説明

微細構造転写方法

【課題】 構造体の表面に,効率良く反応生成物をコーティングした被覆物質及びこの被覆物質から構造体の一部又は全部を除去し,構造体の微細構造を転写した反応生成物を得ることができる微細構造転写方法を提供すること。
【解決手段】 超臨界流体に反応前駆体を溶解して前駆体流体を作製する溶解工程と,反応開始剤を含有させた構造体に上記前駆体流体を接触させて,上記反応前駆体と反応開始剤とを反応させ,該構造体上に反応生成物をコーティングするコート工程とよりなる微細構造転写方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は,触媒活性,吸着特性等の化学的,物理的特性に優れた各種の反応生成物を得ることができる,微細構造転写方法に関する。
【0002】
【従来技術】例えば,触媒活性,吸着特性等の化学的,物理的特性に優れた物質を得るために,微細孔を有する構造体に有機物或いは無機物からなるコーティング物質をコーティングしたり,或いはコーティングにより得た被覆物質を剥離して表面に上記構造体の微細孔形状を反転させた細孔表面物質を得る方法が知られている。
【0003】かかる方法としては,例えば構造体の表面にゾル,ゲル等のコーティング物質をコーティングする方法がある。しかし,この方法では,構造体がミクロンオーダー(μm)よりも細かい微細孔を有する場合,微細孔の開孔部がコーティング物質により閉塞され易い。そのため,コーティング物質が微細孔の内部まで浸入せず,目的とする細孔表面物質を効果的に得ることができない。
【0004】また,CVD等の気相法により構造体にコーティング物質をコーティングする方法もある。しかし,この場合には,コーティング物質の蒸気を微細孔内に浸入させるため,特に蒸気圧の低い物質の場合は蒸気になる量が少なくコーティングに長時間を必要とする。
【0005】また,上記の問題に対応するため,高分子材料を溶解した超臨界流体を無機多孔質膜に接触させる方法(特開平7−144121号公報)がある。また,ポリカルボシラン,ポリシラン等のセラミック前駆物質を溶解した超臨界流体を,炭素/炭素複合体に浸透,析出させ,次いで熱処理を行なって,表面にSiC,SiN等のセラミック膜を形成させ,耐酸化性を増大させる方法(特開平1−308873号公報)がある。
【0006】
【解決しようとする課題】しかしながら,上記公開公報に記載されたいずれの方法においても,上記前二者の場合と同様に,ミクロンオーダーよりも細かい微細孔に対しては,上記高分子材料等がその開孔部を塞ぎ,これらを溶解させた超臨界流体が充分に浸入し難い。そのため,目的とするコーティングを行なうことが困難である。
【0007】本発明はかかる従来の問題点に鑑み,構造体の表面に,効率良く反応生成物をコーティングした被覆物質及びこの被覆物質から構造体の一部又は全部を除去し,構造体の微細構造を転写した反応生成物を得ることができる,微細構造転写方法を提供しようとするものである。
【0008】
【課題の解決手段】本発明は,超臨界流体に反応前駆体を溶解して前駆体流体を作製する溶解工程と,反応開始剤を含有させた構造体に上記前駆体流体を接触させて,上記反応前駆体と反応開始剤とを反応させ,該構造体上に反応生成物をコーティングするコート工程とを含んで構成されることを特徴とする微細構造転写方法にある。
【0009】さらに,本発明において,前記コート工程の後に,反応生成物をコーティングした構造体から,該構造体の一部又は全部を除去してもよい。
【0010】本発明において最も注目すべき点は,上記構造体に反応開始剤を含有させておき,該構造体の微細孔内にまで上記前駆体流体を浸入させることにある。
【0011】次に,本発明の作用効果につき説明する。本発明においては,まず反応前駆体を超臨界流体に溶解して前駆体流体を準備する。また,反応開始剤を含有させた構造体を準備する。そして,上記前駆体流体内に上記構造体を浸漬することなどにより両者を接触させて,前駆体流体を構造体の微細孔内にまで浸入させる。
