説明

微粒蛍光体の製造方法

【課題】1000nm以下の均一でシャープな粒度分布を有する酸化イットリウム微粒蛍光体を効率よく製造する方法の提供。
【解決手段】紫外線励起により蛍光発光する、イットリウム以外の希土類金属を付活剤とする酸化イットリウム微粒蛍光体の製造方法であって、例えば、エチレングリコールや、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリンなどの溶媒及び粒子径調整剤として、ポリアクリル酸またはその誘導体、ポリビニルアルコール、ポリピロリドンなどの存在下において、イットリウム化合物と、イットリウム以外の希土類金属の化合物とを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープな粒度分布を有する高輝度赤色又は緑色の微粒蛍光体を効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アート・装飾分野や、セキュリティ等の分野において、紫外線などの光エネルギーを照射することにより蛍光発色する無機蛍光体が種々使用されてきた。通常、蛍光体粉末を塗料又はインキに加工し、目的物に塗装やシルクスクリーン印刷が行われている。具体的には、アート・装飾分野では、テーマパークや、ホテル、地下道、地下街、列車などの壁や天井に芸術家や工芸塗装技術者が、前記蛍光体含有塗料で装飾画等を描き、ブラックライト等で紫外線を照射することにより鮮やかな蛍光発色画を浮かび上がらせるものである。また、セキュリティ分野では、特殊使用法としてシルクスクリーン印刷が行われている。
【0003】
最近、インクジェット印刷技術の飛躍的進歩により、色鮮やかで高精細の屋内、屋外の広告看板、電照看板が多く見られるようになっている。前記アート・装飾画、セキュリティの分野においても、このようなインクジェットを始めとする印刷技術で、高精細で耐久性のあるインビジブル印刷製品への期待が強まっている。
しかしながら、こうような用途には装置の構造上、1000nm以下、場合によっては、100nm以下の極微細な無機蛍光体粒子が必要となるが、これまで、そのような用途に適する無機蛍光体は知られていなかった。通常、無機蛍光体は、乾式法(粉末冶金法)、即ち、原料の無機化合物粉末を混合した後、数百℃〜千数百℃において焼成した後、物理的に破砕することによって作られているが、このような乾式法においては、一定以下の粒度に粉砕を行なうことが困難であるとともに、たとえ微細粉砕できても、蛍光体の発光輝度が著しく低下するためこのような用途に使用できなかった。
一方、希土類燐酸塩蛍光体の製造方法として、Yなどの希土類元素及びP、Ce、Tbを溶解して蛍光体原料の水溶液を液滴にして、キャリヤガスとともに熱分解反応炉に導入して800〜1900℃で加熱する方法(特許文献1)や、有機溶剤の存在下において、アルカリ土類金属化合物などを加熱する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−155276号公報
【特許文献2】特開2006−213822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、気相中で原料となる無機化合物を反応させる特許文献1に開示の方法では、微粒蛍光体を工業的に生産する場合においては、製造設備が大規模にならざるを得ず、製造コストが過大となるなどの問題がある。また、液相中で原料となる無機化合物を反応させる特許文献2に開示の方法では、条件によっては微粒子を得ることが出来るが、反応時の温度や攪拌条件、原料濃度によって極めて影響されやすく、その結果目的とする粒子径が得られにくかったり、また粒度分布もブロードな分布になりがちであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、従来の技術について鋭意検討の結果、蛍光体を形成するための原料を、特定の有機溶媒とともに、更に、粒子径調整剤として、分子中に酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を少なくとも2個以上含有する化合物の存在下で、イットリウム成分等を反応させることにより、目的とする微粒子が安定して得られ、また粒度分布もシャープで発光輝度の高い、赤色又は緑色の蛍光体が製造できることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は、紫外線励起により蛍光発光する、式、Y23:A(Aは、イットリウム以外の希土類金属を示す。)で表される微粒蛍光体の製造方法に関し、以下の式(1)又は(2)で示される溶媒及び分子中に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を少なくとも2個以上含有する粒子径調整剤の存在下において、イットリウム化合物と、イットリウム以外の希土類金属元素の化合物とを反応させることを特徴とするものである。
式(1)、
1(Cn2nO)m2 (1)
(式中、nは、1〜10の整数であり、mは、1〜100の整数であり、R1は、水素原子、水酸基、炭化水素基、アルキルエーテル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子からなる群から選択される基であり、R2は、水素原子、アルキル基及びハロゲン化アルキル基からなる群から選択される基である。)で表されるモノ又はジアルコール又はその誘導体。
