説明

微粒子状ガスハイドレートの回収法

【課題】堆積物中の微粒子状の天然ガスハイドレート結晶を分解させることなく回収する方法及び天然ガスハイドレート結晶を回収する回収装置を提供する。
【解決手段】微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系から、ガスハイドレート分解温度以下に冷却した雰囲気中で、穴径20〜100マイクロメートルの篩を用いて、微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系を篩い分けし、ガスハイドレートを分離するガスハイドレート微粒子の回収方法及びこれを具体化した回収する装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在するものからガスハイドレート粒子を回収するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスハイドレートは氷に似た結晶性物質であり、低温・高圧条件下で水分子が結びついてできるかご状構造(ケージ)内にガス分子を包蔵した包接化合物である。
ガスハイドレートは高いガス包蔵性を有し、メタンを主成分とする場合、ハイドレート結晶1立方メートル当たり約170倍のメタンガスを包蔵する(非特許文献1)。ガスハイドレートの結晶は大きく分けてI型、II型およびH型の3種類に分類され、ガス種によってその結晶構造は異なる(非特許文献1参照)。
近年、天然ガスを包蔵した天然ガスハイドレートが海底・湖底の堆積層中および永久凍土下層に賦存していることが示され、非在来型の天然ガス資源として期待されている。日本近海においても、海底堆積層中に大量の天然ガスハイドレートが集積していることが確認されており、その資源量の調査や回収法の開発が行われている。
【0003】
最近、天然ガスハイドレートは結晶構造とそのガス包蔵性に相関があることが示された(非特許文献2を参照)。これまでは、ガスハイドレートを分解させることなく結晶構造ならびにガス包蔵性を解析する手法としては粉末X線回折法、13C核磁気共鳴法およびラマン分光法などが用いられてきた(非特許文献3参照)。堆積層中に集積する天然ガスハイドレート結晶粒は様々な形態をとるが、塊状の結晶粒の場合は識別が容易なため従来の解析手法が適用できる。しかしながら、肉眼で識別できない堆積層中の微粒子状ガスハイドレートについては、常温でのガス発生の有無を観察するか(非特許文献3)、ハイドレート分解時の温度の低下を検出するなどしてハイドレートを識別していた(非特許文献4)。そのため、微粒子状のガスハイドレートを分解させることなく回収し識別する手法の確立が求められている。
【0004】
一方、これまでに提案されてきたガスハイドレートの掘削回収方法として、海面付近と海底を貫くように設置された輸送パイプにガスを吹き込み、その上昇流のエアリフト効果を利用しガスハイドレートを回収する方法がある。この方法は、固体状態のままガスハイドレートを回収できるという特徴があり、海底でガス化させガスのみを回収する方法と比べハンドリング性に優れており、海底での暴噴の心配が少ないという利点がある(特許文献1)。しかし、この方法では、回収物中にはガスハイドレートのみならず海底の土砂などの微粒子が混入するため、効率良くハンドリングするために回収物からガスハイドレート粒子を回収する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開 2003−262083号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sloan, E. D. (1998), Clathrate Hydrates ofNatural Gases. 2nd edithion.
【非特許文献2】Kida, M., et al. (2009), Natural gas hydrateswith locally different cage occupancies and hydration numbers in Lake Baikal.Geochem. Geophys. Geosyst., Vol. 10 (5), Q05003.
【非特許文献3】Lu, H. et al. (2005), Occurrence andstructural characterization of gas hydrates associated with a cold vent field,offshore Vancouver Island. J. Geophys. Res.110, B10204.
【非特許文献4】Uchida, T., et al. (2004), the MITI NankaiTrough Shipboard Scientists, 2004. Subsurface occurrence of natural gas hydratein the Nankai trough area: Implication for gas hydrate concentration. ResourceGeol. 54 (1), p.35-44.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
堆積層中に集積する天然ガスハイドレートは、肉眼で識別できる塊状の結晶粒からなる場合と、肉眼で識別できない程微細な場合など種々の形態がある(非特許文献3参照)。肉眼で識別できない微結晶粒の場合、これまでハイドレート結晶の選別が異種粒子の存在によって困難であったため結晶構造の識別ができなかった。
ガスハイドレートを固体状態のまま掘削回収する方法において、回収物を効率良くハンドリングするために土砂などの中からガスハイドレート粒子を回収する必要があった。
本発明は、堆積物中の微粒子状の天然ガスハイドレート結晶を分解させることなく回収する方法及び堆積物中の微粒子状の天然ガスハイドレート結晶を分解させることなく回収する装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、従来、塊状ガスハイドレートの識別に用いられてきた手法を肉眼で識別できない微粒子状のガスハイドレート結晶に適用する際にエラーの原因となる堆積物などの異種微粒子と混在するものから微粒子状のガスハイドレート結晶を回収することや固体状態で海底から掘削回収したガスハイドレートと土砂などの混合物からガスハイドレートを回収することを可能とするものである。
すなわち、本発明は、微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系から、ガスハイドレート分解温度以下に冷却した雰囲気中で、穴径20〜100マイクロメートルの篩を用いて、微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系を篩い分けし、ガスハイドレートを分離するガスハイドレート微粒子の回収方法である。
また、本発明の回収方法において、微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系が、掘削回収したガスハイドレートと土砂の混合物の粉砕物であり、ガスハイドレート分解温度以下に冷却した雰囲気が液体窒素の蒸発により−100℃以下とすることが望ましい。
さらに、本発明は、掘削回収したガスハイドレートと土砂の混合物を粉砕する粉砕機、断熱容器に入れられたガスハイドレート分解温度以下に冷却した雰囲気中で、穴径20〜100マイクロメートルの篩を用いて、微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系を篩い分けする冷却装置付きの篩、ガスハイドレート微粒子の受け皿、ガスハイドレート分解抑制用金属板からなるガスハイドレート回収装置である。
本発明のガスハイドレート回収装置では、冷却手段が液体窒素であり、篩と断熱容器の間に液体窒素混入防止のための容器を設けることができる。

