説明

心肺蘇生練習器具

【課題】安価で、小形かつ軽量な心肺蘇生練習器具を提供する。
【解決手段】心肺蘇生練習器具1は、疑似心臓部2と、押圧報知部3と、を備えている。疑似心臓部2は、外力が加わると変形し、外力が無くなると元の形状に復元する多孔質体により形成されている。押圧報知部3は、疑似心臓部に外力が加わり、予め設定された規定量以上変形したときに、その旨を報知する。したがって、胸骨圧迫の練習時に、押圧報知部3が報知するまで疑似心臓部2を押圧することで、適切に押圧できているかを確認しながら胸骨圧迫の練習ができる。また、疑似心臓部2は、復元性があり、人の胸を押圧しているのと同様の感触が得られるので、現場で心肺蘇生法の必要な人に処置を行っているのと同様の感覚で胸骨圧迫の練習を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AEDを併用した心肺蘇生法の練習を行うための心肺蘇生練習器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、呼吸停止や心停止状態になった傷病者を救命するために、自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator:以下、AEDと称する。)が、公共施設などに設置されている。
【0003】
また、AEDの普及に伴い、一般市民を対象に、AEDを併用した心肺蘇生法を教授する講習会が開催される機会が増えている。このような講習会では、参加者は、例えば、特許文献1に開示されたような練習器具を用いて、心肺蘇生法である胸骨圧迫やAEDの使用方法を学ぶことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/147129号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
心肺蘇生法やAEDの使用方法をさらに普及させるためには、講習会を受けた人がAEDを併用した心肺蘇生法を自宅などでいつでも練習できることが望ましい。
【0006】
特許文献1に記載の練習器具は、安価に製造でき小形で軽量になるように、素材や形状を考慮して作成されているが、練習器具を個人でも所有できるように、さらに安価な練習器具が望まれている。また、練習器具を個人で所有した場合に、保管場所に困らず、容易に持ち運べるように、さらに小形で軽量な練習器具が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、安価に製造することができ、小形かつ軽量な心肺蘇生練習器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の心肺蘇生練習器具は、疑似心臓部と、押圧報知部と、を備えている。疑似心臓部は、外力が加わると変形し、外力が無くなると元の形状に復元する多孔質体により形成されている。押圧報知部は、疑似心臓部に外力が加わって予め設定された規定量以上変形すると、音、光または振動などにより疑似心臓部が規定量以上変更したことを使用者に対して報知する。押圧報知部は、疑似心臓部が規定量以上変形しているときに、その旨を報知する。
【0009】
この発明の心肺蘇生練習器具は、疑似心臓部が押圧されて規定量以上変形すると、押圧報知部が音、光、または振動などにより報知する。したがって、胸骨圧迫の練習時に、押圧報知部が報知するまで疑似心臓部を押圧することで、適切に押圧できているかを確認しながら胸骨圧迫の練習ができる。
【0010】
また、疑似心臓部は、復元性があり、人の胸を押圧しているのと同様の感触が得られるので、現場で心肺蘇生法の必要な人に処置を行っているのと同様の感覚で胸骨圧迫の練習を行うことができる。
【0011】
上記発明では、疑似心臓部は、ポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームにより形成されている。
【0012】
ポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームは、安価な材料なので、疑似心臓部を安価に製造できる。また、ポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームは、ヘタリが小さく、復元性がよく、加水分解しないなど、耐久性に優れている。また、耐寒性に優れており、季節によって硬さが極端に変わることがない。したがって、疑似心臓部は、季節に因らず硬さが安定しており、複数回押圧する胸骨圧迫の練習に長期間使用できる。また、ポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームとして、自動車内に取り付ける椅子のクッションなどに使用する耐候性に優れたものを使用することで、屋外でも使用できる。
【0013】
上記発明では、疑似心臓部は、上面よりも下面に近い位置に、鳴き笛を内包する空間が形成されている。
【0014】
この構成では、疑似心臓部の下面から鳴き笛を内包する空間までの厚みを、子供に対して胸骨圧迫を行った際に胸骨を沈める深さに調整し、疑似心臓部の上面から鳴き笛を内包する空間までの厚みを、大人に対して胸骨圧迫を行った際に胸骨を沈める深さに調整することで、1つの疑似心臓部を用いて、子供と大人の両者に対する胸骨圧迫の練習を行うことができる。
【0015】
上記発明では、疑似心臓部の下面に識別マークが形成されている。
【0016】
この構成では、子供に対する胸骨圧迫の練習を行う面である下面に識別マークが形成されているので、側面の笛の位置を確認しなくても、識別マークにより、どちらの面であるかを識別できる。したがって、胸骨圧迫の練習を行う際に、大人と子供のどちらに行うかを容易に判別できる。
【0017】
この発明の押圧報知部は、鳴き笛を含んでいる。鳴き笛は、疑似心臓部に外力が加わると、疑似心臓部と共に変形して圧縮された空気を送り、外力が無くなると元の形状に復元するふいご、及びふいごから送られた空気により音が鳴る笛を有し、疑似心臓部に内包されている。
【0018】
この発明では、疑似心臓部が鳴き笛を内包しているので、疑似心臓部を押圧して所定量変形させると、鳴き笛のふいごも変形して笛が鳴る。したがって、胸骨圧迫の練習時に、疑似心臓部を所定量押圧すると、鳴き笛が鳴るので、適切に押圧できているかを音で確認できる。
【0019】
また、疑似心臓部と鳴き笛のふいごは、復元性があり、押圧が解除されると元の形に復元するので、人の胸を押圧しているのと同様の感触で、胸骨圧迫の練習を連続して複数回行うことができる。
【0020】
また、疑似心臓部は多孔質体から成り、鳴き笛はふいごと笛のみにより構成されるので、安価に製造することができ、心肺蘇生練習器具を安価にすることができる。また、鳴き笛を内包する疑似心臓部を用意するだけで、胸骨圧迫の練習ができ、疑似心臓部や鳴き笛は軽量な素材で作成でき、疑似心臓部のサイズも握りこぶし程度の大きさでよいので、練習器具を小形かつ軽量にすることができる。
【0021】
また、疑似心臓部が鳴き笛を内包しており、鳴き笛に手や爪が直接当たらないので、ふいごが傷付くのを防止できる。また、疑似心臓部と鳴き笛は、共に外力により変形し、復元性があるので、疑似心臓部を押圧したときに、鳴き笛が疑似心臓部から飛び出したり、鳴き笛から笛が外れたりするのを防止できる。このように、鳴き笛を内包する疑似心臓部は、破損しにくい構成で耐久性があるので、長期間使用することができる。
【0022】
押圧報知部は、圧電素子と、LEDと、を含む。圧電素子は、疑似心臓部に外力が加わり変形して外力が加わると発電する。LEDは、圧電素子に接続され、圧電素子が発電したときに点灯する。
【0023】
この発明では、圧電素子にLEDを接続することで、疑似心臓部が押圧されて所定量変形したことを光により報知できる。また、圧電素子を用いることで電池が不要であり、電池交換をすることなく、疑似心臓部を使用できる。
【0024】
上記発明では、心肺蘇生練習器具は、疑似心臓部と、2枚のAED疑似電極パッドと、トレーニングシートと、収納袋と、を備えている。2枚の疑似電極パッドは、AEDの電極パッドを模したものである。トレーニングシートは、人の上半身のイラスト、疑似心臓部の載置位置、AEDの操作面のイラスト、及び疑似電極パッドの載置位置が記載されている。
