコバルト、ニッケル、フェライト等の磁性体を溶着又は蒸着等によってコートした磁気ビーズを充填することによって、空間内部の表面積を拡大させ、より多くの磁気標識細胞を表面に吸着することが可能となる。
【0035】
領域1の内部空間に臨む表面に磁気標識細胞を吸着して保持する場合、多量の磁気標識細胞が表面の偏った部位に吸着されると、当該部位に保持された磁気標識細胞によって領域1の内部空間が狭窄し、サンプル液の送液が阻害されるおそれがある。特に、領域1への導入当初のサンプル液には多量の磁気標識細胞が含まれるため、領域1の上流において、磁気標識細胞に対して強い磁気的吸着力が作用すると、磁気標識細胞が領域1の底面表面に一挙に吸着し、狭窄が生じやすい。これを防止するためには、領域1の上流では磁気標識細胞に対して比較的弱い磁気的吸着力を作用させ、下流に送流されるに従って徐々に強い磁気的吸着力を作用させることで、サンプル液中の磁気標識細胞を領域1の表面に均等に吸着させることが望ましい。
【0036】
微小粒子解析装置Aでは、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力を徐々に増加させることを目的として、磁界発生手段bが形成する磁界の方向に沿った領域1内部の空間内径(図3中、符号H参照)を、送液方向に従って次第に大きく形成している。図3では、磁気発生手段bを領域1の下方に配設して、領域1の内部空間にZ軸正方向の磁界を形成し、領域1の底面表面に磁気標識細胞を吸着する場合において、領域1の底面を送液方向に従って次第にZ軸負方向に傾斜する傾斜面として形成している。これによって、領域1内を通流される磁気標識細胞と磁気発生手段bとの距離(図中、符号D参照)が、送液方向に従って次第に小さくなるようにされている。
【0037】
磁気標識細胞と磁気発生手段bとの距離Dが小さく、磁気標識細胞と磁気発生手段bとが近くなる程、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力は大きくなる。逆に、磁気標識細胞と磁気発生手段bとの距離Dが大きく、磁気標識細胞と磁気発生手段bとが遠くなる程、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力は小さい。そのため、距離Dを送液方向に従って次第に小さく形成すれば、通流する磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力を徐々に増加させて、磁気標識細胞を領域1の表面に均等に吸着させることができる。
【0038】
図3では、磁気発生手段bを領域1の下方に配設して、領域1の底面を傾斜面とすることにより、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力を調整する場合を説明した。しかし、磁気発生手段bの配設位置や形成される磁界の方向によって、領域1の内部空間に臨む上面又は側面を傾斜面として形成してもよい。また、領域1の内部空間に臨む表面(底面、上面、側面)は、傾斜面として形成されるほかに、階段状の多断面として形成してもよい。
【0039】
また、磁気標識細胞を領域1の内部空間に吸着・保持するためには、図4に示すように、領域1の内部空間に、中空形状の磁性体チューブ14(図5も参照)を配設してもよい。磁性体チューブ14は、その長手方向と送液方向(図中矢印f参照)とが一致するように配設される。
【0040】
図4は、図2中P‐P断面に対応する断面模式図である。図4では、領域1の内部空間に、中空円筒形状に成形した磁性体チューブ14をZ軸方向に3段配設した場合を示した。図4において、磁性体チューブ14は、Y軸方向にも複数配設されるものである。領域1の内部空間に配設される磁性体チューブ14の数は特に限定されず、1以上とでき、好ましくは複数配設される。また、磁性体チューブ14の形状は、中空形状であれば、円筒に限られず、その断面は三角形や四角形などの多角形であってもよい。
【0041】
磁性体チューブ14は、鉄やコバルト、ニッケル、フェライト等の磁性体から形成され、図5(A)に示すように中空形状に成形されている。この磁性体チューブ14を、図4に示すように領域1の内部空間に配設すると、領域1に導入された磁気標識細胞は、磁性体チューブ14の内空、又は、磁性体チューブ14と磁性体チューブ14との間隙を送流される。そして、磁界発生手段bにより磁界が形成されると、磁性体チューブ14の内外を送流される磁気標識細胞が、チューブの内空表面及び外表面に吸着される。このとき、磁性体チューブ14の内径をr1、外径をr2、長さをlとすると、各磁性体チューブ14の磁気標識細胞を吸着し得る表面の面積Sは、「S=2πl(r1+r2)」となる。これにより、先に説明した領域1の内部空間に磁性体をコートした磁気ビーズを充填した場合と同様に、磁気標識細胞の吸着表面の面積を拡大させて、領域1の内部空間内に磁気標識細胞を効率よく保持することが可能となる。
【0042】
さらに、磁性体チューブ14によって、領域1に導入された細胞が、磁性体チューブ14の内空、又は、磁性体チューブ14と磁性体チューブ14との間隙を送流されるようにすることで、領域1の内部空間における細胞の流れを整流することができる。これにより、領域1の内部空間に細胞が詰まってサンプル液の送液が阻害されることを防止することも可能となる。
【0043】
磁性体チューブ14の内空表面及び外表面には、微細な凹凸加工を施すことにより、磁気標識細胞の吸着表面の面積をさらに拡大することができる。また、図5(B)及び(C)に示すように、磁性体チューブ14の管壁に微細な孔141を穿設したり、磁性体チューブ14を間隙142を有するコイル状(スプリング状)に成形したりすることにより、孔141又は間隙142から磁性体チューブ14の内外に行き来する磁気標識細胞を孔141部分又は間隙142部分の表面に吸着させることができ、磁気標識細胞の吸着表面の面積をさらに増すことが可能となる。
【0044】
磁性体チューブ14は、送液圧力の上昇を抑えること、またチューブ内空に細胞が詰まるのを防止することを目的として、肉厚の薄い中空円筒に成形することが望ましい。また、図5(D)に示すように、送液方向(図中矢印f参照)の上流側の開口が広く、下流側の開口が狭くなるように、肉厚にテーパを持たせた中空円筒に成形することも、チューブ内空に細胞が詰まることを防止するために有効である。
【0045】
(2)微小管による層流形成
領域1内を送液されたサンプル液は、領域1の終端部に接続する微小管(図1及び図2中、符号3参照)によって、領域1から流路2に導入される。領域2に導入されるサンプル液には、磁気発生手段bによる磁界形成時において分離送流される磁気非標識細胞、又は、その後磁界発生手段bによる磁界形成の停止時において送流される磁気標識細胞のいずれかが含まれ得る。
【0046】
図2拡大図中、符号31は微小管3の領域1終端部側の開口を、符号32は流路2側の開口を示す。流路2には、図中、符号22で示すシース液インレットから、不図示の送液ポンプによってシース液が導入される。シース液インレット22から導入されたシース液は層流を形成して、略90度折れ曲がる曲折部23,24を経て流路下流に送液される。
【0047】
開口31から供給されたサンプル液は、微小管13内を通流し、開口32から流路2を通流するシース液層流中に導入される。このように微小管13によって流路2を通流するシース液層流中にサンプル液を導入することによって、サンプル液層流の周囲をシース液層流で取り囲んだ状態で送液することが可能となる。
【0048】
図6は、流路2内に形成されるシース液層流とサンプル液層流を示す模式図である。図6(A)は、図2拡大図中、Q−Q断面に対応する断面模式図であり、微小管3の開口32と、流路2の絞込部25(後述)を拡大して示している。また、図6(B)は、図2拡大図中R−R断面に対応する断面模式図であり、流路2下流側から正面視した開口32を拡大して示している。
【0049】
流路2を通流するシース液層流(図中符号T参照)中に、微小管3によってサンプル液を導入することにより、図6(A)に示すように、サンプル液層流(符号S参照)を、シース液層流Tで取り囲んだ状態で送液することができる。
【0050】
図6では、微小管3を、その中心が流路2の中心と同軸上に位置するように配設した場合を示した。この場合、サンプル液層流Sは、流路2を通流するシース液層流Tの中心に導入されることとなる。シース液層流T中のサンプル液層流Sの形成位置は、流路2内における微小管3の配設位置を調節することによって任意に設定することができる。
【0051】
また、図6では、微小管3を1本の管として配設した場合を示した。微小管3は、これに限定されず、例えば、図7に示すように、複数の管(図では、4本)を束ねてバンドルとしたものであってもよい。微小管をバンドルとすることで、例えば、微小管3a, 3b, 3c, 3dのいずれか1つからサンプル液を、その他からサンプル液やシース液以外の溶液を導入することができる。束ねられる微小管の数は、2以上とでき、導入される溶液の数に応じて任意に設定すればよい。各微小管の流路2側開口と反対側の開口には、溶液を供給するためのインレットが設けられ、送液ポンプ等が接続される。
【0052】
具体的には、例えば、微小管3aから磁気非標識細胞又は磁気標識細胞を含むサンプル液を、微小管3b, 3c, 3dからこれらの細胞と反応し得る物質(反応物質)を含む溶液をそれぞれ導入して、流路2内に形成される層流中で細胞と物質との反応を行なうことが考えられる。反応物質としては、例えば、細胞表面に結合する抗体や、細胞と化学反応する化合物等が挙げられる。
【0053】
流路2において検出手段c1及びc2による細胞の光学特性検出を行う場合、例えば、微小管3b, 3c, 3dのいずれかから磁気非標識細胞又は磁気標識細胞の表面に結合する蛍光標識抗体を導入し、微小管3による層流形成時に細胞を蛍光標識することで、この蛍光物質に基づいた特性検出を行うことも可能である。また、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液は、送液制御手段e1及びe2によって領域1を還流され得るが、この際、例えば、微小管3bから化合物を導入して解析を行った後、還流されたサンプル液に微小管3cから他の化合物を導入して再解析を行うことができる。
【0054】
(3)絞込部による層流幅の絞り込み
微小管3によってサンプル液層流Sがシース液層流Tを取り囲んだ状態とされたサンプル液及びシース液は、送液方向下流に形成された絞込部(図2中、符号25参照)によって層流幅を絞り込まれる。
【0055】
絞込部25は、送液方向に従って流路内径が、流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成されている。すなわち、図2拡大図に示すように、絞込部25の流路側面は送液方向に従って次第にY軸方向に狭窄し、上面視錘形に形成されている。この形状によって、絞込部25は、シース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅をY軸方向に絞り込む機能を発揮する。さらに、絞込部25は、図6に示すように、流路底面が送液方向に従って深さ方向(図中Z軸方向)に高くなる傾斜面となるように形成されており、Z軸方向にも層流幅を絞り込むことが可能とされている。
【0056】
図8は、絞込部25の上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。図8(A)は、図6中M1-M1断面に対応する断面模式図であり、図8(B)は、図6中M2-M2断面に対応する断面模式図である。
【0057】
絞込部25を、送液方向に従って流路径がY軸及びZ軸方向に次第に小さくなるように形成したことにより、図8(A)に示すシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅を、図8(B)に示すようにY軸及びZ軸方向に絞り込むことが可能になる。なお、ここでは、シース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅を絞り込むと同時に、両層流をマイクロチップa上面側(図中、Z軸正方向)に偏向させている。このようにシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅を絞り込んで送液することにより、次に説明する特性検出において高い検出感度を得ることが可能となる(詳しくは後述する)。
【0058】
シース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅の絞り込みは、絞込部25の流路底面及び上面の両方を傾斜面として形成することにより行うこともできる。また、絞込部25は、図9(A)に示すように、流路上面(及び/又は底面)を、上流から下流に向かって階段状の多断面として形成してもよい。この場合、絞込部25はその上面視においても段階的に細くなる階段状に形成される。このように、絞込部25の流路径を、送液方向に従ってY軸及びZ軸方向に段階的に小さく形成して層流幅の絞り込みを行うと、絞込部25の成形上の利点が得られる。
【0059】
後述するように、マイクロチップa及び絞込部25等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行われる。このとき、絞込部25の形状が傾斜面であるよりも階段状であるほうが、絞込部25の成形が容易であり、特に機械加工や光造形による成形を簡単に行うことができる。
【0060】
例えば、機械加工の場合、絞込部25を傾斜面として形成するためには、数μmの単位でドリルを何度も往復させて切削する必要があり、非常に手間がかかる。また、ドリルの磨耗が進み易く、切削箇所にバリが発生することがある。これに対して、絞込部25を数段のみの階段状に形成すれば、切削が容易で、ドリルの磨耗も少なくバリが生じ難い。また、光造形による場合にも、絞込部25を数段のみの階段状に形成すれば、CADプロセスと光造形プロセスの反復回数を大幅に減少させることができ、製作時間及びコストを低減できる。なお、この点は、図3において説明したように、領域1の内部空間に臨む表面に磁気標識細胞を均等に吸着することを目的として、領域1の底面等を階段状の多断面として形成する場合についても同様である。
【0061】
絞込部25の流路内径を送液方向に従って段階的に小さく形成して絞り込みを行う場合、図9(B)に示すように、流路径を絞り込み後の層流幅に対応する内径にまで、一段階で小さく形成してしまうこともできる。この場合にも、シース液層流Tとサンプル液層流Sを、乱流を生じさせることなく、Y軸及びZ軸方向に絞り込むことが可能である。
【0062】
ここで、流路2を十分に細い流路として形成し、この流路2を通流するシース液層流中に、径の小さい微小管3を用いてサンプル液を導入すれば、予め層流幅が絞り込まれたシース液層流Tとサンプル液層流Sを形成することが可能とも考えられる。しかしながら、この場合には、微小管3の径を小さくすることによって、微小管3にサンプル液中に含まれる微小粒子が詰まるという問題が生じ得る。
