説明

微視的な、分離されたサンプルを輸送するための方法および装置、そのような装置を含む微細解剖システム(micro−dissectionsystem)およびナノ吸引手段(nano−suctionmeans)の製造方法

本発明は、オブジェクトテーブル13から分析配列への微視的な、分離されたサンプル15、特に膜で支持された微細解剖標本の輸送のための方法および装置に関し、吸引装置1は、吸引チューブ3および末端膜4を持つナノ吸引手段2および前記末端膜4上へまたは前記末端膜4から前記サンプル15を吸引または吹き動かすために前記ナノ吸引手段2に連結され得る真空/加圧ユニット;および前記末端膜4上へ前記サンプル15を吸引するためのサンプル除去位置および前記末端膜4から前記サンプル15を吹き動かすためのサンプル解放位置に正確に前記ナノ吸引手段2を置くための関連位置決めユニットによって動かされ得る前記ナノ吸引手段2を運ぶためのキャリヤー装置12を含む。本発明は、さらに、そのような装置を含む微細解剖システムおよびそのような装置に使用されるナノ吸引手段の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オブジェクトテーブルから分析配列(analysis arrangement)への微視的な、分離されたサンプル、特に膜で支持された微細解剖標本(membrane−supported micro−dissected specimens)への輸送のための方法および装置、そのような装置を含む微細解剖システムおよびそのような装置用のナノ吸引手段の製造方法に関する。
【0002】
それは、任意の微視的な、分離されたサンプルに用いられ得るが、本発明および基礎を成す問題は、膜で支持された微細解剖標本、特にレーザで支持された微細解剖(laser−supported micro−dissection)によって分離された微細解剖標本を参照してより詳細に説明される。
【背景技術】
【0003】
レーザで支持された微細解剖は、意図的な組織切片からの最小領域のまさに個別細胞までの分離を可能にする。また、無接触のレーザ操作は、個別細胞コンパートメント(individual cell compartments)、例えば、染色体および染色体の断片の微細解剖を保証する。PCR、クローン技術およびレーザ微細解剖の組み合わせにより、分子細胞遺伝学のための位置特異的な染色体サンプル(region−specific chromosomal samples)の開発が可能である。しかしながら、これらのレーザ微細解剖方法において、前記断片は可能な限り鋭く引き出されたガラス針で集められ、ガラス針微細解剖と同類である。レーザ微細解剖の開発は、レーザ捕獲(laser capture)微細解剖の導入につながっている。この方法において、検査するために前記細胞に合成膜が適用される。熱を加えることにより局所的に前記フィルムを溶かすことで、前記組織から分離すべき前記細胞が取り除かれる。この方法は、特に約30μmの大きさまで細胞群(cell groups)を分離するのに適当である。
【0004】
レーザ圧力分離の原則(The principle of laser pressure isolation)は、個別細胞および細胞群を分離するための異なった方法である。この手法において、数ワットの出力ピークを持つパルスUVレーザは、下から分離するように組織の前記領域に向けられる。レーザ捕獲微細解剖と異なって、前記組織は、約1〜6μmの範囲の厚みの超薄層支持膜に置かれる。細胞または細胞群は、前記UVレーザを使用することで意図的に分離でき、さらに先の段階において、これらは、光圧の助けによって上向きに収集装置に分離され、それらを他の生化学的方法にアクセスしやすくする。染色体に特有の彩色サンプル(chromosome−specific paint samples)を開発する染色体の分離は、この方法を使用して導入されている。
【0005】
しかしながら、既知の上記方法において、前記分離されたサンプルの輸送を保証することができないという事実は不都合であることが突き止められており、且つ、これらの方法は、輸送された前記サンプルの損害または汚染を引き起こすかもしれない。加えて、前記方法において、前記輸送過程全体の光学モニタリングは、仮にあったとしても大きな困難とともにしか可能ではない。さらに、前記サンプルの定義された採取(picking up)および配置(setting down)は、使用される輸送の手段のために保証されない。
【0006】
例えば、組織粒子、細胞および細胞成分、タンパク質および運動性の物質(kinetic material)の損害は、上記方法における捕捉過程において起こるかもしれない。ガラス針微細解剖において、この方法の前記本質のために前記サンプルの損害をもたらし、前記サンプルは、不利に削り取られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
