説明

微粒子キチン類の製造方法

【課題】キチン類を一度も溶解することなく微粒子キチン類を経済的に提供できる微粒子キチン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】キチン類の分子量を低下させた後に、乾式粉砕機で粉砕することを特徴とする微粒子キチン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子キチン類の製造方法に関し、特に他の汎用高分子化合物との複合化に有用な微粒子キチン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンは、エビ、カニなどの甲殻に存在する多糖であり、一般的にはそれら甲殻から共存する炭酸カルシウム、タンパク質を分解除去することによって得られる。また、キチンを脱アセチル化するとキトサンが得られる。このキチンとキトサンとを区別する明瞭な定義はない。そこで本発明では、キチン、キトサンまたはその誘導体、例えば、カルボキシメチル化物、ヒドロキシアルキル化物、シアノエチル化物、アルキル化物、アシル化物、スルホン化物、塩などを全て含めて「キチン類」と称する場合がある。
【0003】
上記キチン類は、生理活性を持つ天然系機能性高分子化合物として、例えば、火傷創傷被覆材、抗菌素材、化粧品原料、植物活性剤など、極めて広範な分野で利用されている。また、キチン類がユニークな生理活性を持ち、生体適合性がよく、さらに生分解性の高分子化合物であることを利用する方法として各種基材との複合化が試みられている。
【0004】
キチン類の機能付与を目指した複合化方法に、キチン類粒子と他の高分子化合物との複合化がある。この複合化方法は、キチン類・セルロースブレンド繊維の場合のように両者がともに溶液でなければならないという制約がなく汎用性に優れている。例えば、低融点のポリエチレン溶融物中にキチン類粒子を混合することによって簡便にキチン類・ポリエチレン複合体を得ることができる。
【0005】
また、基材である高分子化合物溶液にキチン類粒子を混合した溶液から常法に従ってキチン類粒子含有粒子、繊維、膜などを得ることができる。このキチン類粒子を使用する複合方法は基本的に複合する相手に対する制約が少なく、汎用性が広い点で大きなメリットがあるが、複合化されたキチン類粒子と相手の高分子化合物との間に充分な化学的な結合がなく、単に物理的、電気的な力で複合化されているに過ぎないことが多い。そのために特にキチン類粒子の粒径が充分に微小でないと複合物からのキチン類粒子の脱落が問題になる。
【0006】
また、生分解速度を速める意味からもキチン類粒子は微粒子のほうが有利であり、また、生分解速度を速める意味からもキチン類の分子量もある程度低い方が有利である。従って特に高い機械的強度を必要としない、例えば、植物活性調整剤用途、生分解性材料などでは低分子量の微粒子キチン類が有効である。
【0007】
しかしながら、キチン類は、高分子化合物の中でも特に難粉砕性の物質であり、現状市販されている乾式粉砕機では粒径100μm以下の微粒子キチン類を得ることは極めて困難である。そのため、キチンを塩酸あるいは硫酸に溶解後、多量の水を加えることによりコロイド状のキチンを製造する方法(非特許文献1)、液中硬化法によりキトサンナノ粒子を得る方法(特許文献1)、キチンを一旦は溶液とした後、噴霧乾燥或は沈澱法により粉体を得る方法(特許文献2および特許文献3)も公開されている。
【0008】
これら方法は何れも溶媒中にキチン類が分散、あるいは溶解しているため、溶液分散タイプで使用可能な用途には適しているが、乾燥粉体でなければならない、例えば、プラスティックとの複合用途には使用できない。また、上記溶液または分散液を乾燥して微粒子キチン類を得ようとすると、微粒子キチン類の凝集が起こることは避けられない。また、キチン類の希薄溶液から乾燥によって微粒子キチン類を得る場合には、その乾燥に多大のエネルギーを必要とし、不経済である。
【特許文献1】特開平9−221502号公報
【特許文献2】特開昭63−20302号公報
【特許文献3】特開昭55−133401号公報
