説明

微生物計数方法

【課題】 試料中に多量の夾雑物が混入していても、試料に由来するノイズを除去して検出対象微生物を容易に高精度で検出、計数する。
【解決手段】 試料1中の検出対象微生物の個数が、蛍光微粒子計測器の測定下限値よりも低くなる希釈倍率(φ倍)で、試料の一部1aを希釈し、この希釈試料11を蛍光微粒子計測30して、希釈試料中に検出対象微生物が存在しない場合の測定値(α値)を得る。この測定値と希釈倍率とを乗算してブランク値(α×φ)を算出する。試料の一部1bを同様の希釈倍率(φ倍)で希釈した希釈試料41に、蛍光微粒子計測器で検出対象微生物として計数される蛍光粒子4を既知の個数(γ値)添加し、蛍光微粒子計測60して測定値(β値)を得る。これらα値、β値、γ値、ブランク値から作成した検量線を用いて、試料の別の一部1cを蛍光微粒子計測80して得られた測定値(ζ値)を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物計数方法に関し、詳しくは、河川および湖沼などの環境水や上下水道の各処理プロセスの処理水など水中に存在する原虫、細菌、ウイルスといった水系感染性微生物を計数する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中には多種多様な化学物質が存在するため、水道原水となる河川や湖沼などの環境水も様々な化学物質で汚染されていると考えられる。しかし、このような水環境の水質問題のほかにクリプトスポリジウムなどの原虫類、腸管出血性大腸菌O157やレジオネラ菌などの細菌、ウイルスなどによる水系感染症の発生が大きな社会問題となっている。
【0003】
これらの水系感染症の集団発生を防ぐためには、水処理プロセスにおける原因微生物を高頻度にモニタリングすることが必要不可欠である。そして、その測定結果を処理プロセスにフィードバックして、環境中に存在する水系感染性微生物を適切に除去あるいは消毒殺菌する必要がある。
【0004】
測定の高頻度化、自動化、省力化においては検出対象微生物に選択的に蛍光標識し、試料をフローサイトメータに連続的に送液し、粒子の蛍光強度から検出対象微生物を検出する方法が用いられる(例えば、特許文献1)。検出対象微生物を蛍光標識する手段には、検出対象微生物に選択的に結合し、かつ蛍光物質が結合した抗体が用いられる。フローサイトメータは粒子の蛍光強度および粒子の粒径を示す前方散乱光強度、粒子の内部構造を示す側方散乱光強度を測定する分析装置である。蛍光標識した検出対象微生物を検出するときには、検出対象微生物が含まれる、検出対象微生物の蛍光強度および粒径を示す前方散乱光強度の領域をあらかじめ設定しておき、測定した粒子がこの領域に含まれるときには検出対象微生物としてカウントすることで測定できる。さらに、検出精度を高めるには前述の領域に加え、夾雑物特有の蛍光強度よりも小さいという判定基準を設定することが有効である。
【特許文献1】特開平7−140148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大量の試料を効率良く測定するため、試料中の検出対象微生物を分離、濃縮し、これにより調製した測定試料を、フローサイトメータにより測定することが行われている。一方、環境水中には、地域の特性や降雨などの天候により大きく変動するが、ウイルス、細菌、線虫などの微生物や藻類、フミン酸などの土壌有機物、砂などの無機物といった夾雑物が大量に存在する。よって、検出対象微生物に選択的に結合する蛍光標識抗体が、これらの夾雑物に非選択的に吸着する可能性がある。また、蛍光標識抗体が吸着した夾雑物が、検出対象微生物を同等の粒径を有する場合、この粒子を検出対象微生物として検出する可能性がある。このような試料に由来するノイズのほかに、蛍光微粒子計測器について固有の誤差、若しくは器差によるノイズも測定精度低下の原因となる可能性がある。
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、試料中に多量の夾雑物が混入していても、試料に由来するノイズを除去することができるとともに、蛍光微粒子計測器の固有の誤差、若しくは器差によるノイズも除去して、検出対象微生物を容易に高精度で検出、計数することができる微生物計数方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る試料中に含まれる検出対象微生物を計数する方法は、試料中の検出対象微生物の個数が、蛍光微粒子計測器における測定下限値よりも低くなる希釈倍率(φ倍)で、前記試料の一部を希釈して希釈試料を調製する工程と、前記希釈試料を蛍光微粒子計測器で測定して、希釈試料中に検出対象微生物が存在しない場合の測定値(α値)を得る工程と、前記希釈試料中に検出対象微生物が存在しない場合の測定値と前記希釈倍率とを乗算したブランク値(α×φ)を算出する工程と、前記試料の別の一部を蛍光微粒子計測器で測定して、前記試料に含まれる検出対象微生物の個数の測定値(ζ値)を得る工程と、前記ブランク値(α×φ)を用いて、前記試料に含まれる検出対象微生物の個数の測定値(ζ値)を補正して、前記試料に含まれる検出対象微生物の個数の補正値(δ値)を算出する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
前記補正値(δ値)の算出工程は、前記試料に含まれる検出対象微生物の測定値(ζ値)から前記ブランク値(α×φ)を減算すること前記補正値(δ値)を算出することが好ましい。
【0009】
本発明に係る微生物計数方法は、前記試料の更に別の一部を、前記希釈倍率(φ倍)で希釈して別の希釈試料を調製する工程と、前記別の希釈試料に、蛍光微粒子計測器が検出対象微生物として計数する蛍光粒子を、既知の個数(γ値)添加した後、蛍光微粒子計測器で測定し、前記蛍光粒子の個数の測定値(β値)を得る工程とを更に含むことが好ましく、前記補正値(δ値)の算出工程は、前記ブランク値(α×φ)とともに、前記蛍光粒子の既知の個数(γ値)と、前記蛍光粒子の個数の測定値(β値)と、前記検出対象微生物が存在しない場合の測定値(α値)を用いて、蛍光微粒子計測器の測定値(ζ値)に対する試料中の検出対象微生物の個数(δ値)を示す検量線を作成し、この検量線を用いて行うことが好ましい。
【0010】
前記検量線を作成する際に、前記蛍光粒子の既知の個数(γ値)に対する蛍光微粒子計測器での測定値を、β+α(φ−1)の式により計算することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
このように、試料中の検出対象微生物の個数が、蛍光微粒子計測器における測定下限値よりも低くなる希釈倍率(φ倍)で試料を希釈し、この希釈試料を蛍光微粒子計測器で測定することで、希釈試料中に検出対象微生物が存在しない場合の測定値(α値)を得ることができる。この希釈試料中に検出対象微生物が存在しない場合の測定値と希釈倍率とを乗算したブランク値(α×φ)は、希釈する前の試料中の検出対象微生物が存在しない場合の測定値を示し、すなわち、試料に由来する夾雑物等のノイズや、蛍光微粒子計測器の固有の誤差若しくは器差等のノイズである。よって、試料を蛍光微粒子計測器で測定して得られた測定値(ζ値)を、このブランク値(α×φ)で補正することで、これらノイズを除去して、試料に実際に含まれる検出対象微生物を精度高く計数することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る微生物検出システムの一実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る微生物計数方法の一実施の形態を示す模式図である。なお、微生物としてクリプトスポリジウムを検出する場合について説明するが、本発明は、クリプトスポリジウムに限定されず、微生物全般について適用することができ、微生物の中でも特に、粒径が0.3〜40μmの微生物に対して適用することが好ましい。0.3〜40μmの粒径は、フローサイトメータで好適に測定することができる。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態の微生物計数方法は、測定試料1の一部1aを用いて、希釈試料中にクリプトスポリジウムが存在しない場合の蛍光微粒子計測値(α値)を測定する工程100と、測定試料1の一部1bを用いて、希釈試料中に既知の個数の蛍光粒子が存在する場合の蛍光微粒子計測値(β値)を測定する工程200と、前記2つの蛍光微粒子計測値(α値、β値)から作成した検量線を用いて、測定試料1の一部1cに含まれる検出対象微生物の個数を測定する工程300とを含む。
【0014】
蛍光微粒子計測値(α値)を測定する工程100は、測定試料の一部1aを希釈して希釈試料11を調製する工程10と、この希釈試料11に蛍光標識抗体3を添加して加温する工程20と、この加温した希釈試料を蛍光微粒子計測器で計測する工程30とを含む。
【0015】
希釈工程10では、測定試料の一部1aを希釈倍率(φ倍)で希釈する。この希釈倍率(φ倍)は、使用する蛍光微粒子計測器において、希釈試料中に含まれる検出対象微生物の濃度が、検出下限値よりも小さくなる倍率である。一般に、クリプトスポリジウムの原水への混入濃度は数個/Lから数十個/Lといわれ、集団感染が発生する濃度は50個/L程度といわれている。また、環境測定で通常用いられる原水の分離濃縮手段では、約50倍に濃縮される。この分離濃縮における回収率を100%と仮定すると、後者の原水を濃縮した測定試料中のクリプトスポリジウムは50個/20mLとなる。蛍光微粒子計測器の検出下限値が測定試料1mL中1個とすると、このような集団感染が発生する高濃度の原水に対しても蛍光微粒子計測器でクリプトスポリジウムが検出されないように希釈するには、希釈倍率を50倍以上にすればよい。
【0016】
この希釈工程10における希釈倍率(φ倍)は、コンピュータ等の制御装置(図示省略)に記憶しておく。希釈に用いる希釈液としては、クリプトスポリジウムの検出に影響を与えないように、清浄水を用いることが好ましい。清浄水としては、例えば、純水や、超純水、分散液(0.02%ピロリン酸ナトリウム、0.03%EDTA−3Na、0.01%Tween80)等を用いることができる。
【0017】
加温工程20では、希釈工程10で希釈した希釈試料11に、検出対象微生物であるクリプトスポリジウムに選択的に結合し、かつ蛍光色素が結合した蛍光標識抗体3を添加する。このような蛍光標識抗体として、例えば、商品名イージーステインFITC(和光純薬工業社から入手可能)がある。そして、希釈試料11に含まれる夾雑物と蛍光標識抗体3とを十分に結合反応させるために、一定時間にわたって加温する。例えば、37℃で30分間加温することが好ましい。
【0018】
蛍光微粒子計測工程30では、加温工程20を経た希釈試料を蛍光微粒子計測器で測定する。蛍光微粒子計測器は、試料中の粒子の蛍光強度および前方散乱光強度を測定するものである。このような粒子を精度よく測定するには、試料を光学セル中に連続的に流し、そこに光を照射して粒子個々の信号を検出し統計、計数処理する方法が好ましく、このような計測が可能な装置としてフローサイトメータが利用できる。フローサイトメータは、微粒子をシース液とともに1個ずつ流し、この粒子にレーザー光や紫外光を集光してその結果生じる散乱光や蛍光などの光学的情報を検出することにより、その粒子の大きさや形態、性質などを調べる装置である。フローサイトメータで蛍光標識された検出対象微生物の蛍光強度と粒径からなる2次元ドットプロットを作成し、検出対象微生物の存在領域を設定しておき、領域に混入する粒子数を計数する。
【0019】
この蛍光微粒子計測工程30で測定された計測値(α値)は、上述したように、希釈試料11中にクリプトスポリジウムが計測下限値以下にしか存在しない場合の計測値である。よって、この計測値(α値)は、原水に由来する偽陽性粒子の数や、蛍光微粒子計測器に由来する測定誤差といったノイズである。この計測値(α値)は、制御装置(図示省略)に記憶しておく。
【0020】
なお、この希釈試料11のノイズを表すα値と、測定試料1aを希釈した倍率であるφとを乗算した値は、測定試料1におけるノイズを表す。本明細書では、この値(α×φ)をブランク値と呼ぶ。
【0021】
蛍光微粒子計測値(β値)を測定する工程200は、測定試料の一部1bを希釈して希釈試料41を調製する工程40と、この希釈試料41に蛍光標識抗体3を添加して加温する工程50と、この加温した希釈試料に、既知の個数の蛍光粒子を添加し、蛍光微粒子計測器で計測する工程60と、計測値から検出対象微生物であるクリプトスポリジウムの個数算出用の検量線を作成する工程65とを含む。
【0022】
この希釈工程40では、前述の希釈工程10と同じ希釈倍率(φ倍)で、測定試料の一部1bを希釈する。これにより、β値を計測する本工程200でも、前述のα値を計測する工程100と同様に、希釈試料中の検出対象微生物の個数濃度を、蛍光微粒子計測器における検出下限値よりも小さくする。
【0023】
この加温工程50では、前述の加温工程20と同様に、蛍光標識抗体3を添加し、希釈試料41と蛍光標識抗体3とを十分に結合反応させるために、一定時間にわたって加温する。
【0024】
この蛍光微粒子計測工程60では、加温工程50を経た希釈試料に、蛍光粒子4を既知の個数(γ)添加した後、前述の工程30と同一の蛍光微粒子計測器により測定を行う。蛍光粒子4は、蛍光微粒子計測器で測定したときに検出対象微生物であるクリプトスポリジウムとして計数される蛍光粒子を用いる。例えば、蛍光標識抗体5の蛍光色素と同等の励起波長と蛍光波長を有し、かつ検出対象微生物と同等の粒径を有する蛍光粒子が好ましい。このような蛍光標識抗体として、例えば、緑色蛍光粒子(モリテックス社から入手可能)がある。また、添加する個数(γ)は、検量線の信頼域を十分に確保するため、実際に検出が予測される個数よりも多い個数が好ましい。
【0025】
この蛍光微粒子計測工程60で測定された計測値(β値)は、上述したように、希釈試料41中に既知の個数(γ個)の蛍光粒子4が含まれている場合の蛍光微粒子計測器での実測値である。そして、検量線作成工程65では、この希釈試料41中の蛍光粒子の実測値(β値)と、前述の希釈倍率(φ倍)と、前述の希釈試料11のノイズの測定値(α値)とを用いて、検量線を作成する。
【0026】
希釈試料41中の蛍光粒子の実測値(β値)から、上述の工程30で測定した希釈試料11のノイズの測定値(α値)を減算することで、γ個の蛍光粒子4に対して蛍光微粒子計測器が測定した正味の値を得ることができる。この正味の値(β−α)は、希釈していない測定試料1でも、同様の値であると考えることができる。また、上述したように、希釈試料のノイズを表す測定値(α値)に、希釈倍率(φ倍)を乗算したブランク値(α×φ)は、測定試料1を蛍光微粒子計測器で測定した際のノイズを表す。よって、計測試料1に含まれるγ個のクリプトスポリジウムに対して、蛍光微粒子計測器が実際に計測する値は、(β−α)+(α×φ)である。この式は、β+α(φ−1)と変形できる。
【0027】
計測試料中に含まれるクリプトスポリジウムの個数をX軸とし、蛍光微粒子計測器での実際の測定値をY軸として作成した検量線を、図2に示す。図2に示すように、Y軸の切片は、測定試料1中にクリプトスポリジウムが存在しない場合の蛍光微粒子計測器での実測値であり、これは、上述したように、ブランク値であるα×φである。また、測定試料1中にクリプトスポリジウムがγ個存在する場合、蛍光微粒子計測器で測定した際の実測値は、このブランク値に上述の正味の値を加算した値であるβ+α(φ−1)である。よって、この2点を通過する検量線を作成することができる。もちろん、γを変化させて複数のβ値を測定し、3点以上の測定点から近似式を求めて検量線を作成することもできる。
【0028】
検量線を用いて、測定試料に含まれる検出対象微生物の個数を測定する工程300は、測定試料の一部1cに蛍光標識抗体3を添加して加温する工程70と、この蛍光標識した希釈試料を蛍光微粒子計測する工程80と、検量線から微生物の個数を算出する工程85とを含む。
