説明

微粒銀粉の製造方法

【課題】電解法によって微粒銀粉を得ることができる新たな微粒銀粉の製造方法を提供する。
【解決手段】銀アンミン錯塩水溶液などの銀錯塩水溶液を電解液に用いて電解し、平均粒径(D50)10μm以下の微粒銀粉を得られた。しかも、得られる銀粉は、デンドライト状の粒子からなる銀粉であり、均質性の点でも優れていた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解法によって微粒銀粉を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀粉は、積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、プラズマディスプレイパネル用基板の電極など、各種電子部品の電極や回路形成に使用されている。近年、電子部品の小型化、高密度化、高精度化に伴い、銀粉にも微粒子化及び均質化が求められている。
【0003】
銀粉の製造方法としては、銀イオンを含む電解液を電解して銀粒子を電極に析出させる電解法(特許文献1参照)のほか、特許文献2に開示されているように、硝酸銀溶液とアンモニア水とで銀アンミン錯体水溶液を製造し、これに有機還元剤を添加する湿式還元プロセスによって高分散性球状銀粉末を得る方法、さらには、特許文献3に開示されているように、例えば、硫酸銀水溶液に還元剤としてホスフィン酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、ハイドロキノンのうちの1種とポリビニルピロリドンを用いて反応を行う化学還元法を利用した方法などが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平8-209375号公報
【特許文献2】特開2001−107101号公報
【特許文献3】特開平6−122905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような各種銀粉の製造方法の中で、還元剤を用いる方法はコストが高くなる傾向があるばかりか、還元剤の種類によっては異臭が発生するなど作業環境の点で問題を生じることがある。それに比べ、電解法は、比較的安価に銀粉を製造できる上、高電流密度での操業が可能であるため生産効率の点でも優れている。
しかし、電解法によると、銀粉の粒径が粗大化する傾向があり、微細回路形成に求められるような微粒な銀粉を得ることが難しいという課題を抱えていた。
【0006】
そこで本発明は、電解法によって微粒銀粉を得ることができるように、新たな微粒銀粉の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、銀錯塩水溶液を電解液に用いて電解することを特徴とする微粒銀粉の製造方法を提案する。
【0008】
銀アンミン錯塩水溶液などの銀錯塩水溶液を電解液に用いて電解することにより、平均粒径(D50)10μm以下の微粒銀粉を得ることができる。しかも、得られる銀粉は、球状粒子の少ないデンドライト状の粒子が主体の銀粉であり、均質性の点でも優れている。また、デンドライト状の粉粒は、球状粉に比べ、比表面積が大きく、加熱による熱的影響を受けやすく、低温焼結性を発揮しやすい物理的特徴を有している。
さらに、従来の一般的な電解法は、酸性溶液中で電解を行うのが一般的であったため、たとえ微粒子が析出したとしても再溶解してしまうが、銀アンミン錯塩水溶液などの銀錯塩水溶液をpH調整の上、電解液に用いることにより、析出した微粒銀粒子が再溶解することなく安定して存在し得るため、形状及び大きさの点で均質なデンドライト状の微粒銀粉を得ることができる。
【0009】
上記電解液に水溶性有機高分子を加えることで、得られる銀粒子の粒径をさらに小さくすることができる。
【0010】
また、上記の如く電解して得られた銀粉を湿式粉砕することにより、デンドライト状銀粒子における幹部分と分岐部分とを分離することができ、より一層微粒な針状銀粒子を得ることができる。
そして、湿式粉砕後に分級することにより、例えば幹部分と分岐部分とを分離することができ、各粒径及び形状に応じた用途に各々利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳述するが、本発明の範囲が以下の実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意であり、「好ましくはXより大きく、Yより小さい」の意を包含するものである。
【0012】
本実施形態では、銀錯塩水溶液を電解液として電解し、微粒銀粉を得る製造方法について説明する。
