説明

心拍数及び呼吸をモニタリングするための装置及び方法

呼吸モニタリングデバイスは、信号入力と共に用いるためのものであり、信号入力を受信し、更なる処理のため電子的形式に変換するための信号インターフェース(624)と、信号インターフェース(624)により供給され、加速度信号から心臓信号を分離するような方式でフィルタリングして、心臓信号から呼吸信号を導出し、かつ、遅いふらつき信号から呼吸信号を減算して実質的に呼吸以外の身体動き信号を生成するように動作し得る、電子回路(620)とを含む。他のデバイス、センサ類、電子回路ユニット、及びプロセスも開示される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人体の生物学的及び生理学的機能を測定し、モニタリングし、解析するための装置及び方法に関し、かつ、これらの装置及び方法に関連する生物医学用装置構成及び信号処理に関する。
【背景技術】
【0002】
心拍数及び呼吸など人体機能をモニタリングするための現行の装置及び方法(例えば、胸部周りに装着するモニタリングベルト、口や鼻に装着する肺活量計及びカニューレ、身体に貼り付ける心電図(ECG又はEKGと呼ぶこともある)電極及びリード)は、高価であるか侵襲性であるか大掛かりであり、携帯式で継続的にモニタリングする応用例にはあまりにも扱いにくい可能性がある。
【0003】
心臓モニタリング、呼吸モニタリング、身体動き、及び他のモニタリング応用例において用いられるセンサで受信したノイズが混ざった信号は、各種信号の精度に悪影響を与える恐れがある。従って、ノイズのある状況でこのような信号をロバストに検出及び分離するための方法が望ましい。
【0004】
身体動き信号分離及び/又は除去の問題を解決するための従来のアプローチは、典型的には二次的センサからの付加的な動き信号リファレンスの記録を必要とする、マルチ信号適応アルゴリズムを含むことだと考えられている。足からの物理的動きインパルスは、身体の異なる部分に置かれたセンサに及び同じセンサの直交する軸にも、非常に異なる様にかつ非静止的にかつ非相関的に、結合する。従って、多数のセンサを用いてアーティファクトを相殺する場合でも、複雑であったり又は信頼性に欠けたりする可能性がある。
【0005】
医療関連の応用例のほかに、上述の問題を解決することは、予期しない足取り変化、転倒、失神(気絶)、事故、及び怪我がないか高齢者をモニタリングすることにも役立ち得る。家庭、運動施設、及びケア施設での健康状態モニタリングにも利点となり得る。
【発明の概要】
【0006】
概して、及び本発明の一形態では、呼吸モニタリングデバイスが、信号入力を受信し、更なる処理のため電子的形式に変換するための信号インターフェースを含む。この信号インターフェースにより供給される電子回路が、フィルタリングにより加速度信号から心臓信号を分離し、この心臓信号から呼吸信号を導出し、さらに、遅いふらつき信号からこの呼吸信号を減算して実質的に呼吸以外の身体動き信号を生成するように動作し得る。
【0007】
他のデバイス、センサ類、電子回路ユニット、及びプロセスも開示される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、単一の胸部センサを用いて、心臓、身体動き、及び他の信号から呼吸信号を分離するための発明的な構造及びプロセスの部分ブロック図、部分絵図、部分グラフ表示である。
【0009】
【図2】図2は、単一の加速度計胸部センサ及び顕著な(remarkable)平滑フィルタ及び残部生成、エンベロープに基づくノイズ除去、及び折り返し相関(folded correlation)を用いて、身体動き及びノイズから心臓信号を分離するための発明的な構造及びプロセスのフローチャートである。
【0010】
【図3】図3は、単一胸部センサを用いて、呼吸信号、心臓信号、及び身体動き信号を互いから分離する、発明的なシステム及びプロセスの部分フローチャート及び部分グラフ表示である。
【0011】
【図4】図4は、心臓信号の拍動間間隔を、身体動き及びノイズ信号から実質的に分離された呼吸信号及び心臓信号の両方と共に用いて、心臓信号から呼吸信号を発明的に分離するための、発明的なシステムストレージ又はプロセスのフローチャートである。
【0012】
【図5】図5は、単一の発明的にフィルタリングされた加速度計センサによる呼吸モニタリングのための本明細書における基線ふらつき方法に従って、心臓信号から呼吸信号を発明的に分離するための、別の発明的システムストレージ又はプロセスのフローチャートである。
【0013】
【図6】図6は、心臓信号のピーク高さの振幅変調検出により心臓信号から呼吸信号を発明的に分離するための、別の発明的システムストレージ又はプロセスのフローチャートである。
【0014】
【図7】図7は、発明的な無線システム構造及びプロセスのブロック図であり、他の図面からの発明的な構造及びプロセスを含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書における単一の胸部装着型センサ10内の小型の高感度マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)は、心音に関連する幾つかを含む信号を記録する。(「心音」という用語は、包括的には、加速度計データ又は他のセンサデータを処理することによって得られる、心臓のS1、S2に相似する信号及び/又は心雑音あるいは他の心臓波形特性を指し、可聴音を指すとは限らない。)携帯型モニタリングの主な課題は、身体動きアーティファクト信号及びこういった信号の混同による心臓信号の破損である。幾つかの測定において、図1の加速度計10で受信したような胸部加速度信号は、幾分ゆっくりとした変化であるが、非常に強い(20〜50mvピークトゥピーク)動き構成要素を有する。この動き信号の上にあるのは、一層高い周波数であるが、一層弱い(5〜10mvピークトゥピーク)心音信号である。対象間の著しい変動性が、動きと心音の両方の周波数成分にみられた。また、呼吸、動き、及び心音の信号は、完全には周波数分離可能ではない。そのため、本明細書では非常にシンプルなデジタル帯域フィルタリングが提供される。
【0016】
小型のZ軸加速度計センサなどの単一の胸部装着型センサから導出される単一信号から、動き/活動、心拍数、及び呼吸を分離及び導出する例示の実施例について説明する。呼吸及び心臓活動の携帯式測定は、高齢者の、及び心臓血管、呼吸器病歴をもつ患者の、及び呼吸及び/又は心臓をモニタリングすることが望ましい他の状態の患者の、家庭での健康状態モニタリングに広く応用することができる。集中治療室(ICU)や病院、救急車、事故や障害現場での患者の心臓血管能力の評価では、携帯式での心臓及び呼吸の測定及びモニタリングも必要としている。
【0017】
種々の例示の実施例は、単一の小型の胸部装着型MEMS加速度計及び関連するモニタリング回路を用いて、図1に示すような、心音で反映される、呼吸、動き、及び心臓活動を測定及びモニタリングする。
【0018】
図1は、非侵襲的でかつ可能な限り大がかりにならずに、心拍数及び心音、活動、身体動き、及び呼吸を携帯式でモニタリングするために提供される例示の実施例を図示する。ここで、MEMS加速度計を備えたものなどの単一のセンサが、携帯式設定で心拍数/心音だけでなく呼吸も抽出する。加速度計センサの少なくとも1つのセンサ軸から又は2つ又はそれ以上のセンサ軸から、検出可能な心音信号を含む任意の信号が用いられる。センサ信号に身体動き信号成分が含まれるとき、その身体動き信号成分は、幾つかの実施例において、分離され又は隔離され、活動又は動きも表す有効な出力として搬送される。
【0019】