【0063】
マイクロチップaでは、サンプル液中に含まれる微小粒子の径に対して十分に大きい径の微小管3を用いてサンプル液層流Sとシース液層流Tの形成を行った後に、絞込部25によって層流幅の絞り込みを行うように構成したことで、微小管3の詰まりの問題を解消することが可能である。
【0064】
微小管3の内径は、解析対象とするサンプル液に含まれる微小粒子の径に応じて適宜設定することができる。例えば、細胞の解析を行う場合には、好適な微小管3の内径は10〜500μm程度である。また、流路2の幅及び深さは、分析対象とする微小粒子の径を反映した微小管3の外径に応じて適宜設定すればよい。例えば、微小管3の内径が10〜500μm程度である場合、流路2の幅及び深さはそれぞれ100〜2000μm程度が好適である。なお、微小管13及び流路2の断面形状は、円形に限らず、楕円形や四角形、三角形など任意の形状とすることができる。
【0065】
絞込部25における絞り込み前のシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅は、流路2の幅及び深さと微小管3の径に依存して変化し得るが、絞込部25の流路径を適宜調整することによって任意の層流幅にまで絞り込みを行うことが可能である。例えば、図6において、絞込部25の流路長をL、流路底面の傾斜角度をθZとした場合、絞込部25におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅の絞り込み幅はL・tanθZとなる。従って、流路長L及び傾斜角度θZを適宜調整することによって任意の絞り込み幅を設定することが可能である。さらに、図2中、絞込部25流路側面のY軸方向における狭窄角度をそれぞれθY1、θY2とし、これらとθZを等しく形成することにより、図8(A)及び(B)に示したように、シース液層流Tとサンプル液層流Sを等方的に縮小して絞り込むことが可能となる。
【0066】
(4)検出手段による特性検出
シース液層流Tに取り囲まれ、絞込部25によって層流幅を絞り込まれたサンプル液層流Sは、検出手段c1及びc2による特性検出(ここでは、光学特性検出)に供される(図1参照)。サンプル液層流Sには、磁気発生手段bによる磁界形成時において分離送流される磁気非標識細胞、又は、その後磁界発生手段bによる磁界形成の停止時において送流される磁気標識細胞、の少なくとも一方が含まれ得る。
【0067】
検出手段c1は、流路2を送液されるサンプル液層流Sに含まれる磁気非標識細胞又は磁気標識細胞に対してレーザー光を集光・照射し、検出手段c2は、レーザー光の照射によって細胞から発生する光を検出する。検出手段c2によって検出される光は前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよく、これらの光は電気信号に変換されて全体制御部fに出力される(図1参照)。以下、流路2において、検出手段c1及びc2による特性検出が行われる位置を「検出部」と称するものとする。
【0068】
微小粒子解析装置Aでは、絞込部25によってサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅を絞り込むことにより、検出部においてレーザー光の焦点位置を細胞の送流位置に一致させて、精度良くレーザー光を照射できる。特に、絞込部25によれば、マイクロチップaの水平方向(図2中、Y軸方向)のみならず、垂直方向(図6中、Z軸方向)にもサンプル液層流Sの層流幅を絞り込むことができるため、流路2の深さ方向におけるレーザー光の焦点位置を細胞の送流位置と精緻に一致させることできる。このため、高精度にレーザー光を照射することができ、高い検出感度を得ることが可能となる。
【0069】
全体制御部fは、入力された電気信号に基づき、前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光の強度をパラメータとして、細胞の光学特性を判定する。光学特性判定のためのパラメータは、解析対象とする微小粒子に応じて、微小粒子の大きさを判定する場合には前方散乱光を、構造を判定する場合には側方散乱光を、微小粒子に標識された蛍光物質の有無を判定する場合には蛍光を採用する。全体制御部fによる光学特性の判定結果は、磁気発生手段b及び送液制御手段e1及びe2に対して出力される。
【0070】
ここでは、検出手段c1及びc2を光学検出系として構成する場合を例に説明したが、これらは電気検出系又は磁気検出系として構成することもできる。電気検出系又は磁気検出系として構成する場合、微小粒子の特性は、電気的又は磁気的特性として検出される。この場合、検出手段として微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。これらの特性は二以上を同時に測定することもできる。なお、微小粒子の電気的又は磁気的特性を測定する場合においても、絞込部25の効果によって、微小電極の測定位置と微小粒子の送流位置とを精緻に一致させて、高感度に特性を検出できる点は同様である。また、この磁気検出手段によって、上記内部空間を経てサンプル流に流れてきた微小粒子に、磁気抗体がついているかどうかの判別もすることが可能で、本来、上記内部空間で保持されるべき磁気標識細胞の取れ残り分や、磁気非標識細胞に対する磁気標識細胞の純度や濃度を計測することも可能である。
【0071】
(5)シース液排出路によるサンプル液濃縮
図2中、符号26,27は、流路2を中心として、流路2から三叉状に分岐するシース液排出路を示す。シース液排出路26,27の流路2からの分岐部は、流路2の検出部よりも送液方向下流に設けられる。シース液排出路26,27は、検出手段c1及びc2による特性検出後のシース液層流T及びサンプル液層流Sからシース液層流Tのみを分流し、サンプル液を濃縮された状態でサンプル液アウトレット21に送液するために機能する。シース液排出路26,27へ分流されたシース液は、符号261、262で示すシース液アウトレットからマイクロチップa外に排出される。
【0072】
図10及び図11は、シース液排出路26,27の分岐部を送液されるシース液層流Tとサンプル液層流Sを模式的に示す簡略斜視図(A)と、断面図(B)(C)である。図10及び図11において、(B)は(A)中N1−N1断面に対応し、(C)は(A)中N2−N2断面に対応する。
【0073】
図10は、分岐部において、シース液排出路26,27のY軸方向の流路幅と流路2の流路幅を、それぞれ1/3ずつとして三叉状に分岐させた場合を示している。この場合、図10(B)に示す分岐部上流のシース液層流Tは、分岐部においてY軸方向に3分割されたT1及びT2部分がシース液排出路26,27に分流される。これにより、分岐部下流のシース液層流Tは、図10(C)に示すように、サンプル液層流Sを含むT3部分のみとなる。このようにシース液層流Tの一部をシース液排出路に分流させることで、サンプル液はおよそ3倍に濃縮される。
【0074】
図11は、分岐部におけるシース液排出路26,27のY軸方向の流路幅をそれぞれ4/9とし、流路2の流路幅を1/9とした場合を示している。この場合、分岐部下流のシース液層流Tは、図11(C)に示すように、Y軸方向に9分割された1/9部分に対応する部分であって、サンプル液層流Sを含む部分T3のみとなる。これにより、サンプル液はおよそ9倍に濃縮される。
【0075】
シース液排出路26,27へのシース液層流Tの分流比率、すなわちサンプル液の濃縮倍率は、分岐部におけるシース液排出路26,27の流路幅と流路2の流路幅の比率を調整することによって任意に設定できる。分岐部におけるシース液排出路26,27及び流路2の流路幅比率は、層流形成時の流路2の幅及び深さ、微小管3の内径等を勘案して、所望の濃縮倍率が達成されるように調整される。また、このとき、サンプル液層流Sを含む部分T3が流路2下流へ送液されるように、流路2内における微小管3の配設位置も考慮される必要がある。
【0076】
流路2に設けられる分岐部は1つに限られず、2以上とすることも可能である。図12は、流路2にシース液排出路の分岐部を2つ設けた場合を示している。図は、図10に示したシース液排出路26,27の分岐部を経た流路2に、さらに図11に示した分岐部を接続した構成を示す。この例によれば、最初の分岐部でサンプル液をおよそ3倍、次の分岐部でおよそ9倍濃縮することができ、サンプル液を約27倍に濃縮してサンプル液アウトレット21に送液することが可能となる。
【0077】
(6)送液制御手段によるサンプル液の回収又は還流
シース液排出路の分岐部を経て、サンプル液アウトレット21からマイクロチップa外に排出されるサンプル液は、送液制御手段e1及びe2によって、回収タンクd又はサンプル液インレット11のいずれかに選択的に送液される。
【0078】
送液制御手段e1及びe2には、全体制御部fから信号が出力されており(図1参照)、送液制御手段e1及びe2はこの出力を受けて、サンプル液の送液先を回収タンクd又はサンプル液インレット11のいずれかに切換える制御を行う。この送液制御手段e1及びe2による制御は、同じく全体制御部fからの出力を受けて磁界の形成又は磁界形成の停止を行う磁気発生手段bの制御と連動して行われる。全体制御部fによる送液制御手段e1及びe2と磁気発生手段bの連動制御については、次の「微小粒子解析方法」において詳しく説明する。
【0079】
3.微小粒子解析方法
次に、本発明に係る微小粒子解析方法について説明する。ここでは、「磁性を有する微小粒子」として磁気標識細胞と、「磁性を有しない微小粒子」として磁気非標識細胞と、を含むサンプル液を用いて、微小粒子解析装置Aによる細胞の解析・分取を行う場合を例に説明する。分取の対象とする細胞は、磁気非標識細胞であっても磁気標識細胞であってもよい。以下、それぞれの細胞を分取する場合について順に説明する。
【0080】
(1)磁気非標識細胞の分取(ネガティブセレクション)(1−1)細胞の標識
まず、磁気非標識細胞を分取対象とする方法(以下、「ネガティブセレクション法」という)について、図13及び図1を参照しながら説明する。ネガティブセレクション法では、サンプル液に含まれる細胞のうち、分取対象としない細胞(非目的細胞)を、磁気ビーズ抗体を用いて磁気標識する(図12手順S1及び「表1」参照)。一方、分取対象とする細胞(目的細胞)には、検出手段c1及びc2による検出が可能な標識を行う。例えば、検出手段c1及びc2が光学検出系として構成される場合、目的細胞を蛍光標識抗体によって蛍光標識する。また、検出手段c1及びc2が電気的もしくは磁気的検出手段である場合には、目的細胞を電気的あるいは磁気的に標識する。
【0081】
【表1】
【0082】
(1−2)細胞分離・特性検出
細胞の標識を行ったサンプル液を、マイクロチップaのサンプル液インレット11から領域1に導入する(図13手順S2参照)。領域1の内部空間には磁気発生手段bによる磁界が形成されており、領域1に導入されたサンプル液に含まれる目的細胞及び非目的細胞は、磁気発生手段bが生成する磁気空間内を折り返し部11及び折返し部12を経て送液される(図1参照)。
【0083】
この際、磁気標識された非目的細胞には、磁界との間に磁気的作用力が作用する。この磁気的作用力によって、非目的細胞は、サンプル液の送液圧に抗って領域1の内部空間内に滞留するようにして、もしくは領域1の内部空間に臨む表面に吸着されるようにして、領域1内に保持される。その結果、サンプル液に含まれる細胞は、磁界発生手段bが生成する磁気空間を通過しない非目的細胞と、磁気空間を通過する磁気非標識の目的細胞と、に分離され、目的細胞のみを含むサンプル液が領域1の終端部から微小管3を介して領域2に導入される。
【0084】
流路2内に導入されたサンプル液は、周囲をシース液層流で取り囲まれた層流となって、絞込部25による層流幅の絞り込みが行われた後、検出手段c1及びc2による特性検出に供される。検出部に送液されるサンプル液層流中には、蛍光標識等がなされた目的細胞が含まれている。また、目的細胞に加えて、領域1において磁気的作用力が十分に作用しなかったことによって分離されずに領域2へ導入された一部の非目的細胞も含まれ得る。検出手段c1及びc2は、これらの細胞について、目的細胞に標識された蛍光物質から生じる蛍光等に基づいて特性検出を行い、電気信号に変換して全体制御部fに出力する
【0085】
(1−3)特性判定と回収又は還流
(1−3−1)特性判定
全体制御部fは、入力された電気信号に基づき、検出手段c1及びc2によって検出された細胞の特性判定を行う(図13手順S3参照)。特性判定は、蛍光物質からの蛍光強度や散乱光強度等をパラメータとして、検出された細胞をゲーティングすることにより行われる。
【0086】
(1−3−2)回収
全体制御部fは、検出される細胞の所定割合が分取対象とする細胞のゲーティングに入り、流路2を通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所定値以上となったと判定された場合、判定結果「Yes」を送液制御手段e1及びe2に出力する。送液制御手段e1及びe2は、この出力を受けて、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を回収タンクdに導入する(図13手順S4参照)。これにより、回収タンクdに所定割合で目的細胞を含むサンプル液を回収することができる。なお、この際、シース液排出路26,27(図9等参照)によって、回収されるサンプル液の希釈が防止される。
【0087】
(1−3−3)還流
一方、検出手段c1及びc2によって検出される細胞のうち、分取対象とする細胞のゲーティングに入る細胞の割合が所定値未満であり、流路2に多数の非目的細胞が通流していると判定された場合、全体制御部fは判定結果「No」を送液制御手段e1及びe2に出力する。送液制御手段e1及びe2は、この出力を受けて、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を、サンプル液インレット11に導入し、領域1内に還流させる(図13手順S5参照)。還流されたサンプル液については、再度「分離・特性検出」の手順S2が行われる。なお、この際、シース液排出路26,27(図9等参照)によって、還流されるサンプル液の希釈が防止される。
【0088】
特性判定S3、還流S5、分離・特性検出S1の手順は、検出される細胞の所定割合が分取対象とする細胞のゲーティングに入り、流路2を通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所定値以上となったと判定されるまで繰り返される。そして、目的細胞の割合が所定値以上となった時点で、サンプル液が回収タンクdに導入され、所定割合で目的細胞を含むサンプル液が回収される。
【0089】
