説明

微生物の抗生物質耐性を検出する方法

本発明は、少なくとも1種のβ−ラクタム抗生物質(但し、β−ラクタムはオキサクリンではない)を補充した、発色性の寒天中またはその上で微生物を培養することを含む抗生物質に耐性な微生物を検出する方法に関する。本発明はまた、抗生物質に耐性な微生物の検出に使用されるキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質に耐性な微生物を検出する方法であって、少なくとも1種のβ−ラクタム抗生物質(但し、このβ−ラクタム抗生物質はオキサシリンではない。)を補充した発色性寒天中またはその上で微生物を培養することを含む方法に向けられる。
【背景技術】
【0002】
Staphylococcus aureus(S.aureus)は、最も頻繁に単離されるヒト病原体の1つである。S.aureusに見出されるメチシリン耐性の頻度は、世界中の病院および看護施設で劇的に増加している。加えて、メチシリン耐性S.aureus(MRSA)も公共の環境で発生しつつある。近年には、低レベルの耐性株(ボーダーライン耐性株とも称される)が、日本、ヨーロッパおよび米国での感染の原因となっている。これらのボーダーライン耐性株は、それらの耐性レベルにおいて極めて異質性であり、感受性限界点(susceptibility breakpoint)でまたはその近傍で最小阻害濃度(MIC)限界点(minimal inhibitory concentration (MIC) breakpoint)を有することによって特徴付けられる。これらのボーダーライン耐性株は、現在推奨されている、分子以外を主体とする方法を用いると、感染可能な株と誤診されうる(Felten et al., 2002. Evaluation of Three Techniques for Detection of Low-Level Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus (MRSA): a Disk Diffusion Method with Cefoxitin and Moxalactam, the Vitek 2 System, and the MRSA-Screen Latex Agglutination Test. JCM. 40: 2766-2771; Swenson, J. M. et al., 2001. Performance of Eight Methods, Including Two New Rapid Methods, for Detection of Oxacillin Resistance in a Challenge Set of Staphylococcus aureus Organisms. J. Clin. Microbiol. 39: 3785-3788; Gerberding, J. L. et al., 1991. Comparison of conventional susceptibility tests with direct detection of penicillin-binding protein 2a in borderline oxacillin-resistant strains of Staphylococcus aureus. Antimicrob. Agents Chemother. 35: 2574-2579; Resende, C. A., A. M. Figueiredo. 1997. Discrimination of methicillin-resistant Staphylococcus aureus from borderline-resistant and susceptible isolates by different methods. J. Med. Microbiol. 46: 145-149; Dickinson, T. M., G. L. Archer. 2000. Phenotypic Expression of Oxacillin Resistance in Staphylococcus aureus.: Roles of mecA Transcriptional Regulation and Resistant-Subpopulation Selection. Antimicrob. Agents Chemother. 44: 1616-1623; BBL Quality Control and Product Information Manual for Plated Media. Oxacillin Screen Agar(非特許文献1〜6))。従って、全ての形態のMRSAの正確な検出と同定には、微生物を適切に単離し、処理すること、およびその広がりを制御することが優先される。
【0003】
メチシリン耐性を検出するために使用される分子法、例えばPCRおよびDNAハイブリダイゼーションも純粋な単離物を必要とし、このようなコストのかかる手順を提供する研究所はわずかしかない。分子法は、標準化された感受性試験よりも迅速な結果を提供する(同日対24時間)が、分子を主体とする方法は、遺伝子配列の検出に基づいており、機能性遺伝子および非機能性遺伝子間を識別することができない。例えば、S.sciuriは、DNAハイブリダイゼーションについてMRSAと同じであると思われる、ネイティブなmecA遺伝子(ペニシリン結合タンパク質(PBPs)をコードするのを担っている)を有する(Murray, P. R. et al., 1999. Manual of Clinical Microbiology, 7th edition. ASM pg 276(非特許文献7))。加えて、検体から直接にMRSAの検出をするための、一般に用いられている分子法はない。
【0004】