【非特許文献1】「1.2コロイド状キチンの調製法」キチン、キトサン実験マニュアル、p5、キチン キトサン研究会編、技報堂出版株式会社、1991年3月25日1版1刷発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、キチン類を一度も溶解することなく微粒子キチン類を経済的に提供できる微粒子キチン類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、以下の構成の本発明によって達成される。
1.キチン類の分子量を低下させた後に、乾式粉砕機で粉砕することを特徴とする微粒子キチン類の製造方法。
2.キチン類の分子量低下を、酸化剤による酸化分解方法、プロトン酸による酸加水分解方法、電子線照射方法、あるいは物理的応力付加方法で行なう前記1に記載の製造方法。
【0011】
3.物理的応力付加方法が、乾式粉砕方法である前記2に記載の製造方法。
4.キチン類を乾式粉砕機(A)で粉砕した後、該粉砕機(A)とは粉砕方式の異なる粉砕機(B)で粉砕する前記1に記載の製造方法。
5.乾式粉砕機(B)が、ジェットミル、あるいはボールミルであり、粉砕機(A)がジェットミルおよびボールミル以外の乾式粉砕機である前記4に記載の製造方法。
【0012】
6.キチン類を粉砕機(A)により目開き400μmの篩を90質量%以上通過するように粉砕する前記5に記載の製造方法。
7.キチン類を粉砕機(A)により目開き200μmの篩を90質量%以上通過するように粉砕する前記5に記載の製造方法。
8.キチン類がキチンであり、乾式粉砕前のキチンの分子量を、キチンをキトサンとしたときの該キトサンの0.5質量%の溶液の粘度を700mPa・s以下とする前記1に記載の製造方法。
【0013】
9.キチン類がキチンであり、乾式粉砕前のキチンの分子量を、キチンをキトサンとしたときの該キトサンの1.0質量%の溶液の粘度を700mPa・s以下とする前記1に記載の製造方法。
10.キチン類がキトサンであり、乾式粉砕前のキトサンの1.0質量%溶液の粘度を700mPa・s以下とする前記1に記載の製造方法。
11.キチン類がキチンまたはキトサンの水溶性誘導体であり、乾式粉砕前の該誘導体の1.0質量%の水溶液の粘度を700mPa・s以下とする前記1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
現状工業的に生産されているキチン類は、カニ、エビなどの甲殻、あるいはイカの甲を原料としている。本発明者らはキチン類を一旦塩酸、硫酸などのプロトン酸で酸加水分解してカニ、エビなどの甲殻、あるいはイカの甲などの原料中に存在するキチン類より多少でも低分子量化したキチン類とし、このキチン類を出発物質に、過酸化水素、次亜塩素酸などの酸化剤で酸化分解する方法、塩酸、硫酸などで酸加水分解などの化学分解で低分子量化する方法、電子線照射によって低分子量化する方法、および粉砕機で機械的衝撃によって低分子量化する方法の何れか単独、あるいは2種以上を組み合わせた後、最終的にボールミル、振動ミルなどの乾式媒体ミルあるいは高圧気体を利用したジェットミルによって粉砕することによって、ボールミル、振動ミルなどの乾式媒体ミルあるいは高圧気体を利用したジェットミルのみでは粉砕できなかった粒径100μm以下の粒子が90%以上の微粒子キチン類の乾燥体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
キチン類は、カニ、エビなどの甲殻類の甲殻、微生物の細胞壁、キノコなど自然界に広く分布する多糖であり、本来的にはキチン類含有生物中のキチン類の何れも本発明の対象となり得るが、実際的には収穫のし易さなどの理由から、カニ、エビ、シャコなどの甲殻、あるいはイカの甲が原料として使用されており、本発明においてもこれらを使用することが好ましい。また、従来知られている、例えば、EDTAを使用する方法、タンパク分解酵素を使用する方法、ハックマンの方法あるいはその改良法によって単離したキチン類の何れも使用可能である。上記キチン類の単離純度も必ずしも100%である必要はなく、目的に応じてキチン類含有生物中のキチン類と共存するタンパク質、無機物を残したものでもよい。場合によってはこれらキチン類含有生物からキチン類を単離せず、そのまま微粒子キチン類の原料として使用することもできる。
【0016】
また、本発明ではキチンを脱アセチル化したものもキチン類に含める。キチン、あるいはキチンの脱アセチル化物であるキトサンの何れかのカルボキシメチル化、ヒドロキシアルキル化、スルホン化、シアノエチル化、アルキル化、アシル化生成物、キチンまたはキトサンの酸との塩も使用できる。
