説明

微生物の簡易計数方法

【課題】微生物のデジタル画像を利用して、微生物の形態等に関する専門知識を必要とすることなく、経済的かつ迅速に、微生物を短径の長さごとに区分して計数する方法の提供。
【解決手段】短径が5μm以上である微生物を短径の長さごとに区分して計数する方法であって、(a)微生物のデジタル画像を取得する工程と、(b)工程(a)で取得されたデジタル画像を二値化し、得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりを1微生物と認識する工程と、(c)工程(b)で認識された各微生物の面積を算出する工程と、
(d)工程(c)で算出された各面積と等しい面積を有し、短径と長径が1:1.1〜1:8の任意の比を有する楕円形の短径を算出する工程と、(e)工程(b)で認識された各微生物を、工程(d)で算出された各短径を有する微生物として区分して計数する工程と、を有することを特徴とする、微生物の簡易計数方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汎用されている画像解析法を利用して、迅速かつ経済的に、微生物を短径の長さごとに区分して計数する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バラスト水は、荷物を積載していない船を安定させるために積み込まれる海水である。一般的なバルクキャリアやオイルタンカーにおいては、載貨重量トンの約1/3のバラスト水が、荷揚げ時に積荷と入れ替わりで張水され、積荷の載積時に放流される。通常は、バラスト水を採取した海域と異なる海域において放流されるため、バラスト水中に含まれているプランクトンや細菌等の微生物が、本来の生息地以外の海域に大量に拡散され、生態系を乱すことが指摘されている。このようなバラスト水の移動による生態系の攪乱を防止するために、バラスト水の規制に関する国際的ルールが策定されつつある。例えば、「船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約(バラスト水規制条約)」が既に採択され、数年内に発効される見通しである。
【0003】
バラスト水規制条約が発効された場合、生態系への影響を抑えるため、放流されるバラスト水中の微生物の数を規制値以下にすることが義務付けられる。D−2基準(バラスト水規制条約で規制されている微生物数の基準)では、プランクトンのサイズにより、規制値が異なる。例えば、50μm以上のプランクトンは10個/m以下、10〜50μmのプランクトンは10個/mL以下、とそれぞれ定められており、サイズの違いで100万倍規制が厳しくなっている。なお、プランクトンの大きさは、からだの一番短い部分の長さ(短径)で区分けされる。一方、細菌についてはコレラ菌1cfu/100mL以下、大腸菌250cfu/100mL以下、腸球菌100cfu/mL以下と定められている。
【0004】
条約を遵守するために、以下の4種類の方策をとることが考えられる。(1)外洋上でのバラスト水交換;(2)D−2基準を満たすための装置によるバラスト水処理;(3)受け入れ施設へのバラスト水排出;(4)IMO MEPC(国際海事機関 海洋環境保全委員会)で承認された他の方策。この中で(2)が最も現実的であり、経済的にも好ましいと考えられている。このため、D−2基準を満たすレベルまで微生物を除去し得るバラスト水処理装置の開発が盛んになされている。
【0005】
D−2基準で規定されている微生物を計数するための公定法は、プランクトン等の大きな生物と細菌等の小さな微生物とは異なる。プランクトン等の大きな生物についてはプランクトンネットで濃縮された生物を専門家が1匹1匹観察し種類を同定し、サイズを測る方法で計数される。一方、微生物については培養法を用いて計数される。このため、公定法によって微生物を計数するためには専門家が必要であり、時間と費用がかかるという問題がある。例えば、微生物の計数を外注した場合には、1検体10万円程度の費用がかかり、また、通常、結果が出るまでには1週間ほどかかる。このため、実際放流されるバラスト水が、D−2基準を満たすレベルまで微生物が除去されているかを確認することは、現状では非常に困難である。また、バラスト水処理装置を開発するためには、該装置を用いて処理されたバラスト水がD−2基準を満たすか否かを判別することが必要であるが、このようなバラスト水処理装置の性能試験においても、費用や時間がかかり、開発の効率が犠牲になるという問題がある。
【0006】
