説明

微生物検出用のスマート包装

本発明は、バニリン溶液が含浸された部分的に極性の吸着性固体基材を含む新規材料を使用して設計され、微生物又はそれを含有する媒質との直接接触を必要とせずに、様々なタイプの製品中での微生物増殖を視覚的に検出することを可能にする新規のスマート包装に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、化学−医薬、及び化粧品の分野に関する。具体的には、本発明は、バニリン溶液を含浸させた部分的に極性の吸着性固体保持体で構成される新材料、及び食品、化粧品、又は医薬品中の微生物の存在を検出するための比色センサーとしてのその使用に関する
【背景技術】
【0002】
毎年、世界では、微生物の存在に起因する毒性食品感染による入院症例が数え切れないほど起きている。
【0003】
そのため、21世紀の消費者は、高い感覚的品質及び高い栄養的価値を有する、即ち従来製品の損傷に対する処理が最小限である食品を要求する。あまり徹底的ではない処理条件を適用することが、微生物学的リスクの増加に結び付くことは明らかであり、したがって、生産者が自発的に想定するそれらの利用期限又は微生物学的危険性を正確に決定するためには、あらゆる製品中の残留微生物の生存及び発育の実際の可能性を知らなければならないため、微生物挙動の変動性が重要になる。
【0004】
食品中の病原体の発生及び蔓延に関する研究は、実際、食品安全の点で欧州連合の優先事項の1つである。その目的は、幾つかのタイプの食品について、食品に実際に伴うリスクを評価すること、並びに微生物学的基準及び食品安全保障目標を採択することである。
【0005】
現在、包装された製品中の幅広い微生物の存在を視覚的に検出することができる天然化合物を有する材料は上市されていない。したがって、消費者も小売業者も流通業者も、包装された製品が、微生物により汚染されているかどうかを決定することができない。病原性微生物の場合、この状況は深刻な健康リスクをもたらす。それらを管理するためには、顕微鏡検査及び微生物学的分析又は選択培養培地への播種に頼る必要があり、したがって人的資源及び物質の大量消費を伴う。更に、これらの方法は、破壊性であり、したがって分析された製品は商業的流通においてもはや使用可能ではないことが示唆され、これらの方法は、播種を実施した時から微生物が計数されるまで、前濃縮に必要な時間を除いても2〜7日かかるため、非常に時間のかかるものである。そのような検査には、かなりの検査費用も必要である。いずれの場合でも、これら検査は、代表的な数の試料について無作為に実施されるが、全での食品品目の全ての単位について検査を実施することは不可能なことであり、そのため、製品には、生産者又は最終消費者により検出されない微生物汚染の潜在的リスクが常に存在する。医薬品では、多くの場合回復不能な損傷が引き起こされた場合に、この種の問題の存在が検出されるに過ぎないため、リスクは遥かに高い。
【0006】
近年、食品包装システムは、消費者の要求に応じて、それらの特性、鮮度、外観の有効期間、保存等の点で進化している。その一方で、現代の販売方法では、消費者がその製品を購入するように消費者に何かを訴えかける魅力的な包装が要求される。第2に、包装は、この数年にわたってライフスタイルの根本的な変化に応じて進化しており、包装産業は、これら変化に対応しなければならなかった。
【0007】
包装は、中でも以下の機能を果たさなければならない:
・食品を保持する、
・物理的、化学的、及び微生物学的作用から食品を保護する、
・食品の品質及び健全性を保存する、
・不正行為を防止する、
・商業的取扱いのために製品を調整する、
・製品を表示及び識別する、
・食品の特徴を消費者に知らせる、
・利用期限を延長する等。
【0008】
最近、消費者が新しい条件を要求しているため、活性包装(active packaging)及びインテリジェント包装(intelligent packaging)という2つの新しい包装概念が登場した。活性包装及びインテリジェント包装は、次世代の食品包装とみなすことができる。
【0009】
食品と接触する活性材料及び物品は、欧州指令1935/2004によると、包装された食品の有効期間を延長するためのもの、又は包装された食品の状態を維持又は向上させるためのものと定義されており、包装された食品若しくはそれらの環境に物質を送達する部品を計画的に組み込むように設計されているか又は包装された食品若しくはそれらの環境から物質を吸収する。近年、活性包装の分野に重要な進展があり、多数の文献がこの目的に言及している(Rodriguez,A.、Battle,R.、Nerin,C(2007年)「The use of natural oils as antimicrobial solutions essential in paper packaging.PartII」、Progress in Organic Coatings 60巻(1号):33〜38頁)、Rodriguez,A.