説明

微生物農薬製剤の保存方法

【課題】
本発明は、微生物の菌体を含む微生物農薬製剤中の生菌数を、長期安定的に維持することを可能にする、微生物農薬の保存方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
微生物農薬製剤組成物の乾燥において、乾燥剤を含有する包材を用いる方法。微生物農薬製剤が、(A)塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウム及び/又は(B)トレハロース又はショ糖を混合し、凍結乾燥して得られた微生物の菌体乾燥物を含有する微生物農薬製剤であることがさらに好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の菌体を含有する微生物農薬製剤の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物農薬の製品化に際しては、生産、流通および使用現場にいたる過程において、十分な生菌数を維持できることが必要である。生菌数が使用現場に至るまでに大きく減衰するようであれば、効力の発揮が難しく、品質管理のうえでも問題となる。そこで、菌体をできるだけ死滅させない保存技術が必要とされていた。
【0003】
微生物の保存技術として、特許文献1には、シュードモナス属細菌の固定化物及びその固定化方法、及びその固定化物から成る、植物の地上部病害防除剤の製剤化方法が記載されている。これは、シュードモナス属細菌にトレハロースを混合し凍結後真空乾燥する方法により、生菌回収率や保存性も良好な固定化物を得るものである。
【0004】
また、特許文献2には、植物病害に対して防除効果を有する微生物にアンモニア吸着能を有する吸着剤を入れた袋を添加してなる微生物農薬製剤が記載されている。さらに、特許文献3には、植物病害に対して防除効果を有する微生物を凍結乾燥させた後、アンモニア吸着能を有する吸着剤を混合させた微生物農薬製剤が記載されている。
特許文献2及び特許文献3の発明はいずれも、アンモニア吸着能を有する吸着剤としてゼオライト、モレキュラシーブス、シリカゲル等を用いて、植物病害に対して防除効果を有する微生物であるエルビニア属細菌またはシュードモナス属細菌を、より安定な状態で保存することを可能にするものである。
【0005】
特許文献4には、糸状菌胞子を有効成分とし、該糸状菌胞子を長期間安定に保存し得ると共に、施用時の物理性が良好な農業用水和性組成物が記載されている。特定の粒度分布を有する糸状菌胞子と特定の量の吸水能を有する吸着剤を必須成分として含む水和性組成物は、生菌の保存性及び施用時の物理性が良好であり、気体不透過性の袋状体に封入することで、長期間安定に保存することを可能にするものである。
【0006】
発明者らは、シュードモナス ロデシア(Pseudomonas rhodesiae)050572I9株を用い、特許文献1の方法により菌体の凍結乾燥を行った。しかし、菌体の凍結乾燥物中の生菌数は、時間の経過とともに減衰し、長期安定的な保存方法として良好な結果は得られなかった。
また、特許文献4記載の方法によっても、シュードモナス ロデシア(Pseudomonas rhodesiae)は糸状菌と違い胞子を形成しないため、記載された方法では十分な長期安定性が得られなかった。
また、特許文献4において、特許文献2および特許文献3記載の保存方法は、薬剤施用時、特に種子の粉衣処理、あるいは水を使用して施用する場合に不都合であると指摘されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−325077号公報
【特許文献2】特開2000−264807号公報
【特許文献3】特開2000−264808号公報
【特許文献4】特開2004−123606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微生物の菌体を含む微生物農薬製剤中の生菌数を、長期安定的に維持することを可能にする、微生物農薬の保存方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、植物病害に対する防除能を有するシュードモナス ロデシアの菌株を凍結乾燥して得られた乾燥物を、乾燥剤を高い濃度で含有する樹脂素材をベースとした包材を用いて封入することで、菌体乾燥物中の生菌数が、長期安定的に維持することが可能になることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は
(1)乾燥剤を含有する包材を用いることを特徴とする微生物農薬製剤の保存方法や、
(2)微生物農薬製剤が、
(A)塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウム
及び/又は
(B)トレハロース又はショ糖
