説明

微粒子蛍光体の製造方法

【課題】長時間安定して高輝度に発光し得る微粒子蛍光体およびその製造方法等を提供する。
【解決手段】本発明の微粒子蛍光体の製造方法は、微粒子蛍光体の原料溶液の調整ステップ(S1)と、噴霧熱分解ステップ(S2)と、表面処理ステップ(S3)と、発光活性化処理ステップ(S4)とを含んでいる。表面処理ステップでは、熱分解工程によって得られた微粒子を、水、硝酸、酢酸、塩基、またはフッ化アルミニウムにより洗浄する。これにより、微粒子蛍光体の表面の凸凹を改善し、略球状の微粒子蛍光体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長時間安定して高輝度に発光し得る微粒子蛍光体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化産業時代の到来と共に、平面薄型の大型フラットディスプレイの需要が高まり、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel;PDP)が注目されている。PDPは、例えば、壁掛けテレビや、マルチメディアディスプレイなどとして、デジタルデータの画像表示に特に適している。このため、PDPに関する研究は、世界中で精力的に行われている。日本では世界に先行してPDP開発が行われ、PDPの世界シェアの8割以上を日本が占めている。
【0003】
一般に、PDPは、2枚のガラス基板が互いに平行かつ対向して配設されており、2枚のガラス基板の間には、隔壁により区切られNeやXeなどの希ガスが封入された放電空間が多数配設されている。2枚のガラス基板のうち、PDPの観察者側のガラス板が前面板であり、もう一方のガラス板が背面板である。
【0004】
そして、前面板の背面板側に電極が形成され、これを覆って誘電体層が形成されており、さらにその上に保護膜(MgO層)が形成されている。背面板となるガラス基板の前面板側には前面板に形成された電極と交差するようにアドレス電極が形成されており、さらに背面板上(セルの底面に該当する。)と隔壁の壁面を覆うようにして蛍光体層が設けられている。電極間に交流電圧を印加し放電により生じる真空紫外線により蛍光体を発光させ、前面板を透過する可視光を観察者が視認するようになっている。
【0005】
一般に、PDPは、CRTに比べ発光効率が低く、消費電力が大きい。このため、PDPは高輝度と低消費電力化のための高い発光効率が要求される。従って、PDPに用いられる微粒子蛍光体の発光特性を向上させるため、従来から種々の提案がなされていた。
【0006】
例えば、特許文献1に記載の蛍光体の製造方法においては、蛍光体の構成金属元素を含有する溶液をガス雰囲気中に噴霧して微細な液滴となし、乾燥して固体粒子となし、さらに固体粒子に随伴する気体の水蒸気濃度を1体積%以下に低減した後、この固体粒子を加熱し熱分解合成して蛍光体を製造する。
【0007】
また、特許文献2に記載の蛍光体製造方法においては、土類硼酸塩蛍光体(珪酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体)の前駆体含有懸濁液を連続核発生装置を用いて作製し、キャリアガスと共に熱分解炉に導入し、加熱する。
【0008】
さらに、特許文献3に記載の蛍光体は、一次粒子のメディアン径D50が0.05μm〜1μmの範囲にあり、二次粒子のメディアン径D50が0.1μm〜2μmの範囲にあって実質的に球状の外形を有し、全二次粒子の50体積%以上がアスペクト比0.8以上であり、かつ、内部量子効率が0.7〜1の範囲に設定されている。
【特許文献1】特開2001−152144号公報(2001年6月5日公開)
【特許文献2】特開2004−043633号公報(2004年2月12日公開)
【特許文献3】特開2004−162057号公報(2004年6月10日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されているように発光活性化処理を行うと、蛍光体粒子の表面が凸凹になってしまう。また、従来の固相反応法を用いて作成された市販されている青色蛍光体粒子は、図5のSEM像に示すように、六角柱状の形状をしており、平均粒子径が3μmである。このように蛍光体粒子の表面が凸凹になったり、形状が球状ではなく粒子径が大きくなると、蛍光体粒子の発光強度にばらつきが生じたり、長時間安定して発光しなかったりするという問題が生じる。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、長時間安定して高輝度に発光し得る微粒子蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の微粒子蛍光体の製造方法は、上記の課題を解決するために、微粒子蛍光体の原料溶液の熱分解により微粒子を得る熱分解工程と、熱分解工程によって得られた微粒子を、水、硝酸、酢酸、塩基、またはフッ化アルミニウムにより洗浄する溶液処理工程とを含むことを特徴としている。