【0017】
本発明において乾式粉砕機で粉砕する前のキチン類を低分子量化する方法としては、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸などの酸化剤による酸化分解方法;塩酸、硫酸などのプロトン酸による酸加水分解方法;電子線照射方法;あるいはピンミル、ハンマーミル、ボールミル、振動ミル、石臼、遊星運動ミルなどの粉砕機によってキチン類に物理的応力を加えて機械的にキチン類を低分子量化する方法のいずれでもよく、これら低分子量化方法の2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの低分子量化方法の条件も特に限定されない。
【0018】
上記低分子量化されたキチン類の好ましい分子量は、キチン類がキチンである場合、該キチンをキトサンとしたとき、その0.5質量%溶液の粘度が700mPa・a以下となる分子量である。さらに粉砕効率を考えれば、乾式粉砕前のキチンの分子量を、キチンをキトサンとしたときの該キトサンの1.0質量%の溶液の粘度が700mPa・s以下とすることが望ましい。また、キチン類がキトサンである場合、乾式粉砕前のキトサンの1.0質量%溶液の粘度が700mPa・s以下とすることが好ましく、さらにキチン類がキチンまたはキトサンの水溶性誘導体である場合、乾式粉砕前の該誘導体の1.0質量%の水溶液の粘度が700mPa・s以下とすることが好ましい。
【0019】
特にキチン類の中でキチンは難溶解性の高分子化合物であり、キチンを有効に溶解できる溶媒はジメチルアセトアミド−塩化リチウム系などの特殊な溶媒しか知られておらず、分子量の測定は困難である。そこで本発明においては以下の方法でキチンを脱アセチル化して希酢酸水溶液に可溶なキトサンとし、その希酸水溶液粘度をキチンの分子量の指標とする。
【0020】
具体的には電気伝導度1μS以下のイオン交換水および試薬特級グレードの水酸化ナトリウムを使用して42質量%水酸化ナトリウム水溶液を調製する。この42.0質量%水酸化ナトリウム水溶液500gを500mlの4つ口セパラブルガラスフラスコに入れ、4つの口にガラス製櫂型羽根付攪拌棒、温度計、窒素導入管(導入管の先端がフラスコ内溶液表面から少なくとも1/3以上液中に浸漬するようセットする)、コンデンサーをセットし、流量約2L/分の窒素気流下、100〜150回転/分にて攪拌しながら100℃まで加熱、10〜20分間100〜105℃に保持した後、20℃まで冷却する。窒素は終始流したまま、キチン20gを加え、流量約2L/分の窒素気流下、20℃にて100〜150回転/分にて1時間攪拌した後、約1時間かけて60℃まで昇温し、温度60〜65℃で16時間攪拌する。
【0021】
その後、速やかに内容物(キトサン)と水酸化ナトリウム水溶液をろ別し、ろ別したキトサンを10〜15℃のイオン交換水1Lに加え10分間攪拌した後、キトサンをろ別する。この操作を15回繰り返す。その後真空乾燥機中減圧下50℃で16時間乾燥して含水率10質量%以下の乾燥キトサンを得る。以後の粘度測定にはこのキトサンを使用するが、蒸発分補正のために、このキトサンを105℃、24時間乾燥し、乾燥減量(A質量%)を求め、蒸発残分「(100−A)%」計算しておく。
【0022】
溶液粘度は測定可能粘度範囲があるので、一台の粘度計で対応するため、測定溶液の濃度を2種類とする。中分子量キトサンの測定はキトサン蒸発残分「(100−A)%」濃度1質量%、酢酸濃度1質量%とし、比較的高粘度の場合はキトサン蒸発残分「(100−A)%」濃度0.5質量%、酢酸濃度0.5質量%とする。
【0023】
200mlガラスビーカーに電気伝導度1μS以下のイオン交換水約150gを取り、20℃とする。これに上記で得た乾燥キトサンの蒸発残分質量で2.0g(1質量%溶液)、あるいは1.0g(0.5質量%溶液)を入れ、長さ約50mm、太さ約8mmの樹脂コーティングした回転子にて20〜22℃、約1分間低速で攪拌する。次に試薬特級グレード酢酸2.0g(1質量%溶液)、あるいは1.0g(0.5質量%溶液)を加え、さらに電気伝導度1μS以下のイオン交換水を加えて、最終的に液量が200.0gになるよう調整した後、20〜22℃で攪拌する。ビーカー上部をラップ類などで蓋をした後、溶液粘度の上昇に合わせて液表面の中心部が1〜2mm程度へこむ程度に回転数を調整し温度20〜22℃で攪拌を3時間続ける。その後攪拌を止め温度20〜22℃で10時間静置する。
