説明

微生物による有用物質の生産方法

【課題】 有用物質の生産菌から有用物質を抽出する工程において溶菌力に優れ、かつ、工程中の有用物質の変質が少ない有用物質の生産方法を提供する。
【解決手段】 対イオンがカルボキシレートアニオンであるカチオン性界面活性剤と加水分解酵素を使用する有用物質の生産方法であって、特に加水分解酵素がリゾチームであることが好ましい。カルボキシレートアニオン(a)は、2〜8価の多価カルボン酸のカルボキシレートアニオンが好ましい。有用物質としてはタンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、抗体、糖類またはビタミン類が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用物質生産菌からタンパク質などの有用物質を抽出する際に使用される有用物質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は、アミノ酸、タンパク質などの有用物質を生産するための宿主として広く利用されている。特に近年は、遺伝子工学技術を活用して、産業上有用なタンパク質の遺伝子を導入した形質転換された微生物を使用し、有用物質を効率的に製造する技術が知られるようになっている。
有用物質を生産する好ましい微生物の例として、大腸菌やシュードモナス属菌などのグラム陰性菌、バチルス属菌や乳酸菌などのグラム陽性菌、サッカロマイセス属やキャンディダ属などの酵母、アスペルギウス属やペニシリウム属などの糸状菌、ストレプトマイセス属やロドコッカス属などの放線菌を挙げることができる。
タンパク質などの有用物質の精製における第1の段階は、これらの有用物質を生産する細胞を溶解して、細胞成分を遊離させる段階である。
【0003】
細胞の溶解方法には、物理的方法と化学的方法がある。このうち化学的細胞溶解法としては、界面活性剤を用いて細胞膜または細胞壁の完全性を破壊する方法がある。
提案されている非イオン性界面活性剤としては、糖鎖を有する非イオン性界面活性剤、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物およびソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物などがある。
イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤(例えば特許文献1)、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤(例えば特許文献2、3)が提案されている。
【0004】
しかしながら、従来の非イオン性界面活性剤を用いる方法では溶菌力が不十分であるため大量合成には適さず、また、従来のイオン性界面活性剤を用いた方法では抽出されたタンパク質などの有用物質が変性してしまい、3次元コンホメーションを崩してしまうという問題点があった。
そこで本発明者らは、溶菌力に優れ、かつタンパク質などの有用物質を変性させにくい特定の化学構造のカチオン性界面活性剤を見いだした(特許文献4)。
【特許文献1】特開2002−335969号公報
【特許文献2】特開2002−199885号公報
【特許文献3】特開平5−64584号公報
【特許文献4】特開2006−320313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、菌による汚染防止の観点から、さらに高いレベルの溶菌性が望まれている。さらに微生物の種類によっては細胞壁が厚いものもあり、例えば酵母の場合、溶菌力が不十分で有用物質を完全に抽出できないという課題がある。そこで、さらに高いレベルの溶菌力を持ち、かつ有用物質を変性させずに抽出し高収率で生産する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、対イオンをカルボキシレートアニオンとするカチオン性界面活性剤と加水分解酵素を併用することにより、それぞれの単独使用に比べてはるかに溶菌力に優れ、かつ、有用物質を変性させずに、高品質の有用物質を遊離、抽出することができる微生物による有用物質の生産方法を見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、対イオンがカルボキシレートアニオンであるカチオン性界面活性剤と加水分解酵素を使用して有用物質生産菌から有用物質を生産する方法、および該生産方法によって生産された有用物質である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有用物質の生産方法は、特に大腸菌等の有用物質生産菌から有用物質を抽出するための生産方法として、従来よりも改善された溶菌力を有しており、また、従来よりも有用物質を変性することが少ない。
従って、高品質の有用物質、例えば、変性の程度が少なくて活性の高い酵素などを得ることができる。また、糖類などの生産性も良好である。さらに本発明の生産方法は、特に酵母等の細胞壁が厚い微生物に対して、従来より高い溶菌力を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の溶菌作用を発揮する必須成分は、対イオンがカルボキシレートアニオンであり、そのカチオン部分に疎水性基を有するカチオン性界面活性剤(A)と、加水分解酵素(B)の2つである。
【0009】
本発明の必須成分のカチオン性界面活性剤(A)中の対イオンは、1価カルボン酸、または多価カルボン酸から構成されるカルボキシレートアニオンが好ましい。このカルボキシレートアニオンは、カルボン酸からプロトンを除いた−COO−イオンを有するイオンである。
