説明

微生物の検出方法

【課題】微生物の検出方法を提供すること。
【解決手段】a)サンプルと、微生物により産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質とを該酵素による該基質の改変を生じる条件下で接触させる工程;および
b)該基質の改変または改変の非存在を検出する工程、
を含み、
該基質の改変が該サンプル中の微生物の存在を示し、該基質の改変の非存在が該サンプル中の微生物の非存在を示す、サンプル中の微生物の存在または非存在を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の検出方法に関する。
【0002】
関連出願
本願は2002年5月28日に出願された米国仮出願第60/383,847号および2002年1月31日に出願された同60/354,001号に関する。前記出願の全教示内容は参照により本明細書に組み入れる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
米国では、創傷の感染は、医療費支出の主要な原因である。全手術創の約5%が微生物に感染し、腹部手術を受けた患者については、その数字はかなり高い(10〜20%)。細菌種、例えば、ブドウ球菌(Staphylococci)は、感染した創傷から最も多く単離される生物である。これはおそらく、環境では、ヒトがブドウ球菌の天然の貯蔵所であり、集団の50%までに常にコロニー形成しているからである。病院では、医療従事者の間および患者の間の双方で、コロニー形成率はかなり高い。さらに、病院環境でコロニー形成する生物は、抗生物質が頻繁に用いられる院内環境に存在する強力な選択圧のために、多数の形態の抗菌剤治療に対して耐性である可能性がある。ブドウ球菌は通常、無害の共生動物として保持されるが、表皮が破れると、それらは重篤な、命を脅かすような感染さえも引き起こし得る。
【0004】
ブドウ球菌は、手術創感染における最も一般的な病因である。その他のものとしては、それだけには限らないが、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)(S.pyogenes)、緑膿菌(Psuedomonas aeruginosa)(P.aeruginosa)、糞便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)(E.faecalis)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)(P.mirabilis)、霊菌(Serratia marcescens)(S.marcescens)、エンテロバクター・クロカエ(Enterobacter clocae)、アセチノバクター・アニトラタス(Acetinobacter anitratus)(A.anitratus)、肺炎桿菌(Klebsilla pneumonia)(K. pneumonia)および大腸菌(Escherichia coli)(E. coli)が挙げられる。
【0005】
前記の生物のいずれかによる手術後感染は、病院の重大な関心事である。そのような感染の最も一般的な予防方法は、予防的抗生物質を投与することである。この戦略は、概ね有効であるが、細菌の耐性株の育種という意図しない作用を有する。予防のために抗生物質を日常的に使用することは、耐性株の成長を促進するというこの理由のためにやめるべきである。
【0006】
慣例的な予防法を用いるよりもより良いアプローチは、良好な創傷管理を実施すること、すなわち、手術の前、その最中、その後に細菌のない区域を維持し、治癒する間、感染部位を注意深くモニターすることである。通常のモニタリング方法としては、治癒の遅さ、炎症の徴候および膿についての創傷部位の緻密な観察、ならびに発熱の徴候について患者の体温を測定することが挙げられる。残念ながら、多くの症候は感染がすでに確立した後でしか明らかにならない。さらに、患者が退院した後は、彼らが自身の健康管理のモニタリングを担うことになり、感染の兆候は未熟な患者には明らかでない場合もある。
【0007】
症候が発現する前に感染の初期段階を検出できるシステムまたはバイオセンサーは、患者と医療従事者の双方にとって有利であろう。患者が退院後に創傷の状態を正確にモニターできれば、より深刻な感染を防ぐために十分に早く適切な抗菌治療を開始することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、微生物の検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕a)サンプルと、微生物により産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質とを該酵素による該基質の改変を生じる条件下で接触させる工程;および
b)該基質の改変または改変の非存在を検出する工程、
を含み、
該基質の改変が該サンプル中の微生物の存在を示し、該基質の改変の非存在が該サンプル中の微生物の非存在を示す、サンプル中の微生物の存在または非存在を検出する方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、微生物の検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、活性な細菌培養物または水である対照、基質、および反応バッファーを含むサンプルにおける、経時的(分)な標的ポリペプチド基質の切断(相対蛍光)のグラフである。(staph=黄色ブドウ球菌、listeria=リステリア菌、pseudo=緑膿菌、entero=糞便連鎖球菌、strep=ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、Seratia=霊菌、e.coli=大腸菌)
【図2】図2は、バッファー、基質溶液のみ(色素)、上清(細胞を含まない)、霊菌細胞または霊菌細菌培養物(混合物)を含むサンプルにおける、経時的(分)な標的ポリペプチド基質の切断(相対蛍光)のグラフである。
【図3】図3は、4時間増殖させ、OD1に希釈した霊菌培養物(対数期)、24時間増殖させ、OD1に希釈した霊菌培養物(定常期)、6時間増殖させ、OD2に希釈した霊菌培養物(対数期)、24時間増殖させ、OD2に希釈した霊菌培養物(定常期)、またはバッファーもしくは色素のいずれかを含む対照サンプルにおける、経時的(分)な標的ポリペプチド基質の切断(相対蛍光)のグラフである。
【図4】図4は、pHレベルが6、6.4、6.8、7.2、7.6または8.0である霊菌培養物における、経時的(分)な標的ポリペプチド基質の切断(相対蛍光)のグラフである。
【図5】図5は、セラチア培養物、セラチア培養物およびEDTA、またはバッファーまたは基質溶液(色素)のみ(対照)を含むサンプルにおける、経時的(分)な標的ポリペプチド基質の切断(相対蛍光)のグラフである。
【図6】図6Aは、セラチア抽出物の存在下での、霊菌特異的プロテアーゼ標的ペプチドを結合させていないCell Debris Removerを含むバイオセンサーの蛍光のスキャンイメージである。 図6Bは、セラチア抽出物の存在下での、霊菌特異的プロテアーゼ標的ペプチドを結合させたCell Debris Removerを含むバイオセンサーの蛍光のスキャンイメージである。 図6Cは、霊菌特異的プロテアーゼを検出するためのバイオセンサーの略図である。
【図7A】図7Aは、細菌上清、アッセイ基質(カプリン酸p-ニトロフェニル)および反応バッファーを含むサンプルにおける、415nmでの経時的(分)な標的基質の切断(吸光度)のグラフである。(SA=黄色ブドウ球菌、SE=表皮ブドウ球菌、SM=霊菌、SS=ストレプトコッカス・サリバリウス、EC=大腸菌、PA=緑膿菌、EF=糞便連鎖球菌)
【図7B】図7Bは、黄色ブドウ球菌細菌上清、アッセイ基質(カプリン酸p-ニトロフェニルおよび反応バッファーを含むサンプルにおける、415nmでの経時的(分)な標的基質の切断(ΔAbs)のグラフである。反応バッファーは、1mM ZnSO4を添加した20mM Tris (pH8.3)およびさらには何も添加しない(対照)、20%メタノール(MeOH)、20%DMSO(DMSO)、または10mM Triton X-100(Triton)のいずれかからなるものとした。
【図8】図8は、細菌上清、アッセイ基質溶液(p-ニトロフェニル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド)、および反応バッファーを含むサンプルの、405nmでの経時的(時間)な吸光度の変化(ΔAbs)のグラフである。(SA=黄色ブドウ球菌、SE=表皮ブドウ球菌、SM=霊菌、SS=ストレプトコッカス・サリバリウス、EC=大腸菌、PA=緑膿菌、EF=糞便連鎖球菌)
【図9】図9は、細菌上清、アッセイ基質溶液(オルト-ニトロフェニル-N-アセチル-β-D-ガラクトピラノシド)、および反応バッファーを含むサンプルの、420nmでの経時的(時間)な吸光度(ΔAbs)のグラフである。(SA=黄色ブドウ球菌、SE=表皮ブドウ球菌、SM=霊菌、SS=ストレプトコッカス・サリバリウス、EC=大腸菌、PA=緑膿菌、EF=糞便連鎖球菌)
【図10】図10は、カプリン酸p-ニトロフェニルとともに浸漬し(イソプロパノール中)、4種の異なるサンプルをアプライしてある、2.5cmガラスマイクロファイバーフィルター(Whatman GF/A)のスキャンイメージである。四分円1には黄色ブドウ球菌をアプライし、四分円2には表皮ブドウ球菌をアプライし、四分円3にはストレプトコッカス・サリバリウスをアプライし、四分円4には対照として培地をアプライした。細菌中の酵素による基質の改変を示す黄色色素の存在(灰色の影)が、四分円2に示されている。
【図11】図11は、シュードモナス株P1、PA14(PA)、およびZK45(ZK)またはバッファー単独またはバッファーと、基質を含むサンプルにおける、経時的(秒)なpapa1(papa)、pala1(pala)、およびpaga1(paga)の酵素切断(相対蛍光強度)を検出するグラフである。
【図12】図12は、バッファーのみ、バッファー+papa1、化膿性連鎖球菌+papa1(ストレプトコッカス)、緑膿菌株PA14+papa1(シュードモナス)、大腸菌+papa1(大腸菌)、黄色ブドウ球菌+papa1(黄色ブドウ球菌)、表皮ブドウ球菌+papa1(Staph epidermidis)、霊菌+papa1(セラチア)または糞便連鎖球菌およびpapa1(エンテロコッカス)を含むサンプルにおける、経時的(秒)なpapa1(papa)の酵素切断(蛍光)の検出のグラフである。
【図13A】図13Aは、バッファーのみ、基質およびバッファー、基質およびトリプティック・ソイ培地で増殖させた緑膿菌PA14の上清(Prop(TS))、基質およびブレイン・ハート・インフュージョン培地で増殖させた緑膿菌PA14の上清(Prop(BHI))、基質およびトリプティック・ソイ培地で増殖させた緑膿菌PA14(Prop(TS細胞))、または基質およびブレイン・ハート・インフュージョン培地で増殖させた緑膿菌PA14(Prop(BHI細胞))を含むサンプルの、経時的(秒)な標識したプロピオン酸基質の加水分解(吸光度の変化)のグラフである。
【図13B】図13Bは、バッファーのみ、基質およびバッファー、基質およびトリプティック・ソイ培地で増殖させた緑膿菌PA14の上清(Butyra(TS))、基質およびブレイン・ハート・インフュージョン培地で増殖させた緑膿菌PA14の上清(Butyra(BHI))、基質およびトリプティック・ソイ培地で増殖させた緑膿菌PA14(Butyra(TS細胞))、または基質およびブレイン・ハート・インフュージョン培地で増殖させた緑膿菌PA14(Butyra(BHI細胞))を含むサンプルの、経時的(秒)な標識した酪酸塩基質の加水分解(吸光度の変化)のグラフである。
【図13C】図13Cは、バッファーのみ、基質+バッファー、基質+トリプティック・ソイ培地で増殖させた緑膿菌PA14の上清(Caproa(TS))、基質+ブレイン・ハート・インフュージョン培地で増殖させた緑膿菌PA14の上清(Caproa(BHI))、基質+トリプティック・ソイ培地で増殖させた緑膿菌PA14(Caproa(TS細胞))、または基質+ブレイン・ハート・インフュージョン培地で増殖させた緑膿菌PA14(Caproa(BHI細胞))を含むサンプルの、経時的(秒)な標識したカプリン酸塩基質の加水分解(吸光度の変化)のグラフである。
【図14】図14は、バッファー、バッファー+基質(PNP-プロピオン酸)、または基質+以下の細菌:PA14緑膿菌株(シュードモナス)、セラチア、黄色ブドウ球菌(Staph aureus)、表皮ブドウ球菌(Staph epidermidis)、連鎖球菌(ストレプトコッカス(黒丸))、腸球菌(エンテロコッカス)、大腸菌および化膿性連鎖球菌(Strep P(黒三角))を含むサンプルの、経時的(秒)な標識したプロピオン酸エステル基質の加水分解(吸光度)のグラフである。
【図15】図15は、1kbのラダー、DNA対照(環状pUC19プラスミド)または黄色ブドウ球菌(SA)、糞便連鎖球菌(EF)、大腸菌(EC)、緑膿菌(PA)、ストレプトコッカス・サリバリウス(SS)、霊菌(SM)、または表皮ブドウ球菌(SE)においてDNA代謝酵素によって、1時間、3時間、一晩(O/N)さらに切断された直線化pUC19DNAを用いて電気泳動したアガロースゲルの、スキャンイメージである。レーン番号および対応するサンプルが示されている。
【図16】図16は、バッファー、プローブのみ(DBAF12)、またはプローブおよび腸球菌、S.サリバリウス(Strep salivarius)、BamHI酵素が施されたプローブ、化膿性連鎖球菌(Strep pyogenes)、シュードモナス、大腸菌、黄色ブドウ球菌(Strep aureus)、表皮ブドウ球菌(Staph epidermidis)またはセラチアを含むサンプルにおける、経時的(秒)な標識されたプローブのDNA代謝活性(相対蛍光)のグラフである。
【図17A】図17Aは、バッファー、バッファーおよびpapa2、バッファーおよびpapa2C、またはシュードモナス、大腸菌、黄色ブドウ球菌(Staph aureus)、表皮ブドウ球菌(Staph epidermidis)、S.サリバリウス(Strep salivarius)、化膿性連鎖球菌(Strep pyogenes)、腸球菌の上清、またはセラチアおよびpapa2を含むサンプルにおける、経時的(秒)なプロテアーゼ基質papa2またはpapa2Cの切断(相対蛍光)のグラフである。
【図17B】図17Bは、ペプチド基質5-ブロモ-4-クロロ-3インドリルブチレートおよび5-ブロモ-4-クロロ-3インドリルカプリレートが、疎水性相互作用によって固体基材(ガラスマイクロファイバーフィルター)と結合しているバイオセンサー上での、表皮ブドウ球菌の検出、および化膿性連鎖球菌が検出されないことのスキャンイメージである。
【図17C】図17Cは、ペプチド基質papa2は、電気的相互作用によって固体基材(正に荷電した膜)に結合しており、シュードモナス(右)または細菌を含まないBHI培地(左)に曝されるバイオセンサー上での、シュードモナス(右)の検出のスキャンイメージである。
【図18】図18は、バッファー、バッファーおよびpapa1、対照(細菌なし)およびpapa1または103、104または105個の緑膿菌(シュードモナス)細菌に感染したブタ由来のブタ創傷抽出物およびpapa1を含むサンプルにおける、経時的なペプチド基質papa1の切断(相対蛍光)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の要旨
分子、例えば、微生物、例えば、細菌または真菌によって分泌されるか、微生物の細胞表面で発現されるか、またはウイルスもしくはプリオンに感染した細胞の表面で発現されるタンパク質は、サンプル、例えば、創傷または体液中の微生物の有無を検出するためのマーカーとして利用できることがわかっている。したがって、本発明は、サンプル中の微生物についての分子マーカーの有無を検出することによってサンプル中の微生物の有無を検出する方法を特徴とする。詳しくは、検出される分子マーカーとしては、タンパク質、例えば、ある種の微生物に特異的である酵素が挙げられる。
【0013】
1つの局面では、本発明は、酵素による基質の改変を生じる条件下で、サンプルを、微生物によって産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質と接触させるステップ、および基質の改変または改変がないことを検出するステップを含む、サンプル中の微生物の有無を検出する方法を特徴とする。基質の改変は、サンプル中の微生物の存在を示し、基質の改変がないことはサンプル中に微生物がないことを示す。詳しくは、基質は、プロテアーゼ酵素によって切断されて検出され得るシグナルを生じる、標識されたペプチドからなり得る。さらに、このペプチドは、本来の基質ペプチドの一方の末端から延長するアミノ酸残基の特定の配列を、表面に基質を共有結合によって結合するのに使用するための「タグ」として有するように設計できる。