を混合し、凍結乾燥して得られた微生物の菌体乾燥物を含有する微生物農薬製剤であることを特徴とする、(1)の保存方法や、
(3)微生物農薬製剤に用いる微生物が、植物病害に対する防除能を有するシュードモナス ロデシアであることを特徴とする(1)又は(2)の保存方法に関する。
【0011】
また、本発明は、
(4)植物病害に対する防除能を有するシュードモナス ロデシアが、シュードモナス ロデシア 050572I9株(国際受託番号FERM BP−10912)であることを特徴とする(3)の保存方法や、
(5)包材の形状が袋状であることを特徴とする(1)〜(4)の保存方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微生物農薬製剤組成物中の生菌数を、長期安定的に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、乾燥剤を含有する包材を用いて微生物農薬製剤を封入することを特徴とする微生物農薬製剤の保存方法である。
【0014】
(包材)
本発明で用いる包材は、乾燥剤を含有することを特徴とする。包材の素材としては特に限定されないが、樹脂、金属、紙、及びそれらの複合材料などがあり、樹脂が好ましい。樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、 ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、ナイロン、セロファン等が挙げられる。
乾燥剤としては、ゼオライト、モレキュラーシーブ(商品名)、シリカゲル、酸化アルミニウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、活性無水硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化リン(V)、炭酸カリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
本出願において、乾燥剤を含有する包材とは、包材中に乾燥剤が含有されていれば特に制限されない。例えば、乾燥剤が包材のベースとなる素材中に練りこまれて、乾燥剤が包材中に均一又は不均一に分散されていてもよいし、積層構造の包材において、1以上の層が乾燥剤の層又は乾燥剤を含有する層になっていてもよい。包材中の乾燥剤の含有量は、発明の効果を得られる限りにおいて特に制限されないが、含有量が高いことが好ましい。
乾燥剤を含有する樹脂としては、具体的には、合成ゼオライトを高含有する樹脂を原材料とする、吸湿樹脂「モイストキャッチ(登録商標)」(共同印刷株式会社製)を挙げることができる。
【0015】
本発明では、上記包材に微生物農薬製剤を封入することで、長期間乾燥状態を維持し、微生物農薬製剤を安定化することが可能となる。封入の形態としては、例えば、ブリスター包装、シュリンク包装、キャラメル包装、袋への封入等が挙げられ、袋への封入が好ましい。包材の形状としては、袋状、フィルム状、筒状等が挙げられ、好ましくは、密閉可能な袋状の形状である。
【0016】
(微生物農薬製剤)
本発明は、上述の包材を用いて微生物農薬製剤を保存する方法である。微生物農薬製剤に用いる微生物は、特に制限されるものではないが、植物病害に対する防除能を有するシュードモナス ロデシアであることがより好ましい。植物病害に対する防除能を有するシュードモナス ロデシア(Pseudomonas rhodesiae)については、国際特許出願番号PCT/JP2007/71531(2007年11月6日出願)に記載されている。
【0017】
本発明の方法に用いる微生物としては、シュードモナス ロデシア(Pseudomonas rhodesiae)の中でも、植物病害に対する防除能が高いものがより好ましい。例えばシュードモナス ロデシア 050572I9株(国際受託番号FERM BP−10912)、シュードモナス ロデシア JCM11940株及びこれらの株の変異株がより好ましく、さらに好ましくは、シュードモナス ロデシア 050572I9株、及びその株の変異株が挙げられる。
【0018】
これらのシュードモナス ロデシアは、かいよう病、穿孔細菌病、軟腐病、斑点細菌病、黒斑細菌病、青枯病、褐斑細菌病、茎えそ細菌病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、白葉枯病、腐敗病、及び黒腐病等の植物の病害に対して効果を有する微生物である。
【0019】
また、本発明の病害防除の適用対象となる植物としては、本発明の微生物が防除能を発揮し得る植物である限り特に制限されない。例えば、アブラナ科、ナス科 、ウリ科 、ユリ科、マメ科、キク科、アカザ科、イネ科、バラ科、ナデシコ科、サクラソウ科、ミカン科、ブドウ科、マタタビ科、カキ科、セリ科、ヒルガオ科、又はサトイモ科に属する植物を挙げることができ、中でも、ハクサイ等のアブラナ科に属する植物、レタス等のキク科に属する植物、ジャガイモ等のナス科に属する植物、レモン、ネーブル等のミカン科に属する植物、モモ等のバラ科に属する植物などを好ましく挙げることができる。