なお、本発明における「電解」とは、DSE電極を用いた電解採取、銀電極を用いた電解精製のどちらも包含するものである。
【0013】
銀錯塩水溶液としては、一座配位子錯塩である銀アンミン錯塩の水溶液(銀アンミン錯塩水溶液)を用いるのが好ましい。
一座配位子である銀アンミン錯塩は、二座配位子或いはそれ以上の多座配位子に比べて銀イオンとの結合力が弱く、立体障害も少ないため、錯体の中でも特に銀粉の電析に適している。
【0014】
銀錯塩水溶液の調製方法は、特に限定するものではない。例えば銀アンミン錯塩水溶液を調製する場合には、硝酸銀水溶液などの銀イオンを含む水溶液に、アンモニア或いはアンモニア水を加えて調製することもできるし、また、さらに硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩をさらに加えて調製することもできる。この際、アンモニウム塩はアンモニウムイオンの供給源となると共にpH緩衝剤として機能するため、アンモニア或いはアンモニア水の添加量を抑えることができ、電解液のpH調整を容易にすることができる。
【0015】
銀錯塩水溶液のpHは3〜11、特に4〜11、その中でも特に5〜10に調整するのが好ましい。pHが3よりも低いときは、析出した粒子が溶解してしまい、形状が安定しない。また、pHが11を超える場合には、アンモニアガスが揮発し、悪臭を引き起こすばかりか、生成する粒子に差がないことより経済的でない。中でも特に銀錯塩水溶液のpHを5〜10の範囲に調整することにより、析出した微粒銀粒子が溶解(再溶解)することなくより一層安定して存在するため、形状及び大きさの点で品質がより一層安定した微粒銀粉を製造することができる。
【0016】
電解液中の銀濃度は、0.5g/L〜50g/L、特に1g/L〜30g/Lに調整するのが好ましい。0.5g/L未満になると、銀の析出速度が遅くなり、効率的に銀粉を得ることができない。また、50g/Lより多くなると、生成する銀粒子の形状が安定しなくなるため好ましくない。
【0017】
電解液中のNH3/Ag+は、モル比で2以上、中でも2〜20に調整するのが好ましい。2未満であると錯形成が不十分となり銀が沈殿するようになる。また、20より大きくなると不経済であり、アンモニアガスの悪臭により作業環境が悪化する可能性がある。
具体的には、例えば硝酸銀水溶液とアンモニア水、或いはさらに、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩とを、銀とNH3とのモル比が上記所定の範囲内になるように混合するのが好ましい
【0018】
電解条件としては、電流密度は10〜1000A/m2が好ましく、より好ましくは30〜800A/m2であり、さらに好ましくは50〜500A/m2である。10A/m2未満であると、銀の析出速度が遅くなり粒子が粗大化する。また1000A/m2より高くなると、溶液内の温度が上昇し、銀粉の形状が安定しない。また、アンモニアもより揮発しやすくなり、ランニングコストもかさみ不経済である。
【0019】
極板上に析出した銀粉は適宜時間おきに掻き落し、極板から掻き落した銀粉は、濾過し、洗浄し、乾燥することにより、微粒銀粉を得ることができる。この際、濾過、洗浄および乾燥の方法は特に限定するものではなく、一般的な方法を採用すればよい。
【0020】
上記のようにして銀粉を製造すれば、いずれの粒子もデンドライト状を呈し、且つ、平均粒径(D50)10μm以下、好ましくは5μm〜10μmの微粒銀粉を得ることができる。
なお、デンドライト状とは、幹部分から平面状に枝部分が分岐して成長してなる形状である。
【0021】
さらに、上記電解液に水溶性有機高分子を加えて上記のように電解することによって、上記のデンドライト状微粒銀粉をさらに微粒化することができる。
水溶性有機高分子としては、例えばゼラチン、ポリビニルアルコール、水溶性でんぷん、にかわ、水溶性カルボン酸塩などを挙げることができ、中でもゼラチンが好ましい。
この際、水溶性有機高分子は、電解液に対して0.05g/L〜5g/Lとなるように添加するのが好ましい。0.05g/L未満であると十分な効果が得られず、5g/Lより多くなると粒子形状が安定しなくなるため好ましくない。
【0022】
また、上記のように電解して得られた銀粉を湿式粉砕することにより、デンドライト状銀粒子の幹部分と分岐部分とを分離することができ、これによってさらに微粒な針状銀粒子を得ることができる。
【0023】