式(2)
3(OH)x4 (2)
(式中、R3は、炭素数3〜10のアルキル基であり、xは、3〜6の整数であり、R4は、アルキルエーテル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子からなる群から選択される基である。)で表される、水酸基を3〜6個有する多価アルコール又はその誘導体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無機化合物を出発原料とした高輝度蛍光体を、有機溶媒中で反応させることにより、シャープな粒度分布を持つ蛍光体微粒子を効率よく製造することができる。また、本発明により製造した蛍光体は、1000nm以下のシャープな粒度分布を持つ微粒子であり、紫外線励起により蛍光発光する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明により得られる微粒蛍光体は、特定の溶媒中で、分子中に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される元素を少なくとも2個以上含有する粒子径調整剤の存在下において、原料を反応させることによって得られる。その際使用される溶媒としては、以下の2種類の溶媒のいずれか又は両方が使用される。
式(1)、
1(Cn2nO)m2 (1)
(式中、nは、1〜10の整数であり、mは、1〜100の整数であり、R1は、水素原子、水酸基、炭化水素基、アルキルエーテル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子からなる群から選択される基であり、R2は、水素原子、アルキル基及びハロゲン化アルキル基からなる群から選択される基である。)で表されるモノ又はジアルコール、又はその誘導体。
【0009】
式(2)
3(OH)x4 (2)
(式中、R3は、炭素数3〜10のアルキル基であり、xは、3〜6の整数であり、R4は、アルキルエーテル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子からなる群から選択される基である。)で表される、水酸基を3〜6個有する多価アルコール、又はその誘導体。
これらの溶媒は、単独で使用してもよく、又は、これらの二種以上を混合して用いることができる。このような溶媒を用いることにより、安定的に、また製造効率よく、粒子径の均一な微粒蛍光体を製造することが可能になる。
【0010】
前記式(1)の溶媒において、R1としての、炭化水素基としては、例えば、炭素数が、1〜17、好ましくは、1〜6の炭化水素基が好適であり、炭化水素基としては、アルキル基や、フェニル基等の基が好適に挙げられる。好ましいアルキル基としては、直鎖又は分岐を有するアルキル基、例えば、メチル基や、エチル基、t-ブチル基などを挙げることができる。
1におけるアルキルエーテル基のアルキル基としては、炭素数が、1〜10、好ましくは、1〜4のアルキル基が好適であり、アルキルエーテル基としては、例えば、メチルエーテル基や、エチルエーテル基、イソアミルエーテル基、ベンジルエーテル基、ナフチルエーテル基などを挙げることができる。
【0011】
1におけるアルキルエステル基のアルキル基としては、炭素数が、1〜10、好ましくは、1〜5のアルキル基が好適であり、アルキルエステル基としては、例えば、酢酸エステル基や、酪酸エステル基、乳酸エステル基、安息香酸エステル基、ナフテン酸エステル基などを挙げることができる。
1におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子や、塩素原子、臭素原子などが好適に挙げられる。
2としてのアルキル基又は、ハロゲン化アルキル基におけるアルキル基の範囲は、R1で説明したものと同様である。
【0012】
式(1)で示されるモノアルコールとしては、R1(Cn2nO)mHで示されるアルコールが好適に挙げられる(nは、例えば、1〜3、mは、1〜3で、R1が水素原子)。また、式(1)で示されるジアルコールとしては、HO(Cn2nO)mH(nは、例えば、1〜3、mは、1〜4で、R1が水素原子)で示されるジアルコールが好適に挙げられる。
式(1)で示される溶媒の具体例としては、例えば、メチルアルコールや、エチルアルコール、n−プロピルアルコール,i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、へプチルアルコール、オクチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、
【0013】
エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールとそのアルキルエーテル及び又はアルキルエステル誘導体、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキシレンジオール、オクチレングリコールが代表的なものとして挙げることができる。特に、好ましい溶媒としては、エチレングリコールや、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール及びそれらのものメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0014】