【0025】
この発明では、2枚のAED疑似電極パッドと、トレーニングシートを備えているので、胸骨圧迫の練習だけでなく、AEDの使用法の練習を行うことができる。また、トレーニングシートは折り畳むことができ、疑似心臓部や疑似電極パッドとともに収納袋に収納できるので、練習器具の準備、片付け、及び持ち運びを容易に行うことができる。
【0026】
また、AEDの電極パッドとして疑似電極パッドを使用し、人の上半身のイラストやAEDの操作面のイラストが記載されたトレーニングシートを使用するので、心肺蘇生練習器具の各部品を安価に製造することが可能となる。また、心肺蘇生練習器具の部品数を抑制することができ、装置の構成を小形かつ軽量にすることができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、心肺蘇生練習器具を小形かつ軽量にすることができる。また、心肺蘇生練習器具を安価に製造することができ、装置の価格を安価にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る心肺蘇生練習器具の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る心肺蘇生練習器具を構成する疑似心臓部の斜視図である。
【図3】鳴き笛の斜視図である。
【図4】疑似心臓部の4面図(正面図、右側面図、背面図、及び上面図)、正面図におけるA−A矢視断面図、及び正面図におけるB−B矢視断面図である。
【図5】音声発生部を内蔵した疑似心臓部の4面図、A−A矢視断面図、及びB−B矢視断面図である。
【図6】音声発生部を外部に備えた疑似心臓部の4面図、A−A矢視断面図、及びB−B矢視断面図である。
【図7】光発生部を備えた疑似心臓部の4面図、A−A矢視断面図、及びB−B矢視断面図である。
【図8】(A)は、振動モータを備えた疑似心臓部の断面図である。(B)は、圧電素子を備えた疑似心臓部の断面図である。
【図9】AED疑似電極パッドの外観図である。
【図10】トレーニングシートの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の心肺蘇生練習器具1は、胸骨圧迫の練習と、AEDの使い方の練習と、を行うための器具である。図1に示すように、心肺蘇生練習器具1は、疑似心臓部2、2枚のAED疑似電極パッド4、トレーニングシート6、及び収納袋8を備えている。心肺蘇生練習器具1の各部品は、収納袋8に収納されている。
【0030】
疑似心臓部2は、胸骨圧迫の練習に使用する部品である。疑似心臓部2は、一例として、多孔質体の一種であるポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームにより形成されている。疑似心臓部2は、図2に示すように一例としてハート型に形成されている。そのサイズは、大人の握りこぶし程度の大きさであり、一例として、縦115mm、横100mm、厚さ50mmである。また、重さが135g±5g、アスカーF型硬度が75±3である。疑似心臓部2の表面は、厚み約1.5tのアクリルウレタンによりコーティングされている。疑似心臓部2は、外力が加わると変形し、外力が無くなると元の形状に復元する。疑似心臓部2を上記のように形成することで、胸骨圧迫の練習時に、人の胸を押圧(圧迫)したときと同様の感触を再現できる。
【0031】
疑似心臓部2の材料であるポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームは、以下のような特徴を有する。
【0032】
1.使用者が汗などの水分の付着した手で触っても、ポリエステル系のポリウレタンフォームのように加水分解しない。
【0033】
2.繊維綿や金属ばねに比べてヘタリが小さく、復元性がよい。
【0034】
3.耐熱性、耐寒性は優れており、−20℃〜100℃の範囲で使用できる。また、自動車内に取り付ける椅子のクッションなどの材料として使用する耐候性に優れたものを使用することで、屋外でも使用できる。