米国臨床検査標準委員会(National Committee for Clinical Laboratory Standards)(NCCLS)は、MRSAの検出に対して、ディスク拡散法、MICまたはオキサシリン寒天スクリーンでオキサシリンの使用を推奨している(NCCLS. 2000 Performance standards for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria that grow aerobically. Approved standard, 5th ed. Document M7-A5. NCCLS, Wayne, PA.; NCCLS. 2000 Performance Standard for Antimicrobial Disk Susceptibility Tests; Approved Standard-7th ed. Document M2-A7. NCCLS, Wayne, PA(非特許文献8および9))。ディスク拡散、MICおよび寒天スクリーニング法は、純粋な単離物を必要とし、これは調製するのに、通常18〜24時間を要し、検出試験を行うのにさらに24時間を必要とし、MRSAの検出は全体で48時間となる。寒天スクリーン法は、オキサシリンを含有し、精製した培養物の標準化された接種物を接種したミュラー・ヒントン寒天(非選択的および非区別的基礎培地)を用いる。ディスク拡散法およびMIC法も標準化された接種物を必要とする。議論された全ての検出手順は、高レベルの耐性株の確認には充分であるが、これらの株のオキサシリンのMICが感受性限界点(オキサシリン4〜8μl/ml)であるか、またはそのすぐ上であるので、これらの方法は低レベルの耐性株を検出できない。加えて、寒天スクリーン法は、臨床検体には直接使用することができない。
【0005】
寒天スクリーン法またはディスク拡散法としての、オキサシリンを含むマンニトール塩寒天は、単離物をスクリーニングするのに推奨されている(Kampf, G. et al. , 1998. Evaluation of Mannitol Salt Agar for Detection of Oxacillin Resistance in Staphylococcus aureus by Disk Diffusion and Agar Screening. J. Clin. Microbiol. 36: 2254-2257(非特許文献10))。オキサシリンを含むマンニトール塩寒天は、1992年にMRSAの一次単離培地として最初に議論された(Enk, R. A. et al., 1992. Use of primary isolation medium for recovery of methicillin-resistant Staphylococcus aureus. J. Clin. Microbiol. 30: 504-505(非特許文献11))。最近、オックスフォード(英国)は市販の培地、オキサシリン耐性スクリーニング寒天基礎培地(Oxacillin Resistance Screening Agar Base)(ORSBA(商標))を開発した。これは、検査試料からMRSAの同定を推定に基づいて提供する選択培地である。ORSAB(商標)は、マンニトールの発酵の検出のためのアニリンブルーおよび検査試料からMRSA株の検出を可能にするポリミキシンBおよびオキサシリンの組合せと共に、マンニトール塩寒天基礎培地を含有する。幾つかの研究が、ORSAB(商標)について、これを現在の方法と比べて刊行されており、ORSAB(商標)法がMRSAに対して良好な感度を示すが、臨床試料で特異性を欠くようである。加えて、非MRSA株がORSAB(商標)上で生長し、これを一次スクリーン培地として使用した場合、MRSAを排除するための追加の試験が必要となる(Simor, A. F. et al. , 2001. Evaluation of a New Medium, Oxacillin Resistance Screening Agar Base, for the Detection of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus from Clinical Specimens. J. Clin. Microbiol. 39: 3422-3422(非特許文献12))。
【0006】
最も広く使用されているMRSA検出用の抗生物質であるオキサシリンの欠点が記録されている。例えば、接種サイズ、生長条件、例えばNaCl濃度、インキュベーション時間と温度、およびpHが、スクリーニング化合物としてオキサシリンを使用する場合に、MRSAの存在を正確に検出するのに重要である。オキサシリン基礎培地を用いる場合、ゆっくり生長する耐性集団が検出されないので、上記生長条件の全ての厳格な制御および緻密なモニタリングが重要である(Swenson, J. M. et al., 2001. Optimal Inoculation Methods and Quality Control for the NCCLS Oxacillin Screen Test for Detection of Oxacillin Resistance in Staphylococcus aureus. J. Clin. Microbiol. 39: 3781-3784; Chambers, H. F. 1988. Methicillin Resistant Staphylococci. Clin. Micro. Reviews. 