その結果、上記の、既知の方法の見地から、本発明の目的は、上記の損失を排除すること、およびより慎重に、且つより多くの定義された方法で、対応するサンプルがオブジェクトテーブルから分析配列へと輸送されることを保証するためのそのような方法で、微視的な、分離されたサンプルを輸送するための装置および方法を特に改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明に従って、請求項1の特徴を持つ装置、請求項19の特徴を持つ微細解剖システム、請求項22の特徴を持つ方法および請求項26の特徴を持つナノ吸引手段の製造方法により達成される。
【0009】
本発明の基になった概念は、微視的な、分離されたサンプルを輸送するための吸引装置(suction apparatus)の使用を伴い、この吸引装置は、吸引チューブ(suction tube)および末端膜(terminal membrane)を持つナノ吸引手段および前記末端膜上へまたは前記末端膜から前記サンプルを吸引するまたは吹き動かすために前記ナノ吸引手段に連結可能な真空/加圧ユニットを有し;前記ナノ吸引手段を運ぶためのキャリヤー装置が提供され、これは、前記末端膜上へ前記サンプルを吸引するためのサンプル除去位置(sample removal position)および前記末端膜から前記サンプルを吹き動かすためのサンプル解放位置(sample release positon)に正確に前記ナノ吸引手段を置くための関連位置決めユニット(associated positioning unit)によって調整可能とされている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、その結果、前記末端膜上への前記末端膜からの前記サンプルの慎重な吸引または吹き動かしによる前記分離されたサンプルの損害の防止および前記関連位置決めユニットと連携した前記キャリヤー装置によって正確で、定義されおよび制御可能な前記サンプルの輸送の単純な手段を保証する前記既知の方法を超えた利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、微細解剖システムに組み込まれた本発明の好ましい実施形態に従った輸送装置の概略部分投影図を示す。
【図2】図2は、本発明の好ましい実施形態に従った前記ナノ吸引手段の最先端の拡大断面図を示す。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施形態に従った前記ナノ吸引手段用の支持板の平面図を示す。
【図4】図4は、本発明の好ましい実施形態に従った支持板および末端網(terminal mesh)を含む末端膜の概略図を示す。
【図5】図5は、図2のA−A方向から見た断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
そのような発明に使用されるように、サブクレームにおいて、好ましい実施形態および前記微視的な、分離されたサンプルの輸送のための装置および方法、そのような装置を含む微細解剖システムおよび前記ナノ吸引手段の製造方法の改良が見出される。
【0013】
抽出ポイント(extraction point)は、好ましくは、ジョイスティックを介したモーター制御による顕微鏡ユニットの観測下またはデジタル位置輸送(digital positon transfer)によって自動的に水平に調整される。距離計(distance meter)または機械的手段によって確保された前記ナノ吸引手段へのオートフォーカスは、前記抽出ポイント上に予め定義された吸引レベルへμm内で正確に前記ナノ吸引手段を下げることを可能にする。前記距離計は、表面からの実際の距離を絶え間なく測定し、これを予め定義されたセット距離と比較する。それが下ろされるに従って前記ナノ吸引手段が前記予め定義されたセット距離に達したとき、収束過程が止まり、吸引過程が作動する。真空は、前記末端膜へ前記サンプルを吸引し、それをそこに保持する。
【0014】
つぎに、前記ナノ吸引手段は、前記位置決めユニットによって前記解放位置に置かれる。好ましくは、真空は、前記位置決め過程全体の間中残るべきである。前記ナノ吸引手段がその解放位置に達するとき、それは、上述のように前記距離計によって予め定義されたセット位置に下ろされる。加圧は、前記抽出されたサンプルを前記分析エリア内に吹き動かすためにこの位置において適用される。
【0015】
本発明は、実施形態の助けおよび添付図面の参照により、以下により詳細に説明される。
【0016】
別の方法で指定しない限り、図面において、同じ部材または同じ機能を持つ部材には同じ符号を付している。
【0017】
図1は、特に、レーザ微細解剖後の、分離された組織切片または細胞(これ以降サンプル15と言う)を輸送するための本発明の好ましい実施形態に従った微細解剖システムに組み込まれた輸送装置の模式部分投影図を示す。好ましくは、前記輸送装置は、自律的で既存のシステムに組み込み可能に設計されており、例えば、前記微細解剖システムの既存の顕微鏡ユニット14に固定される。