【0020】
本発明で用いる微生物農薬製剤は、微生物を凍結乾燥して得られた菌体乾燥物を含有する微生物農薬製剤である。微生物の凍結乾燥には、塩類及び/又は糖類を添加して凍結乾燥を行うことができ、塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられ、糖類としては、グルコース、ラクトース、ショ糖(スクロース)、ラフィノース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール、トレハロース、パラチノース、パラチニット等が挙げられる。
これら塩類および糖類は、それぞれ、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。これらのうち、トレハロースおよび/又はショ糖を混合し、凍結乾燥して得られた微生物の菌体乾燥物を含有する微生物農薬製剤であることが好ましく、さらに塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを混合し、凍結乾燥して得られた微生物の菌体乾燥物を含有する微生物農薬製剤であることがより好ましい。
【0021】
塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの含量は、凍結乾燥する菌体懸濁液中に、単独または混合して0.1%以上2.0%未満の濃度になるように添加することが好ましい。
菌体培養液に、塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムを混合することで、凍結乾燥時の菌体の保護効果が得られる。さらに、菌体乾燥物の安定化効果も得られる。
【0022】
トレハロース及び/又はショ糖の含量は、凍結乾燥する菌体懸濁液中に、10%以上50%未満の濃度になるように添加すること好ましい。
菌体培養液に、トレハロース又はショ糖をさらに混合することで、凍結乾燥時の菌体の保護効果が得られる。
【0023】
本発明の微生物農薬製剤には、所望の剤形や効果に応じて他の任意性分を含んでいてもよい。任意成分としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、担体、界面活性剤、分散剤、補助剤等を挙げることができる。また、必要に応じて、酸化防止剤、着色剤、滑剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、防腐剤などを添加できる。
【0024】
担体としては、炭酸カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム等の無機塩類;クエン酸、リンゴ酸、ステアリン酸等の有機酸及びそれらの塩;グルコース、乳糖、ショ糖等の糖類;アルミナ粉、シリカゲル、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、酸化チタン、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、クレー、珪藻土、ベントナイト、ホワイトカーボン、カオリン、バーミキュライト等の固体担体を挙げることができる。
【0025】
また、上記界面活性剤(分散剤としても使用できる)としては、通常の農園芸用製剤に使用できるものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、以下の非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤がある。
非イオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル(C12〜18)、POEソルビタン脂肪酸エステル(C12〜18)、ショ糖脂肪酸エステルなどの糖エステル型界面活性剤;POE脂肪酸エステル(C12〜18)、POE樹脂酸エステル、POE脂肪酸ジエステル(C12〜18)などの脂肪酸エステル型界面活性剤;POEアルキルエーテル(C12〜18)等のアルコール型界面活性剤;POEアルキル(C8〜12)フェニルエーテル、POEジアルキル(C8〜12)フェニルエーテル、POEアルキル(C8〜12)フェニルエーテルホルマリン縮合物などのアルキルフェノール型界面活性剤;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー;アルキル(C12〜18)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマーエーテルなどのポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー型界面活性剤;POEアルキルアミン(C12〜18)、POE脂肪酸アミド(C12〜18)などのアルキルアミン型界面活性剤;POE脂肪酸ビスフェニルエーテルなどのビスフェノール型界面活性剤;POAベンジルフェニル(又はフェニルフェニル)エーテル、POAスチリルフェニル(又はフェニルフェニル)エーテルなどの多芳香環型界面活性剤;POEエーテル及びエステル型シリコン及びフッ素系界面活性剤などのシリコン系、フッ素系界面活性剤;POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油などの植物油型界面活性剤;等を挙げることができる。