種々の実施例の幾つかの利点は、単一のセンサ又は信号捕捉成分及び単一信号程度に少ないものから、3つの重要因子(呼吸、活動からの非静止身体動きふらつき、心音/心拍数)を抽出することである。胸部に貼り付ける小型センサの実施例は、動きのある生体の生物医学的信号及び生理学的パラメータを感知しモニタリングするための非侵襲的でかつ可能な限り大がかりにならない方式を提供する。実施例は、携帯式で継続的なモニタリングする応用例において不都合さを最小限に抑えて用いることができ、非常に廉価であり、例えば、使い捨てのパッチやテープ内につくることができる。
【0020】
これらの実施例の幾つかは、特殊な平滑フィルタ130(図2)を有するデータ取得/信号処理回路を含み、平滑フィルタ130は、ゆっくり変化する身体動き信号のふらつき又は変動を追跡し、センサに基づく信号からこのふらつきを取り除いて、対象の、クリーンな(動きが取り除かれた)生物医学的信号を表示ユニットに提供する。平滑フィルタ130は、直接用いられる又はコンポジット信号処理経路において用いられる多項式フィルタ又は同程度に有効な平滑フィルタを含む。幾つかの実施例は、図2にあるような減算ステップ140を用いて、非静止動きアーティファクトを確実にかつロバストに取り除く。このようなアーティファクトを取り除くことにより、センサ10を用いる場合に生じ得る胸部のセンサ配置及びコンタクト変動にこのシステムがより一層影響を受けなくなる。このことにより、シンプルであるが動きアーティファクトの影響を低減するために効果的な方式が提供され、モニタリングされている間に歩いている場合でも、主要心音の信頼性の高い検出、そして、その後続く心拍数の導出が可能となる。このようにして、動き信号除去又は分離、及び心音信号検出、及び心拍数検出が促進される。二次的なリファレンス又はノイズ源は必要とされず、そのため、システム設計の複雑さが低減される。このように、構造及び方法の実施例は、動きアーティファクトがある胸部装着型センサ(例えば、加速度計)データから主要心音信号を抽出する。
【0021】
生物医学的信号から動きに関連するアーティファクトを取り除くための幾つかの構造及びプロセスの実施例において、例えば、2つの独立した信号源、加速度計10及び用いられる場合はECG、のいずれか又は両方に対して有利なモニタリングが提供される。胸部装着型加速度計10を用いて実際の人間対象から胸部加速度信号が携帯式(ウォーキング)設定で収集されて、S1及びS2として表される主要心音を提供する。心音S1は、三尖弁及び僧帽弁の活動と同時に生じる可聴音を含み、パルス群として振動性心電図に現れる。心音S2は、主に肺動脈弁及び大動脈弁の活動に関連する。これらの実施例の構造及びプロセスは、このようして動きアーティファクトを取り除き、図1に示すような携帯式対象から、心音から得られる、心臓活動及び心拍数を抽出するための単一の小型の胸部装着型MEMS加速度計の利用を促進する。テストの目的では、ランニングマシン上で元気よく歩いている又は走っている人間対象から心電図信号が独立して収集されて、そのECGからQRSなどの信号成分が提供される。
【0022】
プロセス及び構造の実施例は、例えば、心電図(ECG)、光電容積脈波(PPG、パルス酸素濃度計からの信号)、脳波図(EEG)、筋電図(EMG)、インピーダンスカーディオグラム(ICG)信号、又は分離可能なふらつきによる影響を受ける可能性のある、殆どの任意の他の信号など、動きふらつきにより破損された他の生物医学的信号にも拡張することができる。そのため、製造業者が大量生産し得る製品において、このような他の生物医学的信号から動きに関連するアーティファクトが取り除かれる。
【0023】
多項式平滑フィルタ130(例えば、電子的に実装される、Savitzky−Golayフィルタ)は、最小二乗の点でそのウィンドウ内のデータに最もあう特定次数の多項式により特定のデータウィンドウ内で近似することによって所与の加速度計に基づくデータ信号ストリームをデジタル的に平滑化する。ここで、多項式平滑フィルタ130は、生物医学的なセンサに基づく信号のうち身体動きによって引き起こされる成分のゆっくりとした変化をフィッティングし、それらを生物医学的なセンサに基づく信号から平滑化された成分として減算して、残留信号と呼ばれるものを残す。残留信号は、このように抽出されて、早く変化する信号(主に、心音とその他の心臓活動)と幾らかの残留又は残ったノイズとを提供する。このような多項式フィルタリング130は、変曲点のまわりの、又はピークや谷などの極値における一層高次のモーメントを保持する。これは、デジタル的な移動平均や低域フィルタでは行えない。つまり、この平滑フィルタリングは、各点のまわりの最小二乗多項式フィッティングを介して、局地的最大及び最小のような特徴を一層良好に保持する。
【0024】
図1において、システムの実施例が、測定設定及びモニタリングの実施例を提供するハードウェアを有する。小型(重量が0.08グラムで、サイズが5×5×1.6mm)で低電力のアナログ出力3軸MEMS加速度計(例えば、STマイクロエレクトロニクス社の品番LIS3L02AL)を胸部(例えば、第3又は第4肋骨に沿う胸骨の左に数インチのところ)に貼り付ける。(加速度計センサを貼り付けるか、又は胸部バンドを用いれば、加速度計センサが胸部のむき出しの部分又は毛が剃られた部分に押しつけられ、胸部の加速度がセンサに効率よく結合する。)胸部面に直交する背腹方向であるZ軸に沿う、心臓活動に対応する加速度信号が取得される。この胸部加速度信号は、3HzカットオフでAC結合され、利得100で増幅され、(アンチエイリアスのため)コーナー周波数が1kHzの3段5極サレンキーバターワース(Sallen-and-Key Butterworth)フィルタにより低域フィルタリングされる。市販のクワッドオペアンプパッケージ(例えば、リニアテクノロジー社の品番LT1014CN)をアナログフロントエンドとして用いる。次いで、この加速度信号をデータ取得カード(例えば、米国テキサス州オースチンのナショナルインスツルメンツ社から入手可能なものなど)を用いて10,000サンプル/秒でサンプリングし、取得し、MATLABソフトウェア(米国マサチューセッツ州ナティックのマスワークス社のバージョン2007b)を用いてコンピュータに記憶する。ノンクリティカルなロールオフ周波数である約3kHzをカットオフに用いるAC結合は、例えば、増幅器用に設けられる入力抵抗に結合される直列結合コンデンサCによって実現される。試験用では、加速度計信号からの心拍数抽出の能力評価のため、加速度計により導出された心臓信号と比較するためのリファレンス基準として、3電極(単線)心電図ECG増幅器構成で、リファレンスECG(線II)が同時に供給及び取得され得る。
【0025】
図2において、主要心音及び心臓活動を検出するため、ステップ110で、加速度信号がデジタル的に(例えば、3326個のタップを有し、20Hzにわたって急峻な80dBロールオフを有するデジタルFIRフィルタを用いて)50Hzのところで低域フィルタリングされ、ステップ120で、係数10でデシメーションする。(60Hz未満のロールオフ周波数では、60サイクルの米国電力線と対象の生物医学信号との干渉が弱められるが、50Hzを用いる適用可能な国についてはロールオフを50Hz未満とし得る。ロールオフ周波数はより高くし得るが、このFIRフィルタは更に、モニタリング対象信号の周波数範囲よりも高い周波数の白色雑音を減衰させるのが望ましい。)また、フェーズ1では、28次の401ポイントフレームを用いる高次Savitzky−Golay(S−G)多項式平滑フィルタ130を用いて、比較的ゆっくり変化する動きふらつきを取得し、より速く変化する心音信号成分を除外する。(このようなフィルタリングのためのMATLABシンタックスは、g=sgolayfilt(X,28,401)であり、ここで、gはフィルタ出力であり、Xはウィンドウ化されるデータの401個のサンプル値の最新入力列ベクトルである。)フェーズ2では、ステップ140で、デシメーションされたLPF出力から平滑フィルタ130の出力を減算して心音S1及びS2を得る。次いで、ステップ160での折り返し相関プロセスにより、動きが取り除かれた加速度信号中の多項式フィルタリングされたS1/S2ピークが強調され強められる。次いで、電子増幅に基づくピーク取出しプロセスを用いるステップ170で、これらのピークの位置を閾値検出し、ステップ180で、選択されたピークを計数して心拍数HRを計算する。