【0024】
その後、温度20〜22℃で液表面の中心部が1〜2mm程度へこむ程度に回転数を調整し攪拌を1時間続けた後、20℃で回転粘度計(東機産業(株) TV−10M型)にて粘度測定を行う。粘度計の回転数30rpm、測定時間1分とし、溶液粘度が2〜20mP・sのときはローターナンバー19のローター、溶液粘度が20〜200mP・sのときはローターナンバー20のローター、溶液粘度が200〜1000mP・sのときはローターナンバー21のローター、溶液粘度が1000〜4000mP・sのときはローターナンバー22のローターを使用する。
キチンの中、希酸可溶性誘導体であるキトサンも当然上記脱アセチル化後のキトサンと同様に上記溶液粘度で評価する。また、キチン、キトサンの水溶性誘導体は酢酸を使用せず、誘導体濃度1.0質量%水溶液を上記方法で粘度測定して評価する。
【0025】
本発明において、キチンの脱アセチル化度は以下の方法で測定する。基本的にはキチンをp−トルエンスルホン酸で加水分解し、遊離する酢酸をヨウ素に吸収させ、残存するヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定することによって酢酸のモル数(m)を求める。この(m)は同時にキチン中のN−アセチルグルコサミン単位のモル数である。
キチン中のグルコサミン単位のモル数を(n)とすると、
n=(キチン質量−203m)/161
脱アセチル化度%=n/(m+n)×100
上記分析は基本的にEKEKとHARTEの方法(Ind.Eng.Chem.,Anal.Ed.8(4)267(1936))で行うが、キチンは吸湿性が高いので、精秤することが難しい。そこで、以下の工夫を行う。
【0026】
微粒子キチンを真空乾燥機中、減圧下、60℃で24時間予備乾燥させておく。別にパイレックス(登録商標)ガラス管の一端を溶融して閉じた後、膨らませて浮沈子を作製する。その大きさは以降の分析に使用するガラス容器に挿入できる大きさとする。この浮沈子の開放されている一端を密閉できるポリプロピレン製(以降の分析に障害をおこす物質を含まないことを確認する。)の蓋を用意する。この浮沈子および蓋を真空乾燥機中、減圧下、60℃で24時間予備乾燥および乾燥剤入りデシケータを使用して常法により恒量にし、質量(A質量部)を測定しておく。
【0027】
次にこの浮沈子中に微粒子キチンを入れ、ポリプロピレン製蓋とともに、浮沈子の開放されている一端を開放したまま上向きに垂直に立てて、真空乾燥機中、減圧下、60℃で24時間乾燥後、静かに減圧を解除し、常圧下105℃で2時間乾燥する。その後乾燥機を開け、乾燥機中で速やかに浮沈子の開放口をポリプロピレン製蓋でふさぎ、デシケーター中で放冷して質量(B質量部)を測定する。
【0028】
次に浮沈子の蓋を外しEKEKとHARTE法の加水分解のためのガラスフラスコに入れる。その後ガラスフラスコの上部からガラス棒を入れ、フラスコ中の浮沈子の膨らんだ部分を割った後、ガラス棒をフラスコ中で少量の蒸留水にて洗浄後、引き抜いて滴下ロート、コンデンサー、受け器、減圧ライン、キチン以外の試薬をEKEKとHARTE法の通りセットする。念のため、加水分解時間は5時間とし、その後は生成した酢酸のヨウ素液への吸収、ヨウ素液のチオ硫酸ナトリウム滴定を行い、滴定量から酢酸のモル数(m)を求め、これと仕込んだキチン質量(B−A)を使用して上記式により脱アセチル化度を算出する。
【0029】
キトサンの脱アセチル化度は以下のコロイド滴定法で測定する。
1.キトサンの蒸発残分
1)恒量にした秤量瓶に試料1.5gを正確に測り採り、質量A(g)を記録する。
2)秤量瓶の蓋を外した状態で105℃送風乾燥機に入れ、1.5時間加熱する。
3)送風乾燥機中で秤量瓶に蓋をした後、シリカゲルデシケーターに取り出して放冷する。
4)質量を測定し、下記計算式[1]に従って蒸発残分を計算する。
キトサンの蒸発残分(%)={加熱・放冷後の(秤量瓶+試料)質量(g)−秤量瓶風袋の恒量(g)}÷試料質量A(g)×100…[1]
【0030】
2.キトサン/酢酸水溶液の溶解