以上のように、非目的細胞に磁気標識を行い、領域2に通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所定値以上となるまで、領域1における目的細胞と非目的細胞の分離を行うことにより、所定割合で目的細胞を含むサンプル液を回収することが可能である。この方法によれば、従来の微小粒子分別装置と異なり、細胞を電極等によってひとつひとつ分別流路へ分取する必要がないため、解析時間を短縮することができ、効率よく目的細胞を分取することができる。また、特性判定S3、還流S5、分離・特性検出S1の手順を、領域2に通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所望の値になるまで繰り返すことによって、回収タンクdに高純度の目的細胞を回収することができる。
【0090】
なお、このネガティブセレクション法において、細胞の標識の手順S1は、「表2」に示すような組み合わせによって行うことも可能である。
【0091】
【表2】
【0092】
(2)磁気標識細胞の分取(ポジティブセレクション)
(2−1)細胞の標識
次に、磁気標識細胞を分取対象とする方法(以下、「ポジティブセレクション法」という)について、図14及び図1を参照しながら説明する。ポジティブセレクション法では、サンプル液に含まれる細胞のうち、目的細胞に、磁気ビーズ抗体を用いた磁気標識と、検出手段c1及びc2による検出が可能な標識と、を併せて行う(図14手順S1及び「表3」参照)。一方、非目的細胞には、標識を行わない。
【0093】
【表3】
【0094】
(2−2)細胞分離・特性検出
細胞の標識を行ったサンプル液を、マイクロチップaのサンプル液インレット11から領域1に導入する(図14手順S2参照)。領域1の内部空間には磁気発生手段bによる磁界が形成されており、領域1に導入されたサンプル液に含まれる目的細胞及び非目的細胞は、磁気発生手段bが生成する磁気空間内を折り返し部11及び折返し部12を経て送液される。
【0095】
この際、磁気標識された目的細胞には、磁界との間に磁気的作用力が作用する。この磁気的作用力によって、目的細胞は、サンプル液の送液圧に抗って領域1の内部空間内に滞留するようにして、もしくは領域1の内部空間に臨む表面に吸着されるようにして、領域1内に保持される。その結果、サンプル液に含まれる細胞は、磁界発生手段bが生成する磁気空間を通過しない目的細胞と、磁気空間を通過する磁気非標識の非目的細胞と、に分離され、非目的細胞のみを含むサンプル液が、領域1の終端部から微小管3を介して領域2に導入される。
【0096】
流路2内に導入されたサンプル液は、周囲をシース液層流で取り囲まれた層流となって、絞込部25による層流幅の絞り込みが行われた後、検出手段c1及びc2による特性検出に供される。この検出部に送液されるサンプル液層流中には、非標識の非目的細胞が含まれている。また、非目的細胞に加えて、領域1において磁気的作用力が十分に作用しなかったことによって分離されずに領域2へ導入された一部の目的細胞も含まれ得る。検出手段c1及びc2は、これらの細胞について、目的細胞に標識された蛍光物質から生じる蛍光等に基づいて特性検出を行い、電気信号に変換して全体制御部fに出力する。
【0097】
(2−3)特性判定と回収又は還流
(2−3−1)特性判定
全体制御部fは、入力された電気信号に基づき、検出手段c1及びc2によって検出された細胞の特性判定を行う(図12手順S3参照)。特性判定は、蛍光物質からの蛍光強度や散乱光強度をパラメータとして、検出された細胞をゲーティングすることにより行われる。
【0098】
(2−3−2)回収
全体制御部fは、検出される細胞のうち、分取対象とする細胞のゲーティングに入る細胞の割合が所定値未満であり、分離されずに領域2に通流している目的細胞が十分に少ないと判定された場合、判定結果「Yes」を送液制御手段e1及びe2に出力する。送液制御手段e1及びe2は、この出力を受けて、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を回収タンクd1に導入する(図14手順S4参照)。これにより、回収タンクd1に非目的細胞を含むサンプル液が回収される。回収タンクd1に回収された非目的は、不要な細胞として廃棄されてよい。
【0099】
次いで、全体制御部fは、磁気発生手段bに判定結果「Yes」を出力し、磁界形成を停止させる。これにより、領域1内での目的細胞の保持が解除され、目的細胞が流路2に送流される。同時に、全体制御部fは、送液制御手段e1及びe2にも出力を行い、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を回収タンクd2に導入する(図14手順S5参照)。これにより、回収タンクd2に所定割合で目的細胞を含むサンプル液を回収することができる。なお、この際、シース液排出路26,27(図9等参照)によって、回収されるサンプル液の希釈が防止される。
【0100】
この目的細胞回収の手順S5では、磁界形成の停止後、流路2に送流されてくる目的細胞を、検出手段c1及びc2によって特性検出し、その所定割合が目的細胞のゲーティングに入っていることを確認してもよい。
【0101】
(2−3−3)還流
一方、検出手段c1及びc2によって検出される細胞のうち、分取対象とする細胞のゲーティングに入る細胞の割合が所定値以上であり、流路2に多数の目的細胞が通流していると判定された場合、全体制御部fは判定結果「No」を送液制御手段e1及びe2に出力する。送液制御手段e1及びe2は、この出力を受けて、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を、サンプル液インレット11に導入し、領域1内に還流させる(図14手順S6参照)。還流されたサンプル液については、再度「分離・特性検出」の手順S2が行われる。なお、この際、シース液排出路26,27(図9等参照)によって、還流されるサンプル液の希釈が防止される。
【0102】
特性判定S3、還流S6、分離・特性検出S1の手順は、分取対象とする細胞のゲーティングに入る細胞の割合が所定値未満となり、分離されずに領域2に通流している目的細胞が十分に少なくなったと判定されるまで繰り返される。そして、目的細胞の割合が所定値未満となった時点で、まず非目的細胞を含むサンプル液が回収タンクd1に導入され、次いで磁気発生手段bによる磁界形成が停止された後、目的細胞を含むサンプル液が回収タンクd2に導入され、所定割合で目的細胞を含むサンプル液が回収される。
【0103】
以上のように、目的細胞に磁気標識を行い、領域2に通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所定値未満となるまで、領域1における目的細胞と非目的細胞の分離を行うことによっても、所定割合で目的細胞を含むサンプル液を回収することが可能である。
【0104】
なお、このポジティブセレクション法において、細胞の標識S1の手順は、「表4」に示すような組み合わせで行うことも可能である。
【0105】
【表4】
【0106】
4.マイクロチップ
本発明に係る微小粒子解析用マイクロチップaは、上記の微小粒子解析装置Aにおいて説明した領域1、流路2及び微小管3等の構成を備えるものである。マイクロチップaは、領域1の内部空間に磁界を形成する磁気発生手段bを備えていてもよい。この場合、磁気発生手段bは、マイクロチップaを構成する基板内に電磁石として作り込まれたり、基板に電磁石を積層したりすることによって設けられる。以上のマイクロチップaの各構成の詳細及び動作は、先に説明した通りであるので、ここでは説明を割愛する。
【0107】
マイクロチップaの材料は、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)とすることができる。検出手段c1及びc2によって微小粒子の光学特性を検出する場合、マイクロチップaは、光透過性を有する材料であって、自家蛍光が少なく、波長分散及び光学誤差が少ない材料によって形成される。さらに、この場合には、マイクロチップaの表面に光ディスクに用いられる、いわゆるハードコート層を積層することが望ましい。マイクロチップaの表面に指紋等の汚れが付着すると、透過光量が減少して、光学分析精度が低下するおそれがある。特に、流路2において検出手段c1及びc2による光学特性検出が行われる検出部の表面に汚れが付着すると、正確な分析が不能となる可能性がある。マイクロチップaの表面に透明性及び防汚性に優れたハードコート層を積層することで、このような汚れによる分析精度の低下を防止することが可能である。
【0108】
ハードコート層は、通常使用されるハードコート剤を用いて製膜でき、例えば、フッ素系又はシリコン系防汚添加剤等の指紋付着防止剤を添加したUV硬化型ハードコート剤等を使用して製膜できる。特開2003-157579号公報には、ハードコード剤として、活性エネルギ線によって重合しうる重合性官能基を2個以上有する多官能性化合物(A)、メルカプト基を有する有機基と加水分解性基または水酸基とがケイ素原子に結合しているメルカプトシラン化合物で表面修飾された平均粒径1〜200nmの修飾コロイド状シリカ(B)、および、光重合開始剤(C)を含む活性エネルギ線硬化性組成物(P)が開示されている。
【0109】
流路2の検出部表面への汚れ付着を防止するためには、図15に示すように、検出部(図中、符号F参照)の表面をマイクロチップaの他の部位表面に比べて陥凹させて、検出部表面への指先や汚れの接触を防止することも有効である。図15(A)は、マイクロチップa表面の検出部部分に窪みを形成した場合、図15(B)は、マイクロチップa表面に検出部部分を含む溝を形成した場合を示す。
【0110】
微小管3の材料には、金属やガラス、セラミックス、各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)製のチューブを採用できる。シリカチューブは、内径が数十〜数百μmのものが市販されており、適宜好適な径のチューブを利用できるため、微小管3として好適に採用され得る。シリカチューブは高い耐熱性を有するため、基板層を熱圧着する際にも熱変形が生じ難い。
【0111】
マイクロチップaに配設される領域1及び流路2等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。微小管3は、領域1等を成形した基板層に、領域1の終端部と流路2との間を連絡するように形成された溝に嵌め込むようにして配置する。微小管の配置後、領域1等を成形した基板層を、同じ材質又は異なる材質の基板層でカバーシールし、マイクロチップaを形成する。
【0112】
基板層の貼り合わせは、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等の従来公知の手法によって行うことができる。微小管3が嵌め込まれた溝は、微小管3を基板層に固定するための接着剤によって封止される。溝の封止によって、領域1と流路2とが微小管3を介してのみ連絡されるようになり、領域1の終端部に送液されるサンプル液が微小管3により流路2に導入されるようになる。
【符号の説明】
【0113】
A 微小粒子解析装置
a 微小粒子解析用マイクロチップ
b 磁界発生手段
c1, c2 検出手段
d 回収タンク
e1, e2 送液制御手段
f 全体制御部
S サンプル液層流
T シース液層流
1 領域
11 サンプル液インレット
14 磁性体チューブ
2 流路
21 サンプル液アウトレット
22 シース液インレット
25 絞込部
26, 27 シース液排出路
261, 271 シース液アウトレット
3 微小管
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子解析装置、微小粒子解析用マイクロチップ及び微小粒子解析方法に関する。より詳しくは、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液をマイクロチップに導入し、磁界によって微小粒子を分離して、かつ、分離後の微小粒子をマイクロ流路内で、光学的、電気的もしくは磁気的に解析可能な化学的及び生物学的な分析を行う微小粒子解析装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や高効率化、集積化あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能なことから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップ上に配設された流路内で細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析する微小粒子分析技術がある。この微小粒子分析技術では、分析の結果、所定の条件を満たすポピュレーション(群)を微小粒子中から分別回収することも行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、「微粒子含有溶液導入流路と、当該流路の少なくとも一方の側部に配置されたシース流形成流路と、を有する微粒子分別マイクロチップ」が開示されている。この微粒子分別マイクロチップは、さらに「導入された微粒子を計測するための微粒子計測部位と、該微粒子計測部位の下流に設置された微粒子を分別回収するための2以上の微粒子分別流路と、微粒子計測部位から微粒子分別流路への流路口付近に設置された微粒子の移動方向を制御するための2以上の電極」を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−107099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に開示される微粒子分別マイクロチップ及びこのマイクロチップを有する微小粒子分別装置によれば、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を分別回収することができる。しかし、この微小粒子分別装置等は、導入される微小粒子の全てを微粒子計測部位において計測し、この中から所定の条件を満たす微小粒子をひとつひとつ電極によって微粒子分別流路へ分取する方式であるため、解析に長時間を要する。このため、特に、多数の微小粒子の中からごく少数の所定の条件を満たす微小粒子を分取するような場合には、解析効率が著しく悪くなる。
【0009】
そこで、本発明は、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を効率よく分別することが可能な微小粒子解析装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、(1)磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入される領域と、送液方向下流においてこの領域に連通する流路と、が形成されたマイクロチップと、(2)前記領域の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段と、(3)前記流路内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段と、を備える微小粒子解析装置を提供する。