【0029】
この加温工程70では、前述の加温工程20、50と同様に、蛍光標識抗体3を添加し、測定試料1cと蛍光標識抗体3とを十分に結合反応させるために、一定時間にわたって加温する。なお、前述の加温工程20、50と異なり、測定試料を希釈することなく、蛍光標識抗体3を添加するが、加温温度および時間は、同様の条件でよい。
【0030】
この蛍光微粒子計測工程80では、加温工程70を経た測定試料1cを、前述の工程30及び工程60と同一の蛍光微粒子計測器で測定する。この測定値(ζ値)は、原水に由来する偽陽性粒子の数や、蛍光微粒子計測器に由来する測定誤差といったノイズを含むことから、検量線から微生物の個数を算出する工程85において、上述した図2に示す検量線を用いて、測定値(ζ値)から、測定試料1に含まれる検出対象微生物の個数(δ値)を算出する。
【0031】
図2に示す検量線は、上述したように、測定試料1に検出対象微生物が存在しない場合のブランク値(α×φ)と、既知のγ個の蛍光粒子に対して蛍光微粒子計測器が測定した正味の値(β−α)とを用いて作成されていることから、原水および計測器に由来するノイズを除去して、検出対象微生物の個数(δ値)を精度の高く求めることができる。この算出したδ値は、表示やフィードバック制御等のために任意の装置に出力する。上述した検量線を作成するための演算や、検量線を用いてδ値を算出する演算は、制御装置(図示省略)を用いて行うことができる。
【0032】
なお、図1に示す実施の形態では、より高い精度を求めるため、工程200を行ってβ値を求め、図2に示す検量線を作成したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、β値を測定する工程200を行わず、工程100のみで得られるブランク値(α×φ)を用いて、工程300での測定試料1cの実測値(ζ値)を補正することでも、十分に精度の高い検出対象微生物の個数(δ値)を算出することができる。この場合のδ値は、例えば、ζ値からブランク値を減算する式δ=ζ−(α×φ)で求めることができる。
【実施例】
【0033】
本発明に係る微生物計数方法により模擬的にクリプトスポリジウムを計数した実施例を以下に示す。環境試料として多摩川河川原水を用い、クリプトスポリジウムを含む試料を濃縮する公知の方法でこの河川原水の濃縮試料を調整し、これを測定試料とした。なお、あらかじめこの試料中にクリプトスポリジウムが混入していないことを蛍光顕微鏡観察で確認した。
【0034】
この測定試料の一部を、超純水で4倍に希釈し、全量を5mLにした。この希釈試料にクリプトスポリジウム標識抗体(イージーステインFITC)を添加し、37℃で30分間加温した。そして、この希釈試料を蛍光微粒子計測器で測定したところ、その結果(α値)は平均2.3個であった。この測定値(α値)に希釈倍率(φ値)である4を乗じた9.2個という値が、測定試料の5mL中のブランク値(α×φ)である。
【0035】
次に、上記の測定試料の一部を、同様に超純水で4倍に希釈し、全量を5mLにした。この希釈試料に蛍光粒子(モリテックス社から入手の緑色蛍光粒子)を平均54個(γ値)添加するとともに、クリプトスポリジウム標識抗体(イージーステインFITC)を添加し、37℃で30分間加温した。そして、この希釈試料を蛍光微粒子計測器で測定したところ、希釈試料の蛍光粒子の実測値(β値)は平均62個であった。
【0036】
以上の結果から、検量線を作成した。検量線は、図3に示すように、Y軸の切片がブランク値(α×φ)であり、上記算出した9.2個である。また、X軸のクリプトスポリジウムの個数は、投入した蛍光粒子数(γ値)である54個に対し、Y軸の蛍光微粒子計測値は、その正味の値(β−α)にブランク値(α×φ)を足した値、すなわち、β+α(φ−1)である。このβ+α(φ−1)は、62+2.3×(4−1)≒69と算出することができる。
【0037】