【0018】
この実施形態によると、前記輸送装置は、図1に示す前記サンプル除去位置においてオブジェクトテーブル13から前記サンプル15を吸引するためまたは図示しないサンプル解放位置において前記サンプル15を吹き動かすために用いられる吸引装置1を有する。前記オブジェクトテーブル13は、例えば、関連する顕微鏡ユニットの顕微鏡プラットフォームとして設計されても、支持膜でオブジェクトキャリヤーを固定できる独立の顕微鏡プラットフォームとして設計されてもよい。このとき、レーザ微細解剖において前記サンプル15は通常支持膜上に位置しており、前記オブジェクトテーブル13から図示しない分析配列へと前記輸送装置によってこの膜とともに輸送されることに注意すべきである。
【0019】
図1に模式的に示す前記吸引装置1は、例えば、ホウケイ酸ガラスチューブ3および末端膜4を含んでもよいナノ吸引手段2を有する。この実施形態によると、図1に示すとおり、前記ガラスチューブ3は、長手部分および短手部分を有するL字形状である。前記長手部分は、以下により詳細に述べるとおり、カップリングチューブ10を有する気密接続を提供する。
【0020】
前記ガラスチューブ3の前記短手部分は、その自由前端(free front end)に末端膜4を有する。前記ナノ吸引手段2のこの先端は、図2の拡大断面図に示されている。前記ガラスチューブ3は、例えば、約1.7mm〜2.0mmの範囲の外径、約0.5mm〜1.5mmの範囲の内径および約50mm〜70mmの両部分の長さを含む全長を有する。
【0021】
前記吸引チューブまたはガラスチューブ3は、また、少なくともいくつかの部分、特に図2に示す先端領域が、電導性被膜、例えば、厚みが約60nmであってもよい電導性金被膜を持つ気相めっきがされている。
【0022】
図2に示すように、前記末端膜4は、支持板5および末端網6を含む。前記支持板5は、分離して図3の拡大図において示され、例えば、中心に穴8を有するディスクとして設計されてもよい。好ましくは、前記支持板5は、銅または類似の何かのような電導性材料から作られる。図2を参照して、好ましくは、前記支持板5は、前記穴8が前記吸引チューブ3中の初め9と同じ高さであるように前記ナノ吸引手段2の先端部分に固定される。しかしながら、全吸引力が前記穴8を通して有利に指示されるべきであるが、他の実施形態が選択されることも考えられる。
【0023】
前記末端膜4は、電導性材料または電導性表面を有する材料から作られた末端網6も有する。図4は、支持板5および末端網6を含む前記末端膜4の底面図を示す。前記末端網6は、例えば、丸いディスク形状であってもよい。前記ナノ吸引手段、すなわち前記吸引チューブ3および前記支持板5および末端網6の寸法は、関連アプリケーションの機能として変えられてもよい。特に、前記網の厚みおよび前記末端網6の孔径は、輸送される前記関連サンプル15に適切に調整されるべきである。例えば、約20μmの網の厚みおよび約60nm〜50μmの直径を持つ孔が考えられる。
【0024】
好ましくは、図2に示すように、前記末端網6は、前記網が前記支持板5中の前記穴8および前記吸引チューブ3の初め9を完全に覆うように前記支持板5上に置かれる。前記全体構造は、吸気が密封されなかったいかなる環境でも通過するのではなく、直接前記網6を通過するように設計されている。
【0025】
図5は、図2のA−A方向から見た断面図を示す。前記ナノ吸引手段2上のいかなる帯電も前記サンプル15を保護するために防止されるべきである。図2とともに図5に示すように、伝導性銀ペイントまたは類似の何かの形で、例えば、前記支持板5と前記吸引チューブ3上の前記電導性被膜との間の電気的接続を作り出すために電気的接触ポイント7が提供される。これは、例えば、あるサンプルまたは前記末端膜4の材料によって引き起こされるかもしれない帯電を、前記吸引チューブ3または前記吸引チューブ3に結びついたアース線を介して、有利にそらすことを意図している。
【0026】
明確性のために前記輸送装置を概略的および部分的に示すのみであるが、前記輸送装置の更なる特徴を述べるために再度図1を参照する。
【0027】
例えば、前記吸引装置1は、上述のように、前記吸引チューブ3の前記長手部分の自由端を挿入し、気密の方法で固定することができ、且つそれを容易に取り替えられるようなカップリングチューブ10を有する。好ましくは、前記カップリングチューブは、交換目的のために、前記ナノ吸引手段2を前記吸引装置1へ接続し、前記吸引装置1から取り外すことのできるクリップまたは回転締め具を有する。例えば、気密の方法で前記カップリングチューブ10内の前記吸引チューブ3の関連端をつかみ、または、この締め具の回転によって前記吸引チューブ3を取り除くために前記カップリングチューブ10からこの端を解放する対応するゴムシールを持つ回転締め具が提供される。
【0028】