、Nerin,C、及びBattle,R(2008年).「New cinnamon−based active paper packaging against Rhizopusstolonifer food spoilage」、Journal of Agricultural and Food Chemistry 56巻(15号)、Lopez,P.、Sanchez C、Batlle,R、及びNerin,C.(2007年b).「Development of flexible antimicrobial films using essential oils as active agents」、Journal of Agricultural and Food Chemistry 55巻(21号):8814〜8824頁)Gutierrez,L、Sanchez C、Batlle,R.;Nerin,C.(2009年).「New antimicrobial active package for bakery products」、Trends in Food Science & Technology 20巻(2号):92〜99頁。
@ インテリジェント包装の場合、目的が異なっており、そのため、それらを別のものとして分類することが正当化され、特別に命名される。それらの作用は、現代世界の消費者の要求における夢を可能にし、包装それ自体が、包装が含有する製品の品質又はその処理を特徴付ける事象を伝え、腐敗又は分解の可能性、並びに不適切な維持、輸送、又は流通を知らせるものとして作用する。指令1935/2004によると、インテリジェント包装は、包装された食品又はそれらの周辺環境の状態を管理する材料として定義されている。
【0010】
「スマート包装(smart package)」は、食品又は幾つかの包装材料の特性又は成分のいずれかを、製品品質及び履歴のインジケーターとして使用するものと分類されることになるため、これまでのところ、それらは本質的に、時間−温度インジケーター、微生物学的品質インジケーター、酸素又は二酸化炭素インジケーターである。
【0011】
したがって、インテリジェント包装は、輸送及び保管中に、包装された食品の品質に関する情報を提供することにより、包装された食品の状態をモニターするものと定義され、前記食品条件は、以下のものを意味する:
・生理学的なプロセス(果物及び生鮮野菜の呼吸)、
・化学的プロセス(脂質酸化)、
・物理的プロセス(パンの硬化、乾燥)、
・微生物学的側面(微生物による損傷)、及び
・感染(昆虫による)。
【0012】
食品産業は、これら包装に大きな関心をよせており、その証拠に、現在このタイプの包装の開発及び研究に多大の努力がなされている。
【0013】
このグループ内には、包装された製品の品質、安全性、又は処理のインジケーターとして使用されるラベル、色素、又はエナメルを保持する包装がある。それらは、一般的にデバイスの発色の変化に結び付く物理化学的な酵素反応等に基づいており、それにより食品中に生じた損傷又は変化を示す。
【0014】
したがって、つまり食品腐敗の原因を阻止又は阻害することにより、食品と包装との相互作用を何か肯定的なものとして使用する可能性の開拓を開始することができる。
【0015】
既存のスマートインジケーター(smart indicator)の多くは、時間−温度インジケーター、包装完全性、微生物増殖、及び包装の信憑性等の食料品包装産業に非常に有用である。これらのうちの幾つかは専有システムであるが、ごく少数は市販されており、最も注目すべきは時間−温度インジケーターである。
【0016】
その取得又は摂取の際に、食品中の微生物の存在を迅速に及び効率的に検出することができるスマート包装の開発に関する参考文献は、それほど存在しない。微生物学的視点から見て、腐敗した食品の摂取が、健康疾患(食中毒)の最大の原因の1つであることを考慮すると、初期に、つまり感染している包装された製品を摂取する前に検出することが重要である。したがって、販売者は、時間通りにそれらを撤去することができ、消費者は、健康に対するリスクを負うことなく、それらの摂取を回避することができる。
【0017】