【0012】
上記の方法によれば、溶液処理工程にて、水、硝酸、酢酸、塩基、またはフッ化アルミニウムにより微粒子を洗浄する。これにより、微粒子蛍光体の表面の凸凹を改善し、略球状の微粒子蛍光体を得ることができる。従って、長時間安定して高輝度に発光する微粒子蛍光体を提供することができる。
【0013】
なお、上記溶液処理工程に用いる酸は、硝酸または酢酸を挙げることができる。また、上記溶液処理工程では、アンモニア水および水酸化バリウム等の塩基を用いることができ、フッ化アルミニウム等のフラックスを用いることもできる。
【0014】
また、上記水、硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム等)、またはフッ化アルミニウムは、それぞれ、単独(1種類)で用いてもよいし、多剤を併用して用いてもよい。言い換えれば、溶液処理工程では、水、硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム等)、またはフッ化アルミニウムからなる群から1つ以上を選択して用いることができる。
【0015】
上記微粒子蛍光体の製造方法では、上記溶液処理工程を行う前に、上記熱分解工程によって得られた微粒子を、焼成により結晶化する前焼成処理工程を行うことが好ましい。
【0016】
上記の方法によれば、溶液処理工程の前に前焼成処理工程を行う。これにより、略真球状で、粒子径のばらつきが極めて少ない、微粒子蛍光体を得ることができる。このような、ばらつきの少ない微粒子蛍光体は、より一層長時間安定して高輝度に発光することが可能となる。
【0017】
上記微粒子蛍光体の製造方法では、上記前焼成処理工程は、1300℃〜1500℃で行うことが好ましい。これにより、結晶化の温度が高すぎるため微粒子蛍光体が硬くなってしまい、溶液処理をしても微粒子蛍光体の表面を滑らかにすることができないこと、および、結晶化の温度が低すぎるため、溶液処理において微粒子蛍光体が溶けてしまうおそれがあることを防ぐことができる。
【0018】
上記微粒子蛍光体の製造方法では、微粒子蛍光体の組成が、BaMgAl1017:Eu(BAM)であることが好ましい。これにより、例えば、PDP等に用いられる汎用性の高い青色蛍光体を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の微粒子蛍光体の製造方法は、微粒子蛍光体の原料溶液の熱分解により微粒子を得る熱分解工程と、熱分解工程によって得られた微粒子を、水、硝酸、酢酸、塩基、またはフッ化アルミニウムにより洗浄する溶液処理工程とを含んでいる。
【0020】
それゆえ、長時間安定して高輝度に発光し得る微粒子蛍光体を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の一形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明の微粒子蛍光体の製造方法は、水、硝酸、酢酸、塩基、またはフッ化アルミニウムによる粒子の洗浄により、粒子の表面処理を行う溶液処理工程によって、長時間安定して高輝度の発光を示す微粒子蛍光体を製造する方法である。
【0023】
本発明において、「微粒子」とは、主として、平均粒子径が0.1μm〜1μm程度のものを示す。
【0024】
また、「平均粒子径」は、微粒子蛍光体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像解析により、約1000個の微粒子蛍光体の粒子径を計測して粒度分布を取得したときの、メディアン径(50%頻度径)を示している。また、「平均粒子径」は、微粒子蛍光体が球状または略球状である場合には粒子の直径を、それ以外の形状である場合には、画像上の長径を計測したものとする。
【0025】
上記微粒子蛍光体は、不純物を含まない単一相であって、母体物質と、発光中心となる付活剤とのみからなるものである。母体物質は、例えば、アルミン酸等の金属酸化物が用いられる。一方、上記付活剤は、少なくとも1種類の希土類金属または遷移金属から形成される。これらの母体物質および付活剤は、目的とする微粒子蛍光体の特性(例えば、発光色など)に応じて選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0026】
本発明の微粒子蛍光体の製造方法の一実施形態について、以下に説明する。
【0027】
本実施形態の微粒子蛍光体の製造方法は、図2に示すように、溶液の調整ステップ(ステップ1、以下ステップをSと記載する)と、噴霧熱分解ステップ(S2)と、表面処理ステップ(S3)と、発光活性化処理ステップ(S4)とを含んでいる。