【0010】
カルボキシレートアニオンを構成するカルボン酸としては、以下の1価カルボン酸および多価カルボン酸があげられる。
【0011】
1価カルボン酸
脂肪族飽和モノカルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、2−エチルヘキサン酸など);脂肪族不飽和モノカルボン酸(オレイン酸など);脂肪族オキシモノカルボン酸(グリコール酸、乳酸、グルコン酸など);アミノ酸(グリシン、アラニン、ロイシンなど)などが挙げられる。
【0012】
多価カルボン酸
脂肪族飽和ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、
ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など);脂肪族オキシジカルボン酸(d−酒石酸など);アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸など);脂肪族不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマール酸、イタコン酸など);芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸など);トリカルボン酸(トリメリット酸、クエン酸など);テトラカルボン酸(ピロメリット酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸など);ペンタカルボン酸(ジエチレントリアミン五酢酸など)などが挙げられる。
【0013】
これらのうち好ましいのは、タンパク質などの変性されにくさの観点から多価カルボン酸であり、さらに好ましいのは2〜8価の多価カルボン酸、特に好ましいのはトリカルボン酸およびテトラカルボン酸、最も好ましいのはテトラカルボン酸である。
【0014】
カチオン部分としては以下の第4級アンモニウムカチオン(q1)およびアミン塩型カチオン(q2)が挙げられる。
溶菌力の観点から好ましいのは第4級アンモニウムカチオン(q1)である。
【0015】
第4級アンモニウムカチオン(q1)としては、例えば、一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、R1、R2、R3およびR4は、炭素数が1〜22の直鎖または分岐の炭化水素基であって、R1〜R4のうちの少なくとも1個は炭素数6以上の炭化水素基であり、R1〜R4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0018】
第4級アンモニウムカチオン(q1)中のR1〜R4で示される炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0019】
脂肪族炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、n−ヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、i−、sec−、およびt−ブチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、3−メチルブチル基、2−エチルヘキシル基など)およびアルケニル基(ビニル基、アリル基、メタリル基、など)が挙げられる。
【0020】
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、アリールアルキル基(ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基など)およびアルキルアリール基(メチルフェニル基、エチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基など)が挙げられる。
【0021】
R1〜R4の炭化水素基の好ましい組み合わせとしては、以下の(q11)〜(q14)が挙げられる。
(q11)1個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基であって、他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
ドデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルジメチルエチルアンモニウム、テトラデシルジメチルエチルアンモニウム、ヘキサデシルジメチルエチ
ルアンモニウム、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム、ドデシルメチルジエチルアンモニウム、テトラデシルメチルジエチルアンモニウム、ヘキサデシルメチルジエチルアンモニウムおよびオクタデシルメチルジエチルアンモニウムなど。
【0022】
(q12)2個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基であって、他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
オクチルデシルジメチルアンモニウム、ジオクチルジメチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、デシルドデシルジメチルアンモニウム、ジドデシルジメチルアンモニウム、オクチルデシルメチルエチルアンモニウム、ジオクチルメチルエチルアンモニウム、ジデシルメチルエチルアンモニウム、ジドデシルメチルエチルアンモニウム、ジデシルメチルプロピルアンモニウム、ジドデシルエチルプロピルアンモニウムおよびジステアリルジメチルアンモニウムなど
