説明

微生物醗酵生産物の製造方法

【課題】色相が良好で、異臭強度の小さいジオール体の、効率的製造法の提供。
【解決手段】次の式(1a)及び/又は(1b)


で表される化合物を基質として微生物変換し、該培養物からSP値7.5〜9.0〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある溶剤で抽出する。式(2)


で表される化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フランの製造中間体として有用な1−(2−ヒドロキシエチル)−2,5,5,8a−テトラメチルデカヒドロナフタレン−2−オールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン(以下、「化合物A」と表記する)は、抹香鯨の体内に生ずる病的分泌物アンバーグリースに含まれている香気成分で、アンバー系香料として欠かせない重要化合物である。化合物Aは、主にクラリーセージ(Salvia sclarea L.)から抽出されたスクラレオールを出発原料として化学合成法により製造されている。化合物Aの中間体としては、3a,6,6,9a−テトラメチルデカヒドロナフト[2,1−b]フラン−2(1H)−オン(以下、「スクラレオリド」と表記する)及び1−(2−ヒドロキシエチル)−2,5,5,8a−テトラメチルデカヒドロナフタレン−2−オール(以下、「ジオール体」と表記する)が知られている。
しかしながら、上記化学合成法では環境負荷が大きく、また収率、純度を十分に確保できないという問題があった。
【0003】
そこで、スクラレオールから微生物変換により化合物Aの中間体を得、これを環化させて化合物Aを製造する方法が報告されている(例えば特許文献1及び2)。
特許文献1及び2において、微生物変換により得られたジオール体の分離・精製は、培養液を酢酸エチルにより溶剤抽出した後、乾燥して得られた抽出物を温ヘキサン/酢酸エチル又はヘキサン/クロロホルムに溶解し、溶解液から結晶化することにより行っている。
しかし、スクラレオールから微生物変換により得られる培養液中には、ジオール体の他に未反応のスクラレオールやスクラレオリド、微生物、培地成分等が混在しているため、酢酸エチルを用いた溶剤抽出法ではジオール体のみの分離・精製は非常に困難であった。
そのため、培養液を特定範囲の目開きのフィルターを用いて濾過することにより菌体を分離後、フィルター上の残渣をエタノールに溶解して再度濾過等する方法により、ジオール体を高純度で回収する方法が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−224478号公報
【特許文献2】特開昭62−74281号公報
【特許文献3】特開2008−212087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように酢酸エチルを用いた溶剤抽出法で得られたジオール体の結晶化物は、ジオール体の純度が低いばかりか、黄色味がかり、異臭が強いものであった。特に、微生物由来の培養臭が強く、晶析によりジオール体を得たとしても、異臭低減、色相改善のための更なる精製が必要となり、製造工程が非常に煩雑となることが判明した。得られるジオール体に微生物由来の培養臭が強く残存することは、ジオール体が香料原料となることを考慮すれば、大きな問題である。
一方、菌体をフィルターで分離後、エタノールに溶解して濾過する方法は、2度の濾過を必要とすることからやはり製造工程が煩雑である。
【0006】
従って、本発明の課題は、色相が良好で、異臭強度の小さいジオール体を、より少ない工程で効率よく製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ジオール体の製造方法について鋭意検討したところ、微生物変換により得られる培養物をSP値7.5〜9.0〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある溶剤に混合すると、微生物由来の不純物を抽出することがないため、色相が良好で、異臭、特に培養臭の低減されたジオール体を回収できることを見出した。また、培養物をエタノールに混合したのでは溶剤相と水相に分離しないため、ジオール体を溶剤抽出することはできないが、SP値7.5〜9.0〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある溶剤であれば、ジオール体が該溶剤に溶解し、直接ジオール体を抽出できるので、培養物から一度の分離工程でジオール体を収率よく回収できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の式(1a)及び/又は(1b)