式(2)の溶媒において、水酸基は、同一の炭素原子上に結合していても、別の炭素原子上に結合していてもよい。R3としてのアルキル基の範囲は、上記と同様である。R4としても、アルキルエーテル基、アルキルエステル基及び、ハロゲン原子の範囲は、式(1)で説明したものと同様である。
式(2)で示される溶媒としては、具体例としては、グリセリンや、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、トリメチロールプロパンと、そのアルキルエーテル及び又はアルキルエステル誘導体、ヘキサントリオールと、その誘導体、ペンタエリスリトールと、その誘導体、ジペンタエリスリトールと、その誘導体などが代表的なものとして挙げられるが、これに限定されるものではない。
なお、式(2)で示される化合物のうち、特に好適に挙げられる多価アルコールは、例えば、グリセリンや、トリメチロールプロパン、これらのモノメチルエーテルなど好適に挙げられる。
本発明の方法では、上記有機溶媒とともに、粒子径調整剤として、特定の化合物を併用することに特徴がある。粒子径調整剤として使用する化合物は、式(1)又は(2)で示される有機溶媒に可溶であり、耐熱性の優れたものであり、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール及びその誘導体や、ポリアクリル酸及びその誘導体、セルロース樹脂及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、スチレンマレイン酸樹脂及びその誘導体、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、ゼラチン、アルギン酸や、エチレンジアミンテトラ四酢酸、及びその塩、アセチルアセトン、1,10―フェナントロリン、ジチオール等のキレート化剤などを好適に挙げることができる。更に好適なものとして、ポリビニルアルコール及びその誘導体や、ポリアクリル酸及びその誘導体、ポリビニルピロリドンである。
ポリマーについては、例えば、重合度は、10〜2000、好ましくは、20〜1000、数平均分子量は、 400〜100000、好ましくは、1000〜50000を好適に挙げることができる。ポリビニルアルコールの場合には、ケン化度は、例えば、80〜90モル%程度が好適である。
【0015】
本発明において、イットリウム化合物と、イットリウム以外の希土類元素の化合物とは、前記溶媒中において、反応させることにより、Y23:A(Aは、イットリウム以外の希土類元素)で表される微粒蛍光体又はその前駆体を製造することができる。前駆体とは蛍光体原材料と生成する蛍光体の中間生成物で組成は明らかではないが、中間的な組成又は蛍光体に近い組成と考えられる。
前駆体を生成した場合は溶媒を除去した後、焼成し、蛍光体とすることができる。
イットリウム化合物としては、例えば、イットリウムの水酸化物、キレート物(例えば、キレート化剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びその塩や、ジエチレントリアミン五酢酸など、ホスホン酸系キレート剤、例えば、アミノトリメチレンホスホン酸や、ヒドロキシエタンホスホン酸などが好適に挙げられる。)、酸素酸塩(例えば、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩など)、有機酸塩(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩など)、ハロゲン化物(ハロゲン原子としては、フッ素や、塩素、臭素など)、アルコキシド(アルコキシドにおけるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルキル基、例えば、メチル基や、エチル基、t−ブチル基等が好適に挙げられる)等を好適に使用することができる。これらの代表例として、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩(カルボン酸としては、例えば、シュウ酸や、酢酸など)、塩化物、アルコキシド等を好適に挙げることができる。その中でも、硝酸塩、カルボン酸塩、アルコキシドが特に好適に使用することができ、これらの代表的なものとしては、硝酸イットリウムや、シュウ酸イットリウム、イットリウムイソプロポオキシド等が挙げられる。
【0016】
イットリウム以外の希土類金属元素としては、具体的には、Scや、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLu等が好適に挙げられ、イットリウム以外の希土類化合物としては、それらの希土類金属元素それ自体や、その水素化物、ハロゲン化物、水酸化物、硫化物、有機酸塩、酸素酸塩、アルコキシド等が好適に挙げられる。ハロゲン化物、有機酸塩、酸素酸塩、アルコキシド等などの内容は、上記の通りである。
代表的なものとしては、シュウ酸ユウロピウムや、硝酸エルビウム、酢酸サマリウム、硝酸セリウム等が好適に挙げられ、その中でも特にEuの化合物が特に好適に使用することができる。