前記カップリングチューブ10の他端に、図示しない関連する真空/加圧ユニットを接続するための接続11がある。この場合において、対応する適応できるクリップまたは回転締め具を提供し得ることも考えられる。正確に正しいサイズのテフロン(登録商標)ホースを前記カップリングチューブ10の関連端に置いて、さらにシリコンでシールすることも考えられる。
【0029】
前記真空/加圧ユニットは、例えば、前記末端網6上へ前記サンプル15を吸引するために必要とされる真空または前記末端網6から前記サンプル15を吹き動かすために必要とされる加圧を供給する圧縮空気ピコポンプ(pneumatic pico−pump)として設計されてもよい。例えば、それぞれ前記サンプルを吸引するまたは吹き動かすために、約0〜0.75kPaの低圧だけでなく、例えば413kPaの高圧も正確にセット可能である鋭敏PLI−100圧力制御ユニット(sensitive PLI−100 pressure control unit)が用いられる。好ましくは、前記真空/加圧ユニットの吸引力または吹き動かすパルスの強度は、関連するアプリケーションに従って予め決定され、調整される。前記分析配列上に提供された液滴中に、この滴を分散することなく、前記集められたサンプルを解放するために前記加圧持続時間を数ミリ秒(several ms)に調整できるならば有利である。
【0030】
図1に示すように、前記輸送装置は、また、少なくとも前記カップリングチューブ10および結果として前記吸引装置1の前記ナノ吸引手段2に固定されるキャリヤー装置12も含む。前記キャリヤー装置12は、図示しない関連位置決め手段に接続される。好ましくは、前記位置決めユニットの自由の4つの度合いは、上述のとおり、3つの並進運動(x、yおよびz方向)、および水平面で前記キャリヤー装置12を旋回させる回転運動で前記キャリヤー装置を動かすために提供される。例えば、前記キャリヤー装置12および結果として前記ナノ吸引手段2を正確にμm範囲内で置くことができるマイクロメーターステッパモーター(micrometer stepper motor)が使用される。前記輸送装置が関連する顕微鏡ユニット14に取付けられているなら、これは、前記オブジェクトテーブルしか動かすことができないことに応じて、前記キャリヤー装置12が所定の位置に固定されるために前記顕微鏡ユニット14照合システム内で動かされ、前記キャリヤー装置12が旋回されるとき前記顕微鏡ユニット14のレンズシステムまたはレーザシステム上で前記ナノ吸引手段2の正確な位置決めを保証することを意味する。これは、非常に小さなサンプルでさえ、前記関連サンプルの最大の精度と迅速な抽出を保証する。全体の調整運動は、対応するソフトウェアおよび制御ユニットによって実行される。
【0031】
加えて、前記輸送装置は、必要ならば、図面の明確性のために図示しない付加部材を有してもよい。例えば、光学モニタリングおよび前記輸送過程の表示のために表示ユニットが提供される。
【0032】
前記表示ユニットは、例えば、フレキシブルなAPIインタフェースを持つCCDカメラで構成されてもよい。前記末端膜4と取り除かれるべき前記サンプル15との間の距離または前記抽出されたサンプル15が置かれる分析配列からの距離をオンラインで測定する距離計、例えば、適切なレーザセンサも提供される。例えば、前記関連表面間の100μmと言うセット距離を自動的に調整する自動距離制御用のレーザセンサとしてLTA−02レーザセンサオートフォーカスユニット(LTA−02 laser sensor autofocus unit)を用いてもよい。このレーザセンサは、上記マイクロメーターステッパモーターによって機械的に調整されるために有利に設計されてもよい。
【0033】
上記部材のリストは、有限であると、および、専門家が前記関連するアプリケーションにおける前記輸送装置に組み込み可能な付加部材としてよく意識するであろうとみなすべきではない。さらに、専門家は、上記部材が、例えば、関連するジョイスティックおよび対応するモニター上に表示するための手段によって、前記共有された制御ユニットおよび前記オブジェクトテーブル13から関連する分析配列への前記関連サンプル15のユーザフレンドリーな輸送を確実にするためのような対応するソフトウェアに接続可能であることをよく意識するであろう。
【0034】
上述のとおり、微細解剖システム中に前記輸送装置が組み込まれることが好ましい。この場合において、自律的システムとして設計された前記輸送装置を、共通参照システムを提供するためのように、既存の顕微鏡ユニット14に固定することは有利である。これは、例えば、前記キャリヤー装置12の回転旋回運動たけによって達成される正確な位置決めとして、前記顕微鏡ユニット14のレンズおよび/またはレーザシステム上に前記ナノ吸引手段2を置くことを極めて容易にする。この場合において、前記関連する距離計によって前記ナノ吸引手段2を下げることおよび前記オブジェクトテーブル13および微調整の確実のために水平に前記サンプル15を動かすことだけが必要である。
【0035】
前記輸送装置が基本的に独立で作動し結果として前記その後の分析ステージから自律的で結果的にモジュラー方式で既存のシステムに組み込み可能であれば有利である。これは、科学的用法のかなりの可能性を作り出すだけでなく、この技術のインダストリアル・マーケティングのための更なる可能性も作り出す。
【0036】
ナノ吸引手段2の製造方法の好ましい実施形態は以下にさらに詳細に説明され、このナノ吸引手段は、このサンプルの損害および汚染を導くことなく、サンプル15の正確な輸送を確実にする際に極めて重要な役割を演じる。
【0037】
約1.7mm〜2.0mmの範囲の外径および約0.5mm〜1.5mmの範囲の内径を持つホウケイ酸ガラスチューブ3は、図1に示すように、好ましくは、一つの長手部分および一つの短手部分を有する前記ガラスチューブ3のような対応する装置によってL字形状に形成される。このように曲げられた前記ガラスチューブ3は、例えば、予め定義された領域、好ましくは前記短手部分の先端に、厚み60nmの金被膜を持つ気相めっきがされる。この金被膜は、前記ガラスチューブ3の前記対応する表面が電導性であることを意味するが、前記ガラスチューブ3のありのままの特性を変更しない。
【0038】
前記ガラスチューブ3の前記短手部分の前記端は、好ましくは、UV硬化型接着剤を用いて被覆される。前記ガラスチューブ3は前記支持板5の正確な中心に置かれて、前記ガラスチューブ3の前記接着剤で被覆された端が前記支持板5に接触するまでマイクロメカニカルに(micromechanically)下げられる。前記UV接着剤は、UVランプを用いて硬化され、前記支持板5と前記ガラスチューブ3との間の永久接続をもたらす。
【0039】
接着剤、例えば、好ましくはUV硬化型接着剤の0.5mm幅の帯が、前記支持板5の前記穴8の周りの前記支持板5の自由な下側に適用される。つぎに、前記ガラスチューブ3が、先の取付けられた支持板5と共に、前記末端網6上にマイクロメカニカルに下ろされ、前記適用された接着剤が、前記支持板5および前記末端網6が接合した後にUVランプによって再度硬化される。
【0040】
最後に、例えば、反対部分への伝導性銀ペイントの二滴の適用によって達成される前記支持板5と前記ガラスチューブ3上の前記伝導性表面または前記電導性被膜気相めっきとの間の電導性接続が確立される。
【0041】
好ましくは、前記輸送装置は異なるナノ吸引手段2のセットを有し、前記個々のナノ吸引手段2は異なる末端膜4または末端網6を有する。この場合において、それぞれの場合において輸送されるおよび前記吸引装置および結果として前記輸送装置に組み込むための前記カップリングチューブ10へ気密の方法で手動で接続されるための前記サンプル15の機能として適切なナノ吸引手段2が選択された結果として、それの他の特性が異なってもよいように、前記末端網6の寸法、材料、孔径および孔構成は、異なってもよい。結果として、ユーザーは、前記既存のセットから前記適切なナノ吸引手段2を簡単に手動で選択でき、それをそれぞれの場合において輸送されるための前記サンプル15の機能として前記輸送装置に適合できる。これは、いかに破損したナノ吸引手段も非常に簡単に交換できるという利点も有する。
【0042】
本発明の好ましい実施形態に従ったオブジェクトテーブル13から分析配列へのサンプル15の輸送方法を、特に図1を参照して再度以下により詳細に述べる。この場合において、それは、前記輸送装置が顕微鏡ユニット14に固定され、サンプルが関連する微細解剖システムに使用するレーザ微細解剖手段によって分離される一例と考えられる。
【0043】
サンプル標本は、まず前記オブジェクトテーブル13の関連するガラス板上に置かれ、前記顕微鏡ユニット14中のレンズシステムまたはレーザシステムによって位置決めされる。つぎに、前記サンプル標本の一部が、例えば、輸送されるための前記サンプル15の分離のために、レーザ微細解剖手段によって切り取られる。つぎに、前記ナノ吸引手段2が、前記位置決めユニットを介した前記キャリヤー装置12の移動によって前記サンプル15または前記顕微鏡ユニット14の前記レンズシステム上で水平面で旋回され、必要であれば、その高さが前記関連する距離計によって自動的にまたは手動で調整される。
【0044】
つぎに、前記分離されたサンプル15が、前記真空/加圧ユニットで低圧、例えば0.75kPaより低い圧力にセットすることによって前記オブジェクトテーブル13から前記ナノ吸引手段2の前記末端網6上へと吸引される。つぎに、前記キャリヤー装置12が、前記吸引圧力が維持されている間に前記既存の位置決め装置によって正確に前記オブジェクトテーブル13から前記関連する分析配列へと動かされる。
【0045】
例えば、小さな液滴が、前記サンプル15の捕獲のために前記輸送されたサンプル15の分析用の前記分析配列に提供されてもよい。つぎに、前記キャリヤー装置12は、予め決められた距離、例えば前記滴の表面の100μm上に再度下ろされ、前記サンプル15が高圧の短いパルス、例えば、2ミリ秒(2ms)間の413kPaの圧力への前記真空/加圧ユニットの変更によって前記滴上に慎重かつ正確に吹き動かされる。