【0014】
別の局面では、本発明は、a)酵素による基質の改変をもたらす条件下で、被験体の創傷から得たサンプルを、微生物によって産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質と接触させるステップ、およびb)基質の改変または改変がないことを検出するステップを含む、被験体における創傷感染の有無を診断する方法を特徴とする。基質の改変は、被験体における創傷感染の存在を示し、基質の改変がないことは被験体において感染がないことを示す。
【0015】
さらに別の局面では、本発明は、a)酵素による基質の改変をもたらす条件下で、被験体中の創傷を、微生物によって産生および/または分泌される酵素の、検出可能に標識された基質と接触させるステップ、およびb)基質の改変または改変がないことを検出するステップを含む、被験体における創傷感染の有無を診断する方法を特徴とする。基質の改変は、被験体における創傷感染の存在を示し、基質の改変がないことは被験体において感染がないことを示す。
【0016】
別の局面では、本発明は、固体支持体および微生物によって産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質を備え、この基質が固体支持体に結合させられている、サンプル中の微生物、例えば創傷特異的細菌の有無を検出するバイオセンサーを特徴とする。
【0017】
さらに別の局面では、本発明は、サンプル中の微生物の有無を検出するためのバイオセンサーと、創傷感染の原因性微生物である微生物の存在を検出するための1種以上の試薬とを含む、創傷感染を検出するためのキットを特徴とする。例えば、試薬は、微生物によって分泌される酵素を検出するために使用できる。詳しくは、試薬はバイオセンサーの基質の改変を検出するために使用できる。
【0018】
さらに別の局面では、本発明は、配列番号1、2、3、4、5、9または10の配列を含むか、またはそれらからなるポリペプチドを特徴とする。これらのポリペプチドは、サンプル中の、本明細書に記載したような創傷特異的酵素の存在を同定および/または検出するのに有用である。1つの実施形態では、ポリペプチドを検出可能に標識する。
【0019】
別の局面では、本発明は、配列番号6、7または8の配列を含むか、またはそれらからなる核酸を特徴とする。この核酸配列は、サンプル中の、本明細書に記載したような創傷特異的酵素の存在を同定および/または検出するのに有用である。1つの実施形態では、核酸を検出可能に標識する。
【0020】
発明の詳細な説明
多数の微生物は、その通常の増殖プロセスの一環として、多数の酵素を増殖環境に分泌する。これらの酵素は、栄養分の放出、宿主防御からの保護、細胞エンベロープ合成(細菌)および/または維持、ならびにまだ不確定のその他のものを含むがこれらに限定されない多数の機能を有している。多数の微生物はまた、酵素を、細胞外環境に曝される(および相互作用する)細胞表面に産生する。これらの酵素の多くは、それを分泌する微生物に特異的であり、それ自身、微生物の存在の特異的マーカーとして利用できる。産生および/または分泌されるこれらの酵素の存在を検出できる系は、同様に、産生/分泌微生物の存在を示すのに役立ちうる。あるいは、産生および/または分泌されるこれら酵素の非存在を検出できる系は、同様に、産生/分泌微生物が存在しないことを示すのに役立ちうる。そのような検出系は、感染、例えば、創傷感染を検出または診断するのに有用である。
【0021】
本明細書に記載する微生物検出試験系は、検出される微生物に特異的な分泌酵素などのタンパク質を同定することによって、ある特定の微生物を検出するよう調整することができる。あるいは、試験系は、創傷に感染することの多いものなど、1種以上の微生物種(例えば、少なくとも2種、少なくとも5種、または少なくとも10種の異なる微生物種)を同時に同定するよう設計することができる。特定の種類の病原微生物に共通であるが、非病原微生物には存在しない酵素を同定することが、この目的を達成する1つの方法である。そのような酵素は、例えば、微生物ゲノムデータベースの、コンピュータに基づいたバイオインフォマティクススクリーニングを用いて同定しうる。極めて少量の酵素であっても相当量の基質の代謝回転を触媒することができるので、酵素を検出系の基礎として使用することによって感度の良い試験を設計できる。
【0022】
本発明は、創傷の原因微生物である、すなわち、創傷特異的である微生物に特異的である細菌タンパク質の同定に関する。タンパク質は、それらを産生し、それらを細胞表面上に提示するか、それらを分泌する細菌を検出するための薬剤を開発するための標的に相当する限りにおいて、複数のクラスに分類することができる。本明細書に記載するように、タンパク質を9クラスに分類した。病原性細菌の存在は、細胞の表面に存在するか、または分泌された酵素と特異的に反応する合成基質を設計することによって検出できる。これらの合成基質は、検出可能な標識を用いて標識することができ、その結果、それぞれの酵素がそれらと特異的に反応する条件下で、改変、例えば、観察される可視的色変化を受ける。
【0023】
本発明の細菌検出法に用いられる酵素は、創傷特異的酵素であることが好ましい。本明細書において、創傷特異的酵素とは、病原性細菌によって産生および/または分泌されるが、非病原性細菌によっては産生および/または分泌されない酵素である。病原性細菌の例としては、ブドウ球菌属(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)または腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus))、連鎖球菌属(例えば、化膿性連鎖球菌、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)またはアガラクチア菌(Streptococcus agalactiae))、腸球菌属(例えば、糞便連鎖球菌、またはエンテロコッカス・ファシウム(Enterococcus faecium))、コリネバクテリア(corynebacteria)種(例えば、ジフテリア菌(Corynebacterium diptheriae))、バシラス属(例えば、炭疽菌(Bacillus anthracis))、リステリア(例えば、リステリア菌(Listeria monocytogenes))、クロストリジウム(Clostridium)種(例えば、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、破傷風菌、(Clostridium tetanus)、ボツリヌス菌(Clostridium notulinum)、クロストジウム・ディフィシル(Clostridium difficile))、ナイセリア(Neisseria)種(例えば、髄膜炎菌(Neisseria meningtidis)または淋菌(Neisseria gonorrhoeae))、大腸菌、赤痢菌(Shigella)種、サルモネラ(Salmonella)種、エルシニア(Yersinia)種(例えば、ペスト菌(Yersinia pestis)、偽結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)、またはエルシニア・エンテロコロチカ(Yersinia enterocolitica))、コレラ菌(Vibrio cholerae)、カンピロバクター(Campylobacter)種、(例えば、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)またはカンピロバクター・フィータス(Campylobacter fetus))、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、シュードモナス属(例えば、緑膿菌またはシュードモナス・マレイ(Pseudomonas mallei))、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、百日咳菌(Bordetella pertusis)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、ウレアプラズマ・ウレアリチカム(Ureaplasma urealyticum)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、レプトスピラ・インタロガンス(Leptospira interrogans)、ライム病菌(Borrelia burgdorferi)、マイコバクテリウム属(例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis))、ライ菌(Mycobacterium leprae)、放線菌(Actinomyces)種、ノカルジア(Nocardia)種、クラミジア(例えば、オウム病クラミジア(Chlamydia psittaci)、トラコーマ病原体(Chlamydia trachomatis)、または肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae))、リケッチア(例えば、リケッチア・リケッチー(Rickettsia ricketsii)、発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii)またはリケッチア・アカリ(Rickettsia akari))、ブルセラ属(例えば、ウシ流産菌(Brucella abortus)、ヤギ流産菌(Brucella melitensis)またはブタ流産菌(Brucella suis))、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、霊菌、エンテロバクター・クロカエ、アセチノバクター・アニトラタス、肺炎桿菌およびフランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、創傷特異的細菌は、ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、バシラス、クロストリジウム種、大腸菌、エルシニア、シュードモナス、プロテウス・ミラビリス、霊菌、エンテロバクター・クロカエ、アセチノバクター・アニトラタス、肺炎桿菌またはライ菌である。例えば、創傷特異的酵素は、黄色ブドウ球菌, 表皮ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌、緑膿菌、糞便連鎖球菌、プロテウス・ミラビリス、霊菌、エンテロバクター・クロカエ、アセチノバクター・アニトラタス、肺炎桿菌および/または大腸菌によって産生および/または分泌され得る。
【0024】
創傷特異的酵素は、溶解素(宿主細胞を溶解させるように作用する酵素);細胞壁酵素(ペプチドグリカンを含む細菌細胞壁構成要素の合成および代謝回転に関与している酵素)、プロテアーゼ(ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を特異的または非特異的に切断する酵素)、加水分解酵素(重合体分子をそれらのサブユニットに分解する酵素)、代謝酵素(細胞の種々のハウスキーピング機能、例えば、栄養素を細胞にとって有用な構成成分へと分解することを実施するよう設計されている酵素)、または病原性酵素(感染を引き起こすために細菌細胞によって必要とされる酵素)であり得る。
【0025】
好ましくは、酵素は、以下のもの(括弧内には、各タンパク質の一例のGenBank受託番号および/または名称が示される)のうち1種以上であることが好ましい:自己溶菌酵素(Atl)、FemBタンパク質(femB)、fmhAタンパク質(fmhA)、TcaBタンパク質(tcaB)、エンテロトキシンP(sep)、外毒素6(set6)、外毒素7(set7)、外毒素8(set8)、外毒素9(set9)、外毒素10(setlO)、外毒素11(setll)、外毒素12(setl2)、外毒素13(setl3)、外毒素14(setl4)、外毒素15(setl5)、クランピング因子B(clfB)、Blt様タンパク質(SA1269)、FmhCタンパク質(fmhC(eprh))、エンテロトキシンSEM(sem)、エンテロトキシンSeN(sen)、エンテロトキシンSeO(seo)、ロイコトキシンLukE(lukE)、切断型インテグラーゼ(SA0356)、エンテロトキシンC3型(sec3)、エンテロトキシンYent1(yent1)、エンテロトキシンYENT2(yent2)、グリセロールエステル加水分解酵素(geh)、免疫優性抗原A(isaA)、セリンプロテアーゼSplB(splB)、セリンプロテアーゼSplC(splC)、ABC輸送体パーミアーゼ(vraG)、ホスホメバロネートキナーゼ(mvaK2)、γ-溶血素成分B(hlgB)、γ-溶血素成分C(hlgC)、タガトース-6-ホスフェートキナーゼ(lacC)、システインプロテアーゼ前駆体(sspB)、6-ホスホ-β-ガラクトシダーゼ(lacG)、細胞外エンテロトキシンL(sel)、トリアシルグリセロールリパーゼ前駆体(lip)、スタホパイン(Staphopain)、システインプロテイナーゼ(SA1725)、タガトース1,6-ジホスフェートアルドラーゼ(lacD)、γ-溶血素鎖II前駆体(hlgA)、エンテロトキシン相同体(SA1429)、マンニトール-1-ホスフェート5-デヒドロゲナーゼ(mtlD)、ブドウ球菌の補助レギュレーターA(sarA)、ラクトースホスホトランスフェラーゼ系リプレッサー(lacR)、莢膜多糖類生合成(SA2457)、capA、ガラクトース-6-ホスフェート異性化酵素LacAサブユニット(lacA)、フィブリノーゲン結合タンパク質A、クランピング因子(clfA)、細胞外エンテロトキシンG型前駆体(seg)、細胞外エンテロトキシンI型前駆体(sei)、ロイコトキシン、LukD[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn3](lukD)、フィブロネクチン結合タンパク質相同体(fnb)、フィブロネクチン結合タンパク質相同体(fnbB)、ホリン(holin)相同体[バクテリオファージphiN315](SA1760)、D-キシルロースレダクターゼと類似のもの(SA2191)、分泌抗原前駆体SsaA相同体(ssaA)、メチシリン耐性の発現に必要な因子(femA)、外毒素2と類似のもの(SA0357)、外毒素1と類似のもの(SA1009)、外毒素4と類似のもの(SA1010)、外毒素3と類似のもの(SA1011)、ブドウ球菌の補助レギュレーターA相同体(sarH3)、トランスアルドラーゼと類似のもの(SA1599)、5-ヌクレオチダーゼと類似のもの(SA0022)、ウンデカプレニル-PP-MurNAc-ペンタペプチド-UDPGlcNAc GlcNAcトランスフェラーゼ(murG)、エキソヌクレアーゼSbcDと類似のもの(SA1180)、膜タンパク質と類似のもの(SA2148)、Ser-Aspリッチフィブリノーゲン結合性骨シアロタンパク質結合タンパク質(sdrC)、Ser-Aspリッチフィブリノーゲン結合性骨シアロタンパク質結合タンパク質(sdrD)、Ser-Aspリッチフィブリノーゲン結合性骨シアロタンパク質結合タンパク質(sdrE)、オリゴエンドペプチダーゼと類似のもの(SA1216)、MHCクラスII類似体と類似のもの(SA2006)、転写因子と類似のもの(SA0858)、推定β-ラクタマーゼ[病原性にかかわる遺伝子群(Pathogenicity