【0035】
このように、ポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームは、季節によって硬さが極端に変わることがなく硬さが安定しており、耐久性に優れている。また、材料を選択することで、屋外でも使用できる。したがって、疑似心臓部2は、複数回押圧する胸骨圧迫の練習に長期間使用できる。
【0036】
また、ポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームは、安価な材料なので、疑似心臓部2を安価に製造することができる。
【0037】
疑似心臓部2は、下面2Lの中央部に、識別マークであるハートマーク21が形成されている。このハートマーク21は、疑似心臓部2の下面側を識別するためのものである。
【0038】
疑似心臓部2は、図3に示す鳴き笛3を内包しており、側面に鳴き笛の音を放音するための穴22が形成されている。穴22からは、鳴き笛3は延出していない。
【0039】
図3に示すように、鳴き笛3は、押圧報知部に相当し、ふいご(ブローともいう。)31と、笛33と、を備えている。ふいご31は、イチジクのような形であり、筒状の部分の先端部に通気口311が設けられている。この通気口311に、笛33が装着されている。ふいご31のサイズは、一例として、長さ57mm、幅46mm、高さ21mmである。ふいご31は、ポリプロピレンなどの柔軟性を有する軟質合成樹脂により形成されている。笛33は、ポリエチレンなどの合成樹脂により形成されている。鳴き笛3は、このような材料から形成されているので、安価に製造することができる。また、ふいご31の素材であるポリエチレンなどの軟質合成樹脂は、押圧による変形に対して耐久性があるので、長期間使用できる。
【0040】
鳴き笛3のふいご31は、外力が加わると変形して圧縮された空気を送り、外力が無くなると元の形状に復元する。笛33は、ふいご31から空気が送られると、この空気によりリードが振動して音が鳴る。
【0041】
図4に示すように、疑似心臓部2は、鳴き笛3を収納する収納空間23を備えている。収納空間23は、孔のないドーナツ形の空間231と、筒状の空間232から成る。収納空間23は、疑似心臓部2の中央部であって、疑似心臓部2の上面2Uよりも下面2Lに近い位置に形成されている。図4のA−A矢視断面図に示すように、収納空間23の中心部から上面2Uまでの距離(厚み)H1>収納空間23の中央部から下面2Lまでの距離(厚み)H2である。一例として、H1=33mm、H2=17mmである。
【0042】
疑似心臓部2の収納空間23に鳴き笛3を収納することで、鳴き笛3に、使用者の手や爪が直接当たらないので、ふいご31が傷付かない。また、疑似心臓部2と鳴き笛3は、共に外力により変形し、外力が無くなると元の形状に復元するので、疑似心臓部2の上面2Uまたは下面2Lを押圧しても、鳴き笛3が疑似心臓部2から飛び出すことがない。また、笛33は、ふいご31の通気口311に装着されているので、疑似心臓部2の押圧により、鳴き笛3から笛33が外れることがない。このように、疑似心臓部2及び鳴き笛3は、共に耐久性を有しており、破損しにくい構成なので、鳴き笛3を内包する疑似心臓部2を長期間使用することができる。
【0043】
疑似心臓部2には、上記のように上面2Uよりも下面2Lに近い位置に収納空間23を設けているので、上面2Uと下面2Lのいずれを上向きに置くかによって、上向きの面から収納空間23に収納された鳴き笛3までの距離が変わる。疑似心臓部2はこのような構成なので、疑似心臓部2の上向きの面を入れ替えることで、大人に対する胸骨圧迫の練習と、子供に対する胸骨圧迫の練習を行うことができる。
【0044】
大人に対して胸骨圧迫を行うときには、胸骨が50mm以上沈むように圧迫することが推奨されている。また、疑似心臓部2の上面2Uを上向きに置いた場合には、使用者は手のひらで、疑似心臓部2の上面2Uを、予め設定された第1の規定量であるH1(=33mm)以上沈むように押圧することで、鳴き笛3を鳴らすことができ、上面2Uを押圧したときに沈むのがH1未満であれば、鳴き笛3は鳴らない。したがって、疑似心臓部2の上面2Uを下面2Lの方向に、例えば40mm以上押圧することで、鳴き笛3の音を確認しながら、実際に大人に対して実際に胸骨圧迫を行うような感覚を体感しながら、練習を行うことができる。