湿式粉砕手段としては、銀粒子は軟らかいため、形状を維持できるように、メディア(ビーズやボールなどの粉砕媒体)を使用しない湿式粉砕手段を採用するのが好ましく、例えば湿式ジェットミルなどを好適に用いることができる。
【0024】
さらに、上記湿式粉砕に続いて分級することにより、例えば幹部分と分岐部分とを分離することができ、いずれも極めて微粒な粒子であるが、その中でも幹部分と分岐部分のそれぞれの特徴に応じた用途に利用することができる。
この際、分級方法としては、遠心分級のほか、振動篩いや面内篩いのように一定の大きさの網目を通過させる方法や、気流により分離する方法のいずれを採用してもよい。
【0025】
上記のようにして得られた銀粉に対して有機表面処理を施してもよい。銀粒子に有機表面処理を施すことにより、凝集性を抑制することができる。また、有機表面処理剤を適宜選択することにより、他材料との親和性をコントロールすることも可能となる。
この際、有機表面処理としては、例えば飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びシランカップリング剤等からなる皮膜を銀粒子表面を形成するようにすればよい。中でも、上記有機化合物のうち、オレイン酸、カプリン酸又はステアリン酸を用いて行なうのが好ましい。皮膜形成方法としては、例えば乾式法、湿式法等、公知の方法を採用すればよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
<粒度測定>
銀粉を少量ビーカーに取り、3%トリトンX溶液(関東化学製)を2、3滴添加し、粉末になじませてから、0.1%SNディスパーサント41溶液(サンノプコ製)50mLを添加し、その後、超音波分散器TIPφ20(日本精機製作所製、OUTPUT:8、TUNING:5)を用いて2分間分散処理して測定用サンプルを調製した。
この測定用サンプルを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3300 (日機装製)を用いて、粉体特性値(Dmin、D10、D50、D90、Dmax)を測定した。
【0028】
<比表面積の測定>
比表面積は、ユアサアイオニクス社製モノソーブにて、BET1点法で測定した。
【0029】
(実施例1)
0.8Lの純水に硝酸銀12.6gを溶解し、25%アンモニア水を24mL、さらに硫酸アンモニウムを40g添加し、銀アンミン錯塩水溶液を調製した(銀濃度10g/L、NH3/Ag+モル比12、20℃、pH9.4)。
この銀アンミン錯塩水溶液を電解液とし、陽極、陰極共にDSE極板を使用し、電流密度200A/m2、溶液温度20℃で電解し、適当な間隔をおいてスクレーパにより電析した銀粒子を極板から掻き落し、1時間電解した。
その後、掻き落して得られた銀粉をヌッチェでろ過し、純水、さらにアルコール洗浄を行い、70℃×12時間、大気雰囲気下で乾燥させ、デンドライト状銀粉を得た。
【0030】
得られた銀粉の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像を図1に示した。また、得られた銀粉について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定して得た粉体特性を表1に示した。
【0031】
(実施例2)
0.8Lの純水に硝酸銀1.26gを溶解し、25%アンモニア水を2.4mL、さらに硫酸アンモニウムを4g添加し、銀アンミン錯塩水溶液を調製した(銀濃度1g/L、NH3 /Ag+モル比12、20℃、pH9.4)。
この銀アンミン錯塩水溶液を電解液とし、陽極、陰極共にDSE極板を使用し、電流密度200A/m2、溶液温度20℃で電解し、適当な間隔をおいてスクレーパにより電析した銀粒子を極板から掻き落し、1時間電解した。
その後、掻き落して得られた銀粉をヌッチェでろ過し、純水、さらにアルコール洗浄を行い、70℃×12時間、大気雰囲気下で乾燥させ、デンドライト状銀粉を得た。
【0032】
得られた銀粉について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定して得た粉体特性を表1に示した。
【0033】
(実施例3)
0.8Lの純水に硝酸銀12.6gを溶解し、25%アンモニア水を24mL、さらに硫酸アンモニウムを40g添加し、銀アンミン錯塩水溶液を調製した(銀濃度10g/L、NH3/Ag+モル比12、20℃、pH9.4)。
この銀アンミン錯塩水溶液を電解液とし、陽極、陰極共にDSE極板を使用し、電流密度700A/m2、溶液温度20℃で電解し、適当な間隔をおいてスクレーパにより電析した銀粒子を極板から掻き落し、1時間電解した。
その後、掻き落して得られた銀粉をヌッチェでろ過し、純水、さらにアルコール洗浄を行い、70℃×12時間、大気雰囲気下で乾燥させ、デンドライト状銀粉を得た。
【0034】
得られた銀粉について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定して得た粉体特性を表1に示した。
【0035】
(実施例4)
0.8Lの純水に硝酸銀12.6gを溶解し、25%アンモニア水を24mL、さらに硫酸アンモニウムを40g添加し、銀アンミン錯塩水溶液を調製した(銀濃度10g/L、NH3/Ag+モル比12、50℃、pH9.4)。
この銀アンミン錯塩水溶液を電解液とし、陽極、陰極共にDSE極板を使用し、電流密度200A/m2、溶液温度50℃で電解し、適当な間隔をおいてスクレーパにより電析した銀粒子を極板から掻き落し、1時間電解した。
その後、掻き落して得られた銀粉をヌッチェでろ過し、純水、さらにアルコール洗浄を行い、70℃×12時間、大気雰囲気下で乾燥させ、デンドライト状銀粉を得た。
【0036】
得られた銀粉について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定して得た粉体特性を表1に示した。
【0037】
(実施例5)
0.8Lの純水に硝酸銀12.6gを溶解し、25%アンモニア水を24mL、さらに硫酸アンモニウムを40g添加し、さらに0.1g/Lの割合でゼラチンを添加し、銀アンミン錯塩水溶液を調製した(銀濃度10g/L、NH3/Ag+モル比12、20℃、pH9.4)。
この銀アンミン錯塩水溶液を電解液とし、陽極、陰極共にDSE極板を使用し、電流密度200A/m2、溶液温度20℃で電解し、適当な間隔をおいてスクレーパにより電析した銀粒子を極板から掻き落し、1時間電解した。
その後、掻き落して得られた銀粉をヌッチェでろ過し、純水、さらにアルコール洗浄を行い、70℃×12時間、大気雰囲気下で乾燥させ、デンドライト状銀粉を得た。
【0038】
得られた銀粉について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定して得た粉体特性を表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1で得られた銀粉は、平均粒径10μm以下の微粒銀粉であり、図1に見られるように、いずれの粒子も均一なデンドライト状を呈していた。
実施例2で得られた銀粉は、実施例1で得られた銀粉に比べ、析出量は少ないが、ほぼ同様なデンドライト状微粒銀粉が得られた。しかし生産効率を考えた場合、銀濃度は1g/L以上の方が好ましいと考えられる。
実施例3で得られた銀粉は、実施例1で得られた銀粉に比べ、析出量が増加し、ほぼ同様なデンドライト状微粒銀粉が得られた。しかし、電流密度の増加による液温の上昇によって、形状にバラツキが生じやすく、またアンモニアが揮発しやすくなるので注意を要する。
実施例4で得られた銀粉は、実施例1で得られた銀粉とほぼ同様なデンドライト状微粒銀粉が得られた。しかし、電解温度を上げると形状にバラツキが生じやすく、またアンモニアが揮発しやすくなるので注意を要する。
実施例5で得られた銀粉は、実施例1で得られた銀粉に比べ、顕著に粒径が小さくなった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1で得られた銀粉の走査型電子顕微鏡(SEM、倍率5000倍)観察像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀錯塩水溶液を電解液に用いて電解することを特徴とする微粒銀粉の製造方法。
【請求項2】
銀錯塩水溶液として、銀アンミン錯塩水溶液を用いることを特徴とする請求項1に記載の微粒銀粉の製造方法。
【請求項3】
銀錯塩水溶液のpHを3〜11に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒銀粉の製造方法。
【請求項4】
硝酸銀溶液にアンモニアと共にアンモニウム塩を加えて、pH3〜10の銀アンミン錯塩水溶液を調製することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の微粒銀粉の製造方法。
【請求項5】
電解液に水溶性有機高分子を加えることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の微粒銀粉の製造方法。


【図1】
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