【0046】
これは、前記分離されたサンプル15をさらなる分析用の反応容器中に正確かつ慎重に輸送することを可能にする。
【0047】
上述のとおり、好ましくは、前記ナノ吸引手段2は、前記吸引または前記吹き動かし過程の間前記サンプル表面または前記滴の表面から約100μmの距離に移動される。これは、例えば、LTA−02レーザセンサに組み込むことによって保証されてもよい。前記ナノ吸引手段2が前記対応する表面に接近するとき、前記レーザセンサは、絶えず前記表面への前記距離を測定する。つぎに、前記セットおよび実際の距離の間のこの差が前記制御ユニットに伝達され、前記焦点方向における前記ナノ吸引手段2または前記キャリヤー装置12の前記運動に反映される。前記差が0より大きければ、前記運動は続く。前記セット距離が前記実際の距離に一致したならば、前記ナノ吸引手段2の焦点運動は止まり、前記吸引または拭き動かし過程がはじめられる。
【0048】
本発明は、好ましい実施形態によって述べられたが、それはこれらの実施形態に限定されず、複数の方法で変更されてもよい。特に、上記例で与えられた部材の寸法、材料および特性は、前記関係するアプリケーションに従って変更されてもよい。主要因は、キャリヤー装置の特に水平方向の運動によって、特定の位置に正確に位置決めされ得る対応する吸引装置によって前記分離されたサンプルが輸送されることのみである。
【0049】
このように、本発明は、サンプルを視覚手段によってモニターされ得る慎重かつ正確で再現可能な方法で輸送可能で、対応するシステムが自律的で既存システムに組み込み可能に設計されるという利点を有する。
【符号の説明】
【0050】
1 吸引装置
2 ナノ吸引手段
3 吸引チューブ
4 末端膜
5 支持板
6 末端網
7 接続ガイド
8 穴
9 初め
10 カップリングチューブ
11 真空/加圧ユニット用接続
12 キャリヤー装置
13 オブジェクトテーブル
14 顕微鏡ユニット
15 サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オブジェクトテーブル13から分析配列への微視的な、分離されたサンプル15、特に膜で支持された微細解剖標本への輸送のための装置であって、
吸引チューブ3および末端膜4を持つナノ吸引手段2と、前記末端膜4上へまたは前記末端膜4からそれぞれ前記サンプル15を吸引するまたは吹き動かすための前記吸引手段2に連結可能な真空/加圧ユニットとを有する吸引装置1;ならびに、
前記末端膜4上へ前記サンプル15を吸引するためのサンプル除去位置および前記末端膜4から前記サンプル15を吹き動かすためのサンプル解放位置に正確に前記ナノ吸引手段2を置くための関連位置決めユニットによって動かされ得る前記ナノ吸引手段2を運ぶためのキャリヤー装置12を有する装置。
【請求項2】
前記ナノ吸引手段2が、カップリングチューブ10により気密の方法で前記真空/加圧ユニットに連結可能であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記カップリングチューブ10が、前記真空/加圧ユニットおよび/または前記カップリングチューブ10を介して、気密の方法で、異なるナノ吸引手段2を少なくとも容易に手動で連結されるようにモジュラー方式で気密の方法で選択されたナノ吸引手段2の手動接続用の接続装置、例えば、プラグを差し込む(plug−in)またはクリップ接続を有することを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記ナノ吸引手段2の前記吸引チューブ3が、例えば、ホウケイ酸ガラスチューブ等のガラスチューブとして設計されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記吸引チューブ3が、ほぼL字形状であり、前記カップリングチューブに接続する端部および前記末端膜に結合する端部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記吸引チューブ3が、約1.7mm〜2.0mmの範囲の外径、約0.5mm〜1.5mmの範囲の内径および約50mm〜70mmの全長を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記吸引チューブ3が、少なくともいくつかの部分、特に前記末端膜に接続される先端領域が、電導性被膜、例えば、厚みが約60nmの金被膜で被覆されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記末端膜4が、好ましくは、中心に穴8および末端網6を持つ、ディスク形状の支持板5を有し、前記支持板5の一方の側が、前記支持板5中の前記穴8が前記吸引チューブ3中の初め9とほぼ同じ高さであるように前記末端膜に接続された前記吸引チューブ3側に確保され、前記末端網6が、前記吸引チューブ3中の初め9および前記支持板5中の前記穴8を覆うように前記支持板5の他の自由な側に確保されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記支持板5が、銅または類似の何かのような電導性材料から作られていることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