【発明の効果】
【0009】
本発明の微粒子状ガスハイドレートの回収法により、種々の形態の天然ガスハイドレートの結晶構造を分解させることなく識別することができ、従来法を適用することでガスハイドレートとして集積する天然ガス量評価の精度を向上させることができる。
また、海底から掘削回収したガスハイドレートと土砂などの混合物からガスハイドレートを回収することで、回収物の輸送・貯蔵過程で効率良くハンドリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例における本発明のガスハイドレート回収装置図である。
【図2】実施例1における本発明の微粒子状ガスハイドレートの回収法の効果を示す図である。
【図3】実施例2における本発明の微粒子状ガスハイドレートの回収法の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、これまで堆積物中に胚胎した天然ガスハイドレートの結晶構造解析を重ねてきた結果、粉砕したガスハイドレート胚胎堆積物中の砂粒子を除去し、ガスハイドレート結晶粒子を低温下で分解させることなく回収する手法の開発に至った。ガスハイドレート結晶と異種粒子サイズによって篩を選定し、冷却した篩による回収法によって種々のサイズのガスハイドレート結晶粒を異種微粒子と分離し回収する。ガスハイドレート結晶構造の識別には肉眼で識別可能な結晶粒からなるガスハイドレートの結晶構造識別に用いられてきた従来法を適用した。
本発明においては、掘削回収したガスハイドレートと土砂の混合物を粉砕して、粉砕物を得るが、通常、本発明においては、穴径20〜100マイクロメートルの篩を用いることができる。
以下に示す実施例では40マイクロメートルの篩でガスハイドレート胚胎海底堆積物からガスハイドレート結晶を回収し、ガスハイドレート結晶構造の識別に温度可変装置付粉末X線回折測定装置(理学電機社製)および核磁気共鳴装置(日本電子社製)を用いた。
【実施例1】
【0012】
平均粒径約100マイクロメートルの堆積物粒子を含む海底堆積物をまず液体窒素で冷却した乳鉢と乳棒で均一に粉砕した。この粉砕した堆積物中には肉眼で識別できるガスハイドレート結晶粒は認められなかった。図1に開発したガスハイドレート回収装置を示す。ガスハイドレートが分解しない温度で回収するために器具は液体窒素で十分冷却した後使用した。これにより、篩の温度をガスハイドレートが分解しない-100℃以下に保った。粉末状の堆積物は液体窒素と接触すると凝集するため、液体窒素と篩にかける前の粉末状の堆積物とが接触しないよう液体窒素混入防止のための容器を用いた。分離濃縮したガスハイドレートの分解抑制のために受け皿の下に金属製の板を置く。この金属板は液体窒素混入防止のための容器の浮き上がりを防止する役目もある。粉砕した堆積物を40マイクロメートルの篩で分級し、受け皿に回収されたガスハイドレートを得た。得られた粉末状のガスハイドレートの粉末X線回折測定および13C核磁気共鳴測定を行った。比較のために、同一の海底堆積物試料に本発明を適用せずに両測定を行った。
【実施例2】
【0013】
本発明法を適用した場合、明確なI型のガスハイドレート結晶に由来する回折ピーク(丸印)が観測され、堆積物粒子の回折ピークに対する相対強度は本発明法を適用しない場合と比べ格段に高くなった。これは、篩によって堆積物粒子が除去され、本発明が微粒子状のガスハイドレートの回収に効果的であることを意味する。
回折ピークの帰属は非特許文献3を参考にして行った。
(比較例1)
本発明法を適用しない場合、三角印で示される堆積物粒子からの回折ピークが主であり、I型のガスハイドレート結晶(丸印)と氷(米印)に由来する回折ピークがわずかに認められるだけである。図2に本発明を適用しない場合と適用した場合の粉末X線回折パターンを示す。