この微小粒子解析装置によれば、磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、該流路内において、微小粒子の特性を光学的もしくは電気的あるいは磁気的な検出手段によって解析することができる。
また、この微小粒子解析装置によれば、磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、磁性を有さない微小粒子を回収することができる。
さらに、この微小粒子解析装置によれば、磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、その後、前記磁界発生手段による磁界形成を停止して、前記領域内に保持された磁性を有する微小粒子を、前記流路内に送流し、磁性を有する微小粒子を回収することができる。
この微小粒子解析装置において、上記(1)のマイクロチップは、前記領域に接続され、該記領域から送液されるサンプル液を前記流路に導入して、該流路を通流するシース液層流中にサンプル液層流を形成する、微小管を備える。これにより、微小管から導入されるサンプル液層流の周囲をシース液層流で取り囲んだ状態で流路に送液することができる。
上記(1)のマイクロチップの流路は、前記微小管によるサンプル液の導入位置よりも送液方向下流であって、かつ、前記検出手段による微小粒子の特性検出が行われる検出部よりも送液方向上流において、流路内径を送液方向に従って次第に又は段階的に小さく形成した絞込部を有する。これにより、シース液層流及びサンプル液層流を、層流幅が絞り込まれた状態で検出部に送液することができる。この絞り込まれたサンプル液層流により、サンプルに含まれる微小粒子が、流路内で個々に1列に連通するような状態で送液が可能となり、前記検出手段による微小粒子の特性検出が行われる検出部において、微小粒子1つ1つを個々に光学的、電気的、もしくは磁気的に解析することが可能となる。
上記(1)のマイクロチップの流路は、前記検出部よりも送流方向下流の分岐部において、該流路を中心にして三叉状に分岐する2つのシース液排出路を備える。これにより、検出部を通過した後、シース液層流の一部を流路2から分流させることができる。このシース液排出流路により、流路内に大量に導入されたシース液を、サンプル液層流から分離することが可能で、過度なシース液によるサンプル液の希釈を防ぐことができ、回収後のサンプル液の濃度を適度に保つことが可能となる。
上記(1)のマイクロチップの流路は、前記流路の前記分岐部よりも送液方向下流に送液されたサンプル液を、前記領域に還流する、又は、回収タンクへ導入する、送液制御手段を備える。このサンプル液の還流により、前記領域において、再度、サンプル液内の微小粒子が、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過することにより、サンプル液内の磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子の分離純度を高めることが可能となる。
上記(1)のマイクロチップにおいて、前記領域の内部空間は、前記磁界発生手段が形成する磁界の方向に沿う空間内径が、送液方向に従って次第に又は段階的に大きく形成してもよい。これにより、領域に導入されたサンプル液に含まれる磁性を有する微小粒子と磁界との間の磁気的作用力を、送液方向に従って次第に又は段階的に大きくできる。これにより、前記領域の内部空間内のサンプル導入部分に、磁性を有する微小粒子が過度に堆積することを防ぐことができ、前記領域の内部空間内に均一に磁性を有する微小粒子を保持することが可能となる。
上記(1)のマイクロチップにおいて、前記領域は、前記磁界発生手段が生成する磁気空間内で構成される折り返し流路として形成することができる。この折り返し流路により、前記領域において、再度、サンプル液内の微小粒子が、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過することにより、サンプル液内の磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子の分離純度を高めることが可能となる。
上記(1)のマイクロチップにおいて、前記領域の内部空間に臨む領域表面には、微細な凹凸加工が施されていてもよく、あるいは、磁性体の製膜がなされていてもよい。この微細な凹凸加工された領域表面により、実効的な磁界発生手段の面積を大きくすることが可能で、前記領域の内部空間内に均一に磁性を有する微小粒子を保持することが可能となったり、また、前記領域の内部空間に臨む領域表面の磁性体の製膜により、磁界発生手段の効率が高くすることが可能で、効率よく磁性を有する微小粒子の保持を行うことができる。 さらに、上記(1)のマイクロチップにおいて、前記領域の内部空間には、中空形状の磁性体チューブを配設することができる。磁性体チューブを、その長手方向と送液方向とを一致させて配設することにより、前記内部空間内における微小粒子の流れを整流することができ、かつ、磁性体チューブの内空表面及び外表面において磁性を有する微小粒子を効率よく保持することが可能となる。
【0011】
また、本発明は、上記(1)のマイクロチップ、及び、このマイクロチップが搭載され、(2)搭載されたマイクロチップの前記領域の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段と、(3)前記流路内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段と、を備える微小粒子解析装置をも提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を効率よく分別し、かつ分別した微小粒子のみを光学的、電気的もしくは磁気的に解析することが可能な微小粒子解析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る微小粒子解析装置の構成を説明する模式図である。
【図2】本発明に係る微小粒子解析用マイクロチップの構成を説明する模式図である。
【図3】図2中P‐P断面に対応する断面模式図である。
【図4】本発明に係る微小粒子解析用マイクロチップの他の好適な実施形態を示し、領域1の内部空間に中空形状の磁性体チューブを配設した実施形態を説明する模式図である。
【図5】磁性体チューブ14の好適な構成を説明する模式図である。図(A)〜(C)は斜視図、(D)は断面図である。
【図6】マイクロチップaの流路2内に形成されるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す断面模式図である。(A)は、図2拡大図中、Q−Q断面に対応し、(B)は、図2拡大図中R−R断面に対応する。
【図7】複数束ねられて配設された微小管3を示す断面模式図である。図は、図2拡大図中R−R断面に対応する。
【図8】マイクロチップaの絞込部25上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す断面模式図である。(A)は、図6中M1−M1断面に対応し、(B)は、図2中M2−M2断面に対応する。
【図9】流路内径を送液方向に従って段階的に小さく形成した絞込部25を示す断面模式図である。
【図10】シース液排出路26,27の分岐部の構成例を説明する模式図である。(A)は簡略斜視図、(B)は(A)中N1−N1断面に対応する断面図、(C)は(A)中N2−N2断面に対応する断面図である。
【図11】シース液排出路26,27の分岐部の構成例を説明する模式図である。(A)は簡略斜視図、(B)は(A)中N1−N1断面に対応する断面図、(C)は(A)中N2−N2断面に対応する断面図である。
【図12】シース液排出路26,27の分岐部の構成例を説明する模式図である。(A)は簡略斜視図、(B)は(A)中N1−N1断面に対応する断面図、(C)は(A)中N2−N2断面に対応する断面図である。
【図13】本発明に係る微小粒子解析方法(ネガティブセレクション)の手順を説明するフローチャートである。
【図14】本発明に係る微小粒子解析方法(ポジティブセレクション)の手順を説明するフローチャートである。
【図15】検出部の表面を陥凹させたマイクロチップaの構成を示す簡略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。
1.微小粒子解析装置の構成概略と解析対象微小粒子
(1)装置構成の概略
(2)解析対象微小粒子
2.微小粒子解析装置の構成詳細と動作
(1)磁気発生手段による微小粒子の分離
(2)微小管による層流形成
(3)絞込部による層流幅の絞り込み
(4)検出手段による特性検出
(5)シース液排出路によるサンプル液濃縮
(6)送液制御手段によるサンプル液の回収又は還流
3.微小粒子解析方法
(1)磁気非標識細胞の分取(ネガティブセレクション)
(1−1)細胞の標識
(1−2)細胞の分離・特性検出
(1−3)特性判定と回収又は還流
(1−3−1)特性判定
(1−3−2)回収
(1−3−3)還流
(2)磁気標識細胞の分取(ポジティブセレクション)
(2−1)細胞の標識
(2−2)細胞の分離・特性検出
(2−3)特性判定と回収又は還流
(2−3−1)特性判定
(2−3−2)回収
(2−3−3)還流
4.マイクロチップ
【0015】
1.微小粒子解析装置の構成概略と解析対象微小粒子
(1)装置構成の概略
始めに、図1及び図2を参照し、本発明に係る微小粒子解析装置の装置構成を概説する。図1は、本発明に係る微小粒子解析装置の構成の一部を示す模式図である。また、図2は、この微小粒子解析装置に搭載される微小粒子解析用マイクロチップの構成を示す模式図である。
【0016】
図1中、符号Aで示す微小粒子解析装置は、微小粒子解析用マイクロチップa(以下、単に「マイクロチップa」という)と、このマイクロチップaの所定の領域(領域1)に磁界を形成する磁界発生手段bと、マイクロチップaの所定の部位(流路2)において微小粒子の光学的特性を検出する検出手段c1及びc2と、を含んで構成されている。磁気発生手段bは、図1では便宜上マイクロチップaと離間させて図示したが、マイクロチップaの磁界形成領域に当接又は近接して設けられるものである。すなわち、磁気発生手段bは、マイクロチップaの外部構成とされる場合には、装置本体上の磁界形成領域に当接又は近接する部位に配置される。また、マイクロチップaの内部構成とされる場合には、磁気発生手段bは、マイクロチップa上の磁界形成領域の近傍に造り込まれて配設される。
【0017】
マイクロチップaには、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入される領域1(図1及び図2中、点線で囲った領域)が形成されている。この領域1の内部空間には、磁界発生手段bによって磁界が形成され得る。本実施形態において、領域1は、磁界発生手段bが生成する磁気空間内において構成された折り返し流路として形成されている。図1及び図2中、符号12、13は、それぞれ折り返し流路の折り返し部を示す。領域1は、折り返し部12、13において180度反転される折り返し流路となっている。なお、領域1は、例えば、点線で囲った領域を一つの幅広な流路として形成したものであってよく、磁界発生手段bが生成する磁気空間内において様々な形状に形成され得るものとする。
【0018】
図1及び図2中、符号11で示すサンプル液インレットから、不図示の送液ポンプによって領域1内に導入されたサンプル液は、磁気発生手段bが生成する磁気空間内を折り返し部11及び折返し部12を経て送液され、領域1に連通して形成された流路(図中、符号2参照)に送液される。なお、領域1と流路2は、後述する微小管3を介して連通されるものである。
【0019】
流路2に送液されたサンプル液は、検出手段c1及びc2による微小粒子の特性検出に供される。検出手段c1及びc2は、従来のマイクロチップを用いた微小粒子分析システムと同様の光学検出系又は電気検出系、磁気検出系として構成することができる。具体的には、例えば光学検出系は、レーザー光源と、流路2内を通流する微小粒子に対してレーザー光を集光・照射するための集光レンズなどからなる検出手段c1と、レーザー光の照射によって微小粒子から発生する光をダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等を用いて検出する検出手段c2と、により構成される。検出手段c2は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等であってよい。検出手段c2によって検出された光は、電気信号に変換され、全体制御部fに出力される。以下、特に言及しない限り、検出手段c1及びc2は、光学検出系として構成され、微小粒子の光学特性を検出する手段であるものとして説明する。
【0020】
図1及び図2中、符号21は、サンプル液を流路2からマイクロチップa外へ排出するためのサンプル液アウトレットを示す。検出手段c1及びc2による微小粒子の光学特性の検出後、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液は、回収タンクd又はサンプル液インレット11に送液される。図1中、符号e1及びe2は、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を、回収タンクd又はサンプル液インレット11のいずれかに選択して送液するための送液制御手段を示す。送液制御手段e1及びe2は、通常使用されるバルブと送液ポンプ等によって構成することができる。送液制御手段(バルブ)e1が閉じ、送液制御手段(バルブ)e2が開いた状態では、サンプル液は回収タンクdに導入される。この回収タンクdは複数設けられていてもよく、この場合、送液制御手段(バルブ)e2には、いずれか1以上の回収タンクdを選択してサンプル液を送液する機能を付与する。また、送液制御手段(バルブ)e1が開き、送液制御手段(バルブ)e2が閉じた状態では、サンプル液はサンプル液インレット11に導入され、領域1内に還流される。
【0021】
磁気発生手段b及び送液制御手段e1及びe2には、全体制御部fからの信号が出力される(図1参照)。磁気発生手段bは、この出力を受け、磁界を形成し又は磁界の形成を停止する。また、送液制御手段e1及びe2は、出力を受け、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を回収タンクd又はサンプル液インレット11のいずれかに送液する。
【0022】
(2)解析対象微小粒子
本発明において、解析対象としてサンプル液に含まれる「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものである。