【0023】
(q13)1個のみが炭素数6〜22の芳香族炭化水素基であって、他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリプロピルアンモニウムおよびベンジルエチルジメチルアンモニウムなど。
【0024】
(q14)1個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基、1個のみが炭素数6〜22の芳香族炭化水素基かつ、他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
デシルジメチルベンジルアンモニウム、ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムおよびヤシ油アルキルジメチルベンジルアンモニウムなど。
【0025】
これらの(q1)のうち、溶菌力の観点から、好ましいのは(q12)、さらに好ましいのはR1〜R4のうちの2個が炭素数8〜14のアルキル基であるものである。
【0026】
一方、アミン塩型カチオン(q2)としては、1〜3級アミン塩型カチオンが挙げられる。
【0027】
1級アミンカチオンを構成する1級アミンとしては、炭素数6〜18のモノアルキルもしくはシクロアルキルアミン(例えばモノヘキシルアミン、モノシクロヘキシルアミン、モノオクチルアミンおよびモノドデシルアミンなど)が挙げられる。
2級アミンカチオンを構成する2級アミンとしては、少なくとも1個のアルキル基の炭素数が6〜18のジアルキルアミン(例えばヘキシルメチルアミン、オクチルエチルアミンおよびメチルドデシルアミンなど)が挙げられる。
3級アミンカチオンを構成する3級アミンとしては、少なくとも1個のアルキル基の炭素数がトリアルキルアミン(例えばジメチルドデシルアミンなど)が挙げられる。
【0028】
本発明におけるカチオン性界面活性剤(A)の製造方法は、例えば、以下の3つの方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(1)第4級アンモニウムカチオンのアルキル炭酸塩と当量のカルボン酸(a0)を加えて、60〜100℃で3〜20時間撹拌して反応させて塩交換し、その後、精製する方法。アルキル炭酸塩のアルキル基は炭素数1〜4のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基があげられる。
(2)4級アンモニウムハロゲン化物をカルボン酸の強塩基性塩で塩交換し、その後、精製する方法。カルボン酸の強塩基性塩としてはカルボン酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩およびアミン塩などが挙げられる。
(3)4級アンモニウム水酸化物をカルボン酸の強塩基性塩で塩交換し、その後、精製する方法。カルボン酸の強塩基性塩としてはカルボン酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩およびアミン塩などが挙げられる。
【0029】
本発明のカチオン性界面活性剤(A)は、使用に当たっては、必須成分である上記のカチオン性界面活性剤(A)をそのまま使用してもよいし、必要により水で希釈して、水溶液状または水分散液状の水性希釈液として用いることができる。
水性希釈液における、水以外の成分の濃度は、対象となる菌体、有用物質の種類および抽出方法の種類によって適宜選択されるが、0.01〜99.9%、好ましくは0.1〜50%である。
【0030】
本発明のもう1つの必須成分である加水分解酵素(B)は、微生物の細胞膜または細胞壁もしくは両方を分解できる酵素であれば特に限定するものではない。
微生物の細胞膜や細胞壁を分解する能力の観点から、例えばリゾチーム、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、リパーゼなどの加水分解酵素が挙げられる。これらのうち、リゾチームが特に好ましい。
【0031】
本発明の加水分解酵素(B)の添加量は、対象となる菌体、有用物質の種類および抽出方法の種類によって適宜選択されるが、1ppm〜5%、好ましくは10ppm〜1%である。
【0032】
本発明において、カチオン性界面活性剤(A)と加水分解酵素(B)はどちらを先に微生物に作用させてもよく、混合物として同時に作用させてもよいが、溶菌性の観点からは、加水分解酵素を先に作用させ、その後カチオン性界面活性剤を作用させる方が好ましい。
【0033】
本発明の有用物の生産方法において、カチオン性界面活性剤(A)と加水分解酵素(B)による微生物の処理に当たっては、必須成分である上記のカチオン性界面活性剤(A)と加水分解酵素(B)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲において、有機溶剤(C)、他の界面活性剤(D)、溶解性安定化剤(E)の一部または全部をさらに予め含有していてもよいし、使用時に別途これらを適宜配合して使用してもよい。
【0034】
カチオン性界面活性剤(A)の水への溶解性を上げるため、必要により、水と相溶性のある有機溶剤(C)を加えてもよい。
この水と相溶性のある有機溶剤(C)としては、脂肪族アルコール系溶剤(メタノール、エタノールなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトンなど)、およびカルボン酸エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸メチルなど)が挙げられる。