1)200mlガラスビーカーに上記1)の蒸発残分換算質量1.00gを正確に測り採る。
2)水198.0gを加え、マグネットスターラーで攪拌、分散する。
3)酢酸1mlをメスピペットで測り採り、上記分散溶液へ滴下する。
4)ビーカーにポリラップ(登録商標)で蓋をして、20〜25℃で約4時間、十分に攪拌の後に攪拌を止め、20〜25℃の室内に一晩(約16時間)静置する。
5)静置の後、再び20〜25℃で約2時間、十分に攪拌する。
【0031】
3.コロイド滴定
1)200mlガラスビーカーに、上記1)で溶解した水溶液20.00gを正確に測り採り、水180.0gで蓋をし、を加えてポリラップマグネットスターラーで1時間攪拌する。
2)攪拌の後、200mlコニカルビーカーに溶液10.00gを正確に測り採り、水50mlと0.1%トルイジンブルー水溶液2〜3滴を加えて混合する。
3)コロイド滴定試薬N/400ポリビニル硫酸カリウム水溶液でコロイド滴定を行う。終点は、水溶液の着色が青色から赤紫色に変わる点とする。
【0032】
4.脱アセチル化度の計算方法
下記計算式[2]に従ってキトサンの脱アセチル化度を計算する。
脱アセチル化度(%)=(遊離アミノ基)÷{(遊離アミノ基)+(結合アミノ基)}×100…[2]
=(X/161)÷{(X/161)+(Y/203)}×100
ここで、X=キトサン中の遊離アミノ基質量=1/400×1/1000×F×161×(V−B)、Y=キトサン中の結合アミノ基質量=0.5×1/100−X
161:グルコサミン残基の当量分子量
203:N−アセチルグルコサミン残基の当量分子量
F:N/400ポリビニル硫酸カリウム水溶液のファクター
V:N/400ポリビニル硫酸カリウム水溶液の試料での滴定値(ml)
B:N/400ポリビニル硫酸カリウム水溶液の空試験での滴定値(ml)
【0033】
「試薬」
(1)酢酸:試薬特級
(2)N/400ポリビニル硫酸カリウム水溶液:和光純薬 Lot.YPG8290 F=1.01 2004年11月16日購入(N/400ポリビニル硫酸カリウム水溶液は2004年に新タイプが発売された。ここでは改善された新タイプを使用するとする。)
(3)トルイジンブルー指示薬溶液:和光純薬 Lot.YLK9939
【0034】
微粒子キチン類の粒度は、以下の方法で測定する。粒度分布の測定は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置〔(株)堀場製作所製LA−300(レーザー光波長;650nm)〕を用いて行い、微粒子キチン類30〜50mgを試薬特級グレードのメタノール100mlと混合し、超音波バス(出力300W、周波数40kHz)で1分間分散させた後、バッチ式セルにセットし、透過率が70〜95%の範囲内になるよう試料濃度を調整した後測定した。測定条件としては、データ取り込み回数10回、反復回数30回、屈折率は1.50−0.00iの値を入力し、粒度分布は体積基準として計算を行った。測定は溶解性に左右されることのないようメタノールを分散媒として使用する。
【0035】
本発明の好ましい実施形態では、例えば、キチンを先ず塩酸、硫酸などのプロトン酸で低分子量化する。キチンの単離の際の塩酸による脱炭酸カルシウム工程で同時に低分子量化を行うと好都合である。例えば、カニ殻1質量部を水30質量部に分散させておき、これに1質量部以上の塩酸を加え、20℃以上で好ましくは30℃以上で5時間以上攪拌する。これによって得られたキチンをキトサン化したときの0.5質量%溶液粘度が700mPa・s以下にまで低分子量化したキチンが得られる。
【0036】
このキチンを、過酸化水素、次亜塩素酸などの酸化剤による酸化分解方法;塩酸、硫酸などで酸加水分解する方法;電子線照射方法;ピンミル、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミルなどの各種粉砕機で機械的応力による方法等で低分子量化する。上記方法は基本的には単独でも使用可能であるが、それぞれ一長一短があり、また、最終目的物が微粒子キチン類であるので、単独でもよいが目的に応じて組み合わせて使用することが好ましい。
【0037】
