説明

微生物及びそれを用いた微生物電池

【課題】液漏れの起きにくい微生物電池を提供する。
【解決手段】イオン透過性非導電性膜を介して場合によっては隔てられた負極物質と正極物質にそれぞれ負極と正極を配設してなる微生物電池において、負極物質を、特定の配列からなる塩基配列に対して99.4%以上の相同性を示す塩基配列の16S rRNA遺伝子を有するエンシファー(Ensifer)属に属する微生物と栄養源とを構成成分として含むゲルで構成することにより液漏れの起きにくい微生物電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用して電力を得ることが可能な微生物電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物電池は、微生物の生命活動によって生じる電子を利用して発電する技術である。微生物電池には、特許文献1〜3に記載の微生物電池をはじめ、様々な態様が報告されている。しかしながら、いずれの微生物電池においても負極は液体中に配設され、微生物電池の装置内部には微生物を含む液体が存在するという共通点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−288198号公報
【特許文献2】特開2009−93861号公報
【特許文献3】特開2010−9772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の微生物電池は装置内部に液体が存在するため、液漏れが起こる可能性があった。特に微生物が含まれる負極側からの液体の流出は、機能的にも衛生的にも好ましくなかった。本発明の課題は、液漏れの起きにくい微生物電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、微生物と栄養源とを含有するゲルに負極を配設することにより、液漏れの起きにくい微生物電池を作製可能なことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本願は、以下の(1)から(15)に記載の発明を提供するものである。
【0007】
(1)配列番号1又は2に記載された塩基配列に対して99.4%以上の相同性を示す塩基配列の16S rRNA遺伝子を有するエンシファー(Ensifer)属に属する微生物。
【0008】
(2)エンシファー(Ensifer)属に属する微生物が、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株(受託番号:NITE P−1019)又はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株(受託番号:NITE P−1020)である(1)に記載の微生物。
【0009】
(3)イオン透過性非導電性膜を介して場合によっては隔てられた負極物質と正極物質にそれぞれ負極と正極を配設してなる微生物電池において、負極物質が、配列番号1又は2に記載された塩基配列に対して99.4%以上の相同性を示す塩基配列の16S rRNA遺伝子を有するエンシファー(Ensifer)属に属する微生物と栄養源とを構成成分として含むゲルで構成されていることを特徴とする微生物電池。
【0010】
(4)エンシファー(Ensifer)属に属する微生物が、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株(受託番号:NITE P−1019)又はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株(受託番号:NITE P−1020)である(3)に記載の微生物電池。
【0011】
(5)負極物質を構成するゲルが、寒天、ゼラチン及びジェランガムからなる群より選択されるゲル化剤を用いて製造されたゲルである(3)又は(4)に記載の微生物電池。
【0012】
(6)栄養源が、炭素、窒素、水素、酸素、リン、硫黄、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛、銅、アルミニウム、ホウ素、モリブデン、ニッケル及びタングステンからなる群より選択される1つ以上の栄養素を含む栄養源である(3)又は(4)に記載の微生物電池。
【0013】
(7)負極が、粒子状及び/又は繊維状の導電性の炭素である(3)又は(4)に記載の微生物電池。
【0014】
(8)負極が、負極物質のゲル中に分散させた粒子状及び/又は繊維状の導電性の炭素である(3)又は(4)に記載の微生物電池。
【0015】
(9)正極物質が、電子受容体を構成成分として含むゲルで構成されている(3)から(8)のいずれかに記載の微生物電池。
【0016】
(10)電子受容体が、MnO、Rh、PtO又はPbOである(9)に記載の微生物電池。
【0017】
(11)電子受容体が、MnOである(9)に記載の微生物電池。
【0018】
(12)正極物質を構成するゲルが、寒天、ゼラチン及びジェランガムからなる群より選択されるゲル化剤を用いて製造されたゲルである(9)に記載の微生物電池。
【0019】
(13)正極が、粒子状及び/又は繊維状の導電性の炭素である(3)から(12)のいずれかに記載の微生物電池。
【0020】
(14)正極が、正極物質のゲル中に分散させた粒子状及び/又は繊維状の導電性の炭素である(9)から(12)のいずれかに記載の微生物電池。
【0021】
(15)イオン透過性非導電性膜が、濾紙、半透膜、イオン交換膜又はガラス若しくはセラミックでできた多孔性の板である(3)から(14)のいずれかに記載の微生物電池。