有機溶剤(C)の使用割合は、溶菌剤の重量に基づいて好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5%以下(以下、特に限定しない限り%は重量%を表す)、特に好ましくは3%以下である。
【0035】
本発明の生産方法において、溶菌性をさらに上げるために、必須成分のカチオン性界面活性剤(A)と加水分解酵素(B)以外に、相乗効果のある他の界面活性剤(D)を適宜加えることができる。
この目的で使用する他の界面活性剤(D)としては、以下の非イオン性界面活性剤(D1)、(A)以外のカチオン性界面活性剤(D2)、アニオン性界面活性剤(D3)、および両性界面活性剤(D4)から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0036】
非イオン性界面活性剤(D1)
(D11)高級アルコールアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する。)付加物:
炭素数8〜24の高級アルコール(デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコールおよびオレイルアルコールなど)のエチレンオキサイド(以下、EOと略記)1〜20モルおよび/またはプロピレンオキサイド(以下、POと略記)1〜20モル付加物(ブロック付加物および/またはランダム付加物を含む。以下同様)[例えば、デシルアルコールのEO8モル/PO7モルブロック付加物]が挙げられる。
【0037】
(D12)炭素数6〜24のアルキルを有するアルキルフェノールのAO付加物:
オクチルもしくはノニルフェノールのEO1〜20モルおよび/またはPO1〜20モ
ル付加物(例えば、TRITON(登録商標)X−100およびTRITON(登録商標)X−114など)が挙げられる。
【0038】
(D13)ポリプロピレングリコールEO付加物およびポリエチレングリコールPO付加物:
プルロニック型界面活性剤などが挙げられる。
【0039】
(D14)脂肪酸AO付加物:
炭素数8〜24の脂肪酸(デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびヤシ油脂肪酸など)のEO1〜20モルおよび/またはPO1〜20モル付加物などが挙げられる。
【0040】
(D15)多価アルコール型非イオン性界面活性剤:
炭素数3〜36の2〜8価の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビットおよびソルビタンなど)のEOおよび/またはPO付加物;前記多価アルコールの脂肪酸エステルおよびそのEO付加物(例えば、TWEEN(登録商標)20およびTWEEN(登録商標)80など);アルキルグルコシド(例えば、N−オクチル−β−D−マルトシド、n−ドデカノイルスクロース、n−オクチル−β−D−グルコピラノシドなど);並びに、砂糖の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドおよびこれらのAO付加物(ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミドなど);が挙げられ、脂肪酸としては前記のものが挙げられる。
【0041】
(A)以外のカチオン性界面活性剤(D2)としては、対イオンとしてハロゲンアニオン、ヒドロキシアニオン、アルキル硫酸アニオンおよび超強酸アニオンから選ばれる1種以上の対イオンを有するカチオン性界面活性剤が挙げられる。
ハロゲンアニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなど、アルキル硫酸アニオンとしてはメチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンなど、超強酸アニオンとしてはテトラフルオロホウ素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンなどが挙げられる。
なお、(D2)を構成するカチオン部分は、(A)で挙げたものと同様のカチオン部分が挙げられる。
(D2)の具体例として、塩化ベンザルコニウムおよび臭化セチルトリメチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0042】
アニオン性界面活性剤(D3)としては、炭素数8〜24の炭化水素基を有する、エーテルカルボン酸またはその塩、硫酸エステルもしくはエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩、スルホン酸塩、スルホコハク酸塩、リン酸エステルもしくはエーテルリン酸エステルおよびそれらの塩、脂肪酸塩、アシル化アミノ酸塩、並びに天然由来のカルボン酸およびその塩(例えばケノデオキシコール酸、コール酸およびデオキシコール酸など)が挙げられる。
【0043】
両性界面活性剤(D4)としては、ベタイン型両性界面活性剤およびアミノ酸型両性界面活性剤が挙げられる。
具体的には、アミドスルホベタイン、コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸(CHAPS)、コールアミドプロピルジメチルアンモニオ2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、カルボキシベタイン、ラウロイルサルコシンおよびメチルベタインが挙げられる。
【0044】