式、Y23:A(Aは、イットリウム以外の希土類金属元素)で示される蛍光体には、必要に応じて、補助付活剤Bを添加してもよい。この場合、得られる化合物は、式、Y23:A,B(Aは、イットリウム以外の希土類金属元素であり、Bは、元素の周期表(長周期型)の第13から17族に属する元素(以下、単に、「Pブロック元素」と言う))で表される蛍光体となる。ただし、Pブロック元素の具体例としては、例えば、Alや、Zn、Ga、Ge、Cd、In、Sn、Sb、Hg、Tl、Pb、Bi、Poである。その中でも、Bi、Ga、Geを好適に使用することができ、特に好ましくは、Biである。これらPブロック元素を蛍光体合成反応に用いる場合は、水素化物や、ハロゲン化物、水酸化物、硫化物、有機酸塩、酸化物、酸素酸塩、アルコキシド等のPブロック元素化合物が好適に使用される。ハロゲン化物や、有機酸塩、酸素酸塩、アルコキシド等などの内容は、上記の通りである。
【0017】
本発明の蛍光物質は、イットリウム酸化物の結晶内に発光中心(付活剤)である希土類金属元素や、任意の付活剤の発光を補助する補助付活剤が含有されることで紫外線などの励起源により発光する。なお、微粒蛍光体の粒径は、動的光散乱法により測定した粒度分布に基づくものである。
理論により束縛されるものではないが、実験の観察によれば、本発明においては、イットリウム化合物と付活剤原料化合物や、補助付活剤原料化合物が、粒子径調整剤の存在下において、溶媒中で加熱されることにより、一旦、溶媒に溶解し、ついで、これらの反応により、微粒蛍光体の生成物が溶媒から急激に析出し、その際粒子径調整剤が析出物表面に強く吸着が起こり、粒子が安定化されるため、よりシャープな粒度分布及び分散安定性が得られるものと考えられる。
従って、イットリウム化合物と、付活剤原料化合物(A成分化合物)や、補助付活剤原料化合物(Pブロック元素化合物)の量は、十分に溶媒に溶解又は安定に分散する量とすることが必要であり、粒子径調整剤についても適正な量が必要である。
例えば、イットリウム化合物は、一般に、溶媒1容量部に対して、0.0005〜0.6質量部、好ましくは、0.001〜0.3質量部の範囲とすることが好ましい。例えば、溶媒1ml当り、0.005〜0.6g、好ましくは、0.001〜0.3gの範囲とすることが好ましい。
この範囲での使用により、粒子径が、好ましくは、1000nm以下、例えば、5〜1000nmの微粒蛍光体の溶媒分散液を得ることができる。
なお、前記添加量が0.0005質量部より少ないと、微粒蛍光体の製造効率が低下する傾向にある。また、0.6質量部より多いと、微粒蛍光体が凝集し、目的とする微粒蛍光体の均一な分散体を得にくい。
【0018】
イットリウム以外の希土類金属化合物の量は、同様に、溶媒に対する溶解性又は分散性に基づくが、発光輝度の高い微粒蛍光体を製造効率よく製造するためには、前記イットリウム化合物1モルに対して、30モル%以下、好ましくは、0.05〜20モル%の範囲にとどめることが好ましい。
Pブロック元素化合物の量は、溶媒に対する溶解性又は分散性に基づくが、発光輝度の高い微粒蛍光体を製造効率よく製造するためには、前記イットリウム化合物1モルに対して、30モル%以下、好ましくは、20モル%以下の範囲にとどめることが好ましい。
なお、イットリウム化合物、イットリウム以外の希土類金属化合物、及び任意にPブロック元素化合物を複数併用する場合においては、得られる微粒蛍光体の組成や、粒径等によりその配合比率を適宜変化させることが可能である。
前記イットリウム化合物、希土類金属化合物及び任意にPブロック元素化合物は溶媒に各化合物を一度に添加してもよく、それぞれ段階的に添加してもよい。また、添加する段階も、加熱前、加熱中等適宜変化させることが可能である。
また、粒子径調整剤の添加量としては、溶媒1容量部に対して、0.01〜0.8質量部、好ましくは、0.02〜0.5質量部であることが適当である。0.01質量部より少ないと、分散安定したシャープな粒度分布が得ることが困難となりやすい。また、0.8重両部より多いと、反応の際、攪拌することができなくなる傾向がある。
【0019】
本発明においては、選択された溶媒及びイットリウム化合物、イットリウム以外の希土類金属化合物、任意のPブロック元素化合物の種類によっては、反応系中に含まれる成分によって、溶媒が酸化され、溶媒もしくは微粒蛍光体が着色する場合がある。このような場合においては、溶媒に対して、酸化防止剤や、還元剤等の添加剤を添加することも可能である。
前記イットリウム化合物、イットリウム以外の希土類金属化合物、及び任意のPブロック元素化合物を、溶媒中において、粒子径調整剤の存在下において、加熱を行うことにより、紫外線励起により蛍光発光する微粒蛍光体又はその前駆体が得られる。この反応において、溶媒に対して、イットリウム化合物、希土類金属化合物、必要に応じて配合されるPブロック元素化合物を添加した後に加熱を開始しても、予め加熱した溶媒に対してイットリウム化合物、イットリウム以外の希土類金属化合物、必要に応じて配合されるPブロック元素化合物を添加してもよい。また、加熱温度は、使用する溶媒の組成や、イットリウム化合物、イットリウム以外の希土類金属化合物、及び必要に応じて配合されるPブロック元素化合物の種類や添加量等により、適宜変化させることが可能であるが、通常、溶媒の沸点を考慮し、加熱温度を、50℃〜400℃の範囲で行うことが好ましい。加熱温度が50℃より低いと、微粒蛍光体の反応が著しく遅くなり易く、製造効率が低下する傾向にある。また、加熱温度が400℃より高いと、反応の制御が困難となり易い。好ましい加熱温度は、100℃〜350℃、特に好ましくは、150〜300℃である。反応時間は、例えば、1分〜72時間であり、好ましくは、10分〜10時間で十分である。