【0026】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルサルフェート(C12〜18、Na、NH4、アルカノールアミン)、POEアルキルエーテルサルフェート(C12〜18、Na、NH4、アルカノールアミン)、POEアルキルフェニルエーテルサルフェート(C12〜18、NH4、アルカノールアミン)、POEベンジル(又はスチリル)フェニル(又はフェニルフェニル)エーテルサルフェート(Na、NH4、アルカノールアミン)、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマーサルフェート(Na、NH4、アルカノールアミン)などのサルフェート型界面活性剤;パラフィン(アルカン)スルホネート(C12〜22、Na、Ca、アルカノールアミン)、AOS(C14〜16、Na、アルカノールアミン)、ジアルキルスルホサクシネート(C8〜12、Na、Ca、Mg)、アルキルベンゼンスルホネート(C12、Na、Ca、Mg、NH4、アルキルアミン、アルカノール、アミン、シクロヘキシルアミン)、モノ又はジアルキル(C3〜6)ナフタレンスルホネート(Na、NH4、アルカノールアミン、Ca、Mg)、ナフタレンスルホネート・ホルマリン縮合物(Na、NH4)、アルキル(C8〜12)ジフェニルエーテルジスルホネート(Na、NH4)、リグニンスルホネート(Na、Ca)、POEアルキル(C8〜12)フェニルエーテルスルホネート(Na)、POEアルキル(C12〜18)エーテルスルホコハク酸ハーフエステル(Na)などのスルホネート型界面活性剤;カルボン酸型脂肪酸塩(C12〜18、Na、K、NH4、アルカノールアミン)、N-メチル-脂肪酸サルコシネート(C12〜18、Na)、樹脂酸塩(Na、K)などPOEアルキル(C12〜18)エーテルホスフェート(Na、アルカノールアミン)、POEモノ又はジアルキル(C8〜12)フェニルエーテルホスフェート(Na、アルカノールアミン)、POEベンジル(又はスチリル)化フェニル(又はフェニルフェニル)エーテルホスフェート(Na、アルカノールアミン)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー(Na、アルカノールアミン)、ホスファチジルコリン・ホスファチジルエタノールイミン(レシチン)、アルキル(C8〜12)ホスフェートなどのホスフェート型界面活性剤;等を挙げることができる。
【0027】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド(C12〜18)、メチル・ポリオキシエチレン・アルキルアンモニウムクロライド(C12〜18)、アルキル・N-メチルピリジウムブロマイド(C12〜18)、モノ又はジアルキル(C12〜18)メチル化アンモニウムクロライド、アルキル(C12〜18)ペンタメチルプロピレンジアミンジクロライドなどのアンモニウム型界面活性剤;アルキルジメチルベンザルコニウムクロライド(C12〜18)、ベンゼトニウムクロライド(オクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド)などのベンザルコニウム型界面活性剤;等を挙げることができる。
【0028】
両性界面活性剤としては、ジアルキル(C8〜12)ジアミノエチルベタイン、アルキル(C12〜18)ジメチルベンジルベタイン等のベタイン型界面活性剤;ジアルキル(C8〜12)ジアミノエチルグリシン、アルキル(C12〜18)ジメチルベンジルグリシンなどのグリシン型界面活性剤;等を挙げることができる。
上記の界面活性剤及び/又は分散剤は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
上記の補助剤として、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、アラビアゴム、澱粉等を挙げることができる。
【0030】
(微生物農薬製剤の製造)
本発明の微生物農薬製剤は、微生物を凍結乾燥して得られた菌体乾燥物を含有する微生物農薬製剤であり、微生物の凍結乾燥物は公知の装置および条件によって得ることができる。