island)SaPIn3](SA1633)、NA(+)/H(+)交換体と類似のもの(SA2228)、キシリトールデヒドロゲナーゼと類似のもの(SA0242)、細胞壁酵素EbsBと類似のもの(SA1266)、IS232の転移酵素(transposase)と類似のもの(SAS069)、IS232の転移酵素と類似のもの(SAS070)、輸送タンパク質SgaTと類似のもの(SA0318)、転写レギュレーターと類似のもの(SA0187)、リボース輸送体RbsUと類似のもの(SA0260)、調節タンパク質PfoRと類似のもの(SA0298)、エンテロトキシンA前駆体と類似のもの(SA1430)、調節タンパク質PfoRと類似のもの(SA2320)、IS232の転移酵素相同体[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn3](tnp)、ギ酸塩輸送体NirCと類似のもの(SA0293)、D-オクトピンデヒドロゲナーゼと類似のもの(SA2095)、rbsオペロンリプレッサーRbsRと類似のもの(SA0261)、細胞表面タンパク質Map-wと類似のもの(SA0841)、フィブリノーゲン結合タンパク質と類似のもの(SA1000)、フィブリノーゲン結合タンパク質と類似のもの(SA1003)、フィブリノーゲン結合タンパク質と類似のもの(SA1004)、スタフィロコアグラーゼ(staphylocoagulase)前駆体と類似のもの(SA0743)、フェリクロム(ferrichrome)ABC輸送体と類似のもの(SA0980)、ペプチド結合タンパク質OppAと類似のもの(SA0849)、プロトン対向輸送体流出ポンプと類似のもの(SA0263)、kdpオペロンセンサータンパク質と類似のもの(kdpD(SCCmec))、分泌抗原前駆体SsaAと類似のもの(SA0270)、外膜タンパク質前駆体と類似のもの(SA0295)、デオキシリボジピリミジンフォトリアーゼと類似のもの(SA0646)、分泌抗原前駆体SsaAと類似のもの(SA2097)、膜内在性流出タンパク質と類似のもの(SA2233)、分泌抗原前駆体SsaAと類似のもの(SA2332)、分泌抗原前駆体SsaAと類似のもの(SA2353)、膜貫通流出ポンプタンパク質と類似のもの(SA0099)、多剤耐性流出ポンプと類似のもの(SA0115)、推定特異性決定基HsdS[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn3](SA1625)、ABC輸送体ATP結合タンパク質と類似のもの(SA0339)、コバラミン合成関連タンパク質と類似のもの(SA0642)、転写レギュレーターMarRファミリーと類似のもの(SA2060)、N-カルバモイルサルコシンアミドヒドロラーゼと類似のもの(SA2438)、タイコ酸生合成タンパク質Bと類似のもの(SA0243)、タイコ酸生合成タンパク質Bと類似のもの(SA0247)、転写レギュレーターRpiRファミリーと類似のもの(SA2108)、二成分センサーヒスチジンキナーゼと類似のもの(SA2180)、スクシニル-ジアミノピメレートデスクシニラーゼと類似のもの(SA1814)、細胞外マトリックスおよび血漿結合と類似のもの(SA0745)、転写抗ターミネーターBglGファミリーと類似のもの(SA1961)、コバラミン合成関連タンパク質CobWと類似のもの(SA2368)、DNAポリメラーゼIIIと類似のもの、α鎖PolC型(SA1710)、スペルミン/スペルミジンアセチルトランスフェラーゼbltと類似のもの(SA1931)、トリメチルアミンデヒドロゲナーゼと類似のもの(EC1.5.99.7)(SA0311)、AraC/XylSファミリー転写レギュレーターと類似のもの(SA0622)、PTSフルクトース特異的酵素IIBC成分と類似のもの(SA0320)、β-ラクタマーゼ[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn1]と類似のもの(SA1818)、4-ジホスホシチジル-2C-メチル-D-エリスリトールシンターゼと類似のもの(SA0241)、シネルゴヒメノトロピック(synergohymenotropic)毒素前駆体-スタフィロコッカス・インテルメディウスと類似のもの(SA1812)、バクテリオファージターミナーゼ小サブユニット[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn1]と類似のもの(SA1820)、ポリ(グリセロール-ホスフェート)α-グルコシルトランスフェラーゼ(タイコ産生合成)と類似のもの(SA0523)。上記に記載したGenBank受託番号は黄色ブドウ球菌タンパク質に対応するものである。他の種由来のこれらのタンパク質のGenBank受託番号は当業者ならば入手可能である。そのようなGenBank受託番号は、例えば、GenBankタンパク質データベースを、所望のタンパク質および種の名前で検索することによって得ることができる。あるいは、提供されたGenBank受託番号および/またはタンパク質名を使用して黄色ブドウ球菌タンパク質配列を得ることができ、この配列は、例えば、本明細書に記載したBLASTプログラムを使用して、類似の配列同一性または相同性を有する他の種由来のタンパク質について検索することができる。次いで、他の種由来のタンパク質配列を検索結果から得ることができる。
【0026】
本発明に用いる基質は、本発明の酵素と相互作用し得る、合成のものであるかまたは自然界に存在するものであるあらゆる分子も含む。基質の例としては、本明細書に記載した基質、ならびに当技術分野で公知であるこれらの酵素の基質が挙げられる。基質の他の例としては、Alt由来蛍光ペプチド、例えば、PGTKLYTVPW-ピレン(配列番号1)(ブドウ球菌の表面に結合でき、結合すると蛍光の増大が起こると予想される)、蛍光ペプチドグリカン、例えば、蛍光-N-アセチルグルコサミン-[b-1,4-Nアセチルムラミン酸、蛍光-N-アセチルムラミル-L-アラニン、または蛍光-リポタイコ酸(フルオレセインで過剰標識されたペプチドグリカンは、蛍光を消光されるが、創傷病原体による加水分解後、蛍光を発する)、および溶血素の検出のための色素を含む脂質小胞(多数の溶血素は、孔形成毒素である規則正しいタンパク質複合体を形成し、脂質小胞からの色素の放出と、それに続く色素の疎水性固体基材への拡散によって検出され得る)が挙げられる。本明細書に記載したこのような基質は、商業的供給源、例えば、Sigma(St.Louis,MO)から入手でき、また、当業者に公知の方法を用いて製造、例えば、単離もしくは精製、または合成することもできる。
【0027】
本発明の酵素は、基質、例えば、タンパク質またはポリペプチドを切断することによって改変することができ、そのような改変を検出して、サンプル中の病原体の有無を調べることができる。酵素による基質の改変を検出する一方法として、一方が、分子、例えば、色素または比色物質が極めて接近している場合に、蛍光エネルギー移動(FRET)によってもう一方の色素の蛍光を消光するよう働き、蛍光の変化を検出することによって測定される、2種の異なる色素を用いて基質を標識することがある。
【0028】
FRETは、一方の蛍光分子の発光がもう一方の励起と連動している距離依存性励起状態相互作用というプロセスである。共鳴エネルギー移動の典型的なアクセプターおよびドナー対は、4-[[-(ジメチルアミノ)フェニル]アゾ]安息香酸(DABCYL、Dabcyl)および5-[(2-アミノエチルアミノ)ナフタレンスルホン酸(EDANS、Edans)からなる。EDANSは、336nm光の照射によって励起され、波長490nmの光子を発する。DABCYL部分がEDANSの20オングストローム内に位置する場合には、この光子は効率的に吸収される。DABCYLおよびEDANSをペプチド基質の反対側の末端に結合させる。基質が損なわれていなければ、FRETは極めて効率的である。ペプチドが酵素によって切断されている場合には、2種の色素はもはや極めて接近しては存在せず、FRETは非効率的となる。切断反応に続いて、アクセプターの蛍光の減少か、ドナーの蛍光の増加のいずれかを観察できる。EDANSの蛍光の増加は、例えば、485nmまたは538nmで測定することができる。
【0029】
改変される基質がタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドである場合には、標準的な組替えタンパク質技術を使用して基質を製造することができる(例えば、その全教示が参照により本明細書に組み入れられる、Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons,(1998)参照)。さらに、本発明の酵素も、組換え技術を用いて作製できる。酵素またはその基質の十分な供給によって、改変の正確な部位を決定することができ、必要に応じて、酵素のより特異的な基質を規定することができる。この基質はまた、病原性細菌の存在についてアッセイするために使用できる。
【0030】
基質を、酵素と基質間の相互作用をモニターし、何らかの基質改変、例えば、基質の切断、またはそのような相互作用によって生じる標識を検出するために使用される検出可能な標識で標識する。検出可能な標識の例としては、基質に組み込むことができる種々の色素、例えば、本明細書に記載したもの、スピン標識、抗原またはエピトープタグ、ハプテン、酵素標識、補欠分子族、蛍光物質、化学発光物質、生物発光物質および放射性物質が挙げられる。適切な酵素標識の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼが挙げられ、適切な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが挙げられ、適切な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン(umbelliferone)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロライドおよびフィコエリトリンが挙げられ、化学発光物質の例としては、ルミノールが挙げられ、生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンが挙げられ、適切な放射性物質の例としては、125I、131I、35Sおよび3Hが挙げられる。検出可能な標識のその他の例としては、ボジピー(Bodipy)、ピレン(Pyrene)、テキサスレッド(Texas Red)、IAEDANS、ダンシル・アジリジン(Dansyl Aziridine)、IATRおよびフルオレセインが挙げられる。これらの標識のスクシミジルエステル、イソチオシアネートおよびヨードアセトアミドも市販されている。検出可能な標識を用いない場合には、その他の適切な方法、例えば、電気泳動解析による基質切断の検出、または当業者に公知の他の方法によって、酵素活性を調べることができる。
【0031】
好ましい検出可能な標識の一例として、細菌酵素による基質の加水分解をモニターすることができる発色性色素がある。そのような色素の一例として、パラ−ニトロフェノールがある。基質分子と結合している場合には、この色素は、分泌された酵素によって基質が改変されるまで無色のままであるが、その時点で黄色に変わる。分光光度計で415nmの吸光度を測定することによって、酵素-基質相互作用の進行をモニターすることができる。検出可能な改変、例えば、可視的な色の変化を生じるその他の色素は、当業者には公知である。
【0032】
細菌の有無が検出される、すなわち、創傷感染が診断されるサンプルは、例えば、創傷、体液、例えば、血液、尿、痰、または創傷液(例えば、創傷部位に生じた膿)であり得る。サンプルはまた、細菌が、その上/その中に含まれ得る何らかの物品、例えば、創傷包帯、カテーテル、尿収集バッグ、血液収集バッグ、血漿収集バッグ、ポリマー、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、発泡体、布、紙、縫合糸、スワブ、試験管、マイクロプレートのウェル、コンタクトレンズ溶液、または部屋もしくは建物のある領域、例えば、保健医療施設の実験室または手術室、浴室、調理場、または加工もしくは製造施設からのスワブであり得る。
【0033】
本発明はまた、本明細書に記載された(1種以上の、例えば、少なくとも2種、少なくとも5種、少なくとも10種、少なくとも20種、少なくとも30種、少なくとも50種、少なくとも75種、または少なくとも100種)マーカータンパク質酵素を検出するための、およびマーカータンパク質を保有している消費者を知らせるためのバイオセンサーを特徴とする。本明細書において使用される場合は、「バイオセンサー」とは、1種以上の前記の基質、または本明細書に記載した他の基質を組み込んでおり、細菌の有無を感知すると検出可能なシグナルを生じる装置である。細菌汚染についてモニターされている創傷または他の体液と近接している固体支持体と結合している(1種以上の)特異的な基質を含む、感染した創傷を検出するための、保健医療環境において使用するための、または家庭用のバイオセンサーが提供される。基質が標識と共有結合によって結合しており、したがって、基質-標識結合のタンパク質分解の際に、細菌の存在を示す検出シグナルを有することが好ましい。
【0034】
バイオセンサーは、まず、検出される細菌に特徴的な特異的酵素の特異的基質を決定することによって作製する。決定した特異的基質を、1種以上の、好ましくは、複数の検出可能な標識、例えば、色素産生性または蛍光脱離基で標識する。標識基が、シグナルがタンパク質分解によって基質から脱離される場合にのみ活性化される不顕性のシグナルを提供することが最も好ましい。色素産生性脱離基としては、例えば、パラ-ニトロアナリド(para-nitroanalide)基が挙げられる。基質が、細菌によって創傷またはその他の体液中に分泌されたか、または細菌細胞の表面に提示された酵素と接触すれば、酵素が、改変、例えば、色の変化として可視的に(例えば、創傷包帯などの固体支持体上で)、または当技術分野では標準的な分光光度的技術を用いて検出できる吸光度の変化の検出をもたらすような方法で基質を改変する。
【0035】
本発明のバイオセンサーはまた、病原性細菌の産生および/または分泌された酵素の、1種以上の基質(例えば、少なくとも2種、少なくとも5種、少なくとも10種、少なくとも20種、少なくとも30種、少なくとも50種、少なくとも75種、または少なくとも100種の基質)を含み得る。バイオセンサーは、固体支持体、例えば、創傷包帯(包帯またはガーゼなど)、無菌にするか、微生物汚染がないものとするために必要である何らかの物質、例えば、ポリマー、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、発泡体、布、紙または縫合糸またはサンプルを含むか、集めるもの(尿バッグ、血液バッグまたは血漿バッグ、試験管、カテーテル、スワブまたはマイクロプレートのウェルなど)である。
【0036】
典型的には、固体支持体は、支持体が創傷またはサンプルと直接接触する場合には、滅菌に適切な材料で作製する。本発明の1つの実施形態では、バイオセンサーは創傷と直接接触できる。そのような直接接触の際の創傷または体液の汚染を防ぐために滅菌被覆剤または層を用いる例もある。そのような滅菌被覆剤を用いる場合には、それらは、滅菌に適切なものにするが、酵素/基質相互作用を妨害しない特性を有する。創傷と接触するバイオセンサーの一部がまた、サンプル表面からバイオセンサーを容易に取り除けるよう接着性でないことが好ましい。例えば、バイオセンサーが、創傷包帯を含む場合には、この包帯は、酵素基質が反応するのに十分な時間の間創傷と接触し、次いで、包帯を、創傷または周囲の組織にさらに損傷を生じることなく創傷から取り除く。
【0037】
検出可能な標識、例えば、色素生産性色素を用いて適切に標識され、センサー装置に結合されているか、または組み込まれている基質は、前記の酵素を分泌する病原性細菌の有無についての指示薬となり得る。1を超える基質を用いる場合には、それをもう1つのものと区別するように(例えば、異なる検出可能な標識を使用して)各々を標識することができ、および/または、各々を固体支持体の特定の領域に局在化させることもできる。
【0038】
疎水性脱離基を有する基質は、疎水性表面に非共有結合によって結合させることができる。あるいは、ジスルフィドまたは第一級アミン、カルボキシルもしくはヒドロキシル基によって、親水性または疎水性基質を表面に結合させることができる。基質を固体支持体に結合させる方法は、当技術分野では公知である。例えば、蛍光および色素生産性基質は、創傷病原菌との反応に影響を及ぼさない、遊離アミン、カルボン酸またはSH基などの必須ではない反応性末端を使用して固体基質に結合させることができる。遊離アミンは、例えば、pH4.5に調整した蒸留水中で4℃で2時間、10倍モル過剰のN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)またはN-シクロヘキシル-N'-2-(4'-メチル-モルホリニウム)エチルカルボジイミド-p-トルエンスルホネート(CMC)のいずれかを使用して基質のカルボキシル基に結合させ、ペプチド結合を形成する縮合反応を刺激することができる。SH基は、DTTまたはTCEPを用いて還元し、次いで、N-e-マレイミドカプロン酸(EMCA, Griffithら、Febs Lett. 134: 261〜263頁、1981)を用いて表面の遊離アミノ基に結合させることができる。
【0039】
本発明に使用するための基質の一例として、配列番号1、2、3、4、5、9または10のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなるポリペプチド、あるいは本明細書に記載した配列比較プログラムおよびパラメーターを使用して決定されるような、配列番号1、2、3、4、5、9または10と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するポリペプチドがある。そのようなポリペプチドは、本明細書に記載したような創傷特異的プロテアーゼによって酵素的に切断される。
【0040】
本発明に使用するための基質の別の例として、配列番号6、7もしくは8の核酸配列、または本明細書に記載した配列比較プログラムおよびパラメーターを使用して決定されるような、配列番号6、7もしくは8と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有する核酸配列を含むか、またはそれらからなるポリペプチドがある。そのようなポリペプチドは、本明細書に記載したような創傷特異的プロテアーゼによって酵素的に切断される。