クリプトスポリジウムを模擬的に測定するため、上記の測定試料にクリプトスポリジウムの代替として前記の蛍光粒子を54個添加し、蛍光微粒子計測器で測定した。その結果、実測値は平均67個であった。上記の図3に示す検量線を用いると、クリプトスポリジウムの個数は51個という値が算出された。また、単に実測値をブランク値で引いて算出したクリプトスポリジウムの個数は57.8個であった。これらの値は、真の値との誤差がそれぞれ−3個、+3.8個であった。一方、何ら補正をしない場合の値は、真の値との誤差が+13個であった。よって、本発明により、計測精度が大幅に向上したことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る微生物計数方法の一実施の形態を示す模式図である。
【図2】X軸が検出対象微生物の実際の個数であり、Y軸が測定試料中の検出対象微生物の測定値である検量線を示すグラフである。
【図3】実施例で作成した検量線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 測定試料
2 希釈液
3 蛍光標識抗体
4 蛍光粒子
10、40 希釈工程
11、41 希釈試料
20、50、70 加温工程
30 希釈試料の蛍光微粒子計測(α値)工程
60 希釈試料の蛍光微粒子計測(β値)工程
65 検量線の作成工程
80 測定試料の蛍光微粒子計測工程
85 検量線から微生物個数の算出工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれる検出対象微生物を計数する方法であって、
試料中の検出対象微生物の個数が、蛍光微粒子計測器における測定下限値よりも低くなる希釈倍率(φ倍)で、前記試料の一部を希釈して希釈試料を調製する工程と、
前記希釈試料を蛍光微粒子計測器で測定して、希釈試料中に検出対象微生物が存在しない場合の測定値(α値)を得る工程と、
前記希釈試料中に検出対象微生物が存在しない場合の測定値と前記希釈倍率とを乗算したブランク値(α×φ)を算出する工程と、
前記試料の別の一部を蛍光微粒子計測器で測定して、前記試料に含まれる検出対象微生物の個数の測定値(ζ値)を得る工程と、
前記ブランク値(α×φ)を用いて、前記試料に含まれる検出対象微生物の個数の測定値(ζ値)を補正して、前記試料に含まれる検出対象微生物の個数の補正値(δ値)を算出する工程と
を含む微生物計数方法。
【請求項2】
前記補正値(δ値)の算出工程が、前記試料に含まれる検出対象微生物の測定値(ζ値)から前記ブランク値(α×φ)を減算すること前記補正値(δ値)を算出する請求項1に記載の微生物計数方法。
【請求項3】
前記試料の更に別の一部を、前記希釈倍率(φ倍)で希釈して別の希釈試料を調製する工程と、
前記別の希釈試料に、蛍光微粒子計測器が検出対象微生物として計数する蛍光粒子を、既知の個数(γ値)添加した後、蛍光微粒子計測器で測定し、前記蛍光粒子の個数の測定値(β値)を得る工程と
を更に含み、
前記補正値(δ値)の算出工程が、前記ブランク値(α×φ)とともに、前記蛍光粒子の既知の個数(γ値)と、前記蛍光粒子の個数の測定値(β値)と、前記検出対象微生物が存在しない場合の測定値(α値)を用いて、蛍光微粒子計測器の測定値(ζ値)に対する試料中の検出対象微生物の個数(δ値)を示す検量線を作成し、この検量線を用いて行う請求項1に記載の微生物計数方法。
【請求項4】
前記検量線を作成する際に、前記蛍光粒子の既知の個数(γ値)に対する蛍光微粒子計測器での測定値を、β+α(φ−1)の式により計算する請求項3に記載の微生物計数方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−222565(P2009−222565A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67563(P2008−67563)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】