1: 173-186; de Lencastre, H. et al., 1991. Multiple mechanisms of methicillin resistance and improved methods for detection in clinical isolates of Staphylococcus aureus. Antimicrob. Agents Chemother. 35: 632-639; Tomasz, A. et al., 1991. Stable classes of phenotypic expression in methicillin-resistant clinical isolates of staphylococci. Antimicrob. Agents Chemother. 35: 124-129(非特許文献13〜15))。加えて、オキサシリンを使用してメチシリン耐性微生物を検出することの有効性は、低濃度の接種物が用いられた場合に減少する。実際に、ほとんどのMRSAは、それらの耐性の発現に関して異質性であり、唯一、104から108個の細胞でメチシリンに対する感受性の減少を示す。この異質性発現の結果として、オキサシリンを一次スクリーニング剤として使用した場合に、接種物の濃度は正確な検出にのために重要である。従って、スクリーニング化合物としてオキサシリンを用いる現在の方法は、妥当な生長条件が維持されているかどうかの不正確な結果(偽陰性および偽陽性)をもたらしうる。
【0007】
【非特許文献1】Felten et al., 2002. Evaluation of Three Techniques for Detection of Low-Level Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus (MRSA): a Disk Diffusion Method with Cefoxitin and Moxalactam, the Vitek 2 System, and the MRSA-Screen Latex Agglutination Test. JCM. 40: 2766-2771
【非特許文献2】Swenson, J. M. et al., 2001. Performance of Eight Methods, Including Two New Rapid Methods, for Detection of Oxacillin Resistance in a Challenge Set of Staphylococcus aureus Organisms. J. Clin. Microbiol. 39: 3785-3788
【非特許文献3】Gerberding, J. L. et al., 1991. Comparison of conventional susceptibility tests with direct detection of penicillin-binding protein 2a in borderline oxacillin-resistant strains of Staphylococcus aureus. Antimicrob. Agents Chemother. 35: 2574-2579
【非特許文献4】Resende, C. A., A. M. Figueiredo. 1997. Discrimination of methicillin-resistant Staphylococcus aureus from borderline-resistant and susceptible isolates by different methods. J. Med. Microbiol. 46: 145-149
【非特許文献5】Dickinson, T. M., G. L. Archer. 2000. Phenotypic Expression of Oxacillin Resistance in Staphylococcus aureus.: Roles of mecA Transcriptional Regulation and Resistant-Subpopulation Selection. Antimicrob. Agents Chemother. 44: 1616-1623
【非特許文献6】BBL Quality Control and Product Information Manual for Plated Media. Oxacillin Screen Agar
【非特許文献7】Murray, P. R. et al., 1999. Manual of Clinical Microbiology, 7th edition. ASM pg 276
【非特許文献8】NCCLS. 2000 Performance standards for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria that grow aerobically. Approved standard, 5th ed. Document M7-A5. NCCLS, Wayne, PA.
【非特許文献9】NCCLS. 2000 Performance Standard for Antimicrobial Disk Susceptibility Tests; Approved Standard-7th ed. Document M2-A7. NCCLS, Wayne, PA
【非特許文献10】Kampf, G. et al. , 1998. Evaluation of Mannitol Salt Agar for Detection of Oxacillin Resistance in Staphylococcus aureus by Disk Diffusion and Agar Screening. J. Clin. Microbiol. 36: 2254-2257
