説明

微細液滴の発生方法とそれを用いた微粒子の製造方法及び微粒子

【課題】 微細液滴を簡便な方法で大量に発生可能な微細液滴の発生方法、この微細液滴の発生方法を用いることで粒子径が小さく、結晶性が高く、純度も高い微粒子を大量にかつ安価に製造することが可能な微粒子の製造方法、この微粒子の製造方法により得られた微粒子を提供する。
【解決手段】 本発明の微細液滴の発生方法は、液体である物質Aに、液体である物質Bを分散させて分散液とし、次いで、この分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて前記物質Bを膨張させることにより、前記物質Aを微細液滴とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細液滴の発生方法とそれを用いた微粒子の製造方法及びそれにより得られた微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、数μm程度の粒子径の液滴を発生させる技術としては、スプレーノズル法、超音波噴霧法、振動法、回転ディスク法等が提案されており、さらに小さい液滴を発生させる方法としては、減圧噴霧法、静電噴霧法等が提案されている。
一方、超微粒子を合成する技術としては、さまざまな合成法が提案されており、大きく分けて、気相合成法と液相合成法に分けられる。
気相合成法としては、例えば、適当な雰囲気下で原料ガスを化学的に反応させることにより粒子を合成する方法(CVD法)、高温の火炎の中に原料を注入し、合成させる方法(火炎法)等がある。
【0003】
また、液相合成法としては、例えば、噴霧熱分解法、アルコキシド法、液相還元法等がある。
噴霧熱分解法は、金属塩溶液を高温気流中に噴霧し、金属塩の液滴を高速で酸化することにより金属酸化物微粒子を得る方法である(例えば、特許文献1参照)。この方法では、数10nm程度の大きさの金属酸化物微粒子粉体を得ることが可能である。
アルコキシド法は、金属アルコキシドを触媒の存在下にて加水分解することにより金属酸化物ナノ粒子を得る方法である(例えば、特許文献2参照)。この方法では、低温で合成するために、微粒子同士の凝集が無く、比較的粒径分布の小さい(単分散に近い)金属酸化物ナノ粒子を合成することができる。
液相還元法は、金属塩溶液を還元剤等の共存下にて還元させることにより金属微粒子を得る方法である。この方法においても、数10nm程度の大きさの金属微粒子を得ることが可能である。
【特許文献1】特開平06−199502号公報
【特許文献2】特開平06−287005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の液滴を発生させる技術では、最小でも数μm程度の粒子径の液滴しか製造することができず、さらに液滴の径が分布を有するために、それ以上の径の液滴が含まれてしまうという問題点があった。例えば、超音波噴霧法は、比較的小さい径の液滴を発生させる方法ではあるが、この液滴の径は概ね1μm〜10μmの分布を有している。
また、減圧噴霧法や静電噴霧法は、さらに小さい径の液滴を発生させることができる方法ではあるが、液滴の発生量が少なく、小さい径の液滴を大量に発生させることができない。例えば、これらの方法を利用して超微粒子を製造する場合、製造速度が遅く、したがって、少量の超微粒子しか製造することができず、製造コストが非常に高くなる要因になっている。
【0005】
一方、気相合成法では、例えば、CVD法の場合、不純物を少なくすることができる反面、合成量が少なく、製造コストが非常に高くなってしまうという問題点があった。また、用いる反応ガスには、取り扱いが難しいものが多く、合成する材料によっては管理が大変であるという問題点があった。また、火炎法の場合、生産量を大きくすることができるが、火炎の中で合成するため、熱融着に起因する凝集が激しく、微粒子の単分散性が乏しいという問題点があった。
【0006】
また、液相合成法では、微粒子を大量に合成することができる反面、製造工程中で粒子同士が凝集し易く、また、合成後の加熱過程で生成した微粒子同士が融着してしまう等のために、結晶性が悪かったり、粒子が粗大化し易かったり、不純物が混入し易かったり等の問題点があった。
特に、噴霧熱分解法は、粒子源の入った液滴を高温の雰囲気下に導入し、粒子化を行うことにより、比較的結晶性が良く純度の高い微粒子を製造することが可能である。しかしながら、通常、噴霧された液滴の径がミクロンオーダー以上となるために、サブミクロンの径の微粒子しか合成することができないという問題点があった。
【0007】
微粒子の原料濃度を低下させれば、比較的大きな径の液滴でも微細なナノ粒子が得られるが、製造速度が低下したり、製造コストがかかるといった問題点がある。
