説明

微生物学的堆積物の監視法

プロセスの水媒体に浸漬された表面上への微生物学的堆積物を含む1つ以上の堆積物を監視するための方法が開示される。微生物学的堆積に関して所望の結果を達成するために、この方法は、(a)水媒体と接触するQCM(quartz crystal microbalance:水晶振動子微量天秤)であって、該QCMは水媒体と接触する頂部側表面、及び水媒体とは分離される第2の底部側表面を有するQCMを提供すること;(b)抗原又は抗体を使用することなく、微生物学的堆積物を含む1つ以上の堆積物の種類に選択的な組成物を提供すること;(c)前記組成物を前記QCM表面の頂部側面に塗布すること;(d)水媒体からの前記QCM表面の前記頂部側面への前記堆積物の堆積速度を測定すること;及び(e)随意に、1つ以上のプロセスのパラメータ又はプロセスに加えられる化学的成分若しくはそれらの組み合わせを変更するための修正活動をとることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物学的堆積物を含む1つ以上の堆積物、特に、しかし排他的にではなく、パルプ及び製紙の用途のための前記堆積物を監視するための方法にする。
【背景技術】
【0002】
水流における微生物学的物質の堆積は、しばしばその水流を含むプロセスの正常な機能にとって問題となる。さまざまな技術が製紙工程での有機及び無機堆積を測定するために展開されたが、これらの技術は、しばしば生物学的堆積物を、ピッチや粘着性物などの一般的な有機/無機堆積物から差別化するために必要な選択性を欠いている。この感受性の欠如の結果として、現在の手順は製紙プロセスなどの動的なプロセスの堆積環境を捕捉する感受性を持っていない。したがって、プロセスの水流における堆積制御の技術分野において、堆積物を監視するための改善された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、プロセスの水媒体に浸漬された表面上への微生物学的堆積物を含む1つ以上の堆積物を監視するための方法であって、微生物学的堆積に関して所望の結果を達成するために(a)水媒体と接触するQCM(quartz crystal microbalance:水晶振動子微量天秤)であって、該QCMは水媒体と接触する頂部側表面、及び水媒体とは分離される第2の底部側表面を有するQCMを提供すること;(b)抗原又は抗体を使用することなく、微生物学的堆積物を含む1つ以上の堆積物の種類に選択的な組成物を提供すること;(c)前記組成物を前記QCM表面の頂部側面に塗布すること;(d)水媒体からの前記QCM表面の前記頂部側面への前記堆積物の堆積速度を測定すること;及び(e)随意に、1つ以上のプロセスのパラメータ又はプロセスに加えられる化学的性質を変更するための修正活動をとること、若しくはそれらの組み合わせを含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0004】
定義
「製紙プロセス」は、水溶性セルロースの製紙用供給物を形成することを含み、この供給物を排水してシートを形成して、そのシートを乾燥することを含む任意の種類の紙製品(例えば紙、ティッシュー、板紙など)をパルプから製造する方法を意味する。この製紙用供給物を形成する工程において、排水及び乾燥は当業者に周知の任意の従来の様式で遂行し得る。該製紙プロセスは、パルプ化の段階及び/又は漂白段階を更に含むことができる。この製紙用供給物は再生パルプを含み得る。
【0005】
「QCM」は、水晶振動子微量天秤を意味する。水晶振動子微量天秤は分析用器具である。例として、水晶振動子微量天秤の議論は引用により本願に組み込まれる、米国特許第5201215号の本文に見出される。一般的に、水晶振動子微量天秤は堆積物の塊により低減される振動数に共鳴する水晶を有する。この周波数の低減はその堆積を特徴付ける測定値、例えば堆積の量などに変換される。
【0006】
上述したように、本発明はプロセスの水媒体に浸漬された表面上への微生物学的堆積物を含む1つ以上の堆積物を監視するための方法を提供する。
【0007】
本発明の方法論はさまざまな種類のプロセスに適用し得る。
【0008】
1実施形態では、このプロセス製紙プロセスである。
【0009】
他の実施形態では、プロセスの水媒はパルプのスラリー及び/又は製紙プロセスの任意の段階からの水を含む。
【0010】
本発明の方法論抗原又は抗体組成物を使用することなく、微生物学的堆積物を含む1つ以上の種類の堆積物に選択的な組成物を提供すること;及び前記組成物を前記QCM表面の頂部側面に塗布することを必要とする。
【0011】
前記QCMへの組成物の塗布は、当業者に理解されるであろうさまざまな機構により遂行し得る。例えば、前記組成物、例えばポリマーを主成分とする組成物を前記QCM表面にスピン・コーティング技法により、又は前記QCM表面への前記組成物の塗布を容易にする装置により塗布することができる。高所から組成物溶液を滴下するなどの単純化された方法により塗布でき、この方法は水晶表面に比較的均一な分布を提供する。