【0009】
【化1】

【0010】
で表される化合物を基質として微生物変換し、得られる微生物が含まれたままの培養物とSP値7.5〜9.0〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある溶剤とを混合し、次いで水相を除去する、式(2)
【0011】
【化2】

【0012】
で表される1−(2−ヒドロキシエチル)−2,5,5,8a−テトラメチルデカヒドロナフタレン−2−オールの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、色相が良好で、異臭の低減された高品質のジオール体を、少ない工程で効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、微生物変換に利用できる微生物としては、前記式(1a)及び/又は(1b)で表される化合物を基質として化合物A中間体であるジオール体を生成し、菌体外に産出する能力を有する微生物であれば特に限定されないが、例えば子嚢菌綱(Ascomycetes)に属する微生物、クリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物、担子菌綱に属する微生物、ハイホジーマ(Hyphozyma)属に属する微生物等が挙げられる。これらのうち、化合物A中間体であるジオール体の生成効率の点から、子嚢菌綱に属する微生物、ハイホジーマ属に属する微生物が好ましい。子嚢菌綱に属する微生物としては、例えば、Ascomycete sp. KSM−JL2842と命名され、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(住所:茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)にFERM P−20759として2006年1月12日に寄託された微生物が挙げられる。ハイホジーマ属に属する微生物としては、例えば特許第2547713号明細書に記載のATCC20624株が挙げられる。
【0015】
微生物変換に利用できる微生物は、化合物A中間体であるジオール体の生成能を指標として土壌から単離することができる。化合物A中間体であるジオール体の生成能は供試微生物を前記式(1a)及び/又は(1b)で表される化合物含有培地にて培養し、培地中に含まれる化合物A中間体であるジオール体を検出することで評価することができる。化合物A中間体であるジオール体の検出は、例えばガスクロマトグラフィー(GC)、気液クロマトグラフィー(GLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、赤外スペクトル(IR)、核磁気共鳴(NMR)等従来公知の分析方法を用いることができる。
【0016】
微生物変換時の培養条件としては、特に限定されず、前記式(1a)及び/又は(1b)で表される化合物を含み、該微生物が生育可能である培地であればいかなる組成の培地をも使用することができる。使用可能な培地としては、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、有機酸塩等の炭素源;無機・有機アンモニウム塩、窒素含有有機物、アミノ酸等の窒素源;塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、炭酸カルシウム等の金属ミネラル類及びビタミン類等を含有する固体培地及び液体培地等を挙げることができる。また、培養条件等に応じて界面活性剤や消泡剤を添加してもよい。
【0017】
培養条件として、至適pH範囲及び至適温度は特に限定されず、例えばpH3〜8、好ましくはpH4〜8、より好ましくはpH5〜7で、また液温10〜35℃、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜30℃である。培養日数は特に限定されず、例えば、基質添加から1〜10日である。培養は、振盪培養、通気培養、攪拌培養、嫌気培養、静置培養、醗酵層による培養の他、休止菌体反応及び固定化菌体反応も用いることができる。
【0018】
基質として培地に添加する前記式(1a)及び/又は(1b)で表される化合物の濃度は、化合物A中間体であるジオール体の生成効率の点から、培地中に0.1〜50質量%(以下、単に「%」と記載する)とすることが好ましい。基質は培養に先立って培地に添加してもよく、培養途中で添加してもよい。
【0019】
微生物変換によって得られる培養物には、前記式(2)で表されるジオール体の他に微生物変換に用いた微生物が混在しているが、本発明においては、この微生物が含まれたままの培養物を用いる。なお、培養物には、未反応のスクラレオール、スクラレオリド、培地成分等の不純物が含まれていてもよい。