例えば、微生物がシュードモナス ロデシア 050572I9株である場合、液体標準培地(酵母エキス0.25%,ペプトン0.5%,グルコース0.1%,pH7.0)で当該微生物を振盪培養した後、遠心分離や膜ろ過によって得ることができる。
得られた菌体懸濁液に、必要に応じて塩類及び/又は糖類混合し、凍結乾燥を行う。凍結乾燥は公知の装置および条件によって行うことができる。凍結乾燥後に粉砕することで、粉末の菌体乾燥物を得る。
【0031】
得られた菌体乾燥物に、所望の剤形に応じた任意成分を選択して混合することで、微生物農薬製剤とすることができる。本発明の微生物農薬製剤の剤形として、好ましくは、粉剤、水和剤、粒剤等の剤形を挙げることができるが、より好ましくは水和剤を挙げることができる。
本発明の微生物農薬製剤の形態は特に制限されず、通常の農園芸用農薬のとり得る形態、例えば、粉剤、水和剤、乳剤、フロアブル剤、粒剤等の形態を採用することができる。
【0032】
得られた微生物農薬製剤は、調製後速やかに、乾燥剤を含有する包材に封入する。当該包材を用いることで、微生物農薬製剤を長期安定的に保存することができる。当該包材を用いた包装は、真空包装でもよいし、常圧包装でもよい。包材中には、微生物農薬製剤以外の剤が封入されていてもよい。例えば乾燥剤、吸湿剤、調湿剤等が封入されていてもよい。
当該包材に封入された微生物農薬製剤を保存する温度は、特に制限されないが、常温で保存することができ、10℃以下で保存することがより好ましく、4℃(冷蔵庫)以下で保存することがより好ましい。
【0033】
(微生物農薬製剤の使用)
本発明の微生物農薬製剤が適用される病害としては、効果を有する限り特に制限されない。例えば、微生物が、植物病害を防除するシュードモナス ロデシアである場合、シュードモナス ロデシアが防除能を示す病原菌が植物に感染することによって引き起こされる植物の病害であれば特に制限はない。例えば、かいよう病、穿孔細菌病、軟腐病、斑点細菌病、黒斑細菌病、青枯病、褐斑細菌病、茎えそ細菌病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、白葉枯病、腐敗病、及び黒腐病等が挙げられる。
また、植物病害の防除剤が適用される植物の病害として、かいよう病、穿孔細菌病、軟腐病、斑点細菌病、黒斑細菌病、青枯病、褐斑細菌病、茎えそ細菌病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、白葉枯病、腐敗病、及び黒腐病から選ばれる一種以上、好ましくは2種以上、より好ましくは、全種の植物の病害が挙げられる。特に、少なくとも軟腐病、腐敗病、黒腐病、かいよう病、穿孔細菌病のいずれか一種以上、好ましくは2種以上、より好ましくは全種の病害である。
【0034】
本発明の微生物農薬製剤の使用方法は、本発明の微生物農薬製剤を、植物及び/又は該植物の栽培土壌に処理する方法であれば特に制限されるものではなく、通常の化学農薬を用いる場合と同様に、植物の病害の種類や適用植物の種類等によって適宜選択することができる。例えば、本発明の微生物農薬製剤を、植物に直接塗布又は散布等することによって、本発明の植物病害の防除剤を植物に処理してもよいし、本発明の微生物農薬製剤を、植物を栽培する土壌(植物の栽培土壌)に混和、散布又は潅注等することによって、本発明の微生物農薬製剤を植物の栽培土壌に処理してもよい。ここで、本発明の微生物農薬製剤を植物の栽培土壌に処理する場合、本発明の微生物農薬製剤を土壌に処理してから植物を植えてもよく、また、植物を土壌に植えた後でその土壌に処理してもよい。また、特開2001−302407号公報記載のように、施設内に送風する送風装置の送風口付近に本発明の微生物農薬製剤を設置し、送風口から送出される空気とともに農薬を散布することもできる。
【0035】
本発明の微生物農薬製剤を、植物及び/又は該植物の栽培土壌に処理する際には、本発明の微生物農薬製剤を適当量の水等で希釈して使用することができる。本発明の微生物農薬製剤を植物及び/又は該植物の栽培土壌に処理する量としては、植物病害の種類、適用植物の種類等によって異なるため一概には規定できないが、土壌に散布処理する場合は、シュードモナス ロデシアの菌体濃度に換算して、通常1×10〜1×1011cfu/ml、好ましくは1×10〜1×10cfu/mlの範囲とすることができる。
また、散布回数は、植物の病害の種類や適用植物の種類、病害の程度等によって適宜選択すればよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
なお、本発明である微生物農薬製剤の保存方法の効果は、菌体乾燥物中の生菌数を測定し、菌体の生存率を算出することで確認することができる。
[生菌数の測定方法]サンプルを1g秤量し、滅菌水で10mLとした。その後、適宜希釈し、平板希釈法にて生育したコロニー数を計測し、生菌数を求めた。標準寒天培地(日水製薬株式会社)を使用し、25℃一昼夜培養した。
【0037】
(菌体乾燥物の調製)