【0045】
なお、疑似心臓部2の厚みは、一例として50mmとしたが、さらに厚みを増加させることで、疑似心臓部2を50mm以上沈むように押圧することができ、より実地に近い練習を行うことができる。
【0046】
一方、子供に対して胸骨圧迫を行うときには、胸の厚みの1/3程度沈むように圧迫することが推奨されている。また、疑似心臓部2の下面2Lを上向きに置いた場合には、使用者は手のひらで、疑似心臓部2の下面2Lを、予め設定された第2の規定量であるH2(=17mm)以上沈むように押圧することで、鳴き笛3を鳴らすことができ、下面2Lを押圧したときに沈むのがH2未満であれば、鳴き笛3は鳴らない。
【0047】
したがって、疑似心臓部2の下面2Lを上面2Uの方向に、例えば20〜30mm沈むように押圧することで、鳴き笛3の音を確認しながら、実際に子供に対して実際に胸骨圧迫を行うような感覚を体感しながら、練習を行うことができる。
【0048】
なお、前記のように、疑似心臓部2の下面2Lには、ハートマーク21が形成されているので、胸骨圧迫の練習を行うときには、このハートマーク21を確認することで、疑似心臓部2の向きを容易に判別できる。
【0049】
疑似心臓部2は、その上面2Uまたは下面2Lを押圧して、疑似心臓部2が前記規定量以上変形したことを、音、光、または振動などにより報知する構成であれば、他の構成でもよい。例えば、疑似心臓部2は、押圧報知部として、鳴き笛3に代えて電子音発生器やブザーなどの音声発生部5を備えるように構成する。音声発生部5は、鳴き笛3と同様に疑似心臓部2の内部に設けても、疑似心臓部2の外部に設けてもよい。図5に示すように、音声発生部5を疑似心臓部2の内部に設ける場合には、疑似心臓部2が複数回押圧されたときに音声発生部5が破損しないように構成する。例えば、音声発生部5の電子回路をフレキシブル基板上に形成し、シリコンゴムなど弾力性のある保護材を基板上に塗布して電子回路部51を保護する。また、電子回路部51を小型にするために、ボタン電池52などの小型電池を使用する。これにより、電子回路部51に可撓性を持たせることができ、疑似心臓部2が複数回押圧されても電子回路部51が破損するのを防止できる。疑似心臓部2が予め設定された規定量以上変形すると、電子回路部51に設けたスピーカまたはブザー(不図示)から電子音またはブザー音が鳴るように、スイッチを構成する。例えば、図5に示すように、疑似心臓部2の内部に設けた空間231を介して対向する平面231Uと平面231Lにそれぞれ電極53と電極54を接着し、両電極によりスイッチを構成する。
【0050】
音声発生部5を疑似心臓部2の外部に設ける場合には、例えば、図6に示すように、その電子回路部や電池を筐体55内に設け、その一端面からパイプ56が突出した形状に形成する。そして、このパイプ56を疑似心臓部2の筒状の空間232(穴22)に差し込む。また、疑似心臓部2の内部に設けた空間231を介して対向する平面231Uと平面231Lにそれぞれ電極53と電極54を接着する。両電極は、それぞれパイプ内を通過する電線により音声発生部5の電子回路に接続する。両電極は、疑似心臓部2を規定量以上変形させたときに接触して通電し、電子音またはブザー音が筐体55から放音される。音声発生部5には、ボタン電池などの小型電池を使用することで、筐体55を小型化できる。
【0051】
図7に示すように、疑似心臓部2は、鳴き笛3、電子音発生器、またはブザーなどの音声発生部5のように音により押圧を報知する構成に代えて、LEDや豆電球などの光発生部7を設けることで、疑似心臓部2の規定量以上の押圧による変形を光により報知することも可能である。この構成では、例えばLED71を、疑似心臓部2の筒状の空間232に挿入し、LED71の先端部を穴22から突出させる。また、電池ケースに収納したボタン電池72を疑似心臓部2のスポンジの間に挟み込む。さらに、LEDや豆電球を点灯させるスイッチとしては、電子音発生器またはブザーの場合と同様に、疑似心臓部2内に設けた空間231を介して対向する平面231Uと平面231Lにそれぞれ電極53と電極54を接着する。疑似心臓部2の上面2Uまたは下面2Lを押圧して、疑似心臓部2が規定量以上変形したときに、電極53と電極54が接触して通電するので、LED71が点灯する。