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明の微生物は、エンシファー(Ensifer)属に属する微生物であり、微生物電池に用いることで電力発生が良好に起こる点で、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)又はその近縁種に属する微生物であることが好ましく、さらに、配列番号1又は配列番号2に示す塩基配列に対して99.4%以上の相同性を示す塩基配列の16S rRNA遺伝子を有する微生物であることがより好ましい。さらに具体的には、エンシファー(Ensifer)属に属する微生物として、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株(受託番号:NITE P−1019)とエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株(受託番号:NITE P−1020)が好ましい。
【0024】
エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株の菌学的性質としては、25℃の好気条件下のR2A寒天培地で良好に増殖し、白色の半透明、円形、反レンズ状の隆起、周囲は全縁、ムコイド表面及び粘性を示す特徴を有した直径1mmから5mmのコロニーを形成することが挙げられる。そして、その細胞は、短桿菌(1.4−2.2μm×0.6−0.8μm)であり、胞子形成はなく、運動性を示すことも挙げられる。さらに、弱いカタラーゼ活性と弱いオキシダーゼ活性を示し、グルコース、スクロース、グリセロール、乳酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムを炭素源として利用可能であることも挙げられる。また、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株の16S rRNA遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列を有することも特徴として挙げられる。
【0025】
DNA配列データベース(URL:http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi、アクセス日:2010年12月10日)を用いたホモロジー検索では、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)に対して100%の相同性を示す塩基配列は認められないことより、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株は新菌株である。
【0026】
エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株は、平成22年12月14日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はNITE P−1019である。
【0027】
エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株の菌学的性質としては、25℃の好気条件下のR2A寒天培地で良好に増殖し、白色の半透明、円形、反レンズ状の隆起、周囲は全縁、ムコイド表面及び粘性を示す特徴を有した直径1mmから5mmのコロニーを形成することが挙げられる。そして、その細胞は、短桿菌(1.4−2.2μm×0.6−0.8μm)であり、胞子形成はなく、運動性を示すことも挙げられる。さらに、弱いカタラーゼ活性と弱いオキシダーゼ活性を示し、グルコース、スクロース、グリセロール、乳酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムを炭素源として利用可能であることも挙げられる。また、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株の16S rRNA遺伝子は、配列番号2に示す塩基配列を有することも特徴として挙げられる。
【0028】
DNA配列データベース(URL:http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi、アクセス日:2010年12月10日)を用いたホモロジー検索では、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号2)に対して100%の相同性を示す塩基配列は認められないことより、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株は新菌株である。
【0029】
エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株は、平成22年12月14日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はNITE P−1020である。
【0030】
本発明の微生物電池は、本発明の微生物と栄養源とを構成成分として含有する負極物質と電子受容体を構成成分として含有してもよい正極物質から構成され、場合によっては、負極物質と正極物質とをイオン透過性非導電性膜を隔てて接触させ、負極物質に配設した負極と正極物質に配設した正極とを導線で接続して回路を閉じることにより電力を得ることが可能な発電装置である。模式図を図2に示した。
【0031】
本発明の微生物電池において、負極物質は、液漏れを効率的に防止することができる点で、ゲルであることが好ましい。ゲルの形態に特に制限はなく、本発明の微生物と栄養源とを含有する液体を、ゲル化剤を用いて固化させて作製したゲルであればよい。該ゲル化剤は、本発明の微生物と栄養源とを含有する液体をゲル化することが可能な物質であれば特に制限はないが、経済性に優れている点で寒天、ゼラチン又はジェランガムが好ましい。該ゲル化剤の添加量は、本発明の微生物と栄養源を含有する液体がゲル化するのに十分な量添加すればよい。一例としてゲル化剤が寒天である場合は、ゲル化を目的とする液体に対して1%(w/v)〜3%(w/v)の範囲で添加しゲルを作製することが好ましく、さらに好ましくは1.5%(w/v)〜2.5%(w/v)の範囲である。