【0020】
本発明では、溶媒の沸点以下の大気圧下、又は溶媒の沸点以上の加圧下のどちらでも可能である。ただし、大気圧で反応を行う場合には、製造設備を過大にする必要が無く、より簡便に製造効率よく微粒蛍光体を製造することが可能となる。
また、反応の際には、窒素ガス又はアルゴンガス雰囲気下で反応を行うことも可能である。反応系に対する酸素の混入を防止し、蛍光体の蛍光強度の低下、生成物の着色等、蛍光体の性能低下を防止することが可能である。
本発明の方法は、攪拌装置を用いて前記溶媒を攪拌しながら行うことが好ましい。このような攪拌装置を用いることで、反応系を均一とし、反応効率を上昇させることができ、微粒蛍光体の安定的な製造が可能となる。
【0021】
本発明においては通常無機蛍光体で必要とされる焼成工程は、必ずしも必要としないが前駆体が生成する場合は焼成工程を行ってもよい。
上記手順により製造した微粒蛍光体は、溶媒に分散した状態で得られる。また用途によっては溶媒を取り除いて粉末状にしてから使用することも可能である。また、得られた溶媒に分散したものを蒸発濃縮法などのCVD法により強固な結晶構造にすることもできる。更に、得られた粉末状の微粒蛍光体又は微粒蛍光体の溶媒分散液を、例えば、200〜1800℃で、一定時間焼成することも可能である。焼成を行うことで、より強固な結晶構造を有した微粒蛍光体を得ることが可能である。
【0022】
<微粒蛍光体の特性>
本発明により製造された微粒蛍光体は、例えば、平均粒径が1000nm以下(下限は、例えば、5nm程度)という、これまでの蛍光体よりも非常に小さな粒径を有する。従って、微粒蛍光体をコーティングや、インクジェットプリンター用インクの用途等、幅広い用途で使用することが可能となる。より高い分散安定性や可視光下透明性が要求される用途においては、100nm以下の微粒蛍光体を使用することが出来る。
また、前記微粒蛍光体は、紫外線を照射することにより、蛍光発色するが、特に波長領域300〜400nmの近紫外線においても励起するため、ブラックライトや紫外線LEDなどの光源でも蛍光発光させることが可能である。そのため、近紫外線発光の望ましいアート・装飾の分野や各種有価証券、ブランド品等の偽造防止に適している。
更に、前記微粒蛍光体の特性を活かし、蛍光灯やLEDなどの照明やPDP、液晶、FEDなどのフラットパネル・ディスプレイ分野などに使用することもできる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例等により、本発明について更に詳細に説明するが、これらの実施例によって、本発明の範囲は、何ら限定されるものではない。
粒度分布についてはマルバーン社製のMalvernHPPSを使用した。この測定機械は、動的光散乱法にて粒度分布を測定する機械である。
【0024】
<実施例1>
200mlの3口フラスコに、還流装置として冷却管、温度計、攪拌装置を取り付け、当該フラスコをオイルバス中に設置した。当該フラスコにジエチレングリコール50ml、ポリビニルアルコール(重合度550、ケン化度88mol%)10g、酢酸イットリウム四水和物0.41g(1.2mmol)を添加し、窒素置換を行った後、加熱を開始した。系の温度が170℃に達した時点で、硝酸ユウロピウム六水和物0.045g(0.1mmol)を添加し、温度を170℃に保持しつつ、攪拌しながら4時間加熱を行った。その後、室温まで冷却し、ジエチレングリコールの微粒物質分散液を得た。得られた分散液中の微粒物質をMalvernHPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径28nmの均一な粒子で、半価幅は15nmであった(図1参照)。この分散液に対し、302nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ、赤色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、615nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒子をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、酸化イットリウムの回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置にて確認したところ、イットリウム、ユウロピウムの元素からなる物質であることが確認できた。
【0025】
<実施例2>