【0041】
本発明のポリペプチドはまた、前記のポリペプチドおよび核酸の断片および配列変異体を包含する。変異体は、一生物内の同一の遺伝子座によってコードされる実質的に相同なポリペプチド、すなわち、対立遺伝子変異体、ならびにその他の変異体を含む。核酸変異体もまた、対立遺伝子変異体を含む。変異体はまた、一生物内の他の遺伝子座に由来するが、配列番号1、2、3、4、5、9もしくは10のポリペプチドまたは配列番号6、7もしくは8の核酸と実質的な相同性を有するポリペプチドまたは核酸を包含する。変異体はまた、これらのポリペプチドまたは核酸と実質的に相同または同一であるが、別の生物に由来するポリペプチドまたは核酸、すなわち、相同分子種を含む。変異体はまた、化学合成によって製造される、これらのポリペプチドまたは核酸と実質的に相同または同一なポリペプチドまたは核酸を含む。変異体はまた、組換え法によって製造されるこれらのポリペプチドまたは核酸と実質的に相同または同一なポリペプチドまたは核酸を含む。
【0042】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の同一性パーセントは、最適比較目的で配列を整列させることによって求めることができる(例えば、第1の配列の配列中にギャップを導入することができる)。次いで、対応する位置のアミノ酸を比較し、2つの配列間の同一性パーセントを、両配列によって共有される同一位置の数の関数とする(すなわち、同一性%=同一位置の数/全位置数×100)。特定の実施形態では、比較目的で整列されるアミノ酸配列の長さが、参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも60%、さらにより好ましくは、少なくとも70%、80%、90%または100%である。2つの配列の実際の比較は、周知の方法によって、例えば、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。そのような数学的アルゴリズムの好ましい、それだけには限らない例が、Karlinら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90:5873〜5877頁、1993に記載されている。そのようなアルゴリズムは、Schafferら(Nucleic Acids Res.、29:2994〜3005頁、2001)に記載されているように、BLASTプログラム(バージョン2.2)に組み込まれている。BLASTおよびギャップド(Gapped)BLASTプログラムを利用する場合には、それぞれのプログラムのデフォルトパラメーターを使用できる。1つの実施形態では、検索されるデータベースは非重複性(NR)データベースであり、配列比較のパラメーターは、フィルターなし;エクスペクト・バリュー(Expect value)10;ワード・サイズ(Word Size)3;マトリックス(Matrix)をBLOSUM62;ギャップ・コスト(Gap Cost)はExistence 11およびExtension1を有するように設定できる。
【0043】
別の実施形態では、2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(Accelrys Inc., San Diego, California)中のGAPプログラムを使用し、Blossom 63マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、およびギャップ加重値(gap weight)12、10、8、6または4および長さ加重値(length weight)2、3または4を使用して得ることができる。さらにもう1つの実施形態では、2つの核酸配列間同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(Accelrys Inc.)中のGAPプログラムを使用し、ギャップ加重値50および長さ加重値3を使用して得ることができる。
【0044】
その他の好ましい配列比較法は本明細書に記載されている。
【0045】
本発明はまた、同一性度が低いが、ポリペプチドによって発揮される1以上の同一機能、例えば、霊菌特異的プロテアーゼの基質として作用する能力を発揮するのに十分な類似性を有するポリペプチドを包含する。類似性は保存的アミノ酸置換によって決まる。そのような置換は、ポリペプチド中の所定のアミノ酸を同様の特性の別のアミノ酸で置換するものである。保存的置換は表現型としてはサイレントであることが多い。通常、保存的置換として見られるものは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、LeuおよびIleの間での互いの置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGln間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、および芳香族残基PheおよびTyr間の置換である。どのアミノ酸変化が表現型としてサイレントであるかについての手引きは、Bowieら、Science 247:1306〜1310、1990に見出せる。
【0046】
機能的変異体はまた、機能に変化をもたらさないか、わずかな変化をもたらす類似アミノ酸の置換を含み得る。あるいは、そのような置換は、機能に正にまたは負にある程度の影響を及ぼすこともある。非機能的変異体は、通常、1以上の非保存的アミノ酸置換、欠失、挿入、逆位、切断、あるいは重要な残基または重要な領域における置換、挿入、逆位もしくは欠失を含み、そのような重要な領域としては、霊菌特異的プロテアーゼの切断部位が挙げられる。
【0047】
霊菌特異的プロテアーゼによる切断に必須である、本発明のポリペプチドのアミノ酸は、当技術分野で公知の方法、例えば、部位特異的突然変異誘発またはアラニンスキャニング突然変異誘発(Cunninghamら、Science、244:1081〜1085頁、1989)によって同定できる。後者の手順では、分子中の残基の各々に単一のアラニン突然変異を導入する(分子当たり1突然変異)。
【0048】
本発明はまた、配列番号1、2、3、4、5、9または10のアミノ酸配列のポリペプチド断片、または配列番号6、7または8の核酸配列またはそれらの機能的変異体を含む。断片は、配列番号1、2、3、4、5、9または10を含むポリペプチドまたは配列番号6、7または8を含む核酸から誘導できる。本発明はまた、本明細書に記載したポリペプチドおよび核酸の変異体の断片を包含する。有用な断片としては、創傷特異的プロテアーゼの基質として作用する能力を保持するものが挙げられる。
【0049】
断片は、分離したものである(他のアミノ酸またはポリペプチドと融合していない)場合もあり、大きなポリペプチド内にある場合もある。さらに、いくつかの断片が、単一の大きなポリペプチド内に含まれる場合もある。1つの実施形態では、宿主内で発現するよう設計された断片は、ポリペプチド断片のアミノ末端に融合された異種プレ-およびプロ-ポリペプチド領域、ならびに断片のカルボキシル末端に融合されたさらなる領域を含み得る。
【0050】
本発明のバイオセンサーは、細菌、特に、病原性細菌の有無を検出することが望ましいいずれの状況でも使用できる。例えば、保健医療施設、特に、手術室内の作業表面に集まる細菌を、本明細書に記載するようなバイオセンサーを用いて検出できる。細菌によって分泌されるか、その表面に提示される酵素によって改変され得る、1種の基質、または2種以上の基質を標識し、回収基材、例えば、スワブチップ上の綿繊維に共有結合によって結合させる。1以上の基質を利用する場合には、互いに区別するために(例えば、異なる検出可能標識を用いて)各々を標識することができ、および/または各々を固体支持体上の特定の領域に局在化させることができる。スワブチップを用いて、細菌によって汚染されていると疑われる表面をふき取る。スワブチップを培地に入れ、結合している標識された基質に特異的な酵素が存在する場合には、標識された基質の改変を可能にする条件を使用してインキュベートする。
【0051】
本発明はまた、本明細書に記載したような創傷特異的細菌を検出するキットを特徴とする。このキットは、検出可能に標識された基質が連結、結合、付着させられた固体支持体、例えば、複数のウェルを含むもの(例えば、マイクロタイタープレート)を含み得る。1種以上のバッファー溶液を提供する手段が設けられている。陰性対照および/または陽性対照も備えうる。当業者ならば、適切な対照を容易に準備できる。本明細書に記載した病原菌によって汚染されていると疑われるサンプルは、バッファー溶液を使用して調製する。サンプルのアリコート、陰性対照および陽性対照を、それぞれのウェルに入れ、反応させる。基質の改変、例えば、色の変化が観察されるウェルを、微生物病原菌を含むと決定する。このようなキットは、被験体において創傷感染を検出するのに特に有用である。
【0052】
本発明によって、バイオセンサー、例えば、パッケージ化された滅菌創傷包帯、および検出アッセイを実施するのに必要ないずれかのさらなる試薬を含むキットも包含される。
【0053】
本発明の方法および/またはバイオセンサーは、本明細書に記載した創傷特異的酵素の有無を検出するために使用できる。例えば、本方法および/またはバイオセンサーは、病原性細菌によって分泌されるリパーゼ酵素の有無を検出するために使用できる。特定の細菌は、その生存および/または病原性機構の一環としてリパーゼをその環境に分泌することが発見されている。リパーゼは、増殖環境中の脂質を分解して栄養素を放出するよう働く。リパーゼはまた、感染の際の哺乳類宿主防御を和らげることにおいても役割を果たしている可能性がある。これらの分泌された酵素の合成基質を使用して、それらを分泌する病原性細菌の有無を検出できる。色素部分を連結させて脂質を合成することによって、分泌されたリパーゼによって加水分解されると色が変化する基質を作製することができる。色素分子は、脂肪酸に結合している時には無色であり、基質がリパーゼによって切断されると色が変化する、多数の市販の分子のうちの1種であり得る。そのような色素の例としては、ローダミン-110(Molecular probes, Eugene, Oregonから入手可能)がある。この呈色反応が、それだけには限らないが、創傷包帯をはじめとする保健医療製品に組み込むことができる細菌センサーの基礎を形成する。
【0054】
別の例では、本発明の方法および/またはバイオセンサーは、自己溶菌酵素の有無を検出するために使用できる。自己溶菌とは、ペプチドグリカン、細菌細胞エンベロープの構成要素を分解する酵素である。自己溶菌酵素は、親生物のものであれば、細胞分裂および代謝回転機能の一環として、または競合する細菌の細胞壁を分解させる手段として、ペプチドグリカンを分解するよう働く。パラ-ニトロフェノール、合成ペプチドグリカンサブユニット(例えば、それだけには限らないが、N-アセチル-β-d-グルコサミニド)を用いて標識する場合には、これは、細菌センサーの基礎を形成し得る指示薬として働く。
【0055】
別の例では、本発明の方法および/またはバイオセンサーは、細菌細胞表面上のβ-ガラクトシダーゼの有無を検出するために使用できる。ほとんどの細菌種は、エネルギー源としてのラクトースの代謝に関与する細胞質酵素としてβ-ガラクトシダーゼを発現する。しかしながら、連鎖球菌の特定の種は、酵素を細胞表面上に提示する。したがって、β-ガラクトシダーゼの基質として作用する標識した合成分子(それだけには限らないが、オルトニトロフェニルβ-D-ガラクトピラノシド(ONPG)を含む)を、環境中の連鎖球菌を検出する手段として使用できる可能性がある。
【0056】
細胞によって分泌されるか、または細胞表面に存在する少なくとも1種の酵素を産生する病原性細菌を検出するアッセイを開発する方法、および酵素を産生する病原性細菌を検出するためにこのアッセイを使用する方法を以下に記載する:
【0057】
ステップ1) 注目する原核微生物を独特に同定するアミノ酸配列を規定する。あるいは、特定の病原菌群、例えば、創傷特異的病原菌に特有である(1種以上の)アミノ酸配列を決定することができる。
【0058】
注目する微生物または微生物群(例えば、創傷特異的病原菌)の存在を、独特に特性決定するか、明らかにするアミノ酸配列、例えば、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチド(マーカー配列)を選択する。この選択は、例えば、以下に詳細に記載したようにバイオインフォマティックアプローチを利用して実施できる。特定の原核微生物に独特である1種以上のアミノ酸配列を決定する。
【0059】
ステップ2) 酵素による基質の最適改変を容易にする条件を決定するのに十分な酵素を獲得する。
【0060】
例えば、Ausubel(上記)に記載された、標準的なタンパク質精製技術を使用して、アッセイされる病原性細菌が増殖している細胞外培地から、または細菌の細胞膜から酵素を単離する。
【0061】
あるいは、酵素をコードする遺伝子配列または酵素をコードする遺伝子配列の位置が未知である場合には、ステップ1のマーカーアミノ酸をコードする遺伝子配列を単離し、クローニングする、すなわち、まず遺伝子配列を決定し、ついで前記のように進める。
【0062】
ステップ3) 原核生物の増殖のための、および細胞の表面に提示されるか、細胞によって分泌される酵素の産生のための条件を決定する。
【0063】
注目する特定の原核微生物の増殖に、およびその独特な活性酵素の培地への発現に必要な培地を決定する。第2の分子(例えば、酵素)が、不活性な前駆体型から活性型へと特定の酵素を変換させるために必要であるかどうかも決定する。酵素が活性型で分泌されたかどうかを調べるには、細菌培養物サンプルを選択された可能性ある基質とともに提供し、これらの基質の切断を調べる。これは、例えば、適切な培地中で、酵素を産生する細菌を基質と混合し、穏やかに振盪しながら37℃でインキュベートすることによって行うことができる。事前に設定した時間(0.1、0.3、1.0、3.0、5.0、24および48時間)に、サンプルを遠心分離して細菌を沈降させ、SDS-PAGEゲルサンプルのために少量のアリコートを回収する。時間経過を完了した後、サンプルを10〜15%勾配SDS-PAGEミニゲルで泳動する。次いで、Bio-Rad半乾燥トランスブロッティング(semi-dry transblotting)装置を使用して、タンパク質をImmobilon Pseqにトランスファーする(トランスファーバッファー、10% CAPS、10%メタノールpH 11.0、15Vで30分)。タンパク質のトランスファー後、ブロットを、クマシーブルーR-250(0.25%クマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)R-250、50%メタノール、10%酢酸)を用いて染色し、脱染し(5分間の高脱染、50%メタノール、10%酢酸;完了するまでの低脱染、10%メタノール、10%酢酸)、続いて、N末端から配列決定する。あるいは、タンパク質切断部位をマッピングするために、例えば、Voyager Elite質量分析計(Perceptive Biosystems, Albertville, Minnesota)を使用して、サンプルを質量分析計で計測することもできる。
【0064】
ステップ4) 活性酵素プロテアーゼの特異的基質を同定する。可能性ある基質の例としては、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、脂質およびペプチドグリカンサブユニットが挙げられる。各基質を検出可能な標識、例えば、本明細書に記載した検出可能な標識、または当技術分野で公知のその他の検出可能な標識を用いて標識する。
【0065】
ステップ5) 酵素の活性または結合部位を決定し(例えば、前記のようにFRETを使用して)、次いで、活性または結合部位を産生するのに有用な遺伝子配列を決定し、決定された遺伝子配列をクローニングしてより特異的な基質を作製することによって、酵素-基質相互作用(任意)の特異性を高める。
【0066】
ステップ6) 注目する病原性細菌のプロテアーゼを検出するための、前記で同定した、1種以上の検出可能に標識された基質を含むバイオセンサーを提供する。
【0067】
基質は固体支持体、例えば、創傷包帯、または酵素および基質を保持するもの、例えば、体液回収チューブまたは袋、マイクロプレートウェルまたは試験管に接着させることができる。必要に応じて、固体支持体は、基質を結合させるための複数の誘導体化された結合部位、例えば、誘導体化されたプレート上のスクシミジルエステル標識された第一アミン部位(Xenobind plates, Xenopore Corp., Hawthorne, New Jersey)を提供することができる。
【0068】