【0026】
これらの例の幾つかにおいて50Hzより低い低域フィルタリング(LPF)が用いられる。というのは、所望の信号電力の殆どがこの範囲にあり、一般に多くの実施例において約100Hzより低いロールオフ周波数のLPFではたいてい帯域幅が実質的な又は過度な量のセンサノイズ(サーマル、ホワイトスペクトル)を包含して一緒にするほど広くならないようにするためである。電力線周波数より高いロールオフ周波数のLPFが用いられる場合、幾つかの実施例は更に、電力線周波数阻止のためのノッチフィルタリングを含む。別の実施例では、100Hzのコーナー周波数で低域フィルタリングし、次いで、20次でSavitzky−Golayフィルタリングし、その後、このLPF信号からS−G信号を減算し、更なる信号エンハンスメントにより、未処理の動きの影響を受けた加速度計Z軸データからS1−S2心臓信号をうまく抽出する。だいたい20次又はそれより高次から少なくとも30次を超える範囲の多項式フィルタリングを用いた、動きの影響を受けたLPF加速度計信号の多項式フィルタリングが、LPF信号からの多項式フィルタリング出力の減算による残りとして心臓信号を得るために適当であることが分かっている。このような次数の多項式フィッティングを用いることで、粗い及び細かい動きの両方の影響をうまく捕捉する。幾つかの実施例の平滑フィルタは、より低次でもうまく機能し得、或る種のウィンドウサイズや応用例によっては1次多項式を用いる場合でさえ良好な結果が得られ得る。また、本明細書においてこれ以降に記載するように、低次多項式フィルタリングが企図されており有用であることが分かっている。幾つかの実施例において、ポイントの数を多項式の次数の少なくとも約1倍半(1.5倍以上)やそれよりも実質的に高くすると、ノイズを減らす助けとなり得る。
【0027】
図2の平滑フィルタ130は、特定の次数M及びフレームサイズ(サンプル点数N)に基づいて構成される。例えば、幾つかの実施例においてSavitzky−Golay多項式平滑フィルタが用いられて、動き依存基線ふらつきを捕捉するように最小二乗的に加速度信号を最良に近似させる。幾つかの実施例において、平滑フィルタは、ベルト装着型ユニットなどのローカルプロセッサのフラッシュメモリに実装されるか、又は家庭のネットワークゲートウェイ又は診療所ネットワークゲートウェイ、又は携帯電話又は他の方式で提供される。
【0028】
多項式平滑フィルタリングの実現可能なかつ最適な次数Mの値及びウィンドウ長さ(ポイントのN、時間のt)の選択の及び又は決定の問題については次に述べる。一般に、固定ウィンドウ長Nの場合、より高次の多項式がストリーミングデータの高周波数成分をよりよくフィッティングする。所与の次数Mでは、時間ウィンドウを短くすると、高周波数成分がよりよくフィッティングされる。
【0029】
最適化の問題に対する一つのアプローチでは、低周波数成分の固有次数を推定し、N>M+1及びNが奇数である(すなわち、N=2N+1)ことを満足する最小ウィンドウを選択する。ウィンドウサイズNを小さくするほど、平滑フィルタリングを行う乗算累算フィルタプロセスのタップ数が小さくなる。幾つかの応用例における加速度計信号では、次数M=1で、ウィンドウサイズN=3(サンプリング周波数が1000Hz)である。本明細書のいくつかの例では、より高次の次数M及びウィンドウ幅Nを示している。
【0030】
図2において、動き、心音、及び心拍数は、電子的に分離され、下記のステップを用いて加速度計データ10から把握される。a)加速度計データを低域フィルタリングし(110)、デシメーションし(120)、b)Savitzky−Golayフィルタリングを行って(130)、比較的低い周波数の動きのデータをフィッティングし、c)(ステップaからの)低域フィルタリングされた加速度計データからSavitzky−Golayフィルタの出力を減算して(140)心音を得、d)折り返し相関を行って(160)、主要な心音(S1及びS2)のピーク位置を強調し、e)ピークを取り出し(170)、あらかじめ決められるか構成されるセグメント(時間間隔)におけるS1ピークを計数し、1分間当たりの鼓動(BPM)における心拍数(HR)を計数する(180)。
【0031】
「デシメーション」という用語は、サンプルストリームからサンプルを定期的に取り除く、又はn個のサンプル毎に1個のサンプルをパスする任意のプロセスを指し、すべてではなく10個から1個のサンプルを取り除くことができる(が、必ずしもそうである必要はない)。そのため、サンプリング/ADCが1秒当たりf個のサンプルを供給する場合、デシメーションプロセスは、実質的にf/nサンプル/秒のデシメーション周波数を供給することになる。ウィンドウ期間がt秒の場合、ウィンドウ内の点数N=2N+1はN=1+f/nになる。信号からフィルタリングすることにより対象とする特定の特性及び挙動が得られる時間期間を考慮することにより、ウィンドウ期間tWが選択され得る。アンチエイリアス(サンプリングfの前の0.5fs以下の低域フィルタAAF)のコスト、物理的サイズ、及び複雑さに鑑みて、サンプリング周波数fを選択し得る。AAF(アンチエイリアスフィルタ)出力をサンプリングするには、サンプリング周波数fをナイキスト周波数よりも実質的に大きな値に設定する。まず、サンプリング/ADC回路後に、例えば、50Hz低域フィルタLPFより実質的に高いf/nが得られるようにデシメーションパラメータnを選択してLPFの効果的なオペレーションが得られるようにする。次に、ウィンドウ点数Nをフィルタの次数Mよりも相対的に充分高くしてフィルタノイズを低く保つようにもデシメーションパラメータnを選択する一方で、ウィンドウ点数Nはやはり、フィルタ演算によりウィンドウ内で信号ストリームが満足にフィルタリングされる程度に充分に小さくする。フィルタ演算は、1つのウィンドウ当たりの点数Nと、1秒当たりに処理されるウィンドウのレート数rとの積に関連している。フィルタ演算は、r=N/tの場合、N/tに比例する。そのため、エネルギーを節約しかつ低コストなプロセッサ応用例では、ウィンドウ点数を少なくし、ウィンドウ期間を長くすることになる。
【0032】
ステップ130の動き抽出の様々な方式のため、及びそれがもたらす利点のため使用することが好まれる任意の他の目的のため、平滑フィルタを用いる種々の電子的実施例を用意するために、数学的に表現した電子的プロセスを以下にさらに詳細に説明する。これらは、そのような実施例において適切に分割して、幾つかのオフライン電子的処理及びリアルタイムオンライン電子的処理にすることができる。下記の数式(1)中の表現‖(x−Ab)‖は、[(2N+1)×M]変換行列Aに変換係数bの[M×1]ベクトルを乗算することにより得られる、[(2N+1)×1]個のそれぞれのデータストリームベクトルサンプル点又はストリーム成分と、これらのストリーム成分の(2N+1)個のそれぞれの推定値との差の二乗和を表す。変換係数bの数はMであり、M個の変換係数bが[M×1]ベクトルbを形成する。勾配∇は、変換係数bに関する[M×1]ベクトルの第1偏導関数である。係数bの数Mを次数と呼び、変換係数bの数がMの場合、このプロセスの次数はMになる。変換係数bに関する[M×M]行列の第2偏導関数を∇∇と表す。このフィルタリング手順は、初期変換係数推定値b=0を更新する(すなわち、係数をすべてゼロに初期化する)ための係数変更係数ベクトル?bを必要とし、このフィルタリング手順で実際に係数変更係数ベクトル?bが形成される。この手順では、この変換係数変更ベクトルを求めるために、第2偏導関数の行列に勾配を負にしたものをあらかじめ乗算する。
【数1】