そこで、これらの問題を解決する方法として、液滴内にフラックスを添加し、フラックスの効果により微細な粒子を合成する方法(SASP法)が提案されているが、この方法では、フラックスを洗浄する必要があり、フラックスが不純物として粒子の機能を低下させる虞があった。
このように、今日においても、粒子径が小さく結晶性の良い微粒子を凝集することなく大量に合成する技術は、未だに提案されていない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、微細液滴を簡便な方法で大量に発生可能な微細液滴の発生方法、この微細液滴の発生方法を用いることで粒子径が小さく、結晶性が高く、純度も高い微粒子を大量にかつ安価に製造することが可能な微粒子の製造方法、この微粒子の製造方法により得られた微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、液体である物質Aに、液体である物質Bを分散させて分散液とし、次いで、この分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて物質Bを膨張させることにより、物質Aを容易に微細液滴化することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の微細液滴の発生方法は、液体である物質Aに、液体である物質Bを分散させて分散液とし、次いで、この分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて前記物質Bを膨張させることにより、前記物質Aを微細液滴とすることを特徴とする。
【0011】
前記変化の前後における前記物質Aの単位重量当たりの体積差をVa、前記変化の前後における前記物質Bの単位重量当たりの体積差をVbとすると、これらVa及びVbは、
Vb>10Va ……(1)
を満たすことが好ましい。
【0012】
前記物質Bの沸点は、前記物質Aの沸点より低いことが好ましい。
前記変化の直後の温度は、前記物質Bの沸点以上かつ前記物質Aの沸点より低いことが好ましい。
前記変化の直後における前記物質Aは液体であり、前記変化の直後における前記物質Bは気体であることが好ましい。
【0013】
本発明の微粒子の製造方法は、本発明の微細液滴の発生方法を用いて微粒子を製造する方法であって、前記分散液に、前記物質Aに対し相溶性が高くかつ前記物質Bに対し相溶性が低い微粒子原料を溶解させ、次いで、この微粒子原料を含む分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて前記物質Bを膨張させることにより、前記微粒子原料を含む微細液滴を発生させ、この微細液滴中にて微粒子を生じさせることを特徴とする。
【0014】
本発明の微粒子は、本発明の微粒子の製造方法により得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の微細液滴の発生方法によれば、液体である物質Aに、液体である物質Bを分散させて分散液とし、次いで、この分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて前記物質Bを膨張させることにより、前記物質Aを微細液滴とするので、分散液中に均一分散した物質Bを膨張させることで、物質Aを容易かつ大量に微細液滴化することができる。したがって、微細な液滴を簡便な方法により大量に製造することができる。
【0016】
本発明の微粒子の製造方法によれば、前記分散液に、前記物質Aに対し相溶性が高くかつ前記物質Bに対し相溶性が低い微粒子原料を溶解させ、次いで、この微粒子原料を含む分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて前記物質Bを膨張させることにより、前記微粒子原料を含む微細液滴を発生させ、この微細液滴中にて微粒子を生じさせるので、平均粒子径が数十nm以下であり、結晶性が高く、純度も高い微粒子を簡便かつ大量に得ることができる。
したがって、従来の噴霧合成法とは比較にならない程、大量かつ微細なナノ粒子を簡単なプロセスで製造することができる。
また、工程が簡単であるから、製造コストを低減することができ、工業的にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の微細液滴の発生方法とそれを用いた微粒子の製造方法及び微粒子の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
「微細液滴の発生方法」
本発明の微細液滴の発生方法は、液体である物質Aに、液体である物質Bを分散させて分散液とし、次いで、この分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて前記物質Bを膨張させることにより、前記物質Aを微細液滴とする方法である。
【0019】