【非特許文献11】Enk, R. A. et al., 1992. Use of primary isolation medium for recovery of methicillin-resistant Staphylococcus aureus. J. Clin. Microbiol. 30: 504-505
【非特許文献12】Simor, A. F. et al., 2001. Evaluation of a New Medium, Oxacillin Resistance Screening Agar Base, for the Detection of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus from Clinical Specimens. J. Clin. Microbiol. 39: 3422-3422
【非特許文献13】Swenson, J. M. et al., 2001. Optimal Inoculation Methods and Quality Control for the NCCLS Oxacillin Screen Test for Detection of Oxacillin Resistance in Staphylococcus aureus. J. Clin. Microbiol. 39: 3781-3784
【非特許文献14】Chambers, H. F. 1988. Methicillin Resistant Staphylococci. Clin. Micro. Reviews. 1: 173-186; de Lencastre, H. et al., 1991. Multiple mechanisms of methicillin resistance and improved methods for detection in clinical isolates of Staphylococcus aureus. Antimicrob. Agents Chemother. 35: 632-639
【非特許文献15】Tomasz, A. et al., 1991. Stable classes of phenotypic expression in methicillin-resistant clinical isolates of staphylococci. Antimicrob. Agents Chemother. 35: 124-129
【非特許文献16】The Manual of Clinical Microbiology, 6th Ed., Murray et al eds. ASM Press, pp1281-1286
【非特許文献17】Bergey's Mamual of systematic Bacteriology, 4th Ed.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、MRSAを正確にスクリーニングし、検出する非分子ベースの方法の必要性が引き続いてある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、抗生物質耐性微生物を検出する方法であって、少なくとも1種のβ−ラクタム抗生物質(但し、β−ラクタムはオキサシリンではない)を補充した発色性寒天中またはその上で微生物を培養することを含む方法に関する。本発明はまた、抗生物質耐性生物の検出に使用されるキットに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、抗生物質耐性微生物を検出する方法であって、少なくとも1種のβ−ラクタム抗生物質(但し、β−ラクタムはオキサシリンではない)を補充した発色性寒天中またはその上で微生物を培養することを含む方法に関する。本明細書で使用する用語「検出する」または「検出」は、表現型の基準または遺伝学的基準で注目の微生物を他の微生物から明確に区別するかまたは分離する、微生物の同定または単離を意味するのに使用される。検出は定量的な差または定性的な差とすることができる。検出方法は、例えば、特定の発色剤を用いた色によってすることができる。さらに、明確に区別できる2種以上の微生物の間の差は、遺伝学的または表現型の差が本発明の方法を実施することによって強調される限り、検出が行われるという点で最小でありうる。
【0011】
本明細書で使用する、発色性寒天培地は、発色剤を含む寒天であって、生き残っている培養された微生物が培地の中またはその上で検出可能な色を生じ、現在の培養条件下での微生物の生存可能性を示すものである。一実施形態では、本発明は、S.aureusに対する発色性寒天培地中またはその上で微生物を培養することを含む、抗生物質耐性微生物を検出する方法であって、少なくとも1種の発色剤を含有することを特徴とする方法に関する。発色性寒天培地はまた、少なくとも1種のβ−ラクタムであって、このβ−ラクタムがオキサシリンでないものを補充したことを特徴とする。発色剤の例には、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシルホスフェート、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルガラクトシド(「X−gal」)、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルグルクロニド(「X−グルクロニド」)および/または5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルグルコシド(「X−gul」)が含まれるが、これらに限定されない。
【0012】