【0032】
本発明の微生物電池において、本発明の微生物は負極物質のゲル中に存在させればよく、ゲルの表面、ゲルの内部、又はゲルの表面と内部の両方に存在させてもよい。また、本発明の微生物は単一な菌株として用いてもよいし、本発明の微生物を含む複数の微生物を混在させた複合微生物として用いてもよい。
【0033】
負極物質のゲルには、本発明の微生物の増殖に必要な栄養素を構成成分として含む栄養源をあらかじめ添加させておくことが好ましい。具体的な栄養素としては、炭素、窒素、水素、酸素、リン、硫黄、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛、銅、アルミニウム、ホウ素、モリブデン、ニッケル、タングステン等を挙げることができ、目的に合わせて栄養源の組成を適宜決定すればよい。
【0034】
負極物質のゲルのpHは、電池の性能劣化を防止できる点で、pH5.0からpH10.0の範囲に保つことが好ましく、pH6.5からpH7.5の範囲がより好ましい。好適なpHを維持するには、緩衝剤を用いればよい。該緩衝剤としては、リン酸、クエン酸、酢酸等及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を混合したものや、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等を挙げることができ、目的のpHに合わせてこれらの中から適宜選択すればよい。
【0035】
本発明の微生物電池において、負極は化学的に安定である点と経済性に優れている点から導電性の炭素が好ましい。炭素の形状に特に限定はないが、導電性に優れている点で好ましい形状として粒子状と繊維状を例示することができる。負極を負極物質に配設する方法として、負極物質のゲルを作製するときに、粒子状炭素を該ゲル中に分散させる方法を例示することができる。粒子状炭素の平均粒子径は、電池としての性能が良好な点で、1nmから1mmの範囲が好ましく、1nmから10μmの範囲がより好ましく、さらに1nmから100nmの範囲が好ましい。該ゲル中に配設する粒子状炭素の量は、電池としての性能が良好な点で、該ゲルの容量に対して0.5%(w/v)から5%(w/v)の範囲が好ましく、1%(w/v)から3%(w/v)の範囲がより好ましく、さらに1.5%(w/v)から2.5%(w/v)の範囲が好ましい。
【0036】
また、負極を負極物質に配設する方法として、負極物質のゲルを作製するときに、任意の長さの繊維状炭素を該ゲル中に浸漬する方法を例示することができる。該ゲル中に配設する繊維状炭素の量に特に制限はない。
【0037】
さらに、負極を負極物質に配設する方法として、粒子状炭素を含有する水懸濁液を負極物質のゲルの表面に塗抹する方法を例示することができる。本発明の微生物電池において、負極を負極物質に配設する方法としては、以上に例示した配設方法を単独で用いてもよいし、複数の配設方法を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明の微生物電池において、正極物質は、液漏れを効率的に防止することができる点で、ゲルであることが好ましい。ゲルの形態に特に制限はなく、電子受容体を含有する液体を、ゲル化剤を用いて固化させて作製したゲルであればよい。該ゲル化剤は、電子受容体を含有する液体をゲル化することが可能な物質であれば特に制限はないが、経済性に優れている点で寒天、ゼラチン又はジェランガムが好ましい。該ゲル化剤の添加量は、電子受容体を含有する液体がゲル化するのに十分な量添加すればよい。一例としてゲル化剤が寒天である場合は、ゲル化を目的とする液体に対して1%(w/v)〜3%(w/v)の範囲で添加しゲルを作製することが好ましく、さらに好ましくは1.5%(w/v)〜2.5%(w/v)の範囲である。
【0039】
正極物質のゲルには、効率よく発電を行うために電子受容体を添加する。電子受容体に特に制限はなく、正極との好適な組み合わせを考慮して選択すればよく、電池の性能劣化を防止できる点で、ゲル中を拡散しにくいものが好ましい。電子受容体としては、金属酸化物が好ましく、具体的には、MnO、Rh、PtO、PbO等を挙げることができ、経済性に優れている点と電池としての性能が良好な点で、MnOが好ましい。添加する電子受容体の量に特に制限はないが、負極側で発生する電子量を考慮して添加量を決定すればよい。
【0040】
正極物質のゲルのpHは、正極での反応によるpH変化を抑えるため、pH5.0からpH10.0の範囲に保つことが好ましく、pH6.5からpH7.5の範囲がさらに好ましい。好適なpHを維持させるためには緩衝剤を用いればよい。該緩衝剤としては、リン酸、クエン酸、酢酸等及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を混合したものや、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等を挙げることができ、目的のpHに合わせてこれらの中から適宜選択すればよい。
【0041】
本発明の微生物電池において、正極は化学的に安定である点と経済性に優れている点から導電性の炭素が好ましい。炭素の形状に特に限定はないが、導電性に優れている点で好ましい形状として粒子状と繊維状を例示することができる。正極を正極物質に配設する方法として、正極物質のゲルを作製するときに、粒子状炭素を該ゲル中に分散させる方法を例示することができる。粒子状炭素の平均粒子径は、電池としての性能が良好な点で、1nmから1mmの範囲が好ましく、1nmから10μmの範囲がより好ましく、さらに1nmから100nmの範囲が好ましい。該ゲル中に配設する粒子状炭素の量は、電池としての性能が良好な点で、該ゲルの容量に対して0.5%(w/v)から5%(w/v)の範囲が好ましく、1%(w/v)から3%(w/v)の範囲がより好ましく、さらに1.5%(w/v)から2.5%(w/v)の範囲が好ましい。