このタイプのスマート包装に関して開示されている開発では、微生物とセンサーとの直接的接触が必要とされ、そのセンサーは、発色検出体が使用される欧州特許1326653号、国際公開第03093784号、国際公開第2008026119号(Kimberly−Clark Wordlwide,INC社)、又は金属錯体が反応支援物質として使用される国際公開第0013009号(Johnson Matthey Public Limited Company社)等のスマート包装としての役目を果たす。文献Desbordes,J:CONIVE,L Prevot.A.Annales Francaises Pharmaceutiques 1972年、30巻(7〜8号)、507〜518頁では、硫酸及びリン酸中でのバニリン発色反応を使用して細菌研究での脂質の存在を特定し、最終的には薄層クロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィーにより脂肪酸を特定する。この開発においても、細菌と試薬との直接的接触が、反応の生成に必要である。更に、このタイプのセンサーの製造システムは非常に複雑であり、そのため産業規模でのその製造は困難となる。更に、作用機序が複雑であり、まず発色化合物の生成が必要であり、その発色化合物が、微生物との接触時に消失することになる。加えて、色原体として使用される化合物は、ある場合には、反応が起きるために酸性化等の特殊な条件又は複雑な化学化合物を必要とする化学化合物であり、それらの幾つかは、今日、食品と接触させて使用することができないか、又はそれらの濃度に大きな制限がある。いずれ場合でも、天然化合物が主な発色性化合物として使用され、非常に少数の化合物が食品添加物として許容されており、これは、技術的及び健康上の利益のために必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許1326653号
【特許文献2】国際公開第03093784号
【特許文献3】国際公開第2008026119号
【特許文献4】国際公開第0013009号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Rodriguez,A.、Battle,R.、Nerin,C(2007年)「The use of natural oils as antimicrobial solutions essential in paper packaging.PartII」、Progress in Organic Coatings 60巻(1号):33〜38頁)
【非特許文献2】Rodriguez,A.、Nerin,C、及びBattle,R(2008年).「New cinnamon−based active paper packaging against Rhizopusstolonifer food spoilage」、Journal of Agricultural and Food Chemistry 56巻(15号)
【非特許文献3】欧州指令1935/2004
【非特許文献4】Lopez,P.、Sanchez C、Batlle,R、及びNerin,C.(2007年b).「Development of flexible antimicrobial films using essential oils as active agents」、Journal of Agricultural and Food Chemistry 55巻(21号):8814〜8824頁
【非特許文献5】Gutierrez,L、Sanchez C、Batlle,R.;Nerin,C.(2009年).「New antimicrobial active package for bakery products」、Trends in Food Science & Technology 20巻(2号):92〜99頁
【非特許文献6】Desbordes,J:CONIVE,L Prevot.A. Annales Francaises Pharmaceutiques 1972年、30巻(7〜8号)、507〜518頁
【非特許文献7】Ferlin,H.J.及びKarabiner(J.V.Euclides 1954年、14巻、345〜353頁)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
これまで記述してきた包装の欠点を考慮して、本発明の著者らは、鋭意研究した結果、様々な性質の包装された製品において、微生物検出用の比色センサーとして使用することができる、バニリン溶液に含浸された部分的に極性の吸着性固体保持体を含む新材料を開発した。
【0021】
有利なことには、食品添加物として認可されているバニリン(3−メトキシ−4−ヒドロキシベンズアルデヒド)は、簡単に及び容易に識別可能な発色反応により、微生物の増殖を検出することができる。また、バニリンは、食品又は包装された製品との直接的接触を必要とせずにセンサーに作用するが、反応を起こすためには、低濃度の気相水分の存在が必要である。
【0022】
バニリンは、多くの植物、特にバニラ鞘に見出される天然化合物である。バニリンは、チョウジ油の主成分であるオイゲノールから工業的に取得される。また、バニリンは、植物の木質組織に見出される複合ポリマーであるリグニンの酸化により得られる。
【0023】