本明細書で使用される用語「抗生物質」は、当業者がこの用語を認識している通りに使用される。一実施形態では、微生物が耐性である抗生物質は、β−ラクタムである。本明細書で使用する「β−ラクタム」は、特徴的なβ−ラクタム環を含む化合物であり、当分野で明確に理解されている。現在知られているβ−ラクタムには、ペニシリン型化合物、セファロスポリン、カルベペネム、モノバクタム、およびβ−ラクタマーゼ阻害剤が含まれる。本明細書で使用される「ペニシリン型化合物」は、特徴的なペニシリン構造を含む化合物であり、これには、もちろん、β−ラクタム環および5員チアゾリジン環構造が含まれる。ペニシリン型化合物の例には、ペニシリンG、ペニシリンV、メチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、アモキシシリン、カルベニシリン、チカルシリン、アズロシリン、メズロシリン、ピペラシリンおよびアムジノシリン、またはこれらの任意の塩または無水物が含まれるがこれらに限定されない。
【0013】
他のβ−ラクタムには、セファロスポリンが含まれ、これは、本明細書で使用されるように、特徴的なセファロスポリン構造を含む化合物であり、この構造はβ−ラクタム環が6員のジヒドロチアジン環に結合している。セファロスポリンの例には、第1、第2、第3および第4世代セファロスポリン(これらに限定されない)が含まれ、セファロチン、セファゾリン、セフラジン、セファレキシン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロール、セフロキシム、セフロキシムアキセチル、ロラカルベフ、セフォニシド、セフォテタン、セフォラニド、セフォタキシム、セフポドキシムプロキセチル、セフチゾキシム、セフィキシムセフトリアキソン、セフォペラゾン、セフタジジム、モキサラクタム、セフィピムおよびセフピロム、またはこれらの任意の塩または無水物が含まれるがこれらに限定されない。
【0014】
追加のβ−ラクタムには、カルバペネム、モノバクタムおよびβ−ラクタマーゼ阻害剤が含まれる。本明細書で使用されるカルバペネムは、特徴的なカルバペネム構造を含む化合物であり、これには、The Manual of Clinical Microbiology, 6th Ed., Murray et al eds. ASM Press, pp1281-1286(非特許文献16)で強調されているように、5員環に縮合したβ−ラクタム環を含む。カルバペネムの例には、イミペネムおよびメロペネム、またはこれらの任意の塩または無水物が含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用されるように、モノバクタムは、単環状のβ−ラクタム化合物であり、β−ラクタム環に結合した環構造を有しないものである。モノバクタムの例には、アズトレオナムまたはその任意の塩または無水物を含むが、これらに限定されない。最後に、β−ラクタマーゼ阻害剤もβ−ラクタムに含まれる。β−ラクタム阻害剤はまたβ−ラクタム環を含み、β−ラクタマーゼ阻害剤の例には、クラブラン酸、スルバクタムおよびタゾバクタムまたはこれらの任意の塩または無水物が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
様々な種類のβ−ラクタム化合物の構造がThe Manual of Clinical Microbiology, 6th Ed., Murray et al eds. ASM Press, Washington D.C., pp1281-1286(非特許文献16)に見出すことができ、これは参照によって本明細書に取り込まれる。
【0016】
本明細書で使用される用語「抗生物質耐性」は、微生物の集団の少なくとも幾つかの部分が抗生物質の存在下で生存するおよび/または活発に生長し、分裂することを意味する。例えば、抗生物質耐性は、バクテリアが抗生物質によって溶解されないか、そうでなければ破壊されないことを意味するのに使用される。抗生物質耐性はまた、抗生物質の存在下で微生物が活発に成長し分裂することを意味しうる。
【0017】
好ましくは、アッセイされる微生物は、Bergey's Mamual of systematic Bacteriology, 4th Ed.(特許文献17)(これは参照文献として本明細書に取り込まれる。)で定義されるような、Staphylococcus属からのものである。Staphylococcus属の明かになっている特徴の幾つかは、その生物が(a)グラム陽性であること、(b)クラスター形成性であること、(c)非運動性であること、(d)胞子形成性でないこと、(e)条件的嫌気性菌であること、(f)グルコースの発酵で主に乳酸を生じること、(g)カタラーゼ陽性であること、(h)コアグラーゼ陽性であること、(i)寒天上で鮮明な黄金色のコロニーであることを含むが、これらに限定されない。さらに、Staphylococcusバクテリアはまた、鼻腔、皮膚および粘膜に見出される、ヒトの常在菌叢の一部であることによって特徴付けられる。加えて、Staphylococcusはまた、ヒトのありふれた病原体であり、化膿性の感染、食中毒およびトキシックショック症候群(これらに限定されない)を含めた、広範囲の好ましくない症状を引き起こしうる。最も好ましくは、微生物は、Staphylococcus aureusである。
【0018】
本明細書で使用される用語「投与」は、微生物にスクリーニング薬を送達する任意の手段を意味するのに使用される。スクリーニング薬の投与は、例えば培養された細胞に直接行うことができるか、または、薬剤は液体の生長培地に直接接種することができ、微生物をスクリーニングするのに効果的な任意の濃度であってよい。投与はまた、微生物を培養するのに使用される場合、寒天プレートがスクリーニング薬を任意の濃度で含むように、発色性寒天のような寒天を補充する形態であってもよい。使用されるスクリーニング薬の濃度は、使用される実際の化合物、投与経路、バクテリアを維持している成長条件(これらに限定されない)を含めた種々の因子に依存し、これらの因子には塩の濃度、温度、酸素および二酸化炭素の濃度、接種物の濃度および使用される生長培地のタイプのような因子を含む。特定の一実施形態では、使用されるスクリーニング薬の濃度は、約0.01μg/mlから約100μg/mlである。特に、スクリーニング薬の濃度は、約0.1μg/mlから約50μg/mlである。さらに、濃度の範囲は、約1μg/mlから約40μg/mlである。別の実施形態では、接種物のサイズは、約10CFU/mlから約108(CFU/ml)である。特に、接種物は、約103CFU/mlから約105CFU/mlである。本明細書で使用される用語「スクリーニング薬」は、微生物が個々の抗生物質に対して耐性であるかどうかを決定するために微生物に投与される特定の化合物(β−ラクタム)を意味するのに使用される。
【0019】
本発明の方法は、微生物がペニシリン型化合物に耐性であるかどうかを決定するために行われる。語句「ペニシリン耐性」は、これがその分野で使用される通りに本明細書で使用される。即ち、微生物が、特定のメチシリン化合物だけでなく、全てのβ−ラクタム化合物に耐性であることである。特定の一実施形態では、微生物が耐性である抗生物質は、特定の化合物メチシリンである。
【0020】
他の実施形態では、微生物の抗生物質耐性を決定するために微生物に投与されるβ−ラクタムは、セファロスポリンである。特に、セファロスポリンは、セファロチン、セファゾリン、セファラジン、セファレキシン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロール、セフロキシム、セフロキシムアキセチル、ロラカルベフ、セフォニシド、セフォテタン、セフォラニド、セフォタキシム、セフポドキシムプロキセチル、セフチゾキシム、セフィキシムセフトリアゾン、セフォペラゾン、セフタジジム、モキサラクタム、セフィピムおよびセフピロムの任意の1種または組合せであってよい。特定の一実施形態では、微生物に投与されるセファロスポリンはセフォキシチンである。
【0021】
セファロスポリン、特にセフォキシチンは、MRSAの異質集団および低レベルのメチシリン耐性を発現するものの検出に対して、オキサシリンよりも優れている。これは、おそらく、オキサシリンまたはメチシリンの死亡率に至らずに、PBP2a産生を誘導するセファロスポリンの高められた能力に起因すると考えられる。
【0022】
セファロスポリン含有培地には、ほとんど制限がないことも利点である。追加のNaClおよび35℃以下でのインキュベーションがオキサシリン含有媒体で要求されるが、セファロスポリンで培養する場合、追加のNaClおよび温度の制限は重要なファクターではない。例えば、現在の方法で使用されるインキュベーション温度は、約27℃から約42℃の範囲である。特に、インキュベーション温度は、約33℃から37℃である。約5%の濃度までの追加のNaClを補充することは、最適な結果をもたらすが、2.5%NaCl程度の低い濃度でも充分に実施される。0.01%程度の低い濃度も充分な結果をもたらす。
【0023】
本発明はまた、抗生物質耐性微生物の存在を検出するためのキットであって、少なくとも1種のβ−ラクラム(但し、β−ラクタムはオキサシリンではない。)を含むキットに関する。特にキットはセファロスポリンを含む。さらに、キットは、セファロチン、セファゾリン、セファラジン、セファレキシン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロール、セフロキシム、セフロキシムアキセチル、ロラカルベフ、セフォニシド、セフォテタン、セフォラニド、セフォタキシム、セフポドキシムプロキセチル、セフチゾキシム、セフィキシムセフトリアキソン、セフォペラゾン、セフタジジム、モキサラクタム、セフィピムおよびセフピロムから選択されるセファロスポリンを含む。キットは、セフォキシチンを含むことが、一層好ましい。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
セフォキシチン含有寒天の調製
6ug/mlの濃度のセフォキシチンのDI水溶液を調製するために、(0.2g/25ml水)のストック溶液を調製した。このストックを、750ulストック溶液/リットルを用いて最終濃度まで希釈した。
【0025】
セフォキシチンワーキング溶液を、CHROMagar(商標)Staph aureusベースに、6ug/mlの最終濃度まで無菌で加えた(以下参照)。寒天の種々の成分の最終濃度を以下の表1に列記した。
【0026】
【表1】

【0027】
まず、発色性培地の処方に従って、原材料をDI水に加え、1分間沸騰するまで加熱した。沸騰後、媒体を約121℃で15分間オートクレーブで処理し、引き続いて45〜50℃に冷却した。追加の原材料、即ちマゼンタホスフェート、デフェロキサミン、トリズマ、およびアンフォテリシンB、並びに、セフォキシチン溶液を培地に無菌で加えた。次に、完全培地を10mmのペトリ皿に分配し、平らな平面を固化させた。
【0028】
(実施例2)
セフォキシチン寒天プレート上でのS.auresuの培養
MRSAおよびボーダーラインS.aureus系を検出することが困難な培養物を臨床部門およびATCC(ATCC系は、内部QCとして使用する)から得て、調製した。培養物を2時間生長させた。培養物のサンプルを、トリプチケースソイブロス(Trypticase Soy Broth)の0.5McFarland濁度物に加え、CFU(コロニー形成単位)で測定されるバクテリアの濃度を評価した。次に、無菌のDI水を用いて、培養物を約105CFUまで希釈した。最後に、セフォキシチンを含有する発色プレートに環状のすじを付けた。次に培養物を35℃から37℃で24時間インキュベートした。