本発明の微細液滴の発生方法についてより詳しく説明する。
まず、温度T1、圧力P1において液体である物質Aの中に、温度T1、圧力P1において液体である物質Bを分散させ、分散液Cとする。
次いで、この分散液Cを温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させ、物質Bを膨張させる。
この物質Bの膨張により、物質Aは微細化され、微細液滴となる。
なお、この分散液Cは、圧力を一定として温度のみをT1からT2(T2>T1)の状態へ変化させてもよく、温度を一定として圧力のみをP1の状態からP2(P2<P1)の状態へ変化させてもよい。
【0020】
物質Aおよび物質Bの種類については、物質A中に物質Bを分散させた状態にしうるものであれば特に制限はないが、物質Aと物質Bの相溶性が低いことが好ましい。
この相溶性は、温度T1、圧力P1における物質A100gに対する物質Bの溶解度、温度T1、圧力P1における物質B100gに対する物質Aの溶解度、のいずれかで表すことができる。
【0021】
物質A100gに対する物質Bの溶解度は、50g未満が好ましく、より好ましくは25g未満である。なぜならば、物質Bの溶解度が50g以上になると、液滴の微細化の効果が小さくなるからである。
また、物質B100gに対する物質Aの溶解度は、25g未満が好ましく、より好ましくは5g未満である。なぜならば、物質Aの溶解度が25g以上になると、同様に、液滴の微細化の効果が小さくなるからである。
【0022】
物質Aの中に物質Bを分散させるための手段としては、特に制限はないが、超音波発生器による超音波照射、ホモジナイザー、サンドミル、ビーズミル等の機械的エネルギーによる分散処理、または分散剤等の添加、あるいは、上記の分散処理と分散剤等の添加を併用した分散処理等が好適に用いられる。
【0023】
分散液Cにおける物質Aと物質Bの質量比(A/B)は、199/1〜1/2の範囲であることが好ましく、より好ましくは99/1〜1/1の範囲である。
その理由は、A/Bが199/1より大きくなると、液滴の微粒化効果が小さくなり、また、A/Bが1/2より小さくなると、液滴発生量が少なくなるからである。
【0024】
分散液Cを温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させた場合、この変化の前後における物質Aの単位重量当たりの体積差をVa、この変化の前後における物質Bの単位重量当たりの体積差をVbとすると、これらVa及びVbは、
Vb>10Va ……(1)
を満たすことが好ましく、より好ましくは、
Vb>50Va ……(2)
を満たすことである。
その理由は、物質Bの体積差Vbが、物質Aの体積差Vaの10倍以下になると、液滴の微細化効果が低下するからである。
【0025】
物質Bの沸点は、物質Aの沸点より低いことが好ましい。
温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させた場合、温度T2は、物質Bの沸点以上かつ物質Aの沸点より低いことが好ましい。
この変化の直後における物質Aは液体であり、この変化の直後における物質Bは気体であることが好ましい。
物質Bが膨張することにより、この膨張に起因する運動エネルギーにより物質Aが微細化され、微細液滴となる。
【0026】
分散液Cを温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させる手段としては、真空ポンプ等の減圧手段、マイクロ波や高周波等によるエネルギー照射や電気炉等の熱源による加熱手段等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明の微細液滴の発生方法によれば、温度T1、圧力P1において液体である物質Aの中に、温度T1、圧力P1において液体である物質Bを分散させ、分散液Cとし、次いで、この分散液Cを温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させ、物質Bを膨張させ、この物質Bの膨張により物質Aを微細化するので、分散液中に均一分散した物質Bを膨張させることで、物質Aを容易かつ大量に微細液滴化することができる。したがって、微細な液滴を簡便な方法により大量に製造することができる。
【0028】
「微粒子の製造方法」
本発明の微粒子の製造方法は、本発明の微細液滴の発生方法を用いて微粒子を製造する方法であって、液体である物質Aに、液体である物質Bを分散させて分散液とし、この分散液に、前記物質Aに対し相溶性が高くかつ前記物質Bに対し相溶性が低い微粒子原料Dを溶解させ、次いで、この微粒子原料Dを含む分散液C’の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて物質Bを膨張させることにより、微粒子原料Dを含む微細液滴を発生させ、この微細液滴中にて微粒子を生じさせる方法である。