数式(1)は2次表現を含み、b=0から始まるので、このプロセスにより、1つの経路で変換係数の値b=Δbが見つかり、さらに繰り返す必要はない。
【0033】
数式(2)は、数式(1)で表される微積分演算を実行した結果を表す。(幾つかの実施例では、数式(2)で得られる係数bを、記録保存し更なる解析を行うため遠隔地に送信する。というのは、データウィンドウ内の情報の殆どが効果的に圧縮されるからである。係数を送信する場合、[M×(2N+1)]行列の(AA)−1があらかじめ演算され、次いで、送信中に局所的に各データウィンドウが乗算される。他の実施例では、このような圧縮及び/又は送信が省略されるか、遠隔コマンドを受けた場合にのみ局所的に行われる。これにより、電力及び処理の複雑さが幾分緩和される。)
【数2】


数式(2)は反転行列(AA)−1が存在することが前提である。反転行列は、行列Aの行が線形独立(最大階数)であり、充分な数のデータ点N=(2N+1)により、この行列の充分な数の対応する列が反転行列を供給するのに充分に供給されるときに存在する。
【0034】
多項式変換プロセスの特殊なケースでは、指数行列がべき乗される。この場合、変換行列Aのn番目の行のj番目の列要素Anjがべき乗されてnになる。言い換えると、データストリームX(i+n)のウィンドウ内の−Nから+Nの(2N+1)個のnの異なる値について、この変換により、すべての値が近似されるようによくフィッティングする、べき級数についての1組の係数bが見つかる。このようなべき級数は一般に、数式(3)で表される。
【数3】

【0035】
Savitzky−Golayフィルタリングは、数式(2)により推定される値bを、指数iのウィンドウについてのフィルタ出力g(i)として出力する。これは、各データウィンドウについて、そして、後に続く指数g(i)についてウィンドウ毎に引き続き行われる。行列Aの行は、異なる行のどの対についても内積がゼロのときに直交する。下記の表1にこれらの行を示す。行列の行nにおける値がAnjの行は、多項式変換の例では非直交である(^はべき乗を表す)。
【表1】

【0036】
次いで、このプロセスにより、下記の推定データストリームが見つかる。
【数4】


電子的なプロセスが、数式(2)で表わすように処理回路内に設定され、この処理回路によって電子的に実行される。Savitzky−Golayフィルタリングの場合、このプロセスは、bの推定値としてg(i)のみが見つかるように、また、オフライン事前演算が可能な限り多く実行されるように最適化される。従って、数式(4)は、数式(4)中の行列A全体の代わりに、第1の事前乗算行列Aのn=0の行[1×M]のみが用いられるように、数式(5)のように書き換えられる。
【数5】

【0037】
Savitzky−Golayフィルタリングの数学的表現では、ウィンドウを1組の(2N+1)個のフィルタ係数c(n)が乗算加算されたものとみなすことがある。ここで、[1×(2N+1)]個のフィルタ係数ベクトルCを下記のように導入する。
【数6】


ここで、
【数7】


である。
【0038】
数式(8)で、数式(6)と等価な代替表記CIは、数式(7)に[(2N+1)×(2N+1)]恒等行列Iを後ろから乗算したものであり、この恒等行列Iの各列を[(2N+1)×1]単位ベクトルεと呼ぶ。εのための「単位ベクトル」という用語は、n番目の行位置における1を除いてすべてゼロからなる[(2N+1)×1]ベクトルを意味する。さらに、[1×M]の行n=0のベクトル[1 0 0 ... 0]を前から乗算していることを考慮すると、反転行列(AA)−1の第1行を形成する行列反転演算のみが関連しており、これが実施される。そのため、これらのフィルタ係数は、数式(7)と等価である数式(8)の表記においても等価に表現される。
【数8】