【0012】このとき,前駆体流体は,上記超臨界流体を溶媒としているので,微細孔へ浸入し易い。また,超臨界流体に溶解させた反応前駆体は,低分子量であり,分子サイズが小さいので,上記従来例に示した高分子材料,ポリカルボシラン等の高分子物質のごとく,微細孔の開孔部を閉塞することがない。
【0013】次に,このようにして微細孔内に浸入した前駆体流体中の反応前駆体は,構造体内に含有させた反応開始剤と反応する。そして,反応前駆体は目的とする反応生成物となり,構造体をコーティングする。そのため,本発明によれば,構造体の表面に,効率良く反応生成物をコーティングすることができる。
【0014】次に,上記超臨界流体とは,液体と同等の溶解能力と,気体に近い拡散性,粘性を有する物質である。そのため,微細孔内にまで容易,かつ迅速に多量の反応前駆体を運ぶことができる。上記溶解能力は,温度,圧力,エントレーナー(添加物)等により調整できる。
【0015】上記超臨界流体としては,例えば,二酸化炭素,メタン,エタン,プロパン,メタノール,エタノール,アセトン,エチレン,ブタン等がある。また,超臨界流体への反応前駆体の溶解度を調整するために,メタノール,エタノール,アセトン等のエントレーナーを用いることもできる。
【0016】次に,上記反応前駆体としては,例えば金属または半金属(半導体)のアルコキシド,アセチルアセテート,有機酸塩,硝酸塩,オキシ塩化物,塩化物等の1種又は2種以上よりなる金属または半金属(半導体)反応前駆体がある。
【0017】また,上記反応開始剤としては,上記反応前駆体に対するものとして水および/または−OH基等の表面官能基がある。反応開始剤を構造体に含有させる方法としては,例えば気相接触法,液相浸漬法等がある。構造体として,多孔質体等の細孔を有する物質や,反応開始剤と親和性のある表面を有する物質を用いる場合は,反応開始剤を含む気体,液体と接触させることで容易に構造体の細孔内あるいは表面に反応開始剤を含有させることができる。
【0018】次に,上記構造体としては,濾過膜,浸透膜,イオン交換膜,透析膜等がある。また,構造体としては例えば比表面積が100m2 /g以上の多孔質体等がある。かかる多孔質体としては,活性炭,多孔質シリカ,多孔質アルミナ,アルミナシリケート等がある。本発明は,特に1000Å以下の,ミクロンオーダーよりも小さい細孔径の微細孔を有する構造体に適用する場合,その効果が大きい。
【0019】次に,上記反応前駆体と反応開始剤とが反応して生成する反応生成物としては,上記金属反応前駆体より生成される金属酸化物,或いは,シリカ等の半金属(半導体)酸化物等がある。
【0020】次に,上記のごとく,構造体上に形成された反応生成物は,必要に応じて加熱および/または溶剤添加等により構造体の一部分又は全てを取り除き,構造体の微細孔構造をも反映した反応生成物として採取することができる。また,構造体上に形成された反応生成物は必要に応じて酸化または還元処理等の後処理によって機能を付与することができる。そして,構造体が大きい表面積を有する多孔質の場合には,大表面積を有する反応生成物をコーティングした構造体を得ることができ,更には上記のごとく構造体を除去することにより大表面積の反応生成物単体を得ることができる。
【0021】このようにして得られた反応生成物をコーティングした構造体,或いは反応生成物に対しては,その反応生成物の特性により,触媒活性,吸着特性,耐熱性,耐薬品性,耐酸化性,導電性,強磁性,強誘電性,超電導性,光学機能(反射,吸収等)等を付与することができる。また,上記反応生成物は,例えば,耐薬品性膜+光学機能性膜のごとく,2層以上に積層して形成することもできる。
【0022】上記反応生成物は,例えば導電性物質としてのIn2 O−SnO2 のごとく,2種以上の金属酸化物の複合体とすることもできる。上記反応生成物が金属酸化物の場合,後処理として還元処理をすることで,金属に変化させることができる。この方法で作製した物質は,構造体を金属でコーティングした状態,あるいは構造体上に金属クラスターが担持された状態であり,金属としてPt,Pd,Rh等の触媒活性に優れたものを用いることで,触媒材料として好適な物質を作製することができる。