任意に、固体支持体上の非占有反応部位を、ウシ血清アルブミンまたはp26の活性ドメインをそれに結合させることによってブロックする。p26は、この場合には、非特異的タンパク質凝集を減少させるために用いられるα-クリスタリン型タンパク質である。p26タンパク質の、食品包装表面に結合する前後に熱変性したクエン酸シンターゼをリフォールディングする能力を、p26活性を測定するための対照として用いる。α-クリスタリン型タンパク質は、標準的な組換えDNA技術を用いて組換えによって生産した(Ausubel、上記、参照)。簡潔には、βシートチャージされた、p26のコアドメインを含むプラスミドを、エレクトロコンピテントBL21(DE3)細胞にエレクトロポレーションする(Bio-Rad大腸菌パルサー)。細胞を0.8というOD600まで増殖させ、次いで、1mM IPTGとともに4時間インキュベートする。細胞を沈降させ、低バッファー(10mM Tris、pH8.0、500mM NaCl、50mMイミジゾール)中で超音波処理して溶解させる(Virsonic, Virtis, Gardiner, NewYork)。溶解物を13,000×gで10分間沈降させ、上清を0.45および0.2μmで濾過する。この濾液をNi-NTA superoseカラムにのせる(Qiagen, Valencia, California,カタログ番号30410)。高バッファー(10mM Tris pH8.0、500mM NaCl、250mMイミジゾール)を用いてタンパク質を溶出する。
【0069】
酵素を基質と接触させ、本明細書に記載したように、検出可能に標識された基質の改変について反応をモニターする。基質の改変は、反応物中に存在する細菌によって産生/分泌された酵素を示す。さらに、基質の改変がないことは、サンプル中に酵素が存在しないことを示す。細菌または酵素が創傷由来である場合には、基質の改変は、創傷中に細菌が存在していること、および創傷が感染していることを示し、基質の改変がないことは、創傷に特定の細菌が存在しないこと、および創傷が特定の細菌に感染していないことを示す。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を、以下の実施例によって説明するが、これは決して限定しようとするものではない。
【0071】
実施例1:創傷特異的タンパク質の同定
2001年6月18日付けで利用可能であった、以下のインターネットサイト:
http://www.tigr.org/tigr-scripts/CMR2/select_genomes.spl?showref=true&reforg=0&cutoff=60&logic=AND&showheader=trueにあるTIGR包括的微生物資源マルチゲノム解析ツールを用いて、以下の一般的な創傷病原菌種の完全ゲノム配列を解析した:黄色ブドウ球菌(S.aureus)、表皮ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌、緑膿菌、糞便連鎖球菌および大腸菌。具体的には、黄色ブドウ球菌ゲノム中の各遺伝子を、他の前記の特定のゲノムの各々の中の相同体について比較した。5種の病原菌すべてに相同体(アミノ酸レベルで少なくとも45%の同一性を有するもの)をもたない黄色ブドウ球菌遺伝子はいずれも破棄した。残りのプールには、これら6種の主要な創傷病原菌に共通する遺伝子のみが含まれていた。これらの検索はパラメーターとしてデフォルト設定を使用して実施した。
【0072】
創傷特異的遺伝子を同定するために、次いで、47種の他の非創傷病原性細菌のゲノムを使用して、創傷病原菌に共通であるが、他の47種の非創傷感染菌には共通でない遺伝子を同定した。このスクリーニングの結果、創傷病原菌ゲノムと比較して132,313の遺伝子を調査した。前記と同一の比較パラメーターを使用して非創傷病原菌と45%より高い相同性を有する遺伝子を差し引くと、既知の機能を有する131遺伝子が創傷特異的であると同定された。131遺伝子のその後の解析により、その推定機能に基づいて以下の9群に大まかに分けられることが示された:
1)溶解素;宿主細胞または競合する細菌細胞を溶解するよう機能する酵素。
2)推定エキソトキシン;ブドウ球菌の特定の分泌毒素と相同であるタンパク質。これらのタンパク質は、エキソトキシンのブロック検索により、トポイソメラーゼI、シナプシン様、およびアミノペプチダーゼをはじめとする酵素サインを有する。
3)細胞壁機構;ペプチドグリカンをはじめとする細菌細胞壁構成成分の合成および代謝回転に関与している酵素。
4)マトリックス結合タンパク質;細菌が、宿主環境の細胞外マトリックス分子(フィブロネクチンおよびフィブリノーゲン)に結合するのを可能にするタンパク質。これらのタンパク質は、ブロック検索により、特定のリコンビナーゼ、アデニレートシクラーゼクラスIおよびNADHユビキノンオキシドレダクターゼをはじめとする酵素サインを有する。
5)プロテアーゼ;特異的または非特異的のいずれかで他のタンパク質分子を消化する酵素。
6)加水分解酵素;重合体分子をそのサブユニットに分解する酵素。
7)代謝タンパク質;細胞の種々のハウスキーピング機能、例えば、栄養素の、細胞にとって有用である構成成分への分解を実施するよう設計された広範な種類の酵素。
8)転写因子;DNA転写の制御に関与しているタンパク質。
9)病原性因子;感染を引き起こすために細菌細胞によって必要とされる、一般的な種類のタンパク質。これらのタンパク質は、病原性因子のブロック検索により、グリコシドヒドロラーゼをはじめとする酵素サインを有する。
【0073】
前記の配列比較法にしたがって、以下の創傷特異的酵素を同定した(括弧内には、各タンパク質の一例のGenBank受託番号および/またはタンパク質名が示されている):自己溶菌酵素 (Atl)、FemBタンパク質(femB)、fmhAタンパク質(fmhA)、TcaBタンパク質(tcaB)、エンテロトキシンP(sep)、外毒素6(set6)、外毒素7(set7)、外毒素8(set8)、外毒素9(set9)、外毒素10(set10)、外毒素11(set11)、外毒素12(set12)、外毒素13(set13)、外毒素14(set14)、外毒素15(set15)、クランピング因子B(clfB)、Blt様タンパク質(SA1269)、FmhCタンパク質(fmhC(eprh))、エンテロトキシンSEM(sem)、エンテロトキシンSeN(sen)、エンテロトキシンSeO(seo)、ロイコトキシンLukE(lukE)、末端切断型インテグラーゼ(SA0356)、エンテロトキシンC3型(sec3)、エンテロトキシンYent1(yent1)、エンテロトキシンYENT2(yent2)、グリセロールエステル加水分解酵素(geh)、免疫優性抗原A(isaA)、セリンプロテアーゼSplB(splB)、セリンプロテアーゼSplC(splC)、ABC輸送体パーミアーゼ(vraG)、ホスホメバロネートキナーゼ(mvaK2)、γ-溶血素成分B(hlgB)、γ-溶血素成分C(hlgC)、タガトース-6-ホスフェートキナーゼ(lacC)、システインプロテアーゼ前駆体(sspB)、6-ホスホ-β-ガラクトシダーゼ(lacG)、細胞外エンテロトキシンL(sel)、トリアシルグリセロールリパーゼ前駆体(lip)、スタホパイン、システインプロテイナーゼ(SA1725)、タガトース1,6-ジホスフェートアルドラーゼ(lacD)、γ-溶血素鎖II前駆体(hlgA)、エンテロトキシン相同体(SA1429)、マンニトール-1-ホスフェート5-デヒドロゲナーゼ(mtlD)、ブドウ球菌の補助レギュレーターA(sarA)、ラクトースホスホトランスフェラーゼ系リプレッサー(lacR)、莢膜多糖類生合成(SA2457)、capA、ガラクトース-6-ホスフェート異性化酵素LacAサブユニット(lacA)、フィブリノーゲン結合タンパク質A、クランピング因子(clfA)、細胞外エンテロトキシンG型前駆体(seg)、細胞外エンテロトキシンI型前駆体(sei)、ロイコトキシン、LukD[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn3](lukD)、フィブロネクチン結合タンパク質相同体(fnb)、フィブロネクチン結合タンパク質相同体(fnbB)、ホリン相同体[バクテリオファージphiN315](SA1760)、D-キシルロースレダクターゼと類似のもの(SA2191)、分泌抗原前駆体SsaA相同体(ssaA)、メチシリン耐性の発現に必要な因子(femA)、外毒素2と類似のもの(SA0357)、外毒素1と類似のもの(SA1009)、外毒素4と類似のもの(SA1010)、外毒素3と類似のもの(SA1011)、ブドウ球菌の補助レギュレーターA相同体(sarH3)、トランスアルドラーゼと類似のもの(SA1599)、5-ヌクレオチダーゼと類似のもの(SA0022)、ウンデカプレニル-PP-MurNAc-ペンタペプチド-UDPGlcNAc GlcNAcトランスフェラーゼ(murG)、エキソヌクレアーゼSbcDと類似のもの(SA1180)、膜タンパク質と類似のもの(SA2148)、Ser-Aspリッチフィブリノーゲン結合性骨シアロタンパク質結合タンパク質(sdrC)、Ser-Aspリッチフィブリノーゲン結合性骨シアロタンパク質結合タンパク質(sdrD)、Ser-Aspリッチフィブリノーゲン結合性骨シアロタンパク質結合タンパク質(sdrE)、オリゴエンドペプチダーゼと類似のもの(SA1216)、MHCクラスII類似体と類似のもの(SA2006)、転写因子と類似のもの(SA0858)、推定β-ラクタマーゼ[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn3](SA1633)、NA(+)/H(+)交換体と類似のもの(SA2228)、キシリトールデヒドロゲナーゼと類似のもの(SA0242)、細胞壁酵素EbsBと類似のもの(SA1266)、IS232の転移酵素と類似のもの(SAS069)、IS232の転移酵素と類似のもの(SAS070)、輸送タンパク質SgaTと類似のもの(SA0318)、転写レギュレーターと類似のもの(SA0187)、リボース輸送体RbsUと類似のもの(SA0260)、調節タンパク質PfoRと類似のもの(SA0298)、エンテロトキシンA前駆体と類似のもの(SA1430)、調節タンパク質PfoRと類似のもの(SA2320)、IS232の転移酵素相同体[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn3](tnp)、ギ酸塩輸送体NirCと類似のもの(SA0293)、D-オクトピンデヒドロゲナーゼと類似のもの(SA2095)、rbsオペロンリプレッサーRbsRと類似のもの(SA0261)、細胞表面タンパク質Map-wと類似のもの(SA0841)、フィブリノーゲン結合タンパク質と類似のもの(SA1000)、フィブリノーゲン結合タンパク質と類似のもの(SA1003)、フィブリノーゲン結合タンパク質と類似のもの(SA1004)、スタフィロコアグラーゼ前駆体と類似のもの(SA0743)、フェリクロムABC輸送体と類似のもの(SA0980)、ペプチド結合タンパク質OppAと類似のもの(SA0849)、プロトン対向輸送体流出ポンプと類似のもの(SA0263)、kdpオペロンセンサータンパク質と類似のもの、(kdpD(SCCmec))、分泌抗原前駆体SsaAと類似のもの(SA0270)、外膜タンパク質前駆体と類似のもの(SA0295)、デオキシリボジピリミジンフォトリアーゼと類似のもの(SA0646)、分泌抗原前駆体SsaAと類似のもの(SA2097)、膜内在性流出タンパク質と類似のもの(SA2233)、分泌抗原前駆体SsaAと類似のもの(SA2332)、分泌抗原前駆体SsaAと類似のもの(SA2353)、膜貫通流出ポンプタンパク質と類似のもの(SA0099)、多剤耐性流出ポンプと類似のもの(SA0115)、推定特異性決定基HsdS[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn3](SA1625)、ABC輸送体ATP結合タンパク質と類似のもの(SA0339)、コバラミン合成関連タンパク質と類似のもの(SA0642)、転写レギュレーターMarRファミリーと類似のもの(SA2060)、N-カルバモイルサルコシンアミドヒドロラーゼと類似のもの(SA2438)、タイコ酸生合成タンパク質Bと類似のもの(SA0243)、タイコ酸生合成タンパク質Bと類似のもの(SA0247)、転写レギュレーターRpiRファミリーと類似のもの(SA2108)、二成分センサーヒスチジンキナーゼと類似のもの(SA2180)、スクシニル-ジアミノピメレートデスクシニラーゼと類似のもの(SA1814)、細胞外マトリックスおよび血漿結合と類似のもの(SA0745)、転写抗ターミネーターBglGファミリーと類似のもの(SA1961)、コバラミン合成関連タンパク質CobWと類似のもの(SA2368)、DNAポリメラーゼIIIと類似のもの、α鎖PolC型(SA1710)、スペルミン/スペルミジンアセチルトランスフェラーゼbltと類似のもの(SA1931)、トリメチルアミンデヒドロゲナーゼと類似のもの(EC1.5.99.7)(SA0311)、AraC/XylSファミリー転写レギュレーターと類似のもの(SA0622)、PTSフルクトース特異的酵素IIBC成分と類似のもの(SA0320)、β-ラクタマーゼ[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn1]と類似のもの(SA1818)、4-ジホスホシチジル-2C-メチル-D-エリスリトールシンターゼと類似のもの(SA0241)、シネルゴヒメノトロピック毒素前駆体-スタフィロコッカス・インテルメディウスと類似のもの(SA1812)、バクテリオファージターミナーゼ小サブユニット[病原性にかかわる遺伝子群SaPIn1]と類似のもの(SA1820)、ポリ(グリセロール-ホスフェート)α-グルコシルトランスフェラーゼ(タイコ酸生合成)と類似のもの(SA0523)。前記の同定された酵素のうちいくつかは、既知の酵素活性を有するタンパク質であり、その他のタンパク質は、ブロック検索により得られた酵素サインを有する。したがって、酵素サインを含むタンパク質は酵素として使用するのに適していると考えるのは理にかなっている。
【0074】
実施例2:サンプル中の細菌の有無を検出するための細菌の調製
以下の細菌種各々の培養物を、当技術分野では標準的な方法を使用して、ブレイン・ハート・インフュージョン(BHI)培地で、37℃で激しく攪拌しながら(約200rpm)飽和まで増殖させた:黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、霊菌、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、大腸菌、緑膿菌および糞便連鎖球菌。一晩増殖させた後(飽和まで)、各培養物の1mLサンプルを採取し、12,000×gで5分間遠心分離することによって培養上清から細胞を回収した。残った培養上清は、必要となるまで(1時間未満)氷上で保存した。細菌は、以下に記載したように特異的酵素の有無についてアッセイした。別法としては、細菌細胞を培養上清から分離せず、アッセイを培養肉汁中の懸濁液中のままの細胞を含有するサンプルで実施する。
【0075】
実施例3:プロテアーゼアッセイを用いた霊菌の検出
プロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解によるタンパク質の分解に関係している酵素である。プロテアーゼは、その目的に応じて、その標的配列において一般的または特異的のいずれかであり得る。病原性細菌は、本質的に特異的であり、その他の細胞を攻撃する目的か、または防御機構としての目的で、選択されたタンパク質またはペプチドを標的とする、何種類かのプロテアーゼを分泌する。特異的プロテアーゼの標的は、切断部位に隣接するタンパク質のアミノ酸配列によって同定される。
【0076】
霊菌特異的プロテアーゼは、ブドウ球菌種において見出された既知のsspBプロテアーゼの配列を用いて、相同性検索に基づいて同定された。このプロテアーゼは、黄色ブドウ球菌のシステインプロテアーゼ前駆体(sspB)タンパク質と相同性を有する。対応するセラチア(Serratia)プロテアーゼはこれまでは特性決定されていなかった。細菌培養物中の特異的プロテアーゼの存在を調べるために、短い標的ペプチドを設計した。この標的ペプチドは、これまでに、黄色ブドウ球菌sspBによって切断されるとわかっているポリペプチド基質から誘導した(ChanおよびFoster、J. Bacteriology 180 :6232〜6241頁、1998)。このペプチドを、一方の末端を蛍光色素分子によってキャップし、もう一方の末端には発色団分子を結合させてキャップした。発色団の吸収帯が、色素分子の蛍光と関連している吸収帯と十分に重複していれば、観察される蛍光が消光される。この現象は蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)として知られており、FRETドナーとアクセプター分子との間の距離を調べるために使用できる。ペプチドが切断されると、蛍光指示薬が消光剤の近くから放出され、蛍光の増加が測定される。したがって、切断されたペプチドによって発せられる蛍光を検出することによって、サンプル中の、このペプチドを標的とするプロテアーゼの有無を調べることができる。