【0028】
溶液の調整ステップにおいては、微粒子蛍光体の原料となる溶液を調整する。微粒子蛍光体の原料は、噴霧熱分解ステップによる熱分解(焼成)により、酸化物となるものであれば特に限定されるものではない。
【0029】
上記微粒子蛍光体の原料となる溶液(原料溶液)は、微粒子蛍光体の金属イオン溶液である。上記金属イオン溶液は、微粒子蛍光体の母体物質と付活剤との金属化合物の可溶化溶液である。具体的には、例えば、微粒子蛍光体に含まれる金属の無機金属化合物(例えば硝酸塩、硫酸塩、または塩化物など)の溶液、あるいは、有機金属化合物(酢酸塩などの有機酸塩、金属−エチレンジアミン四酢酸(EDTA)錯体などのキレート錯体、または金属イソプロポキシドなどのアルコラートなど)の溶液である。
【0030】
これら無機化合物や有機化合物の量は、微粒子蛍光体の金属成分、すなわち、母体物質および付活剤中の各金属成分の構成原子比に相当する割合で混合すればよい。この際の全体の金属イオン濃度としては、通常0.0001〜1.0mol/Lの範囲内で選ばれる。
【0031】
金属イオン溶液の溶媒としては、水または水と水和性溶媒、例えばエチルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒との混合物が用いられる。
【0032】
例えば、微粒子蛍光体として、母体物質がBaMgAl1017であり、付活剤がEuであるBAM系蛍光体を製造する場合、硝酸アルミニウム0.25mol、硝酸バリウム0.0225mol、硝酸ユウロピウム0.0025mol、硝酸マグネシウム0.025molを、1Lの純水に溶かし、原料溶液とすることができる。なお、BAM系微粒子蛍光体は、例えば、PDP等に用いられるため、有用性が高い。また、BAM系微粒子蛍光体は、青色蛍光体としても汎用されている。
【0033】
噴霧熱分解ステップ(熱分解工程)は、微粒子蛍光体の原料溶液の熱分解により微粒子を得る工程である。例えば、微粒子蛍光体の原料溶液を噴霧器に導入して、原料溶液のマイクロミストを発生させる。そして、そのマイクロミストを乾燥空気と共に熱分解炉に導入することで、マイクロミストの径が揃えられる。その後、熱分解炉においてマイクロミストを乾燥および熱分解することで、球状の微粒子を得ることができる。
【0034】
このように、噴霧熱分解ステップは、上記原料溶液(金属イオン溶液)を霧化して加熱雰囲気下で球状微粒子を形成する工程ともいえる。
【0035】
表面処理ステップでは、少なくとも、溶液処理工程を行う。溶液処理工程においては、噴霧熱分解ステップで得られた球状微粒子を、液体で洗浄することにより、微粒子蛍光体の表面の凹凸を改善し、微粒子蛍光体の表面を滑らかにすることができる。この溶液処理を行うことが、本実施形態における微粒子蛍光体の製造方法の特徴点である。
【0036】
洗浄に用いる液体としては、水、硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム等)、またはフッ化アルミニウム等の溶液を用いることができる。洗浄に用いる液体を変更した場合の溶液処理の効果については、発明者らにより検討された実施例を用いて後述する。
【0037】
表面処理ステップの後、発光活性化処理ステップにおいて、表面処理された微粒子蛍光体の活性化処理が行われる。すなわち、発光活性化処理では、表面処理された微粒子蛍光体を、還元雰囲気の下で焼成する。焼成は、例えば1400℃で3時間継続することで行われる。発光活性化処理の加熱温度は、噴霧熱分解ステップにおける熱分解の温度よりも100℃程度高い温度で行えばよい。
【0038】
以上の溶液の調整ステップから発光活性化処理ステップまでを踏むことにより、所望の微粒子蛍光体を得ることができる。なお、発光活性化処理ステップは、真球状で、粒子径のばらつきが極めて少ない、微粒子蛍光体を得るために行うことが好ましい。ただし、噴霧熱分解工程により、原料溶液のマイクロミストを均一化している。このため、発光活性化処理を行わなくても、長時間安定して高輝度に発光する微粒子蛍光体を製造できる。
【0039】
以下、本実施形態の特徴である表面処理ステップを、より具体的に説明する。前述のように、表面処理ステップでは、少なくとも溶液処理を行う。
【0040】
(a)水を用いた溶液処理
上述のように、表面処理ステップは、水を用いて球状微粒子を洗浄することにより実現可能である。しかしながら、噴霧熱分解ステップにおいて噴霧された直後の球状微粒子を水で洗浄すると、図6に示すように、微粒子が溶けて組成が変わってしまう場合がある。
【0041】
そこで、特に水を用いて溶液処理を行う場合、溶液処理を行う前に、微粒子蛍光体を結晶化する前焼成処理工程を行うことが好ましい。すなわち、表面処理ステップは、前焼成処理工程と溶液処理工程とからなることが好ましい。これにより、略真球状で、粒子径のばらつきが極めて少ない、微粒子蛍光体を得ることができる。例えば、大気中1300℃で1時間焼成して微粒子蛍光体を結晶化した後に、水でろ過洗浄することで溶液処理を行うことが可能である。このように微粒子蛍光体を結晶化した後に、1分間水でろ過洗浄すると、図5に示すように、真球状で粒子径がほぼ0.6μmの微粒子蛍光体を得ることができた。しかも、得られた微粒子蛍光体の粒子径のばらつきは、極めて少ない。このような、ばらつきの少ない1μm以下の粒子径の微粒子蛍光体は、長時間安定して高輝度に発光する。
【0042】
なお、結晶化の温度があまりに高くなってしまうと、微粒子蛍光体が硬くなってしまい、溶液処理をしても微粒子蛍光体の表面を滑らかにすることができない場合がある。一方で、結晶化の温度があまりに低いと、溶液処理において微粒子蛍光体の一部が溶けてしまうおそれがある。このため、前焼成処理する際の焼成温度は、1300℃〜1500℃に設定することが好ましい。
【0043】
また、溶液処理における洗浄時間があまりに長くなってしまうと、微粒子蛍光体の形状が崩れてしまう場合がある。また、洗浄時間があまりに短いと、微粒子蛍光体の表面を充分に滑らかにできない。このため、水を用いて微粒子蛍光体を洗浄する場合、洗浄時間は数秒〜数分に設定することが好ましい。これにより、微粒子蛍光体の形状の崩壊を確実に防止できるとともに、微粒子蛍光体の表面を確実に滑らかにすることができる。
【0044】
(b)水以外の溶液を用いた溶液処理
表面処理ステップは、硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム)、またはフッ化アルミニウム等を用いて球状微粒子を洗浄することによっても実現可能である。
【0045】
なお、水を用いる表面処理を行う場合だけでなく、硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム等)、またはフッ化アルミニウムを用いる溶液処理を行う場合にも、前焼成処理工程を行うことが好ましい。
【0046】
例えば、後述の実施例(実施例2)に示すように、0.01mol/L(0.01M)の硝酸で微粒子蛍光体を洗浄することで、微粒子蛍光体の溶液処理とすることが可能である。参考のため、大気中1300℃で1時間焼成して微粒子蛍光体を前焼成処理した後に、0.01M硝酸を用いて1分間微粒子蛍光体をろ過洗浄した際の、微粒子蛍光体の形状を図3に示す。図3に示すように、硝酸で微粒子蛍光体を洗浄することにより、微粒子蛍光体の表面が滑らかになっていることがわかる。
【0047】
このように、表面処理ステップを行うことにより、微粒子蛍光体を、真球状に近づけることができるため、長時間安定して高輝度に発光する微粒子蛍光体を得ることができる。
【0048】
なお、溶液処理工程では、溶液処理溶液の使用量,処理時間,および強酸の濃度が、特に微粒子の表面状態(ひいては微粒子蛍光体の表面状態)に影響を及ぼす。溶液処理溶液が高濃度であり、処理時間が長くなるほど、微粒子の内部に溶液処理溶液が侵食してしまう。
【0049】
このため、溶液処理工程において、水、硝酸、酢酸、塩基、またはフッ化アルミニウムの使用量は、微粒子蛍光体全体を洗浄できる程度であればよいが、微粒子蛍光体の重量の10倍〜1000倍であることが好ましく、50倍〜500倍であることがより好ましい。また、処理時間は、短時間で行うことが好ましい。処理時間は、微粒子蛍光体の組成,処理溶液,その溶液の濃度によって、変わるため、特に限定されるものではないが、例えば、1秒〜10分であることが好ましく、1分以内で行うことがより好ましい。
【0050】
さらに、硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム等)、またはフッ化アルミニウムの濃度は、低濃度であることが好ましい。硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム等)、またはフッ化アルミニウムの濃度は、例えば、0.001M〜1Mであることが好ましく、0.005〜0.5Mであることがより好ましい。
【0051】
これにより、より均一な粒子径の微粒子蛍光体を効率よく得ることができ、発光強度にばらつきの少ない微粒子蛍光体を得ることができる。
【0052】
このように、本発明の微粒子蛍光体の製造方法は、水、硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム等)、またはフッ化アルミニウム水、により微粒子を洗浄する溶液処理工程を有しているため、略球状(真球状)の微粒子蛍光体を製造することができる。従って、より均一な粒子径の微粒子蛍光体を効率よく得ることができ、発光強度にばらつきの少ない微粒子蛍光体を得ることができる。それゆえ、得られた微粒子蛍光体は、長時間安定して高輝度に発光することが可能となる。