【実施例3】
【0014】
図3に本発明を適用した場合と適用しない場合との13C核磁気共鳴スペクトルを示す。
本発明法を適用した場合、-6.9 ppmに高強度のピークが観測され、-4.6
ppmにショルダーピークが観測された。報告されている塊状天然ガスハイドレートの13C核磁気共鳴スペクトル(非特許文献2および3を参照)との比較からこれらのシグナルはI型の2種類のケージに包接されたメタン分子に帰属され、篩によって堆積物粒子が除去され、本発明が微粒子状のガスハイドレートの回収に効果的であることを示している。この結果は、粉末X線回折測定の結果を支持している。
(比較例2)
本発明法を適用しない場合、13C核磁気共鳴ピークは観測されなかった。

実施例2および実施例3から、本発明により、堆積物中の微細なガスハイドレート結晶を回収することができ、塊状ガスハイドレートと同様の識別手法を用い微粒子状のガスハイドレート結晶を分解させることなく識別できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、これまでに困難であった堆積物粒子と混在する微粒子状天然ガスハイドレートの結晶構造を識別することを可能とし、天然ガスハイドレートとして集積する天然ガス量評価の精度を向上させることができる。また、本発明により固体状態で掘削回収したガスハイドレートを土砂等から分離することができ、天然ガスハイドレートの輸送・貯蔵過程で効率よくハンドリングすることができる。
【符号の説明】
【0016】
1:断熱容器
2:液体窒素
3:液体窒素混入防止のための容器
4:ガスハイドレート分解抑制用金属板
5:受け皿
6:篩


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系から、ガスハイドレート分解温度以下に冷却した雰囲気中で、穴径20〜100マイクロメートルの篩を用いて、微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系を篩い分けし、ガスハイドレートを分離するガスハイドレート微粒子の回収方法。
【請求項2】
微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系が、掘削回収したガスハイドレートと土砂の混合物の粉砕物であり、ガスハイドレート分解温度以下に冷却した雰囲気が液体窒素の蒸発により−100℃以下である請求項1に記載したガスハイドレート微粒子の回収方法。
【請求項3】
掘削回収したガスハイドレートと土砂の混合物を粉砕する粉砕機、断熱容器に入れられたガスハイドレート分解温度以下に冷却した雰囲気中で、穴径20〜100マイクロメートルの篩を用いて、微粒子状のガスハイドレートと異種微粒子が混在する系を篩い分けする冷却装置付きの篩、ガスハイドレート微粒子の受け皿、ガスハイドレート分解抑制用金属板からなるガスハイドレート回収装置。

【請求項4】
冷却手段が液体窒素であり、篩と断熱容器の間に液体窒素混入防止のための容器を設けた請求項3に記載したガスハイドレート回収装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−275508(P2010−275508A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132249(P2009−132249)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省委託研究メタンハイドレート開発促進事業(生産手法開発に関する研究開発) 産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】