例えば、電子線による低分子量化が操作としては最も簡便であり、これと粉砕機との組み合わせが有効であるが、電子線照射物は食品用途には使用できないという制限がある。化学分解は通常水中反応なので、粉砕前に乾燥する必要がある。この意味からは粉砕機による方法が最も有効であり、特に粒径100μm以下の粒子が90%以上である微粒子キチン乾燥粉体、その中でも粒径50μm以下の粒子が50%以上である微粒子キチン乾燥粉体を得るためにはジェットミルあるいはボールミルが有効であるが、低分子量化していないキチン含有原料生物そのまま、あるいは必要な低分子量化をしておらず、キトサンにしたときの0.5質量%溶液粘度が700mPa・sを超えるキチンを使用した場合、粉砕機単独で目的の粒度にすることはできない。そこで最終的にジェットミルあるいはボールミルで粉砕する前にジェットミル以外のハンマーミル、ピンミル、ボールミル、振動ミル、遊星運動ミルなど衝撃あるいは/およびずり応力型のキチンの低分子量化を引き越す能力を持った粉砕機で低分子量化することが望ましい。
【0038】
低分子量化並びに粉砕条件は目的とする微粒子キチン類乾燥粉体の希望粒度、分子量、脱アセチル化度、それぞれの組み合わせに応じて適切に選択すればよい。得られた微粒子キチン類乾燥粉体は水分を含んでいてもよく、特に再乾燥しなくてもよいが、粉砕後の水分量が10質量%以上であり、それ以下にしたいなどの要望がある場合は粉砕後に乾燥してもよい。
【実施例】
【0039】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、文中「部」または「%」とあるのは、アセチル化度および粒度分布を除き特に断りのない限り質量基準である。
【0040】
実施例1
目開き4mmの篩を通過させた粗砕カニ殻1部を水30部に分散させておき、これに1部以上の塩酸を加え、20℃以上で好ましくは30℃以上で5時間以上攪拌する。その後、脱カルシウムカニ殻をろ別し、水30部中に再分散した後、ろ別する。この操作を10回繰り返した後、水30部中に再分散し、水酸化ナトリウム3部を加え、70℃まで加熱攪拌3時間した後、キチンをろ別し、水30部中に再分散した後、ろ別する。この操作を10回繰り返した後、50℃の温風にて20時間乾燥してキチンを得た。このキチンをキトサンとし、0.5%の溶液粘度を測定したところ、500mPa・sであった。これを以下の実施例の粉砕用原料キチンとする。
【0041】
このキチン100部を水2,000部に分散し、炭酸ナトリウム2.5部を加えた後、亜臭素酸ナトリウム0.15部を加え、室温で6時間攪拌した。キチンをろ別し、水30部中に再分散した後、ろ別する。この操作を5回繰り返した後、50℃の温風にて20時間乾燥してキチンを得た。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、480mPa・sであった。
【0042】
このキチンをハンマーミルで粉砕し、目開き400μmの篩を通過させた。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、180mPa・sであった。さらにこのキチンをボールミルにて48時間粉砕して、粒度分布を測定したところ粒度分布の中心が11μm、100μm以下が90%以上の粒子が得られた。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、38mPa・sであった。さらにこのキチンをジェットミル粉砕して、粒度分布の中心が4.2μm、10μm以下が100%の粒子を得た。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、6mPa・sであった。
【0043】
さらにこのキチンをジェットミル粉砕して、粒度分布の中心が3.0μm、10μm以下が100%、1〜10μmが99%の粒子を得た。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、5mPa・sであった。このものの脱アセチル化度は15%であった。
【0044】
実施例2
実施例1の原料キチンを脱アセチル化して脱アセチル化度52%のキチンを得た。このものは希酢酸に可溶であり、キトサンと同様1.0%の溶液粘度を測定したところ、590mPa・sであった。これをピンミルで粗砕後、遊星運動ミルで粉砕し、目開き200μmの篩を通過するキチン粒子を得た。これを2つに分け一方をボールミルで粉砕して、粒度分布の中心が30μm、100μm以下が90%以上の粒子を得た。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、340mPa・sであった。