【0053】
なお、溶液処理工程は、水、硝酸、酢酸、塩基(アンモニア水および水酸化バリウム等)、またはフッ化アルミニウムを、組み合わせて用いることもできる。
【0054】
次に、噴霧熱分解ステップについて、詳細に説明する。
【0055】
噴霧熱分解ステップは、上記原料溶液(金属イオン溶液)を霧化して加熱雰囲気下で球状微粒子を形成する工程である。噴霧熱分解ステップは、図4に概略図として示すような、噴霧熱分解装置によって実施できる。図4の噴霧熱分解装置は、原料溶液が導入され、原料溶液のマイクロミストを発生させる噴霧器(噴霧装置)1と、そのマイクロミストが乾燥空気等のキャリアガスと共に導入される熱分解炉3と、製造された微粒子蛍光体を収集する収集室4とを備えている。炉心管2の中央部は、熱分解炉3の中に保持されており、噴霧器1と収集室4とは、接続管(図示せず)を介して炉心管2に接続されている。
【0056】
この噴霧熱分解装置では、噴霧器1によって原料溶液がマイクロミストとされ、さらにマイクロミストの液滴径が揃えられる。その後、熱分解炉3の中に保持された炉心管2に導入されたマイクロミストを乾燥および熱分解することで、微粒子蛍光体が製造される。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。表1は、下記の実施例および比較例の微粒子蛍光体の発光特性を評価した結果をまとめたものである。表1において、「処理溶液」は表面処理に用いた溶液、「時間」は表面処理の時間、「濃度」は処理溶液の濃度である。
【0059】
なお、発光特性の評価は、得られた微粒子蛍光体に、波長147nmの真空紫外(VUV)光を照射したときの発光強度、および、そのばらつきについて行った。その結果、表1に示すように、特に、硝酸を用いた実施例2において、市販品である比較例5と比べて発光強度が高かった。
【0060】
また、実施例1〜5は、市販品である比較例5と比べて、発光強度のばらつきが小さかった。さらに、実施例1および2では、発光強度も、比較例5よりも大きくなった。実施例の微粒子蛍光体における測定ごとの発光強度のばらつきは、3回の測定結果の標準偏差を計算することにより求めた。この度合いσは、以下の式により求めた。
【0061】
【数1】

【0062】
ここで、xは発光強度の測定値、μは発光強度の平均値、Nは測定回数(3回)である。この度合いσが小さいと、その微粒子蛍光体は、測定ごとの発光強度のばらつきが少なく、長時間安定して発光できることを示している。
【0063】
【表1】

【0064】
(1)水による溶液処理の効果
〔実施例1〕
硝酸アルミニウム0.25mol、硝酸バリウム0.0225mol、硝酸ユウロピウム0.0025mol、硝酸マグネシウム0.025molを1Lの純水に溶かして原料溶液とした。この原料溶液を図4の噴霧器を用い、原料溶液を流量が毎分0.5Lの乾燥空気(キャリアガス)と共に導入した。1300℃に設定した熱分解炉において、乾燥および熱分解により球状微粒子を得た後、その球状微粒子を収集室で静電気を用いて捕集した。得られた粒子の電子顕微鏡観察の結果、形状は真球状であった。
【0065】
次に、この球状粒子を、大気中1300℃で1時間前焼成処理した後、水でろ過洗浄することで溶液処理を行った。溶液処理の処理時間は、1分間とした。
【0066】
さらに、この球状微粒子を還元雰囲気下、1400℃で3時間焼成することで発光活性化処理を行い、所望の微粒子蛍光体を得た(図1)。
【0067】
〔比較例1〕
発光活性化処理の前に、前焼成処理を行わず水で洗浄し、水による溶液処理の処理時間を10分間とした以外は実施例1と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。電子顕微鏡観察の結果、球状の崩れたものが数多く存在していた(図6)。
【0068】
〔比較例2〕
水で一昼夜撹拌して溶液処理を行った以外は、実施例1と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。電子顕微鏡観察の結果、球状の崩れたものが数多く存在していた。
【0069】
(2)水以外の溶液による溶液処理の効果
〔実施例2〕
0.01mol/L(0.01M)硝酸で洗浄することで溶液処理を行った以外は、実施例1と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。溶液処理の前後における電子顕微鏡観察の結果、若干表面が滑らかになっていることを確認した(図3)。
【0070】
〔比較例3〕
0.01M硝酸で10分撹拌して溶液処理を行った以外は実施例2と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。電子顕微鏡観察の結果、球状の崩れたものが数多く存在していた。
【0071】
〔比較例4〕
1M硝酸で一昼夜撹拌して溶液処理を行った以外は実施例2と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。電子顕微鏡観察の結果、原形を留めてない数μmの柱状の粗い粒子であった(図7)。
【0072】
〔実施例3〕
0.01Mアンモニア水で洗浄することで溶液処理を行った以外は実施例2と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。溶液処理の前後における電子顕微鏡観察の結果、若干表面が滑らかになっていることを確認した。
【0073】
〔実施例4〕
0.005M水酸化バリウム水溶液で洗浄することで溶液処理を行った以外は実施例2と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。溶液処理の前後における電子顕微鏡観察の結果、若干表面が滑らかになっていることを確認した。
【0074】
〔実施例5〕
0.01M酢酸で洗浄することで溶液処理を行った以外は実施例2と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。溶液処理の前後における電子顕微鏡観察の結果、若干表面が滑らかになっていることを確認した。
【0075】
〔実施例6〕
フッ化アルミニウムの飽和水溶液で洗浄することで溶液処理を行った以外は実施例2と全く同じ条件により微粒子蛍光体を得た。溶液処理の前後における電子顕微鏡観察の結果、若干表面が滑らかになっていることを確認した。
【0076】
〔比較例5〕
現在、固相反応法で作成された市販の青色蛍光体粒子(BaMgAl1017:Eu)を、電子顕微鏡観察および粒度分布解析した結果、粒子の形状は六角柱状であり、平均粒子径は3μmであった(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によって製造された微粒子蛍光体は、長時間安定して高輝度に発光するため、PDPなどの蛍光体として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1の微粒子蛍光体の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】本発明の実施の一形態にかかる微粒子蛍光体の製造方法の工程図である。
【図3】実施例2の微粒子蛍光体の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】本発明の実施の一形態にかかる噴霧熱分解装置の概略図である。
【図5】比較例5の微粒子蛍光体の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】比較例1の微粒子蛍光体の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図7】比較例4の微粒子蛍光体の電子顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子蛍光体の原料溶液の熱分解により微粒子を得る熱分解工程と、熱分解工程によって得られた微粒子を、水、硝酸、酢酸、塩基、またはフッ化アルミニウムにより洗浄する溶液処理工程とを含むことを特徴とする微粒子蛍光体の製造方法。
【請求項2】
上記溶液処理工程を行う前に、上記熱分解工程によって得られた微粒子を、焼成により結晶化する前焼成処理工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の微粒子蛍光体の製造方法。
【請求項3】
上記前焼成処理工程は、1300℃〜1500℃で行うことを特徴とする請求項2に記載の微粒子蛍光体の製造方法。
【請求項4】
微粒子蛍光体の組成が、BaMgAl1017:Euであることを特徴とする請求項1、2、または3に記載の微粒子蛍光体の製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−154139(P2007−154139A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355477(P2005−355477)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000207089)大電株式会社 (67)
【出願人】(300032123)財団法人佐賀県地域産業支援センター (11)
【Fターム(参考)】