【0023】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【0024】
「磁性を有する微小粒子」は、生体関連微小粒子を磁気標識したものや、鉄やコバルト、ニッケル等の強磁性体、マグネタイトやクロマイト等のフェライトなどを含む合成粒子とされる。「磁性を有さない微小粒子」は、磁気標識されていない生体関連微小粒子や、強磁性体やフェライトなどを含有しない合成粒子とされる。
【0025】
生体関連微小粒子の磁気標識は、例えば、磁気ビーズ抗体を用いて行うことができる。ここで、磁気ビーズ抗体とは、特定の物質(抗原)に対する特異的結合能を備えた抗体に、例えば、球状のマイクロビーズとして形成された強磁性体やフェライトなどを、架橋剤を用いて化学的に結合したものをいう。現在、種々の物質に対する磁気ビーズ抗体が市販されている。これらの磁気ビーズ抗体を微小粒子に含まれる物質(特に、微小粒子の表面に存在する物質)に結合させることで、微小粒子を磁気的に標識することができる。また、生体関連微小粒子の磁気標識は、例えば、強磁性体やフェライトなどの粉体と生体関連微小粒子とを、ポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤の存在下で攪拌し、磁性フロック(磁性凝集体)とすることにより行うことも考えられる。
【0026】
2.微小粒子解析装置の構成詳細と動作
以下、「磁性を有する微小粒子」として、磁気ビーズ抗体によって磁気標識された細胞と、「磁性を有しない微小粒子」として、磁気ビーズ抗体によって磁気標識されていない細胞と、を含むサンプル液を用いて、細胞の解析・分取を行う場合を例に、微小粒子解析装置Aの各装置構成の詳細と動作を説明する。磁気ビーズ抗体によって磁気標識された細胞を「磁気標識細胞」、磁気ビーズ抗体によって磁気標識されていない細胞を「磁気非標識細胞」というものとする。
【0027】
(1)磁気発生手段による微小粒子の分離
図1で説明したように、サンプル液インレット11から、不図示の送液ポンプによって領域1内に導入されたサンプル液は、磁気発生手段bが生成する磁気空間内を折り返し部11及び折返し部12を経て送液される。
【0028】
図3は、図2中P‐P断面に対応する断面模式図である。サンプル液は、図右から左(X軸負方向)に送液される。領域1には磁気発生手段bが当接又は近接されて配設されており、領域1の内部空間には磁気発生手段bによって磁界が形成されている。図中、ブロック矢印は、磁界発生手段bにより形成される磁界の方向を示している。
【0029】
磁界発生手段bは、例えば、電気的に印加される電磁石等のように、磁界の形成と停止を制御可能な手段として構成される。既に説明したように、磁気発生手段(電磁石)bは、マイクロチップaの外部構成とされる場合には、装置本体上の領域1に当接又は近接する部位に配設される。また、マイクロチップaの内部構成とされる場合には、磁気発生手段bは、マイクロチップa上の領域1の近傍、例えば図3に示すような領域1の下方に配設される。内部構成とする場合、例えば、マイクロチップaを構成する基板内に電磁石を作り込むことにより、又は基板と電磁石を積層することにより、磁気発生手段bを構成する。
【0030】
領域1の内部空間に磁界が形成された状態において、磁気標識細胞と磁気非標識細胞を含むサンプル液を領域1に導入すると、磁気標識細胞の磁化と磁界との間に磁気的作用力が作用する。この磁気的作用力によって、磁気標識細胞は、サンプル液の送液圧に抗って領域1の内部空間内に滞留するようにして、もしくは領域1の内部空間に臨む表面に吸着されるようにして、領域1内に保持される。他方、磁気非標識細胞は、磁界との間で磁気的作用力が作用しないため、サンプル液の送液圧に従って領域1に連通する流路2に送流されていく(図1参照)。
【0031】
このように、領域1及び磁気発生手段bは、導入されるサンプル液に含まれる細胞を、磁界発生手段bが生成する磁気空間を通過しない磁気標識細胞と、磁気空間を通過する磁気非標識細胞に分離する機能を発揮する。これにより、磁気発生手段bによる磁界形成時においては、サンプル液に含まれる細胞から磁気非標識細胞のみを分離して流路2に送流することが可能となる。
【0032】
さらに、磁気非標識細胞を流路2へ送流した後、磁界発生手段bによる磁界形成を停止して、磁気標識細胞への磁気的作用力を解除すれば、今度は領域1内に保持された磁気標識細胞のみを流路2に送流することができる。
【0033】
磁気非標識細胞と磁気標識細胞との分離を確実に行うためには、磁気標識細胞を領域1の内部空間に臨む表面(例えば、領域1の底面表面)へ吸着させることによって領域1に保持することが好ましい。このために、磁気発生手段bは、磁気標識細胞の磁化との間に十分な磁気的吸引力を生じさせ得る強度の磁界を形成する。
【0034】
磁気標識細胞を領域1の内部空間に臨む表面に吸着して保持する場合、該表面に微細な凹凸加工を施して表面面積を拡大させることによって、より多くの磁気標識細胞を表面に吸着することが可能となる。また、領域1の内部空間に臨む表面に、鉄やコバルト、ニッケル、フェライト等の磁性体を溶着又は蒸着等によってコートすることで、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力を高めることが可能となる。あるいは、上記内部空間に、上記の鉄やコバルト、ニッケル、フェライト等の磁性体を溶着又は蒸着等によってコートした磁気ビーズを充填することによって、空間内部の表面積を拡大させ、より多くの磁気標識細胞を表面に吸着することが可能となる。
【0035】
領域1の内部空間に臨む表面に磁気標識細胞を吸着して保持する場合、多量の磁気標識細胞が表面の偏った部位に吸着されると、当該部位に保持された磁気標識細胞によって領域1の内部空間が狭窄し、サンプル液の送液が阻害されるおそれがある。特に、領域1への導入当初のサンプル液には多量の磁気標識細胞が含まれるため、領域1の上流において、磁気標識細胞に対して強い磁気的吸着力が作用すると、磁気標識細胞が領域1の底面表面に一挙に吸着し、狭窄が生じやすい。これを防止するためには、領域1の上流では磁気標識細胞に対して比較的弱い磁気的吸着力を作用させ、下流に送流されるに従って徐々に強い磁気的吸着力を作用させることで、サンプル液中の磁気標識細胞を領域1の表面に均等に吸着させることが望ましい。
【0036】
微小粒子解析装置Aでは、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力を徐々に増加させることを目的として、磁界発生手段bが形成する磁界の方向に沿った領域1内部の空間内径(図3中、符号H参照)を、送液方向に従って次第に大きく形成している。図3では、磁気発生手段bを領域1の下方に配設して、領域1の内部空間にZ軸正方向の磁界を形成し、領域1の底面表面に磁気標識細胞を吸着する場合において、領域1の底面を送液方向に従って次第にZ軸負方向に傾斜する傾斜面として形成している。これによって、領域1内を通流される磁気標識細胞と磁気発生手段bとの距離(図中、符号D参照)が、送液方向に従って次第に小さくなるようにされている。
【0037】
磁気標識細胞と磁気発生手段bとの距離Dが小さく、磁気標識細胞と磁気発生手段bとが近くなる程、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力は大きくなる。逆に、磁気標識細胞と磁気発生手段bとの距離Dが大きく、磁気標識細胞と磁気発生手段bとが遠くなる程、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力は小さい。そのため、距離Dを送液方向に従って次第に小さく形成すれば、通流する磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力を徐々に増加させて、磁気標識細胞を領域1の表面に均等に吸着させることができる。
【0038】
図3では、磁気発生手段bを領域1の下方に配設して、領域1の底面を傾斜面とすることにより、磁気標識細胞に作用する磁気的吸着力を調整する場合を説明した。しかし、磁気発生手段bの配設位置や形成される磁界の方向によって、領域1の内部空間に臨む上面又は側面を傾斜面として形成してもよい。また、領域1の内部空間に臨む表面(底面、上面、側面)は、傾斜面として形成されるほかに、階段状の多断面として形成してもよい。
【0039】
また、磁気標識細胞を領域1の内部空間に吸着・保持するためには、図4に示すように、領域1の内部空間に、中空形状の磁性体チューブ14(図5も参照)を配設してもよい。磁性体チューブ14は、その長手方向と送液方向(図中矢印f参照)とが一致するように配設される。
【0040】
図4は、図2中P‐P断面に対応する断面模式図である。図4では、領域1の内部空間に、中空円筒形状に成形した磁性体チューブ14をZ軸方向に3段配設した場合を示した。図4において、磁性体チューブ14は、Y軸方向にも複数配設されるものである。領域1の内部空間に配設される磁性体チューブ14の数は特に限定されず、1以上とでき、好ましくは複数配設される。また、磁性体チューブ14の形状は、中空形状であれば、円筒に限られず、その断面は三角形や四角形などの多角形であってもよい。
【0041】
磁性体チューブ14は、鉄やコバルト、ニッケル、フェライト等の磁性体から形成され、図5(A)に示すように中空形状に成形されている。この磁性体チューブ14を、図4に示すように領域1の内部空間に配設すると、領域1に導入された磁気標識細胞は、磁性体チューブ14の内空、又は、磁性体チューブ14と磁性体チューブ14との間隙を送流される。そして、磁界発生手段bにより磁界が形成されると、磁性体チューブ14の内外を送流される磁気標識細胞が、チューブの内空表面及び外表面に吸着される。このとき、磁性体チューブ14の内径をr1、外径をr2、長さをlとすると、各磁性体チューブ14の磁気標識細胞を吸着し得る表面の面積Sは、「S=2πl(r1+r2)」となる。これにより、先に説明した領域1の内部空間に磁性体をコートした磁気ビーズを充填した場合と同様に、磁気標識細胞の吸着表面の面積を拡大させて、領域1の内部空間内に磁気標識細胞を効率よく保持することが可能となる。
【0042】
さらに、磁性体チューブ14によって、領域1に導入された細胞が、磁性体チューブ14の内空、又は、磁性体チューブ14と磁性体チューブ14との間隙を送流されるようにすることで、領域1の内部空間における細胞の流れを整流することができる。これにより、領域1の内部空間に細胞が詰まってサンプル液の送液が阻害されることを防止することも可能となる。
【0043】
磁性体チューブ14の内空表面及び外表面には、微細な凹凸加工を施すことにより、磁気標識細胞の吸着表面の面積をさらに拡大することができる。また、図5(B)及び(C)に示すように、磁性体チューブ14の管壁に微細な孔141を穿設したり、磁性体チューブ14を間隙142を有するコイル状(スプリング状)に成形したりすることにより、孔141又は間隙142から磁性体チューブ14の内外に行き来する磁気標識細胞を孔141部分又は間隙142部分の表面に吸着させることができ、磁気標識細胞の吸着表面の面積をさらに増すことが可能となる。
【0044】
磁性体チューブ14は、送液圧力の上昇を抑えること、またチューブ内空に細胞が詰まるのを防止することを目的として、肉厚の薄い中空円筒に成形することが望ましい。また、図5(D)に示すように、送液方向(図中矢印f参照)の上流側の開口が広く、下流側の開口が狭くなるように、肉厚にテーパを持たせた中空円筒に成形することも、チューブ内空に細胞が詰まることを防止するために有効である。
【0045】
(2)微小管による層流形成
領域1内を送液されたサンプル液は、領域1の終端部に接続する微小管(図1及び図2中、符号3参照)によって、領域1から流路2に導入される。領域2に導入されるサンプル液には、磁気発生手段bによる磁界形成時において分離送流される磁気非標識細胞、又は、その後磁界発生手段bによる磁界形成の停止時において送流される磁気標識細胞のいずれかが含まれ得る。
【0046】
図2拡大図中、符号31は微小管3の領域1終端部側の開口を、符号32は流路2側の開口を示す。流路2には、図中、符号22で示すシース液インレットから、不図示の送液ポンプによってシース液が導入される。シース液インレット22から導入されたシース液は層流を形成して、略90度折れ曲がる曲折部23,24を経て流路下流に送液される。
【0047】
開口31から供給されたサンプル液は、微小管13内を通流し、開口32から流路2を通流するシース液層流中に導入される。このように微小管13によって流路2を通流するシース液層流中にサンプル液を導入することによって、サンプル液層流の周囲をシース液層流で取り囲んだ状態で送液することが可能となる。
【0048】
図6は、流路2内に形成されるシース液層流とサンプル液層流を示す模式図である。図6(A)は、図2拡大図中、Q−Q断面に対応する断面模式図であり、微小管3の開口32と、流路2の絞込部25(後述)を拡大して示している。また、図6(B)は、図2拡大図中R−R断面に対応する断面模式図であり、流路2下流側から正面視した開口32を拡大して示している。
【0049】
流路2を通流するシース液層流(図中符号T参照)中に、微小管3によってサンプル液を導入することにより、図6(A)に示すように、サンプル液層流(符号S参照)を、シース液層流Tで取り囲んだ状態で送液することができる。
【0050】
図6では、微小管3を、その中心が流路2の中心と同軸上に位置するように配設した場合を示した。この場合、サンプル液層流Sは、流路2を通流するシース液層流Tの中心に導入されることとなる。シース液層流T中のサンプル液層流Sの形成位置は、流路2内における微小管3の配設位置を調節することによって任意に設定することができる。
【0051】
また、図6では、微小管3を1本の管として配設した場合を示した。微小管3は、これに限定されず、例えば、図7に示すように、複数の管(図では、4本)を束ねてバンドルとしたものであってもよい。微小管をバンドルとすることで、例えば、微小管3a, 3b, 3c, 3dのいずれか1つからサンプル液を、その他からサンプル液やシース液以外の溶液を導入することができる。束ねられる微小管の数は、2以上とでき、導入される溶液の数に応じて任意に設定すればよい。各微小管の流路2側開口と反対側の開口には、溶液を供給するためのインレットが設けられ、送液ポンプ等が接続される。
【0052】
具体的には、例えば、微小管3aから磁気非標識細胞又は磁気標識細胞を含むサンプル液を、微小管3b, 3c, 3dからこれらの細胞と反応し得る物質(反応物質)を含む溶液をそれぞれ導入して、流路2内に形成される層流中で細胞と物質との反応を行なうことが考えられる。反応物質としては、例えば、細胞表面に結合する抗体や、細胞と化学反応する化合物等が挙げられる。
【0053】