例えば、伝導性銀ペイントまたは類似の何かを用いることによって、接地目的のために前記支持板5および前記吸引チューブ3の電導性被覆との間に電導性接続があることを特徴とする請求項8または9記載の装置。
【請求項11】
前記末端網6が、電導性表面を持つ材料から作られていることを特徴とする請求項8から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記末端網6が、輸送されるための前記サンプル15の寸法および本質に適合される網の厚みおよび孔径、例えば、約20μmの網の厚みおよび約600nm〜5μmの範囲の直径を持つ孔を有することを特徴とする請求項8から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記末端網6が、生物学的不活性、帯電防止および/またはUVC耐性に設計されることを特徴とする請求項8から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記位置決めユニットが、例えば、マイクロメーターステッパモーターを用いることによって、前記キャリヤー装置12の回転運動および/または並進運動用に設計されることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記装置が、前記末端膜4と輸送されるための前記サンプル15との間または関連表面間の距離測定用の距離計、例えば、レーザセンサまたは類似物も有することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記装置が、視覚表示および前記輸送過程のモニタリング用の表示ユニットを有することを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記装置が、データ交換、制御および調整目的等用の前記キャリヤー装置12、前記位置決めユニット、前記真空/加圧ユニット、前記距離計および/または前記表示ユニットに接続されたソフトウェアと合わせて制御手段を有することを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記装置が、自律的で既存のシステム、例えば、微細解剖システムにモジュール方式で統合され得るように設計されることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の装置を含む微細解剖システム。
【請求項20】
前記微細解剖システムは、前記装置が確保され得る顕微鏡ユニットを有することを特徴とする請求項19記載の微細解剖システム。
【請求項21】
前記装置が、前記キャリヤー装置12が顕微鏡ユニット照合システムに関して定義された方式で動かされ得るように前記顕微鏡ユニットに確保され得ることを特徴とする請求項20記載の微細解剖システム。
【請求項22】
オブジェクトテーブル13から分析配列への微視的な、分離されたサンプル15、特に膜で支持された微細解剖標本への輸送方法であって、
吸引チューブ3および末端膜3を持つように設計され、関連位置決めユニットによるキャリヤー装置12の移動によりサンプル除去位置で前記キャリヤー装置12に確保されるナノ吸引手段2の正確な位置決め工程;
前記ナノ吸引装置2に連結された真空/加圧ユニットによる前記末端膜4上への前記サンプル15の吸引工程;
前記関連位置決めユニットによってサンプル除去位置に前記ナノ吸引手段2を正確に位置決めするための前記キャリヤー装置12の運動工程;および
前記真空/加圧ユニットによって前記末端膜4から前記サンプルを吹き動かす工程を持つ方法。
【請求項23】
距離計、例えば、レーザセンサによって、前記末端膜4と輸送されるための前記サンプル15との間の距離または関連表面間の距離が絶え間なく測定され、実際の距離値がセット距離値と一致するまで制御ユニットによって調整される前記キャリヤー装置12の高さ位置が、セット値と比較されることを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
適当な真空が、前記真空/加圧ユニットによって全輸送過程の間中維持されることを特徴とする請求項22または23記載の方法。
【請求項25】
短い圧力パルスが、前記サンプル15が吹き動かされるまで前記真空/加圧ユニットによって発生させられることを特徴とする請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
オブジェクトテーブル13から分析配列への微視的な、分離されたサンプル15、特に膜で支持された微細解剖標本の輸送装置に用いられるナノ吸引手段2の製造方法であって、