【0029】
本発明の微粒子の製造方法についてより詳しく説明する。
まず、温度T1、圧力P1において液体である物質Aの中に、温度T1、圧力P1において液体である物質Bを分散させ、分散液Cとする。
次いで、この分散液Cに物質Aに対し相溶性が高くかつ物質Bに対し相溶性が低い微粒子原料Dを溶解させて分散液C’とし、この分散液C’を温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させ、物質Bを膨張させる。
この物質Bの膨張により、微粒子原料Dを含む分散液C’を微細化し、微粒子原料Dを含む微細液滴を発生させ、微細液滴にて微粒子を生じさせる。
【0030】
微粒子原料Dは、物質Aに対して相溶性が高くかつ物質Bに対して相溶性が低いものであれば、特に制限はない。
微粒子原料Dの物質Aに対する溶解度(DA)と、微粒子原料Dの物質Bに対する溶解度(DB)との比(DA/DB)は、DA/DB>2が好ましく、より好ましくはDA/DB>5である。
ここで、DA/DB≦2となった場合には、粗大な粒子が生じ易くなるので、好ましくない。
【0031】
微粒子原料Dを分散液Cに溶解させる方法としては、特に制限はない。
また、あらかじめ物質Aに微粒子原料Dを溶解させておき、この物質A及び微粒子原料Dを含む溶液に物質Bを分散させ、分散液C’としても良い。
分散液C’を得る方法としては、微粒子原料Dがこの時点で粒子成長を起こさなければ、超音波発生器による超音波照射、ホモジナイザー、サンドミル、ビーズミル等の機械的エネルギーによる分散処理が好適に用いられる。
この分散液C’に、必要に応じて界面活性剤等の分散剤を添加してもよい。
【0032】
分散液C’を温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させる手段としては、真空ポンプ等の減圧手段、マイクロ波や高周波等によるエネルギー照射や電気炉等の熱源による加熱手段等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0033】
ここで、本発明の微粒子の製造方法について、例を挙げて詳細に説明する。ここでは、あらかじめ物質Aに微粒子原料Dを溶解させておく微粒子の製造方法について説明する。
まず、微粒子原料Dを物質Aに溶解させる。微粒子原料Dとしては、金属元素、非金属元素等、特に限定されるものではなく、目的とするナノ粒子の組成により1種類または2種類以上の金属元素、非金属元素等を用いることができる。
【0034】
金属元素としては、例えば、金属の無機塩、金属の有機酸塩、金属錯体、金属錯体オリゴマー、金属の高分子錯体等を使用することができる。ここで、金属の無機塩としては、例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩等を、金属の有機酸塩としては、例えば、乳酸塩等を、金属錯体としては、例えば、アセチルアセトナート錯体等を、金属錯体オリゴマーとしては、例えば、アセチルアセトナート錯体を数個から数百個架橋した錯体等を、金属の高分子錯体としては、例えば、クエン酸錯体がエステル架橋した高分子等を例示することができる。
【0035】
特に、金属錯体オリゴマーや金属の高分子錯体を用いると、金属成分を加熱等により粒子化する際に、特定の成分だけ粒子化したり、抜け出したりして、成分が偏ったりすることを防ぐことができ、粒子の組成を均一にすることができるので好ましい。特に、多成分系の複合金属微粒子、複合酸化物微粒子を製造する場合には、組成が均一で、不純物が少なく、結晶性の高い微粒子を合成することができる。したがって、目的とするナノ粒子、ナノ構造体の、成分の精密な制御が可能になる。
【0036】
例えば、チタン酸バリウムストロンチウムナノ粒子・ナノ構造体を合成したい場合、微粒子原料Dとしては、例えば、チタン、バリウム、ストロンチウムのアセチルアセトナートを架橋したアセチルアセトナート高分子錯体、あるいはチタン、バリウム、ストロンチウムのポリエステル錯体(高分子錯体)を用いると、金属塩を混合した場合や錯体を混合しただけの場合に比べて、得られる微粒子がより均一で、原料の組成比に限りなく近くなる。
【0037】
次いで、微粒子原料Dを物質Aに溶解させた溶液に、温度T1、圧力P1において液体である物質Bを分散させ、分散液C”とする。
次いで、この分散液C”を温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させ、物質Bを膨張させる。
この場合、あらかじめ分散液C”をシャワーノズルやスプレーノズルを用いて軽く液滴を微細化させておくと、より液滴微細化の効果が現れる。したがって、必要に応じて従来の液滴生成プロセスを併用することができる。
【0038】