【0012】
前記QCM表面に塗布された前記組成物は1つ以上の種類の組成物を含む。例えば、栄養素、殺生物剤及びさまざまな種類のポリマーが前記QCM表面の頂部側面に塗布される。
【0013】
1実施形態では、前記組成物は1つ以上の栄養素及び/又は殺生物剤を含む。
【0014】
他の実施形態では、前記組成物は:生合成代謝物;炭水化物;多糖類;アミン;有機酸;アルコール;無機窒素、イオウ、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、銅及び/又はマンガン化合物;及びそれらの組み合わせより成る群から選ばれる栄養素を含む。
【0015】
他の実施形態では、前記組成物は、水媒体から前記QCM表面の頂部側面に堆積するか、若しくはそこで成長する、1つ以上の微生物の微生物学的成長を促進するため及び/又は抑制するための1つ以上の元素を含む。
【0016】
他の実施形態では、前記QCM表面に塗布される前記組成物は少なくとも1つの以下の組成物を含む:ハロゲンを主成分とする殺生物剤;次亜塩素酸塩;次亜臭素酸塩;クロラミン;ブロモアミン;クロロスルファミン酸塩;ブロモスルファミン酸塩;アルデヒド;パラベン;酸性陰イオン化合物;ジアミン;金属;四級アンモニウム化合物;クロロヘキサジン;染料;アルコール;フェノール;クレゾール;有機酸;及びエステル。
【0017】
他の実施形態では、前記QCM表面に塗布される前記組成物は1つ以上の微生物の成長速度を抑制する、以下の化学成分から選ばれる1つ以上の成分を含む:殺生物剤、界面活性剤、ポリマー、有機酸、及びそれらの組み合わせ。
【0018】
他の実施形態では、前記QCM表面に塗布される前記組成物は、1つ以上の微生物の成長を促進する、以下のものより成る群から選ばれる組成物を含む:糸状菌のための鉄塩;硫酸塩還元菌のための乳酸及び/又は硫酸塩;並びに製紙機械の付着物に一般的な菌種のためのデンプン及びセルロース。製紙機械付着物に一般的な菌種について当業者は精通しているであろう。
【0019】
更なる実施形態においては、前記微生物は粘液細菌である。
【0020】
更なる実施形態においては、前記糸状菌は以下より成る群から選ばれる:スファエロチラス(Sphaerotillus)属;クレノシリックス(Crenothrix)属;レプトスリックス(Leptothrix)属;ガリオネラ(Gallionella)属;ヘルペトシフォン(Herpetosiphon)属;及びハチスコメノバクター(Hatiscomenobacter)属。
【0021】
他の実施形態では、前記組成物は1つ以上のコーティング・ポリマーを含む。
【0022】
他の実施形態では、前記コーティング・ポリマーは1つ以上のエポキシ樹脂及び1つ以上の硬化剤を含む硬化エポキシ樹脂である。硬化は、コートされた表面を、一定時間の間、環境条件下に保つことによるか、又は光化学的若しくは熱的に促進することにより達成できる。
【0023】
他の実施形態では、前記エポキシ樹脂はエピクロルヒドリン及びビスフェノールA;及び芳香族、脂肪族、環状脂肪族、ヘテロ環状骨格を含む樹脂、及びそれらの組み合わせから誘導される。
【0024】
他の実施形態では、前記硬化エポキシ樹脂はいかのものより成る群から選ばれる:クレゾール−ノボラック(Novolac)エポキシ樹脂;フェノール−ノボラック(Novolac)エポキシ樹脂;ビスフェノールFエポキシ樹脂;ポリミクリアー(polymiclear)フェノール−グリシジルエーテル由来樹脂;テトレグリシジルメチレンジアニリン−由来樹脂;トリグリシジル−p−アミノフェノール由来樹脂;トリアジン由来樹脂;及びヒダントインエポキシ樹脂。
【0025】
他の実施形態では、前記硬化エポキシ樹脂は以下のものより成る群から選ばれる硬化剤により調製される:短鎖脂肪族ポリアミン;オキシアルキル化短鎖ポリアミン;長鎖ポリアミン付加物;芳香族ポリアミン;ポリアミノアミド;ポリチオール;及びそれらの組み合わせ。
【0026】
他の実施形態では、前記コーティングは熱又はUV硬化性の1つ以上のエポキシに由来する。
【0027】
他の実施形態では、前記コーティングポリマーはシリコーンゴムを含む。
【0028】
他の実施形態では、前記シリコーンゴムは室温加硫処理されるゴムである。
【0029】
他の実施形態では、前記コーティングポリマーはパルプの化学成分により構成される。
【0030】
他の実施形態では、前記パルプの化学成分は以下のものより成る群から選ばれる:デンプン、リグニン、セルロース、ヘミセルロース、化学修飾デンプン、及びそれらの組み合わせ。
【0031】
本発明の方法論は、微生物学的堆積に関して所望の結果を達成するために、1つ以上のプロセスパラメータ又はプロセスに加えられる化学成分若しくはそれらの組み合わせを変更するために随意に修正的な活動をとることを提供することができる。
【0032】
さまざまな装置及びアルゴリズムが堆積の監視を促進するために用いられることができる。
【0033】
1実施形態では、前記監視は特定の汚染物質の堆積を増強又は阻止することのできる1つ以上のコーティングを有するセンサーのアレー又は複数のセンサーの使用により実現され、前記監視は随意にオンラインの監視プロトコールである。
【0034】
他の実施形態では、センサーのアレーは、有機物監視用の1つのコーティング(有機種の種類には非選択的な);微生物学的増大のための栄養素を含む1つのコーティング;及び微生物学的成長を抑制する殺生物剤を含むコーティングを含む1つのコーティングを含む。
【0035】
さまざまな種類のセンサーを用いること及びさまざまな種類のコーティングを塗布することにより、当業者は、さまざまな種類の堆積物を区別するための1つ以上のプロトコールを作成できる;例えば、製紙プロセスのさまざまな種類の微生物学的堆積物の抑制又は発現のための十分な媒体を供給することにより、さまざまな種類の微生物学的堆積物を測定し得る。加えて、例えば異なる種類の微生物からの無機堆積物などの、生物学的堆積物からの非生物学的堆積物を区別するための1つ以上のプロトコールを作成し得る。
【0036】
QCMセンサーを含む複数のセンサーを用いることにより、当業者が達成したいと考えるであろう区別を容易にすることができる。
【0037】
更に、区別は、ミクロ/マクロ/ナノなど、例えばマクロ粘着物質対ミクロ粘着物質などのさまざまなスケールの水準の生物学的、有機的、及び無機的種の特徴を見ることを含む。
【0038】
1実施形態では、前記センサーのアレーは有機物の監視のための1つの組成物;微生物学的増大のための栄養素を含む1つの組成物;及び微生物学的成長の抑制のための殺生物剤を含む1つの組成物を含む。
【0039】
他の実施形態では、前記閉ループの微生物学的制御は微生物学的制御のために開発されたアルゴリズムに従う少なくとも1つのセンサーからの情報に基づき;随意に、前記制御は微生物学的成長を阻害する化学物質の供給を制限することを含む。当業者は、興味のあるプロセスのために所望のプロトコールが遂行され得るように、興味のあるアルゴリズムを開発することができるであろう。制御装置は前記プロトコールによってプログラムされることができる(例えば、プログラムロジックコントローラであって、該コントローラは該アルゴリズムを処理して、行われるべき一連の手続きを媒体によって表示させるか、又は該プロセスのプロセッサのためのデータが分析され応答されるように処理するかの、いずれか1つを行うことができるか、若しくは該コントローラはプロセスで行われるべき行動、例えば供給戦略、を変更するための手段を含む信号を媒体を経由して送ることができる)。
【実施例】
【0040】
以下の実施例は予言的な実施例である。
【0041】
新規な検出方法を用いる実験例において、ピッチや粘着性物などの天然及び合成有機汚染物質を含む流動スラリーは、さまざまな微生物の菌種とともに、QCMセンサーのアレー上を通過する。ピッチ、粘着性物、バイオフィルム・バルク及び微生物からの堆積物は、前記QCMセンサー表面上の特異的な、カスタム化されたコーティングを用いて監視される。センサーのアレーと特異的な汚染物質を増強又は阻害するためのコーティングをともに用いて、前記堆積物は区別され、前記システムのリアルタイムの監視が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスの水媒体に浸漬された表面上への微生物学的堆積物を含む1つ以上の堆積物を監視するための方法であって:
(a)水媒体と接触するQCM(quartz crystal microbalance:水晶振動子微量天秤)であって、該QCMは水媒体と接触する頂部側表面、及び水媒体とは分離される第2の底部側表面を有するQCMを提供すること;
(b)抗原又は抗体を使用することなく、微生物学的堆積物を含む1つ以上の堆積物の種類に選択的な組成物を提供すること;
(c)前記組成物を前記QCM表面の頂部側面に塗布すること;
(d)水媒体からの前記QCM表面の前記頂部側面への前記堆積物の堆積速度を測定すること;及び
(e)微生物学的堆積に関して所望の結果を達成するために、随意に、1つ以上のプロセスのパラメータ又はプロセスに加えられる化学的成分若しくはそれらの組み合わせを変更するための修正活動をとることを含む方法。

【公表番号】特表2011−525242(P2011−525242A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514795(P2011−514795)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/047730
【国際公開番号】WO2009/155390
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(507248837)ナルコ カンパニー (91)
【Fターム(参考)】