200mlの3口フラスコに、還流装置として冷却管、温度計、攪拌装置を取り付け、当該フラスコをオイルバスに設置した。当該フラスコに、ジエチレングリコールモノメチルエーテル50ml、アクリル酸/スルホン酸系モノマー共重合体塩(製品名アクアリックL GL、日本触媒社製)1.5g、炭酸イットリウム二水和物 0.24g(0.6mmol)、シュウ酸ユウロピウム6水和物0.013g(0.02mmol)、酢酸ビスマス五水和物0.02g(0.04mmol)を添加し、加熱を開始した。加熱温度は190℃とし、攪拌しながら5時間加熱を行うと微粒の物質が溶液から析出した。次いで、得られた分散液を室温まで冷却し、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの微粒物質の分散液を得た。この得られた分散液を、MalvernHPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径26nmの均一な粒子で半価幅は11nmであった(図2参照)。前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル分散液に対し、365nmを主波長とする紫外線ランプ(ブラックライト)を照射したところ、赤色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、612nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒物質をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、酸化イットリウムの回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置にて確認したところ、イットリウム、ユウロピウム、ビスマスの元素からなる物質であることが確認できた。
【0026】
<実施例3>
200mlの3口フラスコに、還流装置として冷却管、温度計、攪拌装置を取り付け、当該フラスコをオイルバスに設置した。当該フラスコにグリセリン50ml、ポリアクリル酸ナトリウム(製品名ジュリマー AC-10NP、日本純薬社製)20g、イットリウムイソプロポオキシド 6.56g(0.02mol)を添加し、窒素置換を行った後、加熱を開始した。系の温度が200℃に達した時点で、硝酸テルビウム六水和物0.9g(2.0mmol)及び硝酸ビスマス五水和物1.07g(2.2mmol)を添加し、温度を200℃に保持しつつ、攪拌しながら4時間加熱を行った。その後、室温まで冷却し、グリセリンの微粒物質分散液を得た。前期分散液中の微粒物質をMalvernHPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径25nmの均一な粒子で半価幅は11nmであった(図3参照)。この分散液に対し、302nmを主波長とする紫外線ランプ(ブラックライト)を照射したところ、緑色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、545nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒物質をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、酸化イットリウムの回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置にて確認したところ、イットリウム、テルビウム、ビスマスの元素からなる物質であることが確認できた。
【0027】
<実施例4>
200mlの3口フラスコに、還流装置として冷却管、温度計、攪拌装置を取り付け、当該フラスコをオイルバスに設置した。当該フラスコにエチレングリコール50ml、酢酸イットリウム四水和物 15g(0.04mol)を添加し、窒素置換を行った後、加熱を開始した。系の温度が190℃に達した時点で、ポリビニルアルコール(重合度250、ケン化度98mol%)12.5g、硝酸ユウロピウム六水和物1.33g(3.0mmol)及び酢酸ガドリニウム四水和物0.24g(0.6mmol)を添加し、温度を190℃に保持しつつ、攪拌しながら4時間加熱を行った。その後、室温まで冷却し、エチレングリコールの微粒物質分散液を得た。前期分散液中の微粒物質をMalvernHPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径16nmの均一な粒子で半価幅は20nmであった(図4参照)。この分散液に対し、302nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ、赤色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、613nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒物質をICP発光分光分析装置にて確認したところ、イットリウム、ユウロピウム、ガドリニウムの元素からなる物質であることが確認できた。
【0028】
更に得られた微粒物質分散液からエバポレーターによりエチレングリコールを除去し、白い粉末を得た。その粉末を電気焼成炉にて700℃、26時間焼成を行なったところ、302nmを主波長とする紫外線ランプの照射で、更に発光輝度の高い赤色発光が確認できた。PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、613nmに発光波長のピークを確認できた。また、焼成後の微粒物質についてX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、酸化イットリウムの回折データと一致した。
【0029】
<比較例1>