【0077】
霊菌に対するプロテアーゼの特異性は、FRETを使用して、いくつかの異なる細菌病原菌サンプル中でのプロテアーゼによる標的ポリペプチドの切断を検出することによって調べた。この研究に使用した細菌病原菌サンプルはすべて、本明細書に記載したように37℃でブレイン・ハート・インファークション(BHI)培地で一晩増殖させた培養物から採取した。この研究のために選択した細菌病原菌は、黄色ブドウ球菌、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、緑膿菌、糞便連鎖球菌、ストレプトコッカス・サリバリウス、霊菌および大腸菌とした。霊菌特異的プロテアーゼについて調べるために使用した標的ペプチド基質は、以下の通りとし:Dabsyl-NEAIQEDQVQYE-Edans(配列番号:2)、当業者には公知の標準的な方法を使用して調製した。1:1水/ジメチルスルホキシド(DMSO)に1mg/mL〜5mg/mLの標的ペプチド基質を含有する基質溶液を調製した。用いた反応バッファーは、200mM NaClを含む20mM Tris(pH7.5)とした。アッセイは、総容量150μLのアッセイ混合物に対して、3μLの基質溶液、7μLの細菌培養培地、および140μLの反応バッファーを使用して実施した。アッセイ混合物を、マイクロタイタープレートの個々のウェルに入れ、プレートをフルオリメーター内に入れた。励起用に305nmの、および蛍光発光読み取り用に485nmの、フルオリメーターの狭帯域フィルターを中心に置いた。サンプルは37℃でインキュベートし、各サンプルの蛍光を、10分毎にとった時点で測定した。基質、反応バッファー、および細菌対照の代わりに水を含むサンプルを陰性対照として使用した。
【0078】
この研究の結果を図1に示す。これは、活性な細菌培養物(BHI培地で一晩増殖させたもの)または水である対照、基質および反応バッファーを含むサンプルの経時的な相対蛍光強度の変化を示すグラフである。霊菌(S.marcescens)細胞を含む培養培地を基質と反応させると、反応の過程の最後まで続いて蛍光強度の増加が生じた。黄色ブドウ球菌サンプルをはじめとするその他の細菌サンプルはいずれも、水を含む対照反応物と区別できなかった。さらに、反応は、霊菌を含むサンプルをここで調べた他のものと区別するのに数分しかかからなかった。したがって、このアッセイは、サンプル中の霊菌の存在についての特異的検出系として使用できる。
【0079】
実施例4:セラチア特異的プロテアーゼは細胞から搬出される
セラチア特異的プロテアーゼが細胞表面に見られるか、または細胞がタンパク質を培地に搬出するかどうかを調べるために、もう1つの実験を実施した。プロテアーゼが搬出されると、その基質に向かって培地中に拡散し得る。そうでなければ、サンプル中の病原菌の存在の検出を可能にするために細菌を基質と接触させなければならない。そのようなアッセイは以下の通りに実施した。
【0080】
霊菌培養物を、BHI中で一晩増殖させた。この細胞を、各々と関連している活性を測定できるよう、遠心分離によって培養培地から分離した。細胞ペレットを洗浄し、バッファーに再溶解して元の容量とした。次いで、前記のセラチアプロテアーゼアッセイでは、洗浄した細胞のタンパク質分解活性を、上清培地のタンパク質分解活性と比較した。前記のアッセイ条件を用いて(3μLの基質溶液および140μLの、200mM NaClを添加した20mM Trisバッファー(pH7.5)を使用して)各サンプルの7μLのアリコートを流した。
【0081】
この実験により得られた結果を図2に示す。これは、バッファー、基質溶液(色素)のみ、上清(細胞を含まない)、霊菌細胞、または霊菌細菌培養物(混合物)を含むサンプル中の、経時的なペプチド切断量を示す、標的ペプチドの相対蛍光のグラフである。「混合物」と表示したサンプルは、細胞および上清のサンプルを作製するために用いた、活性なセラチア培養物を含む元の一晩増殖させた培地を含む。図2に示すように、上清サンプルから得られたプロテアーゼ活性は、一晩培養物のプロテアーゼ活性とほとんど同等であった。細胞ペレットから得たサンプルは、活性を全く示さず、バッファーおよび色素対照と同範囲にあった。これらの結果は、セラチアプロテアーゼが細胞から搬出され、細胞表面から離れて培地中に拡散し得ることを示す。したがって、これらの結果は、サンプル中のセラチア細胞を、検出するためにその標的基質と直接接触させなくともよいことを示す。
【0082】
実施例5:種々の増殖条件下でのセラチア特異的プロテアーゼの活性
病原菌からの酵素産生および/または搬出の時期も、サンプル中の創傷特異的病原体を検出する方法およびバイオセンサーを設計する際に考慮されるべき因子である。細菌プロテアーゼの合成および搬出は、増殖条件によって調節できる。病原性細菌によって産生されるプロテアーゼのいくつかは、増殖制限条件下で誘導される。霊菌特異的プロテアーゼが発現される増殖条件を調べるために、定常期まで一晩増殖させた細胞によって産生されたプロテアーゼの活性(標的ポリペプチドの切断)を、対数期条件で数時間活発に増殖している細胞によって産生されたプロテアーゼの活性と比較した。
【0083】
この実験に用いたサンプルの光学濃度(OD)は、増殖の間の細胞密度の相違を明らかにするよう希釈することによって調節した。一晩培養物は、BHI培地を用いて希釈し、比較活性測定用にOD1または2のサンプルとした。霊菌特異的プロテアーゼ活性は、切断された標的ポリペプチドの相対蛍光を測定することによって本明細書に記載したように評価した。加えた、細菌細胞培養物、基質溶液(色素)および反応バッファーの容量は一定とした。この実験に用いたアッセイ条件は前記のものと同一とした。これらの研究の結果を図3に示す。これは、4時間増殖させ、OD1に希釈した霊菌培養物(対数期);24時間増殖させ、OD1に希釈した霊菌培養物(定常期);6時間増殖させ、OD2に希釈した霊菌培養物(対数期);24時間増殖させ、OD2に希釈した霊菌培養物(定常期)、またはバッファーまたは色素のいずれかを含む対照サンプルによって切断された標的ポリペプチドの相対蛍光のグラフである。図3に示すように、対数期サンプルについて観察された活性は双方とも、同一ODの対応する定常期サンプルよりも高かったが、細胞増殖の対数および定常期双方において、プロテアーゼは存在し、容易に検出可能であった。これらの結果は、霊菌プロテアーゼアッセイの迅速、かつ、特異的である両能力を証明するものである。さらに、このアッセイが種々の病原菌増殖条件下で比較的大きいものであることが示された。
【0084】
実施例6:種々のpH条件下でのセラチア特異的プロテアーゼの活性
アッセイの適用範囲を決定するために、病原菌検出アッセイが適している条件を調べた。いくつかの関連パラメーターとして、pH、温度、塩濃度および栄養素利用能が挙げられる。これらのパラメーターのうちいくつかについては生理学的データが知られているが、創傷の状態はpHおよび栄養素利用能などの点で異なり得る。これらの問題に対応するために、さらなる実験を実施して、セラチアプロテアーゼ活性のpH範囲を調べた。
【0085】
pH依存性実験は、霊菌の一晩培養物の遠心分離によって得た上清および本明細書に記載したFRETアッセイを使用して実施した。アッセイ溶液は、20mM リン酸ナトリウムを用いて6つの異なるpHレベル:pH6、6.4、6.8、7.2、7.6および8.0に緩衝した。用いた塩濃度は200mM NaClで一定とした。上清および基質溶液(色素)双方の容量は、前記の研究に用いたものと同じとした。この研究の結果を図4に示す。これは、pHレベルの異なるサンプルの、経時的な相対蛍光のグラフである。セラチアプロテアーゼについての最適pHは6.8であるが、活性は、ここで調べたpH範囲を上回るほどには大きくは変わらない。このアッセイの有用な範囲はpH6より低いものからpH8を超えるものにまで及ぶ。このことは、セラチアプロテアーゼが、広範なpH条件下で比較的大きいものであることを示し、したがって、創傷感染センサーの良好なアッセイ標的であると思われる。
【0086】
実施例7:セラチア特異的プロテアーゼはメタロプロテアーゼではない
細菌では数種のプロテアーゼが見出され、活性部位に用いられる触媒基によって分類されている。最も一般的な細菌プロテアーゼはセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼである。メタロプロテアーゼは、活性部位に触媒亜鉛イオンを含むために、そう名づけられている。一般に、結合している亜鉛イオンは不安定であり、キレート化によって除去され得る。したがって、アッセイバッファーへのキレート剤の添加による活性の低下が、プロテアーゼがおそらくメタロプロテアーゼであることを示す。
【0087】
セラチア特異的プロテアーゼがメタロプロテアーゼであるかどうかを調べるために、以下の研究を実施した。1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を、前記のFRETアッセイに使用した標準アッセイ溶液(200mM NaClを含む20mM Tris(pH7.5))に添加し、プロテアーゼ活性に対するその作用(プロテアーゼの相対蛍光活性の低下として測定される)を調べた。図5は、セラチア培養物、セラチア培養物およびEDTA、またはバッファーもしくは基質溶液(色素)のみ(対照)を含むサンプル中の標的ペプチドの相対蛍光によって測定された、EDTAのプロテアーゼ活性に対する作用のグラフである。EDTAを含むサンプルについては、未変性の活性と比較して活性の低下は見られず、このことは、セラチアプロテアーゼがおそらくはセリンプロテアーゼまたはシステインプロテアーゼであることを示唆する。
【0088】
実施例8:霊菌を検出するためのバイオセンサー
霊菌(S.marcescens)特異的プロテアーゼを検出するための、ひいては、霊菌を検出するためのバイオセンサーの一例を以下に続ける。霊菌特異的標的ペプチド基質を、弱い正の電荷を有する表面、例えば、少量がDEAEで置換されている繊維性セルロース(Cell Debris Remover, Whatman, Inc.)に結合させた。このマトリックスをフィルム、例えば、図6Cに示すような透明な包帯の下に置き、セラチアの存在下で蛍光を検出した。このバイオセンサーの効力は、霊菌特異的プロテアーゼ標的ペプチドが結合していないセル・デブリス・リムーバー(Cell Debris Remover)を含むバイオセンサー(図6A、陰性対照バイオセンサー)、または霊菌特異的プロテアーゼが標的ポリペプチドを含むセル・デブリス・リムーバーを含むバイオセンサー(図6B)を、霊菌抽出物に曝露することによって証明した。対照バイオセンサーからは極めて少ない蛍光しか発されなかったが、標的ペプチドを含むバイオセンサーでは蛍光は容易に検出された。これらの結果は、セル・デブリス・リムーバーに結合しているペプチドからなるこのような固相創傷感染バイオセンサーは、創傷または何らかの他のサンプルまたは病原菌を含む表面中のセラチア病原菌を検出するために使用できることを証明する。
【0089】
前記の研究は、霊菌に特異的な新規ペプチド基質の同定を証明する。このプロテアーゼに関する活性が新規であることは明らかである。本明細書に記載した研究はまた、霊菌特異的プロテアーゼが分泌され、このプロテアーゼは全ての増殖期に存在することを示す。さらに、検出アッセイは、種々のpH条件下で比較的大きいものであり、このことはこの霊菌特異的プロテアーゼを、サンプル中の霊菌を検出するために使用できることを証明する。
【0090】
実施例9:リパーゼアッセイを用いた黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌の存在の検出
特定の細菌は、その生存および/または病原性機構の一環としてリパーゼをその環境に分泌する。リパーゼは、増殖環境中の脂質を分解し栄養素を放出するよう働く。リパーゼはまた、感染の際の哺乳類宿主防御を和らげることにおいても役割を果たしている可能性がある。リパーゼは、先に概説したリストからは分泌された加水分解酵素のカテゴリーに分類される。
【0091】
細菌によって分泌されたリパーゼの有無を調べるために、リパーゼ基質であるカプリン酸p-ニトロフェニルをSigmaから入手した(カタログ番号:N-0252)。このリパーゼ基質は、前記の色素パラニトロフェノール(検出可能な標識)を用いてエステル化された10個の炭素の脂質分子であるカプリン酸からなる。この基質をイソプロピルアルコールに、8mM(2.35mg/mL)の濃度に溶解した。20mM Tris(pH8.5)を含む反応バッファーも調製した。
【0092】
リパーゼアッセイを実施するために、80μLの反応バッファー、実施例2に記載した各細菌種からの10μLの培養上清、および10μLのアッセイ基質を、96ウェルマイクロプレートのウェルに加えた。各細菌種を個々にアッセイし、アッセイは3連で実施した。96ウェルプレートを37℃で60分間インキュベートした。細胞によって分泌されたリパーゼによる酵素の改変を示す415nmの吸光度を、インキュベーション期間の間5分間隔で、バイオラド・ベンチマーク(BioRad Benchmark)マイクロプレートリーダーを使用して自動的に測定した。
【0093】
図7Aは、60分間にわたる415mの吸光度として測定した、リパーゼアッセイの結果を示すグラフである。図7Aに示すように、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)および黄色ブドウ球菌(S.aureus)の培養上清とともにインキュベートした標識された基質は、わずか数分後には415nmの吸光度によって検出されるような、著しい色の変化を示した。その他の細菌サンプルは色の変化を全く示さなかったが、415nmの吸光度の一因となる濁度がわずかに増加した。したがって、このリパーゼアッセイは、サンプル中の黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌の検出に適している。細菌サンプルによるカプリン酸p-ニトロフェニルの改変は、細菌がブドウ球菌であり得ることを示す。さらに、細菌サンプルによるカプリン酸p-ニトロフェニルの改変がないことは、細菌がブドウ球菌ではないことを示し得る。
【0094】
その他の主要な創傷病原菌はまた、脂肪分解酵素をその増殖培地に分泌し(RosenauおよびJaeger、Biochime、82:1023頁、2000)、驚くべきことに、その他の生物はこの基質と反応しないと思われる可能性がある。しかしながら、細菌リパーゼは、それらが加水分解する脂肪酸の鎖の長さ(Van Kampenら、BBA、1544:229頁、2001)および脂質層における位置に関して強力な基質特異性を示すことが分かっている。基質の環境が加水分解の効率に影響を及ぼす程度は、個々の酵素に応じて変わる。黄色ブドウ球菌由来リパーゼについてこれを調べるために、前記のリパーゼアッセイを、数種の界面活性剤および溶媒添加物の存在下で実施した。反応バッファーは、1mM ZnSO4を添加した20mM Tris(pH8.3)、および、さらに何も加えない(対照)、20%メタノール、20%DMSO、または10mM TritonX-100のいずれかからなるものとした。図7Bに示すように、メタノールおよびDMSOなどの有機溶媒の存在下、および界面活性剤TritonX-100の存在下では加水分解速度が増加することがわかった。
【0095】
実施例10:自己溶菌酵素アッセイを用いた糞便連鎖球菌の存在の検出
自己溶菌酵素は、ペプチドグリカン、細菌細胞エンベロープの構成成分を分解する酵素である。自己溶菌酵素は、ペプチドグリカンを、親生物のものであれば、細胞分裂および代謝回転機能の一環として、または競合する細菌の細胞壁を分解する一手段として分解するよう働く。自己溶菌酵素は、先に詳説したカテゴリーのリストのうちの「細胞壁機構」のカテゴリーに分類される。
【0096】
細菌細胞培養上清中の自己溶菌酵素の存在を調べるために、合成自己溶菌酵素基質p-ニトロフェニル-N-アセチル-b-D-グルコサミニド(PNP-AGA)(これは、基質が改変されると415nmで検出される色素を含む基質である)を、50% DMSOに溶解し最終濃度を20mMとして基質溶液を形成した。この基質の改変は、405nmの吸光度の変化を測定することによって検出できる。20mM NaPO4および200mM NaCl(pH7.0)を含む反応バッファーも調製した。アッセイは、以下の通りに実施した。500μLの反応バッファー、50μLの基質溶液(20mM PNP-AGA)、および450μLの試験サンプル(実施例2に記載した細菌上清、または水(対照))を反応試験管に加えた。各細菌種は個別にアッセイした。サンプルを20℃で7時間インキュベートした。標識した基質の改変の進行は、405nmの吸光度によってモニターした。
【0097】