バニリンは、食品、特にペストリーの香料として広く使用されている。また、バニリンは、胃の刺激薬として医薬品産業で及び香水産業で使用されている。
【0024】
技術水準には、他の試薬の前駆物質としてバニリンを使用することを引用する文献も幾つかあるが、それには、長い合成プロセス、及びエタノールなどの溶媒と、濃塩酸、ピペリジン、又はヨウ化メチルなどの試薬との混合が必要である。例えば、文献、国際公開第2008026119号では、バニリンは、発明の主成分ではないが、発色変化を起こすための反応には別の化合物の存在が必要である。
【0025】
微生物存在の検出体としてバニリンを使用する他の方法では、培地をHCIで強力に酸性化する必要があり、これは、それが必要とする欠点であり、また、それら方法は、インドールを生成することが可能な微生物の存在を検出することのみが可能である。したがって、文献、Ferlin,H.J.及びKarabiner(J.V.Euclides 1954年、14巻、345〜353頁)では、トリプトファンからのインドール産生の相異に基づいて、混合物から大腸菌(E.coli)及びP.ブルガリス(P.vulgaris)を単離するための、供給源としてトリプトファンを含有する培地が開示されている。それを用いて、Ferlinらは、インドール検査を実施するための試薬も開発した。それら条件下で、Ferlinらは、濃塩酸中0.25%バニリン溶液の添加を使用して、液相での直接接触により、インドールによる紫色を生成した。すなわち、インドールを産生する微生物は、インドールを産生して発色反応を生じさせ、前記溶液中に存在することが見出されるというものだった。
【0026】
これら欠点を踏まえて、本発明の主な利点の1つは、まさしく、バニリンなどの無害な天然化合物、食品添加物の使用であり、微生物と包装材料との直接的接触を必要とせずに微生物の存在を検出する能力である。
【0027】
その応用は、食品、化粧品、及び医薬製品、又は他の包装された製品中の病原性微生物の存在などの、社会に対して大きなリスクを提起する問題を解決することが目的である。
【0028】
本発明の材料は、食品又は微生物に汚染され易い任意の他の製品の包装材料に組み込まれ、その結果、容易に認識し得る発色変化(無色から紫色への)により、消費者は、健康に有害な微生物で感染及び汚染された製品を拒否し、製品の食物摂取又使用を回避することができる。
【0029】
その一方で、本発明の材料は、汚染されたバッチを適時取り除き、それによりそれらが最終消費者に届くこと並びに返品により被る可能性のある問題及び費用を防止することにより、包装された商品の品質管理に大きく寄与するシステムである。この新しいデバイスの開発及び実装に関与する分野は、一方では、包装に組み込まれた材料を製造及び上市することに関与するであろう包装産業であると考えられ、他方では、食品、化粧品、又は医薬品産業であると考えられる。この分野では、最終使用者が容易に視認することができ、包装された製品と干渉しないか又は産業的包装を妨げない配置を達成するために、産業的包装プロセスを考慮して、包装内部の材料の配置を最適化することが取り組まれなければならない。
【0030】
発明として示されたものなどのセンサーを使用することの主な利点は、消費者が摂取しようとする食品又は消費者が使用しようとする製品が、その取得及び摂取時に微生物を含んでいないことを消費者に知らしめ、したがって消費者が、その消費を差控え、製品を拒否することができるという可能性である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ポリプロピレン薄膜へのセンサー材料の適用。大腸菌培養。
【図2】微生物の非存在下における(ブランク)、培地を有する紙フィルター(左側の列)及び培地を有しない紙フィルター(右側カラム)へのセンサー材料の適用。
【図3】粘着性紙ラベルへのセンサー材料の適用。大腸菌培養。
【図4】微生物(大腸菌)の存在下又は微生物の非存在下(ブランク)における、紙フィルターへのセンサー材料の適用。培地は、Muller−Hintonである。
【図5】様々な微生物が様々な培地(Muller−Hinton、TSA;M.E.A.)中で発色を達成するのに必要な日数のグラフ。
【図6】微生物を含まない培養、Muller−Hinton培地を含む、様々なpHの紙フィルターへのセンサー材料の適用。
【図7】a)微生物の非存在(ブランク)、b)カンジダ・アルビカンス(Candida albicans);c)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、及びd)サルモネラ・コレレスイス(Salmonella cholerasuis)による、経時的なバニリン濃度の推移を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の目的
第1に、本発明の目的は、バニリンを含む溶液に含浸された部分的に極性の吸着性固体保持体を含む材料である。
【0033】
本発明の別の目的は、微生物の増殖を視覚的に検出するための比色センサーとしての前記材料の使用であり、前記センサーは、発色変化を生成するために、微生物又はそれらを含有する媒質との直接的接触を必要としない。
【0034】
最後に、微生物の増殖を視覚的に検出するための比色試薬としてのバニリンの使用も本発明の目的である。
【0035】
発明の説明 本発明は、生物又はそれを含有する媒質と直接接触することなく、様々な性質の製品中の微生物増殖の視覚的に検出することを可能にする新材料で設計された新しいインテリジェント包装を企図する。
【0036】
したがって、本発明の主な態様では、バニリンを含む溶液で含浸された部分的に極性の吸着性固体保持体を含む前記物質が企図される。
【0037】
材料の組成にバニリンが存在することにより、簡単に及び容易に識別可能な発色反応による微生物増殖の検出が可能になる。試験条件下での発色変化(無色から紫色への)は、ペトリ皿で実施される純粋培養、例えば自家性の保存料を含まないマヨネーズなどの食品、薬物、又は化粧品中のいずれにおいても、微生物の存在と明白に関連する。
【0038】
バニリンは、微生物の存在下で反応する天然化合物である。バニリンの非存在下では、発色反応は生じない。この反応は不可逆的であり、発色は、微生物が増殖し続けるにつれて強度が増加する。
【0039】
特定の実施形態では、バニリン溶液は、エタノールを含む。発色反応が視認されるために必要とされるバニリンの最低濃度は10%であり、好ましくは約10〜約50%エタノールである。
【0040】
この反応が、視認可能であり、継続的であり、不可逆的であり、したがって、比色定量の検出体としての役目を果たすためには、水性媒質又は少なくとも水分が必要である。したがって、固体保持体は、好ましくは紙又は厚紙を使用した、食品自体により気相中に放出された水分を保持することが可能な部分的に極性の吸着性材料で出来ていなければならない。
【0041】
バニリンが疎水性媒質に組み込まれた場合、水分が疎水性保持体に凝縮することになり、バニリンは同様に発色するだろうが、露の液滴が重力により沈下することになるため残存しないと考えられるため、反応は持続的ではないだろう。したがって、反応は不可逆的ではなく、安定した保持体ではないだろう。
【0042】
上記で言及したように、本発明材料の開示された特徴は、それを微生物増殖の視覚的な検出に好適にすることであり、したがって、本発明の別の重要な態様では、この新材料の使用は、微生物の存在を視覚的に検出するための比色センサーとして企図される。
【0043】
センサー反応は気相中で生じ、したがって、バニリンは、微生物又はそれを含有する媒質と直接的に接触する必要はない。したがって、センサー及び微生物は、互いに離れていてもよく、気相によりそれらが接触しているだけでよい。
【0044】
センサーが生物との直接的接触を必要としないという事実は、非常に有利であり、この方法では、それらの代謝中に微生物により放出された化合物が気相に達し、化合物は気相によりセンサーに達し、そこで発色反応が生じるため、技術水準で開示されているセンサーとは大きく異なる。そのため、センサーを蓋に設置すること、又はセンサーを包装に接着すること、又はセンサーが包装の一部であるが離れたところにあることが可能になる。これらの条件下で、つまり気相中で作用することにより、微生物が存在する製品のあらゆる部分における微生物の存在に反応することができ、直接的接触が必要な場合のように、その一部又は部分に限定されないということも利点である。
【0045】
更に、微生物由来の化合物の気相での移動又は拡散により発色変化が生じるという事実により、高感度を達成することができ、これは、センサーが、媒質における微生物の最初のコロニー出現に反応することを意味する。
【0046】
微生物含有食品の1ml又は1mg当たり10コロニー形成単位(CFU/ml、CFU/mg)以上の濃度の微生物の存在下では、センサーは、無色(又は、紙又は固体保持体のため白色)からピンク−紫色へと不可逆的に発色を変化させる。発色の強度は、微生物の濃度に依存する。
【0047】
センサーは、カビ、酵母、及び/又は細菌等の広範な微生物増殖の視覚的な検出を可能にする。
【0048】
それらの代謝中にインドールを産生する全ての微生物は、バニリンと反応する。加えて、サルモネラ及びシュードモナス(Pseudomonas)種等の、それらの代謝中にインドールを産生しない他の生物も、バニリンとの同定反応に陽性であり、そこでは反応は、特異的な「インドール−バニリン」ではないだろうが、より一般的に「窒素化合物−バニリン」反応と定義されるだろう。
【0049】
本発明のスマートセンサー又はシステムによる微生物の検出は、包装された製品中で実施することができる。包装された製品は、性質が異なってもよく、好ましくは食品、医薬品、又は化粧品である。
【0050】
したがって、特定の実施形態では、センサーとしての材料により形成されたインテリジェントシステムは、包装材料自体として使用されてもよく、又は包装内部で発生した雰囲気と接触するように、プラスチック又は他の材料であってもよい包装の内側表面に、好ましくは粘着様式で配置された紙ベースのラベル形態で適用してもよい。微生物の存在下で生じることになる発色変化の視認を可能にするために、包装は、その区域では透明で無色の材料で出来ているべきである。
【0051】
最後に、本発明の別の主な態様は、気相で、つまりバニリンと微生物とが直接的に接触せずに、微生物の増殖を視覚的に検出するためにの比色試薬としてのバニリンの使用を企図する。
【0052】
実施例
様々な保持体及び実験条件に基づいて、センサーの活性を研究した。これにより、肉眼的レベルでのセンサー作用の明確な視覚化が可能になった。
【0053】
図1には、バニリン溶液で含浸されたポリプロピレン(PP)薄膜の大腸菌培養への適用が示されている。使用した配合物は、このセンサーのために設計された適切な配合物だったが、発色変化は観察されなかった。反応(発色変化)が存在しなかった理由は、材料が水分又は化合物を吸収しなかったか、又は同じことであるが、反応がポリプロピレン(PP)に吸収された無極性媒質においてであったために、バニリンを含有する配合物との反応が、保持体で継続されなかったためである。実際、PPにわたって環状の発色が存在したが、最終的に凝縮し、PP薄膜から脱落し、この無極性又は吸着性保持体は、センサー用の保持体として使用するには不適切であるとみなされた。
【0054】
図2は、培地の存在下(左側の列)及び培地の非存在下(右側の列)での、バニリン溶液に浸漬された幾つかの紙保持体フィルターを使用して、ブランク試験(微生物は存在しない)を実施したことを示す。微生物が存在しない場合、媒質の存在は、反応の生成に十分ではないことが示された。
【0055】
図3は、本発明のセンサー材料を、大腸菌培養における微生物存在を検出するための粘着性ラベルに適用し、それによりセンサーの発色変化が観察されたことを示す。
【0056】
図4は、大腸菌の様々な培養、及びつまり微生物が存在しないブランク培養中の幾つかの紙フィルターに、センサー材料を適用したことを示す。培地は、Muller−Hintonであった。全ての大腸菌培養で発色が生じ、発色が現れなかったのはブランク培養のみだったことが観察された。
【0057】
センサーが正しく機能するのに必要な最低濃度を決定するために、広範な微生物に対する本発明の材料の挙動を評価して、この研究を拡張した。
【0058】
試験を実施して、以下の微生物中でのセンサーの効率を研究した:
カビ
・アスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)(スペイン培養細胞系統保存機関、CECT、2687)
・ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)(真菌系統保存機関、IBT、21319)
・ユウロチウム・レペンス(IBT 1800)
・ペニシリウム・イスランディクム(Penicillium islandicum)(CECT 2762)
・ペニシリウム・アミュネ(Penicillium ammune)(IBT 21314)
・ペニシリウム・イクパンザム(Penicillium expansum)
・ペニシリウム・ナルギオベンシス(Penicillium nalgiovensis)
酵母
・カンジダ・アルビカンス(米国培養細胞系統保存機関、ATCC、64550)
・デバリオマイセス・ハンセニイ(Debaryomyces hansenii)(CECT 10353)
・ザイゴサッカロマイセス・ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii)(CECT 11928)
・ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)
細菌
・エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)(ATCC 29212)
・リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)(ATCC 7644)
・バチルス・セレウス(Bacillus cereus)(CECT 495)
・スタフィロコッカス・アウレウス(ATCC 29213)
・サルモネラ・コレレスイス(CECT 4000)
・エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)(CECT 4315)
・大腸菌(ATCC 29252)
・シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(ATCC 27853)
【0059】
カビ及び酵母と同じように、細菌中でも陽性反応が観察された。陽性反応を示した試験微生物のうち、微生物濃度値を明確に表示することができるものを、播種された微生物の濃度及びセンサーの発色変化に必要とした時間に従って、以下の表(表1)に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
この研究は、センサーを含有する吸着性保持体の発色を変化させる際の様々な培地の影響を研究することにより実施した。資源を大量に消費するため、本発明者らは、各群の代表として2つの微生物、及び全ての微生物の増殖を可能にする3つの汎用培地を選択したが、タンパク質源の含有量は異なっており、同様に特徴は異なっていた。選択した培地は、Muller−Hinton(M.H)、麦芽エキス寒天(M.E.A.)、及びT.S.A.(トリプトン大豆寒天)だった。研究期間は、1年まで継続した。以下の表(2及び3)には、選択した微生物及び培地が要約されている。培地組成が異なることは、栄養素の濃度が異なることを表しており、したがって微生物への栄養素が互いに異なっていることが予測される食品状況を擬態する。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
図5のグラフは、研究した様々な培地中の様々な生物について、フィルターが最終的に実質的な黒色(紫又は非常に強い紫色)になるのに必要とした日数を示す。発色の強度は、微生物の濃度に依存することが観察される。
【0065】
この研究により、微生物増殖が生じる培地は、発色変化に著しく影響を及ぼすと結論付けた。この変化は、窒素化合物含有量がより高いMuller−Hinton培地で最も速く、その次がT.S.A.及びM.E.A.であり、変化は遥かにより遅かった。
【0066】
これら培地間の主な相異は、窒素化合物の含有量である。Muller−Hintonの場合、ウシ肉及びカゼインが、窒素化合物、ビタミン、炭素、硫黄、及びアミノ酸を供給する。T.S.A.の場合、大豆の酵素消化物が、窒素、ビタミン、及び無機物を提供し、M.E.A.は、ポリサッカライドを多く含み、唯一の窒素源として、他の2つの培地に存在するものより少ない量のペプトンを有する。これは、バニリンにより生じる反応、したがって発色変化の強度に影響を及ぼし、それは、微生物が大量の栄養素を見出すため急速に増殖する場合、反応はより早期に生じ、時間的により早期でのセンサー発色変化、及び他の場合と同じ時間ではより強度のセンサー発色変化に結び付くからである。
【0067】
本発明者らは、生じた反応機序を研究して、それらの代謝中にインドールを産生する微生物が陽性反応をしたことを証明し、それが、インドールとバニリンとの化学反応による発色化合物だったことを示唆した。しかしながら、サルモネラ及びシュードモナス種などのインドールを産生しない微生物も、バニリンとの陽性反応を示した。
【0068】
更なるアッセイを実施して、微生物の検出におけるバニリンの有効性を実証し、発色変化がpHの変化又は微生物の代謝に由来するCOの存在によるものであることを除外した。これら試験では、本発明者らは、全ての場合でより迅速な発色変化反応を生成したのがMuller−Hintonだったため、それを培地として選択した。
【0069】
COの影響:
増殖及び呼吸中の微生物は、COを放出する。この化合物は豊富に存在し揮発性であるため、本発明者らは、バニリンが含浸されたラベルにより発生した発色に対して、この化合物が示す効果を研究した。
【0070】
培地プレート、及び研究しようとするバニリン溶液が含浸されたラベルを調製し、微生物の非存在下でこれを達成した。嫌気性及び微好気性条件下の嫌気性ジャー中で、これら雰囲気を生成するサッシェを使用することにより、インキュベーションを実施した。プレートは、ジャー内部では密閉されておらず、そのためCOは浸透することができた。
【0071】
試験を三重反復で繰り返し、37℃で50日後に、Muller−Hintonプレート、及びバニリンを含有するフィルターには、円板上での発色変化がなかったことを示した。
【0072】
したがって、発色は、COの存在によっては引き起こされないと結論付けた。
【0073】
pHの影響:
培地のpHを表面的に変更した。酢酸を3つのプレートに添加し、他の3つにNaOHを添加し、これらの酸性化合物又は塩基がセンサーに対して及ぼし得る効果を、微生物の非存在下で観察した。3か月後に、発色変化がなかったことを観察した。フィルターと酸性化剤又は塩基性化剤との直接的接触はなかった。
【0074】