【0029】
スクリーニング試験の結果を、オキサシリン、サフォキシチン、モキサラクタム、セフメタゾールおよびセフタチジジムを用いたスクリーニングと比較して表2および3に示した。
【0030】

【0031】
【表3】

【0032】
本明細書に引用した参考文献は全て、参照により本明細書に取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗生物質耐性微生物を検出する方法であって、前記微生物に少なくとも1種のβ−ラクタム抗生物質を投与する工程を含み、前記β−ラクタム抗生物質がオキサシリンでないことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記の投与する工程は、S.aureusに対する発色性寒天培地中またはその中で前記微生物を培養することを含み、前記発色性寒天培地は、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシルホスフェートおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルグルコシドよりなる群から選択される少なくとも1種の発色剤を含み、前記発色性寒天は、少なくとも1種のβ−ラクタム抗生物質をさらに含み、前記β−ラクタムがオキサシリンではないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微生物が、Staphylococcus属に属することを特徴とする請求項2に記載の方法
【請求項4】
前記微生物が、Staphylococcus aureus(S.aureus)種であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記S.aureusが、ペニシリン型化合物に耐性であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ペニシリン型化合物がメチシリンであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記β−ラクタムが、セファロスポリンであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記セファロスポリンが、セファロチン、セファゾリン、セフラジン、セファレキシン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロール、セフロキシム、セフロキシムアキセチル、ロラカルベフ、セフォニシド、セフォテタン、セフォラニド、セフォタキシム、セフポドキシムプロキセチル、セフチゾキシム、セフィキシムセフトリアキソン、セフォペラゾン、セフタジジム、モキサラクタム、セフィピムおよびセフピロムよりなる群から選択されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記セファロスポリンがセフォキシチンであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記β−ラクタムがセファロスポリンである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記セファロスポリンが、セファロチン、セファゾリン、セフラジン、セファレキシン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロール、セフロキシム、セフロキシムアキセチル、ロラカルベフ、セフォニシド、セフォテタン、セフォラニド、セフォタキシム、セフポドキシムプロキセチル、セフチゾキシム、セフィキシムセフトリアキソン、セフォペラゾン、セフタジジム、モキサラクタム、セフィピムおよびセフピロムよりなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セファロスポリンがセフォキシチンであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
抗生物質耐性微生物の存在を検出するためのキットであって、少なくとも1種のβ−ラクタムを含み、前記少なくとも1種のβ−ラクタムがオキサシリンでないことを特徴とするキット。
【請求項14】
前記β−ラクタムがセファロスポリンであることを特徴とする請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記セファロスポリンが、セファロチン、セファゾリン、セフラジン、セファレキシン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロール、セフロキシム、セフロキシムアキセチル、ロラカルベフ、セフォニシド、セフォテタン、セフォラニド、セフォタキシム、セフポドキシムプロキセチル、セフチゾキシム、セフィキシムセフトリアキソン、セフォペラゾン、セフタジジム、モキサラクタム、セフィピムおよびセフピロムよりなる群から選択されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記セファロスポリンがセフォキシチンであることを特徴とする請求項15に記載のキット。

【公表番号】特表2006−515184(P2006−515184A)
【公表日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500838(P2006−500838)
【出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/000364
【国際公開番号】WO2004/063391
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】