【0042】
また、正極を正極物質に配設する方法として、正極物質のゲルを作製するときに、任意の長さの繊維状炭素を該ゲル中に浸漬する方法を例示することができる。該ゲル中に配設する繊維状炭素の量に特に制限はない。
【0043】
本発明の微生物電池において、正極を正極物質に配設する方法としては、以上に例示した配設方法を単独で用いてもよいし、複数の配設方法を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明の微生物電池において、負極物質と正極物質の接触方法については特に制限はないが、負極物質と正極物質の間での水素イオンの移動が可能な状態で接触させればよい。さらに具体的には、負極物質と正極物質を直接接触させる方法、あるいはイオン透過性非導電性膜を介して接触させる方法等を例示することができる。該イオン透過性非導電性膜としては、濾紙、半透膜、イオン交換膜又はガラス若しくはセラミックでできた多孔性の板等が例として挙げられる。
【0045】
本発明の微生物電池において、負極物質及び正極物質のゲルの製造、負極及び正極の配設、並びにイオン透過性非導電性膜の設置等は、滅菌条件下に行うことが好ましい。滅菌操作としては蒸気滅菌等を利用することができる。
【0046】
次に、本発明の微生物電池の設置環境について説明する。本発明の微生物電池では、負極物質及び正極物質は、嫌気雰囲気環境あるいは嫌気環境に置くことが好ましい。嫌気雰囲気環境あるいは嫌気環境を付与する方法としては、ガラスなどの酸素透過性の低い材質で構成された任意の容器に本微生物電池を設置し、その容器内の気相を、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の酸素を含まないガスにより置換する方法、あるいは脱酸素剤により酸素を除去する方法などを利用することができる。
【0047】
また、本発明の微生物電池は、用いた微生物が増殖できる範囲の温度環境に置けばよく、例えば、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株又はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株を用いる場合は、10℃から40℃の範囲、より好ましくは20〜30℃の範囲である。
【0048】
本発明の微生物電池から電力を得る方法に特に制限はなく、負極と正極を導線で接続することにより回路が形成され、電力を得ることができる。導線は電気伝導体で構成されたものであればよく、銅やアルミニウムなどの金属製の導線を例示することができる。繊維状炭素からなる負極及び正極と導線を接続する場合は、導線の腐食を妨げるため、炭素入りシリコンゴムや導電性のポリマーなどの腐食しない物質を介して接続することが好ましい。
【発明の効果】
【0049】
本発明により、液漏れの起きにくい微生物電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】負極物質のゲル(負極ゲル)、正極物質のゲル(正極ゲル)及びこれらのゲルで構成された電池ゲルの作製手順の概略を示した図である。
【図2】本発明の微生物電池の概略を示した図である。
【図3】エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株を含む複合微生物を用いた微生物電池に接続した抵抗にかかる電圧の変化を示した図である。
【図4】電池ゲルに接続した抵抗にかかる電圧の変化を示した図である。
【図5】16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統樹を示した図である。
【図6】エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株を用いた微生物電池に接続した抵抗にかかる電圧の変化を示した図である。
【図7】エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株を用いた微生物電池に接続した抵抗にかかる電圧の変化を示した図である。
【実施例】
【0051】
以下に実施例と比較例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
実施例−1
負極を配設した負極物質のゲル(負極ゲル)と正極を配設した正極物質のゲル(正極ゲル)の作製、及び負極ゲルと正極ゲルで構成された電池ゲルの作製を下記の方法により行った。図1には、負極ゲル、正極ゲル及び電池ゲルの作製手順の概略を示す。
(正極ゲルの作製)
正極として粒子状炭素(Acetylene carbon black、Strem Chemicals,Inc製)と繊維状炭素(Carbon yarn、Strem Chemicals,Inc製)を併用した。
【0052】
試験管に粒子状炭素(0.4g)、寒天(Bacto agar、Difco社製、0.4g)、MnO(0.1g)、5個のガラスビーズ(粒径約1mm)及び表1に示す組成の溶液(20mL)を入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。これを内容物1とした。尚、ガラスビーズは、内容物1をボルテックスを用いて円滑に混合するために用いた。
【0053】
【表1】

クリーンベンチ内で、深型のシャーレ内に滅菌済みの繊維状炭素(15cm)の約10cmを置き、残りの部分(約5cm)をシャーレ外に出した(図1の手順1)。内容物1をボルテックスにより懸濁し、シャーレ内に流し込んだ後に固め、粒子状炭素と繊維状炭素とを正極として配設した正極ゲルを作製した(図1の手順2)。
(負極ゲルの作製)
負極として粒子状炭素と繊維状炭素を併用した。試験管に粒子状炭素(0.3g)、寒天(0.3g)、5個のガラスビーズ及び表2に示す組成の溶液(15mL)を入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。これを内容物2とした。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