以下のアッセイでは、酸及び塩基を、バニリンが既に添加されたフィルターに直接添加した。残りのプレート調製は、全ての場合で同一であり、微生物は播種しなかった。この場合も、発色変化はなかった。
【0075】
これらアッセイを補完するために、酸及び塩基をエタノール−バニリン混合物に直接添加し、この混合物を含浸させたフィルターを、これまでの試験全てと同様にプレートに設置した。
【0076】
1か月後に、フィルターのいずれにも発色変化なかったことが観察された。したがって、本発明者らは、センサーの発色変化は、pH変化により生成されたものではないと結論を下した。3か月後でも依然として、発色変化はない。
【0077】
しかしながら、培地のpHが5日後に内因的に変化した時、pH12及びpH10の培地の気相にあった試料に発色変化が観察された(図6)。
【0078】
微生物の増殖も培地の最終pHの変化をもたらし、約10の塩基性pH値だった。
【0079】
発色変化の原因である化合物の分析
バニリン及び反応後に出現した新しい化合物の推移を、クロマトグラフィー技術で分析した。
【0080】
バニリンの推移を見るため、SPME(固相マイクロ抽出)及びGC−MS(ガスクロマトグラフィー−質量分析)分析を実施した。
【0081】
図に見ることができるように(図7)、全ての場合で、バニリン濃度は減少した。この減少は、より迅速で強力な発色変化を引き起こす微生物でもあるS.アウレウス及びS.コレレスイスの場合により大きかった。生成された発色化合物が揮発性ではない可能性が高く、本発明者らは、この技術では、発色変化の原因である新しい化合物の存在を検出することができなかった。しかしながら、バニリン濃度は減少し、微生物の増殖により生成された化合物とバニリンとの反応が生じて、新しい発色化合物の出現が引き起こされたことを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バニリンを含む溶液に含浸された部分的に極性の吸着性固体保持体を含む材料。
【請求項2】
前記溶液が、エタノールを含むことを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記バニリンが、少なくとも10%の濃度であることを特徴とする、請求項2に記載の材料。
【請求項4】
前記バニリンが、10〜50%の濃度範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の材料。
【請求項5】
前記保持体が紙であることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の材料。
【請求項6】
微生物の増殖を視覚的に検出するための比色センサーとしての、前記請求項のいずれかに記載の材料の使用。
【請求項7】
前記検出が、前記材料と前記微生物とを直接接触させずに気相で実施されることを特徴とする、前記請求項に記載の材料の使用。
【請求項8】
微生物の濃度が食品の1ml又は1mg当たり10cfu以上である場合に、前記発色変化が視覚的に顕著であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の材料の使用。
【請求項9】
前記検出された微生物が、カビ、酵母、及び/又は細菌であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の材料の使用。
【請求項10】
前記微生物の検出が、包装された製品中で生じることを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の材料の使用。
【請求項11】
前記包装された製品が、食品、医薬品、又は化粧品であることを特徴とする、前記請求項に記載の材料の使用。
【請求項12】
前記包装が、前記材料により形成されることを特徴とする、請求項10又は11に記載の材料の使用。
【請求項13】
前記材料が、前記製品包装の内側面に接着剤により接着されることを特徴とする、請求項10又は11に記載の材料の使用。
【請求項14】
微生物の増殖を気相で視覚的に検出するための比色試薬としてのバニリンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−525832(P2012−525832A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509063(P2012−509063)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【国際出願番号】PCT/ES2010/000176
【国際公開番号】WO2010/128178
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(511268568)ウニヴェルシダド デ サラゴサ (1)
【Fターム(参考)】