【0045】
もう一方のキチンをジェットミル粉砕して、粒度分布の中心が5.5μm、10μm以下が75%、100μm以下が90%以上の粒子を得た。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、14mPa・sであった。このものの脱アセチル化度は52%であった。
【0046】
比較例1
目開き4mmの篩を通過させた粗砕カニ殻1部を氷水30部に分散させておき、さらに外部からも氷冷する。これに0.8部の塩酸を攪拌下、内温が3℃以上にならないよう少量ずつ滴下した。滴下終了後内温が3℃以下で5時間以上攪拌する。その後、脱カルシウムカニ殻をろ別し、水30部中に再分散した後、ろ別する。この操作を10回繰り返した後、窒素気流下、水30部中に再分散、水酸化ナトリウム3部を加え、40℃まで加熱攪拌3時間した後、キチンをろ別し、水30部中に再分散した後、ろ別する。この操作を10回繰り返した後、減圧下40℃にて20時間乾燥してキチンを得た。このキチンをキトサンとし、0.5%の溶液粘度を測定したところ、2,500mPa・sであった。これをして冷凍粉砕し目開き358μmの篩を通過するキチン粒子を得た。このものの1.0%の溶液粘度を測定したところ、1,345mPa・sであった。このものをジェットミルで粉砕したが、度々オーバーロードして機械がストップしてしまった。僅かに粉砕されたものの顕微鏡観察をしたところ、50μmの粒径の粒子も観察されたが、200〜300μmの繊維状のものが多くあり、目的の粒径のものは得られなかった。
【0047】
実施例3
比較例1の冷凍粉砕品100部を水2,000部に分散し、硫酸60部を攪拌下加え、35℃、5時間加水分解した後、水酸化ナトリウムで硫酸を中和した。キチンをろ別し、水30部中に再分散した後、ろ別する。この操作を10回繰り返した後、減圧下40℃にて20時間乾燥してキチンを得た。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、125mPa・sであった。これを2つに分け一方をボールミルで粉砕して、粒度分布の中心が22μm、100μm以下が90%以上の粒子を得た。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、104mPa・sであった。
【0048】
もう一方のキチンをジェットミル粉砕して、粒度分布の中心が5.0μm、10μm以下が75%、100μm以下が90%以上の粒子を得た。このキチンをキトサンとし、1.0%の溶液粘度を測定したところ、13mPa・sであった。このものの脱アセチル化度は13%であった。
【0049】
実施例4
実施例1の原料キチン1部を45%水酸化ナトリウム水溶液中30部に浸漬し、80℃で6時間攪拌した後、キトサンをろ別し、水30部中に再分散した後、ろ別する。この操作を10回繰り返した後、再びキトサン1部を45%水酸化ナトリウム水溶液中30部、過酸化水素0.05部を加えた中に浸漬し、80℃で6時間攪拌した後、キトサンをろ別し、水30部中に再分散した後、ろ別する。この操作を10回繰り返した。50℃の温風にて20時間乾燥して脱アセチル化度98%のキトサンを得た。このものの1.0%の溶液粘度を測定したところ、600mPa・sであった。これを2つに分け一方をボールミルで粉砕して、粒度分布の中心が10μm、100μm以下が90%以上の粒子を得た。このキトサンの1.0%の溶液粘度を測定したところ、35mPa・sであった。
【0050】
もう一方のキチンをジェットミルで粉砕して、粒度分布の中心が4.8μm、10μm以下が85%、50μm以下が90%以上の粒子を得た。このキトサンの1.0%の溶液粘度を測定したところ、12mPa・sであった。
【0051】
実施例5