微生物を迅速に計数するための方法として、様々な方法が開示されている。例えば、(1)微粒子検出位置と蛍光検出位置が設定され、検水を一定流量で流す測定セルと、この測定セルの微粒子検出位置に設置される光遮断式の微粒子計と、前記測定セルの蛍光検出位置に設置される蛍光光度計とからなり、検水中の粒子径毎の粒子数及びクロロフィル含有粒子数を蛍光光度計の出力から計数することを特徴とする植物プランクトンの計数装置に係る発明が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、(2)水産生物を液体中に保持し、前記水産生物の拡大映像を映像拡大手段により得て、前記拡大映像を撮像手段により映像信号とし、前記映像信号を映像変換手段により映像情報に変換し、前記映像情報を2値化し、予め決めておいた閾値とを比較して、以上または以下の映像を取り除き特定映像情報とし、前記特定映像情報に映像補正を行い映像の輪郭を確定し、前記輪郭の確定した映像の数を測定することを特徴とする水産用生物映像処理方法に係る発明が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。その他、(3)濃淡を有する観察画像について、画像中の輝度の変化を強調し、強調された画像について、特徴量を求めることを特徴とする物体の観察方法に係る発明が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2003−254891号公報
【特許文献2】特開平8−271447号公報
【特許文献3】特開平5−263411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記(1)の装置は、微粒子計と蛍光光度計を併用したものであり、植物プランクトンを短時間に計数することができるが、各植物プランクトンを大きさごとに区別して計数することはできない。また、上記(2)の方法及び方法は、プランクトンを画像で認識する装置及び方法であり、対象水産生物を形態別に計数することができるが、通常光での画像認識であるため、生物かどうか、植物プランクトンか動物プランクトンかの判断等が専門家でないとできないという問題がある。一方上記(3)の方法は、プランクトン等の不定形な物体を精度よく検出することができるが、画像解析から群体プランクトンであるかの判断を自動的に行う発明であり、個々のプランクトンの大きさを自動判別することは困難である。
【0008】
プランクトン等には、三日月形、線形、球形、ミジンコ等の特殊な形状、アメーバのような不定形状等の様々な形状のものがある。このように、プランクトン等は、種類ごとに多様な形態を有しているため、複数種類のプランクトンが撮影されたデジタル画像から、各微生物の短径を算出して短径ごとに区分して微生物を計数することは、非常に困難である。デジタル画像の形状認識機能に優れた特殊な装置を用いれば、不定形物体の短径を算出し得るが、このような装置は非常に高価であるため、通常は、微生物のデジタル画像を、1つ1つ人が視認してそれぞれの短径を算出せざるを得ない。
【0009】
本発明は、微生物のデジタル画像を利用して、微生物の形態等に関する専門知識を必要とすることなく、経済的かつ迅速に、微生物を短径の長さごとに区分して計数する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、短径が5μm以上である微生物の短径は、短径と長径の比が1:1.1〜1:8であって該微生物とほぼ等しい面積を有する楕円形の短径に相当し得ること、つまり、微生物のデジタル画像を取得して、汎用されている画像解析法を利用して面積を算出した場合に、取得された画像中の微生物を、短径と長径の比が1:1.1〜1:8であって、該微生物とほぼ同等の面積を有する楕円形と同じ長さの短径を有する微生物として区分することにより、微生物の形態等に関する専門知識を必要とすることなく、微生物を短径の長さごとに区分して計数し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の第一の態様は、短径が5μm以上である微生物を短径の長さごとに区分して計数する方法であって、(a)微生物のデジタル画像を取得する工程と、(b)工程(a)で取得されたデジタル画像を二値化し、得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりを1微生物と認識する工程と、(c)工程(b)で認識された各微生物の面積を算出する工程と、(d)工程(c)で算出された各面積と等しい面積を有し、短径と長径が1:1.1〜1:8の任意の比を有する楕円形の短径を算出する工程と、(e)工程(b)で認識された各微生物を、工程(d)で算出された各短径を有する微生物として区分して計数する工程と、を有することを特徴とする、微生物の簡易計数方法を提供するものである。
また、本発明の第二の態様は、微生物を計数する方法であって、短径が5μm以上である微生物は、前記第一の態様の微生物の簡易計数方法を用いて、短径の長さごとに区分して計数し、短径が5μm未満である微生物は、各微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブを用いて、微生物の種類ごとに計数すること、を特徴とする、微生物の簡易計数方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の微生物の簡易計数方法により、常法により取得した微生物のデジタル画像から、汎用されている画像解析法を利用して、専門家による視認とほぼ同程度の精度で簡便に、微生物を短径の長さごとに区分して計数することができる。高価で特別な装置等を必要としないため、経済的にも好ましい。また、取得されたデジタル画像から、半自動的に計数することができるため、専門家が1匹1匹観察し種類を同定し、サイズを測る公定法と比較して、非常に迅速に微生物を計数することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の微生物の簡易計数方法は、多種多様な微生物を含有している試料の微生物を、大きさごとに区分して計数するために用いられることが好ましい。このような微生物を含有する試料として、例えば、バラスト水等の自然に放流・排出されるものより採取した試料や、海水、湖沼、河川等の自然より採取した試料等がある。バラスト水等の、容量の大きい試料中の微生物を計数する場合には、予め試料中の微生物を濃縮しておくことが好ましい。微生物の濃縮は、プランクトンネットやフィルターを用いた捕集方法等の、公知の濃縮方法を用いて行うことができる。
【0014】
本発明の第一の態様の簡易計数方法の対象となる微生物は、短径が5μm以上の微生物である。短径が5μm以上であれば、該微生物の大きさや形状は特に限定されるものではなく、単細胞生物であってもよく、多細胞生物であってもよい。特に短径が10μm以上の微生物であることが好ましい。このような微生物として、例えば、植物プランクトンや動物プランクトン等がある。細菌等の比較的小さな微生物は、その多くが球形であり、細菌の種類の違いによる大きさや形状に差があまりなく、大きさによる区分が必要とされることは稀である。これに対して、プランクトン等の比較的大きな微生物は、種類ごとに多種多様な形状や大きさを有しており、本発明の簡易計数方法を用いることによる計数に要する時間と費用の軽減効果をより効果的に享受することができる。
【0015】
本発明の第一の態様の微生物の簡易計数方法は、短径が5μm以上である微生物を短径の長さごとに区分して計数する方法であって、(a)微生物のデジタル画像を取得する工程と、(b)工程(a)で取得されたデジタル画像を二値化し、得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりを1微生物と認識する工程と、(c)工程(b)で認識された各微生物の面積を算出する工程と、(d)工程(c)で算出された各面積と等しい面積を有し、短径と長径が1:1.1〜1:8の任意の比を有する楕円形の短径を算出する工程と、(e)工程(b)で認識された各微生物を、工程(d)で算出された各短径を有する微生物として区分して計数する工程と、を有することを特徴とする。以下、工程ごとに説明する。
【0016】
まず、工程(a)として、微生物のデジタル画像を取得する。微生物のデジタル画像は、適当な倍率の顕微鏡と、該顕微鏡に接続されたCCDカメラ等の撮像設備を有する汎用されている顕微鏡撮影装置等を用いて取得することができる。デジタル画像取得前に、微生物をホルマリンやアルコールを用いた公知の固定方法により、固定化してもよい。微生物を予め固定化することにより、微生物の運動等による移動を防止することができ、またサンプル採取後の経時変化がなくなるため、より正確なデジタル画像の取得が可能となり、その結果、計数誤差をより小さくすることができる。
【0017】
多くの微生物は無色透明であるため、微生物をそのまま透過光下で撮影して得た画像では微生物が判別し難い。このため、背景色と微生物が判別しやすい状態でデジタル画像を取得することが好ましい。
【0018】
例えば、色素等を用いて、予め微生物を染色しておくことにより、微生物を背景から識別し易くすることができる。該色素は、微生物全体を染色し得る色素であってもよく、核等の微生物の特定の組織・器官を染色し得る色素であってもよい。例えば、DAPI、エチジウムブロマイド、ヘキスト33258/33342、アクリジンオレンジ等の蛍光色素であってもよい。検出感度が良好であること、及び背景色との判別が容易であること等から、微生物を蛍光染色した後、蛍光顕微鏡を用いてデジタル画像を取得することが好ましい。
【0019】
多くの植物プランクトンはクロロフィルやフィコエリスリン、フィコシアニン等の色素を含有しているため、橙色から赤色の強い自家蛍光を発する。この性質を利用して、動物プランクトンと区別して植物プランクトンのみを計数することもできる。例えば、染色していない微生物に対して、励起光として青色光や紫外線(UV)を照射すると、該微生物が植物プランクトンである場合には、該微生物が有するクロロフィルにより、赤色蛍光を発する。この発された赤色蛍光を、蛍光顕微鏡を用いて検出することにより、植物プランクトンのデジタル画像を取得することができる。
【0020】
次に、工程(b)として、工程(a)で取得されたデジタル画像を二値化し、得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりを1微生物と認識した後、工程(c)として、工程(b)で認識された各微生物の面積を算出する。任意の閾値を用いて二値化処理することにより、デジタル画像は極端な濃淡像で識別化される。このため、得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりを1微生物として認識することにより、画像中の、背景から分離される物体(微生物)の形状を、迅速かつ簡便に識別することができる。なお、二値化に用いる閾値は、微生物の染色に用いた色素の種類や濃度等を考慮して、適宜決定することができる。また、工程(b)と(c)におけるデジタル画像の二値化処理や、得られた二値画像中の物体の面積の算出は、汎用されている画像解析方法や、ImageJ等の無料配布されている画像解析処理ソフトウェアを用いることにより行うことができる。
【0021】
さらに、工程(d)として、工程(c)で算出された各面積と等しい面積を有し、短径と長径が1:1.1〜1:8の任意の比を有する楕円形の短径を算出した後、工程(e)として、工程(b)で認識された各微生物を、工程(d)で算出された各短径を有する微生物として区分して計数する。なお、特定の面積を有し、短径と長径の比が特定の範囲である楕円形の短径の算出は、用手法で行うこともできるが、汎用されている電算処理装置等を用いて行うことが好ましい。
【0022】
また、前述した工程(a)〜(e)の各工程を、ソフトウェアプログラムの各機能部とし、これらの機能部により、工程(a)によって取得したデジタル画像をメモリ等の記憶手段に記憶させ、記憶させたデジタル画像により工程(b)〜(e)の一連の処理、あるいはこれらの工程の一部の処理を行うソフトウェアプログラムを電算処理装置により実行することにより、本発明を実現するようにしてもよい。
【0023】
なお、本発明において、「微生物を短径の長さごとに区分して計数する」とは、微生物を、該微生物の短径の長さに従って区分けし、各区分の微生物数を計数することをいう。例えば、短径の長さを50μm未満と50μm以上に区分する場合には、短径が10μmの微生物と短径が25μmの微生物は、50μm未満の区に区分けされて計数されることを意味する。区分は、微生物を計数する目的等に応じて、適宜決定することができる。例えば、バラスト水中に含まれている微生物を計数する場合には、短径が10μm未満、10μm以上50μm未満、50μm以上の3つに区分して計数することが好ましい。
【0024】
微生物を、その形状にかかわらず、ほぼ同程度の面積を有し、短径と長径が1:1.1〜1:8の任意の比を有する楕円形の短径と同じ長さの短径を有する微生物として区分することにより、デジタル画像に基づいて微生物を計数した場合であっても、専門家が視認により行った計数に近い値が得られる。微生物の短径と同じ長さの短径を有する形状は、短径と長径の比が1:1.1〜1:8の任意の値の楕円形であれば特に限定されるものではなく、所望の区分を考慮して適宜決定することができるが、短径と長径の比が1:1.1〜1:5の楕円形であることが好ましく、短径と長径の比が1:1.1〜1:1.5の楕円形であることがより好ましく、短径と長径の比が1:1.3の楕円形であることが特に好ましい。このように、微生物の形状を、ほぼ同程度の面積を有しており、かつ短径と長径の比が特定の範囲のうちの任意の値である楕円形と仮定することにより、多種多様な形状を有する微生物を、専門家による視認とほぼ同程度の精度で簡便かつ迅速に短径ごとに区分して計数することができる。
【0025】
また、本発明の第一の態様の微生物の簡易計数方法と、細菌等の比較的小さな微生物を計数する公知の方法を組み合わせることにより、バラスト水等の複数種類の微生物が存在している溶液中の微生物を、その大きさや種類ごとに適切に計数することができる。特に、細菌等は種類ごとに計数することが求められる場合が多いため、細菌の種類ごとに特定して計数し得る公知の方法を組み合わせることが好ましい。
【0026】
本発明の第二の態様の微生物の簡易計数方法は、短径が5μm以上である微生物は、本発明の微生物の簡易計数方法を用いて、短径の長さごとに区分して計数し、短径が5μm未満である微生物は、各微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブを用いて、微生物の種類ごとに計数することを特徴とする。
【0027】
本発明の第二の態様の簡易計数方法において、短径が5μm未満である微生物は、特に限定されるものではないが、細菌類であることが好ましい。特に、自然界に大量に存在した場合には、生態系の攪乱や健康被害等を引き起こすおそれのある細菌であることが好ましい。このような細菌として、例えば、コレラ菌、大腸菌、腸球菌等が挙げられる。
【0028】
本発明の第二の態様の簡易計数方法において、計数用に用いられるポリヌクレオチドプローブは、計数対象である目的の微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するものであって、目的の微生物と他の種類の微生物と区別して検出し得るポリヌクレオチドプローブであれば、特に限定されるものではない。ここで、「微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブ」とは、各微生物の遺伝子と相同的又は相補的な塩基配列を有する核酸を認識し得るが、他の種類の微生物の遺伝子と相同的又は相補的な塩基配列を有する核酸は認識し難いポリヌクレオチドプローブを意味する。特異性に優れていることが期待できるため、各微生物の16S rDNA遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブであることが好ましい。このようなポリヌクレオチドプローブは、常法により設計し合成することができる。また、各微生物を検出し得るポリヌクレオチドプローブとして公知のポリヌクレオチドプローブを用いることもできる。
【0029】
本発明の第二の態様の簡易計数方法において、短径が5μm未満である微生物を計数する方法は、各微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブを用いて、微生物の種類ごとに計数する方法であれば、特に限定されるものではない。該方法として、例えば、ハイブリダイゼーション法やPCR(Polymerase Chain Reaction)法等がある。核酸抽出操作を要さず、簡便であることから、in situ ハイブリダイゼーション(ISH)法により検出することが好ましい。特に安全でかつ感度が良好であるため、蛍光標識されたプローブを用いる蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH)法により検出することが好ましく、CARD−FISH(Catalyzed Reporter Deposition−Fluorescence in situ hybridization)法(Pernthaler et al. 、APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY、2002年、第68巻、第3094〜3101ページ参照。)により検出することが特に好ましい。
【0030】
CARD−FISH法とは、HRP(Horse Radish Peroxidase)の酵素反応を利用して蛍光色素を活性化させることにより、蛍光強度を高めた応用技術である。具体的には、HRP標識プローブ等を用いてFISHを行った後に、蛍光標識されたチラミド(tyramide)を作用させる。チラミドは HRPによりラジカル化されるが、このラジカルの寿命は非常に短いため、HRPの近傍にあるチロシンやトリプトファン等の芳香属化合物とのみ共有結合する。この結果、ラジカル化された蛍光標識チラミドが、HRP標識プローブにより標識された微生物に集積するため、従来のFISH法よりも非常に感度よく微生物を検出することができる。例えば、従来のFISH法では60倍や100倍の対物レンズを用いなければ検出できなかった微生物が、CARD−FISH法により4〜10倍の対物レンズを用いても検出し得るようになる。つまり、CARD−FISH法を用いることにより、従来よりも低倍率の蛍光顕微鏡下での観察によって、細菌を検出し計数することが可能となるため、計数に要する時間を短縮することができる。
【実施例】
【0031】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
<短径が5μm以上である微生物の計数>
海水200mLを直径25mm、孔径5μmのニトロセルロースメンブレンフィルター(フィルターA)を用いて濾過することにより、短径が5μm以上の大きさの微生物をフィルターA上に捕集した後、スライドグラスに載せた。このフィルターAにDAPIを加えて染色した後、励起光としてUVを用いて、蛍光顕微鏡により観察した。この観察された微生物のデジタル画像を、40倍と200倍の対物レンズを用いてそれぞれ取得した。
画像解析フリーソフトImageJ(The National Institutes of Health)を用いて、取得されたデジタル画像を二値化し、得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりを1微生物と認識させた後、該微生物の数とその面積を計数した。
【0033】
各微生物の二値画像より得られた面積データから、短径と長径の比が表1記載の値である楕円形と定義した場合の、各微生物の短径を算出し、全微生物の50μm以上について計数した。この計数の結果を表1に示した。
一方、同じフィルターAに捕集された微生物を、全て視認により、短径ごとに区分して計数した結果を対照とした。
なお、対照では、DAPI染色後、全ての微生物を視認して区分ごとに計数するために、5時間かかった。一方、デジタル画像を用いた本発明の方法では、DAPI染色後、1時間で表1記載の結果を得ることができた。
表1の結果からも明らかであるように、微生物の形状を、短径と長径の比が1:1.1〜1:8の楕円形と定義することにより、視認とほぼ同程度の精度で微生物を区分して計数することができた。また、
【0034】
【表1】

【0035】
<短径が5μm未満である微生物の計数>
フィルターAを用いた濾過により得られた濾液を、さらに孔径0.2μmのポリカーボネートフィルター(フィルターB)を用いて濾過することにより、短径が5μm未満の大きさの微生物をフィルターB上に捕集した後、化学固定した。固定した微生物に対し、Pernthalerらの方法に従って、CARD−FISH染色を行った。
まず、フィルターBを0.1%の寒天につけた後乾燥させることにより、表面をカバーし、以降の処理中での微生物の剥離を防止した。このフィルターBを、10mg/mLのリゾチームで1時間処理した後、0.0015%の過酸化水素水を含むメタノール中に30分間浸漬させた。次に、フィルターBを、300μLのハイブリダイゼーション溶液(0.9M NaCl、20mM Tris−Cl、35% formamide、2% Blocking reagent(Rosh Diagnostics社製)、0.02% SDS)と2μLのプローブ溶液(8pmol/μL)の混合溶液に浸漬させ、45℃で2時間ハイブリダイゼーションを行った。なお、プローブとして、配列番号1記載の塩基配列を有する大腸菌検出用プローブECO1167(Neef et al. 、Systematic and applied microbiology、1995年、第18巻、第113〜122ページ参照。)をHRP標識したものを用いた。
その後、フィルターBを、洗浄液(20mM Tris−Cl、80mM NaCl、5mM EDTA、0.01% SDS)に48℃15分間浸漬させて、余分なプローブを洗浄除去した。さらにフィルターBは、約10mLのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)に数分浸漬させた後、反応液に15分間37℃で浸漬させて反応させることにより、蛍光色素を標的細胞内に沈着させた。なお、反応液として、500μLのPBS溶液(0.0015% 過酸化水素、1%Blocking reagent(Rosh Diagnostics社製)と、3μLの5,6―FAM標識済みチラミド液の混合溶液を用いた。反応後、約10mLのPBSで5分間、その後超純水で1分間洗浄した後、エタノールに浸漬させて脱水して乾燥させた。このフィルターBを、DNA染色試薬(もし宜しければ、具体的な名称をご教授願います。)を含有するグリセリン溶液を用いて、スライドグラスとカバーガラスの間に設置し、蛍光顕微鏡観察を行った。染色された大腸菌は、100倍の対物レンズを用いた場合だけではなく、4〜10倍の対物レンズを用いた場合においても観察することができた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の微生物の簡易計数方法を用いることにより、微生物のデジタル画像を利用して、経済的かつ迅速に、微生物を短径の長さごとに区分して計数することができるため、バラスト水中の微生物の計数や、バラスト水処理装置の開発等の分野で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短径が5μm以上である微生物を短径の長さごとに区分して計数する方法であって、
(a)微生物のデジタル画像を取得する工程と、
(b)工程(a)で取得されたデジタル画像を二値化し、得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりを1微生物と認識する工程と、
(c)工程(b)で認識された各微生物の面積を算出する工程と、
(d)工程(c)で算出された各面積と等しい面積を有し、短径と長径が1:1.1〜1:8の任意の比を有する楕円形の短径を算出する工程と、
(e)工程(b)で認識された各微生物を、工程(d)で算出された各短径を有する微生物として区分して計数する工程と、
を有することを特徴とする、微生物の簡易計数方法。
【請求項2】
前記工程(e)において、短径が10μm未満の微生物と、短径が10μm以上50μm未満の微生物と、短径が50μm以上の微生物とに区分して計数することを特徴とする、請求項1記載の微生物の簡易計数方法。
【請求項3】
前記微生物がプランクトンであることを特徴とする、請求項1又は2記載の微生物の簡易計数方法。
【請求項4】
前記工程(a)が、微生物を蛍光染色した後、蛍光顕微鏡を用いてデジタル画像を取得する工程であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の微生物の簡易計数方法。
【請求項5】
前記微生物が植物プランクトンであり、前記工程(a)が、微生物に励起光として青色光を照射し、蛍光顕微鏡を用いて赤色蛍光を検出してデジタル画像を取得する工程であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の微生物の簡易計数方法。
【請求項6】
微生物を計数する方法であって、
短径が5μm以上である微生物は、請求項1〜5のいずれか記載の微生物の簡易計数方法を用いて、短径の長さごとに区分して計数し、
短径が5μm未満である微生物は、各微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブを用いて、微生物の種類ごとに計数すること、
を特徴とする、微生物の簡易計数方法。
【請求項7】
短径が5μm未満である微生物の検出をCARD−FISH法を用いて行うことを特徴とする、請求項6記載の微生物の簡易計数方法。
【請求項8】
前記短径が5μm未満である微生物が、コレラ菌、大腸菌、腸球菌からなる群より選ばれる1以上であることを特徴とする、請求項6又は7記載の微生物の簡易計数方法。
【請求項9】
バラスト水中の微生物を計数するために用いられることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか記載の微生物の簡易計数方法。

【公開番号】特開2010−63403(P2010−63403A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232440(P2008−232440)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】