【0023】また,反応生成物のコーティング量は,反応開始剤の量および/または反応前駆体の量を調整することによって,数原子からなるクラスターサイズから調節することができる。例えば,反応開始剤が水および/または−OH等の表面官能基であり,反応生成物がシリカ(SiO2 ),構造体が活性炭の場合,活性炭中の水分量は,活性炭の接する雰囲気中の水分量を調節することにより,活性炭の表面積・等温吸着線等のデータをもとに加減でき,−OH等の表面官能基の量は活性炭の賦活条件を最適化することによって調節できる。このようにして,所定量のシリカを生成させるのに必要な量の水および/または−OH等の表面官能基を担持させた活性炭を用いて,シリカのコート量を数原子からなるクラスターサイズから精密に設計することが可能である。
【0024】また,反応開始剤を含む構造体に,更に別の物質を担持した場合には,コーティング後に反応生成物から構造体の一部又は全部を取り除いた反応生成物は,構造体の構造を反映するとともに,担持されていた物質の構造をも反映しているために,この担持物或いは類似の物質を選択的に吸着することができるという優れた機能を有している。
【0025】また,電場を印可して構造体に反応生成物をコーティングする場合には,前駆体流体が超臨界流体としての高拡散性・低粘度という性質を有しているため,前述のように構造体の超微細孔内にまで容易に迅速に十分な量の前駆体流体を運ぶことができる。そのため,十分な量を均一にコーティングすることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
実施形態例1反応前駆体としてのテトラエトキシシラン〔Si(C2 5 O)4 〕を,温度120度,圧力200気圧の超臨界流体としての二酸化炭素に溶解し,前駆体流体を作成した。一方,水を含有した,構造体としての活性炭(比表面積810m2 /g)を準備し,該活性炭を上記前駆体流体の中に浸漬した。
【0027】これにより,上記前駆体流体を活性炭の微細孔内に浸透させ,活性炭中の水とテトラエトキシシランとを反応させると共に,活性炭の微細孔表面(内壁面)にシリカをコーティングした。このコーティング処理は3時間おこなった。その後,上記活性炭を前駆体流体中から引き揚げ,乾燥し,次いで,空気中,650℃の熱処理により活性炭シリカコート物より活性炭を取り除いた。
【0028】活性炭,活性炭シリカコート物及び反応生成物(シリカのみ)の走査型電子顕微鏡写真を図1〜図3R>3にそれぞれ示す。また,窒素吸着により測定した比表面積の値を表1に示す。図1は,活性炭原料のヤシがらの植物組織に由来する構造を示している。
【0029】また,図2は,シリカコート後も微細構造が保たれていることを示している。また,図3は,活性炭の微細構造を転写したシリカが得られていることを示している。
【0030】実施形態例2超臨界流体の二酸化炭素に,添加剤(エントレーナ)としてアセトンを10%(重量)混合する以外は実施形態例1と同じ条件で反応生成物(シリカのみ)を作製した。反応生成物(シリカのみ)の走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。図4より,得られたシリカは活性炭の構造を忠実に転写していることが分かる。
【0031】実施形態例3超臨界流体である二酸化炭素に,添加剤(エントレーナ)としてエタノールを10%(重量)混合する以外は実施形態例1と同じ条件で反応生成物(シリカのみ)を作製した。反応生成物(シリカのみ)の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。図5より,得られたシリカは活性炭の構造を忠実に転写していることが分かる。
【0032】実施形態例4反応前駆体としてテトラブトキシチタン〔Ti(C4 9 O)4 〕用い,これを温度160℃,圧力250気圧の超臨界二酸化炭素に溶解し,水を含有した構造体としての活性炭(比表面積800m2 /g)に浸透させた。活性炭中の水とテトラブトキシチタンとの反応により,活性炭の微細孔表面(内壁面)にまでチタニア(TiO2 )をコーティングした。