ガラスチューブ3を準備する工程;
ほぼL字形状に前記ガラスチューブ3を再形成する工程;
前記ガラスチューブ3の少なくともいくつかの部分を電導性被膜で気相めっきする工程;
ディスク形状の、穴8を有する支持板5の一端を、前記支持板5中の前記穴8が前記ガラスチューブ3中の初め9とほぼ同じ高さになるように前記ガラスチューブ3の自由端に取り付ける工程;および
前記支持板5の反対側に末端網6を、前記末端網6が前記ガラスチューブ3中の初め9および前記支持板5中の前記穴8を覆うように取り付ける工程を持つ方法。
【請求項27】
前記ガラスチューブ3が、ホウケイ酸ガラスから作られることを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記ガラスチューブ3が、約1.7mm〜2.0mmの範囲の外径、約0.5mm〜1.5mmの範囲の内径および約50mm〜70mmの全長を持つように設計されることを特徴とする請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
前記ガラスチューブ3が、少なくともいくつかの部分が、電導性被膜、例えば、約60nmの厚みの金被膜を持つ気相めっきで被覆されていることを特徴とする請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記支持板5が、電導性材料、例えば、銅から作られることを特徴とする請求項26から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記支持板5が、UV硬化型接着剤で前記ガラスチューブ3に取り付けられることを特徴とする請求項26から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記L字形状のガラスチューブ3が、長手部分および短手部分を有し、前記支持板5が、前記短手部分の端に取り付けられることを特徴とする請求項26から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記ガラスチューブ3の自由端に前記支持板5を取り付ける工程が、前記支持板5上に正確に前記ガラスチューブ3の中心を置き、それを前記ガラスチューブ3の前記接着剤で被覆された端が前記支持板5と接触するまでマイクロメカニカルに下げることを含むことを特徴とする請求項26から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記UV硬化型接着剤が、前記ガラスチューブ3が前記支持板5に接合した後、UVランプによって硬化されることを特徴とする請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記支持板5の反対側に前記末端網6を取り付ける段階が、前記支持板5中の前記穴8の周りの前記支持板5の反対側に、UV硬化型接着剤、例えば、接着剤の0.5mm幅の帯が適用されることを含むことを特徴とする請求項26から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記支持板5の反対側に前記末端網6を取り付ける段階が、前記末端網6上に前記取り付けられた支持板5とともにマイクロメカニカルに前記ガラスチューブを下げ、前記適用された接着剤が、前記支持板5および前記末端網6が接合した後、UVランプの助けで硬化されることを含むことを特徴とする請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記末端網6が、電導性材料、特に電導性表面を持つ材料から作られることを特徴とする請求項26から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
電導性接続が、適当な伝導性銀ペイントまたは類似の何かを用いることによって、接地目的のために前記支持板5および前記ガラスチューブ3上の前記電導性被覆との間に提供されることを特徴とする請求項26から37のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2011−510311(P2011−510311A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543404(P2010−543404)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067208
【国際公開番号】WO2009/092495
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(509160867)ヘルムホルツ・ツェントルム・ミュンヘン・ドイチェス・フォーシュンクスツェントルム・フュア・ゲズントハイト・ウント・ウンベルト・ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】