流路2において検出手段c1及びc2による細胞の光学特性検出を行う場合、例えば、微小管3b, 3c, 3dのいずれかから磁気非標識細胞又は磁気標識細胞の表面に結合する蛍光標識抗体を導入し、微小管3による層流形成時に細胞を蛍光標識することで、この蛍光物質に基づいた特性検出を行うことも可能である。また、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液は、送液制御手段e1及びe2によって領域1を還流され得るが、この際、例えば、微小管3bから化合物を導入して解析を行った後、還流されたサンプル液に微小管3cから他の化合物を導入して再解析を行うことができる。
【0054】
(3)絞込部による層流幅の絞り込み
微小管3によってサンプル液層流Sがシース液層流Tを取り囲んだ状態とされたサンプル液及びシース液は、送液方向下流に形成された絞込部(図2中、符号25参照)によって層流幅を絞り込まれる。
【0055】
絞込部25は、送液方向に従って流路内径が、流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成されている。すなわち、図2拡大図に示すように、絞込部25の流路側面は送液方向に従って次第にY軸方向に狭窄し、上面視錘形に形成されている。この形状によって、絞込部25は、シース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅をY軸方向に絞り込む機能を発揮する。さらに、絞込部25は、図6に示すように、流路底面が送液方向に従って深さ方向(図中Z軸方向)に高くなる傾斜面となるように形成されており、Z軸方向にも層流幅を絞り込むことが可能とされている。
【0056】
図8は、絞込部25の上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。図8(A)は、図6中M1-M1断面に対応する断面模式図であり、図8(B)は、図6中M2-M2断面に対応する断面模式図である。
【0057】
絞込部25を、送液方向に従って流路径がY軸及びZ軸方向に次第に小さくなるように形成したことにより、図8(A)に示すシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅を、図8(B)に示すようにY軸及びZ軸方向に絞り込むことが可能になる。なお、ここでは、シース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅を絞り込むと同時に、両層流をマイクロチップa上面側(図中、Z軸正方向)に偏向させている。このようにシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅を絞り込んで送液することにより、次に説明する特性検出において高い検出感度を得ることが可能となる(詳しくは後述する)。
【0058】
シース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅の絞り込みは、絞込部25の流路底面及び上面の両方を傾斜面として形成することにより行うこともできる。また、絞込部25は、図9(A)に示すように、流路上面(及び/又は底面)を、上流から下流に向かって階段状の多断面として形成してもよい。この場合、絞込部25はその上面視においても段階的に細くなる階段状に形成される。このように、絞込部25の流路径を、送液方向に従ってY軸及びZ軸方向に段階的に小さく形成して層流幅の絞り込みを行うと、絞込部25の成形上の利点が得られる。
【0059】
後述するように、マイクロチップa及び絞込部25等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行われる。このとき、絞込部25の形状が傾斜面であるよりも階段状であるほうが、絞込部25の成形が容易であり、特に機械加工や光造形による成形を簡単に行うことができる。
【0060】
例えば、機械加工の場合、絞込部25を傾斜面として形成するためには、数μmの単位でドリルを何度も往復させて切削する必要があり、非常に手間がかかる。また、ドリルの磨耗が進み易く、切削箇所にバリが発生することがある。これに対して、絞込部25を数段のみの階段状に形成すれば、切削が容易で、ドリルの磨耗も少なくバリが生じ難い。また、光造形による場合にも、絞込部25を数段のみの階段状に形成すれば、CADプロセスと光造形プロセスの反復回数を大幅に減少させることができ、製作時間及びコストを低減できる。なお、この点は、図3において説明したように、領域1の内部空間に臨む表面に磁気標識細胞を均等に吸着することを目的として、領域1の底面等を階段状の多断面として形成する場合についても同様である。
【0061】
絞込部25の流路内径を送液方向に従って段階的に小さく形成して絞り込みを行う場合、図9(B)に示すように、流路径を絞り込み後の層流幅に対応する内径にまで、一段階で小さく形成してしまうこともできる。この場合にも、シース液層流Tとサンプル液層流Sを、乱流を生じさせることなく、Y軸及びZ軸方向に絞り込むことが可能である。
【0062】
ここで、流路2を十分に細い流路として形成し、この流路2を通流するシース液層流中に、径の小さい微小管3を用いてサンプル液を導入すれば、予め層流幅が絞り込まれたシース液層流Tとサンプル液層流Sを形成することが可能とも考えられる。しかしながら、この場合には、微小管3の径を小さくすることによって、微小管3にサンプル液中に含まれる微小粒子が詰まるという問題が生じ得る。
【0063】
マイクロチップaでは、サンプル液中に含まれる微小粒子の径に対して十分に大きい径の微小管3を用いてサンプル液層流Sとシース液層流Tの形成を行った後に、絞込部25によって層流幅の絞り込みを行うように構成したことで、微小管3の詰まりの問題を解消することが可能である。
【0064】
微小管3の内径は、解析対象とするサンプル液に含まれる微小粒子の径に応じて適宜設定することができる。例えば、細胞の解析を行う場合には、好適な微小管3の内径は10〜500μm程度である。また、流路2の幅及び深さは、分析対象とする微小粒子の径を反映した微小管3の外径に応じて適宜設定すればよい。例えば、微小管3の内径が10〜500μm程度である場合、流路2の幅及び深さはそれぞれ100〜2000μm程度が好適である。なお、微小管13及び流路2の断面形状は、円形に限らず、楕円形や四角形、三角形など任意の形状とすることができる。
【0065】
絞込部25における絞り込み前のシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅は、流路2の幅及び深さと微小管3の径に依存して変化し得るが、絞込部25の流路径を適宜調整することによって任意の層流幅にまで絞り込みを行うことが可能である。例えば、図6において、絞込部25の流路長をL、流路底面の傾斜角度をθZとした場合、絞込部25におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅の絞り込み幅はL・tanθZとなる。従って、流路長L及び傾斜角度θZを適宜調整することによって任意の絞り込み幅を設定することが可能である。さらに、図2中、絞込部25流路側面のY軸方向における狭窄角度をそれぞれθY1、θY2とし、これらとθZを等しく形成することにより、図8(A)及び(B)に示したように、シース液層流Tとサンプル液層流Sを等方的に縮小して絞り込むことが可能となる。
【0066】
(4)検出手段による特性検出
シース液層流Tに取り囲まれ、絞込部25によって層流幅を絞り込まれたサンプル液層流Sは、検出手段c1及びc2による特性検出(ここでは、光学特性検出)に供される(図1参照)。サンプル液層流Sには、磁気発生手段bによる磁界形成時において分離送流される磁気非標識細胞、又は、その後磁界発生手段bによる磁界形成の停止時において送流される磁気標識細胞、の少なくとも一方が含まれ得る。
【0067】
検出手段c1は、流路2を送液されるサンプル液層流Sに含まれる磁気非標識細胞又は磁気標識細胞に対してレーザー光を集光・照射し、検出手段c2は、レーザー光の照射によって細胞から発生する光を検出する。検出手段c2によって検出される光は前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよく、これらの光は電気信号に変換されて全体制御部fに出力される(図1参照)。以下、流路2において、検出手段c1及びc2による特性検出が行われる位置を「検出部」と称するものとする。
【0068】
微小粒子解析装置Aでは、絞込部25によってサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅を絞り込むことにより、検出部においてレーザー光の焦点位置を細胞の送流位置に一致させて、精度良くレーザー光を照射できる。特に、絞込部25によれば、マイクロチップaの水平方向(図2中、Y軸方向)のみならず、垂直方向(図6中、Z軸方向)にもサンプル液層流Sの層流幅を絞り込むことができるため、流路2の深さ方向におけるレーザー光の焦点位置を細胞の送流位置と精緻に一致させることできる。このため、高精度にレーザー光を照射することができ、高い検出感度を得ることが可能となる。
【0069】
全体制御部fは、入力された電気信号に基づき、前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光の強度をパラメータとして、細胞の光学特性を判定する。光学特性判定のためのパラメータは、解析対象とする微小粒子に応じて、微小粒子の大きさを判定する場合には前方散乱光を、構造を判定する場合には側方散乱光を、微小粒子に標識された蛍光物質の有無を判定する場合には蛍光を採用する。全体制御部fによる光学特性の判定結果は、磁気発生手段b及び送液制御手段e1及びe2に対して出力される。
【0070】
ここでは、検出手段c1及びc2を光学検出系として構成する場合を例に説明したが、これらは電気検出系又は磁気検出系として構成することもできる。電気検出系又は磁気検出系として構成する場合、微小粒子の特性は、電気的又は磁気的特性として検出される。この場合、検出手段として微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。これらの特性は二以上を同時に測定することもできる。なお、微小粒子の電気的又は磁気的特性を測定する場合においても、絞込部25の効果によって、微小電極の測定位置と微小粒子の送流位置とを精緻に一致させて、高感度に特性を検出できる点は同様である。また、この磁気検出手段によって、上記内部空間を経てサンプル流に流れてきた微小粒子に、磁気抗体がついているかどうかの判別もすることが可能で、本来、上記内部空間で保持されるべき磁気標識細胞の取れ残り分や、磁気非標識細胞に対する磁気標識細胞の純度や濃度を計測することも可能である。
【0071】
(5)シース液排出路によるサンプル液濃縮
図2中、符号26,27は、流路2を中心として、流路2から三叉状に分岐するシース液排出路を示す。シース液排出路26,27の流路2からの分岐部は、流路2の検出部よりも送液方向下流に設けられる。シース液排出路26,27は、検出手段c1及びc2による特性検出後のシース液層流T及びサンプル液層流Sからシース液層流Tのみを分流し、サンプル液を濃縮された状態でサンプル液アウトレット21に送液するために機能する。シース液排出路26,27へ分流されたシース液は、符号261、262で示すシース液アウトレットからマイクロチップa外に排出される。
【0072】
図10及び図11は、シース液排出路26,27の分岐部を送液されるシース液層流Tとサンプル液層流Sを模式的に示す簡略斜視図(A)と、断面図(B)(C)である。図10及び図11において、(B)は(A)中N1−N1断面に対応し、(C)は(A)中N2−N2断面に対応する。
【0073】
図10は、分岐部において、シース液排出路26,27のY軸方向の流路幅と流路2の流路幅を、それぞれ1/3ずつとして三叉状に分岐させた場合を示している。この場合、図10(B)に示す分岐部上流のシース液層流Tは、分岐部においてY軸方向に3分割されたT1及びT2部分がシース液排出路26,27に分流される。これにより、分岐部下流のシース液層流Tは、図10(C)に示すように、サンプル液層流Sを含むT3部分のみとなる。このようにシース液層流Tの一部をシース液排出路に分流させることで、サンプル液はおよそ3倍に濃縮される。
【0074】
図11は、分岐部におけるシース液排出路26,27のY軸方向の流路幅をそれぞれ4/9とし、流路2の流路幅を1/9とした場合を示している。この場合、分岐部下流のシース液層流Tは、図11(C)に示すように、Y軸方向に9分割された1/9部分に対応する部分であって、サンプル液層流Sを含む部分T3のみとなる。これにより、サンプル液はおよそ9倍に濃縮される。
【0075】
シース液排出路26,27へのシース液層流Tの分流比率、すなわちサンプル液の濃縮倍率は、分岐部におけるシース液排出路26,27の流路幅と流路2の流路幅の比率を調整することによって任意に設定できる。分岐部におけるシース液排出路26,27及び流路2の流路幅比率は、層流形成時の流路2の幅及び深さ、微小管3の内径等を勘案して、所望の濃縮倍率が達成されるように調整される。また、このとき、サンプル液層流Sを含む部分T3が流路2下流へ送液されるように、流路2内における微小管3の配設位置も考慮される必要がある。
【0076】
流路2に設けられる分岐部は1つに限られず、2以上とすることも可能である。図12は、流路2にシース液排出路の分岐部を2つ設けた場合を示している。図は、図10に示したシース液排出路26,27の分岐部を経た流路2に、さらに図11に示した分岐部を接続した構成を示す。この例によれば、最初の分岐部でサンプル液をおよそ3倍、次の分岐部でおよそ9倍濃縮することができ、サンプル液を約27倍に濃縮してサンプル液アウトレット21に送液することが可能となる。
【0077】
(6)送液制御手段によるサンプル液の回収又は還流
シース液排出路の分岐部を経て、サンプル液アウトレット21からマイクロチップa外に排出されるサンプル液は、送液制御手段e1及びe2によって、回収タンクd又はサンプル液インレット11のいずれかに選択的に送液される。
【0078】
送液制御手段e1及びe2には、全体制御部fから信号が出力されており(図1参照)、送液制御手段e1及びe2はこの出力を受けて、サンプル液の送液先を回収タンクd又はサンプル液インレット11のいずれかに切換える制御を行う。この送液制御手段e1及びe2による制御は、同じく全体制御部fからの出力を受けて磁界の形成又は磁界形成の停止を行う磁気発生手段bの制御と連動して行われる。全体制御部fによる送液制御手段e1及びe2と磁気発生手段bの連動制御については、次の「微小粒子解析方法」において詳しく説明する。
【0079】
3.微小粒子解析方法