1.菌体懸濁液の調製
300mL容三角フラスコに標準液体培地(酵母エキス0.25%,ペプトン0.5%,グルコース0.1%,pH7.0)150mLを入れ、加熱滅菌した。シュードモナス ロデシア 050572I9株(FERM BP−10912株)の前培養物0.1mLを接種し、往復振盪機中30℃、100rpmで3日間培養した。得られた培養液を遠心分離して上清を取り除いて沈殿を水で洗浄し、再度遠心して上清を取り除いて沈殿を水で洗浄した。
2.菌体の乾燥
調製した菌体懸濁液に、NaCl(若しくはKCl)、およびショ糖(若しくはトレハロース)を下表に示した濃度になるようそれぞれ添加し、凍結乾燥を行い、菌体乾燥物を得た。なお、濃度は菌体懸濁液中の濃度である。
また、NaCl等を添加しないものをコントロールとした。
それぞれの実施例において、凍結乾燥前の菌体懸濁液中の生菌体数に対する凍結乾燥後の菌体乾燥物中の生菌体数を生存率として表1に表した。
【0038】
【表1】

【0039】
菌体乾燥物2に示すように、NaClを添加するだけでも生存率が28.7%となった。但し、NaClを2%以上添加すると生存率が著しく低下した。
菌体乾燥物4、6、8に示すように、ショ糖をさらに添加することで、生存率が80%以上となった。
【0040】
[実施例1]
菌体乾燥物7を、乾燥剤含有包材(「モイストキャッチ(商品名)」、共同印刷株式会社製)の袋に封入した。比較例として、同様に調製した菌体乾燥物を、乾燥剤非含有包材の袋に封入した。それぞれ、封入後、室内暗所、37℃にて放置し、1週間後、2週間後の生菌数を測定し、封入前に測定した生菌数に対する生存率を算出した。コントロールとして、袋中に封入しない状態(オープンエア)の菌体乾燥物についても測定し、生存率を算出した。
【0041】
【表2】

【0042】
乾燥剤含有包材を用いた場合は、1週間後で生存率が87.1%、2週間後で77.4%であった。乾燥剤非含有包材ではそれぞれ38.7%、21.6%であった。乾燥剤含有包材を用いると、生存率が良好である。
【0043】
[実施例2]
菌体乾燥物7と、菌体乾燥物7の処方から1%NaClを除いた処方で得た菌体乾燥物(すなわち、菌体に40%トレハロースのみを混合して凍結乾燥して得た菌体乾燥物)を、それぞれ乾燥剤含有包材(「モイストキャッチ(商品名)」、共同印刷株式会社製)の袋に封入した。封入後、室内暗所、37℃にて放置し、1週間後の生菌数を測定し、封入前に測定した生菌数に対する生存率を算出した。
【0044】
【表3】

【0045】
1週間後の生存率は、40%トレハロースと1%塩化ナトリウムを含有する処方で82.9%、40%トレハロースのみの処方で66.4%であった。
40%トレハロースのみの処方でも生存率は良好で、1%塩化ナトリウムを添加すると生存率はさらに向上した。
【0046】
[実施例3]
菌体乾燥物1〜7 20重量部と、硫酸カルシウム2水和物 75重量部、ナフタレンスルホン酸(ナトリウム)ホルムアルデヒド縮合物5重量部を均一に混合し、水和剤組成物を得た。得られた水和剤組成物を、乾燥剤含有包材(「モイストキャッチ(商品名)」、共同印刷株式会社製)の袋に封入した。1週間後の生菌数を測定し、封入前に測定した生菌数に対する生存率を算出した。また、コントロールとして、製剤化していない菌体乾燥物についても、生存率を算出した。
【0047】
【表4】

【0048】
得られた水和剤組成物は、菌体の生存率が83%であり、製剤による菌体数の減少が軽微であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥剤を含有する包材を用いることを特徴とする微生物農薬製剤の保存方法。
【請求項2】
微生物農薬製剤が、
(A)塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウム
及び/又は
(B)トレハロース又はショ糖
を混合し、凍結乾燥して得られた微生物の菌体乾燥物を含有する微生物農薬製剤であることを特徴とする、請求項1記載の保存方法。
【請求項3】
微生物農薬製剤に用いる微生物が、植物病害に対する防除能を有するシュードモナス ロデシアであることを特徴とする請求項1又は2に記載の保存方法。
【請求項4】
植物病害に対する防除能を有するシュードモナス ロデシアが、シュードモナス ロデシア 050572I9株(国際受託番号FERM BP−10912)であることを特徴とする請求項3に記載の保存方法。
【請求項5】
包材の形状が袋状であることを特徴とする請求項1〜4に記載の保存方法。

【公開番号】特開2009−196920(P2009−196920A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39252(P2008−39252)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】