これらの他の界面活性剤(D)のうち、必須成分のカチオン性界面活性剤(A)と併用して溶菌性が向上する点で好ましいのは、非イオン性界面活性剤(D1)である。さらに多価アルコール型非イオン性界面活性剤(D15) が好ましく、多価アルコールの脂肪酸エステルおよびそのEO付加物が特に好ましく、TWEEN20、TWEEN(登録商標)80が最も好ましい。
【0045】
他の界面活性剤(D)の使用割合は、タンパク質の変性されにくさの観点から、溶菌剤の重量に基づいて好ましくは60%以下、さらに好ましくは40%以下、特に好ましくは20%以下である。
また、(A)の含有量に基づく(D)の含有量は、タンパク質の変性されにくさの観点から、好ましくは60%以下、さらに好ましくは40%以下である。
タンパク質の変性されにくさの観点から、(A)の重量に基づく(D1)〜(D4)の含有量は以下の通りである。
(D1)は、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下、(D2)は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、(D3)は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、(D4)は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0046】
必須成分のカチオン性界面活性剤(A)の水への溶解性およびその水溶液の溶液の安定化剤(E)としてはキレート剤、有機酸およびその塩、多価アルコールがあげられる。
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ポリリン酸およびその塩、メタリン酸およびその塩があげられる。
有機酸およびその塩としては、乳酸およびその塩、ヒアルロン酸およびその塩等があげられる。
多価アルコールとしては、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ペンタエリスリトール、キシリトール、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールなどがあげられる。
これらの中で、溶解性の向上の観点から、多価アルコールが好ましく、さらに好ましくはグリセリンである。
【0047】
本発明の溶菌剤における各成分の重量比(A)/(C)/(D)/(E)は、タンパク質の変性のしにくさの観点から、好ましくは20〜100/0〜10/0〜30/0〜70、さらに好ましくは30〜100/0〜5/0〜25/0〜60、特に好ましくは40〜100/0〜3/0〜20/0〜50である。
【0048】
本発明の微生物による有用物質の生産方法で得られる有用物質は、上記の方法で得られるため、従来よりも純度が高く、また溶菌力に優れているので高い収量を得ることができる。
本発明の微生物による有用物質の生産方法としては、例えば、有用物質が組み換えタンパク質の場合、以下のような順序の工程による生産方法が挙げられる。
(1)タンパク質の培養工程:
大腸菌などのタンパク質生産体に組み換えタンパク質を培養させる。
(2)タンパク質の取り出し工程:
カチオン性界面活性剤および加水分解酵素の使用によってタンパク質生産体内のインクルージョンボディを取り出す。
(3)アンフォールディング工程:
インクルージョンボディ懸濁液(例えば10mgタンパク質/mL)に0.5モル/L以上のアンフォールディング剤および20ミリモル/L以下の還元剤を加え軽くかきまぜ室温で数時間放置する。
(4)リフォールディング工程:
アンフォールディングされたタンパク質懸濁液に、0.2〜6モル/Lの濃度になるようにリフォールディング剤を加えて軽くかき混ぜ、室温で1晩放置する。またはリフォールディングバッファーで大希釈することによりリフォールディングを行う。
(5)分離・取り出し工程:
懸濁液から目的とする正常なタンパク質をカラムクロマトグラフィーなどによって分離して取り出す。
【0049】
上記の(1)のタンパク質の培養工程におけるタンパク質生産体としては、以下の細菌細胞などが挙げられる。
細菌細胞としては、連鎖球菌属(streptococci)、ブドウ球菌属(staphylococci)、エシェリヒア属菌(Escherichia)、ストレプトミセス属菌(streptomyces)およびバチルス属菌(Bacillus)細胞、真菌細胞:例えば酵母細胞およびアスペルギルス属(Aspergillus)細胞、昆虫細胞:例えばドロソフィラS2(DrosophilaS2)、スポドプテラSf9(
SpodopteraSf9)細胞、動物細胞:例えば、CHO、COS、Hela、C127、3T3、BHK、293およびボウズ(Bows)メラノーマ細胞、ならびに植物細胞等が挙げられる。
【0050】
エシェリヒア属菌(Escherichia)の具体例としては、大腸菌(E.coli)K12DH1〔プロシージング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)60巻、160頁(1968年)を参照〕、JM103〔ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)9巻、309頁(1981年)を参照〕、JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)120巻、517頁(1978年)を参照〕、HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)41巻、459頁(1969年)を参照〕、C600〔ジェネティックス(Genetics)39巻、440頁(1954年)を参照〕、MM294〔ネイチャー(Nature)217巻、1110頁(1968年)を参照〕などが挙げられる。