【0052】
上記構成において、LEDまたは豆電球に代えて、携帯電話などに採用されている振動モータを用いるようにしてもよい。この場合には、図8(A)に示すように、穴22から振動モータ81が突出しないように疑似心臓部2の筒状の空間232に挿入する。そして振動モータ81に接続された一方の電線を電極54に接続する。また、振動モータに接続された他方の電線を、ボタン電池72を介して電極53に接続する。このように構成することで、疑似心臓部2が押圧されて規定量以上変形したときには、電極53と電極54が接触して通電し、振動モータ81が振動するので、振動により疑似心臓部が規定量以上の変形を報知することができる。
【0053】
また、押圧報知部としては、複数種類の情報伝達媒体により疑似心臓部2の規定量以上の押圧を報知することも可能である。例えば、音と光により疑似心臓部2の規定量以上の押圧を報知することができる。この場合には、前記の鳴き笛3のふいごを孔の開いたドーナツ形に形成する。また、疑似心臓部2の内部に設けた空間231に、鳴き笛3のふいごの孔を介して対向するように電極53と電極54を配置する。
【0054】
そして、疑似心臓部2を規定量以上押圧したときに、ふいごに設けたドーナツ形の孔を介して電極53と電極54が接触するように配置する。そして、鳴き笛3用の穴22とは異なる位置に孔を設けて、LEDまたは豆電球を挿入して先端部をこの孔から突出させる。また、この電極に前記のように電池とLEDまたは豆電球を接続する。このように構成することで、疑似心臓部2が規定量以上押圧されると、その旨が音と光により報知される。これにより、ユーザは、疑似心臓部2が規定量以上変更したことを容易に把握できる。また、鳴き笛3と振動モータを疑似心臓部2に設けることで、疑似心臓部2が規定量以上変形したことを音と振動により報知することができる。また、LEDと振動モータを疑似心臓部2に設けることで、疑似心臓部2が規定量以上変形したことを光と振動により報知することができる。
【0055】
もちろん、鳴き笛、LED、及び振動モータを疑似心臓部2に設けることで、疑似心臓部2が規定量以上変形したことを音と光と振動により報知するように構成することも可能である。また、鳴き笛3に代えて、電子音発生器またはブザーを設置することも可能である。
【0056】
図8(B)に示すように、圧電素子91を使用し、疑似心臓部2が規定量以上変形したときに、圧電素子91を押圧部92するように構成する。圧電素子91は、外部から力を加えられると電圧を発生するので、圧電素子91とLED71を接続しておくことで、電池を使用することなく、LED71を点灯させることができる。
【0057】
この構成では、LED71を、疑似心臓部2の筒状の空間232に挿入し、LED71の先端部を穴22から突出させる。また、疑似心臓部2の内部に設けた空間231を介して対向する平面231Uと平面231Lの一方の面に、アクリル板93に貼り付けた圧電素子91を、他方の面に対向させて接着する。また、他方の面に、圧電素子を押圧する押圧部92を備えたアクリル板94を接着する。
【0058】
これにより、疑似心臓部2の上面2Uまたは下面2Lを押圧して、疑似心臓部2が規定量以上変形したときに、圧電素子91が、押圧部92に押圧されるので、圧電素子91に電圧が生じてLED71が点灯する。
【0059】
なお、圧電素子91の表面の摩耗を防止するために、保護剤を塗布しておく。
【0060】
また、圧電素子91の発電量に応じて、音声発生部または振動モータを設けて、電子音やブザー音または振動により疑似心臓部が規定量以上変形したことを報知するように構成することも可能である。
【0061】