この物質Bの膨張により、微粒子原料Dを含む分散液C”を微細化し、微粒子原料Dを含む微細液滴を発生させ、微細液滴にて微粒子を生じさせる。
この微細化された分散液C”の液滴内で微粒子を生成させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、化学反応や加熱を利用した方法等が用いられる。
【0039】
化学反応を利用する方法としては、例えば、酸化剤を用いた酸化反応、還元剤を用いた還元反応が挙げられる。
酸化剤としては、例えば、過酸化水素等を挙げることができ、酸化剤を分散液C”に添加することにより、酸化物ナノ粒子を合成することができる。
また、還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、過マンガン酸カリウム等を挙げることができ、還元剤を分散液C”に添加することにより、例えば、金属イオンを還元剤で還元することで、ナノレベルの金属粒子を生成することができる。
【0040】
これらの酸化反応あるいは還元反応と共に、超音波等の物理的手法を併用することができる。また、微粒子を生成させる際に、硫化水素等のガスを導入し反応させることによって、ナノレベルの金属硫化物等を合成することも可能である。その後、必要により、溶媒、粒子源の反応副生成物を完全に除去、熱分解するために、加熱しても良い。微粒子の種類によっては、加熱を行うことにより粒子の結晶性を向上させることができるので、望ましい。
【0041】
また、加熱を利用する方法としては、ヒーター等による加熱、マイクロ波、高周波、紫外線、赤外線等のエネルギー照射による加熱、減圧加熱、真空加熱等が可能である。
ヒーター等による加熱としては、例えば、所定温度の電気炉(バッチ式電気炉)中に導入して加熱する方法、管状型の電気炉(管状炉)中に導入し加熱する方法、流動床型の電気炉(トンネル式電気炉)で加熱する方法等がある。
【0042】
加熱時の雰囲気としては、大気雰囲気の他、必要に応じて、酸素ガスの分圧が高い酸化性雰囲気、5v/v%H−N等の還元性雰囲気、Ar、N等の不活性ガス雰囲気を用いてもよい。
この加熱により、液滴の微細化と粒子化をほぼ同時に行うこともできる。また火炎により可燃性の溶媒を燃焼させ、前述の過程を同時に行うことにより、一瞬にして粒子を合成することも可能である。
【0043】
この微細液滴中に生成される微粒子の前駆体は、特に酸化剤や還元剤を添加しなくても、加熱によってナノ粒子を生成することができる。例えば、金属酸化物を主成分とするナノ粒子を合成する場合、酸素の存在下で加熱することにより、金属元素を酸化させ、酸化物ナノ粒子を合成することができる。また、還元雰囲気下での加熱により金属イオンを還元させたり、錯体を分解させることによって金属ナノ粒子を合成することもできる。
【0044】
また、この微粒子の前駆体を反応性ガスと接触させることにより、化合物微粒子を合成することができる。例えば、微粒子の前駆体を硫化水素ガスと反応させることにより、硫化物微粒子を合成することができる。さらに、化学反応を利用した場合、余分な溶媒や反応副生成物が反応後の微粒子中に残留する虞があるが、加熱することにより余分な溶媒や反応副生成物を分解除去し、目的物のみを得ることが可能である。
【0045】
この加熱温度は特に制限は無いが、例えば、単分散微粒子を合成する場合、300℃〜1500℃の範囲が好ましく、より好ましくは400℃〜1200℃の範囲である。ここで、加熱温度を300℃〜1500℃の範囲としたのは、加熱温度が300℃より低いと、生成する微粒子の結晶性が低くなるからであり、一方、加熱温度が1200℃を超えると、微粒子の種類にもよるが、微粒子の異常粒成長、あるいは微粒子同士の溶融や焼結が生じ易くなり、その結果、単分散性が低下するからである。
【0046】
本発明の微細液滴の発生方法により液滴を微細化する方法と、本発明の微細液滴の発生方法を用いて微粒子を製造する方法は、必ずしも別々で行なう必要は無く、組み合わせて、1つのステップで行なうことも可能である。また、微細化された液滴の中で粒子化が生じるために、比較的高温で加熱しても凝集や融着が生じ難くなり、結晶性が高く、かつ分散性の高いナノ粒子が合成可能になる。
【0047】
本発明の微粒子の製造方法によれば、温度T1、圧力P1において液体である物質Aの中に、温度T1、圧力P1において液体である物質Bを分散させて分散液Cとし、次いで、この分散液Cに物質Aに対し相溶性が高くかつ物質Bに対し相溶性が低い微粒子原料Dを溶解させて分散液C’とし、この分散液C’を温度T1、圧力P1の状態から温度T2(T2>T1)、圧力P2(P2<P1)の状態へ変化させ、物質Bを膨張させることにより、微粒子原料Dを含む分散液C’を微細化し、微粒子原料Dを含む微細液滴を発生させ、微細液滴にて微粒子を生じさせるので、平均粒子径が数十nm以下であり、結晶性が高く、純度も高い微粒子を簡便かつ大量に得ることができる。