【0051】
バチルス属菌(Bacillus)の具体例としては、枯草菌(Bacillussubtilis)MI114〔ジーン、24巻、255頁(1983年)を参照〕、207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)95巻、87頁(1984年)を参照〕などが挙げられる。
【0052】
組み換えタンパク質の生産方法としては、具体的に次の方法がある。
(i)目的タンパク産生細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該相補DNAをファージまたはプラスミドに組み込む。
(ii)得られた組み換えファージまたはプラスミドで宿主を形質転換し、培養後、目的タンパクの一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション、あるいは抗体を用いたイムノアッセイ法により目的とするDNAを含有するファージあるいはプラスミドを単離する。
(iii)その組み換えDNAから目的とするクローン化DNAを切りだし、該クローン化DNAまたはその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって製造することができる。
その後、適当な方法により、宿主を発現ベクターで形質転換し培養する。培養は通常15〜43℃で3〜24時間行い、必要により通気、攪拌を加えることもできる。
【0053】
上記の(2)のタンパク質の取り出し工程では、例えば大腸菌の場合、本発明の生産方法を用いて、外膜のリン脂質層や内膜のペプチドグリカン層を溶解するまたは一部破壊することによって菌体内に生産されたインクルージョンボディを取り出す。
【0054】
上記の(3)のアンフォールディング工程では、本発明の溶菌剤を用いたあとに、アンフォールディング剤でタンパクの3次元構造を崩してアンフォールディング)を行うアンフォールディング工程において使用されるアンフォールディング剤としては、塩酸グアニジン、尿素およびこれらの併用などが挙げられる。
なお、タンパク質が、分子内にS−S結合を含むタンパク質である場合には、還元剤として塩酸グアニジンおよび/または尿素以外に、さらに2−メルカプトエタノール、ジチ
オスレイトール、シスチンまたはチオフェノールなどを加えてもよい。
【0055】
上記の(4)のリフォールディング工程におけるタンパク質のリフォールディング方法は、希釈法、透析法、界面活性剤利用法、人工シャペロン利用法および特願2005−235980記載の方法いずれの方法でもリフォールディングすることができる。特に特願2005−235980記載の方法は生産性・汎用性の観点から好ましい。
【0056】
上記の(5)のタンパク質の分離・取り出し工程におけるカラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としては、シリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド、ビニルポリマーなどが挙げられ、市販品ではSephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社)、Bio−Gelシリーズ(Bio−Rad社)等があり入手可能である。
【0057】
本発明の有用物質の生産方法における有用物質としては、タンパク質(P1)、アミノ酸(P2)、核酸(P3)、抗生物質(P4)、抗体(P5)、糖類(P6)またはビタミン類(P7)が挙げられる。
【0058】
タンパク質(P1)としては、酵素(P1−1)、組み換えタンパク質(P1−2)、ペプチド(P1−3)が挙げられる。
酵素(P1−1)としては、加水分解酵素、異性化酵素、酸化還元酵素、転移酵素、合成酵素および脱離酵素などが挙げられる。
加水分解酵素としては、セルラーゼ、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、グルコアミラーゼなどが挙げられる。
異性化酵素としては、グルコースイソメラーゼが挙げられる。
酸化還元酵素としては、ペルオキシダーゼなどが挙げられる。
転移酵素としては、アシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼなどが挙げられる。
合成酵素としては、脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ、クエン酸シンターゼなどが挙げられる。
脱離酵素としては、ペクチンリアーゼなどが挙げられる。
【0059】
組み換えタンパク質(P1−2)としては、タンパク製剤、ワクチン等が挙げられる。
タンパク製剤としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。
ワクチンとしては、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン等が挙げられる。
ペプチド(P1−3)としては、特にアミノ酸組成を限定するものではなく、ジペプチド、トリペプチドなどが挙げられる。
【0060】
アミノ酸(P2)としては、例えばグルタミン酸、トリプトファン、アラニン、およびジペプチドなどが挙げられる。
核酸(P3)としてはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)が挙げられる。
抗生物質(P4)としてはストレプトマイシンおよびバンコマイシンなどが挙げられる。