【0039】
Savitzky−Golayフィルタは、最小二乗的な局所多項式フィッティングを行う。所与の入力可変データウィンドウx(i+n)で、ウィンドウの長さが2N+1、かつ、選択された多項式の度合いがMの場合、フィルタ出力はg(i)で与えられる。フィルタ係数c(n)は、そのうちの2N+1個が、例えばオフラインで、数式(7)又は数式(8)で表される電子的な演算によって計算され、人に装着されるか又はその近くに置かれ加速度計センサ10に無線で結合する小型信号処理ユニットのフラッシュメモリにロードされる。この信号処理ユニットは、適切には、フィルタ係数c(n)にアクセスする格納されたプログラムに従って数式(6)によって表される乗算累算(MAC)を電子的に実施するプロセッサなどのデジタル信号プロセッサ回路を有する。
【0040】
幾つかの他の実施例では、出力として用いられる指数n(例えばn=0)での値を中心としないウィンドウが用いられる。表1に示す特定の多項式変換行列Aの代わりに種々の行列Aを用いることも可能である。当業者なら、所望の変換方式、ウィンドウ(フレーム)サイズ(例えば2N+1)、及び次数Mを選択し得る。また、最初のフィルタリング手順のg(i)出力からはデータストリームが生成されるが、それ自体が数式(9B)中の列ベクトルg(i)によって表されるようにウィンドウ化され得ることに留意されたい。従って、数式(9A)、(9B)で表す幾つかの実施例では、数式(4)の2つの低次フィルタがカスケード接続され、実施される演算の電子的な処理の複雑さを最小限とするため簡単明瞭な手法が用いられる。変換行列A1及びA2は同じものとすることもできるし、異なってもよく、ウィンドウサイズ(2N+1)及び(2N+1)も同じでも異なってもよく、次数M及びMも同じでも異なってもよい。これらはそれぞれ独立して選択され得る。
【数9】

【0041】
幾つかの実施例では、主対角線より下の重みを除き[(2N+1)×(2N+1)]行列のすべてゼロである対角重み行列WもSGプロセスに適用し得る。これらの重みは、例えば、対角線の中央で1とし、この対角線の中央から離れるに従って値が対称に減少するようにし得る。数式(1)は以下のように書き換えられる。
【数10】

【0042】
次いで、出力のための数式(5)で表される電子的なプロセスは、以下のように書き換えられる。
【数11】


幾つかの実施例では、変換のタイプ及び行列Aの選択は、構成によって固定/事前定義されるか、又は準静的に決定される。行列A又は変換のタイプ又は所与の変換のパラメータを動的に構成又は選択することも企図される。
【0043】
幾つかの他の実施例では、データストリームXの異なるウィンドウ化セグメントからの、数式(4)の変換出力から得られる1組の値を記憶し平均を取る。このアプローチは、大雑把に言えば、幾つかのフィルタリングを並列に行い、それらをオフセット平均する。すべての値は、同じ瞬間(i+n)=tに対応する再構築された値を表し、このアプローチでは、n=0の行を用いてbを近似するだけでなく、数式(3)から利用可能な他の係数についても変換近似値を用いることに留意されたい。電子プロセッサは、数式(12)に表すような電子的プロセスを実施する。数式(12)で、X’(i+n)は数式(4)で表したものである。
【数12】

【0044】
本明細書における分析に鑑み、他のタイプのプロセスも、Savitzky−Golayであるか否かにかかわらず、本明細書の教示に従って代替として選択し得ることを強調しておく。当業者なら、加速度計に基づくライブラリ波形を用いてテストベンチを設定し、次いで、手作業又は自動プロセスで変換行列の選択、点数(2N+1)の選択、及び次数Mの選択を行い得る。フィルタリングの選択は、図1のプロセスからの出力の表示を目視検査することにより、又は、本明細書に記載するような、見逃し、誤検出などの測定基準に従った自動処理により試験される。次いで、このような好適な測定基準を有する1つ又は複数のフィルタプロセスについて、変換行列Aの値及び(2N+1)、M、2N+1などの値が、モニタリングデバイスのフラッシュメモリ又はハードドライブにロードされ、プロセッサ上でリアルタイムで実行される。
【0045】
ある実施例での変換は、実際のデータストリームベクトルx(i+n)に近似し、身体に装着した加速度計から得られる本明細書のデータストリームXに応答する時間にわたって心音ピークを追跡する出力信号ストリームを生成する。幾つかの実施例では、充分に小さいフレームサイズ(2N+1)、次数Mを用い、かつ/又は、効率のよい変換行列Aを用いることによって処理の複雑さを軽減して、モニタリングの所期の目的の所望の性能が実現される。この同じ変換方式が、多数の患者、加速度計、及びその身体上の位置に対して、かつ、診療所、病院、家庭、運動施設などの様々な使用環境で、複雑さが抑えられかつ性能よく実施されることが望ましい。
【0046】
エンベロープに基づくノイズ除去150において、振幅エンベロープが生成される。図2の残留信号ストリームr(i)=x(i)−g(i)は、LPFから供給される入力x(i)から平滑フィルタ出力g(i)を減算する減算ステップ140からの幾らかの残りのノイズを有する。図1にあるようにエンベロープがこの残部にフィッティングする。振幅に基づいて処理される出力R(i)は、エンベロープによりフィッティングされた残部r(i)から導出される。水平軸近傍のノイズn(i)はかなり低減される。このプロセスの演算では、エンベロープに関連する可変利得関数を適切に用いることができる。代替として、この回路及び/又はプロセスは、エンベロープが依然としてピークを通る低閾値より低いときゼロ信号出力を生成するように配される。
【0047】
折り返し相関160では、残部の入力データストリームr(i)=x(i)−g(i)又はエンベロープ処理された残部R(i)が折り返し相関プロセスに入る。g(i)は、例えば数式(6)で表わすような、又はそれ用のバッファメモリからの、平滑フィルタの出力であることに留意されたい。処理されフィルタリングされたR(i)は、長さが2N+1の(指数n=0,1,2...Nによってアクセスされる点を有する)更なるデータウィンドウ(フレームと呼ぶこともある)によってウィンドウ化される。
【0048】
折り返し相関の出力f(i)は、数式(13)によって与えられる。
【数13】

【0049】
平滑フィルタ減算からの心臓モニタリング残留信号サンプルR(i)についてのデジタルデータストリームは、指数iの重なり合うフレーム内で連続して処理される。一般に、2N+1の値は、所望の信号イベント(例えば、S1、S2、又はR波)の幅tに近似して選択される。例えば、S1の長さは、典型的に、約100〜150ミリ秒である。デシメーションされたサンプリング周波数fが1000サンプル/秒である場合、2N+1の値は、例えば、101と151の間の奇数として設定され、Nは50以上75以下のいずれかの数である。そのため、
【数14】


