説明

微粒水酸化アルミニウム及びその製造方法

【課題】十分な充填量を確保することができるとともに、耐熱特性に優れた水酸化アルミニウム混合粉体を得ることができる微粒水酸化アルミニウムおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】NaO量が0.15重量%以下、平均粒子径D50が0.5μm以上2.0μm以下であり、かつ、微粒部分からの体積累積が10%となる粒子径D10、微粒部分からの体積累積が90%となる粒子径D90、およびモード径をDとするとき、粒度分布が下式を満たす微粒水酸化アルミニウム。
0.2≦(log(D/D10))/(log(D90/D))≦3.8

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒水酸化アルミニウム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化アルミニウムは、従来、ゴムやプラスチック等の樹脂に充填するフィラーとして幅広く用いられている。中でも特に、プリント基板などの電子部品などに用いられる種々の高分子材料において、難燃性を付与するための難燃剤として使用されている。また、このプリント基板上に電子部品を実装する工程で、ラインをスピードアップするためにハンダ浴の温度を高めたり、また、高密度実装のためにリフローハンダ付け技術が導入されたりすることから、積層板が従来の工程より高温にさらされるようになった。そのため、基板中の水酸化アルミニウムが熱分解し、発生した蒸気により銅箔が剥離するというトラブルが生じている。このため、高い温度まで結晶水が安定であり、かつ分解開始温度以上に加熱される条件下でも、分解速度が小さい水酸化アルミニウムが望まれている。
【0003】
難燃剤フィラーとして用いられる水酸化アルミニウムとしては、例えば、特許文献1、特許文献2記載の水酸化アルミニウムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−184866号公報
【特許文献2】特開昭59−204632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の微粒水酸化アルミニウムは、耐熱性、充填性の点で十分ではなかった。本発明の課題は、樹脂等に充填するフィラーとして、十分な充填量を確保することができるとともに、耐熱特性に優れた水酸化アルミニウム混合粉体を得ることができる微粒水酸化アルミニウムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決し得る微粒水酸化アルミニウムを見出すべく検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1]NaO量が0.15重量%以下、平均粒子径D50が0.5μm以上2.0μm以下であり、かつ、微粒部分からの体積累積が10%となる粒子径D10、微粒部分からの体積累積が90%となる粒子径D90、およびモード径をDとするとき、粒度分布が下式を満たす微粒水酸化アルミニウム。
0.2≦(log(D/D10))/(log(D90/D))≦3.8
[2]前記[1]に記載の微粒水酸化アルミニウム(A)と、NaO量が0.1重量%以下、かつ、平均粒子径D50が5.0μm以上15.0μm以下の水酸化アルミニウム粉体(B)を含み、微粒水酸化アルミニウム(A)と水酸化アルミニウム粉体(B)が、1:9以上5:5以下の重量比(A:B)で含まれる水酸化アルミニウム混合粉体。
[3]前記[1]に記載の微粒水酸化アルミニウムと樹脂を含有する樹脂組成物。
[4]前記[2]に記載の水酸化アルミニウム混合粉体と樹脂を含有する樹脂組成物。
[5]NaO量が0.15重量%以下、平均粒子径D50が1.0μm以上4.0μm以下であり、粒度分布において1.0μm以上2.0μm以下と2.5μm以上3.5μm以下のそれぞれの範囲に極大頻度を有し、1.0μm以上2.0μm以下の範囲における極大体積頻度が1.0%以上6.0%以下であり、かつ、2.5μm以上3.5μm以下の範囲における極大体積頻度が4.0%以上11.0%以下である水酸化アルミニウムを、解砕機を用いて粒度を調節する工程を含む前記[1]に記載の微粒水酸化アルミニウムの製造方法。
[6]前記[1]に記載の微粒水酸化アルミニウムを含むプリント基板。