クリーンベンチ内で、前記の深型のシャーレより一回り小さい滅菌済みのひだ付のアルミカップ(アルミケース40号、日本製箔社製)内に滅菌済みの繊維状炭素(15cm)の約10cmを置き、残りの部分(約5cm)をアルミカップ外に出した(図1の手順3)。内容物2に炭素源として滅菌済みの1M−酢酸ナトリウム溶液(150μL)を添加し、ボルテックスにより懸濁後、アルミカップ内に流し込んだ後に固め、粒子状炭素と繊維状炭素とを負極として配設した負極ゲルを作製した(図1の手順4)。
(電池ゲルの作製)
作製した正極ゲルの上に滅菌済みの濾紙を置いて、湿潤させた(図1の手順5)。次に、負極ゲルのアルミカップのひだを伸ばし(図1の手順6)、アルミカップごと負極ゲルの上下を反転させた後、アルミカップから負極ゲルをはがし(図1の手順7)、正極ゲル上の濾紙の上に置き、濾紙を介して負極ゲルと正極ゲルを接触させた。(図1の手順8)。その後、負極ゲルの表面部分に、滅菌済みの2%(w/v)粒子状炭素の水懸濁液を滅菌済みの筆で塗抹し、粒子状炭素からなる負極を負極ゲル表面に配設した。これにより、負極ゲルと正極ゲルで構成された電池ゲルを作製した。
(容器の作製)
次に、導線と抵抗を備えた容器の作製を行った。該容器はアネロパウチ・ケンキ(三菱ガス化学社製)専用のWチャック付パウチ袋(三菱ガス化学社製)を基に作製した。
【0057】
導電性シリコンゴム(星和電機株式会社製)(1cm×2cm)を二つに折り曲げて挟んだワニ口クリップを片側に、もう片側にスズメッキ線を接続した導線(塩化ビニル絶縁電線)を4本用意した。2枚のゴム板(3cm×2cm×2mm)をアネロパウチ・ケンキ専用のWチャック付パウチ袋の片面に対してそれぞれ表裏から位置を揃えて挟み接着した。それぞれの導線のスズメッキ線部分を、該パウチ袋の内側からゴム板部分に貫通させた。該パウチ袋の外側に出た導線のスズメッキ線2本あたり1つの1000Ωのカーボン抵抗を接続した。
【0058】
作製した容器の概略を図2に示す。該容器に電池ゲルを入れる場合には、図2に示すように、電池ゲルの負極ゲルと正極ゲルのそれぞれに配設された繊維状炭素からなる負極及び正極を、該容器の各導線の導電性シリコンゴム部分に挟みこむことで接続し、該容器の外部にある1000Ωのカーボン抵抗を経由して回路を形成させた。
(微生物の接種)
微生物源として、神奈川県鎌倉市で採取した土壌であるサンプルAを用いた。適量のサンプルAを滅菌水で懸濁し、その懸濁液を電池ゲルの負極ゲルの表面に塗沫により接種した。これを、前記の容器内に外部の抵抗を経由して回路を形成するように設置し、その容器内部を脱酸素剤(アネロパウチ・ケンキ)により嫌気雰囲気環境にして、25℃で静置してサンプルA由来の複合微生物を培養した。
【0059】
該容器の抵抗(1000Ω)にかかる電圧をテスターで測定し、サンプルA由来の複合微生物を接種した電池ゲルによって生じる電力を評価した。その電圧測定結果を図3に示す。図3に示すように、経過0日を最大とした電圧発生が認められた。この電圧発生は閉回路直後を最大に、時間経過とともに小さくなった。この電圧発生は、電池ゲルの構成物の組み合わせに起因した化学電池による。これとは別に、図3に示すように経過6日から10日にかけて再び電圧上昇が認められた。また、経過14日後に観察を行った結果、サンプルA由来の複合微生物を接種した電池ゲルの負極ゲル上には、微生物のコロニー形成が認められた。
【0060】

比較例−1
実施例−1と同様の方法で電池ゲルを作製した。微生物接種を行っていない電池ゲルを、実施例−1と同様の容器内に外部の抵抗を経由して回路を形成するように設置し、その容器内部を脱酸素剤により嫌気雰囲気環境にして、25℃で静置した。
【0061】
該容器の抵抗(1000Ω)にかかる電圧をテスターで測定し、微生物接種を行っていない電池ゲルによって生じる電力を評価した。その電圧測定結果を図4に示す。図4に示すように、経過0日を最大とした電圧発生のみが認められた。この電圧発生は閉回路直後を最大に、時間経過とともに小さくなった。この電圧発生は、電池ゲルの構成物の組み合わせに起因した化学電池による。その後、数日経過しても電圧上昇は認められなかった。
【0062】
比較例−1と実施例−1の結果を比較すると、実施例−1で認められた経過6日から10日にかけての電圧上昇(図3)は、サンプルA由来の複合微生物に起因した電力発生によるものである。
【0063】

実施例−2
(エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株の選抜)
実施例−1と同様の方法で作製した電池ゲルの負極ゲルの表面に、実施例−1の電池ゲルの負極ゲル上に形成された微生物コロニーの中から選抜した単一のコロニーを白金耳で植え継いだ。この植え継ぎを行った電池ゲルを、実施例−1と同様の容器内に外部の抵抗を経由して回路を形成するように設置し、その容器内部を脱酸素剤により嫌気雰囲気環境にして、25℃で静置し、植え継いだ微生物を培養した。該容器の抵抗(1000Ω)にかかる電圧をテスターで測定し、微生物に起因した電力が発生することを確認した。約1カ月の培養の後、この植え継ぎを行った電池ゲルの負極ゲルの表面に形成された単一のコロニーを、表5に示す組成のR2A寒天培地へさらに植え継ぎ、25℃の好気条件下のR2A寒天培地で増殖可能な微生物を単離した。この単離した微生物をMY11e株と命名した。
【0064】
【表5】

(MY11e株の同定)
25℃の好気条件下のR2A寒天培地で培養した結果、MY11e株は白色の半透明、円形、反レンズ状の隆起、周囲は全縁、ムコイド表面及び粘性を示す特徴を有した直径1mmから5mmのコロニーを形成した。位相差顕微鏡によりMY11e株の形態を観察した結果、短桿菌(1.4−2.2μm×0.6−0.8μm)であり、胞子形成はなく、運動性が認められた。
【0065】