次に、AED疑似電極パッド4は、AEDの使用法を練習する際に、人の胸に貼り付ける電極パッドを模したものである。AED疑似電極パッド4は、板状の芯材(厚紙またはプラスチック板)の周囲を塩化ビニルフィルムで被覆した構成であり、サイズは一例として60mm×60mm×4mmである。表面4Hには、図9に示すように、人の上半身にAED疑似電極パッド4を貼り付けたイラスト41が記載されている。なお、AED疑似電極パッド4には、裏面に粘着剤は塗布されておらず、ゴミなどが付着することがないので、長期間使用できる。
【0062】
AED疑似電極パッド4は、このような材料により構成されているので、他の部品と同様に、安価に製造することができる。
【0063】
次に、トレーニングシート6は、ポリエチレンなどの合成樹脂製であり、図1に示したように折り畳むことが可能である。トレーニングシート6のサイズは、一例として、600mm×600mmである。図10に示すように、トレーニングシート6には、大人の男性の上半身のイラスト61、疑似心臓部2の載置位置62、AEDの操作面のイラスト63、AED疑似電極パッド4の載置位置64,65、及び救急救命の3つのステップの説明661〜663が記載されている。疑似心臓部2の載置位置62は、胸の中央部である。AED疑似電極パッド4の載置位置64は、胸の右上(鎖骨下)である。AED疑似電極パッド4の載置位置65は、左下側(乳頭の外側下方)である。
【0064】
トレーニングシート6は、このような構成なので、安価に製造することができる。
【0065】
次に、心肺蘇生法の練習を行うときには、トレーニングシート6に記載された、救急救命の3つのステップの説明661〜663に従って行う。
【0066】
1.ステップ1の説明661に従って、119番通報とAEDの要請を行う練習を行う。
【0067】
2.ステップ2の説明662に従って、胸骨圧迫の練習を行う。胸骨圧迫の練習を行うときには、以下の手順で行う。
【0068】
2−1.大人に対する胸骨圧迫の練習を行うときには、トレーニングシート6に描かれた疑似心臓部2の載置位置62(男性のイラスト61の胸部中央部)に、上面2Uを上向きにして疑似心臓部2を載置する。なお、子供に対する胸骨圧迫の練習を行うときには、疑似心臓部2の載置位置62に、下面2Lを上向きにして疑似心臓部2を載置する。
【0069】
2−2.使用者は、疑似心臓部2の上面2Uが40mm以上沈むように押圧する。このとき、1分間に100回以上のペースで疑似心臓部2を押圧する。なお、子供に対する胸骨圧迫の練習を行うときには、疑似心臓部2の下面2Lが20mm〜30mm沈むように押圧する。
【0070】
3.ステップ3の説明663に従って、AEDの使い方の練習を行う。
【0071】
3−1.AEDの操作面のイラスト63の電源ボタン631を押圧する。
【0072】
3−2.AED疑似電極パッドの載置位置64,65に、2つのAED疑似電極パッド4をそれぞれ載置する。
【0073】
3−3.周囲に人がいないか安全を確認する。
【0074】
3−4.AEDの操作面のイラスト63のショックボタン632を押圧する。
【0075】
このように、心肺蘇生練習器具1を使用することで、傷病者に対して実際に心肺蘇生法を行っている状態を疑似的に体験できるので、練習により3つのステップを習得することで、傷病者に対して実際に心肺蘇生法を行う状況になったとしても、戸惑うことなく心肺蘇生法を行うことができる。
【0076】
なお、胸骨圧迫の練習時には、疑似心臓部2、AED疑似電極パッド4、及びトレーニングシート6を用いることで臨場感が得られるが、疑似心臓部2だけを使用しても胸骨圧迫の練習を行うことができる。また、疑似心臓部2は、トレーニングシート6以外の他の人体模倣図や、心肺蘇生練習器具1以外の他の練習器具と組み合わせるなどして、使用することができる。例えば、特許文献1に記載の練習器具に含まれる心臓マッサージ練習用の押圧部に代えて、本発明の疑似心臓部2を使用することが可能である。また、AEDの使い方のみを練習できる練習器具に対して、本発明の疑似心臓部2を用意することで、AEDを併用した心肺蘇生法の学習が可能となる。