実施例4で温風乾燥したキトサンを出発物質して含水アルコール中でピロリドンカルボン酸と造塩反応を行いった後、ろ別し、含水アルコールで洗浄し、乾燥したキトサンのピロリドンカルボン酸塩を振動ミルで粉砕して目開き200μmの篩を通過するキトサンのピロリドンカルボン酸塩粒子を得た。このキトサンのピロリドンカルボン酸塩粒子を純水に1.0%濃度で溶解し、溶液粘度を測定したところ98mPa・sであった。このものをジェットミルで粉砕し、粒度分布の中心が4.8μm、10μm以下が85%、50μm以下が100%の粒子を得た。このキトサンのピロリドンカルボン酸塩粒子を純水に1.0%濃度で溶解し、溶液粘度を測定したところ4mPa・sであった。
【0052】
実施例6
実施例1のハンマーミルで粉砕したキチンを出発物質して含水アルコール中で大過剰のモノクロル酢酸ナトリウム反応させ、カルボキシメチルキチンを得た。これをろ別し、含水アルコールで洗浄し、乾燥したカルボキシメチルキチンをピンミルで粉砕して目開き200μmの篩を通過するカルボキシメチルキチン粒子を得た。このカルボキシメチルキチンを純水に1.0%濃度で溶解し、溶液粘度を測定したところ53mPa・sであった。このものをボールミルで粉砕し、粒度分布の中心が20μm、100μm以下100%の粒子を得た。このカルボキシメチルキチンを純水に1.0%濃度で溶解し、溶液粘度を測定したところ4mPa・sであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上の如き本発明によれば、キチン類を一度も溶解することなく微粒子キチン類を経済的に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチン類の分子量を低下させた後に、乾式粉砕機で粉砕することを特徴とする微粒子キチン類の製造方法。
【請求項2】
キチン類の分子量低下を、酸化剤による酸化分解方法、プロトン酸による酸加水分解方法、電子線照射方法、あるいは物理的応力付加方法で行なう請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
物理的応力付加方法が、乾式粉砕方法である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
キチン類を乾式粉砕機(A)で粉砕した後、該粉砕機(A)とは粉砕方式の異なる粉砕機(B)で粉砕する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
乾式粉砕機(B)が、ジェットミル、あるいはボールミルであり、粉砕機(A)がジェットミルおよびボールミル以外の乾式粉砕機である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
キチン類を粉砕機(A)により目開き400μmの篩を90質量%以上通過するように粉砕する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
キチン類を粉砕機(A)により目開き200μmの篩を90質量%以上通過するように粉砕する請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
キチン類がキチンであり、乾式粉砕前のキチンの分子量を、キチンをキトサンとしたときの該キトサンの0.5質量%の溶液の粘度を700mPa・s以下とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
キチン類がキチンであり、乾式粉砕前のキチンの分子量を、キチンをキトサンとしたときの該キトサンの1.0質量%の溶液の粘度を700mPa・s以下とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
キチン類がキトサンであり、乾式粉砕前のキトサンの1.0質量%溶液の粘度を700mPa・s以下とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
キチン類がキチンまたはキトサンの水溶性誘導体であり、乾式粉砕前の該誘導体の1.0質量%の水溶液の粘度を700mPa・s以下とする請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−2095(P2007−2095A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183731(P2005−183731)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】