抗体(P5)としては、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体が挙げられる。
糖類(P6)としては、ヒアルロン酸、アルブミン、セラミド、エリスリトール、トレハロース、リポ多糖およびシクロデキストリンなどが挙げられる。
ビタミン類(P7)としては、ビタミンA類およびそれらの誘導体並びにその塩、ビタミンB6、ビタミンB12等のビタミンB類およびそれらの誘導体並びにその塩、ビタミンC類およびそれらの誘導体並びにその塩が挙げられる。
【0061】
これらのうち本発明の有用物質の製造方法では、(P1)および(P2)、特に(P1)の生産に適している。
【0062】
本発明の他の実施態様は、上記の有用物質産生方法で得られたタンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、抗体、糖類またはビタミン類であり、例えば上記のものが挙げられる。
これらのうち好ましいのは(P1)、(P2)、および(P6)であり、特に(P1)および(P6)である。
【実施例】
【0063】
以下の製造例、実施例、比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0064】
製造例1
50ml三角フラスコに、ジデシルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩16.04g(カチオン基として0.04当量)を入れ、撹拌しながら、シクロペンタンテトラカルボン酸2.46g(カルボキシル基として0.04当量)を少量ずつ加えた。撹拌機付き恒温槽で80℃に加温しながら8時間撹拌し続けると、二酸化炭素およびメタノールが系外に放出され、ジデシルジメチルアンモニウムのシクロペンタンテトラカルボン酸塩15.49g(収率99.9%)を得た。
さらに、得られたカチオン活性剤50部にグリセリン30部、TWEEN80を2部、水18部を加えて、本発明の実施例1および比較例1用のカチオン活性剤溶液を作成した。
【0065】
製造例2
製造例1のシクロペンタンテトラカルボン酸をクエン酸に変更する以外は同様にして、ジデシルジメチルアンモニウムのクエン酸塩を得た後、グリセリン、TWEEN80、水を同様に加えて、本発明の実施例2および比較例2用のカチオン活性剤溶液を作成した。
【0066】
製造例3
製造例1のシクロペンタンテトラカルボン酸をアジピン酸に変更する以外は同様にして、ジデシルジメチルアンモニウムのアジピン酸塩を得た後、グリセリン、TWEEN80、水を同様に加えて、本発明の実施例3および比較例3用のカチオン活性剤溶液を作成した。
【0067】
製造例4
製造例1のシクロペンタンテトラカルボン酸を酢酸に変更する以外は同様にして、ジデシルジメチルアンモニウムの酢酸塩を得た後、グリセリン、TWEEN80、水を同様に加えて、本発明の実施例4および比較例4用のカチオン活性剤溶液を作成した。
【0068】
製造例5
製造例1のジデシルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩をジステアリルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩に変更する以外は同様にして、ジステアリルジメチルアンモニウムのシクロペンタンテトラカルボン酸塩を得た後、グリセリン、TWEEN80、水を同様に加えて、本発明の実施例5および比較例5用のカチオン活性剤溶液を作成した。
【0069】
実施例1〜5
製造例1〜5で作成したカチオン活性剤溶液と、リゾチームを使用して、(1)大腸菌に対する溶菌力、(2)タンパク質(セルラーゼ酵素)の変性のされにくさ、および(3)糖類(ヒアルロン酸)の生産性を評価した。
【0070】
比較例1〜5
製造例1〜5で作成したカチオン活性剤溶液を使用して、比較の性能評価をおこなった。
【0071】
比較例6〜8
比較用の活性剤溶液として、ラウリルアミンEO2モル付加物のキシレン溶液(キシレンが70%)、テトラデシルおよびペンタデシルアルコール混合物(重量比6/4)EO2モル付加物、および塩化ジデシルジメチルアンモニウムをそれぞれ使用し、比較の性能評価を行った。
【0072】
比較例9
界面活性剤を併用しない比較用としてリゾチームのみを使用して、比較の性能評価をおこなった。
【0073】
(1)大腸菌に対する溶菌力、(2)タンパク質(セルラーゼ酵素)の変性のされにくさ、および(3)糖類(ヒアルロン酸)の生産性の評価方法は以下の通りである。
<溶菌力の評価方法>
2mlのスクリュー管に、大腸菌(E−coli)菌体溶液0.5ml、および1000ppmリゾチーム水溶液を50μl加え、25℃で1時間放置した。その後、界面活性剤純分として50%濃度になるように、希釈した界面活性剤水性希釈液50μlをマイクロピペットで加え、よく混合した。20℃で3日間静置保存したものを試料として、超深度形状測定顕微鏡(KEYENCE社製、VK−8500)で菌体数を測定した。あわせて、界面活性剤およびリゾチームをともに加えないブランクの菌体数も、3日間放置した大腸菌菌体溶液を試料として測定した。
比較例1〜8は1000ppmリゾチーム水溶液を加えない以外は実施例と同様におこなった。比較例9は活性剤水性希釈液を加えない以外は実施例と同様におこなった。
溶菌力を以下の式で算出し、下記の判定基準で点数化した。
溶菌力(%)=[1−(3日後の試料中の菌体数/ブランクの菌体数)]×100
【0074】
判定基準:
溶菌力:90%以上・・・・・・・・・5点
:80%以上、90%未満・・・4点
:60%以上、80%未満・・・3点
:40%以上、60%未満・・・2点
:40%未満・・・・・・・・・1点
その結果を表1に示す。