【0020】
微生物が含まれたままの培養物は、SP値7.5〜9.0〔(cal/cm31/2〕(以下、単位を略す)の範囲内にある溶剤と混合する前に、菌体内に存在する夾雑物の溶剤への混入を抑制し、製造されるジオール体の匂い及び色相を良好なものとする点から、微生物に対して破砕・粉砕等の物理的処理、界面活性剤処理等の化学的処理、溶菌酵素等の生化学的処理等を行なわないことが望ましい。
【0021】
また、製造されるジオール体の匂い及び色相を良好なものとする点から、SP値7.5〜9.0の範囲内にある溶剤と混合する前に、培養物中の培地成分等の水分の一部をあらかじめ遠心分離等で除去することが好ましい。
遠心分離は、分離板型、円筒型、デカンター型等の一般的な遠心分離機を用いることができ、バッチ式、連続式のいずれを用いることもできる。遠心分離の条件としては、温度は5〜60℃であるのが好ましい。遠心力は培養物中の固形分量により適宜設定できるが、500〜20000Gが好ましく、1000〜10000Gがより好ましい。処理時間は、加速度により適宜設定できるが、1〜60分が好ましく、2〜30分がより好ましい。遠心分離に用いられる回転数は、例えば円筒型の場合、2000〜12000r/min、更に3000〜12000r/min、特に7000〜12000r/minが好ましい。
水分を一部除去した後の培養物(以下、「沈殿物」ともいう)中の水分は80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
微生物が含まれたままの培養物と混合するSP値7.5〜9.0の範囲内にある溶剤としては、例えばシクロヘキサン(SP値8.2)、4−メチル−2−ペンタノン(SP値8.4)、キシレン(SP値8.8)、トルエン(SP値8.9)等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、混合後の溶剤のSP値が前記範囲となるように、SP値7.5〜9.0の範囲外にある溶剤をも適宜組み合わせて、SP値が前記範囲となるように調製して用いてもよい。SP値7.5〜9.0の範囲内にある溶剤を用いることで、ジオール体の抽出時間を短縮化できると共に抽出時の溶剤の使用量を低減できるので、作業効率も向上する。
【0023】
ここで、SP値とは、溶解度パラメーターを示し、例えば、「SP値基礎・応用と計算方法」(株式会社情報機構,2005年)、Polymer handbook Third edition(A Wiley−Interscience publication,1989)等に記載されている。また、SP値の具体的数値が前記文献に記載されていない溶剤については、例えば、前記「SP値基礎・応用と計算方法」又はPolymer Engineering and Science,Vol.14,No.2,147−154(1974)等に記載されているFedors法を用いて、そのSP値を求めることができる。複数の溶剤を組み合わせて用いる場合は、各溶剤のSP値の体積平均値を計算することにより求める。
【0024】
溶剤は、ジオール体の回収率(歩留まり)や純度を向上させる点、及び匂い、色相を良好なものとする点から、SP値8.0〜9.0の溶剤を使用することが好ましく、更にSP値8.2〜9.0、特にSP値8.5〜9.0の溶剤が好ましい。
【0025】
本発明において、溶剤の使用量は、使用する溶剤により適宜設定することが好ましいが、ジオール体の溶解性、製造されるジオール体の匂い及び色相を良好なものとする点、及びジオール体の回収率(歩留まり)の点から、培養液100mLに対して10〜1000mLとするのが好ましく、10〜100mLとするのがより好ましい。特に、培養液に存在するジオール体1gに対し、1〜1000mLであるのが好ましく、10〜100mLであるのが好ましい。
【0026】
また、培養物と溶剤を混合した際の混合液の温度は、0〜80℃であることが好ましく、20〜65℃であることがより好ましい。このときの混合時間は、ジオール体の溶解性の点、及び製造されるジオール体の匂い・色相を良好なものとする点から、1〜120分であることが好ましく、5〜60分であることがより好ましい。
【0027】
次いで、混合液を溶剤相と水相に分離させ、水相を除去する。水相には、微生物や微生物由来の不純物等が含まれており、これにより不純物等を除去できる。また、培養臭も低減できる。溶剤相と水相を分離する手段としては、静置分離、遠心分離等が挙げられる。
静置分離は、10〜60分行い、溶剤相を分取することが好ましい。静置分離の温度は特に規定されないが、0〜80℃であることが好ましく、20〜65℃であることがより好ましい。
また、遠心分離は、前述の条件を用いることができるが、分離の状態により適宜条件を調整することができる。