MY11e株は3%(w/w)過酸化水素を用いた試験では弱いカタラーゼ活性を示し、バクトラボオキシダーゼテスト(和光純薬工業社製)を用いた試験では弱いオキシダーゼ活性を示した。
【0066】
表2に示す組成に、グルコース(10mM)、スクロース(10mM)、グリセロール(10mM)、乳酸ナトリウム(10mM)又は酢酸ナトリウム(10mM)のいずれか一つの炭素源を含む培地を作製し、それぞれの培地を用いてMY11e株を25℃の好気条件下で培養した結果、いずれの培地でもMY11e株は良好な増殖を示した。一方、表2に示す組成のみからなる培地、すなわち炭素源を含まない培地では、MY11e株は25℃の好気条件下で増殖しなかった。これらの結果より、MY11e株の増殖には、グルコース、スクロース、グリセロール、乳酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムが炭素源として利用可能であった。
【0067】
MY11e株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定した。菌体からのDNA抽出と16S rRNA遺伝子のPCR、その塩基配列の決定、及びその解析はHatayamaら(Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,55巻,1539−1544ページ,2005年)の方法に従った。決定したMY11e株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(1407塩基)は配列番号1に示す。DNA配列データベース(URL:http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi、アクセス日:2010年12月10日)を用いて、配列番号1に示す塩基配列のホモロジー検索を行った結果、100%の相同性を示す塩基配列は認められなかったが、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)に属する菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と高い相同性が認められた。そこで、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)の基準株であるLMG20216株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(GenBankアクセッションナンバー:AM181733)とMY11e株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)を比較した結果、99.7%の高い相同性であった。
【0068】
次に、MY11e株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)とエンシファー(Ensifer)属の種の基準株などの16S rRNA遺伝子の塩基配列を基に、近隣結合法により系統樹を作成した。その系統樹を図5に示す。図5においては、微生物の株名の末尾のTは種の基準株であることを示し、微生物の株名の隣の括弧内の番号はGenBankアクセッションナンバーを示し、左下の線はスケールバーを示し、そして系統樹の分岐付近の数字は50%以上であった1000回繰り返しのブートストラップ値(%)を示す。図5に示す系統樹では、MY11e株はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)の基準株であるLMG20216株とともに、他のエンシファー(Ensifer)属の種とは独立のクラスターを形成した。
【0069】
MY11e株の諸性質がエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)の諸性質(Int.J.Syst.Bacteriol.,32巻,339−345ページ,1982年)と一致する点と、前記の16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく解析から、MY11e株はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)に属すると同定し、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株とした。
(MY11e株を用いた微生物電池の作製)
実施例−1と同様の方法で作製した電池ゲルの負極ゲルの表面に、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株を塗沫により接種した。このMY11e株を接種した電池ゲルを、実施例−1と同様の容器内に外部の抵抗を経由して回路を形成するように設置し、その容器内部を脱酸素剤により嫌気雰囲気環境にして、25℃で静置し、MY11e株を培養した。該容器の抵抗(1000Ω)にかかる電圧を電圧ロガー(VR−71、T&D corporation社製)で測定・記録し、MY11e株を接種した電池ゲルによって生じる電力を評価した。その電圧測定結果を図6に示す。図6に示すように、回路を閉じた直後を最大として、電池ゲルの構成物の組み合わせに起因した化学電池による電圧発生が認められた。この電圧発生は閉回路直後を最大に、時間経過とともに小さくなった。一方、経過140時間を最大に、MY11e株に起因した電力発生による電圧の上昇が認められた。
【0070】
このように、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株を用いて作製した微生物電池から、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株に起因した電力を得ることが可能であった。
【0071】

実施例−3
(エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株の選抜)
微生物源として、神奈川県海老名市で採取した土壌であるサンプルBを用いた。適量のサンプルBを滅菌水で懸濁し、その懸濁液を、実施例−1と同様の方法で作製した電池ゲルの負極ゲルの表面に塗沫により接種した。これを、実施例−1と同様の容器内に外部の抵抗を経由して回路を形成するように設置し、その容器内部を脱酸素剤により嫌気雰囲気環境にして、25℃で静置し、サンプルB由来の複合微生物を培養した。該容器の抵抗(1000Ω)にかかる電圧をテスターで測定し、サンプルB由来の複合微生物を接種した電池ゲルによって生じる電力を評価した。その結果、微生物に起因した電力が発生することが認められた。また、この電池ゲルの負極ゲル上に微生物のコロニー形成が認められた。
【0072】
実施例−1と同様の方法で作製した電池ゲルの負極ゲルの表面に、前記のコロニーの中から選抜した単一のコロニーを白金耳で植え継いだ。この植え継ぎを行った電池ゲルを、実施例−1と同様の容器内に外部の抵抗を経由して回路を形成するように設置し、その容器内部を脱酸素剤により嫌気雰囲気環境にして、25℃で静置し、植え継いだ微生物を培養した。該容器の抵抗(1000Ω)にかかる電圧をテスターで測定し、微生物に起因した電力が発生することを確認した。約1カ月の培養の後、この植え継ぎを行った電池ゲルの負極ゲルの表面に形成された単一のコロニーを、表5に示す組成のR2A寒天培地へさらに植え継ぎ、25℃の好気条件下のR2A寒天培地で増殖可能な微生物を単離した。この単離した微生物をSB2株と命名した。
(SB2株の同定)
25℃の好気条件下のR2A寒天培地で培養した結果、SB2株は白色の半透明、円形、反レンズ状の隆起、周囲は全縁、ムコイド表面及び粘性を示す特徴を有した直径1mmから5mmのコロニーを形成した。位相差顕微鏡によりSB2株の形態を観察した結果、短桿菌(1.4−2.2μm×0.6−0.8μm)であり、胞子形成はなく、運動性が認められた。
【0073】
SB2株は3%(w/w)過酸化水素を用いた試験では弱いカタラーゼ活性を示し、バクトラボオキシダーゼテストを用いた試験では弱いオキシダーゼ活性を示した。
【0074】
表2に示す組成に、グルコース(10mM)、スクロース(10mM)、グリセロール(10mM)、乳酸ナトリウム(10mM)又は酢酸ナトリウム(10mM)のいずれか一つの炭素源を含む培地を作製し、それぞれの培地を用いてSB2株を25℃の好気条件下で培養した結果、いずれの培地でもSB2株は良好な増殖を示した。一方、表2に示す組成のみからなる培地、すなわち炭素源を含まない培地では、SB2株は25℃の好気条件下で増殖しなかった。これらの結果より、SB2株の増殖には、グルコース、スクロース、グリセロール、乳酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムが炭素源として利用可能であった。
【0075】
SB2株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定した。菌体からのDNA抽出と16S rRNA遺伝子のPCR、その塩基配列の決定、及びその解析はHatayamaら(Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,55巻,1539−1544ページ,2005年)の方法に従った。決定したSB2株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(1407塩基)は配列番号2に示す。DNA配列データベース(URL:http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi、アクセス日:2010年12月10日)を用いて、配列番号2に示す塩基配列のホモロジー検索を行った結果、100%の相同性を示す塩基配列は認められなかったが、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)に属する菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と高い相同性が認められた。そこで、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)の基準株であるLMG20216株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(GenBankアクセッションナンバー:AM181733)とSB2株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号2)を比較した結果、99.5%の高い相同性であった。また、実施例−2のエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)とSB2株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号2)を比較した結果、99.4%の高い相同性であった。
【0076】
次に、SB2株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号2)とエンシファー(Ensifer)属の種の基準株などの16S rRNA遺伝子の塩基配列を基に、近隣結合法により系統樹を作成した。その系統樹を図5に示す。図5に示す系統樹では、SB2株はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)の基準株であるLMG20216株とエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株とともに、他のエンシファー(Ensifer)属の種とは独立のクラスターを形成した。
【0077】