200mlの3口フラスコに、還流装置として冷却管、温度計、攪拌装置を取り付け、当該フラスコをオイルバス中に設置した。当該フラスコにジエチレングリコール50ml、酢酸イットリウム四水和物0.61g(1.8mmol)を添加し、窒素置換を行った後、加熱を開始した。系の温度が180℃に達した時点で、硝酸ユウロピウム六水和物0.09g(0.2mmol)を添加し、温度を180℃に保持しつつ、攪拌しながら4時間加熱を行った。その後、室温まで冷却し、ジエチレングリコールの微粒物質分散液を得た。得られた分散液中の微粒物質をMalvernHPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径50nmの均一な粒子で半価幅は54nmであった(図5参照)。この分散液に対し、302nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ、赤色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、615nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒子をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、酸化イットリウムの回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置にて確認したところ、イットリウム、ユウロピウムの元素からなる物質であることが確認できた。しかしながら、上記の通り、比較例1で得られた蛍光体の粒度分布は半価幅が57nmとブロードであり、一方、実施例1〜4は、10nm〜20nmの範囲内であり、粒度分布幅が狭くシャープな粒子が得られていた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【図2】実施例2で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【図3】実施例3で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【図4】実施例4で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【図5】比較例1で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線励起により蛍光発光する、式、Y23:A(Aは、イットリウム以外の希土類金属を示す。)で表される微粒蛍光体の製造方法であって、以下の式(1)又は(2)で示される溶媒及び粒子径調整剤として分子中に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を少なくとも2個以上含有する化合物の存在下において、イットリウム化合物と、イットリウム以外の希土類金属の化合物とを反応させることを特徴とする方法。
式(1)、
1(Cn2nO)m2 (1)
(式中、nは、1〜10の整数であり、mは、1〜100の整数であり、R1は、水素原子、水酸基、炭化水素基、アルキルエーテル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子からなる群から選択される基であり、R2は、水素原子、アルキル基及びハロゲン化アルキル基からなる群から選択される基である。)で表されるモノ又はジアルコール又はその誘導体。
式(2)
3(OH)x4 (2)
(式中、R3は、炭素数3〜10のアルキル基であり、xは、3〜6の整数であり、R4は、アルキルエーテル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子からなる群から選択される基である。)で表される、水酸基を3〜6個有する多価アルコール又はその誘導体。
【請求項2】
前記蛍光体の平均粒子径が、5〜1000nmである、請求項1に記載する微粒蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記蛍光体が、式、Y23:A,B(Aは、イットリウム以外の希土類金属を示し、Bは、周期律表(長周期型)第13〜第17族に属する元素の化合物を示す。)で示される請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記イットリウム化合物、前記希土類金属の化合物、又は前記周期律表(長周期型)第13〜第17族に属する元素の化合物が、水酸化物、キレート化物、無機酸塩、有機酸塩、酸素酸塩、ハロゲン化物及びアルコキシドからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
Bが、周期律表(長周期型)第15族元素である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
Bが、ビスマスである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
Aが、ユーロピウムである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記粒子径調整剤が、ポリアクリル酸又はその誘導体、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンである請求項1〜7のいずれかに記載に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate