説明

微細構造の作製方法

【課題】微細構造を制御された位置に、高精度に高密度で形成することができる、量産に適した微細構造の作製方法を提供すること。
【解決手段】半導体基板2上に、当該基板の半導体材料の格子定数よりも大きな格子定数を有する半導体材料をエピタキシャル成長させることにより三次元の微細構造6を作製する場合において、当該エピタキシャル成長処理を行うに先だって、電子ビームリソグラフィー技術及びウェットエッチング技術を用いて上記半導体基板2に予め段差構造2aを形成し、当該段差構造の特定領域に上記エピタキシャル成長を行わせることにより、半導体基板上の所望位置に選択的に上記三次元の微細構造を形成せしめる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体のナノオーダーの微細構造(半導体量子ナノ構造)の作製に関わるものであり、特に、そのような微細構造を半導体基板上の所望の位置に制御性よく形成させる為の技術に関する発明である。より具体的には、例えば、半導体基板材料として化合物半導体、特にGaAsを用い、このGaAs(001)Just基板に電子ビームリソグラフィー技術とウェットエッチング技術を利用して加工を施すことでピラミッド状の段差構造を作製し、更にこのピラミッド状の段差構造を形成した基板にMOVPE法(有機金属気相成長法)を用いて数十ナノメートルのInAs微細構造を作製する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
半導体の性能は、素子のサイズに反比例する形で進歩して来た。すなわち、素子のサイズの小型化を追求することは、素子の性能を向上させることを意味する。しかしながら近年素子の小型化に限界が見え始めてきた。それは、これまで素子のサイズを決定しているものに、リソグラフィーのパターン転写能力が大きく関わってきた為である。ここで言うパターン転写能力とは、どのくらい微小なパターンサイズまで基板上に描けるか、という事を意味する。現在ではX線露光や電子ビーム露光、エキシマレーザを用いる方法等が開発され、100nm付近のパターンサイズまで描けるようになった。しかしこれらの方法についても、紫外線露光と同様にいずれは限界が訪れる事には間違い無いと考えられる。
【0003】
そこで別の観点からナノメートルオーダーの微細構造を作製しようとする研究も試みられてきた。
【0004】
詳述するに、半導体微細構造の厚みと幅が、半導体結晶中の電子の波長程度になると、一次元あるいは0次元に閉じ込められたキャリアによる量子効果が現れる。すなわち、キャリアの自由度を一次元で閉じ込めると、キャリアは二次元空間(面)内で運動することになる。このような構造は、量子井戸や超格子と呼ばれ、レーザや高電子移動度トランジスタ(HEMT)に利用されている。 また、キャリアの自由度を二次元で閉じ込めると、キャリアは一次元空間(線)内で運動することになる。このような構造は量子細線と呼ばれる。さらに、キャリアの自由度を三次元で閉じ込めると、キャリアは0次元空間(点)での自由度しか有さなくなる。このような構造は量子箱(量子ドット)と呼ばれる。量子細線や量子ドットにおいては、状態密度が離散化し、さらにデルタ関数化し、三次元自由度を有するキャリアとは大きく異なる振る舞いが期待できる。すなわち、その低次元での量子効果を利用することにより、従来にない高性能な光デバイスや電子デバイスの実現が期待される。
【0005】
従来知られた量子ドット(微細構造)を作製する方法の代表例は、図8(a)に示すように、化合物半導体基板100上のエピタキシャル成長層101の表面に、作製すべき量子ドット(微細構造)のサイズに対応する微小パターンが開口されたマスク102が、電子ビーム、イオンビーム、走査型トンネル顕微鏡(STM)などによるリソグラフィー技術で形成され、その後、ガスソース分子線エピタキシー(MBE)法等により、開口部のみに選択的に量子ドット103が形成される手法が提案されている。この手法は、作製した量子ドットの位置およびサイズが直接、開口した領域により限定できるため、制御性は良好である。
【0006】
化合物半導体を用いた量子ドットの他の代表的な作製方法は、Stransky−Krastanov(SK)モード成長と呼ばれる成長方法である。これは、図8(b)に示すように、基板100上のエピタキシャル成長膜101に、成長膜101より格子定数が大きい材料105及び104を、材料に依存して決まる臨界膜厚と呼ばれる厚み以上に堆積する事で、まずウェッティングレイヤ105と呼ばれる薄膜層を形成した後、島状のドット104が自己組織的にウェッティングレイヤ105の上に形成される結晶成長モードの事である。この方法は、リソグラフィーを必要とせず結晶成長のみによるため、良質な量子ドットができるものとして注目されている。
【0007】
しかしながら、この方法では高品質、且つ比較的サイズの揃った量子ドットが得られるものの、形成位置の制御が不十分であることが判明しつつあり、今後の開発課題であるとされている。
【0008】
なお、半導体量子ナノ構造の作製に関し、特許文献的には、例えば、基板の所定の面部上に高速成長面部(V溝の底)と低速成長面部(平坦面)とを設け、高速成長面部に乗った余剰なIII族原子を、表面マイグレーション現象により低速成長面部へ移行させることにより、高速成長面部にIII族原子を一原子層分のみ形成する方法(例えば、特許文献1参照。)や、基板の表面に予め微細穴を形成し、この微細穴上にのみ数十nmオーダーの微細構造を1個単位で作製する試みや(例えば、特許文献2参照。)、或いはまた、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、その探針に高電界をかけ探針先端から基板に向かって金属、或いは半導体材料を飛ばして微細構造を堆積させる方法(例えば、特許文献3参照。)が試みられている。
【0009】
【特許文献1】
特開平10−064825号公報
【0010】
【特許文献2】
特開平11−340449号公報
【0011】
【特許文献3】
特開平2001−007315号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、予めリソグラフィーとエッチングによる加工を何ら施していない平坦なGaAs(001)Just基板上に、MOVPE法、MBE法等によりInAsを堆積させると、InAs微細構造はGaAs(001)Just基板上の至る所に無秩序に形成される。そもそもInAs微細構造を作製する目的は、その内部に電子を数個程度閉じ込め、これを例えば電圧印加等の外部からの刺激により、その挙動を自由に制御して、単電子トランジスタや単電子メモリ等の単電子デバイスに用いる為である。しかしデバイスとして動作させるには、最低でも数個の微細構造の相互作用が無ければならず、このために微細構造の形成位置を自由に制御するための技術が必要である。
【0013】
特許文献1の方法は、基板上のV字溝にのみIII族原子の一原子層分を形成することはできるが、V字溝自体はリソグラフィーとエッチングにより形成するため、数ナノオーダーのV字溝を作製する事は難しく、従って直径20〜30nm、高さ10nm前後の微細構造を所望位置に作製するには適していない。
【0014】
また、特許文献2の方法は、図8(a)の技術に属するもので、基板上に微細穴を作製し、この微細穴の中に数十nmオーダーの微細構造を1個単位で作製するものである。従って、量子ドットを制御された位置に高密度で形成することが要請されると共に、量産性の点での解決が望まれる。
【0015】
特許文献3のSTMを用いる方法は、非常に精度良く微細構造を作製できるが、一度に多数の素子を作製できるという観点では、結晶成長技術を用いた方が有利である。
【0016】
よって、高品質、且つ比較的サイズの揃った微細構造が、高密度に効率よく得られるStransky−Krastanov(SK)成長モードを利用して、直径20〜30nm、高さ10nm前後の量子ドット(三次元の微細構造)を所望位置に作製するに方法において、その微細構造の形成位置の制御性を改善し、量産に適したものとすることが望まれている。
【0017】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、直径20〜30nm、高さ10nm前後の量子ドットから成る三次元の微細構造を、制御された位置に高密度で効率よく形成することができる、量産に適した微細構造の作製方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成したものである。
【0019】
請求項1の発明に係る微細構造の作製方法は、半導体基板上に、当該基板の半導体材料の格子定数よりも大きな格子定数を有する半導体材料をエピタキシャル成長させる際に、当該エピタキシャル層を二次元成長させた後、更に臨界膜厚以上の原料を供給してエピタキシャル成長させることにより三次元の微細構造を作製する方法において、上記エピタキシャル成長を行うに先だって、電子ビームリソグラフィー技術及びウェットエッチング技術を用いて上記半導体基板に予め段差構造を形成し、当該段差構造の特定領域に上記エピタキシャル成長を行わせることにより、半導体基板上の所望位置に選択的に上記三次元の微細構造を形成せしめることを特徴とする。
【0020】
これは、例えばInAs微細構造の形成位置を正確に制御する為に、GaAs(001)Just基板を電子ビームリソグラフィーとウェットエッチングにより加工し、この加工を施したGaAs(001)Just基板上にInAsを堆積させ、InAs微細構造をこのGaAs(001)Just基板上の特定の場所にのみ形成する形態を包含する。
【0021】
この特徴によれば、電子ビームリソグラフィー技術及びウェットエッチング技術を用いて基板を加工することで、他のリソグラフィーに比べて格段に微細な段差構造を形成でき、その段差構造によって微細構造の位置およびサイズが直接に限定できるため、制御性が極めて良好である。即ち、電子ビームの波長は0.1nm程度であるため、光によるリソグラフィーに比べて格段に高い解像度が得られ、更にまた、電子ビームはその照射位置の制御を電気的に容易に行い得るため、基板上に極めて微細な段差構造を高精度に形成することができる。
【0022】
また、得られる微細構造は、当該段差構造に対する結晶成長技術の適用によって自己組織的に自然に形成されるものであるため、欠陥のない良質な微細構造が形成される。
【0023】
ここで段差構造を有する基板上の特定の部位とは、自己組織化が促進される部位、例えば台形状の段差構造である場合、その台形頂部を意味する。そして、通常は、この段差構造の頂上部約30nmから50nmの正方形の狭い領域に、例えば直径20〜30nm、高さ10nm前後の量子ドット(三次元の微細構造)を、1個〜5個前後の少数個形成する。
【0024】
また特に、基板と微細構造の材料間の格子定数の調整のため、両者間にバッファ層を形成、介在させると、当該バッファ層はその成長、堆積の過程でピラミッド状になり、その頂上部の面積が次第に狭められるため、この頂上部に形成される微細構造の位置を一層厳密に制御することが可能となる。
【0025】
請求項2の発明は、請求項1に記載の微細構造の作製方法において、上記半導体基板の化合物半導体材料がGaAsであり、その基板上にエピタキシャル成長させる化合物半導体材料がInAsであることを特徴とする。この特徴によれば、基板と微細構造の格子定数の差が前記Stransky−Krastanov(SK)成長モードを誘起させる上で好適であり、サイズの揃った高品質の微細構造を形成することができる。
【0026】
請求項3の発明は、請求項2に記載の微細構造の作製方法において、上記半導体基板がGaAs(001)Just基板であることを特徴とする。この特徴によれば、微細構造のエピタキシャル成長が円滑に行われる。
【0027】
請求項4の発明は、請求項1、2又は3に記載の微細構造の作製方法において、有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いてエピタキシャル成長を行わせることを特徴とする。この特徴によれば、微細構造のエピタキシャル成長を安定して高精度に行わせることができる。
【0028】
<発明の要点>
本発明は、量子効果デバイスとして動作させる為の前段階として、その素子として用いる微細構造を、基板上の所望の位置に制御性良く形成させることが課題である。
【0029】
そもそも、結晶成長において微細構造が形成される要因は、下地の基板材料に比べて、堆積する材料の格子定数が3〜10%程の不整合率を持つ事に由来する。すなわち基板上に微細構造の材料を堆積させると、堆積した材料は下地基板の格子定数に一致するように成長しようとする。しかし実際には格子定数が基板材料と異なるために、成長させるに従い圧縮歪を受ける。更に成長が進むと、基板上に堆積させた材料は、この歪エネルギーを緩和しようとする。この緩和の過程で形成されるのが三次元の微細構造であり、このように微細構造を形成するような成長をStransky−Krastanov(SK)成長モードと呼んでいる。
【0030】
ところで、この微細構造をデバイスとして動作させるためには、その位置関係が重要である。これは微細構造を利用する目的が、それらを介してキャリアを量子力学的トンネル効果により輸送することにあるからである。従って微細構造同士の間隔が電子のドブロイ波長とほぼ等しい10〜20nm程度に配置されなければ意味を成さない。このような観点から、微細構造を精密に位置制御する技術が必要とされるものである。
【0031】
そこで本発明においては、微細構造のエピタキシャル成長処理に先だって、電子ビームリソグラフィー技術及びウェットエッチング技術を用いて半導体基板に予め段差構造を形成しておき、この段差構造の特定領域に上記エピタキシャル成長を行わせることにより、半導体基板上の所望位置に選択的に上記三次元の微細構造を形成可能とした。即ち、電子ビームリソグラフィー技術を用いることにより、基板上に極めて微細な段差構造を高精度に形成し、その段差構造の特定領域にエピタキシャル成長により微細構造を形成させるものであるから、微細構造の形成位置を精密に位置制御することが可能となる。
【0032】
また、基板の上記段差構造の頂上部にピラミッド状のバッファ層を形成するようにすると、その頂上部の面積が次第に狭められるため、この頂上部に形成される微細構造の位置を一層厳密に制御することが可能になる。
【0033】
本発明のような微細構造(量子ドット)を始めとする量子構造は、キャリアを1個ないし2個と言った、極めて少ない数の単位で扱う事ができる。この利点は、例えば単電子トランジスタや単電子メモリと言った単電子デバイスに応用できることである。これら単電子デバイスは量子効果デバイスとも称され、先に述べたとおり量子力学的な効果により、キャリアを高速に動作させることができるものであり、実現できれば現在最速のコンピュータよりも数万倍早く計算が可能なコンピュータを作り出すことができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面の実施形態に基づいて説明する。
【0035】
図1に、本発明による微細構造の作製方法を段階的に示す。図1(a)に示すように、まずエッチングに備え、GaAs(001)基板2上に電子ビームリソグラフィー装置を用いて電子レジストパターン1を転写する(電子ビームリソグラフィー工程)。次いで、図1R>1(b)に示すように、基板2を燐酸系のエッチング溶液を用いてウェットエッチングすることにより、頂上部3及び傾斜側面部4を有する段差構造2aを形成する(ウェットエッチング工程)。次いで、図1(c)に示すように、MOVPE法により上記段差構造2aの頂上部3に、GaAsをエピタキシャル成長させて、GaAsバッファ層5を成長させる。最後に、図1(d)に示すように、上記GaAsバッファ層5の頂上部に、ドーム型のInAs微細構造(量子ドット)6を作製する。
【0036】
[実施例]
以下、実施例について説明する。
【0037】
本発明の実施例の概要を説明すれば、エピタキシャル成長による微細構造の形成に先立ち、先ず、所定の段差構造を有するGaAs(001)加工基板を作製すべく、電子ビームリソグラフィー装置を用いて、GaAs(001)基板上に塗布したポジ型レジストに500μC/cmのドーズ量で電子ビームを照射して露光し、この露光した基板を現像液に浸して電子ビームにより露光した部分のポジ型レジストを剥離する。この後ポジ型レジストが剥離されて露出した部分のGaAs(001)基板を、基板全体を燐酸系のエッチング溶液に浸すことによりエッチングして加工基板を作製する。
【0038】
InAs微細構造は、加工基板上に形成したピラミッド頂上部の狭い正方形領域に1個ないし2個選択的に作製され、正方形領域外側のファセット面領域には全く形成されない。微細構造の形状と大きさについては原子間力顕微鏡(AFM)、InAs微細構造の結晶性についてはフォトルミネッセンス(PL)を用いて評価を行うことができる。
【0039】
図2は、エッチングに備え、GaAs(001)基板上にレジストパターンを転写した状態を示す図、図3は、図2に示す如くレジストパターンを転写したGaAs(001)基板を燐酸系エッチング溶液によりエッチングし、上記基板に段差構造を形成した後の状態を示す図、図4は、MOVPE法により上記段差構造の頂上部にGaAsバッファ層を成長させた後の状態を示す図、図5は、上記GaAsバッファ層の頂上部にドーム型のInAs微細構造を作製した後の状態を示す図であり、それぞれ(a)にその上面図、(b)に断面図が示されている。
【0040】
本実施例においては、まず図2に示すように電子ビームリソグラフィー処理する。すなわち、電子ビームリソグラフィー装置を用いて電子ビームを照射して露光することにより、GaAs(001)Just基板2の表面に、当該基板の[100]と[010]方向に平行な辺からなる、一辺200nmの正方形のポジ型フォトレジストパターン(電子レジストパターン)1を200nm間隔で転写する。
【0041】
次に、図3に示すようにウェットエッチング処理する。すなわち、このポジ型フォトレジストパターン1が転写されたGaAs(001)just基板2を、燐酸系のエッチング溶液中に1分程度浸した後、アセトンとメタノールによりレジストを剥離する。これにより、GaAs(001)just基板上に、図3に示すような、GaAs(001)Just基板の[100]と[010]方向に平行な辺からなる一辺100〜150nmのGaAs(001)面から成る正方形領域(頂上部)3と、この正方形領域を囲むGaAs{201}面もしくは{301}面もしくは{401}面もしくは{501}面のファセット面(傾斜側面部)4とから成るピラミッド状の段差構造2aと、やはりこれらのファセット面で囲まれたGaAs(001)面から成る燐酸系エッチング溶液によりエッチングされた、GaAs(001)Just基板の[100]と[010]方向に平行な辺からなる正方形領域(ピラミッド構造底面部)とを有するGaAs加工基板を作製する。
【0042】
次いで、図4に示すようにGaAsバッファ層5を形成する。すなわち、この加工基板上にInAs微細構造(量子ドット)6を形成するため、この加工基板を水素雰囲気中のMOVPE装置内に搬入し、数分間アルシン雰囲気中において基板表面をクリーニングした後、GaAs加工基板の加熱温度を600℃に安定させ、水素により希釈したトリメチルガリウム(TMG)をアルシン(AsH)といっしょにGaAs加工基板がセットされている炉に流し、図4に示すようなGaAsバッファ層5を20から30nm堆積させた。これにより、前記の一辺の長さが100〜150nmのGaAs(001)面を有する段差構造頂上部3の正方形領域の上にGaAsバッファ層5が形成され、その頂上部3の正方形領域は一辺の長さが30nmから50nm程度に狭められる。
【0043】
次いで、図5に示すようにInAs微細構造(量子ドット)6を形成する。すなわち、TMGに変えてトリメチルインジウム(TMI)を、1から3分子層相当GaAs加工基板上に流し、図5に示すような直径が10から20nm、高さが5から10nmのドーム型をしたInAs微細構造(量子ドット)6を、加工基板上の各ピラミッド構造頂上部の正方形領域に1個から5個程度作製する。
【0044】
上記GaAsバッファ層5は、基本的には、基板2の半導体材料GaAsの格子定数と微細構造6の半導体材料InAsの格子定数との調整をとることを目的として形成されるものであるが、その成長、堆積の形状が図4に示すようにピラミッド状になり、その頂上部の面積が次第に狭められるため、この頂上部に形成される微細構造の位置を一層厳密に制御することが可能になるという効果も得られるものである。
【0045】
上記実施例の各工程を実行して、GaAs(001)Just基板に形成されたピラミッド状の段差構造を形成し、その頂上部にInAs微細構造(量子ドット)を作製し、その加工基板上に形成されたピラミッド構造頂上部の正方形領域を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。その結果、図5に示すように、この正方形領域内に直径20から30nm、高さ10nm前後の微細構造6を確認した。この微細構造6の数は、先に述べたピラミッド頂上部の正方形領域の一辺の長さ、すなわち面積により図6のグラフのように変化する。
【0046】
また、この形成された微細構造がInAsであるかどうかを検証するため、PLによりピーク波長を調べた。このときは、PL測定用サンプルとするために、上記の微細構造を形成したGaAs加工基板上に、更に同じくMOVPEを用いて、GaAsキャップ層を100nm堆積させた構造を用いた。その結果、図7に示すようにピーク波長が1100nm付近に存在するPL特性が得られた。これは加工を施さないGaAs(001)Just基板上に作製されるInAs微細構造のPLピーク波長にほぼ一致することから、今回GaAs加工基板上に形成された微細構造が、InAsから成る微細構造であることを確認した。
【0047】
[比較例]
上記実施例では、GaAs加工基板を作製する際に電子ビームリソグラフィー装置を用いたが、この方法は精密に微細なパターンを形成する場合に有効であるが、もっと手軽に実施するため、量産工程で用いられている紫外線領域の光を利用したフォトリソグラフィーを用いて、同様にGaAs(001)Just基板を加工した。このとき加工したパターンはGaAs(001)Just基板の[100]と[010]方向に平行な辺からなる一辺5000nmの正方形で、その間隔が5000nmのポジ型フォトレジストパターンである。この加工基板も先の通りにエッチングしたところ台形状の段差構造が形成されたが、その頂上部正方形一辺の長さは加工した寸法である5000nm近くあり、InAs微細構造はこの正方形領域内にのみ形成され、周囲ファセット面には形成は確認されなかったものの、その形成密度は800/μmと非常に多く、制御性が低かった。
【0048】
そこでGaAsバッファ層を、正方形領域の一辺の長さが上記実施例と同様に30から50nmになるまで堆積させた後、InAsを1から3分子層相当堆積させたところ、同じく正方形領域に1個から3個程度のInAs微細構造を作製することができた。しかしながら、PL測定を行ったところ、発光強度が1/100程度にまで低下した。これは通常のフォトリソグラフィーを用いたために、微細構造を形成するための正方形領域を、電子ビームリソグラフィーを用いた場合に比べて多数形成できなかったためである。
【0049】
これにより、本発明で対象とする三次元の微細構造である直径20〜30nm、高さ10nm前後の量子ドットを成長するためのピラミッド構造に加工するためには、通常のフォトリソグラフィーではなく、電子ビームリソグラフィーを用いることが有効であることが確認できた。
【0050】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る微細構造の作製方法は、電子ビームリソグラフィー及びウェットエッチング技術を用いて基板を加工することで段差構造を形成しており、その段差構造によって微細構造の位置およびサイズが直接に限定できるため、制御性が良好であると共に、従来のリソグラフィーとエッチングでは形成することが困難であった直径20〜30nm、高さ10nm前後の量子ドットから成る微細構造のための段差構造を極めて容易に形成することができる。
【0051】
また、この微細構造(量子ドット)は、当該段差構造に対する結晶成長技術の適用によって自己組織的に自然に形成されるものであるため、欠陥のない良質な微細構造が形成される。
【0052】
即ち、本発明によれば、これまでGaAs(001)基板上に無秩序に形成されていたInAs等の微細構造を、電子ビームリソグラフィー技術及びウェットエッチング技術を用いて基板を加工し、この加工基板を用いることで、特定の場所にのみ高精度に、且つ効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による微細構造の作製方法を段階的に示したもので、(a)は基板上にレジストパターンを転写した段階を示す図、(b)はエッチングにより段差構造を形成した段階を示す図、(c)はMOVPE法によりGaAsバッファ層を成長させた段階を示す図、(d)は上記GaAsバッファ層の頂上部にInAs微細構造を作製した段階を示す図である。
【図2】エッチングに備え、GaAs基板上にレジストパターンを転写した状態を示したもので、(a)はその上面図、(b)は断面図である。
【図3】図2のGaAs基板をウェットエッチングした後の状態を示したもので、(a)はその上面図、(b)は断面図である。
【図4】MOVPE法によりGaAsバッファ層を成長させた後の状態を示したもので、(a)はその上面図、(b)は断面図である。
【図5】上記GaAsバッファ層の頂上部にInAs微細構造を作製した後の状態を示したもので、(a)はその上面図、(b)は断面図である。
【図6】上記GaAsバッファ層の頂上部の正方形領域一辺の長さとその領域内に形成されたInAs微細構造の個数の関係を示すグラフである。
【図7】本発明により作製したInAs微細構造からのPL(フォトルミネッセンス)ピークを示すグラフである。
【図8】従来技術による微細構造の作製方法を示した図である。
【符号の説明】
1 電子レジストパターン
2 基板
2a 段差構造
3 頂上部
4 傾斜側面部
5 バッファ層
6 微細構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に、当該基板の半導体材料の格子定数よりも大きな格子定数を有する半導体材料をエピタキシャル成長させる際に、エピタキシャル層を二次元成長させた後、更に臨界膜厚以上の原料を供給してエピタキシャル成長させることにより三次元の微細構造を作製する方法において、
上記エピタキシャル成長を行うに先だって、電子ビームリソグラフィー技術及びウェットエッチング技術を用いて上記半導体基板に予め段差構造を形成し、当該段差構造の特定領域に上記エピタキシャル成長を行わせることにより、半導体基板上の所望位置に選択的に上記三次元の微細構造を形成せしめることを特徴とする微細構造の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の微細構造の作製方法において、
上記半導体基板の化合物半導体材料がGaAsであり、その基板上にエピタキシャル成長させる化合物半導体材料がInAsであることを特徴とする微細構造の作製方法。
【請求項3】
請求項2に記載の微細構造の作製方法において、
上記半導体基板がGaAs(001)Just基板であることを特徴とする微細構造の作製方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の微細構造の作製方法において、
有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いてエピタキシャル成長を行わせることを特徴とする微細構造の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2004−281953(P2004−281953A)
【公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−74684(P2003−74684)
【出願日】平成15年3月19日(2003.3.19)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)