SB2株の諸性質がエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)の諸性質(Int.J.Syst.Bacteriol.,32巻,339−345ページ,1982年)と一致する点と、前記の16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく解析から、SB2株はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)に属すると同定し、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株とした。
(SB2株を用いた微生物電池の作製)
実施例−1と同様の方法で作製した電池ゲルの負極ゲルの表面に、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株を塗沫により接種した。このSB2株を接種した電池ゲルを、実施例−1と同様の容器内に外部の抵抗を経由して回路を形成するように設置し、その容器内部を脱酸素剤により嫌気雰囲気環境にして、25℃で静置し、SB2株を培養した。該容器の抵抗(1000Ω)にかかる電圧を電圧ロガーで測定・記録し、SB2株を接種した電池ゲルによって生じる電力を評価した。その電圧測定結果を図7に示す。図7に示すように、回路を閉じた直後を最大として、電池ゲルの構成物の組み合わせに起因した化学電池による電圧発生が認められた。この電圧発生は閉回路直後を最大に、時間経過とともに小さくなった。一方、経過164時間を最大に、SB2株に起因した電力発生による電圧の上昇が認められた。
【0078】
このように、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株を用いて作製した微生物電池から、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株に起因した電力を得ることが可能であった。
【受託番号】
【0079】
NITE P−1019
NITE P−1020

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は2に記載された塩基配列に対して99.4%以上の相同性を示す塩基配列の16S rRNA遺伝子を有するエンシファー(Ensifer)属に属する微生物。
【請求項2】
エンシファー(Ensifer)属に属する微生物が、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株(受託番号:NITE P−1019)又はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株(受託番号:NITE P−1020)である請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
イオン透過性非導電性膜を介して場合によっては隔てられた負極物質と正極物質にそれぞれ負極と正極を配設してなる微生物電池において、負極物質が、配列番号1又は2に記載された塩基配列に対して99.4%以上の相同性を示す塩基配列の16S rRNA遺伝子を有するエンシファー(Ensifer)属に属する微生物と栄養源とを構成成分として含むゲルで構成されていることを特徴とする微生物電池。
【請求項4】
エンシファー(Ensifer)属に属する微生物が、エンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)MY11e株(受託番号:NITE P−1019)又はエンシファー アドハエレンス(Ensifer adhaerens)SB2株(受託番号:NITE P−1020)である請求項3に記載の微生物電池。
【請求項5】
負極物質を構成するゲルが、寒天、ゼラチン及びジェランガムからなる群より選択されるゲル化剤を用いて製造されたゲルである請求項3又は4に記載の微生物電池。
【請求項6】
栄養源が、炭素、窒素、水素、酸素、リン、硫黄、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛、銅、アルミニウム、ホウ素、モリブデン、ニッケル及びタングステンからなる群より選択される1つ以上の栄養素を含む栄養源である請求項3又は4に記載の微生物電池。
【請求項7】
負極が、粒子状及び/又は繊維状の導電性の炭素である請求項3又は4に記載の微生物電池。
【請求項8】
負極が、負極物質のゲル中に分散させた粒子状及び/又は繊維状の導電性の炭素である請求項3又は4に記載の微生物電池。
【請求項9】
正極物質が、電子受容体を構成成分として含むゲルで構成されている請求項3から8のいずれかに記載の微生物電池。
【請求項10】
電子受容体が、MnO、Rh、PtO又はPbOである請求項9に記載の微生物電池。
【請求項11】
電子受容体が、MnOである請求項9に記載の微生物電池。
【請求項12】
正極物質を構成するゲルが、寒天、ゼラチン及びジェランガムからなる群より選択されるゲル化剤を用いて製造されたゲルである請求項9に記載の微生物電池。
【請求項13】
正極が、粒子状及び/又は繊維状の導電性の炭素である請求項3から12のいずれかに記載の微生物電池。
【請求項14】
正極が、正極物質のゲル中に分散させた粒子状及び/又は繊維状の導電性の炭素である請求項9から12のいずれかに記載の微生物電池。
【請求項15】
イオン透過性非導電性膜が、濾紙、半透膜、イオン交換膜又はガラス若しくはセラミックでできた多孔性の板である請求項3から14のいずれかに記載の微生物電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−147697(P2012−147697A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7397(P2011−7397)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】