[7]前記[1]に記載の微粒水酸化アルミニウムを含むプリプレグ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微粒水酸化アルミニウムによれば、樹脂への充填性に優れ、かつ耐熱性に優れた水酸化アルミニウム混合粉体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の微粒水酸化アルミニウムの、Na含有量は、NaO換算で0.15重量%以下であり、好ましくは0.10重量%以下である。NaO量が0.15重量%を超えると微粒水酸化アルミニウムの脱水が起こりやすくなり、耐熱性が低下する。また、NaO量の下限値は、特に限定されるものではなく、可及的に少ない方がよいが、通常0.01重量%程度である。
【0011】
本発明の微粒水酸化アルミニウムに含まれる水溶性ソーダ(以下、S−NaOと記す)は、NaO換算で300ppm以下であることが好ましく、150ppm以下であることがより好ましい。S−NaOが300ppmを超えると、樹脂に添加した際に、微粒水酸化アルミニウムの粒子表面のS−NaOが樹脂組成物の絶縁性を低下させるとともに、耐熱性の低下を招くおそれがある。
【0012】
本発明の微粒水酸化アルミニウムの平均粒子径D50は、0.5μm以上2.0μm以下であり、好ましくは1.0μm以上1.7μm以下である。ここで本発明において、平均粒子径D50とは、レーザー散乱法により測定した粒度分布曲線において、微粒部分からの体積累積で50%となる粒子径をいう。なお、レーザー散乱法によって測定される粒度分布曲線は、粒子径の常用対数[log(粒子径)]に対して体積基準の頻度分布を表したものであり、[log(粒子径)]の刻み値(ヒストグラムにおける階級)は本明細書においては0.038で測定した粒子径分布を意味する。微粒水酸化アルミニウムの平均粒子径D50が、0.5μmより小さいものであるとBET比表面積が大きくなり、粒子表面からの脱水が起こりやすくなるために、水酸化アルミニウム粉体と混合して得られる水酸化アルミニウム混合粉体の耐熱性が低下する。一方、平均粒子径D50が2.0μmを超えると、水酸化アルミニウム粉体と混合して得られる水酸化アルミニウム混合粉体の充填性が低下する。
【0013】
本発明の微粒水酸化アルミニウムは、粒度分布が、0.2≦(log(D/D10))/(log(D90/D))≦3.8を満たし、好ましくは0.4≦(log(D/D10))/(log(D90/D))≦3.5を満たす。前記式中、Dはモード径を表し、粒度分布の体積頻度が最大値をとる粒子径のことを示す。本明細書において、体積頻度が最大値を示す粒子径が2つ以上存在する場合には、最も小さな粒子径をモード径Dとする。また、D10及びD90は、それぞれ、レーザー散乱法により測定した粒度分布曲線において、微粒部分からの体積累積で、それぞれ、10%、90%となる粒子径をいう。粒度分布が0.2≦(log(D/D10))/(log(D90/D))≦3.8の範囲を満たす場合、粒度分布が正規分布に近い値をとっていることを示しており、この範囲を外れると空隙を埋めることができず、高充填性が損なわれる。
【0014】
本発明の微粒水酸化アルミニウムのD10およびD90の比D90/D10は、好ましくは2.0以上10.0以下の範囲であり、より好ましくは2.0以上8.0以下の範囲である。D90/D10の値は、粒度分布がどのような幅を有しているかを示す指標であり、この値が小さいほど粒度分布がシャープであることを意味する。微粒水酸化アルミニウムのD90/D10が、前記の範囲にあると、高充填性の水酸化アルミニウム混合粉体が得られるため好ましい。
【0015】
本発明の微粒水酸化アルミニウムは、特定のNaO量、平均粒子径および極大体積頻度により特徴付けられる微粒水酸化アルミニウム(以下、「原料微粒水酸化アルミニウム」と称する)を、解砕機を用いて粒度調節することにより製造することができる。本発明における原料微粒水酸化アルミニウムとしては、NaO量が0.15重量%以下、平均粒子径D50が1.0μm以上4.0μm以下であり、粒度分布において1.0μm以上2.0μm以下と2.5μm以上3.5μm以下の範囲にそれぞれ極大頻度を有し、1.0μm以上2.0μm以下の範囲における極大体積頻度が1.0%以上6.0%以下であり、かつ、2.5μm以上3.5μm以下の範囲における極大体積頻度が4.0%以上11.0%以下である。また、2.5μm以上3.5μm以下における極大体積頻度が、1.0μm以上2.0μm以下における極大体積頻度以上となる微粒水酸化アルミニウムを用いることが好ましい。
【0016】
原料微粒水酸化アルミニウムのNaO量は、0.15重量%以下であり、好ましくは、0.10重量%以下である。NaO量の下限値は、特に制限されるものではなく、可及的に少ない方がよいが、通常0.01重量%程度である。
【0017】