次に、本発明に係る微小粒子解析方法について説明する。ここでは、「磁性を有する微小粒子」として磁気標識細胞と、「磁性を有しない微小粒子」として磁気非標識細胞と、を含むサンプル液を用いて、微小粒子解析装置Aによる細胞の解析・分取を行う場合を例に説明する。分取の対象とする細胞は、磁気非標識細胞であっても磁気標識細胞であってもよい。以下、それぞれの細胞を分取する場合について順に説明する。
【0080】
(1)磁気非標識細胞の分取(ネガティブセレクション)(1−1)細胞の標識
まず、磁気非標識細胞を分取対象とする方法(以下、「ネガティブセレクション法」という)について、図13及び図1を参照しながら説明する。ネガティブセレクション法では、サンプル液に含まれる細胞のうち、分取対象としない細胞(非目的細胞)を、磁気ビーズ抗体を用いて磁気標識する(図12手順S1及び「表1」参照)。一方、分取対象とする細胞(目的細胞)には、検出手段c1及びc2による検出が可能な標識を行う。例えば、検出手段c1及びc2が光学検出系として構成される場合、目的細胞を蛍光標識抗体によって蛍光標識する。また、検出手段c1及びc2が電気的もしくは磁気的検出手段である場合には、目的細胞を電気的あるいは磁気的に標識する。
【0081】
【表1】
【0082】
(1−2)細胞分離・特性検出
細胞の標識を行ったサンプル液を、マイクロチップaのサンプル液インレット11から領域1に導入する(図13手順S2参照)。領域1の内部空間には磁気発生手段bによる磁界が形成されており、領域1に導入されたサンプル液に含まれる目的細胞及び非目的細胞は、磁気発生手段bが生成する磁気空間内を折り返し部11及び折返し部12を経て送液される(図1参照)。
【0083】
この際、磁気標識された非目的細胞には、磁界との間に磁気的作用力が作用する。この磁気的作用力によって、非目的細胞は、サンプル液の送液圧に抗って領域1の内部空間内に滞留するようにして、もしくは領域1の内部空間に臨む表面に吸着されるようにして、領域1内に保持される。その結果、サンプル液に含まれる細胞は、磁界発生手段bが生成する磁気空間を通過しない非目的細胞と、磁気空間を通過する磁気非標識の目的細胞と、に分離され、目的細胞のみを含むサンプル液が領域1の終端部から微小管3を介して領域2に導入される。
【0084】
流路2内に導入されたサンプル液は、周囲をシース液層流で取り囲まれた層流となって、絞込部25による層流幅の絞り込みが行われた後、検出手段c1及びc2による特性検出に供される。検出部に送液されるサンプル液層流中には、蛍光標識等がなされた目的細胞が含まれている。また、目的細胞に加えて、領域1において磁気的作用力が十分に作用しなかったことによって分離されずに領域2へ導入された一部の非目的細胞も含まれ得る。検出手段c1及びc2は、これらの細胞について、目的細胞に標識された蛍光物質から生じる蛍光等に基づいて特性検出を行い、電気信号に変換して全体制御部fに出力する
【0085】
(1−3)特性判定と回収又は還流
(1−3−1)特性判定
全体制御部fは、入力された電気信号に基づき、検出手段c1及びc2によって検出された細胞の特性判定を行う(図13手順S3参照)。特性判定は、蛍光物質からの蛍光強度や散乱光強度等をパラメータとして、検出された細胞をゲーティングすることにより行われる。
【0086】
(1−3−2)回収
全体制御部fは、検出される細胞の所定割合が分取対象とする細胞のゲーティングに入り、流路2を通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所定値以上となったと判定された場合、判定結果「Yes」を送液制御手段e1及びe2に出力する。送液制御手段e1及びe2は、この出力を受けて、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を回収タンクdに導入する(図13手順S4参照)。これにより、回収タンクdに所定割合で目的細胞を含むサンプル液を回収することができる。なお、この際、シース液排出路26,27(図9等参照)によって、回収されるサンプル液の希釈が防止される。
【0087】
(1−3−3)還流
一方、検出手段c1及びc2によって検出される細胞のうち、分取対象とする細胞のゲーティングに入る細胞の割合が所定値未満であり、流路2に多数の非目的細胞が通流していると判定された場合、全体制御部fは判定結果「No」を送液制御手段e1及びe2に出力する。送液制御手段e1及びe2は、この出力を受けて、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を、サンプル液インレット11に導入し、領域1内に還流させる(図13手順S5参照)。還流されたサンプル液については、再度「分離・特性検出」の手順S2が行われる。なお、この際、シース液排出路26,27(図9等参照)によって、還流されるサンプル液の希釈が防止される。
【0088】
特性判定S3、還流S5、分離・特性検出S1の手順は、検出される細胞の所定割合が分取対象とする細胞のゲーティングに入り、流路2を通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所定値以上となったと判定されるまで繰り返される。そして、目的細胞の割合が所定値以上となった時点で、サンプル液が回収タンクdに導入され、所定割合で目的細胞を含むサンプル液が回収される。
【0089】
以上のように、非目的細胞に磁気標識を行い、領域2に通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所定値以上となるまで、領域1における目的細胞と非目的細胞の分離を行うことにより、所定割合で目的細胞を含むサンプル液を回収することが可能である。この方法によれば、従来の微小粒子分別装置と異なり、細胞を電極等によってひとつひとつ分別流路へ分取する必要がないため、解析時間を短縮することができ、効率よく目的細胞を分取することができる。また、特性判定S3、還流S5、分離・特性検出S1の手順を、領域2に通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所望の値になるまで繰り返すことによって、回収タンクdに高純度の目的細胞を回収することができる。
【0090】
なお、このネガティブセレクション法において、細胞の標識の手順S1は、「表2」に示すような組み合わせによって行うことも可能である。
【0091】
【表2】
【0092】
(2)磁気標識細胞の分取(ポジティブセレクション)
(2−1)細胞の標識
次に、磁気標識細胞を分取対象とする方法(以下、「ポジティブセレクション法」という)について、図14及び図1を参照しながら説明する。ポジティブセレクション法では、サンプル液に含まれる細胞のうち、目的細胞に、磁気ビーズ抗体を用いた磁気標識と、検出手段c1及びc2による検出が可能な標識と、を併せて行う(図14手順S1及び「表3」参照)。一方、非目的細胞には、標識を行わない。
【0093】
【表3】
【0094】
(2−2)細胞分離・特性検出
細胞の標識を行ったサンプル液を、マイクロチップaのサンプル液インレット11から領域1に導入する(図14手順S2参照)。領域1の内部空間には磁気発生手段bによる磁界が形成されており、領域1に導入されたサンプル液に含まれる目的細胞及び非目的細胞は、磁気発生手段bが生成する磁気空間内を折り返し部11及び折返し部12を経て送液される。
【0095】
この際、磁気標識された目的細胞には、磁界との間に磁気的作用力が作用する。この磁気的作用力によって、目的細胞は、サンプル液の送液圧に抗って領域1の内部空間内に滞留するようにして、もしくは領域1の内部空間に臨む表面に吸着されるようにして、領域1内に保持される。その結果、サンプル液に含まれる細胞は、磁界発生手段bが生成する磁気空間を通過しない目的細胞と、磁気空間を通過する磁気非標識の非目的細胞と、に分離され、非目的細胞のみを含むサンプル液が、領域1の終端部から微小管3を介して領域2に導入される。
【0096】
流路2内に導入されたサンプル液は、周囲をシース液層流で取り囲まれた層流となって、絞込部25による層流幅の絞り込みが行われた後、検出手段c1及びc2による特性検出に供される。この検出部に送液されるサンプル液層流中には、非標識の非目的細胞が含まれている。また、非目的細胞に加えて、領域1において磁気的作用力が十分に作用しなかったことによって分離されずに領域2へ導入された一部の目的細胞も含まれ得る。検出手段c1及びc2は、これらの細胞について、目的細胞に標識された蛍光物質から生じる蛍光等に基づいて特性検出を行い、電気信号に変換して全体制御部fに出力する。
【0097】
(2−3)特性判定と回収又は還流
(2−3−1)特性判定
全体制御部fは、入力された電気信号に基づき、検出手段c1及びc2によって検出された細胞の特性判定を行う(図12手順S3参照)。特性判定は、蛍光物質からの蛍光強度や散乱光強度をパラメータとして、検出された細胞をゲーティングすることにより行われる。
【0098】
(2−3−2)回収
全体制御部fは、検出される細胞のうち、分取対象とする細胞のゲーティングに入る細胞の割合が所定値未満であり、分離されずに領域2に通流している目的細胞が十分に少ないと判定された場合、判定結果「Yes」を送液制御手段e1及びe2に出力する。送液制御手段e1及びe2は、この出力を受けて、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を回収タンクd1に導入する(図14手順S4参照)。これにより、回収タンクd1に非目的細胞を含むサンプル液が回収される。回収タンクd1に回収された非目的は、不要な細胞として廃棄されてよい。
【0099】
次いで、全体制御部fは、磁気発生手段bに判定結果「Yes」を出力し、磁界形成を停止させる。これにより、領域1内での目的細胞の保持が解除され、目的細胞が流路2に送流される。同時に、全体制御部fは、送液制御手段e1及びe2にも出力を行い、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を回収タンクd2に導入する(図14手順S5参照)。これにより、回収タンクd2に所定割合で目的細胞を含むサンプル液を回収することができる。なお、この際、シース液排出路26,27(図9等参照)によって、回収されるサンプル液の希釈が防止される。
【0100】
この目的細胞回収の手順S5では、磁界形成の停止後、流路2に送流されてくる目的細胞を、検出手段c1及びc2によって特性検出し、その所定割合が目的細胞のゲーティングに入っていることを確認してもよい。
【0101】
(2−3−3)還流
一方、検出手段c1及びc2によって検出される細胞のうち、分取対象とする細胞のゲーティングに入る細胞の割合が所定値以上であり、流路2に多数の目的細胞が通流していると判定された場合、全体制御部fは判定結果「No」を送液制御手段e1及びe2に出力する。送液制御手段e1及びe2は、この出力を受けて、サンプル液アウトレット21から排出されるサンプル液を、サンプル液インレット11に導入し、領域1内に還流させる(図14手順S6参照)。還流されたサンプル液については、再度「分離・特性検出」の手順S2が行われる。なお、この際、シース液排出路26,27(図9等参照)によって、還流されるサンプル液の希釈が防止される。
【0102】
特性判定S3、還流S6、分離・特性検出S1の手順は、分取対象とする細胞のゲーティングに入る細胞の割合が所定値未満となり、分離されずに領域2に通流している目的細胞が十分に少なくなったと判定されるまで繰り返される。そして、目的細胞の割合が所定値未満となった時点で、まず非目的細胞を含むサンプル液が回収タンクd1に導入され、次いで磁気発生手段bによる磁界形成が停止された後、目的細胞を含むサンプル液が回収タンクd2に導入され、所定割合で目的細胞を含むサンプル液が回収される。
【0103】
以上のように、目的細胞に磁気標識を行い、領域2に通流する細胞全数に占める目的細胞数の割合が所定値未満となるまで、領域1における目的細胞と非目的細胞の分離を行うことによっても、所定割合で目的細胞を含むサンプル液を回収することが可能である。
【0104】
なお、このポジティブセレクション法において、細胞の標識S1の手順は、「表4」に示すような組み合わせで行うことも可能である。
【0105】
【表4】
【0106】
4.マイクロチップ
本発明に係る微小粒子解析用マイクロチップaは、上記の微小粒子解析装置Aにおいて説明した領域1、流路2及び微小管3等の構成を備えるものである。マイクロチップaは、領域1の内部空間に磁界を形成する磁気発生手段bを備えていてもよい。この場合、磁気発生手段bは、マイクロチップaを構成する基板内に電磁石として作り込まれたり、基板に電磁石を積層したりすることによって設けられる。以上のマイクロチップaの各構成の詳細及び動作は、先に説明した通りであるので、ここでは説明を割愛する。
【0107】
マイクロチップaの材料は、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)とすることができる。検出手段c1及びc2によって微小粒子の光学特性を検出する場合、マイクロチップaは、光透過性を有する材料であって、自家蛍光が少なく、波長分散及び光学誤差が少ない材料によって形成される。さらに、この場合には、マイクロチップaの表面に光ディスクに用いられる、いわゆるハードコート層を積層することが望ましい。マイクロチップaの表面に指紋等の汚れが付着すると、透過光量が減少して、光学分析精度が低下するおそれがある。特に、流路2において検出手段c1及びc2による光学特性検出が行われる検出部の表面に汚れが付着すると、正確な分析が不能となる可能性がある。マイクロチップaの表面に透明性及び防汚性に優れたハードコート層を積層することで、このような汚れによる分析精度の低下を防止することが可能である。
【0108】
ハードコート層は、通常使用されるハードコート剤を用いて製膜でき、例えば、フッ素系又はシリコン系防汚添加剤等の指紋付着防止剤を添加したUV硬化型ハードコート剤等を使用して製膜できる。特開2003-157579号公報には、ハードコード剤として、活性エネルギ線によって重合しうる重合性官能基を2個以上有する多官能性化合物(A)、メルカプト基を有する有機基と加水分解性基または水酸基とがケイ素原子に結合しているメルカプトシラン化合物で表面修飾された平均粒径1〜200nmの修飾コロイド状シリカ(B)、および、光重合開始剤(C)を含む活性エネルギ線硬化性組成物(P)が開示されている。
【0109】
流路2の検出部表面への汚れ付着を防止するためには、図15に示すように、検出部(図中、符号F参照)の表面をマイクロチップaの他の部位表面に比べて陥凹させて、検出部表面への指先や汚れの接触を防止することも有効である。図15(A)は、マイクロチップa表面の検出部部分に窪みを形成した場合、図15(B)は、マイクロチップa表面に検出部部分を含む溝を形成した場合を示す。
【0110】
微小管3の材料には、金属やガラス、セラミックス、各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)製のチューブを採用できる。シリカチューブは、内径が数十〜数百μmのものが市販されており、適宜好適な径のチューブを利用できるため、微小管3として好適に採用され得る。シリカチューブは高い耐熱性を有するため、基板層を熱圧着する際にも熱変形が生じ難い。
【0111】
マイクロチップaに配設される領域1及び流路2等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。微小管3は、領域1等を成形した基板層に、領域1の終端部と流路2との間を連絡するように形成された溝に嵌め込むようにして配置する。微小管の配置後、領域1等を成形した基板層を、同じ材質又は異なる材質の基板層でカバーシールし、マイクロチップaを形成する。
【0112】
基板層の貼り合わせは、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等の従来公知の手法によって行うことができる。微小管3が嵌め込まれた溝は、微小管3を基板層に固定するための接着剤によって封止される。溝の封止によって、領域1と流路2とが微小管3を介してのみ連絡されるようになり、領域1の終端部に送液されるサンプル液が微小管3により流路2に導入されるようになる。
【符号の説明】
【0113】
A 微小粒子解析装置
a 微小粒子解析用マイクロチップ
b 磁界発生手段
c1, c2 検出手段
d 回収タンク
e1, e2 送液制御手段
f 全体制御部
S サンプル液層流
T シース液層流
1 領域
11 サンプル液インレット
14 磁性体チューブ
2 流路
21 サンプル液アウトレット
22 シース液インレット
25 絞込部
26, 27 シース液排出路
261, 271 シース液アウトレット
3 微小管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入される領域と、送液方向下流においてこの領域に連通する流路と、が形成されたマイクロチップと、
前記領域の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段と、
前記流路内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段と、を備える微小粒子解析装置。
【請求項2】
前記マイクロチップは、前記領域に接続され、該記領域から送液されるサンプル液を前記流路に導入して、該流路を通流するシース液層流中にサンプル液層流を形成する、微小管を備える請求項1記載の微小粒子解析装置。
【請求項3】
前記流路は、前記微小管によるサンプル液の導入位置よりも送液方向下流であって、かつ、前記検出手段による微小粒子の特性検出が行われる検出部よりも送液方向上流において、流路内径を送液方向に従って次第に又は段階的に小さく形成された絞込部を有する請求項2記載の微小粒子解析装置。
【請求項4】
前記流路は、前記検出部よりも送流方向下流の分岐部において、該流路を中心にして三叉状に分岐する2つのシース液排出路を備える請求項3記載の微小粒子解析装置。
【請求項5】
前記流路の前記分岐部よりも送液方向下流に送液されたサンプル液を、前記領域に還流する、又は、回収タンクへ導入する、送液制御手段を備える請求項4記載の微小粒子解析装置。
【請求項6】
前記領域の内部空間は、前記磁界発生手段が形成する磁界の方向に沿う空間内径が、送液方向に従って次第に又は段階的に大きく形成されている請求項5記載の微小粒子解析装置。
【請求項7】
前記領域が、前記磁界発生手段が生成する磁気空間内で構成される折り返し流路として形成された請求項5記載の微小粒子解析装置。
【請求項8】
前記領域の内部空間に臨む領域表面に、微細な凹凸加工が施されている、又は、磁性体がコートされている請求項5記載の微小粒子解析装置。
【請求項9】
前記領域の内部空間に、中空形状の磁性体チューブが、その長手方向と送液方向とが一致して配設されている請求項5記載の微小粒子解析装置。
【請求項10】
磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入され、磁界発生手段による磁界が内部空間に形成され得る領域と、
送液方向下流においてこの領域に連通し、光学的もしくは電気的あるいは磁気的な検出手段による微小粒子の検出が行われる流路と、を備える微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項11】
前記領域に接続し、かつ、前記領域から送液されるサンプル液を前記流路に導入して、該流路を通流するシース液層流中にサンプル液層流を形成する、微小管を備える請求項10記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項12】
前記流路は、前記微小管によるサンプル液の導入位置よりも送液方向下流であって、かつ、前記検出手段による微小粒子の特性検出が行われる検出部よりも送液方向上流において、流路内径が送液方向に従って次第に又は段階的に小さく形成された絞込部を有する請求項11記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項13】
前記流路は、前記検出部よりも送流方向下流の分岐部において、該流路を中心にして三叉状に分岐する2つのシース液排出路を備える請求項12記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項14】
前記領域の内部空間は、前記磁界発生手段が形成する磁界の方向に沿う空間内径が、送液方向に従って次第に又は段階的に大きく形成されている請求項13記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項15】
前記領域が、前記磁界発生手段が生成する磁気空間内で構成される折り返し流路として形成された請求項13記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項16】
前記領域の内部空間に臨む領域表面に、微細な凹凸加工が施されている、又は、磁性体がコートされている請求項13記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項17】
前記領域の内部空間に、中空形状の磁性体チューブが、その長手方向と送液方向とが一致して配設されている請求項13記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項18】
請求項10記載の微小粒子解析用マイクロチップが搭載され、
搭載されたマイクロチップの前記領域の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段と、
前記流路内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段と、を備える微小粒子解析装置。
【請求項19】
磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、
前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、
前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、
該流路内において、微小粒子の特性を光学的もしくは電気的あるいは磁気的な検出手段によって解析する微小粒子解析方法。
【請求項20】
磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、
前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、磁性を有さない微小粒子を回収する、又は、
前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、その後、前記磁界発生手段による磁界形成を停止して、前記領域内に保持された磁性を有する微小粒子を、前記流路内に送流し、磁性を有する微小粒子を回収する、
微小粒子解析方法。
【請求項1】
磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入される領域と、送液方向下流においてこの領域に連通する流路と、が形成されたマイクロチップと、
前記領域の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段と、
前記流路内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段と、を備える微小粒子解析装置。
【請求項2】
前記マイクロチップは、前記領域に接続され、該記領域から送液されるサンプル液を前記流路に導入して、該流路を通流するシース液層流中にサンプル液層流を形成する、微小管を備える請求項1記載の微小粒子解析装置。
【請求項3】
前記流路は、前記微小管によるサンプル液の導入位置よりも送液方向下流であって、かつ、前記検出手段による微小粒子の特性検出が行われる検出部よりも送液方向上流において、流路内径を送液方向に従って次第に又は段階的に小さく形成された絞込部を有する請求項2記載の微小粒子解析装置。
【請求項4】
前記流路は、前記検出部よりも送流方向下流の分岐部において、該流路を中心にして三叉状に分岐する2つのシース液排出路を備える請求項3記載の微小粒子解析装置。
【請求項5】
前記流路の前記分岐部よりも送液方向下流に送液されたサンプル液を、前記領域に還流する、又は、回収タンクへ導入する、送液制御手段を備える請求項4記載の微小粒子解析装置。
【請求項6】
前記領域の内部空間は、前記磁界発生手段が形成する磁界の方向に沿う空間内径が、送液方向に従って次第に又は段階的に大きく形成されている請求項5記載の微小粒子解析装置。
【請求項7】
前記領域が、前記磁界発生手段が生成する磁気空間内で構成される折り返し流路として形成された請求項5記載の微小粒子解析装置。
【請求項8】
前記領域の内部空間に臨む領域表面に、微細な凹凸加工が施されている、又は、磁性体がコートされている請求項5記載の微小粒子解析装置。
【請求項9】
前記領域の内部空間に、中空形状の磁性体チューブが、その長手方向と送液方向とが一致して配設されている請求項5記載の微小粒子解析装置。
【請求項10】
磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液が導入され、磁界発生手段による磁界が内部空間に形成され得る領域と、
送液方向下流においてこの領域に連通し、光学的もしくは電気的あるいは磁気的な検出手段による微小粒子の検出が行われる流路と、を備える微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項11】
前記領域に接続し、かつ、前記領域から送液されるサンプル液を前記流路に導入して、該流路を通流するシース液層流中にサンプル液層流を形成する、微小管を備える請求項10記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項12】
前記流路は、前記微小管によるサンプル液の導入位置よりも送液方向下流であって、かつ、前記検出手段による微小粒子の特性検出が行われる検出部よりも送液方向上流において、流路内径が送液方向に従って次第に又は段階的に小さく形成された絞込部を有する請求項11記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項13】
前記流路は、前記検出部よりも送流方向下流の分岐部において、該流路を中心にして三叉状に分岐する2つのシース液排出路を備える請求項12記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項14】
前記領域の内部空間は、前記磁界発生手段が形成する磁界の方向に沿う空間内径が、送液方向に従って次第に又は段階的に大きく形成されている請求項13記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項15】
前記領域が、前記磁界発生手段が生成する磁気空間内で構成される折り返し流路として形成された請求項13記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項16】
前記領域の内部空間に臨む領域表面に、微細な凹凸加工が施されている、又は、磁性体がコートされている請求項13記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項17】
前記領域の内部空間に、中空形状の磁性体チューブが、その長手方向と送液方向とが一致して配設されている請求項13記載の微小粒子解析用マイクロチップ。
【請求項18】
請求項10記載の微小粒子解析用マイクロチップが搭載され、
搭載されたマイクロチップの前記領域の内部空間に磁界を形成する磁界発生手段と、
前記流路内を通流する微小粒子の光学的もしくは電気的あるいは磁気的な特性を検出する検出手段と、を備える微小粒子解析装置。
【請求項19】
磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、
前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、
前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、
該流路内において、微小粒子の特性を光学的もしくは電気的あるいは磁気的な検出手段によって解析する微小粒子解析方法。
【請求項20】
磁界発生手段によって内部空間に磁界が形成されたマイクロチップ上の領域に、磁性を有する微小粒子と磁性を有さない微小粒子とを含むサンプル液を導入し、
前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、磁性を有さない微小粒子を回収する、又は、
前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過しない磁性を有する微小粒子を、前記領域内に保持すると同時に、前記磁界発生手段が生成する磁気空間を通過した磁性を有さない微小粒子を、送液方向下流において前記領域に接続する流路内に送流し、その後、前記磁界発生手段による磁界形成を停止して、前記領域内に保持された磁性を有する微小粒子を、前記流路内に送流し、磁性を有する微小粒子を回収する、
微小粒子解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−151777(P2010−151777A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1471(P2009−1471)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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