となる。
【0050】
別の例における折り返し相関160は、デシメーションから得られた1000サンプル/秒でフレームサイズ7を有する。動きが取り除かれた加速度信号内のS1及びS2に対応するピークは、このように強化され、その後、計数180のためステップ170でピーク検出される。幾つかの実施例において、Nの値は、フラッシュメモリ内に構成され、現地又は遠隔地の操作者が選択又は変更し得る。数式(13)で表される電子的な折り返し相関プロセス160では、各フレームの後ろ半分からの心臓モニタリング残部サンプルR(i+N−n)は、そのフレーム内の心臓モニタリング中央サンプルR(i)のまわりに折り込まれ、各フレームの前半分における心臓モニタリング残部サンプルR(i−N+n)とのドット積(数式(13)の積和)で乗算される。ドット積の結果は、フレームの中心における入力残部信号ストリームR(i)の瞬間iに対応する折り返し相関出力信号ストリームf(i)である。後続の閾値処理によりS1ピークをパスし、それが計数される。このように、干渉する動きアーティファクトがある中で、胸部装着型加速度計からの主要心音及び心拍数のロバストな検出が達成される。
【0051】
図3において、例えば、図1のモニタリングデバイスの実施例及びそのプロセスの実施例により、呼吸波形が得られる。図3のプロセスは、図1のアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)からの未処理信号ストリームを受け取り、まず、Savitzky−Golay(S−G)多項式フィッティングを用いてセンサからのコンポジット信号から心音を分離し、その後、折り返し相関及びピーク検出が続いてS1心臓信号ピークを生成する。このピーク検出に応答して心拍数が計数されて心拍数信号出力を提供する。同時に、拍動毎の心臓拍動間の拍動間隔又はS1−S1間隔と呼ばれる、後続の時間を測定することによって呼吸がモニタリングされる。そのため、時間で変化する測定された拍動間間隔の変動が呼吸を表す。というのは、これは呼吸依存であり、実質的に呼吸以外の身体動き全体とは独立しているためである。このように、モニタリングデバイスは、時間で変化する拍動間間隔を実質的に表す呼吸波形として供給する。更に呼吸処理は、呼吸数(breathing rate)を計数し、その結果の呼吸数出力を提供し、任意の他の有用な情報を導出及び出力する。
【0052】
拍動間間隔からの呼吸の検出は、呼吸に関連する及び他の胸腔内圧又は胸郭内圧変化に応答し得る、呼吸性洞性不整脈RSAと呼ばれる事象を含み得る。さしあたり、動き信号は、図2にあるようなS−G多項式平滑フィルタ130から、又は、図3に示すような2Hzのコーナー周波数のデジタル有限インパルス応答(FIR)フィルタなどの低域フィルタLPFにより、取り出される。
【0053】
図3において、動き信号の後処理は、時間にわたる平均活動レベルを表す波形をモニタリング及び供給し、歩く足取り及び他の動きをモニタリングし、万一の場合、転倒を検出するために適用される。従って、本発明の実施例によるものなどの加速度計から動き又は活動の導出は重要である。例えば、平均活動レベルが、1時間にわたって測定される動き波形及び時間ごとの出力の二乗平均平方根(RMS)として生成され得る。歩く足取りは、Z軸のみから、又は呼吸が減算して除かれた他の加速度計軸からの信号ストリームとの組み合わせで、導出され得る。転倒センサの実施例は、例えば、+/−15秒の時間の所定のウィンドウの任意の最近の又は後続の近隣のピークから突出する異常に高い大きさの加速度ピークのピーク検出を含む。
【0054】
図1及び図3にあるようなプロセスの実施例は、動き信号成分を加速度計センサ信号から分離して、心音、及び動き及び活動がある呼吸(心音から導出される)をもクリーンにかつロバストに抽出し、また、動き/活動信号を供給する。幾つかの実施例において、動きに基づくゲーティングが実行されて、動き/活動レベルが異常に高く、所定の検出プロセス下で心拍数又は呼吸又は幾つかの他の導出される信号の信頼性の高い検出ができない場合には信号フレームを拒絶する。モニタリングデバイスは、例えば、活動を感知してモニタリングするために身体動き全体を測定し、或る人の或る時間期間にわたる活動レベルの有用な指標を提供することができ、ECG導出される心拍数と共に、その人のライフスタイル及び代謝指標に関する推定を助けることができる。加速度計に基づく動きモニタリングによる足取り認識は、生物測定学的判定の助けとなり、危険な転倒の兆候や前触れを把握することができる。また、加速度計に基づく動きモニタリングを、急激な高い大きさの加速度の指標として用いることにより、更に、危険な転倒の兆候や前触れだけでなく、転倒自体を把握することができる。
【0055】
図3において、胸部装着型加速度計から動きの間得られる信号は、2Hzで(デジタルFIRフィルタを用いて)デジタル的に低域フィルタリングされて、動きによるゆっくり変化する基線ふらつきを抽出する。身体動きだけでなく制止した身体の少なくとも幾つかの例の場合、呼吸信号は、周波数で低周波数身体動き信号からよく切り離され、そのため、デジタル的に低域フィルタリングされて、呼吸信号がうまく抽出される。
【0056】
図4、図5、及び図6はそれぞれ、センサ入力から呼吸信号出力を電子的に生成するための3つのプロセス又は方法を示す。種々の実施例において、これらのプロセスは、個別に、或いは、対で、又はすべてを組み合わせて用いられてもよい。図1、図3、及び図4に図示するような幾つかの実施例は、動きの間のS1−S1間隔における加速度計検知され残部検出された変動から呼吸を導出する。
【0057】
図4において、プロセスの実施例が、図2のフェーズ2の動き依存ふらつき除去によりステップ310で心音信号を得る。心音ピークは、折り返し相関320を介して強化され、ピーク検出330が実行されてS1−S1ピークを検出する。ステップ340において、S1−S1間隔(又はS2−S2間隔)が拍動毎に反復して計算されて、後続の拍動間間隔データ値を電子的に得る。ステップ350でこれらのデータ点が補間されて、図3の連続的な呼吸波形を生成する。
【0058】
図5において、単一の加速度計センサにより呼吸をモニタリングするための別のプロセスの実施例を本明細書では基線ふらつき方法と呼ぶ。このプロセスは、ステップ380において、休息している人からの未処理の加速度計ADC信号入力について、約2Hzのフィルタカットオフ周波数、又はその他の選択された、例えば、約1Hzから約3Hzの範囲のLPFカットオフで、低域フィルタリングすることにより動作する。このようにして、「基線ふらつき」と呼ばれる波形がステップ390で電子的呼吸信号として得られる。言い換えると、約2分の1秒又はそれ以上の呼吸期間がパスされて、2又は3秒毎の呼吸の静止している呼吸期間が検出されるだけでなく、約3分の1又は2分の1秒まで短くなったストレスを受けた状態の又は運動後の呼吸期間も検出されるようにする。加速度計内の一層短い期間信号変動は、S−Gフィルタ平滑から、又は呼吸以外の身体動きを表す他の種類のフィルタリングによって適切に得られる。
【0059】