【0077】
収納袋8は、疑似心臓部2、2枚のAED疑似電極パッド4及びトレーニングシート6を収納する不織布製の巾着袋である。収納袋8のサイズは、一例として、縦270mm×横250mmである。収納袋8は、このような構成なので、安価に製造することができる。
【0078】
以上のように、心肺蘇生練習器具1の各部品は、それぞれ小形かつ軽量で、安価に製造することが可能である。また、心肺蘇生練習器具1の各部品は、収納袋8に収納でき、容易に持ち運ぶことができる。したがって、心肺蘇生練習器具1は、従来の練習器具と比較して、準備や片付けが容易で、また、持ち運びも容易である。
【0079】
また、心肺蘇生練習器具1の各部品は安価に製造できるので、心肺蘇生練習器具1の販売価格を抑制することで、心肺蘇生法の講習会に参加した参加者が手軽に購入でき、自宅などで心肺蘇生法の練習を気軽に行うことができる。
【0080】
また、鳴き笛3を内包する疑似心臓部2は耐久性があり、破損しにくい構成なので、複数回押圧する胸骨圧迫の練習に長期間使用できる。また、鳴き笛3を内包する疑似心臓部2は、単独で使用することも、他の人体模倣図や他の練習器具と組み合わせて使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
AEDを併用した心肺蘇生法の練習を行うための心肺蘇生練習器具に適用できる。
【符号の説明】
【0082】
1…心肺蘇生練習器具
2…疑似心臓部
2L…下面
2U…上面
3…鳴き笛(押圧報知部)
4…AED疑似電極パッド
5…音声発生部
6…トレーニングシート
7…光発生部
8…収納袋
21…ハートマーク
22…穴
23…収納空間
31…袋体
33…笛
631…電源ボタン
632…ショックボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力が加わると変形し、外力が無くなると元の形状に復元する多孔質体により形成された疑似心臓部と、
前記疑似心臓部に外力が加わり、予め設定された規定量以上変形したときに、その旨を報知する押圧報知部と、
を備えた心肺蘇生練習器具。
【請求項2】
前記疑似心臓部は、ポリエーテル系の軟質ポリウレタンフォームにより形成された、請求項1に記載の心肺蘇生練習器具。
【請求項3】
前記疑似心臓部は、その上面よりもその下面に近い位置に、前記押圧報知部を内包する、請求項1または2に記載の心肺蘇生練習器具。
【請求項4】
前記疑似心臓部は、前記下面に識別マークを備えた、請求項3に記載の心肺蘇生練習器具。
【請求項5】
前記押圧報知部は、前記疑似心臓部に外力が加わると、前記疑似心臓部と共に変形して圧縮された空気を送り、前記外力が無くなると元の形状に復元するふいご、及び前記ふいごから送られた空気により音が鳴る笛を有し、前記疑似心臓部に内包された鳴き笛を含む、請求項1に記載の心肺蘇生練習器具。
【請求項6】
前記押圧報知部は、前記疑似心臓部に外力が加わり変形して外力が加わると発電する圧電素子と、
前記圧電素子に接続され、前記圧電素子が発電したときに点灯するLEDと、を含む、請求項1に記載の心肺蘇生練習器具。
【請求項7】
AEDの電極パッドを模した2枚の疑似電極パッドと、
人の上半身のイラスト、前記疑似心臓部の載置位置、AEDの操作面のイラスト、及び前記疑似電極パッドの載置位置が記載されたトレーニングシートと、
これらを収納する収納袋と、
を備えた、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の心肺蘇生練習器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−50710(P2013−50710A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165321(P2012−165321)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(598071437)株式会社アレクソン (7)
【Fターム(参考)】