図8は、細菌上清(または水)、基質および反応バッファーを含むサンプルの、経時的な(時間での)吸光度の変化を示すグラフである。糞便連鎖球菌(E.faecalis)培養物の上清を基質と反応させたところ、反応の過程の最後まで続く色の変化が生じた。その他の培養上清はいずれも、水である対照と区別できなかった。したがって、このアッセイは、糞便連鎖球菌の特異的検出系として使用できる。細菌サンプルによるPNP-AGAの改変は、細菌が腸球菌であり得ることを示す。さらに、細菌サンプルによるPNP-AGAの改変がないことは、細菌が腸球菌でないことを示し得る。
【0098】
実施例11:β-ガラクトシダーゼアッセイを使用したストレプトコッカス・サリバリウスの存在の検出
ほとんどの細菌種は、β-ガラクトシダーゼを、エネルギー源としてのラクトースの代謝のための細胞質酵素として発現する。しかしながら、連鎖球菌の特定の種は、酵素を細胞表面に提示する。したがって、β-ガラクトシダーゼの基質として作用する標識した合成分子(例えば、オルトニトロフェニルb-D-ガラクトピラノシド(ONP-GP))を、環境中の連鎖球菌を検出する手段として使用できる。
【0099】
サンプル中の細菌の有無を調べるために、実施例2記載したように、対数期の中間にある細菌上清を得た。50%DMSOに、20mMの濃度に溶解した標識した合成基質オルトニトロフェニル-b-D-ガラクトピラノシド(ONPG)を含む基質溶液を調製した。さらに、200mM NaClを含む20mM NaPO4(pH7)を含む反応溶液を調製した。β-ガラクトシダーゼアッセイは、以下の通りに実施した。500μLの反応バッファー、450μLの細菌上清、および50μLの基質溶液を、反応試験管内で合わせて、総容量1mLとした。対照には上清の代わりに450μLの水を含めた。サンプルを37℃でインキュベートし、420nmの吸光度を1時間毎に測定した。
【0100】
図9は、サンプルの、経時的な(時間での)420nmの吸光度のグラフである。図9に示すように、ほとんどの培養上清はβ-ガラクトシダーゼ活性の徴候を示さなかった。しかしながら、ストレプトコッカス・サリバリウス(S.salivarius)上清は、おそらくは表面に発現されたβ-ガラクトシダーゼのために基質と反応した。酵素のほとんどが細胞表面に付着しているままであるので、反応性は表面から、または細胞から切断されて上清中に保持されている酵素によるものである可能性がある。したがって、別法として、アッセイを、細胞上清ではなく、細胞懸濁液で実施することができる。
【0101】
このアッセイでは、ストレプトコッカス・サリバリウスは基質と反応したが、その他の種は反応しなかった。このアッセイは、ストレプトコッカス・サリバリウスの特異的試験の基礎を形成する。細菌サンプルによるONPGの改変は、細菌が連鎖球菌であり得ることを示す。さらに、細菌サンプルによるONP-GPの改変がないことは、細菌が連鎖球菌ではないことを示し得る。
【0102】
実施例12:表皮ブドウ球菌を検出するためのバイオセンサー
表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)によって分泌される酵素を検出するための、ひいては、表皮ブドウ球菌を検出するためのバイオセンサーの一例を以下に続ける。20mM カプリン酸p-ニトロフェニル(イソプロパノール中)の100mM溶液を、2.5cmガラスマイクロファイバーフィルター(Whatman GF/A)に供した。イソプロパノールを、室温で30分間蒸発させ、基質をフィルターに結合させた。フィルターを完全に乾燥させた後、フィルターの各四分円に1滴の細菌培養物を供した。四分円1には、黄色ブドウ球菌を供し、四分円2には表皮ブドウ球菌を供し、四分円3にはストレプトコッカス・サリバリウスを供し、四分円4には対照として培地を供した。このフィルターを37℃で30分間インキュベートし、黄色色素を検出し、これは細菌中の酵素による基質の改変が検出されたことを示す。図10に示すように、四分円1、3または4では標識された基質の改変は検出されなかった。四分円2では、標識された基質の改変が検出された。これらの結果は、サンプル中の微生物の有無を検出するためにバイオセンサーをどのように使用できるかを証明する。
【0103】
実施例13:プロテアーゼアッセイまたはリパーゼアッセイを用いた緑膿菌の存在の検出
緑膿菌の3種のペプチド基質を同定し、合成した。3種のペプチドを表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
ここで用いたペプチド基質は、蛍光プローブedans(5-((2-アミノエチル)アミノ)ナフタレン-1-スルホン酸)および消光色素分子dabcyl((4-(4-ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸)を用いて標識した。用いた標識したペプチド配列は以下の通りであった:
PAPA1 Edans-KAAHKSALKSAE-Dabcyl(配列番号:3)
PALA1 Edans-KHLGGGALGGGAKE-Dabcyl(配列番号:4)
PAGA1 Edans-KHLGGGGGAKE-Dabcyl(配列番号:5)
【0106】
緑膿菌の検出における適合性に関して調べたさらなる基質は、表2に示すパラ-ニトロフェニル脂質エステル基質とした。
【0107】
【表2】

【0108】
パラ-ニトロフェニル脂質エステル基質は、イソプロパノールに溶解させた10mMの濃度で使用した。
【0109】
プロテアーゼアッセイ
緑膿菌の存在を検出するためのプロテアーゼアッセイを以下の通りに実施した。3株の緑膿菌細菌(P1、「スチューデント・フレンドリー(student friendly)」株、PA14、病原性モデルとして受託されている標準株、およびZK45、マサチューセッツ州ボストンのChildren's Hospitalの臨床単離物)を、5mLのBHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地中で37℃のインキュベーター中で一晩増殖させた。得られた培養物を、遠心分離によって沈降させ、上清を回収した。アッセイは、150mM NaClを添加した20mM trisバッファー(pH7.5)で実施した。反応は、37℃で、100μLの総容量中、3μLの上清および7μLの標識した基質(図11に示したような)を用いて実施した。反応に続いて、蛍光定量的プレートリーダーで485nmの吸光度を測定した。結果を図11に示す。図11に示すように、papa1ペプチド基質がシュードモナスによって切断された。
【0110】
化膿性連鎖球菌、緑膿菌株PA14、表皮ブドウ球菌、霊菌および糞便連鎖球菌(E.faecalis)をはじめとする種々の細菌株とペプチド基質papa1を使用して、このプロテアーゼアッセイを繰り返した。図12に示すように、このプロテアーゼアッセイは緑膿菌の検出に特異的であった。
【0111】
サンプル中の緑膿菌の存在を検出するためのリパーゼアッセイは以下の通りに実施した。緑膿菌株PA14の細菌を、5mLのTS(デキストロースを含むトリプティック・ソイ・ブロス(Tryptic Soy Broth))またはBHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地中で37℃のインキュベーター中で一晩増殖させた。得られた培養物を2つのサンプルに分け、一方のサンプルは細胞および培地からなる培養物として使用し、もう一方のサンプルは遠心分離によって沈降させて、上清を回収した。リパーゼアッセイは、150mM NaClを添加した20mM trisバッファー(pH7.5)中で実施した。反応は、37℃で、100μLの総容量中、10μLの標識した基質(プロピオネート(図13A))、ブチレート(図13B)、またはカプロエート(図13C)を用いて実施した。示したサンプルには、反応に10μLの細菌上清または10μLの細菌細胞培養物を含めた。反応に続いて、比色定量プレートリーダーで415nmの吸光度を測定した。結果を図13A〜13Cに示す)。図13A〜13Cに示すように、ニトロフェニル基質(C3〜C6)が、緑膿菌の検出に適している。
【0112】
前記のリパーゼアッセイを使用した、緑膿菌の検出を含むさらなる研究を以下の通りに実施した。PA14緑膿菌株、セラチア、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、大腸菌および化膿性連鎖球菌を、5mLのBHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地中、37℃のインキュベーター中で一晩、各々増殖させた。得られた培養物を遠心分離によって沈降させ、上清を回収した。このセットのアッセイは、150mM NaClを添加した20mM trisバッファー(pH7.5)中で実施した。反応は、37℃で、100μLの総容量中、10μLの基質を用いて実施した。示したサンプルでは(図14)、反応に10μLの細菌上清を含めた。反応に続いて、比色定量プレートリーダーで415nmの吸光度を測定した。結果を図14に示す。
【0113】
図14に示すように、緑膿菌は、経時的に、基質に対する最大活性を示した。より迅速な反応時間が望まれる場合には、シュードモナスの反応性を、他の種と比べて、さらに分離するよう反応条件を変更することができる。リパーゼ酵素の反応性の大きな変化は、例えば、反応溶液を脂質膜の環境により密接に適合するよう改変することによって達成することができる。
【0114】
基質の交差反応性を調べるための、基質に関するさらなる研究を、緑膿菌の検出の際にさらなる反応試薬を用いて、または創傷環境に存在する可能性がある分子種、例えば、血清を用いて実施することができる。基質が血清と交差反応する場合には、当業者に公知の方法を使用して、より低い交差反応性に向けて、基質または反応条件を改変することが望ましい場合がある。
【0115】
実施例14:DNA代謝酵素の検出による微生物の存在の検出
本明細書に記載したように、DNA代謝酵素は、創傷病原菌に共通する遺伝子のバイオインフォマティクス検索で同定される、ある種の酵素である。この知識に基づいて、培養で増殖させた創傷病原菌を用いて検出できる、DNA代謝活性の種類(エキソヌクレアーゼおよびエンドヌクレアーゼ)を以下の通りに決定した。10μgのpUC19DNAをEcoRI酵素で消化することによって直線化した。次いで、10mLの一晩培養した黄色ブドウ球菌、糞便連鎖球菌、大腸菌、緑膿菌、S.サリバリウス(S.salivarius)、霊菌および表皮ブドウ球菌を増殖させた。70μLの細菌細胞に5μLのDNAを加えた。次いで、このサンプルを、1時間、3時間および一晩の間インキュベートした。示した時間間隔で、サンプルのアリコートを採取し、新しい試験管に入れた。反応は、10×DNAサンプルバッファーを用いて停止させ、サンプルを-20℃で保存し、その後、1.2%TBEアガロースゲルで泳動させた(80V、定電力)。種々の細菌培養物によるDNA代謝活性を図15に示す。
【0116】
図15に示すように、調べたすべての細菌が何らかのDNA代謝活性を有していた。明白なエンドヌクレアーゼ活性を有する細菌には、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、糞便連鎖球菌および緑膿菌を含めた。強力なエキソヌクレアーゼ活性を有する細菌には、霊菌、緑膿菌、大腸菌および連鎖球菌を含めた。さらに、ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌)はエキソヌクレアーゼ活性をほとんど有していなかった。
【0117】
DNA代謝活性を検出するためのもう1つの方法は、DNA加水分解(エキソヌクレアーゼおよびエンドヌクレアーゼ活性)を示し得る、合成比色定量および蛍光DNAプローブを作製することである。この方法は以下の通りに実施した。2つの相補的オリゴヌクレオチドを作製した。一方のオリゴヌクレオチドを、自己消光蛍光標識を用いて標識し、もう一方のプライマーは標識しないままとした。オリゴヌクレオチドの配列は以下の通りである:標識していない配列5'-CCTCTCGAGGATCCACTGAATTCCT-3(配列番号:6);および標識した配列FL-5'-AGGAATTCAGTGGATCCTCGAGAGG-3'-FL(配列番号:7)。細菌(糞便連鎖球菌、S.サリバリウス、化膿性連鎖球菌、緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌および霊菌)を、5mLのBHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地中で、37℃のインキュベーター中で一晩増殖させた。培養物を遠心分離によって沈降させ、上清を回収した。蛍光標識したプライマーおよびその標識していない補体を、約1mg/mLの濃度で水に溶解させた。プライマーを融解温度まで、92℃で2分間加熱し、次いで、43℃で5分間アニーリングさせた。アニーリング後、反応バッファー(150mM NaClを添加した20mM tris(pH7.4))にDNA基質を加え、37℃で10分間インキュベートした。この反応は、37℃で、100μLの総容量中、7μLの培養上清および3μLのDNA基質を用いて実施した。反応に続いて、励起波長485nmおよび発光波長538nmを使用する蛍光定量プレートリーダーを使用した。このアッセイの結果を図16に示す。標識したDNAプローブは、腸球菌と関連している特異的DNA代謝活性を検出した。DNA代謝活性を有する細菌の存在を検出するために使用できる別のプローブとしては、アニーリングすると、DNA配列の切断時に比色定量および蛍光定量シグナルの双方を生じるよう設計されているRh-5'-AGGAATTCAGTGGATCCTCGAGAGG-3'-FL(配列番号:8)およびその補体がある。
【0118】
実施例15:バイオセンサー表面の開発
分子の表面への結合は、いくつかの異なる種類の相互作用を使用することによって実施できる。通常、タンパク質は、疎水性、静電気的または共有結合による相互作用を使用して表面に結合させることができる。種々の表面特性を有する市販のメンブランおよび樹脂が多数ある。表面はまた、必要な表面特性を提供するよう化学的に修飾することもできる。
【0119】
タンパク質およびペプチド結合用の市販のトランスファーメンブランが存在する。それらは、イオン交換メンブランディスクフィルターおよび樹脂などの、正および負の荷電を有する重合体からなる。ニトロセルロースメンブランは、疎水性および静電気的相互作用を提供する。ガラスファイバーメンブランは、官能基を付加するよう容易に化学修飾できる疎水面を提供する。タンパク質およびペプチドと共有結合する反応性官能基をしばしば提供する修飾された重合体メンブランもある。
【0120】
メンブランまたは樹脂上の種々の官能基および架橋剤を利用してタンパク質と共有結合することも可能である。架橋試薬は、2種の反応基を含み、それによって2種の標的官能基を共有結合する手段を提供する。タンパク質上の標的に対する一般的な官能基としては、分子内架橋を形成するために使用されるアミン、チオール、カルボン酸およびアルコール基がある。架橋剤は、ホモ二官能性またはヘテロ二官能性であり得、種々の長さの架橋剤の選択が商業的に利用できる。
【0121】
最初に、研究したペプチドは、検出のために蛍光エネルギー転移(EdansおよびDabcyl)を使用する細菌アッセイ開発用の基質として設計した。シュードモナスに選択的であるpapa1は、そのような基質の一例であり、本明細書に記載されている。
【0122】
特に、表面固定化用基質を開発するために、いくつかの種類のpapa1ペプチド基質を作製した。ペプチドは、papa2の場合には、ペプチドの一方の末端にリジン基(アミン官能基)を含むよう設計した。ペプチドの一方の末端に2つのリジン基(KK)を付加することにより、「タグ」として働き、静電気的相互作用などの技術による、または共有結合による表面との結合に適切な基が提供される。ペプチドpapa3は、一方の末端にシステイン基(C)と3つのヒスチジン基(HHH)を含むよう設計した。システインを付加することにより、チオール基による共有結合を成すための、もう1つの適切な基またはタグが提供される。3つのヒスチジン基を含むことによってまた、ニッケル樹脂と結合する可能性が提供される。
【0123】
papa1のペプチド配列は、以下のように改変した:
papal (dabcyl-K)AAHKSALKSA(E-edans)(配列番号:3)
papa2 KKAS(E-edans)AAHKSALKSAE(K-dabcyl)(配列番号:9)
papa3 CHHHAS(E-edans)AAHKSALKSAE(K-dabcyl)(配列番号:10)
【0124】
表面への結合を可能にするよう、前記で示したように、最初のpapa1配列にプレペプチドタグを加えた。
【0125】