図6において、単一の加速度計センサ10による呼吸モニタリングのための更なる実施例が、図1のフェーズ2の動き依存ふらつき除去により、ステップ410で心音信号を得る。折り返し相関420が心音ピークを強め、ピーク検出430が、振幅変調されたS1ピークを検出する。図4にあるような拍動間間隔測定の代わりに(又は幾つかの実施例において、これに加えて)、ステップ440の後続のS1ピーク振幅(又はS2ピーク振幅)が、図6において反復して拍動毎に電子的に測定されて、後続の心音ピーク振幅のデータ値を電子的に得る。これらのデータ値は、ステップ450で線型的又は二次又は他の補間などにより補間されて、連続的な呼吸波形を生成する。
【0060】
呼吸波形の種々の値、及びそれらの差や傾向を見つけることより種々の呼吸パラメータが得られる。呼吸数(respiration rate)は、所定の時間ウィンドウ(例えば、1分)での吸入及び吐出のサイクル数として測定される。平均化及び信号統合方法/アルゴリズムは、多数のパラメータから呼吸数をロバストに導出する。その人がどのくらい深く呼吸しているかは、所定の時間ウィンドウ(例えば、1分)内の吸入ピークと吐出谷の後続の値間の差の平均で表される。吸入ピーク及び/又は吐出谷の平均及び傾向は、それぞれ容易に計算され、表示される。
【0061】
図7は、種々の注目すべきデバイス又は構成要素の実施例を含む、呼吸及び心臓モニタリングシステム用の無線システムの実施例600を示す。幾つかの実施例は有線の実施例であり、図7は無線の実施例を示す。加速度計センサ610及びその電子回路は、Bluetooth又は他の短距離無線モデムも有し、これは別の短距離無線モデム622に無線で結合され、短距離無線モデム622は、ストリーミングデータ及び制御インターフェース624を介してデータ取得信号処理ユニット620に結合される。更に、遠隔地での無線伝送及び受信のため、2つの地点の各々にモデム640.2及び670が提供されて、データ取得信号処理ユニット620が、そのモデム640.2を介してこの遠隔地の無線送信器ユニット又はモデム670と通信するようにする。後者のモデム670は、一つ又は複数の表示ユニット650.1及びそれらのストレージユニット660.1に結合される。このようにして、遠隔医療応用例に対応する。取得信号処理ユニット620及びそのモデム640.2は、家庭又は救急車に、又は患者に、あるいは車椅子又は担架に適切に設けられる。無線送信器670及び表示ユニット650.1は、診療所、病院、医療モニタリング施設、又は他の場所に適切に設置される。緊急時に車両内の専門家が家庭から又は別の車両から来たデータを至急所見して指示を送らなければならない場合に備えて、この無線システムの一端又は両端を移動式の、例えば、モデム640.3及び警告/プロセッサ/ディスプレイ680とし得る。
【0062】
図7において、自動注意応答、警報、及び/又は自動監視治療応答のための更なるプロセス、回路、及びデバイスとの組み合わせが企図されている。信号処理ユニット620によって検出されるパラメータのうち、1つ又は複数の測定パラメータ又はそれらの間の関係が大きく逸脱した場合、遠隔プロセッサ670は、医療専門家、患者、治療奉仕者、及び/又は家族構成員のいずれか1人又は複数人に、モデム640.3及び警告/プロセッサ/表示ユニット680を介して携帯電話及び/又は他の音声通話又はメッセージ及び/又は自動電子メールなどの文書の警告を送ることによって警告する。この警告システムは、受信者のいずれかによる受信確認に対し適切に提供する。また、別のモデム640.1が適切に提供され、遠隔医療用の治療又は支援デバイス690に結合され、デバイス690は、薬を投与したり、その投与量を調整したり、又は他の方法によって何らかの薬学的、情報的、又は物理的な方法で患者を支援する。極めて緊急の医療を要する逸脱の場合、データ取得信号処理ユニット620は、遠隔コマンドが受信されるか、又は最初の応答者が到着できるまで、治療又は支援デバイス690を一時的にかつ最大限に安全な方式で局所的に制御することが許可され得る。胸部から加速度計610が単に取り外されたか又は不注意で外された場合、電子処理ユニット620は、それを測定信号やパラメータの真に検出された逸脱と区別する。遠隔通信ケア(テレケア)支援については、このような支援は、センサ620のリアルタイムのデータに応答して何らかの物理方式で行うことができる。これは、装置690として認識されている電動装置を作動させて、例えば、電動ベッドを調整したり、スクーターを患者が使えるように近くに移動したり、トイレユニットをサーボ機械的に動作させて流したり、水洗槽の栓を開いて水洗槽を空にしたり、又は何らかの他の支援を行うことによって成され得る。
【0063】
実施例のタイプはとりわけ、下記のような形態をとり得る。1)有線で接続されるか又は無線モデムを有する、患者が装着する医療センサ及び/又は治療デバイス、2)このようなセンサに接続されるか無線で結合して構内ゲートウェイに無線で結合するか遠隔地に直接送信を行うベルトチップに搭載される、患者が装着する信号処理及びモデムモジュール、3)胸部に貼り付けられてルータ又は遠隔通信を行うゲートウェイと局所的に通信する超小型デバイスに共に収納される、センサ、信号プロセッサ、メモリ、及びモデム、4)診療所又は病院と遠隔通信する患者宅のシステム内などの、センサと通信し、個々に遠隔的に通信するための信号プロセッサ、メモリ、及び複数種のモデムを含む、ローカルルータ又はゲートウェイ、又は5)医療診療所システム全体。
【0064】
周辺機器及びインターフェースは、無線回路用のオフチップIEEE802.15(Bluetoothならびに低速及び高速ピコネット、Zigbee、及びパーソナルネットワーク通信)のための、UART(汎用非同期受信機/送信機)データインターフェース及びMCSI(マルチチャネルシリアルインターフェース)音声及びデータ無線インターフェースを含み得る。Bluetooth又はZigbee無線インターフェースは、図1の加速度計センサ及びそれに関連するアナログ回路ならびにアナログ・デジタル変換器ADCから受信し、またそれらを制御するのに有用である。ECG電極及び/又は胸部マイクロフォンを含む構成では、貼り付けられるセンサユニットのアナログ回路は、このようなピックアップ要素から、胸部センサからのBluetooth又はZigbee近距離送受信機へのカップリングも含む。
【0065】
加速度計センサ10及び送信機、送受信機、又はトランスポンダチップが、薄く弾性があり軽量のプラスチック支持プレート上にしっかりと搭載される。この支持プレートは、丸い滑らかにされた又はフランジが付けられた周辺部を有し、胸部に接着性テープで具合よくしっかりと貼り付けられる。加速度計センサのZ軸は、このプラスチック支持体で画定される面に対し垂直である。このチップは、問い合わせ信号から電力を取り入れるようにすることもできるし、あるいは、このチップへ低電力を供給するよう電気的に接続されるプラスチック支持体上の小型電池を有していてもよい。これは、例えば、テキサス・インスツルメンツ社のMSP430(登録商標)低電力プロセッサ又は他のプロセッサ及び近距離無線送信機などである。また、小型の有線メスコネクタを備えた有線インターフェースが、USB(ユニバーサルシリアルバス)など、チップ内の有線インターフェースに電気的に接続されてもよい。
【0066】