原料微粒水酸化アルミニウムの平均粒子径D50は、1.0μm以上4.0μm以下であり、1.5μm以上3.5μm以下であることが好ましい。平均粒子径D50が1.0μmより小さくなると、解砕機を用いて粒度調節した際、平均粒子径D50が0.5μmより小さくなり、また、粒度分布が0.2≦(log(D/D10))/(log(D90/D))≦3.8の式を満たす水酸化アルミニウム粉体が得られないおそれがある。一方、平均粒子径D50が4.0μmより大きくなると、解砕機を用いて粒度調節した際、平均粒子径D50が2.0μm以下とならず、また、0.2≦(log(D/D10))/(log(D90/D))≦3.8の式を満たす水酸化アルミニウム粉体が得られないおそれがある。それにより、水酸化アルミニウム粉体と混合して得られる水酸化アルミニウム混合粉体の樹脂への充填性が低下するおそれがある。
【0018】
さらに、原料微粒水酸化アルミニウムは、粒度分布において1.0μm以上2.0μm以下と2.5μm以上3.5μm以下の範囲にそれぞれ極大頻度を有する。また、1.0μm以上2.0μm以下の範囲における極大体積頻度が1.0%以上6.0%以下であり、好ましくは2.0%以上5.0%以下であり、かつ、2.5μm以上3.5μm以下の範囲における極大体積頻度が4.0%以上11.0%以下であり、好ましくは5.0%以上10.0%以下である。原料微粒水酸化アルミニウムの1.0μm以上2.0μm以下、および2.5μm以上3.5μm以下における極大体積頻度が、前記範囲にない場合、該原料微粒水酸化アルミニウムを解砕機を用いて解砕を行った際に、所望の粒度分布が得られないおそれがある。また、原料微粒水酸化アルミニウムの2.5μm以上3.5μm以下における極大体積頻度は、1.0μm以上2.0μm以下における極大体積頻度以上であることが好ましい。
【0019】
本発明において用いられる原料微粒水酸化アルミニウムの製造方法は、特に限定されるものではないが、バイヤー法によって製造されることが好ましい。具体的には、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液に種子水酸化アルミニウムを添加し、析出する方法により製造することができる。
具体的には、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液と酸を混合して得られた中和ゲルを種子水酸化アルミニウムとして、加熱した過飽和アルミン酸ナトリウム溶液に、攪拌下で添加して、アルミン酸ナトリウム溶液を加水分解することにより、原料微粒水酸化アルミニウムを含有するスラリーとして得ることができる。中和ゲルを用いることにより微粒で、かつ、上述した所定の二山ピークをもった粒度分布の微粒水酸化アルミニウムを製造することができる。また、原料微粒水酸化アルミニウムの平均粒子径が1.0μmよりも小さい場合は、該スラリーに過飽和アルミン酸ナトリウム溶液を徐々に加えて粒径を増大させることにより製造することができる。
【0020】
過飽和アルミン酸ナトリウム溶液に添加する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、塩化アルミニウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液等を用いることができ、好ましくは硫酸アルミニウム水溶液等のアルミニウム含有酸性水溶液を用いることができる。過飽和アルミン酸ナトリウム溶液に対する酸の添加量(W)は、アルミン酸ナトリウム溶液を完全に中和するのに要する酸の使用量(W)に対する使用量比として示される中和モル比(=W/W)で、0.3〜0.7程度である。
【0021】
アルミン酸ナトリウム溶液中のNaO濃度は、100g/l以上170g/l以下であることが好ましく、120g/l以上160g/l以下であることがより好ましい。また、アルミン酸ナトリウム溶液中のAl濃度は、100g/l以上170g/l以下であることが好ましく、130g/l以上160g/l以下であることがより好ましい。
【0022】
また、アルミン酸ナトリウム溶液に添加する中和ゲルの量は、アルミン酸ナトリウム溶液中のアルミニウム量に対してAl換算で、好ましくは1.0重量%以上4.0重量%以下、より好ましくは2.0重量%以上3.0重量%以下である。
【0023】
中和ゲルを添加する際のアルミン酸ナトリウム溶液の加熱温度は、好ましくは液温50℃以上90℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下である。また、中和ゲルの添加は、添加開始から添加終了までの時間が30分以内になるよう行うことが好ましい。添加時間が30分を超えると、添加の途中に析出が開始されるため、得られる水酸化アルミニウムの粒子径が増大するおそれがある。