【0028】
水相を除去した後の溶剤相は、溶剤相中の浮遊物を除去する点から、必要に応じて、さらに濾過してもよい。濾過は、吸引濾過、加圧濾過、遠心濾過や自然濾過等の一般的な方法を用いることができる。このうち吸引濾過が好ましい。濾過に用いる濾過フィルターの大きさは、ジオール体の回収率及び純度向上の点から、目開き0.1〜10μmが好ましく、特に目開き0.2〜1μmが好ましい。濾過フィルターの材質としては、溶剤耐性のあるものであれば特に限定されず、具体的には、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等の樹脂製、セラミック製、金属製等が挙げられる。
【0029】
かくして得られる溶剤相又は濾過液を、精製工程で通常行われる乾燥及び/又は晶析等することにより、ジオール体を収率よく得ることができる。本発明の方法により得られるジオール体は、色相が良好で、微生物由来の培養臭が低減されているため、色相改善・異臭低減のための精製工程を簡略化することができる。ジオール体の形態は、粉末状、固体状、液状等のいずれの形態であってもよい。
【0030】
精製工程で乾燥を行う場合、その方法は特に制限されないが、乾燥温度は室温〜90℃が好ましい。また、減圧乾燥を行ってもよい。
精製工程で晶析を行う場合、その方法は特に制限されないが、例えば、前記得られた溶剤相又は濾過液を、必要により活性炭濾過や精密濾過等の不純物除去操作を行った後、冷却、濃縮、貧溶媒の添加等により、ジオール体の結晶を析出させる方法がある。晶析に用いられる有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル等が挙げられ、メタノール、エタノール、イソプロパノールが好ましく、特にエタノールが好ましい。これら有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
貧溶媒の添加による場合は、ヘキサンや水を用いることが好ましい。
【0031】
本発明においては、乾燥及び/又は晶析等した後のジオール体の回収率(歩留まり)が60%以上、更に65%以上、特に70%以上であることが製造効率の点から好ましい。
更に、得られたジオール体は、酸性触媒、例えばp−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸クロリド、触媒量の硫酸又は酸性イオン交換体等を用いて、種々の溶媒中で脱水環化により化合物Aに変換することができる。
【実施例】
【0032】
[微生物変換]
Ascomycete sp.KSM−JL2842(FERM P−20759)株を2.1%YMブロスに1白金耳植菌し、25℃にて3日間振盪培養したものを種菌とした。次いで、2.1%YMブロス、0.1%硫酸マグネシウムからなる培地に0.3%植菌し、30L培養槽にて液温24℃、空気通気量0.5vvm、攪拌速度200r/minにて3日通気撹拌培養を行った。その後、10%Tween80(登録商標)、20%スクラレオールからなる基質を、培養液中のスクラレオール濃度が5%になるように添加し、基質添加から4日間1N NaOHおよび1N HClによるpH6.0制御の通気撹拌培養を行い、培養液を得た。なお、当該培養液には、ジオール体2.4%、スクラレオール0.3%、水分96.5%、その他固形分(菌体等)0.6%が含まれていた。
【0033】
[分析法]
スクラレオール、スクラレオリド及びジオール体は、培養液から酢酸エチルにて抽出し、適宜希釈してガスクロマトグラフィー(GC)分析を行い、その含有量を測定した。GC分析装置は6890N GC System(Agilent technologies社)で行い、分析条件は以下のとおりである。検出器としてはFID(Flame Ionization Detector)(Agilent technologies社)を使用し、注入口温度を250℃とし、注入法をスプリットモード(スプリット比100:1)とし、トータルフローを200mL/分とし、カラム流速を0.4mL/分とし、カラムはDB−WAX(φ0.1mm×10m)(J&W社)を使用し、オーブン温度を250℃とした。
【0034】
培養液の水分は、120℃の電気乾燥機を用いて2時間乾燥させ、質量減少量から算出した。
【0035】
[におい評価方法]
ジオール体の結晶のにおい評価は、パネル7名により次に示す基準に従って行い、その平均値をにおい評価値とした。
5:微生物培養液のにおいが強く残っている
4:微生物培養液のにおいがやや強く残っている
3:微生物培養液のにおいが少ない
2:微生物培養液のにおいが微少
1:微生物培養液のにおいが無い
【0036】
[抽出液の色の評価方法]