幾つかの実施例において、3つすべての軸からの加速度計信号が適切に処理されて、加速度を電子的に二重積分(double-integrate)して、それを装着する人の位置を判定し、信号インターフェースの同じ信号入力からの変化する物理的位置を、視覚的に具合が悪くなっているその人、治療奉仕者、及び家族構成員への合図として引き続き推定する。その人は一晩中ベッドにいる可能性があるため、この処理は、日中にまずベッド位置での初期の位置状態から開始する加速度とゼロ初期ベクトル速度とを二重積分することにより、その人の位置を判定する。センサアッセンブリによる位置に基づくサービスをサポートするため、そのセンサアッセンブリ内に電子コンパスが物理的に含まれていてもよい。幾つかの実施例は、モデムに、及び用いられる場合ユーザー・インターフェースに、共に結合されるアプリケーションプロセッサのための印刷配線基板(PWB)を有する。システムに結合されるSDRAM及びフラッシュメモリストレージが、表、構成及びパラメータ、及びオペレーティング・システム(OS)、保護アプリケーション(PPA及びPA)、及び他の管理用ソフトウェアを提供することができる。調整されたパラメータがフラッシュメモリに又は他の方式でロードされ、構成要素がPWB上に組み立てられてその結果のシステムユニットを生成する。
【0067】
処理回路は、デジタル集積回路、アナログ集積回路、及びミックスドシグナル(デジタル/アナログ)集積回路、ASIC回路、PAL、PLA、復号器、メモリ、プログラマブルプロセッサ及びノンプログラマブルプロセッサ、マイクロコントローラ、ならびに他の回路を含む。結合及び接続は、オーミック、容量性、誘導性、フォトニック、直接的又は間接的ビア介在回路、又は他の望ましいものであってよい。フローチャート及びブロック図はそれぞれ構造及び/又はプロセスを表すと解釈することができる。
【0068】
当業者であれば、他の多くの実施例、及び変形も特許請求の範囲に包含されることが理解されるであろう。例示の実施例の文脈で説明したような特徴又はステップのすべて又はその幾つかを有する例示の実施例の文脈で説明した一つ又は複数の特徴又はステップの異なる組み合わせを有する実施例も、本明細書に包含されることを意図している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号入力と共に用いるための呼吸モニタリングデバイスであって、
前記信号入力を受信し、更なる処理のため電子的形式に変換するための信号インターフェース、及び、
前記信号インターフェースにより供給される電子回路であって、加速度信号から心臓信号を分離するような方式でフィルタリングし、前記心臓信号から呼吸信号を導出し、かつ、遅いふらつき信号から前記呼吸信号を減算して実質的に呼吸以外の身体動き信号を生成するように動作し得る、電子回路、
を含む、デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスであって、胸部に適用するための、前記信号入力を搬送するように結合される加速度計を更に含み、それにより、呼吸以外の身体動きと呼吸の両方に因る加速が可能である、デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載のデバイスであって、前記電子回路が、前記心臓信号を導出するように動作し得る平滑フィルタを更に含み、心臓パルスを前記平滑フィルタの残部として表す、デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載のデバイスであって、前記電子回路が、前記呼吸信号に基づいて呼吸数(respiration rate)を導出するように動作し得る、デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載のデバイスであって、前記電子回路が、前記電子回路のオペレーションを指示するための命令及びフィルタ係数を有する不揮発性メモリを更に含む、デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載のデバイスであって、前記電子回路が、加速度計に応答する呼吸を表すため前記呼吸信号を改良し、かつ前記呼吸信号に基づく、補間を実行するように動作し得る電子的プロセッサを更に含む、デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載のデバイスであって、前記電子回路に結合され、前記電子回路が生成する情報の少なくとも一部を表す信号を送信するように動作し得る出力モデム回路を更に含む、デバイス。
【請求項8】
請求項6に記載のデバイスであって、前記電子回路が更に、前記心臓信号とは独立して、約2Hzを超える加速度計に応答する身体動きに対する第1の信号成分を、約2Hzを下回る前記加速度計に応答する呼吸に対する第2の信号成分から分離するように動作可能である、デバイス。
【請求項9】
請求項8に記載のデバイスであって、前記電子回路に結合される呼吸表示回路を更に含む、デバイス。
【請求項10】
請求項8に記載のデバイスであって、前記電子回路が更に、前記呼吸以外の身体動き信号内の著しく高い振幅ピークに対しモニタリングするように動作し得、そのような場合、起こり得るユーザの転倒を表す信号を供給する、デバイス。
【請求項11】
請求項8に記載のデバイスであって、前記電子回路が更に、振幅変調を有する心臓パルスを表す第1の信号を導出し、更に、呼吸を表す振幅変調に応答して変化する第2の信号を生成するように動作し得る、デバイス。
【請求項12】
請求項11に記載のデバイスであって、前記電子回路が更に、咳を検出するため、前記呼吸信号、呼吸以外の身体動き信号、及び心臓信号のうち一つ又はそれ以上を処理するように動作し得る、デバイス。
【請求項13】
請求項11に記載のデバイスであって、前記電子回路が更に、前記呼吸以外の身体動き信号から歩く足取りを導出するように動作し得る、デバイス。
【請求項14】
請求項11に記載のデバイスであって、前記電子回路が更に、前記信号インターフェースの同じ信号入力から変化する物理的位置を引き続き推定するように動作し得る、デバイス。
【請求項15】
請求項1に記載のデバイスであって、前記電子回路が、加速度計に応答する呼吸を表すため前記呼吸信号を改良し、かつ前記呼吸信号に基づく、補間を実行するように動作し得る電子的プロセッサを更に含む、デバイス。
【請求項16】
請求項1に記載のデバイスであって、前記電子回路が更に、前記心臓信号とは独立して、約2Hzを超える加速度計に応答する身体動きに対する第1の信号成分を、約2Hzを下回る前記加速度計に応答する呼吸に対する第2の信号成分から分離するように動作可能である、デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−511349(P2013−511349A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540046(P2012−540046)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/057180
【国際公開番号】WO2011/063092
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.ZIGBEE
【出願人】(390020248)日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 (219)
【出願人】(507107291)テキサス インスツルメンツ インコーポレイテッド (50)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
【Fターム(参考)】