【0024】
本発明の微粒水酸化アルミニウムは、得られた原料微粒水酸化アルミニウムを、解砕機を用いて粒度調節することにより得ることができる。
【0025】
原料微粒水酸化アルミニウムを含有するスラリーから、本発明の微粒水酸化アルミニウムを製造する工程において、原料微粒水酸化アルミニウムを含有するスラリーを、解砕機を用いて粒度調節した後、洗浄、乾燥させてもよく、または、固液分離、洗浄、乾燥した後、解砕機を用いて粒度調節してもよい。解砕機は所定の微粒水酸化アルミニウムが得られるものであれば、特に制限はないが、連続式遠心分離装置を用いて1000G以上の遠心力を発生する条件下で行えるものが好ましい。本明細書における粒度調節は、処理前の平均粒子径をD502、処理後の平均粒子径をD503とした時、D502/D503が1.3以上3.0以下の範囲になるように調節することを意味する。前記の原料微粒水酸化アルミニウムを用いて、解砕機を用いて粒度を上記範囲に調節することにより、所定のNaO量、平均粒子径、及び粒度分布を有する本発明の微粒水酸化アルミニウムを製造することができる。
【0026】
本発明における原料微粒水酸化アルミニウムの洗浄は、固液分離後の原料微粒水酸化アルミニウム粒子を水によりリパルプ洗浄した後、再度固液分離する水洗操作を複数回繰り返すことにより行うことができる。洗浄に用いる水としては、水酸化アルミニウム表面に付着した溶解ナトリウム分を効率的に除去できることから、60〜90℃の温水を用いることが好ましい。
【0027】
本発明における原料微粒水酸化アルミニウムの乾燥は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる公知の方法により行うことができる。原料微粒水酸化アルミニウムが1重量%以上の水を含んでいる場合、100℃以上、かつ原料微粒水酸化アルミニウム表面の温度が220℃を超えない程度の温度範囲で乾燥させることが好ましい。
【0028】
本発明の微粒水酸化アルミニウムを水酸化アルミニウム粉体と混合することにより、樹脂等に充填したときの粘度上昇を抑制して高い充填量を確保すると共に、耐熱性の低下を抑えた水酸化アルミニウム混合粉体を得ることが可能となる。
本発明の水酸化アルミニウム混合粉体は、本発明の微粒水酸化アルミニウムと、NaO量が0.1重量%以下、かつ、平均粒子径D50が5.0μm以上15.0μm以下の範囲である水酸化アルミニウム粉体とを含んでなる。
【0029】
本発明の水酸化アルミニウム混合粉体に含まれる平均粒子径D50が5.0μm以上15.0μm以下の水酸化アルミニウム粉体のNa含有量は、NaO換算で0.1重量%以下であり、好ましくは0.07重量%以下である。水酸化アルミニウム粉体のNaO量が上記範囲にあると、本発明の微粒水酸化アルミニウムと混合した際、混合粉体の耐熱性の低下が抑制されるため好ましい。また、水酸化アルミニウム粉体のNaO量の下限値は、特に制限されるものではなく、可及的に少ない方がよいが、通常0.01重量%程度である。
【0030】
本発明の微粒水酸化アルミニウムと混合する水酸化アルミニウム粉体の平均粒子径D50は、5.0μm以上15.0μm以下の範囲であり、好ましくは7.0μm以上13.0μm以下の範囲である。水酸化アルミニウムの平均粒子径D50が5.0μmより小さいと、微粒水酸化アルミニウム粉体との混合の効果が薄れる。即ち、粒子径の大きな水酸化アルミニウム粒子間の空隙を、本発明の微粒水酸化アルミニウム粒子により十分に埋めることができず、高充填性が損なわれる。一方、水酸化アルミニウムの平均粒子径D50が15.0μmより大きいと、得られる水酸化アルミニウム混合粉体の粗粒量が増加するため、小型化、薄型化が求められるプリント基板等に適用することが困難になる。
【0031】
本発明の水酸化アルミニウム混合粉体に含まれる、本発明の微粒水酸化アルミニウム(Aとする)と、NaO量が0.1重量%以下、かつ、平均粒子径D50が5.0μm以上15.0μm以下の範囲にある水酸化アルミニウム粉体(Bとする)の重量比は、A:Bが1:9以上5:5以下の範囲、好ましくは2:8以上4:6以下である。AのBに対する混合割合が、重量比で1:9より低いと、得られる水酸化アルミニウム混合粉体中の微粒水酸化アルミニウム量が少なくなり、水酸化アルミニウム混合粉体の樹脂への充填性が低下する。一方、AのBに対する混合割合が、重量比で5:5より高いと、得られる水酸化アルミニウム混合粉体中の微粒水酸化アルミニウム量が増加し、水酸化アルミニウム混合粉体の樹脂への充填性が低下するだけでなく、耐熱性低下を引き起こす。
【0032】
微粒水酸化アルミニウムと水酸化アルミニウム粉末との混合方法については、特に制限はなく、例えばエアーブレンダー、V型ブレンダー等の従来の方法を適用することができる。
【0033】
本発明の微粒水酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウム混合粉体は、樹脂等に充填するフィラーとして用いることができる。この樹脂としては、例えば、ゴム、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の中でも特に、高い難燃性と耐熱性が要求されるプリント基板やこれを構成するプリプレグ等に用いられているエポキシ樹脂やフェノール樹脂等が適している。
【0034】
本発明の微粒水酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウム混合粉体を含有する樹脂組成物は、例えば、本発明の微粒水酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウム混合粉体を樹脂に充填する方法により製造することができる。充填方法は、特に限定されるものではなく、樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、熱可塑性樹脂と混合する場合は、溶融温度未満の温度で樹脂と本発明の微粒水酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウム混合粉体とを混合した後、混練機に投入して樹脂を溶融させて混合する方法等が挙げられる。混練は、プラストミルやバンバリーミキサー、一軸または二軸押出機等を用いて行うことができる。また、熱硬化性樹脂に充填する場合には、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤、溶剤等とともに、本発明の微粒水酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウム混合粉体を、硬化温度未満で混合する方法等が挙げられる。
【0035】
本発明の微粒水酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウム混合粉体の樹脂に対する配合量は、使用する樹脂の種類、及び必要とされる難燃性の度合いに応じて適宜決定されるが、一般的には、樹脂100質量部に対して、10〜400質量部、好ましくは50〜200質量部程度である。配合量が少なすぎる場合には、樹脂に対して十分な難燃性効果を付与できない可能性があり、一方、多すぎる場合には、成形品の強度低下を引き起こしたり、混練できなくなったりする可能性がある。
【0036】
本発明の微粒水酸化アルミニウムは、耐熱性に優れるため、高い難燃性と耐熱性が要求されるプリント基板や、これを構成するプレプリグ等に、好適に用いることができる。本発明の微粒水酸化アルミニウムを含むプリプレグは、例えば、本発明の微粒水酸化アルミニウムを含有する樹脂組成物をガラスクロス、アラミドクロス、紙、ガラス不織布等の基材に含浸、又は塗布させた後、乾燥機中で加熱させる方法などによって半硬化することで製造することができる。また、このプリプレグを複数枚重ねてプレスし、熱硬化させることにより積層板とし、この積層板に回路を形成して、各種電子部品をはんだ付けで接続することにより、目的とするプリント配線基板を製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
【0038】
(1)平均粒子径測定
平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置〔日機装社製「マイクロトラックHRA X−100」〕を用いて測定した。
試料を0.2重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に加え、測定可能濃度に調整した後、出力40Wの超音波を5分間照射した。その後、試料数2で測定し、その平均値から粒子径及び粒子径分布曲線を求めた。この際の水酸化アルミニウム粒子屈折率は、1.57を用いて測定を行った。この粒子径分布曲線を用いて、50体積%相当粒子径として平均粒子径D50を求めた。同様に、微粒部分からの体積累積が10%となる粒子径D10、90%となる粒子径D90について、この粒子径分布曲線から算出した。粒子径分布曲線において、体積頻度が最大値を示す粒子径であるモード径D(体積頻度が最大値を示す粒子径が2つ以上存在する場合には、最も小さな粒子径をモード径Dとした)、粒子径1.0μm以上2.0μm以下の範囲において極大頻度を示す粒子径Da、および粒子径2.5μm以上3.5μm以下の範囲において極大頻度を示す粒子径Dbは、[log(粒子径)]の刻み幅0.038としたときの値から求めた。
【0039】
(2)重量減少温度測定
示差熱重量分析装置〔リガク社製「Thermo Plus EVO TG8120」〕を用いて測定した。
試料量を約10mg、空気流量を100ml/minとし、昇温速度を10℃/minで常温から100℃まで昇温させて、一度100℃で10分間保持した後、400℃まで昇温させて、重量変化を測定し、100℃からの重量減少が1.0重量%となる温度を算出した。
重量減少温度が高いほど、得られる水酸化アルミニウムの耐熱性が高いことを意味する。
【0040】
(3)DOP吸油量測定
JIS−K5101−13−1に規定された方法において、フタル酸ジオクチル(以下、DOP)を用いて測定した。DOP吸油量は、樹脂への充填性を示す指標であり、DOP吸油量が少ないほど樹脂への充填性が向上し、単位体積あたりの樹脂に対して、より多くの微粒水酸化アルミニウムを充填できることを意味する。
【0041】
[微粒水酸化アルミニウム粉体の製造]
微粒水酸化アルミニウムA〜Eを、それぞれ次のようにして調製した。
【0042】
〔水酸化アルミニウムA〕
過飽和のアルミン酸ナトリウム溶液(液中NaO濃度:139g/L、Al濃度:145g/L)に、攪拌下、Al濃度8重量%の硫酸アルミニウムを添加して中和ゲル(種子水酸化アルミニウムとして)を得た。その後、この中和ゲルを、70℃に保持したNaO濃度139g/L、Al濃度145g/Lのアルミン酸ナトリウム溶液に、攪拌下、アルミン酸ナトリウム溶液中のアルミニウム量に対し、Al換算で2.0重量%となるように添加し、72時間攪拌した。
【0043】
その後、48時間かけて55℃まで降温し、NaO量が0.08重量%、平均粒子径D50が2.1μm、かつ、1.0μm以上2.0μm以下と2.5μm以上3.5μm以下のそれぞれの範囲に極大頻度を有し、この範囲における極大頻度の粒子径をそれぞれDa、Dbとするとき、Daが1.2μm、Dbが2.8μmであり、Daの体積頻度が3.9%、Dbの体積頻度が7.5%、D10が0.9μm、D90が3.6μm、BET比表面積が3.7m/gである水酸化アルミニウムを、固形分濃度として121g/Lで含み、液中NaO濃度が138g/L、Al濃度が65g/Lである、水酸化アルミニウムスラリーを得た。
【0044】
得られた水酸化アルミニウムスラリーをスクリューデカンター(巴工業社製「P−660」)にて固液分離し、得られた水酸化アルミニウムのケークに、固液分離前の水酸化アルミニウムスラリーと同体積となるように温水を加え、スクリューデカンターを用いて再び固液分離した。
【0045】
この操作を繰り返し、スクリューデカンターによる固液分離、洗浄を4回実施した。スクリューデカンター運転条件は、遠心分離5000rpm、バックドライブ4200rpm、スラリー流量2L/minであった。スクリューデカンター洗浄を実施した際の粒度分布の推移を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
前記条件下で固液分離することにより、平均粒子径D50が1.3μm、D10が0.7μm、D90が2.2μm、モード径Dが1.3μmの水酸化アルミニウムを含有する水酸化アルミニウムケークを得た。ケークを120℃で乾燥した後、得られた乾燥粉体を自由粉砕機(奈良機械製作所製「M−3」)により処理して、微粒水酸化アルミニウムAを得た。得られた微粒水酸化アルミニウムAの物性を、表2に示す。
【0048】
〔水酸化アルミニウムB〕
市販の水酸化アルミニウム(住友化学社製、商品名CL−310)を用いた。水酸化アルミニウムBの物性を、表2に示す。
【0049】
〔水酸化アルミニウムC〕
市販の水酸化アルミニウム(住友化学社製、商品名C−301)を用いた。水酸化アルミニウムCの物性を、表2に示す。
【0050】
〔水酸化アルミニウムD〕
過飽和のアルミン酸ナトリウム溶液(液中NaO濃度:140g/L、Al濃度:145g/L)の攪拌下、Al濃度8重量%の硫酸アルミニウムを添加し、中和ゲルを得た後、この中和ゲルを、55℃に保持したNaO濃度140g/L、Al濃度145g/Lのアルミン酸ナトリウム溶液に、攪拌下、該溶液中のアルミニウム量に対しAl換算で0.5重量%となるように添加し、72時間攪拌を行った。その後、この水酸化アルミニウムスラリーをろ過、温水を用いて洗浄し、120℃で乾燥した後、得られた乾燥粉体をロータースピードミル(フリッチュ社製「P−14」)により処理して、水酸化アルミニウムDを得た。得られた水酸化アルミニウムDの物性を、表2に示す。
【0051】
〔水酸化アルミニウムE〕
水酸化アルミニウムAの製造方法において水酸化アルミニウムスラリーを得て、スクリューデカンターで固液分離する前の水酸化アルミニウムスラリーを、アペックスミル(コトブキ技研工業社製「AM−1」)を用いて粉砕した。その後、粉砕した水酸化アルミニウムスラリーを55℃で48時間保持した後、ろ過により固液分離を行い、得られたケークを温水を用いて洗浄し、120℃で乾燥した後、得られた乾燥粉体をロータースピードミル(フリッチュ社製「P−14」)により処理し、水酸化アルミニウムEを得た。得られた水酸化アルミニウムEの物性を、表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例1、比較例1−3
[水酸化アルミニウム混合粉体の調製]
水酸化アルミニウムA、B、C、D、Eを、表3に示したとおりに組み合わせて、所定の重量比で混合したのち、振とうにより10分間混合して水酸化アルミニウム混合粉体を得た。
【0054】
【表3】

【0055】
得られた水酸化アルミニウム混合粉体の1.0重量%重量減少温度、及びDOP吸油量を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
表4に示すように、本発明の微粒水酸化アルミニウムを混合することにより、耐熱性が高く、かつ高い充填性を有する水酸化アルミニウム混合粉体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の水酸化アルミニウム混合粉体は、樹脂等に充填する種々のフィラーに適し、例えば、プリント基板、半導体封止材、その他電気部材等を形成する際の難燃フィラー、キッチンカウンター、バスタブ、洗面台等を形成する際の人造大理石用フィラー、PDP等のフラットパネルディスプレーを形成するガラス基板等を放熱する放熱シート、ICチップ用放熱シート、電気部品の封止材等を形成する際の放熱フィラーを含め、各種フィラーとして利用することができる。なかでも、難燃フィラーのように、高充填かつ高耐熱性が望まれる用途に好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaO量が0.15重量%以下、平均粒子径D50が0.5μm以上2.0μm以下であり、かつ、微粒部分からの体積累積が10%となる粒子径D10、微粒部分からの体積累積が90%となる粒子径D90、およびモード径をDとするとき、粒度分布が下式を満たす微粒水酸化アルミニウム。
0.2≦(log(D/D10))/(log(D90/D))≦3.8
【請求項2】
請求項1に記載の微粒水酸化アルミニウム(A)と、NaO量が0.1重量%以下、かつ、平均粒子径D50が5.0μm以上15.0μm以下の水酸化アルミニウム粉体(B)を含み、微粒水酸化アルミニウム(A)と水酸化アルミニウム粉体(B)が、1:9以上5:5以下の重量比(A:B)で含まれる水酸化アルミニウム混合粉体。
【請求項3】
請求項1に記載の微粒水酸化アルミニウムと樹脂を含有する樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の水酸化アルミニウム混合粉体と樹脂を含有する樹脂組成物。
【請求項5】
NaO量が0.15重量%以下、平均粒子径D50が1.0μm以上4.0μm以下であり、粒度分布において1.0μm以上2.0μm以下と2.5μm以上3.0μm以下のそれぞれの範囲に極大頻度を有し、1.0μm以上2.0μm以下の範囲における極大体積頻度が1.0%以上6.0%以下であり、かつ、2.5μm以上3.5μm以下の範囲における極大体積頻度が4.0%以上11.0%以下である水酸化アルミニウムを、解砕機を用いて粒度を調節する工程を含む請求項1に記載の微粒水酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の微粒水酸化アルミニウムを含むプリント基板。
【請求項7】
請求項1に記載の微粒水酸化アルミニウムを含むプリプレグ。

【公開番号】特開2012−131682(P2012−131682A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287345(P2010−287345)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】