ジオール体抽出液の色の評価は、抽出液を遠心分離(装置:HITACHI CR22GII、ローター:R9AF2、条件:7420r/min、5分)して微生物を除去した後、得られた上澄み液の波長420nmにおける吸光度(装置:SHIMADZU UV−2450)、およびGC分析によりジオール体の濃度(g/L)を測定した。次いで、吸光度をジオール体の濃度(g/L)で除して、その値が小さいほど色相良好とした。
【0037】
[結晶の色の評価方法]
ジオール体の結晶の色は、測色色差計ZE−2000型(日本電色工業(株))で測定し、黄色味を示す値(b値)が小さいほど色相良好とした。
【0038】
実施例1
上記[微生物変換]で得られた培養液500mLに、トルエン(SP値8.9)500mLを加え、15分間混合(液温25℃)してジオール体を溶解し、30分の静置分離により微生物を含む水相を除去した。次いで、得られた溶剤相を60〜80℃減圧下で溶剤留去し、ジオール体を析出させた。次いで、70℃において乾燥することによりジオール体の結晶を得た。結果を表1に示す。
【0039】
比較例1及び2
トルエンを酢酸エチル(SP値9.1)又はヘキサン(SP値7.3)に代えた以外は、実施例1と同様についてジオール体の結晶を得た。結果を表1に示す。
【0040】
実施例2
上記[微生物変換]で得られた培養液500mLを円筒型の遠心分離機(装置:HITACHI CR22GII)を用い、25℃にて3000Gの加速度で5分間処理し、沈殿物を得た。沈殿物中の水分は60質量%であった。トルエン(SP値8.9)500mLに、前記培養液の沈殿物を加え、15分間混合(液温25℃)してジオール体を溶解し、同じ遠心分離機を用い、25℃にて6000Gの加速度で10分間処理し、微生物を含む水相を除去した。次いで、得られた溶剤相を60〜80℃減圧下で溶剤留去し、ジオール体を析出させた。次いで、70℃において乾燥することによりジオール体の結晶を得た。結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
上記[微生物変換]で得られた培養液500mLに、トルエン(SP値8.9)125mLを加え、15分間混合(液温60℃)してジオール体を溶解し、30分の静置分離により微生物を含む水相を除去した。次いで、得られた溶剤相を60〜80℃減圧下で溶剤留去し、ジオール体を析出させた。次いで、70℃において乾燥することによりジオール体の結晶を得た。結果を表1に示す。
【0042】
実施例4
トルエンを4−メチル−2−ペンタノン(SP値8.4)に代えた以外は、実施例2と同様についてジオール体の結晶を得た。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果から、培養物とSP値7.5〜9.0の範囲内にある溶剤とを混合し、水相を除去した後に溶媒を留去することにより得られたジオール体は、色相が良好で培養臭の低減された非常に品質の高いものであったが、溶剤のSP値を本発明の範囲外としたものは、黄色味がかり、培養臭が強いものであった。また、溶剤と混合する前に水分の一部を除去することにより、さらに色相が良好であり培養臭が低減され、ジオール体の収率も向上した。本発明の方法によれば、ジオール体の回収率(歩留まり)は70%以上と高く、製造方法としては十分な効率であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1a)及び/又は(1b)
【化1】

で表される化合物を基質として微生物変換し、得られる微生物が含まれたままの培養物とSP値7.5〜9.0〔(cal/cm31/2〕の範囲内にある溶剤とを混合し、次いで水相を除去する、式(2)
【化2】

で表される1−(2−ヒドロキシエチル)−2,5,5,8a−テトラメチルデカヒドロナフタレン−2−オールの製造方法。
【請求項2】
前記溶剤のSP値が8.0〜9.0〔(cal/cm31/2〕の範囲内である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶剤が、シクロヘキサン、4−メチル−2−ペンタノン、キシレン及びトルエンから選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
微生物が含まれたままの培養物と前記溶剤とを混合する前に、培養物中の水分を80質量%以下に低減する工程を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−45250(P2011−45250A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193954(P2009−193954)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】