【0048】
したがって、従来の噴霧合成法とは比較にならない程、大量かつ微細なナノ粒子を簡単なプロセスで製造することができる。
また、工程が簡単であるから、製造コストを低減することができ、工業的にも優れている。
【実施例】
【0049】
以下、実施例1、2により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
トルエン(関東化学)88gに銅アセチルアセトナート(関東化学)1.0gを溶解させ、その後、超純水10ml及びモノオレイン酸ソルビタン(Span80:東京化成)1.0gを混合し、超音波ホモジナイザーを用いて分散させ、分散液とした。その後、この分散液をスプレー乾燥装置(フルテック製)を用い、350℃にて乾燥し、粉体を得た。
この粉体を透過電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、平均粒子径が5nmの微細粒子であった。また、この粉体をX線回折装置を用いて同定したところ、酸化銅ナノ粒子であった。
【0051】
(実施例2)
トルエン(関東化学)88gにテトラエトキシシラン(信越化学)1.0gを溶解させ、その後、超純水10ml及びモノオレイン酸ソルビタン(Span80:東京化成)1.0gを混合し、超音波ホモジナイザーを用いて分散させ、分散液とした。その後、この分散液をスプレー乾燥装置(フルテック製)を用い、400℃にて乾燥し、粉体を得た。
この粉体を透過電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、平均粒子径が4.5nmの微細粒子であった。また、この粉体をX線回折装置を用いて同定したところ、シリカナノ粒子であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の微細液滴の発生方法は、物質Aを含む分散液中に均一分散した物質Bを膨張させることで、微細な液滴を簡便な方法により大量に製造することができ、この微細液滴の発生方法を微粒子の製造方法に適用することにより、粒子径が小さく、結晶性が高く、純度も高い微粒子を大量にかつ安価に製造することができるものであるから、金属微粒子や金属酸化物微粒子はもちろんのこと、他成分系の複合金属微粒子、複合金属酸化物微粒子等を製造する際にも極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体である物質Aに、液体である物質Bを分散させて分散液とし、次いで、この分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて前記物質Bを膨張させることにより、前記物質Aを微細液滴とすることを特徴とする微細液滴の発生方法。
【請求項2】
前記変化の前後における前記物質Aの単位重量当たりの体積差をVa、前記変化の前後における前記物質Bの単位重量当たりの体積差をVbとすると、これらVa及びVbは、
Vb>10Va ……(1)
を満たすことを特徴とする請求項1記載の微細液滴の発生方法。
【請求項3】
前記物質Bの沸点は、前記物質Aの沸点より低いことを特徴とする請求項1または2記載の微細液滴の発生方法。
【請求項4】
前記変化の直後の温度は、前記物質Bの沸点以上かつ前記物質Aの沸点より低いことを特徴とする請求項1、2または3記載の微細液滴の発生方法。
【請求項5】
前記変化の直後における前記物質Aは液体であり、前記変化の直後における前記物質Bは気体であることを特徴とする請求項1、2または3記載の微細液滴の発生方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の微細液滴の発生方法を用いて微粒子を製造する方法であって、
前記分散液に、前記物質Aに対し相溶性が高くかつ前記物質Bに対し相溶性が低い微粒子原料を溶解させ、次いで、この微粒子原料を含む分散液の温度、圧力のいずれか一方または双方を変化させて前記物質Bを膨張させることにより、前記微粒子原料を含む微細液滴を発生させ、この微細液滴中にて微粒子を生じさせることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の微粒子の製造方法により得られたことを特徴とする微粒子。

【公開番号】特開2006−247551(P2006−247551A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69025(P2005−69025)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)ナノ粒子の合成と機能化技術プロジェクト」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】