緑膿菌を検出するための本明細書に記載したプロテアーゼアッセイを、改変版のpapa1を用いて実施した。細菌(シュードモナス、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、S.サリバリウス、化膿性連鎖球菌、腸球菌およびセラチア)は、5mLのBHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地中で、37℃のインキュベーター中で一晩増殖させた。得られた培養物の各々を、遠心分離によって沈降させ、上清を回収した。アッセイは、150mM NaClを添加した20mM trisバッファー(pH7.4)中で実施した。反応は、37℃で、100μLの総容量中、7μLの上清および3μLのペプチド基質(水中、5mg/mL)を用いて実施した。反応は、励起波長355nmおよび発光波長485nmを用いる蛍光定量プレートリーダーで追跡した。結果を図17Aに示す。図17Aに示すように、このプロテアーゼアッセイは、シュードモナスを含有するサンプルにおいて最大蛍光を示した。
【0126】
疎水性相互作用は、水などの極性溶媒中に存在する非イオン性充填剤を利用し、そのような相互作用は、病原体を検出するためのバイオセンサーの製造に使用できる。センサーを製造するために、ガラスマイクロファイバーフィルター上に基質5-ブロモ-4-クロロ-3インドリルブチレートおよび5-ブロモ-4-クロロ-3インドリルカプリレートをスポットすることができる。フィルターに少量のブドウ球菌(黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌)培養培地をスポットすると、約15分のうちにフィルターの色が青に変わる。このアッセイの一例を図17Bに示す。ここでは、表皮ブドウ球菌に相当する暗いスポットが、このアッセイにおけるその病原菌の検出を示す。このアッセイは化膿性連鎖球菌を検出しなかった。
【0127】
静電気的相互作用は、ペプチドまたは発色団の電荷を利用してそれを表面に結合させてバイオセンサーを製造する。例えば、強力な負(ICE450)または正(SB-6407)の電荷を有するイオン交換メンブランを、Pall Gelman Laboratory,Ann Arbor, Michiganから入手できる。荷電した基との相互作用によってペプチド基質に結合することが可能である。本明細書に記載したペプチド基質papa2を、正に荷電したメンブランにスポットし、シュードモナス培養培地に曝露した。図17Cに示すように、ペプチドが切断されると黄色の蛍光(図17Cの右側の、明るいスポットとして示される)が観察された。
【0128】
金属キレート(アフィニティー結合)相互作用は、生体分子とのより強力な結合を提供できる。ペプチド基質に組み込まれているhisタグを、ニッケル結合樹脂との結合を可能にするために使用できる。樹脂を適切な培養物とともに37℃で30分間インキュベートする。遠心分離後、バッファーを除去し、ペレット化した樹脂の像を得る。次いで、ペプチドによって生じた蛍光を検出する。
【0129】
リジンペプチドタグ、例えば、papa2は、UltraBindTM(Pall Gelman Laboratory,Ann Arbor, Michigan)などの表面と結合するために使用できる。UltraBindは、タンパク質の共有結合のためのアルデヒド基で修飾されているポリエーテルスルホンメンブランである。タンパク質は、UltraBind表面と直接反応する。架橋鎖を用いてタンパク質またはペプチドを表面と結合することも可能である。例えば、カルボン酸基をアミンと結合させるために、カルボジイミド、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、塩酸塩)がよく用いられる。架橋剤を用いるペプチドの結合により、ペプチドを、共有結合しながら、メンブランの表面から離れて伸長させるためのリンカー鎖を選択することができる。架橋剤によるペプチドの結合は、ペプチドを細菌酵素にとって利用可能にするよう最適化することができる。これにより、バイオセンサーの反応時間の最適化が可能となるが、これはペプチド利用能がこのパラメーターと直接関連しているからである。
【0130】
実施例16:ブタ創傷液中のシュードモナスの検出
創傷における酵素活性の存在を調べるために、ブタで作製した創傷感染から得たサンプルで、緑膿菌を検出するための細菌プロテアーゼアッセイを実施した。細菌は、5mLのブレイン・ハート・インフュージョン(BHI)培地中で、37℃のインキュベーター中で一晩増殖させた。得られた培養物の各々を、150mM NaCl(PBSバッファー)を含むpH7.2のリン酸ナトリウムバッファーで希釈して、100μL中に合計105、104および103個の細菌を含むサンプルを得た。ブタに一連の部分的に深い創傷を作製するための手術を実施した直後、創傷表面を塩化カルシウム溶液で短時間処理し、次いで、軽くたたいて乾燥させた。希釈した細菌培養物を含むバッファー溶液を、創傷表面においた。次いで、創傷を覆い、3日間感染を増殖させた。ブタから包帯を除去した後、感染の程度について創傷のスコアをとり、創傷表面に100μLのPBSバッファーを加え、抽出した創傷液をピペットで回収した。各サンプルを半分に分け、50μLをBHIプレートに播種するために使用し、残りの50μLはプラスチック試験管に入れ、-80℃で直ちに凍結した。
【0131】
プロテアーゼアッセイにおいて、創傷液を希釈するために使用したバッファーはPBSとした。反応は、96ウェルマイクロタイタープレートで実施した。緑膿菌の蛍光定量アッセイは、37℃で、100μL総容量とするようバッファーで希釈した、20μLの新しく解凍した細菌培養物および5μLのpapa1ペプチド基質(水中、5mg/ml)を用いて実施した。反応は、励起波長355nmおよび発光波長528nmを用いる蛍光定量プレートリーダーで追跡した。反応を1時間追跡し、その結果を図18に示す。
【0132】
図18に示すように、これらの反応条件下で、創傷液中の緑膿菌プロテアーゼの反応性は保持されていた。このアッセイを使用して、緑膿菌を含むサンプルが検出可能であった。
【0133】
本発明を、その好ましい実施形態を参照して詳しく示し、記載したが、当業者ならば、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、それに種々の変法および詳細を成すことができることは理解される。
【0134】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1]a)サンプルと、微生物により産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質とを該酵素による該基質の改変を生じる条件下で接触させる工程;および
b)該基質の改変または改変の非存在を検出する工程、
を含み、
該基質の改変が該サンプル中の微生物の存在を示し、該基質の改変の非存在が該サンプル中の微生物の非存在を示す、サンプル中の微生物の存在または非存在を検出する方法。
[2]前記微生物が創傷特異的細菌である[1]記載の方法。
[3]前記創傷特異的細菌が黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌、緑膿菌、糞便連鎖球菌、プロテウス・ミラビリス、霊菌、エンテロバクター・クロカエ、アセチノバクター・アニトラタス、肺炎桿菌、および大腸菌からなる群より選ばれる[2]記載の方法。
[4]前記創傷特異的細菌が霊菌である[3]記載の方法。
[5]前記創傷特異的細菌が緑膿菌である[3]記載の方法。
[6]前記創傷特異的細菌が黄色ブドウ球菌である[3]記載の方法。
[7]前記創傷特異的細菌が糞便連鎖球菌である[3]記載の方法。
[8]前記創傷特異的細菌が表皮ブドウ球菌である[3]記載の方法。
[9]前記酵素がプロテアーゼである[3]記載の方法。
[10]前記酵素が溶解素、エキソトキシン、細胞壁酵素、マトリックス結合酵素、プロテアーゼ、加水分解酵素、ビルレンス因子酵素、および代謝酵素である[1]記載の方法。
[11]前記酵素がプロテアーゼである[10]記載の方法。
[12]前記加水分解酵素がリパーゼである[10]記載の方法。
[13]前記溶解素が自己溶解素である[10]記載の方法。
[14]前記代謝酵素がβ-ガラクトシダーゼである[10]記載の方法。
[15]前記サンプルが被験体の創傷表面および体液からなる群より選ばれる[1]記載の方法。
[16]前記基質が固相支持体上にある[1]記載の方法。
[17]前記支持体が微生物夾雑物を含まないことを必要とする材料を含有する[16]記載の方法。
[18]前記固相支持体が、創傷包帯、体液保持用コンテナ、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、泡状物質、布、紙、縫合糸、およびスワブからなる群より選ばれる[16]記載の方法。
[19]前記体液保存用コンテナが、尿収集バッグ、血液収集バッグ、血漿収集バッグ、テストチューブ、カテーテルおよびマイクロプレートのウェルからなる群より選ばれる[18]記載の方法。
[20]a)被験体の創傷から得られたサンプルと、微生物により産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質とを該酵素による該基質の改変を生じる条件下で接触させる工程;および
b)該基質の改変または改変の非存在を検出する工程、
を含み、
該基質の改変が該被験体における創傷感染の存在を示し、該基質の改変の非存在が該被験体における感染の非存在を示す、被験体における創傷感染の存在または非存在を検出する方法。
[21]前記微生物が創傷特異的細菌である[20]記載の方法。
[22]前記創傷特異的細菌が黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌、緑膿菌、糞便連鎖球菌、プロテウス・ミラビリス、霊菌、エンテロバクター・クロカエ、アセチノバクター・アニトラタス、肺炎桿菌、および大腸菌からなる群より選ばれる[21]記載の方法。
[23]前記創傷特異的細菌が霊菌である[22]記載の方法。
[24]前記創傷特異的細菌が緑膿菌である[22]記載の方法。
[25]前記創傷特異的細菌が黄色ブドウ球菌である[22]記載の方法。
[26]前記創傷特異的細菌が糞便連鎖球菌である[22]記載の方法。
[27]前記創傷特異的細菌が表皮ブドウ球菌である[22]記載の方法。
[28]前記酵素がプロテアーゼである[22]記載の方法。
[29]前記酵素が溶解素、エキソトキシン、細胞壁酵素、マトリックス結合酵素、プロテアーゼ、加水分解酵素、ビルレンス因子酵素、および代謝酵素である[20]記載の方法。
[30]前記酵素がプロテアーゼである[29]記載の方法。
[31]前記加水分解酵素がリパーゼである[29]記載の方法。
[32]前記溶解素が自己溶解素である[29]記載の方法。
[33]前記代謝酵素がβ-ガラクトシダーゼである[29]記載の方法。
[34]前記サンプルが体液である[20]記載の方法。
[35]前記基質が固相支持体上にある[20]記載の方法。
[36]前記支持体が微生物夾雑物を含まないことを必要とする材料を含有する[35]記載の方法。
[37]前記固相支持体が、創傷包帯、体液保持用コンテナ、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、泡状物質、布、紙、縫合糸、およびスワブからなる群より選ばれる[35]記載の方法。
[38]前記体液保存用コンテナが、尿収集バッグ、血液収集バッグ、血漿収集バッグ、テストチューブ、カテーテルおよびマイクロプレートのウェルからなる群より選ばれる[37]記載の方法。
[39]a)微生物により産生および/または分泌される酵素による基質の改変を生じる条件下で、被験体の創傷と、微生物により産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質とを接触させる工程
b)該基質の改変または改変の非存在を検出する工程、
を含み、
該基質の改変が該被験体における創傷感染の存在を示し、該基質の改変の非存在が該被験体における感染の非存在を示す、被験体における創傷感染の存在または非存在を検出する方法。
[40]前記微生物が創傷特異的細菌である[39]記載の方法。
[41]前記創傷特異的細菌が黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌、緑膿菌、糞便連鎖球菌、プロテウス・ミラビリス、霊菌、エンテロバクター・クロカエ、アセチノバクター・アニトラタス、肺炎桿菌、および大腸菌からなる群より選ばれる[40]記載の方法。
[42]前記創傷特異的細菌が霊菌である[41]記載の方法。
[43]前記創傷特異的細菌が緑膿菌である[41]記載の方法。
[44]前記創傷特異的細菌が黄色ブドウ球菌である[41]記載の方法。
[45]前記創傷特異的細菌が糞便連鎖球菌である[41]記載の方法。
[46]前記創傷特異的細菌が表皮ブドウ球菌である[41]記載の方法。
[47]前記酵素がプロテアーゼである[41]記載の方法。
[48]前記酵素が溶解素、エキソトキシン、細胞壁酵素、マトリックス結合酵素、プロテアーゼ、加水分解酵素、ビルレンス因子酵素、および代謝酵素である[39]記載の方法。
[49]前記酵素がプロテアーゼである[48]記載の方法。
[50]前記加水分解酵素がリパーゼである[48]記載の方法。
[51]前記溶解素が自己溶解素である[48]記載の方法。
[52]前記代謝酵素がβ-ガラクトシダーゼである[48]記載の方法。
[53]前記基質が固相支持体上にある[39]記載の方法。
[54]前記支持体が創傷包帯である[53]記載の方法。
[55]固相支持体および微生物により産生および/または分泌された酵素に特異的な検出可能に標識された基質を含有してなり、該基質が該固相支持体に付着されている、サンプル中の微生物の存在または非存在を検出するためのバイオセンサー。
[56]固相支持体が微生物夾雑物を含まないことを必要とする材料を含有してなる[55]記載のバイオセンサー。
[57]前記固相支持体が、創傷包帯、体液保持用コンテナ、ディスク、スコープ、フィルター、レンズ、泡状物質、布、紙、縫合糸、およびスワブからなる群より選ばれる[55]記載のバイオセンサー。
[58]前記体液保存用コンテナが、尿収集バッグ、血液収集バッグ、血漿収集バッグ、テストチューブ、カテーテルおよびマイクロプレートのウェルからなる群より選ばれる[57]記載のバイオセンサー。
[59]前記微生物が創傷特異的細菌である[55]記載のバイオセンサー。
[60]前記細菌が黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌、緑膿菌、糞便連鎖球菌、プロテウス・ミラビリス、霊菌、エンテロバクター・クロカエ、アセチノバクター・アニトラタス、肺炎桿菌、および大腸菌からなる群より選ばれる[59]記載のバイオセンサー。
[61]記創傷特異的細菌が霊菌である[60]記載のバイオセンサー。
[62]前記創傷特異的細菌が緑膿菌である[60]記載のバイオセンサー。
[63]前記創傷特異的細菌が黄色ブドウ球菌である[60]記載のバイオセンサー。
[64]前記創傷特異的細菌が糞便連鎖球菌である[60]記載のバイオセンサー。
[65]前記創傷特異的細菌が表皮ブドウ球菌である[60]記載のバイオセンサー。
[66]前記バイオセンサーが前記創傷と直接接触する[55]記載のバイオセンサー。
[67]サンプル中の微生物の存在または非存在を検出するためのバイオセンサー、および創傷感染を引き起こす微生物により産生および/または分泌される酵素を検出するための1つ以上の試薬を含有してなる創傷感染の検出用キットであって、該バイオセンサーは固相支持体および該微生物により産生および/または分泌される酵素に特異的な検出可能に標識された基質を含有し、該基質は該固相支持体に付着している、キット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)サンプルと、微生物により産生および/または分泌される酵素の検出可能に標識された基質とを該酵素による該基質の改変を生じる条件下で接触させる工程;および
b)該基質の改変または改変の非存在を検出する工程、
を含み、
該基質の改変が該サンプル中の微生物の存在を示し、該基質の改変の非存在が該サンプル中の微生物の非存在を示す、サンプル中の微生物の存在または非存在を検出する方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図13C】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17A】
image rotate

【図17B】
image rotate

【図17C】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2011−206065(P2011−206065A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165567(P2011−165567)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【分割の表示】特願2003−563395(P2003−563395)の分割
【原出願日】平成15年1月31日(2003.1.31)
【出願人】(504290653)イーシーアイ バイオテック インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】