【0075】
<タンパク質の変性されにくさの評価方法>
セルラーゼ酵素の変性度として評価した。
2mlの遠心分離用チューブに、1%セチルメチルセルロース水分散液0.6ml、界面活性剤として0.2%濃度になるように希釈した界面活性剤水性希釈液0.6ml、240ppmリゾチーム10μlおよび、セルラーゼ(ナガセ社製、セルライザーHT)の100ppm水溶液を10μl加え、手振り混合した。
37℃で5分間静置後、遠心分離機(ベックマン社製Microfuge.11)で遠心分離(10,000rpm×3分)し、上層を分離して回収した。20ml試験管に、上層0.25ml、イオン交換水0.25mlおよび5%フェノール水溶液0.5mlを入れて、混合した。
さらに濃硫酸を2.5ml加え、室温で10分間静置後、混合し、その後20分間20℃で静置して試料溶液を得た。この試料溶液の490nmにおける吸光度(セチルメチルセルロースが酵素で分解された生成物の吸収)を紫外可視分光光度計で測定した。ブランクには界面活性剤水希釈液とリゾチーム水溶液の混合溶液の代わりにイオン交換水0.6mlを用いた。
比較例1〜8はリゾチーム水溶液を加えない以外は実施例と同様におこなった。比較例9は活性剤水性希釈液を加えない以外は実施例と同様におこなった。
溶菌程においてセルラーゼ(酵素)が変性されずに、活性が保たれて、セチルメチルセルロースが効率よく分解されている場合は、吸光度が大きくなる(ブランクに近い吸光度になる)。
タンパク質の変性されにくさは、以下の式で算出し、下記の判定基準で点数化した。
タンパク質の変性されにくさ(%)=(試料溶液の吸光度/ブランクの吸光度)×100
判定基準
タンパク質の変性されにくさ(%)が
90%以上・・・・・・・5点
70%以上、90%未満・・・4点
50%以上、70%未満・・・3点
30%以上、50%未満・・・2点
30%未満・・・・・・・1点
その結果を表1に示す。
【0076】
<糖類の生産性の評価方法>
ヒアルロン酸の生産性として評価した。
グルコース5%、リン酸第1カリウム0.2%、ポリペプトン1.0%、酵母エキス0.5%からなる培地1リットルを加熱殺菌後、ストレプトコッカス・ミュータンスを接種し、37℃で撹拌下2日間培養した。
培養後の培地に、最終濃度100ppmとなるようにリゾチームを加え、1時間撹拌し、次に最終濃度0.4重量%となるように各活性剤水性希釈液を加え、1時間攪拌し、遠心分離により菌体の破片をを除去した後、その上澄みを2回エタノール沈殿し、この沈殿を40℃で真空乾燥し、精製ヒアルロン酸を得た。
糖類の生産性は、ヒアルロン酸の収量(g/L)から、以下の判定基準を用いて点数化した。
判定基準
ヒアルロン酸の収量
:7(g/L)以上・・・・・・・・・・・・5点
:5(g/L)以上、7(g/L)未満・・・4点
:4(g/L)以上、5(g/L)未満・・・3点
:3(g/L)以上、4(g/L)未満・・・2点
:3(g/L)未満・・・・・・・・・・・・1点
結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の大腸菌に対する溶菌性の評価結果より、本発明の生産方法は、従来の界面活性剤、またはリゾチームのみを用いた従来の生産方法と比較して、溶菌性が極めて高く、さらに本発明者らが見出したカチオン性界面活性剤のみを用いた場合と比較しても、相加的効果にとどまらず、相乗効果により改良されているがわかる。
また、表1のヒアルロン酸の生産性の評価結果より、タンパク質に限らず糖類の生産性に関しても、本発明の生産方法は、従来の生産方法と比較して生産性が極めて高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の有用物質の生産方法は、タンパク質などの有用物質を生産菌から抽出する工程において使用できる。有用物質としては、タンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、抗体、糖類またはビタミン類が挙げられる。また、本発明のカチオン性界面活性剤と加水分解酵素を併用する方法は細胞破壊して細胞を死滅させるための薬剤として利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物から有用物質を生産する方法において、対イオンがカルボキシレートアニオン(a)であるカチオン性界面活性剤(A)と、加水分解酵素(B)を使用することを特徴とする有用物質を生産する方法。
【請求項2】
該加水分解酵素(B)がリゾチームである請求項1記載の生産方法。
【請求項3】
該カチオン性界面活性剤(A)が、第4級アンモニウム塩型活性剤である請求項1または2記載の生産方法。
【請求項4】
該カルボキシレートアニオン(a)が、2〜8価の多価カルボン酸のカルボキシレートアニオンである請求項1〜3いずれか記載の生産方法。
【請求項5】
有用物質が、タンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、抗体、糖類またはビタミン類である請求項1〜4いずれか記載の生産方法。
【請求項6】
請求項5記載の生産方法によって生産されたタンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、抗体、糖類またはビタミン類。

【公開番号】特開2008−199958(P2008−199958A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39569(P2007−39569)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】