【0033】このコーティング処理は3時間おこなった。次いで,実施形態例1と同様にして,空気中,650℃の熱処理により活性炭チタニアコート物より活性炭を取り除いた。反応生成物(チタニアのみ)の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。図6より,得られたチタニアは活性炭の構造を忠実に転写していることが分かる。
【0034】実施形態例5構造体として,活性炭(比表面積1740m2 /g)を用いる以外は実施形態例1と同じ条件で反応生成物(シリカのみ)を作製した。窒素吸着による比表面積の測定結果を表1に示す。
【0035】実施形態例6構造体として,活性炭(比表面積3120m2 /g)を用いる以外は実施形態例1と同じ条件でコーティング処理を行い,活性炭シリカコート物を作製した。窒素吸着による比表面積の測定結果を表1に示す。
【0036】実施形態例7構造体として,活性炭(比表面積3120m2 /g)を用いる以外は実施形態例4と同じ条件でコーティング処理を行い,活性炭チタニアコート物を作製した。窒素吸着による比表面積の測定結果を表1に示す。
【0037】比較例1水を含有させた活性炭(比表面積800m2 /g)を,120℃のテトラエトキシシラン〔Si(C2 5 O)4 〕に3時間浸漬させた。得られた活性炭シリカコート物及び反応生成物(シリカのみ)の走査型電子顕微鏡写真を図7,図8に示す。窒素吸着により測定した比表面積の値を表1に示す。
【0038】図7,図8より,コーティングにより活性炭の微細孔が生成したシリカによって閉塞されていることが分かる。
【0039】
【表1】


【0040】表1及び各図より次のことが分かる。実施形態例1〜7では,反応生成物(シリカ,チタニア)をコートした活性炭及び反応生成物(シリカ,チタニア)は,高比表面積を保っており,活性炭の構造を忠実に転写しているが,比較例1では,シリカコート活性炭及びシリカは,比表面積が著しく低下しており,活性炭の微細構造を転写できていない。
【0041】
【発明の効果】本発明によれば,構造体の表面に,効率良く反応生成物をコーティングした被覆物質及びこの被覆物質から構造体の一部又は全部を除去し,構造体の微細構造を転写した反応生成物を得ることができる,微細構造転写方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における,構造体としての活性炭の図面代用走査型電子顕微鏡写真(倍率540倍)。
【図2】実施形態例1における,活性炭シリカコート物の図面代用走査型電子顕微鏡写真(倍率2540倍)。
【図3】実施形態例1における,活性炭の微細構造をナノオーダーまで反映した,反応生成物としてのシリカの図面代用走査型電子顕微鏡写真(倍率2250倍)。
【図4】実施形態例2における,活性炭の微細構造をナノオーダーまで反映した,反応生成物としてのシリカの図面代用走査型電子顕微鏡写真(倍率4510倍)。
【図5】実施形態例3における,活性炭の微細構造をナノオーダーまで反映した,反応生成物としてのシリカの図面代用走査型電子顕微鏡写真(倍率850倍)。
【図6】実施形態例4における,活性炭の微細構造をナノオーダーまで反映した,反応生成物としてのチタニアの図面代用走査型電子顕微鏡写真(倍率1090倍)。
【図7】比較例1における,活性炭シリカコート物の図面代用走査型電子顕微鏡写真(倍率500倍)。
【図8】比較例1における,反応生成物としてのシリカの図面代用走査型電子顕微鏡写真(倍率560倍)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 超臨界流体に反応前駆体を溶解して前駆体流体を作製する溶解工程と,反応開始剤を含有させた構造体に上記前駆体流体を接触させて,上記反応前駆体と反応開始剤とを反応させ,該構造体上に反応生成物をコーティングするコート工程とを含んで構成されることを特徴とする微細構造転写方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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